説明

連続鋳造方法

【課題】 鋳片切断時に湯漏れなどの問題を発生させることなくその鋳造速度をできるだけ速くして生産性を高めるようにした連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】 ブルーム鋳片厚さをD、鋳型内メニスカスから最終スタンドロールまでの距離をL1(cm)、鋳型内メニスカスから鋳片切断位置までの距離をL2(cm)としたとき、鋳造速度Vc(cm/min)を、下記(1)式で規定される最大鋳造速度Vmaxおよび下記(2)式で規定される最小鋳造速度Vminの範囲内となるように鋳造速度Vc(cm/min)を制御して操業する。
Vmax=(2k/D)2×(L2−200) …(1)
Vmin=(2k/D)2×(L1) …(2)
但し、kは鋳片の炭素濃度を[C](質量%)としたときに、下記(3)式によって 求められる凝固定数(mm/min1/2)を示す。
k=−α[C]+β(α,βは鋼種によって決定される係数)…(3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブルーム鋳片を連続鋳造法によって製造する方法に関するものであり、特に鋳片切断時に湯漏れなどの問題を発生させることなくその鋳造速度をできるだけ速くして生産性を高めるようにした連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、取鍋中の溶鋼を鋳型に投入し、鋳型内部で冷却(一次冷却)して凝固シェルを形成し、その後水によるスプレイ帯にガイドロールによって案内しつつ冷却して(二次冷却)凝固シェルを次第に厚くしていき、その後ピンチロールによって徐々に引き抜いて凝固完了した部分から切断(分塊)して鋳片としてその後の工程に送るように構成されている。
【0003】
こうした連続鋳造においては、生産性を高めるためには、鋳造速度をできるだけ大きくすることが好ましいとされる。しかしながら、鋳造速度をあまり大きくし過ぎると凝固完了位置が連続鋳造機の下流側に移動してしまい、切断までに凝固が完了しないという事態が生じる。そうすると、切断位置(例えば、ガスカッターの位置)において未凝固の溶鋼が漏れ出してしまい(以下、「湯漏れ」と呼ぶ)、操業上のトラブルとなる。こうしたことから、鋳造速度は凝固完了位置を適切に把握した上で設定される必要がある。
【0004】
これまで、鋳造速度を設定するに当たっては、鋳型内メニスカスから最終スタンドロールまでの距離(いわゆる「連続鋳造機の機長」)を基準として、鋳造速度を設定するのが一般的である。即ち、二次冷却水量などを考慮し、鋳片凝固完了位置が最終ロールスタンドの位置となるように鋳造速度を設定している。
【0005】
しかしながら、最終ロールスタンドから、切断機までには十分な距離があり、機長を基準として鋳造速度を設定しても生産性向上には限界がある。また、鋳片凝固完了位置を正確に把握することは困難であり、鋳造速度の設定は経験則によって設定されるのが一般的である。
【0006】
鋳片凝固完了位置を定量的に演算する技術として、例えば特許文献1には、二次冷却水の水量やピンチロールの回転速度などから鋳片凝固完了位置を演算する技術が提案されている。この技術では、鋳片切断時に湯漏れが発生しないように、二次冷却水の水量やピンチロールの回転速度を制御して鋳造速度をできるだけ大きくするものである。また、この技術では、鋳造速度の設定の基準として、凝固開始点から鋳片切断までの距離(即ち、鋳型内メニスカスから鋳片切断位置までの距離)が示されている。
【0007】
しかしながら、現実問題としては、鋳片の凝固完了位置は二次冷却水の水量やピンチロールの回転速度だけによって決定されるものではなく、これらの要件を考慮して演算しただけでは実際の凝固位置を正確に把握することができない。例えば、操業条件が同じであっても、鋼種(特に、鋳片の炭素濃度)によって鋳片凝固位置は変動することがあり、場合によっては鋳片切断位置において鋳片凝固が完了しておらず、湯漏れが発生するという事態を招くことがある。
【特許文献1】特開平5−123834号公報 「特許請求の範囲」、段落[0020]など
