説明

造血幹細胞の製造方法

【課題】造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅剤を提供する。
【解決手段】下記式(VI)で表される化合物による造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血球増幅作用を有する化合物を用いることを特徴とする、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅方法に関する。さらに詳しくは、当該化合物との存在下にて、各種サイトカイン及び増殖因子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する培地中で造血幹細胞を培養して、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅させる方法、当該増幅方法を用いた遺伝子治療方法、当該増幅方法によって得られた造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を用いた細胞治療用材料、及び当該化合物を有効成分として含有し、貧血等の治療に有効な造血幹細胞増幅剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中には、生体機能を司る血球細胞として酸素運搬に関わる赤血球系、血小板を産生する巨核球系、感染防御に関わる顆粒球、単球及び/又はマクロファージなどの骨髄球系、免疫を担当するT細胞及びB細胞などのリンパ球系の各細胞系列がある。これらの血球細胞は、いずれも共通の起源である造血幹細胞より分化・成熟することにより、個体の一生を通じて維持、産生されている。ここで、造血幹細胞とは、リンパ球、赤血球、血小板等の機能細胞に分化し得る多能性と、そのような多能性を維持したまま自己増殖する能力(自己複製能)を兼ね備えた細胞と定義されている。
【0003】
これまでの研究より、造血幹細胞は、まず骨髄球系及びリンパ球系の2系列へ方向づけられ、それぞれ骨髄系前駆細胞(混合コロニー形成細胞、CFU−GEMM)及びリンパ球系前駆細胞へ分化し、さらに骨髄系前駆細胞は赤芽球バースト形成細胞(BFU−E)、赤血球コロニー形成細胞(CFU−E)を経て赤血球に、巨核球コロニー形成細胞(CFU−MEG)を経て血小板に、顆粒球・マクロファージコロニー形成細胞(CFU−GM)を経て単球・好中球・好塩基球に、好酸球コロニー形成細胞(CFU−EO)を経て好酸球になり、またリンパ球系前駆細胞はT前駆細胞を経てT細胞に、B前駆細胞を経てB細胞になることが知られている。なお、これらの内、直径1mm以上の高分化能コロニーを形成する細胞は、HPP−CFUコロニー形成細胞と呼ばれ、混合コロニー形成細胞(CFU−GEMM)と共に、分化の程度が最も低い造血前駆細胞として知られている。これらの骨髄系前駆細胞とそこから派生する各種造血前駆細胞は、各種サイトカインの存在下にて軟寒天やメチルセルロースなどの半固形培地中で形成される各種コロニーの性状によって特定することができる(非特許文献1参照)。
近年、造血や免疫機能の不全に由来する各種血液疾患、癌、免疫不全症、自己免疫疾患、先天性代謝異常症等多くの難治性疾患の根治的な治療手段として、自己あるいは同種の造血幹細胞移植が行われている。またごく最近では、脳梗塞や心筋梗塞及び閉塞性動脈硬化症等における治療手段として、造血幹細胞を含むCD34陽性細胞移植の有効性が報告されている(非特許文献2、3、4、5参照)。更に、造血幹細胞移植による神経や筋肉の再生という試みも進められている。その例としては、臍帯血由来のCD34陽性細胞をマウス脳梗塞モデルに移植し、血管新生を介して神経を再生したとする報告(非特許文献2参照)やCD34陽性細胞により筋損傷の修復が可能という報告(非特許文献5、及び特許文献1参照)が挙げられる。これらの中でも、骨髄移植は治療実績が多く、標準的な造血幹細胞移植治療法として最も確立されている。しかし骨髄移植のためには、骨髄を提供するドナーと移植を受けるレシピエントのヒト白血球抗原(HLA)の一致率が高くなければならず、ドナーからの骨髄の供給不足が問題になっている。また、ドナーは4日間程度の入院が必要であり、大量に骨髄を採取することに伴う痛み、発熱や出血もあり、ドナーへの負担は大きい。
【0004】
骨髄に代わる造血幹細胞源としては、末梢血も現在用いられている。顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)をヒトに投与すると造血幹細胞が骨髄から末梢血に動員されるため、この動員された造血幹細胞を、血液成分分離装置を用いて濃縮した後、移植に用いている。しかし、末梢血幹細胞移植は、G−CSFをドナーに4乃至6日間連続投与する必要があり、それに伴う副作用(血液凝固、脾臓肥大等)も懸念され、ドナーへの負担が大きい。さらに、G−CSF投与により骨髄から末梢血へ造血幹細胞が動員されるとはいえ、その効率はドナーによりそれぞれ異なり、十分な造血幹細胞が得られないこともある。
【0005】
さらに最近になり、臍帯血が骨髄と同程度の造血幹細胞を含むことが判明し、造血幹細胞移植に有効であることが明らかにされた(非特許文献6参照)。臍帯血は、HLA型が完全に一致していなくても移植が可能で、骨髄や末梢血と比べて重度の急性移植片対宿主病(acute GVHD)の発生率が低く、その有用性が確認されているために使用頻度が増加してきている。しかし、一人の提供者あたりから採取される臍帯血は少量であり、臍帯血に含まれる造血幹細胞数も少ないため、その適用は主に小児に限定されている。
【0006】
また、造血幹細胞は、現在効果的な治療法のない致死的遺伝性疾患や、HIV感染症、慢性肉芽腫症、生殖細胞腫瘍等に対する遺伝子治療においても、有効な細胞と考えられている。しかし、目的遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターを効率よく造血幹細胞にトランスフェクトさせるには、通常は静止期にある造血幹細胞を細胞周期に入れ、人為的に自己増殖を促進させることが求められる。さらに、形質導入された造血幹細胞は、その後の移植を成立させるため、かつ遺伝子の発現を長期間維持するために、生体外での培養系において未分化の状態で維持する必要がある。したがって、より効率的に遺伝子を導入し、その後の移植治療を成功させるため、遺伝子導入時の細胞培養方法の改善が望まれていた(例えば非特許文献7参照)。
【0007】
一方、造血前駆細胞は、骨髄や臍帯血を移植した後の初期の血球回復において重要であり、特に移植後の初期感染症を防ぐうえで有効な細胞と考えられている。したがって、移植時の造血前駆細胞の数が少ない場合には、初期の血球回復が遅れ、移植後の生存率が下がることもある(例えば非特許文献8参照)。
【0008】
以上の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を用いた移植及び遺伝子治療の課題を解決するため、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を生体外(ex vivo)にて増幅する技術が求められており、これまでに様々な培養方法が試みられている。
【0009】
ここで培養する造血幹細胞並びに造血前駆細胞について説明する。ヒトにおいて、造血幹細胞及びそこから派生する各種造血前駆細胞は、細胞表面抗原であるCD34分子を発現しているCD34陽性細胞集団に含まれていることが明らかにされており、そのため造血幹細胞は、CD34陽性の細胞集団として濃縮することが可能である(非特許文献9参照)。具体的な濃縮方法としては、磁気ビーズで標識したCD34抗体を分離したい細胞集団と混合させ、その後磁石にてCD34陽性細胞を回収する方法がよく利用されている(非特許文献10、11参照)。また、CD34陽性細胞集団中には、細胞表面抗原であるCD38分子を発現していないCD34陽性CD38陰性細胞集団が10%未満の割合で存在する。これらのCD34陽性CD38陰性細胞は、CD34陽性細胞よりも造血幹細胞がさらに濃縮された細胞集団であると考えられるようになった(例えば非特許文献12、13参照)。また、細胞集団における未分化な造血前駆細胞の割合を判断するため、前述のHPP−CFUコロニー形成細胞を測定する方法が一般的に用いられている(例えば非特許文献13参照)。近年、ヒト造血幹細胞を実験的に検証する手段として、糖尿病マウスと免疫不全マウスを掛け合わせて作られたNOD/SCIDマウスを用いて、骨髄再構築能を有するヒト造血幹細胞の存在を調べることが可能となった。この方法により測定される細胞は、SCID−repopulating cells (SRC)と呼ばれ、ヒト造血幹細胞に最も近い細胞と考えられている(例えば非特許文献15参照)。
【0010】
ついで造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増殖方法の従来の技術について説明する。先に述べたように、造血幹細胞及び造血前駆細胞はCD34陽性細胞に多く含まれているため、増幅の際の出発細胞は主にCD34陽性細胞が利用されている。CD34陽性細胞から造血幹細胞及び造血前駆細胞を増幅した例としては、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン(IL−6)/可溶性インターロイキン6受容体(soluble IL−6 receptor)複合体、インターロイキン−11(IL−11)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF)、flk2/flt3リガンド(FL)、トロンボポエチン(TPO)、Notchリガンド(Delta1など)等のサイトカインや増殖因子の存在下で培養する方法が報告されている(特許文献2、3、及び非特許文献8、14、16、17参照)。これらの内、TPOは造血幹細胞の増幅効果が特に優れており、殆ど全ての増幅例において使用されている(非特許文献18参照)。これらの各種サイトカインや増殖因子と共に培養することにより造血幹細胞及び造血前駆細胞は増幅可能であるが、造血幹細胞の増幅度は数倍程度である。さらに、これらの各種サイトカインや増殖因子は、全て遺伝子組み換え技術により製造される蛋白質であるため、増幅の際に安定的、大量、安価、かつ迅速に入手することが課題となる場合がある。
【0011】
また、造血幹細胞を生体外にて増幅させる方法としては、各種サイトカインの存在下、他の種類の細胞を支持細胞として用いる共培養系の方法が報告されている。例えば、ヒト骨髄由来のストローマ細胞との共培養によって造血幹細胞を増幅することが試みられている(非特許文献19参照)。また、支持細胞としてマウス骨髄由来のHESS−5細胞を、TPO、FL、及びSCFの共存下、CD34陽性細胞の増幅を試みた報告もある(非特許文献20参照)。しかし、これらの方法は、外来の細胞を共存させる培養系であることから、存在の確認ができない未知の病原体に感染した細胞を患者に移植してしまう危険性がある。また、ストローマ細胞に異種動物由来細胞を用いる場合には、移植後にレシピエントの生体内で免疫反応が起こる危険性があるため、ストローマ細胞とCD34陽性細胞を完全に分離する必要がある。
【0012】
その他、各種サイトカインだけではなく、低分子化合物を培養系にTPOなどのサイトカインと共に添加して造血幹細胞を生体外にて増幅させる方法も報告されている。その低分子化合物の例としては、銅キレーター、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とDNAメチル化阻害剤の併用、オールトランスレチノイン酸、アルデヒド脱水素酵素阻害剤などが挙げられる(非特許文献21、22、23、及び特許文献4参照)。しかし、いずれの化合物の添加によっても、造血幹細胞の増幅度は数倍程度であるか、培養期間が3週間程度必要であり、十分に有効とは言えない。
【0013】
一方、造血幹細胞移植を実施した後の造血と免疫回復を加速させるための処置は、感染の危険性を排除し入院期間を短縮させるため非常に有効であることが知られている。この様な処置として造血系サイトカインである顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)などを移植後に投与することが臨床場面において実施されている(非特許文献24)。しかし、その効果は白血球細胞に限定されており、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅して全ての血球系細胞の回復を改善する有効な処置法が望まれている。また、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の減少を伴う疾患や機能障害は、造血幹細胞移植に拘らず有効な治療手段が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−40692
【特許文献2】特開2001−161350
【特許文献3】特開2000−23674
【特許文献4】特表2002−502617
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Lu, L. et al.;Exp. Hematol.、 11, 721−9,1983
【非特許文献2】Taguchi,A et al.;J Clin Invest.、114、330−8.2004
【非特許文献3】Orlic,D et al.;Nature、410、701−5.2001
【非特許文献4】Tateishi−Yuyama,E et al.;Lancet、360、427−35.2002
【非特許文献5】Iwasaki,H et al.;Circulation、113、1275−7.2006
【非特許文献6】Kurtzberg, J. et al.;New Eng. J.Med.、335、157−66、 1996
【非特許文献7】Nathwani, AC. et al.;Br J.Haematol.、128、3−17、2005
【非特許文献8】Delaney, C. et al.;Nat. Med.、16、232−6、2010
【非特許文献9】Ema, H. et al.;Blood, 75, 1941−6, 1990
【非特許文献10】Ishizawa, L. et al.;J Hematother.、 2, 333−8, 1993
【非特許文献11】Cassel, A. et al.;Exp.Hematol.、 21, 585−91, 1993
【非特許文献12】Bhatia, M.et al.;Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:5320−25、1997
【非特許文献13】Larochelle, A. et al.;Nat. Med.、 2、1329−37、1996
【非特許文献14】Shah,AJ et al.;Blood.、87,3563−3570、1996
【非特許文献15】Dick,JE et al.;Stem Cells.、 15、199−203、1997
【非特許文献16】Suzuki,T et al.;Stem Cells.、24、2456−2465、2006
【非特許文献17】McNiece et al.;Blood.、96,3001−3007、2000
【非特許文献18】Kaushansky,K et al.;Ann NY Acad Sci.、1044,139−141、2005
【非特許文献19】Kawano,Y et al.;Exp Hematol.、34、150−8、2006
【非特許文献20】Kawada,H et al.; Exp Hematol.、27, 904−15, 1999
【非特許文献21】Chute,JP et al.;Proc Natl Acad Sci USA.、103、11707−12、2006
【非特許文献22】Milhem,M et al.;Blood.、103、4102−10、2004
【非特許文献23】Leung,AY et al.;Exp Hematol.、33、422−7.2005
【非特許文献24】Appelbaum,FR.;Cancer.、72、3387−92.1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、生物学的に安全かつ廉価にて製造可能な化合物を利用し、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を生体外で従来よりも効率的かつ短期間に増幅することを課題とする。また本発明は、造血幹細胞に対する当該化合物の増幅効果を判断する上で、従来よりも効果的な指標を用いることを課題とする。本発明のさらなる課題は、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の機能不全に伴う各種の造血系疾患や組織損傷に伴う筋肉・神経疾患に対する治療方法として有用であり、遺伝子治療時の造血幹細胞への遺伝子導入効率の向上に有用である、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅剤を提供することにある。また更に、本発明は、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を生体内で増幅させることにより予防・治療・改善が可能な疾患に対して、効果的な医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、ヒト造血幹細胞から造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅する方法を見出すべく、増幅活性をもつ化合物について鋭意探索を行ったところ、下記一般式で表される化合物が優れたCD34陽性細胞、CD34陽性CD38陰性細胞、HPP−CFUコロニー形成細胞又はSRCの増幅活性を有し、ヒト造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅剤として高い有効性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は、下記発明に係るものである。
(1)下記式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体若しくはその医薬的に許容され得る塩又はそれらの溶媒和物の存在下、造血幹細胞を生体外で培養して造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅させることを特徴とする造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【0019】
【化1】

