説明

透明帯電防止膜形成用塗料及び透明帯電防止膜並びに透明帯電防止膜の製造方法

【課題】従来のITO塗料以外では実現できなかった表面抵抗が1×10Ω/□程度と低く、量産性にも優れ、しかも従来のITO塗料と比べて安価な透明帯電防止膜形成用塗料及び透明帯電防止膜並びに透明帯電防止膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の透明帯電防止膜形成用塗料は、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子及びアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を含有し、このATO微粒子とATOHの重量比(WATO:WATOH)は1:10〜10:1であり、このATOHにおけるアンチモンとスズの重量比(WSb:WSn)は0.5:99.5〜20:80であり、ATOHのゾルの状態におけるイオン導電率は、このATOHの固形分1重量%あたり200μS/cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明帯電防止膜形成用塗料及び透明帯電防止膜並びに透明帯電防止膜の製造方法に関し、さらに詳しくは、透明性を必要とするガラス基板等のセラミックス基材の帯電防止や電磁波シールド用途として好適に用いられ、表面抵抗が1×10Ω/□程度と低く、量産性にも優れ、しかも従来のスズ含有酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)塗料と比べて安価な透明帯電防止膜形成用塗料及び透明帯電防止膜並びに透明帯電防止膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等のセラミックス基材に薄膜を形成する代表的な化学的成膜法としてゾルゲル法がある。
このゾルゲル法は、金属アルコキシドや金属塩を酸や塩基で加水分解・縮重合することによりゾルを作製し、このゾルを基材等に塗布・焼成して金属酸化物薄膜を得る方法であり、簡便に純度の高い金属酸化物を得ることができ、金属酸化物系の透明導電膜についても作製可能であるという利点があるため、学術上は有用な報告も多い。
【0003】
しかしながら、このゾルゲル法には、1回の塗布では薄い膜しか得ることができないために、機能を発現する膜厚を得るためには何度か繰り返し塗布する必要があり、製品歩留まりが低く、製造コストも高くなってしまう等の問題があり、工業上は採用し難い。特に導電膜の場合、ある程度の膜厚がないと導電性を発現することができないために、重ね塗りは必須であるが、製造工程を短縮するためにゾルの濃度を高濃度にして一度で厚い膜を得ようとすると、このゾルを乾燥してゲルとする際の収縮応力によりゲル化した塗膜にクラックが入ってしまい、所望の特性が得られない結果となる。このため、適用は限定的であり、いまだに蒸着、スパッタリング等の物理的成膜法が趨勢である。
【0004】
一方、近年における導電性金属酸化物の微粒子調製・分散技術の進歩に伴い、この導電性金属酸化物微粒子と有機溶媒とを含む塗料をガラス基板等のセラミックス基材に塗布して透明導電膜を得る方法が提案されている。
この方法では、一定の粒径を持つ微粒子を堆積させて膜を形成するため、膜厚という点ではゾルゲル法の欠点を解消することができるが、微粒子そのものが金属酸化物であるために基材との密着性がなく、単に導電性金属酸化物微粒子と有機溶媒とを含む塗料を塗布しても、乾燥工程で有機溶媒が散逸してしまうと金属酸化物微粒子が基材の上に乗っている状態に過ぎなくなる。そこで、このような金属酸化物微粒子を含む塗料にバインダーを添加することで、基材との密着をとることになる。
ガラス基板等のセラミックス基材の場合、バインダーとしてシリカゾルを用いることが多いが、シリカ自体が絶縁性であることから、導電性微粒子と組み合わせると導電性の面では不利に働いてしまい、本来導電性微粒子が有している導電性を大幅に低下させてしまっている。
【0005】
透明導電膜を構成する透明導電材については、金属酸化物系の導電材料が種々開発されている。大別すると酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化すずがベースとなり、導電性を上げるためにドーパントを添加したものが大半である。
その中でも、スズ含有酸化インジウム(ITO)は様々な分野で多用されているが、導電性、信頼性は良好であるが高価であること、資源的な供給不安があること等の問題が将来的にあり、また、酸化亜鉛は安価ではあるが酸塩基に対する化学的安定性に問題があり、用途が限定されてしまう。
それに対して、酸化スズは、導電性については酸化インジウムや酸化亜鉛に一歩譲るが、化学的にも安定であり、安価であるという特徴がある。
この酸化スズを用いた透明導電膜形成用塗料としては、例えば、水酸化スズ粉体またはP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも1種を含む水酸化スズ粉体を、酸性官能基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物を含む活性エネルギー線硬化性バインダー中に分散した透明導電膜形成用組成物が提案されている(特許文献1〜3)。
【0006】
また、表面抵抗が1×1010Ω/□前後の透明帯電防止膜を形成するための塗料としては、例えば、パイロクロア構造を有する五酸化アンチモン微粒子と、絶縁性無機酸化物微粒子と、塗膜形成用樹脂を含む塗料、導電材料に有機系界面活性剤を用いた塗料等が提案されている(特許文献4、5)。
また、表面抵抗が1×10Ω/□〜1×10Ω/□の透明帯電防止膜を形成するための塗料としては、アンチモン含有酸化スズ(ATO)を主成分とした塗料が用いられている(例えば、特許文献6、7等参照)。
また、表面抵抗が1×10Ω/□以下の透明帯電防止膜を形成するための塗料としては、もっぱらスズ含有酸化インジウム(ITO)を主成分とした塗料が用いられている(例えば、特許文献8等参照)。
