説明

通路設備

【課題】一対の構造物の間に架けられたエスカレータ等の通路設備の両端を、地震発生時に、一対の構造物に対して、縦軸回りに相対回転させ、通路の長手方向へ相対移動させることができるように構成すると共に、当該通路設備の設置コストを低減する。
【解決手段】下部支持機構30は、ホーム2に設けられた長孔36Aと、フレーム20の下部20Lに設けられ、長孔36Aに挿入されたボルト34とにより、フレーム20の下部20Lとホーム2との相対回転及び相対移動を可能とし、上部支持機構40は、上階部4に設けられた長孔46Aと、フレーム20の上部20Uに設けられ、長孔46Aに挿入されたボルト44とにより、フレーム20の上部20Uと上階部4との相対回転及び相対移動を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の構造物の間に架けられたエスカレータ等の通路設備に関する。
【背景技術】
【0002】
上下階の間に免震装置を設置した免震構造物において、エスカレータのフレームの上下両端を、上下階に、縦軸回りに相対回転可能、且つ、通路の長手方向に相対移動可能に支持したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構成によれば、地震発生時に、フレームの上下両端を、上階及び下階に対して、縦軸回りに相対回転させ、通路の長手方向へ相対移動させることができるので、地震発生時のエスカレータのフレームの変形を抑制でき、また、免震構造物の免震作用が阻害されることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000―95471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の免震構造物では、エスカレータのフレームの上下両端が、スラストベアリングからなる軸受機構の上にスライドレールを設けた支持機構により、上下階に支持されている。このため、エスカレータのフレームの上下両端を上下階に支持する支持機構の構成が複雑であり、高コストである。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、一対の構造物の間に架けられたエスカレータ等の通路設備の両端を、地震発生時に、一対の構造物に対して、縦軸回りに相対回転させ、通路の長手方向へ相対移動させることができるように構成すると共に、当該通路設備の設置コストを低減することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る通路設備は、第1の構造物と第2の構造物との間に架けられた通路設備であって、当該通路設備のフレームの一端を前記第1の構造物に、縦軸回りに相対回転可能、且つ、通路長手方向に相対移動可能に支持する第1の支持機構と、前記フレームの他端を前記第2の構造物に、縦軸回りに相対回転可能、且つ、通路長手方向に相対移動可能に支持する第2の支持機構とを備え、前記第1の支持機構は、前記第1の構造物と前記フレームの一端との一方に設けられた通路長手方向を長手方向とする第1の長孔と、前記第1の構造物と前記フレームの一端との他方に設けられ、前記第1の長孔に挿入された第1のピンとにより、前記フレームの一端と前記第1の構造物との相対回転及び相対移動を可能とし、前記第2の支持機構は、前記第2の構造物と前記フレームの他端との一方に設けられた通路長手方向を長手方向とする第2の長孔と、前記第2の構造物と前記フレームの他端との他方に設けられ、前記第2の長孔に挿入された第2のピンとにより、前記フレームの他端と前記第2の構造物との相対回転及び相対移動を可能とする。
【0007】
上記通路設備において、地震発生時における前記第1の構造物と前記第2の構造物との相対変位が所定の基準レベルより低い場合には、前記第1の支持機構が、前記フレームの一端と前記第1の構造物との相対移動を可能とする一方、前記第2の支持機構が、前記フレームの他端と前記第2の構造物との相対移動を制止し、地震発生時における前記第1の構造物と前記第2の構造物との相対変位が前記基準レベルより高い場合には、前記第1の支持機構が、前記フレームの一端と前記第1の構造物との相対移動を可能とすると共に、前記第2の支持機構が、前記フレームの他端と前記第2の構造物との相対移動を可能とするようにしてもよい。
