説明

透明導電膜の形成方法

【課題】大気圧またはその近傍の圧力下での成膜により、ガラス基板上に、導電性および透明性に優れた酸化チタンを主成分とする透明導電膜を形成する方法の提供。
【解決手段】大気圧またはその近傍の圧力において、有機ニオブ化合物および有機チタン化合物を、気体として、または、微小液滴として、450℃以上の温度のガラス基板に吹き付けることにより、ニオブがドープされた酸化チタンからなる膜を前記ガラス基板上に形成する工程、および、酸化性ガス濃度10vol%以下、かつ、還元性ガス濃度4vol%以下の雰囲気中で、前記ガラス基板の温度が350℃以下となるまで冷却する工程をこの順に実施することを特徴とする、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電膜をガラス基板に形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜の形成方法に関する。より具体的には、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電膜をガラス基板上に形成する方法に関する。
本発明の方法により形成される透明導電膜は、導電性および透明性に優れており、太陽電池基板、タッチパネル基板、フラットパネルディスプレイ基板など透明導電膜を使用する部材に利用される。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜としては、従来、インジウムをドープした酸化錫(ITO)膜が使われてきたが、フラットパネルディスプレイ基板等の需要の拡大から、稀少金属であるインジウムの枯渇が懸念されている。
これに対し、ニオブをドープした酸化チタン(TNO:ニオブドープチタニア)膜は、ITO膜に近い導電性を有し、かつ、稀少金属を使用しないことからITO膜の代替候補として期待が集まっている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の方法では、塗布法を用いてTNO膜を形成しているが、良好な導電性のニオブドープチタニア(TNO)膜の成膜は、例えば非特許文献1、特許文献2に開示されているようにレーザーアブレーション法やスパッタリング法などの真空プロセスを用いるのが一般的である。
【0004】
成膜コストの面からは、大気圧またはその近傍の圧力下、プラズマを伴わないCVDでTNO膜を成膜することが望まれている。しかしながら、大気圧またはその近傍の圧力下で成膜された膜のシート抵抗が高く、良好な導電性の膜を得られない問題があった。
【0005】
特許文献3には、酸化チタンを主成分とし、透明性及び導電性に優れた透明導電膜の形成方法が開示されている。特許文献3に記載の方法における酸化チタンを主成分とする透明導電膜は、ドーパントを有する酸化チタンを主成分とする薄膜であり、ドーパントとしては、低抵抗の透明導電膜が形成できることから、ニオブ(Nb)が好ましいとされている。
特許文献3には、透明樹脂製の基板上に、酸化チタンを主成分とする透明導電膜を形成するため、低温環境下で原料の反応にプラズマを用いる大気圧プラズマCVD法を用いることが好ましいとされている。
特許文献3に記載の方法では、基板上に酸化チタンを主成分とする透明導電膜を形成した後、後処理として、水素ガスまたは水蒸気を含むプラズマ状態のガス雰囲気下で熱処理を実施することにより、光透過性能、抵抗性能に優れた透明導電膜を形成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】一杉太郎、“二酸化チタン透明導電材料のフロンティア”応用物理11月号(2008)1319.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−135096号公報
【特許文献2】国際公開WO2009−119273号
【特許文献3】国際公開WO2008−044474号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特許文献3に記載の方法は、透明樹脂製の基板上に透明導電膜を形成するため、低温環境下で成膜可能な大気圧プラズマCVD法の使用が好ましいとされている。
しかしながら、透明導電膜上にデバイス素子を形成する場合、基板温度を200〜300℃程度に加熱して半導体素子を成膜するプロセスが用いられることがあり、基板として高い耐熱性を要求されるため、透明導電膜を形成する基材として、ガラス基板の使用が求められる場合がある。
本願発明者らは、ガラス基板上にTNO膜を形成するのに、特許文献3に記載の方法を適用した場合、以下に述べるような問題があることを見出した。
【0009】
特許文献1に記載されているように、TNO膜を透明導電膜として用いる場合、該TNO膜の結晶相がアナターゼ相であり、該結晶相中に酸素欠陥が存在することが導電性の観点から好ましい。
