説明

通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法

【課題】金属材または導電性樹脂材の表面に塗装により形成された塗膜を補修する際に、基材を傷付けることなく、均一に塗膜の不良部位およびその周辺を剥離すること。
【解決手段】塗膜2が形成された導電性を有する基材1を直流電源4の−側に接続し、直流電源の+側に導電性を有する対極5を接続し、塗膜の不良部位3にその周辺を含めて電解質液6の溜まり7を形成し、対極を電解質液に浸漬して基材と対極の間に通電し、電解質液を電気分解してガスを発生させ、発生するガスによって塗膜を剥離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜に生じた不良部位を補修する際に、基材を傷付けずに不良部位およびその周辺の塗膜を剥離する通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の製品の表面部を形成する金属材や導電性樹脂材は、一般に、塗装により表面仕上げされている。塗装により金属材や導電性樹脂材の表面に形成される塗膜には、製造上欠陥が生じたり、製品の使用により部分的に剥離が生じたりすることがあり、このような場合、不良部位の補修が必要とされる。塗膜の補修は、下記特許文献1にも記載されているように、欠陥や剥離などが生じた補修部の塗膜を研磨剤などによって機械的に剥離し、補修液を塗布して再生することによって行われる。
【0003】
しかしながら、研磨剤などによる塗膜の機械的剥離に際し、基材である金属材や導電性樹脂材が傷付いてしまうことが往々にしてあり、基材の傷付きによって、補修した部分が、塗膜の健全な部分と比べ、色合いなどが異なり、補修跡として目立ってしまうことがあった。
【0004】
また、表面がエンボス加工されている金属材や導電性樹脂材では、表面の凹凸によって、塗膜の機械的な剥離を均一に行うことができないという問題があった。
【特許文献1】特開2003−225611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、金属材または導電性樹脂材の表面に塗装により形成された塗膜を補修する際に、基材を傷付けることなく、均一に塗膜の不良部位およびその周辺を剥離することのできる通電塗膜剥離方法と、この通電塗膜剥離方法に基づく塗膜の補修方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の特徴を有している。
【0007】
第1の発明は、塗膜が形成された導電性を有する基材を直流電源の−側に接続し、直流電源の+側に導電性を有する対極を接続し、塗膜の不良部位にその周辺を含めて電解質液の溜まりを形成し、対極を電解質液に浸漬して基材と対極の間に通電し、電解質液を電気分解してガスを発生させ、発生するガスによって塗膜を剥離させることを特徴としている。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明の特徴において、塗膜の不良部位を取り囲むように堰を形成し、堰の内側に電解質液を注入して電解質液の溜まりを形成することを特徴としている。
【0009】
第3の発明は、上記第1または第2の発明の特徴において、基材に対し腐食性のない電解質液が用いられることを特徴としている。
【0010】
第4の発明は、塗膜が形成された導電性を有する基材を直流電源の−側に接続し、直流電源の+側に導電性を有する対極を接続し、塗膜の不良部位にその周辺を含めて電解質液の溜まりを形成し、対極を電解質液に浸漬して基材と対極の間に通電し、電解質液を電気分解してガスを発生させ、発生するガスによって塗膜を剥離させるステップと、電解質液を基材の表面から除去するステップと、基材表面の塗膜を剥離させた部分に塗膜を形成するステップとを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上記第1の発明によれば、機械的剥離では避けられない基材の傷付きがなく、不良部位およびその周辺の塗膜を均一に剥離させることができる。塗膜の剥離は、熟練を要さず、容易かつ安全に行うことができるため、塗膜の補修を効率よく行うことが可能となる。
【0012】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加え、製品が施工されている状態のまま、不良部位およびその周辺の塗膜を容易に剥離することができる。
【0013】
上記第3の発明によれば、上記第1または第2の発明の効果に加え、電解質液による基材の浸食が抑えられ、塗膜の剥離に際して品質の劣化を抑制することができる。
【0014】
上記第4の発明によれば、上記第1の発明の効果が奏せられ、塗膜の補修を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法の一実施形態の概要を示した要部断面図である。図2は、図1に示した通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法の平面図である。
【0016】