【0008】
上記通路設備において、前記第1の構造物と前記フレームの一端との間に生じる摩擦力が、前記第2の構造物と前記フレームの他端との間に生じる摩擦力よりも小さく設定されてもよく、前記第1の支持機構は、前記フレームの一端と前記第1の構造物との相対移動に対する抗力を発生させる抗力発生手段を有してもよい。
【0009】
上記通路設備において、前記第1の構造物は下階、前記第2の構造物は上階を構成してもよい。
【0010】
また、上記通路設備において、前記所定の基準レベルは、中小地震と大地震との境界の地震が発生した時の前記第1の構造物と前記第2の構造物との相対変位のレベルに相当してもよい。
【0011】
また、上記通路設備は、エスカレータであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一対の構造物の間に架けられたエスカレータ等の通路設備の両端を、地震発生時に、一対の構造物に対して、縦軸回りに相対回転させ、通路の長手方向へ相対移動させることができるように構成すると共に、当該通路設備の設置コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係るエスカレータを備える免震建物の構成を示す立面(正面)図である。
【図2】一実施形態に係るエスカレータの構成を示す立面図である。
【図3】一実施形態に係るエスカレータの要部を拡大して示す平面図であり、
【図4】図3の4−4断面図である。
【図5】(A)〜(D)は、地震発生時のホーム及び上階部の変位、及びこれらに対するエスカレータの相対変位を説明するための平面図である。
【図6】他の実施形態に係るエスカレータの要部を拡大して示す立面図である。
【図7】(A)は、上下相対変位量が所定値δとなるような地震が発生した場合における、下部相対変位量δと、エスカレータに作用する軸力Qとの関係を示す図である。(B)は、上下相対変位量が所定値δとなるような地震が発生した場合における、上部相対変位量δと、エスカレータに作用する軸力Qとの関係を示す図である。
【図8】他の実施形態に係るエスカレータの要部を拡大して示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係るエスカレータ10を備える免震建物1の構成を示す立面図である。この図に示すように、免震建物1は、駅舎であり、非免震構造物である鉄道のホーム2と、ホーム2及び線路9に跨るように建てられた架構3と、免震ゴム等の免震装置5を介して架構3の上に建てられた免震構造物である上階部4と、上階部4とホーム2との間に架けられたエスカレータ10とを備えている。
【0015】
図2は、エスカレータ10の構成を示す立面図である。なお、図中左右方向は、ホーム2の長手方向である。この図に示すように、エスカレータ10は、ホーム2から上階部4へ斜め上方に延びるフレーム20と、フレーム20上に設けられた床部22と、フレーム20の下部20Lをホーム2に支持する下部支持機構30と、フレーム20の上部20Uを上階部4に支持する上部支持機構40とを備えている。
【0016】
フレーム20の上部20Uと下部20L、及び床部22の上部22Uと下部22Lは、水平に構成されている。下部支持機構30は、フレーム20の下部20Lに固定されたL字状のアングル32と、アングル32に取り付けられた複数のボルト(ピン)34と、ホーム2に固定されたガイド部材36と、床部22の下部22Lとホーム2とに取付けられたエキスパンションジョイント38とを備えている。また、上部支持機構40は、フレーム20の上部20Uに固定されたL字状のアングル42と、アングル42に取付けられた複数のボルト(ピン)44と、上階部4に固定されたガイド部材46と、床部22の上部22Uと上階部4とに取付けられたエキスパンションジョイント48とを備えている。
【0017】
図3は、エスカレータ10の要部を拡大して示す平面図であり、図4は、図3の4−4断面図である。これらの図に示すように、ホーム2には、通路面に対して一段下がった段差部2Aが形成されており、この段差部2Aに覆い被さるように、エキスパンションジョイント38が配されている。また、上階部4には、通路面に対して一段下がった段差部4Aが形成されており、この段差部4Aに覆い被さるように、エキスパンションジョイント48が配されている。エキスパンションジョイント38、48は、通路の長手方向に伸縮可能に構成された床である。
