説明

連続染色加工方法及び装置

【課題】織物などの連続染色加工にあたり、設備ならびに工程を簡略化すると共に、染着に必要な水分の保持と高染着に必要な温度保持を正確にして短時間染着効果と安定した加工を達成する。
【解決手段】繊維構造物の連続染色加工において、繊維構造物Fに対して染液をパッドした後、遠赤外線を放射するセラミックを溶射したアルミニウムパイプをヒーターとしてスチーマーAに配備し、また同様に遠赤外線放射力をもつシリンダーを高熱処理部Bに配備して過熱水蒸気をヒーター4又はシリンダー5内に通し、遠赤外線輻射エネルギーを放射しながら過熱水蒸気をスチーマーA又は処理室B内に放出し常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で高温スチーミング処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は織物など繊維構造物の連続染色加工法ならびに装置に係り、詳しくは上記連続加工において過熱水蒸気と、遠赤外線放射エネルギーを併用し、染色における乾燥効率の向上をはかり、短時間染着を可能ならしめる上記連続染色加工法ならびにその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
織物などの連続染色においては、近年、反応染料でも染液をパッドした後、乾燥し、次いでアルカリ発色剤,ソーダ灰,芒硝などからなるケミカル液で再びパッドし、スチーミングして染着する2工程法のパッド・ドライ・ケミカルパッド・スチーミング法が主流として実施されており、一部、コールド・パッド・バッチ法も行なわれているが、更に合理的な効率のよい短時間連続染色開発が進められ、過熱水蒸気や遠赤外線放射エネルギーを利用する方法が試みられている。
【0003】
勿論、過熱水蒸気や、遠赤外線放射エネルギーを個々に利用することは従来より知られており、例えば特許文献1では染液をパッドした後、マイクロ波誘電加熱による蒸熱処理を施し、染料の発色,固定を行なうに際し、蒸熱処理部に連続搬送する途上、遠赤外線放射領域を通過熱水蒸気せしめることによって予備加熱を施し、昇温時間を短縮して加熱効率を向上させる方法が提案されており、また、例えば特許文献2では繊維製品に染液を付与した後、過熱水蒸気を用いて染料を固着することが提案されている。
【特許文献1】特開昭56−169852号公報
【特許文献2】特開昭52−132178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の過熱水蒸気や遠赤外線の個々の利用は染料の固定,乾燥効率の向上に夫々、効果的であるとしても、各々単独に利用されているだけで短時間染着効果には未だ充分とは云えず、染液パッド後の予備乾燥のための設備も必要であった。
【0005】
本発明は上述の如き実状に対処し、過熱水蒸気と遠赤外線放射の有効な併用を見出すことにより、一工程で染液パッド,染着を完了し、かつ染着進行に必要な水分の供給保持と、高染着に必要な温度保持を正確とし、均一な温度分布を得て安定した連続染色加工を達成することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、上記目的を達成する本発明は、その1つは連続染色加工法に係り、繊維構造物の連続染色加工において、染液をパッドした後、常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で遠赤外線放射エネルギーと併用して高温スチーミング処理を行なうことを基本的特徴とする。
【0007】
請求項2〜4は上記基本的特徴における過熱水蒸気と遠赤外線放射エネルギーの併用の具体的な態様であり、請求項2は遠赤外線を放射する、アルミナ,チタニア及び酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射したアルミニウムパイプをヒーターとしてスチーマー内に配備し、過熱水蒸気を上記ヒーター内へ通し、遠赤外線輻射エネルギーを放出しながらスチーマー内の温度上昇を図ると共に、ヒーターを出た過熱水蒸気をスチーマー内へ放出し、常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で高温スチーミング処理を行なう態様、請求項3は、遠赤外線を放射するアルミナ,チタニア及び酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射し、フッ素樹脂により表面を被覆した複数のシリンダーを閉鎖領域である高熱処理部内に配備し、過熱水蒸気を前記シリンダー内に通すと共に、高熱処理部に過熱水蒸気を放出して常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で高温スチーミング処理を行なう態様である。
