説明

透明導電膜付き透明基体とその製造方法、およびこの基体を含む光電変換素子

【課題】薄い膜厚でも高い表面凹凸を有する透明導電膜を有する透明基体を提供する。
【解決手段】透明基体と、この上に形成された結晶性金属酸化物を主成分とする透明導電膜とを含む透明導電膜付き透明基体であって、透明導電膜の厚さが300nm〜750nmであり、透明導電膜付き透明基体のヘイズ率が15%以上であり、X線回折パターンから算出した前記結晶性酸化物の配向面に対応するピーク面積について、(110)面のピーク面積を100として、他の全ての配向面のピーク面積が80以下である、透明導電膜付き透明基体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基体上に透明導電膜が形成された透明導電膜付き透明基体とその製造方法、および透明導電膜付き透明基体を構成要素として含む光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の透明基体と、その上に形成された透明導電膜とを含む透明導電膜付き透明基体は、さらにその上に機能性薄膜が形成され、光電変換素子、光センサー、画像表示装置、発光装置等に用いられている。画像表示装置としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイを例示できる。発光装置としては、FED(field emission display)、発光ダイオード、固体レーザーを例示できる。
【0003】
透明導電膜付き透明基体は、建築物用窓ガラス、店舗用冷蔵庫の窓ガラス、複写機の原稿台、具体的にはLow−E(low-emissivity)ガラス、電磁波遮蔽ガラス、曇り止めガラス等としても用いられている。
【0004】
光電変換素子は、電気エネルギーを光エネルギーに変換する、あるいはその逆の変換を行うエネルギー変換素子である。太陽電池は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する。シリコン半導体薄膜系太陽電池は、透明導電膜付き透明基体の透明導電膜上に光電変換機能を有するシリコン半導体膜(光電変換層)および背面電極膜を、この順に形成された構成を包含する。
【0005】
透明基体側から透明導電膜付き透明基体に入射した太陽光は、透明導電膜を通過して光電変換層に達する。光電変換層において発生した電気エネルギーは、透明導電膜および背面電極膜を介して外部に取り出される。
【0006】
太陽光の変換効率を高めるためには、光電変換層に達する光量を多くすることが望ましく、透明導電膜の表面に凹凸を形成し、光電変換層内に光を閉じこめることも変換効率の向上に効果がある。透明導電膜の表面に凹凸を形成する技術に関しては、多くの試みと多くの提案とがなされてきた。
【0007】
特開昭61−288314号公報および特開昭61−288473号公報には、透明導電膜の表面を化学的にエッチングして凹凸を形成する技術が開示されている。この技術によると、エッチング処理、エッチング液の水洗除去、水洗後の乾燥等の工程を付加する必要があるため、生産性が低下する。
【0008】
WO03/36657号公報には、透明な基体上に、非連続のドーム状に形成された酸化錫である第1の下地層、連続している酸化ケイ素膜である第2の下地層、連続している酸化錫導電膜をこの順に形成する技術が開示されている。しかし、この技術を用い、200nm以上の高さの凹凸を形成すると、目視で確認できる程度のヘイズムラが発生する。ドーム状の下地を利用した透明導電膜付き基体には改善の余地がある。
【0009】
特開平5−67797号公報には、ガラス板上に2層の結晶性金属酸化錫膜を形成した太陽電池用透明導電性基体が開示されている。この基体では、下層の酸化錫が(110)面に配向し、上層の酸化錫が(200)面に配向している。この公報の図16には、下層の膜厚と膜全体のヘイズ率との関係が示されている。この図によると、膜全体のヘイズ率は10%程度にとどまっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、結晶性金属酸化物膜では、金属酸化物の結晶粒を成長させることによって、その表面の凹凸が大きくなる。しかし、単に結晶粒を大きくすると、透明導電膜が厚くなって膜の透明性が低下し、さらに、透明導電膜の残留応力によって基体との付着力が低下する。
【0011】
本発明は、薄くても、高い表面凹凸(換言すれば大きいヘイズ率)を有する透明導電膜付き透明基体を得るために適した新たな製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この方法により製造が可能となった新たな透明導電膜付き透明基体、さらにはこの透明基体を構成要素として包含する光電変換素子を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の製造方法は、透明基体上に金属化合物、酸化原料および塩化水素を含有する原料ガスを供給し、熱分解酸化法によって前記透明基体上に結晶性金属酸化物を主成分とする透明導電膜を形成する工程を含み、前記工程が、前記原料ガスにおける前記金属化合物に対する前記塩化水素のモル比が0.5〜5である第1工程と、前記モル比が2〜10であって前記第1工程における前記モル比より大きい第2工程とを、この順に含む。
【0013】
本発明の透明導電膜付き基体は、透明基体と、前記透明基体上に形成された結晶性金属酸化物を主成分とする透明導電膜とを含み、前記透明導電膜の厚さが300nm〜750nmであり、前記透明導電膜付き透明基体のヘイズ率が15%以上である。
【0014】
