説明

通信装置

【課題】電力線に生じるノイズを詳細に分析してPLCのロバスト性の向上を図る。
【解決手段】ノイズ分析手段17は、スペクトル検出手段20と、スペクトル分析手段21と、推定手段25とを有する。スペクトル検出手段20は、電力線の電圧のスペクトルを検出する。スペクトル分析手段21は、スペクトルの時間変化を所定の分析処理で以て分析し、得られたスペクトル分析結果を出力する。推定手段25は、スペクトル分析手段21によって生成されたスペクトル分析結果に基づいて、電力線上のノイズの影響を回避可能な送信条件を推定する。変調手段は、推定手段25によって推定された送信条件に従って、変調信号の生成および出力を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力線を利用した通信方式(PLC)による通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PLCには様々な変調方式が用いられており、近年は狭帯域(400kHz程度)で効率の良いOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)方式が増えつつある。
【0003】
しかし、電力線には各種機器の動作ノイズや外来ノイズ等が現れる。PLCで狭帯域(例えば10kHz〜450kHz)を使用する場合、各種機器から発生するインパルス性のノイズが顕著である。かかるノイズは電源周期のピーク付近に周期的に現れる特性がある。
【0004】
例えばCRTカラーTVによるノイズ波形を図18に示す。また、図19および図20にインバータ駆動の蛍光ランプおよびブラシモータ型の掃除機によるノイズ波形をそれぞれ示す。なお、図18〜図20の波形は非特許文献1に記載されている。図18〜図20中の「TAC/2]は電力線1による供給電圧(すなわち電源電圧)の1周期の1/2を意味し、ここでは1/120秒を示している。つまり、図18〜図20からノイズの周期性が読み取れる。
【0005】
電源周期のピーク付近に現れる周期性ノイズに着目し、ノイズの影響を回避する技術が特許文献1,2に紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−10929号公報
【特許文献2】特開2007−258897号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】片山正昭、外2名、"A Mathematical Model of Noise in Narrowband Power-Line Communication Systems"、IEEE Journal on Selected Areas in Communications、VOL. 24、NO. 7、JULY 2006、p. 1267-1276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように各種機器によるノイズは周期性を有している。このため、当該周期性に着目してノイズの影響を回避することは有用であると考えられる。
【0009】
本発明は、電力線に生じるノイズをさらに詳細に分析することによって、通信のロバスト性を向上可能な通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係る通信装置は、電力線通信(PLC)に係る変調信号を送信データに従って生成する変調手段と、前記変調信号の出力先となる電力線のノイズ状況を分析するノイズ分析手段とを備え、前記ノイズ分析手段は、前記電力線の電圧のスペクトルを検出するスペクトル検出手段と、前記スペクトルの時間変化を所定の分析処理で以て分析し、得られたスペクトル分析結果を出力するスペクトル分析手段と、前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果に基づいて、前記電力線上のノイズの影響を回避可能な送信条件を推定する推定手段とを有し、前記変調手段は、前記推定手段によって推定された前記送信条件に従って、前記変調信号の生成および出力を行う。
【0011】
また、第2の態様に係る通信装置は、上記の第1の態様に係る通信装置であって、前記ノイズ分析手段は、複数のノイズ源について予め取得された前記スペクトル分析結果を格納しているスペクトル情報データベースと、前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果を、前記スペクトル情報データベース内の前記スペクトル分析結果と照合することによって、前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果の起源となっているノイズ源を前記複数のノイズ源から判別する判別手段とをさらに有し、前記推定手段は、前記判別手段によって特定のノイズ源が判別した場合、前記スペクトル情報データベース内の前記特定のノイズ源に対応する前記スペクトル分析結果に基づいて前記送信条件を推定し、前記判別手段によって前記特定のノイズが判別されなかった場合、前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果に基づいて前記送信条件を推定する。
【0012】
また、第3の態様に係る通信装置は、上記の第2の態様に係る通信装置であって、前記推定手段は、前記判別手段による判別結果に基づいて前記複数のノイズ源を対象としてノイズの出現確率の統計を取り、前記出現確率が所定値以上になる高確率期間において前記高確率期間に対応する前記特定のノイズ源が判別した場合、前記高確率期間中は、前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果よりも、前記スペクトル情報データベース内の前記特定のノイズ源に対応する前記スペクトル分析結果を優先的に利用する。
【0013】
また、第4の態様に係る通信装置は、上記の第1ないし第3の態様のうちのいずれか1つに係る通信装置であって、前記ノイズ分析手段は、前記所定の分析処理での処理単位時間に比べて長い時間に渡る前記ノイズ状況の傾向に関する長期ノイズ傾向情報を格納している長期ノイズ傾向情報データベースをさらに有し、前記推定手段は、前記スペクトル分析結果に加え前記長期ノイズ傾向情報にも基づいて前記送信条件を推定する。
【0014】
また、第5の態様に係る通信装置は、上記の第1ないし第4の態様のうちのいずれか1つに係る通信装置であって、前記送信条件は、送信のタイミングおよび時間長さに関する条件と、前記変調信号の生成に利用する周波数に関する条件と、時間軸ダイバーシティの利用およびその回数に関する条件とのうちの少なくとも1つを含む。
【0015】
また、第6の態様に係る通信装置は、上記の第1ないし第5の態様のうちのいずれか1つに係る通信装置であって、前記推定手段は、当該通信装置の通信相手から前記電力線の伝送路特性推定情報を取得し、前記伝送路特性推定情報にも基づいて前記送信条件を推定する。
