説明

通信用オプトエレクトロニクス用熱硬化性多機能カプセル材料のための高分子組成物および重合性組成物

【課題】基板上での光学構成要素の接着を目的とする無色で清澄な光学高分子組成物を提供すること。
【解決手段】通信用オプトエレクトロニクスで使用する光学高分子組成物であって、熱重合および熱硬化したトリメチロールプロパントリアクリレートと、二環式炭化水素アクリレートと、1,4−ブタンジオールジアクリレートと、トリアクリル官能基を有する多面体シルセスキオキサンオリゴマとを含む光学高分子組成物。組成物は、開始剤および触媒を含まず、光学的に清澄で、きずが無なく、熱的に安定である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、光学高分子組成物および出発材料として使用される重合性組成物に関する。また、本発明は出発材料の使用に関する。当該光学高分子組成物は、様々な光学用途で使用してもよく、この光学高分子組成物は、光学構成要素を接合する際の接着剤として、また様々な光学構成要素(レンズなど)用構成材料であって、その機能において、この光学高分子組成物が接着特性をも有して、レンズまたは他の光学構成要素を構造部分上または基板上に、または2つの構造部分間に形成してもよい様々な光学構成要素用構成材料として、さらに、一般的に光学分野におけるカプセル材料として機能することができる。1つの重要な用途分野は、通信用オプトエレクトロニクスであり、そこでは、組成物は上記に述べた機能のいずれかを有することができ、その結果、光学的強度の高いデータ用光学伝送路を形成する。
【0002】
発明の背景
光学高分子組成物は、光学的に清澄(透明)でなければならず、光学形式のデータ伝送に悪影響を及ぼす可能性のある着色または構造的な欠陥(微小な亀裂、泡等)を有してはならず、様々な環境および条件での使用の際に安定したものでなければならない。光学高分子組成物は、湿気の影響を受けてはならない。なぜなら湿気の吸収は光学的挙動を変化させ、光学データ伝送を弱めるからである。湿気の吸収は光学用途のカプセル材料からなる光学接合部の機械的強度も弱め、特に高温において材料の化学的加水分解を生じる場合がある。また、光学高分子組成物は工業生産するために、安全かつ安価なものでなければならない。
【0003】
一般的に、光学高分子は、組成物がその場所で固定した形状に硬化された後、必要とされる形状の構成要素および/または2つの部品間の結合部/接合部を得ることができるように変形可能な状態にある、単量体またはオリゴマの出発材料から硬化される。出発材料は、単量体または単量体およびオリゴマと、重合開始剤とを含む。着色はその代表的な欠陥であり、光学高分子組成物は、一般に黄変する問題を抱える。文献研究、理論検討および実験研究は、種々の熱開始剤または紫外線開始剤および他の特性調整剤として使用される添加剤は、多くの市販されている光学高分子材料の黄変および熱的不安定の主要な原因となりうることを示している。紫外線硬化または光触媒による硬化には、一般的に、重合性組成物の光の浸透度に関して限界があるという問題がある。
【0004】
重合性組成物の熱硬化の際、問題となるのは高温であり、特に硬化時間が長い場合、オプトエレクトロニクス装置の回路および構成要素に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
いくつかの硬化性組成物が先行技術として知られている。米国特許第6760533号明細書は、エポキシ樹脂と、エポキシシランと、アミン硬化剤と、水と、アルコールとを主成分にした光学部分接着用の接着剤組成物を開示している。米国特許第6798792号明細書は、400℃以下の硬化温度および300℃を超える最終高分子の熱分解温度を有した有機・無機ハイブリッド高分子を形成するためのいくつかのシルセスキオキサン誘導体の構成単位としての使用を開示している。前記シルセスキオキサンオリゴマは、光ファイバの接触面で、相対的に希釈した溶液として塗布された後、溶媒を蒸発させている。この種の出発材料は、亀裂を発生しやすい。