[式中、R及びRはそれぞれ同一若しくは異なって水素原子、C1−3アルキル基、C1−3アルコキシ基、水酸基、C1−3アルキルスルホニル基、単糖残基、オリゴ糖残基又はアミノ酸残基を意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、Rは、Rと一緒になって単結合を形成していることを意味するか、又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、RはC1−10アルキル基又はC2−10アルケニル基を意味する。]
【0020】
(2)R及びRが共に水酸基である、(1)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(3)Rが3−メチル−2−ブテニル基又は3−メチル−3−ブテニル基である、(1)又は(2)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(4)Rが水素原子であり、RとRが一緒になって単結合を形成している、(1)から(3)のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(5)式(I)で表される化合物が下記式(II)で表される化合物である、(4)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【0021】
【化2】

(6)RとRが一緒になって単結合を形成し、Rが水素原子であり、Rが3−メチル−2−ブテニル基である、(1)から(3)のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(7)式(I)で表される化合物が下記式(III)で表わされる化合物である、(6)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【0022】
【化3】

【0023】
(8)生体外で培養する造血幹細胞が、CD34陽性細胞である、(1)から(7)のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(9)生体外で培養する造血幹細胞が、CD34陽性CD38陰性細胞である、(1)から(7)のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(10)増幅された細胞が、HPP−CFCコロニー形成細胞である、(1)から(7)のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(11)増幅された細胞が、幹細胞因子(SRC)である、(1)から(7)のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(12)1種以上の血液細胞刺激因子を含む培地を使用する、(1)から(11)のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(13)血液細胞刺激因子が、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−11(IL−11)、flk2/flt3リガンド(FL)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、トロンボポエチン(TPO)及びエリスロポエチン(EPO)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(12)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(14)血液細胞刺激因子が、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)及びflk2/flt3リガンド(FL)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(13)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(15)造血幹細胞の由来が骨髄、肝臓、脾臓、末梢血或いは臍帯血である、(1)から(14)のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(16)造血幹細胞の由来が臍帯血である、(15)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
(17)幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)及びflk2/flt3リガンド(FL)からなる群より選ばれる少なくとも1種との共存下で臍帯血由来の造血幹細胞を培養する(16)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【0024】
(18)前記式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体若しくはその医薬的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有することを特徴とする、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅用試薬又は試薬キット。
(19)前記式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体若しくはその医薬的に許容される塩又はそれらの溶媒和物の存在下で、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を生体外で培養しながら当該細胞に遺伝子を導入する、又は遺伝子を導入した造血幹細胞に対し前記培養を行い増幅することを特徴とする形質転換された造血幹細胞の製造方法。
(20)1種以上の血液細胞刺激因子を含む培地を使用する、(19)に記載の形質転換された造血幹細胞の製造方法。
(21)血液細胞刺激因子が、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−11(IL−11)、flk2/flt3リガンド(FL)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、トロンボポエチン(TPO)及びエリスロポエチン(EPO)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(20)に記載の形質転換された造血幹細胞の製造方法。
(22)造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の由来が骨髄、肝臓、脾臓、末梢血或いは臍帯血である、(19)から(21)のいずれか1つに記載の形質転換された造血幹細胞の製造方法。
【0025】
(23)(1)から(17)のいずれか1つに記載の製造方法により製造された、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞。
(24)(19)から(22)のいずれか1つに記載の製造方法により製造された、形質転換された造血幹細胞。
(25)(1)から(17)のいずれか1つに記載の製造方法により製造された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞からなる、ヒトに移植し、疾患を治療するための細胞治療用材料。
(26)(19)から(22)のいずれか1つに記載の製造方法により製造された、形質転換された造血幹細胞からなる、ヒトに移植し、疾患を治療するための細胞治療用材料。
(27)治療される疾患が、白血病、再生不良性貧血、顆粒球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患、遺伝性血液疾患、固形腫瘍、自己免疫疾患、免疫不全症、糖尿病、神経損傷、筋肉損傷、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症のいずれかである(25)又は(26)に記載の細胞治療用材料。
(28)前記式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、プロドラッグ若しくはその医薬的に許容され得る塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有することを特徴とする、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅剤。
(29)治療される疾患が、白血病、再生不良性貧血、顆粒球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患、遺伝性血液疾患、固形腫瘍、自己免疫疾患、免疫不全症、糖尿病、神経損傷、筋肉損傷、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症のいずれかである(28)に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅剤。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、前記化学式で表わされる化合物(以下、特定化合物ともいう)の使用により、造血幹細胞を生体外で培養して造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅することができる。特定化合物の使用により製造された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞は、疾患治療のための移植用細胞として利用できる。さらに、本発明における特定化合物は、特に採取量が限定される移植源であっても、容易に造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅できるため、必要に応じて速やかに移植用細胞(移植片)を調製することができる。また、本発明における特定化合物は、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅する効果を有するため、生体内で用いる医薬品としても有用であり、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を生体内で増幅させることが有効である疾患の予防・治療・改善薬として用いることができる。
【0027】
前記特定化合物は、植物体からの抽出や通常の有機合成プロセスにより製造できる低分子化合物である。このため、抽出や合成を微生物などの細胞が生存しえない条件で行うことが容易であり、精製をより厳密に行って不純物の少ない化合物を得ることも容易である。それ故に、遺伝子組み換え技術により製造されるサイトカインや増殖因子などの蛋白質を用いる従来法に比較して、前記特定化合物を用いる方法は未知の病原菌及びヒト以外の動物の生体物質の混入を防ぐことが容易となる。すなわち、本発明の方法により製造された造血幹細胞は、感染や外来遺伝子の混入、外来蛋白質による免疫反応を避けることができる。また、サイトカインや増殖因子は蛋白質であるため保存時や使用時でのpHや熱、イオン強度に対する最適域が狭いが、特定化合物は比較的広い条件で使用及び保存することが可能となる。さらに、特定化合物は、蛋白質に比べてより廉価かつ継続的に製造することが可能であり、最終的な治療コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】特定化合物を添加した条件でCD34陽性細胞を培養したところ、CD34陽性細胞が無添加条件に比べて顕著に増幅されたことを示すグラフ。なお、グラフの縦軸は化合物無添加時のCD34陽性細胞数を1としたときの倍率を表す。
【図2】特定化合物を添加した条件でCD34陽性CD38陰性細胞を培養したところ、CD34陽性CD38陰性細胞が無添加条件に比べて顕著に増幅されたことを示すグラフ。なお、グラフの縦軸は化合物無添加時のCD34陽性CD38陰性細胞数を1としたときの倍率を表す。
【図3】特定化合物を添加した条件でCD34陽性CD38陰性細胞を培養したところ、CD34陽性CD38陰性細胞が無添加条件に比べて顕著に増幅されたことを示すグラフ。なお、グラフの縦軸は化合物無添加時のCD34陽性CD38陰性細胞数を1としたときの倍率を表す。
【図4】特定化合物を添加した条件でCD34陽性CD38陰性細胞を培養したところ、CD34陽性CD38陰性細胞が無添加条件に比べて顕著に増幅されたことを示すグラフ。なお、グラフの縦軸は化合物無添加時のCD34陽性CD38陰性細胞数を1としたときの倍率を表す。
【図5】特定化合物を添加した条件で培養したCD34陽性細胞を免疫不全マウス移植試験に供したところ、SRCが無添加条件に比べて顕著に増幅されたことを示すグラフ。なお、グラフの縦軸は無添加条件で培養したCD34細胞を免疫不全マウスに移植した際のヒトCD45陽性細胞生着率を1としたときの倍率を表す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
本明細書において用いる用語につき、以下の通り定義する。
【0030】
造血幹細胞とは、血球の全ての血液細胞分化系列に分化し得る多分化能を有する細胞であり、かつ、その多分化能を維持したまま自己複製することが可能な細胞である。
多能性造血前駆細胞とは、全てではないが複数の血液細胞分化系列に分化できる細胞である。
単能性造血前駆細胞とは、単一の血液細胞分化系列に分化できる細胞である。
造血前駆細胞とは、多能性造血前駆細胞と単能性造血前駆細胞の両者を含む細胞群である。例えば本発明における造血前駆細胞には、顆粒球・マクロファージコロニー形成細胞(CFU−GM)、好酸球コロニー形成細胞(EO−CFC)、赤芽球系前駆細胞である赤芽球バースト形成細胞(BFU−E)、巨核球コロニー形成細胞(CFU−MEG)及び骨髄系幹細胞(混合コロニー形成細胞、CFU−GEMM)などが含まれる。なお、これらの内、直径1mm以上の高分化能コロニーを形成する細胞は、HPP−CFUコロニー形成細胞(HPP−CFC)と呼ばれ、混合コロニー形成細胞(CFU−GEMM)と共に、最も未分化な造血前駆細胞として定義される(McNiece,I.K.,et al.1989.Detection of a human CFC with a high proliferative potential.Blood.74:609−612.)。
【0031】
CD34陽性とは、CD(cluster of differentiation)34抗原を細胞表面上に発現していることを意味する。この抗原は造血幹細胞及び造血前駆細胞のマーカーであり、分化するに従って消失する。CD34陽性細胞(集団)は造血幹細胞及び造血前駆細胞をより多く含む細胞集団である。なお、本発明では、特に言及しない限り、CD34陽性細胞とはCD34陽性細胞を含む細胞集団をいう。下記CD34陽性CD38陰性細胞等においても同様である。
【0032】
CD38陰性とは、CD38抗原を細胞表面上に発現していないことを意味する。この抗原の発現は血液系細胞の分化とともに増強される。
CD34陽性D38陰性細胞とは、CD34抗原を発現しているが、CD38抗原を発現していない細胞集団をいう。CD34陽性CD38陰性細胞は造血幹細胞をCD34陽性細胞より多く含む細胞集団として特徴付けられる。
