透析患者のためのリン結合剤投与量の決定方法
本発明は、所望の濃度範囲内の透析前血清リン濃度が達成されるとともに、所望の正味カルシウム蓄積が達成される、透析治療を受けている患者に対するリン結合剤の投与量の決定方法に関する。該方法は、所望の濃度範囲内である患者の透析前血清リン濃度が達成されるとともに、患者の透析前血清リン濃度が所望の濃度範囲内である場合は、透析治療によって除去されるリンの量の変化を考慮してリン結合剤の投与量を決定する工程;全透析サイクルでの所望の正味カルシウム蓄積をもたらす透析物のカルシウム濃度を決定する工程;および該決定で決定された濃度に基づいたカルシウム濃度を含む透析物を伴う患者を透析する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年10月17日に出願された米国特許仮出願第61/196,420号の恩典を主張する。
【0002】
上記出願の全教示は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
軟組織石灰化は、透析患者における罹患率および死亡率の主要な原因である。この軟組織の石灰化は、体内のカルシウムおよびリンの過剰な量および/または蓄積のためであると考えられている。G. R. Bailie, Calcium and Phosphorus management in chronic kidney disease: Challenges and trends, 39 Formulary pp. 358-365 (2004)参照。血管石灰化は、心筋機能障害、心不全および心停止に関係があるので、透析患者において特に問題である(同書)。
【0004】
一般的に、血漿カルシウム濃度は、非常に狭い範囲(典型的に約1.1〜約1.3mmol/L)に維持されている。J. T. Daugirdas, P. G. Blake, and T. S. Ing, Handbook of Dialysis, (2007)参照。ホルモン的にカルシウムレベルは、イオン化カルシウム(Ca2+)の正常範囲未満への低下に応答して、副甲状腺によって分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)により調節される。PTHは、骨から血液および細胞外液(ECF)へのカルシウムおよびその対イオンリンの移動を刺激し、さらに腎臓によるカルシウム吸収およびリン排出を増加する。また、カルシウムレベルは、ビタミンD3の取り込みによっても調節され、食事によるカルシウムの吸収を調節する主要な部位である腸によるカルシウムおよびリン吸収が増加する。ビタミンD3の取り込みは、食事供給源由来であり得るか、または、例えばカルシトリオール(例えば、ロカルトロール(登録商標))、ドキセルカルシフェロール(例えば、Hectorol(登録商標))、またはパリカルシトール(例えば、Zemplar(登録商標))などのビタミンD3アナログ由来であり得る。イオン化カルシウムレベルが低すぎると興奮性亢進およびテタヌス様痙攣が起こるが、イオン化カルシウムレベルが高すぎると、筋肉麻痺および昏睡のために死ぬことがある。
【0005】
血液透析中のカルシウムレベルの調節の重要性にも関わらず、透析患者におけるカルシウム均衡の調節方法は充分に理解されていない。一般的に、慢性腎不全を有する患者において、正味のカルシウム吸収およびカルシウム取り込みの両方は低下しているが、上述のように、IVビタミンD3の使用により、カルシウム吸収は増加する。また、腎臓の糸球体ろ過率(GFR)の低下により、尿カルシウム排泄が低下する。従って、排出の低下により、末期腎不全(ESRD)を有する患者は正のカルシウム物質収支血清を有するようになる。
【0006】
同様に、腎臓によるリンの排出の欠如のために、腎機能不全を有する患者ではリンが蓄積し、この過剰なリンは透析治療により充分に除去されないことがある。その結果、ほぼ全てのESRD患者は高リン血症を発症する(同書)。血清リンレベルの上昇により引き起こされるさらなる合併症は、カルシウム-リン(Ca x P)生成物の増加であり、血管、心臓および他の軟組織のリン酸カルシウムの沈殿および石灰化を予防するために、これを55mg2/dL2の閾値未満に維持する必要がある(同書)。過剰なリンを除去するために、患者は通常、酢酸カルシウムまたは炭酸カルシウムなどのリン酸結合剤を与えられるが、これらのカルシウム含有化合物は患者にさらなるカルシウム負荷を与える。それでも、低イオン化カルシウムレベルにより低血圧、心筋収縮性の低下および二次的な副甲状腺機能低下症の悪化が引き起こされ得るので、カルシウムレベルは通常濃度範囲内に維持しなければならない。
【0007】
血液透析患者の透析中カルシウムおよびリン物質収支のための血液透析患者の透析中カルシウムおよびリン物質収支の調節の必要性にも関わらず、これまでそれを行うのに充分な方法はなかった。それを行う上での1つの課題は、例えば、患者の透析中カルシウムおよびリン蓄積または欠乏は、単に血液透析治療前の患者の血清カルシウム濃度を測定するだけでは正確に決定できないということである。これは、例えば血清カルシウムの生理学的な調節により、血清カルシウム濃度が、患者の透析中カルシウム物質収支を示さない狭い範囲に維持されているためである。
【0008】
過去20年において、透析の妥当性の評価における同様の問題が、尿素動態モデリング(UKM)により議論されてきた。透析治療後の低濃度血中尿素は、不充分な栄養摂取または適切な透析のいずれかの結果であり得たので、モデリングが必要であった。National Kidney Foundation Clinical Practice Guidelines for Hemodialysis Adequacy, American Journal of Kidney Diseases, Vol 30 (3) Suppl. 2 (1997)参照。透析妥当性の標準的な基準は、通常mL/分単位である患者血液からの物質の除去の透析器速度K、通常分単位である透析治療の全時間、および通常リットル単位である(およびmLに変換される)患者体内の物質の分布の容量からなる無次元量で、Kt/Vと称される。適切な透析の典型的なKt/Vの値は約1.2であり、これは、所定の患者(定数V)について、より長い時間(大きなt)の透析治療、またはより効率的な透析器(高いK)により達成される。透析妥当性のマーカーとして選択される物質は尿素であった。F. G. Casino, and T. Lopez, The equivalent renal urea clearance. A new parameter to assess dialysis dose, Nephrol. Dial. Transplant., Vol. 11 pp. 1574-1581 (1996)参照。
【0009】
尿素は、タンパク質異化の主要な最終生成物であり、透析治療間の体内水分に蓄積する老廃物窒素の約90%を構成する。尿素自体は特に毒性ではなく、その濃度は血液尿素窒素(BUN)測定から容易に計算されるので、透析の妥当性の測定のための指標として採用された。BUNは、通常mg/dLで表される濃度であるが、尿素のグラムを求めるために必要な他の変数は、患者体内の尿素の分布容量である。該分布容量は、かん流された領域(腕および足など)から細胞外空間への尿素の移動が乏しいことを考慮して、透析を行った後、尿素動態モデリング(UKM)から求められる。この分布容量は、二倍プール(double pool)または平衡化分布容量と称され、最終的に平衡化タンパク質異化速度(ePCR)と称される。T. Depner, and J. Daugirdas, Equations for normalized protein catabolic rate based on two-point modeling of hemodialysis urea kinetics, Journal of the American Society of Nephrology, Vol. 7 (5), pp. 780-785 (1996)参照。
【0010】
透析治療パラメータおよび医薬製剤を個々の患者の必要に合わせることができるように、リン管理のための動的モデリングアプローチを採用すること、食事から患者が吸収するリンおよびカルシウムの量を定量することならびに透析治療による除去量およびリン結合剤の投与量を定量することが必要である。このアプローチはリン動態モデリング(PKM)と称される。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明は、望ましい正味のカルシウム蓄積を達成しながらも望ましい濃度範囲内の透析前血清リン濃度を達成するための、透析治療を受けている患者に対するリン結合剤の投与量を決定する方法に関する。該方法は、患者の透析前血清リン濃度が望ましい範囲内にある場合に、透析治療により除去されるリンの量の変化を考慮(account for)しながら、望ましい濃度範囲内にある患者の透析前血清リン濃度を達成するリン結合剤の投与量を決定する工程、完全透析サイクルの経過時に望ましい正味のカルシウムの蓄積を生じる透析物カルシウム濃度を決定する工程、および該決定に基づくカルシウム濃度を含む透析物で患者を透析する工程を含む。いくつかの態様において、患者は、腎機能不全、腎不全、腎臓病、高リン血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、末期腎不全および癌からなる群より選択される少なくとも1つの疾患または状態を有する。
【0012】
特定の態様において、透析物カルシウム濃度は、完全透析サイクル経過時のカルシウム物質収支から決定することができる。いくつかの特定の態様において、望ましい正味のカルシウムの蓄積はおよそ0である。
【0013】
いくつかの態様において、患者の透析前血清リン濃度の望ましい範囲は、約3.5mg/dL〜約5.5mg/dLである。特定の態様において、透析物カルシウム濃度は、ある透析治療から次の透析治療までの透析物カルシウム濃度を変化させることにおけるさらなる患者の安全性関心を考慮して決定される。
【0014】
従って、本発明は、腎臓代償療法を受けている患者における、カルシウムおよびリンの蓄積および除去の規模を理解および調節して、カルシウム均衡を望ましいレベルで最適化するための機構を提供する。かかる患者における全カルシウムおよびリン輸送を定量的に推定する能力により、臨床医および他の医療従事者が、透析治療中および/または透析治療間のカルシウムおよびリン物質収支を調節して、カルシウムおよび/またはリンの潜在的に望ましくない蓄積または枯渇を予防することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
前述のものは、異なる図において、同様の参照記号が同じ部分を言及する添付の図面において示されるように、本発明の例示態様の以下のより詳細な説明から明らかであろう。図面は、必ずしも同じ縮尺であるとは限らず、本発明の態様の例示に重点が置かれる。
【図1】図1は、患者におけるカルシウム物質収支の3つの構成要素を表すブロック図である。
【図2】図2は、完全透析サイクル経過時の負のカルシウム物質収支状態(CaAbs << FAbs)下の患者におけるカルシウム分布を表すブロック図である。
【図3】図3は、完全透析サイクル経過時の正のカルシウム物質収支状態(CaAbs >> FAbs)下の患者におけるカルシウム分布を表すブロック図である。
【図4】図4は、透析物の流入および流出カルシウム濃度の測定のための、カルシウムイオン選択的電極を含む透析装置を表す。
【図5】図5は、透析中カルシウム物質収支の関数としての(CdιCa++ - CpiCa++)のグラフである。
【図6】図6は、KMPの関数としての(CdiCa++- CpiCa++)のグラフである。
【図7】図7は、患者1についての時間の関数としての血清リン濃度およびリン結合剤丸薬の処方総数のグラフである。
【図8】図8は、患者1についての時間の関数としての血清カルシウム濃度および透析物カルシウム濃度のグラフである。
【図9】図9は、患者2についての時間の関数としての血清リン濃度およびリン結合剤丸薬の処方総数のグラフである。
【図10】図10は、患者2についての時間の関数としての血清カルシウム濃度および透析物カルシウム濃度のグラフである。
【図11】図11は、患者3についての時間の関数としての血清リン濃度およびリン結合剤丸薬の処方総数のグラフである。
【図12】図12は、患者3についての時間の関数としての血清カルシウム濃度および透析物カルシウム濃度のグラフである。
【図13】図13は、患者4についての時間の関数としての血清リン濃度およびリン結合剤丸薬の処方総数のグラフである。
