連続鋳造方法
【課題】中炭素鋼を連続鋳造を行うにあたって、鋳造初期に発生し易い鋳片の縦割れを防止することができるようにする。
【解決手段】C含有量が0.08〜0.18質量%の中炭素鋼を連続鋳造するに際し、定常状態にて鋳型に投入する本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とする。鋳造初期に鋳型に投入する初期モールドパウダーの塩基度を本体モールドパウダーよりも大きくする。初期モールドパウダーの塩基度を1.9以下とする。初期モールドパウダーの投入量が、投入量(kg)≧3.0×(鋳型上部内寸幅[m]+鋳型上部内寸厚み[m]) を満たすようにする。
【解決手段】C含有量が0.08〜0.18質量%の中炭素鋼を連続鋳造するに際し、定常状態にて鋳型に投入する本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とする。鋳造初期に鋳型に投入する初期モールドパウダーの塩基度を本体モールドパウダーよりも大きくする。初期モールドパウダーの塩基度を1.9以下とする。初期モールドパウダーの投入量が、投入量(kg)≧3.0×(鋳型上部内寸幅[m]+鋳型上部内寸厚み[m]) を満たすようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、中炭素鋼を鋳造する連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶鋼を鋳型に注入して溶鋼の連続鋳造を行うに際して、鋳型にモールドパウダーを投入し、鋳造後の鋳片の表面割れ等を防止する技術がある。
特許文献1では、全カーボン量が5%以下であるモールドパウダーを鋳込み初期にモールド内に散布し、鋳込み開始後の1ヒート以内に全カーボン量が5%を超え15%以下であるモールドパウダーをモールド内に追加散布して、Al含有量が0.70%以上である鋼を連続鋳造している。
【0003】
特許文献2では、溶融状態からシェル−モールド銅板間に流入して銅板に固着する過程で結晶を晶出する連続鋳造用モールドパウダー(A)にて連続鋳造を開始し、モールドパウダー(A)にてモールドと鋳片Sの界面に固着フィルム層を形成後、連続鋳造鋳型内での冷却条件による冷却過程では結晶を晶出しない連続鋳造用モールドパウダー(B)に切り替えて鋳造を継続している。
【0004】
特許文献3では、炭素含有量が0.08〜0.18重量%の中炭素鋼を連続鋳造で鋳造するに際し、凝固温度が1000℃以下、溶融温度が930℃以上、粘度;1.5〜4.0poise、溶融速度;3.5〜7.0g/cm2 ・minであるフロントパウダーを用いて連続鋳造している。
これらの技術の他にも鋳造方法において特許文献4及び5に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−42421号公報
【特許文献2】特開2009−279619号公報
【特許文献3】特許第3238073号公報
【特許文献4】特開平09−276996号公報
【特許文献5】特開平02−220749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3では、モールドパウダーを用いて連続鋳造における鋳片の割れなどを防止しているものの、中炭素鋼を鋳造するにあたっては確実に鋳片の割れを防止することは難しいのが実情である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、中炭素鋼を連続鋳造を行うにあたって、鋳造初期に発生し易い鋳片の縦割れを確実に防止することができる連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、C含有量が0.08〜0.18質量%の中炭素鋼を連続鋳造するに際し、定常状態にて鋳型に投入する本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とすることとし、鋳造初期に鋳型に投入する初期モールドパウダーの塩基度を前記本体モールドパウダーよりも大きくし且つ1.9以下とし、さらに、前記初期モールドパウダーの投入量を式(1)を満たすようにする。
【0008】
投入量(kg)≧3.0×(鋳型上部内寸幅[m]+鋳型上部内寸厚み[m]) (1)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中炭素鋼を連続鋳造を行うにあたって、鋳造初期に発生し易い鋳片Sの縦割れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】モールドパウダーの実験装置の全体図である。
