説明

透過電子顕微鏡

【課題】入射像面および入射瞳面を有し、試料を通過した電子の分析方法として1種類またはそれ以上の種類の分析方法を実施可能とする、適応性の高い分析系を備える透過電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】試料面内9bに試料を配置した透過電子顕微鏡は、対物レンズ11b、複数のレンズを有する第1投影レンズ系61b、複数のレンズを有する第2投影レンズ系63b、および分析系を備える。試料面9bは中間像面71内に結像され、対物レンズ11bの回折面15bは中間回折面67b内に結像され、(a)中間像面は分析系の入射像面内に結像され、中間回折面は分析系の入射瞳面内に結像されるか、または、(b)中間像面71は入射瞳面65b内に結像され、中間回折面67bは入射像面21b内に結像される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2010年3月1日に独国で出願された、発明の名称を「透過電子顕微鏡」と題する特許出願第102010009707.1号の優先権を主張するものであり、その内容は参照により本明細書に完全に援用される。
【0002】
本明細書で開示する発明は、透過電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0003】
透過電子顕微鏡において、電子ビームを試料に導き、ビーム路における試料の下流に配置した分析系により、試料を通過した電子を検出する。検出した電子から、この試料に関する情報を得る。試料に入射する電子は試料と相互作用する。そのような相互作用の例としては、例えば、電子の散乱、ある角度での偏向、散乱電子の運動エネルギーの変化等が挙げられる。
【0004】
試料を通過した電子の分析方法として考えられる種類の分析方法の1つとして、試料を通過した電子のうち、相互作用により大角度偏向された電子から、実質的に無散乱で通過した電子を分離することが挙げられる。散乱電子および非散乱電子は別々に検出することができ、例えば、実質的に無散乱で試料を通過した電子から、一般に明視野像と呼ばれる像を生成することができる。さらに、大角度偏向された電子から、一般に暗視野像と呼ばれる像を生成することができる。
【0005】
試料を通過した電子の別の種類の分析方法として、電子の運動エネルギーを分析することが挙げられる。試料に入射する電子は、試料内において、電子のエネルギー損失の原因となるプロセスを励起することがある。例えば、試料の化学組成に関する情報は、そのようなエネルギー損失を分析することにより取得することができる。電子の運動エネルギー分析には、入射像面および入射瞳面を有するエネルギーフィルタを用いることができる。
【0006】
試料を通過した電子のさらに別の分析方法として、試料を通過した電子ビームの異なる部分について異なる位相シフトを行い、続いてこのビーム部分を互いに重畳して、その結果として生じる干渉パターンを検出することが挙げられる。そのような分析は、一般に、位相差顕微鏡法として知られる。
【0007】
試料を通過した電子のさらなる種類の分析方法として、バイプリズムを用いてイオンビームを2つのビーム部分に分離し、分離したビーム部分を互いに重畳して干渉パターンを生成することが挙げられる。この干渉パターンを分析することにより、試料に関する位相情報を取得することができる。そのような分析は、一般に、電子ビームホログラフィと呼ばれる。
【0008】
試料を通過した電子の分析方法が異なる場合、分析系の構成も異なるものとする必要がある。一般に、同一または類似した構成の透過電子顕微鏡を用いて複数の異なる分析方法を実施することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第7,741,602号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0035854号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「chapter III Instrumentation and Modes of the Article Energy Filtering Transmission Electron Microscopy by L. Reimer, in Advances in Electronics and Electron Physics」 Volume 81, Academic Press, New York, 1991, pages 62 to 75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑み、なされたものである。
【0012】
本発明の目的は、入射像面および入射瞳面を有し、試料を通過した電子の分析方法として1種類またはそれ以上の種類の分析方法を実施可能とする、適応性の高い分析系を備える透過電子顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
いくつかの実施形態によれば、透過電子顕微鏡は分析系を備え、分析系は、透過電子顕微鏡のビーム路における上流側に入射像面および入射瞳面を有する。本明細書に記載の例示的な実施形態によれば、分析系は、エネルギーフィルタを有して構成し、エネルギーフィルタはその上流側に入射像面および入射瞳面を備え、その下流側に射出像面および射出瞳面を有する。射出像面は色消し像面と呼ぶこともでき、射出瞳面はスペクトル面と呼ぶこともできる。異なるエネルギーを有し、入射像面内の同じ位置から発生する電子の軌道は、射出像面内の同じ位置に集束される。一方、同じ運動エネルギーを有し、入射像面内の異なる位置から発生する電子の軌道は、射出像面内において、点状の位置または線状の位置等の同じ位置に集束されるが、異なるエネルギーを有する電子の軌道は、射出像面内において、異なる位置に集束される。
【0014】
その他の実施形態によれば、透過電子顕微鏡は、透過電子顕微鏡のビーム路内における試料の下流に配置した対物レンズ、ビーム路における対物レンズの下流に配置した少なくとも2枚のレンズを有する第1投影レンズ系、および、ビーム路における第1投影レンズ系の下流に配置した少なくとも2枚のレンズを有する第2投影レンズ系を備える。
【0015】
本明細書に記載の一実施形態によれば、対物レンズにより試料面を中間像面内に結像し、第1投影レンズ系により対物レンズの回折面を中間回折面内に結像し、第2投影レンズ系により中間像面および中間回折面を分析系の入射像面内および分析系の入射瞳面内にそれぞれ結像する。ここで、対物レンズの回折面を、対物レンズの後焦点面とも呼ぶ。
【0016】
さらなる例示的な実施形態によれば、対物レンズにより試料面を中間像面内に結像し、第1投影レンズ系により対物レンズの回折面を中間回折面内に結像し、第2投影レンズ系により中間像面および中間回折面を分析系の入射瞳面内および分析系の入射像面内にそれぞれ結像する。