【図14】図14は、患者4についての時間の関数としての血清カルシウム濃度および透析物カルシウム濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の方法を使用する、定期的な透析治療を受けている患者のリンおよびカルシウム代謝の管理における主要な工程は、カルシウムの蓄積を調節し、血管石灰化および死亡を抑制するために、典型的に:(1) 透析前の患者の血清濃度が望ましい濃度範囲内にある場合に、透析治療により除去されるリンの量の変化を考慮しながら、望ましい濃度範囲内にある患者の透析前血清リン濃度を達成し得る、例えばカルシトリオール、Hectorol(登録商標)またはZemplar(登録商標)などのビタミンD3アナログの患者の投与量および例えば酢酸カルシウム(例えばPhosLo(登録商標)(667mg用量、Fresenius Medical Care, Waltham, MA))もしくは炭酸カルシウムもしくは塩酸セベラマー(例えばRenagel(800mg用量、Genzyme Corp., Cambridge, MA))またはそれらの組合せなどのリン酸結合剤の患者の投与量を与えた患者のカルシウムおよびリンの吸収の定量的な評価を含む、患者のカルシウムおよびリンの透析間の取り込みを定量的に評価すること、(2) 完全透析サイクル経過時の患者の望ましいカルシウム物質収支を決定すること、(3) 透析中カルシウム物質収支を計算すること、(4) 透析中リン物質収支を計算すること、ならびに(5) リン動態モデル(PKM)を用いて、完全透析サイクル経過時に望ましいカルシウム物質収支を達成するために透析治療に使用される透析物の望ましいカルシウム濃度を決定することを含む。
【0017】
本願で規定されるように、患者の透析間カルシウム物質収支は、透析治療と透析治療の間に患者に吸収されるカルシウムの量を考慮し、透析中カルシウム物質収支は、特定の透析治療中に患者の血液と透析物の間で交換されるカルシウムの量を考慮する。本願で規定されるように、定期的な透析治療は、典型的に数日間隔、典型的には一週間に3回行われるが、治療と治療の間の期間は一定である必要はない。一貫した週3回のスケジュールでは、典型的に週末にかけて2回の2日透析間期間と1回の3日透析間期間が生じる。さらに、場合によっては、患者は、過剰な流量を流す必要がある場合に、最後の治療から少し後に治療を受けることができる。
【0018】
本発明の方法は、例えば腎機能不全、腎不全、腎臓病、高リン血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、末期腎不全および癌などの腎臓機能に影響を及ぼす疾患または状態を有するために透析治療を受けているヒト患者に適用される。患者の透析治療は、患者の腎臓の正常な機能に取って代わるまたは補充する治療である。
【0019】
透析治療と透析治療の間に、通常患者は、乳製品などの食事供給源からカルシウムおよびリンを摂取し、リンの場合はタンパク質およびソフトドリンクから摂取する。通常は酢酸カルシウム(例えばPhosLo(登録商標)(667mg用量、Fresenius Medical Care, Waltham, MA))または炭酸カルシウムまたは塩酸セベラマー(例えばRenagel(登録商標)(800mg用量、Genzyme Corp., Cambridge, MA))、またはそれらの組合せであり、約3.5〜約5.5mg/dL、好ましくは約4.5mg/dLの患者の透析前血中リン濃度を達成すると規定される前述のリン酸(PO4)結合剤の取り込みは、患者の血清カルシウムレベルにも影響を及ぼし得る。リン酸結合剤は、患者に摂取されたリンを、吸収されずに患者の体内から排出される結合(リン酸)形態に変換する。患者に吸収されて体内に入るカルシウムの量は、例えば、カルシトリオール、Hectorol(登録商標)またはZemplar(登録商標)などの規定量のビタミンD3アナログの量にも影響を受け得る。図1に示すように、イオン化カルシウムの患者体内での分布容量は、細胞外水(ECW)の容量である。患者の体は、カルシウムを、患者髄膜液および患者骨表面の交換可能な表面カルシウムからなる混和性(miscible)カルシウムプールと交換することにより、患者血液中の血清イオン化(Ca+2)カルシウム濃度を、通常約4.6mg/dL〜約5.3mg/dL、より好ましくは約4.8〜約5.2mg/dLである正常レベルまたは正常に近いレベルに維持する。
【0020】
透析治療と透析治療の間に、通常、患者の血液は過剰な流体を蓄積するが、それは通常患者のくるぶしおよび下肢における腫脹および水腫を予防するための透析治療中の運搬によって除去される。しばしば、カルシウム濃度がほぼ0である過剰な流体が患者の体内に入る。患者の体は、食事または前述のカルシウム供給源から患者が吸収したカルシウムの量が不充分である程度まで、混和性カルシウムプール由来のカルシウムを使用し、過剰な流体中のカルシウム濃度を正常または正常に近いレベルまで上げる。透析治療中に、過剰な流体は正常または正常に近い濃度のカルシウムを含んだまま患者の体から除去され、患者の混和性カルシウムプールのカルシウムの量は枯渇する。任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、枯渇サイクルの反復により、患者の骨中のカルシウムの欠損が引き起こされ、骨の脆化が起こると考えられているので、患者の混和性カルシウムプールの枯渇を防ぐことが望ましい。
【0021】
図2に示されるように、本発明の方法により、臨床の当業者が、除去されるカルシウム含有流体の濃度を考慮しながら、患者の血中カルシウム濃度よりも充分に高い透析物の濃度を決定して、透析膜を通過する正の拡散勾配を生成し、正の透析内物質収支を生成することが可能になる。この方法では、透析物から患者血液へのカルシウム拡散によりカルシウムの量が添加され、完全透析サイクルの経過時に、通常0またはほぼ0である望ましいカルシウム物質収支がもたらされる。
【0022】
典型的に、食事または前述の医学的に処方された供給源からカルシウムを吸収した患者では、通常ミリグラム(mg)で測定されるカルシウムの量が、混和性カルシウムプール(MCP)に添加される。多くの患者にとって、透析間期間および透析中治療期間を含む完全透析サイクルの経過時に、透析治療と透析治療の間に蓄積したカルシウムの量を患者の血液から除去することにより、0またはほぼ0のカルシウム物質収支を達成することが望ましい。これにより、カルシウム-リン生成物が血管石灰化の閾値を超えなくなる。いくつかの患者、特に骨粗しょう症に苦しむ患者の場合は、正の透析中カルシウム物質収支を達成することが望ましいので、リン酸カルシウム生成物が閾値レベルを超ないようにするのに充分なリン酸の量を除去しながら、混和性カルシウムプールのカルシウム成分および骨粗しょう症患者の骨表面に添加され、血管石灰化が予防される。骨粗しょう症に苦しむ患者に望ましい正の透析中カルシウム物質収支の量の決定は、当該技術分野の医師が行う定量的決定である。
【0023】
図3に示すように、本発明の方法により、当業者が、患者の血中のカルシウム濃度よりも充分に低い透析物中のカルシウム濃度を決定し、透析膜を通過する負の拡散勾配およびそれにより負の透析中物質収支を生成することが可能になり、蓄積したカルシウムの量がカルシウムの拡散により患者の血液から透析物へと除去され、完全透析サイクルの経過時に、通常0またはほぼ0の望ましいカルシウム物質収支が生じる。患者の混和性カルシウムプールが、患者の血清カルシウム濃度を正常または正常に近いレベルに回復させるのに充分なカルシウムの量を供給する前に、負の透析中カルシウム均衡により、患者血液中の血清カルシウム濃度の短期間の低下が引き起こされる。負の透析中物質収支が予想される患者は、通常、当該技術分野においてPTH不適切分泌症候群と称され、他には患者の骨から患者の血液へのカルシウムの移動を刺激して、望ましくない骨の欠損および脆化を引き起こす副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を予防するために、例えばシナカルセト(例えばSensipar(登録商標))などのカルシウム模倣剤を処方される。
【0024】
多くの場合に、標準的な規定の透析物は、約2.5mg/dLのカルシウム濃度を有する。患者の実質的な部分では、本発明の方法に関連するモデルの結果は、透析治療に、多くの場合に使用される標準的な濃度よりも低い透析物カルシウム濃度を使用することが望ましいことを示す。典型的に、より低い濃度は、約2.0〜約2.5mg/dL、より好ましくは約2.0〜約2.25mg/dLであるが、実質的な部分の患者は、完全透析サイクルの経過時に、通常0またはほぼ0の望ましいカルシウム物質収支を達成するために、負の透析中カルシウム物質収支を必要とするので、約1.5mg/dLの低透析物カルシウム濃度が使用され得る。
【0025】
混和性プール中の全カルシウムの変化Ca_MPは、
Ca_MP = Ca_HD - Ca_HD_C - Ca_EC_D
(1)
から、完全透析サイクル経過時に、カルシウム物質収支から求めることができ、式中、典型的にmgで測定されるCa_HDは、血液透析による全カルシウムの変化であり、典型的にmgで測定されるCa_HD_Cは、運搬による全カルシウムの変化であり、典型的にmgで測定されるCa_EC_Dは、一定容量での拡散による細胞外空間中の全カルシウムの変化である。
【0026】
血液透析による全カルシウムの変化Ca_HDは、
Ca_HD = J_Ca* T (2)
から求めることができ、式中、典型的にmg/分で測定されるJ_Caは、透析治療中のカルシウムの全流量であり、典型的に分で測定されるTは、全透析治療時間である。
【0027】
血液透析によるカルシウムの全流量J_Caは、
J_Ca = (D_Ca* (1 - Q_f / Q_pe)* (Dial_Ca* 2.0039 - C_iCa_m) - Q_f* C_iCa_m) / 100
(3)
から求めることができ、式中、典型的にmL/分で測定されるD_Caは、透析器のカルシウムのダイアリサンス(クリアランスの速度)であり、典型的にmL/分で測定されるQ_fは、透析治療中の流体の限外ろ過速度であり、典型的にmL/分で測定されるQ_peは、有効血漿流速であり、典型的にmEq/Lで測定されるDial_Caは、透析物カルシウム濃度であり、典型的にmg/dLで測定されるC_iCa_mは、イオン化カルシウムの平均血清濃度であり、2.0039の値は、カルシウムの原子量(40.078グラム/mol)に関するmEq/L(1リットル当たりのミリ等量)からmg/dLへの変換係数である。
【0028】
カルシウムのダイアリサンスD_Caは、
D_Ca = Q_pe* (1 - exp[(KoA_Ca / Q_pe)* (1 - Q_pe / Qd)]) / (Q_pe / Qd - exp[(KoA_Ca / Q_pe)* (1 - Q_pe / Qd)])
(4)
から求めることができ、式中、典型的にmL/分で測定されるKoA_Caは、カルシウムについての透析器質量転移係数であり、典型的にmL/分で測定されるQdは、透析物流速である。
【0029】
カルシウムについての透析器質量転移係数KoA_Caは、
KoA_Ca = 332*ln(Q_pe) - 1409 (5)
から求めることができる。
【0030】
有効血漿流速Q_peは、
Q_pe = 2* Q_p
(6)
から求めることができ、式中、典型的にmL/分で測定されるQ_pは、血漿流速である。血漿流速Q_pは、
Q_p = Qb* (1 - HCT / 100) (7)
から求めることができ、式中、典型的にmL/分で測定されるQbは、透析器中の血液流速であり、典型的にパーセントで測定されるHCTは、患者血液中のヘマトクリット数である。ヘマトクリット数は、患者血液中の、ほとんど(99%)が赤血球で、白血球および血小板もある有形成分のパーセントである。ヘマトクリット数は典型的に、透析患者の容量当たりの血液の約30%〜約42%である。
【0031】
限外ろ過速度Q_fは、
Q_f = UF_t*1000 / T (8)
から求めることができ、式中、典型的にリットルで測定されるUF_tは、治療前後の重量から計算され、治療中に投与された全流体を含む、全限外ろ過容量である。
【0032】
イオン化カルシウムの平均血清濃度C_iCa_mは、
C_iCa_m = C_iCa_t - ((C_iCa_0 - C_iCa_t) / (0.012* T))*(exp(-0.012* T) - 1)
(9)
から求めることができ、式中、典型的にmL/dLで測定されるC_iCa_tは、イオン化カルシウムの治療後血清濃度であり、典型的にmL/dLで測定されるC_iCa_0は、イオン化カルシウムの治療前血清濃度である。
【0033】
運搬による全カルシウムの変化Ca_HD_Cは、
Ca_HD_C = -Q_f* T* C_iCa_m / 100 (10)
から求めることができる。
【0034】
一定容量での拡散による細胞外空間の全カルシウムの変化Ca_EC_Dは、
Ca_EC_D = (C_iCa_t - C_iCa_0)* V_Ca_t* 10
(11)
から求めることができ、式中、典型的にリットルで測定されるV_Ca_tは、治療後のカルシウム分布容量である。
【0035】
治療後のカルシウム分布容量V_Ca_tは、
V_Ca_t = Vol_UKM / 3 (12)
から求めることができ、式中、典型的にリットルで測定されるVol_UKMは、UKMから求められる尿素の平均分布容量である。
【0036】
患者のリンの食事取り込みと等しいはずである患者から除去されるリンの全量P_diは、
P_di = (-P_HD_d / 0.75) + 25* N_PL + (186* Ln(Kru)+72)
(13)
