説明

透明導電複合材の製造方法および透明導電複合材

【課題】
カーボンナノチューブを導電材して用いた透明導電複合材において、透明導電性の高い透明導電複合材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
透明基材上に、カーボンナノチューブを溶媒に分散した分散液を塗布後、該分散液中の溶媒を蒸発させて除去し、カーボンナノチューブ含有層を形成する透明導電複合材の製造方法であって、
分散液を塗布する面の水接触角を35〜55°となるよう調整した透明基材上に、以下の(A)および/または(B)の特性を満たす様に調整したカーボンナノチューブの濃度が0.02〜0.15質量%の分散液を塗布することを特徴とする透明導電複合材の製造方法。
(A)pHが6〜10
(B)カーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に希釈した分散液のゼータ電位が−60mV〜−40mV

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを導電材とした透明導電複合材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電複合材の導電層を形成する有機系材料としては、カーボンナノチューブと導電性ポリマーが知られている。これらの材料は室温、大気圧下で導電層の塗布が可能であり、簡易なプロセスで導電層を形成することができる。また、屈曲性に富むため、柔軟なフィルム上に導電層を形成する場合であっても、フィルムの屈曲性に追従することができる。さらに、基材にフィルムを用いた場合には導電層を連続形成できることから、プロセスコストの低減が可能である。これらの導電層は、膜厚を薄くすることによって透明性を向上させることができ、特にカーボンナノチューブは黒色のためニュートラルな色調を得ることができる。
【0003】
カーボンナノチューブは従来、溶媒中への分散が困難であったが、近年、カーボンナノチューブの分散性を高めた組成物として、溶媒およびカーボンナノチューブを含有する組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。このような分散方法により優れた透明性、導電性を有するカーボンナノチューブ透明導電複合材が得られるようになっている(例えば特許文献2)。
【0004】
また、非特許文献1においては、分散剤としてポリアクリル酸を用いたカーボンナノチューブ分散液の分散性、および導電性を向上させた例が記載されている。分散液のpHを上昇させることで、ポリアクリル酸のカルボキシル基を電離、カルボキシル基同士の静電反発を利用して、カーボンナノチューブの分散性を向上させている。その結果、この分散液を乾燥させて作成したポリアクリル酸―カーボンナノチューブコンポジットポリマーは、分散液のpHが相対的に低いポリマーと比較して、導電性が向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−97499号公報
【特許文献2】特開2009−252713号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nano Letters, 2006 vol.6 No.5,911―915
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1のようにpHを調整してカーボンナノチューブ分散液の分散性を向上させる手法を用いて高分子中にカーボンナノチューブを分散させたカーボンナノチューブコンポジットポリマーでは高い透明導電性を得ることは難しかった。
【0008】
本発明は、カーボンナノチューブを導電材して用いた透明導電複合材において、透明導電性の高い透明導電複合材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは非特許文献1のようにpHを調整してカーボンナノチューブ分散液の分散性を向上させる手法を用いて高分子中にカーボンナノチューブを分散させたカーボンナノチューブコンポジットポリマーでは高い透明導電性を得ることは難しい理由検討したところ、分散性が確保されるのに十分に高いpHとすると、分散液の表面張力が上昇し基材への濡れ性が低下することから均一に塗布できないという現象が起こることを見出し、本発明に到達したものである。すなわち本発明は、下記の構成からなる。すなわち、
(1)透明基材上に、カーボンナノチューブを溶媒に分散した分散液を塗布後、該分散液中の溶媒を蒸発させて除去し、カーボンナノチューブ含有層を形成する透明導電複合材の製造方法であって、
分散液を塗布する面の水接触角を35〜55°となるよう調整した透明基材上に、以下の(A)および/または(B)の特性を満たす様に調整したカーボンナノチューブの濃度が0.02〜0.15質量%のカーボンナノチューブ分散液を塗布することを特徴とする透明導電複合材の製造方法。
(A)pHが6〜10
(B)カーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に希釈した分散液のゼータ電位が−60mV〜−40mV
(2)硝酸および/またはアンモニアを添加することにより前記分散液の特性を(A)および/または(B)を満たす様に調整する前記(1)に記載の透明導電複合材の製造方法。
(3)コロナ処理により前記透明基材の分散液を塗布する面の水接触角を調整する前記(1)または(2)に記載の透明導電複合材の製造方法。
(4)プラズマ処理により前記透明基材の分散液を塗布する面の水接触角を調整する前記(1)または(2)に記載の透明導電複合材の製造方法。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の透明導電複合材の製造方法で製造した全光線透過率87.0%における表面抵抗値が500〜1000Ω/□である透明導電複合材。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の透明導電複合材の製造方法で製造した、前記カーボンナノチューブ含有層のカーボンナノチューブのバンドル径が1〜4nmである透明導電複合材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カーボンナノチューブの分散性を向上させた状態で透明基材上にカーボンナノチューブを均一に固定化することが可能となり、高い透明導電性を持つ透明導電複合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】カーボンナノチューブを化学気相成長法で製造する装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明におけるコロナ処理に用いる装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