【0017】
本明細書に記載の一実施形態によれば、分析系はエネルギーフィルタを有して構成する。
【0018】
本開示において、用語「一つの面を別の面内に結像する」とは、2つの面の間に付加的な像面が存在しない一段構成、および、2つの面の間に1つまたはそれ以上の中間像面が存在する多段構成の両方を含むものである。具体的には、試料面と中間像面との間に、1つまたは複数の中間像面を設けることができる。同様に、回折面と中間回折面との間に付加的な中間回折面を設けることができる。さらに、対物レンズ、第1投影レンズ系、または第2投影レンズ系のレンズのうちの1枚またはそれ以上のレンズの励磁が変化すると、レンズ中間像面および/または中間回折面の各位置が顕微鏡のビーム路に沿って変化する場合がある。またさらに、中間像面と分析系の入射像面または入射瞳面との間に、付加的な中間像面を設けることができる。同様に、中間回折面と分析系の入射像面または入射瞳面との間に、付加的な中間回折面を設けることができる。
【0019】
以上に説明したように試料面および対物レンズの回折面を多段結像することにより、対物レンズと分析系との間に付加的な部品を配置して、試料を通過した電子を分析するためのさらなる種類の分析方法を実施することが可能となる。さらに、上記のような、第1投影レンズ系および第2投影レンズ系を用いた多段結像を行うことにより、自由度がさらに高くなり、エネルギー分析等の分析系を用いた分析、および付加的な種類の分析の両方を最適化することが可能となる。
【0020】
例示的な実施形態によれば、対物レンズの回折面を中間回折面内に結像する際の倍率は1より大きい。本明細書に記載の特定の実施形態によれば、この倍率は4〜80の範囲内であり、さらに特定の実施形態によれば、この倍率は8〜40の範囲内である。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、第1投影レンズ系は、対物レンズの下流であり中間像面の上流に配置した少なくとも2枚のレンズを備える。第1投影レンズ系のこれら少なくとも2枚のレンズを制御モジュールにより励磁して、対物レンズの回折面および中間回折面の結像倍率を変更できるようにする。特に、これら少なくとも2枚のレンズおよび制御モジュールは、結像倍率が4から80、8から40、または12から30へと変更されるように構成する。本明細書に記載の特定の実施形態によれば、これら少なくとも2枚のレンズおよび制御モジュールは、結像倍率を変更したときにビーム路に沿った中間回折面の位置が実質的に変化しないように構成する。
【0022】
いくつかの実施形態によれば、第2投影レンズ系は、中間回折面を分析系の入射像面内に結像する際の結像倍率が3未満となるように構成する。特に、第2投影レンズ系は、中間回折面を分析系の入射像面内に結像する際の結像倍率が0.05〜3の範囲内、または0.1〜1.5の範囲内となるように構成する。
【0023】
例示的な実施形態によれば、第2投影レンズ系のレンズの主面が中間回折面に略一致するように、または、中間回折面近傍に位置するように、透過電子顕微鏡を構成する。本開示においては、中間回折面とレンズの主面との間の距離が5mm未満またはこのレンズの焦点距離の2分の1未満であれば、このレンズの主面を中間回折面の近傍に配置する。
【0024】
実施形態によれば、透過電子顕微鏡は、中間回折面に、またはその近傍に配置した暗視野検出器を備え、試料内で大角度偏向された電子を検出する。偏向されずに試料を通過した電子または小角度偏向されて試料を通過した電子は、暗視野検出器により検出されない。
【0025】
さらなる実施形態によれば、相変化素子を中間回折面内または中間回折面近傍に配置する。相変化素子は、相変化素子を通過する電子ビームの異なる2つの部分における相変化が異なるように構成する。この2つの異なる部分は、下流の像面内において、互いに干渉し合うことがあり、この2つの部分を検出して試料の位相差像を得ることができる。
【0026】
さらなる実施形態によれば、透過電子顕微鏡は、回折面の下流であり分析系の上流におけるビーム路内に配置したバイプリズムを備える。バイプリズムにより、試料を通過した電子ビームを2つのコヒーレントなビーム部分に分離し、さらに、各ビーム部分を像面内で互いに重畳して、中間像面内に干渉パターンまたはホログラムが生成されるようにする。その干渉パターンを分析して、試料内での電子波において生じる相変化を測定することができる。
【0027】
さらなる実施形態によれば、透過電子顕微鏡は、対物レンズの下流であって第1投影レンズ系の上流におけるビーム路内に配置した像補正器を備える。
【0028】
本発明の上記特徴およびその他の有利な特徴は、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する本発明の例示的な実施形態により、さらに明らかになるであろう。本発明について可能な実施形態のすべてが、本明細書において定義した各利点のすべてを、または、いずれかを必ずしも示すとは限らないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】透過電子顕微鏡の概略図である。
【図2】図1に示す電子顕微鏡の各特性間の関係を示すグラフである。
【図3】エネルギーフィルタおよび暗視野検出器を備える透過電子顕微鏡の概略図である。
【図4】エネルギーフィルタおよび暗視野検出器を備える透過電子顕微鏡のビーム路を示す概略図である。
【図5】図4に示す電子顕微鏡の各特性間の関係を示すグラフである。
【図6】エネルギーフィルタおよび相変化素子を備える透過電子顕微鏡のビーム路を示す概略図である。
【図7】図6に示す電子顕微鏡の各特性間の関係を示すグラフである。
【図8】エネルギーフィルタおよびバイプリズムを備える透過電子顕微鏡のビーム路を示す概略図である。
【図9】図8に示す電子顕微鏡のいくつかの特性間の関係を示すグラフである。
【図10】エネルギーフィルタおよびバイプリズムを備える透過電子顕微鏡のビーム路を示す概略図である。
【図11】エネルギーフィルタおよび画像補正器を備える透過電子顕微鏡のビーム路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に示す例示的な実施形態において、同様の機能および構成を有する部品にはできる限り同様の参照符号を付して示す。したがって、特定の実施形態における個々の部品の特徴を理解するためには、その他の実施形態および本発明の概要についての説明を参照されたい。
【0031】
図1は、エネルギーフィルタを備える透過電子顕微鏡の概略図である。
【0032】