【0033】
また、ヒト造血幹細胞を実験的に検証する手段として、糖尿病マウスと免疫不全マウスを掛け合わせて作られたNOD/SCIDマウスを用いて、骨髄再構築能を有するヒト造血幹細胞の存在を調べることが可能となった。この方法により測定される細胞は、SCID−repopulating cells(SRC)と呼ばれ、ヒト造血幹細胞のみからなる細胞集団に最も近い細胞集団と考えられる。
【0034】
本発明において造血幹細胞の分化とは、造血幹細胞が造血前駆細胞へ、多能性造血前駆細胞が単能性造血前駆細胞へ、造血前駆細胞が特有の機能を有する分化した細胞、すなわち赤血球、白血球、巨核球などの成熟血液細胞に変換していくことをいう。
【0035】
本発明において、造血幹細胞の増幅とは、培養の前と比較して培養後に造血幹細胞の数が増大していることをいう。造血前駆細胞の増幅とは、培養の前と比較して(培養の前の数が0であってもよい)培養後に造血前駆細胞の数が増大していることをいう。造血幹細胞の培養により造血幹細胞の数が増大すると同時に一部の造血幹細胞が造血前駆細胞に分化して、細胞集団中の造血前駆細胞の数が培養前に比較して増大する場合がある。この場合、結果的に造血幹細胞の数は培養前に比較して増大しないことがあってもよい。
本発明における培養前の造血幹細胞は、上記CD34陽性細胞のように、造血幹細胞以外の細胞(造血前駆細胞など)を含む細胞集団であってもよい。
本発明において培養後の細胞集団は、培養中の造血幹細胞の自己増殖で生じた造血幹細胞からなる細胞集団、造血幹細胞の分化で生じた造血前駆細胞からなる細胞集団、造血幹細胞と造血前駆細胞の両者を含む細胞集団などである。通常は、培養後の細胞集団は、造血幹細胞の自己増殖と分化により、造血幹細胞と造血前駆細胞とを含む細胞集団となる。造血幹細胞の増幅を主たる目的とする場合は、造血前駆細胞の数は培養の前後で増大してもよく、減少してもよい。
本発明における造血幹細胞の増幅活性とは、上述した機能を有する造血幹細胞を増殖させて、同じ機能を有する造血幹細胞の数を増やす活性のことをいう。また、本発明における造血幹細胞の分化促進活性とは、造血幹細胞を分化させて、上述した機能を有する造血前駆細胞に、及びさらに成熟血液細胞(赤血球、白血球、巨核球など)に、変換する活性のことをいう。
【0036】
本発明で用いる特定化合物は、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞に作用し、生体外で造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を培養したときに、その増殖又は生存を支持する活性を示すものである。ここで、当該化合物は造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の分化を抑えながら増殖させることが可能である。末梢血幹細胞移植、臍帯血幹細胞移植などの造血幹細胞移植療法では、移植するための造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞が十分数得られず移植が実施できない、或いは移植の成功率が低いときがあるが、そのような場合でも、当該化合物を利用することで採取した造血幹細胞を生体外で増幅し、必要量の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を取得し移植することが可能である。具体的には、当該化合物を含む培地で造血幹細胞を培養することで、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の分化を抑えながら増幅し移植することが可能である。その際に、培地中に種々のサイトカインや増殖因子を更に添加したり、ストローマ細胞と共培養したり、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞に作用するその他の低分子化合物を更に添加したりすることによって造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞をより効率的に増幅することも可能である。
【0037】
採取した細胞を本発明の方法で培養するに際し、培養する細胞は、前記のように造血前駆細胞などの造血幹細胞以外の細胞を含む細胞集団であってもよく、実質的に造血幹細胞のみが単離された細胞集団であってもよい。これらの例としては、CD34陽性細胞、CD34陽性CD38陰性細胞、CD90陽性細胞、CD133陽性細胞などが挙げられる。また、造血幹細胞又は造血前駆細胞の少なくとも一方或いは両方を含み、さらに他の成熟血液細胞を含むのであってもよい。
【0038】
本発明の方法における造血幹細胞の採取源としては、造血幹細胞を含む組織であればいずれであってもよい。好ましくは、ヒトの骨髄、末梢血、サイトカインなどの投与によって造血幹細胞を動員した末梢血、脾臓、肝臓、臍帯血等が挙げられる。
【0039】
造血幹細胞を培養する際には、動物細胞の培養に一般的に用いられるシャーレ、フラスコ、プラスチックバック、テフロン(登録商標)バックなどを用いて培養することが可能である。これらの培養器材に対しては、予め細胞外マトリックスや細胞接着分子などをコーティングしてもよい。このようなコーティング材料としては、コラーゲンI乃至XIX、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン−1乃至12、ニトジェン、テネイシン,トロンボスポンジン,フォンビルブランド(von Willebrand)因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、各種エラスチン、各種プロテオグリカン、各種カドヘリン、デスモコリン、デスモグレイン、各種インテグリン、E−セレクチン、P−セレクチン、L−セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリー、マトリゲル、ポリ−D−リジン、ポリ−L−リジン、キチン、キトサン、セファロース、アルギン酸ゲル、ハイドロゲル、さらにこれらの切断断片などが挙げられる。これらのコーティング材料は、遺伝子組換え技術によりアミノ酸配列を人為的に改変させたものも使用することできる。また、造血幹細胞の培養は、培地組成、pHなどを機械的に制御し、高密度での培養が可能なバイオリアクターによって行うこともできる(Schwartz RM, Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,88:6760,1991; Koller, MR, Bone Marrow Transplant, 21:653, 1998; Koller, MR,Blood, 82: 378, 1993; Astori G, Bone Marrow Transplant, 35: 1101, 2005)。
【0040】
本発明における特定化合物を用いて造血幹細胞を培養する際に用いられる栄養培地としては、組成による分類では天然培地、半合成培地、合成培地など、また、形状による分類では固形培地、半固形培地、液体培地などが挙げられる。これらのうち動物細胞の培養に用いられる栄養培地、特に造血幹細胞の培養に用いられる栄養培地であればいずれも用いることができる。このような栄養培地としては、例えばダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagles’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagles’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagles’s Minimum Essential Medium;αMEM)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、StemPro34(インビトロジェン社製)、X−VIVO 10(ケンブレックス社製)、X−VIVO 15(ケンブレックス社製)、HPGM(ケンブレックス社製)、StemSpan H3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)又はQBSF−60(クオリティバイオロジカル社製)などが挙げられる。
【0041】
これらの培地は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、アミノ酸、ビタミン、サイトカイン、ホルモン、抗生物質、血清、脂肪酸、糖などを含有してもよい。培養の際には、目的に応じてその他の化学成分あるいは生体成分を一種類以上組み合わせて添加することもできる。培地に添加される成分としては、ウシ胎児血清、ヒト血清、ウマ血清、インシュリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、2−メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、各種ビタミン、各種アミノ酸、寒天、アガロース、コラーゲン、メチルセルロース、各種サイトカイン、各種増殖因子などが挙げられる。培地に添加されるサイトカインとしては、例えばインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−14(IL−14)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−18(IL−18)、インターロイキン−21(IL−21)、インターフェロン−α(IFN−α)、インターフェロン−β(IFN−β)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、単球コロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、白血病細胞阻害因子(LIF)、オンコスタチンM(OM)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
培地に添加される増殖因子としては、トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)、マクロファージ炎症蛋白質−1α(MIP−1α)、上皮細胞増殖因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、神経細胞増殖因子(NGF)肝細胞増殖因子(HGF)、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、ケモカイン、Notchリガンド(Delta1など)、Wnt蛋白質、アンジオポエチン様蛋白質2、3、5または7(Angpt2、3、5、7)、インスリン様成長因子(IGF)、インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
また、遺伝子組替え技術によりこれらのサイトカインや増殖因子のアミノ酸配列を人為的に改変させたものも添加させることもできる。その例としては、IL−6/可溶性IL−6受容体複合体あるいはHyper IL−6(IL−6と可溶性IL−6受容体との融合タンパク質)などが挙げられる。
【0042】
以上のサイトカインや増殖因子の中で好ましくは、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−11(IL−11)、flk2/flt3リガンド(FL)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、トロンボポエチン(TPO)、エリスロポエチン(EPO)、Notchリガンド(Delta1)などが挙げられ、より好ましくは幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、トロンボポエチン(TPO)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)などが挙げられる。サイトカインや増殖因子を培養時に添加する際の濃度としては、通常は0.1ng/mL乃至1000ng/mL、好ましくは1ng/mL乃至100ng/mLが挙げられる。
【0043】
さらに、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅に有効とされている化学物質を一種類以上組み合わせて培地中に添加することができる。その様な例としては、テトラエチレンペンタアミンに代表される銅キレーター、トリコスタチンAに代表されるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、5−アザ−2’−デオキシシチジンに代表されるDNAメチル化阻害剤、オールトランスレチノイン酸に代表されるレチノイン酸受容体リガンド、ジメチルアミノベンズアルデヒドに代表されるアルデヒド脱水素酵素阻害剤、6−bromoindirubin−3’−oxime(6BIO)に代表されるグリコーゲンシンターゼキナーゼ−3阻害剤、プロスタグランジンE2などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0044】
以上の化学成分あるいは生体成分は、培地中に添加して使用するだけでなく、培養の際の基板や担体表面上に固定化して使用することもできる。具体的には、目的の成分を適切な溶媒にて溶解し、基板や担体表面上にコーティングした後、余分な成分を洗浄することにより達成される。また、基板や担体表面に予め目的の成分と特異的に結合する様な物質をコーティングしておき、その基板上に目的の成分を添加してもよい。
【0045】
本発明における特定化合物を以上に述べてきた培地に添加する場合には、まず適切な溶媒にて特定化合物を用時溶解した後、培地中での化合物濃度として100nM乃至1mM、好ましくは300nM乃至300μM、より好ましくは1μM乃至100μM、さらに好ましくは3μM乃至30μMとなるように、特定化合物を培地中に添加すれば良い。ここで、適切な溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、各種アルコールなどが挙げられるが、これらに限られるわけではない。また、特定化合物を培養の際の基板や担体表面上に固定化して使用することもできる。特定化合物は、提供時あるいは保存時に任意の形状であり得る。特定化合物は、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤のような製剤化された固体、適切な溶媒並びに溶解剤にて溶解した溶液あるいは懸濁液のような液体、又は基板や単体に結合させた状態であり得る。製剤化される際の添加物としては、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤;乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニット等の賦形剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤;ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤;脂肪酸エステル等の界面活性剤;グリセリン等の可塑剤等が挙げられる。これらの添加物は上記のものに限定されることはなく、当業者が利用可能であれば自由に選択することができる。