[透明導電複合材の製造方法]
本発明の透明導電複合材の製造方法は、透明基材上に、カーボンナノチューブを溶媒に分散した分散液を塗布後、該分散液中の溶媒を蒸発させて除去し、カーボンナノチューブ含有層を形成する透明導電複合材の製造方法であって、特定の表面特性を有する透明基材上に特定の水素イオン濃度および/または分散体の帯電状態である分散液を塗布することを特徴とするものである。
【0013】
すなわち、透明基材の分散液を塗布する面の水接触角を35〜55°となるよう調整し、分散液を(A)pHが6〜10および/または(B)カーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に希釈した分散液のゼータ電位(以降、単にゼータ電位と記す場合もある)が−60mV〜−40mの範囲に調整したものを組み合わせる。
【0014】
以降、本発明の各構成について説明する。
[透明基材]
本発明において用いられる透明基材に求められる光学的な特性としては、通常の透明導電複合材に用いられるものと同様、可視光の透過率が高いことが求められ、具体的には全光線透過率が50%以上、好ましくは90%以上のものが適用される。このような透明基材としては、樹脂、ガラスなどを挙げることができる。形態としては厚み250μm以下で巻き取り可能なフィルムであっても、厚み250μmを超える基板であってもよい。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどを挙げることができる。ガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができる。また、これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。例えば、樹脂とガラスを組み合わせた基材、2種以上の樹脂を積層した基材などの複合基材であってもよい。2種以上の樹脂を積層する目的は種々挙げられるが、例えば表面硬度を向上させる、表面張力を制御し塗工性を向上させる、表面物質の屈折率を制御し光学特性を向上させるなどである。
【0015】
本発明においては、上述の通り、透明基材の分散液を塗布する面の水接触角を35〜55°となるよう調整することが重要である。
【0016】
本発明においては、pHおよび/または分散液のゼータ電位を特定の範囲に調整したカーボンナノチューブ分散液を使用するが、後述するようにかかる特性の範囲は従来条件に比較してより塩基性となる。そしてカーボンナノチューブ分散液が、より塩基性となるとカーボンナノチューブ分散液の表面張力がより大きくなる現象があることを見出した。このため、通常のポリエステル基材上にかかる特性の範囲のカーボンナノチューブ分散液を塗工しても、均一に塗工できずハジキが生じてしまうものと考えられる。かかる特性の範囲のカーボンナノチューブ分散液を基材上に塗工するためには、表面に親水性の官能基を表出させ、基材の表面張力を向上および/または気液界面の界面張力を低下させた透明基材が好ましい。親水性の官能基とは例えば、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン基、シラノール基などが挙げられる。このための表面親水化方法としてコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの物理処理、酸処理やアルカリ処理などの化学的処理が挙げられる。この中でもコロナ処理、プラズマ処理が好ましい。コロナ処理は、例えば、図2に示すような構成の装置を用いて行うことができる。高電圧印荷装置201で、グラウンドと電極202間に10〜100 kVの直流電圧を発生させた上で電極202と透明基材(例えばPETフィルム)204間に透明基材204と50〜200μmの距離を隔てるように隔壁203を設け、1〜10cm/秒の早さでA方向に電極を移動させることにより行うことができる。これらの処理により、かかる特性の範囲のカーボンナノチューブを塗布することが可能な、基材表面水接触角を35°〜55°以下を達成することができる。
[カーボンナノチューブ]
カーボンナノチューブはグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブ、3層以上に巻いたものを多層カーボンナノチューブという。本発明において用いられるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、3層以上の多層カーボンナノチューブのいずれでもよいが、高い導電性を得るためには、単層、あるいは2層カーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0017】
本発明において用いられるカーボンナノチューブは、例えば以下のように製造される。マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させ、該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと前記触媒を500〜1200℃で接触させ、カーボンナノチューブを製造した後、カーボンナノチューブを酸化処理する。カーボンナノチューブは通常バンドルを形成しているために分散性が低い。これは副生物として生成するアモルファスカーボンが糊の役割を果たしバンドルを強固なものにしているためと推測される。そこでカーボンナノチューブの分散性を向上させるために酸化処理を施すことによりアモルファスカーボンを除去することができる。酸化処理方法としては、焼成処理する方法や過酸化水素や混酸、硝酸など酸化力の強い酸で処理することが挙げられる。酸により酸化されたカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの表面がカルボン酸など酸性官能基で修飾されており、イオン交換水中に懸濁した液は酸性を示す。酸により酸化されたカーボンナノチューブを用いることで、分散性が向上し、導電性が高い分散液を得ることができる。カーボンナノチューブを硝酸で処理するとは、前記カーボンナノチューブを例えば市販の硝酸40〜80質量%中に0.1mg/mL〜100mg/mLになるように混合し、60〜150℃の温度にて0.5〜48時間反応させることを意味する。このような酸化処理を行うことで、生成物中のアモルファスカーボンなどの不純物を選択的に除去することが可能となる。これら酸化処理はカーボンナノチューブ合成直後に行っても良いし、別の精製処理後に行っても良い。例えば触媒として鉄/マグネシアを用いる場合、焼成処理後、塩酸等の酸により、さらに触媒除去のための精製処理を行っても良いし、先に塩酸等の酸により触媒除去のための精製処理を行った後に酸化処理してもよい。いずれにしてもカーボンナノチューブの特性に合わせて適度な酸化の強さと時間を調整し、所望の分散性が得られるまで、十分に酸化処理を施すのがよい。