【0018】
下部支持機構30において、アングル32の縦片32Aは、フレーム20の下部20Lに固定され、アングル32の横片32Bは、段差部2Aと上下に対向している。複数のボルト34は、通路の幅方向中央と、通路の幅方向両側とにそれぞれ、縦向きに配されている。各ボルト34は、アングル32の横片32Bに螺合しており、その先端部(下端部)を、段差部2Aに当接させている。ここで、各ボルト34の横片32Bからの突出量は、各ボルト34を回転させることにより調整可能であり、これにより、下部20Lのホーム2に対する相対高さが調整可能である。
【0019】
ガイド部材36は、通路の幅方向中央に配されており、通路の長手方向を長手方向とする長孔36Aが形成されている。この長孔36Aには、通路の幅方向中央に配されたボルト34が挿入されている。ここで、当該ボルト34の直径は、長孔36Aの幅方向の寸法に対して嵌め合い公差の分だけ小さく設定されている。これにより、当該ボルト34は、長孔36Aに対して、自身の軸(縦軸)の回りに回転可能、且つ、長孔36Aの長手方向にスライド可能となっている。従って、下部支持機構30は、フレーム20の下部20Lを、ホーム2に対して縦軸の回りに相対的に回転可能、且つ、通路の長手方向に相対的に移動可能に支持している。
【0020】
一方、上部支持機構40において、アングル42の縦片42Aは、フレーム20の上部20Uに固定され、アングル42の横片42Bは、段差部4Aと上下に対向している。複数のボルト44は、通路の幅方向中央と、通路の幅方向両側とにそれぞれ、縦向きに配されている。各ボルト44は、アングル42の横片42Bに螺合しており、その先端部(下端部)を、段差部4Aに当接させている。ここで、各ボルト44の横片42Bからの突出量は、各ボルト44を回転させることにより調整可能であり、これにより、上部20Uの上階部4に対する相対高さが調整可能である。
【0021】
ガイド部材46は、通路の幅方向中央に配されており、通路の長手方向を長手方向とする長孔46Aが形成されている。この長孔46Aには、通路の幅方向中央に配されたボルト44が挿入されている。ここで、当該ボルト44の直径は、長孔46Aの幅方向の寸法に対して嵌め合い公差の分だけ小さく設定されている。これにより、当該ボルト44は、長孔46Aに対して、自身の軸(縦軸)の回りに回転可能、且つ、長孔46Aの長手方向にスライド可能となっている。従って、上部支持機構40は、フレーム20の上部20Uを、上階部4に対して縦軸の回りに相対的に回転可能、且つ、通路の長手方向に相対的に移動可能に支持している。
【0022】
図5(A)〜(D)は、地震発生時のホーム2及び上階部4の変位、及びこれらに対するエスカレータ10の相対変位を説明するための平面図である。図5(A)は、地震が発生しておらず、ホーム2及び上階部4が変位していない状態を示している。この図に示すように、地震が発生しない状態では、ボルト34は、長孔36Aの長手方向中央部に位置し、ボルト44は、長孔46Aの長手方向中央部に位置する。
【0023】
図5(B)は、地震が発生して、非免震構造物であるホーム2が上階部4側(図中右側)へ変位し、免震構造物である上階部4がホーム2側(図中左側)へ変位した状態を示している。この図に示すように、ホーム2が図中右側へ変位するのに対し、フレーム20の下部20L及び床部22の下部22Lは、ホーム2に対して相対的に図中左側(ホーム2の変位方向の逆方向)へ変位する。ここで、フレーム20の下部20L及び床部22の下部22Lは、元の位置から変位しないか、あるいは、ホーム2の変位量と比して少量しか変位しない。また、ホーム2と床部22の下部22Lとに挟まれたエキスパンションジョイント38は、収縮する。
【0024】
また、上階部4が図中左側へ変位するのに対し、フレーム20の上部20U及び床部22の上部22Uは、上階部4に対して相対的に図中右側(上階部4の変位方向の逆方向)へ変位する。ここで、フレーム20の上部20U及び床部22の上部22Uは、元の位置から変位しないか、あるいは、上階部4の変位量と比して少量しか変位しない。また、上階部4と床部22の上部22Uとに挟まれたエキスパンションジョイント48は、収縮する。
【0025】
