説明

透明導電膜付き透明板および有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】光取出し効率の高い有機EL素子を実現する有機EL素子用の透明板、およびその製造方法、並びに有機EL素子を提供することである。
【解決手段】透明板1は、透明板本体2と、前記透明板本体2の表面上に形成される透明導電膜3とを含み、透明導電膜3の屈折率をn1、透明板本体2の屈折率をn2とすると、n1、およびn2がそれぞれ次式(1)
【数1】


を満たし、前記透明導電膜3が、可視光領域の光の透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる透明導電膜付き透明板、および透明板の製造方法、並びに有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:略称EL)素子は、一対の電極と、この電極間に設けられ、有機物を含む発光層とを含んで構成され、電極間に電圧を印加することによって発光層が発光する。発光層からの光は、一対の電極のうちの少なくとも一方側から取出されるので、光が取出される側の電極は、透明である必要がある。例えば有機EL素子は、透明導電膜が形成された透明導電膜付き透明板に形成され、この透明導電膜を透明電極として用いることによって、発光層からの光を有機EL素子の外に効率的に取出している。透明電極に用いられる透明導電膜としては、例えば酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)等の金属酸化物によって形成される薄膜、および不規則な網目構造を有する導電性物質から成る網目状導電体などが用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−228057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光層からの光は、透明導電膜付き透明板などで一部が反射するので、有機EL素子からの光取出し効率は必ずしも十分とはいえず、光取出し効率の高い有機EL素子が求められている。
【0005】
従って本発明の目的は、光取出し効率の高い有機EL素子を実現する有機EL素子用の透明板、およびその製造方法、並びに有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に鑑み鋭意研究した結果、本発明者は、従来の透明導電膜は屈折率が高く、透明導電膜と、発光層を含む有機体と、透明板本体との間の屈折率の差が大きいことに起因して、有機EL素子の光取出し効率が低下することに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、 透明板本体と、前記透明板本体の表面上に形成される透明導電膜とを含み、
透明導電膜の屈折率をn1、透明板本体の屈折率をn2とすると、n1、およびn2がそれぞれ次式(1)
【0008】
【数1】

を満たし、
前記透明導電膜は、可視光領域の光の透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板。 また本発明は、前記透明導電膜が、塗布法によって形成されることを特徴とする透明導電膜付き透明板である。
【0009】
また本発明は、前記透明導電膜が、
透明の膜本体と、
膜本体中に配置され、導電性を有するワイヤ状の導電体とを含むことを特徴とする透明導電膜付き透明板である。
【0010】
また本発明は、前記ワイヤ状の導電体の径が、200nm以下であることを特徴とする透明導電膜付き透明板である。
【0011】
また本発明は、前記ワイヤ状の導電体が、前記膜本体中において網目構造を構成することを特徴とする透明導電膜付き透明板である。
【0012】
また本発明は、前記膜本体が、導電性を有する樹脂を含んで構成されることを特徴とする透明導電膜付き透明板である。
【0013】
また本発明は、前記透明板本体が、封止膜であることを特徴とする透明導電膜付き透明板である。
【0014】
また本発明は、前記透明導電膜付き透明板と、
第1の電極と、
前記透明導電膜付き透明板および前記第1の電極との間に位置し、有機物を含む発光層を備える有機体とを含み、
前記透明板の透明導電膜が、前記透明板本体に対して第1の電極側に位置し、第1の電極とは異なる第2の電極として機能することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0015】
また本発明は、前記透明板の透明導電膜が、陽極であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0016】
また本発明は、前記透明板の透明導電膜が、陰極であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0017】
また本発明は、透明板本体を用意し、
導電性を有するワイヤ状の導電体を分散媒に分散させた分散液を、透明板本体の表面に塗布して、透明導電膜を成膜し、
透明導電膜の屈折率をn1、透明板本体の屈折率をn2とすると、n1、およびn2が、それぞれ次式(1)
【0018】
【数2】

を満たし、
可視光領域の光の透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下の透明導電膜を、透明板本体の表面上に作製することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板の製造方法である。
【0019】
また本発明は、有機物を含んでなる有機体を備える有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板の製造方法であって、
前記有機体上に、導電性を有するワイヤ状の導電体を分散媒に分散させた分散液を塗布して、透明導電膜を成膜し、
少なくとも透明導電膜を覆う透明の封止膜を形成し、
透明導電膜の屈折率をn1、封止膜の屈折率をn2とすると、n1、およびn2は、それぞれ次式(1)
【0020】
【数3】

を満たし、
可視光領域の光の透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下の透明導電膜と、該透明導電膜を覆う封止膜とを含む透明板を作製することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子の光取出し効率を向上する有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板を実現することができる。