【0016】
また、第7の態様に係る通信装置は、上記の第1ないし第6の態様のうちのいずれか1つに係る通信装置であって、FFT(Fast Fourier Transform)回路を含む復調手段をさらに備え、前記FFT回路は前記復調手段だけでなく前記スペクトル検出手段にも利用される。
【発明の効果】
【0017】
上記の第1の態様によれば、電力線の電圧を、電圧値の時間変化ではなく、スペクトルの時間変化について分析する。また、スペクトル分析結果に基づいて、電力線上のノイズの影響を回避可能な送信条件を推定し、推定した送信条件を利用して変調信号を生成する。したがって、電圧値の時間変化だけをモニタする場合に比べて、多彩な送信条件を導出することが可能になる。これにより、通信のロバスト性や通信効率を向上させることができる。
【0018】
また、上記の第1の態様によれば、検出対象ノイズを電源電圧(電力線によって供給される本来的な電圧)のピークに現れる周期性ノイズに限定しないので、例えば非周期性ノイズ(雷等の外来ノイズ等)や負荷変動等による電源電圧の周期性の乱れにも対応可能である。
【0019】
上記の第2の態様によれば、ノイズ源が特定された場合には、予め準備された信頼性の高いスペクトル分析結果に基づいて送信条件を推定する。このため、送信条件の推定確度を向上させることができる。
【0020】
上記の第3の態様によれば、高確率期間中はスペクトル情報データベース内のスペクトル分析結果を利用するので、送信条件を長期的に設計することができる。また、送信形態の長期的な設計は、通信効率の向上に寄与する。
【0021】
上記の第4の態様によれば、電力線のノイズ状況の長期的な傾向が加味されるので、送信条件の信頼性を向上させることができる。
【0022】
上記の第5の態様によれば、通信のロバスト性をさらに向上させることができる。
【0023】
上記の第6の態様によれば、受信側から見た伝送路特性を加味するので、送信条件の推定に伝送路の構成(分岐等)を反映させることが可能である。これにより、通信品質をさらに向上させることができる。
【0024】
上記の第7の態様によれば、FFT回路を兼用するので、通信装置のコスト、サイズ等を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態について通信装置を概説するブロック図である。
【図2】実施の形態について通信装置の送信動作を概説する模式図である。
【図3】実施の形態についてノイズ分析手段を概説するブロック図である。
【図4】実施の形態についてスペクトル検出手段およびスペクトル分析手段を概説するブロック図である。
【図5】実施の形態についてスペクトル検出手段およびスペクトル分析手段を概説する模式図である。
【図6】実施の形態についてスペクトル分析手段を概説する模式図である。
【図7】実施の形態についてスペクトル分析手段を概説する模式図である。
【図8】実施の形態についてスペクトル情報データベースおよび判別手段を概説するブロック図である。
【図9】実施の形態について長期ノイズ傾向情報データベースおよび推定手段を概説するブロック図である。
【図10】実施の形態について条件決定手段を概説するブロック図である。
【図11】実施の形態についてサブキャリアマッピング決定手段を概説する模式図である。
【図12】実施の形態についてサブキャリア密度を概説する模式図である。
【図13】実施の形態について平均算出手段を概説する模式図である。
【図14】実施の形態について時間軸ダイバーシティを概説する模式図である。
【図15】実施の形態についてマッピング補正手段を概説する模式図である。
【図16】実施の形態について変調手段を概説するブロック図である。
【図17】実施の形態について変調手段を概説する模式図である。
【図18】CRTカラーTVによるノイズを示す波形図である。
【図19】インバータ駆動の蛍光ランプによるノイズを示す波形図である。
【図20】ブラシモータ型の掃除機によるノイズを示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<通信装置>
図1に実施の形態に係る通信装置10を概説するブロック図を示す。図1に例示されるように通信装置10は、電力線1に接続され、当該電力線1を利用した電力線通信(PLC)を行う。図1に例示の通信装置10は、通信制御手段11と、変調手段12と、送信手段13と、インターフェース手段14と、受信手段15と、復調手段16と、ノイズ分析手段17と、時間管理手段18とを含んでいる。なお、図1および後出の図面では各種名称を略記している場合がある。
【0027】
通信制御手段11は、通信装置10における各種処理を担う。例えば、通信制御手段11は、通信装置10から送信する送信データを各種用途に応じて生成して変調手段12へ出力する。また、例えば、通信制御手段11は、復調手段16で復調された受信データを取得し、当該受信データに基づいて所定の処理を行う。
【0028】
変調手段12は、通信制御手段11から送信データを取得し、当該送信データに基づいて所定の変調処理を実行することによって、送信データに対応する変調信号を生成し、当該変調信号を送信信号として出力する。ここでは所定の変調処理はOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)に拠るものとするが、この例に限定されるものではない。特に、変調手段12は、ノイズ分析手段17による分析結果に従って、送信信号の生成および出力を行う(後述する)。
【0029】
送信手段13は、変調手段12から送信信号を取得し、当該送信信号を増幅して出力する。
【0030】
インターフェース手段14は、通信装置10と電力線1とを繋ぐインターフェースを構成し、例えば結合トランスで構成される。送信手段13から出力された送信信号はインターフェース手段14を介して電力線1へ出力される。また、電力線1上の信号はインターフェース手段14を介して受信手段15へ入力される。
【0031】
受信手段15は、インターフェース手段14を介して信号を受信し、当該受信信号を増幅して出力する。
【0032】
復調手段16は、受信手段15から受信信号を取得し、当該受信信号に対して所定の復調処理を実行することによって、受信信号に対応するデータを生成し(すなわち他の装置から送信されたデータを復元し)、当該データを受信データとして出力する。ここでは所定の復調処理はOFDMに拠るものとし、この場合、復調手段16にはFFT(Fast Fourier Transform)回路を利用する。但し、復調処理はOFDMに限定されるものではない。
【0033】
ノイズ分析手段17は、受信手段15から受信信号を取得し、当該受信信号を所定のノイズ分析処理で以て分析することによって電力線1のノイズ状況を分析し、分析結果を出力する(後述する)。分析結果は変調手段12において利用される(後述する)。