さらに、本発明は、上記透明導電膜付き透明基体を含む光電変換素子を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、結晶性金属酸化物を主成分とする透明導電膜を形成する工程において、原料ガスにおける金属化合物に対する塩化水素のモル比を制御し、かつこのモル比が異なる少なくとも2種の原料ガスを用いることとした。原料ガスにおける塩化水素比を適切に制御すれば、透明導電膜の厚さが300〜750nmと薄くても、ヘイズ率が15%以上である透明導電膜付き基体を得ることが可能となる。この基体は、光透過性が優れており、透明導電膜表面における光散乱効果が大きい。この基体の特徴を活かせば、光透過性、光散乱性とともに導電性にも優れた透明導電膜付き透明基体を得ることができる。
【0016】
よって、本発明の光電変換素子では、透明導電膜付き透明基体で吸収される入射光の光量が少なく、散乱光となって光電変換層に到達しやすい。また、光電変換層内における光の閉じこめ効果が大きく、入射した太陽光線の利用効率が高くなる。さらに、本発明の光電変換素子では、透明導電膜の厚さが薄いために透明導電膜と透明基体との付着力が高く、優れた長期安定性を有する。
【0017】
金属化合物に対する塩化水素のモル比を制御しながら透明導電膜を形成すると、透明導電膜の結晶形態を好ましい状態に制御できるため、薄くてもヘイズ率が高く、かつヘイズムラが抑制された透明導電膜付き基体を得ることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の光電変換素子の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の透明導電膜付き透明基体をいわゆるオンラインCVD法により製造するために使用する装置の一例の構成を示す図である。
【図3】図3は、実施例1から得た透明導電膜付き透明基体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した状態を示す図である。観察は、透明導電膜付き透明基体平面に対して、伏角10°で行った。
【図4】図4は、実施例3から得た透明導電膜付き透明基体の断面をSEMで観察した状態を示す図である。観察は、透明導電膜付き透明基体平面に対して、伏角10°で行った。
【図5】図5は、実施例7から得た透明導電膜付き透明基体の断面をSEMで観察した状態を示す図である。観察は、透明導電膜付き透明基体平面に対して、伏角10°で行った。
【図6】図6は、比較例1から得た透明導電膜付き透明基体の断面をSEMで観察した状態を示す図である。観察は、透明導電膜付き透明基体平面に対して、伏角10°で行った。
【図7】図7は、実施例7から得た透明導電膜の表面の凸部の仰角の度数分布図である。
【図8】図8は、比較例2から得た透明導電膜の表面の凸部の仰角の度数分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
透明導電膜は、結晶性金属酸化物を主成分とする。ここで、結晶性金属酸化物とは、X線回折パターンにおいて、結晶のピークが検出される金属酸化物をいう。金属酸化物としては、酸化インジウム、錫をドープした酸化インジウム、酸化チタン、酸化錫、フッ素やアンチモンをドープした酸化錫を例示できるが、酸化チタンまたは酸化錫を主成分とする金属酸化物膜が、耐薬品性に優れ、安価な原料を使用して形成できるという利点を有する。好ましい透明導電膜の例には、フッ素がドープされた酸化錫が含まれる。
【0020】
ここで、「主成分とする」とは、慣用に従い、当該成分を含有する比率が50重量%以上であることを意味する。当該成分を含有する比率は、70重量%以上、さらには、90重量%以上が好ましい。
【0021】
透明導電膜の厚さは、300nm〜750nm、好ましくは450nm〜750nmである。膜の厚さが750nmを超えると、膜が有する残留応力によって、膜の付着力が実用的に要求されるレベルを下回ることがある。一方、膜の厚さが300nmを下回ると、高いヘイズ率が得られず、十分な光散乱効果が得られない。
【0022】
本発明の透明導電膜付き透明基体では、X線回折パターンから算出した結晶性酸化物の配向面に対応するピーク面積について、(110)面のピーク面積を100として、他の全ての配向面のピーク面積が80以下、さらには70以下、となるように結晶成長を制御して透明導電膜を形成するとよい。(110)面の配向が他の配向面の配向に対して優先的であるほど、薄い膜厚で高い凹凸の酸化錫膜が得られる傾向にある。(211)面のピーク面積が、(110)面のピーク面積に次いで大きいことが(換言すれば(211)面のピーク面積が2番目に大きいことが)さらに好ましい。
【0023】
一般に、透明導電膜は、スパッタリング法、真空蒸着法等のいわゆる物理蒸着法や、スプレー法、化学気相法(CVD法)等の熱分解酸化反応を伴う化学蒸着法によって、透明基体上に形成される。
【0024】
本発明では、CVD法を用いて透明導電膜付き透明基体を製造する。CVD法では、高温の透明基体が有する熱エネルギーにより原料ガスを分解する。
【0025】
透明導電膜を構成する結晶性金属酸化物を生成するために原料ガスに添加する金属化合物としては、塩化物、具体的には有機金属塩化物または無機金属塩化物、が適している。有機金属塩化物を使用すると、熱分解反応によって生成する炭化物が膜に残留してその透明性を阻害し、さらには副次的に生成する有機成分が環境負荷要因となる。従って、原料ガスに添加する金属化合物としては、無機金属塩化物が好ましい。好ましい金属酸化物である酸化錫を得るためには、金属化合物として錫化合物を用いるとよい。
【0026】
無機金属塩化物としては、塩化インジウム、塩化亜鉛、塩化チタン、塩化錫(塩化第一錫、塩化第二錫(四塩化錫))を例示できるが、生成する金属酸化物の耐薬品性、原料の価格等を勘案すると、塩化チタンおよび塩化錫が好ましく、塩化錫としては四塩化錫が特に好ましい。
【0027】
原料ガスに添加する酸化原料としては、酸素、水、水蒸気、乾燥空気を例示できるが、水蒸気の使用が好ましい。