特許文献3に記載の方法では、透明樹脂製の基板上に、酸化チタンを主成分とする透明導電膜を形成するため、低温環境下で成膜可能な大気圧プラズマCVD法を用いることが好ましいとされているが、結晶相がアナターゼ相であるTNO膜を形成するためには、プラズマ中で原料分子を分解することから、原料分子の気相反応が不可避であるため、膜の結晶性があまり高くならない。これに対して、透明導電膜を形成する基板を加熱し、該加熱した基板に原料分子を気体として、または、微小液滴として吹き付けることによって、原料分子を分解する熱CVD法のほうが、原料分子の気相反応が少なく、膜の結晶性が高くなることから好ましい。
【0010】
但し、熱CVD法を用いて、ガラス基板上にTNO膜を形成する場合、工業的に実施可能な成膜速度でTNO膜を形成するためには、ガラス基板を450℃以上の高温に加熱する必要があると考えられる。
また、特許文献3に記載の方法では、透明樹脂製の基板上に、酸化チタンを主成分とする透明導電膜を形成するため、後処理における基材の温度が220℃以下であることが好ましいとされている。熱CVD法を用いてガラス基板上にTNO膜を形成する場合、熱CVD法の実施時において、ガラス基板を450℃以上の高温に加熱するため、後処理におけるガラス基板は、350℃以上とすることが好ましいと考えられる。
【0011】
しかしながら、熱CVD法を用いてガラス基板上にTNO膜を形成した後、特許文献3に記載の方法のように、水素ガスまたは水蒸気を含む雰囲気下で熱処理をした場合、熱処理後のTNO膜が導電性や透明性で劣ることを見出した。具体的には、水素ガスのような還元作用を有するガスを含む雰囲気下で熱処理した場合、熱処理後のTNO膜が透明性で劣ることを見出した。一方、水蒸気のような酸化作用を有するガスを含む雰囲気下で熱処理した場合、熱処理後のTNO膜が導電性で劣ることを見出した。
なお、特許文献3に記載の方法では、後処理における基材の温度が220℃以下と低いため、水蒸気が還元ガスとされている。しかし、熱CVD法を用いてガラス基板上にTNO膜を形成する場合、上述したように、後処理におけるガラス基板の温度は350℃以上となるため、水蒸気は酸化作用を有するガスとなる。
【0012】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明は、大気圧またはその近傍の圧力下での成膜により、TNOからなり、導電性および透明性に優れた透明導電膜をガラス基板上に形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するため、本発明は、大気圧またはその近傍の圧力において、有機ニオブ化合物および有機チタン化合物を、気体として、または、微小液滴として、450℃以上の温度のガラス基板に吹き付けることにより、ニオブがドープされた酸化チタンからなる膜を前記ガラス基板上に形成する工程、および、酸化性ガス濃度10vol%以下、かつ、還元性ガス濃度4vol%以下の雰囲気中で、前記ガラス基板の温度が350℃以下となるまで冷却する工程をこの順に実施することを特徴とする、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電膜をガラス基板に形成する方法(以下、「本発明の透明導電膜形成方法」と言う。)を提供する。
【0014】
本発明の透明導電膜形成方法において、前記有機ニオブ化合物および有機チタン化合物とともに、沸点160℃以下のアルコール類を450℃以上の温度のガラス基板に吹き付けることが好ましい。
【0015】
本発明の透明導電膜形成方法において、前記有機ニオブ化合物および有機チタン化合物は、チタン原子に対するニオブ原子のモル比が0.005〜0.4となるように、前記450℃以上の温度のガラス基板に吹きつけられることが好ましい。より好ましいモル比の範囲は、0.05〜0.3である。
【0016】
本発明の透明導電膜形成方法において、前記有機ニオブ化合物がニオブペンタエトキシドであることが好ましい。
【0017】
本発明の透明導電膜形成方法において、前記有機チタン化合物がチタンテトライソポロポキシドであることが好ましい。
【0018】
本発明の透明導電膜形成方法において、ニオブがドープされた酸化チタンからなる膜を前記ガラス基板上に形成する工程を実施する雰囲気中の酸素濃度および水蒸気濃度が実質的に0vol%であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、本発明の透明導電膜形成方法により得られる透明導電膜付ガラス基板を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、ガラス基板上に、導電性および透明性に優れたTNOからなる透明導電膜を形成することができる。
