説明

透明電極及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】透明性、導電性、膜強度に優れると共に、高温、高湿度環境下においても透明性、導電性、膜強度の劣化が少ない透明電極、及び、該透明電極を用いた、発光均一性に優れ、高温、高湿度環境下においても発光均一性の劣化が少なく、発光寿命に優れる有機EL素子を提供することにある。
【解決手段】基板上に、導電性ポリマー及び水系溶剤に分散可能なポリマーを含有する透明電極において、前記ポリマーが解離性基含有自己分散型ポリマーであり、かつガラス転移温度が、25℃以上80℃以下であることを特徴とする透明電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、太陽電池、電磁波シールド、電子ペーパー、タッチパネル等の各種分野において好適に用いることができる透明電極、さらに該透明電極を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(以後、有機EL素子ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型TV需要の高まりに伴い、液晶・プラズマ・有機エレクトロルミネッセンス・フィールドエミッション等、各種方式のディスプレイ技術が開発されている。これら表示方式の異なる何れのディスプレイにおいても、透明電極は必須の構成技術となっている。また、テレビ以外でも、タッチパネルや携帯電話、電子ペーパー、各種太陽電池、各種エレクトロルミネッセンス調光素子においても、透明電極は欠くことのできない技術要素となっている。
【0003】
従来透明電極は、ガラスや透明なプラスチックフィルム等の透明基材上に、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)膜を真空蒸着法やスパッタリング法で製膜したITO透明電極が主に使用されてきた。しかし、ITOに用いられているインジウムはレアメタルであり、かつ価格の高騰により、脱インジウムが望まれている。また、ディスプレイの大画面化、生産性向上に伴い、フレキシブル基板を用いたロール to ロールの生産技術が所望されている。
【0004】
近年、このような大面積かつ低抵抗値が要求される製品にも対応できるよう、パターン状に形成された金属細線に導電性ポリマー等の透明電極を積層し、電流の面均一性と高い導電性を併せ持つ透明導電フィルムが開発されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかしながら、このような構成では、有機電子デバイスのリークの原因となる金属細線の凹凸を、導電性ポリマー等の透明電極でなだらかにする必要があり、導電性ポリマーの厚膜化が必須となる。しかし、導電性ポリマーは可視光領域に吸収を有するため、厚膜化すると、透明電極の透明性が著しく低下してしまうという課題を有していた。導電性と透明性を両立する方法として、細線構造部上へ導電性ポリマーを積層する技術(例えば、特許文献3参照)、導電性繊維上に導電性ポリマーと水溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂を用いる技術(例えば、特許文献4参照)、導電性層上へ導電性ポリマーとバインダーを積層する技術が開示されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、これらの技術においても十分なシート抵抗と透過率が得られず、両物性を両立するのは困難という課題を有していた。また、特許文献5では架橋反応を十分に進行させるために、高い乾燥温度、長い乾燥時間が必要になり、工程負荷が大きくなるばかりか、架橋未反応物、あるいは架橋反応由来の脱離物が保存時に透明電極、有機EL素子に悪影響を及ぼし、所望の保存性能が得られないという課題を有していた。更に透明電極を構成する材料にガラス転移温度が低いポリマーを使用すると、透明電極の表面平滑性が得られないばかりか、透明電極、有機EL素子の環境試験後の性能を悪化させるという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−302508号公報
【特許文献2】特開2009−87843号公報
【特許文献3】特開2009−4348号公報
【特許文献4】特開2010−244746号公報
【特許文献5】特開2011−96437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、透明性、導電性、膜強度に優れると共に、高温、高湿度環境下においても透明性、導電性、膜強度の劣化が少ない透明電極、及び、該透明電極を用いた、発光均一性に優れ、高温、高湿度環境下においても発光均一性の劣化が少なく、発光寿命に優れる有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0008】
1.基板上に、導電性ポリマー及び水系溶剤に分散可能なポリマーを含有する透明電極において、前記ポリマーが解離性基含有自己分散型ポリマーであり、かつガラス転移温度が、25℃以上80℃以下であることを特徴とする透明電極。
【0009】
2.前記解離性基含有自己分散型ポリマーのガラス転移温度が、50℃以上70℃以下であることを特徴とする前記1に記載の透明電極。
【0010】
3.基板上にパターン状に形成された銀含有導電性層を有することを特徴とする前記1または2に記載の透明電極。
【0011】
4.前記1〜3のいずれか1項に記載の透明電極を具備することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、透明性、導電性、膜強度に優れると共に、高温、高湿度環境下においても透明性、導電性、膜強度の劣化が少ない透明電極、及び、該透明電極を用いた、発光均一性に優れ、高温、高湿度環境下においても発光均一性の劣化が少なく、発光寿命に優れる有機EL素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の透明電極の一例を図解した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来、透明電極を形成する塗布液としては、導電性と透過率を両立させるために3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンポリスルホネート(PEDOT/PSS)等の水分散性導電性ポリマーとバインダー樹脂を含有する組成物が開発されてきた。
【0015】
ここにおいて、バインダー樹脂としては、水分散性導電性ポリマーとの相溶性の観点から、親水性のバインダー樹脂が検討されてきた。しかし、透明基板としてフレキシブル性の要求が高まり、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムを使用すると、フィルム変形を避ける観点から、乾燥温度がガラス基板よりも低温となる。また、PEDOT/PSSと相溶することが知られている水酸基含有バインダー樹脂は、酸性条件下で水酸基が脱水反応を起こしポリマー鎖間で架橋するが、低温での乾燥では架橋不良が起こり、その結果、保存中に架橋反応が進行し水が発生するばかりか、膜中残存水の影響で透明電極及び透明電極を用いた素子性能を著しく劣化させていた。この問題を解決するために、バインダーの主骨格と水との相互作用を低減し、さらにバインダー樹脂中の水酸基数を低減、あるいは排除する必要があった。また、界面活性剤を使用し疎水性のポリマーを水系溶剤に均一に分散させた分散液を使用すると、透明電極及び透明電極を用いた素子性能に悪影響があった。
【0016】
本発明者らは、これらの現象を改良すべく鋭意検討した結果、バインダー樹脂として、ガラス転移温度が25℃以上80℃以下で、水系溶剤に分散可能な解離性基を含有する自己分散型ポリマー(解離性基含有自己分散型ポリマー)を用いる本発明の構成に至った。
【0017】
即ち、本発明の課題が、導電性ポリマーと混合するバインダー樹脂として、ガラス転移温度が25℃以上80℃以下で、水系溶剤に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有させることにより達成できることが判明し、本発明に至った。
【0018】