【0028】
無機金属塩化物、特に四塩化錫、と水蒸気とを混合すると、酸化反応が急速に進んで固体の酸化錫が生成し、原料ガスを供給する配管に蓄積してこれを閉塞することがある。また、原料ガスを供給できたとしても、おそらくは原料ガスの組成が変化するために、透明基体と透明導電膜との結合が弱くなる。
【0029】
塩化水素は四塩化錫と水蒸気との酸化反応を抑制する作用を有する。このため、塩化水素を含有する雰囲気の中で熱分解酸化反応を進めると、透明基体上に透明導電膜を安定して形成できる。塩化水素は、四塩化錫と水蒸気とを混合する前に、どちらか一方、あるいは、両方に混合するとよい。
【0030】
本発明の製造方法では、少なくとも、金属化合物に対する塩化水素のモル比が0.5〜5、好ましくは0.8〜5、より好ましくは1〜5、である第1工程と、このモル比が2〜10であって第1工程におけるモル比よりも大きい第2工程とを含む透明導電膜形成工程により透明導電膜を形成する。第1工程における上記モル比は4未満、さらには3以下が好ましく、第2工程における上記モル比は3以上が好ましい。
【0031】
第1工程では、塩化水素のモル比が小さいために透明基体上に結晶性の初期粒子が多数形成される。第2工程ではこの初期粒子が起点となって金属酸化物の結晶が成長する。第1工程では、上記モル比を調整し、初期粒子の量および大きさを調整できる。第1工程では、ごく薄い金属酸化物膜を形成し、初期粒子を多数形成することが好ましい。第2工程では、上記モル比が相対的に大きい原料ガスを供給し、上記初期粒子を起点として金属酸化物の結晶成長を促し、粒径が大きく、厚さ方向に長い結晶を形成するとよい。
【0032】
透明導電膜形成工程は、第2工程の後に、さらに第3工程を含んでいてもよい。この場合、第3工程における金属化合物に対する塩化水素のモル比は、望ましい結晶の成長速度に基づいて決定すればよい。結晶の成長速度は、基本的には、金属の種類、目的とする結晶の粒径、長さ等に応じて適宜調整するとよい。大きい成長速度が好ましい場合には、第3工程における上記モル比を、第2工程における上記モル比より小さくする、さらに第1工程における上記モル比よりも小さくする、具体的には1.5未満、好ましくは1未満、とするとよい。本発明では、第1、第2工程において塩化水素により原料ガスにおける金属化合物の反応を抑制しているため、第3工程では上記モル比を上記程度に抑えて結晶の成長を促進し、求められる膜厚を達成することが好ましい。
【0033】
透明導電膜形成工程は、第3工程の後に、第4工程、第5工程を適宜追加してもよい。第2工程の後に複数の工程により結晶を成長させる場合も、これら複数の工程における金属化合物に対する塩化水素のモル比が、全体として上記程度に小さくなるように、例えば全体として第2工程における上記モル比よりも小さくなるように、調整することが好ましい。
【0034】
酸化錫等の金属酸化物の結晶は柱状に成長し、この成長に伴って粒子径も増大する。したがって、大粒径の酸化錫結晶を形成するためには初期粒子の数を少なくするとよい。しかし、初期粒子の数が少なすぎると、第2工程において巨大結晶が出現して斑点、シミ等の原因となり、さらには部分的なヘイズムラを引き起こすこともある。
【0035】
上記の方法によると、透明基体上に、(110)面に優先的に配向した結晶性の金属酸化物を形成できる。また、透明基体の表面近傍から、粒径が大きく、柱状の結晶が密に接した透明導電膜が得られるため、厚さを薄くしてもヘイズ率を高く維持できる。
【0036】
透明基体の表面近傍から粒径が大きく、結晶が密に接した膜では、結晶粒界が減少する。キャリアの散乱源である結晶粒界が減少すると、キャリアの移動度が向上し、厚さを薄くしても良好な導電性を維持できる。導電性を維持しながら透明性を改善できるため、この透明導電膜付き透明基体は、光電変換素子における太陽光線の変換効率向上に寄与できる。
【0037】
酸化錫を主成分とする透明導電膜の導電性を向上するためには、少量のフッ素をドープするとよい。原料ガスに添加するフッ素化合物としては、フッ化水素、ジフルオロエタン、クロロジフルオロメタン、トリフルオロ酢酸、ブロモトリフルオロメタンを例示できるが、有機物を含まないフッ化水素が好ましい。
【0038】
原料ガスは、典型的には、四塩化錫、酸化原料、塩化水素、フッ素含有化合物、気体状希釈剤が事前に混合され、透明基体に向けて供給される。混合が十分に行われないと、原料ガスの組成のバラツキにより、膜に組成ムラや膜厚ムラが発生しやすくなる。原料ガスを構成する各成分は、混合が終わった時点で気体となっていればよく、それまでの段階では、定量的に供給できる限り、液体または固体であっても構わない。
【0039】
熱分解酸化反応は、高温に加熱された透明基体上で進められる。透明基体の表面温度は、400〜800℃、特に600℃以上が好ましい。透明基体の表面温度が600℃以上であると、形成された金属酸化物薄膜が容易に結晶化して導電性が向上し、かつ、金属酸化物薄膜の成膜速度が大きくなる。
【0040】
原料ガスの熱分解酸化を伴うCVD法は、例えば、予め所定の大きさに切断した透明基体をメッシュベルトに載せて加熱炉を通過させ、透明基体が所定温度に到達した時点で原料ガスを供給することにより行うことができる。しかし、CVD法は、透明基体が、フロート法によるガラス製造工程における溶融金属浴上にあるガラスリボン、特にその表面温度が600℃以上であるガラスリボンとする、いわゆるオンラインCVD法とすることが好ましい。これによれば、高温の状態が容易に得られ、かつ、高温に加熱するために新たなエネルギーを投入することなく透明導電膜付き透明基体を得ることができる。
【0041】
塩化水素を混合した原料ガスを用いたオンラインCVD法によれば、長時間連続して安定的に、さらに大きい速度で、大面積の透明導電膜付き透明基体を製造できる。
【0042】