本発明の方法は、大気圧またはその近傍の圧力下での成膜により透明導電膜を形成するため、真空プロセスによる成膜やプラズマを使用する成膜に比べて、操作が単純であり、かつ、成膜時にかかるコストを大幅に削減することができる。
本発明の方法に得られる透明導電膜付ガラス基板は、太陽電池基板、タッチパネル基板、フラットパネルディスプレイ基板など透明導電膜を使用する部材として好ましく用いたれる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施例1〜3、比較例1〜4で使用した成膜装置の模式図である。
【図2】図2は、実施例4〜8で使用した成膜装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の透明導電膜形成方法について説明する。
本発明の透明導電膜形成方法では、大気圧またはその近傍の圧力において、有機ニオブ化合物および有機チタン化合物を、気体として、または、微小液滴として、450℃以上の温度のガラス基板に吹き付けることにより、TNO膜をガラス基板上に形成する工程(TNO膜形成工程)、および、酸化性ガス濃度10vol%以下、かつ、還元性ガス濃度4vol%以下の雰囲気で、ガラス基板の温度が350℃以下となるまで冷却する工程(冷却工程)をこの順に実施することにより、TNOからなる透明導電膜をガラス基板に形成する。
なお、本発明でいう大気圧またはその近傍の圧力とは、20kPa〜110kPa程度であり、好ましくは93〜104kPa程度である。
【0023】
TNO膜の原料である有機ニオブ化合物および有機チタン化合物を、気体としてガラス基板に吹き付ける場合、これらの有機金属化合物原料(有機ニオブ化合物、有機チタン化合物)を気化したガスを、450℃以上の温度に加熱したガラス基板の透明導電膜を形成する面に吹き付ければよい。
これらの有機金属化合物原料を気化する方法に特に制限は無いが、有機金属化合物原料の入った容器に、搬送ガスとして、窒素ガスや、アルゴン等の希ガスを吹き込むことによって、有機金属化合物を気化するいわゆるバブリング法や、有機金属化合物を加熱した気化室に送ることで、有機金属化合物を直接気化させる方法などがある。
上記のいずれの方法においても、TNO膜の原料として用いる有機ニオブ化合物および有機チタン化合物は、予め混合したものを気化させても良く、それぞれの有機金属化合物を気化したガスを混合しても良い。
また、上述した有機金属化合物を直接気化させる方法では、有機金属化合物原料をエタノール、アセトン、イソプロピルアルコールなどの有機溶媒に溶解させたものを使用しても良い。
【0024】
TNO膜の原料である有機ニオブ化合物および有機チタン化合物を、微小液滴としてガラス基板に吹き付ける場合、これらの有機金属化合物原料(有機ニオブ化合物、有機チタン化合物)を、スプレーノズルなどを用いて微少な液滴として、450℃以上の温度に加熱したガラス基板の透明導電膜を形成する面に吹き付ければよい。
【0025】
有機金属化合物原料を気体として、または、微小液滴として、ガラス基板に吹き付ける場合において、これらの気体、もしくは、微小液滴を、窒素ガスや、アルゴン等の希ガスで希釈した状態でガラス基板に吹き付けてもよい。
【0026】
TNO膜の原料である有機ニオブ化合物および有機チタン化合物は特に制限されないが、有機ニオブ化合物としてはニオブペンタエトキシド、有機チタン化合物としてはチタンテトライソポロポキシドが安価であることから好ましい。
本発明の透明導電膜形成方法では、TNO膜の原料として、有機金属化合物原料を使用する。このため、四塩化チタンや五塩化ニオブなどのハロゲン化金属といった無機金属化合物原料を使用する場合とは違い、酸化剤を使用することなしに、TNO膜を形成することができるため、TNO膜工程実施時、および、冷却工程実施時における雰囲気中のガス条件の制御が容易である。
【0027】
TNO膜の原料である有機ニオブ化合物および有機チタン化合物は、チタン原子に対するニオブ原子のモル比が0.005〜0.4となるようにガラス基板に吹き付けることが好ましい。チタン原子に対するニオブ原子のモル比が0.005未満の場合、形成されるTNO膜の導電性が劣る場合がある。一方、チタン原子に対するニオブ原子のモル比が0.4超の場合、形成されるTNO膜の透明性が劣化する場合がある。より好ましいモル比の範囲は、0.05〜0.3である。
【0028】
また、有機金属化合物原料とともに、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどの沸点160℃以下(炭素数6以下)のアルコール類を、気体として、または、微小液滴として、450℃以上の温度に加熱されたガラス基板に吹き付けた場合、有機金属化合物原料の気相分解による粉発生を抑制する傾向があるので好ましい。
