説明

速吸収性又は溶解性のコーティング

埋込み可能なデバイス上の速吸収性又は速溶解性のコーティング及び該コーティングの製造及び使用の方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の背景]
[発明の分野]
本発明は一般に、埋込み可能なデバイス上の、速溶解性又は吸収性のコーティングに関する。
[背景の説明]
【0002】
血管の閉塞は一般に、ステントの使用によるなど、損傷を受けた血管における血流を機械的に促進することによって治療される。ステントは、機械的介入のためのみでなく、生物学的治療をもたらすための媒体としても用いられる。ステントによる治療において、活性薬剤の制御送達に作用するために、ステントを生体適合性ポリマーコーティングによって被覆することができる。生体適合性ポリマーコーティングは、透過性層又はキャリアとして機能し、薬剤の制御送達を可能にすることができる。埋込み可能なステントの技術における引き続き存在している課題は、短期的及び長期的な期間の両者において良好な生体適合性と称される、生体に有益な良好な性質を有するコーティングを提供することである。
【0003】
一般に、埋込み可能なデバイス用のコーティング組成物を形成するポリマーは、少なくとも生物学的に無害でなければならない。また、ポリマーは、生物活性薬剤と相加的又は相乗的な治療効果を有してもよい。ポリマーは好ましくは生体適合性である。生物学的に無害なコーティングをもたらすために、種々の組成物が使用されてきたが、成功は限られていた。たとえば、ポリ(エチレングリコール)を含むコーティング組成物が記載されている(たとえば米国特許第6099562号明細書参照)。この技術において必要なものの1つは、有益な長期の生物学的特性を有するステントを提供することである。しかしながら、ある種の状況においては、ポリマー及びステント上に残存する薬剤が、遅発性ステント血栓、ステント内アテローム性動脈硬化、及び遅発性ステント位置不良などの遅発性臨床的影響を引き起こす主要な要素であるということが記述されている。
【0004】
以下に述べる種々の実施形態は、上述の問題に対処するものである。
[発明の概要]
【0005】
本発明では、速吸収性又は溶解性のコーティングが提供される。コーティングには、速吸収性又は溶解性のポリマー又は材料が含まれる。「速吸収性」又は「速溶解性」の用語は、コーティングが分解又は溶媒和によって急速に吸収される又は溶解することができることを意味する。たとえば、いくつかの実施形態において、埋込み可能なデバイスの展開後約24時間以内に、コーティングの約50重量%が吸収される又は溶解することができる。本明細書においては、吸収又は溶解の用語は、位置に依存しない。いくつかの実施形態においては、吸収又は溶解は、組織内で起こる。いくつかの実施形態においては、吸収又は溶解は、血管内、たとえば動脈又は静脈内で起こり得る。さらにいくつかの実施形態においては、吸収又は溶解は、本明細書で述べる埋込み可能なデバイスによる治療が必要な疾患部位において起こり得る。本明細書で述べる吸収又は溶解を引き起こす流体の種類は、任意の体液であってよい。いくつかの実施形態においては、体液は、体組織中の生理的流体である。いくつかの実施形態においては、体液は血液である。
【0006】
いくつかの実施形態においては、コーティングを形成するポリマー又は材料は、そのポリマー又は材料を血流中で溶解できるようにするような親水性を有するか、又は、血流又は組織中で容易に溶解又は分解することができるように、充分に低い分子量を有する必要がある。いくつかの実施形態においては、ポリマー又は材料は、約100,000ダルトン以下、約50,000ダルトン以下(たとえば約45,000ダルトン)、約10,000ダルトン以下、約5,000ダルトン以下、又は約2,000ダルトン以下(たとえば約1,000ダルトン)の重量平均分子量(M)を有し得る。
【0007】
そのようなポリマー又は材料はイオン性又は非イオン性であってよい。いくつかの実施形態においては、ポリマー又は材料は陽電荷又は陰電荷(1個又は複数)を有してもよい。いくつかの実施形態においては、ポリマー又は材料は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ヒアルロン酸、ヒドロキシルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)、ポリ(ブチレンテレフタレート−co−ポリ(エチレングリコール)(PBT−PEG)、ポリ(ブチレンテレフタレート−co−カルボキシメチルセルロース)(PBT−co−CMC)、多糖、ホスホリルコリンポリマー、キトサン、コラーゲン、又はそれらの組合せ等のポリマーを含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態においては、溶解又は吸収の速度を、コーティング中に少量の低分子量ポリマーを配合することによって増大させることができる。いくつかの実施形態においては、コーティング中に塩基性又は酸性のペンダント基を有するポリマーを含有させて、コーティングの溶解又は吸収の速度を増大させることができる。
【0009】
コーティングの溶解又は吸収が表面の侵食を含む機構によるものであれば、コーティングの厚みは、溶解又は吸収の速度に関連する。いくつかの実施形態においては、コーティングは種々の厚みを取り得る。コーティングは約10nmから約1mmの範囲の厚みを取り得る。いくつかの実施形態においては、コーティングは約1μm、約3μm、約5μm、約10μm、約20μm又は約50μmの厚みを取り得る。いくつかの実施形態においては、コーティングは約2μmから約10μmの範囲の厚みを取り得る。
【0010】
いくつかの実施形態においては、コーティングは治療用物質を含む。治療用物質は、治療用物質の放出が表面の侵食を含む機構によるものであれば、コーティングの吸収速度と実質的に同じ放出速度を有し得る。いくつかの実施形態においては、治療用物質は、コーティングの吸収速度よりも速い放出速度を有し得る。
【0011】
いくつかの実施形態においては、治療用物質は、コーティングの吸収速度よりも遅い放出速度を有し得る。たとえば、コーティングが治療用物質を含む貯留層の上面に治療用物質を含まない層を含む場合には、治療用物質の放出速度は、コーティングの吸収速度よりも遅いことがあり得る。
【0012】