透過電子顕微鏡1は、電子ビーム5を出射する電子ビーム源3を備える。出射した電子ビームは、電子光学レンズ7により、試料面9内に集束する。図1に示すレンズ7とは別に、例えば、集束レンズ、補正器、およびビーム偏向器等のレンズおよび電子光学素子を、源3と試料面9との間のビーム路内に付加的に配置することができる。レンズおよび補正器を付加的に設けることにより、試料面内にビームを小さく集束することができ、レンズおよび補正器を付加的に設けることにより、試料面内のビームの集束を横方向に変位させて透過電子顕微鏡を走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)として動作させることができる。さらに、ビーム5で試料面9内の拡張領域を照射して、本顕微鏡を結像透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)として動作させることができる。
【0033】
対物レンズ11は、ビーム路において、試料面9の下流に配置する。対物レンズ11により、試料面9を中間像面13内に結像する。また、対物レンズ11は回折面15を有する。
【0034】
投影レンズ系17、および結像エネルギーフィルタを含む分析系は、ビーム路における対物レンズの下流に配置する。図1においては、例として、投影レンズ系として機能する3枚のレンズ18を示す。なぜなら、投影レンズ系は、一般に、2枚以上のレンズを含むことができるからである。エネルギーフィルタ19は、その上流側に、入射像面21および入射瞳面65を有し、その下流側、すなわち、出力側に、それぞれ、色消し像面23およびスペクトル面25を有する。スペクトル面において、試料を通過した電子のエネルギー損失スペクトルを生成する。
【0035】
さらに、投影レンズ系17により、対物レンズ11の回折面15をエネルギーフィルタ19の入射像面21内に結像する。モノクロメータの入射絞り22を、エネルギーフィルタの入射像面21内に配置することができる。
【0036】
エネルギーフィルタ19のスペクトル面25にはスリット形状の絞りを設け、エネルギーフィルタを通過して絞りを通過可能となった電子の運動エネルギーの狭帯域を選択することができる。1枚またはそれ以上のレンズ28を含む結像系27をスペクトル面25の下流に配置し、色消し像面23を像面31内に結像して、対物レンズ11の回折面15のエネルギーフィルタ処理した像が像面31内に形成されるようにする。代案として、結像系27により、スペクトル面25を検出器上内に結像して、モノクロメータの入射絞り22により選択した電子の角度範囲のエネルギー損失スペクトルを検出することができる。したがって、モノクロメータの入射絞り22により、そのような検出における許容角が規定される。
【0037】
図1に示す例示的な透過電子顕微鏡1は、3つの検出器33,35,および37を備える。検出器33は第1暗視野検出器であり、エネルギーフィルタ19の入射像面21上に、または、その近傍に配置される。検出器35は第2暗視野検出器であり、ビーム路におけるエネルギーフィルタ19の下流に配置される。検出器37は明視野検出器であり、エネルギーフィルタ19の下流に配置される。
【0038】
エネルギーフィルタ19の上流に配置された暗視野検出器33は、リング形状の微細な断面を有する。例えば、暗視野検出器33は、導光性材料製のプレートで構成することができ、プレートの、試料面9に対向する側にはシンチレーション物質を含むことができる。または、プレートの大部分にシンチレーション物質を含んで構成することができる。プレートは円形の絞りを備え、絞りの中心は、顕微鏡1のビーム路の光軸43と一致する。試料を通過する際に小角度散乱した明視野電子および暗視野電子は、暗視野検出器33の絞りを通過することができる。
【0039】
試料面9の上流において電子ビーム5を成形し、電子が角度範囲内から試料面9に入射するようにする。したがって、試料面9内の一点に入射する電子の軌道の包絡線(エンベロープ)は円錐形状である。図1において、この円錐形状の半開口角をαで示す。試料面9を実質的に無散乱で通過した電子の軌道の包絡線も同様に半開口角αとなる。これらの電子を明視野電子と称する。明視野電子は、円形断面51内で対物レンズ11の後焦点面15を通過する。円形断面51の半径は、式rBF=fαを満たすものであり、ここで、fは対物レンズ11の焦点距離であり、rBFは円形断面51の半径である。
【0040】
図1において、さらに、後焦点面15内の円環断面53を示す。ここで、試料面9内において大角度散乱した暗視野電子は断面53を通過する。これらの暗視野電子は、回折面15と共役な面であり回折面の下流にある面に配置した暗視野検出器により検出することができる。図1において、光軸43に対する、これら暗視野電子の軌道の内側包絡線の角度をαDFiで示し、図1において、光軸43に対する、これら暗視野電子の軌道の外側包絡線の角度をαDFoで示す。試料面9内で小角度散乱した暗視野電子は、回折面15内における、円環面53と円形面51との間の環状領域を通過するが、これらの電子は検出器33,35,および37のうちの1つでは検出されない。
【0041】
非補正透過電子顕微鏡において用いられる半開口角αの各例示値は8mradとなるが、補正透過電子顕微鏡において用いられる半開口角αの各例示値は最大50mradとなることがある。半開口角αDFの各例示値は、50mrad〜150mradとなる。製造上の制約により、暗視野検出器33の絞り45の最小直径は、例えば、2mmより大きくなる。一方、モノクロメータの入射絞り22により規定された、エネルギーフィルタ19の面21内の入射像領域の直径の値は、例えば、300μm未満となるはずである。暗視野検出器33内の絞り45が所与の最小直径であるときに、小角度散乱した暗視野電子を検出できるようにするため、1より大きい結像倍率で回折面15を面21内に結像することが必要な場合がある。この目的のため、投影レンズ系17において回折面15を面21内に結像するための結像倍率は1〜20の範囲内とすることができる。しかしながら、このような拡大結像を行うことにより、結果として、エネルギーフィルタ19の入射像面21内の明視野像22の直径も拡大し、エネルギーフィルタ19のエネルギー分解能が減少する。
【0042】
図2に、エネルギーフィルタ19の入射像面21内の像領域の半径Rと例示的なエネルギーフィルタのエネルギー分解能dEとの関係を示す。例示的なエネルギーフィルタは、例えば、非特許文献1にて説明されるような、二次補正オメガフィルタとして構成する。
【0043】
図2に示すグラフによれば、入射像領域の直径2Rが300μmであるとき、エネルギー分解能は約0.3eVとなる。これは、運動エネルギーが0.8eVずつ変化する電子ビームを用いる透過電子顕微鏡においては、十分な値である。しかしながら、運動エネルギー幅を0.1eVまで減少させるためにモノクロメータを有する透過電子顕微鏡を用いる場合、入射像領域の直径2Rが300μmでは不適切なことがある。なぜなら、エネルギー分解能は、入射電子ビームではなく、エネルギーフィルタにより制限されるからである。
