説明

通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システム

【課題】上位プロトコルのパケット・フォーマットに影響を与えず互換性を保ち、且つ、通信レートの低下を起こさずに、効果的に受信信号の等化処理を行なう。
【解決手段】リーダライタは、内容を変えずにポーリング・コマンドを再送し続けることによってトランスポンダに対して長い既知信号を与え、トランスポンダはこれを用いて学習型の適応学習を行なう。また、リーダライタは、内容を変えずにポーリング・コマンドを再送し続けることによって、トランスポンダから同じ内容のポーリング・レスポンスを受信し続けて長い既知信号を得、これを用いて学習型の適応学習を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触通信において要求コマンドを送信するリーダライタ(イニシエーター)又は要求コマンドに対する応答コマンドを返信するトランスポンダ(ターゲット)として通信動作を行なう通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムに係り、特に、NFC(Near Field Communication)規格に基づく非接触通信を行なう通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムに関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、通信レートの高速化に伴う受信波形の乱れを適応等化により解決する通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムに係り、特に、所定の規格に基づくパケット・フォーマット並びにパケット交換手順の互換性を保ちながら学習型の適応等化を行なう通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムに関する。
【背景技術】
【0003】
自ら電波の発生源を持たない通信端末が無線で通信相手となる装置へデータを送信する通信システムとしてRFID(Radio Frequency IDentification)と呼ばれる非接触通信システムが知られている。RFIDの他の呼び方として、IDシステム、データ・キャリア・システムなどがあるが、世界的に共通なのがRFIDシステム、略してRFIDである。日本語に訳すると「高周波(無線)を使用した認識システム」となる。
【0004】
RFIDシステムは多くの非接触ICカードに適用されている。ICカード・システムは、トランスポンダとしてのIC(Integrated Circuit)カードと、ICカードからの情報の読み出しや、又はICカードへの情報の書込みを行なう装置(以下、「リーダライタ」と呼ぶ)からなる。かかるICカード・システムは、ICカードとリーダライタ間で非接触により情報の読み書きを行なうことから利便性が高い。リーダライタは、最初に電磁波を出力して相互通信を開始する(すなわち通信の主導権を握る)装置であり、「イニシエーター」とも呼ばれる。また、ICカードなどトランスポンダは、イニシエーターからのコマンド(相互通信開始要求)に対してレスポンス(相互通信開始応答)を返す「ターゲット」である。パッシブ・モードではキャリア信号の向きが常にイニシエーター→ターゲットであり、アクティブ・モードではキャリア信号の向きが交互に切り換わる。以下では、リーダライタからトランスポンダへの通信を「ダウンリンク」と呼び、トランスポンダからリーダライタへの通信を「アップリンク」と呼ぶことにする。
【0005】
RFIDに適用可能な非接触通信方法には、静電結合方式、電磁誘導方式、電波通信方式などが挙げられる。このうち電磁誘導方式は、リーダライタ側の1次コイルとカード(若しくはトランスポンダ)側の2次コイルで構成され、これら2つのコイルの磁気的な結合によってコイル経由でデータ通信が行なわれる。具体的には、リーダライタは、1次コイルで発生する磁界を振幅変調することによってデータを送信し、トランスポンダ側ではこれを検波する。また、トランスポンダは2次コイルの負荷切り替え(Load Switching:LS)により振幅変調などの変調処理を行なうことで、リーダライタへデータを送信することができる。トランスポンダ及びリーダライタの各コイルはLC共振回路として動作しており、一般には、これらコイルの共振周波数を、通信に用いるキャリアの周波数に調整して共振させることにより、トランスポンダとリーダライタ間の適当な通信距離を設定することができる。なお、以下では、トランスポンダ及びリーダライタの各コイルを「アンテナ」とも呼ぶ。
【0006】
また、RFIDシステムは、伝送距離に応じて、密着型(0〜2mm以下:Close coupled)、近接型(0〜10cm以下:Proximity)、近傍型(0〜70cm以下:Vicinity)の3種類に分類することができ、それぞれISO/IEC15693、ISO/IEC14443、ISO/IEC15693などの国際規格によって規定されている。このうち、ISO/IEC14443に準拠する非接触・近接型のICカード規格として、TypeA、TypeB、Felica(フェリカ)(登録商標)を挙げることができる。なお、TypeAはPhilips社のMifare(登録商標)に相当する。また、SmartCardとしてのカード、リーダライタはISO7816として規格化されている。
【0007】
さらに、ソニーとPhilips社が開発したNFC(Near Field Communicationは、主に、上記のTypeA、TypeB、Felicaの各ICカードと通信可能なNFC通信装置(リーダライタ)の仕様を規定したRFID規格であり、2003年12月にISO/IEC IS 18092として国際標準となった。NFC通信方式は、元々は非接触式ICカードとして広く普及しているソニーの「FeliCa」やPhilips社の「Mifare」を継承したものであり、13.56MHz帯を使い、電磁誘導方式により10cm程度の近接型の非接触双方向通信が可能である(NFCは、カードとリーダライタ間の通信の他に、リーダライタ同士のパッシブ型通信を規定している)。
【0008】
現在、NFCは、個人認証や電子マネー決済などに盛んに用いられている。例えば、パッシブ・モードの他にアクティブ・モードを備えたNFC通信装置について提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0009】
NFC IP−1(Interface and Protocol−1)規格における転送方向、通信モード毎の通信速度や変調方式、符号化方式を、以下の表1に示しておく。
【0010】
【表1】

【0011】
ISO 18092に規定される電磁結合型の非接触通信仕様のうち、フェリカではマンチェスター(Manchester)符号が用いられる。フェリカ・フォーマットでは、ダウンリンクとアップリンクで、同一のパケットを使用する。図11には、フェリカ・フォーマットのパケット構造を示している。図示のパケットは、「プリアンブル部(Preamlbe)」、「シンク部(SYNC)」、「データ部」の3つのパートで構成される。プリアンブル部は、6バイト長の“0”の系列からなり、シンク部は、2バイトの既知系列“0xB24D”からなる。また、データ部は、パケット長を示す1バイトのLENと、(LEN−1)バイト長のデータ本体(ペイロード)と、2バイトのCRC(Cyclic Redundancy Check:巡回冗長検査)コードからなる。これら3つのパートはすべてマンチェスター符号化される。
【0012】
フェリカ・フォーマットでは、通信レートとして、212kbpsの倍数である、424kbps、848kbps、1.7Mbps、3.4Mbpsなどが規定されている。通信レートが高くなると、それに比例して送信信号の周波数帯域が広くなる。信号の周波数帯域が広くなると、チャネルや送信RFアナログ回路や受信RFアナログ回路の周波数特性の影響が増えてくる。一般に、これらの周波数特性は高い周波数になるほど減衰が大きくなる。また、高い周波数になるほど位相特性の乱れも大きくなる。このため、高い通信レートの信号ほど、受信波形の乱れが大きくなる。また、振幅(Amplitude Shift Keying:ASK)変調を用いるリーダライタ側からの送信信号の復調よりも、負荷変調を用いるトランスポンダ側からの送信信号の復調の方が、波形歪みの影響は大きいと思料される。
【0013】
高速通信における受信信号の乱れを補償する1つの方法として、適応等化処理を挙げることができる。例えば、基地局と端末局の間で無線信号により情報を送受信する無線通信システムにおいては、マルチパスフェージングによる伝搬遅延などの影響によって生じる受信信号波形の歪みに起因した通信エラーを低減するために、適応等化処理を用いて受信信号を波形整形して歪みを低減する手法は一般的である。
【0014】