図1および図2に示した通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法では、意匠性を付与するために塗装により表面仕上げされ、基材1の表面に形成された塗膜2に、製造上欠陥が生じたり、製品の使用により部分的に剥離が生じたりして不良部位3が発生した場合、基材1を直流電源4の−側に接続する。直流電源4の+側には対極5を接続する。
【0017】
基材1は、直流電源4からの電力の供給により電流が流れる導電性を有するものであり、たとえば、金属材、導電性樹脂材などである。基材1の形状には特に制限はない。平面状の表面を有するもの、曲面状の表面を有するもの、表面が複数の平面により構成されているもの、エンボス加工により表面に凹凸が形成されているものなどの各種の形状のものが適用可能である。
【0018】
直流電源4は、基材1と対極5の間に直流電圧を印加し、通電を行うものである。印加する電圧は、塗膜2の基材1からの剥離や安全性などを考慮して適当な大きさに設定することができる。一般には、1.5V〜15Vの範囲が例示される。塗膜2の剥離を速やかに行いたい場合には、上記範囲内を考慮し、比較的高い電圧を印加することができる。また、直流電源4としては、直流電圧を印加することのできるものであれば特に制限はない。可搬性などを考慮すると、ポータブルタイプの電源装置が好ましく、乾電池を用いた簡易な構成のものであっても構わない。直流電源4が持ち運び可能なものであると、塗膜2に不良部位3が発生した基材1を製品から取り外すことなく、製品が施工されている状態のまま、不良部位3およびその周辺の塗膜2を容易に剥離することが可能となる。
【0019】
対極5も、直流電源4からの電力の供給により電流が流れる導電性を有するものである。価格などを考慮すると、アルミニウムやカーボンなどの安価な導電性材料から形成されていることが好ましく例示される。また、対極5は、後述するように、電解質液に浸漬されることから、電解質液に対して耐腐食性などを有する導電性材料から形成されることがより好ましい。対極5の形状については特に制限はない。板状、棒状などの各種のものとすることができ、好ましくは、製造や保守などが容易な簡略化された形状のものを採用することができる。
【0020】
また、図1および図2に示した通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法では、塗膜2の不良部位3にその周辺を含めて電解質液6の溜まり7を形成する。電解質液6は、基材1の浸食を抑制するために、基材1に対し腐食性のないものが好ましく選択される。一般には、食塩水が例示される。食塩水は、調製が容易で、安価な電解質液であり、基材1を形成する金属や導電性樹脂などに対して腐食性が低く、汎用性がある。一方、電解質液6は食塩水に限定されることはなく、基材1に対する腐食性や、調製、価格などを考慮して適宜なものを選択することができる。塗膜2の剥離に際して基材1などの品質の劣化が抑制される。
【0021】
溜まり7は、たとえば、塗膜2の不良部位3を取り囲むように堰8を配設することにより形成することができる。堰8の内側に電解質液6を注入すれば溜まり7が形成される。堰8の構造については特に制限はない。一般には、取り付けおよび取り外しが容易な簡易な構造のものが好ましい。一定のサイズで、断面が円形、多角形などの形状を有する筒状のものや、不良部位3のサイズに合わせて形状を可変とすることのできるものなどの各種のものが例示される。材質としては、電気絶縁性を有する樹脂などが好ましく例示される。また、堰8についても、電解質液6に対し腐食性のない材料から形成されていることがより好ましい。
【0022】
このような堰8の配設によって、塗膜2に不良部位3が発生した基材1を製品から取り外すことなく、製品が施工されている状態のまま、不良部位3およびその周辺の塗膜2を容易に剥離することが可能となる。
【0023】
なお、電解質液6は、一般に常温とすることができる。塗膜2の剥離を速やかに行いたい場合には、適当な温度に加温することができる。加温した電解質液6を注入したり、溜まり7において、電気加熱などにより電解質液6を加温したりすることができる。
【0024】
そして、図1および図2に示した通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法では、対極5の一部または全部を電解質液6に浸漬し、直流電源4から基材1と対極5の間に電力を供給して通電する。通電によって電解質液6は電気分解し、水素、酸素、塩素などのガスが発生する。発生するガスによって不良部位3周辺の塗膜2は次第に剥離する。
【0025】