米国特許第4889901号明細書は、光グラスファイバ用紫外線硬化性被覆組成物を開示している。この組成物は、アクリレート末端ポリウレタンおよびシルセスキオキサンオリゴマポリアクリレートを、反応性希釈剤(一般的には、エトキシエトキシエチルアクリレートまたはフェノキシエチルアクリレート)とともに含み、被覆物のガラス転移温度を下げる。この例では、この反応性希釈剤の量は約17〜23重量%である。この組成物は一般のケトン系光開始剤を含み、放射線に曝露された場合に硬化を開始する。最後に、光学接着剤の使用の例が米国特許第6773169号明細書に開示されており、そこでは、表面指向オプトエレクトロニクス素子と光ファイバとを結合させている。この文献では、その接着剤の成分を明確にしていない。
【0006】
発明の要約
本発明の目的は、レンズの形成および部品上または回路基板などの基板上での光学構成要素の接着を目的とする上記で述べた用途で使用可能できる、無色で清澄な光学高分子組成物を形成することである。本発明の特別な目的は、少なくとも先に述べた問題のほとんどを克服する、添加剤を加えない出発材料を提供することである。
【0007】
本発明の目的は、重合硬化したトリメチロールプロパントリアクリレートおよび他のアクリレートを調整剤として含む光学高分子組成物によって達成される。出発材料の基本構成単位であるトリメチロールプロパントリアクリレートは、熱重合および熱硬化のための開始剤または触媒を必要としない。その結果、自発的に重合したトリメチロールプロパントリアクリレートを、調整剤としての他のアクリレートとともに含む組成物を形成することができる。二環式テルペンアクリレート群のうち、イソボルニルアクリレートは、硬化した組成物の清澄度(透明度)を向上するための、最も好ましい調整剤である。
【0008】
さらに、出発(未硬化)組成物中で、一般に使用される反応性溶剤であるジビニルベンゼン(DVB)は、その毒性と悪臭とのために、より反応性が高く、受け入れ可能な試薬であるブタンジオールジアクリレート(BDDA)と置き換えてもよい。
【0009】
光学高分子組成物は、さらにシルセスキオキサントリアクリレートなどの反応性シロキサンを主成分とするナノ充填剤を含有する。この官能基を有するシルセスキオキサンナノ充填剤は、組成物の温度安定性および硬さを向上する。
【0010】
出発組成物から高分子組成物を形成するための好適な方法に従えば、重合および硬化中に、不活性ガス雰囲気を使用する。これは、硬質の硬化した光学高分子材料の形成に関与する架橋反応が、酸素によって抑制されうるという発見に基づくものである。しかしながら、最適化された温度上昇プログラムを使用すれば、たとえばガスクロマトグラフオーブン中では、無触媒重合を通常の空気雰囲気下で実施できる。上昇温度プロファイルは、重合および硬化を促進し、酸素の抑制効果を抑える。
【0011】
本発明を、添付図面を参照して、以下に詳細に説明する。
最良の形態の詳細な説明
本明細書において、特に指示がなければ、全ての百分率値は物質の重量に基づいた値である。
【0012】
この文脈において、「重合した」および「硬化した」という用語は、単量体またはオリゴマが、同じ構造の単量体またはオリゴマと化学結合するとともに、単量体またはオリゴマが、他の種類の単量体またはオリゴマと化学結合して、1つの基本的な単量体もしくはオリゴマ、または2つの基本的な単量体もしくはオリゴマ、またはいくつかの基本的な単量体もしくはオリゴマからなる大きな高分子が形成することを意味するように解釈されるべきである。
【0013】
さらに、「アクリレート」という用語およびその関連用語は、この文脈からアクリレートとメタアクリレートのどちらか一方だけを述べていることが明確である場合を除いて、アクリレートとメタアクリレートの両方を包含するように解釈されるべきである。
【0014】
本発明に従う重合性組成物は、主要成分としてのトリメチロールプロパントリアクリレートと、他のアクリレート調整剤と、アクリレート溶剤(希釈剤)とを含む。この重合性組成物は、ナノサイズのシロキサンを主成分とするトリアクリレート充填剤も含んでもよく、その結果、最終の光学高分子組成物の硬さおよび温度安定性を向上するとともに屈折率を増加させる。