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、鋳片切断時に湯漏れなどの問題を発生させることなくその鋳造速度をできるだけ速くして生産性を高めるようにした連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る連続鋳造方法とは、ブルーム鋳片を連続鋳造するに当たり、ブルーム鋳片厚さをD、鋳型内メニスカスから最終スタンドロールまでの距離をL1(cm)、鋳型内メニスカスから鋳片切断位置までの距離をL2(cm)としたとき、下記(1)式で規定される最大鋳造速度Vmaxおよび下記(2)式で規定される最小鋳造速度Vminの範囲内となるように鋳造速度Vc(cm/min)を制御して操業する点に要旨を有するものである。
Vmax=(2k/D)2×(L2−200) …(1)
Vmin=(2k/D)2×(L1) …(2)
但し、kは鋳片の炭素濃度を[C]としたときに、下記(3)式によって求められる 凝固定数(mm/min1/2)を示す。
k=−α[C]+β(α,βは鋼種によって決定される係数)…(3)
【0010】
本発明の連続鋳造方法においては、鋳片の炭素濃度[C]が0.01〜1.0%であることが好ましい。また本発明は、ブルーム鋳片における軸直角断面が厚み:200〜500mm、幅:200〜700mmであるものを想定したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、ブルーム鋳片の炭素濃度に応じた凝固定数を求め、この凝固定数を考慮しつつ、ブルーム鋳片厚さをD、鋳型内メニスカスから最終スタンドロールまでの距離をL1(cm)、鋳型内メニスカスから鋳片切断位置までの距離をL2(cm)などに基づき、所定の関係式を満足するように鋳造速度Vc(cm/min)を設定するようにしたので、鋼種による鋳片凝固完了位置の変動に追随して最適な鋳造速度が把握でき、連生産性を更に高めることができる連続鋳造方法が実現できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
連続鋳造を実施するに際して、適切な鋳造速度を設定するためには、鋳片凝固完了位置を適切に予測することが必要である。この点に関して、凝固開始点(代表的には、鋳型内メニスカスの位置)から、凝固完了点(代表的には、最終スタンドロールの位置)までの距離をL、鋳片凝固厚みをDとしたとき、鋳造速度Vcは一般的に下記(4)式のように表せることが知られている(例えば、「鉄鋼便覧」)。
Vc=(2K/D)2×L …(4)
【0013】
上記(4)式において、Kは操業条件等によって求められる凝固定数であり、これまでにも様々なものが提案されている(例えば、前記特許文献1)。しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、これまで提案されている凝固定数を用いた場合には、実際の凝固位置を正確に把握できないことが分かった。例えば、操業条件が同じであっても、鋼種(特に、鋳片の炭素濃度)によって鋳片凝固位置は変動することがあることから、こうした要件をも考慮して凝固定数を決定する必要がある。
【0014】
こうした観点から、様々な鋼種のものを用いて最適な凝固定数(以下、凝固定数kとする)を求めるための実験を行った。その結果、鋳片の炭素濃度を[C]としたときに、凝固定数kは下記(3)式によって求められる凝固定数k(mm/min1/2)として表せることが判明した。また、こうした凝固定数kを決定するに当っては、断面形状が比較的大型のブルーム鋳片の場合には、二次冷却水量は通常の条件に従う限り(例えば、比水量0.10〜0.50L/kg程度)それほど影響を及ぼさないことも分かった。
k=−α[C]+β(α,βは鋼種によって決定される係数)…(3)
【0015】
上記係数αおよびβは、炭素以外の成分(例えば、Mn、Si等)によっても多少変化するが、通常含有される範囲内(Mn:0〜1.50%、Si:0〜0.50%程度)では、或る一定の値を採ることが確認された。
【0016】
本発明者らが検討したところによれば、Mn:0〜1.50%、Si:0〜0.50%を含む鋳片について、上記係数α,βを求めたところ、α=−3.5437、β=28.352の値が求められた。尚、上記凝固定数kは、鋳片鋲打ちテストによって求められた値である。
【0017】