透明導電膜は、透明基体上に直接形成してもよいが、予め、透明基体上に少なくとも1層、好ましくは2層、の下地層を設け、この下地層の上に形成してもよい。下地層は、透明基体と透明導電膜との組合せによって惹起されうる避けるべき現象、例えば、透明基体であるガラスから拡散するアルカリ成分が透明導電膜の導電性を低下させる現象、を抑制する。
【0043】
下地層により、独自の有利な性能、例えば、透明基体と金属酸化物膜との界面における反射光量の低下、透明基体と金属酸化物膜との付着力の向上、を付与することもできる。下地層は、その設置の目的に応じ、複数層から構成してもよい。
【0044】
下地層を1層とする場合には、下地層を屈折率1.5〜1.8である材料によって形成された厚さ40nm〜120nmの膜とするとよい。屈折率が上記範囲にある材料としては、酸炭化ケイ素を例示できる。下地層を2層とする場合には、透明基体側の第1下地層を屈折率1.6〜2.4である材料によって形成された厚さ10nm〜100nmとの膜とするとよく、透明導電膜側の第2下地層を屈折率1.4〜1.8である材料によって形成された厚さ10〜100nmの膜とするとよい。屈折率が1.6〜2.4である材料としては、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛を例示できる。屈折率が1.4〜1.8である材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ケイ素酸炭化物を例示できる。
【0045】
下地層の形成方法は特に制限されないが、透明導電膜と同じ方法で形成すると、透明導電膜付き透明基体を製造するプロセス全体の制御が容易になる。オンラインCVD法では、層と金属酸化物膜とを同じ方法で、しかも連続して形成する、オンラインCVD法が特に好ましい。
【0046】
アルカリ成分を含有するガラスを透明基体とする場合には、このアルカリ成分が透明導電膜へと拡散することを抑制するため、酸化ケイ素膜、酸炭化ケイ素膜等のアルカリバリア層を下地層として形成するとよい。透明基体とアルカリバリア層とをより強く接着するために、これらの間に金属酸化物下地層を介在させるとさらによい。
【0047】
熱分解酸化法により酸化ケイ素膜を形成する場合のケイ素原料としては、モノシラン、ジシラン、トリシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルジシランを例示できるが、モノシランが特に好ましい。この場合の酸化原料は、酸素、水、水蒸気、乾燥空気、二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素を例示できるが、酸素が特に好ましい。ケイ素原料としてモノシランを用いる場合、モノシランと酸化原料との反応を制御し、得られる膜の屈折率を制御するために、エチレン、アセチレン、トルエン等の不飽和炭化水素化合物ガスを添加してもよい。
【0048】
酸化ケイ素膜と透明基体との接着力を強化し、酸化ケイ素膜と透明基体との界面における反射光量を低減するために、この界面に金属酸化物膜を形成してもよい。この場合、透明導電膜の形成に用いる金属化合物と同種の金属化合物を用いると、プロセス全体の制御が容易になる。この膜も、透明導電膜と同じ方法、特にオンラインCVD法、で形成することが好ましい。この金属酸化物膜を酸化錫膜とする場合、酸化錫膜を形成するための原料ガスには塩化水素を添加しなくてもよい。
【0049】
光電変換素子は、公知の方法に従い、透明導電膜付き透明基体の上に光電変換層および背面電極層をこの順に形成して得ることができる。図1に光電変換素子の一例の断面を示す。この光電変換素子では、透明基体20、第1下地層21、第2下地層22および透明導電膜23から構成された透明導電膜付き基体の透明導電膜23の上に、さらに、光電変換層24および背面電極膜25が形成されている。
【0050】
光電変換層24は、受光した光を吸収してフォトキャリアを生成する、光反応性の半導体薄膜層により構成するとよい。アモルファスシリコン系の半導体薄膜層、非単結晶シリコン系の結晶性半導体薄膜層、あるいは、それらを組み合わせた半導体薄膜層が、一般に用いられる。具体的には、透明基体側から、p型シリコン半導体膜、i型シリコン半導体膜、n型シリコン半導体膜の順に積層し、複層構造のシリコン系半導体光電変換層とするとよい。
【0051】
背面電極膜25には、金属薄膜が一般に使用される。n型シリコン膜と背面電極膜との間に、金属酸化物薄膜を形成し、シリコン膜と金属薄膜(背面電極膜)との合金化を防止して、双方の膜の性能安定性向上を図ってもよい。
【0052】
透明導電膜の表面形状は光電変換層の光電変換効率に影響を及ぼす。透明導電膜の表面の凸部の仰角が大きすぎると、光電変換層内のpn(pin)接合の格子欠陥が増加する。また、凸部の仰角が大きく膜表面の谷が急峻となると、Jsc(短絡電流)が低下する。さらに、仰角が大きく凸部の頂点や稜線が鋭くなると、Voc(開放電圧)が低下する。一方、仰角が小さすぎると透明導電膜付き透明基体のヘイズ率が低下するため、光閉じ込め効果が十分に得られない。以上を考慮すると、透明導電膜の表面の凸部の仰角の平均値(仰角平均値)は、20度〜30度が好ましい。
【0053】
透明導電膜付き透明基体のヘイズ率には、透明導電膜の凸部の直径も影響を及ぼす。この観点から、透明導電膜の表面の凸部の直径の平均値(凸部直径平均値)は、300nm〜500nmが好ましい。
【0054】
透明導電膜の表面は、局部的に突出したドーム状の凸部を有しないほうがよい。このような凸部が存在すると、透明導電膜付き透明基体にヘイズムラが現れやすくなるためである。
【0055】
図2は、オンラインCVD法で使用する装置の一例を示す概念図である。ガラス材料が、溶融炉(フロート窯)11からフロートバス12内に流れ出し、ガラスリボン10となって、溶融錫浴15上を移動して、半固形となった後、ローラ17により引き上げられて、徐冷炉13へと送り込まれる。徐冷炉13で固形化したガラスリボンは、図示を省略する切断装置により、所定の大きさのガラス板へと切断される。