適応等化回路は、一例として、FIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)フィルターと学習回路で構成される。図12には、FIRフィルターの構成を模式的に示している。FIRフィルターは、複数個の遅延素子を直列接続したディレイ・ラインを備え、配列された遅延素子の個数分だけの時系列的な入力データを、それぞれ乗算器でフィルターの特性に応じたタップ係数で重み付けを行なった後、これらを累積加算して平均化処理することによって等化信号を得ることができる。そして、既知のトレーニング信号を参照して、FIRフィルターから出力される等化信号をその所望信号に近づけるようにフィルターのタップ係数を決定する(例えば、特許文献2、特許文献3を参照のこと)。
【0015】
例えば、適応等化器を適用することにより電波伝搬路における歪みを低減し、また歪みに伴って発生する通信エラーを低減するRFIDシステムについて提案がなされている(例えば、特許文献4を参照のこと)。
【0016】
ここで、適応等化には、既知のトレーニング信号を参照して、自己のフィルター出力をその所望信号に近づけるようにフィルターの重み係数を決定する学習型の適応等化と、トレーニング信号を用いず、受信信号の自己相関をとって位相や振幅のひずみを抑圧するようにフィルターの重み係数を決定するブラインド型の適応等化を挙げることができる。
【0017】
ブラインド型の適応等化は、トレーニング信号が不要であり、伝送方式・変調方式によらないという利点はあるが、遅延時間の長いマルチパス波が想定される場合では、計算量が膨大になってしまい、回路規模の大型化や消費電力の増大が問題となる。フェリカのような非接触通信進ステムに適応等化を適用する場合、回路規模や消費電力はとりわけカード側において大きな障害となる。
【0018】
これに対し、学習型の適応等化では、十分な長さのトレーニング信号が必要である。上記のフェリカ通信において、通信レートが低速な212kbps、424kbpsから、さらに848kbps、1.7Mbps、3.4Mbpsへと高速化していくにつれ、チャネル上で発生する受信波形の歪みは大きくなり、これに伴って、適応等化器の学習には、より長いトレーニング信号が必要になってくる。一方、パケット内のデータ部を先頭からデコードするためには、それよりも前の段階で学習を完了させておく必要がある。
【0019】
フェリカ・フォーマットのパケット(図11を参照)において、2バイト長のシンク部をそのままトレーニング信号に用いる方法も考えられるが、十分な長さでなく、データ部が到来するよりも前に学習を完了しなし事態が想定される。さらにプリアンブル部をトレーニング信号として用いる場合でも、最長で4〜5バイト中の初期に等化処理を行なう必要がある。より大きな受信信号波形歪みが生じる高速の通信速度やノイズ耐性が低い符号化方法(NRZ(Non Return to Zero)など)を用いる通信システムにおいては、等化フィルター(イコライザー)の重み係数が十分に収束する前にパケットのデータ部に到達してしまい、結果的に通信エラーを生じてしまう。
【0020】
また、シンク部とデータ部の間に学習用に十分長いランダム・パターンを挿入する方法や、学習のための専用パケットを通常のパケットに先立って送信する方法などが考えられる。しかしながら、これらの方法を実現するには、フェリカ・フォーマットとは異なるパケット・フォーマットを使用することになるため、互換性において問題を招来する可能性がある。
【0021】
要言すれば、フェリカ通信などの非接触通信システムにおいて、通信レートを向上させるには、十分な長さのトレーニング信号を用いて学習型の適応等化を行なうことが必須になってくるが、上位プロトコルのパケット・フォーマットとの互換性維持とは相容れないのである。
【0022】
【特許文献1】特開2005−168069号公報
【特許文献2】特開2004−64681号公報
【特許文献3】特開2008−22422号公報
【特許文献4】特開2008−27270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、通信レートの高速化に伴う受信波形の乱れを適応等化により好適に解決することができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することにある。
【0024】
本発明のさらなる目的は、上位プロトコルのパケット・フォーマットに影響を与えず互換性を保ち、且つ、通信レートの低下を起こさずに、効果的に受信信号の等化処理を行なうことができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することにある。
【0025】
本発明のさらなる目的は、上位プロトコルのパケット・フォーマットに影響を与えず互換性を保ちながら、十分な長さのトレーニング信号を用いて学習型の適応等化を行なうことができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本願は、上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の発明は、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なう第1の通信処理部と、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作と適応等化処理を行なう第2の通信処理部と、
前記第1及び第2の通信処理部による通信処理を制御する制御部と、
を具備し、
前記第1の通信処理部が前記第1の通信レートにて受信したパケットの内容を記憶し、前記第2の通信処理部が前記第2の通信レートにて同一内容のパケットを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を行なう、
ことを特徴とする通信装置である。
【0027】
また、本願の請求項2に記載の発明によれば、前記第2の通信処理部は、適応等化処理の等化状態を前記制御部に通知するように構成されている。そして、前記制御部は、等化状態が十分と判断されるまで、前記の記憶したパケットの内容を用いた適応等化処理を継続して行なうようにする。
【0028】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムに適用される。
【0029】
また、本願の請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の通信装置は前記リーダライタとして動作する。そして、前記第1の通信処理部を用いてポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信するとともにその内容を記憶した後、前記第2の通信処理部を用いて上記と同じポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を行なうように構成されている。
【0030】
また、本願の請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の通信装置の前記第2の通信処理部は、適応等化処理の等化状態を前記制御部に通知し、前記制御部は、等化状態が十分と判断されるまで、前記第2の通信処理部を用いて上記と同じポーリング・コマンドを再度送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうように構成されている。
【0031】
また、本願の請求項6に記載の発明によれば、請求項3に記載の通信装置は、前記トランスポンダとして動作する。そして、前記第1の通信処理部でポーリング・コマンドを正常に受信したことに応じて、その内容を記憶するとともに、ポーリング・レスポンスを返信した後、前記第2の通信処理部で上記と同じポーリング・コマンドを受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を行なうように構成されている。
【0032】
また、本願の請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の通信装置の前記第2の通信処理部は、適応等化処理の等化状態を前記制御部に通知し、前記制御部は、等化状態が十分と判断されるまで、前記第2の通信処理部からポーリング・レスポンスを返信せず、前記リーダライタから再度送信される上記と同じポーリング・コマンドを前記第2の通信処理部で受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうように構成されている。
【0033】
また、本願の請求項8に記載の発明は、リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムにおいて、前記リーダライタとして、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信するとともにその内容を記憶するステップと、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、上記と同じポーリング・コマンドを再度送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうステップと、