上記凝固定数kを求めた手順は、下記の通りである。即ち、一定速度で引抜時に、連鋳機の所定位置の上面側ブルーム表面に鋲を打ち込んだ。打ち込み部は、ブルーム幅方向中心部である。そして、打ち込み部を切り出し加工後、マクロ腐食により凝固速度を測定した。その結果、凝固定数kは上記一般式(3)によって求められることが判明したのである。
【0018】
上記凝固定数kが決まると、前記(4)式に基づいて凝固開始点から凝固完了点までの距離Lを予測することができ、また適切な鋳造速度Vcを決定することができる。
【0019】
本発明者らは、上記凝固定数kに基づいて、適切な鋳造速度を求めるための様々な角度から検討した。そして、鋳造速度Vcは、少なくとも最終スタンドロールまでに凝固を完了するように設定する必要がある。こうしたことから、操業に際しての最小鋳造速度Vminは、ブルーム鋳片厚さをD、鋳型内メニスカスから最終スタンドロールまでの距離をL1(cm)としたとき、下記(2)式のようにして求められることになる。
Vmin=(2k/D)2×(L1) …(2)
【0020】
一方、鋳造速度Vcを大きくするには、凝固完了位置を切断位置にできるだけ近づける必要がある。こうしたことから、凝固完了位置を切断位置として想定したときには、鋳型内メニスカスから鋳片切断位置までの距離をL2(cm)としたとき、下記(5)式によって求められる鋳造速度Vcの適用が予想される。
Vc=(2k/D)2×(L2) …(5)
【0021】
しかしながら、凝固完了位置を切断位置として想定して決定される鋳造速度Vcで操業した場合には、切断位置までに鋳片の凝固が完了しているとは限らず、鋳片切断時に「湯漏れ」が発生することがある。そこで、本発明者らは、鋳片切断時に湯漏れが確実になくなるような鋳造速度Vcは、凝固完了位置を切断位置から200cm手前に設定したときに求められる値とすれば良いことを見出した。こうしたことから、操業に際しての適用できる最大の鋳造速度Vmaxは、ブルーム鋳片厚さをD、鋳型内メニスカスから鋳片切断位置までの距離をL2(cm)としたとき、下記(1)式で求められることになる。
Vmax=(2K/D)2×(L2−200) …(1)
【0022】
即ち、上記(1)式で規定される最大鋳造速度Vmaxおよび上記(2)式で規定される最小鋳造速度Vminの範囲内となるように鋳造速度Vc(cm/min)を制御して操業することによって、鋳片切断時に湯漏れなどの問題を発生させることなくその鋳造速度をできるだけ速くして生産性を高めることができるのである。
【0023】
本発明で対象とするブルーム鋳片の炭素濃度[C]の範囲については、特に限定するものではないが、あまり含有量が高くなると、上記(3)式で規定される凝固定数kが適用できなくなるので、0.01〜1.0%程度のものであることが好ましい。また、他の成分としてMn:0〜1.50%程度、Si:0〜0.50%程度であることが好ましい。
【0024】
また本発明で対象とするブルーム鋳片は、軸直角断面形状が比較的大きいものを想定したものであり、その形状は例えば厚み:200〜500mm、幅:200〜700mm程度である。これより小さなものとなると(例えばビレット鋳片)、冷却水量の影響が顕著に現われることになる。
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0026】
鋳片の炭素濃度[C]を様々変えた各種の鋼材(Mn含有量:0.45%,Si含有量:0.20%を連続鋳造し、厚さ:380mm、幅:600mmのブルーム鋳片を製造した。このとき、前記(1)式、(2)式または(5)式に基づいて鋳造速度Vcを設定した。尚、適用した連続鋳造機は、鋳型内メニスカスから最終スタンドロールまでの距離(機長)L1が3490(cm)、鋳型内メニスカスから鋳片切断位置(ガスカッターの位置)までの距離L2が4490(cm)である。また凝固定数kは、k=−3.5437[C]+28.352を適用した。
【0027】
まず凝固完了位置が最終スタンドロールと想定して鋳造速度Vc(即ち、Vmin)を設定した場合[前記(2)式]と、凝固完了位置を切断位置として鋳造速度Vc(以下、鋳造速度Vc1)を設定した場合[前記(5)式]の夫々について、鋳片の炭素濃度[C]と鋳造速度Vcの関係を下記表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