から求めることができ、式中、典型的にmgで測定されるP_HD_dは、血液透析治療により除去されるリンの量であり、Kruは、患者の残存腎機能による尿素(residual renal clearance of urea)であり、N_PLは、患者に最初に処方されたPhosLo(登録商標)リン酸結合剤丸薬(667mg用量)の数である。PhosLo(登録商標)は典型的に、1丸薬当たり25mgのリンを除去する。残存腎機能による尿素Kruは、透析治療と透析治療の間に回収された尿の容量、尿BUN濃度および透析治療前後の血清BUN濃度の測定から計算できる。
【0037】
残存腎機能による尿素Kruは、
Kru = [(尿BUN)*(尿容量)]/[((BUN前およびBUN後)の平均)*(各透析間の時間)]
(14)
から得られ得る。
【0038】
患者の残存腎機能による尿素Kruは、典型的に単位mL/分で測定され、具体的な患者について未知である場合、ゼロに設定され得る。血液透析治療によって除去されるリンの量P_HDは、
P_HD =(-(D_P *(1 - Q_f/Q_pw)+ Q_f )* C_P_m)* T/100 (15)
から得られ得、式中、D_Pは、透析器のリンのダイアリサンスであり、典型的mL/分で表示され、Q_pwは、血漿水流速であり、典型的にmL/分で表示され、C_P_mは、平均血清リン濃度であり、典型的にmg/dLで表示される。
【0039】
透析器のリンのダイアリサンスは、
D_P = Q_pw *(1 - exp[(300/Q_pw)*(1 - Q_pw/Qd)])/(Q_pw/Qd - exp[(300/Q_pw)*(1 - Q_pw/Qd)])
(16)
から得られ得、式中、リンの透析器物質移動係数KoA_Pは300 mL/分である。
【0040】
血漿水流速Q_pwは、
Q_pw = 0.94 * Qb *(1 - HCT/100) (17)
から得られ得る。
【0041】
平均血清リン濃度C_P_mは、
C_P_m = C_P_0 *(1 -(1 - 1.1 *(C_P_t/ C_P_0))*(1 - exp(-1.73 * KtV_P)))
(18)
から得られ得、式中、C_P_0は、患者の治療前血清リン濃度であり、C_P_tは、患者の治療後血清リン濃度であり、KtV_Pは、透析器のリン透析適切性である。ヒト血清、血漿または尿中のリンは、自動臨床化学分析装置を用いて定量的に測定され得る。該分析装置によって使用される方法は測光的であってもよい。例えば、無機リン酸塩はモリブデン酸アンモニウムと、硫酸の存在下で、式(NH4)3[PO4(MoO3)12]を有するリンモリブデン酸アンモニウム錯体を形成する。該錯体の濃度は、紫外領域(340 nm)において測光的に測定され得る。R. J. Henry、Clinical Chemistry: Principles & Techniques、第2版. p. 723(1974)。
【0042】
KtV_Pは、透析によるリン除去の有効性の無次元測定値である。KtV_Pは、
KtV_P =((D_P * T)/(Vol_UKM/3))/1000
(19)
から得られ得る。
【0043】
血液透析によって除去されるリンの1日平均量P_HD_dは、
P_HD_d = P_HD * N_tx/7
(20)
から得られ得、
式中、N_txは、患者が1週間あたりに受ける透析治療の回数である。
【0044】
患者のリン酸塩結合剤の処方は、患者の透析前血清リン濃度C_P_0に基づいて調整され得る。患者のC_P_0がゼロ〜5.5mg/dL、すなわち推奨範囲内である場合、リン酸塩結合剤処方は維持される。患者のC_P_0が5.5mg/dL以上である場合は、一例としてPhosLo(登録商標)を使用し、リン酸塩結合剤の新たな推奨投与量N_PL_RECが、
N_PL_REC =(P_di +(nP_HD_d/0.75))/25
(21)
から得られ得、式中、nP_HD_d(典型的に単位mg/日で測定)は、透析によって除去されるリンの新たな1日平均量である。患者の安全性の考慮により、リン酸塩結合剤の処方の最大増量は3つの丸剤に設定され得る。
【0045】
透析によって除去されるリンの新たな1日平均量nP_HD_dは、
nP_HD_d = nP_HD * N_tx/7
(22)
から得られ得、式中、nP_HD(典型的に単位mgで測定)は、透析によって除去されるリンの新たな量であり、
nP_HD =(-(D_P *(1 - Q_f/Q_pw)+ Q_f)* nC_P_m)* T/100 (23)
から得られ得、式中、nC_P_m(典型的に単位mg/dLで測定)は、患者の新たな平均血清リン濃度である。
【0046】
調整リン酸塩結合剤投与量を考慮した患者の新たな平均血清リン濃度は、
nC_P_m = 5.5 *(1 -(1 - 1.1 *(C_P_t/C_P_0))*(1 - exp(-1.73 * KtV_P)))
(24)
から得られ得、これは等式18と、患者に対する所望の目的透析前血清リン濃度である主要素が5.5である点で異なる。
【0047】
調整リン結合剤処方によるものを含む血液透析治療中に拡散によって添加または除去されることが必要なカルシウムの量nCa_HD_Dは、
nCa_HD_D = -(nCa_abs_tx + Avg_Ca_HD_C)+Phys_Ca_Acc
(25)
から得られ得、式中、nCa_abs_tx(典型的に単位mgで測定)は、各治療間に患者によって吸収されたカルシウムの量であり、Avg_Ca_HD_C(典型的に単位mgで測定)は、限外濾過によって対流的に除去する平均カルシウムの量であり、Phys_Ca_Acc(典型的に単位mgで測定)は、患者の系にカルシウムを付加するか減らすかのいずれかを必要とする医師が患者に対して処方し得る正味カルシウム蓄積である。上記のように、ほとんどの患者で正味カルシウム蓄積はほぼゼロである。限外濾過によって対流的に除去する平均カルシウムの量は、最初にCa_HD_Cに設定され、等式10から計算され、患者が充分な回数の血液透析治療を受けた後、先の3ヶ月間でのCa_HD_Cの平均からAvg_Ca_HD_Cを得る。
【0048】
各治療間に患者によって吸収されたカルシウムの量は、
nCa_abs_tx = nCa_abs * 7/N_tx
(26)
から得られ得、式中、nCa_abs(典型的に単位mgで測定)は、リン結合剤処方を含む患者によって吸収された全カルシウム量であり、
nCa_abs =(16.64 * ln(C_D3)+19.5)* ln(Ca_Di+nCa_PL)- 38.8 * ln(C_D3)- 216
(27)
から得られ得、式中、C_D3(典型的に単位pg/L(ピコグラム/リットル)で測定)は、活性ビタミンD3の血清濃度であり、Ca_Di(典型的に単位mg/日で測定)は、患者の食事からのカルシウム摂取であり、nCa_PL(典型的に単位mgで測定)は、リン結合剤の新しい処方投与量からの患者のカルシウム取込量である。
【0049】
活性ビタミンD3の血清濃度C_D3は、
C_D3 = 36 * Vit_D (28)
から得られ得、式中、Vit_D(典型的に単位mcg/治療(マイクログラム/治療)で測定)は、カルシトリオール(ビタミンD3アナログ)の患者の現時点の処方投与量である。患者にビタミンD3アナログとしてZemplar(登録商標)またはHectorol(登録商標)が処方された場合は、C_D3は、
C_D3 = 4.5 * Vit_D
(29)
から得られ得る。
【0050】
患者の食事からのカルシウム摂取Ca_Diは、
Ca_Di = 2.25 * ePCR + 139 (30)
から得られ得、式中、ePCR(典型的に単位mg/日で測定)は、UKMから得られる患者のタンパク質の1日取込量である。
【0051】
リン結合剤からの患者のカルシウム取込nCa_PLは、
nCa_PL = 169 * N_PL
(31)
から得られ得、式中、N_PLは、患者に処方されたPhosLo(登録商標)丸剤の数である。
【0052】
リン結合剤からの患者のカルシウム摂取を考慮した透析物中のカルシウム濃度nC_Ca_dialは、
nC_Ca_dial = 1.12 *(nCa_HD_D /(D_Ca *(1-Q_f/Q_pe))+nC_iCa_m)/2.0039
(32)
から得られ得、式中、nCa_HD_Dは等式25から得られ、nC_iCa_mは、新たな平均血清イオン化カルシウム濃度であり、
nC_iCa_m = nC_iCa_t -((Avg_C_iCa_0 - nC_iCa_t)/(0.012 * T))*(exp(-0.012 * T)- 1) (33)
から得られ得、式中、nC_iCa_t(典型的に単位mg/dLで測定)は、治療後イオン化カルシウムの新たな血清濃度であり、Avg_C_iCa_0(典型的に単位mg/dLで測定)は、イオン化カルシウムの平均治療前血清濃度である。最初に、イオン化カルシウムの平均治療前血清濃度は、治療前に測定された患者の測定されたイオン化カルシウムの治療前血清濃度であるC_iCa_0に設定される。患者が充分な回数の血液透析治療を受けた後、先の3ヶ月でのC_iCa_0の平均からAvg_C_iCa_0を得る。
【0053】
患者の測定されたイオン化カルシウムの治療前血清濃度は、
C_iCa_0 = C_Ca_0 * 0.5
(34)
から得られ得、式中、C_Ca_0(典型的に単位mg/dLで測定)は、全(結合およびイオン化)カルシウムの治療前血清濃度である。
【0054】
透析物中のカルシウム濃度の選択肢は、例えば、高いまたは低い血清総カルシウム濃度を有する患者などの、さらなる患者の安全性考慮によって影響され得る。透析物のカルシウム濃度の商業的に利用可能な選択肢は、典型的に2.0、2.25、2.5、および3.0mEq/Lである。等式28から計算される透析物のカルシウム濃度nC_Ca_dialは、以下:
a)nC_Ca_dial≦2.125mEq/Lであれば、Dial_Ca = 2.0mEq/L
b)2.126mEq/L≦nC_Ca_dial≦2.374mEq/Lであれば、Dial_Ca = 2.25mEq/L
c)nC_Ca_dial≧2.375mEq/Lであれば、Dial_Ca = 2.5mEq/L
のように利用可能な選択肢に丸める(round)。
【0055】
患者の透析前血清リン濃度が推奨範囲内であり、リン酸塩結合剤処方に提案される変化はないが、カルシウム蓄積が疑われ、計算されたnC_Ca_dialが患者の現時点の透析物処方と異なる場合、透析物のカルシウム濃度の変化は、患者の現時点の透析物処方から0.25mEq/L以下であるべきである。例えば、2.5mEq/Lを処方されており、計算されるnC_Ca_dialが2.0mEq/Lである患者は、最初は、2.25mEq/Lの処方が提案される。現時点で3.0mEq/L以上の透析物のカルシウム濃度を処方されており、所望のカルシウム蓄積がゼロである任意の患者は、リン酸塩結合剤処方に変化がない場合は2.5mEq/Lへの低減、またはリン酸塩結合剤処方に変化がある場合は上記のようにして丸めて計算される透析物のカルシウム濃度への低減が提案される。
【0056】
患者の推奨血清全(イオン化および結合)カルシウム濃度は8.4〜9.5mg/dLである。患者の安全性考慮のため、患者が9mg/dLより高い透析前の血清総カルシウム濃度を有する場合は、透析物のカルシウム濃度の増大は推奨されない。患者が7.99mg/dL以下の透析前の血清総カルシウム濃度を有する場合は、2.5mEq/Lの透析物のカルシウム濃度が使用される。患者が8.0〜8.49mg/dLの透析前の血清総カルシウム濃度を有する場合は、上記の最も近い選択肢に丸めた2.25または2.5mEq/Lの透析物のカルシウム濃度が使用される。患者が8.5mg/dL以上、すなわち推奨範囲内の値の透析前の血清総カルシウム濃度を有する場合は、上記の最も近い選択肢に丸めた透析物のカルシウム濃度の任意の利用可能な選択肢が使用され得る。
【0057】
また、透析物流中へのカルシウムの流量MCaは、例えば、NOVA 8(Nova Biomedical)などのカルシウムイオン選択的電極(ISE)を用いて直接測定され得る。G. N. Bowers,C. Brassard、およびS. F. Sena、Measurement of Ionized Calcium in Serum with Ion-Selective Electrodes: A Mature Technology That Can Meet the Daily Service Needs、32 Clinical Chemistry pp. 1437-1447(1986)参照。
【0058】
次に図4に移ると、透析装置100に流れ込む血液は、尿毒症毒素10ならびに拡散性および対流性輸送によって透析膜30を通過して血液側40から透析物側50に移動するカルシウムイオン20を含む。拡散性輸送は、血液側40と透析物側50間の濃度勾配によって生じる。対流性輸送は、流体静力学的力によって駆動される透析膜30を通過する流体の運動によって生じる。透析物中のイオン化カルシウムの流入濃度CdiCa++は、カルシウムISE 60によって測定され得る。透析物中のイオン化カルシウムの流出濃度CdoCa++は、カルシウムISE 70によって測定され得る。即時透析内カルシウム質量バランスMinstCa++は、
MinstCa++= CdiCa++ * Qdi- CdoCa++ *(Qdi+Qf)(35)
から得られ得、式中、Qd1(典型的に単位ml/分で測定)は透析物流速である。全透析治療で測定された透析内カルシウム質量バランスmeasCaMBHDは、
measCaMBHD = MinstCa++ * td
(36)