【0046】
造血幹細胞を培養する際の温度は、通常25乃至39℃、好ましくは33乃至39℃である。CO濃度は、通常、培養の雰囲気中、4乃至10体積%であり、4乃至6%体積が好ましい。培養期間は通常3乃至35日間であり、好ましくは5乃至21日間、より好ましくは7乃至14日間に設定すればよい。
【0047】
本発明の方法において、造血幹細胞をストローマ細胞と共培養する際には、骨髄細胞を採取した後、そのまま培養を行うことで可能である。また、骨髄を採取した上で、ストローマ細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、その他の細胞群などを分離し、骨髄を採取した個人以外のストローマ細胞と造血幹細胞の組み合わせで共培養を実施することも可能である。また、ストローマ細胞のみを培養し増殖させた後に造血幹細胞を添加し共培養を実施することも可能である。その際の培養条件や培地組成は上記に記載したものを用いることができる。
【0048】
本発明の方法により増幅された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞は、移植用の細胞として用いることができる。また、造血幹細胞は全ての血球系の分化系列へ分化が可能なので、生体外で種々の血球細胞種に分化させ移植することが可能である。さらに、本発明の方法により増幅された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞は、そのまま移植しても良いし、細胞表面の抗原を指標として、例えば磁気ビーズ法又はセルソーター法などを用いて造血幹細胞、造血前駆細胞又は血球細胞をそれぞれ濃縮した後、移植してもよい。このような細胞表面の抗原分子としては、CD2、CD3、CD4、CD8、CD13、CD14、CD15、CD16、CD19、CD24、CD33、CD34、CD38、CD41、CD45、CD56、CD66、CD90、CD133、グリコフォリンAなどが挙げられるが、これらに限られるわけではない。またこの際、増幅された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞は、採取源と同一の個人に移植されてもよいし、別の個人に移植されてもよい。
【0049】
すなわち、本発明の方法により増幅された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞は、従来の骨髄移植や臍帯血移植に代わる造血幹細胞治療用の移植片として用いることができる。本発明の方法により増幅された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞による移植法は、用いる細胞以外は、従来行われている骨髄移植や臍帯血移植と同様に行えばよい。また、本発明の方法により増幅された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞は、外傷や血管障害により誘起された神経や筋肉損傷の再生を促進する移植片として用いることができる。移植片は、本発明の方法により増幅した造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の他に、緩衝液や抗生物質、医薬品等を含む組成物としてもよい。
【0050】
本発明の方法による造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の移植片は、各種白血病に対する治療に用いられる他、種々の疾患の治療に有効である。例えば、固形癌患者に対する化学療法、放射線療法等により骨髄抑制が副作用として生じる場合、施術前に骨髄を採取しておき、生体外で増幅した造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を、施術後に患者に戻すことで、造血系の障害から早期に回復させることができる。この方法により、更に強力な化学療法を行えるようになり、化学療法の治療効果を改善する事ができる。また、本発明の方法により得られる造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を各種血液細胞に分化させ、それらを患者の体内に戻すことにより、各種血液細胞が欠乏している患者の改善を図ることができる。さらに本発明の方法は、造血細胞減少及び/又は造血機能低下を伴う疾患、造血細胞増大を伴う疾患、造血機能障害を伴う疾患、免疫細胞減少、免疫細胞増大、自己免疫を伴う疾患、免疫機能障害あるいは虚血性疾患に有効である。
【0051】
具体的な例としては、慢性肉芽腫症、重症複合型免疫不全症候群、アデノシンデアミナ−ゼ(ADA)欠損症、無ガンマグロブリン血症、Wiskott−Aldrich症候群、Chediak−Higashi症候群、後天性免疫不全症候群(AIDS)等の免疫不全症候群、C3欠損症、サラセミア、酵素欠損による溶血性貧血、鎌状赤血球症等の先天性貧血、Gaucher病、ムコ多糖症等のリソゾーム蓄積症、副腎白質変性症、各種の癌又は腫瘍とくに急性又は慢性白血病等の血液癌、Fanconi症候群、再生不良性貧血、顆粒球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症、突発性血小板減少性紫斑病、血栓性血小板減少性紫斑病、Kasabach−Merritt症候群、悪性リンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫、慢性肝障害、腎不全、手術時あるいは保存血の大量輸血患者、B型肝炎、C型肝炎、重症感染症、全身エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、混合性組織結合病、結節性多発動脈炎、橋本病、バセドー氏病、重症筋無力症、インスリン依存性糖尿病、自己免疫性溶血性貧血、蛇咬症、溶血性尿毒症症候群、脾機能亢進症、出血、Bernard−Soulier症候群、Glanzmann’s血小板無力症、尿毒症、骨髄異形成症候群、真性多血症、赤血球増多症、本態性血小板血症、骨髄増殖性疾患、外傷などによる脊髄損傷、神経損傷、神経断裂、骨格筋損傷、瘢痕、糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症等が挙げられる。
【0052】
また、本発明により増幅される造血幹細胞は、遺伝子治療用の細胞として用いることができる。造血幹細胞に対する遺伝子治療は、幹細胞が静止期にあるため目的の遺伝子の導入効率が低いこと、また、遺伝子導入のための培養中に造血幹細胞が分化してしまうこと等から困難であったが、本発明の低分子化合物を培養時に用いることによって、造血幹細胞の分化をなるべく抑えて増幅することができ、遺伝子導入効率に大幅な改善が期待できる。この遺伝子治療は、本発明の低分子化合物を用いて造血幹細胞に治療用の遺伝子を導入し、得られる遺伝子導入細胞(即ち、形質転換された造血幹細胞)を患者に移植することによって行われる。この際、導入される治療用の遺伝子は、疾患に応じてホルモン、サイトカイン、受容体、酵素、ポリペプチドなどの遺伝子が適宜選択される(Advanced in Pharmacology 40,Academic Press,1997参照)。具体的な遺伝子としては、インスリン、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、カルボキシペプチダーゼ、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、フォスフォリパーゼA2、エステラーゼ、α1−アンチトリプシン、血液凝固因子(例えば第VII因子、第VIII因子、第IX因子など)、プロテインC、プロテインS、アンチトロンビン、UDPグルクロニルトランスフェラーゼ、オルニチントランスカルバノイラーゼ、ヘモグロビン、NADPHオキシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、α−イズロニダーゼ、チトクロームP450酵素、アデノシンデアミナーゼ、ブルトンキナーゼ、補体C1〜C4、JAK3、サイトカインレセプター共通γ鎖、Ataxia Telangiectasia Mutated(ATM)、Cystic Fibrosis(CF)、ミオシリン、胸腺ホルモン因子、チモポイエチン、ガストリン、セクレチン、コレシストキニン、セロチニン、サブスタンスP、Major Histocompatibility Complex(MHC)、多剤耐性因子(MDR−1)などの遺伝子が挙げられる。
その他、疾患遺伝子の発現を抑制するRNA遺伝子も治療用の遺伝子として有効であり、本発明の方法に利用可能である。その例としては、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA、デコイRNA、リボザイムなどが挙げられる。
【0053】
造血幹細胞に治療用遺伝子を導入するには、通常動物細胞の遺伝子導入に用いられる方法、例えば、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MmoLV)等のレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、レンチウイルスベクター等のウイルス由来の遺伝子治療に用いられる動物細胞用ベクター(遺伝子治療用ベクターについては、Verma、 I.M., Nature, 389:239, 1997参照)を用いる方法、リン酸カルシウム共沈法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等を用いることができる。これらの中では、標的細胞の染色体DNAに組み込まれて恒久的に遺伝子の発現が期待できるという点から、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターが好ましい。
【0054】
例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、次のようにして作製することができる。まず、野生型アデノ随伴ウイルスDNAの両端のITR(inverted terminal repeat)の間に治療用遺伝子を挿入したベクタープラスミドと、ウイルスタンパク質を補うためのヘルパープラスミドを293細胞にトランスフェクション(Transfection)する。続いてヘルパーウイルスのアデノウイルスを感染させると、AAVベクターを含むウイルス粒子が産生される。あるいは、アデノウイルスの代わりに、ヘルパー機能を担うアデノウイルス遺伝子を発現するプラスミドをトランスフェクションしてもよい。次に、得られるウイルス粒子を造血幹細胞に感染させる。ベクターDNA中において、目的遺伝子の上流には、適当なプロモーター、エンハンサー、インシュレーター等を挿入し、これらによって遺伝子の発現を調節することが好ましい。さらに、治療用遺伝子に加えて薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を導入すると、治療用遺伝子が導入された細胞の選択が容易となる。治療用遺伝子は、センス遺伝子であってもアンチセンス遺伝子であってもよい。
【0055】
造血幹細胞に治療用遺伝子を導入する際の培養法は、造血幹細胞を増幅するために上述した方法を基に当事者により適宜選択される。遺伝子の導入効率は、当該分野の標準的な方法により評価することができる。また、別途遺伝子を導入された造血幹細胞(形質転換された造血幹細胞)を、造血幹細胞を増幅するための上述した方法により増幅して形質転換された造血幹細胞とし、得られた形質転換された造血幹細胞を遺伝子治療用に用いることもできる。
【0056】
遺伝子治療用の移植片は、形質転換された造血幹細胞の他に、緩衝液や抗生物質、医薬品等を含む組成物としてもよい。
【0057】
血液細胞を標的細胞とする遺伝子治療の対象となる疾患としては、慢性肉芽腫症、重症複合型免疫不全症候群、アデノシンデアミナ−ゼ(ADA)欠損症、無ガンマグロブリン血症、Wiskott−Aldrich症候群、Chediak−Higashi症候群、後天性免疫不全症候群(AIDS)等の免疫不全症候群、B型肝炎、C型肝炎、サラセミア、酵素欠損による溶血性貧血、Fanconi貧血、鎌状赤血球症等の先天性貧血、Gaucher病、ムコ多糖症等のリソゾーム蓄積症、副腎白質変性症、各種の癌、腫瘍等が挙げられる。
【0058】
また、本発明における特定化合物は、造血幹細胞を生体内で増幅させることが予防、治療及び改善に有効である疾患の薬剤として用いることができる。本発明における特定化合物を有効成分として含有する薬剤は、通常錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、シロップ剤などの経口投与剤、直腸投与剤、経皮吸収剤あるいは注射剤として投与できる。本剤は1個の治療剤として、あるいはほかの治療剤との混合物として投与できる。それらは単体で投与してもよいが、一般的には医薬組成物の形態で投与する。混合する他の治療剤としては、コロニー刺激因子、サイトカイン、ケモカイン、インターロイキンまたはサイトカイン受容体アゴニストもしくはアンタゴニスト、可溶性受容体、受容体アゴニストもしくはアンタゴニスト抗体、あるいは1個またはそれ以上の前記作用物質と同じ機構で作用する小分子及びペプチドからなる群から選択される治療上の有効量の作用物質が挙げられる。それらの製剤は、薬理的、製剤学的に許容しうる添加物を加え、常法により製造することができる。すなわち、経口剤には通常の賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、可塑剤、コーティング剤などの添加物を使用することができる。経口用液剤は、水性または油性懸濁液、溶液、乳濁液、シロップ、エリキシルなどの形態であってもよく、あるいは使用前に水またはほかの適当な溶媒で調製するドライシロップとして供されてもよい。前記の液剤は、懸濁化剤、香料、希釈剤あるいは乳化剤のような通常の添加剤を含むことができる。直腸内投与する場合は座剤として投与することができる。坐剤はカカオ脂、ラウリン脂、マクロゴール、グリセロゼラチン、ウィテップゾール、ステアリン酸ナトリウムまたはそれらの混合物など、適当な物質を基剤として用い、必要に応じて乳化剤、懸濁化剤、保存剤などを加えることができる。注射剤は、水性剤形あるいは用時溶解型剤形を形成するために、注射用蒸留水、生理食塩水、5質量%ブドウ糖溶液、プロピレングリコールなどの溶解剤ないし溶解補助剤、pH調節剤、等張化剤、安定化剤などの製剤成分が使用される。
【0059】
本発明における特定化合物を含有する薬剤をヒトに投与する場合は、その投与量を患者の年齢、状態により決定するが通常成人の場合、経口剤あるいは直腸内投与では0.1〜1000mg/ヒト/日程度、注射剤で0.05mg〜500mg/ヒト/日程度である。これらの数値はあくまでも例示であり、投与量は患者の症状にあわせて決定されるものである。
【0060】