を有することを特徴とする通信方法である。
【0034】
また、本願の請求項9に記載の発明は、リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムにおいて、前記トランスポンダとして、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを正常に受信したことに応じて、その内容を記憶するとともに、ポーリング・レスポンスを返信するステップと、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、ポーリング・レスポンスを返信せず、前記リーダライタから再度送信される上記と同じポーリング・コマンドを受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうステップと、
を有することを特徴とする通信方法である。
【0035】
また、本願の請求項10に記載の発明は、リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムにおいて、前記リーダライタとしての処理をコンピューター上で実行するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムであって、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信するとともにその内容を記憶するステップと、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、上記と同じポーリング・コマンドを再度送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうステップと、
を前記コンピューターに実行させるためのコンピューター・プログラムである。
【0036】
また、本願の請求項11に記載の発明は、リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムにおいて、前記トランスポンダとしての処理をコンピューター上で実行するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムであって、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを正常に受信したことに応じて、その内容を記憶するとともに、ポーリング・レスポンスを返信するステップと、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、ポーリング・レスポンスを返信せず、前記リーダライタから再度送信される上記と同じポーリング・コマンドを受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうステップと、
を前記コンピューターに実行させるためのコンピューター・プログラムである。
【0037】
本願の請求項10乃至11に係るコンピューター・プログラムは、コンピューター上で所定の処理を実現するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムを定義したものである。換言すれば、本願の請求項10乃至11に係るコンピューター・プログラムをコンピューターにインストールすることによって、コンピューター上では協働的作用が発揮され、それぞれ本願の請求項5、7に係る通信装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
また、本願の請求項12に記載の発明は、リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触の通信システムであって、
前記リーダライタは、波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信するとともにその内容を記憶した後、適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、上記と同じポーリング・コマンドを再度送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行ない、
前記トランスポンダは、波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを正常に受信したことに応じて、その内容を記憶するとともに、ポーリング・レスポンスを返信した後、適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、ポーリング・レスポンスを返信せず、前記リーダライタから再度送信される上記と同じポーリング・コマンドを受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なう、
ことを特徴とする通信システムである。
【0039】
また、本願の請求項13に記載の発明は、リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムであって、
前記リーダライタ及び前記トランスポンダが第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンド及びポーリング・レスポンスを交換し合った後に、さらに、前記リーダライタ及び前記トランスポンダが第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンド及びポーリング・レスポンスを交換し合い、前記第2の通信レートにて後続のプロトコル処理を行なう、
ことを特徴とする通信システムである。
【0040】
但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、通信レートの高速化に伴う受信波形の乱れを適応等化により好適に解決することができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することができる。
【0042】
また、本発明によれば、上位プロトコルのパケット・フォーマットに影響を与えず互換性を保ち、且つ、通信レートの低下を起こさずに、効果的に受信信号の等化処理を行なうことができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することができる。
【0043】
また、本発明によれば、上位プロトコルのパケット・フォーマットに影響を与えず互換性を保ちながら、十分な長さのトレーニング信号を用いて学習型の適応等化を行なうことができる、優れた通信装置及び通信方法、コンピューター・プログラム、並びに通信システムを提供することができる。
【0044】
本願の請求項1に記載の発明によれば、波形歪みが問題とならない第1の通信レートを利用して、適応等化処理が不可欠な第2の通信レートでの非接触通信を開始する前に、適応等化の学習用のトレーニング信号を通信相手との間で交換することができる。また、本願の請求項2に記載の発明によれば、等化状態が十分と判断されるまで、前記の記憶したパケットの内容を用いた適応等化処理を継続して行なうようにすることができる。
【0045】
本願の請求項3乃至13に記載の発明によれば、例えばフェリカ規格の非接触通信システムにおいて、上位プロトコル・フォーマットに全く影響を与えず互換性を保ち、且つ、上位制御プログラムをほとんど変更することなく、高速通信時における等化処理を行なうことができる。
【0046】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0048】
図1には、トランスポンダ及びリーダライタからなる電磁誘導方式の非接触通信システムの主に誘導結合部分の構成例を示している。リーダライタ10及びトランスポンダ30がそれぞれ備えるアンテナ共振回路12、32が電磁結合して、情報信号の授受が行なわれる。
【0049】
リーダライタ10のアンテナ共振回路12は、抵抗R1と、コンデンサC1と、コイルL1から成り、処理部11により生成された情報信号を、トランスポンダ30側に送信する。また、アンテナ共振回路12は、トランスポンダ30から情報信号を受信し、処理部11に供給する。なお、アンテナ共振回路12の固有の共振周波数は、コンデンサC1のキャパシタンスとコイルL1のインダクタンスにより、あらかじめ所定の値に設定される。
【0050】
一方、トランスポンダ30のアンテナ共振回路32は、抵抗R2と、コンデンサC2と、コイルL2から成り、処理部31により生成され、負荷切り替え変調回路部33により変調された情報信号を、リーダライタ10側のアンテナ(コイルL2)に送信する。また、アンテナ共振回路32は、リーダライタ側から情報信号を受信し、処理部に供給する。なお、アンテナ共振回路32の共振周波数は、コンデンサC2のキャパシタンスとコイルL2のインダクタンスにより、あらかじめ所定の値に設定される。
