説明

造影剤および磁気共鳴イメージング装置

【課題】反復撮像可能な造影剤およびこの造影剤を用いることにより安価な分子イメージングの磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】本発明の造影剤50は、熱応答性磁性ナノ粒子60と生体高分子と特異的または選択的に結合するターゲティング分子70とを有する。そして、熱応答性磁性ナノ粒子60は、磁性ナノ粒子61の表面に熱応答性高分子62が固定化されており、また結合部63も固定化されている。また、ターゲティング分子70には、結合部71が固定化されている。そして、結合部63と結合部71は特異的または選択的に結合する組み合わせであり、結合部63と結合部71とが結合することにより造影剤50を形成している。そして、磁気共鳴イメージング装置1により、この造影剤50を用いて生体40の磁気共鳴画像を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造影剤およびこの造影剤を用いた磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置は、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)現象を利用して、生体の断層画像を撮影できる装置として知られている。磁気共鳴イメージング装置は、医療用途、産業用途などさまざまな分野において、利用されている。
【0003】
磁気共鳴イメージング装置を用いて生体の断層画像を撮影する際においては、まず、静磁場が形成された静磁場空間内に生体を搬送し、生体内のプロトン(proton)のスピンの方向を静磁場の方向へ整列させて磁化ベクトルを得た状態にする。その後、共鳴周波数の電磁波を照射することにより、核磁気共鳴現象を発生させてプロトンの磁化ベクトルを変化させる。そして、磁気共鳴イメージング装置は、元の磁化ベクトルに戻るプロトンからの磁気共鳴信号を受信し、その受信した磁気共鳴信号に基づいて生体の断層画像を生成する。
【0004】
また、画像診断において分子レベルの情報を得る分子イメージングの開発が行われている。磁気共鳴イメージングにおいても分子イメージングは複数試みられているが、ポジトロン放出断層撮影法(PET)などの他のモダリティに比べ信号が微弱であるため、他のモダリティの情報を補足する役割であった。
【0005】
この信号が微弱な点を補うため、希ガス、例えば129Xe、Heの超偏極(スピン偏極)状態の原子核を利用して磁気共鳴信号を生成して画像化する方法が知られている。この方法により磁気共鳴信号強度が増強される(特許文献1)。
【0006】
また、PETは、例えば、癌の診断の場合、フッ素(F)の放射性同位元素であるF−18で標識したフルオロデオキシグルコース(FDG)を造影剤として用いる。癌細胞は、一般的に正常細胞に比べブドウ糖を3〜8倍程度消費して増殖するため、多くのブドウ糖を多く取り込む性質があり、FDGもブドウ糖と同様に癌細胞に取り込まれる性質がある。癌細胞に取り込まれたFDGは、ブドウ糖と異なり細胞内で代謝が行われず、細胞内に蓄積される。したがって、癌細胞に取り込まれたFDGからガンマ線が放出され、このガンマ線を検出することにより、癌細胞を同定する(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−267529号公報
【特許文献2】特開2000−321357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の方法には、以下のような問題点を有する。
超偏極希ガスを用いて磁気共鳴イメージング装置により生体を撮像する場合、撮像装置のほかにレーザー装置などの超偏極希ガス製造装置が必要となり、非常にコストがかかる。
また、超偏極希ガスを用いて生体を撮像する場合、一度完全に横磁化にすると超偏極の信号が得られず、反復撮像をすることができない。
【0009】
また、PETの場合、FDGに用いるF−18は半減期が110分と短いため、人体に与える影響を軽減することができるが、その反面、FDGを常備しておくことができず、撮像装置のほかに小型サイクロトロン、FDGの合成装置などが必要となり、非常にコストがかかる。
【0010】
したがって、本発明の目的は、反復撮像可能な造影剤および、この造影剤を用いることにより分子イメージングによる安価な磁気共鳴イメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的の達成のために本発明の造影剤は、温度が変化することにより、分散と凝集とが可逆的に変化する熱応答性磁性ナノ粒子を含む。
【0012】
好適には、前記熱応答性磁性ナノ粒子に結合されている、生体高分子に結合するターゲティング分子を有する。
【0013】
好適には、タンパク質、脂質、多糖、および核酸からなる群から選択される。
【0014】
好適には、前記熱応答性磁性ナノ粒子は、第1の結合部を含み、前記ターゲティング分子は、前記第1の結合部に結合する第2の結合部を含む。