本発明は、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅する活性を有する化合物を使用することにより病態の改善が期待できる時に使用される。本発明における特定化合物を含有する薬剤の対象となる疾患としては、造血幹細胞の減少を伴う疾患、変性疾患及び損傷が挙げられる。具体的には、先天性貧血、再生不良性貧血、自己免疫性貧血、骨髄異形成症候群、顆粒球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症、突発性血小板減少性紫斑病、血栓性血小板減少性紫斑病、Kasabach−Merritt症候群、各種の癌又は腫瘍に伴う造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の減少症、癌化学療法或いは放射線療法に伴う造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の減少症、急性放射性症候群、骨髄・臍帯血・末梢血移植後の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の回復遅延、輸血に伴う造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の減少症、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患、遺伝性血液疾患、横断脊髄炎、多発性硬化症、脳または脊髄への外傷後に生じる脱髄、急性脳損傷、頭部外傷、脊髄損傷、末梢神経損傷、虚血性脳損傷、遺伝性CNSミエリン障害、癲癇、周産期窒息、窒息、酸素欠乏症、癲癇重積症、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、禿頭症、筋萎縮性側索硬化症、心血管疾患、心筋梗塞、心臓血管疾患、肝疾患、胃腸疾患、腎疾患、軽傷、加齢損傷細胞、加齢損傷組織、狼瘡、糖尿病、骨粗鬆症、グルココルチコイド誘導型骨粗鬆症、パジェット病、異常増進骨代謝、歯周病、歯肉炎、歯の脱落、骨折、関節炎、関節リウマチ、変形性関節症、人工装具周辺の骨溶解、骨形成不全症、転移性骨疾患、黄斑変性症、乾性眼症候群、白内障、糖尿病性網膜症、緑内障、硝子体疾患及び網膜変性等が挙げられる。
【0061】
本発明による造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の好ましい増幅方法、遺伝子導入方法並びに増幅或いは遺伝子導入された造血幹細胞の移植方法を以下に例示する。
【0062】
まず、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅は、例えば臍帯血、骨髄、末梢血などを採取し、そこから造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を豊富に含む細胞集団を分離することにより行われる。この様な細胞集団としてはCD34陽性細胞、CD34陽性CD38陰性細胞、CD90陽性細胞、CD133陽性細胞などが挙げられる。例えばCD34陽性細胞は、比重遠心法及び磁気細胞分離(Magnetic Cell Sorting;MACS)システム又はフローサイトメトリー(Flow Cytometry)を組み合わせることにより分離することができる。例えばCPD液(クエン酸−リン酸−デキストラン)添加血液を、比重遠心法などにより分画し、単核球を多く含む画分(以下、有核細胞画分という。)を分離回収する。比重遠心法としては、例えばデキストランやFicoll液を用いた比重遠心法、Ficoll−paque密度勾配法、Percoll不連続密度勾配比重遠心法、Lymphoprepを用いた密度勾配比重遠心法などが挙げられる。ついで、抗ヒトCD34モノクローナル抗体を固定した磁気ビーズ(ミルテニー・バイオテク社製;以下、CD34抗体磁気ビーズという。)と上記分離回収した有核細胞画分を混合し、次いで約2乃至8℃でインキュベーション(約30分)し、有核細胞画分中のCD34陽性細胞をこの抗体磁気ビーズに結合させる。結合した抗体磁気ビーズ/CD34陽性細胞を専用磁気細胞分離装置、例えばオートMACSシステム(ミルテニー・バイオテク社製)などを用い分離回収する。このようにして得られたCD34陽性細胞について、本発明の低分子化合物を用いた培養を行う。CD34陽性細胞を培養する際の条件、培養装置、培地の種類、本発明化合物の種類、本発明化合物の含量、添加物の種類、添加物の含量、培養期間、培養温度などは、本明細書に記載した範囲から当事者により適宜選択されるが、これらに限定されるものではない。CD34陽性細胞に遺伝子を導入する際には、予め目的とする遺伝子を当該分野の標準的な方法によりベクターにクローニングし、本ベクターをCD34陽性細胞と本発明における特定化合物と共に培養すればよい。この際の目的遺伝子の種類、ベクターの種類、遺伝子導入方法、培養方法などは、本明細書に記載した範囲を基に当事者により適宜選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
培養後、トリパンブルー法などにより全細胞数を測定するとともに、培養された細胞をFITC(フルオロセインイソチオシアネート)、PE(フィコエリスリン)、APC(アロフィコシアニン)などの蛍光色素により標識された抗CD34抗体及び抗CD38抗体により染色し、CD34陽性CD38陰性細胞の割合をフローサイトメトリーにて解析することにより、培養された細胞中の造血幹細胞と造血前駆細胞がどれだけ増幅されたかを判断することができる。さらに、その培養液の一部をコロニーアッセイに供し、形成されるHPP−CFCコロニー数を測定することにより、最も未分化な造血前駆細胞の割合を判断することができる。細胞に導入された遺伝子は、細胞からDNA或いはRNAを抽出しサザンブロッティング法、ノーザンブロッティング法、RT−PCR法(Reverse Transeriptase Polymerase Chain Reaction法)などによって検出することができる。また、導入された遺伝子から発現された蛋白質を、特異的抗体を用いてELISA(Enzyme Linked ImmunoSorbent Assay)やフローサイトメトリーにより検出したり、その機能的活性を各種酵素アッセイにより検出し、目的の遺伝子の導入効率を判断することができる。
【0064】
増幅或いは遺伝子導入された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞は、例えば白血病の治療の場合、がん細胞の撲滅やドナー細胞の生着促進を目的とした抗がん剤、全身放射線照射或いは免疫抑制剤による前処置を受けた患者に対し、点滴により輸注すればよい。この際、治療の対象とする疾患の種類、前処置方法並びに細胞移植方法は、当事者により適宜選択される。移植された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞のレシピエント(Recipient)への生着と造血の回復や、移植に伴う副作用の有無、治療の効果は、移植治療における一般的な方法により適宜検査され、判断することができる。
【0065】
以上のとおり本発明によって、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅方法、さらに増幅した細胞を用いて安全に、簡便で、しかも短期間で移植治療並びに遺伝子治療を行うことができる。
【0066】
さらに、本発明の方法により造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞が効率よく増幅されるため、本発明における特定化合物は造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の研究用試薬として用いることができる。例えば、造血幹細胞や造血前駆細胞の分化や増殖を調節する因子を解明する際、造血幹細胞や造血前駆細胞と目的の因子を共存させて培養した時のコロニー形成細胞の種類、細胞表面分化マーカーや発現遺伝子の変化を解析するが、この際に特定化合物を添加することにより解析する造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の数を効率よく増幅することができる。目的とする因子の解明時の培養条件、培養装置、培地の種類、本発明化合物の種類、本発明化合物の含量、添加物の種類、添加物の含量、培養期間、培養温度などは、本明細書に記載した範囲から当事者により適宜選択される。培養により出現したコロニー形成細胞は、当該分野にて標準的な顕微鏡を用いて観察することができる。この際、コロニー形成細胞について特異的抗体を用いて染色してもよい。目的の因子により変化した発現遺伝子は、細胞からDNA(デオキシリボ核酸)或いはRNA(リボ核酸)を抽出しサザンブロッティング法、ノーザンブロッティング法、RT−PCR法などによって検出することができる。また、細胞表面分化マーカーは、特異的抗体を用いてELISAやフローサイトメトリーにより検出し、目的の因子による分化や増殖に対する効果を観察することができる。
【0067】
本発明の方法で用いられる特定化合物の調製手段は特に問われず、化学的合成法によるもの、当該化合物を含有する植物体などから抽出して得られるもの、若しくは前記の植物体などからの抽出物をもとにして、その化合物の置換基に更なる化学的修飾を施すものなどいずれでもよい。
植物体からの抽出物に対する化学的修飾の例としては、植物体からの抽出で得られた式(I)で表される化合物が、そのR、Rに相当する置換基として水酸基をもつ場合に、その水酸基を、C1−3アルコキシ基、C1−3アルキルスルホニル基、単糖残基、オリゴ糖残基又はアミノ酸残基などに変換する化学修飾が挙げられる。
【0068】
以下、本発明で用いられる特定化合物について使用される用語の定義及び最良の形態について説明する。
本発明に使用する化合物中、「n」はノルマルを、「i」はイソを、「t−」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを意味する。
【0069】
まず、置換基RからRなど本明細書に記載の各置換基における語句について説明する。
1−3アルキル基とは炭素原子を1乃至3個有するアルキル基であり、直鎖、分枝若しくはCシクロアルキル基を含んでいてもよく、その具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、c−プロピル基等が挙げられ、好ましい例としてはメチル基が挙げられる。
1−10アルキル基とは炭素原子を1乃至10個有するアルキル基であり、直鎖、分枝若しくはC3-10シクロアルキル基を含んでいてもよく、その具体例としては、前記のC1−3アルキル基のほか、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
2−10アルケニル基とは炭素原子を2乃至10個有するアルケニル基であり、直鎖、分枝若しくはC3-10シクロアケニル基を含んでいてもよく、不飽和結合を1乃至3個有する。その具体例としては、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、1,1−ジメチルビニル基、シクロヘキセニル基、3−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基などが挙げられる。
1−3アルコキシ基とは、炭素原子を1乃至3個有するアルコキシ基であり、そのアルキル部分は前記のC1−3アルキル基である。その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、c−プロポキシ基等が挙げられ、好ましい例としてはメトキシ基が挙げられる。
1−3アルキルスルホニル基とは、炭素原子を1乃至3個有するアルキルスルホニル基であり、そのアルキル部分は前記のC1−3アルキル基である。その具体例としてはメチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、i−プロピルスルホニル基、c−プロピルスルホニル基等が挙げられ、好ましい例としてはメチルスルホニル基が挙げられる。
【0070】
単糖残基とは、炭素原子を1乃至6個有する糖残基であり、その単糖の具体例としては、グリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、キシリロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等が挙げられ、好ましい例としてはグルコース、マンノース、ガラクトースが挙げられる。
オリゴ糖残基とは、2乃至6個の単糖がグルコシド結合により繋がった糖残基であり、そのオリゴ糖の具体例としては、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等が挙げられ、好ましい例としてはスクロース、ラクトースが挙げられる。
アミノ酸残基とは、炭素原子を2乃至11個有するα−アミノ酸残基であり、そのアミノ酸の具体例としては、トリプトファン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、ヒスチジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシン等が挙げられ、好ましい例としてはグリシン、アルギニンが挙げられる。
がRと一緒になって単結合を形成している、とは、Rが結合している酸素原子とRが結合している炭素原子が単結合で連結していることを意味する。RがRと一緒になって単結合を形成している、も同じである。
また、RがRと一緒になって単結合を形成している、とは、Rが結合している炭素原子とRが結合している炭素原子が単結合で連結していることを意味し、結果として両炭素原子が二重結合で結合していることを意味する。RがRと一緒になって単結合を形成している、も同じである。
【0071】
次に一般式(I)における各置換基の好ましい構造を挙げる。
とRは、好ましくはC1−3アルコキシ基又は水酸基であり、より好ましくは水酸基である。そして、RとRは同一であっても互いに異なっていてもよい。
おけるC1−10アルキル基は、好ましくは炭素を4乃至6個有するアルキル基であるC4−6アルキル基であり、より好ましくは炭素を5個有するアルキル基であるCアルキル基であり、さらに好ましくは3−メチル−ブチル基である。
は好ましくはC2−10アルケニル基である。RにおけるC2−10アルケニル基としては、好ましくは炭素を4乃至6個有し不飽和結合を1個有し、直鎖状又は分岐状であるアルケニル基であるC4−6アルケニル基であり、より好ましくは炭素を5個有し不飽和結合を1個有し直鎖状又は分岐状であるアルケニル基であるCアルケニル基であり、さらに好ましくは3−メチル−3−ブテニル基又は3−メチル−2−ブテニル基であり、特に好ましくは3−メチル−2−ブテニル基である。
【0072】
本発明に用いる特定化合物の好ましい具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
(1)一般式(I)において、R、Rが共に水素原子であり、Rが水素原子であり、RとRが一緒になって単結合である化合物。
(2)さらに、その化合物が下記(II)で示される特定の立体配置をとるガルシノール〔(Garcinol;別名 カンボジノール(Camboginol))。
【0073】
【化4】