【図2】結晶のガラス化の定義を示したものである。
【図3】モールドパウダーのガラス化率と鋳片Sの縦割れ発生率との関係図である。
【図4】モールドパウダーの塩基度とガラス化率との関係図である。
【図5】カスピダインと塩基度との関係をCaO−SiO2−CaFの3元系平衡図で表したものである。
【図6】初期モールドパウダーの塩基度を変化させたときの鋳造初期の鋳片Sの製品でのフクレ疵発生率との関係図である。
【図7】Alキルド鋼を鋳造したときの鋳型内の溶融したモールドパウダーの塩基度の推移図である。
【図8】Si−Alキルド鋼を鋳造したときの鋳型内の溶融したモールドパウダーの塩基度の推移図である。
【図9】鋳型を上面から見た図である。
【図10】初期モールドパウダーの投入量を変化させたときの鋳型内の溶融したモールドパウダーの塩基度の推移図である。
【図11】縦割れ及び表皮下欠陥を示した図である。
【図12】連続鋳造装置の概略を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図12に示す如く、本発明の連続鋳造方法では、まず、転炉等で二次精錬された溶鋼が装入された取鍋10を連続鋳造装置11が設置された連続鋳造ステーションに移動させ、取鍋10内の溶鋼をタンディッシュ12に装入して、タンディッシュ12内の溶鋼を鋳型2に注入することによって溶鋼を連続鋳造する。なお、連続鋳造装置11は、垂直型、垂直曲げ型、湾曲型など様々なものがあるが、本発明の連続鋳造方法ではどのタイプの連続鋳造装置11でもよく限定されない。また、連続鋳造装置11では、スラブ、ブルーム、ビレットなどの鋳片Sを鋳造することができるが、鋳片Sのサイズはどのようなものでもよく限定されない。
【0012】
以下、本発明の連続鋳造方法について詳しく説明する。
C含有量が0.08〜0.18質量%の範囲にある中炭素鋼を鋳造するに際し、溶鋼を冷却した場合、溶鋼はFe−C平衡状態図上で亜包晶凝固する系態をとり、凝固直後にα相からγ相に変態するため、凝固直後の鋳片S(溶鋼)の収縮量が大きく、不均一な凝固が発生し易い。そのため、鋳片Sの表面に割れが発生し易い。本発明の連続鋳造方法では、表面割れが発生しやすい中炭素鋼を鋳造するに際して、鋳造の際に鋳型2に投入するモールドパウダーによって表面割れを防止することとしている。詳しくは、「鉄と鋼、高速連続鋳造時の鋳型内潤滑・伝熱挙動、p16、Vol83、1997年、日本鉄鋼協会発行」に示されているように、鋳型2内において溶鋼が急冷されてしまうと表面割れ(縦割れ)が発生し易いことが知られている。発明者らは、鋳造の際に鋳型2に投入するモールドパウダーに着目して、モールドパウダーについて様々な角度から検証を行った。
【0013】
図1は、モールドパウダーの実験装置を示したものである。この実験装置1を用いた実験では、まず、モールドパウダーを予め600℃で2時間脱炭処理をした後、Ar雰囲気中で1600℃で溶融する。そして、溶融したモールドパウダーを1300℃まで下げて10分間保持して、V字型の溝を有する実験装置1(水冷鋼鋳型2を模した装置)に溶融したモールドパウダーを流し込む。冷却後のモールドパウダーを切断して、切断した断面におけるモールドパウダーのガラス化率を測定した。図2に示すように、ガラス化率とは、切断面の全体厚みBに対するガラス化している部分Aの割合を示す値である。
【0014】
図3は、モールドパウダーのガラス化率と、鋳片Sの縦割れ発生率との関係をまとめたものである。図3に示すように、ガラス化率が70%以下になると縦割れの発生率が急激に低下し、ガラス化率が70%を超えると縦割れの発生率が上昇する。モールドパウダーのガラス化率が上昇する、即ち、モールドパウダーのガラス化が進むと、モールドパウダーにおける熱の伝達が急速となり、鋳片Sを急冷させてしまうため鋳片Sに縦割れが発生すると考えられる。したがって、モールドパウダーのガラス化率を低下させることによって、熱の伝わりを減少させ、鋳片Sを緩冷却することにより縦割れを防止することができ
る。
【0015】
図4は、モールドパウダーの塩基度(T−CaO/SiO2)とガラス化率との関係をまとめたものである。塩基度とは、モールドパウダー中のCa分をCaOに換算し、モールドパウダー中のSi分をSiO2に換算して、換算したCaOから換算したSiO2で割った値である。