【0015】
トリメチロールプロパントリアクリレート
本発明の目的は、従来の開始剤と置き換えが可能な非常に反応性に富むアクリレートを提供することである。重合反応を開始させ、それが終了するまでに添加剤を使用しなければ、理論上は、最終の硬化した光学高分子組成物は、応力の多い環境条件の下でより安定する。
【0016】
いくつかのモノ、ジ、トリ、およびテトラアクリレートで行われた実験によって、トリメチロールプロパントリアクリレートが熱によって自発的に重合可能(架橋可能)であること、すなわち、組成物が高温で触媒および開始剤を使用せずに硬化できることが示されている。この主要成分は、相対的に低い温度(200℃以下)で固体高分子組成物を生成するのに対し、他の候補組成物は触媒無しでは高温でのみ重合させることができるが、これらの硬化した材料の品質は悪く、オプトエレクトロニクスには使用できない。
【0017】
しかしながら、トリメチロールプロパントリアクリレートから清澄で透明な高分子組成物を得るためには、2種類または3種類のアクリレート調整剤が必要である。これらの出発アクリレート混合物から生成される組成物は、上述のように、光学高分子組成物の特性を劣化させる化学残留物を形成する可能性のある添加剤は含んでいない。この主要成分の構造を図1に示す。必要とされる調整剤の構造を図2および図3に示す。
【0018】
溶剤、化学物質および水蒸気は、低分子量添加物を従来の高分子組成物中に容易に溶解させる可能性があるが、添加剤を含まない成分は、出発成分と調整剤とを含有する単一の架橋高分子と、反応性充填剤などの他の成分のみから成るので、広範囲の環境ストレスに耐える。
【0019】
GCMSによって、トリメチロールプロパントリアクリレートが、ヘリウム雰囲気中のガスクロマトグラフ注入槽において、それ自体、少なくとも280℃で瞬時にまた完全に反応することが判明した。その反応は1秒未満で生じる。
【0020】
バイアルを使用した反応実験によって、150〜170℃の温度が、30分〜2時間の反応時間で、完全な重合および硬化に対して充分な温度であることも示された。しかしながら、この試験では硬化した生成物は完全に清澄ではなく、白色または不透明であり、亀裂が入る可能性があることが判明した。
【0021】
1個の炭素原子に結合した3個のアクリレート基は、それらの協調した熱振動のために、相互反応性を高めることが明らかである。理論に束縛されなければ、この成分の3個の基が、その反応性をお互いに妨害しないという理由で、最適であると推測できる。
【0022】
アクリル調整剤
光学特性および材料特性を修正するために、他のアクリレートを添加することが好ましい。試験を実施した異種のアクリレートおよび他のラジカル反応性分子のうち、イソボルニルアクリレートまたはそれに対応する二環式炭化水素アクリレート、特に二環式テンペルアクリレートが最も有益であることが証明された。
【0023】
イソボルニルアクリレートは、硬化した組成物の透明度およびきずのない表面形成を向上することが判明した。この成分の分子構造および空間モデルを図2に示す。しかしながら、重合性組成物中で、5〜10%を越えるイソボルニルアクリレートを使用すると、質量分析法によって同定されたかなりの油状の未反応残渣が生じる可能性がある。反応性アクリレート溶剤を少量(5〜10%)添加することは、イソボルニルアクリレートを、硬化した高分子組成物骨格に完全に化学結合するには有利である。
【0024】
二環式炭化水素からなる他のアクリレート(アクリル官能基を有する二環式炭化水素)、特に二環式テルペン誘導体を含む二環式テルペンのアクリレートも使用してもよい。二環式炭化水素アクリレートの他の例としては、フェンキルアクリレートがあり、それは二環式テルペンからなるアクリレートである。この文脈におけるアクリレートという用語は、モノマ分子をも含み、そこでは、アクリレート基の数が、ジアクリレートまたはトリアクリレートなど、複数であり、そのことはその反応性において有利となる。