本明細書で述べるコーティングは、薬剤送達ステント等の埋込み可能なデバイスの上に形成することができる。コーティングは、任意に1種又は複数の生物活性薬剤を含んでもよい。コーティング又は埋込み可能なデバイスに含ませ得る生物活性薬剤の例には、これだけに限らないが、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、クロベタゾール、モメタゾン、スタチン類、CD−34抗体、アブシキシマブ(REOPRO)、前駆細胞捕捉抗体、プロヒーリングドラッグ、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、又はこれらの組合せが含まれる。
【0013】
本明細書で述べるコーティングを有する埋込み可能なデバイスは、アテローム性動脈硬化、血栓、再狭窄、出血、血管の解離又は穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、糖尿病、慢性完全閉塞、跛行、吻合性増殖(静脈及び人工グラフトのための)、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、又はこれらの組合せ等の病状を治療し、予防し、又は改善するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】模擬使用前のホスホリルコリンポリマーを含むステント上コーティングの走査電子顕微鏡(SEM)像である。コーティングの薬剤/ポリマー比は1:5である。
【図2】模擬使用後の図1のコーティングのSEM像である。
【図3】それぞれ、ポリ(エステルアミド)(PEA)コーティング、PEA−TEMPOコーティング、及びホスホリルコリンポリマーコーティングからのエベロリムスの放出速度を示す図である。
【0015】
[発明を実施するための形態]
[詳細な説明]
本発明では、速吸収性又は溶解性のコーティングが提供される。コーティングには、速吸収性又は溶解性のポリマー又は材料が含まれる。「速吸収性」又は「速溶解性」の用語は、コーティングが分解又は溶媒和によって急速に吸収される又は溶解することができることを意味する。たとえば、いくつかの実施形態において、埋込み可能なデバイスの展開後、約24時間以内に、コーティングの約50重量%が吸収される又は溶解することができる。本明細書においては、吸収又は溶解の用語は、位置に依存しない。いくつかの実施形態においては、吸収又は溶解は、組織内で起こる。いくつかの実施形態においては、吸収又は溶解は、血管内、たとえば動脈又は静脈内で起こり得る。さらにいくつかの実施形態においては、吸収又は溶解は、本明細書で述べる埋込み可能なデバイスによる治療が必要な疾患部位において起こり得る。本明細書で述べる吸収又は溶解を引き起こす流体の種類は、任意の体液であってよい。いくつかの実施形態においては、体液は、体組織中の生理的流体である。いくつかの実施形態においては、体液は血液である。
【0016】
いくつかの実施形態においては、コーティングを形成するポリマー又は材料は、そのポリマー又は材料を血流溶解性にする親水性を有するか血流又は組織中で容易に溶解又は分解することができるように充分に低い分子量を有するものとする。たとえば、ポリマー又は材料は、約1,000ダルトンから約150,000ダルトン、たとえば約10,000ダルトンから約150,000ダルトン又は約50,000ダルトンから約100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量(M)を有し得る。いくつかの実施形態においては、ポリマー又は材料は、約100,000ダルトン以下、約50,000ダルトン以下(たとえば約45,000ダルトン)、約10,000ダルトン以下、約5,000ダルトン以下、又は約2,000ダルトン以下(たとえば約1,000ダルトン)のMを有し得る。
【0017】
そのようなポリマー又は材料はイオン性又は非イオン性であってよい。いくつかの実施形態においては、ポリマー又は材料は陽電荷又は陰電荷(1個又は複数)を有してもよい。いくつかの実施形態においては、ポリマー又は材料は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ヒアルロン酸、ヒドロキシルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)、ポリ(ブチレンテレフタレート−co−ポリ(エチレングリコール)(PBT−PEG)、ポリ(ブチレンテレフタレート−co−カルボキシメチルセルロース)(PBT−co−CMC)、多糖、ホスホリルコリンポリマー、キトサン、コラーゲン、又はそれらの組合せ等のポリマーを含み得る。
【0018】
いくつかの実施形態においては、コーティング中に少量の低分子量ポリマーを配合することによって、溶解又は吸収の速度を増大させることができる。いくつかの実施形態においては、コーティング中に塩基性又は酸性のペンダント基を有するポリマーを含有させて、コーティングの溶解又は吸収の速度を増大させることができる。「低分子量」という用語は一般に、約45,000ダルトン未満、たとえば約30,000ダルトン未満、約20,000ダルトン未満、約10,000ダルトン未満、約5,000ダルトン未満、又は約1,000ダルトン未満の重量平均分子量(「M」)を意味する。いくつかの実施形態においては、「低分子量」という用語は、約300から約5,000ダルトンの間、たとえば約1,000ダルトンから約5,000ダルトンの間の範囲であり得る。「少量」という用語は、約1%から約10%、約1%から約5%、又は約5%から約10%の重量百分率を意味する。いくつかの実施形態においては、「少量」という用語は、約1%未満の重量百分率を意味し得る。いくつかの実施形態においては、「少量」という用語は、10%超、たとえば約15%又は約20%の重量百分率を意味し得る。
【0019】
コーティングの溶解又は吸収が表面の侵食を含む機構によるものであれば、コーティングの厚みは、溶解又は吸収の速度に関連する。いくつかの実施形態においては、コーティングは種々の厚みを取り得る。コーティングは約10nmから約1mmの範囲の厚みを取り得る。いくつかの実施形態においては、コーティングは約1μm、約3μm、約5μm、約10μm、約20μm又は約50μmの厚みを取り得る。いくつかの実施形態においては、コーティングは約2μmから約10μmの範囲の厚みを取り得る。
【0020】
いくつかの実施形態においては、コーティングは治療用物質を含む。治療用物質は、治療用物質の放出が表面の侵食を含む機構によるものであれば、コーティングの吸収速度と実質的に同じ放出速度を有し得る。いくつかの実施形態においては、治療用物質は、コーティングの吸収速度よりも速い放出速度を有し得る。
