説明

通信装置

【課題】屋内配線を利用して電力線搬送通信を行うにあたり、クロストークを防止し、分岐ロスを低減することができる通信装置を提供する。
【解決手段】通信装置1は、通信端末装置60,61との間で、分電盤101を介さず通信信号の伝送を可能にする。分電盤101に接続される電源線20,30に、(第一)ブロッキングフィルタ部10a、(第二)ブロッキングフィルタ部10bを配置する。各電源線20,30には、信号伝送路となる通信用配線11a,11bを接続する。これら配線11a,11bは、信号透過フィルタ部13fを介して両端部を接続して、ループをつくるようにする。通信装置1を具える通信システムでは、分電盤101を介さないことから、クロストーク及び分岐ロスを低減できる。また、両配線11a,11bをループ状に接続することで、配線11a,11bの接続による分岐ロスをも低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内配線を信号伝送路に利用して電力線搬送通信を行うために利用する通信装置に関するものである。特に、クロストークを防止し、分岐ロスを低減することができる通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家屋内(宅内)に配されて電力供給路に利用される屋内配線に、高周波信号を重畳して高速通信を行う電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)が検討されている(特許文献1,2参照)。図4に示すように家屋100には、低圧配電線に接続される引込線200が分電盤101に導入される。引込線200に繋がる分電盤101の主線路から複数の分岐幹線102〜104が分岐され、各分岐幹線102〜104から更に複数の分岐線が分岐される。これら分岐幹線102〜104や分岐線から屋内配線が構築される。各分岐線の端部には、照明器具などの電気機器が接続されたり、種々の電気機器が接続可能なコンセントが設けられる。
【0003】
このような家屋100において、分岐幹線102,103の分岐線にそれぞれ電力線搬送通信装置(PLCモデム)110,111を接続し、各PLCモデム110,111にそれぞれパソコンなどの通信端末装置120,121を接続する。このとき、通信端末装置120,121は、分岐線、分岐幹線102,103、分電盤101を介して接続され、これらを信号伝送路として宅内PLCを行える。
【0004】
図4に示す屋内配線は、主線路(分岐幹線)に対して複数の分岐点を有するバス型と呼ばれる配置形態である。これに対し、近年、ユニットケーブルと呼ばれるケーブルを利用して、一つの分岐点に複数の分岐線が接続されるスター型の配置形態の屋内配線を構築することが行われている。
【0005】
図5に示すようにユニットケーブルUは、複数の分岐線(配線用ケーブル)u1,u2,…unと、これら分岐線u1,u2,…unの一端を電気的に接続する接続部Sと、接続部Sを覆う樹脂製のモールド部(キャップ)Mとを具える。ユニットケーブルは、予め工場で製造して各家屋に運ばれて、配線される。具体的には、モールド部Mを家屋の柱などに固定し、複数の分岐線のうち1本を分電盤に接続し(以下、この分岐線を電源線と呼ぶ)、残りの分岐線の他端にコンセントなどを設ける。
【0006】
【特許文献1】特開2006-166016号公報
【特許文献2】特開2006-115481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の宅内PLCでは、分電盤を経由して通信信号の伝送を行う。そのため、宅内PLCを行う家屋の分電盤から引込線を介して低圧配電線に通信信号が伝送され、当該家屋の近隣の別の家屋にまで通信信号が伝送されたり、逆に近隣の別の家屋から通信信号や外部のノイズが当該家屋に伝搬する、いわゆるクロストークが生じる。
【0008】