【0034】
時間管理手段18は、時間に関する情報を扱う手段であり、例えば、通信装置10内で使用する各種クロック信号を生成するクロック信号生成手段と、時間経過を管理する時間経過管理手段とを含んでいる。時間経過管理手段は、例えば、クロック信号生成手段が生成したクロック信号をカウントすることによって、カウント開始時からの時間経過を把握可能である。時間経過管理手段によれば、日中時刻、暦等を管理することができる。
【0035】
なお、図面の複雑化を避けるために詳細な図示を省略しているが、時間管理手段18が生成または所有する管理情報は、通信装置10内の各所へ提供される。また、時間管理手段18は各所に分散して設けられてもよく、この場合、分散した手段の総称が時間管理手段18にあたる。
【0036】
なお、通信制御手段11等の機能は、ハードウェア、または、ソフトウェア(換言すればプログラム処理)、または、それらの組み合わせによって具現化可能である。
【0037】
<通信装置の動作概要>
通信装置10のより具体的な例を説明する前に、通信装置10の動作を概説する。通信装置10は、一般的な受信動作を行う一方で、ノイズ分析手段17の採用によって特徴的な送信動作を行う。すなわち、通信装置10は、電力線1上のノイズを分析し、その分析結果に応じて送信動作を行う。
【0038】
図2に概説するように、電力線1の電圧波形は、本来の供給電圧の波形(例えば60Hzまたは50Hzの正弦波)に、当該電力線1に接続された機器が発生するノイズが重畳された形状になる。
【0039】
そこで、通信装置10は、電力線1上のノイズの状況を考慮して、送信信号のフレーム、つまり送信フレームを構成する。具体的には、通信装置10は、ノイズが少ない場合には送信信号をノイズの有無に関わりなく連続的に出力し(連続フレーム)、ノイズが多い場合には送信信号を分割してノイズを避けたタイミングで出力する(分割フレーム)。
【0040】
図2に図示されるように、電力線1に接続された機器が発生するノイズは、電力線1による供給電圧(すなわち電源電圧)の各ピーク付近に現れ、周期性を有している。このため、ノイズの周期性を捕捉することは有用である。この点については特許文献1,2の技術も着目している。
【0041】
しかし、特許文献1,2の技術では単に電圧値レベルについて着目するのみである。これに対し、本発明は、電力線1に接続される機器の種類によってノイズの周波数特性が異なる点を見出し、これに着目している。つまり、通信装置10はかかる観点に基づいて構成されている。以下に、通信装置10をより具体的に例示する。
【0042】
<ノイズ分析手段>
図3にノイズ分析手段17の構成を概説するブロック図を示す。図3に例示によれば、ノイズ分析手段17は、スペクトル検出手段20と、スペクトル分析手段21と、スペクトル情報データベース22と、判別手段23と、長期ノイズ傾向情報データベース24と、推定手段25とを含んでいる。また、図4〜図17にこれらの手段20〜25の構成および動作を概説する図を示す。
【0043】
<スペクトル検出手段>
スペクトル検出手段20は、受信手段15(図1参照)から受信信号を取得する。これにより、スペクトル検出手段20は電力線1の電圧(以下「電力線電圧」とも称する)を取得可能である。スペクトル検出手段20は、取得した電力線電圧について所定のスペクトル時間Δ内の電圧変化から周波数スペクトルを検出し、検出結果すなわちスペクトルデータ(以下、単に「スペクトル」とも称する)を出力する(図5参照)。スペクトル検出は上記スペクトル検出時間ごとに順次行われる。
【0044】
スペクトル検出手段20は、図4に例示するように、例えばFFT回路30によって構成可能である。この場合、FFT回路30をスペクトル検出手段20と復調手段16で兼用する場合には、通信装置10のコスト、サイズ等を削減することができる。
【0045】
<スペクトル分析手段>
スペクトル分析手段21は、スペクトル検出手段20からスペクトルを順次取得し、これらのスペクトルの時間変化を所定の分析処理で以て分析し、得られたスペクトル分析結果50(図7参照)を出力する。
【0046】
スペクトル分析手段21は、図4の例では、フィルタ手段40と、平均化手段41と、ランク付け手段42とを含んでいる。
【0047】
フィルタ手段40は、スペクトル検出手段20から取得したスペクトルの波形を平滑化する(図5参照)。
【0048】
平均化手段41は、フィルタ手段40で処理されたスペクトルの信号レベルを、予め設定された周波数ブロックF1〜F5ごとに、平均化する(図6参照)。ここでは、5つの周波数ブロックF1〜F5がこの順序で周波数の低い側から設定され(図6参照)、当該周波数ブロックF1〜F5が同じ周波数幅を有している場合を例示する。但し、この例に限定されるものではない。
【0049】
ランク付け手段42は、平均化手段41から周波数ブロックF1〜F5ごとの平均化データを順次取得し、周波数ブロックF1〜F5ごとに、かつ、予め設定された時間ブロックT1〜T3ごとに、平均化データを所定のランク付け基準に従ってランク付けする(図7参照)。
【0050】
ここでは、時間ブロックT1〜T3は、電力線1による電源電圧の周期性に基づいて設定されている。より具体的には、時間ブロックT1は電源電圧の最大ピークを挟む区間に設定され、時間ブロックT3は電源電圧の最小ピークを挟む区間に設定され、時間ブロックT2は両時間ブロックT1,T3の間の区間として設定されている。図7には時間ブロックT2が時間ブロックT1から時間ブロックT3までの電圧減少区間として図示されているが、時間ブロックT3から次の時間ブロックT1までの電圧増加区間を時間ブロックT2としても構わない。あるいは、電圧減少区間と電圧増加区間の両方を別々の時間ブロックT2とすることで、合計4つの時間ブロックを設定しても構わない。あるいは、電圧減少区間と電圧増加区間をまとめて1つの時間ブロックT2として扱っても構わない。
【0051】
なお、ランク付け手段42は、例えば、スペクトル検出手段20によって検出されたスペクトルまたはフィルタ手段40によって処理されたスペクトルにおいて電源電圧の周波数(例えば60Hzまたは50Hz)のレベル変化から電源電圧の変化を検知し、当該電圧変化に応じて時間ブロックT1〜T3を認定することが可能である。
【0052】
時間ブロックT1〜T3の区間設定はここでの例に限定されるものではない。但し、各種機器が発生するノイズは電源周期のピーク付近に現れるという特性に鑑みれば、ピーク付近とそれ以外とに分割する上記態様は合理的、現実的である。
【0053】
また、ここでは時間ブロックT1〜T3は同じ時間幅に設定されている。但し、時間幅の設定はこの例に限定されるものではない。例えばピーク付近に出現するノイズの広がりすなわち時間幅に応じて時間ブロックT1〜T3の時間幅を設定しても構わない。
【0054】