【0022】
また本発明によれば、前記透明導電膜付き透明板を備えることによって、光取出し効率の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。
【0023】
また本発明によれば、塗布法によって透明導電膜付き透明板を作成するので、真空装置などを必要とする蒸着法およびスパッタ法などに比べて、透明導電膜を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の一形態の透明導電膜付き透明板1を示す正面図である。この透明板1は、後述する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という場合がある)に用いられ、有機EL素子における透明板1での光の反射を抑制して、有機EL素子の光取出し効率を向上させることができる。本実施の形態の透明板1が備えられる有機EL素子は、例えばフルカラー表示装置およびエリアカラー表示装置などのディスプレイ、ならびに照明装置などに用いられ、特に照明装置に好適に用いられる。
【0025】
透明板1は、透明板本体2と、透明板本体2の表面に形成される透明導電膜3とを含んで構成される。本実施の形態の透明板1を備える有機EL素子では、透明導電膜3の表面のうちの透明板本体2とは反対側の表面(透明板1の表面)に、有機物を含んでなる有機体が設けられる。この有機体は、有機物を含む発光層を少なくとも備える。透明導電膜の屈折率をn1、透明板本体2の屈折率をn2とすると、n1およびn2は、それぞれ次式(1)
【0026】
【数4】

を満たし、透明導電膜3は、可視光領域の光の透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さRaが100nm以下であることを特徴とする。さらに、有機体の透明導電膜3側の表面部の屈折率をn3とすると、透明板本体2の屈折率(n1)は、n3以下(n1≦n3)が好ましい。
【0027】
透明板1は、有機EL素子用の基板、または有機EL素子用の封止板として用いられる。透明板1を基板として用いる場合、透明板本体2は、可視光領域の光の透過率が高く、また有機EL素子を形成する工程において変化しないものが好適に用いられ、リジッド基板でも、フレキシブル基板でもよく、例えばガラス板、プラスチック板、高分子フィルムおよびシリコン板、およびこれらを積層した積層板などが好適に用いられる。透明板1を封止板として用いる場合、透明板本体2は、有機EL素子の雰囲気に含まれる酸素および水蒸気などを通し難い封止膜によって実現され、例えば金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物または金属酸窒化物などから成る無機層、あるいは前記無機層と有機層とを組合せた層、あるいは無機−有機ハイブリッド層などが好適に用いられる。無機層としては、薄膜層であって空気中で安定なものが好ましく、具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、インジウム錫酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸窒化ケイ素、及びそれらの組合せの薄膜層が挙げられる。より好ましくは、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素からなる薄膜層であり、さらに好ましくは酸窒化ケイ素の薄膜層である。なお透明板本体2としては、例示したもののうち、透明導電膜3との屈折率の差が、0.3未満の屈折率を示すものが適宜用いられる。
【0028】
透明導電膜3は、後述するように、有機EL素子の電極として用いられる。透明導電膜3は、透明の膜本体と、膜本体中に配置され、導電性を有するワイヤ状の導電体とを含んで構成される。透明の膜本体は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられ、樹脂や無機ポリマー、無機−有機ハイブリッド化合物などを含んで構成される。透明の膜本体としては、樹脂の中でも導電性を有する樹脂が好適に用いられる。このようにワイヤ状の導電体に加えて、導電性を有する膜本体を用いることによって、透明導電膜3の低電気抵抗化を図ることができる。このような低電気抵抗の透明導電膜3を有機EL素子の電極として用いることによって、電極での電圧降下を小さくして、有機EL素子の低電圧駆動を実現することができる。透明導電膜3の膜厚は、電気抵抗および可視光の透過率などによって適宜設定され、例えば、0.03μm〜10μmであり、好ましくは0.05μm〜1μmである。
【0029】
ワイヤ状の導電体は、径の小さいものが好ましく、例えば径が400nm以下のものが用いられ、好ましくは径が200nm以下のものであり、さらに好ましくは径が100nm以下のものである。膜本体に配置されるワイヤ状の導電体は、透明導電膜3を通る光を回折または散乱するので、透明導電膜3のヘイズ値を高め、光の透過率を低下させるが、可視光の波長程度または可視光の波長よりも小さい径のワイヤ状の導電体を用いることによって、可視光に対するヘイズ値を低く抑えるとともに、光の透過率を向上させることができる。また、ワイヤ状の導電体の径は、小さすぎると電気抵抗が高くなるので、径が10nm以上のものが好ましい。なお、有機EL素子を例えば照明装置に用いる場合には、透明導電膜3のヘイズ値のある程度高い方が拡散機能を併せて付与することも可能となる。従って、有機EL素子用の透明板1としては、ヘイズ値の高い透明導電膜3が好適に用いられる場合もあるので、透明導電膜3の光学的特性は、有機EL素子が用いられる装置に応じて適宜設定される。
【0030】