から得られ得、これは、等式2から得られるモデルの結果と比較され得る。
【0059】
調整カルシウム濃度を含む透析物溶液は、次いで、患者の透析治療の実施に使用される。透析治療は、当該技術分野で公知の透析器(例えば、Fresenius Medical Care、Baxter Healthcare)が使用される血液透析治療であり得る。好ましい血液透析治療では、透析治療中に大量のリンを除去することができ、したがって、患者にリン酸塩結合剤を投与する必要性を低減する高流量透析器(例えば、Fresenius Medical Care 180NR)が使用され得る。また、連続腎置換両方または低流量透析器を用いる患者の処置にはモデルが使用され得る。
【実施例】
【0060】
実施例
実施例1
高流量透析器(180NR)により、それぞれ400ml/分および500ml/分の血液流および透析物流で、1.75〜3.0mEq/LのCdiCa++で32の透析において、9名の血液透析患者(Pt)をモニタリングした。測定データ: t = 0、60分および透析終了時における血漿Ca++(CpCa++Meas);2名のPt(D10)ではNOVA 8(カルシウムイオン感受性電極)および7名のPt(DCOL)では透析物収集による10分毎のCdiCa++およびCdoCa++(流出)。先に記載されたCa速度論モデル(Blood Purifi 25:139-149、2007)を使用し、対流性および拡散性Ca流量(JCCa、JDCa)を計算した;Miscible Calcium Pool(MCP)におけるCa(MCa)の移動または封鎖;D10では10分毎およびDCOLでは3回のCa++質量バランス(CaMB)およびCpCa(CpCa++Calc)。CpCa++Calcの値(Ca流量およびダイアリサンスから計算)とのCpCa++Measの比較からD10モデルを検証した。CaMBは、(CdiCa++-CpiCa++)およびKMP = MCa/(MCa+ JdCa)としてのMiscible Calcium Pool Buffer Coefficient(KMP)(式中、KMPは、血漿および細胞外液ではなくMCPに由来するJdCaの関数を示す)の関数として計算した(ΔCaECW)。等式1の表示において、KMP = |Ca_MP| /(|Ca_MP| + |Ca_EC_D|)である。3つのCpCa++Meas値を、CpCa++Measが漸近線としての終了時透析値に近づくため、CpCa++Measが10分毎にCpCa++Calcと比較され得る連続関数にフィットさせた。
【0061】
CpCa++CalcとのCpCa++Measの相関: Pt1では:
CpCa++ Meas=.88*CpCa++Calc+.88、n=62,R2= 94。Pt2では: CpCa++Meas = .76*CpCa++Calc +1.7、n=91、R2=.91。(CdiCa++ - CpiCa++)とのCaMBの関係を図5に示す。相関は、D10およびDCOLの両方で非常に良好であり、D10で非常に高い。図6に示す(CdiCa++- CpiCa++)とのKMPの関係は、拡散性Ca流量の嵩は、正および負の勾配の両方で、CaECWではなくMCPから誘導されることを示す。勾配 = -.75mEq/Lで、Ca除去は450〜550mgであり、そのうち80%はMCPに由来する。
【0062】
これらのデータは、広範な透析器のCa拡散勾配におけるCaECWの変化のMCP緩衝の大きさの見込み定量の最初の報告を示し、拡散性流量の80%はMCPに由来することを示す。(CdiCa++ - CpiCa++)に対するCaMBとD10との非常に高い相関は、流入/流出におけるCdiCa++およびCdoCa++電極の配置により、CaMBの信頼性のあるリアルタイムオンラインモニタリングが提供され得ることを示す。また、JdCaおよびKMPは、既知のCdiCa++およびCaダイアリサンスとともに透析前および透析後のCpCa++の測定から計算され得る。
【0063】
結論として、拡散性透析器のCa流量の80%は、MCPによって緩衝され、これにより、かなりの量のCa除去中にΔCaECWの変化が大きく低減されることがわかった。また、(CdiCa++ - CpiCa++)= -.75mEq/Lで約500mgのCa除去が達成された。
【0064】
実施例2
患者1は、19ヶ月間(vintage)の透析を受けている糖尿病の53歳のアフリカ系アメリカ人の男性であった。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間、3ヶ月間、および1ヶ月間の平均血清Pは、それぞれ、7.0、6.5、および6.8mg/dLであった。これらの値はすべて、推奨ガイドライン3.5〜5.5mg/dL外である。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間の平均血清Caは9.1mg/dLであり、これは、推奨ガイドライン8.4〜9.5mg/dLの範囲内である。試験前の6ヶ月間において、患者1には、1日3錠(800mg)のRenagel(登録商標)錠剤を処方した。1ヶ月に1回6ヶ月間(試験0ヶ月〜第5ヶ月)、PKMモデルの入力値を収集し、推奨結合剤処方および透析物のカルシウム濃度を計算した。図7に示されるように、試験期間中、血清Pレベルを推奨ガイドラインに下げるため、患者1の結合剤処方をPhosLo(登録商標)丸剤(丸剤1粒あたり667mg)1日6粒、次いで7粒に増やした。さらに、図8に示されるように、カルシウム吸収の増大を回避するため、透析物のカルシウム濃度を2.5から2.25meq/Lに下げた。6ヶ月の試験期間で、平均血清Pは4.0mg/dLであり、平均血清Caは9.0mg/dLであった。血清PおよびCaは両方とも、試験期間中、推奨ガイドラインの範囲内であった。
【0065】
実施例3
患者2は、41ヶ月間の透析を受けている糖尿病の61歳のアフリカ系アメリカ人の男性であった。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間、3ヶ月間、および1ヶ月間の平均血清Pは、それぞれ、7.6、7.8および7.7mg/dLであった。これらの値はすべて、推奨ガイドライン3.5〜5.5mg/dL外である。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間の平均血清Caは8.6mg/dLであり、これは、推奨ガイドライン8.4〜9.5mg/dLの範囲内である。試験前の6ヶ月間において、患者2に1日6錠のPhosLo(登録商標)錠剤を処方した。1ヶ月に1回6ヶ月間(試験0ヶ月〜第5ヶ月)、PKMモデルの入力値を収集し、推奨結合剤処方および透析物のカルシウム濃度を計算した。図9に示されるように、試験期間中、血清Pレベルを推奨ガイドラインに下げるため、患者2の結合剤処方を、PhosLo(登録商標)丸剤1日12粒、次いで15粒に増やした。さらに、図10に示されるように、カルシウム吸収の増大を回避するため、透析物のカルシウム濃度を2.25から2.0meq/Lに下げた。6ヶ月の試験期間で、平均血清Pは5.9mg/dLであり、平均血清Caは9.3mg/dLであった。目標ガイドラインには適さなかったが、平均血清Pは22%低下した。平均血清Caは試験期間中、推奨ガイドラインの範囲内であった。試験の最後の3ヶ月間での平均血清Pは5.3mg/dLであった。試験において観察を継続すると、おそらく、継続して推奨ガイドライン内の血清P値がもたらされよう。
【0066】
実施例4
患者3は、22ヶ月間の透析を受けている糖尿病の72歳の白人女性であった。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間、3ヶ月間、および1ヶ月間の平均血清Pは、それぞれ、6.2、6.6、および6.8mg/dLであった。これらの値はすべて、推奨ガイドライン3.5〜5.5mg/dL外である。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間の平均血清Caは8.1mg/dLであり、これは、推奨ガイドライン8.4〜9.5mg/dLよりも低かった。図11に示されるように、試験前の6ヶ月間において、患者3を1日6錠のPhosLo(登録商標)錠剤を処方した。1ヶ月に1回7ヶ月間(試験0ヶ月〜第6ヶ月)、PKMモデルの入力値を収集し、推奨結合剤処方および透析物のカルシウム濃度を計算した。試験期間中、患者1の結合剤処方を1日6粒のPhosLo (登録商標)丸剤に維持した。図12に示されるように、透析物のカルシウム濃度を3.0から2.5meq/Lに下げた。6ヶ月の試験期間で、平均血清Pは5.3mg/dLであり、平均血清Caは9.0mg/dLであった。血清PおよびCaは両方とも、試験期間中、推奨ガイドラインの範囲内であった。リン結合剤投与量は増やさなかったが、血清リン濃度の低下は、試験プログラムによって提供されるさらなる教育およびモニタリングの結果、食事および処方に対する患者の意識の増大によるものであり得る。
【0067】
実施例5
患者4は、40ヶ月間の透析を受けている糖尿病の63歳の白人男性であった。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間、3ヶ月間、および1ヶ月間の平均血清Pは、それぞれ、5.9、6.2、および7.0mg/dLであった。これらの値はすべて、推奨ガイドライン3.5〜5.5mg/dL外である。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間の平均血清Caは8.9mg/dLであり、これは、推奨ガイドライン8.4〜9.5mg/dLの範囲内である。試験前の6ヶ月間において、患者4に1日12錠のPhosLo(登録商標)錠剤を処方した。1ヶ月に1回6ヶ月間(試験0ヶ月〜第5ヶ月)、PKMモデルの入力値を収集し、推奨結合剤処方および透析物のカルシウム濃度を計算した。図13に示されるように、試験期間中、患者4の結合剤処方を、血清Pレベルを推奨ガイドラインの範囲内に下げる試みにおいて、PhosLo(登録商標)丸剤1日12粒から21粒に一定に増大させた。さらに、図14に示されるように、カルシウム吸収の増大を回避するため、透析物のカルシウム濃度を2.25から2.0meq/Lに下げた。6ヶ月の試験期間で、平均血清Pは6.6mg/dLであり、平均血清Caは8.9mg/dLであった。血清Caは試験期間中、推奨されガイドラインの範囲内であった;しかしながら、血清Pは推奨範囲に達しなかった。PKMモデルにより、患者の血清リン濃度を低下させるためのリン結合剤投与量が示唆され得るが、患者がこの処方または推奨される食事に従わなければ、血清リン濃度は低下しない。
【0068】
本明細書に引用した特許、公開出願および参考文献の関連のある教示はすべて参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0069】
本発明を、その好ましい態様を参照して具体的に示し、記載したが、形態および詳細における種々の変形が、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱せずになされ得ることは、当業者によって理解されよう。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年10月17日に出願された米国特許仮出願第61/196,420号の恩典を主張する。
【0002】
上記出願の全教示は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
軟組織石灰化は、透析患者における罹患率および死亡率の主要な原因である。この軟組織の石灰化は、体内のカルシウムおよびリンの過剰な量および/または蓄積のためであると考えられている。G. R. Bailie, Calcium and Phosphorus management in chronic kidney disease: Challenges and trends, 39 Formulary pp. 358-365 (2004)参照。血管石灰化は、心筋機能障害、心不全および心停止に関係があるので、透析患者において特に問題である(同書)。
【0004】
一般的に、血漿カルシウム濃度は、非常に狭い範囲(典型的に約1.1〜約1.3mmol/L)に維持されている。J. T. Daugirdas, P. G. Blake, and T. S. Ing, Handbook of Dialysis, (2007)参照。ホルモン的にカルシウムレベルは、イオン化カルシウム(Ca2+)の正常範囲未満への低下に応答して、副甲状腺によって分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)により調節される。PTHは、骨から血液および細胞外液(ECF)へのカルシウムおよびその対イオンリンの移動を刺激し、さらに腎臓によるカルシウム吸収およびリン排出を増加する。また、カルシウムレベルは、ビタミンD3の取り込みによっても調節され、食事によるカルシウムの吸収を調節する主要な部位である腸によるカルシウムおよびリン吸収が増加する。ビタミンD3の取り込みは、食事供給源由来であり得るか、または、例えばカルシトリオール(例えば、ロカルトロール(登録商標))、ドキセルカルシフェロール(例えば、Hectorol(登録商標))、またはパリカルシトール(例えば、Zemplar(登録商標))などのビタミンD3アナログ由来であり得る。イオン化カルシウムレベルが低すぎると興奮性亢進およびテタヌス様痙攣が起こるが、イオン化カルシウムレベルが高すぎると、筋肉麻痺および昏睡のために死ぬことがある。
