説明

連続発酵によるL−乳酸の製造方法

【課題】
L−乳酸の光学純度の低下がなく、長時間にわたり安定して高生産性を維持することができる連続発酵法によるL−乳酸の製造方法を提供する。
【解決手段】
L−乳酸を生産する能力を有する微生物であるバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液からL−乳酸を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、その微生物の発酵原料を該発酵培養液に追加する連続発酵において、該分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用いることを特徴とする、連続発酵によるL−乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス・コアギュランスの連続発酵法によるL−乳酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性ポリマーであるポリ乳酸は、大気中に二酸化炭素の排出問題やエネルギー問題の顕在化と共にサスティナビリティー(持続可能性)およびライフサイクルアセスメント(LCA)対応型製品として強い注目を浴びており、現在主に生産されているポリ乳酸はL−乳酸ポリマーでありポリマー原料、農薬および医薬の中間体として近年注目が集まり量産化されつつある。特にポリマー原料となるL−乳酸は、高い光学純度のL−乳酸が必要とされ、光学純度の高いL−乳酸を高収率で得られるような製造法が求められている。
【0003】
L−乳酸の生産性の高い乳酸生産菌として、中庸に好熱性の乳酸生産菌であるバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)が、これまで主に食品用途のL−乳酸を生産するための微生物として用いられてきた。そこで、L−乳酸の生産性の高いバチルス・コアギュランスを用いて、ポリ乳酸原料となるL−乳酸を工業的に製造することを考えた場合、生産コストを考慮して、サトウキビや澱粉、ソフトセルロース等のバイオマス由来の糖原料を用いた乳酸発酵培地を使用することを検討することになるが、バチルス・コアギュランスを用いたL−乳酸発酵では、バイオマス由来原料の糖質とその他栄養物質多く含む培地を用いると、発酵温度が高温(50℃以上)であっても培養環境によってはL−乳酸の光学純度が低下する場合があり(特許文献1、非特許文献1参照。)、そして、L−乳酸の光学純度の低下はポリマー用の実用的なポリ乳酸の製造のための重合時に融点の著しく低下を招くため、バチルス・コアギュランスによるL−乳酸の発酵生産は、ポリ乳酸用の乳酸を製造する上では実用的ではなかった。
【0004】
一方、L−乳酸の発酵生産法として、従来から連続発酵法が知られている。連続発酵法は発酵反応槽内で目的物質が高濃度に蓄積されることを回避することによって、長時間にわたって高い収率と生産性を維持できるという特徴を持っている。具体的には、発酵培養液と微生物の分離膜として多孔性膜を用いた連続発酵法によってL−乳酸菌を発酵培養することによるL−乳酸の連続発酵が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、特許文献2には中庸に好熱性のバチルス・コアギュランスを用いた連続発酵については記載されておらず、バチルス・コアギュランスが特許文献2に記載の連続発酵法に適した微生物であるかどうかは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−73549号公報
【特許文献2】特開2008−131931号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ronald H. W.Maas et.al.(ロナルド・エイチ・ダブリュ・マースら)、Applied Microbiology and Biotechnology(アプライド・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー),78,751−758(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光学純度の高いL−乳酸を高収率で得られるようなL−乳酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、バチルス・コアギュランスがL−乳酸の連続発酵培養に適した微生物であるだけでなく、バチルス・コアギュランスを分離膜として多孔性膜を用いた連続培養方法に適用することで、光学純度の高いL−乳酸を高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本願発明は以下(1)〜(9)の通りである。
【0010】
(1)L−乳酸を生産する能力を有する微生物であるバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液からL−乳酸を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、その微生物の発酵原料を該発酵培養液に追加する連続発酵において、該分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用いることを特徴とする、連続発酵によるL−乳酸の製造方法。
【0011】
(2)膜間差圧を0.1から20kPaの範囲にして濾過処理することを特徴とする、(1)に記載のL−乳酸の製造方法。
【0012】
(3)多孔性膜の純水透過係数が2×10-9/m/s/pa以上6×10-7/m/s/pa以下である、(1)または(2)に記載のL−乳酸の製造方法。
【0013】
(4)多孔性膜の平均細孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、かつ、多孔性膜の細孔径の標準偏差が0.1μm以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載のL−乳酸の製造方法。
【0014】
(5)多孔性膜の膜表面粗さが0.1μm以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載のL−乳酸の製造方法。
【0015】
(6)多孔性膜が多孔質樹脂層を含む、(1)〜(5)のいずれかに記載のL−乳酸の製造方法。
【0016】
(7)多孔質樹脂層が有機高分子からなる、(6)に記載のL−乳酸の製造方法。
