説明

造形方法

【課題】結着剤を介して粒体同士が結着した結着部分を有する層から未結着部分を取り除くことによって造形物を形成する造形方法において張り出し部分が変形することを抑える造形方法を提供する。
【解決手段】層形成工程と結着工程とを交互に繰り返すことにより結着部分22a,22b,22c,22d,22eを含む層が積層された積層体を形成した後、積層体に対して除去工程を施すことにより結着部分22a,22b,22c,22d,22eが積層された造形物を造形する造形方法であって、結着部分22a,22c上から結着部分22b,22dを張り出させるとともに、第一のスラリーを用いて結着部分22a,22cを含むスラリー層を形成し、溶解液に対する溶解性が第一のスラリーよりも高い第二のスラリーを用いて結着部分22b,22d,22eを含むスラリー層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結着剤を介して結着した粒体同士からなる造形物を形成する造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、造形物を迅速に試作する方法(ラピッドプロトタイピング)として積層造形法が多用されている。積層造形法では、三次元CAD等による造形物のモデルを多数の二次元断面層に分割した後、各二次元断面層に対応する層状構造体を順次作成しつつ積層することによって造形物を形成する。
【0003】
具体的には、例えば特許文献1に記載のように、まず、セラミックや金属等を含む粒体によって層が形成される。次いで、粒体からなる層の一部で粒体同士を結着させるための結着液が、例えばインクジェット式液滴吐出装置によって粒体からなる層に吐出される。そして粒体間の空隙に浸透した結着液がそれの硬化とともに粒体同士を結着させた結着部分によって、上記二次元断面層に対応する層状構造体が形成される。
【0004】
以後同様に、これら粒体からなる層の形成と結着液の吐出とが交互に繰り返されることによって、層状構造体を有する層が積層された積層体を形成する。そして、例えば積層体に液体を流すことにより上記未結着部分が除去されて、結着部分の積層体である造形物が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2729110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記方法によれば、下層の結着部分から上層の結着部分が張り出す造形物を形成することもできる。このような張り出し部分を有した造形物では、未結着部分が除去されるまで、未結着部分によって張り出し部分が囲まれている。そして、未結着部分が除去される際に、こうした未結着部分が一度に除去される。そのため、未結着部分を除去するための力が、張り出し部分に集中的に作用することになる。その結果、張り出し部分がこのような力によって変形する虞がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、結着剤を介して粒体同士が結着した結着部分を有する層から未結着部分を取り除くことによって造形物を形成する造形方法において張り出し部分が変形することを抑える造形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、粒体を含むスラリーからなる層を形成する層形成工程と、前記層の一部に結着液を浸透させた後に該結着液を硬化して、該結着液を介して前記粒体同士が結着した結着部分を前記層に区画する結着工程と、前記結着部分を含む前記層に溶解液を供給して未結着部分を取り除く除去工程とを含み、前記層形成工程と前記結着工程とを交互に繰り返すことにより前記結着部分を含む前記層が積層された積層体を形成した後、前記積層体に対して前記除去工程を施すことにより前記結着部分が積層された造形物を造形する造形方法であって、第k層目(kは1以上の整数)の層における結着部分上から第(k+1)
層目の層における結着部分を張り出させるとともに、第一のスラリーを用いて該第k層目の層を形成し、前記溶解液に対する溶解性が前記第一のスラリーよりも高い第二のスラリーを用いて前記第k+1層目の層を形成する。
【0009】
この発明では、第一のスラリーによって第k層目の層が形成されるとともに、溶解液に対する溶解性が前記第一のスラリーよりも高い第二のスラリーによって、第k+1層目の層が形成される。そして、第k層目の層の結着部分上から第(k+1)層目の層の結着部分が張り出すように積層体が形成された後、該積層体中の未結着部分が溶解液によって取り除かれる。このような構成によれば、第(k+1)層目の未結着部分が取り除かれた後に第k層目の未結着部分が取り除かれる。そのため、第(k+1)層目の未結着部分が溶解液によって取り除かれる間、第k層目の未結着部分によって上記張り出し部分が支持されるようになる。それゆえに、第(k+1)層目の未結着部分を取り除くために必要とされる負荷が第k層目の未結着部分へ分散する分、張り出し部分が変形することを抑えることができる。
【0010】
この発明は、前記スラリーが、疎水性の粒体と、水系溶媒と、該水系溶媒に溶解した両親媒性ポリマーとを含み、前記溶解液が、前記水系溶媒であることが好ましい。
この発明では、疎水性の粒体と、水系溶媒と、これら疎水性の粒体と水系溶媒とに親和性を有する両親媒性ポリマーとによって、スラリーが構成されている。こうした両親媒性固体ポリマーは、その疎水性も部位において疎水性の粒体と親和性を有するとともに、その親水性の部位において水系溶媒と親和性を有する。このように両親媒性固体ポリマーを介することによって、疎水性の粒体を水系溶媒中に均一に分散させることができるようになる。それゆえに、スラリーを用いて形成された造形物においては、その形成材料たる疎水性の粒体が均一に分布するようになる。また、このようなスラリーからなる層の未結着部分が、スラリーの構成材料である水系溶液によって溶解されるため、積層体から未結着部分を取り除くことが、より容易なものとなる。