【0018】
このようにして得たカーボンナノチューブは分散性が高く、比較的簡便にバンドルを解すことが出来る。本発明においては、カーボンナノチューブを精製後、乾燥工程を経ずに溶媒を含んだ状態で用いることがさらに好ましい。一度カーボンナノチューブを乾燥させると、カーボンナノチューブ同士が絡み合ったり、強く凝集し、乾燥工程を経ずに溶媒を含んだ状態と比較すると分散させることが困難になる。またこのように凝集が強い場合には絡みを解す時に、なかなか解れずにカーボンナノチューブを切断してしまい、粒径が小さくなりすぎたりする。このようにカーボンナノチューブを溶媒を含んだ状態で分散することによりさらにカーボンナノチューブの分散が簡便になると同時に分散性が向上する。
[カーボンナノチューブ分散液]
本発明において用いられるカーボンナノチューブは溶媒に分散し分散液とした後、透明基材に塗布されるが、分散液は例えば以下のように調整する。合成されたカーボンナノチューブ集合体は、通常触媒を除去し、必要に応じ、精製や前述の酸化処理等を経て分散液の製造に供される。
【0019】
分散液を製造するための溶媒としては、水系溶媒が好ましく、分散剤が溶解し、カーボンナノチューブが分散するものである。水系溶媒中で分散させることにより、静電反発力を利用でき、カーボンナノチューブを高分散することができる。水系溶媒とは溶媒の主成分が水で構成されている溶媒を指し、具体的には、水の質量割合が50〜100%の溶媒を指す。
【0020】
また、本発明に用いるカーボンナノチューブ分散液のカーボンナノチューブの濃度は、0.02〜0.15質量%である。0.02質量%未満では、基材への塗布性が低下して均一にカーボンナノチューブ層を塗工することが困難となる。また、0.15質量%を越えると、カーボンナノチューブの凝集が起きやすく、カーボンナノチューブ分散液のポットライフが低下する。
【0021】
前記カーボンナノチューブを溶媒に分散する場合、分散剤を用いることが好ましい。本発明に用いることができる分散剤としては、界面活性剤、各種高分子材料(水溶性高分子材料等)等を用いることができる。分散剤は、カーボンナノチューブ集合体または微粒子の分散能や分散安定化能等を向上させるのに役立つ。界面活性剤は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤に分けられるが、本発明ではいずれの界面活性剤を用いることも可能であるが、分散能が高い点からイオン性界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤があげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤にわけられる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤およびカルボン酸系界面活性剤などがあげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0023】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。前記において、アルキルとは炭素数が1〜20のアルキルであることが好ましい。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、非イオン性界面活性剤が好ましく、特に芳香族系非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0024】
各種高分子材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、キトサン等の糖類ポリマー等がある。またポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体も使用できる。本発明においては水溶性高分子が好ましく、なかでも、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマーを使用することによりカーボンナノチューブ集合体の導電特性を効率的に発揮することができ好ましい。
【0025】
本発明に用いる分散液の製造に用いる装置としては塗料製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を適用することができる。中でも、超音波を用いて分散することで得られる分散液のカーボンナノチューブの分散性は高く、好ましい。分散させるカーボンナノチューブは乾燥状態であっても、溶媒を含んだ状態でもよいが、精製後乾燥させずに溶媒を含んだ状態で分散させると、分散性が向上するので好ましい。超音波を用いて分散する場合における超音波照射方法としては、超音波ホモジナイザーを用いることが好ましい。超音波の照射出力や処理量、分散時間を最適に調整することによってカーボンナノチューブのバンドル径を調整すれば良い。カーボンナノチューブのバンドル径とは、一本一本のカーボンナノチューブが、その高いπ電子相互作用によって、束(バンドル)状となった際の直径を指す。通常、単層、2層カーボンナノチューブ一本の太さは1〜2nmであるが、バンドルを組むことによって、2nm以上の直径となる。かかるカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブバンドル径は、PET上に0.02質量%の分散液を塗布乾燥後、原子間力顕微鏡(AFM)などのサブnmオーダーの高さ分解能を持つ観察手段によって、基材表面を基準として測定することができる。具体的には、他のカーボンナノチューブと重ならずに基材表面に直接横たわっているカーボンナノチューブを選定し、基材表面を基準として一本のカーボンナノチューブのバンドルの基材表面から最も離れた表面までの距離(以降、カーボンナノチューブのバンドルの高さと記す場合もある)を測定する。本発明においては、基材上で観測される100本のカーボンナノチューブのバンドルの高さを求め、100本の平均をそのサンプルのカーボンナノチューブのバンドル径として定義する。