【0017】
(8)多孔質樹脂層がポリフッ化ビニリデンを含む、(6)または(7)に記載のL−乳酸の製造方法。
【0018】
(9)バチルス・コアギュランスの培養温度が30℃から65℃である、(1)〜(8)のいずれかに記載のL−乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光学純度の高いL−乳酸を高効率で得ることができる。そして、本発明により得られるL−乳酸は、ポリ乳酸原料用のL−乳酸として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明で用いられる膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概要側面図である。
【図2】図2は、本発明で用いられる他の膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概要側面図である。
【図3】図3は、本発明で用いられる多孔性膜を利用した分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概要斜視図である。
【図4】図4は、本発明で用いられる中空糸膜を利用した分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概要斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、L−乳酸を生産する能力を有する微生物としてバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)を用いることを特徴としている。本発明において使用されるバチルス・コアギュランスのL−乳酸生産能は特に限定されるものではないが、光学純度90%e.e.以上のL−乳酸を生産する能力を有することが好ましい。ここで、バチルス・コアギュランスが光学純度90%e.e.以上のL−乳酸を生産する能力を有するかどうかは、滅菌した糖100g/Lを含む培養液にバチルス属に属する細菌を接種し、37℃で、静置培養を行い、経時的に培養液中の糖濃度を測定し、糖が完全に消費された後の培養液中に生産された乳酸の光学純度を測定し、L−乳酸の光学純度が90%e.e.以上であれば、光学純度90%e.e.以上のL−乳酸生産菌であると判断することができる。
【0022】
バチルス・コアギュランスの菌株としては、L−乳酸を生産する能力を有するものであれば特に限定はなく、具体例として、ATCC10545、ATCC11014、ATCC11369、ATCC12245、ATCC15949、ATCC221366、ATCC23498、ATCC31284、ATCC35670、ATCC51232、ATCC53595、ATCC7050、ATCC8038、DSM2356、NBRC3557、NBRC3886、NBRC3887、NBRC12583、NBRC12714株などが挙げられるが、好ましくはNBRC12583またはNBRC12714株である。
【0023】
本発明は、前記バチルス・コアギュランスの発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液からL−乳酸を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、その微生物の発酵原料を該発酵培養液に追加する連続発酵において、該分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用いことを特徴とする。
【0024】
本発明において分離膜として用いられる多孔性膜は、発酵に使用されるバチルス・コアギュランスによる目詰まりが起こりにくく、かつ、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有するものであることが必要である。具体的には、本発明で使用される多孔性膜は、平均細孔径が0.01μm以上1μm未満であることが重要である。
【0025】
多孔性膜の平均細孔径が上記の範囲内にあると、菌体や汚泥などがリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、さらに目詰まりを起こしにくく、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。細菌類を用いた場合、多孔性膜の平均細孔径は好ましくは0.4μm以下であり、平均細孔径は0.2μm未満であればより好適に実施することが可能である。なお、平均細孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、本発明では、平均細孔径は0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.04μm以上である。
【0026】
ここでいう平均細孔径とは、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
【0027】
また、多孔性膜の平均細孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。更に、平均細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができ、発酵運転管理が容易になることから、平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が好ましい。平均細孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXkとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
【0028】
【数1】

【0029】
本発明で用いられる多孔性膜においては、発酵培養液の透過性が重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10−9/m/s/pa以上であることが好ましく、純水透過係数が2×10−9/m/s/pa以上6×10−7/m/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。
【0030】
本発明で用いられる多孔性膜の膜表面粗さは、多孔性膜の目詰まりに影響を与える因子であり、好ましくは膜表面粗さが0.1μm以下のときに多孔性膜の剥離係数や膜抵抗を好適に低下させることができ、より低い膜間差圧で連続発酵が実施可能である。従って、目詰まりを抑えることで、安定した連続発酵が可能になることから、膜表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。