【0044】
図2から明らかなように、暗視野検出器33を用いて小角度散乱する暗視野電子を検出することと、高エネルギー分解能を得ることとは相反する関心事である。
【0045】
図3は、これらの相反する関心事を満たす透過電子顕微鏡1aの概略図である。透過電子顕微鏡1aは、半開口角αを有する電子ビーム5aを試料面9a上に導くように構成した、ビーム源およびさらなるビーム生成部品(図3には図示せず)を備える。対物レンズ11a、投影レンズ系17a、およびエネルギーフィルタ19aは、試料面9aの下流に配置する。投影レンズ系17aは二段構成であり、少なくとも2枚のレンズを有する第1投影レンズ系61、および少なくとも2枚のレンズを有する投影レンズ系63を備える。エネルギーフィルタ19aは、その上流側に、入射像面21aおよび入射瞳面65aを有し、その下流側に、色消し像面23aおよびスペクトル面25aを有する。図3には図示しないが、さらなるレンズおよび検出器をスペクトル面25aの下流に配置することができる。
【0046】
投影レンズ系17aは、試料面9aをエネルギーフィルタ19aの入射瞳面65内に結像し、対物レンズ11aの回折面15aをエネルギーフィルタ19aの入射像面21a内に結像するように構成する。ここで、2枚またはそれ以上のレンズを有する第1投影レンズ系61により、回折面15aは中間回折面67内に結像され、この中間回折面67も同様に、2枚またはそれ以上のレンズ64を有する第2投影レンズ系63によりエネルギーフィルタ19aの入射像面21a内に結像される。回折面15aは中間回折面67内に倍率Mで拡大結像され、倍率Mは、例えば、8〜40の範囲内にある。角度αの値は、例えば、10mradから50mradであり、対物レンズ11aの焦点距離fは、例えば、1.7mm、明視野回折像51aの直径、すなわちΦDiff=2fαは、34μm〜170μmとなる。回折面51aの明視野像は、第1投影レンズ系61により、中間回折面67内において明視野像69として結像され、この明視野像69の直径は、ΦBF=MΦDiffとなる。この直径は、例えば、α=50mradおよびM=4のとき、約1.4mmであり、また、この直径は、例えば、α=10mradおよびM=40のときも約1.4mmとなる。
【0047】
図示の例において、暗視野検出器33aを中間回折面67内に配置して、試料面9aで大角度散乱した電子を検出する。一方、小角度散乱した明視野電子および暗視野電子は暗視野検出器33aを通過する。
【0048】
第2投影レンズ系63により、中間回折面67をエネルギーフィルタ19aの入射像面21a内に倍率Mで結像して、入射像面21a内の回折像22aの直径が、図示の例において、300μm未満となるようにし、エネルギーフィルタ19aが所望の高分解能となるようにする。この目的のため、第2投影レンズ系63による結像の倍率Mを、例えば、0.1〜1.5の範囲内とすることができ、特に、この倍率Mは1未満とすることができる。
【0049】
中間回折面67および中間回折面67内の暗視野検出器33aの配列を介して、回折面15aをエネルギーフィルタ19aの入射像面21a内に多段結像することにより、複数の利点をもたらすことができる。すなわち、(a)暗視野検出器33aの絞り45aが所与の直径を有するとき、試料面9a内で比較的小角度散乱した暗視野電子の検出も可能になる。なぜなら、第1投影レンズ系61による結像倍率は1より大きいからである。(b)中間回折面67をエネルギーフィルタ19aの入射像面21a内にさらに結像する際には、必要に応じて、倍率1未満の縮小結像とすることができ、後段のエネルギーフィルタ処理対象の回折像22aの直径を制限して、エネルギーフィルタ19aのエネルギー分解能が所望の低い値となるようにすることができる。また、(c)対物レンズ11aとエネルギーフィルタ19aとの間に付加的な空間が生じ、以下にさらに詳細に説明するように、この空間に、暗視野検出器33a、または、相変化素子もしくはバイプリズム等の付加的な部品をさらに設けることができる。
【0050】
図3における各線71は、回折面15a、中間回折面67、エネルギーフィルタ19aの入射像面21a、およびエネルギーフィルタ19aの色消し像面23aが、共役な面であること、すなわち、投影レンズ系17aおよびエネルギーフィルタ19aにより互いの面内に結像される面であることを示す。
【0051】
図4に、透過電子顕微鏡1bのビーム路の一部を概略的に示す。図4において、各レンズを両矢印で示す。また、図4には、ビーム路の軸方向光線および視野光線を示す。
【0052】
透過電子顕微鏡1bは、ビーム源、レンズ、および偏向器(図4には図示せず)を備える。偏向器は、電子ビームを試料面9b内に集束し、ビーム集束位置を試料面9b内の領域にわたり走査するように構成する。したがって、透過電子顕微鏡1bは走査型透過電子顕微鏡(STEM)として動作させることができる。透過電子顕微鏡1bは、さらに、入射像面21bおよび入射瞳面65bを有するエネルギーフィルタ(図4には図示せず)を備える。投影レンズ系17bの各レンズは、試料面9bとエネルギーフィルタの入射瞳面65bとの間に配置し、投影レンズ系17bは、2枚のレンズ62bおよび62bを備える第1投影レンズ系61b、および3枚のレンズ64b、64b、および64bを備える第2投影レンズ系63bを備える。第1投影レンズ系61bは、対物レンズ11bと協働して、試料面9bを中間像面71内に結像し、ここで、中間像面71の位置は光軸43bに沿って変化させることができる。第1投影レンズ系61bは、さらに、対物レンズ11bの回折面15bを中間回折面67b内に結像する。
【0053】
図4に示す例において、暗視野検出器33bを中間回折面67b内に配置する。暗視野検出器33bは、試料面9bにおいて閾値散乱角よりも大きい角度で散乱した電子を検出するように構成し、試料面で散乱しなかった電子または試料面9b内で閾値散乱角よりも小さい角度で散乱した電子は検出器を通過させるように構成する。この閾値散乱角は、回折面15bを中間回折面67内に結像する際の倍率を調整することにより、調整できる。この結像倍率は、レンズ62bおよびレンズ62bの励磁を調整および変更することにより、調整および変更することができる。このようにレンズ62bおよびレンズ62bの励磁を変更しても、透過電子顕微鏡1bの光軸43bに沿った中間回折面67bの位置は変更されず選択した倍率とは無関係となるようにする。しかしながら、倍率を変更したときに中間回折面67bの位置は変更されなくても、中間像71の位置を光軸43bに沿って変化させずに維持することは不可能である。回折面15bを中間回折面67b内に結像する際の倍率を変更した場合、中間像71の位置は光軸43bに沿って変化することになる。
【0054】