有機金属化合物原料とともに、これらのアルコール類をガラス基板に吹き付ける場合、アルコール類の量は、有機金属化合物原料に対するモル比で1.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましい。有機金属化合物原料に対するモル比を大きくするほど、有機金属化合物原料の気相分解による粉発生が抑制されるためである。
上記の目的で用いるアルコール類は、エタノールが安全性の面から好ましい。
【0029】
これらのアルコール類を、気体としてガラス基板に吹き付ける場合、上述した有機金属化合物を直接気化させる方法において、有機金属化合物原料をアルコール類に溶解させたものを使用すればよく、また、有機金属化合物原料と別に気化させたアルコール類を成膜室内導入前または成膜室内で混合してもよい。
また、これらのアルコール類を、微小液滴としてガラス基板に吹き付ける場合、有機金属化合物原料をアルコール類に溶解させたものを、スプレーノズルなどを用いてガラス基板に吹き付ければよい。
【0030】
TNO膜形成工程を実施する雰囲気中の酸素濃度や水蒸気濃度が高いほど有機金属化合物原料の気相分解による粉発生の度合いが大きくなるため、雰囲気中の酸素濃度および水蒸気濃度は低いことが望ましい。具体的には、雰囲気中の酸素濃度および水蒸気濃度は、それぞれ10vol%以下であることが好ましく、4vol%以下であることがより好ましく、実質的に0vol%であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の透明導電膜形成方法では、有機金属化合物を吹き付ける際のガラス基板の温度は450℃以上であることが求められる。ガラス基板の温度が450℃未満だと、TNO膜の原料である有機金属化合物の分解速度が遅く、十分な成膜速度が得られないためである。なお、TNO膜の成膜速度は、5nm/min以上であることが、工業的に実施可能な成膜速度であることから好ましく、10nm/min以上であることがより好ましく、25nm/min以上であることがさらに好ましい。
上記の理由から、有機金属化合物を吹き付ける際のガラス基板の温度は500℃以上であることが好ましく、530℃以上であることがより好ましい。
一方、有機金属化合物を吹き付ける際のガラス基板の温度の上限は特にないが、ガラス基板の温度をあまり高くすると、有機金属化合物原料の気相分解が起こり、TNO膜の成膜速度が低下するおそれがあるため、有機金属化合物を吹き付ける際のガラス基板の温度は700℃以下であることが好ましい。
TNO膜の導電性は、結晶相中に発生した酸素欠損により発現する。結晶相中に存在する酸素欠陥が多いほど、TNO膜の導電性が高くなる傾向がある。上記の形成方法によってTNO膜には酸素欠陥が形成される。
【0032】
本発明の透明導電膜形成方法では、TNO膜形成工程を実施した後、酸化性ガス濃度10vol%以下、かつ、還元性ガス濃度4vol%以下の雰囲気中でガラス基板の温度が350℃以下となるまで冷却する。この手順を実施することで、成膜時に形成された酸素欠陥が取り出し時にも維持されており良好な導電性を得ることができる。
【0033】
冷却工程の実施時、雰囲気中の酸化性ガス濃度が10vol%以下であることが求められる。ここで言う酸化性ガスとは、酸化作用を有するガスを広く含み、酸素、水蒸気、二酸化炭素、硝酸、過酸化水素、オゾン、一酸化二窒素等が該当する。
冷却工程の実施時、雰囲気中の酸化性ガス濃度が10vol%超だと、成膜時に形成されたTNO膜内の酸素欠陥が酸化性ガスの膜中への浸透作用により酸化されてしまうため、TNO膜の比抵抗の上昇が顕著であり、良好な導電性の膜が得られない。
なお、冷却工程実施後のTNO膜の比抵抗は100Ωcm以下であることが好ましい。TNO膜の比抵抗が100Ωcm超だと、十分な導電性をもつTNO膜とするために、該TNO膜の膜厚を厚くする必要があり、成膜コストが増加するためである。TNO膜の比抵抗の下限値は特になく、10Ωcm以下であることがより好ましく、1Ωcm以下であることが更に好ましい。
上記の理由から、冷却工程の実施時の雰囲気中の酸化性ガス濃度は5vol%以下であることが好ましい。
【0034】
冷却工程の実施時、雰囲気中の還元性ガス濃度が4vol%以下であることが求められる。ここで言う還元性ガスとは、還元作用を有するガスを広く含み、水素、一酸化炭素、あるいは、メタン、エタンなどの有機ガス等が該当する。
また、TNO膜形成工程において、有機金属化合物原料とともに沸点160℃以下(炭素数6以下)のアルコール類をガラス基板に吹き付けた場合、これらのアルコール類が気化したガスも還元性ガスとなるが、これらのアルコール類が気化したガスの濃度は、雰囲気中においてきわめて低いため、問題となることはない。