ランク付け手段42が利用するランク付け基準は、ここでは、平均化データのレベル、すなわちスペクトルの信号レベルを3段階に分別するために予め規定された基準である。すなわち、レベルが最も低い側から順番にランクA,B,Cが規定されている(図7参照)。各ランクのレベル幅は任意に設定可能である。なお、ランク付け基準はかかる例に限定されるものではない。
【0055】
ランク付け手段42は、ランク付け結果をノイズランクテーブルにまとめる。ランク付け結果の情報は、テーブル形式ではなく、他のデータ形式にまとめられても構わない。ノイズランクテーブルはスペクトル分析手段21によるスペクトル分析結果50(図7参照)として、推定手段25と判別手段23へ出力される(図3参照)。
【0056】
なお、スペクトル分析結果50を「ノイズランクテーブル50」とも称することにする。また、スペクトルの信号レベルが低いほどノイズレベルは小さいので、スペクトルの信号レベルが低いほど信号品質が高いと表現することができる(図7参照)。かかる点に鑑みると、ノイズランクテーブル50を「信号品質ランクテーブル50」とも称しても構わない。
【0057】
<スペクトル情報データベース>
スペクトル情報データベース22は、複数のノイズ源について予め取得された信号品質ランクテーブル50(すなわちスペクトル分析結果50)を格納している。当該データベース22内に格納する信号品質ランクテーブル50は、例えば、スペクトル検出手段20およびスペクトル分析手段21に相当する機能を有した装置によって予め作成可能である。そのようにして作成された信号品質ランクテーブル50を半導体メモリ等に記録することによって、スペクトル情報データベース22が構築されている。
【0058】
なお、図8の例では、ノイズ源としてテレビと冷蔵庫と掃除機を例示しているが、ノイズ源はかかる例示の機器に限定されるものではない。また、ノイズ源を複数の機器とすることも可能である。すなわち、複数の機器を同時に使用し、その際のノイズ分析結果を信号品質ランクテーブル50にまとめても構わない。
【0059】
<判別手段>
判別手段23は、スペクトル検出手段21が生成した信号品質ランクテーブル50を、スペクトル情報データベース22内の信号品質ランクテーブル50と順次照合する。そして、判別手段23は、かかる照合によって、スペクトル検出手段21が作成した信号品質ランクテーブル50の起源となっているノイズ源を、スペクトル情報データベース22に記録されている複数のノイズ源から判別する。
【0060】
ここでは上記判別処理を、尤度判定を利用して行う場合を例示する。この場合、判定手段23は、例えば、類似度評価手段60と、累積手段61と、判定手段62と、テーブル読み出し手段63とを含んでいる。
【0061】
類似度評価手段60は、まず、スペクトル分析手段21によって生成された信号品質ランクテーブル50と、スペクトル情報データベース22内に在るいずれか1つの信号品質ランクテーブル50とを取得する。そして、類似度評価手段60は、所定の類似度評価基準に従って、両テーブル50の対応する項目ごとに、類似度を評価する。
【0062】
例えば周波数ブロックF1における時間ブロックT1のランク(以下「項目(F1,T1)のランク」のように表現することにする)は、スペクトル分析手段21による信号品質ランクテーブル50では図7の例においてランクCであり、スペクトル情報データベース22内のテレビの信号品質ランクテーブル50では図8の例においてランクCである。この場合、類似度評価手段60は、項目(F1,T1)のランクの類似度は、所定の類似度評価基準に従って、100%であると評価する。
【0063】
ここで、類似度評価基準は、図8の例では、ランクA,Cの組み合わせを類似度30%と評価し、ランクA,Bの組み合わせを類似度60%と評価し、ランクB,Cの組み合わせを類似度80%と評価し、ランクA,Aの組み合わせとランクB,Bの組み合わせとランクC,Cの組み合わせを類似度100%と評価するという内容が予め規定されている。なお、類似度評価基準の規定はこの例に限定されるものではない。
【0064】
類似度評価手段60は、かかる類似度評価を全ての項目(F1,T1)〜(F5,T3)について行い、それらの結果を累積手段61へ出力する。
【0065】
累積手段61は、各項目(F1,T1)〜(F5,T3)の類似度評価結果を加算し、加算結果を判定手段62へ出力する。なお、加算結果を全項目数で除算して平均値を出力するように累積手段61を変形することも可能である。
【0066】
類似度評価手段60および累積手段61は、スペクトル情報データベース22内の全テーブル50と、スペクトル分析手段21が生成したテーブル50との組み合わせについて、上記処理を行う。
【0067】
判定手段62は、累積手段61によって算出されたノイズ源ごとの累積値のうちで、最高値であるという条件、および、予め設定されたしきい値以上の値であるという条件を同時に満足する累積値が在るか否かを判定する。
【0068】
そして、判定手段62は、そのような累積値が在ると判定した場合、その累積値に対応するノイズ源の種別を示す信号を、判別手段23による判別結果として出力する。他方、判定手段62は、上記2つの条件を同時に満足する累積値が無いと判定した場合、スペクトル分析手段21によって生成された信号品質ランクテーブル50に対応するノイズ源は特定できなかった旨を示す信号を、判別手段23による判別結果として出力する。これらの判別結果は、推定手段25へ出力される。
【0069】
ここで、上記の所定しきい値以上の値であるという条件は、判別の確度を保証するために課される。換言すれば、許容される確度に応じて、しきい値を設定すればよい。
【0070】
また、スペクトル分析手段21によって生成された信号品質ランクテーブル50に対応するノイズ源が特定された場合、判定手段62はテーブル読み出し手段63に対して、そのノイズ源に係る信号品質ランクテーブル50を読み出すように指示する。
【0071】
テーブル読み出し手段63は、判定手段62による上記指示に従って、特定されたノイズ源に係る信号品質ランクテーブル50をスペクトル情報データベース22から読み出して、推定手段25へ出力する。
【0072】
<長期ノイズ傾向情報データベース>
長期ノイズ傾向情報データベース24は、長期ノイズ傾向情報51、すなわちスペクトル分析処理における処理単位時間よりも長い時間に渡るノイズ状況の傾向に関する情報を格納している(図9参照)。図9の例では、長期ノイズ傾向情報51はテーブル形式にまとめられているため、当該情報51を「長期ノイズ傾向テーブル51」とも称することにする。なお、情報51は他のデータ形式にまとめられても構わない。
【0073】