【0008】
また、請求項4は染液をパッドした後、上記請求項2記載のヒーターを配備したスチーマーと、上記請求項3記載の複数のシリンダーを配備した高熱処理部とを順次、配置して通過させ、夫々遠赤外線放射エネルギーと過熱水蒸気100%の併用で空気のない状態で高温スチーミング処理を行なう態様を特徴とする。
【0009】
請求項5は上記連続染色加工におけるヒーター又はシリンダー内に通す過熱水蒸気の好ましい温度であり、400〜500℃であることを特徴とする。なお、請求項6は上記連続染色加工が施される繊維構造物の具体例であり、糸,織物,編物形態の何れに対しても連続染色加工が施される。
【0010】
請求項7は、上記の連続染色加工が施される装置の構成であり、染液をパッドするパッダーと、該パッダーで染液が付与された繊維構造物に対し高温スチーミング処理を行なう第1又は/及び第2の高温スチーミング部からなり、第1のスチーミング部は遠赤外線を放射する、アルミナ,チタニア及び酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射したアルミニウムパイプをヒーターとしてスチーマー内に配備し、ヒーター内に400〜500℃の過熱水蒸気を通すと共にヒーターを出た過熱水蒸気をスチーマー内へ放出し、スチーマー内を過熱水蒸気100%の空気のない状態とするスチーマーであり、第2のスチーミング部は遠赤外線を放射するアルミナ,チタニア及び酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射し、フッ素樹脂により表面を被覆したシリンダーを処理部内部に配備し、シリンダー内に400〜500℃の過熱水蒸気を通すと共に処理部内を過熱水蒸気100%の空気のない状態とする高熱処理部であることを特徴とする。
【0011】
上記本発明はアルミナ,チタニア及び酸化ニッケルからなるセラミックを溶射したアルミニウムパイプをヒーターとしてスチーマー内に、あるいはシリンダーとして高熱処理部内に配備して、これに400〜500℃の過熱水蒸気を通し、より高い遠赤外線放射エネルギーを急速染着に利用し、更に過熱水蒸気をスチーマー内に放出し、空気を含まない100%過熱水蒸気による染着ドライを進行させる。
【0012】
この場合、例えば染布に60〜65%の絞り率の染液を付けてスチーマー内に入ると、130〜140℃の蒸気を瞬時に400〜500℃に昇温させる能力をもつ過熱水蒸気発生器で発生した過熱水蒸気により1秒内外で100℃に達し、同時に布に凝結水が生じ、布が水分を持っている間は布温度は100℃を保っていることで染着に必要な水分の供給保持と、高染着に必要な温度保持が正確になされることになる。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明によれば遠赤外線を放射するセラミックを溶射したアルミニウムパイプをヒーターとして高熱処理部内に配備し、あるいは前記セラミックスを溶射したシリンダーを高熱処理部内に配備して400〜500℃の高温過熱水蒸気を通し、しかもスチーマー又は高熱処理部に該過熱水蒸気を放出して空気を含まない100%過熱水蒸気による雰囲気内でスチーミング処理を行なうため、スチーマーあるいは処理部内の温度上昇と維持が図られ、従来の2工程法における染着前の工程の染色乾燥部門を不要として染液パッド,高温スチーミングの1工程で染着完了が得られ、染色加工時間の短縮化と共に省エネルギーで高効率が達成され、現下の小ロット,多様化,短サイクルの連続染色に顕著な効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、更に添付図面にもとづいて本発明の具体的実施態様を説明する。
【0015】