【0035】
冷却工程の実施時、雰囲気中の還元性ガス濃度が4vol%以下であることが求められる理由は以下の通りである。
【0036】
上述したように、冷却工程の実施によりTNO膜の導電性が向上するのは、結晶相中に発生した酸素欠損が酸化により減少するのを防いでいるためである。結晶相中に存在する酸素欠陥が多いほど、TNO膜の導電性が高くなる傾向がある。
従来技術によれば、結晶相中により多くの酸素欠陥を生じさせるためには、還元雰囲気下にて冷却工程を実施することが好ましいと考えられる。
特許文献1に記載の方法では、還元雰囲気にて加熱によるアニール処理をすることによって、該TNO膜がアモルファス相からアナターゼ相へと結晶転移するとともに、結晶相中に酸素欠損を生じさせている。特許文献3に記載の方法でも、後処理として、プラズマ状態の還元ガス雰囲気下で熱処理を実施することによって、透明導電膜中に適量の酸素欠損量を生じさせている。
【0037】
しかしながら、本願発明者らは、冷却工程の実施時において、雰囲気中の還元性ガス濃度が高くなると、具体的には、雰囲気中の還元性ガス濃度が4vol%超だと、冷却工程実施後のTNO膜において、可視光の波長域の光吸収が大きくなり、TNO膜の透明性が低下することを見出した。
冷却工程の実施時において、雰囲気中の還元性ガス濃度が4vol%以下であれば、冷却工程実施後のTNO膜において、可視光の波長域の光吸収が大きくなることがなく、TNO膜が透明性に優れている。
上記の理由から、冷却工程の実施時の雰囲気中の還元性ガス濃度は4vol%以下であることが好ましく、1vol%以下であることが好ましい。
【0038】
冷却工程を実施する雰囲気は、酸化性ガス濃度10vol%以下、かつ、還元性ガス濃度4vol%以下であることから、雰囲気の主たるガスは、窒素ガス、または、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスといった不活性ガスである。冷却工程を実施する雰囲気は、これら不活性ガス濃度が、90vol%以上であることが好ましく、95vol%以上であることがより好ましく、100vol%であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の透明導電膜形成方法では、冷却工程を実施する雰囲気中の酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度を所定の条件とするため、高濃度の不活性ガスを使用してもよいが、空気中に窒素ガスや、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスを混合することによって雰囲気中の酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度を所定の条件とすることが、コスト面から好ましく、空気中に窒素ガスを混合することによって雰囲気中の酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度を所定の条件とすることが特に好ましい。
【0040】
本発明の透明導電膜形成方法において、雰囲気中の酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度を上述した所定の条件に保持する必要があるのは、ガラス基板の温度が350℃以下となるまでであり、それ以降は、雰囲気中の酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度が上述した所定の条件を満たしていなくてもよい。但し、ガラス基板の温度が300℃以下となるまで、雰囲気中の酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度を上述した所定の条件に保持することが、TNO膜の導電性および透明性がより向上することから好ましく、ガラス基板の温度が250℃以下となるまで、雰囲気中の酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度を上述した所定の条件に保持することがより好ましい。
【0041】
本発明の透明導電膜形成方法において、TNO膜を形成するガラス基板は特に限定されない。したがって、材質や製法が異なる様々なガラス基板に本発明の透明導電膜形成方法を適用することができる。但し、フロート成形により得られるガラス基板に本発明の透明導電膜形成方法を適用した場合、フロート成形後の高温のガラス基板に対して、TNO膜形成工程、および、冷却工程をこの順に実施することで、TNO膜からなる透明導電膜をガラス基板上に形成するのに要するエネルギーを低減することができ、かつ、歩留りを向上させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