特許文献2のシステムのように、通信信号の周波数帯域で高インピーダンスとなり、商用周波数帯域で低インピーダンスとなるフィルタ回路を分電盤の主線路に取り付けることで、クロストークを防止できる。また、主線路にフィルタ回路を取り付ける場合、フィルタ回路が一つで済む。しかし、フィルタ回路を取り付ける際に分電盤の主線路を損傷する恐れがある。この主線路が損傷すると、通信だけでなく、電力供給が行えない。また、主線路にフィルタ回路を取り付ける工事は、全停電を伴うため、家屋内に常時運転している家電機器が多い今日、好ましくない。更に、この主線路にフィルタ回路を設けても、分電盤を介して通信を行う形態では、通信に利用しない分岐幹線や分岐線にも通信信号が流れる、いわゆる分岐ロスが生じるため、通信に利用する分岐線間において良好な通信を行えない恐れがある。
【0009】
そこで、本発明の主目的は、宅内PLCを行うにあたり、クロストークを防止し、分岐ロスを低減することができる通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、図3に示すように電力線搬送通信(以下、PLCと呼ぶ)の信号伝送路に利用する分岐幹線a,b,cやユニットケーブルの分岐線の分電盤側に通信信号を減衰させるフィルタ回路fa,fb,fcを取り付け、回路fa,fb,fcよりも下流側(通信端末装置などが接続される端末側)同士を別途用意した配線l1,l2で直列的に接続する構成を検討した。この構成は、分岐幹線a,b,cや分岐線、接続用の配線l1,l2を信号伝送路とすることで、分電盤を介することなくPLCを行えるため、クロストークを防止できる。また、この構成は、PLCの信号伝送路に利用しない分岐幹線や分岐線を接続用の配線で接続しないことで通信信号が分岐されることがないため、分岐ロスをある程度低減できる。
【0011】
しかし、図3に示す構成でも、PLCの信号伝送路に利用する分岐幹線(分岐線)が三つ以上存在する場合、分岐幹線間を別途用意した配線で接続することで分岐ロスが生じる。例えば、PLCモデムAからPLCモデムCに通信信号を伝送する場合、分岐幹線bと配線l1,l2との接続点で、矢印で示すように通信信号が分岐する。そのため、PLCモデムCが受け取る通信信号が減衰し、良好な通信を行えない恐れがある。そこで、本発明通信装置は、接続用配線の接続形態を工夫することで分岐ロスの低減を図る。端的に言うと、本発明通信装置は、接続用配線をループ状に接続する。
【0012】
本発明通信装置は、分電盤に第一電力供給路を介して接続される第一通信端末装置と、同じ分電盤に第二電力供給路を介して接続される第二通信端末装置との間で電力線搬送通信を行うためのものである。この通信装置は、上記第一電力供給路に接続される第一通信用配線と、上記第二電力供給路に接続される第二通信用配線と、信号透過フィルタ部と、二つのブロッキングフィルタ部とを具える。この信号透過フィルタ部は、上記両通信用配線間に配置されて、上記両通信端末装置間で通信を行うとき、商用周波数帯域の電力を減衰する。上記第一ブロッキングフィルタ部は、上記第一通信用配線から上記第一電力供給路を介して上記分電盤側に通信信号が伝送されることを防止し、上記第二ブロッキングフィルタ部は、上記第二通信用配線から上記第二電力供給路を介して分電盤側に通信信号が伝送されることを防止する。そして、上記第一通信用配線及び上記第二通信用配線は、ループを形成するように接続される。このループは、上記第一通信用配線の中間部を上記第一電力供給路に接続し、上記第二通信用配線の中間部を上記第二電力供給路に接続し、更に、両通信用配線の両端部同士を上記信号透過フィルタ部を介して接続することで、形成する。
【0013】
本発明通信装置は、分電盤を介して通信信号の伝送を行うのではなく、分電盤に接続される第一電力供給路、第二電力供給路にそれぞれ通信用配線を繋げ、両配線を信号透過フィルタ部により高周波的に接続し、これら配線を信号伝送路に用いる。また、本発明通信装置は、第一電力供給路の分電盤側、及び第二電力供給路の分電盤側にそれぞれ通信信号が伝送されることを防止するブロッキングフィルタ部を具える。このような本発明通信装置を利用してPLCを行うことで、クロストークを防止し、分岐ロスを低減することができる。
【0014】