【0021】
いくつかの実施形態においては、治療用物質は、コーティングの吸収速度よりも遅い放出速度を有し得る。たとえば、コーティングが治療用物質を含む貯留層の上面に治療用物質を含まない層を含む場合には、治療用物質の放出速度は、コーティングの吸収速度よりも遅いことがあり得る。
【0022】
本明細書で述べるコーティングは、薬剤送達ステント等の埋込み可能なデバイスの上に形成することができる。コーティングは、任意に1種又は複数の生物活性薬剤を含んでもよい。コーティング又は埋込み可能なデバイスに含ませ得る生物活性薬剤の例には、これだけに限らないが、パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、クロベタゾール、モメタゾン、スタチン類、CD−34抗体、アブシキシマブ(REOPRO)、前駆細胞捕捉抗体、プロヒーリングドラッグ、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、又はこれらの組合せが含まれる。
【0023】
本明細書で述べるコーティングを有する埋込み可能なデバイスは、アテローム性動脈硬化、血栓、再狭窄、出血、血管の解離又は穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、糖尿病、慢性完全閉塞、跛行、吻合性増殖(静脈及び人工グラフトのための)、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、又はこれらの組合せ等の病状を治療し、予防し、又は改善するために使用することができる。
【0024】
模擬使用前のホスホリルコリンポリマーを含むステント上コーティングの走査電子顕微鏡(SEM)像を図1に示す。コーティングの薬剤/ポリマー比は1:5である。
【0025】
コーティングの調節
コーティングの吸収速度又は溶解速度は、コーティングのいくつかのパラメーターを調節することによって調節することができる。その要素は、たとえば(1)コーティングの親水性(親水性/疎水性比)、(2)電荷(pKa)又は等電点(ポリマー/タンパク質pH依存溶解性)、(3)コーティングの厚み、(4)コーティングの形態、又は(5)コーティングを形成する組成物の含有物である。コーティングの親水性はコーティングの吸水率に関連し、したがってコーティングの吸収速度又は溶解速度に関連する。一般に、コーティングがより親水性になれば、コーティングはより吸収性又は溶解性になる。コーティングの厚みも、コーティングの吸収又は溶解に関連する。コーティングの厚みに関する特定のコーティングの吸収又は溶解の速度の関係は吸収又は溶解の機構に依存するが、より厚いコーティングは、より薄いコーティングよりも遅く溶解し得る又は吸収され得る。コーティングの形態は、非結晶質のコーティングは一般に溶解するか結晶性のコーティングよりも速く溶解するということにおいて、吸収又は溶解の速度に関連する。したがって、コーティングの吸収又は溶解の速度を制御するために、所望の吸収又は溶解の速度によって上記のパラメーターを調整することができる。
【0026】
いくつかの実施形態においては、コーティングマトリックスに少量の低分子量親水性ポリマーを配合することによってコーティングの溶解又は吸収の速度を調整することができる。低分子量ポリマーは、たとえば約5,000ダルトン未満、約1,000ダルトン未満、又は約500ダルトン未満の分子量を有するポリ(エチレングリコール)(PEG)、ビニルアルコールのポリマー又はコポリマー(たとえばEVAL)等の任意の親水性ポリマーを意味し得る。いくつかの実施形態においては、コーティングマトリックスは、少量の未重合モノマー又はコモノマーを含むことができる。いくつかの実施形態においては、低分子親水性ポリマーは、酸性又は塩基性の末端基等を含むことができる。そのような酸性基は、たとえばカルボン酸基、スルホン酸基、又はホスホン酸基であり得る。そのような塩基性基は、たとえばアミノ基又はカルボン酸、スルホン酸、若しくはホスホン酸基の塩であり得る。
【0027】
いくつかの実施形態においては、コーティングを、コーティングが速吸収性又は溶解性を可能にするような厚みを有するように形成することができる。たとえば、コーティングは、約10nmから約1mmの範囲の厚みを有することができる。いくつかの実施形態においては、コーティングは、約1μm、約5μm、約10μm、約20μm又は約50μmの厚みを有することができる。いくつかの実施形態においては、コーティングは、約2μmから約10μmの範囲、たとえば約3μmの厚みを有することができる。
【0028】
ホスホリルコリンポリマー
ホスホリルコリン(PC)は、脂質二重層の外表面を模倣した両性イオン性機能性である。PCは良好な血液適合性、非血栓性、動脈組織受容性及び長期生体内安定性を有する。PCはポリマー、特にアクリルコポリマーの生体適合性を増大させるために用いられてきた。本明細書においては、「ホスホリルコリンポリマー」という用語は、少なくとも1個のホスホリルコリン部分を含む任意のポリマーを意味する。ホスホリルコリンポリマーは、ブロックコポリマー又はランダムコポリマーであり得る。ホスホリルコリンポリマーは、腎臓から排泄するために、又は腎臓から排泄するために充分に小さい分子量又は水力学的体積の種又は断片に分解するために、充分に小さい分子量又は水力学的体積を有することができる。たとえば、ホスホリルコリンポリマーは、約45,000ダルトン未満、たとえば約40,000ダルトン、約30,000ダルトン、約20,000ダルトン、約10,000ダルトン、約5,000ダルトン、又は約1,000ダルトンの分子量を有するか、又はこれらの分子量を有する種又は断片に分解することができる。本明細書においては、水力学的体積という用語は、ポリマーと溶媒との相互作用のしやすさとポリマーの分子量に依存してポリマーによって変わり得る、溶液中に存在するときのポリマーコイル(polymer coil)の体積を意味する。
【0029】
いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンポリマーは、ホスホリルコリンを有するモノマー、及び選択によりホスホリルコリンを有しないモノマーを、重合することによって形成することができる。ホスホリルコリンポリマーは、異なった分子量、重合度(DP)、又はホスホリルコリンを有しないモノマーとホスホリルコリンを有するモノマーとの分布若しくはモル比を有し得る。