本発明はバインダー樹脂として、ガラス転移温度が25℃以上80℃以下で、水系溶剤に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを用いることによって、透明電極の透明性と導電性を両立し、かつ膜強度に優れ、さらに高温、高湿度環境下における環境試験後でも高い導電性と透明性及び良好な膜強度を併せ持ち、バインダー樹脂由来の水の発生を抑制することで、安定性の優れた透明電極及び該透明電極を用いた高寿命の有機EL素子が得られることを見出したものである。
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
図1は本発明の透明電極の一例を図解した概略図である。
【0021】
図1において、1はパターン状に形成された金属材料からなる第1導電層、2は導電性ポリマー及び水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する第2導電層、3は基材を示す。本発明の特徴は、第2導電層に水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有することである。
【0022】
〔解離性基含有自己分散型ポリマー〕
本発明は、透明な基材上に導電性ポリマー及びバインダー樹脂を有する透明導電層を有する透明電極において、該バインダー樹脂が、ガラス転移温度が25℃以上80℃以下で、水系溶剤に分散可能なポリマーで、これらが解離性基含有自己分散型ポリマーであることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーとは、ミセル形成を補助する界面活性剤や乳化剤等を含まず、ポリマー単体で水系溶媒に分散可能なものであり、本発明において、「水系溶媒に分散可能」とは、水系溶剤中に凝集せずにバインダー樹脂からなるコロイド粒子が分散している状況であることをいう。コロイド粒子の大きさは一般的に0.001〜1μm(1〜1000nm)程度である。粒子の大きさとしては3〜500nmが好ましく、より好ましくは5〜300nmで、さらに好ましくは10〜100nmである。上記のコロイド粒子については、光散乱光度計により測定することができる。
【0024】
また、上記水系溶剤としては、純水(蒸留水、脱イオン水を含む)のみならず、酸、アルカリ、塩等を含む水溶液、含水の有機溶媒、さらには親水性の有機溶媒であることを意味し、純水(蒸留水、脱イオン水を含む)、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、水とアルコールの混合溶媒等が挙げられる。
【0025】
本発明に係る解離性基含有自己分散型ポリマーは透明であることが好ましい。
【0026】
解離性基含有自己分散型ポリマーとしては、フィルムを形成する媒体であれば、特に限定はない。また、透明電極表面へのブリードアウト、有機EL素子を積層した場合の素子性能に問題がなければ特に限定はないが、ポリマー分散液中に界面活性剤(乳化剤)や造膜温度をコントロールする可塑剤等は含まないことが好ましい。
【0027】
透明電極の製造に用いる解離性基含有自己分散型ポリマーの分散液のpHは、別途相溶させる導電性ポリマー溶液と分離しない範囲であることが望ましく、0.1〜11.0が好ましく、より好ましくは3.0〜9.0で、さらに好ましくは4.0〜7.0である。
【0028】
本発明に係る解離性基含有自己分散型ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、25℃以上80℃以下である。好ましくは30〜75℃で、より好ましくは50〜70℃である。25℃未満では透明電極の表面平滑性が得られないばかりか、透明電極、有機EL素子の環境試験後の性能を悪化させる。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度10℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めることができる。
【0029】
解離性基含有自己分散型ポリマーに使用される解離性基としては、アニオン性基(スルホン酸、及びその塩、カルボン酸及びその塩、リン酸及びその塩等)、カチオン性基(アンモニウム塩等)等が挙げられる。特に限定はないが、導電性高分子溶液との相溶性の観点から、アニオン性基が好ましい。解離性基の量は、自己分散型ポリマーが水系溶媒に分散可能であれば良く、可能な限り少ない方が工程適性的に乾燥負荷が低減されるため好ましい。また、アニオン性基、カチオン性基に使用されるカウンター種に特に限定はないが、透明電極、有機EL素子を積層した場合の性能の観点から、疎水性で少量が好ましい。
【0030】
解離性基含有自己分散型ポリマーの主骨格としては、ポリエチレン、ポリエチレン−ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン−ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン−ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリブタジエン−ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリアクリレート−ポリエステル、ポリアクリレート−ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン−ポリカーボネート、ポリウレタン−ポリエーテル、ポリウレタン−ポリエステル、ポリウレタン−ポリアクリレート、シリコーン、シリコーン−ポリウレタン、シリコーン−ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン−ポリアクリレート、ポリフルオロオレフィン−ポリビニルエーテル等が挙げられる。また、これらの骨格をベースに、さらに他のモノマーを使用した共重合でもよい。これらの中でエステル骨格を有するポリエステル樹脂エマルジョン、ポリエステル−アクリル樹脂エマルジョン、エチレン骨格を有するポリエチレン樹脂エマルジョンが好ましい。
【0031】
市販品としては、ポリゾールFP3000(ポリエステル樹脂、アニオン、コア:アクリル、シェル:ポリエステル、昭和電工社製)、バイロナールMD1245(ポリエステル樹脂、アニオン、東洋紡社製)、バイロナールMD1500(ポリエステル樹脂、アニオン、東洋紡社製)、バイロナールMD2000(ポリエステル樹脂、アニオン、東洋紡社製)、プラスコートRZ105(ポリエステル樹脂、アニオン、互応化学社製)、プラスコートRZ570(ポリエステル樹脂、アニオン、互応化学社製)を用いることができる。上記水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマー分散液は1種でも複数種でも使用することができる。
【0032】
解離性基含有自己分散型ポリマーの使用量は、導電性高分子に対して50〜1000質量%が好ましく、より好ましくは100〜900質量%で、さらに好ましくは200〜800質量%である。
【0033】
〈導電性ポリマー〉
本発明において、「導電性」とは、電気が流れる状態を指し、JIS K 7194の「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠した方法で測定したシート抵抗が1×10Ω/□より低いことをいう。
【0034】
本発明に係る導電性ポリマーは、π共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを有してなる導電性ポリマーである。こうした導電性ポリマーは、後述するπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを、適切な酸化剤と酸化触媒と後述のポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合することによって容易に製造できる。
【0035】
(π共役系導電性高分子)