【0051】
図2には、本発明の一実施形態に係る非接触通信システムの構成を模式的に示している。図示の通信システムは、NFC IP−1規格に則ったリーダライタ10と、フェリカ規格カードからなるトランスポンダ30で構成され、上記の電磁誘導の原理を用いてフェリカ通信方式によるパッシブ型相互通信を行なう。
【0052】
リーダライタ10は、処理部11と、アンテナ(コイルL1に相当)を接続するアナログ回路部13(アナログ共振回路12などからなる)で構成される。処理部11は、212kbps、424kbpsといった比較的低速な従来通信を行なう従来通信処理部14と、848kbps、1.7Mbps、3.4Mbpsといった高速通信並びに受信信号の適応等化処理を行なう高速通信・適応等化処理部15と、リーダライタ制御部16からなる。
【0053】
従来通信処理部14は、図2に示す通信システムにおいて従来通信を行なう際の物理層並びにデータリンク層の処理を行なう。従来通信処理部14は、従来通信制御線17を介してリーダライタ制御部16に接続されるとともに、アナログ回路13を介してアンテナを接続する。
【0054】
高速通信・適応等化処理部15は、図2に示す通信システムにおいて高速通信を行なう際の物理層並びにデータリンク層の処理を行なうとともに、受信信号に対して学習型の適応等化処理を行なう。適応等化処理の詳細については後述に譲る。高速通信・適応等化処理部15は、高速通信制御線18を介してリーダライタ制御部16に接続されるとともに、アナログ回路13を介してアンテナを接続する。また、高速通信・適応等化処理部15は、高速通信時における等化処理の進捗状態を、等化状態伝達信号19を介してリーダライタ制御部16に伝達する。
【0055】
リーダライタ制御部16は、ホスト・インターフェース20を介してホスト機器160に接続され、通信システムにおけるネットワーク層からプレゼンテーション層に至るまでの上位層の処理を担う。リーダライタ制御部16は、例えば、ハードウェア・ロジックのマイクロプログラムや組み込みCPU(Central Processing Unit)のROM(Read Only Memory)プログラムという形態で実装される。本実施形態では、リーダライタ制御部16は、等化状態伝達信号19を介して伝達される等化処理の進捗状態に応じて、高速通信時におけるポーリング処理手順を制御するが、その詳細については後述に譲る。
【0056】
ホスト機器40は、PC(Personal Computer)や組み込みCPUで構成され、図2に示す通信システムにおいて、アプリケーション層の処理を担う。ホスト機器40がPCの場合は、ホスト・インターフェース20としてUSB(Universal Serial Bus)、UART(Univeral Asynchronous Receiver−Transmitter:万能非同期送受信機)などが用いられ、組み込みCPUの場合には、ホスト・インターフェース20としてAMBA、AHBバス、I2Cシリアル・インターフェースなどが用いられる。
【0057】
トランスポンダ30は、処理部31と、アンテナ(コイルL2に相当)を接続するアナログ回路部34(アナログ共振回路32、負荷切替変調回路33などからなる)で構成される。処理部31は、212kbps、424kbpsといった比較的低速な従来通信を行なう従来通信処理部35と、848kbps、1.7Mbps、3.4Mbpsといった高速通信並びに受信信号の適応等化処理を行なう高速通信・適応等化処理部36と、トランスポンダ制御部37からなる。
【0058】
従来通信処理部35は、図2に示す通信システムにおいて従来通信を行なう際の物理層並びにデータリンク層の処理を行なう。従来通信処理部35は、従来通信制御線38を介してトランスポンダ制御部37に接続されるとともに、アナログ回路34を介してアンテナを接続する。
【0059】
高速通信・適応等化処理部36は、図2に示す通信システムにおいて高速通信を行なう際の物理層並びにデータリンク層の処理を行なうとともに、受信信号に対して学習型の適応等化処理を行なう。適応等化処理の詳細については後述に譲る。高速通信・適応等化処理部36は、高速通信制御線39を介してトランスポンダ制御部37に接続されるとともに、アナログ回路部34を介してアンテナを接続する。また、高速通信・適応等化処理部36は、高速通信時における等化処理の進捗状態を、等化状態伝達信号50を介してトランスポンダ制御部37に伝達する。
【0060】
トランスポンダ制御部37は、通信システムにおけるネットワーク層からプレゼンテーション層に至るまでの上位層の処理を担う。トランスポンダ制御部37内には、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)などで構成される記憶メモリー37Aが配設され、価値情報などの各種データの格納に利用される。但し、価値情報の運用方法自体は本発明の要旨に直接関連しないので、本明細書ではこの点に関する詳細な説明を省略する。また、トランスポンダ制御部37内には、図示しないROM領域内に16バイトからなる固有のパラメーターIDm及びPMm(後述)が格納されている。ユーザーは、IDmやPMmを変更することができない。トランスポンダ制御部16は、例えば、ハードウェア・ロジックのマイクロプログラムや組み込みCPUのROMプログラムという形態で実装される。本実施形態では、トランスポンダ制御部37は、等化状態伝達信号50を介して伝達される等化処理の進捗状態に応じて、高速通信時におけるポーリング処理手順を制御するが、その詳細については後述に譲る。
【0061】
図3には、リーダライタ10側の高速通信・適応等化処理部15、及び、トランスポンダ30側の高速通信・適応等化処理部36において適用可能な適応等化部の内部構成例を示している。図示の適応等化部は、学習アルゴリズムにNLMS(Normalized Least Mean Square:正規化最小2乗平均)を用いた構成である。以下、同図と式を参照しながら、適応等化処理について説明する。
【0062】
図示のFIRフィルターは、タップ数をMとし、(M−1)個の遅延素子(D)61−1、61−2、…を直列接続したディレイ・ラインを備えている(但し、図3では、図面の簡素化のため、M=4として描いている)。各遅延素子は、それぞれサンプル周期に相当する遅延時間Dを持つ。
【0063】
ここで、サンプリング時間をnとし、時刻nにおける受信信号をu(n)とすると、タップ数M分だけの時系列的な入力データu(n)、u(n−1)、…、u(n−M+1)が得られる。
【0064】
また、タップ数分の乗算器62−1、62−2、…は、フィルターの特性に応じたタップ係数w1(n)、w2(n)、…、wM(n)をそれぞれ持ち、上記M個の入力データu(n)、u(n−1)、…、u(n−M+1)をそれぞれ重み付け乗算する。
【0065】
そして、累算器63は、対応するタップ係数でそれぞれ重み付けした時系列入力データを加算して平均化処理して、時刻nでの等化出力信号r(n)を得る。以上の等化処理は、下式(1)のように表すことができる。
【0066】
【数1】

【0067】
続いて、タップ係数の学習について説明する。加算器64には、等化出力信号r(n)とともにリファレンス信号d(n)が入力され、これらの差分をとって誤差信号e(n)を出力する。この誤差信号e(n)は、学習の進捗状況を表す値となる。高速通信・適応等化処理部15は、誤差信号e(n)に基づく等化状態を、等化状態伝達信号19を介してリーダライタ制御部16に伝達する。また、高速通信・適応等化処理部36は、誤差信号e(n)に基づく等化状態を、等化状態伝達信号50を介してトランスポンダ制御部37に伝達する。
【0068】
なお、本実施形態では、リファレンス信号d(n)として、トランスポンダ30は、リーダライタ10から受信したポーリング・コマンドPOLを用い、リーダライタ10は、トランスポンダ30から受信したポーリング・レスポンスPOLRESを用いるが、その詳細については後述に譲る。
【0069】
学習回路65は、時刻nにおける時系列的な入力データu(n)、u(n−1)、…、u(n−M+1)と、誤差信号e(n)を入力すると、NLMSアルゴリズムを用いて、FIRフィルターからの等化出力信号rをリファレンス信号dに近づけるように、次時刻のFIRフィルターのタップ係数w1(n+1)、w2(n+1)、…、wM(n+1)を決定して、各乗算器62−1、62−2、…に供給する。誤差信号e(n)、並びに、タップ係数の更新式は、下式(2)のように表される。
【0070】
【数2】

【0071】
上式(2)に示した更新式を繰り返し実行することで、FIRフィルターの各タップ係数w1(n)、w2(n)、…、wM(n)は、誤差信号e(n)が小さくなるように収束する。
【0072】