【0031】
また、多孔性膜の膜表面粗さが低いことにより、微生物の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることが期待でき、微生物の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になると考えられる。
【0032】
ここで、膜表面粗さは、膜表面に対して垂直方向の高さの平均値であり、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の条件で測定することができる。
・装置 原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件 探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
走査範囲 10μm、25μm四方(気中測定)
5μm、10μm四方(水中測定)
走査解像度 512×512
・試料調製 測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、濾過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いて濾過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
【0033】
膜表面粗さdroughは、上記AFMにより各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
【0034】
【数2】

【0035】
本発明で分離膜として用いられる多孔性膜の構成について説明する。本発明における多孔性膜は、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものであり、阻止性能および透水性能や耐汚れ性という分離性能の点からは、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。このような多孔性膜は、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与えるものである。
【0036】
多孔質基材の素材は、有機材料および/または無機材料等からなり、中でも有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布であり、中でも、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が好ましく用いられる。
【0037】
また、多孔質樹脂層は、上述したように分離機能層として作用するものであり、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の素材としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが挙げられ、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。
【0038】
中でも、有機高分子膜の膜素材としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂がより好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
【0039】
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられるが、フッ化ビニリデンの単独重合体の他、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三フッ化塩化エチレンなどが例示される。
【0040】
また、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンまたは塩素化ポリプロピレンが挙げられるが、塩素化ポリエチレンが好ましく用いられる。
【0041】
本発明で用いられる多孔性膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択されるが、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。
【0042】
本発明で用いられる分離膜は、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されている多孔性膜であることが好ましい。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。
【0043】
また、多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は好ましくは200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は好ましくは20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸の内部に含んでいても良い。
【0044】
本発明で用いられる多孔性膜は、支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。多孔性膜を有する分離膜エレメントの形態は特に限定されないが、支持体として支持板を用い、その支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態で、膜面積を大きくすることが困難な場合には、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性膜を配することも好ましい態様である。
【0045】
本発明で用いられる多孔性膜は、特開2008−131931号公報に記載の多孔性膜の作成方法により作成することができる。
【0046】
本発明において、バチルス・コアギュランスを分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、原核微生物および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが好ましく、より好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記膜間差圧の範囲を外れた場合、原核微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