【0030】
別の実施形態においては、ホスホリルコリンを含むコポリマーの部分として有用な生体適合性ポリマーは、非分解性ポリマーである。代表的な生体適合性、非分解性ポリマーには、これだけに限らないが、エチレンビニルアルコールコポリマー(通例、一般名EVOH又は商品名EVALとして知られる)、ポリウレタン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−αオレフィンコポリマー、スチレン−イソブチル−スチレン三元ブロックコポリマー、アクリルポリマー及びコポリマー、ポリ(ビニルジフルオリド−co−ヘキサフルオロプロパン)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン−co−ヘキサフルオロプロパン)等のビニルハライドポリマー及びコポリマー、ポリビニルメチルエーテル等のポリビニルエーテル、ポリビニリデンフルオリド及びポリビニリデンクロリド等のポリビニリデンハライド、ポリフルオロアルケン、ポリパーフルオロアルケン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレン等のポリビニル芳香族、ポリ酢酸ビニル等のポリビニルエステル、エチレン−メチルメタクリレートコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、及びエチレン−酢酸ビニルコポリマー等のビニルモノマー同士及びオレフィンとのコポリマー、Nylon66及びポリカプロラクタム等のポリアミド、アルキッド樹脂、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、エポキシ樹脂、レーヨン、レーヨントリアセテート、ポリウレタン、絹、絹−エラスチン、ポリホスファゼン及びそれらの組合せが含まれる。いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンポリマーは、特に上記ポリマーの任意のものを含まなくてもよい。
【0031】
さらなる実施形態においては、本明細書で述べるコポリマーは、1種又は複数の以下の疎水性モノマー:メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、ブチルメタクリレート(BMA),2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート(LMA)、又はそれらの組合せを含む。コポリマー中の疎水性モノマーの含量を変更することにより、弾性及び靱性等の機械的性質を調整することができる。たとえば、比較的長い側鎖を有するモノマーは、コポリマーを含むコーティングの可撓性を高めることができよう。対照的に、比較的短い側鎖を有するモノマーは、コポリマーを含むコーティングの剛性及び靱性を高めることができよう。
【0032】
さらなる実施形態において、本明細書で述べるコポリマーは、1種又は複数の以下の親水性モノマー:ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、PEGアクリレート(PEGA)、PEGメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)及びn−ビニルピロリドン(VP)等の非汚染性モノマー、メタクリル酸(MA)、アクリル酸(AA)等のカルボン酸含有モノマー、HEMA、ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド等のヒドロキシル基含有モノマー、3−トリメチルシリルプロピルメタクリレート(TMSPMA)、及びそれらの組合せを含む。カルボキシル酸含有モノマー又はヒドロキシル含有モノマーは、一旦それが被覆するために基材に適用されれば、コポリマーを架橋するために用いることができる。これにより、非常に親水的なコーティングが溶解してしまうことから防がれるであろう。
【0033】
いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンポリマーは、特に上記で確認されたモノマー(1種又は複数)から誘導される任意の単位を含まなくてもよい。
【0034】
いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンポリマーは、ブロックコポリマーであってもよい。ブロックコポリマーは、生体適合性ポリマーとホスホリルコリン部分を結合することにより形成することができる。代表的な生体分解性ポリマーには、これだけに限らないが、ポリエステル、ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)、場合によりアルキル、アミノ酸、PEG及び/又はアルコール基を含んでもよいポリ(エステルアミド)、ポリカプロラクトン、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−PEG)ブロックコポリマー、ポリ(D,L−ラクチド−co−トリメチレンカーボネート)、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリカーボネート、ポリウレタン、コポリ(エーテル−エステル)(たとえばPEO/PLA)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、PHA−PEG、及びそれらの組合せが含まれる。PHAには、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(PHB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−バレレート)(PHBV)、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)(PHP)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHH)等のポリ(β−ヒドロキシ酸)、又はポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシバレレート)、ポリ(4−ヒドロキシヘキサノエート)等のポリ(4−ヒドロキシ酸)、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(チロシンカーボネート)、ポリ(チロシンアクリレート)が含まれてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンポリマーは、特に上記のポリマーの任意のものを含まなくてもよい。いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンブロックコポリマーは、ポリ(エステルアミド)(PEA−PC)を含む。