【0015】
好適には、前記第1の結合部はビオチン―アビジン複合体であり、前記第2の結合部はビオチン基である。
【0016】
好適には、前記ターゲティング分子が、EGFR抗体である。
【0017】
好適には、前記熱応答性磁性ナノ粒子が、ノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を含む熱応答性高分子を備える。
【0018】
また、上記目的の達成のために本発明の磁気共鳴イメージング装置は、温度が変化することにより、分散と凝集とが可逆的に変化する造影剤を用いて生体を撮像する磁気共鳴イメージング装置であって、前記造影剤を投与させた前記生体にRFパルスを照射することにより、前記生体にて発生する磁気共鳴信号に基づいて前記生体の画像を生成し、前記生体に投与させた前記造影剤の温度を変化させ当該造影剤を凝集させた状態で、前記造影剤を投与させた前記生体にRFパルスを照射することにより、前記生体にて発生する磁気共鳴信号に基づいて前記生体の画像を生成する。
【0019】
好適には、前記造影剤として、生体高分子に結合するターゲティング分子を含む造影剤を用いる。
【0020】
好適には、前記造影剤として、生体高分子に結合するターゲティング分子と結合する第1の結合部を含む造影剤を用い、前記ターゲティング分子として、前記第1の結合部と結合する第2の結合部を含むターゲティング分子を用い、前記ターゲティング分子と前記造影剤を投与させた前記被検体にRFパルスを照射する。
【0021】
好適には、前記造影剤として、前記第1の結合部がビオチン―アビジン複合体からなる造影剤を用い、前記ターゲティング分子として、前記第2の結合部がビオチン基からなるターゲティング分子を用いる。
【0022】
好適には、前記ターゲティング分子として、タンパク質、脂質、多糖、および核酸からなる群から選択される生体高分子に結合するターゲティング分子を用いる。
【0023】
好適には、前記ターゲティング分子として、EGFR抗体を用いる。
【0024】
好適には、前記造影剤を静脈注射により投与させた前記生体にRFパルスを照射する。
【0025】
好適には、前記造影剤を経口投与により投与させた前記生体にRFパルスを照射する。
【0026】
好適には、前記造影剤として、ノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を含む熱応答性高分子を備える造影剤を用いる。
【0027】
好適には、投与された前記造影剤の温度を23℃未満にさせるように冷たい飲物を飲ませた前記生体にRFパルスを照射する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、反復撮像可能な造影剤および、この造影剤を用いることにより分子イメージングによる安価な磁気共鳴イメージング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下より、本発明にかかる一実施形態について図面を参照して説明する。
【0030】
<第1の実施形態>
図1は、本発明にかかる実施形態で用いる磁気共鳴イメージング装置の構成を示す構成図である。本装置は、本発明の実施形態の一例である。
【0031】
図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置1は、静磁場マグネット部12と、勾配コイル部13と、RFコイル部14と、RF駆動部22と、勾配駆動部23と、データ収集部24と、生体搬送部25と、制御部30と、記憶部31と、操作部32と、画像再構成部33と、表示部34とを有する。
【0032】
以下より、各構成要素について、順次、説明する。
【0033】
静磁場マグネット部12は、生体が収容される静磁場空間11に静磁場を形成するために設けられている。静磁場マグネット部12は、開放型であり、たとえば、一対の永久磁石が静磁場空間11を挟むように配置され、静磁場の方向が生体40の体軸方向に対して垂直な方向に沿うように構成されている。なお、図1では図示を省略しているが、静磁場マグネット部12は、上ヨークと下ヨークとサイドヨークとを備え、上ヨークと下ヨークとの端部がサイドヨークによって支持されている。そして、一対の永久磁石が上ヨークと下ヨークとのそれぞれに配置されている。
【0034】
勾配コイル部13は、RFコイル部14が受信する磁気共鳴信号に3次元の位置情報を持たせるために、静磁場空間11に勾配磁場を形成する。勾配コイル部13は、スライス選択勾配磁場、読み取り勾配磁場、位相エンコード勾配磁場の3種類の勾配磁場を形成するために勾配コイルを3系統有する。
【0035】
RFコイル部14は、たとえば、生体40の撮影領域である頭部全体を囲むように配置されており、生体からの磁気共鳴信号を受信する受信用コイルとして構成されている。RFコイル部14は、静磁場空間11内の生体40に電磁波であるRF信号を送信して高周波磁場を形成し、生体40の撮影領域におけるプロトンのスピンを励起する。そして、RFコイル部14は、その励起されたプロトンから発生する電磁波を磁気共鳴信号として受信する。なお、RFコイル部14は、送信用と受信用とを兼用するように構成されていてもよい。