【0047】
濾過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔性膜に膜間差圧を発生させることが可能である。また、濾過の駆動力として多孔性膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性膜の発酵培養液側に加圧ポンプを設置することも可能である。膜間差圧は、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差を変化させることにより制御することができるから、特別に発酵反応槽内を加圧状態に保つ必要がなく、乳酸を生産する能力が低下しない。また、発酵反応槽内を加圧状態に保つ必要がないことから、膜分離槽と発酵反応槽間で発酵培養液を循環させる動力手段が不要となり、多孔性膜を発酵反応槽内に設置することも可能となり、連続発酵装置のコンパクト化を図ることができる。
【0048】
また、膜間差圧を発生させるためにポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができ、更に発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0049】
本発明で使用される発酵原料における炭素源としては、バチルス・コアギュランスが資化可能な炭素源であれば特に限定はなく、グルコース、アラビノース、セルビオース、ラクトース、メリビオース、サリシン、イヌリン、マンノース、ラフィノース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、シュクロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース、マルトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、ケーンジュース、ケーンジュース抽出物または濃縮液、ケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖または精製糖、セルロース由来の糖化液、あるいは糖類以外では酢酸、フマル酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類、あるいはグリセリン等が挙げられ、中でも澱粉糖化液やケーンジュースからの精製または結晶化された原料糖が好ましく使用される。
【0050】
澱粉糖化液は、澱粉を液化後糖化または液化同時糖化した水溶液または水解物である。澱粉の液化は溶解または可溶性になさせる液体化であり、酸添加などの化学的処理、酵素または細胞による処理または熱力学的な処理などの澱粉の部分的水解物調製工程を含むことによりでき、1つまたは2つの工程以上の組み合わせによる液体化もできる。このような液体化により作製された水溶液または水解物を澱粉の部分的水解物または澱粉液化物または液化澱粉とも言う。糖化は澱粉または液化澱粉または澱粉の部分的水解物または澱粉液化物またはデキストリンまたはマルトースの酸加水分解または酵素的加水分解であり、工程の組み合わせによる糖化もできる。澱粉は液化または糖化または液化と糖化工程によりD−グルコースまたはマルトースまたはマルトオリゴ糖などの生産物が得られる。
【0051】
澱粉糖化液は、α−アミラーゼまたはグルコアミラーゼまたはフルラナーゼまたはこれらの混合物により調製できる。またこれらの酵素による澱粉の液化/糖化は順次行っても良く、同時に行ってもよく、糖化酵素を発酵中に投入して糖化同時発酵をしても良い。
【0052】
澱粉糖化液は、液化工程、糖化工程または液化および糖化工程により得られたD−グルコースまたはマルトースまたはマルトオリゴ糖またはこれらの2種以上の生産物などからなる。また、前記澱粉糖化液には、炭素源となる糖源以外に窒素源と燐源、ビタミン源、タンパク質などが含まれることがある。
【0053】
澱粉糖化液の原料となる澱粉について特に限定はないが、ジャガイモ、小麦、トウモロコシ、サツマイモ、米、キャッサバ、タピオカ、クズ、カタクリ、緑豆、サゴヤシ、ワラビ由来の澱粉が好ましく用いられる。
【0054】
原料糖は、ケーンジュースまたはケーン粕に石灰または石灰乳などを加え、加熱して不純物を取り除くまたは連続沈殿させ不純物を除くことで製造される。その後、濃縮させて真空結晶化し、糖蜜と結晶に分離する。その時に結晶として分けられたものを原料糖とする。石灰または石灰乳は不純物を取り除く時に加熱しながら添加しても良い。連続沈殿時および濃縮時には加熱しても良い。真空結晶化して分離された結晶を乾燥してもよい。なお、本発明で用いられる原料糖について特に限定はないが、ムソー株式会社製の“優糖精”が好ましい例として挙げられる。
【0055】
発酵原料における炭素源の使用濃度は特に制限されず、バチルス・コアギュランスのL−乳酸の生産を阻害しない範囲であれば可能な限り高い濃度であることが好ましい。具体的には、炭素源の濃度は、倍地中に1.6〜50%(w/v)が好ましく、より好ましくは3〜30%(w/v)である。
【0056】
また、炭素源以外の窒素源はL−乳酸生産菌の良好な生育にとって重要である。具体的な窒素源としては、酵母エキス、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類あるいは有機窒素源(例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、アミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、ポリペプトンS等のタンパク質)、発酵原料中の炭素源に含まれるアミノ酸またはタンパク性の不純物、あるいは各種発酵菌体またはその加水分解物などが挙げられ、これらは単独または組み合わせて使用しても良いが、有機窒素源であることが好ましい。ただし、窒素源は、L−乳酸発酵生産後の精製および重合の阻害物質となる可能性があるため、連続発酵での良好な生育や、L−乳酸の光学純度を低下させない程度まで発酵原料の窒素源の濃度を減らすことが好ましい。
【0057】
また、発酵原料中には無機塩類を含んでもよく、無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加することができる。
【0058】