膜本体中に配置されるワイヤ状の導電体は、1本でも、複数本でもよく、膜本体中において、網目構造を形成していることが好ましい。例えば膜本体中において、1または複数のワイヤ状の導電体は、膜本体の全体に渡って複雑に絡み合って配置され、網目構造を形成する。具体的には、1本のワイヤ状の導電体が、絡み合ったり、複数本のワイヤ状の導電体が、互いに接触し合って配置されたりする構成が、2次元的または3次元的に広がって網目構造を形成している。この網目構造を形成するワイヤ状の導電体によって、透明導電膜3の体積抵抗率を下げることができる。またワイヤ状の導電体は、少なくとも一部が透明導電膜3の透明板本体2とは反対側の表面部に配置されることが好ましい。このようにワイヤ状の導電体を配置することによって、透明導電膜3の表面部の電気抵抗を下げることができ、透明導電膜3を電気抵抗の低い好適な電極として用いることができる。ワイヤ状の導電体は、例えば曲線状でも、針状でもよく、曲線状、及び/又は針状の導電体が互いに接触し合って網目構造を形成していれば、体積抵抗率の低い透明導電膜3を実現することができる。
【0031】
次に、透明導電膜3を成膜する方法について説明する。
【0032】
ワイヤ状の導電体の材料としては、例えばAg、Au、Cu、Alおよびこれらの合金などの電気抵抗の低い金属が好適に用いられる。ワイヤ状の導電体は、例えばN.R.Jana, L.Gearheart and C.J.Murphyによる方法(Chm.Commun.,2001, p617-p618)や、C.Ducamp-Sanguesa, R.Herrera-Urbina, and M.Figlarz等のによる方法(J. Solid State Chem.,Vol.100, 1992, p272〜p280)によって製造することができる。
【0033】
透明導電膜3を成膜する方法としては、例えばワイヤ状の導電体を樹脂に練り込むことによって、ワイヤ状の導電体を樹脂に分散させる方法、ワイヤ状の導電体と、樹脂とを分散媒に分散させた分散液を塗布することによって成膜化する方法、およびワイヤ状の導電体を樹脂から成る膜の表面にコーティングして分散させることによって形成する方法などを挙げることができる。なお、透明導電膜3には、必要に応じて界面活性剤や酸化防止剤などの各種添加剤を加えてもよい。樹脂の種類は、屈折率、透光率および電気抵抗などの透明導電膜3の特性に応じて適宜選ばれる。また、ワイヤ状の導電体を分散させる量は、透明導電膜3の電気抵抗、ヘイズ値および透光率などに影響するので、透明導電膜3の特性に応じて適宜設定される。
【0034】
本実施の形態の透明板1は、まず、前述の透明の透明板本体2を用意し、次に、導電性を有するワイヤ状の導電体を分散媒に分散させた分散液を、透明板本体2の表面に塗布して、透明導電膜3を成膜することによって作製することができる。
【0035】
分散液は、ワイヤ状の導電体と、樹脂とを、分散媒に混合することによって調合されるる。分散媒としては、たとえば樹脂を溶解させるものであればよく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒を挙げることができる。
【0036】
また樹脂としては、透光率の高いものが好ましく、また有機EL素子の作製時に、透明導電膜3上に有機EL素子となる材料を塗布する場合には、有機EL素子となる材料を含む塗布液に溶解しないものである必要がある。具体的には、低密度または高密度のポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体;ポリメチルメタクリルイミドなどのアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン−アクリロニトリル系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどの疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体などの水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶樹脂などのエンジニアリングプラスチック系樹脂などが挙げられる。
【0037】
また有機EL素子となる材料を含む塗布液に溶解しないという観点からは、前記樹脂として熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、フォトレジスト材料が好適に用いられる。
【0038】
例示した樹脂の中でも、導電性を有する樹脂が好適に用いられ、導電性を有する樹脂としては例えばポリアニリン、ポリチオフェン誘導体などが挙げられる。
【0039】
透明導電膜3の屈折率は、樹脂などによって形成される膜本体の屈折率によって主に決まる。この膜本体の屈折率は、例えば用いる樹脂の種類によって主に決まるので、用いる樹脂を選択することによって、意図する屈折率を示す透明導電膜3を容易に形成することができる。
【0040】
なお、感光性フォトレジストに用いられる感光性材料および光硬化性モノマーに、ワイヤ状の導電体を分散させた分散液を用いれば、塗布法およびフォトリソグラフィによって所定のパターン形状を有する透明導電膜3を容易に形成することができる。
【0041】
透明導電膜3としては、有機EL素子を形成する工程において加熱される温度で変形しないものが好ましく、透明導電膜3を構成する樹脂としては、ガラス転移点Tgが、150℃以上のものが好ましく、180℃以上のものがより好ましく、200℃以上のものがさらに好ましい。このような樹脂としては、例えばガラス転移点Tgが230℃のポリエーテルサルホンや高耐熱性フォトレジスト材料などを挙げることができる。
【0042】
ワイヤ状の導電体の分散量、並びにバインダーおよび添加剤などの使用は、成膜の容易さ、および透明導電膜3の特性などの条件に応じて適宜設定することができる。
【0043】
ワイヤ状の導電体を分散した分散液の塗布方法としては、ディッピング法、バーコータによるコーティング法、スピンコータによるコーティング法、ドクターブレード法、噴霧塗布法、スクリーンメッシュ印刷法、刷毛塗り、吹き付け、ロールコーティング等の工業的に通常用いられている方法を挙げることができる。
【0044】
次に、本実施の形態の透明板1を備える有機EL素子について説明する。図2は、本実施の形態の有機EL素子5を示す断面図である。図2に示す有機EL素子5では、透明板1を基板として用いた形態を示す。
【0045】
本実施の形態の有機EL素子5は、前記透明導電膜付き透明板1と、第1の電極8と、前記透明導電膜付き透明板および前記第1の電極との間に位置し、有機物を含む発光層を含む有機体7とを含み、透明板1の透明導電膜3は、第1の電極8とは異なる第2の電極9として機能することを特徴とする。本実施の形態では、透明板1の透明導電膜3と有機体7とが接して配置される。
【0046】