【特許文献1】特開2007−19000号公報
【特許文献2】特開2007−19001号公報
【特許文献3】特開2007−19002号公報
【特許文献4】特開2001−72929号公報
【特許文献5】特開平7−118571号公報
【特許文献6】特開平5−135713号公報
【特許文献7】特開平7−196985号公報
【特許文献8】特開平9−76401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、液晶表示装置の開発が激化しており、その特性改善の一つとして高視野化の開発が盛んに行われており、高視野化の実現のために横電界モードと呼ばれる液晶駆動方式を採用する傾向にある。しかしながら、この横電界モードでは、液晶モジュールの片面のガラス基板には導電膜がない構造となるために、静電気の電荷により液晶の誤作動が生じたり、溜まった電荷により液晶が駆動しない表示不良と等のトラブルが生じている。
【0008】
液晶表示装置の中でもいわゆる中小型(10インチ以下)のものについては、従来からある表面抵抗が1×10Ω/□の透明導電膜で対応可能であるが、大画面のものについてはより低い抵抗値が必要とされ、表面抵抗が1×10Ω/□程度の透明導電膜が望まれているが、従来のアンチモン含有酸化スズ(ATO)を主成分とした塗料では、表面抵抗を1×10Ω/□程度にすることができない。
また、スズ含有酸化インジウム(ITO)を主成分とした塗料では、表面抵抗が1×10Ω/□〜1×10Ω/□と低くなってしまい、帯電防止というよりも電磁波遮蔽になってしまうという問題点、及び製造コストも高くなってしまうという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、従来のゾルゲル法、微粒子を用いる方法の双方の問題点を解決すると共に、従来のスズ含有酸化インジウム(ITO)塗料以外では実現できなかった表面抵抗が1×10Ω/□程度と低く、量産性にも優れ、しかも従来のスズ含有酸化インジウム(ITO)塗料と比べて安価な透明帯電防止膜形成用塗料及び透明帯電防止膜並びに透明帯電防止膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子及びアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を含有してなる透明帯電防止膜形成用塗料を透明基材上に塗布し、得られた塗膜を酸化雰囲気中、250℃以上の温度にて熱処理すれば、従来のゾルゲル法、微粒子を用いる方法の双方の問題点を解決することができるとともに、表面抵抗が1×10Ω/□程度となり、量産性にも優れており、さらに、従来のスズ含有酸化インジウム(ITO)塗料と比べて安価であり、製造コストの低減が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の透明帯電防止膜形成用塗料は、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子及びアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を含有してなることを特徴とする。
【0012】
前記アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子と前記アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の重量比(WATO:WATOH)は、1:10〜10:1であることが好ましい。
前記アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)におけるアンチモンとスズの重量比(WSb:WSn)は、0.5:99.5〜20:80であることが好ましい。
前記アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)のゾルの状態におけるイオン導電率は、このアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の固形分1重量%あたり200μS/cm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の透明帯電防止膜は、本発明の透明帯電防止膜形成用塗料からなる塗膜を、酸化雰囲気中、250℃以上の温度にて熱処理してなることを特徴とする。
【0014】
本発明の透明帯電防止膜の製造方法は、透明基材上に本発明の透明帯電防止膜形成用塗料を塗布し、得られた塗膜を酸化雰囲気中、250℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の透明帯電防止膜形成用塗料によれば、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子及びアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を含有したので、アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)がバインダーとしての機能を有するとともに、このアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)が熱処理によりアンチモン含有酸化スズ(ATO)に変化して導電材となることにより、表面抵抗が1×10Ω/□程度の透明帯電防止膜を実現することができる。
したがって、量産性に優れ、従来のスズ含有酸化インジウム(ITO)と比べて安価であり、その結果、製造コストを低減することができる透明帯電防止膜を提供することができる。
【0016】
本発明の透明帯電防止膜によれば、本発明の透明帯電防止膜形成用塗料からなる塗膜を、酸化雰囲気中、250℃以上の温度にて熱処理してなることとしたので、表面抵抗が1×10Ω/□程度であり、量産性に優れ、従来のスズ含有酸化インジウム(ITO)の透明導電膜と比べて安価である透明帯電防止膜を容易に提供することができる。