図9に例示の長期ノイズ傾向テーブル51には一日におけるノイズ状況の変化が記録されている。具体的には、一日を朝、昼および夜の3つの時間に区分して(それぞれの時間長さは任意に設定可能である)、周波数ブロックF1〜F5ごと、および、朝、昼および夜の時間区分ごとに、ノイズ状況が数値化されている。ここではノイズ状況を示す数値が大きいほど、ノイズ状況が良好化し(換言すれば通信品質が高くなる)ものとし、ノイズ状況を示す数値は0〜1の間の数値とする。また、長期ノイズ傾向テーブル51は、電力線1に接続されている機器の総合的な使用状況(すなわち機器ごとの使用状況ではない)を着目対象としている。
【0074】
ここで、例えば冷暖房装置の使用状況は季節によって異なる点に鑑みると、長期ノイズ傾向テーブル51は四季ごとに準備されていると好ましい。また、図9に例示の長期ノイズ傾向テーブル51において朝、昼および夜の時間区分を春、夏、秋および冬に変更しても構わない。また、その他の観点から種々の長期ノイズ傾向テーブル51を準備することが可能である。
【0075】
なお、例えば時間管理手段18の上記時間経過管理機能を利用すれば、朝昼夜や四季を区別することは可能である。
【0076】
ここで、信号品質ランクテーブル50(図7および図8参照)は機器種別ごとに情報を管理するのに対し、長期ノイズ傾向テーブル51は全ての機器をまとめて一括的に情報を管理する。また、信号品質ランクテーブル50で扱う時間に比べて、長期ノイズ傾向テーブル51で扱う時間の方が長い。このため、信号品質ランクテーブル50は個別的、具体的な情報を記録するのに対し、長期ノイズ傾向テーブル51は総合的、統計的な情報を記録する。
【0077】
長期ノイズ傾向情報データベース24は、長期ノイズ傾向テーブル51を半導体メモリ等に記録することによって構築される。テーブル51は種々の手法で作成可能である。例えば、予め実験を行うことによって、あるいは、既にマンションや戸建等に導入されている通信装置10から情報を収集することによって、テーブル51を作成可能である。あるいは、通信装置10が自身でスペクトル分析手段21による分析結果等の情報を収集してテーブル51を新規作成あるいは更新するようにしてもよい。なお、出荷時のテーブル51は書き換えができないようにしてもよい。
【0078】
<推定手段>
推定手段25は、スペクトル分析手段21による分析結果(すなわち信号品質ランクテーブル50)と、判別手段23による判別結果と、判別手段23(のテーブル読み出し手段63)によって読み出された信号品質ランクテーブル50と、長期ノイズ傾向情報データベース24内のテーブル51と、本通信装置10の相手となる受信側装置から送られてくる伝送路特性推定情報とを取得する(図9参照)。そして、推定手段25は、これらに基づいて所定の推定処理を実行することによって、電力線1上のノイズの影響を回避可能な送信条件を推定し、得られた推定送信条件を変調手段12へ出力する。
【0079】
推定する送信条件は、送信のタイミングおよび時間長さに関する条件と、変調信号の生成に利用する周波数に関する条件と、時間軸ダイバーシティの利用およびその回数に関する条件とのうちの少なくとも1つを含む。ここでは説明のために、推定する送信条件がこれらの条件を全て含む場合を例示する。
【0080】
図9に例示の推定手段25は、選択手段70と、テーブル選択指示手段71と、記憶手段72と、選択手段73と、確率判定手段74と、ランク/数値変換手段75と、ランク補正手段76と、条件決定手段77とを含んでいる。これらの要素70〜77によって所定の推定処理が実行される。
【0081】
選択手段70は、スペクトル分析手段21が出力した信号品質ランクテーブル50と、判別手段23のテーブル読み出し手段63が読み出した信号品質ランクテーブル50とを取得可能に構成され、テーブル選択指示手段71による指示に従っていずれか一方のテーブル50を選択的に出力する。
【0082】
テーブル選択指示手段71は、判別手段23から出力される判別結果を取得し、当該判別結果の内容に従って選択手段71を制御する。
【0083】
すなわち、テーブル選択指示手段71は、取得した判別結果が、スペクトル分析手段21によって作成された信号品質ランクテーブル50に対応するノイズ源が特定された旨である場合、選択手段70に指示して、判別手段23によって読み出された信号品質ランクテーブル50を当該選択手段70から出力させる。また、この場合、テーブル選択指示手段71は、判別手段23から取得した判別結果に基づいて、特定されたノイズ源の種別を確率判定手段74へ出力する。
【0084】
他方、テーブル選択指示手段71は、取得した判別結果がノイズ源が特定されなかった旨である場合、選択手段70に指示して、スペクトル分析手段21によって生成された信号品質ランクテーブル50を当該選択手段70から出力させる。
【0085】
記憶手段72は、判別手段23が読み出した信号品質ランクテーブル50を蓄積していく。なお、記憶手段72は一定期間読み出されないテーブル50を当該記憶手段72内から削除するようにしてもよい。
【0086】
選択手段73は、選択手段70から出力される信号品質ランクテーブル50と、記憶手段72内の信号品質ランクテーブル50とを取得可能に構成され、確率判定手段74による指示に従っていずれか一方のテーブル50を選択的に出力する。
【0087】
確率判定手段74は、テーブル選択指示手段71から、判別手段23によって特定されたノイズ源の種別を取得し、所定の対象期間(例えば1日)内における当該ノイズ源の出現確率(換言すれば使用頻度)の統計を取る。なお、かかる統計は判別手段23によって判別したノイズ源を対象とするので、当該統計はスペクトル情報データベース22内に格納されている各ノイズ源を対象として出現確率データが収集されることになる。このようにして生成された統計データに基づいて、確率判定手段74は、上記対象期間のうちで出現確率が予め設定されたしきい値以上となる期間(以下「高確率期間」とも称する)を抽出する。
【0088】
そして、確率判定手段74は、高確率期間において判別手段23から、当該高確率期間に対応するノイズ源が判別された旨の判別結果を取得した場合、換言すれば、判別手段23から判別結果を取得した時刻が当該取得した判別結果に係るノイズ源の高確率期間中に在る場合、選択手段73がその高い出現確率に対応するノイズ源の信号品質ランクテーブル50を記憶手段72から読み出して出力するように、選択手段73を制御する。他方、その他の場合は、確率判定手段74は、選択手段70によって選択された信号品質ランクテーブル50が出力されるように、選択手段73を制御する。
【0089】
ランク/数値変換手段75は、選択手段73から出力された信号品質ランクテーブル50中の各項目(F1,T1)〜(F5,T3)のランクを所定のランク/数値変換ルールに従って数値化する。かかる変換ルールでは、ランクAに割り当てられる数値がランクB,Cに割り当てられる数値よりも大きく、ランクBに割り当てられる数値がランクCに割り当てられる数値よりも大きくなるように規定されている。すなわち、通信品質のランクが高いほど、大きなランク値が割り当てられる。換言すれば、ノイズ状況が悪いほど、小さいランク値が割り当てられている。なお、ここではいずれのランク値も0〜1の範囲内の数値とする。そして、ランク/数値変換手段75は、そのようにして変換処理された信号品質ランクテーブル50を出力する。