図4に、第1投影レンズ系61bのレンズ62bおよびレンズ62bを上記のように励磁するように構成した第1制御モジュール59、および第2投影レンズ系63bのレンズ64b、レンズ64b、およびレンズ64bを上記のように励磁するように構成した第2制御モジュール60を概略的に示す。各レンズのコイルに供給する電流を調整することにより、レンズの励磁を行う。
【0055】
第2投影レンズ系63bにより、中間回折面67bをエネルギーフィルタの入射像面21b内に結像し、また、中間像面71bをエネルギーフィルタの入射瞳面65b内に結像する。ここで、中間回折面67bを入射像面21b内に結像する際の倍率を調整して、エネルギーフィルタの入射像面21b内の像の直径が所望の値を超えないようにすることができる。ここで、所望の値とは、エネルギーフィルタのエネルギー分解能も所望の値を超えないように選択した値のことである。したがって、第1投影レンズ系61bにより回折面15bを中間回折面67b内に結像する際の倍率を変更した場合は、レンズ64bおよびレンズ64bにより中間回折面67bをエネルギーフィルタの入射像面21b内に結像する際の倍率を変更する必要がある。第1投影レンズ系61bによる倍率を変更することにより中間像71の位置も光軸43bに沿って変化するため、中間回折面67b内に位置するレンズ64bの焦点距離も、レンズ64bおよびレンズ64bによる倍率の変更に伴って変更する必要があり、そうすることで中間像面71をエネルギーフィルタの入射瞳面65b内に正確に結像できるようにする。
【0056】
この目的のため、レンズ64bは、その主面が中間回折面67bと一致するように配置することができ、または、その主面が中間回折面67b近傍に位置するように配置することができる。このような配置は、レンズ64bの焦点距離の変化が回折面の結像に実質的に影響を及ぼさない点において有利である。レンズ64bの励磁を利用して、回折面の結像に実質的に影響を及ぼすことなく、中間像面の結像を調整することができる。
【0057】
図5は、レンズ64bの焦点距離fP1と、回折面15bを中間回折面67b内に結像する際の倍率MDZとの間の依存関係を複数の線で表すグラフであり、各線は、固定値Mに対する、中間回折面67bをエネルギーフィルタの入射像面21b内に結像する際の倍率の依存性を示す。
【0058】
図6に、さらなる例として、透過電子顕微鏡1cのビーム路の一部を概略的に示す。透過電子顕微鏡1cのビーム路は、図4および図5を参照して説明した上記の走査型透過電子顕微鏡(STEM)のビーム路と次の点で同様である。すなわち、投影レンズ系14c、および入射瞳面65cならびに入射像面21cを有するエネルギーフィルタが、顕微鏡のビーム路における対物レンズ11cの下流に配置されている点で同様である。さらに、投影レンズ系17cは、試料面9cを中間像面71c内に結像し、また、対物レンズ11cの回折面15cを中間回折面67b内に結像する第1投影レンズ系61cを備える。図4を参照して説明した例とは異なり、図6に示す例においては、試料面9cの拡張領域を電子ビームで照射する。この照射される拡張領域の直径は、一般に、約1μm〜100μmとすることができる。照射する電子ビームは平行光線とすることができ、試料面に入射する電子の開口角は、図4を参照して説明したSTEMにおける開口角の、10分の1または100分の1とすることができる。したがって、図6を参照して説明するタイプの透過電子顕微鏡において試料を照射する電子ビームの開口角または円錐角の例示値は0.1mradから1mradとすることができる。図6に示す例が、図4に示す例とさらに異なる点は、エネルギーフィルタの入射像面21c内に結像するのは中間回折面67cではないことである。具体的には、図6に示す例における中間回折面はエネルギーフィルタの入射瞳面内に結像されるが、本例においては、中間像面71cがエネルギーフィルタの入射像面21c内に結像される。
【0059】
相変化素子75は、中間回折面67c内に配置される。相変化素子75は、試料において散乱し、光軸43bから遠く離れて中間回折面67bを通過する軌道上を移動する電子群と、実質的に散乱せずに試料を通過し、光軸から近い距離で中間回折面67cと交差する軌道上を移動する電子群との間に、位相シフトを発生させるように構成する。異なる位相にシフトした2つの電子群を中間回折面67cの下流に位置する中間像面77c内で互いに重畳し、これらの電子群が中間像面77c内で相互干渉することにより、試料面9cの位相差像を生成する。中間像面77cは、レンズ64cの励磁を適切に調整することにより主軸43cに沿って配置することができ、レンズ64cおよびレンズ64cにより位相差像をエネルギーフィルタの入射像面21c内に結像する一方、中間回折面67cもエネルギーフィルタの入射瞳面65c内に同時内に結像するようにする。したがって、エネルギーフィルタの下流の色消し像面において、試料面9cのエネルギーフィルタ処理した位相差像を生成することができる。
【0060】
適切な相変化素子として複数のタイプがある。相変化素子の一例は特許文献1に記載され、その内容は参照により本明細書に完全に援用される。この例によれば、光軸から閾値半径内の距離を隔てて相変化素子を通過する電子は、静電ポテンシャルを通過するが、この静電ポテンシャルは、光軸から閾値半径を超えた距離を隔てて相変化素子を通過する電子が通過する静電ポテンシャルとは異なる。相変化素子のさらなるタイプは、特許文献2に開示され、その内容は参照により本明細書に完全に援用される。この例によれば、相変化素子は、電子が通過する薄い円形リングを備え、このリング部分を通過する電子が、リングの内側の円形状の絞りを通過する電子に対して、位相シフトするように構成する。
【0061】
相変化素子により、2つの電子群に対して異なる位相シフトを行う。2つの電子群とは、すなわち、光軸から閾値半径内の距離を隔てて相変化素子を通過する電子群と、光軸から閾値半径を超えた距離を隔てて相変化素子を通過する電子群のことである。この閾値半径により、試料内で分散する電子に対する、対応分散角を規定する。ここで、閾値角より小さい角度で散乱する電子は電子の第1群を構成し、閾値角より大きい角度で散乱する電子は電子の第2群を構成する。望ましくは、この閾値散乱角を調整する。閾値散乱角を調整するには、相変化素子の第1半径を変更する、すなわち、相変化素子の幾何学的形状を変更する。しかしながら、相変化素子の幾何学的形状を変更するのは容易なことではない。
【0062】