【0017】
本発明の透明帯電防止膜の製造方法によれば、透明基材上に本発明の透明帯電防止膜形成用塗料を塗布し、得られた塗膜を酸化雰囲気中、250℃以上の温度にて熱処理するので、表面抵抗が1×10Ω/□程度であり、量産性に優れ、従来のスズ含有酸化インジウム(ITO)の透明導電膜と比べて安価である透明帯電防止膜を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の透明帯電防止膜形成用塗料及び透明帯電防止膜並びに透明帯電防止膜の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
本発明の透明帯電防止膜形成用塗料は、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子及びアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を含有してなるゾル状態の塗料である。
このアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の平均粒子径は、150nm以下が好ましく、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
ここで、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の平均粒子径を150nm以下と限定した理由は、平均粒子径が150nmを超えると、ヘーズ感のない塗膜として透明性を確保することができなくなるからである。
【0020】
このアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子とアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の重量比(WATO:WATOH)は、1:10〜10:1であることが好ましく、より好ましくは2.5:7.5〜7.5:2.5、さらに好ましくは4:6〜6:4である。
【0021】
ここで、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の重量比が上記の範囲(1:10〜10:1)より多くなると、アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)が少なくなってしまうためにアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子間を繋ぐバインダーとしての機能を十分発現することができなくなってしまい、その結果、塗膜はアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の堆積に過ぎず、抵抗値もさることながら基材との密着性も確保できなくなってしまうからである。一方、アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の重量比が上記の範囲(1:10〜10:1)より多くなると、この塗料が従来のゾルゲル法の塗料に近い塗料となってしまい、所望の表面抵抗を発現する膜厚まで一度の塗布で到達することができず、その結果、所望の表面抵抗が得られなくなるからである。
【0022】
このアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)におけるアンチモンとスズの重量比(WSb:WSn)は、0.5:99.5〜20:80であることが好ましく、より好ましくは1:99〜15:85、さらに好ましくは5:95〜12.5:87.5である。
ここで、アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)におけるアンチモンとスズの重量比(WSb:WSn)が上記範囲(0.5:99.5〜20:80)を外れると、均一なゾルの状態にならず、したがって、不均一な沈降物が生じてしまい、良質な塗膜が得られないからである。
【0023】
アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)のゾル状態におけるイオン導電率は、このアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の固形分1重量%あたり200μS/cm以下であることが好ましい。
このアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)のゾル状態におけるイオン導電率が200μS/cmを超えると、均一なアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)ゾルが得られないからである。
【0024】
この透明帯電防止膜を製造するには、透明基材上に、上記の透明帯電防止膜形成用塗料を塗布し、得られた塗膜を酸化雰囲気中、250℃以上の温度にて熱処理する。
透明基材としては、例えばガラス基板等のセラミックス基材が好適に用いられる。
また、塗布法としては、特に制限されることなく、例えば、グラビアコート法等のロールコート法、スピンコート法、デイップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビードコーター法等の各種塗布方法が用いられる。
【0025】
熱処理の雰囲気としては、アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を十分に分解してアンチモン含有酸化スズ(ATO)に変化させ、かつアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子同士を融着させることのできる酸化雰囲気であればよく、大気中が好適である。
【0026】