【0036】
RF駆動部22は、RFコイル部14を駆動させて静磁場空間11内に高周波磁場を形成するために、ゲート変調器(図示なし)とRF電力増幅器(図示なし)とRF発振器(図示なし)とを有する。RF駆動部22は、制御部30からの制御信号に基づいて、RF発振器からのRF信号を、ゲート変調器を用いて所定のタイミングおよび所定の包絡線の信号に変調する。そして、ゲート変調器により変調されたRF信号を、RF電力増幅器により増幅した後、RFコイル部14に出力する。
【0037】
勾配駆動部23は、制御部30の制御信号に基づいて勾配コイル部13を駆動させて、静磁場空間11内に勾配磁場を発生させる。勾配駆動部23は、勾配コイル部13の3系統の勾配コイルに対応して3系統の駆動回路(図示なし)を有する。
【0038】
データ収集部24は、RFコイル部14が受信する磁気共鳴信号を収集するために、位相検波器(図示なし)とアナログ/デジタル変換器(図示なし)とを有する。データ収集部24は、RFコイル部14からの磁気共鳴信号を、RF駆動部22のRF発振器の出力を参照信号として、位相検波器によって位相検波し、アナログ/デジタル変換器に出力する。そして、位相検波器により位相検波されたアナログ信号である磁気共鳴信号を、アナログ/デジタル変換器によってデジタル信号に変換して、画像再構成部33に出力する。
【0039】
生体搬送部25は、生体40を載置するテーブルを有する。生体搬送部25は、制御部30からの制御信号に基づいて、静磁場空間11の内部と外部との間でテーブルに載置された生体40を移動する。
【0040】
制御部30は、コンピュータと、コンピュータを用いて所定のスキャンに対応する動作を各部に実行させるプログラムとを有する。そして、制御部30は、操作部32に接続されており、操作部32に入力された操作信号を処理し、RF駆動部22と勾配駆動部23とデータ収集部24と生体搬送部25との各部に、制御信号を出力し制御を行う。また、制御部30は、所望の画像を得るために、操作部32からの操作信号に基づいて画像再構成部33を制御する。
【0041】
記憶部31は、コンピュータにより構成されている。そして、記憶部31は、データ収集部24に収集された画像再構成処理前の磁気共鳴信号、画像再構成部33で画像再構成処理された画像データ等を記憶する。
【0042】
操作部32は、キーボードやマウスなどの操作デバイスにより構成されており、オペレータの操作に応じた操作信号を制御部30に出力する。
【0043】
画像再構成部33は、コンピュータにより構成されている。そして、画像再構成部33は、データ収集部24に接続されており、データ収集部24から出力される磁気共鳴信号に対して画像再構成処理を実施して、画像を生成する。
【0044】
表示部34は、ディスプレイなどの表示デバイスにより構成されており、画像再構成部33が生成する生体40の画像を表示する。
【0045】
次に、本発明における造影剤について詳細に説明する。
図2は、本発明の本実施形態における造影剤を模式的に示した模式図である。
【0046】
図2に示すように、本発明における本実施形態にかかる造影剤50は、熱応答性磁性ナノ粒子60と生体高分子と特異的にまたは選択的に結合するターゲティング分子70とを有する。熱応答性磁性ナノ粒子60は、磁性ナノ粒子61と熱応答性高分子62と結合部63とを有し、磁性ナノ粒子61の表面に熱応答性高分子62が固定化されており、また結合部63も固定化されている。また、ターゲティング分子70には、結合部71が固定化されている。そして、結合部63と結合部71は特異的または選択的に結合する組み合わせであり、結合部63と結合部71とが結合することにより造影剤50を形成している。
【0047】
磁性ナノ粒子61は、水溶液中で分散し、粒子径が100nm以下の磁性を帯びた粒子である。
また、熱応答性高分子62は、しきい温度(臨界温度とも称する)を超えて温度変化させられることにより、水溶液中で分散と凝集とを可逆的に繰り返すことが可能な高分子であり、例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を主成分とした高分子などが挙げられる。
【0048】
特に、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは、しきい温度が32℃であり、側鎖としてアミドとイソプロピル基を有しているため、32℃未満ではアミド結合部が水和し、32℃以上ではイソプロピル基の結合が強くなり、脱水和する。したがって、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは、32℃未満では水溶液に溶解し、分散する。32℃以上では水溶液に不溶となり、凝集する。ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは、しきい温度が32℃と生体温度に近いため、好ましい。また、ノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を主成分とした高分子は、23℃未満で凝集し、23℃以上で分散し、しきい温度が23℃と生体温度に近いため、好ましい。