凝固完了位置を最終スタンドロールとして鋳造速度Vminを設定した場合[前記(2)式]には、湯漏れは発生しなかった。これに対して、凝固完了位置を切断位置として鋳造速度Vc1を設定した場合[前記(5)]には、鋳片の炭素濃度[C]が0.05%のときに鋳造速度Vc1は0.99m/minまで高められることが予想されたが、こうした鋳造速度Vc1では湯漏れが発生していた。
【0030】
そこで、湯漏れの発生の有無と、鋳造速度Vcとの関係について調査した。即ち、凝固完了位置を切断位置として鋳造速度Vc1を設定した場合[前記(5)]から、鋳造速度Vcを徐々に遅くしていき、湯漏れが完全に発生しない鋳造速度について検討した。
【0031】
下記表2は、湯漏れが発生した場合における鋳片炭素濃度[C]と鋳造速度Vc2の関係について示したものであるが、凝固完了位置を切断位置として鋳造速度Vc1を設定した場合[前記(5)]と比べて鋳造速度Vcが若干低下しているにも拘わらず、湯漏れが発生していた。下記表3は、湯漏れが発生しなった場合における炭素濃度[C]と鋳造速度Vc3の関係について示したものであるが、これから湯漏れが発生しないときの最大の鋳造速度Vc(即ち、Vmax)を確認することができる。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
これらの結果に基づき、鋳片炭素濃度[C]と鋳造速度Vcが湯漏れの有無に与える影響について一括して図1に示す。図1において「◆」印は、凝固完了位置を最終スタンドロールの位置と想定した場合の鋳片炭素濃度[C]と鋳造速度Vc(Vmin)の関係を示したものであり、ラインAは前記(2)式に適合するものである。また、図1において「■」印は、凝固完了位置を切断位置と想定して鋳造速度Vc(即ち、Vc1)を設定した場合の鋳片炭素濃度[C]と鋳造速度Vcの関係を示したものであり、ラインBは前記(5)式に適合するものである。
【0035】
ラインCは前記表3に基づき、湯漏れが発生しなかったときの鋳造速度Vc3(図中、「●」印で示す)のうちの最大の鋳造速度Vc(Vmax)を示したものであり、このラインCと前記ラインBとの間の鋳造速度Vc(表2における鋳造速度Vc2)では湯漏れが発生することを示している(図中、「×」印で示す)。
【0036】
図1におけるラインCについて、一般的な式で表すと、前記(1)式で表せることが判明した。即ち、湯漏れが発生しないときの最大の鋳造速度Vmaxは、凝固完了位置を切断位置から200cm手前に設定したとき[前期(1)式]に求められる値とすれば良いことが分かった。
【0037】
換言すれば、鋳片切断時に湯漏れなどの問題を発生させることなくその鋳造速度をできるだけ速くして生産性を高めるためには、前記(1)式で規定される最大鋳造速度Vmaxおよび前記(2)式で規定される最小鋳造速度Vminの範囲内となるように鋳造速度Vcを制御して操業すれば良いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】鋳片の炭素濃度[C]および鋳造速度Vcが湯漏れの有無に与える影響を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブルーム鋳片を連続鋳造するに当たり、ブルーム鋳片厚さをD、鋳型内メニスカスから最終スタンドロールまでの距離をL1(cm)、鋳型内メニスカスから鋳片切断位置までの距離をL2(cm)としたとき、下記(1)式で規定される最大鋳造速度Vmaxおよび下記(2)式で規定される最小鋳造速度Vminの範囲内となるように鋳造速度Vc(cm/min)を制御して操業することを特徴とする連続鋳造方法。
Vmax=(2k/D)2×(L2−200) …(1)
Vmin=(2k/D)2×(L1) …(2)
但し、kは鋳片の炭素濃度を[C](質量%)としたときに、下記(3)式によって 求められる凝固定数(mm/min1/2)を示す。
k=−α[C]+β(α,βは鋼種によって決定される係数)…(3)
【請求項2】
鋳片の炭素濃度[C]が0.01〜1.0%である請求項1に記載の連続鋳造方法。
【請求項3】
ブルーム鋳片における軸直角断面が厚み:200〜500mm、幅:200〜700mmである請求項1または2に記載の連続鋳造方法。

【図1】
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