図4に示すように、モールドパウダーの塩基度が1.2以上にすると、カスピダイン(3CaO・2SiO2・CaF2)結晶が十分に晶出してガラス化率を70%以下にすることができ、鋳片Sの縦割れを防止することができる。また、モールドパウダーの塩基度が1.2未満の場合は鋳型2内で凝固したモールドパウダー中にカスピダインの結晶が十分に晶出しないため、鋳型2内での緩冷却が達成できずに、鋳片Sに縦割れが発生すると考えられる。カスピダインと塩基度との関係をCaO−SiO2−CaFの3元系で表すと図5に示すようになる。
【0016】
このようなことから、本発明では、定常状態にて鋳型2に投入するモールドパウダー(定常状態で投入するモールドパウダーを本体モールドパウダーということがある)の塩基度を1.2以上とすることとしている。
さて、鋳造初期では、溶鋼の温度低下を防止するために、モールドパウダー中に含有させた金属Si、Ca−Si合金などの発熱剤によって発熱させる必要がある。そのため、初期に鋳型2に投入するモールドパウダー(初期モールドパウダー)は、定常状態で投入する本体モールドパウダーとは別のものとしている。ここで、鋳造初期とは、タンディッシュ12から鋳型2への溶鋼を注入開始した直後から鋳片Sの引き抜きを開始するまでの期間のことであり、それ以降を定常状態(定常期)という。
【0017】
初期モールドパウダーには、Siを含有する発熱物質を多く含むことから塩基度が下がる傾向にあるものの、本発明では、初期モールドパウダーの塩基度は、本体モールドパウダーの塩基度よりも大きくすることにより、発熱と縦割れとの両方を防止することとしている。なお、初期モールドパウダーと本体モールドパウダーとの関係は後述する。
次に、本体モールドパウダーと、初期モールドパウダーについてさらに詳しく説明する。まず、モールドパウダーの各成分について説明する。
【0018】
[本体モールドパウダーの成分について]
本体モールドパウダーのCaO及びSiO2含有量は60〜75質量%であり、F、Al2O3、Na2O、Li2O、MgO、C等が含有されている。これらの元素は、結晶析出に必要であると共に、溶融速度、溶融時の粘度、凝固温度をコントロールするために必要である。まず、各成分について説明する。
【0019】
鋳造の際にカスピダインを晶出させて結晶化する必要があり、Fは、このカスピダインを晶出させるために不可欠な元素であり、CaOやSiO2に対して一定量以上含有させる必要があり、Fは5質量%以上(F≧5%)にする必要がある。
CaO、SiO2、CaF2の割合によっては、本体モールドパウダーの凝固温度が1300℃以上となってしまう可能性があり、本体モールドパウダーによる鋳型2と鋳片Sとの間の潤滑の役割が低下する虞がある。本体モールドパウダーの凝固温度を調整するもの(凝固温度を低下させるもの)として、Na2O、Li2Oを含有させる必要があり、Na2O+Li2O≧3質量%とすることが望ましい。なお、本体モールドパウダーの凝固温度が低くなる場合は、MgO、ZrO2等を含有させて凝固温度を上昇させてもよい。
上述したF、Na2O、Li2Oは、凝固温度を下げる役割がある一方、溶融した本体モールドパウダーの粘度を低下させてしまう。ある程度、本体モールドパウダーの粘度を確保しないと、本体モールドパウダーが溶鋼内へ巻き込まれてしまう可能性がある。
【0020】
Al2O3は、本体モールドパウダーの粘度を上げる効果があり、各種原料から不可避的に混入する量に加えて、粘度調整が必要な場合は適宜投入する。
Cは、本体モールドパウダーの溶融速度を調整する投入剤として有効であり、必要により適正量を配合しておく必要がある。一般的には、特許第3463567号の[0057]に記載されているようにその効果を得るためには1質量%以上の含有率とすることが望ましく、10質量%を越えると逆に溶融速度が遅くなりすぎ、連続鋳造が難しくなる。
【0021】
[初期モールドパウダーの成分について]
初期モールドパウダーに含有する元素は、本体モールドパウダーで使用するパウダーと殆ど同じであり、CaO、SiO2、F、Al2O3、Na2O、Li2O、MgO、C等が含有されている。上述したように鋳造初期では、鋳型2内の溶鋼の温度低下を抑制するために例えば金属SiやCa−Si合金などの発熱物質(発熱剤)を含有させる必要があり、また、金属SiやCa−Si合金等の発熱剤の燃焼(酸化)に必要な酸化鉄や硝酸ソーダも10質量%程度含有させている。