図5(C)は、地震が発生して、非免震構造物であるホーム2が上階部4の反対側(図中左側)へ変位し、免震構造物である上階部4がホーム2の反対側(図中右側)へ変位した状態を示している。この図に示すように、ホーム2が図中左側へ変位するのに対し、フレーム20の下部20L及び床部22の下部22Lは、ホーム2に対して相対的に図中右側(ホーム2の変位方向の逆方向)へ変位する。ここで、フレーム20の下部20L及び床部22の下部22Lは、元の位置から変位しないか、あるいは、ホーム2の変位量と比して少量しか変位しない。また、ホーム2と床部22の下部22Lとに挟まれたエキスパンションジョイント48は、伸長する。
【0026】
また、上階部4が図中右側へ変位するのに対し、フレーム20の上部U及び床部22の上部22Uは、上階部4に対して相対的に図中左側(上階部4の変位方向の逆方向)へ変位する。ここで、フレーム20の上部20U及び床部22の上部22Uは、元の位置から変位しないか、あるいは、上階部4の変位量と比して少量しか変位しない。また、上階部4と床部22の上部22Uとに挟まれたエキスパンションジョイント48は、伸長する。
【0027】
図5(D)は、地震が発生して、非免震構造物であるホーム2が通路の幅方向の一方側(図中下側)へ変位し、免震構造物である上階部4が通路の幅方向の他方側(図中上側)へ変位した状態を示している。この図に示すように、ホーム2が図中下側へ変位するのに対し、フレーム20の下部20L及び床部22の下部22Lは、ホーム2に対して相対的にボルト34の回りに図中反時計回り方向へ回転する。また、ホーム2と床部22の下部22Lとに挟まれたエキスパンションジョイント38は、図中上側は収縮し、図中下側は伸長する。
【0028】
また、上階部4が図中上側へ変位するのに対し、フレーム20の上部20U及び床部22の上部22Uは、上階部4に対して相対的にボルト44の回りに図中反時計回り方向へ回転する。また、上階部4と床部22の上部22Uとに挟まれたエキスパンションジョイント48は、図中上側は伸長し、図中下側は収縮する。
【0029】
ここで、エスカレータ10のフレーム20の上下両端を、下部支持機構30及び上部支持機構40により、ホーム2及び上階部4に、相対的に、縦軸回りに回転可能、且つ、通路の長手方向に移動可能に支持したことにより、地震発生時のエスカレータ10のフレーム20の変形を抑制でき、また、免震構造物である上階部4の免震作用が阻害されることを防止できる。
【0030】
また、下部支持機構30は、ホーム2に設けられた通路長手方向を長手方向とする長孔36Aと、フレーム20の下部20Lに設けられ、長孔36Aに挿入されたボルト34とにより、フレーム20の下部20Lとホーム2との相対的な回転及び移動を可能としている。そして、上部支持機構40は、上階部4に設けられた通路長手方向を長手方向とする長孔46Aと、フレーム20の上部20Uに設けられ、長孔46Aに挿入されたボルト44とにより、フレーム20の上部20Uと上階部4との相対的な回転及び移動を可能としている。
【0031】
即ち、長孔とそれに挿通されるピンとからなる単純な機構により、エスカレータ10の上下両端を、地震発生時に、ホーム2及び上階部4に対して、縦軸回りに相対回転させ、通路長手方向へ相対移動させることを可能としている。従って、エスカレータ10の設置コストを低減することができる。
【0032】
なお、本実施形態では、ボルト34、44をフレーム20側に設け、長孔36A、46Aをホーム2側及び上階部4側に設けたが、ボルト34、44をホーム2側及び上階部4側に設け、長孔36A、46Aをフレーム20側に設けてもよい。
【0033】
図6は、他の実施形態に係るエスカレータ100の要部を拡大して示す立面図である。この図に示すように、エスカレータ100は、エスカレータ100の下部をホーム2に支持する下部支持機構130と、エスカレータ100の上部を上階部4に支持する上部支持機構140とを備えている。
【0034】
下部支持機構130は、上述の複数のボルト34、ガイド部材36(これらは図2参照)、アングル32、エキスパンションジョイント38に加えて、摩擦力調整部材131と、ばね133とを備えている。また、上部支持機構140は、上述の複数のボルト44、ガイド部材46(これらは図2参照)、アングル42、エキスパンションジョイント48に加えて、摩擦力調整部材141を備えている。
【0035】