【0026】
超音波を用いて分散する場合における超音波の照射出力は、処理量や分散時間により適宜調整することができるが、20〜1000Wが好ましい。照射出力が大きすぎると、カーボンナノチューブに欠陥ができたり、カーボンナノチューブが切断されて、分散液の透明導電性が低下してしまう。例えば、分散処理量が20mL以下の場合であれば、20〜50Wが好ましく、分散処理量が100〜500mLであれば、100W〜400Wが好ましい。超音波の出力が大きいときは分散時間を短くする、出力が小さいときは分散時間を長くする等、調整することでカーボンナノチューブを最適なバンドル径、長さに制御することが可能である。分散させる際の温度は、特に高出力の場合においては分散中に液温が上昇しないように、冷却しながら連続フロー式で分散を行うなどし、液温が上昇しないようにすることが好ましい。超音波照射中の液温は好ましくは、0℃〜50℃であり、より好ましくは、0℃〜30℃であり、さらに好ましくは、0℃〜20℃である。この範囲にあることで、カーボンナノチューブと分散剤が安定に相互作用し良好に分散させることができる。周波数は20〜100kHzであることが好ましい。
[カーボンナノチューブ分散液の特性]
本発明に用いる分散液は、以下の(A)および/または(B)を満たすものである。
(A)pHが6〜10
(B)カーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に希釈した分散液のゼータ電位が−60mV〜−40mV
カーボンナノチューブ分散液のpHが6〜10であると、カーボンナノチューブ表面を修飾しているカルボン酸など酸性官能基や、カーボンナノチューブの周りに位置している分散剤に含まれるカルボン酸などの酸性官能基の電離度が向上し、その結果、カーボンナノチューブ、あるいはカーボンナノチューブ周りの分散剤がマイナス電荷を帯びる。このようにして、カーボンナノチューブ、あるいはカーボンナノチューブ周りの分散剤が互いに静電反発することで、カーボンナノチューブの分散性がさらに増し、バンドル径を小さくすることが可能であるためである。pH調整は、前記混合分散機を用いて分散剤と混合、分散する工程で行うことが好ましいが、分散工程以降で調整を行っても同様の効果を得ることはできる。
【0027】
カーボンナノチューブ分散液のpHは、アレニウスの定義による酸性物質や塩基性物質をカーボンナノチューブ分散液に添加することで調整できる。酸性物質は、例えば、プロトン酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウフッ化水素酸、フッ化水素酸、過塩素酸等の無機酸や、有機カルボン酸、フェノール類、有機スルホン酸等が挙げられる。さらに、有機カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、ショウ酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ニトロ酢酸、トリフェニル酢酸等が挙げられる。有機スルホン酸としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、ジナフチルメタンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、アントラセンスルホン酸、ピレンスルホン酸などが挙げられる。この中でも好ましいのは、塗布乾燥時に揮発する揮発酸であり、例えば塩酸、硝酸などである。
塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアなどが挙げられる。この中でも好ましいのは、塗布乾燥時に揮発する揮発塩基であり、例えばアンモニアである。
【0028】
また、上記のカーボンナノチューブ分散液の調製は、カーボンナノチューブの分散液を、カーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に希釈した際のゼータ電位が−60mV〜−40mVとなるように調節しても良い。これは、上述のカーボンナノチューブの分散液のpHを調整する際にカーボンナノチューブ、あるいはカーボンナノチューブ周りの分散剤が帯びるマイナス電荷を指標とするものである。本発明において、カーボンナノチューブの分散性が好ましい範囲となるゼータ電位の範囲としては−60〜−40mVの範囲である。
[カーボンナノチューブ分散液のpH調整]
カーボンナノチューブ分散液のpH調整は、pHを測定しながら、上記酸性物質および/または塩基性物質を所望のpHとなるまで添加することで行う。pH測定法としては、リトマス試験紙などのpH試験紙を用いる方法、水素電極法、キンヒドロン電極法、アンチモン電極法、ガラス電極法などが挙げられるが、この中でもガラス電極法が簡便であり、必要な精度を得られるため好ましい。また、酸性物質、あるいは、塩基性物質を過剰に添加して所望のpH値を越えてしまった場合には、逆の特性を持つ物質を添加してpHを調整すれば良い。かかる調整に適用する酸性物質としては硝酸が、塩基性物質としてはアンモニアが好ましい。
[カーボンナノチューブ分散液のゼータ電位の調整]
ゼータ電位の調整方法は、酸性物質あるいは塩基性物質を加えたカーボンナノチューブ分散液の一部をサンプリングして0.003質量%まで希釈し、ゼータ電位測定を実施、その際のゼータ電位が所望の値となるまで酸性物質および/または塩基性物質の添加を繰り返す。ゼータ電位測定法として溶液に電位をかけた際の荷電粒子の移動度を測定する電気泳動法を用いることが一般的である。前記濃度は電気泳動法によりゼータ電位を測定するのに適した濃度である。ゼータ電位を測定する濃度はこの値に必ずしも限定されるものではなく、測定方法に適した濃度を選定する。酸性物質の添加はゼータ電位を+側に上昇させ、塩基性物質の添加は−側に低下させる。pH調整と同様、酸性物質、あるいは、塩基性物質を過剰に添加して所望のゼータ電位を越えてしまった場合には、逆の特性を持つ物質を添加してゼータ電位を調整すれば良い。かかる調整に適用する酸性物質としては硝酸が、塩基性物質としてはアンモニアが好ましい。
[カーボンナノチューブ含有層の形成]
本発明において、カーボンナノチューブ分散液を前述の透明基材の水接触角を35〜55°となるよう調整した側の面の上に塗布した後該分散液中の溶媒を蒸発させて除去し、カーボンナノチューブ含有層を形成する。このとき、カーボンナノチューブ分散液を塗布する方法は特に限定されない。既知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。溶媒は温度上昇により蒸発させて除去する。溶媒温度を上昇させる方法としては外部から熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等があるが、熱風を用いることが好ましい。