【0022】
ここで、Si分を含有する発熱物質の含有量(投入量)が少ないと、初期モールドパウダーの塩基度が上がることとなり、少なくとも鋳造初期における鋳型2内の溶鋼の温度低下を補償するためには、塩基度を1.9以下にする必要がある。即ち、初期モールドパウダーの塩基度が1.9を越えると溶鋼の温度低下を補償するほどの発熱量を確保できなくなってしまい、鋳型2内湯面の凝固が発生し、品質異常(製品でのフクレ疵)や操業トラブルが発生してしまう可能性がある。
【0023】
図6は、初期モールドパウダーの塩基度を変化させたときの鋳造初期の鋳片Sの製品でのフクレ疵発生率を示したものである。図6に示すように、初期モールドパウダーの塩基度が1.9以下である場合は発熱量を確保できるため、製品でのフクレ疵は全く発生しない(フクレ疵発生率が0%)。一方、初期モールドパウダーの塩基度が1.9を超えてしまうと製品でのフクレ疵が発生することになる。
【0024】
このように、本発明では、中炭素鋼を連続鋳造するに際し、定常状態にて鋳型2に投入する本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とすることとし、鋳造初期に鋳型2に投入する初期モールドパウダーの塩基度を本体モールドパウダーよりも大きくし且つ1.9以下としている。
図7及び8は、連続鋳造の際に初期モールドパウダー及び本体モールドパウダーを鋳型2に投入したときの塩基度の推移を示したものである。図中のパラメータ「本+数値」は、初期モールドパウダーの塩基度を本体モールドパウダーの塩基度(図中の本)を用いて表したものである。例えば、「本+0.2」であれば、初期モールドパウダーの塩基度は、本体モールドパウダーの塩基度に0.2を足した値である。また、図中の本体C/Sとは、使用前の本体モールドパウダーの塩基度(分析値)であり、C/S実績とは鋳型2内で溶融しているモールドパウダーの塩基度の実績値である。
【0025】
図7及び図8に示すように、初期モールドパウダーを投入後に本体モールドパウダーを投入していくと、次第に塩基度は、ほぼ一定値となる。ここで、塩基度については、鋳造する溶鋼成分(脱酸元素の種類:例えば、Si単独、Si−Al併用、Al単独の脱酸)の影響を受ける。
図7に示すように、Alキルド鋼では溶鋼中のAlとモールドパウダー内のSiO2とが反応するため、モールドパウダーの塩基度は0.2程度に上昇する傾向にある。これは、Alキルド鋼ではモールドパウダー中のSiO2とAlとの反応『3/2SiO2+2[Al]→3/2[Si]+Al2O3、[]は溶鋼中に存在』により、SiO2が減少するためである。
【0026】
図8に示すように、Si−Alキルド鋼では溶鋼中にSiが含まれ上記の反応が抑制されるため、Alキルド鋼に比べて塩基度の上昇量は少なく0.05程度である。初期モールドパウダーを鋳型2に投入する場合、鋳造初期は上記の反応が進まないため、定常部と同等の塩基度を確保するために、初期モールドパウダーの塩基度を上げておく必要がある。
【0027】
このように、初期モールドパウダー供給後に本体モールドパウダーを随時追加投入するが、初期モールドパウダーの投入量が少なすぎると、塩基度の低い本体モールドパウダーの割合が増加し、塩基度が十分に上昇しない可能性がある。本発明では、初期モールドパウダーの投入量を式(1)を満たすようにしている。
投入量(kg)≧3.0×(鋳型上部内寸幅[m]+鋳型上部内寸厚み[m]) (1)
式(1)は実験等により求めたものであって、モールドパウダー(初期モールドパウダー)は、鋳型2と鋳型2内溶鋼との間に鋳型2振動により流入して消費されるため、初期
モールドパウダーの投入量は、鋳型上部内寸幅と、鋳型上部内寸厚みとで規定することとした。
【0028】
言い換えれば、モールドパウダーが存在するのは鋳型2内側の領域であり、鋳型2内側面と溶鋼との間に存在する。それ故、モールドパウダーの投入量を鋳型2内側の寸法で規定することにした。
図9は鋳型2を上面から見たものである。
図9に示すように、鋳型上部内寸幅(鋳型上部幅)とは、鋳型2を構成する一対の短辺銅板3間の距離、言い換えれば、短辺側内壁間の直線距離である。鋳型上部内寸厚み(鋳型上部厚み)とは、鋳型2を構成する一対の長辺銅板4間の距離、言い換えれば、長辺側内壁間の直線距離である。なお、鋳型2を上面から見て正方形の場合は、鋳型上部内寸幅と鋳型上部内寸厚みとは同じ長さとなる。
【0029】