摩擦力調整部材131は、段差部2A上に固定されており、アングル32の横片32Bの下面と当接している。また、摩擦力調整部材141は、段差部4A上に固定されており、アングル42の横片42Bの下面と当接している。ここで、摩擦力調整部材131とアングル32の横片32Bとの間に生じる摩擦力(以下、下部摩擦力という)μは、摩擦力調整部材141とアングル42の横片42Bとの間に生じる摩擦力(以下、上部摩擦力という)μよりも小さく設定されている。なお、μは、摩擦力調整部材131と横片32Bとの間の摩擦係数であり、Nは、横片32Bから摩擦力調整部材131に作用する鉛直荷重である。また、μは、摩擦力調整部材141と横片42Bとの間の摩擦係数であり、Nは、横片42Bから摩擦力調整部材141に作用する鉛直荷重である。
【0036】
このため、エスカレータ10に作用する軸力Qが、下部摩擦力μ以上、上部摩擦力μ未満である場合には、エスカレータ10の下部は、ホーム2に対して通路長手方向へ相対変位するのに対し、エスカレータ10の上部は、上階部4と一体で通路長手方向へ変位する。また、エスカレータ10に作用する軸力Qが、上部摩擦力μ以上である場合には、エスカレータ10の下部はホーム2に対して、エスカレータ10の上部は上階部4に対して、通路長手方向へ相対変位する。
【0037】
ばね133は、ばね定数がkのコイルバネであり、アングル32の横片32Bとホーム2の側壁との間に配されて一端を横片32Bに固定され、他端をホーム2の側壁に固定されている。このばね133は、アングル32がホーム2に対して通路の長手方向へ相対移動した場合に、その相対移動の方向の逆方向への力(即ち、抗力)kδを発生する。なお、δは、アングル32(エスカレータ10の下部)のホーム2に対する通路長手方向への相対変位量である。
【0038】
ここで、ホーム2と上階部4との通路長手方向への相対変位量(以下、上下相対変位量という)が、所定値δ(例えば、15cm程度)になった場合に、エスカレータ10の上部が、上階部4に対して通路長手方向へ相対変位し始めるように、摩擦力μ、摩擦力μ、ばね133の張力kδが、下記(1)式を満たすように設定されている。
μ+kδ=μ・・・(1)
【0039】
ここで、上下相対変位量が所定値δ未満に収まるような地震のレベルは、中小地震であるのに対し、上下相対変位量が所定値δを超えるような地震のレベルは、大地震である。なお、中地震とは、建物の耐用年限中に数度は発生する程度の地震であり、その地震力は、気象庁震度階級で震度5強程度、及び、地動の最大加速度で80〜100gal程度である。また、大地震とは、耐用年限中に一度発生する可能性がある程度の地震であり、その地震力は、気象庁震度階級で震度6強〜7程度、及び地動の最大加速度で300〜400gal程度である(建築物の構造規定、日本建築センター(1997年版)、16〜19頁参照)。
【0040】
図7(A)は、上下相対変位量が所定値δとなるような地震が発生した場合における、エスカレータ10の下部とホーム2との通路長手方向についての相対変位量(以下、下部相対変位量という)δと、エスカレータ10に作用する軸力Qとの関係を示す図である。また、図7(B)は、上下相対変位量が所定値δとなるような地震が発生した場合における、エスカレータ10の上部と上階部4との通路長手方向についての相対変位量(以下、上部相対変位量という)δと、エスカレータ10に作用する軸力Qとの関係を示す図である。ここで、矢印(1)〜(7)で示す順序で、下部相対変位量δ、上部相対変位量δ、及び軸力Qは変化する。
【0041】
地震が発生することにより、ホーム2と上階部4との通路長手方向への相対変位が開始すると、その開始段階では下部摩擦力μ及び上部摩擦力μの作用でエスカレータ10はホーム2と上階部4とに対して相対変位しないことから、矢印(1)で示すように、エスカレータ10には軸力Qが生じる。この軸力Qが下部摩擦力μ未満の間は、下部相対変位量δと上部相対変位量δとは共に0である。
【0042】
そして、矢印(2)で示すように、軸力Qが下部摩擦力μ以上(上部摩擦力μ未満)になると、下部相対変位量δが所定値δまで増加する一方、上部相対変位量δは0のまま変化しない。この際、ばね133による抗力kδがkδまで増加することから、軸力Qは、μ+kδ(=μ)まで増加する。そして、矢印(3)で示すように、軸力Qがμまで増加すると、上部相対変位量δはδまで増加する。即ち、エスカレータ10の上部が、下部摩擦力μとばね133の弾性力kδとの合力を受けて、上階部4に対して相対変位する。