【0049】
また本発明における本実施形態に係るターゲティング分子70は、生体高分子と特異的または選択的に結合するターゲティング分子である。生体高分子としては、例えば、タンパク質、脂質、多糖、核酸などが挙げられる。また、これらの生体高分子と特異的または選択的に結合するターゲティング分子70として、検出対象とする生体高分子の種類に応じ、多種のものから任意に選択することができる。例えば、ターゲティング分子70としては抗体が挙げられ、好ましくは、悪性腫瘍の細胞と結合する、EGFR抗体、MCU−1抗体、CEA抗体などが挙げられる。EGFR抗体は、悪性腫瘍に過剰発現するEGFRと特異的に結合する。
【0050】
また、磁性ナノ粒子61に固定化されている結合部63とターゲティング分子70に固定化されている結合部71とは、特異的または選択的に結合すれば種々の組み合わせを選択することができる。例えば、ビオチン―アビジン複合体−ビオチン、ビオチン−ストレプトアビジン複合体―ビオチン、アゴニスト−アンタゴニスト、レクチン−糖類などが挙げられる。また、結合部63、71として、官能基などが挙げられる。本実施形態における結合部63、71の組み合わせとしては、ビオチン−アビジン複合体−ビオチンが好ましい。
【0051】
図3は、本発明の一実施形態における造影剤の温度を変化させたときの挙動を示す模式図である。図3(a)は、水溶液温度が32℃未満での熱応答性高分子がポリ−N−イソプロピルアクリルアミドである造影剤の挙動を示す図であり、図3(b)は、水溶液温度が32℃以上での熱応答性高分子がポリ−N−イソプロピルアクリルアミドである造影剤の挙動を示す図である。
【0052】
本実施形態における造影剤50は、熱応答性磁性ナノ粒子60を有するため、上記に示すように、しきい温度を超える温度変化により造影剤50の分散と凝集とを可逆的に繰り返す。例えば、熱応答性高分子62がポリ−N−イソプロピルアクリルアミドである熱応答性磁性ナノ粒子60として、Therma−MaxTM(L)(登録商標)(チッソ株式会社製)が挙げられる。これは、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが32℃未満では水溶液に溶解し、32℃以上では水溶液に不溶となる性質を利用し、造影剤50の分散と凝集とを可逆的に繰り返す。
【0053】
そして、造影剤50が凝集したとき、凝集した造影剤50の凝集塊としての磁性は強くなる。また、造影剤50が分散したとき、分散した造影剤50の磁性は凝集した造影剤50の凝集塊の磁性より弱くなる。
したがって、造影剤50が有する熱応答性高分子62が、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドであるとき、水溶液温度が32℃未満の場合、造影剤50は水溶液中で分散し、磁性は弱くなる。しかし、水溶液温度が32℃以上の場合、造影剤50は水溶液中で凝集し、凝集塊の磁性は強くなる。
【0054】
また、これとは逆に23℃未満では水溶液に不溶となり、23℃以上では水溶液に溶解する熱応答性磁性ナノ粒子60として、Therma−MaxTM(U)(登録商標)(チッソ株式会社製)が挙げられる。これは、熱応答性磁性ナノ粒子60における熱応答性高分子62が、例えば、ノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を主成分とした高分子からなる。
【0055】
したがって、造影剤50が有する熱応答性高分子62が、ノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を主成分とした高分子であるとき、水溶液温度が23℃未満の場合、造影剤50は水溶液中で凝集し、凝集塊の磁性が強くなる。しかし、水溶液温度が23℃以上の場合、造影剤50は水溶液中で分散し、磁性は弱くなる。
【0056】
次に、本実施形態における造影剤50を用いた、磁気共鳴撮像方法について説明する。特に、本実施形態における造影剤50として、ターゲティング分子70がEGFR抗体、熱応答性磁性ナノ粒子60として、熱応答性高分子62がノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を主成分とした高分子であるTherma−MaxTM(U)(登録商標)とした造影剤50を用いた場合を例示して説明する。
【0057】
図4は、本実施形態における磁気共鳴撮像方法のフローを示す図である。図5は、本実施形態における磁気共鳴撮像方法により生体40を撮像したときに画像の歪みが生じる部分を示す図である。
【0058】
まず、生体40に造影剤50を投与する(ST10)。
【0059】