【0036】
ホスホリルコリンポリマーの方法
本明細書で述べるコポリマーは、ホスホリルコリンをポリマーに導入するか、ホスホリルコリンをモノマーに導入してホスホリルコリンモノマーを形成し、次いでこのホスホリルコリンモノマーを重合してホスホリルコリンポリマーを形成することによって合成することができる。
【0037】
いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンは、たとえばヒドロキシル基、アミノ基、ハロ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)であってよい反応性官能基を通してポリマーに導入することができる。或いは、ホスホリルコリンは、オキシラン等のモノマーに導入することができる。これらのモノマーの重合により、ホスホリルコリンポリマーを得ることができる。
【0038】
ホスホリルコリンを有するモノマーは、単独で又は他のコモノマーと共に、当技術で知られた手段、たとえば触媒重合、化学反応、又はフリーラジカル重合によって重合し、ホスホリルコリン部分(1個又は複数)を有する対応したポリマーを形成することができる。
【0039】
いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンポリマーは、コポリマーであってよい。コポリマーは、ホスホリルコリンを有しないモノマーと、ホスホリルコリンを有する別のモノマーとから形成することができる。いくつかの実施形態においては、ホスホリルコリンを有しないモノマーは、ビニルモノマーであってよい。ホスホリルコリンポリマーの例は、スキームIによって形成することができる。
【0040】
【化1】

【0041】
ホスホリルコリンポリマーを形成するモノマーは、異なったモル百分率を有することができる。一般に、モノマーのモル百分率は、独立に0から100の範囲であり得る。たとえば、モノマーのモル百分率は、独立に約1、約5、約10、約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、約95、又は約99であってよい。たとえば、スキームIのポリマーにおいて、このスキームでホスホリルコリンポリマーを形成する2種のモノマーのモル百分率を表すn及びmは、約50及び50であってよい。いくつかの実施形態においては、n及びmは、ホスホリルコリンコポリマーを形成するモノマーのモル比として表すことができる。たとえば、n及びmは、独立に、約0.01から約0.99までの範囲であってよい。いくつかの実施形態においては、n及びmは約0.5であってよい。
【0042】
ホスホリルコリンポリマーを形成する種々の方法が、2003年11月26日に出願された米国特許出願第10/807362号明細書に記載されており、その教示は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
コーティング構成
本明細書で述べるコーティングは、任意の適切なコーティング構成を有することができる。たとえば、速吸収性又は溶解性のポリマー又は材料は、治療用薬剤を含む貯留層又はマトリックスの上のトップコートとして、コーティング中に含まれることができる。いくつかの実施形態においては、速吸収性ポリマー又は材料は、単独又は別のポリマーと共にコーティングを形成することができる。いくつかの実施形態においては、速吸収性ポリマー又は材料は、少なくとも1種の治療用物質(たとえば薬剤(1種又は複数))を含むことができる。
【0044】
いくつかの実施形態においては、速吸収性のポリマー又は材料を含むコーティングは、多層構成を有することができる。たとえば、コーティングはコーティングマトリックスの多層を有することができる。本明細書においては、「コーティングマトリックス」又は「マトリックスコーティング」の用語は、コーティングのトップコート又はプライマー層とは異なるコーティング層を意味する。
【0045】
生物活性薬剤
いくつかの実施形態においては、本明細書で述べる特徴を有するコーティング又はデバイスは、1種又は複数の生物活性薬剤を含むことができる。生物活性薬剤は、治療用、予防用、又は診断用の任意の生物活性薬剤であってよい。これらの薬剤は、抗増殖性又は抗炎症性特性を有することができ、又は抗新生物性、抗血小板性、抗凝血性、抗フィブリン性、抗血栓性、抗有糸分裂性、抗生物性、抗アレルギー性、及び抗酸化性特性等の他の特性を有することができる。これらの薬剤は、細胞増殖抑制剤(cystostatic agent)、酸化窒素放出又は発生剤等の内皮細胞の治癒を促進する薬剤、内皮細胞前駆細胞を誘引する薬剤、又は平滑筋細胞の増殖を抑制する一方で内皮細胞の付着、遊走及び増殖を促進する薬剤(たとえば、CNP、ANP若しくはBNPペプチド等のナトリウム利尿ペプチド、又はRGD若しくはcRGDペプチド)であってよい。適切な治療及び予防剤の例には、合成無機及び有機化合物、タンパク質及びペプチド、多糖及び他の糖類、脂質、及び治療、予防又は診断活性を有するDNA及びRNA核酸配列が含まれる。核酸配列には、遺伝子、相補的DNAと結合して転写を阻害するアンチセンス分子、及びリボザイムが含まれる。他の生物活性薬剤の他の例には、抗体、レセプターリガンド、酵素、付着ペプチド、血液凝固因子、ストレプトキナーゼ及び組織プラスミノーゲンアクチベーター等の阻害剤又は血栓溶解剤、免疫用抗原、ホルモン及び成長因子、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイム等のオリゴヌクレオチド及び遺伝子治療に使用されるレトロウイルスベクターが含まれる。抗増殖剤の例には、ラパマイシン及びその機能的又は構造的誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、及びその機能的又は構造的誘導体、パクリタキセル及びその機能的及び構造的誘導体が含まれる。ラパマイシン誘導体の例には、メチルラパマイシン(ABT−578)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシンが含まれる。パクリタキセル誘導体の例には、ドセタキセルが含まれる。