(3)一般式(I)において、R、Rが共に水素原子であり、RとRが一緒になって単結合であり、Rが水素原子である化合物。
(4)さらに、その化合物が下記(III)で示される特定の立体配置をとるイソガルシノール〔(Isogarcinol;別名 カンボジン(Cambogin))。
【0074】
【化5】

(5)下記式(IV)で示されるキサントチモール(Xanthochymol)。
【0075】
【化6】

(6)下記式(V)で示されるイソキサントチモール(Isoxanthochymol)。
【0076】
【化7】

(7)下記式(VI)で示されるO−モノメチルイソガルシノール。
【0077】
【化8】

それらの中でも、ガルシノール(参考文献:Krishnamurthy, N. et al. Tetrahedron Lett. 1981;793.)及びイソガルシノールは、特に強い造血幹細胞の増幅活性を有することから、本発明に好適に用いられる。
【0078】
本発明の方法で用いられる特定化合物の形態は、例えば該化合物を含有している植物体自体もしくはその粉砕物(それらは生、乾燥物どちらでもよい)、後述する植物体の抽出物自体及び/又はその部分精製物が挙げられる。
本発明に用いられる特定化合物を含有している植物としては、オトギリソウ科に属する植物、例えば熱帯性植物であるGarcinia cambogia(英名:Goraka)、Garcinia indica(英名:Kokam)、Garcinia purpurea、Garcinia mangostana、Garcinia subellipticaなどを挙げることができる。当該植物は、その果実、果皮、樹木、樹皮、樹液などいずれでも用いられる。Garcinia cambogia又はGarcinia indicaの乾燥果実は、インド各地において料理の酸味料として大量に生産されているので、それを用いてもよい。また近年ではこれらの乾燥果実から、ヒドロキシクエン酸の抽出が工業的に大規模に行われており、その際に生ずる産業廃棄物であるその抽出残渣を用いることもできる。
【0079】
本発明における特定化合物は、合成法でも得ることができるが、当該化合物を含有している前記の各種植物体から慣用技術を用いて抽出することにより得るのが好適である。その抽出においては、有機溶媒や超臨界ガスを用いると当該化合物を効率よく抽出できる。その際の有機溶媒としては、例えば、メタノ−ル、エタノ−ル、アセトン、酢酸エチル、又はそれらの含水物、クロロホルム、ジクロロメタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等を挙げることができる。本発明における特定化合物の抽出には、これら有機溶媒の中でも、エタノ−ル、アセトン、ヘキサンなどが好ましく用いられる。また、超臨界ガスを用いて抽出するには、例えば超臨界ガスとして炭酸ガスなどが用いられ、これにエントレーナー(Entrainer)としてエタノール、水などを加え、温度;0〜100℃、好ましくは20〜40℃、圧力;5〜2000kg/cm、好ましくは20〜800kg/cm、時間;5分〜4日間、好ましくは30分〜20時間などの条件を適宜組み合わせて行なうことができる。本発明においては、それらいずれの方法で抽出した抽出物も使用できる。
【0080】
本発明における特定化合物を得るには、公知の抽出法、精製法に従えばよい(参考文献:Krishnamurthy, N. et al., Tetrahedron Lett.22;793.1981、Munekazu,I.et al.,Biol.Pharm.Bull.19;311.1996、Delphine R.et al.,J.Nat.Prod.63;1070.2000、Chihiro,I.et al.,J.Nat.Prod.66;206.2003)。例えば、前記した植物の果実、果皮、樹木、樹皮等を適当に破砕した後、それらの粉砕物、又は該植物の樹液を前記の有機溶媒で公知の方法を用いて処理する。具体的には、原料の1〜100倍(重量比)、好ましくは3〜20(重量比)の有機溶媒で、温度0℃以上、好ましくは10℃から有機溶媒の沸点以下の温度条件下で、1分〜8週間、好ましくは10分〜1週間抽出処理をすれば、当該化合物を含む抽出物が得られる。上記のごとくして得られる抽出処理物自体を本発明の方法に用いてもよいが、好ましくは有機溶媒を通常の方法、例えばロータリエバポレーターなどを使用して除去するのがよい。この有機溶媒除去物に、凍結乾燥、加熱乾燥などの慣用技術処理を更に施してもよい。この抽出物から当該化合物を精製するには、公知の天然有機化合物の分離・精製法を採用すればよい。例えば、液−液抽出、分別沈澱、結晶化、各種のイオン交換クロマトグラフィー、セファデックスLH−20等を用いたゲル濾過クロマトグラフィー、活性炭、シリカゲル等による吸着クロマトグラフィーもしくは薄層クロマトグラフィーによる活性物質の吸脱着処理、あるいは逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー等を単独あるいは任意の順序に組み合わせ、また反復して用いることにより、不純物を除き精製することができる。具体的には、前記した抽出物をODS−カラムクロマトグラフィーに供し、60〜100%(v/v)エタノール溶液(または適宜の濃度のメタノール或いはアセトニトリルでもよい)で溶出・分画する。これらのクロマトグラフィーによって分離される成分を集め、濃縮・結晶化すると当該化合物が得られる。そして、ここで得られた当該化合物は、合成法によってさらに別の誘導体に変えることもでき、そのようにして得た当該誘導体も、本発明においては有効に使用できる(参考文献:Mantelingu,K.et al.,Chemistry & Biology.14;645.2007、特開平11−29465)。
【0081】
具体的には、ガルシノール又はイソガルシノールが前記した植物から得られた場合、その一般式(I)で表される化合物のR及び/又はRに当たる水酸基を、C1−3アルコキシ基、C1−3アルキルスルホニル基、グルコースあるいはフルクトースなどの単糖残基、スクロース、ラクトースなどのオリゴ糖残基、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸残基などに置換した誘導体も本発明に使用できる。置換基がC1−3アルコキシ基である誘導体を得るには、炭酸カリウム等の塩基の存在下、対応するアルキルハライド等を例えばガルシノール又はイソガルシノールに反応させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどで分離精製することにより調製することができる。置換基がC1−3アルキルスルホニル基である誘導体を得るには、常法にしたがって行なえばよく、例えばガルシノール又はイソガルシノールをピリジンに溶解した後、アルキルスルホン酸塩化物と反応させることにより得られる。また、置換基がグルコース残基である誘導体を得るには、常法にしたがって行なえばよく、例えばガルシノール又はイソガルシノールをピリジンに溶解し、1−ブロム−アセチルグルコース200mgを添加し、所定時間反応させた後、濃縮し、メタノールに溶解し、炭酸カリウムの存在下で脱アセチルする。常法により、これを濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどで分離精製することにより、一般式(I)又は一般式(II)の14位にグルコースが置換された目的の14−O−グリコピラノシル誘導体が得られる。
前記した抽出物、精製工程における部分精製物、その最終精製物、又は当該最終精製物を前記のようにして置換した誘導体のいずれかを有効成分として含有させれば、本発明に用いることができる。その際、それらの中から1種類を使用することができ、また2種類以上を併用することもできる。
【0082】
本発明における一般式(I)で示される化合物は、必要に応じて製薬上許容される塩に変換することも、又は生成した塩から遊離させることもできる。本発明における製薬上許容される塩としては、例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)、アンモニウム、有機塩基及びアミノ酸との塩などが挙げられる。また無機酸(塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸など)及び有機酸(酢酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸など)との塩も可能である。本発明における一般式(I)で示される化合物或いはその製薬上許容される塩は、製造条件により任意の結晶形として存在することができ、任意の水和物として存在することができるが、これら結晶形や水和物及びそれらの混合物も本発明の範囲に含有される。またアセトン、エタノール、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を含む溶媒和物として存在することもあるが、これらの形態はいずれも本発明の範囲に含有される。
ガルシノール又はイソガルシノールはGarcinia属植物の果実に広く分布するものである。また当該果実は食用とされるものであるが、その果肉に毒性の報告例が皆無であることから、当該化合物の急性毒性は認められない。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、COインキュベーターにおけるCOの濃度(%)は、雰囲気中のCOの体積%で示した。またPBSはリン酸緩衝生理食塩水(シグマアルドリッチジャパン社製)を意味し、FBSは牛胎児血清(ハナ・ネスコバイオ社製)を意味する。
また、MSとは質量分析であり、m/zは質量スペクトルを表わす。
【0084】
(参考合成例1:イソガルシノールの合成)
ガルシノール150mg(0.249mmol)のトルエン溶液(1.2mL)に対して、濃塩酸60μLを室温で添加して、10時間撹拌させた。一終夜、冷蔵庫で静置した後、析出した固体をろ取して、水6mLですすいだ。得られた固体にアセトニトリル0.6mLを添加したところ、スラリー状になった。スラリーをろ取した後、得られたろ液から再び生じたスラリーをろ取した。合わせて得られた固体を40〜50℃で一終夜、減圧乾燥することによって、イソガルシノール68.7mg(収率46%)を得た。
形状:白色固体
MS m/z:603[M+H]
【0085】
(参考合成例2:O−モノメチルイソガルシノールの合成)
参考合成例1にて合成したイソガルシノール46.0mg(76μmol)のアセトン溶液(0.8mL)に対して、窒素雰囲気下、炭酸カリウム158mg(1.14mmol)とヨードメタン71μL(1.1mmol)を室温で添加した。40分間撹拌した後、水20mLを添加した。次いで、酢酸エチル80mLで抽出した後、飽和重曹水20mL、飽和食塩水20mLで順次洗浄した。その後、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ過、減圧濃縮した。得られた残渣46.8mgをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(ヘキサン/酢酸エチル=100/0→85/15(v/v))した後、減圧濃縮した。得られた粘体を40乃至50℃で一終夜、減圧乾燥することによって、下記式(VI)で表されるO−モノメチルイソガルシノール17.7mg(収率38%)を得た。
形状:薄黄白色固体
MS m/z:617[M+H]
【0086】
【化9】

【0087】
(試験例1:ヒト臍帯血CD34陽性細胞を用いたCD34陽性及びCD34陽性CD38陰性細胞の増幅試験)