このように、図1および図2に示した通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法では、電解質液6の電気分解により発生するガスによって塗膜2を剥離するので、基材1のダメージがきわめて小さく、機械的剥離では避けられない傷付きが抑制される。この効果は、電解質液6の適当な選択によってより顕著になる。また、機械的剥離に比べ、不良部位3およびその周辺の塗膜2を均一に剥離させることもできる。表面が平面状でない、異形形状を有する基材1やエンボス加工によって表面に凹凸が形成されている基材1などの表面に形成された塗膜2については機械的剥離は適用不可能であり、通常、人手により行われていた。図1および図2に示した通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法は、そのような複雑な形状を有する基材1についても、表面が平面状の基材1と全く同様に、塗膜2を均一に剥離することができる。塗膜2の剥離は、熟練を要さず、容易かつ安全に行うことができるため、剥離後の処理を含め、塗膜2の補修を効率よく行うことが可能となる。
【0026】
塗膜の補修方法では、塗膜2の剥離後に、電解質液6を基材1の表面から除去し、堰8などを取り外す。そして、基材1の表面において塗膜2を剥離させた部分、すなわち、塗膜2が剥離した不良部位3とその周辺に、塗膜2の形成に用いられた塗料と同種の補修液などを塗り、塗膜を新たに形成する。こうして、塗膜2の部分補修が効率よく行われる。
【0027】
以下に、図1および図2に示した通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法に基づく実施例を示す。
【実施例】
【0028】
こびりついた油汚れをこすり落としたときに塗膜が剥がれてしまった、フッ素系塗料が表面に塗装されたステンレス製のレンジフードの側板の補修を行った。
【0029】
塗膜が剥離した不良部位の周囲にワセリンを塗り、塗膜の上に塩化ビニル製のパイプを立て、堰としてその内側に濃度5%、温度30℃の食塩水を注入し、溜まりを形成した。食塩水の溜まりに対極として、「JISH 4000:1999 アルミニウムおよびアルミニウム合金の板および条」に規定されたA1100Pのアルミニウム板をその下部において浸漬した。直流電源として1.5Vの単3乾電池を4個直列につなぎ、−極を、補修対象の上記側板において基材であるステンレス板に接続し、+極を上記アルミニウム板に接続してステンレス板とアルミニウム板の間に6Vの直流電圧を印加し、通電した。
【0030】
2時間後、不良部位およびその周辺の塗膜が完全に剥離した。
【0031】
食塩水を除去し、上記パイプを取り除いて剥離した部分にフッ素系塗料よりなる補修液を塗り、部分補修を行うことができた。
【0032】
また、製造において塗装後、ごみ、はじきなどで不良品となった、異形形状を有する塗装品に対して上記と同じ操作を行った。塗膜の不良部位の補修を行うことができ、補修後、再塗装が可能になった。
【0033】
本発明は、上記実施例によって限定されることはなく。補修対象の種類、形状およびサイズをはじめ、直流電源の種類および印加電圧の大きさ、電解質液の種類および温度、電解質液の溜まりの形成方法などについては、上記記載を考慮し、適宜に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法の一実施形態の概要を示した要部断面図である。
【図2】図1に示した通電塗膜剥離方法と塗膜の補修方法の平面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 基材
2 塗膜
3 不良部位
4 直流電源
5 対極
6 電解質液
7 溜まり
8 堰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜が形成された導電性を有する基材を直流電源の−側に接続し、直流電源の+側に導電性を有する対極を接続し、塗膜の不良部位にその周辺を含めて電解質液の溜まりを形成し、対極を電解質液に浸漬して基材と対極の間に通電し、電解質液を電気分解してガスを発生させ、発生するガスによって塗膜を剥離させることを特徴とする通電塗膜剥離方法。
【請求項2】
塗膜の不良部位を取り囲むように堰を形成し、堰の内側に電解質液を注入して電解質液の溜まりを形成することを特徴とする請求項1に記載の通電塗膜剥離方法。
【請求項3】
基材に対し腐食性のない電解質液が用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の通電塗膜剥離方法。
【請求項4】
塗膜が形成された導電性を有する基材を直流電源の−側に接続し、直流電源の+側に導電性を有する対極を接続し、塗膜の不良部位にその周辺を含めて電解質液の溜まりを形成し、対極を電解質液に浸漬して基材と対極の間に通電し、電解質液を電気分解してガスを発生させ、発生するガスによって塗膜を剥離させるステップと、
電解質液を基材の表面から除去するステップと、
基材表面の塗膜を剥離させた部分に塗膜を形成するステップと、
を有することを特徴とする塗膜の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−119971(P2010−119971A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296884(P2008−296884)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】