【0025】
反応性無機充填剤としてのトリアクリル官能基を有する多面体シルセスキオキサン(POSS)オリゴマ
図4に示す誘導体の基本分子である多面体シルセスキオキサンオリゴマは、しばしば「かご」型分子と呼ばれ、シリカの最も小さな形態の1つまたは「分子シリカ」とさえみなすことができ、その分子の大きさは1〜3nmである。その化学組成は、シリカ(SiO2)とシリコーン(R2SiO)とのハイブリッド中間体(RSiO1.5)nである。基本分子の誘導体は、可溶化および相溶化のための高分子鎖および非反応性有機官能基にPOSSオリゴマを重合またはグラフト重合するのに適している、共有結合した反応性官能基を有する。
【0026】
予備試験において、熱によって自己硬化する有望なアクリレート組成物を、5〜20nmのシリカナノ粒子と混合した際に、清澄な溶液または分散液を得るのに問題が生じた。その明確な理由は、5〜20nmのシリカ粒子では、粒子の凝集のため、可視光で完全に透明でないより大きなクラスタの形成を伴うためである。これらナノ充填剤材料の1つは、最初は水またはアルコールに分散されており、本発明者は、相間移動過程において有害な凝集を発生させることなく、分離したシリカナノ粒子をアクリレートカプセル化剤に移すことには成功しなかった。いずれにせよ、これらのナノ粒子よりも約10倍大きなものを有機アクリレートカプセル材料と化学結合させることは簡単なことではない。なぜなら有機種と無機種との間の重量および寸法に大きな差があるためである。
【0027】
本発明者の文献研究および予備実験研究では、わずか2〜5nmよりも小さな微粒子寸法を有する多面体オリゴマシルセスキオキサン(POSS)誘導体を、添加剤を加えない有機アクリレート組成物の温度安定性と剛性と硬さとを向上するためのナノ充填剤として選択した。
【0028】
本発明者は、組成物の特性を向上するための方法として、異種のアクリルを誘導体化したPOSS充填剤の試験および研究を実施した。新規組成物に対して清澄で透明な光学接着性を示した唯一のPOSSアクリレートは、トリメタアクリルイソボルニルPOSS(図4)だけであった。その分子の重量は、MW=1344.34gm/moleである。図4の構造式a)において、イソブチル以外の他の非反応性有機置換基Rも可能である。この分子は無機・有機ハイブリッドの3次元構造を有し、3個のメタアクリル基を含む。この多機能メタアクリレートは、硬化した組成物中で効果的な架橋剤として使用できる。試験を実施した他のPOSS充填剤は白色または不完全に透明な硬化物質を生成した。
【0029】
POSSトリアクリレートを使用して得られる最も重要な改良点は、光学高分子組成物の収縮の減少と、温度安定性および屈折率の改善と、新たな材料を使用することができる動作時間範囲の延長とがあると思われる。
【0030】
反応性溶剤(希釈剤)
紫外線または熱開始剤を使用せずに、完全に透明で、きずの無いカプセル材料のための組成物の繰り返し硬化を開始するためには、ジビニルベンゼン(DVB)は、当初は必要だと思われていた。硬化を希釈剤無しで実施した場合、より高温が必要であり、重合および硬化反応はほとんど爆発的であった。しかしながら、この反応性希釈剤であるDVBをより受け入れ可能な試薬と置換することは、毒性、悪臭およびビニル基と比べてアクリル基がより高い反応性を示すという点で有利である。
【0031】
それゆえに、ジビニルベンゼンを、同じ炭素数および同じ炭素間二重結合数を有するブタンジオールジアクリレート(BDDA)と置換することが、有利であるのが実験によって示された。アクリレートの二重結合は、BDDAのカルボキシル基の作用によって、極めてより良い反応性を示した。この成分の構造を図3に示す。
【0032】
DVBをBDDAで置換することは、亀裂のない、透明無色で機械的および光学的に多機能な接合部ならびに最終製品中においてきずの無い膜の形成によって、硬化したカプセル剤の特性を向上し、重合および硬化過程の再現性をも向上した。これらの高分子組成物の透明度は、可視波長領域全体において、90〜95%の範囲であった。屈折率も測定し、その値は1.49〜1.50の範囲であった。トリメチロールプロパントリアクリレートと比較すると、必要とされるBDDAの量は少なく、通常は組成物の総重量の5〜10%である。この量で、清澄で、透明な、きずの無い製品向けの、組成物の均一な硬化に寄与できる。