その他、バチルス・コアギュランスが生育のために特定の栄養素を必要とする場合にはその栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤も必要に応じて使用することができる。
【0059】
本発明において、前記発酵原料を含む乳酸発酵培地の好ましい具体例としては、グルコース濃度が100g/Lになるようにトウモロコシ澱粉糖化液100g/Lと30g/LのCSL(コーンスティープリカー)を含む乳酸発酵培地(以下、CCと略すことがある。)とグルコース濃度が100g/Lになるようにタピオカ澱粉糖化液100g/Lと30g/LのCSLを含む乳酸発酵培地(以下、TC培地と略すことがある。)、グルコース100g/Lと30g/LのCSLを含む乳酸発酵培地(以下、GC培地と略すことがある。)、原料糖100g/Lと30g/LのCSLを含む乳酸発酵培地(以下、RC培地と略すことがある。)が挙げられる。
【0060】
前記乳酸発酵培地は、次のようにして調製することができる。例えば、栄養素のうち、炭素源になる糖と窒素源になるものをグループに分け、グループごとにオートクレーブ処理により滅菌し、常温以下の温度まで冷却した後、混合などにより各発酵培地に含んだ濃度になるように調製するか、炭素源と窒素源を混合した後、オートクレーブ処理により滅菌し、常温以下の温度まで冷却した後、発酵培地にする。
【0061】
本発明において、バチルス・コアギュランスを発酵培養する際、好気的条件下で培養してもよいが、嫌気的条件下で行うことが好ましい。バチルス属に属する細菌は好気性または通気性の微生物であるため、通常、通気などを行うことにより好気的条件下で培養するが、好気的条件下では、グルコース等の糖はピルビン酸からクレブス回路を経て代謝されてしまうため、L−乳酸の収率という観点においては嫌気的条件が好ましく採用される。嫌気的条件下で培養を行うためには、静置して行うこともできるが、不活性ガスを通気しながら振とう培養もしくは攪拌培養を行ってもよい。ここでいう不活性ガスとしては、二酸化炭素、窒素、アンモニア、アルゴン等を用いればよく、通気量、通気手段はL−乳酸生産性を考えて、適宜決めればよい。なお、ここでの窒素は嫌気培養を行うために使用するガスであり、本発明における窒素源には該当しない。
【0062】
また、バチルス・コアギュランスを発酵培養する際、発酵原料を炭酸カルシウム、水酸化カルシウムあるいは水酸化マグネシウムなどの二価イオンの水酸化物、水酸化ナトリウムまたはアンモニアなどにより中和しながら培養することが好ましい。また、培養時のpHは、バチルス・コアギュランスがL−乳酸を生産できる条件であれば特に限定はないが、pH4から8の範囲内であることが好ましい。また、バチルス・コアギュランスの培養温度は、L−乳酸を生産できる条件であれば特に限定はないが、L−乳酸を生産するための99%e.e.以上の高い光学純度のL−乳酸を生産するための培養温度であることが好ましく、具体的には30℃から65℃までが好ましい。
【0063】
本発明の連続発酵では、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って菌体濃度を高くした後に連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。また、菌体を発酵反応槽に維持したままで、発酵反応槽からの発酵培養液の連続的かつ効率的な抜き出しが可能となることから、L−乳酸生産菌を連続的に発酵培養し、十分な増殖を確保した後に発酵原料液組成を変更し、目的とするL−乳酸を効率よく製造することも可能である。連続発酵の際の乳酸発酵培地と発酵培養液の引き抜きの開始時期は、必ずしも同じである必要はなく、乳酸発酵培地の供給と発酵培養液の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
【0064】
本発明の連続発酵での発酵培養液中の菌体濃度は、発酵培養液の環境が菌体増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率よい生産性を得るのに好ましく、一例として、菌体の乾燥重量として5g/L以上に維持することで良好な生産効率が得られる。また、連続発酵装置の運転上の不具合、生産効率の低下を招かなければ、菌体濃度の上限値は限定されない。
【0065】
本発明により製造されたL−乳酸の濾過・分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができるが、WO2009/004922に開示されるナノ濾過膜を利用した精製により好ましく精製される。
【0066】
本発明によるL−乳酸の製造方法によって得られたL−乳酸は、ポリエステル樹脂の原料に用いられ、それらポリエステル樹脂は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸およびフィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形することができ、機械部品などの樹脂成形品、衣料・産業資材などの繊維、および包装・磁気記録などのフィルムとして使用することができる。本発明によるL−乳酸の製造方法を用いることにより、これら幅広い用途のあるL−乳酸を不純物少なく効率的に製造することができることから、より安価に乳酸を提供することが可能となる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明のL−乳酸の製造方法をさらに具体的に説明するために連続発酵によるL−乳酸の発酵生産について実施例に基づいて具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0068】
本実施例では、L−乳酸を生産させる細菌として、バチルス・コアギュランス(Bacillus cogulans) NBRC12583株とNBRC12714株を選定した。発酵原料としては上記の乳酸発酵培地(TC培地、GC培地、RC培地)を用いた。
【0069】
発酵培養液中に生産されたL−乳酸の濃度は、以下の条件でHPLC法により測定した。
カラム:Shim−Pack SPR−H(株式会社島津製作所製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/分)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/分)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0070】