有機体7は、少なくとも一層の発光層を備えていればよく、発光層と第1の電極8との間、及び/又は発光層と第2の電極9との間に1または複数の層が設けられた積層体を構成してもよく、また、発光層のみによって構成されてもよい。なお、有機体7には、無機化合物から成る無機層が含まれていてもよく、例えば後述するように有機体7の透明導電膜3と接する表面部に無機層が配置されていてもよい。
【0047】
本実施の形態の有機EL素子5は、発光層からの光を基板(本実施の形態では透明板1)から取出すいわゆるボトムエミッション型のものであり、第1の電極8は、陰極であり、第2の電極9は、陽極である。
【0048】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などが挙げられる。陰極と発光層との間に、電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に近い側に位置する層を電子注入層といい、発光層に近い側に位置する層を電子輸送層という。
【0049】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極、または電子注入層、若しくは陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお、電子注入層または電子輸送層が、正孔ブロック層を兼ねる場合がある。
【0050】
陽極と発光層との間に設ける層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。陽極と発光層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方が設けられる場合、陽極に近い側に位置する層を正孔注入層といい、発光層に近い側に位置する層を正孔輸送層という。
【0051】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極または正孔注入層、若しくは陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。正孔注入層または正孔輸送層が、電子ブロック層を兼ねることがある。
【0052】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層ということがあり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。
【0053】
有機EL素子のとりうる層構成の具体的な一例を以下に示す。
a)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
b)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
c)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/電荷注入層/発光層/陰極
e)陽極/発光層/電荷注入層/陰極
f)陽極/電荷注入層/発光層/電荷注入層/陰極
g)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
i)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
j)陽極/電荷注入層/発光層/電荷輸送層/陰極
k)陽極/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
l)陽極/電荷注入層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
m)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷輸送層/陰極
n)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
o)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、この記号「/」を挟む2つの層が隣接して積層されることを示す。以下同じ。)
また、本実施の形態の有機EL素子は、2層以上の発光層を有していてもよい。2層の発光層を有する有機EL素子の具体例としては、
p)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/電極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
の層構成を有するものが挙げられる。
【0054】
また、3層以上の発光層を有する有機EL素子としては、(電極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層)を一つの繰り返し単位とすると、
q)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/繰り返し単位/繰り返し単位/・・・/陰極
のように、2つ以上の繰り返し単位を含む層構成を有するものが挙げられる。
【0055】
上記層構成pおよびqにおいて、陽極、電極、陰極、発光層以外の各層は必要に応じて削除することができる。
【0056】
基板(本実施の形態では透明板1)から光を取出すボトムエミッション型の有機EL素子では、発光層に対して、透明板1側に配置される層を、全て透明な層で構成する。また基板(本実施の形態では透明板1)とは反対側の第1の電極8側から光を取出すいわゆるトップエミッション型の有機EL素子では、発光層に対して、第1の電極8側に配置される層を、全て透明な層で構成する。
【0057】
有機EL素子は、さらに電極との密着性向上や、電極からの電荷注入の改善のために、電極に隣接して膜厚が2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために、隣接する前記各層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0058】
以下、各層の具体的な構成について説明する。
【0059】
<正孔注入層>
正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体などが挙げられる。
【0060】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが挙げられる。