【0043】
そして、矢印(4)で示すように、軸力Qがμまで低下し、下部相対変位量δは0まで減少する一方、上部相対変位量δは0のまま変化しない。即ち、ばね133が弾性復帰することにより、エスカレータ10の下部は中立位置に復帰する。一方、エスカレータ10の上部は、下部摩擦力μとばね133の弾性力kδとの合力が上部摩擦力μより小さくなることにより、上階部4に対して相対変位することはない。
【0044】
そして、ホーム2と上階部4とが中立位置に復帰し、上下相対変位量が0まで減少すると、矢印(5)で示すように、軸力Qが0まで減少する。そして、ホーム2と上階部4との相対変位の方向が逆転すると、矢印(6)、(7)で示すように、下部相対変位量δ、上部相対変位量δ、及び軸力Qは、上述の矢印(1)、(2)で示すものに対して逆位相となるように変化する。
【0045】
即ち、本実施形態に係るエスカレータ100では、ホーム2と上階部4との通路長手方向への相対変位のレベルが基準レベル(相対変位量がδとなるレベル)より低い場合(即ち、中小地震発生時)には、下部支持機構130が、フレーム20の下部20Lとホーム2との通路長手方向への相対移動を可能とする一方、上部支持機構140が、フレーム20の上部20Uと上階部4との通路長手方向への相対移動を制止する。そして、ホーム2と上階部4との通路長手方向への相対変位のレベルが基準レベル(相対変位量がδとなるレベル)より高い場合(大地震発生時)には、下部支持機構130が、フレーム20の上部20Uと上階部4との通路長手方向への相対移動を可能とすると共に、上部支持機構140が、フレーム20の上部20Uと上階部4との相対移動を可能とする。
【0046】
これにより、大地震発生時には、エスカレータ10の上下両端が、ホーム2及び上階部4に対して通路長手方向へ相対変位するように構成することで、エスカレータ100の変形を抑制する効果を高め、また、免震建物1の免震効果を高めることができる。一方、中小地震発生時には、エスカレータ10の下端のみが、ホーム2に対して通路長手方向へ相対変位するように構成することで、エスカレータ10の上端と下端との何れが相対移動するのかを、事前に認知することができ、管理が容易になる。
【0047】
また、本実施形態に係るエスカレータ100では、ホーム2とフレーム20の下部20L(アングル32)との間に生じる摩擦力μが、上階部4とフレーム20の上部20U(アングル42)との間に生じる摩擦力μよりも小さく設定されており、ばね133により、フレーム20の下部20Lとホーム2との相対移動に対する抗力kδが発生される。ここで、地震発生時にフレーム20に生じる軸力Qが摩擦力μ以上になると、フレーム20の上部20Lの上階部4に対する相対変位が開始されるところ、その際のフレーム20の下部20Uのホーム2に対する相対変位量δは、ばね133のばね定数kに従って決まる。従って、ばね133のばね定数kの設定によって、フレーム20の上部20Lの上階部4に対する相対変位が開始される際の、フレーム20の下部20Uのホーム2に対する相対変位量δを設定することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、フレーム20の下部20Lのホーム2に対する抗力を発生する機構として、ばね133を用いたが、ダンパー等の制震機構を用いてもよい。また、本実施形態では、ホーム2と上階部4との通路長手方向への相対変位のレベルが基準レベルより低い場合に、エスカレータ10の下部がホーム2に対して通路長手方向へ相対移動し、エスカレータ10の上部が上階部4に対して相対移動しないように構成した。しかし、ホーム2と上階部4との通路長手方向への相対変位のレベルが基準レベルより低い場合に、エスカレータ10の上部が上階部4に対して通路長手方向へ相対移動し、エスカレータ10の下部がホーム2に対して相対移動しないように構成してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、摩擦力調整部材131、141を設けることにより、下部摩擦力μと上部摩擦力μとを調整した。しかし、アングル32とホーム2の段差部2A、アングル42と上階部4の段差部4Aとを接触させ、これらの表面粗さを調整することにより、下部摩擦力μと上部摩擦力μとを調整してもよい。