図10は、初期モールドパウダーの投入量を変更した場合の鋳型2内の溶融したモールドパウダーの推移(実験結果)をまとめたものである。図10の実験では、鋳型2のサイズ240mm(短辺側の内寸)×1760mm(長辺側の内寸)とし、初期モールドパウダーの投入量は、4kg、6kg、10kgとした。
図10に示すように、初期モールドパウダーの投入量が鋳型2の大きさ(鋳型上部内寸幅+鋳型上部内寸厚み)に比べて3倍以上であるとき(図中◆)、鋳造の際での塩基度が上昇し易い。言い換えれば、初期モールドパウダーの投入量が鋳型2の大きさの3倍と5倍とは塩基度の上昇傾向が同じであり、初期モールドパウダーの投入量が2倍であると(図中▲)、塩基度の上昇が遅いため、この投入量は少なくとも鋳型2の大きさの3倍以上にする必要がある。つまり、投入量の下限値は、鋳造初期において溶鋼の酸化の影響およびモールドパウダー中のSiO2と溶鋼中のアルミナとの反応が平衡状態になるまでの時間で消費されるモールドパウダーの塩基度を上昇させておくのに必要な量である。なお、鋳造初期において、初期パウダーを複数回に分けて投入した場合は合計量を、式(1)に示した投入量とする。なお、連続鋳造装置11では、鋳型2内の溶鋼湯面に熱を供給するために、鋳型2内の溶鋼流動をコントロールできる攪拌装置が付いていることが望ましく、また、タンディッシュ12から鋳型2へ溶鋼を注入する浸漬ノズルの形状は、鋳型2内の溶鋼湯面に溶鋼が供給されやすい形状とすることが好ましい。
【0030】
表1は、本発明の連続鋳造方法にて鋳造を行った実施例と、本発明とは異なる方法で鋳造を行った比較例とを示したものである。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例及び比較例では、C含有量が0.08〜0.18質量%の中炭素鋼を鋳造することとし、リニア式電磁攪拌装置と旋回型電磁攪拌装置とのいずれかを用いて鋳型2内の溶鋼を攪拌した。磁束密度は、鋳型2のメニスカスの高さに一致する長辺銅板の位置から外側に10mm離れた位置において幅方向に複数点測定した値の平均をとったものである。
浸漬ノズルの吐出角度は水平方向下向きに15°〜35°の角度とすると共に、鋳型2
内で攪拌された溶鋼の流れと浸漬ノズルからの吐出流とが干渉しない向きとし、鋳型2内の溶鋼の湯面への熱供給を促進した。なお、電磁攪拌装置を使用しない場合でも、鋳型2内の溶鋼の湯面への熱供給を促進することが浸漬ノズルの吐出角度や形状等によって行うことができればよく、電磁攪拌装置や浸漬ノズルの吐出角度などは限定されない。
【0033】
本体モールドパウダーの組成は、塩基度1.21〜1.80とし、Na2O+Li2O=3.0〜17質量%、Al2O3=1.3〜6.6質量%、T.C(パウダー中のC量=2.9〜6.3質量%、MgO=0.0〜5.9質量%、MnO=0.0〜0.3質量%、SrO=0.0〜3.5質量%、Zr2O=0.0〜3.5質量%とした。
また、初期モールドパウダーの組成は、塩基度1.26〜1.90とし、Na2O+Li2O=3.0〜12質量%、Al2O3=1.2〜6.5質量%、T.C(パウダー中のC量=0.7〜3.3質量%、Fe2O3=7〜15質量%とした。
【0034】
実施例及び比較例では、「縦割れ発生」の有無と、「表皮下欠陥」の有無について評価した。縦割れとは、鋳片S表面に発生する鋳造方向に平行な割れのことであって、図11(a)、図11(b)に示すように、鋳造初期については、「鋳造開始後1本目の鋳片S」を、「定常部については鋳造開始後の約20〜30m経過した部位の鋳片S」を、それぞれ水冷した後、表面を約1.5mmガストーチで溶削したものを目視検査にてチェックし、開口した縦割れが発生したかどうかで良否を判定した。定常部及び鋳造初期について、縦割れ発生無しを良好「○」、縦割れ発生を不良「×」でそれぞれ評価した。
【0035】
表皮下欠陥とは、図11(c)に示すように、圧延後の製品表面にヘゲ状のキズやフクレ疵として現れるもので、鋳造開始後1本目の鋳片Sの製品で表皮下欠陥の発生無しを良好「○」、表皮下欠陥の発生有りを不良「×」として評価した。この表皮下欠陥は、鋳型2内の溶鋼の浴面(上面側)が熱不足により凝固し始めると、鋳型2内の溶鋼中から浮上してきたガス気泡(浸漬ノズルもしくは上ノズルから吹き込まれるArガス気泡)やアルミナなどの介在物が凝固後に下面(内部)に捕捉され、鋳片Sの表皮下に取り込まれてしまうことにより発生するものと思われる。
【0036】