抗新生物剤又は抗有糸分裂剤の例には、メトトレキセート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン塩酸塩(たとえばPharmacia & Upjohn社(Peapack、N.J.)のAdriamycin(登録商標))、及びマイトマイシン(たとえばBristol−Myers Squibb社(Stamford、Conn.)のMutamycin(登録商標))が含まれる。前記抗血小板剤、抗凝血剤、抗フィブリン剤、及び抗トロンビン剤の例には、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリン類縁体、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン及びプロスタサイクリンアナログ、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗トロンビン)、ジピリダモール、グリコプロテインIIb/IIIa血小板膜レセプターアンタゴニスト抗体、遺伝子組換えヒルジン、Angiomax(Biogen社(Cambridge、Mass.))等のトロンビン阻害剤、カルシウムチャンネルブロッカー(ニフェジピン等)、コルヒチン、線維芽細胞成長因子(FGF)アンタゴニスト、魚油(オメガ3−脂肪酸)、ヒスタミンアンタゴニスト、ロバスタチン(HMG−CoAリダクターゼ阻害剤、コレステロール低下剤、商品名Mevacor(登録商標、Merck社、Whitehouse Station、NJ))、モノクローナル抗体(血小板由来成長因子(PDGF)レセプター特異的抗体等)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニンブロッカー、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGFアンタゴニスト)、酸化窒素又は酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗癌剤、種々のビタミン等の栄養補助食品、及びそれらの組合せが含まれる。ステロイド及び非ステロイド抗炎症剤を含む抗炎症剤の例には、タクロリムス、デキサメタゾン、クロベタゾール、モメタゾン、それらの組合せが含まれる。前記細胞増殖抑制物質の例には、アンギオペプチン、カプトプリル(たとえばCapoten(登録商標)及びCapozide(登録商標)(Bristol−Myers Squibb社(Stamford、Conn)))、シラザプリル、又はリシノプリル(たとえばPrinivyl(登録商標)及びPrinzide(登録商標)(Merck社、Whitehouse Station、 NJ))等のアンギオテンシン変換酵素阻害剤が含まれる。抗アレルギー剤の例は、ペルミロラストカリウムである。他の適切と思われる治療用物質又は薬剤には、α−インターフェロン、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、生物活性RGD、及び遺伝子操作した内皮細胞が含まれる。上記の物質はまた、それらのプロドラッグ又はコドラッグの形態でも用いることができる。上記の物質にはまた、それらの代謝物又は代謝物のプロドラッグが含まれる。上記の物質は例として挙げたものであって、限定を意味するものではない。現在入手可能な、又は将来開発されるであろう他の活性薬剤は同様に応用可能であり、スタチン及びその誘導体又は類似体がある。
【0046】
有益な治療効果を生じるために必要とされる生物活性薬剤の投与量又は濃度は、その生物活性薬剤が毒性を表すレベルより低く、治療効果がないという結果が得られるレベルより高くあるべきである。生物活性薬剤の投与量又は濃度は、患者の特定の状況、疾患の特質、望ましい治療の特質、投与された成分が血管の部位に留まる時間、及び、他の活性薬剤が使用される場合には物質又は物質の組合せの特質及び型等の因子に依存することがある。治療効果のある投与量は、たとえば適当な動物モデル系の血管内に注射して、免疫組織化学的、蛍光顕微鏡若しくは電子顕微鏡法を用いて薬剤及びその効果を検出することによって、又は適当なin vitroの研究を行うことによって、実験的に決定することができる。投与量を決める標準的薬理学的試験方法は、当技術において通常の技能を有する者には理解されている。
【0047】
医用デバイスの例
本明細書においては、医用デバイスは、患者又は患畜に埋め込むことができる任意の適当な医療用基材であってよい。そのような医用デバイスの例には、自己拡張性ステント、バルーン拡張性ステント、ステントグラフト、グラフト(たとえば大動脈グラフト)、心臓弁プロテーゼ、脳脊髄液シャント、ペースメーカー電極、カテーテル、心臓内リード線(たとえばGuidant社(Santa Clara、CA)から入手可能なFINELINE及びENDOTAK)、吻合用デバイス及びコネクター、スクリュー、脊椎インプラント、及び電気刺激デバイス等の整形外科用インプラントが含まれる。デバイスの基礎構造は実質的にいかなる設計であってもよい。デバイスは、金属材料又は、これらに限定されないが、コバルトクロム合金(ELGILOY)、ステンレス鋼(316L)、高窒素ステンレス鋼、たとえばBIODUR 108、コバルトクロム合金L−605、「MP35N」、「MP20N」、ELASTINITE(Nitinol)、タンタル、ニッケル−チタン合金、白金−イリジウム合金、金、マグネシウム、又はこれらの組合せ等の合金から作られてもよい。「MP35N」及び「MP20N」は、Standard Press Steel社(Jenkintown、PA)から入手可能なコバルト、ニッケル、クロム及びモリブデンの合金の商標名である。「MP35N」は、コバルト35%、ニッケル35%、クロム20%、及びモリブデン10%からなる。「MP20N」は、コバルト50%、ニッケル20%、クロム20%、及びモリブデン10%からなる。本発明の実施形態においては、生体吸収性(たとえば生体吸収性ステント)又は生体安定性ポリマーから作られたデバイスも使用可能である。
【0048】
使用方法
好ましくは、医用デバイスはステントである。本明細書で述べるステントは、例として挙げられる胆管、食道、気管/気管支及び他の生物学的通路の腫瘍に起因する閉塞の治療を含む種々の医療処置に有用である。上記のコーティングを有するステントは、脂質の沈着に起因する血管の罹患領域、単球又はマクロファージの浸潤、若しくは内皮細胞の機能不全又はこれらの組合せ、又は平滑筋細胞の異常な若しくは不適切な遊走及び増殖、血栓、並びに再狭窄に起因する血管の閉塞領域の治療に特に有用である。ステントは動脈及び静脈の両方を含む広範囲の血管に配置することができる。配置箇所の代表例には腸骨動脈、腎動脈、頸動脈及び冠状動脈が含まれる。