特に、本発明通信装置は、各通信用配線の一端を電力供給路に接続し、他端を信号透過フィルタ部に接続する構成(以下、この構成を開放構成と呼ぶ)とするのではなく、両通信用配線の両端部同士を接続して、閉ループをつくる構成とする。即ち、本発明通信装置は、信号伝送路の一部に、通信用配線から構成される閉ループを具える。ここで、閉ループでは、閉ループに注入された通信信号が注入点に帰還する。そのため、閉ループに分岐点が存在して通信信号が分岐点から延びる分岐線路に分岐されても、分岐点から閉ループに分岐された分岐信号は閉ループに伝送される。従って、本発明通信装置は、上記開放構成と比較して、通信用配線の接続による分岐ロスをも低減することができ、本発明通信装置を利用して宅内PLCを行う場合、良好な通信が行える。以下、本発明をより詳しく説明する。
【0015】
第一電力供給路及び第二電力供給路は、宅内に配置される屋内配線の一部を利用する。屋内配線は、バス型の配置形態、スター型の配置形態のいずれも利用することができる。各電力供給路は、連続した一つの配線からなる形態でも、接続した二つの配線からなる形態でもよい。後者の場合、バス型の屋内配線では、例えば、分岐幹線と、分岐幹線から分岐された分岐線とで一つの電力供給路を構成することができる。このとき、分岐幹線に後述する通信用配線を接続し、分岐線に通信端末装置を接続する。スター型の屋内配線では、例えば、分電盤(の主線路)に接続される分岐線(以下、この分岐線を電源線と呼ぶ)と、その他の一の分岐線とで一つの電力供給路を構成することができる。このとき、電源線に後述する通信用配線を接続し、分岐線に通信端末装置を接続する。スター型の屋内配線は、例えば、分電盤に接続される電源線と、家屋内の各部屋などに配される少なくとも一つの分岐線と、電源線の一端と各分岐線の一端とを接続する分岐接続部とを具えるユニットケーブルを利用することができる。
【0016】
第一通信用配線及び第二通信用配線はそれぞれ、上記第一電力供給路及び第二電力供給路に接続されて、通信端末装置間の通信信号を伝送するバイパス路として機能する。通信用配線は、上記電力供給路に接続されて、商用周波数帯域の電力が印加されるため、この電力に耐え得ることができ、所望の通信信号が伝送可能な構成のものが利用できる。例えば、通信用配線は、商用周波数帯域の電力の供給に汎用されている配線、具体的には、遮蔽層のない平行二線(平型ケーブル又は平行2心ケーブル)を利用することができる。遮蔽層を有する平行二線を通信用配線とすると、誘導によるノイズの影響を受け難い。
【0017】
本発明は、後述する信号透過フィルタ部を介して両通信用配線を接続した際、両配線が閉ループをつくるようにする。そこで、第一通信用配線の各端部はそれぞれ、信号透過フィルタ部を介して第二通信用配線の各端部と接続可能な構成とする。かつ、各通信用配線は、上述した各電力供給路と接続できるように、端部を除く中間部の任意の位置に配線接続部を設けておく。配線接続部は、一端が通信用配線に接続可能であり、他端が電力供給路に接続可能であり、かつ、通信信号の伝送が可能な構成とする。例えば、配線接続部は、通信用配線と同様に平行二線で本体を構成し、本体の両端に端子を設けることが挙げられる。配線接続部は、通信用配線に一体に構成してもよい。配線接続部は、通信端末装置が接続される分岐線に接続してもよいが、分岐幹線又は電源線に接続すると、一つの分岐幹線又は電源線に繋がる複数の分岐線が信号伝送路となる場合、これら分岐線のうち任意の分岐線と通信用配線との間で通信信号の授受が可能となる。
【0018】
両通信用配線を接続することによって、両電力供給路同士が電気的に接続される。即ち、これら電力供給路は、商用周波数帯域(例えば、50Hz又は60Hz)において短絡する。そこで、通信用配線同士は、商用周波数帯域の電力を減衰、或いは遮断し、通信信号の使用周波数帯域(通常、商用周波数(例えば、50Hz又は60Hz)よりも高周波、例えば、1〜50MHz程度、特に2〜30MHz)の信号を伝送可能な信号透過フィルタ部を介して接続する。
【0019】
信号透過フィルタ部のフィルタ本体としては、通信信号の使用周波数帯域において低インピーダンスとなり、商用周波数帯域において高インピーダンスとなるハイパスフィルタ(HPF)や、特定の周波数帯域の電力を遮断するバンドパスフィルタ(BPF)やバンドエリミネーションフィルタ(BEF)が利用できる。HPFは、コンデンサ(キャパシタ、C)が挙げられる。信号透過フィルタ部は、このようなフィルタ本体と、この本体に通信用配線を取り外し可能な接続部とを具える構成としてもよいし、フィルタ本体に通信用配線を接続固定した構成としてもよい。つまり、信号透過フィルタ部は、各通信用配線に対して着脱自在な構成でもよいし、分離できないように固定してもよい。