【0033】
好ましくない副生物
反応物質の未反応残渣に加えて、低分子量の副生物もまた、熱硬化後に、組成物の試作品中で検知され、その分子副生物を質量分析法によって分析した。イソボルニルアクリレートは、アクリレート基の開裂ならびに二環式炭化水素および三環式炭化水素を含有する二重結合の形成によって、分解しやすいことが詳細に判明した。したがって、重合および硬化温度、温度プログラムおよび不活性ガスの有無とともに、硬化した接続部または膜の冷却スピードを制御することは必要である。油状の単量体の量およびその分解生成物は、実施例1〜3に示す高分子組成物および加工条件を使用することによって、著しく減少させるかまたは除去される。
【0034】
本発明に従う硬化性組成物は、水を必要とせず、触媒または開始剤も必要としないので、光の伝達に対する優れた光学特性、優れた物質への接着性、ならびに困難な環境条件での長期の使用に対して優れた温度抵抗性および湿度抵抗性を有する硬質できずの無い光学高分子を結果として生じる。
【0035】
硬化に及ぼすガス雰囲気の影響
空気中での硬化は、密閉したバイアルの中において再現性があるが、硬化した高分子組成物膜の形成には、最初は不活性ガス雰囲気が要求されていた。最適化した加熱温度プロファイルを高精度なオーブンで使用すれば、清澄で透明な硬化膜を形成できたが、本来、膜の硬さは不活性ガス中で硬化したものよりも低かった。これは少なくとも部分的には、本発明者の最初の希釈剤であるジビニルベンゼンの低い反応性が原因であった。架橋反応は、不活性ガス中ほど空気中では効果的ではない。なぜなら、酸素によって重合連鎖反応が遮断されてしまうからである。開始剤無しでは、熱重合は過酸化物または他の熱触媒を使用した場合よりも、酸素による抑制の影響を受けやすい。しかしながら、不活性ガスの使用は、不活性ガスの使用に対する別の経済的な解決手段のため、上述の光学高分子組成物を組込んだ発明品の量産において問題は示さない。しかしながら、ジビニルベンゼンの希釈剤を1,4−ブタンジオールジアクリレートで置換することによって、光学膜の硬化は、硬質な硬化膜の形成によって満足のいくものであった。
【0036】
硬化条件の最適化
最も有用な硬化条件を見つけるために、いくつかの異なる実験装置を用いた。加熱板上、サンドバス上、加熱炉中、および高精度ガスクロマトグラフオーブン中での加熱について検討した。不活性ガスの影響についても注意深く検討し、酸素に関して硬化雰囲気を質量分析法で監視した。
【0037】
光学高分子組成物は上述の全ての光学的用途に使用してもよく、光学高分子組成物は光学データを伝達する材料として機能する。特に、この光学高分子組成物は、図5に概略的に示されるように、通信データを発するレーザ素子(VCSELまたはLEDなど)を、光ファイバと高精度に接合する際に有用である。しかしながら、本発明はこの特定の用途だけに、限定されるものではない。
【0038】
実施例
以下に、光学高分子組成物の生産に関するいくつかの実施例を示す。この実施例は、添付特許請求の範囲で定義された本発明の範囲を制限しない。本実施例に従う、好ましい量は、トリメチロールプロパントリアクリレートが35〜50%、アクリル官能基を有するPOSSが30〜45%、アクリル官能基を有する二環式炭化水素が5〜10%、BDDAが5〜10%である。
【0039】
実施例1:有機・無機ナノ粒子充填剤を含有する光学高分子接合組成物
試薬混合物:トリメチロールプロパントリアクリレート(40〜45%)、トリメタアクリルイソボルニル多面体シルセスキオキサン(40〜45%)、イソボルニルアクリレート(5〜10%)、ブタンジオールジアクリレート(5〜10%)