実施例に示すように、本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とし、初期モールドパウダーの塩基度を本体モールドパウダーよりも大きくし且つ1.9以下とし、さらに、初期モールドパウダーの投入量を式(1)を満たすようにすれば、縦割れ及び表皮下欠陥の発生はなくこれらを確実に防止することができた。
一方、比較例では、次に示す条件(a)〜(d)の少なくともいずれか1つを満たしていないため、縦割れ又は表皮下欠陥が発生してしまった。(a)本体モールドパウダーの塩基度が1.2未満、(b)初期モールドパウダーの塩基度が本体モールドパウダーよりも小さい、(c)初期モールドパウダーの塩基度が1.9よりも大きい(1.9超える)、(d)初期モールドパウダーの投入量が式(1)を満たしていない。
【0037】
以上、本発明によれば、連続鋳造を行うにあたって、鋳込み初期に発生し易い鋳型2内の表面の凝固を防止すると共に、鋳込み初期における鋳片Sの縦割れを確実に防止することができる。
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0038】
1 実験装置
2 鋳型
3 短辺銅板
4 長辺銅板
10 取鍋
11 連続鋳造装置
12 タンディッシュ
S 鋳片
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、中炭素鋼を鋳造する連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶鋼を鋳型に注入して溶鋼の連続鋳造を行うに際して、鋳型にモールドパウダーを投入し、鋳造後の鋳片の表面割れ等を防止する技術がある。
特許文献1では、全カーボン量が5%以下であるモールドパウダーを鋳込み初期にモールド内に散布し、鋳込み開始後の1ヒート以内に全カーボン量が5%を超え15%以下であるモールドパウダーをモールド内に追加散布して、Al含有量が0.70%以上である鋼を連続鋳造している。
【0003】
特許文献2では、溶融状態からシェル−モールド銅板間に流入して銅板に固着する過程で結晶を晶出する連続鋳造用モールドパウダー(A)にて連続鋳造を開始し、モールドパウダー(A)にてモールドと鋳片Sの界面に固着フィルム層を形成後、連続鋳造鋳型内での冷却条件による冷却過程では結晶を晶出しない連続鋳造用モールドパウダー(B)に切り替えて鋳造を継続している。
【0004】
特許文献3では、炭素含有量が0.08〜0.18重量%の中炭素鋼を連続鋳造で鋳造するに際し、凝固温度が1000℃以下、溶融温度が930℃以上、粘度;1.5〜4.0poise、溶融速度;3.5〜7.0g/cm2 ・minであるフロントパウダーを用いて連続鋳造している。
これらの技術の他にも鋳造方法において特許文献4及び5に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−42421号公報
【特許文献2】特開2009−279619号公報
【特許文献3】特許第3238073号公報
【特許文献4】特開平09−276996号公報
【特許文献5】特開平02−220749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3では、モールドパウダーを用いて連続鋳造における鋳片の割れなどを防止しているものの、中炭素鋼を鋳造するにあたっては確実に鋳片の割れを防止することは難しいのが実情である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、中炭素鋼を連続鋳造を行うにあたって、鋳造初期に発生し易い鋳片の縦割れを確実に防止することができる連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、C含有量が0.08〜0.18質量%の中炭素鋼を連続鋳造するに際し、定常状態にて鋳型に投入する本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とすることとし、鋳造初期に鋳型に投入する初期モールドパウダーの塩基度を前記本体モールドパウダーよりも大きくし且つ1.9以下とし、さらに、前記初期モールドパウダーの投入量を式(1)を満たすようにする。
【0008】
投入量(kg)≧3.0×(鋳型上部内寸幅[m]+鋳型上部内寸厚み[m]) (1)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中炭素鋼を連続鋳造を行うにあたって、鋳造初期に発生し易い鋳片Sの縦割れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】モールドパウダーの実験装置の全体図である。