【0056】
溶融錫浴15上にある、高温状態のガラスリボン10の表面から所定距離を隔てて、所定個数のコータ16(図示した形態では、3つのコータ16a、16b、16c)がフロートバス12内に配置される。これらのコータからは、原料ガスが供給され、ガラスリボン10上に連続的に下地層および透明導電膜が、順次形成される。本発明の透明導電膜付き透明基体の製造方法において、1層の下地層、2つの工程によって透明導電膜を形成する場合には、フロートバスにおいて最上流側のコータ16aで下地層を形成し、コータ16bと16cで透明導電膜を形成する。
【0057】
コータ16を4つ以上設置することによって、下地層を複数層とし、あるいは、透明導電膜の層数を増加して形成することができる。表面に前記各膜を形成されたガラスリボン10が、フロートバス12を出た後、ガラスリボン10上に、さらに他の薄膜を追加して、スプレー法で形成することもできる。
【0058】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0059】
実施例の説明において使用する性能に関する測定、評価法を説明する。
【0060】
(ヘイズ率)
日本電色工業社製NDH2000を用い、透明導電膜付き透明基体の、透明基体側から光を入射して、ヘイズ率を測定した。
【0061】
(シート抵抗)
ダイアインスツルメンツ社製MCP−TESTER LORESTA−FPを用いて、シート抵抗を測定した。
【0062】
(ピーク面積)
理学電機社製RAD−RC装置によって得られた、結晶のX線回折パターンにおける、各配向面の回折ピーク強度と半値幅を掛け合わせて各配向面のピーク面積を求め、(110)面のピーク面積を100として、各配向面の(110)面に対するピーク面積の比率を計算した。
【0063】
(仰角平均値)
AFM(原子間力顕微鏡;THERMOMICROSCOPE社製走査型プローブ顕微鏡)を用い、ノンコンタクトモードで透明導電膜の表面の凹凸を測定し、凸部の稜線と顕微鏡の試料ステージとのなす角を仰角としてその平均値を求めた。
【0064】
(凸部直径平均値)
AFMを用いて測定したデータから、透明導電膜の膜面に垂直な方向から見た平面図を作成し、その平面図に表れた凸部の面積を算出し、その面積と等しい面積を有する円の直径の平均値を算出した。
【0065】
(透明導電膜の膜厚)
金属Zn粉末と塩酸とを用いて透明導電膜の所定範囲をエッチングし、段差計(Tencor社製αステップ−500)を用い、形成された段差の高さを測定した。透明導電膜の膜面は、この面に存在する凹凸を平均化した面とした。
【0066】
(実施例1)
オンラインCVD法を利用して、ガラスリボン上に下地膜および透明導電膜(結晶性金属酸化物膜)をこの順で形成した。具体的には、フロートバス内がバス外よりもやや高圧に維持されるように、フロートバス空間内に98体積%の窒素と2体積%の水素とを供給した。フロートバス内を非酸化性雰囲気に保持した状態で、最上流側に位置する第1のコータから、四塩化錫(蒸気)、水蒸気、塩化水素、窒素およびヘリウムからなる混合ガスを供給し、ガラスリボン上に屈折率1.9、厚さ55nmの酸化錫膜(SnO2膜、第1下地層)を形成した。引き続き、第2のコータから、モノシラン、エチレン、酸素および窒素からなる混合ガスを供給し、第1下地層の上に屈折率1.46、厚さ30nmの酸化ケイ素膜(SiO2膜、第2下地層)を形成した。さらに、第3のコータから、四塩化錫(蒸気)0.58モル%、水蒸気11.65モル%、塩化水素0.70モル%および窒素(残部;以下においても窒素は残部を占める)からなる混合ガスを供給し、第2下地層の上に第1の酸化錫膜を形成した。さらに下流側に設置した第4のコータから、四塩化錫(蒸気)1.87モル%、水蒸気37.39モル%、塩化水素9.35モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第1の酸化錫膜の上に第2の酸化錫膜を形成した。次に、最下流側に位置する第5のコータから、四塩化錫(蒸気)3.40モル%、水蒸気50.99モル%、塩化水素0.68モル%、フッ化水素1.19モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2の酸化錫膜の上にフッ素がドープされた酸化錫膜(SnO2:F膜)を形成して、透明導電膜付き透明基体を得た。第1の酸化錫膜、第2の酸化錫膜およびフッ素がドープされた酸化錫膜を合計した透明導電膜の厚さは700nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は19.5%、透明導電膜のシート抵抗は9.5Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が43であって、他の配向面のピーク面積は、さらに小さかった。
【0067】
(実施例2)
第4のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)1.61モル%、水蒸気16.11モル%、塩化水素4.83モル%および窒素からなる混合ガスとした以外は、実施例1と同様にして透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは720nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は28.0%、透明導電膜のシート抵抗は10.2Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が38であって、他の配向面のピーク面積は、さらに小さかった。
【0068】