【0005】
血液透析中のカルシウムレベルの調節の重要性にも関わらず、透析患者におけるカルシウム均衡の調節方法は充分に理解されていない。一般的に、慢性腎不全を有する患者において、正味のカルシウム吸収およびカルシウム取り込みの両方は低下しているが、上述のように、IVビタミンD3の使用により、カルシウム吸収は増加する。また、腎臓の糸球体ろ過率(GFR)の低下により、尿カルシウム排泄が低下する。従って、排出の低下により、末期腎不全(ESRD)を有する患者は正のカルシウム物質収支血清を有するようになる。
【0006】
同様に、腎臓によるリンの排出の欠如のために、腎機能不全を有する患者ではリンが蓄積し、この過剰なリンは透析治療により充分に除去されないことがある。その結果、ほぼ全てのESRD患者は高リン血症を発症する(同書)。血清リンレベルの上昇により引き起こされるさらなる合併症は、カルシウム-リン(Ca x P)生成物の増加であり、血管、心臓および他の軟組織のリン酸カルシウムの沈殿および石灰化を予防するために、これを55mg2/dL2の閾値未満に維持する必要がある(同書)。過剰なリンを除去するために、患者は通常、酢酸カルシウムまたは炭酸カルシウムなどのリン酸結合剤を与えられるが、これらのカルシウム含有化合物は患者にさらなるカルシウム負荷を与える。それでも、低イオン化カルシウムレベルにより低血圧、心筋収縮性の低下および二次的な副甲状腺機能低下症の悪化が引き起こされ得るので、カルシウムレベルは通常濃度範囲内に維持しなければならない。
【0007】
血液透析患者の透析中カルシウムおよびリン物質収支のための血液透析患者の透析中カルシウムおよびリン物質収支の調節の必要性にも関わらず、これまでそれを行うのに充分な方法はなかった。それを行う上での1つの課題は、例えば、患者の透析中カルシウムおよびリン蓄積または欠乏は、単に血液透析治療前の患者の血清カルシウム濃度を測定するだけでは正確に決定できないということである。これは、例えば血清カルシウムの生理学的な調節により、血清カルシウム濃度が、患者の透析中カルシウム物質収支を示さない狭い範囲に維持されているためである。
【0008】
過去20年において、透析の妥当性の評価における同様の問題が、尿素動態モデリング(UKM)により議論されてきた。透析治療後の低濃度血中尿素は、不充分な栄養摂取または適切な透析のいずれかの結果であり得たので、モデリングが必要であった。National Kidney Foundation Clinical Practice Guidelines for Hemodialysis Adequacy, American Journal of Kidney Diseases, Vol 30 (3) Suppl. 2 (1997)参照。透析妥当性の標準的な基準は、通常mL/分単位である患者血液からの物質の除去の透析器速度K、通常分単位である透析治療の全時間、および通常リットル単位である(およびmLに変換される)患者体内の物質の分布の容量からなる無次元量で、Kt/Vと称される。適切な透析の典型的なKt/Vの値は約1.2であり、これは、所定の患者(定数V)について、より長い時間(大きなt)の透析治療、またはより効率的な透析器(高いK)により達成される。透析妥当性のマーカーとして選択される物質は尿素であった。F. G. Casino, and T. Lopez, The equivalent renal urea clearance. A new parameter to assess dialysis dose, Nephrol. Dial. Transplant., Vol. 11 pp. 1574-1581 (1996)参照。
【0009】
尿素は、タンパク質異化の主要な最終生成物であり、透析治療間の体内水分に蓄積する老廃物窒素の約90%を構成する。尿素自体は特に毒性ではなく、その濃度は血液尿素窒素(BUN)測定から容易に計算されるので、透析の妥当性の測定のための指標として採用された。BUNは、通常mg/dLで表される濃度であるが、尿素のグラムを求めるために必要な他の変数は、患者体内の尿素の分布容量である。該分布容量は、かん流された領域(腕および足など)から細胞外空間への尿素の移動が乏しいことを考慮して、透析を行った後、尿素動態モデリング(UKM)から求められる。この分布容量は、二倍プール(double pool)または平衡化分布容量と称され、最終的に平衡化タンパク質異化速度(ePCR)と称される。T. Depner, and J. Daugirdas, Equations for normalized protein catabolic rate based on two-point modeling of hemodialysis urea kinetics, Journal of the American Society of Nephrology, Vol. 7 (5), pp. 780-785 (1996)参照。
【0010】
透析治療パラメータおよび医薬製剤を個々の患者の必要に合わせることができるように、リン管理のための動的モデリングアプローチを採用すること、食事から患者が吸収するリンおよびカルシウムの量を定量することならびに透析治療による除去量およびリン結合剤の投与量を定量することが必要である。このアプローチはリン動態モデリング(PKM)と称される。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
本発明は、望ましい正味のカルシウム蓄積を達成しながらも望ましい濃度範囲内の透析前血清リン濃度を達成するための、透析治療を受けている患者に対するリン結合剤の投与量を決定する方法に関する。該方法は、患者の透析前血清リン濃度が望ましい範囲内にある場合に、透析治療により除去されるリンの量の変化を考慮(account for)しながら、望ましい濃度範囲内にある患者の透析前血清リン濃度を達成するリン結合剤の投与量を決定する工程、完全透析サイクルの経過時に望ましい正味のカルシウムの蓄積を生じる透析物カルシウム濃度を決定する工程、および該決定に基づくカルシウム濃度を含む透析物で患者を透析する工程を含む。いくつかの態様において、患者は、腎機能不全、腎不全、腎臓病、高リン血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、末期腎不全および癌からなる群より選択される少なくとも1つの疾患または状態を有する。
【0012】
特定の態様において、透析物カルシウム濃度は、完全透析サイクル経過時のカルシウム物質収支から決定することができる。いくつかの特定の態様において、望ましい正味のカルシウムの蓄積はおよそ0である。
【0013】
いくつかの態様において、患者の透析前血清リン濃度の望ましい範囲は、約3.5mg/dL〜約5.5mg/dLである。特定の態様において、透析物カルシウム濃度は、ある透析治療から次の透析治療までの透析物カルシウム濃度を変化させることにおけるさらなる患者の安全性関心を考慮して決定される。
【0014】
従って、本発明は、腎臓代償療法を受けている患者における、カルシウムおよびリンの蓄積および除去の規模を理解および調節して、カルシウム均衡を望ましいレベルで最適化するための機構を提供する。かかる患者における全カルシウムおよびリン輸送を定量的に推定する能力により、臨床医および他の医療従事者が、透析治療中および/または透析治療間のカルシウムおよびリン物質収支を調節して、カルシウムおよび/またはリンの潜在的に望ましくない蓄積または枯渇を予防することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
前述のものは、異なる図において、同様の参照記号が同じ部分を言及する添付の図面において示されるように、本発明の例示態様の以下のより詳細な説明から明らかであろう。図面は、必ずしも同じ縮尺であるとは限らず、本発明の態様の例示に重点が置かれる。
【図1】図1は、患者におけるカルシウム物質収支の3つの構成要素を表すブロック図である。
【図2】図2は、完全透析サイクル経過時の負のカルシウム物質収支状態(CaAbs << FAbs)下の患者におけるカルシウム分布を表すブロック図である。
【図3】図3は、完全透析サイクル経過時の正のカルシウム物質収支状態(CaAbs >> FAbs)下の患者におけるカルシウム分布を表すブロック図である。
【図4】図4は、透析物の流入および流出カルシウム濃度の測定のための、カルシウムイオン選択的電極を含む透析装置を表す。
【図5】図5は、透析中カルシウム物質収支の関数としての(CdιCa++ - CpiCa++)のグラフである。
【図6】図6は、KMPの関数としての(CdiCa++- CpiCa++)のグラフである。
【図7】図7は、患者1についての時間の関数としての血清リン濃度およびリン結合剤丸薬の処方総数のグラフである。
【図8】図8は、患者1についての時間の関数としての血清カルシウム濃度および透析物カルシウム濃度のグラフである。
【図9】図9は、患者2についての時間の関数としての血清リン濃度およびリン結合剤丸薬の処方総数のグラフである。
【図10】図10は、患者2についての時間の関数としての血清カルシウム濃度および透析物カルシウム濃度のグラフである。
【図11】図11は、患者3についての時間の関数としての血清リン濃度およびリン結合剤丸薬の処方総数のグラフである。
【図12】図12は、患者3についての時間の関数としての血清カルシウム濃度および透析物カルシウム濃度のグラフである。
【図13】図13は、患者4についての時間の関数としての血清リン濃度およびリン結合剤丸薬の処方総数のグラフである。
【図14】図14は、患者4についての時間の関数としての血清カルシウム濃度および透析物カルシウム濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の方法を使用する、定期的な透析治療を受けている患者のリンおよびカルシウム代謝の管理における主要な工程は、カルシウムの蓄積を調節し、血管石灰化および死亡を抑制するために、典型的に:(1) 透析前の患者の血清濃度が望ましい濃度範囲内にある場合に、透析治療により除去されるリンの量の変化を考慮しながら、望ましい濃度範囲内にある患者の透析前血清リン濃度を達成し得る、例えばカルシトリオール、Hectorol(登録商標)またはZemplar(登録商標)などのビタミンD3アナログの患者の投与量および例えば酢酸カルシウム(例えばPhosLo(登録商標)(667mg用量、Fresenius Medical Care, Waltham, MA))もしくは炭酸カルシウムもしくは塩酸セベラマー(例えばRenagel(800mg用量、Genzyme Corp., Cambridge, MA))またはそれらの組合せなどのリン酸結合剤の患者の投与量を与えた患者のカルシウムおよびリンの吸収の定量的な評価を含む、患者のカルシウムおよびリンの透析間の取り込みを定量的に評価すること、(2) 完全透析サイクル経過時の患者の望ましいカルシウム物質収支を決定すること、(3) 透析中カルシウム物質収支を計算すること、(4) 透析中リン物質収支を計算すること、ならびに(5) リン動態モデル(PKM)を用いて、完全透析サイクル経過時に望ましいカルシウム物質収支を達成するために透析治療に使用される透析物の望ましいカルシウム濃度を決定することを含む。
【0017】
本願で規定されるように、患者の透析間カルシウム物質収支は、透析治療と透析治療の間に患者に吸収されるカルシウムの量を考慮し、透析中カルシウム物質収支は、特定の透析治療中に患者の血液と透析物の間で交換されるカルシウムの量を考慮する。本願で規定されるように、定期的な透析治療は、典型的に数日間隔、典型的には一週間に3回行われるが、治療と治療の間の期間は一定である必要はない。一貫した週3回のスケジュールでは、典型的に週末にかけて2回の2日透析間期間と1回の3日透析間期間が生じる。さらに、場合によっては、患者は、過剰な流量を流す必要がある場合に、最後の治療から少し後に治療を受けることができる。
【0018】
本発明の方法は、例えば腎機能不全、腎不全、腎臓病、高リン血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、末期腎不全および癌などの腎臓機能に影響を及ぼす疾患または状態を有するために透析治療を受けているヒト患者に適用される。患者の透析治療は、患者の腎臓の正常な機能に取って代わるまたは補充する治療である。
【0019】