本発明に用いるπ共役系導電性高分子としては、特に限定されず、ポリチオフェン(基本のポリチオフェンを含む、以下同様)類、ポリピロール類、ポリインドール類、ポリカルバゾール類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリフラン類、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリアズレン類、ポリパラフェニレン類、ポリパラフェニレンサルファイド類、ポリイソチアナフテン類、ポリチアジル類、の鎖状導電性ポリマーを利用することができる。中でも、導電性、透明性、安定性等の観点からポリチオフェン類やポリアニリン類が好ましく、ポリエチレンジオキシチオフェンが最も好ましい。
【0036】
(π共役系導電性高分子前駆体モノマー)
π共役系導電性高分子の形成に用いられる前駆体モノマーは、分子内にπ共役系を有し、適切な酸化剤の作用によって高分子化した際にもその主鎖にπ共役系が形成されるものである。例えば、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0037】
前駆体モノマーの具体例としては、ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、アニリン、2−メチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0038】
(ポリ陰イオン)
本発明に係る導電性ポリマーに用いられるポリ陰イオンは、置換もしくは未置換のポリアルキレン、置換もしくは未置換のポリアルケニレン、置換もしくは未置換のポリイミド、置換もしくは未置換のポリアミド、置換もしくは未置換のポリエステル及びこれらの共重合体であって、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるものである。
【0039】
このポリ陰イオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させる可溶化高分子である。また、ポリ陰イオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
【0040】
ポリ陰イオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシ基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシ基がより好ましい。
【0041】
ポリ陰イオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
【0042】
また、化合物内にさらにF(フッ素原子)を有するポリ陰イオンであってもよい。具体的には、パーフルオロスルホン酸基を含有するナフィオン(Dupont社製)、カルボン酸基を含有するパーフルオロ型ビニルエーテルからなるフレミオン(旭硝子社製)等を挙げることができる。
【0043】
これらのうち、スルホン酸を有する化合物であると、導電性ポリマー含有層を塗布、乾燥することによって形成した後に、マイクロ波を照射する前に100〜120℃で5分以上の加熱乾燥処理を施してもよい。これにより架橋反応が促進するため、塗布膜の洗浄耐性や溶媒耐性が著しく向上することから、好ましい。
【0044】
さらに、これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましい。これらのポリ陰イオンは、ヒドロキシ基含有非導電性ポリマーとの相溶性が高く、また、得られる導電性ポリマーの導電性をより高くできる。
【0045】
ポリ陰イオンの重合度は、モノマー単位が10〜100000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10000個の範囲がより好ましい。
【0046】
ポリ陰イオンの製造方法としては、例えば、酸を用いてアニオン基を有しないポリマーにアニオン基を直接導入する方法、アニオン基を有しないポリマーをスルホ化剤によりスルホン酸化する方法、アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法が挙げられる。
【0047】
アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法は、溶媒中、アニオン基含有重合性モノマーを、酸化剤及び/または重合触媒の存在下で、酸化重合またはラジカル重合によって製造する方法が挙げられる。具体的には、所定量のアニオン基含有重合性モノマーを溶媒に溶解させ、これを一定温度に保ち、それに予め溶媒に所定量の酸化剤及び/または重合触媒を溶解した溶液を添加し、所定時間で反応させる。その反応により得られたポリマーは溶媒によって一定の濃度に調整される。この製造方法において、アニオン基含有重合性モノマーにアニオン基を有さない重合性モノマーを共重合させてもよい。
【0048】
アニオン基含有重合性モノマーの重合に際して使用する酸化剤及び酸化触媒、溶媒は、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを重合する際に使用するものと同様である。
【0049】
得られたポリマーがポリ陰イオン塩である場合には、ポリ陰イオン酸に変質させることが好ましい。ポリ陰イオン酸に変質させる方法としては、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法、透析法、限外ろ過法等が挙げられ、これらの中でも、作業が容易な点から限外ろ過法が好ましい。
【0050】
導電性ポリマーに含まれるπ共役系導電性高分子とポリ陰イオンの比率、「π共役系導電性高分子」:「ポリ陰イオン」は質量比で1:1〜20が好ましい。導電性、分散性の観点からより好ましくは1:2〜10の範囲である。
【0051】
π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーをポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合して、本発明に係る導電性ポリマーを得る際に使用される酸化剤は、例えばJ.Am.Soc.,85、454(1963)に記載されるピロールの酸化重合に適する、いずれかの酸化剤である。実際的な理由のために、安価でかつ取扱い易い酸化剤、例えば鉄(III)塩、例えばFeCl、Fe(ClO、有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩、または過酸化水素、重クロム酸カリウム、過硫酸アルカリ(例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム)またはアンモニウム、過ホウ酸アルカリ、過マンガン酸カリウム及び銅塩例えば四フッ化ホウ酸銅を用いることが好ましい。加えて、酸化剤として随時触媒量の金属イオン例えば鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン及びバナジウムイオンの存在下における空気及び酸素も使用することができる。過硫酸塩並びに有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩の使用が腐食性でないために大きな応用上の利点を有する。
【0052】
有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩の例としては、炭素数1〜20のアルカノールの硫酸半エステルの鉄(III)塩、例えばラウリル硫酸;炭素数1〜20のアルキルスルホン酸、例えばメタンまたはドデカンスルホン酸;脂肪族炭素数1〜20のカルボン酸、例えば2−エチルヘキシルカルボン酸;脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸及びパーフルオロオクタノン酸;脂肪族ジカルボン酸、例えばシュウ酸並びに殊に芳香族の、随時炭素数1〜20のアルキル置換されたスルホン酸、例えばベンゼセンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸のFe(III)塩が挙げられる。
【0053】
こうした導電性ポリマーは、市販の材料も好ましく利用できる。例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー(PEDOT−PSSと略す)が、H.C.Starck社からCleviosシリーズとして、Aldrich社からPEDOT−PSSの483095、560596として、Nagase Chemtex社からDenatronシリーズとして市販されている。また、ポリアニリンが、日産化学社からORMECONシリーズとして市販されている。本発明において、こうした剤も好ましく用いることができる。