【0020】
信号透過フィルタ部が露出された状態であると、本発明通信装置を移動したり設置する際に損傷する恐れがある。従って、信号透過フィルタ部は、筐体に収納することが好ましい。筐体は、フィルタ部を保護可能な構成であれば特に問わない。
【0021】
通信用配線を信号透過フィルタ部に対して着脱可能な構成とする場合、筐体は、例えば、フィルタ本体を収納すると共に、この本体に通信用配線と接続可能なフィルタ接続部を設ける。フィルタ接続部は、例えば、端子が挙げられる。通信用配線を信号透過フィルタ部に固定する場合、例えば、筐体内にフィルタ本体と、この本体と通信用配線との接続箇所とを収納し、通信用配線の中間部に具える配線接続部を筐体から露出させておき、電力供給路に接続できるようにしておく。
【0022】
本発明通信装置は、両電力供給路に伝送される通信信号が分電盤(の主線路)に伝わり、分電盤から引込線を介して外部に漏洩したり、逆に、外部からの通信信号やノイズが電力供給路に伝送されることを防止するために、各電力供給路にそれぞれ配置するブロッキングフィルタ部を有する。各ブロッキングフィルタ部は、分電盤から各電力供給路に商用周波数の電力が伝送可能なものとする。例えば、商用周波数帯域で低インピーダンスとなり、通信信号の周波数帯域で高インピーダンスとなるローパスフィルタ(LPF)や、特定の周波数帯域の電流を遮断するBPFやBEFをフィルタ本体として利用することができる。LPFは、インダクタンス成分(L)とコンデンサ(キャパシタ、C)とを組み合わせたL-C回路が挙げられる。
【0023】
各ブロッキングフィルタ部は、上記フィルタ本体と、この本体を各電力供給路に接続する本体接続部とを具える構成が挙げられる。フィルタ本体は、ケースなどに収納して保護することが好ましい。
【0024】
各ブロッキングフィルタ部は、各電力供給路において通信用配線の接続点から分電盤側の任意の位置に取り付けることができる。電力供給路をユニットケーブルの分岐線及び電源線で構成する場合、電源線にブロッキングフィルタ部を取り付ける。予め電源線にブロッキングフィルタ部を具えた状態のユニットケーブルを作製して家屋に配してもよい。
【0025】
屋内配線において、PLCの信号伝送路に利用する電力供給路が三つ以上存在する場合、各電力供給路にブロッキングフィルタ部を取り付けると共に、信号用配線を接続する。そして、これら通信用配線は、全ての配線により一つのループがつくられるように接続する。こうすることで、複数の電力供給路を信号伝送路とするPLCを行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明通信装置を利用して宅内電力線搬送通信を行うことで、クロストークや分岐ロスを低減して良好な通信を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明通信装置を具える宅内電力線搬送通信システムを示す概略構成図、図2(I)は、この通信装置に具える接続箱と通信用配線との接続状態を説明する概略構成図、(II)は、この装置に具えるブロッキングフィルタ部の概略構成図である。図において同一符号は同一物を示す。このシステムは、家屋内の屋内配線(電源線20,30,40、分岐線21,22,31,32,41,42…)のうち、屋内配線の一部(電源線20の一部、電源線30の一部、及び分岐線21,31)を主として信号伝送路に利用して宅内PLCを行うものである。より具体的には、分電盤101に第一電力供給路(電源線20及び分岐線21)を介して接続されるパソコンといった通信端末装置(第一通信端末装置)60と、分電盤101に第二電力供給路(電源線30及び分岐線31)を介して接続される通信端末装置(第二通信端末装置)61との間で、第一電力供給路及び第二電力供給路を信号伝送路として通信信号の授受を行う。
【0028】