手順:試薬混合物を5ccm容量のガラス製バイアルに入れた後、180℃に過熱し、30分間180℃に保持したオーブンに投入した。生成物を1〜4時間の間、ゆっくりと冷却させた。生成物は、硬質で、清澄な、透明な物質であった。屈折率は1.49であり、透明度は350〜800nmで、92〜94%であった。
【0040】
実施例2:有機・無機ナノ粒子充填剤を含有する光学膜
試薬混合物:トリメチロールプロパントリアクリレート(35〜50%)、トリメタアクリルイソボルニル多面体シルセスキオキサン(30〜40%)、イソボルニルアクリレート(5〜10%)、ブタンジオールジアクリレート(5〜10%)
手順:試薬混合物を注射器で、平らなガラスまたは金属基板上に塗布した。この試料を不活性ガス(アルゴン)雰囲気下で、160℃に加熱したオーブンに投入した後、この温度で30分間保持した。生成物をゆっくりと冷却させた。生成物は、約1nm厚の硬質で、清澄な、透明な膜であった。膜の光透過度は、350〜800nmで、約90%であった。
【0041】
実施例3:有機・無機ナノ粒子充填剤を含有する光学膜
試薬混合物:トリメチロールプロパントリアクリレート(40%)、トリメタアクリルイソボルニル多面体シルセスキオキサン(40%)、イソボルニルアクリレート(10%)、ブタンジオールジアクリレート(10%)
手順:試薬混合物を注射器で、平らなガラスまたは金属基板上に塗布した。この試料を精密サーモスタットオーブンに入れた後、1分間に20℃上昇させるプログラムを使用して180℃まで徐々に加熱し、この温度で30分間保持した。生成物をゆっくりと冷却させた。生成物は、約1nm厚の硬質で、清澄な、透明な膜であった。膜の光透過度は、350〜800nmで、約90%であった。
【0042】
光学レンズおよび光学接合部形成のための硬化した組成物
重合性組成物をレンズ金型上に置くか、または、微小な注射器で通信発光体であるLEDまたはVSELなどと、光ファイバもしくは光ファイバ束または光通信路との間に塗布する。重合性組成物の粘度が用途に対して高くない場合は、少量の増粘剤を添加することによって調整してもよい。添加する増粘剤の量は、たとえば組成物の総重量の1〜5%が挙げられる。粘度は、好ましくは組成物の硬化可能な成分と反応する反応性増粘剤を使用して、望ましい粘度に調整し、光学的透明度を保持する。長鎖分岐オリゴアクリレートを反応性増粘剤として使用してもよい。そのような増粘剤の一例としては、ブタンジオールジアクリレートのオリゴマなどのジアクリレートオリゴマがある。これらの増粘剤は、硬化したカプセル材料の水遮断特性を維持するために、ヒドロキシル基を含む増粘剤または他の親水性増粘剤の代わりに使用してもよいし、全ての用途において、硬化前の組成物の粘度調整のために使用してもよい。それぞれの最終用途に必要な無触媒での反応性および要求された粘度を達成するために、アクリル希釈剤およびアクリル増粘剤の両方を同時に使用する必要があるかもしれない。
【0043】
消費者の用途において最も重要な目的は、レンズもしくは光学接合部において、微小な泡の形成、亀裂もしくはきずの形成、油状残渣または反応副生物の形成、および不透明または光沢のない領域の形成を回避することである。
【0044】
硬化した組成物膜形成
均一で清澄な光学膜を形成するための最善の手順は、ガラス板または他の基板上に注入した薄膜を、プログラム可能なサーモスタットオーブン中で1分間に20〜25℃の上昇温度で、約170〜190℃になるまで加熱し、その最終温度で30〜60分間保持した後、オーブンを開かずに試料をゆっくりと冷却することである。この手順によって、満足のいく、清澄で、透明な硬化膜を形成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】重合性組成物の主要成分の構造を示し、a)は構造式、b)は分子モデルを示す。
【図2】好ましい機械的および光学的特性調整剤の構造を示し、a)は構造式、b)は分子モデルを示す。
【図3】好ましい反応性溶剤を示し、a)は構造式、b)は、分子モデルを示す。
【図4】ナノ充填剤の構造を示し、a)は構造式、b)は分子モデルを示す。
【図5】組成物の使用方法の例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学高分子組成物であって、