【0054】
第2ドーパントとして有機化合物を含有してもよい。本発明で用いることができる有機化合物には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、酸素含有化合物が好適に挙げられる。前記酸素含有化合物としては、酸素を含有する限り特に制限はなく、例えば、ヒドロキシ基含有化合物、カルボニル基含有化合物、エーテル基含有化合物、スルホキシド基含有化合物等が挙げられる。前記ヒドロキシ基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等が挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。前記カルボニル基含有化合物としては、例えば、イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。前記エーテル基含有化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、等が挙げられる。前記スルホキシド基含有化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0055】
(基材)
基材は、導電層を担持しうる板状体であり、透明電極を得るためには、JIS K 7361−1:1997(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率が80%以上のものが好ましく用いられる。
【0056】
基材としては、フレキシブル性に優れており、誘電損失係数が十分小さくて、マイクロ波の吸収が導電層よりも小さい材質であるものが好ましく用いられる。
【0057】
基材としては、例えば、樹脂基板、樹脂フィルム等が好適に挙げられるが、生産性の観点や軽量性と柔軟性といった性能の観点から透明樹脂フィルムを用いることが好ましい。透明樹脂フィルムとは、JIS K 7361−1:1997(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率が50%以上のものをいう。
【0058】
好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限はなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができる。
【0059】
上記全光線透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に用いられるフィルム基板として好ましく用いられる。中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムがより好ましい。
【0060】
本発明に用いられる基板には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については、従来公知の技術を使用できる。
【0061】
例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。
【0062】
また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0063】
また、フィルム基板の表面または裏面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定した水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、さらには、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定した酸素透過度が、1×10−3ml/m・24h・atm以下、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m・24h)以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0064】
高バリア性フィルムとするためにフィルム基板の表面または裏面に形成されるバリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。さらに該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0065】
(金属材料)
図1において、1はパターン状に形成された金属材料からなる第1導電層、2は導電性ポリマー及び水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する第2導電層、3は基材を示す。
【0066】
本発明の透明電極において、導電性ポリマーと水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する導電性層(図1の第2導電層)の他に、基板上にパターン状に形成された金属材料含有導電性層(図1の第1導電層)を有していてもよい。
【0067】
金属材料としては、導電性を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、金、銀、銅、鉄、コバルト、ニッケル、クロム等の金属の他に合金でもよい。特に、後述のようにパターンの形成のしやすさの観点から金属材料の形状は、金属微粒子または金属ナノワイヤであることが好ましく、金属材料は導電性の観点から銀、銅が好ましく、より好ましくは銀である。
【0068】
本発明に係る第1導電層は、透明電極を形成するために、開口部を有するパターン状に基板上に形成される。開口部は、基板上に金属材料を有さない部分であり透光性窓部である。
【0069】
パターン形状には特に制限はないが、例えば、導電部がストライプ状、メッシュ状あるいはランダムな網目状であってもよいが、開口率は透明性の観点から80%以上であることが好ましい。
【0070】
開口率とは、光不透過の導電部が全体に占める割合である。例えば、導電部がストライプ状あるいはメッシュ状であるとき、線幅100μm、線間隔1mmのストライプ状パターンの開口率は、およそ90%である。
【0071】
パターンの線幅は10〜200μmが好ましい。細線の線幅が10μm未満では、所望の導電性が得られず、また200μmを超えると透明性が低下する。細線の高さは、0.1〜10μmが好ましい。細線の高さが0.1μm未満では、所望の導電性が得られず、また10μmを超えると有機電子デバイスの形成において、電流リークや機能層の膜厚し分布不良の要因となる。
【0072】
導電部がストライプ状またはメッシュ状の電極を形成する方法としては、特に、制限はなく、従来公知な方法が利用できる。例えば、基材全面に金属層を形成し、公知のフォトリソ法によって形成できる。具体的には、基材上に全面に、印刷、蒸着、スパッタ、めっき等の1あるいは2以上の物理的または化学的形成手法を用いて導電体層を形成する、あるいは、金属箔を接着剤で基材に積層した後、公知のフォトリソ法を用いて、エッチングすることにより、所望のストライプ状あるいはメッシュ状に加工できる。
【0073】
別な方法としては、金属微粒子を含有するインクをスクリーン印刷により所望の形状に印刷する方法や、メッキ可能な触媒インクをグラビア印刷、あるいは、インクジェット方式で所望の形状に塗布した後、メッキ処理する方法、さらに別な方法としては、銀塩写真技術を応用した方法も利用できる。銀塩写真技術を応用した方法については、例えば、特開2009−140750号公報の[0076]−[0112]、及び実施例を参考にして実施できる。触媒インクをグラビア印刷してメッキ処理する方法については、例えば、特開2007−281290号公報を参考にして実施できる。
【0074】
ランダムな網目構造としては、例えば、特表2005−530005号公報に記載のような、金属微粒子を含有する液を塗布乾燥することにより、自発的に導電性微粒子の無秩序な網目構造を形成する方法を利用できる。
【0075】
別な方法としては、例えば、特表2009−505358号公報に記載のような、金属ナノワイヤを含有する塗布液を塗布乾燥することで、金属ナノワイヤのランダムな網目構造を形成させる方法を利用できる。
【0076】