透析治療と透析治療の間に、通常患者は、乳製品などの食事供給源からカルシウムおよびリンを摂取し、リンの場合はタンパク質およびソフトドリンクから摂取する。通常は酢酸カルシウム(例えばPhosLo(登録商標)(667mg用量、Fresenius Medical Care, Waltham, MA))または炭酸カルシウムまたは塩酸セベラマー(例えばRenagel(登録商標)(800mg用量、Genzyme Corp., Cambridge, MA))、またはそれらの組合せであり、約3.5〜約5.5mg/dL、好ましくは約4.5mg/dLの患者の透析前血中リン濃度を達成すると規定される前述のリン酸(PO4)結合剤の取り込みは、患者の血清カルシウムレベルにも影響を及ぼし得る。リン酸結合剤は、患者に摂取されたリンを、吸収されずに患者の体内から排出される結合(リン酸)形態に変換する。患者に吸収されて体内に入るカルシウムの量は、例えば、カルシトリオール、Hectorol(登録商標)またはZemplar(登録商標)などの規定量のビタミンD3アナログの量にも影響を受け得る。図1に示すように、イオン化カルシウムの患者体内での分布容量は、細胞外水(ECW)の容量である。患者の体は、カルシウムを、患者髄膜液および患者骨表面の交換可能な表面カルシウムからなる混和性(miscible)カルシウムプールと交換することにより、患者血液中の血清イオン化(Ca+2)カルシウム濃度を、通常約4.6mg/dL〜約5.3mg/dL、より好ましくは約4.8〜約5.2mg/dLである正常レベルまたは正常に近いレベルに維持する。
【0020】
透析治療と透析治療の間に、通常、患者の血液は過剰な流体を蓄積するが、それは通常患者のくるぶしおよび下肢における腫脹および水腫を予防するための透析治療中の運搬によって除去される。しばしば、カルシウム濃度がほぼ0である過剰な流体が患者の体内に入る。患者の体は、食事または前述のカルシウム供給源から患者が吸収したカルシウムの量が不充分である程度まで、混和性カルシウムプール由来のカルシウムを使用し、過剰な流体中のカルシウム濃度を正常または正常に近いレベルまで上げる。透析治療中に、過剰な流体は正常または正常に近い濃度のカルシウムを含んだまま患者の体から除去され、患者の混和性カルシウムプールのカルシウムの量は枯渇する。任意の特定の理論に拘束されることを望まないが、枯渇サイクルの反復により、患者の骨中のカルシウムの欠損が引き起こされ、骨の脆化が起こると考えられているので、患者の混和性カルシウムプールの枯渇を防ぐことが望ましい。
【0021】
図2に示されるように、本発明の方法により、臨床の当業者が、除去されるカルシウム含有流体の濃度を考慮しながら、患者の血中カルシウム濃度よりも充分に高い透析物の濃度を決定して、透析膜を通過する正の拡散勾配を生成し、正の透析内物質収支を生成することが可能になる。この方法では、透析物から患者血液へのカルシウム拡散によりカルシウムの量が添加され、完全透析サイクルの経過時に、通常0またはほぼ0である望ましいカルシウム物質収支がもたらされる。
【0022】
典型的に、食事または前述の医学的に処方された供給源からカルシウムを吸収した患者では、通常ミリグラム(mg)で測定されるカルシウムの量が、混和性カルシウムプール(MCP)に添加される。多くの患者にとって、透析間期間および透析中治療期間を含む完全透析サイクルの経過時に、透析治療と透析治療の間に蓄積したカルシウムの量を患者の血液から除去することにより、0またはほぼ0のカルシウム物質収支を達成することが望ましい。これにより、カルシウム-リン生成物が血管石灰化の閾値を超えなくなる。いくつかの患者、特に骨粗しょう症に苦しむ患者の場合は、正の透析中カルシウム物質収支を達成することが望ましいので、リン酸カルシウム生成物が閾値レベルを超ないようにするのに充分なリン酸の量を除去しながら、混和性カルシウムプールのカルシウム成分および骨粗しょう症患者の骨表面に添加され、血管石灰化が予防される。骨粗しょう症に苦しむ患者に望ましい正の透析中カルシウム物質収支の量の決定は、当該技術分野の医師が行う定量的決定である。
【0023】
図3に示すように、本発明の方法により、当業者が、患者の血中のカルシウム濃度よりも充分に低い透析物中のカルシウム濃度を決定し、透析膜を通過する負の拡散勾配およびそれにより負の透析中物質収支を生成することが可能になり、蓄積したカルシウムの量がカルシウムの拡散により患者の血液から透析物へと除去され、完全透析サイクルの経過時に、通常0またはほぼ0の望ましいカルシウム物質収支が生じる。患者の混和性カルシウムプールが、患者の血清カルシウム濃度を正常または正常に近いレベルに回復させるのに充分なカルシウムの量を供給する前に、負の透析中カルシウム均衡により、患者血液中の血清カルシウム濃度の短期間の低下が引き起こされる。負の透析中物質収支が予想される患者は、通常、当該技術分野においてPTH不適切分泌症候群と称され、他には患者の骨から患者の血液へのカルシウムの移動を刺激して、望ましくない骨の欠損および脆化を引き起こす副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を予防するために、例えばシナカルセト(例えばSensipar(登録商標))などのカルシウム模倣剤を処方される。
【0024】
多くの場合に、標準的な規定の透析物は、約2.5mg/dLのカルシウム濃度を有する。患者の実質的な部分では、本発明の方法に関連するモデルの結果は、透析治療に、多くの場合に使用される標準的な濃度よりも低い透析物カルシウム濃度を使用することが望ましいことを示す。典型的に、より低い濃度は、約2.0〜約2.5mg/dL、より好ましくは約2.0〜約2.25mg/dLであるが、実質的な部分の患者は、完全透析サイクルの経過時に、通常0またはほぼ0の望ましいカルシウム物質収支を達成するために、負の透析中カルシウム物質収支を必要とするので、約1.5mg/dLの低透析物カルシウム濃度が使用され得る。
【0025】
混和性プール中の全カルシウムの変化Ca_MPは、
Ca_MP = Ca_HD - Ca_HD_C - Ca_EC_D
(1)
から、完全透析サイクル経過時に、カルシウム物質収支から求めることができ、式中、典型的にmgで測定されるCa_HDは、血液透析による全カルシウムの変化であり、典型的にmgで測定されるCa_HD_Cは、運搬による全カルシウムの変化であり、典型的にmgで測定されるCa_EC_Dは、一定容量での拡散による細胞外空間中の全カルシウムの変化である。
【0026】
血液透析による全カルシウムの変化Ca_HDは、
Ca_HD = J_Ca* T (2)
から求めることができ、式中、典型的にmg/分で測定されるJ_Caは、透析治療中のカルシウムの全流量であり、典型的に分で測定されるTは、全透析治療時間である。
【0027】
血液透析によるカルシウムの全流量J_Caは、
J_Ca = (D_Ca* (1 - Q_f / Q_pe)* (Dial_Ca* 2.0039 - C_iCa_m) - Q_f* C_iCa_m) / 100
(3)
から求めることができ、式中、典型的にmL/分で測定されるD_Caは、透析器のカルシウムのダイアリサンス(クリアランスの速度)であり、典型的にmL/分で測定されるQ_fは、透析治療中の流体の限外ろ過速度であり、典型的にmL/分で測定されるQ_peは、有効血漿流速であり、典型的にmEq/Lで測定されるDial_Caは、透析物カルシウム濃度であり、典型的にmg/dLで測定されるC_iCa_mは、イオン化カルシウムの平均血清濃度であり、2.0039の値は、カルシウムの原子量(40.078グラム/mol)に関するmEq/L(1リットル当たりのミリ等量)からmg/dLへの変換係数である。
【0028】
カルシウムのダイアリサンスD_Caは、
D_Ca = Q_pe* (1 - exp[(KoA_Ca / Q_pe)* (1 - Q_pe / Qd)]) / (Q_pe / Qd - exp[(KoA_Ca / Q_pe)* (1 - Q_pe / Qd)])
(4)
から求めることができ、式中、典型的にmL/分で測定されるKoA_Caは、カルシウムについての透析器質量転移係数であり、典型的にmL/分で測定されるQdは、透析物流速である。
【0029】
カルシウムについての透析器質量転移係数KoA_Caは、
KoA_Ca = 332*ln(Q_pe) - 1409 (5)
から求めることができる。
【0030】
有効血漿流速Q_peは、
Q_pe = 2* Q_p
(6)
から求めることができ、式中、典型的にmL/分で測定されるQ_pは、血漿流速である。血漿流速Q_pは、
Q_p = Qb* (1 - HCT / 100) (7)
から求めることができ、式中、典型的にmL/分で測定されるQbは、透析器中の血液流速であり、典型的にパーセントで測定されるHCTは、患者血液中のヘマトクリット数である。ヘマトクリット数は、患者血液中の、ほとんど(99%)が赤血球で、白血球および血小板もある有形成分のパーセントである。ヘマトクリット数は典型的に、透析患者の容量当たりの血液の約30%〜約42%である。
【0031】
限外ろ過速度Q_fは、
Q_f = UF_t*1000 / T (8)
から求めることができ、式中、典型的にリットルで測定されるUF_tは、治療前後の重量から計算され、治療中に投与された全流体を含む、全限外ろ過容量である。
【0032】
イオン化カルシウムの平均血清濃度C_iCa_mは、
C_iCa_m = C_iCa_t - ((C_iCa_0 - C_iCa_t) / (0.012* T))*(exp(-0.012* T) - 1)
(9)
から求めることができ、式中、典型的にmL/dLで測定されるC_iCa_tは、イオン化カルシウムの治療後血清濃度であり、典型的にmL/dLで測定されるC_iCa_0は、イオン化カルシウムの治療前血清濃度である。
【0033】
運搬による全カルシウムの変化Ca_HD_Cは、
Ca_HD_C = -Q_f* T* C_iCa_m / 100 (10)
から求めることができる。
【0034】
一定容量での拡散による細胞外空間の全カルシウムの変化Ca_EC_Dは、
Ca_EC_D = (C_iCa_t - C_iCa_0)* V_Ca_t* 10
(11)
から求めることができ、式中、典型的にリットルで測定されるV_Ca_tは、治療後のカルシウム分布容量である。
【0035】
治療後のカルシウム分布容量V_Ca_tは、
V_Ca_t = Vol_UKM / 3 (12)
から求めることができ、式中、典型的にリットルで測定されるVol_UKMは、UKMから求められる尿素の平均分布容量である。
【0036】
患者のリンの食事取り込みと等しいはずである患者から除去されるリンの全量P_diは、
P_di = (-P_HD_d / 0.75) + 25* N_PL + (186* Ln(Kru)+72)
(13)
から求めることができ、式中、典型的にmgで測定されるP_HD_dは、血液透析治療により除去されるリンの量であり、Kruは、患者の残存腎機能による尿素(residual renal clearance of urea)であり、N_PLは、患者に最初に処方されたPhosLo(登録商標)リン酸結合剤丸薬(667mg用量)の数である。PhosLo(登録商標)は典型的に、1丸薬当たり25mgのリンを除去する。残存腎機能による尿素Kruは、透析治療と透析治療の間に回収された尿の容量、尿BUN濃度および透析治療前後の血清BUN濃度の測定から計算できる。
【0037】
残存腎機能による尿素Kruは、
Kru = [(尿BUN)*(尿容量)]/[((BUN前およびBUN後)の平均)*(各透析間の時間)]
(14)
から得られ得る。
【0038】
患者の残存腎機能による尿素Kruは、典型的に単位mL/分で測定され、具体的な患者について未知である場合、ゼロに設定され得る。血液透析治療によって除去されるリンの量P_HDは、
P_HD =(-(D_P *(1 - Q_f/Q_pw)+ Q_f )* C_P_m)* T/100 (15)
から得られ得、式中、D_Pは、透析器のリンのダイアリサンスであり、典型的mL/分で表示され、Q_pwは、血漿水流速であり、典型的にmL/分で表示され、C_P_mは、平均血清リン濃度であり、典型的にmg/dLで表示される。
【0039】
透析器のリンのダイアリサンスは、
D_P = Q_pw *(1 - exp[(300/Q_pw)*(1 - Q_pw/Qd)])/(Q_pw/Qd - exp[(300/Q_pw)*(1 - Q_pw/Qd)])
(16)
から得られ得、式中、リンの透析器物質移動係数KoA_Pは300 mL/分である。
【0040】
血漿水流速Q_pwは、
Q_pw = 0.94 * Qb *(1 - HCT/100) (17)
から得られ得る。
【0041】
平均血清リン濃度C_P_mは、
C_P_m = C_P_0 *(1 -(1 - 1.1 *(C_P_t/ C_P_0))*(1 - exp(-1.73 * KtV_P)))
(18)
から得られ得、式中、C_P_0は、患者の治療前血清リン濃度であり、C_P_tは、患者の治療後血清リン濃度であり、KtV_Pは、透析器のリン透析適切性である。ヒト血清、血漿または尿中のリンは、自動臨床化学分析装置を用いて定量的に測定され得る。該分析装置によって使用される方法は測光的であってもよい。例えば、無機リン酸塩はモリブデン酸アンモニウムと、硫酸の存在下で、式(NH4)3[PO4(MoO3)12]を有するリンモリブデン酸アンモニウム錯体を形成する。該錯体の濃度は、紫外領域(340 nm)において測光的に測定され得る。R. J. Henry、Clinical Chemistry: Principles & Techniques、第2版. p. 723(1974)。
【0042】
KtV_Pは、透析によるリン除去の有効性の無次元測定値である。KtV_Pは、
KtV_P =((D_P * T)/(Vol_UKM/3))/1000
(19)
から得られ得る。
【0043】