ここでは、造影剤50を生理食塩水に分散させ、生体40に静脈注射により投与する。また、造影剤50を飲み物に分散させ、経口からの投与も可能である。生体40に投与された造影剤50は、造影剤50におけるターゲティング分子70が特異的または選択的に結合する生体40における生体高分子とターゲティング分子70を介して結合する。例えば、ターゲティング分子70がEGFR抗体の場合、悪性の食道癌に過剰発現するEGFRに特異的に結合するため、造影剤50は悪性の食道癌に集中する。
【0060】
生体40の磁気共鳴画像を生成する(ST20)。
【0061】
ここでは、ステップST10で投与した造影剤50が生体40における特定の生体高分子に到達後、磁気共鳴イメージング装置1により、造影剤50を投与した生体40の画像を生成する。
例えば、造影剤50を投与した生体40における生体高分子に造影剤50が到達後、生体搬送部25に生体40を載置し、静磁場空間11内に搬送し、RFパルスを照射することにより、生体40にて発生する磁気共鳴信号に基づいて、生体40の画像を生成する。熱応答性磁性ナノ粒子60がTherma−MaxTM(U)(登録商標)である造影剤50を用いた場合、食道癌と結合している造影剤50は、生体温度においては、熱応答性磁性ナノ粒子60同士が分散しているため、磁性が弱くなる。したがって、磁気共鳴イメージング装置1により磁気共鳴画像を生成しても、アーチファクトは殆ど生じることはない。
【0062】
生体40に投与した造影剤50の温度を変化させる(ST30)。
【0063】
ここでは、ステップST10で投与した造影剤50が特定の生体高分子と結合している状態で、造影剤50の温度を造影剤50が凝集する温度に変化させる。例えば、熱応答性磁性ナノ粒子60がTherma−MaxTM(U)(登録商標)である造影剤50が食道癌と結合している場合、生体40が経口から冷水を摂取することにより、造影剤50の温度が低下し、造影剤50の温度が23℃未満となると凝集するため、強磁性を示すこととなる。
【0064】
生体40の磁気共鳴画像を生成する(ST40)。
【0065】
ここでは、ステップST30により造影剤50を凝集させたまま、生体40の磁気共鳴画像を生成する。例えば、生体40に投与した造影剤が凝集している状態のまま、生体40にRFパルスを照射することにより、生体40にて発生する磁気共鳴信号に基づいて、生体40の画像を生成する。
図5において黒丸で示す部分は、造影剤50が集中した集中部80であるため、造影剤50が凝集し、強磁性を保ったまま磁気共鳴画像を生成すると、磁化率アーチファクトによる画像の歪みが生じる。したがって、画像の歪みが生じた部分に、悪性の食道癌が発現している可能性がある。
造影剤50は、しきい温度を超えて温度が変化するにより可逆的に分散と凝集とを繰り返すため、造影剤50を凝集させて磁気共鳴画像を生成した後に、造影剤50の温度をしきい温度を超えて変化させることにより、再び分散させることができ、造影剤50を投与した生体40の通常の磁気共鳴画像を生成することができる。
【0066】
以上のように、第1の実施形態においては、生体40に造影剤50を投与し、磁気共鳴画像を生成する。そして、例えば、生体40に飲物などを飲ませ、投与した造影剤50が凝集する温度に変化させる。そして、再び磁気共鳴画像を生成する。造影剤50を凝集させたことにより、造影剤50の凝集塊は強磁性となり、生成した磁気共鳴画像に磁化率アーチファクトによる歪みが生じる。そして、歪みが生じた部分に悪性の食道癌が発現している可能性があることが分かる。そして再び、通常の磁気共鳴画像を生成したい場合には、造影剤50の温度をしきい温度を超えて変化させることにより可能である。
このように、本発明にかかる本実施形態の造影剤50を造影剤として用いることにより、磁気共鳴画像の反復撮像が可能であり、また従来の分子イメージングのように専用の設備を必要としないため、従来の分子イメージングより安価な磁気共鳴イメージング装置1を提供することができる。
【0067】
<第2の実施形態>
本発明にかかる第2の実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態は、造影剤51および造影剤51の生体40への投与方法を除いて、第1の実施形態と同じである。そのため、重複する箇所については、記載を省略する。
図6は、本発明の本実施形態における造影剤を模式的に示した模式図である。
【0068】
図6に示すように、本発明における本実施形態にかかる造影剤51は、熱応答性磁性ナノ粒子60を有する。熱応答性磁性ナノ粒子60は、磁性ナノ粒子61と熱応答性高分子62と結合部63とを有し、磁性ナノ粒子61の表面に熱応答性高分子62が固定化されており、また結合部63も固定化されている。
【0069】
また、図6に示すように、特定の生体高分子に特異的または選択的に結合するターゲティング分子70には、結合部71が固定化されている。そして、結合部63と結合部71は特異的または選択的に結合する組み合わせである。