【0061】
これらの正孔輸送材料の中で、正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子の正孔輸送材料が好ましく、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体などがさらに好ましい。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0062】
正孔輸送層の成膜の方法としては、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法を挙げることができる。
【0063】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであればよく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒を挙げることができる。
【0064】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法を挙げることができる。
【0065】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が弱いものが好適に用いられる。該高分子バインダーとしては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどが挙げられる。
【0066】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0067】
<発光層>
発光層は、蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、若しくは該有機物と、ドーパントとを含んで構成される。ドーパントは、たとえば発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で付加される。発光層に用いられる有機物としては、低分子化合物または高分子化合物のいずれでもよい。発光層を構成する発光材料としては、例えば以下のものを挙げられる。
【0068】
色素系の発光材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
【0069】
金属錯体系の発光材料としては、中心金属に、Al、Zn、Beなど、またはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体を挙げることができ、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0070】
高分子系の発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、およびポリビニルカルバゾール誘導体など、並びに上記色素系の発光材料や金属錯体系の発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0071】
上記発光材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0072】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0073】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0074】
ドーパント材料としては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜2000nmである。
【0075】
有機物を含む発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を基体の表面に塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを挙げることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解する溶媒として使用した溶媒と同様の溶媒を挙げることができる。
【0076】
発光材料を含む溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の塗分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合には、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写などの方法によって、所望するところのみに発光層を形成することもできる。
【0077】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等を挙げることができる。
【0078】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0079】
電子輸送層の成膜法としては、低分子の電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、若しくは溶液または溶融状態からの成膜による方法を挙げることができ、高分子の電子輸送材料では、溶液または溶融状態からの成膜による方法を挙げることができる。溶液または溶融状態からの成膜では、高分子バインダーをさらに併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法を挙げることができる。
【0080】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよく、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、厚すぎると素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0081】
<電子注入層>
電子注入層を構成する電子注入材料としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または前記金属を1種類以上含む合金、または前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、または前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体であってもよい。積層体の具体例としては、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等によって形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0082】