【0011】
この発明では、前記両親媒性ポリマーが、ポリビニルアルコールであり、前記ポリビニルアルコールの重合度が、600以上1700以下であり、前記第一のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度が、前記第二のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度よりも高いことが好ましい。
【0012】
ポリビニルアルコールにおける鹸化の度合いが同じであれば、水系溶媒に対するポリビニルアルコールの溶解性は、ポリビニルアルコールにおける重合度に応じて変わる。すなわち、ポリビニルアルコールの重合度が高いほど、水系溶媒に対するポリビニルアルコールの溶解性は低くなる。この点、上記方法によれば、ポリビニルアルコールの重合度が600以上1700以下であって、第一のスラリーにおけるポリビニルアルコールの重合度が第二のスラリーにおけるポリビニルアルコールの重合度よりも高くなる。よって、第(k+1)層目の未結着部分が溶解液によって取り除かれる間、第k層目の未結着部分によって張り出し部分が確実に支持されるようになる。
【0013】
この発明は、前記両親媒性ポリマーは、ポリビニルアルコールであり、前記ポリビニルアルコールの鹸化度は、86以上96以下であり、前記第二のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの鹸化度は、前記第一のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの鹸化度よりも高いことが好ましい。
【0014】
ポリビニルアルコールにおける鹸化度が86以上96以下である場合、鹸化度が高くなるほど、ポリビニルアルコールの結晶化が進み、ポリビニルアルコールが水系溶媒に溶け難くなる。この発明によれば、ポリビニルアルコールの鹸化度が86以上96以下であって、第一のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの鹸化度が第二のスラリーに含まれ
るポリビニルアルコールの鹸化度よりも高くなる。よって、第(k+1)層目の未結着部分が溶解液によって取り除かれる間、第k層目の未結着部分によって張り出し部分が確実に支持されるようになる。
【0015】
この発明は、前記結着工程では、前記結着液を液滴にして吐出する液滴吐出法を用いて前記層に前記結着液を浸透させることが好ましい。
この発明によれば、結着部分の形状の精度を高めること、ひいては造形物の形状の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態における造形方法の手順を示すフローチャート。
【図2】(a)(b)(c)は、同造形方法の各工程を手順に沿って示す模式図。
【図3】(a)(b)は、同造形方法の各工程を手順に沿って示す模式図。
【図4】(a)(b)は、同造形方法の各工程を手順に沿って示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明における造形方法の一実施の形態ついて、図1〜図4を参照して説明する。まず、スラリーの組成について説明する。
本実施の形態のスラリーは、次の3つの材料が混練された懸濁物である。
【0018】
(A)疎水性粒体
(B)水系溶媒
(C)両親媒性ポリマー
上記疎水性粒体は、スラリーを用いて形成される造形物の主要な構成材料である。疎水性粒体には、疎水性の樹脂の粒体、例えばアクリル樹脂粉末、シリコン樹脂粉末、アクリルシリコン樹脂粉末、ポリエチレン樹脂粉末、及びポリエチレンアクリル酸共重合樹脂粉末を用いることができる。なお、本実施の形態における疎水性粒体とは、100gの水系溶媒に対して1g以上溶解しない粒体のことである。
【0019】
上記水系溶媒に対しては、造形物を構成する疎水性粒体の溶解度が上述のように低い。そのため、溶媒への溶解や溶媒の吸収に起因する疎水性粒体の変性が起こり難い。それゆえに、疎水性粒体の飛散を抑制する媒質として好ましい。なお、水系溶媒とは水、及び無機塩の水溶液等の非有機系溶媒を含むものであって、このうち水が水系溶媒として用いられることが好ましい。また、上記水系溶媒は、水に水溶性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
【0020】
上記両親媒性ポリマーは、上記疎水性粒体とともに造形物を構成する材料である。このポリマーは両親媒性である。このため、親水性の部分による水系溶媒との親和性によって水系溶媒に溶解するとともに、その疎水性の部分による疎水性粒体との親和性によって該疎水性粒体の溶媒中への分散作用を発現する。両親媒性ポリマーとしては、主鎖である炭化水素鎖と、側鎖である親水性の官能基とを有する材料を用いることができる。中でも、直鎖炭化水素鎖を有しているものの、他の材料と比較して親水性が高いポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0021】
上記3つの材料が混練されたスラリー中では、両親媒性ポリマーが有する疎水性の部分によって、疎水性粒体同士が互いに架橋された状態にもなる。すなわち、造形物の形成に際して、スラリーに振動等が与えられたとしても、疎水性の粒体は、粒体間の架橋によって形成された構造中に保持される。このため、粒体の飛散が抑制されるようになる。
【0022】
また、疎水性粒体は、疎水性の部分において相互作用している両親媒性ポリマーが有す