【0029】
分散液の塗布厚み(ウェット厚)は、分散液の濃度にも依存するため、望む光透過率および表面抵抗値が得られれば特に規定する必要はないが、0.1〜50μmであることが好ましい。さらに好ましくは1μmから20μmである。
pHおよび/またはゼータ電位を所定の範囲の調整することで、カーボンナノチューブ含有層中のカーボンナノチューブバンドル径を小さくすることができる。カーボンナノチューブ含有層中のカーボンナノチューブバンドル径は、AFMなどのサブnmオーダーの高さ分解能を持つ観察手段によって、他のカーボンナノチューブと重ならずに透明基材表面に直接横たわっているカーボンナノチューブを選定し、透明基材表面を基準としカーボンナノチューブのバンドルの透明基材表面から最も離れた表面までの透明基材表面からの距離(以降、カーボンナノチューブのバンドルの高さと記す場合もある)を測ることで測定される。本発明においては、透明基材上で観測される100本のカーボンナノチューブのバンドルの高さを求め、100本の平均をそのサンプルのカーボンナノチューブのバンドル径として定義する。本発明を用いることでバンドル径を1〜4nmにまで低減することができる。カーボンナノチューブのバンドル径を小さくすることで、基材上にカーボンナノチューブを塗布した場合に、カーボンナノチューブ塗布量が同じ場合でも、よりカーボンナノチューブの接点数を増やすことができ、ひいては透明導電複合体の透明導電性を向上させることができる。
【0030】
このようにして得られる本発明の透明導電複合体は、全光線透過率87.0%における表面抵抗値が500〜1000Ω/□であることが透明性と導電性が高く、好ましい。通常透明性と導電性はトレードオフの関係にあるが本発明の透明導電複合体はこれらを高いレベルで両立することができるものである。なお、全光線透過率87.0%における表面抵抗値は、全光線透過率が87.0%以上89.0%以下のサンプルと、84.0%以上87.0%未満のサンプルを、それぞれ1水準作成し、各々の表面抵抗値、全光線透過率を測定して得たデータから、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を内挿して算出する。このように、上記全光線透過率範囲のサンプル2点から内挿で求めるのは、上述の如く、通常透明性と導電性はトレードオフの関係にある(例えば導電層が厚くなれば透明性が低下し導電性は増加する)ところ、全光線透過率87.0%のサンプルを±0.1%の精度で得ることが困難であるからである。すなわち、コントロール可能な上記全光線透過率の範囲内で得たデータから内挿することにより、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を得るのである。
【0031】
本発明において好ましい態様を採用することで透明性と導電性とを両立した導電性フィルムを得ることが可能となる。この範囲にあることで、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどの透明導電膜付き基材として好ましく用いることができる。すなわち、1×10Ω/□以上であれば、前記の基材として透過率を高くかつ消費電力を少なくすることができ、1×10Ω/□以下であれば、抵抗膜式タッチパネルの位置検出に十分な電気信号を得ることができる。
【0032】
本発明の透明導電複合体は、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の透明電極として用いられる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
本実施例で用いた測定法を以下に示す。特に断らない限り、測定n数は1で行った。
【0034】
(i)全光線透過率87.0%における表面抵抗値
表面抵抗値の測定は、5cm×10cmにサンプリングした透明導電複合材の導電面の中央部を4端子法で測定した。用いた測定器はダイアインスツルメンツ(株)製の抵抗率計MCP−T360型、4探針プローブはダイアインスツルメンツ(株)製MCP−TPO3Pを用いた。
表面抵抗値の測定に供するサンプルは全光線透過率87.0%以上89.0%以下のサンプルと、84.0%以上87.0%未満のサンプルを、それぞれ1水準作成し、各々の表面抵抗値、全光線透過率を測定、全光線透過率87.0%での表面抵抗値を内挿して算出した。
【0035】
(ii)全光線透過率
JIS−K7361(1997年)に基づき、日本電色工業(株)製の濁度計NDH2000を用いて測定した。
【0036】
(iii)カーボンナノチューブ含有層のカーボンナノチューブのバンドル径
カーボンナノチューブ含有層を、AFM(島津製作所(株)製 SPM−9600)によって観察した。他のカーボンナノチューブと重なっていない(透明基材表面に直接横たわっている)カーボンナノチューブからランダムに100のカーボンナノチューブを選定し、透明基材表面を基準としカーボンナノチューブのバンドルの最も高い点の透明基材表面からの距離を測定、算術平均を採って平均高さを算出、この値をフィルム上でのカーボンナノチューブのバンドル径とした。
【0037】
(iv)ゼータ電位
カーボンナノチューブ分散液から、1mlサンプリングし、0.003質量%に希釈した。希釈液のゼータ電位を大塚電子(株)製ELS−Z2を用いて測定した。その際、水の屈折率、粘度をあらかじめ入力し、25℃設定で3回測定を行い、その平均値を求めた。
(触媒調製例)
クエン酸アンモニウム鉄(和光純薬工業社製)2.46gをメタノール(関東化学社製)500mLに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷化学工業社製 MJ−30)を100.0g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理し、懸濁液を減圧下、40℃で濃縮堅固した。得られた粉末を120℃で加熱乾燥してメタノールを除去し、酸化マグネシウム粉末に金属塩が担持された触媒体を得た。得られた固形分は篩い上で、乳鉢で細粒化しながら、20〜32メッシュ(0.5〜0.85mm)の範囲の粒径を回収した。得られた触媒体に含まれる鉄含有量は0.38wt%であった。またかさ密度は、0.61g/mLであった。前記の操作を繰り返し、以下の実験に供した。