また、L−乳酸の光学純度は、以下の条件でHPLC法により測定したL−乳酸およびD−乳酸濃度の測定結果から、次式に基づいて計算した。
カラム:TSK−gel Enantio L1(東ソー株式会社製)
移動相:1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0ml/分
検出方法:UV254nm
温度:30℃
光学純度(%e.e.)=100×(L−D)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度であり、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0071】
(比較例1)バッチ発酵(20L)によるL−乳酸の製造(その1)
バチルス・コアギュランス NBRC12583株を、炭酸カルシウムと共にフラスコで1Lの前培養培地(ポリペプトン10g/L、酵母エキス2g/L、硫酸マグネシウム7水和物1g/L)で40時間、37℃の温度で振とう培養した(前培養)。前培養液を上記GC培地で植菌し、45℃、300rpmで培養終了まで振とう培養した。150時間の発酵試験を行った結果、L−乳酸の光学純度が98.4%e.e.であった(表1)。
【0072】
(実施例1)連続発酵によるL−乳酸の製造(その1)
図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−乳酸が連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地にはGC培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメントとしては図3に示される形態を採用し、分離膜には、WO2007/097260の参考例2に従って作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜、分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリスルホン樹脂の成形品を用いた。この多孔性膜の特性を調べたところ、平均細孔径が0.1μmであり、純水透過係数が50×10-9/m/s/paであった。この実施例1における運転条件は、下記のとおりである。
【0073】
[運転条件]
発酵反応槽容量:1.5(L)
使用分離膜:PVDF濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120cm
温度調整:45(℃)
発酵反応槽通気量:100(mL/分)
発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20分のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌
膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
【0074】
まず、バチルス・コアギュランス NBRC12583株を、上記比較例の前培養と同じ条件で40時間、37℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の窒素ガスでパージした1Lの乳酸発酵培地のGC培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と45℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、GC倍地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量を1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、45℃での連続発酵によるL−乳酸の製造を行った。このとき、気体供給装置から窒素ガスを発酵反応槽1内に供給し、排出されたガスを回収して再度発酵反応槽1に供給した。すなわち、窒素ガスを含む気体のリサイクル供給を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたL−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0075】
500時間の連続発酵試験を行った結果、比較例(20L)より光学純度が向上し、99.5%e.e.以上の高い光学純度と、乳酸濃度約50g/Lの安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた(表1)。
【0076】
(実施例2)連続発酵によるL−乳酸の製造(その2)
図2に示す連続発酵装置を稼働させることにより、L−乳酸がで得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地にはGC培地を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜と分離膜エレメントは実施例1のものを使用した。この実施例2における運転条件は、下記のとおりである。
【0077】
[運転条件]
発酵反応槽容量:1.5(L)
使用分離膜:PVDF濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120cm
温度調整:45(℃)
発酵反応槽通気量:100(L/分)
発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20分のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌
膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
【0078】
まず、バチルス・コアギュランス NBRC12583株を、上記比較例の前培養と同じ条件で40時間、37℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図2に示す連続発酵装置の窒素ガスでパージした1Lの乳酸発酵培地であるGC培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と45℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、GC倍地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量を1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、45℃での連続発酵によるL−乳酸の製造を行った。このとき、気体供給装置から窒素ガスを発酵反応槽1内に供給し、排出されたガスを回収して再度発酵反応槽1に供給した。すなわち、窒素ガスを含む気体のリサイクル供給を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたL−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0079】