図1は本発明に係る連続染色加工を実施する装置の1例を示す概要図であり、供給部1より引き出された綿織物などの繊維構造物Fがガイドロールを介して送出され、パッダーPにおいて染液槽2内に含浸すると共に絞りロール3で絞って染液をパッドした後、スチーマーA及び高温熱処理部Bに順次送り、図示していないが、併設されている130〜140℃の蒸気を瞬時に400〜500℃に昇温させる能力のある過熱水蒸気発生器を用いてこの高温過熱水蒸気を前記スチーマーA及び高熱処理部Bへ通しこれらスチーマーA及び高熱処理部Bにおいて遠赤外線輻射エネルギーを放射しながら室内の温度上昇と維持を図ると共に、該過熱水蒸気をスチーマー及び処理部内に放出して夫々、常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で高温スチーミングを行ない、順次後方へ送出して本願発明の一連の連続染色加工が行なわれる。
【0016】
前記スチーマーAは図示のように5〜10ミクロンの波長の遠赤外線を放出するアルミナ,チタニア,酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射したアルミニウムパイプをヒーター4として、該ヒーターをスチーマー内に多数併設配置して構成されており、織物等を上下に蛇行させてヒーターを通過させ、遠赤外線輻射エネルギーを放射しながらスチーマー内の温度上昇と維持を図ると共にヒーターを出た高温過熱水蒸気をスチーマー内へ放出し、スチーマー内で常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態での高温スチーミング処理を行なうようになっている。
【0017】
一方、高熱処理部Bは前記スチーマーと同じく赤外線を放射するアルミナ,チタニア,酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射し、その表面をフッ素樹脂により被覆した遠赤外線放射力をもつシリンダー5を閉鎖された処理部内に併設配置することによって同様にシリンダー5内に過熱水蒸気を送り、遠赤外線輻射エネルギーを放射しながら高温処理室内の温度を上昇と維持を図り、更に同処理部B内へ過熱水蒸気を放出して常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で高温スチーミング乾燥を通じて加工を達成させる。
【0018】
なお、図示例においては、アルミニウムパイプのヒーターによるスチーマーAと、シリンダーによる高熱処理部Bの両室を順次配置して繊維構造物Fに連続染色加工を施しているが、必らずしも両者を併用することなく、何れか一方のみで常圧における空気のない過熱水蒸気100%の高温スチーミングを遠赤外線放射エネルギーと併用して行なってもよく、これによってスチーミング乾燥,ベーキング等の機能を行なうケミラクターとして加工を一工程で達成することが出来る。
【0019】
かくして前述のように織物等の繊維構造物に60〜65%の絞り率の染液を付けて上記スチーマーや高温熱処理部に入ると、1秒内外に100℃に達し、同時に織物等に凝結水が生じ、織物が水分を持っている間は織物温度は100℃を保っていることで、このことが染着進行に必要な水分の供給保持と、高染着に必要な温度保持を正確になし、短時間染着完了の効果を発揮する。
【実施例】
【0020】
実施例1
綿織物に対し下記配合例による染液を付与し、染液パッドを行なった。
【0021】
染液配合例
反応染料 X g/L
ソーダ灰 20 g/L
還元防止剤 3 g/L
染液パッド後、直ちに遠赤外線放射力をもつアルミニウムパイプをヒーターとして配備したスチーマーAと、続いて遠赤外線放射力をもつシリンダーで構成した高熱処理部へ通し常圧における空気のない過熱水蒸気100%の180℃スチーミングを遠赤外線放射エネルギーと併用して行なったところ、30秒で染着が完了した。
【0022】
同様にして数回、繰り返して実施したところ、最大限でも60秒で染着完了が確認された。
実施例2
次に上記実施例1に準じ一工程法でバット染料,硫化染料等についても必要還元剤,薬剤等を加えた染液を配合し、これら各染液についてもパッドし、過熱水蒸気100%の180℃スチーミングを遠赤外線放射エネルギーと併用して行なったところ、何れも20秒から30秒で染着完了が確認された。
【比較例】
【0023】
以上の実施例に対し従来の2工程法により先ず第1工程で、染料 Xg/L,マイグレーション防止剤10g/L,還元防止剤10g/Lよりなる染液をパッドし、プレ乾燥を行なった後、第2工程としてアルカリ発色剤40g/L,ソーダ灰20g/L,芒硝200g/Lよりなるケミカル液をパッドし、発色スチーマーで染着を行なったところ、プレ乾燥完了に100℃で2分要し、スチーマー処理による染着までに100℃で1分間要し、合計で染着に3分を要した。
【0024】