熱処理の温度については、温度が高いほどアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の分解や粒子間の融着に有利に働くため、透明基材の耐熱温度の上限温度以下であればよい。例えば、ガラス基板の場合、熱処理温度の上限は、ガラスの種類にも依るが概ね500℃程度となる。また、熱処理温度の下限は250℃である。その理由は、250℃未満では、アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の分解や粒子間の融着が十分に行われず、その結果、基材との密着性が取れず、成膜性が低下し、最悪の場合、膜が形成されなくなってしまうからである。
このようにして、本発明の透明帯電防止膜を得ることができる。
【0027】
ここで、本発明に至った経緯について説明する。
まず、従来のゾルゲル法、微粒子を用いる方法のそれぞれの欠点を克服する検討を行った。
微粒子を用いる方法では、用いられるバインダーのシリカゾルを導電材料の前駆体となる加水分解ゾルや塩に置き換える検討を行った。
最初、シリカバインダーをアンチモン含有酸化スズ(ATO)の原料塩に置き換えるために、塩化すず、塩化アンチモンの混合物をシリカバインダーの代替とし、塗料の作製を試みた。
【0028】
しかしながら、結果は、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の分散に悪影響を及ぼして、最終的には凝集を引き起こしてしまい、塗料の形態さえ取れない結果となった。その理由は、塩のイオン成分が電荷で分散しているアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子に影響を及ぼし、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の分散を壊してしまったからである。このアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子は、中性〜塩基性領域では非常に安定であるが、酸性領域では等電点があるために分散不良となる。例えば、塩化すず溶液は酸性であるから、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の分散性を阻害してしまうことになる。
【0029】
そこで、アンチモン含有酸化スズ(ATO)の塩を、アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液を用いて水酸化物にしたものを作製した。
しかし、この水酸化物は、均一なシリカゾルと異なって白色沈降しており、そのままでの使用は難しい。試しに、この水酸化物をアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の分散液に添加してみたが、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子は凝集し、水酸化物も均一には混合できなかった。
【0030】
そこで、この水酸化物から半透膜を用いてイオン成分を除去し、アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を調製した。
イオン成分を除去したアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)は、ゾルの状態となり、外観は透明均一なオレンジ色の液になった。
この液をアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子の分散液に添加したところ、分散は良好であり、基材への塗布状態も良好であった。
また、得られた塗膜を250℃以上の温度で熱処理したところ、表面抵抗が1×10Ω/□程度となり、ゾルゲル法、微粒子を用いる方法よりも良好な結果となった。
【実施例】
【0031】
本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例及び比較例共通のアンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子分散液として、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子水分散液 (25重量%:住友大阪セメント製)を用いた。
【0033】
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
「アンチモン−スズ複合水酸化物ゾルの調製」
塩化スズ5水和物(SnCl・5HO:関東化学(株)社製)と3塩化アンチモン(SbCl:関東化学(株)社製)とを、表1のモル比で混合し、次いでイオン交換水に溶解させ、濃度が0.25mmolになるように調製した。その後、29%アンモニア水をpHが8.0付近になるまで滴下し、30分攪拌した。
【0034】
次いで、得られた粗生成物を、中空糸限外濾過モジュール ACP−1050((株)旭化成ケミカルズ社製)を使用し、洗浄後の混合ゾルのイオン導電率が固形分1%当たり200μS/cmとなるまで洗浄し、最終的には固形分が10%となるように、そのまま中空糸限外濾過モジュールを用いて濃縮を行い、実施例1〜3及び比較例1〜3各々のアンチモン−スズ複合水酸化物ゾルを調製した。
次いで、これらのアンチモン−スズ複合水酸化物ゾル各々のイオン導電率を、導電率計 DS−51(堀場製作所社製)を使用して測定した。
測定結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例4〜8及び比較例4、5)
「透明帯電防止膜形成用塗料の調製」
アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子水分散液とアンチモン−スズ複合水酸化物ゾルとを、全固形分を5重量%として表2の組成比となるように混合し、さらに、レベリング剤 BYK345(ビックケミー社製)0.1%、残分として純水を混合し、実施例4〜8及び比較例4、5各々の透明帯電防止膜形成用塗料を調製した。