ここで、上式(2)中のαは、ステップ・サイズであり、0<α<2となっている。αが1に近いと、高速に収束するが、誤差のバラツキが大きくなる。また、αが0に近いと、収束は遅くなるが、誤差のバラツキは小さくなる。
【0073】
そして、学習が十分に進んだ後、学習回路65は、NLMSアルゴリズムによるタップ係数の学習機能を停止させる。これによって、学習したタップ係数を用いた等化処理が連続的に実行される。
【0074】
再び図2に戻って、非接触通信システムにおける通信動作について説明する。
【0075】
リーダライタ10は、自らの発する13.56MHzのキャリア信号をASK変調することによって送信データを重畳して、トランスポンダ30に伝える。これに対し、トランスポンダ30は、リーダライタ10の送出する13.56MHzのむ変調キャリアに負荷変調を加えることによって、送信データをリーダライタ10へ伝える。
【0076】
リーダライタ10は、ホスト機器40から通信開始コマンドを受けると、まずキャリア電波を送出する。その後、リーダライタ10は、通信可能空間にターゲットが存在するかどうかを確認するため、規格に定められた方法(キャリア周波数、データ変調速度、データ内容)により、応答要求信号を送信する。
【0077】
これに対し、トランスポンダ30は、まずリーダライタ10が送出するキャリアの誘導起電力によって電力を供給されて起動し受信可能状態となり、その後、リーダライタ10から送られてくる応答要求信号を受信する。そして、トランスポンダ30は、受信した応答要求信号が自らのタイプに合致する信号であれば、規格に定められた方法(データ変調速度、返信タイミング、データ内容)で自らの識別情報を含む応答信号を、リーダライタ10からの無変調キャリアへ負荷変調をかけることによって応答する。
【0078】
そして、リーダライタ10は、トランスポンダ30からの応答信号を受信すると、その情報をホスト機器40に伝達する。ホスト機器40は、通信可能空間に存在するトランスポンダ30の個数及び各々の識別情報を認識すると、動作プログラム(ファームウェア)に従って特定のトランスポンダ30との通信フェーズへ移行する。これによって、パッシブ型相互通信が確立する。通信が確立した後は、リーダライタ10は必要な通信が終了するまで常にキャリア電波を出し続け、トランスポンダ30に対し必要な電力を送る。
【0079】
上述した応答要求動作と同様、データ通信時にも、リーダライタ10からトランスポンダ30へキャリア電波の強度変調と、トランスポンダ30からリーダライタ10ヘの無変調キャリアの負荷変調によってデータ伝送を行なう。
【0080】
情報通信分野では、競合回避、送受信の準備状況の判定、処理の同期獲得などの目的で、複数の機器やプログラムに対して順番に定期的に問い合わせを行なうポーリング(Polling)手続が知られている。フェリカ通信では、通信の初期化及び衝突防止にポーリングが利用される。
【0081】
リーダライタ10は、動作磁界内にあるトランスポンダ30を検出するために、ポーリング・コマンドを繰り返し送出する。一方、トランスポンダ30は、リーダライタ10の発生するRF動作磁界内では電力を供給され、電源立ち上がりから所定時間(5ミリ秒)以内にポーリング・コマンドPOLの受信準備を完了させて待機する。そして、トランスポンダ30は、ポーリング・コマンドPOLを受信すると、ポーリング・レスポンスPOLRESを返送する(但し、システム・コードが一致する場合)。衝突防止のため、タイムスロット(timeslot)の原理に基づき、トランスポンダ30は、制御可能な各タイムスロットにおいて確率的にレスポンスを返送する。
【0082】
図4には、リーダライタ10から送出されるポーリング・コマンドPOLのフォーマットを示している。同図は、フェリカ・フォーマットのパケット(図11を参照のこと)のペイロード部分に相当する。
【0083】
コマンド・コードの値は“00”とする。システム・コードは、リーダライタ10が目的のトランスポンダ30を選ぶために使用される。システム・コードの値が“FFFF”のときは、すべてのトランスポンダ30がポーリング・コマンドPOLに反応することができる。RFU(Reserved for Future ISO/IEC Use)は“00”とする。タイムスロットには、衝突を回避するためにトランスポンダ30が対応すべきタイムスロットの最適値を指定する。タイムスロットとして指定できる値は、“00”、“01”、“03”、“07”又は“0F”とする。
【0084】
また、図5には、トランスポンダ30から送出されるポーリング・レスポンスPOLRESのフォーマットを示している。同図は、フェリカ・フォーマットのパケット(図11を参照のこと)のペイロード部分に相当する。
【0085】
レスポンス・コードの値は“01”とする。IDmは、8バイト長で、トランスポンダ30の製造IDである。PMmは、8バイト長で、製造パラメーターである。
【0086】
図6には、図2に示したフェリカ通信システムにおいて、一般的な(従来通信による)ポーリング・コマンドの処理シーケンスを示している。
【0087】
通信開始時、リーダライタ10は、制御プログラム(ファームウェアなど)より指令を受け、キャリアを送出する。なお、フェリカ仕様は、キャリア送出のタイミング、送出時間、及び送出の頻度を定めておらず、これらの値は制御プログラムの仕様に依存する。
【0088】
リーダライタ10は、キャリアを送出した後、通信可能範囲(RF動作磁界)内にトランスポンダ30が存在するかどうかを確認するために、キャリアに変調を加えてポーリング・コマンドPOLを送出する。
【0089】
リーダライタ10は、ポーリング・コマンドPOL内のタイムスロットの値を変更することにより、トランスポンダ30がポーリング・レスポンスPOLRESを返送すべきインターバル時間を規定することができる。
【0090】
トランスポンダ30は、リーダライタ10の送出するキャリアにより動作可能な電力を得、且つ、ポーリング・コマンドPOLを正常に受信すると、リーダライタ10がポーリング・コマンドPOLの送信を完了した後、下式(3)で算出されるスロット開始時間が経過した時点から1.208ミリ秒のタイムスロットに、リーダライタ10へポーリング・レスポンスPOLRESを返送する。図7には、タイムスロットを03hに設定した場合のポーリング・レスポンス・パケットのタイムスロット制御のシーケンスを示している。
【0091】
【数3】

【0092】
ポーリング・レスポンスPOLRESの中には、トランスポンダ30のROM領域(ユーザーは変更できない)に記載された16バイトからなる固有のパラメーターIDm及びPMm(図5を参照のこと)が記載される。
【0093】
リーダライタ10は、トランスポンダ30からのポーリング・レスポンスPOLRESを正常に受信すると、通信が確立したと判断して、後段のプロトコル処理(Request Service、Authentication、Read、Writeなど)に移行する。
【0094】
リーダライタ10は、ポーリング・レスポンスPOLRESの返送を期待できる最大時間(タイムアウト時間)を推定することができる。リーダライタ10は、タイムアウト時間内にポーリング・レスポンスPOLRESを受信できなかったときには、通信可能範囲内にトランスポンダ30が存在しないと判断して、ポーリング・コマンドPOLの再送を行なう。なお、タイムアウト時間の経過後にポーリング・コマンドPOLを再送するタイミング、送信の頻度、及び、通信をあきらめてキャリア送出を停止するまでの時間を定めておらず、これらの値は制御プログラムの仕様に依存する。
【0095】
図8には、一般的なフェリカ通信システムにおいて、ユーザーによるトランスポンダ30(フェリカ対応カード)の操作によってリーダライタ10(改札、自販機など)がポーリング処理を行なう様子を示している。
【0096】
例えば自動改札などにおいて、人間がリーダライタへカードをかざす場合、数回にわたってポーリング処理が失敗した後に、リーダライタがポーリング・レスポンスPOLRESを受信するという自体は容易に想定される。このため、フェリカ仕様では、リーダライタ10は何度でもポーリング・コマンドPOLを再送することが許容されている。一方、トランスポンダ30側でも、送出したポーリング・レスポンスPOLRESがリーダライタ10に正常に受信されない場合に対応するため、一度ポーリング・レスポンスPOLRESを返信した後も、内部ステートは遷移せず、引き続きポーリング・コマンドPOLを受信したときには、再びポーリング・レスポンスPOLRESを返信できるように規定されている。
【0097】
参考のため、トランスポンダ30のモード遷移を図9に示す。図示のように、トランスポンダ30は、モード0、モード1、モード2、及びモード3の4つのモードをもち、コマンドの実行に応じてモードを遷移させる。トランスポンダ30は、現在のモードに応じて実行可能なコマンドが制限される。トランスポンダ30は、電源が供給されると、モード0となる。現在のモードは、Request Responseコマンドによって確認することができる。また、コマンドの実行モード及び成功して遷移するモードの対応を、以下の表に示しておく。モード遷移は、コマンドが正しく実行されたときのみ行なう。