【0090】
ランク補正手段76は、ランク/数値変換手段75から、数値化された信号品質ランクテーブル50を取得するとともに、長期ノイズ傾向情報データベース24から長期ノイズ傾向テーブル51を読み出す。そして、ランク補正手段76は、信号品質ランクテーブル50中の項目(F1,T1)〜(F5,T3)の値を長期ノイズ傾向テーブル51で補正する。
【0091】
図9にはランク補正手段76が乗算手段で構成される場合が例示されている。かかる構成例によれば、例えば“夜”における通信では、ランク補正手段76は、信号品質ランクテーブル50中の項目(F1,T1)の値と、長期ノイズ傾向テーブル51中の項目(F1,“夜”)の値とを乗算して、その乗算値を項目(F1,T1)の補正後の値に採用する。ランク補正手段76は同様にして全ての項目(F1,T1)〜(F5,T3)の値を補正する。そして、ランク補正手段76は補正後の信号品質ランクテーブル50を出力する。
【0092】
なお、ランク補正手段76は、時間管理手段18(図1参照)を利用することによって、朝、昼および夜(より具体的にはこれらに対応付けられた時間帯)を判別することが可能である。
【0093】
条件決定手段77は、ランク補正手段76から補正後の信号品質ランクテーブル50を取得するとともに、本通信装置10の相手となる受信側装置から送られてきた伝送路特性推定情報を取得し、これらに基づいて推定送信条件を決定する。なお、通信装置10は、受信側装置で生成された伝送路特性推定情報を通信機能によって取得可能であり、取得した伝送路特性推定情報は例えば通信制御手段11から条件決定手段77へ供給される。
【0094】
図10には、条件決定手段77がサブキャリアマッピング決定手段80と、フレーム構成決定手段81とを含む場合が例示されている。
【0095】
サブキャリアマッピング決定手段80は、ランク補正手段76から取得した信号品質ランクテーブル50中の各項目(F1,T1)〜(F5,T3)のランク値を、所定の変換ルールに従ってサブキャリア密度の値に変換する(図11参照)。なお、図12に100%、75%、50%および25%のサブキャリア密度についてサブキャリア構成例を模式的に示す。なお、ここでは、各サブキャリア密度について、どの周波数のサブキャリアを利用するかは予め設定されるものとする。
【0096】
図10に戻り、この例による変換ルールでは、ランク値1.0〜0.8はキャリア密度100%に変換され、ランク値0.8〜0.5はキャリア密度75%に変換され、ランク値0.5〜0.3はキャリア密度55%に変換され、ランク値0.3〜0.1はキャリア密度25%に変換される。なお、ランク値0.1〜0.0はキャリア密度0%に変換されるが、サブキャリア密度が0%の場合には送信は行われない。
【0097】
なお、図11に模式的に示すように、周波数ブロックF1〜F5のサブキャリア密度値をまとめたデータを、サブキャリアマッピングテーブル100と称することにする。つまり、図11には時間ブロックT1〜T3のそれぞれのサブキャリアマッピングテーブル100が例示されている。
【0098】
フレーム構成決定手段81は、サブキャリアマッピング決定手段80によって生成された各時間ブロックT1〜T3のサブキャリアマッピングテーブル100を取得し、これらのテーブル100に基づいて送信フレームの構成を決定する。図10に例示のフレーム構成決定手段81は、平均算出手段90と、フレーム要件決定手段91と、マッピング補正手段92とを含んでいる。
【0099】
平均算出手段90は、ここでは、時間ブロックT1〜T3ごとに、5つの周波数ブロックF1〜F5のサブキャリア密度の平均値(以下「時間ブロック平均値」とも称する)を算出する処理と、得られた3つの時間ブロック平均値についてさらに平均値(以下「トータル平均値」とも称する)を算出する処理とを行う(図13参照)。
【0100】
フレーム要件決定手段91は、時間ブロック平均値とトータル平均値に基づき所定の判定基準に従って、送信フレームの構成を決定する。図10に例示の判定基準によれば、トータル平均値が100%〜80%の場合、時間ブロックT1〜T3の全てに渡る連続フレーム(図2参照)が採用される。また、トータル平均値が80%〜20%の場合、時間ブロック平均値が最高の時間ブロックにおいてのみ送信を行うようにフレームを分割する形態が採用される(図2の分割フレームを参照)。また、トータル平均値が20%〜0%の場合、時間ブロックT1〜T3のいずれにもフレームは構成されない。すなわち、トータル平均値が20%〜0%の場合、時間ブロックT1〜T3のいずれも信号送信に適さないと判定され、送信を行わない。
【0101】
また、図10の例による判定基準には、時間軸ダイバーシティの利用およびその回数が規定されている。例えば、トータル平均値が80%〜60%の場合、時間軸ダイバーシティを行わない形態が採用される。また、トータル平均値が60%〜40%の場合、同じ送信フレームを2回送信する時間軸ダイバーシティが採用され、トータル平均値が40%〜20%の場合、同じ送信フレームを4回送信する時間軸ダイバーシティが採用される。なお、図14には時間軸ダイバーシティを行わない場合と行う場合を模式的に図示している(図中のFR1〜FR3はフレームを表している)。
【0102】
また、フレーム要件決定手段91は、時間ブロック平均値が最高値の時間ブロックのサブキャリアマッピングテーブル100を、マッピング補正手段92へ出力する。
【0103】
図13の例によれば、フレーム要件決定手段91は、(i)分割フレーム、(ii)時間ブロックT2においてのみ送信する、(iii)時間軸ダイバーシティ無し、(iv)時間ブロック平均値が最高値の時間ブロックT2のサブキャリアマッピングテーブル100を利用する、という内容のフレーム構成要件を決定する。
【0104】
マッピング補正手段92は、フレーム要件決定手段91によって採用されたサブキャリアマッピングテーブル100(時間ブロック平均値が最高値である)と、本通信装置10の相手となる受信側装置から送られてきた伝送路特性推定情報とを取得し、サブキャリアマッピングテーブル100を、伝送路特性推定情報を利用して補正する。
【0105】
伝送路特性推定情報は、例えば、サブキャリアマッピングテーブル100と同様に周波数ブロックF1〜F5ごとのサブキャリア密度値がまとめられたデータであるトーンマップテーブル101(図15参照)として表される。図15の例によれば、マッピング補正手段92は、サブキャリアマッピングテーブル100中の各項目(ここでは各周波数ブロックF1〜F5)の内容を、トーンマップテーブル101中の対応する項目の内容に置き換えることによって、補正を行う。そして、マッピング補正手段92は、補正後のサブキャリアマッピングテーブル100を出力する。