(実施例3)
第3のコータから供給する混合ガス中の塩化水素を1.40モル%とした以外は、実施例2と同様にして透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは687nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は36.9%、透明導電膜のシート抵抗は12.7Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が26であって、他の配向面のピーク面積は、さらに小さかった。
【0069】
(実施例4)
オンラインCVD法を利用して、ガラスリボン上に下地膜および透明導電膜(結晶性金属酸化物膜)をこの順で形成した。具体的には、フロートバス内がバス外よりもやや高圧に維持されるように、フロートバス空間内に98体積%の窒素と2体積%の水素とを供給した。フロートバス内を非酸化性雰囲気に保持した状態で、最上流側に位置する第1のコータから、四塩化錫(蒸気)、水蒸気、塩化水素、窒素およびヘリウムからなる混合ガスを供給し、ガラスリボン上に屈折率1.9、厚さ55nmの酸化錫膜(SnO2膜、第1下地層)を形成した。引き続き、第2のコータから、モノシラン、エチレン、酸素および窒素からなる混合ガスを供給し、第1下地層の上に屈折率1.46、厚さ30nmの酸化ケイ素膜(SiO2膜、第2下地層)を形成した。さらに、第3のコータから、四塩化錫(蒸気)0.50モル%、水蒸気14.88モル%、塩化水素0.60モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2下地層の上に第1の酸化錫膜を形成した。さらに下流側に設置した第4のコータから、四塩化錫(蒸気)1.49モル%、水蒸気14.91モル%、塩化水素10.44モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第1の酸化錫膜の上に第2の酸化錫膜を形成した。次に、最下流側に位置する第5のコータから、四塩化錫(蒸気)3.17モル%、水蒸気47.48モル%、塩化水素0.16モル%、フッ化水素0.55モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2の酸化錫膜の上にフッ素がドープされた酸化錫膜(SnO2:F膜)を形成して、透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは611nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は15.5%、透明導電膜のシート抵抗は13.7Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が67であって、他の配向面のピーク面積は、さらに小さかった。
【0070】
(実施例5)
オンラインCVD法を利用して、ガラスリボン上に下地膜および透明導電膜(結晶性金属酸化物膜)をこの順で形成した。具体的には、フロートバス内がバス外よりもやや高圧に維持されるように、フロートバス空間内に98体積%の窒素と2体積%の水素とを供給した。フロートバス内を非酸化性雰囲気に保持した状態で、最上流側に位置する第1のコータから、モノシラン、エチレン、酸素および窒素からなる混合ガスを供給し、ガラスリボンの上に屈折率1.65、厚さ45nmの酸炭化ケイ素膜(SiOC膜、下地層)を形成した。次に、第2のコータから、酸素と窒素の混合ガスを吹き付けた。このときの酸素濃度は33モル%であった。さらに、第3のコータから、四塩化錫(蒸気)0.35モル%、水蒸気7.06モル%、塩化水素0.64モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、下地層の上に第1の酸化錫膜を形成した。さらに、第4のコータおよび第5のコータから、それぞれ実施例2と同じ混合ガスを供給して、透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは700nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は16.5%、透明導電膜のシート抵抗は8.9Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が41であって、他の配向面のピーク面積は、さらに小さかった。
【0071】
(実施例6)
一辺が10cmの正方形となるように予め切断した無アルカリガラスを洗浄し、乾燥させた。この洗浄、乾燥されたガラス板上に、大気開放型の搬送炉内において、屈折率1.9、厚さ55nmの酸化錫膜(第1下地層)を形成した。引き続き、第1下地層の上に屈折率1.46、厚さ30nmの酸化ケイ素膜(第2下地層)を形成した。さらに、四塩化錫(蒸気)0.30モル%、水蒸気9.30モル%、塩化水素0.78モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2下地層の上に第1の酸化錫膜を形成した。さらに続いて、四塩化錫(蒸気)0.30モル%、水蒸気9.30モル%、塩化水素2.35モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第1の酸化錫膜の上に第2の酸化錫膜を形成した。次に、四塩化錫(蒸気)2.50モル%、水蒸気67.50モル%、塩化水素0.40モル%、フッ化水素1.40モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2の酸化錫膜の上に第1のフッ素をドープされた酸化錫膜を形成して、透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは740nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は25.5%、透明導電膜のシート抵抗は11.5Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が55であって、他の配向面のピーク面積は、さらに小さかった。