造影剤51を構成する熱応答性高分子62および結合部63は、本発明における第1の実施形態と同様である。また、ターゲティング分子70および結合部71は、本発明における第1の実施形態と同様である。
【0070】
次に、本実施形態における造影剤51を用いた、磁気共鳴撮像方法について説明する。特に、本実施形態における造影剤51における熱応答性磁性ナノ粒子60として、熱応答性高分子62がノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を主成分とした高分子であるTherma−MaxTM(U)(登録商標)である造影剤51を用い、ターゲティング分子70をEGFR抗体とした場合を例示して説明する。
【0071】
図7は、本実施形態における磁気共鳴撮像方法のフローを示す図である。
【0072】
まず、生体40にターゲティング分子70を投与する(ST50)。
【0073】
ここでは、ターゲティング分子70を生理食塩水に分散させ、静脈注射により生体40に投与する。また、ターゲティング分子70を飲み物に分散させ、経口からの投与も可能である。生体40に投与されたターゲティング分子70は、ターゲティング分子70が特異的または選択的に結合する生体40における生体高分子と結合する。例えば、ターゲティング分子70がEGFR抗体の場合、悪性の食道癌に過剰発現するEGFRに特異的に結合するため、ターゲティング分子70は悪性の食道癌に集中する。
【0074】
生体40に造影剤51を投与する(ST60)。
【0075】
ここでは、造影剤51を生理食塩水に分散させ、静脈注射により生体40に投与する。また、造影剤51を飲み物に分散させ、経口からの投与も可能である。生体40に投与された造影剤51は、造影剤51に固定化されている結合部63が、ステップST50により予め投与されているターゲティング分子70に固定化されている結合部71と結合することにより、ターゲティング分子70と結合する。例えば、結合部63と結合部71との組み合わせがアビジン−ビオチンの場合、アビジン−ビオチンは通常の抗原抗体反応の約100万倍以上の非常に強い親和性を有しているため、結合部63と結合部71とは特異的に結合する。したがって、ステップST50とステップST60とにより、悪性の食道癌に造影剤51を集中させることができる。
【0076】
以上のように、第2の実施形態においては、第1の実施形態のように、生体40に投与する前に予め熱応答性磁性ナノ粒子60とターゲティング分子70とを結合させた造影剤50ではない。しかし、結合部63と結合部71との組み合わせを強い親和性を有する組み合わせにし、まず、生体40にターゲティング分子70を投与し、ターゲティング分子70を生体40の生体高分子と結合させ、その後、造影剤51を投与し、造影剤51をターゲティング分子70と結合させることにより、第1の実施形態と同様な磁気共鳴画像を生成することができる。
【0077】
なお、上記の本実施形態における結合部63は、本発明の第1の結合部に相当する。また、本実施形態における結合部71は、本発明の第2の結合部に相当する。
【0078】
なお、本発明の実施に際しては、上記した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形形態を採用することができる。
【0079】
本発明のEGFR抗体が特異的に結合する生体高分子として、EGFRが発現する悪性の食道癌として説明したが、EGFRが発現する悪性腫瘍であれば、食道癌に限られず、例えば、胃癌、大腸癌、肺癌、膵癌などであってもよく、生体40が経口により摂取した飲料により、造影剤50、51の温度を変化させることができる消化器系の悪性腫瘍であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の一実施形態の磁気共鳴イメージング装置の構成を示す構成図である。
【図2】図2は、本発明の本実施形態における造影剤を模式的に示した模式図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態における造影剤の温度を変化させたときの挙動を示す模式図である。
【図4】図4は、本実施形態における磁気共鳴撮像方法のフローを示す図である。
【図5】図5は、本実施形態における磁気共鳴撮像方法により生体40における磁気共鳴画像を生成したときに画像の歪みが生じる部分を示す図である。
【図6】図6は、本発明の本実施形態における造影剤を模式的に示した模式図である。
【図7】図7は、本実施形態における磁気共鳴撮像方法のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1:磁気共鳴イメージング装置、11:静磁場空間、12:静磁場マグネット部、13:勾配コイル部、14:RFコイル部、22:RF駆動部、23:勾配駆動部、24:データ収集部、25:生体搬送部、30:制御部、31:記憶部、32:操作部、33:画像再構成部、34:表示部、40:生体、50、51:造影剤、60:熱応答性磁性ナノ粒子、61:磁性ナノ粒子、62:熱応答性高分子、63:結合部、70:ターゲティング分子、71:結合部、80:集中部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度が変化することにより、分散と凝集とが可逆的に変化する熱応答性磁性ナノ粒子を含む、