図示の例においては、相変化素子75を配置した中間回折面67cに回折面15cを結像する際の倍率を変更することにより、閾値散乱角を変更する。図6を参照して説明した例の第1投影レンズ系61cは、回折面15cを中間回折面67c内に結像する際の倍率を変更するために、レンズ62cおよびレンズ62cの励磁を変更するが、その一方で中間回折面67cの光軸73cに沿った位置を維持することができるように構成する。しかしながら、回折面15cを中間回折面67c内に結像する際の倍率を変更した場合、第1投影レンズ系61cにより試料面9cを結像した中間像面71cの位置も同様に変化する。中間像面71c位置のそのような変位は、レンズ64cの焦点距離を変更することにより補償することができる。レンズ64cの焦点距離を調整して、レンズ64cにより面77c内に中間像を生成し、その中間像をレンズ64cおよびレンズ64cによりエネルギーフィルタの入射像面21c内に結像するようにする。図示の例において、第1投影システムにより試料面9cを中間像面71c内に結像する際は、倍率1未満の縮小結像とすることができ、一方、面77c内の中間像をエネルギーフィルタの入射像面21c内に結像する際は、倍率が1よりも大きい拡大結像とすることができる。
【0063】
また、透過電子顕微鏡1cは、上記のように、各レンズのコイルに供給する電流を調整することにより、第1投影レンズ系61cのレンズ62cおよびレンズ62cを励磁するように構成した第1制御モジュール(図6には図示せず)、および第2投影レンズ系63cのレンズ64c、レンズ64c、およびレンズ64cを励磁するように構成した第2制御モジュール(図6には図示せず)を備える。
【0064】
図7は、投影レンズ系17cによる結像、すなわち、対物レンズ11cの仮想中間像面78をエネルギーフィルタの入射像面21c内に結像する際の倍率M(Image)の、中間回折面67cをエネルギーフィルタの入射瞳面65c内に結像する際の倍率M(Proj Zoom)に対する依存性を複数の線で表すグラフである。
【0065】
図8に、さらなる例示的な透過電子顕微鏡1dのビーム路の一部を概略的に示す。図8に示す透過電子顕微鏡1dは、図6および図7を参照して説明した上記の透過電子顕微鏡と次の点で同様である。すなわち、対物レンズ11dおよび投影レンズ系17dにより、試料面9dをエネルギーフィルタの入射像面21d内に結像し、対物レンズ11dの回折面15dをエネルギーフィルタの入射瞳面65d内に結像する。
【0066】
透過電子顕微鏡1dは、任意選択の試料分析法として、電子線ホログラフィーを行うように構成する。この目的のため、試料面9d内の試料をコヒーレントな電子ビームで照射する。ここで、この試料の配置は、物体波を生成する照射ビームの一部のみが試料を通過するようにし、照射ビームのその他の部分が試料を真空でバイパスして試料を通過したビームの一部に対する参照波を提供するような配置とする。
【0067】
投影レンズ系17dの第1投影レンズ系61dは、2枚のレンズ62dおよび62dを備え、対物レンズ11dの回折面15dを中間回折面67d内に結像し、また、試料面9dを中間像面77d内に結像する。バイプリズム81を、ビーム路内における中間回折面67dの下流であって中間像面77dの上流に配置する。バイプリズム81により、中間回折面67d内に2つの仮想コヒーレント源画像を生成し、物体波と参照波との間の干渉により、中間像面77dの領域において干渉パターンが生成されるようにする。この干渉パターンは、試料に関する位相情報を含み、干渉パターンを分析することにより試料の特性に関する情報を取得することができる。
【0068】
バイプリズムに関しては複数の選択肢がある。1つの選択肢として、接地電位にある2枚のプレートの間に細い帯電繊維を配置した、メーレンシュテット型のバイプリズムがある。この繊維に正電位を印加した場合、繊維をバイパスする電子の軌道は光軸43dに向かって偏向し、中間回折面67d内に2つの仮想コヒーレント源画像が生成される。
【0069】
有利には、第1投影レンズ系61dのレンズ62dおよびレンズ62dを励磁して、回折面(フーリエ面)67dおよび像面77dが光軸43dに沿って位置するようにし、バイプリズム81が回折面67dと像面77dとの間に対称に位置するようにする。対称に位置するとは、バイプリズム81と回折面67dとの間の距離が、バイプリズム81と像面77dとの間の距離に等しいことを意味する。
【0070】
投影レンズ系17dの第2投影レンズ系63dは、2枚のレンズ64dおよび64dを備え、中間回折面67dをエネルギーフィルタの入射瞳面65d内に結像し、また、中間像面77dをエネルギーフィルタの入射像面21d内に結像して、エネルギーフィルタ処理された画像または非弾性の干渉画像、およびエネルギー損失スペクトルをエネルギーフィルタの下流において記録できるようにする。
【0071】
レンズ62dおよびレンズ62dの励磁を偏向することにより、距離bを変更することができる。距離bを変更した結果、投影レンズ系61dの中間像面77dに試料面9dを結像する際の倍率MBIが変化する。バイプリズム81の中間回折面67dおよび中間像面77dからの距離がどちらも距離bとなる条件を満たす倍率として、2つの異なる倍率、すなわち、MBI(高)およびMBI(低)がある。同様に、2つの異なる倍率、すなわち、MFEI(高)およびMFEI(低)、ならびに対応するレンズ64dおよび64dの励磁により、第2投影レンズ系63dにおいて中間回折面67dをエネルギーフィルタの入射瞳面65d内に結像し、中間像面77dをエネルギーフィルタの入射像面21d内に結像することができる。
【0072】
また、透過電子顕微鏡1dは、上記のように、各レンズのコイルに供給する電流を調整することにより、第1投影レンズ系61dのレンズ62dおよび62dを励磁するように構成した第1制御モジュール(図8には図示せず)、および第2投影レンズ系63dのレンズ64dおよびレンズ64dを励磁するように構成した第2制御モジュール(図8には図示せず)を備える。
【0073】
図9に、投影レンズ系17d内の倍率と距離bとの間の依存関係を示す。具体的には、図9は、試料面9dを像面77d内に結像する際の高倍率MBI(高)および低倍率MBI(低)、像面77dをエネルギーフィルタの入射像面21d内に結像する際の高倍率MFEI(高)および低倍率MFEI(低)、およびMBI(高)×MFEI(高)の積に対する、中間回折面67dと中間像面77dとの間の距離2bの依存性を示すグラフである。
【0074】
図10は、さらなる例示的な透過電子顕微鏡のビーム路の概略図である。図10に示す透過電子顕微鏡1eの構成は、図8および図9を参照して説明した上記の透過電子顕微鏡と次の点で同様である。すなわち、バイプリズム81eは、対物レンズ11eの下流のビーム路上であって、対物レンズ11eの回折面15eと対物レンズ11eの像面87eとの間に配置する。透過電子顕微鏡1eは、さらに、入射瞳面65eおよび入射像面21eを有するエネルギーフィルタまたはその他の分析系を備える。透過電子顕微鏡1eの投影レンズ系17eは、対物レンズ11eの像面87の下流に配置した、3枚のレンズ64e、64e、および64eを有する第2投影レンズ系63eを備える。第2投影レンズ系63eにより、対物レンズ11eの像面87をエネルギーフィルタの入射像面21e内に結像し、また、対物レンズ11eの回折面15eをエネルギーフィルタの入射瞳面65e内に結像する。