【0098】
【表2】

【0099】
トランスポンダ30が送信するポーリング・レスポンスPOLRESのフォーマットは、図5に示した通りである。同図から、タイムスロットの値など、受信するポーリング・コマンドPOLの内容が変わることによりポーリング・レスポンスPOLRESの内容が変化することはあるが、同じ内容の(すなわち、再送される)ポーリング・コマンドPOLに対して同じトランスポンダ30から返信されるポーリング・レスポンスPOLRESは必ず同じ内容となる。
【0100】
言い換えれば、リーダライタ10にとっては、同じポーリング・コマンドPOSを送信したことに応答して同じトランスポンダ30から返信されるポーリング・レスポンスPOLRESは既知信号となる。また、トランスポンダ30にとっては、同じリーダライタ10から内容を変えずに再送されるポーリング・コマンドPOLは既知信号となる。
【0101】
したがって、リーダライタ10は、内容を変えずにポーリング・コマンドPOLを再送し続けることによって、トランスポンダ30に対して長い既知信号を与えることができ、トランスポンダ30はこれをトレーニング信号として用いて学習型の適応学習を行なうことができる。また、リーダライタ10は、トランスポンダ30からポーリング・レスポンス30を正常に受信したにも拘らず、内容を変えずにポーリング・コマンドPOLを再送し続けることによって、トランスポンダ30から同じ内容のポーリング・レスポンスPOLRESを受信し続けて、長い既知信号を得ることができ、これをトレーニング信号として用いて学習型の適応学習を行なうことができる。
【0102】
また、リーダライタ10並びにトランスポンダ30はそれぞれ、トレーニング信号として獲得したポーリング・レスポンスPOLRES、ポーリング・コマンドPOLの前部にフェリカ・フォーマットのパケットのプリアンブル部やシンク部の信号パターンを付加したり、ポーリング・レスポンスPOLRES、ポーリング・コマンドPOLの後部に同フォーマットのデータ部終端の2バイト長のCRCを付加したりすれば、さらに長いトレーニング信号とすることができ、等化処理の効率化を図ることができる。
【0103】
なお、フェリカ仕様では、通信開始後にポーリング処理を行なうことは必須として規定されておらず、通信システムがポーリング処理を行なうか否かは制御プログラムの仕様に依存する。しかしながら、リーダライタ10は、通信可能なトランスポンダ30の存在確認、及び、プロトコル後段の通信処理を行なうために必要な固有パラメーター(IDm)を取得するため、最初にポーリング処理を行なうのが一般的である。よって、リーダライタ10からのポーリング・コマンドPOSの再送を利用した長いトレーニング信号の獲得方法は現実的と言える。
【0104】
以下では、ポーリング・コマンドPOL及びポーリング・レスポンスPOLRESを利用した高速通信における等化処理について説明する。
【0105】
リーダライタ10が、従来通信処理部14と、高速通信・適応等化処理部15と、従来通信及び高速通信の双方を一括して制御するリーダライタ制御部16を備えること、並びに、トランスポンダ30が、従来通信処理部35と、高速通信・適応等化処理部36と、従来通信及び高速通信の双方を一括して制御するトランスポンダ制御部37を備えることは、図2を参照しながら既に説明した通りである。従来通信は、212kbps、424kbpsといった比較的低速な通信方式であり、波形歪みがほとんど問題とならない。これに対し、高速通信は、848kbps、1.7Mbps、3.4Mbpsといった適応等化による波形整形が必要となる高速な通信レートである。高速通信・適応等化処理部15及び36は、現在受信している信号の等化状態を、それぞれリーダライタ制御部16、トランスポンダ制御部37に対し、定量的に伝達する。等化状態の定量的な表現方法の一例は、時刻nにおける等化フィルターの等化出力信号r(n)とリファレンス信号d(n)との誤差信号e(n)である(前述並びに図3を参照のこと)。
【0106】
図10A〜図10Cには、ポーリング・コマンドPOL及びポーリング・レスポンスPOLRESを利用した高速通信における等化処理シーケンスを示している。図示の処理シーケンスは、従来通信においてポーリング処理を行なう「プリ・ポーリング」と、高速通信においてポーリング処理を行なう「メイン・ポーリング」からなる。メイン・ポーリングは、リーダライタ10及びトランスポンダ30においてそれぞれ等化状態が十分であると判断されるとメイン・ポーリングが終了し、高速通信による後段のプロトコル処理が開始する。
【0107】
まず、リーダライタ10とトランスポンダ30は、従来型のフェリカ通信システムにおいて、プリ・ポーリングを行なう。
【0108】
リーダライタ10側では、リーダライタ制御部16が従来通信処理部17に対して、ポーリング・コマンドPOLの送出を要求し、従来通信にてポーリング・コマンドPOLが送出される。
【0109】
トランスポンダ30側では、従来通信処理部37でポーリング・コマンドPOLの受信処理を行ない、そのパケットの内容をハードウェア内部に記憶する。トランスポンダ制御部37は、ポーリング・コマンドPOLを正常に受信できたことを認識すると、従来通信処理部37に対してポーリング・レスポンスPOLRESの送出を要求し、従来通信にてポーリング・レスポンスPOLRESが送出される。
【0110】
リーダライタ10側では、従来通信処理部14でポーリング・レスポンスPOLRESの受信処理を行ない、そのパケットの内容をハードウェア内部に記憶する。リーダライタ制御部16は、ポーリング・レスポンスPOLRESを正常に受信できたことを認識すると、プリ・ポーリングが終了する。
【0111】
このようにして、波形歪みが問題とならないプリ・ポーリング処理を利用して、適応等化処理が不可欠な高速通信を開始する前に、適応等化の学習用のトレーニング信号をリーダライタ10とトランスポンダの間で交換することができる。
【0112】
続いて、メイン・ポーリングが開始される。リーダライタ10側では、リーダライタ制御部16が高速通信・適応等化処理部15に対して、ポーリング・コマンドPOLの送出を要求し、プリ・ポーリング時と同じ内容のポーリング・コマンドPOLが高速通信の速度で送出される。
【0113】
トランスポンダ30側では、ポーリング・コマンドPOLを受信すると、高速通信・適応等化処理部36は、プリ・ポーリング時に記憶したポーリング・コマンドPOLの内容をトレーニング信号として用いて、適応等化処理(等化フィルターの学習)を行なうとともに、等化状態をトランスポンダ制御部37に伝達する。トランスポンダ制御部37は、伝達された等化状態から、適応処理における等化状態(等化フィルターの学習)が十分でないと判断した場合には、ポーリング・コマンドPOLの受信処理と等化フィルターの学習を続行するために、ポーリング・レスポンスPOLRESの送出要求を差し控える。
【0114】
リーダライタ10側では、ポーリング・レスポンスPOLRESの待ち時間がタイムアウトすると、リーダライタ制御部16が高速通信・適応等化処理部15に対して、ポーリング・コマンドPOLの送出を再度要求し、プリ・ポーリング時と同じ内容のポーリング・コマンドPOLが高速通信の速度で再度送出される。
【0115】
トランスポンダ30側では、ポーリング・コマンドPOLを再度受信すると、高速通信・適応等化処理部36は、プリ・ポーリング時に記憶したポーリング・コマンドPOLの内容をトレーニング信号として用いて、適応等化処理(等化フィルターの学習)を継続して行なうとともに、等化状態をトランスポンダ制御部37に伝達する。トランスポンダ制御部37は、伝達された等化状態から適応処理における等化状態(等化フィルターの学習)が十分であると判断すると、ポーリング・コマンドPOLを正常に受信できたことを認識して、高速通信・適応等化処理部36に対してポーリング・レスポンスPOLRESの送出を要求し、ポーリング・レスポンスPOLRESが高速通信の速度で送出される。
【0116】
リーダライタ10側では、ポーリング・レスポンスPOLRESを受信すると、高速通信・適応等化処理部15は、プリ・ポーリング時に記憶したポーリング・レスポンスPOLRESの内容をトレーニング信号として用いて、適応等化処理(等化フィルターの学習)を行なうとともに、等化状態をリーダライタ制御部16に伝達する。リーダライタ制御部16は、伝達された等化状態から、適応処理における等化状態(等化フィルターの学習)が十分でないと判断した場合には、高速通信・適応等化処理部15に対して、ポーリング・コマンドPOLの送出を再度要求し、プリ・ポーリング時と同じ内容のポーリング・コマンドPOLが高速通信の速度で再度送出される。
【0117】
トランスポンダ30側では、ポーリング・コマンドPOLを再度受信すると、高速通信・適応等化処理部36における適応等化(等化フィルターの学習)は既に完了しているので、トランスポンダ制御部37は、ポーリング・コマンドPOLを正常に受信できたことを即座に認識して、高速通信・適応等化処理部36に対してポーリング・レスポンスPOLRESの送出を再度要求し、ポーリング・レスポンスPOLRESが高速通信の速度で再度送出される。