造影剤。
【請求項2】
前記熱応答性磁性ナノ粒子に結合されている、生体高分子に結合するターゲティング分子を有する、
請求項1に記載の造影剤。
【請求項3】
前記生体高分子が、タンパク質、脂質、多糖、および核酸からなる群から選択される、
請求項2に記載の造影剤。
【請求項4】
前記熱応答性磁性ナノ粒子は、第1の結合部を含み、
前記ターゲティング分子は、前記第1の結合部に結合する第2の結合部を含む、
請求項2または3に記載の造影剤。
【請求項5】
前記第1の結合部はビオチン―アビジン複合体であり、
前記第2の結合部はビオチン基である、
請求項4に記載の造影剤。
【請求項6】
前記ターゲティング分子が、EGFR抗体である
請求項4または5に記載の造影剤。
【請求項7】
前記熱応答性磁性ナノ粒子が、ノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を含む熱応答性高分子を備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載の造影剤。
【請求項8】
温度が変化することにより、分散と凝集とが可逆的に変化する造影剤を用いて生体を撮像する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記造影剤を投与させた前記生体にRFパルスを照射することにより、前記生体にて発生する磁気共鳴信号に基づいて前記生体の画像を生成し、
前記生体に投与させた前記造影剤の温度を変化させ当該造影剤を凝集させた状態で、前記造影剤を投与させた前記生体にRFパルスを照射することにより、前記生体にて発生する磁気共鳴信号に基づいて前記生体の画像を生成する、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記造影剤として、生体高分子に結合するターゲティング分子を含む造影剤を用いる、
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記造影剤として、生体高分子に結合するターゲティング分子と結合する第1の結合部を含む造影剤を用い、
前記ターゲティング分子として、前記第1の結合部と結合する第2の結合部を含むターゲティング分子を用い、
前記ターゲティング分子と前記造影剤を投与させた前記被検体にRFパルスを照射する、
請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記造影剤として、前記第1の結合部がビオチン―アビジン複合体からなる造影剤を用い、
前記ターゲティング分子として、前記第2の結合部がビオチン基からなるターゲティング分子を用いる、
請求項10に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記ターゲティング分子として、タンパク質、脂質、多糖、および核酸からなる群から選択される生体高分子に結合するターゲティング分子を用いる、
請求項9から11のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記ターゲティング分子として、EGFR抗体を用いる、
請求項9から12のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
前記造影剤を静脈注射により投与させた前記生体にRFパルスを照射する、
請求項8から13のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項15】
前記造影剤を経口投与により投与させた前記生体にRFパルスを照射する、
請求項8から13のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項16】
前記造影剤として、ノニオニックなアクリルアミドまたはN−アクリロイルグリシンアミドと、N−アセチルアクリルアミドまたはビオチン誘導体との共重合体を含む熱応答性高分子を備える造影剤を用いる、
請求項8から15のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項17】
投与された前記造影剤の温度を23℃未満にさせるように冷たい飲物を飲ませた前記生体にRFパルスを照射する、
請求項16に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−220868(P2008−220868A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67537(P2007−67537)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】