【0072】
(実施例7)
実施例6と同様にして、第1下地層および第2下地層を形成し、さらに四塩化錫(蒸気)2.30モル%、酸素29.90モル%、塩化水素1.84モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2下地層の上に第1の酸化錫膜を形成した。続けて、四塩化錫(蒸気)0.30モル%、水蒸気9.30モル%、塩化水素2.35モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第1の酸化錫膜の上に第2の酸化錫膜を形成した。次に、四塩化錫(蒸気)1.50モル%、水蒸気45.0モル%、塩化水素1.1モル%、フッ化水素1.38モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2の酸化錫膜の上にフッ素がドープされた酸化錫膜を形成し、透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは740nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は19.3%、透明導電膜のシート抵抗は9.9Ω/□であった。結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が38であって、他の配向面のピーク面積は、さらに小さかった。
【0073】
(実施例8)
第3のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)0.4モル%、水蒸気7.1モル%、塩化水素0.4モル%および窒素からなる混合ガスとし、第4のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)2.3モル%、水蒸気22.7モル%、塩化水素6.9モル%および窒素からなる混合ガスとし、第5のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)2.6モル%、水蒸気39.5モル%、塩化水素0.52モル%、フッ化水素1.12モル%および窒素からなる混合ガスとした以外は、実施例3と同様にして透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは640nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は18.8%、透明導電膜のシート抵抗は10.3Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が44であって、他の配向面のピーク面積は、28以下であった。
【0074】
(実施例9)
第3のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)0.6モル%、水蒸気11.6モル%、塩化水素1.8モル%および窒素からなる混合ガスとし、第4のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)2.4モル%、水蒸気60.1モル%、塩化水素12.0モル%および窒素からなる混合ガスとし、第5のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)2.4モル%、水蒸気60.1モル%、塩化水素2.9モル%、フッ化水素1.46%および窒素からなる混合ガスとした以外は、実施例3と同様にして透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは700nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は22.5%、透明導電膜のシート抵抗は11.3Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が32であって、他の配向面のピーク面積は、17以下であった。
【0075】
(比較例1)
オンラインCVD法を利用して、ガラスリボン上に下地膜および透明導電膜(結晶性金属酸化物膜)をこの順で形成した。具体的には、フロートバス内がバス外よりもやや高圧に維持されるように、フロートバス空間内に98体積%の窒素と2体積%の水素とを供給した。フロートバス内を非酸化性雰囲気に保持した状態で、最上流側に位置する第1のコータから、四塩化錫(蒸気)、水蒸気、塩化水素、窒素およびヘリウムからなる混合ガスを供給し、ガラスリボン上に屈折率1.9、厚さ55nmの酸化錫膜(第1下地層)を形成した。引き続き、第2のコータから、モノシラン、エチレン、酸素および窒素からなる混合ガスを供給し、第1下地層の上に屈折率1.46、厚さ30nmの酸化ケイ素膜(第2下地層)を形成した。さらに、第3のコータから、四塩化錫(蒸気)0.90モル%、水蒸気27.06モル%、塩化水素0.05モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2下地層の上に第1の酸化錫膜を形成した。さらに下流側に設置した第4のコータから、四塩化錫(蒸気)3.05モル%、水蒸気30.49モル%、塩化水素0.15モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第1の酸化錫膜の上に第2の酸化錫膜を形成した。次に、最下流側に位置する第5のコータから、四塩化錫(蒸気)2.92モル%、水蒸気43.78モル%、塩化水素0.58モル%、フッ化水素0.23モル%および窒素からなる混合ガスを供給し、第2の酸化錫膜の上にフッ素がドープされた酸化錫膜を形成して、透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは810nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は14.5%、透明導電膜のシート抵抗は14.0Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が118であって、他の配向面のピーク面積は、94以下であった。