【0118】
リーダライタ10側では、ポーリング・レスポンスPOLRESを再度受信すると、高速通信・適応等化処理部15は、プリ・ポーリング時に記憶したポーリング・レスポンスPOLRESの内容をトレーニング信号として用いて、適応等化処理(等化フィルターの学習)を継続して行なうとともに、等化状態をリーダライタ制御部16に伝達する。リーダライタ制御部16は、伝達された等化状態から適応処理における等化状態(等化フィルターの学習)が十分であると判断すると、ポーリング・レスポンスPOLRESを正常に受信できたことを認識し、通信が確立したと判断する。この結果、メイン・ポーリングが終了して、リーダライタ10とトランスポンダ30間では高速通信の速度を用いた後段のプロトコル処理(Request Service、Authentication、Read、Writeなど)に移行する。
【0119】
図10A〜図10Bに示したような等化処理シーケンスによれば、上位プロトコル・フォーマットに全く影響を与えず互換性を保ち、且つ、上位制御プログラムをほとんど変更することなく、高速通信時における等化処理を行なうことができる。
【0120】
図10A〜図10Bに示したような等化処理シーケンスでは、リーダライタ10は、従来通信時にトランスポンダ30から受信したポーリング・レスポンスPOLRESを等化フィルターの学習用のトレーニング信号として用いるが、そのパケット長は、パケットの先頭に必ず付加される「LEN」を含めて18若しくは20バイトである。また、トランスポンダ30は、従来通信時にリーダライタ10から受信したポーリング・コマンドPOLをトレーニング信号として用いるが、そのパケット長は6バイトである。いずれも、プリアンブル部及びシンク部を用いる場合よりもトレーニング信号のバイト長は長く、効果的に等化処理を行なうことができる。
【0121】
ここで、ポーリング・コマンドPOLは、ポーリング・レスポンスPOLRESよりも短く、且つ、信号系列の内容も偏ったものになり易いが(図4に示したように、コマンド・コードは0x00であり、システム・コードは0xFFFFである)、一般に、負荷変調を用いるトランスポンダ30側からの送信信号の復調よりも、振幅(ASK)変調を用いるリーダライタ10側からの送信信号の復調の方が波形歪みの影響が少ないため、両パケットの不均一が問題となることは少ないものと思料される。
【0122】
図8に示したように、トランスポンダ30がカード型であり、例えば自動改札などでユーザーがカードを手に持つような使用形態では、リーダライタ10とトランスポンダ30間の位置は時間的に変動する。このような場合、まず、図10A〜図10Bに示した処理手順に従って一旦等化処理を行なうが、後段のプロトコル処理に移行した後は、プリアンブル部及びシンク部をトレーニング信号に用いた学習型の適応等化処理や、ブラインド型の適応等化処理を継続して実施することが好ましい。
【0123】
図10A〜図10Bに示した等化処理シーケンスでは、プリ・ポーリング時とメイン・ポーリング時とで、ポーリング・コマンドPOLの内容は同じであることを前提としている。システムの都合上、メイン・ポーリング時のポーリング・コマンドの内容(タイムスロットなど)を変更する必要がある。トランスポンダ30側では、その仕様に基づいてプリ・ポーリング時に記憶したポーリング・コマンドPOLの内容を書き換え、リーダライタ10側では、ポーリング時に記憶したポーリング・レスポンスPOLRESの内容を自ら送出するポーリング・コマンドPOLの内容に即して書き換えて等化処理を行なう。リーダライタ10は、プリ・ポーリング時に、IDmやPMmといったトランスポンダ30に固有のパラメーターをあらかじめ取得しておけば、タイムスロットなどの値を変更しても、返答されるポーリング・レスポンスの内容をフェリカ・プロトコルの仕様から推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0125】
図10A〜図10Bに示したような等化処理シーケンスは、プロトコルの互換性を損なわない範囲で、ブラインド型など従来の等化方法や、フェリカ・フォーマット(図11を参照)のパケットのプリアンブル部やシンク部を用いた学習型の適応等化方法と併用して、等化処理の効率化を図るようにしてもよい。
【0126】
また、フェリカ・フォーマットのパケットのプリアンブル部やシンク部の信号パターンを、プリ・ポーリング時にリーダライタ10並びにトランスポンダ30がそれぞれ記憶したポーリング・レスポンスPOLRES、ポーリング・コマンドPOLの前部に付加したり、パケットのデータ部終端の2バイト長のCRCをポーリング・レスポンスPOLRES、ポーリング・コマンドPOLの後部に付加したりすることによって、さらに長いトレーニング信号とすることができ、等化処理の効率化を図ることができる。
【0127】
また、本明細書では、フェリカ・フォーマットに従うパケットをリーダライタとトランスポンダ間で交換する非接触通信システムに本発明を適用した実施形態を中心に説明してきたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではない。電気的負荷の変更方向の切り替えによる変調を利用して通信を行なう、さまざまな規格に準拠した通信システムに、同様に本発明を適用することができる。
【0128】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1は、トランスポンダ及びリーダライタからなる電磁誘導方式の非接触通信システムの主に誘導結合部分の構成例を示した図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る非接触通信システムの構成を模式的に示した図である。
【図3】図3は、リーダライタ10側の高速通信・適応等化処理部15、及び、トランスポンダ30側の高速通信・適応等化処理部において適用可能な適応等化部の内部構成例を示した図である。
【図4】図4は、リーダライタ10から送出されるポーリング・コマンドPOLのフォーマットを示した図である。
【図5】図5は、トランスポンダ30から送出されるポーリング・レスポンスPOLRESのフォーマットを示した図である。
【図6】図6は、図2に示したフェリカ通信システムにおいて、従来通信によるポーリング・コマンドの処理シーケンスを示した図である。
【図7】図7は、ポーリング・レスポンス・パケットPOLRESのタイムスロット制御を示した図である。
【図8】図8は、一般的なフェリカ通信システムにおいて、ユーザーによるトランスポンダ30の操作によってリーダライタ10がポーリング処理を行なう様子を示した図である。
【図9】図9は、トランスポンダ30のモード遷移を示した図である。
【図10A】図10Aは、ポーリング・コマンドPOL及びポーリング・レスポンスPOLRESを利用した高速通信における等化処理シーケンス(プリ・ポーリング)を示した図である。
【図10B】図10Bは、ポーリング・コマンドPOL及びポーリング・レスポンスPOLRESを利用した高速通信における等化処理シーケンス(メイン・ポーリング)を示した図である。
【図10C】図10Cは、ポーリング・コマンドPOL及びポーリング・レスポンスPOLRESを利用した高速通信における等化処理シーケンス(後段のプロトコル処理)を示した図である。
【図11】図11は、フェリカ・フォーマットのパケット構造を示した図である。
【図12】図12は、FIRフィルターの構成を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0130】
10…リーダライタ
11…処理部
12…アンテナ共振回路
13…アナログ回路部
14…従来通信処理部
15…高速通信・適応等化処理部
16…リーダライタ制御部
17…従来通信制御線
18…高速通信制御線
19…等化状態伝達信号
20…ホスト・インターフェース
30…トランスポンダ
31…処理部
32…アンテナ共振回路
33…負荷切替変調回路
34…アナログ回路部
35…従来通信処理部
36…高速通信・適応等化処理部
37…トランスポンダ制御部
38…従来通信制御線
39…高速通信制御線
40…ホスト機器
50…等化状態伝達信号
61…遅延素子
62…乗算器
63…累算器
64…加算器
65…学習回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なう第1の通信処理部と、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作と適応等化処理を行なう第2の通信処理部と、
前記第1及び第2の通信処理部による通信処理を制御する制御部と、
を具備し、