<陰極>
陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易な材料が好ましく、また電気伝導度の高い材料が好ましい。また陽極側から光を取出す場合には、陰極で光を反射するために、陰極の材料としては可視光反射率の高いものが好ましい。陰極の材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属およびIII−B族金属などの金属を用いることができる。具体的には、陰極の材料として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、または上記金属のうち2つ以上の合金、またはそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極として透明導電性電極を用いることができ、例えば、導電性金属酸化物や導電性有機物などから成る薄膜を用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)などからなる薄膜、または導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。なお、陰極を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0083】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0084】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。
【0085】
透明導電膜3を陽極として用いた場合、有機体7の透明導電膜3に接する部分の層としては、正孔注入層、正孔輸送層、および発光層などが挙げられる。正孔注入層の屈折率は、通常1.5〜1.8程度であり、正孔輸送層の屈折率は、通常1.5〜1.8程度であり、発光層の屈折率は、通常1.5〜1.8程度である。透明導電膜3の屈折率(n1)は、前述した式(1)を満たし、好ましくは透明導電膜3に接する層の屈折率(n3)以下になるように設定される。
【0086】
従来のボトムエミッション型の有機EL素子では、ガラス基板上に形成されたITOが陽極として用いられてきた。ITOの屈折率(n1)は、2程度であり、ガラス基板の屈折率(n2)は、1.5程度であり、有機体のITOに接する部分(たとえば発光層)の屈折率(n3)は、1.7程度なので、従来のボトムエミッション型の有機EL素子では、屈折率の高いITOが、屈折率の低いガラス基板と発光層とで挟まれた構成を形成していた。したがって、発光層からの光の一部が、全反射などによってITOで反射されるので、発光層からの光を効率的に取出すことができなかった。それに対して本発明では、式(1)の関係を満たす透明導電膜3を陽極として用い、好ましい形態として透明導電膜3の屈折率(n1)が透明導電膜3に接する層の屈折率(n3)以下となる有機EL素子5に透明板1を用いることによって、従来の有機EL素子に比べて、透明板本体2、透明導電膜3、および有機体7の透明導電膜3に接する部分の各屈折率の差が小さい有機EL素子を構成することができる。これによって、発光層からの光が透明導電膜3で反射することを抑制し、有機EL素子の光取出し効率を向上することができる。特に、n2≦n1≦n3の関係を満たす透明板1を用いれば、透明板本体2、透明導電膜3、および有機体7の透明導電膜3に接する部分の各屈折率の差をさらに小さくすることができ、発光層からの光が透明導電膜3で反射することを抑制し、有機EL素子の光取出し効率をさらに向上することができる。
【0087】
また、表面粗さRaが、100nm以下の平坦な透明導電膜3に有機体7を成膜するので、各層における膜厚のばらつきを抑制することができる。これによって、透明導電膜3の突起による短絡をなくすことができる。
【0088】
また、透明導電膜3を塗布法によって形成することができるので、真空蒸着およびスパッタ法などのように真空装置を用いて透明電極を形成する場合、または特殊な工程で透明電極を形成する場合に比べて、簡易に透明電極を形成することができ、低コスト化を図ることができる。さらに、透明導電膜3の特性は、樹脂およびワイヤ状の導電体の種類、並びにワイヤ状の導電体の形状などによって決まるので、これらを適宜選択するだけで、意図する光学特性および電気的特性などを示す透明導電膜3を容易に得ることができる。
【0089】
なお、前述したように有機体7は無機層を含んでいてもよく、たとえばホールの注入を容易にするために、有機体4の第2の電極9(透明導電膜3)側の表面部に無機層を配置し、第2の電極9(透明導電膜3)と接する無機層を設けてもよい。当該無機層としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体などからなる薄膜を挙げることができる。また、第2の電極9(透明導電膜3)を陰極とし、第1の電極8を陽極とするボトムエミッション型の有機EL素子を構成してもよい。この場合、電子の注入を容易にするために、有機体7の第2の電極側の表面部に無機層を配置し、第2の電極と接する無機層を設けてもよい。当該無機層としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または前記禁則を1種類以上含む合金、または前記金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物、または前記物質の混合物などから成る薄膜を挙げることができる。
【0090】