【0075】
図2〜図9を参照して説明した上記の透過電子顕微鏡において第1投影レンズ系61のレンズ62が励磁されていなければ、上記の透過電子顕微鏡のいずれにおいても図10に示すビーム路を得ることができる。
【0076】
図11に、例示的な補正透過電子顕微鏡を概略的に示す。図11に示す透過電子顕微鏡1fの構成は、相変化素子75fおよびエネルギーフィルタ19fが、ビーム路における対物レンズ11fの下流に配置される点で、図6および図7を参照して説明した上記の顕微鏡と同様である。相変化素子75fは中間回折面67f内に配置され、中間回折面67f内には対物レンズ11fの後焦点面15fが多段結像により結像される。相変化素子を配置した中間回折面67fは、エネルギーフィルタ19fの入射瞳面65f内に結像され、一方、試料面9fは、エネルギーフィルタ19fの入射像面21fに多段結像により結像される。
【0077】
この目的のため、透過電子顕微鏡1fは投影レンズ系17fを備える。投影レンズ系17fは、第1投影レンズ系61fを有して構成される。第1投影レンズ系61fは2枚のレンズ62fおよび62fを有し、レンズ62fおよび62fは、相変化素子75fの上流に配置され、回折面15fを中間回折面67f内に結像する際の倍率を調整するように構成される。投影レンズ系17fの第2投影レンズ系63fは、3枚のレンズ64f、64f、および64fを有し、中間回折面67fをエネルギーフィルタ19fの入射瞳面65f内に結像するように構成され、相変化素子75fの上流における面71f内で生成した試料面9fの中間像をエネルギーフィルタ19fの入射像面21f内に結像するように構成される。
【0078】
図11に示す透過電子顕微鏡1fは、図6および図7を参照して説明した上記の透過電子顕微鏡と次の点において異なる。すなわち、透過電子顕微鏡1fは、対物レンズ11fと投影レンズ系17fとの間のビーム路内に設けた補正器101を備える。補正器は、対物レンズ11fにより発生するオープニングエラーまたは球面収差等の結像誤差を低減または補償するように構成される。この目的のため、補正器101は、2つの六極子103および104、対物レンズ11fと六極子103との間に配置したレンズ105および106、六極子103と六極子104との間に配置したレンズ107および108、ならびに六極子104の下流に配置したレンズ109を備える。図11に示す例において、第1投影レンズ系61fのレンズ62fおよび補正器101の最終レンズ109として、同じ1枚のレンズを共通に用いる。しかしながら、第1投影レンズ系61fのレンズ62fおよび補正器101の最終レンズ109として、それぞれ別個のレンズを設けることも可能である。
【0079】
図11に示す例示的な透過電子顕微鏡1fは、位相差分析を行うため、エネルギーフィルタ19fおよび相変化素子67fを備える。透過電子顕微鏡1fには補正器101を設けて結像誤差を低減する。同様に、図1〜図10を参照して説明した上記の透過電子顕微鏡のビーム路中において、対物レンズの下流に補正器を挿入して、ビーム路を変更することもできる。すなわち、図3、図4、および図5を参照して説明した、エネルギーフィルタおよび暗視野検出器を有する上記の透過電子顕微鏡において、補正器を用いることができる。同様に、図8、図9、および図10を参照して説明した、エネルギーフィルタおよびバイプリズムを有する上記の透過電子顕微鏡において、補正器を用いることができ、ホログラフィー分析を行うことができる。
【0080】
図11に、結像誤差を低減および補正する補正器を有する透過電子顕微鏡の例を示す。上記の全ての例において、補正器を対物レンズの下流に配置して結合誤差を低減することができる。または、補正器を含まない構成とすることもできる。
【0081】
透過電子顕微鏡の上記の例において、対物レンズの下流に投影レンズ系を設ける。投影レンズ系は、第1投影レンズ系および第2投影レンズ系を備え、第1投影レンズ系の下流であり第2投影レンズ系の上流において、対物レンズの回折面の中間像を生成する。第1投影レンズ系および第2投影レンズ系は、第1投影レンズ系による結像倍率を変更したときに回折面における中間像の位置がビーム路に沿って変化しないような構成とする。
【0082】
回折面の中間像を生成する面内またはその近傍には、複数の電子光学素子を配置することができる。そのような素子の例として、検出器および相変化素子がある。
【0083】
第2投影レンズ系の下流には分析系を設ける。これには少なくとも次の3つの選択肢がある。すなわち、(a)第2投影レンズ系の下流にエネルギーフィルタを設けることができ、最終投影レンズ系をエネルギーフィルタの下流であり検出器の上流に設ける。(b)さらに、最終投影レンズ系を第2投影レンズ系の下流に設け、検出器を最終投影レンズ系の下流に設け、投影レンズ系と最終投影レンズ系との間にはエネルギーフィルタを設けない。(c)いわゆるポストカラムエネルギーフィルタを第2投影レンズ系の下流に配置することができ、ポストカラムエネルギーフィルタの下流であり検出器の上流に、1個またはそれ以上の四極子を含む光学系を設ける。
【0084】
以上において説明した全ての例における1個またはそれ以上の検出器は、光位置センサとすることができ、または、光位置センサではない検出器とすることもできる。
【0085】
本発明を特定の例示的な実施形態に基づき説明したが、種々の代案、変更、および変形が当業者にとって明白であろうことは明らかである。したがって、本明細書において説明した本発明の具体例としての実施形態は、例示を目的としたものであり、決して本発明を限定するものではない。以下の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、種々の変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料面内に試料を配置することのできる透過電子顕微鏡であって、
前記透過電子顕微鏡のビーム路における前記試料面の下流に配置した対物レンズ、
前記ビーム路における前記対物レンズの下流に配置した、複数のレンズを有する第1投影レンズ系、
前記ビーム路における前記第1投影レンズ系の下流に配置した、複数のレンズを有する第2投影レンズ系、および
前記ビーム路における前記第2投影レンズ系の下流に配置した、少なくとも1枚のレンズを含む分析系、
を備え、
前記対物レンズ、前記第1投影レンズ系、前記第2投影レンズ系、および前記分析系は、
前記対物レンズおよび前記第1投影レンズ系により、前記試料面を中間像面内に結像し、
前記第1投影レンズ系により、前記対物レンズの回折面を中間回折面内に結像し、および
(a)前記第2投影レンズ系により、前記中間像面を前記分析系の入射像面内に結像して前記中間回折面を前記分析系の入射瞳面内に結像するか、または
(b)前記第2投影レンズ系により、前記中間像面を前記分析系の前記入射瞳面内に結像して前記中間回折面を前記分析系の前記入射像面内に結像するように、