熱重合および熱硬化したトリメチロールプロパントリアクリレートと、二環式炭化水素アクリレートと、1,4−ブタンジオールジアクリレートと、トリアクリル官能基を有する多面体シルセスキオキサンオリゴマとを含むことを特徴とする光学高分子組成物。
【請求項2】
組成物が開始剤および触媒を含まないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組成物が二環式炭化水素アクリレートを10%以下、好ましくは、5〜10%含むことを特徴とする請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
二環式炭化水素アクリレートが、イソボルニルアクリレートまたはフェンキルアクリレートなどの二環式テルペンまたは二環式テルペン誘導体のアクリレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
組成物が1,4−ブタンジオールジアクリレートを10%以下、好ましくは、5〜10%含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
組成物が、
トリメチロールプロパントリアクリレートを35〜50%と、
トリアクリル官能基を有する多面体シルセスキオキサンオリゴマを35〜45%とを、
含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の未硬化成分の組成物を含むことを特徴とする光学高分子を製造するための重合性組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の重合性組成物を重合硬化することを特徴とする光学高分子組成物を形成する方法。
【請求項9】
200℃以下の高温で重合硬化を実施することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
光学構成要素の光伝送接合部を接合および形成するための接着剤もしくは成形剤として、または、光学高分子が光学形式のデータ用光学伝送路として機能する場合、構造部分上もしくは基板上または2つの構造部分間で光学構成要素を形成する光学構成要素用構成材料としての、光学用途における請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学高分子組成物の使用。
【請求項11】
通信用オプトエレクトロニクスにおける請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学高分子組成物の使用。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学高分子組成物を有する、1以上の光学構成要素または接合部を含むことを特徴とする光学装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−145910(P2007−145910A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−339343(P2005−339343)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(595024032)バルション テクニリネン ツツキムスケスクス (2)
【氏名又は名称原語表記】VALTION TEKNILLINEN TUTKIMUSKESKUS
【住所又は居所原語表記】VUORIMIEHENTIE 5, FIN−02150 ESPOO, FINLAND
【出願人】(505436210)タンペリーン テクニリネン ユリオピスト,マテリアーリオピン ライトス (1)
【氏名又は名称原語表記】Tampereen teknillinen yliopisto, Materiaaliopin laitos
【住所又は居所原語表記】Korkeakoulunkatu 6 Tampere Finland
【Fターム(参考)】