以上の実施例,比較例の対比より、本発明はマイグレーション防止剤10g/L,アルカリ発色剤40g/L,芒硝200g/Lが不要であり、省資源効果を有するのみならず、1工程簡略化することにより染着完了までの時間も短縮され、現在求められる小ロッド,多様化に充分対応できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を実施する連続染色加工装置の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
A:スチーマー
B:高熱処理部
F:繊維構造物
P:パッダー
1:繊維構造物供給部
2:染液槽
3:絞りロール
4:ヒーター(アルミニウムパイプ)
5:シリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造物の連続染色加工において、染液をパッドした後、常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で遠赤外線放射エネルギーと併用して高温スチーミング処理を行なうことを特徴とする連続染色加工法。
【請求項2】
遠赤外線を放射する、アルミナ,チタニア及び酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射したアルミニウムパイプをヒーターとしてスチーマー内に配備し、過熱水蒸気を上記ヒーター内へ通し、遠赤外線輻射エネルギーを放射しながらスチーマー内の温度上昇を図ると共に、ヒーターを出た過熱水蒸気はスチーマー内へ放出し、常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で高温スチーミング処理を行なう請求項1記載の連続染色加工法。
【請求項3】
遠赤外線を放射するアルミナ,チタニア及び酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射したフッ素樹脂により表面を被覆した複数のシリンダーを高熱処理部内に配備し、過熱水蒸気を前記シリンダー内に通すと共に、高熱処理部内に過熱水蒸気を放出して常圧における過熱水蒸気100%の空気のない状態で高温スチーミング処理を行なう請求項1記載の連続染色加工法。
【請求項4】
染液をパッドした後、請求項2記載のヒーターを配備したスチーマーと、請求項3記載の複数のシリンダーを配備した高熱処理部とを順次、通過させ、遠赤外線放射エネルギーと過熱水蒸気100%の併用で空気のない状態で高温スチーミング処理を行なう請求項1記載の連続染色加工法。
【請求項5】
ヒーター又はシリンダー内に400〜500℃の過熱水蒸気を通す請求項1〜4の何れかの項に記載の連続染色加工法。
【請求項6】
繊維構造物が天然繊維又は化学繊維もしくはこれら両繊維の混紡よりなる織物又は編物である請求項1〜5の何れかの項に記載の連続染色加工法。
【請求項7】
繊維構造物の連続染色加工装置であって、染液をパッドするパッダーと、該パッダーで染液が付与された繊維構造物に対し高温スチーミング処理を行なう第1又は/及び第2の高温スチーミング部からなり、第1のスチーミング部は遠赤外線を放射する、アルミナ,チタニア及び酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射したアルミニウムパイプをヒーターとしてスチーマー内部に配備し、ヒーター内に400〜500℃の過熱水蒸気を通すと共にヒーターを出た過熱水蒸気をスチーマー内へ放出し、スチーマー内を過熱水蒸気100%の空気のない状態とするスチーマーであり、第2のスチーミング部は遠赤外線を放射するアルミナ,チタニア及び酸化ニッケルよりなるセラミックを溶射し、フッ素樹脂により表面を被覆したシリンダーを処理部内部に配備し、シリンダー内に400〜500℃の過熱水蒸気を通すと共に処理部内を過熱水蒸気100%の空気のない状態とする高熱処理部であることを特徴とする連続染色加工装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−9353(P2007−9353A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189322(P2005−189322)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(504097708)堀江染工株式会社 (1)
【Fターム(参考)】