る親水性の部分を介して、水系溶媒中に均一に分散される。そのため、こうしたスラリーを用いて形成された造形物においては、形成材料である疎水性粒体が均一に存在することになる。なお、こうした両親媒性ポリマーは、それ自体が造形物の形成材料であるため、造形物の形成時には、形成途中の、あるいは完成した造形物から両親媒性ポリマーを取り除くといった操作を必要としない。
【0023】
以下に、(A)疎水性粒体及び(C)両親媒性ポリマーの具体例を記載する。
[(A)疎水性粒体]
疎水性粒体としての粉末樹脂材料は、真球形状の粒体を含有していることが好ましい。これにより、造形物の形状に係る制御性、特に造形物の外形を規定する辺や角部における形状の制御性が向上する。
【0024】
また、上記粉末樹脂材料を含有するスラリーを用いて公知の積層造形法により造形物を形成する際には、粉末樹脂材料の粒径が、スラリーにより形成されるスラリー層当りの厚さ以下であることが好ましい。さらには、スラリー層の厚さの2分の1以下であることがより好ましい。これにより、スラリー層における粒体の体積充填率を向上させ、ひいては、造形物の機械的強度を向上させることができる。
【0025】
加えて、粉末樹脂材料には、上記粒径の範囲内で、互いに異なる粒径の粒体が含まれていることが好ましい。なお、スラリー中における粒径の分布としては、ガウス分布(正規分布)に近い分散であってもよいし、最大径側あるいは最小径側に粒径分布の最大値を有するような分散(片分散)であってもよい。粉末樹脂材料に含まれる粒体の粒径が単一の値である場合、造形物を形成したときの該粒子の体積充填率は、最密充填時の理論値である69.8%を超えることはなく、実際には50〜60%程度の充填率となる。上述のように、粉末材料中に互いに異なる粒径の粒体が含まれる、言い換えれば粒径が範囲を持って分布するようにすれば、例えば相対的に大きな粒径を有した粒体同士によって形成された空隙に、相対的に粒径の小さい粒体が配置されることによって体積充填率が向上される。これにより、造形物の機械的強度を向上させることができる。
【0026】
例えば、上記スラリー層の厚さが100μmである場合、粉末樹脂材料に含まれる粒体の粒径は、100μm以下が好ましく、さらには、平均粒径が20μm〜40μmであって、数μm〜から100μm以下の分散を有しているとより好ましい。
【0027】
上記条件を満たす粉末樹脂を以下に列挙する。
シリコン樹脂粉末材料としては、例えば、トスパール1110(粒径11μm)、トスパール120(粒径2μm)、トスパール130(粒径3μm)、トスパール145(粒径4.5μm)、トスパール2000B(粒径6μm)、トスパール3120(粒径12μm)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)(トスパール:登録商標)等が挙げられる。
【0028】
アクリルシリコン樹脂粉末としては、例えば、シャリーヌR−170S(粒径30μm)(日信化学工業(株)製)(シャリーヌ:登録商標)が挙げられる。
アクリル樹脂としては、例えば、エポスターMA1013(粒径12〜15μm)、エポスターMA1010(粒径8〜12μm)、エポスターMA1006(粒径5〜7μm)((株)日本触媒製)(エポスター:登録商標)が挙げられる。
【0029】
その他、マツモトマイクロスフェアーM−100(粒径5〜20μm)、マツモトマイクロスフェアーS−100(粒径5〜25μm)松本油脂製薬(株)製(マツモトマイクロスフェアー:登録商標)が挙げられる。
【0030】
ポリエチレン樹脂としては、例えば、フロービーズLE−1080(粒径6μm)、フロービーズLE−2080(粒径11μm)、フロービーズHE−3040(粒径11μm)、フロービーズCL−2080(粒径11μm)(住友精化(株)製)(フロービーズ:登録商標)が挙げられる。
【0031】
エチレンアクリル酸共重合樹脂としては、フロービーズEA−209(粒径10μm)(住友精化(株)製)が挙げられる。
[(C)両親媒性固体ポリマー]
両親媒性固体ポリマーの好ましい例として、ポリビニルアルコールが挙げられる。ポリビニルアルコールの構造を以下に示す。
【0032】
【化1】

ポリビニルアルコールは、主鎖として直鎖状の炭化水素を有するとともに、側鎖として親水性の官能基であるヒドロキシル基を有する。ポリビニルアルコールには、その単位構造当りにおよそ一つのヒドロキシル基が含まれることから、該ポリビニルアルコールは、疎水性の粒体との親和性を主鎖によって維持しつつ、水系溶媒との親和性が高いものとなる。なお、ポリビニルアルコールの単量体であるビニルアルコール(HC=CHOH)はケト−エノール互変異性による平衡がケト体であるアセトアルデヒド(CHCHO)側に大きく偏っていて不安定であることから、ポリビニルアルコールは一般に以下の手順で生成される。
【0033】
(a)まず、酢酸(CHCOOH)とエステル化した構造を有する酢酸ビニル(CHCOOCH=CH)を重合することによって、ポリ酢酸ビニルを生成する。
(b)ポリ酢酸ビニルのエステル結合を加水分解(鹸化)して、−C=OCHを−Hに置換する。
【0034】
そのため、ポリビニルアルコールは、上記化学式(1)に示されるように、側鎖に官能基としてヒドロキシル基(−OH)の他に、一部−OC=OCH基を有している。また、ポリビニルアルコールと総称される物質には、上記加水分解の度合いの違いに起因して、ポリ酢酸ビニルの重合度に対する、ヒドロキシル基の数の比が異なるものが含まれる。こうした重合度に対するヒドロキシル基の数の比の百分率は鹸化度と呼ばれ、ポリビニルアルコールの特性を示す指標として用いられている。
【0035】
また、ポリビニルアルコールの特性を示す指標としては、上記化学式(1)に示される単位構造、すなわち酢酸ビニルの重合数である重合度も用いられている。
これら重合度及び鹸化度には以下のような傾向がある。
【0036】