屋内配線は、ユニットケーブル2,3,4から構成される。ケーブル2は、複数の分岐線21,22と、分電盤101に接続される電源線20と、これら分岐線21,22及び電源線20を接続する分岐接続部23とから構成される。分岐接続部23は、分岐線21,22及び電源線20を電気的に接続する導電接続部23aと、導電接続部23aを覆う樹脂製のモールド部23bとを具える。ケーブル3,4も同様の構成であり、電源線30,40、分岐線31,32,41,42、分岐接続部33,43(導電接続部33a,43a、モールド部33b,43b)をそれぞれ具える。
【0029】
各分岐線21,22,31,32,41,42の一端は、分岐接続部23,33,43に接続され、他端にコンセントや照明機器などが設けられる。各電源線20,30,40は、一端が分岐接続部23,33,43に接続され、他端が分電盤101に接続される。これら電源線20,30,40により、各分岐線21,22,31,32,41,42は、電力が供給される。
【0030】
このような屋内配線をPLCの信号伝送路とするにあたり、このシステムでは、分岐線21,31に電力線搬送通信装置(PLCモデム)50,51を接続すると共に、通信装置1を具える。通信装置1は、分電盤101から引込線200を介してクロストークが生じることを防止すると共に、分岐ロスを低減して、通信端末装置60,61間で良好に通信を行えるようにするための装置である。以下、この通信装置1を説明する。
【0031】
通信装置1は、通信端末装置60,61の間で、分電盤101を介することなく通信信号の伝送を可能とするものである。具体的には、電源線20に配置されるブロッキングフィルタ部(第一ブロッキングフィルタ部)10aと、電源線20においてフィルタ部10aよりも通信端末装置60側(分岐接続部23側)に接続される通信用配線(第一通信用配線)11aと、電源線30に配置されるブロッキングフィルタ部(第二ブロッキングフィルタ部)10bと、電源線30においてフィルタ部10bよりも通信端末装置61側(分岐接続部33側)に接続される通信用配線(第二通信用配線)11bと、両配線11a,11bを高周波的に接続する信号透過フィルタ部13fを収納する接続箱13とを具える。
【0032】
ブロッキングフィルタ部10a,10bは、商用周波数帯域(50Hz又は60Hz)の電力の通過を許容し、通信信号の使用周波数帯域(1〜50MHz)の信号を減衰させるローパスフィルタ(LPF)を具える。このようなフィルタ部10a(10b)を電源線20(30)に配置することで、通信端末装置60(61)からの通信信号は、分岐線21(31)から分岐接続部23(33)を介して電源線20(30)に伝送されても、フィルタ部10a(10b)で減衰する。従って、通信信号がフィルタ部10a(10b)よりも分電盤側に伝送されることを防止できる。また、外部からの通信信号やノイズが引込線200から分電盤101を介して電源線20(30)に伝送されても、フィルタ部10a(10b)で減衰して、分岐線21(31)側に伝送されることを防止できる。
【0033】
ブロッキングフィルタ部10a(10b)は、図2(II)に示すようにインダクタンス成分となるコイルLと、コンデンサCとからなるL-C回路で構成している。回路は、保護のためにケースに収納している。
【0034】
通信用配線11a,11bは、通信端末装置60,61間において通信信号を伝送する伝送路として利用される。これら両配線11a,11bは、接続箱13を介して接続される。
【0035】
通信用配線11a,11bは、いずれも遮蔽層を有する平行二線である。通信用配線11a(11b)は、図2(I)に示すように両端を接続箱13に接続させ、中間部に配線接続部12a(12b)を具える。配線接続部12aは、遮蔽層を有する平行二線からなり、この平行二線を構成する各配線12a1,12a2の一端がそれぞれ通信用配線11aの平行二線を構成する各配線11a1,11a2に接続される。配線接続部12aの各配線12a1,12a2の他端は、平行二線からなる電源線20の各配線20I,20IIにそれぞれ接続可能な構造とし、電源線20に接続される。図では省略しているが、配線接続部12bも配線接続部12aと同様の構成である。
【0036】