【0050】
図8は、他の実施形態に係るエスカレータ200の要部を拡大して示す立面図である。この図に示すように、エスカレータ200は、エスカレータ200の下部をホーム2に支持する下部支持機構230と、エスカレータ200の上部を上階部4に支持する上部支持機構240とを備えている。
【0051】
下部支持機構230は、上述の摩擦力調整部材131(図6参照)、アングル32、複数のボルト34、及びエキスパンションジョイント38に加えて、ガイド部材236を備えている。また、上部支持機構240は、上述の摩擦力調整部材141(図6参照)、アングル42、複数のボルト44、及びエキスパンションジョイント48に加えて、ガイド部材246を備えている。
【0052】
ガイド部材236は、通路の幅方向中央に配されており、通路の長手方向を長手方向とする長孔236Aが形成されている。この長孔236Aには、通路の幅方向中央に配されたボルト34が挿入されている。ここで、当該ボルト34の直径は、長孔236Aの幅方向の寸法に対して嵌め合い公差の分だけ小さく設定されている。
【0053】
また、ガイド部材246は、通路の幅方向中央に配されており、通路の長手方向を長手方向とする長孔246Aが形成されている。この長孔246Aには、通路の幅方向中央に配されたボルト44が挿入されている。ここで、当該ボルト44の直径は、長孔246Aの幅方向の寸法に対して嵌め合い公差の分だけ小さく設定されている。
【0054】
ここで、ガイド部材236の長孔236Aの長手方向の寸法は、上述の所定値δの2倍に設定されており、ガイド部材246の長孔246Aの長手方向の寸法は、長孔236Aの長手方向の寸法より長く設定されている。このため、上下相対変位量がδ未満の地震(中小地震)が発生し、エスカレータ200に作用する軸力Qが下部摩擦力μを超えた場合には、下部支持機構230において、ボルト34が、長孔236A内でその長手方向両端部に当接することなく変位する。一方、上下相対変位量がδ以上の地震(大地震)が発生した場合には、下部支持機構230において、ボルト34が、長孔236Aの長手方向の端部に当接する。
【0055】
これにより、上下相対変位量がδ未満の地震が発生し、エスカレータ200に作用する軸力Qが下部摩擦力μを超えた場合には、エスカレータ200の下部はホーム2に対して通路長手方向へδだけ相対変位するが、エスカレータ200の上部はホーム2に対して通路長手方向へ相対変位しない。一方、上下相対変位量がδ以上の地震が発生した場合には、エスカレータ200の下部はホーム2に対して通路長手方向へδだけ相対変位し、それに遅れて、エスカレータ200の上部も上階部4に対して通路長手方向へ相対変位する。
【0056】
即ち、本実施形態に係るエスカレータ200では、ホーム2とフレーム20の下部20L(アングル32)との間に生じる摩擦力μが、上階部4とフレーム20の上部20U(アングル42)との間に生じる摩擦力μよりも小さく設定されており、長孔236Aにより、フレーム20の下部20Lとホーム2との相対移動量が制限される。ここで、地震発生時にフレーム20に生じる軸力Qが摩擦力μ以上になると、フレーム20の上部20Lの上階部4に対する相対変位が開始されるところ、その際のフレーム20の下部20Uのホーム2に対する相対変位量δは、長孔236Aの長手方向寸法に従って決まる。従って、長孔236Aの長手方向寸法の設定によって、フレーム20の上部20Lの上階部4に対する相対変位が開始される際の、フレーム20の下部20Uのホーム2に対する相対変位量δを設定することができる。
【0057】
以上、上記の各本実施形態では、通路設備としてエスカレータを例に挙げて本発明を説明した。しかし、階段やスロープや渡り廊下や踊り場等の他の通路設備にも本発明を適用可能である。また、上記の各実施形態では、一対の構造物の一方を免震構造物としたが、一対の構造物の双方を免震構造物としてもよく、また、一対の構造物の双方を非免震構造物としてもよい。
【0058】
また、上記の各実施形態では、駅舎内の互に異なる構造物であるホーム2と上階部4とがそれぞれ第1の構造物、第2の構造物に相当するが、通路設備としてのエスカレータを、駅舎ではなくビルに適用する場合は、ビルの上下階の一方が第1の構造物、他方が第2の構造物に相当する。
【符号の説明】