金属ナノワイヤとは、金属元素を主要な構成要素とする繊維状構造体のことをいう。特に、本発明における金属ナノワイヤとは、原子スケールからnmサイズの短径を有する多数の繊維状構造体を意味する。
【0077】
金属ナノワイヤとしては、1つの金属ナノワイヤで長い導電パスを形成するために、平均長さが3μm以上であることが好ましく、さらには3〜500μmが好ましく、特に3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均短径には特に制限はないが、透明性の観点からは小さいことが好ましく、一方で、導電性の観点からは大きい方が好ましい。金属ナノワイヤの平均短径として10〜300nmが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。併せて、短径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。金属ナノワイヤの目付け量は0.005〜0.5g/mが好ましく、0.01〜0.2g/mがより好ましい。
【0078】
金属ナノワイヤに用いられる金属としては、銅、鉄、コバルト、金、銀等を用いることができるが、導電性の観点から銀が好ましい。また、金属は単一で用いてもよいが、導電性と安定性(金属ナノワイヤの硫化や酸化耐性、及びマイグレーション耐性)を両立するために、主成分となる金属と1種類以上の他の金属を任意の割合で含んでもよい。
【0079】
金属ナノワイヤの製造方法には特に制限はなく、例えば、液相法や気相法等の公知の手段を用いることができる。また、具体的な製造方法にも特に制限はなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、銀ナノワイヤの製造方法としては、Adv.Mater.,2002,14,833〜837、Chem.Mater.,2002,14,4736〜4745、金ナノワイヤの製造方法としては特開2006−233252号公報等、銅ナノワイヤの製造方法としては特開2002−266007号公報等、コバルトナノワイヤの製造方法としては特開2004−149871号公報等を参考にすることができる。特に、上述した銀ナノワイヤの製造方法は、水溶液中で簡便に銀ナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、好ましく適用することができる。
【0080】
また、金属材料からなる細線部の表面比抵抗は、100Ω/□以下であることが好ましく、大面積化するには20Ω/□以下であることがより好ましい。表面比抵抗は、例えば、JIS K6911、ASTM D257等に準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0081】
また、金属材料からなる細線部はフィルム基板にダメージを与えない範囲で加熱処理を施すことが好ましい。これにより、金属微粒子や金属ナノワイヤ同士の融着が進み、金属材料からなる細線部の高導電化するため、特に好ましい。
【0082】
(塗布、加熱、乾燥)
本発明の導電層は、上記の導電性ポリマー、水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する塗布液を、基材上に塗布し、加熱、乾燥して形成する。導電層に金属材料からなる細線部を有する場合は、この金属材料からなる細線部が形成された基材上に塗布し、加熱、乾燥して形成する。この時パターン形成された金属細線部を完全に被覆してもよいし、一部を被覆または接触してもよい。
【0083】
導電性ポリマー、水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーからなる塗布液の塗布は、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の印刷方法に加えて、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、インクジェット法等の塗布法を用いることができる。
【0084】
また、金属細線部の一部を導電性ポリマーと水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する導電性層が被覆または接触している透明電極を作製する手段としては、転写フィルムに第1導電層を上述の方法で形成し、さらに導電性ポリマーと水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する導電性層を下述の方法で積層したしたものを、上述のフィルム基板に転写する方法が挙げられる。
【0085】
また、金属細線部の非導電部にインクジェット法等で公知の方法で、導電性ポリマーと水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する導電性層を形成する方法等が挙げられる。
【0086】
導電性ポリマーと水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する導電性層は、自己分散型ポリマーを含むことが特徴である。これにより、高い導電性、高い透明性、強い膜強度を得ることができる。
【0087】
このような構造を有する本発明の導電層を形成することで、金属または金属酸化物細線、あるいは導電性ポリマー層単独では得ることのできない高い導電性を、電極面内において均一に得ることができる。
【0088】
導電性ポリマーと水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する導電性層の導電性ポリマーと水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーとの比率は、導電性ポリマーを100質量部とした時、ヒドロキシ基含有非導電性ポリマーが30〜900質量部であることが好ましく、電流リーク防止、ヒドロキシ基含有非導電性ポリマーの導電性増強効果、透明性の観点から、ヒドロキシ基含有非導電性ポリマーが100質量部以上であることがより好ましい。
【0089】
第2導電層の乾燥膜厚は30〜2000nmであることが好ましい。導電性の点から、100nm以上であることがより好ましく、電極の表面平滑性の点から、200nm以上であることがさらに好ましい。また、透明性の点から、1000nm以下であることがより好ましい。
【0090】
導電性ポリマーと水系溶媒に分散可能な解離性基含有自己分散型ポリマーを含有する導電性層を塗布した後、適宜乾燥処理を施すことができる。乾燥処理の条件として特に制限はないが、基材や導電層が損傷しない範囲の温度で乾燥処理することが好ましい。例えば、80〜120℃で10秒から10分の乾燥処理をすることができる。これにより電極の洗浄耐性、溶媒耐性が著しく向上し、さらに素子性能が向上する。特に、有機EL素子においては、駆動電圧の低減、寿命の向上といった効果が得られる。
【0091】
添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤や硫化防止剤等の安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料等の着色剤等が挙げられる。さらに、塗布性等の作業性を高める観点から、溶媒(例えば、水や、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒)を含んでいてもよい。
【0092】
本発明において、透明導電層の表面の平滑性を表すRyとRaは、Ry=最大高さ(表面の山頂部と谷底部との高低差)とRa=算術平均粗さを意味し、JIS B601(1994)に規定される表面粗さに準ずる値である。本発明の透明電極は、透明導電層の表面の平滑性がRy≦50nm、また、併せて透明導電層の表面の平滑性はRa≦10nmであることが好ましい。本発明においてRyやRaの測定には、市販の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)を用いることができ、例えば、以下の方法で測定できる。
【0093】