通信用配線11aの配線11a1,11a2の両端は、接続箱13に設けられた嵌合部13tにそれぞれ接続可能な端子部を設けている。図では省略しているが、通信用配線11bも通信用配線11aと同様の構成である。
【0037】
接続箱13は、通信用配線11a,11bの各端部に設けられた端子部が接続可能な複数の嵌合部13tと、配線11a,11bの平行二線を構成する各配線において同電位の配線が接続される嵌合部13t間を繋ぐ配線部13lと、配線部13lに設けられた信号透過フィルタ部13fと、これらを収納する筐体13hとを具える。
【0038】
接続箱13を介して通信用配線11a,11bを接続することで、結果的にユニットケーブル2,3(電源線20,30)が電気的に接続されることになり、商用周波数帯域の電力において電源線20,30間が短絡する。そこで、接続箱13は、通信用配線11a,11bを高周波的に接続するために信号透過フィルタ部13fを具える。フィルタ部13fは、商用周波数帯域で高インピーダンスとなり、通信信号の使用周波数帯域で低インピーダンスとなるハイパスフィルタ(HPF)であり、コンデンサを利用している。フィルタ部13fは、配線部13lに属する配線に接続させている。
【0039】
配線部13lは、通信信号を伝送可能な配線を利用して構成しており、接続させる通信用配線を構成する配線数以上の配線を具える。この実施形態では、四つの通信用配線が接続可能なように合計16個の嵌合部13tを設け、一つの通信用配線を構成する二つの配線のうち、同電位の配線同士が接続されるように配線部13lを構成している。この実施形態では、8個ずつの嵌合部13tが同電位に接続される構成である。つまり、高電位となる嵌合部13thを8個、低電位(アース電位)となる嵌合部13tlを8個具える。従って、例えば、ユニットケーブル4(図1)に、別途用意した通信用配線11cの中間部に具える配線接続部12cを接続し、通信用配線11cの両端部を接続箱13の空いている嵌合部13tに接続することで、ケーブル4の分岐線41に接続される通信端末装置と通信端末装置60,61との間で通信を行える。このとき、通信用配線11a,11b,11cは、接続箱13を介して一つのループをつくるように接続される。
【0040】
配線部13lを構成する各配線の端部には、通信用配線11a,11bの端子部が嵌め込まれる嵌合部13tを設けており、接続箱13と通信用配線11a,11bとが分離可能な構成としている。着脱可能な構成とすることで、接続箱13と通信用配線11a,11bとを分離して搬送することができる。なお、通信用配線を接続箱に固定させてもよい。
【0041】
これら配線部13lや信号透過フィルタ部13fは、筐体13hに収納する。筐体13hに収納することで、通信装置1を設置する際や搬送する際にフィルタ部13fなどが損傷することを防止できる。筐体13hは、樹脂などの絶縁性材料から構成することが好ましい。
【0042】
このような通信装置1を屋内配線に取り付けるには、まず、ユニットケーブル2,3の電源線20,30にブロッキングフィルタ部10a,10bをそれぞれ装着する。
【0043】
次に、通信用配線11a,11bの両端の端子部を接続箱13の嵌合部13tに接続する。このとき、通信用配線11a,11bは、接続箱13の配線部13l及びフィルタ部13fを介して閉ループを形成するように接続される。なお、通信用配線が接続されない嵌合部13tが存在する場合、全ての配線部13lが閉ループとなるように、空いている嵌合部13tに別途配線を接続させてもよい。
【0044】
次に、配線接続部12a,12bをそれぞれ、ユニットケーブル2,3の電源線20,30に接続する。このように通信装置1は、屋内配線に簡単に取り付けることができる。
【0045】
本発明通信装置を具えた宅内PLCシステムを構築することで、分電盤を介して通信信号の授受を行うことが無いため、クロストークを防止することができる。かつ、分電盤を介さないことで、PLCを行わない配線、例えば、ユニットケーブル4に具える配線に通信信号が伝送されることがないため、本発明通信装置を具えるシステムは、分岐ロスによる通信信号の減衰を効果的に低減することができる。特に、本発明通信装置は、信号伝送路となる通信用配線をループ状に接続することで、この配線接続による分岐ロスをも低減することができる。従って、このシステムは、良好な宅内PLCを行うことができる。また、本発明通信装置は、簡単に屋内配線に取り付けることができ、設置作業性に優れる上に、設置作業中に通信装置の構成部材や屋内配線を損傷する恐れが少ない。