【0076】
(比較例2)
第3のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)1.7モル%、水蒸気58.8モル%、塩化水素0.34モル%および窒素からなる混合ガスとし、第4のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)3.2モル%、水蒸気31.9モル%、塩化水素0.16モル%および窒素からなる混合ガスとし、第5のコータから供給する原料ガスを、四塩化錫(蒸気)3.4モル%、水蒸気51.0モル%、塩化水素0.68モル%、フッ化水素1.19モル%および窒素からなる混合ガスとした以外は、実施例3と同様にして透明導電膜付き透明基体を得た。透明導電膜の厚さは960nmとした。このようにして得られた透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は25.8%、透明導電膜のシート抵抗は9.0Ω/□であった。また、結晶のピーク面積は、(211)面のピーク面積が153であって、他の配向面のピーク面積は、88以下であった。
【0077】
実施例1〜9および比較例1〜2で得られた結果を表1にまとめて示す。
【0078】

【表1】

【0079】
表1に示したとおり、実施例1〜9から得た透明導電膜付き透明基体は、透明導電膜の厚さが750nm以下であっても、ヘイズ率が15%以上であるのに対して、比較例1から得た透明導電膜付き透明基体は、透明導電膜の厚さが750nmを超えていても、ヘイズ率が15%に達していない。比較例2から得た透明導電膜付き透明基体のヘイズ率は高いが、これは単に透明導電膜が厚いためである。実施例1〜9から得た透明導電膜付き透明基体では、透明導電膜を構成する酸化錫の結晶が(110)面に優先的に配向している。
【0080】
各実施例により形成した透明導電膜の表面には、局部的に突出したドーム状の凸部は観察されなかった(図3〜図5参照)。
【0081】
なお、オンラインCVD法による実施例1〜5,8〜9および比較例1〜2では、透明導電膜を形成する際のガラスリボンの表面温度は620〜690℃であった。実施例6〜7では、透明導電膜を形成する際のガラス板の温度を約660℃とした。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の透明導電膜付き透明基体は、太陽電池、光センサーのような光電変換素子、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイのようなディスプレイ装置、FED、発光ダイオード、固体レーザーのような発光装置を構成する部材として極めて有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基体と、前記透明基体上に形成された結晶性金属酸化物を主成分とする透明導電膜とを含む透明導電膜付き透明基体であって、
前記透明導電膜の厚さが300nm〜750nmであり、前記透明導電膜付き透明基体のヘイズ率が15%以上であり、
X線回折パターンから算出した前記結晶性酸化物の配向面に対応するピーク面積について、(110)面のピーク面積を100として、他の全ての配向面のピーク面積が80以下である、透明導電膜付き透明基体。
【請求項2】
(211)面のピーク面積が、(110)面のピーク面積に次いで大きい請求項1に記載の透明導電膜付き透明基体。
【請求項3】
前記透明導電膜の表面の凸部の仰角の平均値が20度〜30度である請求項1に記載の透明導電膜付き基体。
【請求項4】
前記透明導電膜の表面の凸部の直径の平均値が300nm〜500nmである請求項1に記載の透明導電膜付き基体。
【請求項5】
前記透明導電膜の表面が、局部的に突出したドーム状の凸部を有しない請求項1に記載の透明導電膜付き透明基体。
【請求項6】
前記金属酸化物が酸化錫である請求項1に記載の透明導電膜付き透明基体。
【請求項7】
前記透明基体と前記透明導電膜との間に、少なくとも1層の下地層をさらに含む請求項1に記載の透明導電膜付き透明基体。
【請求項8】
前記透明基体と前記透明導電膜との間に、2層の下地層をさらに含む請求項1に記載の透明導電膜付き透明基体。
【請求項9】
前記透明基体側の第1下地層が屈折率1.6〜2.4の材料によって形成された厚さ10nm〜100nmの膜であり、前記透明導電膜側の第2下地層が屈折率1.4〜1.8の材料によって形成された厚さ10nm〜100nmの膜である請求項8に記載の透明導電膜付き透明基体。
【請求項10】
請求項1に記載の透明導電膜付き透明基体を含む光電変換素子。


【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−262931(P2010−262931A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124386(P2010−124386)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【分割の表示】特願2005−515643(P2005−515643)の分割
【原出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】