本実施例では、以下に述べる手順でガラス基板上にTNOからなる透明導電膜を形成した。
本実施例では、図1に示す成膜装置を使用した。TNO膜の原料に関して、有機チタン化合物としてチタンテトライソポキシド(TTIP)を用い、有機ニオブ化合物としてニオブペンタエトキシド(PEN)を用いた。
チタンテトライソポキシドおよびニオブペンタエトキシドをそれぞれ所定量エタノール(EtOH)に溶解し、この溶液4を、気化器3を用いて気化させ、気化したガスを希釈窒素ガス5と共にCVDチャンバー1内にノズル6を通して供給した。ノズル6直下には電気ヒーター7で500℃に加熱したガラス基板2が設置されており、該ガラス基板2上にノズル6から供給されるガスを5分間吹き付け、ガラス基板2上にTNO膜を成膜した。成膜時の条件を下記表1に示した。
成膜後、電気ヒーター7を切り、窒素気流中でガラス基板2を冷却し、ガラス基板2の温度が300℃となった時点でCVDチャンバー1からガラス基板2を取り出した。冷却工程実施時における雰囲気中の酸化性ガス濃度を確認するため、排気管8から排出される排気ガス9中の酸素濃度を酸素濃度計で計測したところ、酸素濃度は5%であった。また、冷却工程実施時における雰囲気中の還元性ガス濃度を測定するため、排気管8から排出される排気ガス9中の水素濃度を水素濃度計で計測したところ、水素濃度は1ppm未満であった。
ガラス基板2上に形成されたTNO膜の一部を剥がし触針式段差計(DEKTAK)で膜厚を測定したところ80nmであった。また、TNO膜のシート抵抗を測定し比抵抗を計算したところ、7Ωcmであり、良好な導電性の膜が形成されたことが分かる。また、TNO膜形成工程および冷却工程を通じて、排気管トラップ(図示せず)では粉はほとんど観測されなかった。
【0044】
実施例2,3
ガラス基板2上に供給されるガス中のチタン原子に対するニオブ原子のモル比(Nb/Tiモル比)、冷却工程実施時における雰囲気中の酸素濃度を下記表1に示す条件とした以外は実施例1と同様の手順を実施した。
その結果、ガラス基板2上に供給されるガス中のNb/Tiモル比が0.15で、冷却工程実施時における雰囲気中の酸素濃度が7%の実施例2ではTNO膜の比抵抗が10Ωcmであり、ガラス基板2上に供給されるガス中のNb/Tiモル比が0.02で、冷却工程実施時における雰囲気中の酸素濃度が7%の実施例3ではTNO膜の比抵抗が50Ωcmであり、いずれも良好な導電性を示すことが分かる。
形成された膜の透明度を目視で比較すると、実施例1,2,3の順に透明度が増すことが分かり、ガラス基板2上に供給されるガス中のNb/Tiモル比を大きくするとTNO膜の透明度が低下することが確認された。但し、実施例1〜3のTNO膜は透明導電膜として、十分な透明度を有している。
【0045】
比較例1〜4
ガラス基板2上に供給されるガス中のNb/Tiモル比を下記表3に示す条件とし、冷却工程実施時における雰囲気中の酸素濃度を15%とした以外は実施例1と同様の手順を実施した。その結果、いずれの場合もTNO膜の比抵抗が実施例と比較し3桁以上大きくなり、良好な導電性の膜が得られないことが確認できた。
【0046】
実施例4〜8
本実施例では、図2に示す成膜装置を使用した。実施例1と同様にTNO膜原料であるチタンテトライソポキシドとニオブペンタエトキシドを所定量、エタノールに溶解し、この溶液11を希釈窒素ガス12と共に2流体ノズル13を用いて噴霧し、微少液滴を作成した。この微小液滴をCVDノズル14を通して電気ヒーター15で加熱したガラス基板16に吹きつけ、ガラス基板2上にTNO膜を成膜した。成膜時の条件を下記表2に示した。
成膜後、電気ヒーター15を切り、窒素気流中でガラス基板16を冷却し、ガラス基板16の温度が250℃(実施例4、6,7,8)、または300℃(実施例5)となった時点でガラス基板16を取り出した。冷却工程実施時における雰囲気中の酸化性ガス濃度を確認するため、排気ガス17中の酸素濃度を酸素濃度計で計測したところ、酸素濃度はいずれも1%であった。また、冷却工程実施時における雰囲気中の還元性ガス濃度を測定するため、排気ガス17中の水素濃度を水素濃度計で計測したところ、水素濃度は1ppm未満であった。
実施例1と同様にTNO膜の膜厚とシート抵抗を測定した。実施例4〜8のいずれもTNO膜の比抵抗が低く、良好な導電性を示すことがわかる。特に原料のNb/Ti比を0.29まで高めた実施例8では得られた膜の比抵抗が0.07Ωcmとなり優れた導電性の膜が得られることがわかる。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
参考例1,2