・重合度が大きい程、水系溶媒に対するポリビニルアルコールの溶解性が低くなる。
・重合度が小さい程、水系溶媒に対するポリビニルアルコールの溶解性が高くなる。
・鹸化度が大きい程、親水性が増大するため、水系溶媒に対するポリビニルアルコール
の溶解性が高くなる。
【0037】
・鹸化度が小さい程、疎水性が増大するため、ポリビニルアルコールの水系溶媒に対する溶解性が低くなる。
・ただし、鹸化度が100%付近になるとポリビニルアルコールは結晶化しやすくなるため、水系溶媒に対するポリビニルアルコールの溶解性が極端に低くなる。
【0038】
次に、上記スラリーを用いた造形方法について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、造形方法の各工程を手順に沿って示すとともに、図2〜図4は、上記各工程にて実施される処理を模式的に示している。
【0039】
本実施の形態における造形方法では、まず、犠牲層形成工程(ステップS11:図2(a))にて、例えばガラス基板やプラスチックシート等の基板11上に、例えば厚さが200μmになるように、上記第二のスラリーを塗布する。これにより、第二のスラリーからなる層であり、且つ最下層でもある犠牲層12が形成される。なお、スラリーの塗布には、公知の方法であるスキージ法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、及びスピンコート法等、基板11上に略均一な厚さを有したスラリーの層を形成可能な方法を用いることができる。なお、第二のスラリーを塗布した後、乾燥工程(例えば60℃、3秒間)を設けてもよい。
【0040】
次いで、スラリー層形成工程(ステップS12:(b))にて、厚さが100μmになるように、第一のスラリーを塗布して上記張り出し部が形成される層の直下の層となるスラリー層21aを形成する。なお、スラリー層21aの形成に際しても、犠牲層12の形成時と同様、上記公知の方法を用いることができる。なお、上記犠牲層形成工程と同様に、第一のスラリーを塗布した後、乾燥工程(例えば60℃、3秒間)を設けてもよい。
【0041】
そして、紫外線硬化樹脂滴下工程(ステップS13:図2(c))にて、上記スラリー層21aにおいて造形物20(図3)の一部を形成するための結着部分22aに、液滴吐出装置31から結着液としての紫外線硬化樹脂を含んだUVインクIを吐出する。ここで、スラリー層21a内には、上記ポリビニルアルコールによる疎水性粒体の架橋構造が形成されることによって、疎水性粒体同士は互いに所定の空間を有して配置されている。そのため、スラリー層21aの上方から、該スラリー層21aの表面に向かって吐出されたUVインクIは、上述の空間を通ってスラリー層21aの裏面に到達するようになる。すなわち、結着部分22aの全体にUVインクIが浸透するため、該結着部分22aの強度が向上される。ちなみに、スラリー層21a中のポリビニルアルコールにおける疎水性の領域が、UVインクIに対する親和性を有しているため、UVインクIがスラリー層21a中に浸透しやすくもなる。
【0042】
その後、紫外線照射工程(ステップS14:図3(a))にて、上記スラリー層21a全体に紫外線Lが照射されることによって、結着部分22aが硬化される。なお、紫外線Lは、スラリー層21aの全体に照射されなくともよく、少なくともスラリー層21aのうちの結着部分22aに照射されればよい。また、紫外線Lの照射は、例えば上記液滴吐出装置31に搭載された紫外線照射装置によって、結着部分22aへのUVインクIの滴下と交互あるいは同時に行うことができる。そして、該液滴吐出装置31とは別に設けられた紫外線照射装置によって、スラリー層毎に行うこと、あるいは複数のスラリー層に対して一度に行うこともできる。
【0043】
上述のようなUVインクIの滴下と紫外線Lの照射により硬化された結着部分22aは、造形物20の一部である結着部分である。他方、スラリー層21aにおける結着部分22a以外の未結着部分は、スラリー層21aの直上のスラリー層21bにおいて、積層方
向に垂直な方向に張り出した張り出し部を備えつつ形成される結着部分22bを、機械的に支持する未結着部分23aとして機能する。これにより、例えば、図3(b)に示されるように、上層の結着部分22b,22dがそれぞれ下層の結着部分22a,22cから張り出す張り出し部を有する造形物20を形成する場合であっても、張り出し部を支持する未結着部分を別途形成する必要がなくなる。また、張り出し部の下層に第一のスラリーからなる層が存在する状態で造形物20の形成が行われるため、造形物20の形成途中において張り出し部が欠けることを抑制可能となる。なお、上記紫外線硬化樹脂滴下工程と紫外線照射工程とから結着工程が構成される。
【0044】
上記スラリー層形成工程(ステップS12)から上記紫外線照射工程(ステップS14)までの3工程は、造形物20を構成する結着部分の全てが形成されるまで繰り返し実施される。例えば、図3(b)に示されるように、造形物20が5層のスラリー層21a,21b,21c,21d,21eから構成される場合、上記3工程が順に5回繰り返される。このように、スラリー層形成工程から紫外線照射工程までの3工程を順に繰り返すことにより、複数の層から構成される積層体を形成することができるため、当該造形方法によって形成される造形物20の形状に係る自由度を高くすることができる。
【0045】
造形物20を構成する結着部分22a,22b,22c,22d,22eが全て形成されると、サポート部除去工程(ステップS15:図4(a)(b))にて、各スラリー層からなる積層体から、未結着部分23a,23b,23c,23d,23eが溶解液によって除去される。これら未結着部分23a,23b,23c,23d,23eの除去は、上記基板11とともに積層体を水中に浸漬したり、積層体に水を所定の圧力で吹き付けたりして溶解させることにより行うことができる。これにより、積層方向に垂直な方向に張り出す張り出し部を有した造形物を形成することができる。