前記第1の通信処理部が前記第1の通信レートにて受信したパケットの内容を記憶し、前記第2の通信処理部が前記第2の通信レートにて同一内容のパケットを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を行なう、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記第2の通信処理部は、適応等化処理の等化状態を前記制御部に通知し、
前記制御部は、等化状態が十分と判断されるまで、前記の記憶したパケットの内容を用いた適応等化処理を継続して行なう、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムに適用される、
ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記リーダライタとして動作し、
前記第1の通信処理部を用いてポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信するとともにその内容を記憶し、
前記第2の通信処理部を用いて上記と同じポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を行なう、
ことを特徴とする請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記第2の通信処理部は、適応等化処理の等化状態を前記制御部に通知し、
前記制御部は、等化状態が十分と判断されるまで、前記第2の通信処理部を用いて上記と同じポーリング・コマンドを再度送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なう、
ことを特徴とする請求項4に記載の通信装置。
【請求項6】
前記トランスポンダとして動作し、
前記第1の通信処理部でポーリング・コマンドを正常に受信したことに応じて、その内容を記憶するとともに、ポーリング・レスポンスを返信し、
前記第2の通信処理部で上記と同じポーリング・コマンドを受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を行なう、
ことを特徴とする請求項3に記載の通信装置。
【請求項7】
前記第2の通信処理部は、適応等化処理の等化状態を前記制御部に通知し、
前記制御部は、等化状態が十分と判断されるまで、前記第2の通信処理部からポーリング・レスポンスを返信せず、前記リーダライタから再度送信される上記と同じポーリング・コマンドを前記第2の通信処理部で受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なう、
ことを特徴とする請求項6に記載の通信装置。
【請求項8】
リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムにおいて、前記リーダライタとして、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信するとともにその内容を記憶するステップと、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、上記と同じポーリング・コマンドを再度送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうステップと、
を有することを特徴とする通信方法。
【請求項9】
リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムにおいて、前記トランスポンダとして、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを正常に受信したことに応じて、その内容を記憶するとともに、ポーリング・レスポンスを返信するステップと、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、ポーリング・レスポンスを返信せず、前記リーダライタから再度送信される上記と同じポーリング・コマンドを受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうステップと、
を有することを特徴とする通信方法。
【請求項10】
リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムにおいて、前記リーダライタとしての処理をコンピューター上で実行するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムであって、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信するとともにその内容を記憶するステップと、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、上記と同じポーリング・コマンドを再度送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうステップと、
を前記コンピューターに実行させるためのコンピューター・プログラム。
【請求項11】
リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムにおいて、前記トランスポンダとしての処理をコンピューター上で実行するようにコンピューター可読形式で記述されたコンピューター・プログラムであって、
波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを正常に受信したことに応じて、その内容を記憶するとともに、ポーリング・レスポンスを返信するステップと、
適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、ポーリング・レスポンスを返信せず、前記リーダライタから再度送信される上記と同じポーリング・コマンドを受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なうステップと、
を前記コンピューターに実行させるためのコンピューター・プログラム。
【請求項12】
リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触の通信システムであって、
前記リーダライタは、波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信するとともにその内容を記憶した後、適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、上記と同じポーリング・コマンドを再度送信し、前記トランスポンダから返信されたポーリング・レスポンスを受信したときに前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行ない、
前記トランスポンダは、波形歪みがほとんど問題とならない第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンドを正常に受信したことに応じて、その内容を記憶するとともに、ポーリング・レスポンスを返信した後、適応等化による波形整形が必要となる第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、等化状態が十分と判断されるまで、ポーリング・レスポンスを返信せず、前記リーダライタから再度送信される上記と同じポーリング・コマンドを受信して前記の記憶したパケットの内容を用いて適応等化処理を継続して行なう、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項13】
リーダライタとトランスポンダからなり、前記リーダライタからポーリング・コマンドを送信するのに対し前記トランスポンダからポーリング・レスポンスを返信し、前記リーダライタから複数回継続してポーリング・コマンドを送信することが許容され、且つ、前記トランスポンダは同じ内容のポーリング・コマンドに対して同じ内容のポーリング・レスポンスを返信する非接触通信システムであって、
前記リーダライタ及び前記トランスポンダが第1の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンド及びポーリング・レスポンスを交換し合った後に、さらに、前記リーダライタ及び前記トランスポンダが第2の通信レートにて非接触通信動作を行なって、ポーリング・コマンド及びポーリング・レスポンスを交換し合い、前記第2の通信レートにて後続のプロトコル処理を行なう、
ことを特徴とする通信システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−135940(P2010−135940A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307931(P2008−307931)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】