【0106】
ここで、伝送路特性推定処理として各種方式を採用可能である。原理的には、送信側装置(ここでは本通信装置10)が所定信号を送信し、受信側装置が、受信した当該所定信号と、送信時の当該所定信号(送信時の信号構成は受信側装置に予め知らされている)とを比較して信号歪みを分析することによって、伝送路特性が推定される。
【0107】
これにより、条件決定手段77は、(a)フレーム分割を行うか否かの情報と、(b)フレーム分割する場合にフレーム送信に利用する時間ブロックの種別と、(c)時間軸ダイバーシティの利用およびその回数と、(d)利用するサブキャリアマッピングテーブル100(適宜、マッピング補正される)とを決定する。条件決定手段77によって決定された情報(換言すればフレーム構成要件)は、推定手段25(図3および図9参照)よって推定された送信条件として変調手段12へ出力される。
【0108】
ここで、推定送信条件に関し、上記の送信のタイミングおよび時間の長さに関する条件はフレーム構成要件(a),(b)に対応し、また、上記の変調信号の生成に利用する周波数に関する条件はフレーム構成要件(d)に対応する。また、上記の時間軸ダイバーシティの利用およびその回数に関する条件はフレーム構成要件(c)に対応する。
【0109】
マッピング補正手段92による補正は、常時利用することも可能であるが、ここでは断続的に(例えば一定時間ごとに)利用するものとする。なお、マッピング補正手段92を利用するか否かは例えばソフトウェア上で設定可能である。
【0110】
<変調手段>
変調手段12は、推定手段25によって推定された送信条件を取得し、当該推定送信条件に従って変調信号の生成および出力を行う。図16に変調手段12の構成例を簡略的に示す。図16の例では変調手段12は、可変クロック発生手段110と、逆FFT手段111とを含んでいる。
【0111】
可変クロック発生手段110は、周波数fsのクロックを生成して出力する。但し、周波数fsは可変であり、ここではノイズ分析手段17によって制御される。
【0112】
逆FFT手段111は、通信制御手段11から周波数領域のフレームデータを取得し、当該周波数領域のフレームデータに対して逆FFT処理を実行することによって時間領域のフレームデータを生成する。生成された時間領域のフレームデータは送信手段13へ出力される。この際、逆FFT手段111は、可変クロック発生手段110が生成したクロックと、FFTポイント数N(ここでは定数とし、変調手段12が利用可能な形態で予め与えられているものとする)とを利用して逆FFT処理を行う。
【0113】
OFDMの場合、一般に、上記クロックの周波数fsと、ポイント数Nと、フレームのサイズ(すなわち時間幅)TWとの間には、TW=N/fsの関係が成り立つ(図17参照)。つまり、クロック周波数fsとポイント数NとによってフレームサイズTWを制御可能である。かかる点に鑑み、図16の例では、可変クロック発生手段110は、ノイズ分析手段17から送信時間長さ(フレームサイズTWに対応する)に関する推定条件を取得し、当該送信時間長さとFFTポイント数Nとを利用してクロック周波数fsを決定する。
【0114】
なお、ポイント数Nを、ノイズ分析手段17が出力する推定送信条件に従って変化させるように構成してもよい。
【0115】
また、フレームを構成する最小単位であるシンボルの個数を制御することによって、1フレームのサイズを制御するように構成してもよい。
【0116】
<効果等>
上記のように通信装置10によれば、電力線1の電圧を、電圧値の時間変化ではなく、スペクトルの時間変化について分析する。また、スペクトル分析結果50に基づいて、電力線1上のノイズの影響を回避可能な送信条件を推定し、推定した条件を利用して変調信号を生成する。したがって、電圧値の時間変化だけをモニタする場合に比べて、多彩な送信条件を導出することが可能になる。例えば電圧値の時間変化だけをモニタする場合には把握できなかった周波数の空きを利用することによって、通信のロバスト性(持続性等を含む)や通信効率を向上させることができる。
【0117】
また、通信装置10では、検出対象ノイズを電源電圧のピークに現れる周期性ノイズに限定しないので、例えば非周期性ノイズ(雷等の外来ノイズ等)や負荷変動等による電源電圧の周期性の乱れにも対応可能である。
【0118】
また、推定する送信条件が、送信のタイミングおよび時間長さに関する条件と、変調信号の生成に利用する周波数に関する条件と、時間軸ダイバーシティの利用およびその回数に関する条件とのうちの少なくとも1つを含むことによって、通信のロバスト性の向上に貢献する。
【0119】
また、スペクトル情報データベース22内のスペクトル分析結果50はノイズ源が既知である状況で取得されたものであるので、スペクトル分析手段21によって生成されたスペクトル分析結果50(換言すれば、未知のノイズ源に関するスペクトル分析結果50)に比べて、その分析結果内容は信頼性が高いと考えられる。このため、スペクトル分析手段21が生成したスペクトル分析結果50に対応するノイズ源が特定された場合には、スペクトル情報データベース22内のスペクトル分析結果50を利用して送信条件を推定する方が、推定確度を向上させることができる。
【0120】
また、上記のように出現確率が所定値以上になる高確率期間ではスペクトル情報データベース22内のスペクトル分析結果50を優先的に利用するので、送信フレームを長期的に設計することができる。また、送信フレームの長期的な設計が可能であることは、通信効率の向上に寄与する。
【0121】
また、長期ノイズ傾向テーブル51の利用により、電力線1のノイズ状況の長期的な傾向が加味されるので、推定送信条件の信頼性を向上させることができる。
【0122】
また、伝送路特性推定情報の利用によれば、受信側から見た伝送路特性が加味されるので、送信条件の推定に伝送路の構成(分岐等)を反映させることが可能である。これにより、通信品質をさらに向上させることができる。
【0123】
ここで、一般的に伝送路特性推定情報は受信側で利用されるところ、通信装置10は送信側として動作する際に伝送路特性推定情報を利用する。これにより通信品質を向上させることができる。例えば、伝送路が分岐していると、送信側から推定した伝送路特性と受信側から推定した伝送路特性とが相違する場合がある。このため、通信装置10のように、受信側から取得した伝送路特性推定情報を利用することによって、上記相違を補正することができる。
【0124】
マッピング補正手段92による伝送路特性推定情報を利用した補正は、常時実行してもよいし、断続的に(例えば一定時間ごとに)実行してもよい。但し、一般に伝送路特性推定処理は送信側と受信側との両方を用いた大がかりなものになるので、頻繁に実行すると通信システム全体に大きな負荷がかかってしまう。この観点からは、断続的な利用の方が好ましい。