【0046】
ところで、上記造形方法によれば、下層の結着部分から上層の結着部分が張り出す造形物を形成することができる。このような張り出し部分を有した造形物では、未結着部分が除去されるまで、未結着部分によって張り出し部分が囲まれている。そして、未結着部分が除去される際に、こうした未結着部分が一度に除去されることになる。そのため、未結着部分を除去するための力が、張り出し部分に集中的に作用することになる。その結果、張り出し部分がこのような力によって変形する虞がある。
【0047】
そこで、本実施の形態では、張り出し部の変形を抑えるべく、張り出し部を含むスラリー層21b,21dを形成するためのスラリーと、該スラリー層の下地となるスラリー層21a,21cを形成するためのスラリーとが、互いに異なるスラリーによって形成されている。詳述すると、上記溶解液に対する溶解性が相対的に低い第一のスラリーによって、スラリー層21a,21cが形成され、上記溶解液に対する溶解性が相対的に高い第二のスラリーによって、スラリー層21b,21dが形成される。
【0048】
上述のように互いに異なる溶解性を得るためには、例えば、ポリビニルアルコールの重合度が、600以上1700以下であって、第一のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度が、第二のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度よりも高い構成であればよい。上述したように、ポリビニルアルコールにおける鹸化の度合いが同じであれば、水系溶媒に対するポリビニルアルコールの溶解性は、ポリビニルアルコールにおける重合度に応じて変わる。すなわち、ポリビニルアルコールの重合度が高いほど、水系溶媒に対するポリビニルアルコールの溶解性は低くなる。
【0049】
また、上述のように互いに異なる溶解性を得るためには、例えば、ポリビニルアルコールの鹸化度が、86以上96以下であって、第二のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの鹸化度が、前記第一のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの鹸化度よりも高
い構成であればよい。上述したように、ポリビニルアルコールにおける鹸化度が86以上96以下である場合、鹸化度が高くなるほど、ポリビニルアルコールの結晶化が進み、ポリビニルアルコールが水系溶媒に溶け難くなる。
【0050】
そして、上記第一のスラリー及び第二のスラリーによれば、溶解液の一例である水が上記積層体に供給されると、図4(a)に示されるように、まず未結着部分23b,23d,23eが溶解する。続いて、図4(b)に示されるように、未結着部分23a,23cが徐々に溶解する。そのため、スラリー層21b,21dの未結着部分が取り除かれる間に、スラリー層21a,21cの未結着部分によって張り出し部分が支持されるようになる。その結果、スラリー層21b,21dの未結着部分を取り除くために必要とされる負荷が、スラリー層21a,21cの未結着部分へ分散する。それゆえに、スラリー層21b,21dの未結着部分を取り除くために必要とされる負荷が張り出し部分に集中する場合と比較して、張り出し部分が変形することを抑えることができる。
【0051】
なお、未結着部分23b,23dを溶解する際の溶解液の温度は、好ましくは、第一のスラリーの溶解度と第二のスラリーの溶解度の差が相対的に大きい温度である。このような方法であれば、未結着部分23b,23dを先行して溶解するときに、未結着部分23a,23cを、より確実に残すことが可能である。
【0052】
上記条件を満たす第一のスラリーと第二のスラリーの組み合わせを以下に例示する。
第一のスラリーを構成するポリビニルアルコールとしては、ポバールJM−17L(重合度1700、鹸化度95.0〜97.0(96))(日本酢ビ・ポバール(株)製)等が挙げられる。第二のスラリーを構成するポリビニルアルコールとしては、ポバールJP−10(重合度1000、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−15(重合度1500、鹸化度86.0〜90.0(88))(日本酢ビ・ポバール(株)製)等が挙げられる。そして、上記(A)疎水性粒体としては、シャリーヌR−170Sを、(B)水系溶媒としては水を、(C)両親媒性ポリマーとしてポバールJM−17LまたはポバールJP−10を用い、これらの材料を以下の割合で配合すると好ましい。
(A):(B):(C)=7:3.1:0.22(単位g)
なお、造形物において疎水性粒体の充填率が高くなるほど、該造形物における機械的な強度が高められる。それゆえに、造形物の機械的な強度を高める上では、疎水性粒体が最密に充填されるべく、最密に充填された疎水性粒体の隙間よりも水系溶媒及び両親媒性ポリマーが占める体積が小さくなるような配合比が好ましい。
【0053】
また、未結着部分除去工程に用いられ、未結着部分23a,23c,23d,23eを溶解させた水には、各未結着部分を構成していた疎水性粒体が含まれている。このため、上述のように水に溶解し難い疎水性粒体は、上記未結着部分除去工程に続いて上記水を濾過等する疎水性粒体の抽出工程を設けることによって、抽出することができるようになる。こうして抽出された疎水性粒体は、スラリーの構成材料として再利用することができる。
【0054】
[実施例]
次に、上記第一のスラリー及び第二のスラリーのより具体的な構成を、実施例を挙げて説明する。
【0055】