(カーボンナノチューブ含有組成物製造例)
図1に示した装置を用いてカーボンナノチューブの合成を行った。反応器103は内径75mm、長さは1100mmの円筒形石英管である。中央部に石英焼結板102を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガス供給ラインである混合ガス導入管108、上部には廃ガス管106を具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器として3台の電気炉101を具備する。また反応管内の温度を検知するために熱電対105を具備する。
【0038】
触媒調製例で調製した固体触媒体132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入することで触媒層104を形成した。反応管内温度が約860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けてマスフローコントローラー107を用いて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにマスフローコントローラー107を用いてメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように通気し、反応させた。この際の固体触媒体の質量をメタンの流量で割った接触時間(W/F)は、169min・g/L、メタンを含むガスの線速が6.55cm/secであった。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却した。
【0039】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒体とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ含有組成物を取り出した。
【0040】
(カーボンナノチューブ集合体の精製および酸化処理)
カーボンナノチューブ含有組成物製造例で得られた触媒体とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ含有組成物118gを蒸発皿に移し変えて、設定温度446℃まであらかじめ加熱した電気炉に静置して3時間加熱酸化処理した。
【0041】
前記のようにして得たカーボンナノチューブ含有組成物を用いて4.8Nの塩酸水溶液中で1時間撹拌することで触媒金属である鉄とその担体であるMgOを溶解した。得られた黒色懸濁液は濾過した後、濾取物は再度4.8Nの塩酸水溶液に投入し脱MgO処理をし、濾取した。この操作を3回繰り返した(脱MgO処理)。最終的に得られたカーボンナノチューブ含有濾取物は120℃で加熱乾燥を一晩行い、カーボンナノチューブ含有組成物を0.374g得た。
【0042】
得られたカーボンナノチューブ含有組成物の乾燥質量分に対して、約300倍の質量の濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)を添加した。その後、約140℃のオイルバスで5時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ含有組成物を含む硝酸溶液をイオン交換水で3倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。このとき水を含んだウェット状態のカーボンナノチューブ組成物全体の質量は4.65gであった(カーボンナノチューブ含有組成物濃度:7.47wt%)。
(実施例1)
i)カーボンナノチューブ分散液の調製
カーボンナノチューブ含有組成物製造例で得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体を乾燥質量換算で15mgと、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム(株)社製、ダイセル1140)水溶液1.5gとを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。これに28%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を添加してpH10に調整した後、超音波ホモジナイザーを用い出力20W、1.5分間で氷冷下分散処理を行った。超音波ホモジナイザーを用いた分散処理中は液温が1〜20℃となるように温度制御した。得られた処理液を高速遠心分離機にて10000Gで、15分間遠心処理した後、イオン交換水を添加してカーボンナノチューブ集合体の濃度が0.02質量%となるように調製して、カーボンナノチューブ分散液を得た。この分散液のゼータ電位は−60mV、pHは7.1であった。
ii)透明基材の水接触角の調整
東レ(株)社製ルミラー(登録商標) U46に、図2に示す装置を用いてコロナ処理を行った。高電圧装置印加装置201として用いたDENSOK PRECISION INDUSTRY CORP. 製 タイプH ピンホールテスターで、グラウンドと電極202間に10 kVの直流電圧を発生させた。その上で電極202と透明基材(東レ(株)社製ルミラー(登録商標) U46)204間に透明基材と150μmの距離を隔てるように隔壁203を設け、約2cm/秒の早さでA方向に電極を移動させる操作を3回行った。コロナ処理フィルムの水接触角は53°であった。
iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価
コロナ処理をした面の上にバーコーターを用いてカーボンナノチューブ分散液を塗布した後、125℃の乾燥機内で溶媒を1分間蒸発させて除去し、カーボンナノチューブ含有層を形成した。得られた透明導電複合材の全光線透過率87.0%における表面抵抗値は6.0×10Ω/□であった。カーボンナノチューブ含有層におけるカーボンナノチューブのバンドル径は、3.3nmであった。
(実施例2)
i)カーボンナノチューブ分散液の調製
カーボンナノチューブ含有組成物製造例で得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体を乾燥質量換算で15mgと、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム(株)社製、ダイセル1140)水溶液1.5gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。これに濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)を添加してpH5.5に調整した後、超音波ホモジナイザーを用い出力20W、1.5分間で氷冷下分散処理を行った他は、実施例1と同様にしてカーボンナノチューブ分散液を調製した。この分散液のゼータ電位は−45mV、pHは6.0であった。