【0049】
ステントの埋込みのため、まず血管造影を実施してステント治療の適切な位置決めを行う。通常、血管造影は、X線撮影下に、動脈又は静脈に挿入したカテーテルを通して放射線不透過性造影剤を注射することにより実施する。次に、病変部又は計画された処置の場所を通してガイドワイヤを進める。ガイドワイヤの上に、つぶれた形態のステントを通路の中へ挿入することを可能にするための送達カテーテルを通す。送達カテーテルを経皮的に又は手術によって、大腿動脈、橈骨動脈、上腕動脈、大腿静脈、又は上腕静脈に挿入し、蛍光透視によるガイド下に血管系を通してカテーテルを操縦することにより適切な血管内に進めていく。次に、上述のコーティングを有するステントを、所望の治療領域で拡張する。適切な位置決めができたかどうかを確認するため、挿入後血管造影を用いてもよい。
【0050】
埋込み可能なデバイスは、任意の哺乳類、たとえば動物又はヒトに埋め込むことができる。いくつかの実施形態においては、埋込み可能なデバイスは、その埋込み可能なデバイスによる治療を必要とする患者に埋め込むことができる。治療は、血管造影又は埋込み可能なデバイスを含む他のタイプの治療であり得る。
【0051】
本明細書で述べる埋込み可能なデバイスを受容する患者は、男性でも女性でもよく、正常な身体条件(たとえば正常体重)又は異常な身体条件(たとえば低体重又は高体重)であってもよい。患者はいかなる年齢であってもよいが、好ましくは約40から70歳の範囲の年齢である。患者の身体条件を測定する1つの指標はBMI(体格指数)である。患者は、約18から約30又はそれを超える範囲のBMIを有していてよい。
【0052】
本明細書で述べる埋込み可能なデバイスは、アテローム性動脈硬化、血栓、再狭窄、出血、血管の解離又は穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、II型糖尿病、静脈及び人工グラフトの吻合性増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、又はこれらの組合せ等の病状を治療し又は改善するために使用することができる。
【0053】
図1は、ポリマー/薬剤比5:1のポリ(ホスホリルコリン−co−ブチルメタクリレート)(NOF、日本)及びエベロリムス(Novartis,Switzerland)溶液でスプレー被覆した薬剤送達ステントのSEM像を示す。ホスホリルコリンとブチルモノマーの比は50/50であり、RI検出器を用いたGPCによって測定したポリマーのMwは約100,000ダルトンであった。スプレー法に用いた固相濃度は、溶媒混合物(CHCl50%(w/w)、CHOH25%(w/w)、DMAc25%(w/w))を用いて2%であった。図2は模擬使用後の図1のコーティングのSEM像である。模擬使用は、PVA製の合成動脈において、PBS生理食塩緩衝液を用いて実施した。ステントは、取り除いてSEMによって分析するまで1時間にわたって試験し、この時までにすべてのポリマーが除去されていることが観察された。図3に、それぞれポリ(エステルアミド)(PEA)コーティング、PEA−TEMPOコーティング、及び上記のホスホリルコリンポリマーから作成されたコーティングからのエベロリムスの放出速度を示す。種々の薬剤送達ステントの全含量を決定し、それぞれ24、及び72時間ブタ血清中に浸漬した後のコーティング中に残存する薬剤量の計算に用いた。期待されたように、生体吸収性又は可溶性ホスホリルコリンコーティングについては、薬剤は24時間で完全に放出された。
【0054】
本発明の特定の実施形態を示し、記載したが、そのより広い態様において本発明から逸脱することなく、変更及び改変ができることは、当業者には明白であろう。したがって、付属の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨及び範囲内に含まれるすべての変更及び改変を、その範囲内に包含するためのものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性又は速吸収性のポリマー又は材料と、
選択により約1%から約20%の間の低分子量ポリマーと
を含む埋込み可能なデバイス上のコーティングであって、
該コーティングは約1μmから約100μmの厚みを有し、該コーティングの約50wt%以上が埋込み後24時間以内に吸収される又は溶解することができる、
コーティング。
【請求項2】
前記低分子量ポリマーが、約45,000ダルトン未満の重量平均分子量(M)を有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記低分子量ポリマーが、約45,000ダルトン未満の重量平均分子量(M)を有し、酸性又は塩基性のペンダント基を含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
前記可溶性又は速吸収性ポリマー又は材料が、イオン性又は非イオン性ポリマーを含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項5】
前記可溶性又は速吸収性ポリマー又は材料が、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ヒアルロン酸、ヒドロキシルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメタクリルアミド(HPMA)、ポリ(ブチレンテレフタレート)−co−ポリ(エチレングリコール)(PET−PEG)、ポリ(ブチレンテレフタレート−co−カルボキシメチルセルロース)(PBT−co−CMC)、多糖、ホスホリルコリン単位、キトサン、コラーゲン、PLA、PLGA、PEA、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
前記可溶性又は速吸収性ポリマー又は材料が、10,000ダルトンから約150,000ダルトンのMを有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項7】