(C)各種両親媒性ポリマーとして、重合度あるいは鹸化度が互いに異なる8種類のポリビニルアルコールを用いた。これらのポリビニルアルコールについて、水温20℃の水に溶解させたときの溶解時間と、水温60℃の温水に溶解させたときの溶解時間とを評価した。なお、溶解時間の評価は、各ポリビニルアルコールの水溶液を流延して室温にて乾燥した100μmの厚みを有するフィルムを水温20℃の水及び水温60℃の温水に浸漬
し、それぞれの溶断時間を測定することにより行った。上記8種類のポリビニルアルコールのうち、重合度が600である4種類のスラリーの溶解時間を表1に示す。また、重合度が1700である残りの4種類のスラリーの溶解時間を表2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

表1に示されるように、水温20℃の水に重合度が600のポリビニルアルコールを溶解させたときには、その鹸化度が90から96に上がっていくと、結晶化の影響により、溶解時間が25秒から100秒へと長くなることが認められた。すなわち、鹸化度が結晶化開始前後の範囲にあるときには、鹸化度を低くすることによって水温20℃の水に対する溶解時間を短縮できることが認められた。しかし、水温60℃の温水に重合度が600のポリビニルアルコールを溶解させたときには、その鹸化度が90から96に上がっていったとしても、結晶化の影響をほとんど受けないことが認められた。すなわち、各鹸化度に対する溶解時間がいずれも8秒乃至9秒となって鹸化度の高低に依存しなくなるとともに、水温20℃の水に対する場合よりも溶解時間が大幅に短縮されることが認められた。
【0058】
一方、表2に示されるように、水温20℃の水に重合度が1700のポリビニルアルコールを溶解させたときには、その鹸化度が90から96に上がっていくと、結晶化の影響により、溶解時間が62秒から650秒へと大幅に長くなることが認められた。すなわち、重合度が600のときと同様に、鹸化度が結晶化開始前後の範囲にあるときには、鹸化度を低くすることによって水温20℃の水に対する溶解時間を短縮できることが認められた。しかし、水温60℃の温水に重合度が1700のポリビニルアルコールを溶解させたときには、その鹸化度が90から96に上がっていったとしても、重合度が600のときと同様に、結晶化の影響をほとんど受けないことが認められた。すなわち、各鹸化度に対する溶解時間がいずれも23秒乃至25秒となって鹸化度の高低に依存しなくなるとともに、水温20℃の水に対する場合よりも溶解時間が大幅に短縮されることが認められた。また、重合度の高低によらず、各水温の水に対する溶解時間は同じような傾向を示すものの、鹸化度毎に評価すると水温の高低によらず低重合度の方が、溶解時間が短い、換言すると溶解性が高いことが認められた。
【0059】
以上により、鹸化度が結晶化開始前後の範囲にあるときには、重合度及び鹸化度が低いポリビニルアルコールを第二のスラリーに用い、重合度及び鹸化度が高いポリビニルアルコールを第一のスラリーに用いることにより、水に対する溶解性の高低差を大きくできる。また併せて、第二のスラリーを溶解する際には、相対的に温度が高い水を用い、第一のスラリーを溶解するに際には、相対的に温度が高い水を用いることが望ましい。こうすることにより、まず高溶解性のポリビニルアルコールのみを確実に溶解させて、低溶解性のポリビニルアルコールを確実に残存させることができる。
【0060】
なお、鹸化度が98以上であれば、ポリビニルアルコールが完全に結晶化する完全鹸化状態となる。また鹸化度が91.5以上97.5以下であれば、ポリビニルアルコールの結晶化が起こっているものの、上記完全鹸化にまでは至っていない中間鹸化状態となり、鹸化度が70以上90以下であれば、結晶化が起こっていない部分鹸化状態となる。
【0061】
本実施の形態では、ポリビニルアルコールの鹸化度の一例として86以上96以下を例示した。すなわち、第二のスラリーに用いられるポリビニルアルコールの一例として、部分鹸化の状態にあるポリビニルアルコール製品(例えば、ポバールJP−10(鹸化度86.0〜90.0)、ポバールJP−15(鹸化度86.0〜90.0)(日本酢ビ・ポバール(株)製)等)を示した。また、第一のスラリーに用いられるポリビニルアルコールの一例として、中間鹸化の状態にあるポリビニルアルコール製品(例えば、ポバールJM−17L(鹸化度95.0〜97.0(96))(日本酢ビ・ポバール(株)製)等)を示した。このような鹸化度の範囲であれば、ポリビニルアルコールの結晶化が鹸化度ごとに大幅に異なる、すなわち溶解液に対する溶解性が鹸化度ごとに大きく異なる。そのため、高溶解性のポリビニルアルコールのみを確実に溶解させて、低溶解性のポリビニルアルコールを、より確実に残存させることができる。
【0062】
以上説明したように、本実施の形態における造形方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)水系溶媒である水と、疎水性粒体である樹脂の粒体と、両親媒性ポリマーであるポリビニルアルコールとからスラリーを構成するようにした。これにより、造形物20を形成する樹脂粒体が、水及びポリビニルアルコールとともに混合されることによって、懸濁液であるスラリー中に存在する。また、当該スラリーにおいては、ポリビニルアルコールにおける炭化水素鎖が樹脂粒体と親和性を有するため、粒体同士がポリビニルアルコールを介して繋がれた状態にある。つまり、樹脂粒体同士は、互いに独立した状態にあるのではなく、ポリビニルアルコールの介在によって互いに架橋された状態にある。そのため、造形物20の形成過程においても、樹脂粒体は粒体間の架橋によって形成された構造中に保持される。したがって、粒体の飛散が抑制されるようになる。
【0063】