【図2】結晶のガラス化の定義を示したものである。
【図3】モールドパウダーのガラス化率と鋳片Sの縦割れ発生率との関係図である。
【図4】モールドパウダーの塩基度とガラス化率との関係図である。
【図5】カスピダインと塩基度との関係をCaO−SiO2−CaFの3元系平衡図で表したものである。
【図6】初期モールドパウダーの塩基度を変化させたときの鋳造初期の鋳片Sの製品でのフクレ疵発生率との関係図である。
【図7】Alキルド鋼を鋳造したときの鋳型内の溶融したモールドパウダーの塩基度の推移図である。
【図8】Si−Alキルド鋼を鋳造したときの鋳型内の溶融したモールドパウダーの塩基度の推移図である。
【図9】鋳型を上面から見た図である。
【図10】初期モールドパウダーの投入量を変化させたときの鋳型内の溶融したモールドパウダーの塩基度の推移図である。
【図11】縦割れ及び表皮下欠陥を示した図である。
【図12】連続鋳造装置の概略を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図12に示す如く、本発明の連続鋳造方法では、まず、転炉等で二次精錬された溶鋼が装入された取鍋10を連続鋳造装置11が設置された連続鋳造ステーションに移動させ、取鍋10内の溶鋼をタンディッシュ12に装入して、タンディッシュ12内の溶鋼を鋳型2に注入することによって溶鋼を連続鋳造する。なお、連続鋳造装置11は、垂直型、垂直曲げ型、湾曲型など様々なものがあるが、本発明の連続鋳造方法ではどのタイプの連続鋳造装置11でもよく限定されない。また、連続鋳造装置11では、スラブ、ブルーム、ビレットなどの鋳片Sを鋳造することができるが、鋳片Sのサイズはどのようなものでもよく限定されない。
【0012】
以下、本発明の連続鋳造方法について詳しく説明する。
C含有量が0.08〜0.18質量%の範囲にある中炭素鋼を鋳造するに際し、溶鋼を冷却した場合、溶鋼はFe−C平衡状態図上で亜包晶凝固する系態をとり、凝固直後にα相からγ相に変態するため、凝固直後の鋳片S(溶鋼)の収縮量が大きく、不均一な凝固が発生し易い。そのため、鋳片Sの表面に割れが発生し易い。本発明の連続鋳造方法では、表面割れが発生しやすい中炭素鋼を鋳造するに際して、鋳造の際に鋳型2に投入するモールドパウダーによって表面割れを防止することとしている。詳しくは、「鉄と鋼、高速連続鋳造時の鋳型内潤滑・伝熱挙動、p16、Vol83、1997年、日本鉄鋼協会発行」に示されているように、鋳型2内において溶鋼が急冷されてしまうと表面割れ(縦割れ)が発生し易いことが知られている。発明者らは、鋳造の際に鋳型2に投入するモールドパウダーに着目して、モールドパウダーについて様々な角度から検証を行った。
【0013】
図1は、モールドパウダーの実験装置を示したものである。この実験装置1を用いた実験では、まず、モールドパウダーを予め600℃で2時間脱炭処理をした後、Ar雰囲気中で1600℃で溶融する。そして、溶融したモールドパウダーを1300℃まで下げて10分間保持して、V字型の溝を有する実験装置1(水冷鋼鋳型2を模した装置)に溶融したモールドパウダーを流し込む。冷却後のモールドパウダーを切断して、切断した断面におけるモールドパウダーのガラス化率を測定した。図2に示すように、ガラス化率とは、切断面の全体厚みBに対するガラス化している部分Aの割合を示す値である。
【0014】
図3は、モールドパウダーのガラス化率と、鋳片Sの縦割れ発生率との関係をまとめたものである。図3に示すように、ガラス化率が70%以下になると縦割れの発生率が急激に低下し、ガラス化率が70%を超えると縦割れの発生率が上昇する。モールドパウダーのガラス化率が上昇する、即ち、モールドパウダーのガラス化が進むと、モールドパウダーにおける熱の伝達が急速となり、鋳片Sを急冷させてしまうため鋳片Sに縦割れが発生すると考えられる。したがって、モールドパウダーのガラス化率を低下させることによって、熱の伝わりを減少させ、鋳片Sを緩冷却することにより縦割れを防止することができ
る。
【0015】
図4は、モールドパウダーの塩基度(T−CaO/SiO2)とガラス化率との関係をまとめたものである。塩基度とは、モールドパウダー中のCa分をCaOに換算し、モールドパウダー中のSi分をSiO2に換算して、換算したCaOから換算したSiO2で割った値である。