【0037】
次いで、実施例4〜8及び比較例4、5各々の透明帯電防止膜形成用塗料を厚さ5mmのガラス基板上に500rpmで30秒スピンコートを行い、得られた塗膜を大気雰囲気中、250℃にて1時間熱処理し、実施例4〜8及び比較例4、5各々の透明帯電防止膜を得た。
次いで、これらの透明帯電防止膜の全光線透過率、ヘーズ及び表面抵抗を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
A.全光線透過率及びヘーズ
「Automatic Haze Meter HIIIDP」(東京電色社製)を用いて測定した。
B.表面抵抗
「ハイレスタUP」(ダイヤインスツルメンツ社製)を用いて2端子法により測定した。
測定結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
(実施例9〜11及び比較例6)
「透明帯電防止膜の形成」
実施例6の透明帯電防止膜形成用塗料を用いて、厚さ5mmのガラス基板上に500rpmで30秒スピンコートを行い、得られた塗膜を80℃にて2分間乾燥した後、表3に示す熱処理温度にて大気雰囲気中、1時間熱処理し、実施例9〜11及び比較例6各々の透明帯電防止膜を得た。
次いで、これらの透明帯電防止膜の全光線透過率、ヘーズ及び表面抵抗を実施例4〜8及び比較例4、5に準じて測定した。
また、これらの透明帯電防止膜の密着性を、日本工業規格JIS K 5600−5−6「クロスカット法」に従って試験した。
これらの結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
(比較例7)
「透明帯電防止膜形成用塗料の調製」
アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子水分散液とシリカゾル スノーテックスS(日産化学社製)とを、全固形分を5重量%としてATO:SiO=5:5となるように混合し、さらに、レベリング剤 BYK345(ビックケミー社製)0.1%、残分として純水を混合し、比較例7の透明帯電防止膜形成用塗料を調製した。
【0042】
次いで、この透明帯電防止膜形成用塗料を厚さ5mmのガラス基板上に500rpmで30秒スピンコートを行い、得られた塗膜を大気雰囲気中、250℃にて1時間熱処理し、比較例7の透明帯電防止膜を得た。
次いで、この透明帯電防止膜の全光線透過率、ヘーズ及び表面抵抗を実施例6に準じて測定し、実施例6の透明帯電防止膜と比較した。
また、これらの透明帯電防止膜の密着性を、日本工業規格JIS K 5600−5−6「クロスカット法」に従って試験した。
これらの結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の透明帯電防止膜形成用塗料は、アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子及びアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を含有したことにより、表面抵抗が1×10Ω/□程度と低く、量産性にも優れ、しかも従来のスズ含有酸化インジウム(ITO)塗料と比べて安価なものであるから、液晶ディスプレイ(LCD)はもちろんのこと、その他の表示装置等へも適用可能であり、その工業的価値は極めて大きなものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子及びアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)を含有してなることを特徴とする透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項2】
前記アンチモン含有酸化スズ(ATO)微粒子と前記アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の重量比(WATO:WATOH)は、1:10〜10:1であることを特徴とする請求項1記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項3】
前記アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)におけるアンチモンとスズの重量比(WSb:WSn)は、0.5:99.5〜20:80であることを特徴とする請求項1または2記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項4】
前記アンチモン含有水酸化スズ(ATOH)のゾルの状態におけるイオン導電率は、このアンチモン含有水酸化スズ(ATOH)の固形分1重量%あたり200μS/cm以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載の透明帯電防止膜形成用塗料。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の透明帯電防止膜形成用塗料からなる塗膜を、酸化雰囲気中、250℃以上の温度にて熱処理してなることを特徴とする透明帯電防止膜。
【請求項6】
透明基材上に請求項1ないし4のいずれか1項記載の透明帯電防止膜形成用塗料を塗布し、得られた塗膜を酸化雰囲気中、250℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする透明帯電防止膜の製造方法。

【公開番号】特開2008−201879(P2008−201879A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38407(P2007−38407)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】