上記分散液を用いた以外は、ii)透明基材の水接触角の調整、および、iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価は実施例1と同様に行った。
得られた透明導電複合材の全光線透過率87.0%における表面抵抗値は1.0×103Ω/□であった。カーボンナノチューブ含有層におけるカーボンナノチューブのバンドル径は、4.0nmであった。
(実施例3)
i)カーボンナノチューブ分散液の調製
カーボンナノチューブ含有組成物製造例で得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体を乾燥質量換算で15mgと、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム(株)社製、ダイセル1140)水溶液1.5gとを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。これに28%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を添加してpH10に調整した後、超音波ホモジナイザーを用い出力20W、1.5分間で氷冷下分散処理を行った。超音波ホモジナイザーを用いた分散処理中は液温が1〜20℃となるように温度制御した。得られた処理液を高速遠心分離機にて10000Gで、15分間遠心処理した後、イオン交換水を添加してカーボンナノチューブ集合体の濃度が0.03質量%となるように調製した。この状態でpHは7.1であった。さらに28%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を添加し、pH9.4に調整して、カーボンナノチューブ分散液とした。
上記分散液を用いた以外は、ii)透明基材の水接触角の調整、および、iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価は実施例1と同様に行った。
この透明基材へのカーボンナノチューブ分散液塗布したところ、ムラ、はじきなく塗工することができた。得られた導電性フィルムの全光線透過率87.0%における表面抵抗値は8.0×10Ω/□であった。
(実施例4)
i)カーボンナノチューブ分散液の調製
実施例3と同様にカーボンナノチューブ分散液を調整した。
ii)透明基材の水接触角の調整
東レ(株)社製ルミラー(登録商標) U46に、図2に示す装置を用いてコロナ処理を行った。高電圧装置印加装置201として用いたDENSOK PRECISION INDUSTRY CORP. 製 タイプH ピンホールテスターで、グラウンドと電極202間に10 kVの直流電圧を発生させた。その上で電極202と透明基材(東レ(株)社製ルミラー(登録商標) U46)204間に透明基材と150μmの距離を隔てるように隔壁203を設け、約2cm/秒の早さでA方向に電極を移動させる操作を1回行った。コロナ処理フィルムの水接触角は55°であった。
iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価
コロナ処理をした面の上にバーコーターを用いてカーボンナノチューブ分散液を塗布したところ、ムラ、はじきなく塗工することができた
(実施例5)
i)カーボンナノチューブ分散液の調製
実施例3と同様にフィルム分散液を作成した。
ii)透明基材の水接触角の調整
東レ(株)社製ルミラー(登録商標) U46に、(株)魁半導体社製 プラズマ処理装置YHS−Rを用いて、60秒間 真空プラズマ処理を施した。プラズマ処理後のフィルムの水接触角は35°であった。
iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価
プラズマ処理をした面の上にバーコーターを用いてカーボンナノチューブ分散液を塗布したところ、ムラ、はじきなく塗工することができた。得られた透明導電複合材の全光線透過率87.0%における表面抵抗値は7.5×10Ω/□であった。
(比較例1)
カーボンナノチューブ含有組成物製造例で得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体を乾燥質量換算で15mgと、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム(株)社製、ダイセル1140)水溶液1.5gとを量りとり、イオン交換水を添加して10gにした。これに濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)を添加してpH4.0に調整した後、超音波ホモジナイザーを用い出力20W、1.5分間で氷冷下分散処理を行った他は、実施例1と同様にしてカーボンナノチューブ分散液を調製した。この分散液のゼータ電位はー20mV、pHは4.9であった。
上記分散液を用いた以外は、ii)透明基材の水接触角の調整、および、iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価は実施例1と同様に行った。
得られた透明導電複合材の全光線透過率87.0%における表面抵抗値は1.3×10Ω/□であった。カーボンナノチューブ含有層におけるカーボンナノチューブのバンドル径は、4.4nmであった。
(比較例2)
i)カーボンナノチューブ分散液の調製
カーボンナノチューブ含有組成物製造例で得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体を乾燥質量換算で15mgと、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム(株)社製、ダイセル1140)水溶液1.5gとを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。これに28%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を添加してpH10に調整した後、超音波ホモジナイザーを用い出力20W、1.5分間で氷冷下分散処理を行った。超音波ホモジナイザーを用いた分散処理中は液温が1〜20℃となるように温度制御した。得られた処理液を高速遠心分離機にて10000Gで、15分間遠心処理した後、イオン交換水を添加してカーボンナノチューブ集合体の濃度が0.03質量%となるように調製した。この状態でpHは7.1であった。さらに濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)を添加しpH5.5に調整して、透明基材へのカーボンナノチューブ分散液とした。