血液透析によって除去されるリンの1日平均量P_HD_dは、
P_HD_d = P_HD * N_tx/7
(20)
から得られ得、
式中、N_txは、患者が1週間あたりに受ける透析治療の回数である。
【0044】
患者のリン酸塩結合剤の処方は、患者の透析前血清リン濃度C_P_0に基づいて調整され得る。患者のC_P_0がゼロ〜5.5mg/dL、すなわち推奨範囲内である場合、リン酸塩結合剤処方は維持される。患者のC_P_0が5.5mg/dL以上である場合は、一例としてPhosLo(登録商標)を使用し、リン酸塩結合剤の新たな推奨投与量N_PL_RECが、
N_PL_REC =(P_di +(nP_HD_d/0.75))/25
(21)
から得られ得、式中、nP_HD_d(典型的に単位mg/日で測定)は、透析によって除去されるリンの新たな1日平均量である。患者の安全性の考慮により、リン酸塩結合剤の処方の最大増量は3つの丸剤に設定され得る。
【0045】
透析によって除去されるリンの新たな1日平均量nP_HD_dは、
nP_HD_d = nP_HD * N_tx/7
(22)
から得られ得、式中、nP_HD(典型的に単位mgで測定)は、透析によって除去されるリンの新たな量であり、
nP_HD =(-(D_P *(1 - Q_f/Q_pw)+ Q_f)* nC_P_m)* T/100 (23)
から得られ得、式中、nC_P_m(典型的に単位mg/dLで測定)は、患者の新たな平均血清リン濃度である。
【0046】
調整リン酸塩結合剤投与量を考慮した患者の新たな平均血清リン濃度は、
nC_P_m = 5.5 *(1 -(1 - 1.1 *(C_P_t/C_P_0))*(1 - exp(-1.73 * KtV_P)))
(24)
から得られ得、これは等式18と、患者に対する所望の目的透析前血清リン濃度である主要素が5.5である点で異なる。
【0047】
調整リン結合剤処方によるものを含む血液透析治療中に拡散によって添加または除去されることが必要なカルシウムの量nCa_HD_Dは、
nCa_HD_D = -(nCa_abs_tx + Avg_Ca_HD_C)+Phys_Ca_Acc
(25)
から得られ得、式中、nCa_abs_tx(典型的に単位mgで測定)は、各治療間に患者によって吸収されたカルシウムの量であり、Avg_Ca_HD_C(典型的に単位mgで測定)は、限外濾過によって対流的に除去する平均カルシウムの量であり、Phys_Ca_Acc(典型的に単位mgで測定)は、患者の系にカルシウムを付加するか減らすかのいずれかを必要とする医師が患者に対して処方し得る正味カルシウム蓄積である。上記のように、ほとんどの患者で正味カルシウム蓄積はほぼゼロである。限外濾過によって対流的に除去する平均カルシウムの量は、最初にCa_HD_Cに設定され、等式10から計算され、患者が充分な回数の血液透析治療を受けた後、先の3ヶ月間でのCa_HD_Cの平均からAvg_Ca_HD_Cを得る。
【0048】
各治療間に患者によって吸収されたカルシウムの量は、
nCa_abs_tx = nCa_abs * 7/N_tx
(26)
から得られ得、式中、nCa_abs(典型的に単位mgで測定)は、リン結合剤処方を含む患者によって吸収された全カルシウム量であり、
nCa_abs =(16.64 * ln(C_D3)+19.5)* ln(Ca_Di+nCa_PL)- 38.8 * ln(C_D3)- 216
(27)
から得られ得、式中、C_D3(典型的に単位pg/L(ピコグラム/リットル)で測定)は、活性ビタミンD3の血清濃度であり、Ca_Di(典型的に単位mg/日で測定)は、患者の食事からのカルシウム摂取であり、nCa_PL(典型的に単位mgで測定)は、リン結合剤の新しい処方投与量からの患者のカルシウム取込量である。
【0049】
活性ビタミンD3の血清濃度C_D3は、
C_D3 = 36 * Vit_D (28)
から得られ得、式中、Vit_D(典型的に単位mcg/治療(マイクログラム/治療)で測定)は、カルシトリオール(ビタミンD3アナログ)の患者の現時点の処方投与量である。患者にビタミンD3アナログとしてZemplar(登録商標)またはHectorol(登録商標)が処方された場合は、C_D3は、
C_D3 = 4.5 * Vit_D
(29)
から得られ得る。
【0050】
患者の食事からのカルシウム摂取Ca_Diは、
Ca_Di = 2.25 * ePCR + 139 (30)
から得られ得、式中、ePCR(典型的に単位mg/日で測定)は、UKMから得られる患者のタンパク質の1日取込量である。
【0051】
リン結合剤からの患者のカルシウム取込nCa_PLは、
nCa_PL = 169 * N_PL
(31)
から得られ得、式中、N_PLは、患者に処方されたPhosLo(登録商標)丸剤の数である。
【0052】
リン結合剤からの患者のカルシウム摂取を考慮した透析物中のカルシウム濃度nC_Ca_dialは、
nC_Ca_dial = 1.12 *(nCa_HD_D /(D_Ca *(1-Q_f/Q_pe))+nC_iCa_m)/2.0039
(32)
から得られ得、式中、nCa_HD_Dは等式25から得られ、nC_iCa_mは、新たな平均血清イオン化カルシウム濃度であり、
nC_iCa_m = nC_iCa_t -((Avg_C_iCa_0 - nC_iCa_t)/(0.012 * T))*(exp(-0.012 * T)- 1) (33)
から得られ得、式中、nC_iCa_t(典型的に単位mg/dLで測定)は、治療後イオン化カルシウムの新たな血清濃度であり、Avg_C_iCa_0(典型的に単位mg/dLで測定)は、イオン化カルシウムの平均治療前血清濃度である。最初に、イオン化カルシウムの平均治療前血清濃度は、治療前に測定された患者の測定されたイオン化カルシウムの治療前血清濃度であるC_iCa_0に設定される。患者が充分な回数の血液透析治療を受けた後、先の3ヶ月でのC_iCa_0の平均からAvg_C_iCa_0を得る。
【0053】
患者の測定されたイオン化カルシウムの治療前血清濃度は、
C_iCa_0 = C_Ca_0 * 0.5
(34)
から得られ得、式中、C_Ca_0(典型的に単位mg/dLで測定)は、全(結合およびイオン化)カルシウムの治療前血清濃度である。
【0054】
透析物中のカルシウム濃度の選択肢は、例えば、高いまたは低い血清総カルシウム濃度を有する患者などの、さらなる患者の安全性考慮によって影響され得る。透析物のカルシウム濃度の商業的に利用可能な選択肢は、典型的に2.0、2.25、2.5、および3.0mEq/Lである。等式28から計算される透析物のカルシウム濃度nC_Ca_dialは、以下:
a)nC_Ca_dial≦2.125mEq/Lであれば、Dial_Ca = 2.0mEq/L
b)2.126mEq/L≦nC_Ca_dial≦2.374mEq/Lであれば、Dial_Ca = 2.25mEq/L
c)nC_Ca_dial≧2.375mEq/Lであれば、Dial_Ca = 2.5mEq/L
のように利用可能な選択肢に丸める(round)。
【0055】
患者の透析前血清リン濃度が推奨範囲内であり、リン酸塩結合剤処方に提案される変化はないが、カルシウム蓄積が疑われ、計算されたnC_Ca_dialが患者の現時点の透析物処方と異なる場合、透析物のカルシウム濃度の変化は、患者の現時点の透析物処方から0.25mEq/L以下であるべきである。例えば、2.5mEq/Lを処方されており、計算されるnC_Ca_dialが2.0mEq/Lである患者は、最初は、2.25mEq/Lの処方が提案される。現時点で3.0mEq/L以上の透析物のカルシウム濃度を処方されており、所望のカルシウム蓄積がゼロである任意の患者は、リン酸塩結合剤処方に変化がない場合は2.5mEq/Lへの低減、またはリン酸塩結合剤処方に変化がある場合は上記のようにして丸めて計算される透析物のカルシウム濃度への低減が提案される。
【0056】
患者の推奨血清全(イオン化および結合)カルシウム濃度は8.4〜9.5mg/dLである。患者の安全性考慮のため、患者が9mg/dLより高い透析前の血清総カルシウム濃度を有する場合は、透析物のカルシウム濃度の増大は推奨されない。患者が7.99mg/dL以下の透析前の血清総カルシウム濃度を有する場合は、2.5mEq/Lの透析物のカルシウム濃度が使用される。患者が8.0〜8.49mg/dLの透析前の血清総カルシウム濃度を有する場合は、上記の最も近い選択肢に丸めた2.25または2.5mEq/Lの透析物のカルシウム濃度が使用される。患者が8.5mg/dL以上、すなわち推奨範囲内の値の透析前の血清総カルシウム濃度を有する場合は、上記の最も近い選択肢に丸めた透析物のカルシウム濃度の任意の利用可能な選択肢が使用され得る。
【0057】
また、透析物流中へのカルシウムの流量MCaは、例えば、NOVA 8(Nova Biomedical)などのカルシウムイオン選択的電極(ISE)を用いて直接測定され得る。G. N. Bowers,C. Brassard、およびS. F. Sena、Measurement of Ionized Calcium in Serum with Ion-Selective Electrodes: A Mature Technology That Can Meet the Daily Service Needs、32 Clinical Chemistry pp. 1437-1447(1986)参照。
【0058】
次に図4に移ると、透析装置100に流れ込む血液は、尿毒症毒素10ならびに拡散性および対流性輸送によって透析膜30を通過して血液側40から透析物側50に移動するカルシウムイオン20を含む。拡散性輸送は、血液側40と透析物側50間の濃度勾配によって生じる。対流性輸送は、流体静力学的力によって駆動される透析膜30を通過する流体の運動によって生じる。透析物中のイオン化カルシウムの流入濃度CdiCa++は、カルシウムISE 60によって測定され得る。透析物中のイオン化カルシウムの流出濃度CdoCa++は、カルシウムISE 70によって測定され得る。即時透析内カルシウム質量バランスMinstCa++は、
MinstCa++= CdiCa++ * Qdi- CdoCa++ *(Qdi+Qf)(35)
から得られ得、式中、Qd1(典型的に単位ml/分で測定)は透析物流速である。全透析治療で測定された透析内カルシウム質量バランスmeasCaMBHDは、
measCaMBHD = MinstCa++ * td
(36)
から得られ得、これは、等式2から得られるモデルの結果と比較され得る。
【0059】
調整カルシウム濃度を含む透析物溶液は、次いで、患者の透析治療の実施に使用される。透析治療は、当該技術分野で公知の透析器(例えば、Fresenius Medical Care、Baxter Healthcare)が使用される血液透析治療であり得る。好ましい血液透析治療では、透析治療中に大量のリンを除去することができ、したがって、患者にリン酸塩結合剤を投与する必要性を低減する高流量透析器(例えば、Fresenius Medical Care 180NR)が使用され得る。また、連続腎置換両方または低流量透析器を用いる患者の処置にはモデルが使用され得る。
【実施例】
【0060】
実施例
実施例1
高流量透析器(180NR)により、それぞれ400ml/分および500ml/分の血液流および透析物流で、1.75〜3.0mEq/LのCdiCa++で32の透析において、9名の血液透析患者(Pt)をモニタリングした。測定データ: t = 0、60分および透析終了時における血漿Ca++(CpCa++Meas);2名のPt(D10)ではNOVA 8(カルシウムイオン感受性電極)および7名のPt(DCOL)では透析物収集による10分毎のCdiCa++およびCdoCa++(流出)。先に記載されたCa速度論モデル(Blood Purifi 25:139-149、2007)を使用し、対流性および拡散性Ca流量(JCCa、JDCa)を計算した;Miscible Calcium Pool(MCP)におけるCa(MCa)の移動または封鎖;D10では10分毎およびDCOLでは3回のCa++質量バランス(CaMB)およびCpCa(CpCa++Calc)。CpCa++Calcの値(Ca流量およびダイアリサンスから計算)とのCpCa++Measの比較からD10モデルを検証した。CaMBは、(CdiCa++-CpiCa++)およびKMP = MCa/(MCa+ JdCa)としてのMiscible Calcium Pool Buffer Coefficient(KMP)(式中、KMPは、血漿および細胞外液ではなくMCPに由来するJdCaの関数を示す)の関数として計算した(ΔCaECW)。等式1の表示において、KMP = |Ca_MP| /(|Ca_MP| + |Ca_EC_D|)である。3つのCpCa++Meas値を、CpCa++Measが漸近線としての終了時透析値に近づくため、CpCa++Measが10分毎にCpCa++Calcと比較され得る連続関数にフィットさせた。
【0061】
CpCa++CalcとのCpCa++Measの相関: Pt1では:
CpCa++ Meas=.88*CpCa++Calc+.88、n=62,R2= 94。Pt2では: CpCa++Meas = .76*CpCa++Calc +1.7、n=91、R2=.91。(CdiCa++ - CpiCa++)とのCaMBの関係を図5に示す。相関は、D10およびDCOLの両方で非常に良好であり、D10で非常に高い。図6に示す(CdiCa++- CpiCa++)とのKMPの関係は、拡散性Ca流量の嵩は、正および負の勾配の両方で、CaECWではなくMCPから誘導されることを示す。勾配 = -.75mEq/Lで、Ca除去は450〜550mgであり、そのうち80%はMCPに由来する。
【0062】
これらのデータは、広範な透析器のCa拡散勾配におけるCaECWの変化のMCP緩衝の大きさの見込み定量の最初の報告を示し、拡散性流量の80%はMCPに由来することを示す。(CdiCa++ - CpiCa++)に対するCaMBとD10との非常に高い相関は、流入/流出におけるCdiCa++およびCdoCa++電極の配置により、CaMBの信頼性のあるリアルタイムオンラインモニタリングが提供され得ることを示す。また、JdCaおよびKMPは、既知のCdiCa++およびCaダイアリサンスとともに透析前および透析後のCpCa++の測定から計算され得る。
【0063】
結論として、拡散性透析器のCa流量の80%は、MCPによって緩衝され、これにより、かなりの量のCa除去中にΔCaECWの変化が大きく低減されることがわかった。また、(CdiCa++ - CpiCa++)= -.75mEq/Lで約500mgのCa除去が達成された。
【0064】
実施例2
患者1は、19ヶ月間(vintage)の透析を受けている糖尿病の53歳のアフリカ系アメリカ人の男性であった。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間、3ヶ月間、および1ヶ月間の平均血清Pは、それぞれ、7.0、6.5、および6.8mg/dLであった。これらの値はすべて、推奨ガイドライン3.5〜5.5mg/dL外である。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間の平均血清Caは9.1mg/dLであり、これは、推奨ガイドライン8.4〜9.5mg/dLの範囲内である。試験前の6ヶ月間において、患者1には、1日3錠(800mg)のRenagel(登録商標)錠剤を処方した。1ヶ月に1回6ヶ月間(試験0ヶ月〜第5ヶ月)、PKMモデルの入力値を収集し、推奨結合剤処方および透析物のカルシウム濃度を計算した。図7に示されるように、試験期間中、血清Pレベルを推奨ガイドラインに下げるため、患者1の結合剤処方をPhosLo(登録商標)丸剤(丸剤1粒あたり667mg)1日6粒、次いで7粒に増やした。さらに、図8に示されるように、カルシウム吸収の増大を回避するため、透析物のカルシウム濃度を2.5から2.25meq/Lに下げた。6ヶ月の試験期間で、平均血清Pは4.0mg/dLであり、平均血清Caは9.0mg/dLであった。血清PおよびCaは両方とも、試験期間中、推奨ガイドラインの範囲内であった。
【0065】
実施例3
患者2は、41ヶ月間の透析を受けている糖尿病の61歳のアフリカ系アメリカ人の男性であった。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間、3ヶ月間、および1ヶ月間の平均血清Pは、それぞれ、7.6、7.8および7.7mg/dLであった。これらの値はすべて、推奨ガイドライン3.5〜5.5mg/dL外である。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間の平均血清Caは8.6mg/dLであり、これは、推奨ガイドライン8.4〜9.5mg/dLの範囲内である。試験前の6ヶ月間において、患者2に1日6錠のPhosLo(登録商標)錠剤を処方した。1ヶ月に1回6ヶ月間(試験0ヶ月〜第5ヶ月)、PKMモデルの入力値を収集し、推奨結合剤処方および透析物のカルシウム濃度を計算した。図9に示されるように、試験期間中、血清Pレベルを推奨ガイドラインに下げるため、患者2の結合剤処方を、PhosLo(登録商標)丸剤1日12粒、次いで15粒に増やした。さらに、図10に示されるように、カルシウム吸収の増大を回避するため、透析物のカルシウム濃度を2.25から2.0meq/Lに下げた。6ヶ月の試験期間で、平均血清Pは5.9mg/dLであり、平均血清Caは9.3mg/dLであった。目標ガイドラインには適さなかったが、平均血清Pは22%低下した。平均血清Caは試験期間中、推奨ガイドラインの範囲内であった。試験の最後の3ヶ月間での平均血清Pは5.3mg/dLであった。試験において観察を継続すると、おそらく、継続して推奨ガイドライン内の血清P値がもたらされよう。
【0066】
実施例4
患者3は、22ヶ月間の透析を受けている糖尿病の72歳の白人女性であった。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間、3ヶ月間、および1ヶ月間の平均血清Pは、それぞれ、6.2、6.6、および6.8mg/dLであった。これらの値はすべて、推奨ガイドライン3.5〜5.5mg/dL外である。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間の平均血清Caは8.1mg/dLであり、これは、推奨ガイドライン8.4〜9.5mg/dLよりも低かった。図11に示されるように、試験前の6ヶ月間において、患者3を1日6錠のPhosLo(登録商標)錠剤を処方した。1ヶ月に1回7ヶ月間(試験0ヶ月〜第6ヶ月)、PKMモデルの入力値を収集し、推奨結合剤処方および透析物のカルシウム濃度を計算した。試験期間中、患者1の結合剤処方を1日6粒のPhosLo (登録商標)丸剤に維持した。図12に示されるように、透析物のカルシウム濃度を3.0から2.5meq/Lに下げた。6ヶ月の試験期間で、平均血清Pは5.3mg/dLであり、平均血清Caは9.0mg/dLであった。血清PおよびCaは両方とも、試験期間中、推奨ガイドラインの範囲内であった。リン結合剤投与量は増やさなかったが、血清リン濃度の低下は、試験プログラムによって提供されるさらなる教育およびモニタリングの結果、食事および処方に対する患者の意識の増大によるものであり得る。
【0067】
実施例5
患者4は、40ヶ月間の透析を受けている糖尿病の63歳の白人男性であった。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間、3ヶ月間、および1ヶ月間の平均血清Pは、それぞれ、5.9、6.2、および7.0mg/dLであった。これらの値はすべて、推奨ガイドライン3.5〜5.5mg/dL外である。PKMモデル設計の使用前、6ヶ月間の平均血清Caは8.9mg/dLであり、これは、推奨ガイドライン8.4〜9.5mg/dLの範囲内である。試験前の6ヶ月間において、患者4に1日12錠のPhosLo(登録商標)錠剤を処方した。1ヶ月に1回6ヶ月間(試験0ヶ月〜第5ヶ月)、PKMモデルの入力値を収集し、推奨結合剤処方および透析物のカルシウム濃度を計算した。図13に示されるように、試験期間中、患者4の結合剤処方を、血清Pレベルを推奨ガイドラインの範囲内に下げる試みにおいて、PhosLo(登録商標)丸剤1日12粒から21粒に一定に増大させた。さらに、図14に示されるように、カルシウム吸収の増大を回避するため、透析物のカルシウム濃度を2.25から2.0meq/Lに下げた。6ヶ月の試験期間で、平均血清Pは6.6mg/dLであり、平均血清Caは8.9mg/dLであった。血清Caは試験期間中、推奨されガイドラインの範囲内であった;しかしながら、血清Pは推奨範囲に達しなかった。PKMモデルにより、患者の血清リン濃度を低下させるためのリン結合剤投与量が示唆され得るが、患者がこの処方または推奨される食事に従わなければ、血清リン濃度は低下しない。
【0068】
本明細書に引用した特許、公開出願および参考文献の関連のある教示はすべて参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0069】
本発明を、その好ましい態様を参照して具体的に示し、記載したが、形態および詳細における種々の変形が、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱せずになされ得ることは、当業者によって理解されよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)所望の濃度範囲内である患者の透析前血清リン濃度が達成されるとともに、患者の透析前血清リン濃度が所望の濃度範囲内である場合は、透析治療によって除去されるリンの量の変化を考慮してリン結合剤の投与量を決定する工程;
b)全透析サイクルでの所望の正味カルシウム蓄積をもたらす透析物のカルシウム濃度を決定する工程;および
c)工程b)で決定された濃度に基づいたカルシウム濃度を含む透析物を伴う患者を透析する工程
を含む、所望の濃度範囲内の透析前血清リン濃度が達成されるとともに、所望の正味カルシウム蓄積が達成される、透析治療を受けている患者に対するリン結合剤の投与量の決定方法。
【請求項2】
患者が、腎機能不全、腎不全、腎臓疾患、リン酸過剰血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、末期腎疾患、および癌からなる群より選択される少なくとも1つの疾患または状態を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
透析物のカルシウム濃度を全透析サイクルでのカルシウム質量バランスから決定する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
所望の正味カルシウム蓄積がほぼゼロである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
患者の透析前血清リン濃度の所望の範囲が約3.5mg/dL〜約5.5mg/dLである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ある透析治療から次の透析治療への透析物のカルシウム濃度の変化におけるさらなる患者の安全性考慮を考慮することにより透析物のカルシウム濃度を決定する、請求項1記載の方法。
【請求項1】
a)所望の濃度範囲内である患者の透析前血清リン濃度が達成されるとともに、患者の透析前血清リン濃度が所望の濃度範囲内である場合は、透析治療によって除去されるリンの量の変化を考慮してリン結合剤の投与量を決定する工程;
b)全透析サイクルでの所望の正味カルシウム蓄積をもたらす透析物のカルシウム濃度を決定する工程;および
c)工程b)で決定された濃度に基づいたカルシウム濃度を含む透析物を伴う患者を透析する工程
を含む、所望の濃度範囲内の透析前血清リン濃度が達成されるとともに、所望の正味カルシウム蓄積が達成される、透析治療を受けている患者に対するリン結合剤の投与量の決定方法。
【請求項2】
患者が、腎機能不全、腎不全、腎臓疾患、リン酸過剰血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、末期腎疾患、および癌からなる群より選択される少なくとも1つの疾患または状態を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
透析物のカルシウム濃度を全透析サイクルでのカルシウム質量バランスから決定する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
所望の正味カルシウム蓄積がほぼゼロである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
患者の透析前血清リン濃度の所望の範囲が約3.5mg/dL〜約5.5mg/dLである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ある透析治療から次の透析治療への透析物のカルシウム濃度の変化におけるさらなる患者の安全性考慮を考慮することにより透析物のカルシウム濃度を決定する、請求項1記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−505728(P2012−505728A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532286(P2011−532286)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/061009
【国際公開番号】WO2010/045558
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(507209609)フレゼニウス メディカル ケア ホールディングス インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/061009
【国際公開番号】WO2010/045558
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(507209609)フレゼニウス メディカル ケア ホールディングス インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】
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