【0125】
受信側で推定した伝送路特性のみを利用してマッピングテーブルを作成することも可能である。しかし、実際の通信では、マスターになるいずれかの通信装置がまず送信を行うことによって通信が開始されることに鑑みれば、本通信装置10のように送信側において伝送路(ここでは電力線1)のスペクトル分析を行って好適な送信条件を調査することは有用である。このため、通信装置10では、受信側で推定された伝送路特性を通信品質向上のために補助的に利用する。
【0126】
<変形例>
ところで、上記から分かるように受信側から入手する伝送路特性推定情報の利用は任意である。このため、通信装置10を、伝送路特性推定情報を利用しない構成、具体的にはマッピング補正手段92(図10参照)を削除した構成に変形することも可能である。
【0127】
また、長期ノイズ傾向テーブル51を利用しない構成、具体的には通信装置10から長期ノイズ傾向情報データベース24とランク補正手段76とを削除した構成を採用することも可能である(図9参照)。
【0128】
また、スペクトル情報データベース22に記録されているノイズ源に関して出現確率の統計を取らない構成、具体的には通信装置10から確率判定手段74と選択手段73と記憶手段72とを削除した構成を採用することも可能である(図9参照)。
【0129】
また、スペクトル分析手段21によって生成されたスペクトル分析結果50に対応するノイズ源の種別を判別しない構成、具体的には通信装置10からスペクトル情報データベース22と判別手段23とを削除した構成を採用することも可能である(図8参照)。
【0130】
変形例に係るこれらの構成によれば、装置のコスト、サイズ等を削減することができる。
【符号の説明】
【0131】
1 電力線
10 通信装置
12 変調手段
16 復調手段
17 ノイズ分析手段
20 スペクトル検出手段
21 スペクトル分析手段
22 スペクトル情報データベース
23 判別手段
24 長期ノイズ傾向情報データベース
25 推定手段
30 FFT回路
50 スペクトル分析結果(信号品質ランクテーブル)
51 長期ノイズ傾向情報(長期ノイズ傾向テーブル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力線通信(PLC)に係る変調信号を送信データに従って生成する変調手段と、
前記変調信号の出力先となる電力線のノイズ状況を分析するノイズ分析手段と
を備え、
前記ノイズ分析手段は、
前記電力線の電圧のスペクトルを検出するスペクトル検出手段と、
前記スペクトルの時間変化を所定の分析処理で以て分析し、得られたスペクトル分析結果を出力するスペクトル分析手段と、
前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果に基づいて、前記電力線上のノイズの影響を回避可能な送信条件を推定する推定手段と
を有し、
前記変調手段は、前記推定手段によって推定された前記送信条件に従って、前記変調信号の生成および出力を行う、
通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置であって、
前記ノイズ分析手段は、
複数のノイズ源について予め取得された前記スペクトル分析結果を格納しているスペクトル情報データベースと、
前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果を、前記スペクトル情報データベース内の前記スペクトル分析結果と照合することによって、前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果の起源となっているノイズ源を前記複数のノイズ源から判別する判別手段と
をさらに有し、
前記推定手段は、
前記判別手段によって特定のノイズ源が判別した場合、前記スペクトル情報データベース内の前記特定のノイズ源に対応する前記スペクトル分析結果に基づいて前記送信条件を推定し、
前記判別手段によって前記特定のノイズが判別されなかった場合、前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果に基づいて前記送信条件を推定する、
通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の通信装置であって、
前記推定手段は、
前記判別手段による判別結果に基づいて前記複数のノイズ源を対象としてノイズの出現確率の統計を取り、
前記出現確率が所定値以上になる高確率期間において前記高確率期間に対応する前記特定のノイズ源が判別した場合、前記高確率期間中は、前記スペクトル分析手段によって生成された前記スペクトル分析結果よりも、前記スペクトル情報データベース内の前記特定のノイズ源に対応する前記スペクトル分析結果を優先的に利用する、
通信装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記ノイズ分析手段は、
前記所定の分析処理での処理単位時間に比べて長い時間に渡る前記ノイズ状況の傾向に関する長期ノイズ傾向情報を格納している長期ノイズ傾向情報データベース
をさらに有し、
前記推定手段は、
前記スペクトル分析結果に加え前記長期ノイズ傾向情報にも基づいて前記送信条件を推定する、
通信装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記送信条件は、
送信のタイミングおよび時間長さに関する条件と、
前記変調信号の生成に利用する周波数に関する条件と、
時間軸ダイバーシティの利用およびその回数に関する条件と
のうちの少なくとも1つを含む、
通信装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記推定手段は、
当該通信装置の通信相手から前記電力線の伝送路特性推定情報を取得し、前記伝送路特性推定情報にも基づいて前記送信条件を推定する、
通信装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1つに記載の通信装置であって、
FFT(Fast Fourier Transform)回路を含む復調手段
をさらに備え、
前記FFT回路は前記復調手段だけでなく前記スペクトル検出手段にも利用される、
通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−100147(P2012−100147A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247409(P2010−247409)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(591128453)株式会社メガチップス (322)
【Fターム(参考)】