上記分散液を用いた以外は、ii)透明基材の水接触角の調整、および、iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価は実施例1と同様に行った。
得られた導電性フィルムの全光線透過率87.0%における表面抵抗値は1.1×10Ω/□であった。
(比較例3)
ii)透明基材の水接触角の調整においてコロナ処理を行わなかった以外は、i)カーボンナノチューブ分散液の調製および、iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価は比較例2と同様に行った。
コロナ処理を行わなかったので水接触角は62°であった。カーボンナノチューブ分散液を塗布して透明導電複合材の作成を試みたが、ハジキが発生し、均一な導電層を作成することができなかった。
(比較例4)
ii)透明基材の水接触角の調整においてコロナ処理を行わなかった以外は、i)カーボンナノチューブ分散液の調製および、iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価は実施例3と同様に行った。
コロナ処理を行わなかったので水接触角は62°であった。カーボンナノチューブ分散液を塗布して透明導電複合材の作成を試みたが、ハジキが発生し、均一な導電層を作成することができなかった。
(比較例5)
i)カーボンナノチューブ分散液の調製
カーボンナノチューブ含有組成物製造例で得られたウェット状態のカーボンナノチューブ集合体を乾燥質量換算で15mgと、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム(株)社製、ダイセル1140)水溶液1.5gとを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。これに28%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を添加してpH10に調整した後、超音波ホモジナイザーを用い出力20W、1.5分間で氷冷下分散処理を行った。超音波ホモジナイザーを用いた分散処理中は液温が1〜20℃となるように温度制御した。得られた処理液を高速遠心分離機にて10000Gで、15分間遠心処理した後、イオン交換水を添加してカーボンナノチューブ集合体の濃度が0.03質量%となるように調製した。この状態でpHは7.1であった。さらに濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)を添加し、pH5.8に調整して、カーボンナノチューブ分散液とした。
ii)透明基材の水接触角の調整
東レ(株)社製ルミラー U46に、実施例5と同様にして真空プラズマ処理を施した。プラズマ処理した面の水接触角は35°であった。
iii)カーボンナノチューブ含有層の形成および評価
このフィルム上にバーコーターを用いてカーボンナノチューブ分散液を塗布したところ、ムラ、はじきなく塗工することができた。得られた透明導電複合材の全光線透過率87.0%における表面抵抗値は1.2×10Ω/□であった。
以上の結果を表1にまとめる。なお、表の項目中、ガーボンナノチューブをCNTと略記している。
【0043】
【表1】

【0044】
以上実施例1〜5および比較例1〜5の分散液を塗布する面への塗れ性、カーボンナノチューブ分散液のpH、カーボンナノチューブ含有層におけるカーボンナノチューブのバンドル径(nm)、全光線透過率87.0%での表面抵抗値(Ω/□)をまとめている。実施例においては全光線透過率87.0%における表面抵抗値がいずれも1000Ω/□以下とタッチパネル用途にも適用することのできる透明導電性が得られた。
【符号の説明】
【0045】
101 電気炉
102 石英焼結板
103 反応器
104 触媒層
105 熱電対
106 廃ガス管
107 マスフローコントローラー
108 混合ガス導入管
201 高電圧印荷装置
202 電極
203 隔壁
204 透明基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、カーボンナノチューブを溶媒に分散した分散液を塗布後、該分散液中の溶媒を蒸発させて除去し、カーボンナノチューブ含有層を形成する透明導電複合材の製造方法であって、
分散液を塗布する面の水接触角を35〜55°となるよう調整した透明基材上に、以下の(A)および/または(B)の特性を満たす様に調整したカーボンナノチューブの濃度が0.02〜0.15質量%のカーボンナノチューブ分散液を塗布することを特徴とする透明導電複合材の製造方法。
(A)pHが6〜10
(B)カーボンナノチューブの濃度を0.003質量%に希釈した分散液のゼータ電位が−60mV〜−40mV
【請求項2】
硝酸および/またはアンモニアを添加することにより前記分散液の特性を(A)および/または(B)を満たす様に調整する請求項1に記載の透明導電複合材の製造方法。
【請求項3】
コロナ処理により前記透明基材の分散液を塗布する面の水接触角を調整する請求項1または2に記載の透明導電複合材の製造方法。
【請求項4】
プラズマ処理により前記透明基材の分散液を塗布する面の水接触角を調整する請求項1または2に記載の透明導電複合材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電複合材の製造方法で製造した全光線透過率87.0%における表面抵抗値が500〜1000Ω/□である透明導電複合材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電複合材の製造方法で製造した、前記カーボンナノチューブ含有層のカーボンナノチューブのバンドル径が1〜4nmである透明導電複合材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−160434(P2012−160434A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−287306(P2011−287306)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】