AFMとして、セイコーインスツル社製SPI3800Nプローブステーション及びSPA400多機能型ユニットを使用し、約1cm角の大きさに切り取った試料を、ピエゾスキャナー上の水平な試料台上にセットし、カンチレバーを試料表面にアプローチし、原子間力が働く領域に達したところで、XY方向にスキャンし、その際の試料の凹凸をZ方向のピエゾの変位で捉える。ピエゾスキャナーは、XY20μm、Z2μmが走査可能なものを使用する。カンチレバーは、セイコーインスツル社製シリコンカンチレバーSI−DF20で、共振周波数120〜150kHz、バネ定数12〜20N/mのものを用い、DFMモード(Dynamic Force Mode)で測定する。測定領域80×80μmを、走査周波数1Hzで測定する。
【0094】
本発明において、Ryの値は50nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましい。同様に、Raの値は10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。
【0095】
本発明において、透明電極は、全光線透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。全光透過率は、分光光度計等を用いた公知の方法に従って測定することができる。また、本発明の透明電極における透明導電層の電気抵抗値としては、表面抵抗率として1000Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがより好ましい。さらには、電流駆動型オプトエレクトロニクスデバイスに適用するためには、50Ω/□以下であることが好ましく、10Ω/□以下であることが特に好ましい。10Ω/□以下であると各種オプトエレクトロニクスデバイスにおいて、透明電極として機能することができて好ましい。
【0096】
前記表面抵抗率は、例えば、JIS K 7194:1994(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)等に準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0097】
本発明の透明電極の厚みには特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に10μm以下であることが好ましく、厚みが薄くなるほど透明性や柔軟性が向上するためより好ましい。
【0098】
《有機EL素子》
本発明の有機EL素子は、本発明の透明電極を具備することを特徴とする。
【0099】
本発明の有機EL素子は、有機発光層を含む有機層及び本発明の透明電極を有する。
【0100】
本発明における有機EL素子は、本発明の透明電極を陽極として用いることが好ましく、有機発光層、陰極については有機EL素子に一般的に使われている材料、構成等の任意のものを用いることができる。
【0101】
有機EL素子の素子構成としては、陽極/有機発光層/陰極、陽極/ホール輸送層/有機発光層/電子輸送層/陰極、陽極/ホール注入層/ホール輸送層/有機発光層/電子輸送層/陰極、陽極/ホール注入層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、陽極/ホール注入層/有機発光層/電子注入層/陰極、等の各種の構成のものを挙げることができる。
【0102】
また、本発明において有機発光層に使用できる発光材料またはドーピング材料としては、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチルベンゼン誘導体、ジスチルアリーレン誘導体、及び各種蛍光色素及び希土類金属錯体、燐光発光材料等があるが、これらに限定されるものではない。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を90〜99.5質量部、ドーピング材料を0.5〜10質量部含むようにすることも好ましい。
【0103】
有機発光層は上記の材料等を用いて公知の方法によって作製されるものであり、蒸着、塗布、転写等の方法が挙げられる。この有機発光層の厚みは0.5〜500nmが好ましく、特に、0.5〜200nmが好ましい。
【0104】
本発明の有機EL素子は、自発光型ディスプレイ、液晶用バックライト、照明等に用いることができる。本発明の有機EL素子は、均一にムラなく発光させることができるため、照明用途で用いることが好ましい。
【0105】
本発明の透明電極は高い導電性と透明性を併せ持ち、液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、電子ペーパー、有機太陽電池、無機太陽電池等の各種オプトエレクトロニクスデバイスや、電磁波シールド、タッチパネル等の分野において好適に用いることができる。その中でも、透明電極表面の平滑性が厳しく求められる有機EL素子や有機薄膜太陽電池素子の透明電極として特に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0107】
合成例1(バインダー樹脂P−1の合成:比較化合物)
[ポリ−2−ヒドロキシエチルアクリレート(P−1)の合成]
300mlナスフラスコに2−ヒドロキシエチルアクリレート(東京化成社製)5.0g(43.1mmol、Fw116.12)、2,2′−アゾビス(2−メチルイソプロピオニトリル)0.7g(4.3mmol、Fw164.21)及びテトラヒドロフラン100mlを加え、8時間加熱還流した。その後、溶液を室温まで冷却し、激しく攪拌されたメチルエチルケトン2.0L中へ滴下した。反応溶液を1時間攪拌後、メチルエチルケトンをデカンテーションし、メチルエチルケトン100mlで壁面に付着した重合体を3回洗浄した。ポリマーはテトラヒドロフラン100mlに溶解し、200mlフラスコへ移し、ロータリーエバポレーターによりテトラヒドロフランを減圧留去した。その後、80℃3時間減圧することで、残留しているTHFを留去し、数平均分子量57,800、分子量分布1.24のP−1を4.1g(収率82%)得た。
【0108】
構造、分子量は各々H−NMR(400MHz、日本電子社製)、GPC(Waters2695、Waters社製)で測定した。また、得られたP−14.0gを16.0gの純水に溶解し、P−1の20%水溶液を作製した。
【0109】
〈GPC測定条件〉
装置:Waters2695(Separations Module)
検出器:Waters 2414(Refractive Index Detector)
カラム:Shodex Asahipak GF−7M HQ
溶離液:ジメチルホルムアミド(20mM LiBr含有)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
〈基板の作製〉
厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4100、東洋紡績株式会社製)の下引き加工していない面に、JSR株式会社製UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材:OPSTAR Z7501を塗布、乾燥後の平均膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、80℃、3分で乾燥後、空気雰囲気下、高圧水銀ランプ使用して硬化条件1.0J/cmで硬化を行い、平滑層を形成した。
【0110】
次に、上記平滑層を設けた試料を、この上にガスバリア層を以下に示す条件で、形成した。
【0111】
(ガスバリア層塗布液)
パーヒドロポリシラザン(PHPS、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN320)の20質量%ジブチルエーテル溶液をワイヤレスバーにて、乾燥後の(平均)膜厚が、0.30μmとなるように塗布し、塗布試料を得た。
【0112】
(第一工程;乾燥処理)
得られた塗布試料を温度85℃、湿度55%RHの雰囲気下で1分処理し、乾燥試料を得た。
【0113】
(第二工程;除湿処理)
乾燥試料をさらに温度25℃、湿度10%RH(露点温度−8℃)の雰囲気下に10分間保持し、除湿処理を行った。
【0114】
(改質処理A)
除湿処理を行った試料を下記の条件で改質処理を行い、ガスバリア層を形成した。改質処理時の露点温度は−8℃で実施した。
【0115】
(改質処理装置)
株式会社エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200、波長172nm、ランプ封入ガス Xe