Lonza社より購入したヒト臍帯血のCD34陽性細胞を、24ウエルプレート(コーニング社製)にプレーティングした(10000細胞/1mL/ウエル)。用いた培地は、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)に、最終濃度100ng/mLのSCF(和光純薬工業社製)及び最終濃度20ng/mLのTPO(PeproTech社製)を添加したものであり、さらに、ジメチルスルホキシド中に溶解したガルシノール(コスモバイオ社製)を最終濃度5或いは10μMとなるように培地に対して0.1%(v/v)添加した。同様に、ジメチルスルホキシド中に溶解したイソガルシノール(参考合成例1)を最終濃度2或いは5μMとなるように培地に対して0.1%(v/v)別途添加した。この際、陰性対照としては、0.1%(v/v)のジメチルスルホキシドを添加した培地を用いた。
【0088】
37℃で7日間、COインキュベーター(5%CO)内で液体培養した後、生細胞数をトリパンブルー法にて測定した。CD34陽性CD38陰性細胞数は、以下の通りに算出した。まず、液体培養後の細胞をCD34抗体(APC、ベクトンディッキンソン社製)及びCD38抗体(PE、ベクトンディッキンソン社製)にて染色した。染色された細胞を、2%(v/v)FBS含有PBS(−)溶液で洗浄した後、ヨウ化プロピジウム(シグマアルドリッチジャパン社製)を最終濃度5μg/mLになるように加えて染色した。染色された細胞を、BD FACSCANTOTM(登録商標)II フローサイトメーター(ベクトンディッキンソン社製)で解析して、CD34陽性細胞及びCD34陽性CD38陰性細胞比率を求め、生細胞数にその比率を乗じることにより、CD34陽性細胞及びCD34陽性CD38陰性細胞数を算出した。
【0089】
その結果、本発明における化合物は優れたCD34陽性細胞及びCD34陽性CD38陰性細胞の増幅活性を示し、造血幹細胞及び造血前駆細胞の増幅活性を有することが確認された。化合物無添加時のCD34陽性細胞数を1としたときの、5或いは10μMのガルシノール添加時の増幅率を示した結果を図1に示す。また、化合物無添加時のCD34陽性CD38陰性細胞数を1としたときの、5或いは10μMのガルシノール添加時の増幅率並びに2或いは5μMのイソガルシノール添加時の増幅率を示した結果を図2に示す。
【0090】
(試験例2:ヒト臍帯血CD34陽性細胞を用いたCD34陽性CD38陰性細胞の増幅試験)
試験例1と同様に購入したヒト臍帯血のCD34陽性細胞を、24ウエルプレート(コーニング社製)にプレーティングした(10000細胞/1mL/ウエル)。用いた培地は、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)に、最終濃度100ng/mLのSCF(和光純薬工業社製)及び最終濃度20ng/mLのTPO(PeproTech社製)を添加したものであり、さらに、ジメチルスルホキシド中に溶解したO−モノメチルイソガルシノール(参考合成例2)を最終濃度1或いは2μMとなるように培地に対して0.1%(v/v)添加した。
【0091】
37℃で7日間、COインキュベーター(5%CO)内で液体培養した後、生細胞数をトリパンブルー法にて測定した。CD34陽性CD38陰性細胞数は、試験例1と同様の方法にて算出した。
【0092】
その結果、本発明における化合物は優れたCD34陽性細胞及びCD34陽性CD38陰性細胞の増幅活性を示し、造血幹細胞及び造血前駆細胞の増幅活性を有することが確認された。化合物無添加時のCD34陽性CD38陰性細胞数を1としたときの、1或いは2μMのO−モノメチルイソガルシノール添加時の増幅率を示した結果を図3に示す。
【0093】
(試験例3:ヒト臍帯血CD34陽性細胞を用いたCD34陽性CD38陰性細胞の増幅試験)
試験例1と同様に購入したヒト臍帯血のCD34陽性細胞を、24ウエルプレート(コーニング社製)にプレーティングした(10000細胞/1mL/ウエル)。用いた培地は、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)に、最終濃度100ng/mLのSCF(和光純薬工業社製)を添加したものであり、さらに、最終濃度20ng/mLのTPO(PeproTech社製)、最終濃度100ng/mLのFlt−3リガンド(FL、和光純薬工業社製)或いは最終濃度10μMのガルシノールを組み合わせて添加した。
【0094】
37℃で7日間、COインキュベーター(5%CO)内で液体培養した後、生細胞数をトリパンブルー法にて測定した。CD34陽性CD38陰性細胞数は、試験例1と同様の方法にて算出した。
【0095】
その結果、本発明における化合物はSCF単独、SCF及びTPOの共存下或いはSCF、TPO及びFLの共存下で無添加条件よりも優れたCD34陽性CD38陰性細胞の増幅活性を示すことが確認された。
最終濃度100ng/mLのSCF存在下で化合物無添加時のCD34陽性CD38陰性細胞数を1としたときの、10μMのガルシノール並びに各種サイトカイン添加時の増幅率を示した結果を図4に示す。
【0096】
(試験例4:ヒト臍帯血CD34陽性細胞を用いたHPP−CFUの増幅試験)
本発明化合物であるガルシノール及びイソガルシノールの造血前駆細胞に関する作用を、血球コロニー形成法により測定した。試験例1にて調製した細胞培養液を、メソカルトGF H4435培地(Stem Cell Technologies社製)とともに3.5cmシャーレに500個細胞/シャーレとなる様に添加し、12日間、COインキュベーター(5%CO、37℃)内で培養した。定法に従って、1シャーレあたりのHPP−CFCコロニー数を顕微鏡にて測定した。試験は2回以上行い、その平均値をHPP−CFCコロニー数として評価した。
その結果、本発明における化合物は、優れたHPP−CFCコロニー形成促進作用を有し、造血前駆細胞の増幅活性を有することが確認された。その結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
(試験例5:免疫不全(NOD/SCID)マウスへの培養細胞の移植試験)
試験例1と同様の方法にて最終濃度10μMのガルシノール(コスモバイオ社製)を添加した条件又は無添加の条件(培地に対して0.1%(v/v)のジメチルスルホキシドを添加した条件。)で培養した細胞を、致死量以下の放射線照射(2.75乃至3Gy)した7乃至8週齢NOD/SCIDマウスに尾静脈内注射にて初期のCD34陽性細胞数で換算して4乃至5×10個/匹あたりで5匹以上に移植した。移植後8週目に当該マウスを屠殺し、左右の大腿骨から骨髄細胞を採取した。引き続き、骨髄細胞をヒトCD45抗体(APC、ベクトンディッキンソン社製)にて染色した。染色された細胞を、2%(v/v)FBS含有PBS(−)溶液で洗浄した後、ヨウ化プロピジウム(シグマアルドリッチジャパン社製)を最終濃度5μg/mLになるように加えて染色した。染色された細胞をフローサイトメトリーで解析して、骨髄細胞中に含まれるヒトCD45陽性細胞率を算出した。その結果、本発明化合物は優れたSRC増幅作用を有し、造血幹細胞の増幅活性を有することが確認された。
無添加条件で培養したCD34細胞を免疫不全マウスに移植した際のヒトCD45陽性細胞生着率を1としたときの、10μMのガルシノール添加時培養のヒトCD45陽性細胞生着率を第5図に示す。
【0099】
製剤例1
以下の成分を含有する顆粒剤を製造する。
成分
式(I)で表される化合物 10mg
乳糖 700mg
コーンスターチ 274mg
HPC−L 16mg
(計 1000mg)
式(I)で表される化合物と乳糖を60メッシュのふるいに通す。コーンスターチを120メッシュのふるいに通す。これらをV型混合機にて混合する。混合末に低粘度ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)水溶液を添加し、練合、造粒(押し出し造粒:孔径0.5〜1mm)した後、乾燥する。得られた乾燥顆粒を振動ふるい(12/60メッシュ)で篩過し顆粒剤を得る。
【0100】
製剤例2
以下の成分を含有するカプセル充填用散剤を製造する。
成分
式(I)で表される化合物 10mg
乳糖 79mg
コーンスターチ 10mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
(計 100mg)
式(I)で表される化合物と乳糖を60メッシュのふるいに通す。コーンスターチを120メッシュのふるいに通す。これらとステアリン酸マグネシウムをV型混合機にて混合する。10倍散100mgを5号硬ゼラチンカプセルに充填する。
【0101】
製剤例3
以下の成分を含有するカプセル充填用顆粒剤を製造する。
成分
式(I)で表される化合物 15mg
乳糖 90mg
コーンスターチ 42mg
HPC−L 3mg
(計 150mg)
式(I)で表される化合物と乳糖を60メッシュのふるいに通す。コーンスターチを120メッシュのふるいに通す。これらをV型混合機にて混合する。混合末に低粘度ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)水溶液を添加し、練合、造粒した後、乾燥する。得られた乾燥顆粒を振動ふるい(12/60メッシュ)で篩過し整粒し、その150mgを4号硬ゼラチンカプセルに充填する。
【0102】
製剤例4
以下の成分を含有する錠剤を製造する。
成分
式(I)で表される化合物 10mg
乳糖 90mg
微結晶セルロース 30mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
CMC−Na 15mg
(計 150mg)
式(I)で表される化合物と乳糖と微結晶セルロース、CMC−Na(カルボキシメチルセルロース ナトリウム塩)を60メッシュのふるいに通し、混合する。混合末にステアリン酸マグネシウムを添加し、製剤用混合末を得る。本混合末を直打し150mgの錠剤を得る。
【0103】
製剤例5
静脈用製剤は次のように製造する。
式(I)で表される化合物 100mg
飽和脂肪酸グリセリド 1000mL
上記成分の溶液は通常、1分間に1mLの速度で患者に静脈内投与される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明における特定化合物は、生体外培養での有効成分として用いることにより、ヒトの造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を、無添加に比べてより未分化の状態で増幅できる。本化合物を利用して増幅或いは遺伝子導入された細胞は、造血機能不全、虚血や免疫機能障害を伴う疾患に対する移植用造血幹細胞として有用であるため、細胞治療、遺伝子治療への応用が期待できる。また、本発明における特定化合物は、ヒトの造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅する効果を有するため、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の減少を伴う疾患に対する医薬品としての応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体若しくはその医薬的に許容され得る塩又はそれらの溶媒和物の存在下、造血幹細胞を生体外で培養して造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を増幅させることを特徴とする造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【化1】