構成されることを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の透過電子顕微鏡であって、前記分析系はエネルギーフィルタを有することを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2に記載の透過電子顕微鏡であって、さらに、
前記第1投影レンズ系の前記複数のレンズのうち少なくとも2枚のレンズを励磁して前記対物レンズの前記回折面を前記中間回折面内に結像する際の倍率を変更できるように構成した第1制御モジュールを備える、透過電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項3に記載の透過電子顕微鏡であって、
前記第1制御モジュールは、前記対物レンズの前記回折面を前記中間回折面内に結像する際の倍率を変更したときに前記中間回折面の位置が前記ビーム路に沿って実質的に変化しないように、前記第1投影レンズ系の前記複数のレンズのうち少なくとも2枚のレンズを励磁するように構成されることを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡であって、前記対物レンズの前記回折面を前記中間回折面内に結像する際の倍率は1より大きいことを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5に記載の透過電子顕微鏡であって、前記対物レンズの前記回折面を前記中間回折面内に結像する際の倍率は4〜8の範囲内または8〜40の範囲内であることを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡であって、さらに、
前記第2投影レンズ系の前記複数のレンズのうち少なくとも2枚のレンズを励磁するように構成した第2制御モジュールを備え、
前記第2制御モジュールは、前記透過電子顕微鏡の2つの動作モードを切り替えるように構成され、
前記透過電子顕微鏡の第1動作モードにおいて、前記中間像面は前記分析系の前記入射像面内に結像され、前記中間回折面は前記分析系の前記入射瞳面内に結像され、
前記透過電子顕微鏡の第2動作モードにおいて、前記中間像面は前記分析系の前記入射瞳面内に結像され、前記中間回折面は前記分析系の前記入射像面内に結像されることを特徴とする、
透過電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡であって、前記中間回折面を前記エネルギーフィルタの前記入射瞳面内に結像する際の倍率は3未満であることを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項8に記載の透過電子顕微鏡であって、前記中間回折面を前記エネルギーフィルタの前記入射瞳面内に結像する際の倍率は、0.05〜3の範囲内または0.1〜1.5の範囲内であることを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡であって、
前記第2投影レンズ系は前記中間回折面内に配置したレンズを備えることを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡であって、さらに、
前記中間回折面内に配置した暗視野検出器を備えることを特徴とする、
透過電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項11に記載の透過電子顕微鏡であって、
前記暗視野検出器は、前記ビーム路の主軸から離間した検出領域を含み、前記主軸から遠く離れて前記中間回折面と交差する軌道上を移動する電子は前記検出領域に入射するが、前記主軸から近い距離において前記中間回折面と交差する軌道上を移動する電子は前記暗視野検出器を回避することができるようにしたことを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡であって、さらに、前記中間回折面内に配置した相変化素子を備える、透過電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項13に記載の透過電子顕微鏡であって、
前記相変化素子は、前記ビーム路の主軸から離間した相変化領域を含み、前記主軸から遠く離れて前記中間回折面と交差する軌道上を移動する電子は、前記相変化領域を通過すると、前記主軸から近い距離において前記中間回折面と交差する軌道上を移動する電子に対して、位相シフトされることを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡であって、さらに、前記対物レンズの前記回折面と前記エネルギーフィルタとの間のビーム路中に配置したバイプリズムを備える、透過電子顕微鏡。
【請求項16】
請求項15に記載の透過電子顕微鏡であって、
(c)前記ビーム路において、前記第1投影レンズ系により生成される前記中間回折面が前記バイプリズムの上流に配置され、および/または、
(d)前記ビーム路において、前記第1投影レンズ系により生成される前記中間像面が前記バイプリズムの下流に配置されるように、
前記バイプリズム、ならびに前記第1投影レンズ系および前記第2投影レンズ系の前記複数のレンズを構成することを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項17】
請求項16に記載の透過電子顕微鏡であって、
前記第1投影レンズ系の前記中間回折面と前記バイプリズムとの間の距離は、前記バイプリズムと前記第1投影レンズ系により生成される前記中間像面との間の距離と実質的に等しいことを特徴とする、透過電子顕微鏡。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の透過電子顕微鏡であって、さらに、
前記対物レンズと前記第1投影レンズ系との間の前記ビーム路中に配置した像補正器を備える、透過電子顕微鏡。
【請求項19】
請求項18に記載の透過電子顕微鏡であって、前記像補正器は少なくとも1個の六極子を含むことを特徴とする、透過電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−181501(P2011−181501A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−43279(P2011−43279)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504020452)カール・ツァイス・エヌティーエス・ゲーエムベーハー (36)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss NTS GmbH
【Fターム(参考)】