【0046】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、屋内配線が図4に示すバス型の配置形態の場合にも本発明通信装置を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明通信装置は、屋内配線を信号伝送路として利用する宅内電力線搬送通信を行う際に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明通信装置を具えるPLCシステムを構築した状態を示す概略構成図である。
【図2】(I)は、本発明通信装置の接続箱と通信用配線との接続状態を説明する概略構成図、(II)は、本発明通信装置のブロッキングフィルタ部の概略構成図である。
【図3】分岐幹線間を接続用配線で接続した状態を示す説明図である。
【図4】屋内配線を利用してPLCシステムを構築した状態を説明する概略構成図である。
【図5】ユニットケーブルを模式的に示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0049】
1 通信装置 2,3,4 ユニットケーブル
10a,10b ブロッキングフィルタ部 11a,11b,11c 通信用配線
11a1,11a2,12a1,12a2,20I,20II 配線 12a,12b,12c 配線接続部 13 接続箱
13t,13th,13tl 嵌合部 13f 信号透過フィルタ部 13l 配線部 13h 筐体
20,30,40 電源線 20I,20II 電源線の配線 21,22,31,32,41,42 分岐線
23,33,43 分岐接続部 23a,33a,43a 導電接続部 23b,33b,43b モールド部
50,51 PLCモデム 60,61 通信端末装置
100 家屋 101 分電盤 102,103,104 分岐幹線 110,111 PLCモデム
120,121 通信端末装置 200 引込線
U ユニットケーブル u1,u2,…,un 分岐線 S 接続部 M モールド部
a,b,c 分岐幹線 fa,fb,fc フィルタ回路 l1,l2 配線 A,B,C PLCモデム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分電盤に第一電力供給路を介して接続される第一通信端末装置と、同じ分電盤に第二電力供給路を介して接続される第二通信端末装置との間で電力線搬送通信を行うための通信装置であって、
前記第一電力供給路に接続される第一通信用配線と、
前記第二電力供給路に接続される第二通信用配線と、
前記両通信用配線間に配置されて、前記第一通信端末装置と前記第二通信端末装置との間で通信を行うとき、商用周波数帯域の電力を減衰させる信号透過フィルタ部と、
前記第一通信用配線から前記第一電力供給路を介して前記分電盤側に通信信号が伝送されることを防止する第一ブロッキングフィルタ部と、
前記第二通信用配線から前記第二電力供給路を介して前記分電盤側に通信信号が伝送されることを防止する第二ブロッキングフィルタ部とを具え、
前記第一通信用配線及び前記第二通信用配線は、ループを形成するように接続され、前記ループは、前記第一通信用配線の中間部、及び前記第二通信用配線の中間部をそれぞれ前記第一電力供給路、前記第二電力供給路に接続し、前記両通信用配線の両端部を前記信号透過フィルタ部を介して接続することで形成することを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−141522(P2008−141522A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326078(P2006−326078)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(592189860)住友電工産業電線株式会社 (7)
【Fターム(参考)】