500時間の連続発酵試験を行った結果、比較例(20L)より光学純度が向上し、99.6%e.e.以上の高い光学純度と、乳酸濃度約50g/Lの安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた(表1)。
【0080】
(実施例3)連続発酵によるL−乳酸の製造(その3)
実施例1で使用した発酵温度を40℃にし、バチルス・コアギュランス NBRC12714株を用いた他は、実施例1と同様にして、連続発酵試験を行った。500時間の連続発酵試験を行った結果、比較例(20L)より光学純度が向上し、99.5%e.e.以上の高い光学純度と、乳酸濃度約50g/Lの安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた(表1)。
【0081】
(実施例4)連続発酵によるL−乳酸の製造(その4)
実施例1で使用したGC培地の代わりにTC培地を用いた他は、実施例1と同様にして、連続発酵試験を行った。500時間の連続発酵試験を行った結果、比較例(20L)より光学純度が向上し、99.6%e.e.以上の高い光学純度と、乳酸濃度約50g/Lの安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた(表1)。
【0082】
(実施例5)連続発酵によるL−乳酸の製造(その5)
実施例2で使用したGC培地の代わりにCC培地と連続発酵温度48℃を用いた他は、実施例2と同様にして、連続発酵試験を行った。500時間の連続発酵試験を行った結果、比較例(20L)より光学純度が向上し、99.5%e.e.以上の高い光学純度と、乳酸濃度約50g/Lの安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた(表1)。
【0083】
(実施例6)連続発酵によるL−乳酸の製造(その6)
実施例1で使用した多孔性膜の代わりに、分離膜としてWO2007/097260の参考例13に従って作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする中空糸膜を用いた。分離膜エレメントとしては図4に示される形態を採用した。またRC培地と連続発酵温度55℃を用いた他は、実施例1と同様にして、連続発酵試験を行った。500時間の連続発酵試験を行った結果、比較例(20L)より光学純度が向上し、99.6%e.e.以上の高い光学純度と、乳酸濃度約50g/Lの安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた(表1)。
【0084】
【表1】

【符号の説明】
【0085】
1 発酵反応槽
2 分離膜エレメント
3 水頭差制御装置
4 気体供給装置
5 攪拌機
6 レベルセンサ
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ・制御装置
10 温度調節器
11 発酵液循環ポンプ
12 膜分離槽
13 支持板
14 流路材
15 分離膜
16 凹部
17 集水パイプ
18 分離膜束
19 上部樹脂封止層
20 下部樹脂封止層
21 支持フレーム
22 集水パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−乳酸を生産する能力を有する微生物であるバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液からL−乳酸を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、その微生物の発酵原料を該発酵培養液に追加する連続発酵において、該分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用いることを特徴とする、連続発酵によるL−乳酸の製造方法。
【請求項2】
膜間差圧を0.1から20kPaの範囲にして濾過処理することを特徴とする、請求項1に記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項3】
多孔性膜の純水透過係数が2×10-9/m/s/pa以上6×10-7/m/s/pa以下である、請求項1または2に記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項4】
多孔性膜の平均細孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、かつ、多孔性膜の細孔径の標準偏差が0.1μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項5】
多孔性膜の膜表面粗さが0.1μm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項6】
多孔性膜が多孔質樹脂層を含む、請求項1〜5のいずれかに記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項7】
多孔質樹脂層が有機高分子からなる、請求項6に記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項8】
多孔質樹脂層がポリフッ化ビニリデンを含む、請求項6または7に記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項9】
バチルス・コアギュランスの培養温度が30℃から65℃である、請求項1〜8のいずれかに記載のL−乳酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−16290(P2012−16290A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153867(P2010−153867)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】