稼動ステージ上に固定した試料を以下の条件で改質処理を行った。
【0116】
(改質処理条件)
エキシマ光強度 60mW/cm(172nm)
試料と光源の距離 1mm
ステージ加熱温度 70℃
照射装置内の酸素濃度 1%
エキシマ照射時間 3秒
上記のようにしてガスバリア性を有する透明電極用のフィルム基板を作製した。
【0117】
〈第1導電層の形成〉
上記で得られたガスバリア性を有する透明電極用フィルム基板上のバリアのない面に、以下の方法で第1導電層を形成した。
【0118】
(細線格子)
細線格子(金属材料)については以下に示す、グラビア印刷または銀ナノワイヤにより作製した。
【0119】
(グラビア印刷)
銀ナノ粒子ペースト1(M−Dot SLP:三ツ星ベルト製)をRK Print Coat Instruments Ltd製グラビア印刷試験機K303MULTICOATERを用いて線幅50μm、高さ1.5μm、間隔1.0mmの細線格子を印刷した後、110℃、5分の乾燥処理を行った。
【0120】
(銀ナノワイヤによるランダムな網目構造)
ランダムな網目構造については以下に示すように銀ナノワイヤを用いて作製した。
【0121】
銀ナノワイヤ分散液を、銀ナノワイヤの目付け量が0.06g/mとなるように、銀ナノワイヤ分散液を、バーコート法を用いて塗布し110℃、5分乾燥加熱し、銀ナノワイヤ基板を作製した。
【0122】
銀ナノワイヤ分散液は、Adv.Mater.,2002,14,833〜837に記載の方法を参考に、PVP K30(分子量5万;ISP社製)を利用して、平均短径75nm、平均長さ35μmの銀ナノワイヤを作製し、限外濾過膜を用いて銀ナノワイヤを濾別、洗浄処理した後、ヒドロキシプロピルメチルセルロース60SH−50(信越化学工業社製)を銀に対し25質量%加えた水溶液に再分散し、銀ナノワイヤ分散液を調製した。
【0123】
実施例1
《透明電極の作製》
〈透明電極TC−101の作製〉
ガスバリア性を有する透明電極用のフィルム基板上にグラビア印刷にて第1導電層を形成した透明電極上に、下記塗布液Aを、押し出し法を用いて、乾燥膜厚300nmになるように押し出しヘッドのスリット間隙を調整して塗布し、110℃、5分で加熱乾燥し、導電性ポリマーと水系溶剤に分散可能なバインダー樹脂からなる第2導電層を形成し、得られた電極を8×8cmに切り出した。得られた電極を、オーブンを用いて110℃、30分加熱することで透明電極TC−101を作製した。
【0124】
〈第2導電層の形成〉
(塗布液A)
導電性ポリマー:PEDOT−PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%、H.C.Starck社製) 1.59g
バインダー:ポリゾールFP3000(固形分54.4%水溶液) 0.13g
ジメチルスルホキシド(DMSO、導電性ポリマー溶液質量の10分の1)
0.16g
(透明電極TC−102〜TC−106の作製)
透明電極TC−101の作製において、塗布液Aのバインダーであるポリゾールを表1記載のバインダーに変更し、さらに塗布液Aへの添加固形分が70mgになるように添加量を変更した以外は透明電極TC−101の作製と同様にして、透明電極TC−102〜TC−106を作製した。
【0125】
(透明電極TC−107の作製)
透明電極TC−101の作製において、ポリゾールFP3000をプラスコートRZ570に変更し、さらに塗布液AのPEDOT−PSS CLEVIOS PH510(固形分1.89%、H.C.Starck社製)を、ポリアニリンM(固形分濃度6.0%、ティーエーケミカル)0.5gに変更したこと以外は透明電極TC−101の作製と同様にして、透明電極TC−107を作製した。
【0126】
(透明電極TC−108の作製)
(ランダムな網目構造)
銀ナノワイヤ分散液は、Adv.Mater.,2002,14,833〜837に記載の方法を参考に、PVP K30(分子量5万;ISP社製)を利用して、平均短径75nm、平均長さ35μmの銀ナノワイヤを作製し、限外濾過膜を用いて銀ナノワイヤを濾別、洗浄処理した後、ヒドロキシプロピルメチルセルロース60SH−50(信越化学工業社製)を銀に対し25質量%加えた水溶液に再分散し、銀ナノワイヤ分散液を調製した。
【0127】
ランダムな網目構造については以下に示すように銀ナノワイヤを用いて作製した。
【0128】
銀ナノワイヤ分散液を、銀ナノワイヤの目付け量が0.06g/mとなるように、銀ナノワイヤ分散液を、バーコート法を用いて塗布し110℃、5分乾燥加熱し、銀ナノワイヤ基板を作製した。
【0129】
銀ナノワイヤによりランダムな網目構造を形成した透明電極上に、塗布液AのバインダーであるポリゾールFP3000をプラスコートRZ570に変更した塗布液を用いて透明電極TC−101の作製と同様の方法により第2導電層を形成し、8×8cmに切り出した。得られた電極を、オーブンを用いて110℃、30分加熱することで透明電極TC−108を作製した。
【0130】
(透明電極TC−109の作製)
(銅メッシュ基板)
基板上に、補助電極として、下記の方法により、銅メッシュを作製し、金属微粒子除去液BFによるパターニングを行い、銅メッシュ基板を作製した。
【0131】
パラジウムナノ粒子を含有する森村ケミカル社製の触媒インクJIPD−7を用い、それにCabot製の自己分散型カーボンブラック溶液CAB−O−JET300を、触媒インクに対するカーボンブラック比率が10.0質量%になるように添加し、更にサーフィノール465(日信化学工業株式会社)を添加して、25℃における表面張力が48mN/mである導電性インクを調製した。
【0132】
導電性インクを、インクジェット記録ヘッドとして、圧力印加手段と電界印加手段とを有し、ノズル口径25μm、駆動周波数12kHz、ノズル数128、ノズル密度180dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)のピエゾ型ヘッドを搭載したインクジェットプリント装置に装填し、基材上に線幅10μm、乾燥後膜厚0.5μm、線間隔300μmの格子状の導電性細線を図A−6部分に形成した後、乾燥した。
【0133】
次いで、メルテックス社製の高速無電解銅メッキ液CU−5100を用い、温度55℃で10分間浸漬した後、洗浄して、無電解メッキ処理を施して、メッキ厚3μmの補助電極を作製した。
【0134】
銅メッシュを形成した透明電極上に、塗布液AのバインダーであるポリゾールFP3000をプラスコートRZ570に変更した塗布液Aを用いて透明電極TC−101の作製と同様の方法により第2導電層を形成し、8×8cmに切り出した。得られた電極を、オーブンを用いて110℃、30分加熱することで透明電極TC−109を作製した。
【0135】
(透明電極TC−110〜TC−114の作製)
透明電極TC−101の作製において、塗布液AのバインダーであるポリゾールFP3000を表1記載のバインダーに変更したこと以外は、透明電極TC−101の作製と同様にして、比較例の透明電極TC−110〜TC−114を作製した。
【0136】
なお、TC−110〜TC−112に用いたバインダーであるナイポールLX430、LX433C、LX435は、本発明に係る解離性基含有自己分散型ポリマーではなく、分散のため界面活性剤が使用されている。
【0137】
(比較透明電極TC−115の作製)
透明電極TC−101の作製において、塗布液A中のバインダーを使用しないこと以外は透明電極TC−101の作製と同様にして、透明電極TC−115を作製した。
【0138】
《透明電極の評価》
バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)は、下記のようにして測定した。得られた透明電極のフィルム形状、透明性、表面抵抗(導電性)、表面粗さ及び膜強度を下記のように評価した。また、透明電極の安定性を評価するため、80℃90%RHの環境下で5日間置く強制劣化試験後の透明電極試料のフィルム形状、透明性、表面抵抗、表面粗さ及び膜強度の評価を行った。
【0139】
(Tgの測定)
示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度10℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた。