還元性雰囲気によるTNO膜の透明性への影響を確認するため、参考例1,2ではCat−CVD(触媒CVD)法ならびに熱CVD法で形成したTNO膜について、可視光の波長域(550nm)の光吸収を比較した。
Cat−CVD法は原料吹き出しノズルと基板の間に1000℃程度に加熱した金属ワイヤーを触媒として設置し、該触媒を用いてTNO膜の原料を活性化する方法である。TNO膜の原料としてTTIPなどの有機金属化合物を用いた場合、原料中の有機成分が予め分解し、酸素と反応しやすくなるため、強還元性雰囲気を作ることになる。
参考例1では、成膜時の圧力を50Pa、基板温度を500℃とし、金属ワイヤー(タングステンワイヤー)を1100℃に加熱した状態で、Cat−CVD法を用いて、Nbが2.8%ドープされた膜厚210nmのTNO膜をガラス基板上に成膜した。形成されたTNO膜の波長550nmにおける光吸収は、島津製作所製分光光度計UV3100を用い、波長550nmの透過率、反射率を測定し{100%−(透過率+反射率)}で計算した。光吸収は7.2%であった。
これに対して参考例2では、成膜時の圧力を100Pa、基板温度を500℃とし、金属ワイヤーを加熱せずに、熱CVD法を用いて、Nbが2.6%ドープされた膜厚200nmのTNO膜をガラス基板上に成膜した。参考例1と同様に波長550nmにおける光吸収を測定したところ、光吸収は4.4%であった。この結果から、TNO膜を強還元性雰囲気に置くと、可視光の波長域(550nm)の光吸収が大きくなり、TNO膜の透明性が低下することが確認される。この結果は真空成膜プロセスによって成膜されたTNO膜に関するものであるが、本発明の透明導電膜形成方法において、TNO膜形成工程により形成されたTNO膜を、還元性ガス濃度が4vol%超の強還元性雰囲気で、ガラス基板温度が350℃以下となるまで冷却した場合も、これと同様に、可視光の波長域(550nm)の光吸収が大きくなり、TNO膜の透明性が低下することが予測される。
【表4】

【符号の説明】
【0051】
1:CVDチャンバー
2,16:ガラス基板
3:気化器
4,11:原料溶液
5,12:希釈窒素ガス
6:ノズル
7:電気ヒーター
8:排気管
9,17:排気ガス
13:2流体ノズル
14:CVDノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧またはその近傍の圧力において、有機ニオブ化合物および有機チタン化合物を、気体として、または、微小液滴として、450℃以上の温度のガラス基板に吹き付けることにより、ニオブがドープされた酸化チタンからなる膜を前記ガラス基板上に形成する工程、および、酸化性ガス濃度10vol%以下、かつ、還元性ガス濃度4vol%以下の雰囲気中で、前記ガラス基板の温度が350℃以下となるまで冷却する工程をこの順に実施することを特徴とする、ニオブがドープされた酸化チタンからなる透明導電膜をガラス基板に形成する方法。
【請求項2】
前記有機ニオブ化合物および有機チタン化合物とともに、沸点160℃以下のアルコール類を450℃以上の温度のガラス基板に吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機ニオブ化合物および有機チタン化合物が、チタン原子に対するニオブ原子のモル比が0.005〜0.4となるように、前記450℃以上の温度のガラス基板に吹きつけられることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機ニオブ化合物がニオブペンタエトキシドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記有機チタン化合物がチタンテトライソポロポキシドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ニオブがドープされた酸化チタンからなる膜をガラス基板上に形成する工程を実施する雰囲気中の酸素濃度および水蒸気濃度が実質的に0vol%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により得られる透明導電膜付ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−89437(P2012−89437A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237300(P2010−237300)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度文部科学省科学技術試験研究委託事業元素戦略プロジェクトの委託研究「ITO代替として二酸化チタン系透明電極材料の開発」(CVD法による二酸化チタン系透明電極の作製)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】