[式中、R及びRはそれぞれ同一若しくは異なって水素原子、C1−3アルキル基、C1−3アルコキシ基、水酸基、C1−3アルキルスルホニル基、単糖残基、オリゴ糖残基又はアミノ酸残基を意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、Rは、Rと一緒になって単結合を形成していることを意味するか、又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、RはC1−10アルキル基又はC2−10アルケニル基を意味する。]
【請求項2】
及びRが共に水酸基である、請求項1に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項3】
が3−メチル−2−ブテニル基又は3−メチル−3−ブテニル基である、請求項1又は2に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項4】
が水素原子であり、RとRが一緒になって単結合を形成している、請求項1から3のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項5】
式(I)で表される化合物が下記式(II)で表される化合物である、請求項4に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【化2】

【請求項6】
とRが一緒になって単結合を形成し、Rが水素原子であり、Rが3−メチル−2−ブテニル基である、請求項1から3のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項7】
式(I)で表される化合物が下記式(III)で表される化合物である、請求項6に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【化3】

【請求項8】
生体外で培養する造血幹細胞が、CD34陽性細胞である、請求項1から7のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項9】
生体外で培養する造血幹細胞が、CD34陽性CD38陰性細胞である、請求項1から7のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項10】
増幅された細胞が、HPP−CFCコロニー形成細胞である、請求項1から7のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項11】
増幅された細胞が、幹細胞因子(SRC)である、請求項1から7のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項12】
1種以上の血液細胞刺激因子を含む培地を使用する、請求項1から11のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項13】
血液細胞刺激因子が、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−11(IL−11)、flk2/flt3リガンド(FL)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、トロンボポエチン(TPO)及びエリスロポエチン(EPO)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項12に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項14】
血液細胞刺激因子が、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)及びflk2/flt3リガンド(FL)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項13に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項15】
造血幹細胞の由来が骨髄、肝臓、脾臓、末梢血或いは臍帯血である、請求項1から14のいずれか1つに記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項16】
造血幹細胞の由来が臍帯血である、請求項15に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項17】
幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)及びflk2/flt3リガンド(FL)からなる群より選ばれる少なくとも1種との共存下で臍帯血由来の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を培養する請求項16に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の製造方法。
【請求項18】
下記式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体若しくはその医薬的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有することを特徴とする、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅用試薬又は試薬キット。
【化4】

[式中、R及びRはそれぞれ同一若しくは異なって水素原子、C1−3アルキル基、C1−3アルコキシ基、水酸基、C1−3アルキルスルホニル基、単糖残基、オリゴ糖残基又はアミノ酸残基を意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、Rは、Rと一緒になって単結合を形成していることを意味するか、又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、RはC1−10アルキル基又はC2−10アルケニル基を意味する。]
【請求項19】
下記式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体若しくはその医薬的に許容される塩又はそれらの溶媒和物の存在下で、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を生体外で培養しながら当該細胞に遺伝子を導入する、又は遺伝子を導入した造血幹細胞に対し前記培養を行い増幅することを特徴とする形質転換された造血幹細胞の製造方法。
【化5】

[式中、R及びRはそれぞれ同一若しくは異なって水素原子、C1−3アルキル基、C1−3アルコキシ基、水酸基、C1−3アルキルスルホニル基、単糖残基、オリゴ糖残基又はアミノ酸残基を意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、Rは、Rと一緒になって単結合を形成していることを意味するか、又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、RはC1−10アルキル基又はC2−10アルケニル基を意味する。]
【請求項20】
1種以上の血液細胞刺激因子を含む培地を使用する、請求項19に記載の形質転換された造血幹細胞の製造方法。
【請求項21】
血液細胞刺激因子が、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−11(IL−11)、flk2/flt3リガンド(FL)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、トロンボポエチン(TPO)及びエリスロポエチン(EPO)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項20に記載の形質転換された造血幹細胞の製造方法。
【請求項22】
造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の由来が骨髄、肝臓、脾臓、末梢血或いは臍帯血である、請求項19から21のいずれか1つに記載の形質転換された造血幹細胞の製造方法。
【請求項23】
請求項1から17のいずれか1つに記載の製造方法により製造された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞。
【請求項24】
請求項19から22のいずれか1つに記載の製造方法により製造された、形質転換された造血幹細胞。
【請求項25】
請求項1から17のいずれか1つに記載の製造方法により製造された造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞からなる、ヒトに移植し、疾患を治療するための細胞治療用材料。
【請求項26】
請求項19から22のいずれか1つに記載の製造方法により製造された形質転換された造血幹細胞からなる、ヒトに移植し、疾患を治療するための細胞治療用材料。
【請求項27】
治療される疾患が、白血病、再生不良性貧血、顆粒球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患、遺伝性血液疾患、固形腫瘍、自己免疫疾患、免疫不全症、糖尿病、神経損傷、筋肉損傷、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症のいずれかである請求項25又は26に記載の細胞治療用材料。
【請求項28】
下記式(I)で表される化合物、該化合物の互変異性体、プロドラッグ若しくはその医薬的に許容され得る塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有することを特徴とする、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅剤。
【化6】


[式中、R及びRはそれぞれ同一若しくは異なって水素原子、C1−3アルキル基、C1−3アルコキシ基、水酸基、C1−3アルキルスルホニル基、単糖残基、オリゴ糖残基又はアミノ酸残基を意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、Rは、Rと一緒になって単結合を形成していることを意味するか、又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、
は、水素原子であるか又はRと一緒になって単結合を形成していることを意味し、RはC1−10アルキル基又はC2−10アルケニル基を意味する。]
【請求項29】
治療される疾患が、白血病、再生不良性貧血、顆粒球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患、遺伝性血液疾患、固形腫瘍、自己免疫疾患、免疫不全症、糖尿病、神経損傷、筋肉損傷、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症のいずれかである請求項28に記載の造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞の増幅剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−65644(P2012−65644A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131657(P2011−131657)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】