【0140】
(透明性)
JIS K 7361−1:1997に準拠して、東京電色社製 HAZE METER NDH5000を用いて、全光線透過率を測定し、下記基準で評価した。有機電子デバイスに用いるため、75%以上であることが好ましい。
【0141】
◎:80%以上
○:75%〜80%未満
△:70%〜75%未満
×:70%未満
(表面抵抗)
JIS K 7194:1994に準拠して、抵抗率計(ロレスタGP(MCP−T610型):(株)三菱化学アナリテック製)を用いて表面抵抗を測定した。表面抵抗は100Ω/□以下であることが好ましく、有機電子デバイスを大面積にするには、30Ω/□以下であることが好ましい。
【0142】
(表面粗さ(Ra、Ry))
AFM(セイコーインスツル社製SPI3800Nプローブステーション及びSPA400多機能型ユニット)を使用し、約1cm角の大きさに切り取った試料を用いて、前記の方法(JIS B601(1994)に規定される表面粗さに準ずる。)で測定した。
【0143】
(膜強度)
導電層の膜の強度を、テープ剥離法により評価した。
【0144】
導電層の上に住友スリーエム社製スコッチテープを用いて圧着/剥離を10回繰り返し、導電層の脱落を目視観察し、下記基準で評価した。
【0145】
◎:5回の圧着/剥離で変化無し
○:3回の圧着剥離で変化無し
△:1回の圧着剥離で剥離が見られるが8割以上のパターンが残っている
×:1回の圧着剥離で剥離が見られ、残っているパターンが8割未満
評価の結果を表1に示す。
【0146】
【表1】

【0147】
表1から、比較例の透明電極TC−110〜TC−115に対して、本発明の透明電極TC−101〜109は、平滑性、導電性、光透過性、膜強度に優れると共に、高温、高湿度環境下においても平滑性、導電性、光透過性、膜強度の劣化が少なく、安定性に優れることが分かる。
【0148】
実施例2
《有機ELデバイスの作製》
実施例1で作製した透明電極基板を超純水で洗浄後、パターン辺長20mmの正方形タイル状透明パターン一個が中央に配置されるように30mm角に切り出し、アノード電極に用いて、以下の手順でそれぞれ有機ELデバイスを作製した。正孔輸送層以降は蒸着により形成した。透明電極TC−101〜TC−115を用い、それぞれ有機EL素子OEL−201〜OEL−215を作製した。
【0149】
市販の真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を各々素子作製に必要量を充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製またはタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0150】
まず、正孔輸送層、有機発光層、正孔阻止層、電子輸送層からなる有機EL層を順次形成した。
【0151】
〈正孔輸送層の形成〉
真空度1×10−4Paまで減圧した後、化合物1の入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、厚さ30nmの正孔輸送層を設けた。
【0152】
〈有機発光層の形成〉
次に、以下の手順で各発光層を設けた。
【0153】
形成した正孔輸送層上に、化合物2が13.0質量%、化合物3が3.7質量%、化合物5が83.3質量%になるように、化合物2、化合物3及び化合物5を蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層と同じ領域に共蒸着し、発光極大波長が622nm、厚さ10nmの緑赤色燐光発光の有機発光層を形成した。
【0154】
次いで、化合物4が10.0質量%、化合物5が90.0質量%になるように、化合物4及び化合物5を蒸着速度0.1nm/秒で緑赤色燐光発光の有機発光層と同じ領域に共蒸着し、発光極大波長が471nm、厚さ15nmの青色燐光発光の有機発光層を形成した。
【0155】
〈正孔阻止層の形成〉
さらに、形成した有機発光層と同じ領域に、化合物6を膜厚5nmに蒸着して正孔阻止層を形成した。
【0156】
〈電子輸送層の形成〉
引き続き、形成した正孔阻止層と同じ領域に、CsFを膜厚比で10%になるように化合物6と共蒸着し、厚さ45nmの電子輸送層を形成した。
【0157】
【化1】

【0158】
〈カソード電極の形成〉
形成した電子輸送層の上に、透明電極を陽極として陽極外部取り出し端子及び15mm×15mmの陰極形成用材料としてAlを5×10−4Paの真空下にてマスク蒸着し、厚さ100nmの陽極を形成した。
【0159】
さらに、陰極及び陽極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除き陽極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材としAlを厚さ300nmで蒸着した可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させ封止膜を形成し、発光エリア15mm×15mmの有機EL素子を作製した。
【0160】
《有機EL素子の評価》
得られた有機EL素子について発光ムラ及び寿命を下記のように評価した。
【0161】
(発光均一性)
発光均一性は、KEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流電圧を有機EL素子に印加し発光させた。1000cd/mで発光させた有機EL素子OEL−201〜OEL−217について、50倍の顕微鏡で各々の発光輝度ムラを観察した。また、有機EL素子OEL−201〜OEL−217をオーブンにて60%RH、80℃2時間加熱したのち、再び前記23±3℃、55±3%RHの環境下で1時間以上調湿した後、同様に発光均一性を観察した。
【0162】
◎:完全に均一発光しており、申し分ない
○:ほとんど均一発光しており、問題ない
△:部分的に若干発光ムラが見られるが、許容できる
×:全面にわたって発光ムラが見られ、許容できない
(寿命)
得られた有機EL素子の、初期の輝度を5000cd/mで連続発光させて、電圧を固定して、輝度が半減するまでの時間を求めた。アノード電極をITOとした有機EL素子を上記と同様の方法で作製し、これに対する比率を求め、以下の基準で評価した。100%以上が好ましく、150%以上であることがより好ましい。
【0163】
◎:150%以上
○:100〜150%未満
△:80〜100%未満
×:80%未満
評価の結果を表2に示す。
【0164】
【表2】

【0165】
表2から、比較の有機EL素子OEL−210〜OEL−215は80℃30分の加熱後、発光均一性が著しく劣化するのに対し、本発明の有機EL素子OEL−201〜OEL−209の発光均一性は加熱後でも安定しており耐久性に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0166】
1 第1導電層
2 第2導電層
3 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、導電性ポリマー及び水系溶剤に分散可能なポリマーを含有する透明電極において、前記ポリマーが解離性基含有自己分散型ポリマーであり、かつガラス転移温度が、25℃以上80℃以下であることを特徴とする透明電極。
【請求項2】
前記解離性基含有自己分散型ポリマーのガラス転移温度が、50℃以上70℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明電極。
【請求項3】
基板上にパターン状に形成された銀含有導電性層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の透明電極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明電極を具備することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【公開番号】特開2013−4335(P2013−4335A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134872(P2011−134872)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】