(2)また、ポリビニルアルコールの有するヒドロキシル基が水と親和性を有するため、樹脂粒体は、ポリビニルアルコールを介して水中に分散された状態になる。そのため、樹脂粒体は、ポリビニルアルコールを介することによって、水中に均一に分散することが可能になる。それゆえに、こうしたスラリーを用いて形成された造形物20においては、その形成材料である樹脂粒体が均一に存在するようになる。
【0064】
(3)第一のスラリーによって第k層目(kは1以上の整数)の層が形成されるとともに、溶解液に対する溶解性が第一のスラリーよりも高い第二のスラリーによって、第k+1層目の層が形成される。そして、第k層目の層の結着部分22a,22c上から第(k+1)層目の層の結着部分22b,22dが張り出すように積層体が形成された後、該積層体中の未結着部分23b,23dが溶解液によって先に取り除かれる。このような構成によれば、第(k+1)層目の未結着部分が取り除かれた後に第k層目の未結着部分が取
り除かれる。そのため、第(k+1)層目の未結着部分23b,23dが溶解液によって取り除かれる間、第k層目の未結着部分23a,23cによって張り出し部分が支持されるようになる。それゆえに、第(k+1)層目の未結着部分23b,23dを取り除くために必要とされる負荷が第k層目の未結着部分23a,23cへ分散する分、張り出し部分が変形することを抑えることができる。
【0065】
(4)粒体の飛散を抑制する溶媒として、水を用いるようにしているため、粒体が溶媒に溶解することや、粒体が溶媒を吸収して膨潤することに起因して、粒体が変性することを抑制することができる。
【0066】
(5)加えて、ポリビニルアルコールが造形物の構成材料であるため、造形物20を形成するに際してスラリーからポリビニルアルコールを別途取り除く必要もない。
(6)両親媒性固体ポリマーとしてポリビニルアルコールを使用し、その重合度を600以上1700以下とするとともに、第一のスラリーが含むポリビニルアルコールの重合度が、第二のスラリーが含むポリビニルアルコールの重合度よりも高くなるようにした。これにより、第一のスラリーが水系溶媒に溶解する溶解性は、第二のスラリーが同水系溶媒に溶解する溶解性よりも、確実に低くなる。それゆえに、第二のスラリーからなる未結着部分を、第一のスラリーからなる未結着部分よりも先に、確実に溶解することができる。
【0067】
(7)両親媒性ポリマーとしてポリビニルアルコールを使用し、その鹸化度を86以上96以下とするとともに、第一のスラリーが含むポリビニルアルコールの鹸化度が、第二のスラリーが含むポリビニルアルコールの鹸化度よりも高くなるようにした。これにより、鹸化度の下限値をポリビニルアルコールの結晶化が発生する前の86としたためスラリーの水系溶媒に対する溶解性を高めるとともに、鹸化度の上限値を上記結晶化が進行している96としたため溶解性を低めることもできる。さらに、第一のスラリーが水系溶媒に溶解する溶解性を第二のスラリーが同水系溶媒に溶解する溶解性よりも低く抑えることもできる。それゆえに、第二のスラリーからなる層と第一のスラリーからなる層とにおける上記造形物の非構成部分の溶解性に意図的に差をつけることができるようになる。
【0068】
(8)粒体同士を結合させる結着液を液滴にして吐出する液滴吐出法を用いて、スラリーによって形成された層に結着液を浸透させた。これにより、結着部分の形状の精度を高めることができ、ひいては、上記造形物の形状の精度をさらに高めることができるようにもなる。
【0069】
なお、上記実施の形態は、以下のように適宜変更して実施することも可能である。
・上記結着液は、紫外線硬化樹脂を含むUVインクIに限らず、熱硬化樹脂を含む液状体に具現化することもできる。このようにしても、上記(1)〜(9)と同様な効果を得ることができる。
【0070】
・スラリーによって形成された層に液滴吐出法を用いて結着液を供給するようにしたが、これを変更して、スクリーン印刷法を用いて結着液を供給するようにしてもよい。このような方法であっても、上記(1)〜(8)と同様な効果を得ることができる。
【0071】
・ポリビニルアルコールの結晶化が起こる鹸化度よりも鹸化度が低い領域では、第一のスラリーの鹸化度を低くし、且つ第二のスラリーの鹸化度を高くするようにしてもよい。このようにしても、ポリビニルアルコールが同温の水に溶解する溶解性の高低を意図的に選択することができる。それゆえに、上記(1)〜(7)と同様な効果を得ることができる。
【0072】
・ポリビニルアルコールの重合度が300以上1000以下であってもよい。
ポリビニルアルコールは、重合度が大きいものほど、それを含む構造体の機械的強度が増大する一方、水系溶媒に対する溶解度は低下する。スラリーからなる単一層における機械的強度に鑑みれば、スラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度をより大きくすることが好ましい。しかし、単一層を積層することによって造形物を形成するとなれば、重合度の増大によってポリビニルアルコールの溶解度が低下する。そのため、隣接する単一層の接合面における接着性が低下し、層間における機械的強度が低下することとなる。
【0073】
この点、スラリーに含まれる水系溶媒が水であるときに、ポリビニルアルコールの重合度を300以上1000以下とすれば、スラリーからなる層内の機械的強度と層間の接着性との両立が可能である。このようにしても、上記(1)〜(6)と同様な効果を得ることができる。
【0074】