【0059】
1 免震建物、2 ホーム(第1の構造物)、2A 段差部、3 架構、4 上階部(第2の構造物)、4A 段差部、5 免震装置、9 線路、10 エスカレータ(通路設備)、20 フレーム、20U 上部、20L 下部、22 床部、22U 上部、22L 下部、30 下部支持機構(第1の支持機構)、32 アングル、32A 縦片、32B 横片、34 ボルト(ピン)、36 ガイド部材、36A 長孔(第1の長孔)、38 エキスパンションジョイント、40 上部支持機構(第2の支持機構)、42 アングル、42A 縦片、42B 横片、44 ボルト(ピン)、46 ガイド部材、46A 長孔(第2の長孔)、48 エキスパンションジョイント、100 エスカレータ(通路設備)、130 下部支持機構(第1の支持機構)、131 摩擦力調整部材、133 ばね(抗力発生手段)、140 上部支持機構(第2の支持機構)、141 摩擦力調整部材、200 エスカレータ(通路設備)、230 下部支持機構(第1の支持機構)、236 ガイド部材、236A 長孔(第1の長孔)、240 上部支持機構(第2の支持機構)、246 ガイド部材、246A 長孔(第2の長孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の構造物と第2の構造物との間に架けられた通路設備であって、
当該通路設備のフレームの一端を前記第1の構造物に、縦軸回りに相対回転可能、且つ、通路長手方向に相対移動可能に支持する第1の支持機構と、
前記フレームの他端を前記第2の構造物に、縦軸回りに相対回転可能、且つ、通路長手方向に相対移動可能に支持する第2の支持機構とを備え、
前記第1の支持機構は、前記第1の構造物と前記フレームの一端との一方に設けられた通路長手方向を長手方向とする第1の長孔と、前記第1の構造物と前記フレームの一端との他方に設けられ、前記第1の長孔に挿入された第1のピンとにより、前記フレームの一端と前記第1の構造物との相対回転及び相対移動を可能とし、
前記第2の支持機構は、前記第2の構造物と前記フレームの他端との一方に設けられた通路長手方向を長手方向とする第2の長孔と、前記第2の構造物と前記フレームの他端との他方に設けられ、前記第2の長孔に挿入された第2のピンとにより、前記フレームの他端と前記第2の構造物との相対回転及び相対移動を可能とする通路設備。
【請求項2】
地震発生時における前記第1の構造物と前記第2の構造物との相対変位が所定の基準レベルより低い場合には、前記第1の支持機構が、前記フレームの一端と前記第1の構造物との相対移動を可能とする一方、前記第2の支持機構が、前記フレームの他端と前記第2の構造物との相対移動を制止し、
地震発生時における前記第1の構造物と前記第2の構造物との相対変位が前記基準レベルより高い場合には、前記第1の支持機構が、前記フレームの一端と前記第1の構造物との相対移動を可能とすると共に、前記第2の支持機構が、前記フレームの他端と前記第2の構造物との相対移動を可能とする請求項1に記載の通路設備。
【請求項3】
前記第1の構造物と前記フレームの一端との間に生じる摩擦力が、前記第2の構造物と前記フレームの他端との間に生じる摩擦力よりも小さく設定され、
前記第1の支持機構は、前記フレームの一端と前記第1の構造物との相対移動に対する抗力を発生させる抗力発生手段を有する請求項2に記載の通路設備。
【請求項4】
前記第1の構造物は下階、前記第2の構造物は上階を構成する請求項2又は請求項3に記載の通路設備。
【請求項5】
前記所定の基準レベルは、中小地震と大地震との境界の地震が発生した時の前記第1の構造物と前記第2の構造物との相対変位のレベルに相当する請求項2から請求項4までの何れか1項に記載の通路設備。
【請求項6】
当該通路設備は、エスカレータである請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の通路設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−86939(P2012−86939A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234708(P2010−234708)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】