また本実施の形態の有機EL素子5では、透明板1を基板として用い、透明導電膜3を陽極として用いたが、透明板1を封止板として用い、透明導電膜3を陰極として用いてもよい。なお封止板は、略直方体形状の板体であってもよく、また有機体7の形状に沿って有機体7を覆う形状の膜であってもよい。以下、透明板本体2を封止膜とし、透明導電膜3を陰極として機能させて、透明板1を封止板として用いた実施の態様について説明する。図3は、本実施の他の形態の有機EL素子11を示す断面図である。本実施の形態の有機EL素子11は、前述の実施の形態の有機EL素子5の構成とほぼ同じなので、対応する構成については同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。本実施の形態の有機EL素子11は、基板としては、必ずしも透明でなくてもよく、基板12上に、前述の実施の形態の第2の電極9に変えて、第1の電極13を形成し、この第1の電極13上に、有機体7を形成し、この有機体7上に、第2の電極14として透明導電膜3を形成し、さらに、第1の電極13、有機体7および第2の電極14からなる積層体を覆う透明板本体2を形成することによって実現される。本実施の形態の有機EL素子11は、基板12とは反対側の第2の電極14側から光を取出すいわゆるトップエミッション型の有機EL素子11である。
【0091】
第1の電極13は、陽極として用いられる。第1の電極13および基板12のうちの少なくとも一方は、光を第2の電極14側に反射させるものが好適に用いられる。
【0092】
第2の電極14は、前述の透明導電膜3と同様にして形成することができ、例えば有機体7の基板12側とは反対側の表面に、前述したワイヤ状の導電体が分散された分散液を塗布することによって形成することができる。この第2の電極14は、陰極として機能する。なお、第2の電極14(陰極)からの電子の注入を容易にするために、第2の電極14と有機体7との間に0.1nm〜5nm程度の膜厚の薄膜をさらに設けてもよい。当該薄膜としては、例えばアルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、およびイッテルビウムなどの金属、または上記金属のうちの2つ以上の合金、または上記金属のうちの1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などから成る薄膜が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などを挙げることができる。なお、当該薄膜は、第2の電極14を形成する前に予め形成しておけばよい。また、透明板本体2は、前述したように、例えば金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物または金属酸窒化物である無機層、あるいは前記無機層と有機層の組合せ、あるいは無機−有機ハイブリッド層などを含んで構成される封止膜によって実現され、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などによって、第1の電極13、有機体7および第2の電極14からなる積層体を覆うように形成することができる。
【0093】
以上説明した本実施の形態の有機EL素子11によれば、前述の実施の形態の有機EL素子5と同様にして、発光層からの光が第2の電極14(透明導電膜3)で全反射することを抑制できるので、有機EL素子の光取出し効率を向上することができる。また前述したように、特に、n2≦n1≦n3の関係を満たす透明板1を用いれば、透明板本体2、第2の電極14(透明導電膜3)、および有機体7の第2の電極14(透明導電膜3)に接する部分の各屈折率の差をさらに小さくすることができ、発光層からの光が透明導電膜3で全反射することを抑制し、有機EL素子の光取出し効率をさらに向上することができる。
【0094】
本実施の形態では、トップエミッション型の有機EL素子において、第2の電極14(透明導電膜3)を陰極として用いたが、他の実施の形態ではトップエミッション型の有機EL素子において第2の電極14(透明導電膜3)を陽極として用い、第1の電極13を陰極として用いてもよい。さらに他の実施の形態の有機EL素子では、2つの透明板1を備え、一方の透明板1を基板として用い、他方の透明板1を封止板として用いてもよい。また、さらに他の実施の形態の有機EL素子では、2つの透明板1を備え、両方の透明板1を基板として用い、一対の透明板1で有機体7を挟持する構成を有していてもよい。なお、一対の透明板1の各透明導電膜3は、一方が陽極として機能し、他方が陰極として機能する。このような有機EL素子では、各層が積層される積層方向の一方と他方の両方から光を取出され、前述と同様の理由で、光取出し効率の高い有機EL素子を実現することができる。
【実施例1】
【0095】
ワイヤ状の導電体として、アミノ基含有高分子系分散剤(アイ・シー・アイ・ジャパン社製、商品名「ソルスハ゜ース24000SC」)で表面を保護した銀ナノワイヤー(長軸平均長さ1μm、短軸平均長さ10nm)を用いる。この銀ナノワイヤーのトルエン分散液2g(銀ナノワイヤー1.0g含有)と、膜本体となる光硬化性モノマーであるトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製 NKエステル−TMPT)0.25gとを混合し、さらに重合開始剤イルガキュア907(日本チバ・ガイギー社製)0.0025gを添加する。この混合溶液を厚さ0.7mmのガラス基板(透明板本体)に塗布し、ホットプレート上で110℃20分加熱して溶媒を乾燥し、さらにUVランプで光照射(6000mW/cm2)することによって硬化して、膜厚が150nmの透明導電膜を得る。このように成膜することによって、透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下である透明導電膜が得られる。
【0096】
光硬化樹脂の屈折率は1.47であり、得られる透明導電膜の屈折率も1.47となり、この透明導電膜付き透明板を用いた有機EL素子では光取出し効率が向上する。
【実施例2】
【0097】
ワイヤ状の導電体として、アミノ基含有高分子系分散剤(アイ・シー・アイ・ジャパン社製、商品名「ソルスハ゜ース24000SC」)で表面を保護した銀ナノワイヤー(長軸平均長さ1μm、短軸平均長さ10nm)を用いる。この銀ナノワイヤーのトルエン分散液2g(銀ナノワイヤー1.0g含有)と、膜本体となるポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(スタルク社製、BaytronP)2.5gとを混合する。この混合溶液を厚さ0.7mmのガラス基板(透明板本体)に塗布し、ホットプレート上で200℃20分加熱し、溶媒を乾燥すると膜厚が150nmの透明導電膜を得る。このように成膜することによって、透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下である透明導電膜が得られる。