・各スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを形成した後に、該スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを乾燥する乾燥工程を設けるようにしてもよい。また、乾燥に際しては、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eに含まれる水を完全に乾燥させてもよいし、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eの水分含有量が大気中で変わらない状態となるようにしてもよい。すなわち、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eと大気とが平衡状態となるようにしてもよい。なお、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを完全に乾燥させても、下層のスラリー層中のポリビニルアルコールが、上層のスラリー層中の水に溶解することによって層間の接着性は維持され、層間における機械的強度が確保される。
【0075】
・造形物20は、5層のスラリー層21a,21b,21c,21d,21eによって形成されるものを例示した。これに限らず、造形物20を構成する層の数は、二以上の任意の数とすることができる。また、各スラリー層に形成される構造物の形状も任意である。
【0076】
・樹脂粒体は、造形物20の形状制御が可能であれば、真球以外の形状、例えば楕円体形状等をなしていてもよい。
・紫外線硬化樹脂と同系でない、あるいは同系の材料が表面に導入されていない疎水性粒子を用いてもよい。
【0077】
・スラリーには、例えばアセテート繊維等の繊維材料を含有させてもよい。これにより、スラリーを用いて形成した造形物の機械的強度を向上させることができる。
・両親媒性ポリマーはポリビニルアルコールに限らず、疎水性粒体の間に介在してこれらを繋ぐとともに、該疎水性粒体を水系溶媒中に均一に分散可能な両親媒性ポリマーであればよい。
【0078】
・疎水性粒体は樹脂からなる粒体に限らず、他の疎水性粒体、例えば表面に疎水性を有したシリコン酸化物等の粒体であってもよい。
・疎水性粒体には、その表面に親水基を有するものを用いてもよい。
【0079】
・上記水系溶媒は水に限らず、無機塩の水溶液等、他の非有機系の水系溶媒であってもよい。
・また水系溶媒は、水に水溶性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
【0080】
・水系溶媒は非有機系の溶媒に限らず、造形物20の形状制御が可能であれば、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、ピロリドン系溶媒等の有機溶媒を主成分とする溶媒を用いるようにしても
よい。なおこの場合、造形物20を構成する疎水性の粒体としては、上記シリコン酸化物等の有機溶媒に対する溶解性が低いものを用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0081】
11…基板、12…犠牲層、20…造形物、21a,21b,21c,21d,21e…スラリー層、22a,22b,22c,22d,22e…結着部分、23a,23b,23c,23d,23e…未結着部分、31…液滴吐出装置、I…UVインク、L…紫外線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒体を含むスラリーからなる層を形成する層形成工程と、
前記層の一部に結着液を浸透させた後に該結着液を硬化して、該結着液を介して前記粒体同士が結着した結着部分を前記層に区画する結着工程と、
前記結着部分を含む前記層に溶解液を供給して未結着部分を取り除く除去工程と
を含み、
前記層形成工程と前記結着工程とを交互に繰り返すことにより前記結着部分を含む前記層が積層された積層体を形成した後、前記積層体に対して前記除去工程を施すことにより前記結着部分が積層された造形物を造形する造形方法であって、
第k層目(kは1以上の整数)の層における結着部分上から第(k+1)層目の層における結着部分を張り出させるとともに、
第一のスラリーを用いて該第k層目の層を形成し、
前記溶解液に対する溶解性が前記第一のスラリーよりも高い第二のスラリーを用いて前記第k+1層目の層を形成する
ことを特徴とする造形方法。
【請求項2】
前記スラリーは、
疎水性の粒体と、水系溶媒と、該水系溶媒に溶解した両親媒性ポリマーとを含み、
前記溶解液は、
前記水系溶媒である
請求項1に記載の造形方法。
【請求項3】
前記両親媒性ポリマーは、ポリビニルアルコールであり、
前記ポリビニルアルコールの重合度は、600以上1700以下であり、
前記第一のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度は、前記第二のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度よりも高い
請求項2に記載の造形方法。
【請求項4】
前記両親媒性ポリマーは、ポリビニルアルコールであり、
前記ポリビニルアルコールの鹸化度は、86以上96以下であり、
前記第一のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの鹸化度は、前記第二のスラリーに含まれるポリビニルアルコールの鹸化度よりも高い
請求項2又は請求項3に記載の造形方法。
【請求項5】
前記結着工程では、前記結着液を液滴にして吐出する液滴吐出法を用いて前記層に前記結着液を浸透させる
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の造形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−40721(P2012−40721A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182422(P2010−182422)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】