前記低分子量ポリマーが、20,000ダルトンを超える重量平均分子量(M)を有し、該ポリマーが可溶化によってステントから除去され、次いで組織(血液、腎臓)中にある間に、腎臓での排泄が可能になるように、低分子量に分解するであろう、請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
ホスホリルコリンポリマーを含み、コーティングの約50wt%以上が埋込み後24時間以内に吸収される又は溶解することができる、埋込み可能なデバイス上のコーティング。
【請求項9】
前記ホスホリルコリンポリマーが、ホスホリルコリンを含むビニルモノマーから誘導される単位を含む、請求項8に記載のコーティング。
【請求項10】
ホスホリルコリンポリマーが、式
【化1】


(ここで、n及びmは、独立に、約0.01から約0.99の範囲にある)
を有する、請求項8に記載のコーティング。
【請求項11】
ブチル基の一部又は全部が、メチル基、エチル基、他のアルキル基、又はこれらの組合せによって置き換え可能である、請求項10に記載のコーティング。
【請求項12】
n及びmが、約0.5である、請求項11に記載のコーティング。
【請求項13】
前記ホスホリルコリンポリマーが、ランダム又はブロックコポリマーである、請求項10に記載のコーティング。
【請求項14】
前記ホスホリルコリンポリマーが、ランダム又はブロックコポリマーである、請求項11に記載のコーティング。
【請求項15】
前記ホスホリルコリンポリマーが、ランダム又はブロックコポリマーである、請求項12に記載のコーティング。
【請求項16】
前記ホスホリルコリンポリマーが、少なくとも1つのホスホリルコリン部分と、生体適合性ポリマーから誘導される少なくとも1つの部分を含む、請求項8に記載のコーティング。
【請求項17】
前記生体適合性ポリマーが、ポリ(エステルアミド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ジオキサノン)、又はポリ(エステルアミド−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ)(PEA−TEMPO)を含む、請求項16に記載のコーティング。
【請求項18】
前記埋込み可能なデバイスがステントである、請求項1に記載のコーティング。
【請求項19】
前記埋込み可能なデバイスがステントである、請求項8に記載のコーティング。
【請求項20】
前記埋込み可能なデバイスがステントである、請求項11に記載のコーティング。
【請求項21】
生物活性薬剤をさらに含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項22】
生物活性薬剤をさらに含む、請求項8に記載のコーティング。
【請求項23】
生物活性薬剤をさらに含む、請求項11に記載のコーティング。
【請求項24】
パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、クロベタゾール、モメタゾン、CD−34抗体、アブシキシマブ(REOPRO)、前駆細胞捕捉抗体、プロヒーリングドラッグ、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、又はこれらの組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項25】
パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、クロベタゾール、モメタゾン、CD−34抗体、アブシキシマブ(REOPRO)、前駆細胞捕捉抗体、プロヒーリングドラッグ、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、又はこれらの組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含む、請求項8に記載のコーティング。
【請求項26】
パクリタキセル、ドセタキセル、エストラジオール、酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、ラパマイシン誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、40−エピ−(N1−テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT−578)、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、クロベタゾール、モメタゾン、CD−34抗体、アブシキシマブ(REOPRO)、前駆細胞捕捉抗体、プロヒーリングドラッグ、これらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、又はこれらの組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含む、請求項11に記載のコーティング。
【請求項27】
請求項24に記載のコーティングを有する埋込み可能なデバイスをヒトに埋め込むことによりヒトを治療する方法であって、
疾患が、アテローム性動脈硬化、血栓、再狭窄、出血、血管の解離又は穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、静脈及び人工グラフトの吻合性増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、及びこれらの組合せからなる群から選択される方法。
【請求項28】
請求項25に記載のコーティングを有する埋込み可能なデバイスをヒトに埋め込むことによりヒトを治療する方法であって、
疾患が、アテローム性動脈硬化、血栓、再狭窄、出血、血管の解離又は穿孔、血管動脈瘤、不安定プラーク、慢性完全閉塞、跛行、静脈及び人工グラフトの吻合性増殖、胆管閉塞、尿管閉塞、腫瘍閉塞、及びこれらの組合せからなる群から選択される方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−512849(P2010−512849A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541542(P2009−541542)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/087151
【国際公開番号】WO2008/076731
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】