【0098】
BaytronPの屈折率は1.7であり、得られる透明導電膜の屈折率も1.7となり、この透明導電膜付き透明板を用いた有機EL素子では光取出し効率が向上する。
【実施例3】
【0099】
ワイヤ状の導電体として、アミノ基含有高分子系分散剤(アイ・シー・アイ・ジャパン社製、商品名「ソルスハ゜ース24000SC」)で表面を保護した銀ナノワイヤー(長軸平均長さ1μm、短軸平均長さ10nm)を用いる。膜本体となるポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(スタルク社製、BaytronP)2.5gに、ジメチルスルホキシド0.125gを混合した混合液と、前記銀ナノワイヤーのトルエン分散液2g(銀ナノワイヤー1.0g含有)とを混合する。この混合溶液を0.7mm厚のガラス基板に塗布し、ホットプレート上で200℃20分加熱し、溶媒を乾燥すると膜厚が150nmの導電膜を得る。このように成膜することによって透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下である透明導電膜が得られる。
【0100】
BaytronPの屈折率は1.7であり、得られる透明導電膜の屈折率も1.7となり、この透明導電膜付き透明板を用いた有機EL素子では光取出し効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の一形態の透明導電膜付き透明板1を示す正面図である。
【図2】本実施の形態の有機EL素子5を示す断面図である。
【図3】本実施の他の形態の有機EL素子11を示す断面図である。
【符号の説明】
【0102】
1 透明板
2 透明板本体
3 透明導電膜
5,11 有機EL素子
7 有機体
8,13 第1の電極
9,14 第2の電極
12 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明板本体と、前記透明板本体の表面上に形成される透明導電膜とを含み、
透明導電膜の屈折率をn1、透明板本体の屈折率をn2とすると、n1、およびn2がそれぞれ次式(1)
【数1】

を満たし、
前記透明導電膜は、可視光領域の光の透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板。
【請求項2】
前記透明導電膜が、塗布法によって形成されることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜付き透明板。
【請求項3】
前記透明導電膜が、
透明の膜本体と、
膜本体中に配置され、導電性を有するワイヤ状の導電体とを含むことを特徴とする請求項1または2記載の透明導電膜付き透明板。
【請求項4】
前記ワイヤ状の導電体の径が、200nm以下であることを特徴とする請求項3記載の透明導電膜付き透明板。
【請求項5】
前記ワイヤ状の導電体が、前記膜本体中において網目構造を構成することを特徴とする請求項4記載の透明導電膜付き透明板。
【請求項6】
前記膜本体が、導電性を有する樹脂を含んで構成されることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つに記載の透明導電膜付き透明板。
【請求項7】
前記透明板本体が、封止膜であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の透明導電膜付き透明板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の透明導電膜付き透明板と、
第1の電極と、
前記透明導電膜付き透明板および前記第1の電極との間に位置し、有機物を含む発光層を備える有機体とを含み、
前記透明板の透明導電膜が、前記透明板本体に対して第1の電極側に位置し、第1の電極とは異なる第2の電極として機能することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記透明板の透明導電膜が、陽極であることを特徴とする請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記透明板の透明導電膜が、陰極であることを特徴とする請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
透明板本体を用意し、
導電性を有するワイヤ状の導電体を分散媒に分散させた分散液を、透明板本体の表面に塗布して、透明導電膜を成膜し、
透明導電膜の屈折率をn1、透明板本体の屈折率をn2とすると、n1、およびn2がそれぞれ次式(1)
【数2】

を満たし、
可視光領域の光の透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下の透明導電膜を、透明板本体の表面上に作製することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板の製造方法。
【請求項12】
有機物を含んでなる有機体を備える有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板の製造方法であって、
前記有機体上に、導電性を有するワイヤ状の導電体を分散媒に分散させた分散液を塗布して、透明導電膜を成膜し、
少なくとも透明導電膜を覆う透明の封止膜を形成し、
透明導電膜の屈折率をn1、封止膜の屈折率をn2とすると、n1、およびn2が、それぞれ次式(1)
【数3】

可視光領域の光の透過率が80%以上、体積抵抗率が1Ω・cm以下、表面粗さが100nm以下の透明導電膜と、該透明導電膜を覆う封止膜とを含む透明板を作製することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用の透明導電膜付き透明板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−181856(P2009−181856A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20885(P2008−20885)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】