図4に示すように、モールドパウダーの塩基度が1.2以上にすると、カスピダイン(3CaO・2SiO2・CaF2)結晶が十分に晶出してガラス化率を70%以下にすることができ、鋳片Sの縦割れを防止することができる。また、モールドパウダーの塩基度が1.2未満の場合は鋳型2内で凝固したモールドパウダー中にカスピダインの結晶が十分に晶出しないため、鋳型2内での緩冷却が達成できずに、鋳片Sに縦割れが発生すると考えられる。カスピダインと塩基度との関係をCaO−SiO2−CaFの3元系で表すと図5に示すようになる。
【0016】
このようなことから、本発明では、定常状態にて鋳型2に投入するモールドパウダー(定常状態で投入するモールドパウダーを本体モールドパウダーということがある)の塩基度を1.2以上とすることとしている。
さて、鋳造初期では、溶鋼の温度低下を防止するために、モールドパウダー中に含有させた金属Si、Ca−Si合金などの発熱剤によって発熱させる必要がある。そのため、初期に鋳型2に投入するモールドパウダー(初期モールドパウダー)は、定常状態で投入する本体モールドパウダーとは別のものとしている。ここで、鋳造初期とは、タンディッシュ12から鋳型2への溶鋼を注入開始した直後から鋳片Sの引き抜きを開始するまでの期間のことであり、それ以降を定常状態(定常期)という。
【0017】
初期モールドパウダーには、Siを含有する発熱物質を多く含むことから塩基度が下がる傾向にあるものの、本発明では、初期モールドパウダーの塩基度は、本体モールドパウダーの塩基度よりも大きくすることにより、発熱と縦割れとの両方を防止することとしている。なお、初期モールドパウダーと本体モールドパウダーとの関係は後述する。
次に、本体モールドパウダーと、初期モールドパウダーについてさらに詳しく説明する。まず、モールドパウダーの各成分について説明する。
【0018】
[本体モールドパウダーの成分について]
本体モールドパウダーのCaO及びSiO2含有量は60〜75質量%であり、F、Al2O3、Na2O、Li2O、MgO、C等が含有されている。これらの元素は、結晶析出に必要であると共に、溶融速度、溶融時の粘度、凝固温度をコントロールするために必要である。まず、各成分について説明する。
【0019】
鋳造の際にカスピダインを晶出させて結晶化する必要があり、Fは、このカスピダインを晶出させるために不可欠な元素であり、CaOやSiO2に対して一定量以上含有させる必要があり、Fは5質量%以上(F≧5%)にする必要がある。
CaO、SiO2、CaF2の割合によっては、本体モールドパウダーの凝固温度が1300℃以上となってしまう可能性があり、本体モールドパウダーによる鋳型2と鋳片Sとの間の潤滑の役割が低下する虞がある。本体モールドパウダーの凝固温度を調整するもの(凝固温度を低下させるもの)として、Na2O、Li2Oを含有させる必要があり、Na2O+Li2O≧3質量%とすることが望ましい。なお、本体モールドパウダーの凝固温度が低くなる場合は、MgO、ZrO2等を含有させて凝固温度を上昇させてもよい。
上述したF、Na2O、Li2Oは、凝固温度を下げる役割がある一方、溶融した本体モールドパウダーの粘度を低下させてしまう。ある程度、本体モールドパウダーの粘度を確保しないと、本体モールドパウダーが溶鋼内へ巻き込まれてしまう可能性がある。
【0020】
Al2O3は、本体モールドパウダーの粘度を上げる効果があり、各種原料から不可避的に混入する量に加えて、粘度調整が必要な場合は適宜投入する。
Cは、本体モールドパウダーの溶融速度を調整する投入剤として有効であり、必要により適正量を配合しておく必要がある。一般的には、特許第3463567号の[0057]に記載されているようにその効果を得るためには1質量%以上の含有率とすることが望ましく、10質量%を越えると逆に溶融速度が遅くなりすぎ、連続鋳造が難しくなる。
【0021】
[初期モールドパウダーの成分について]
初期モールドパウダーに含有する元素は、本体モールドパウダーで使用するパウダーと殆ど同じであり、CaO、SiO2、F、Al2O3、Na2O、Li2O、MgO、C等が含有されている。上述したように鋳造初期では、鋳型2内の溶鋼の温度低下を抑制するために例えば金属SiやCa−Si合金などの発熱物質(発熱剤)を含有させる必要があり、また、金属SiやCa−Si合金等の発熱剤の燃焼(酸化)に必要な酸化鉄や硝酸ソーダも10質量%程度含有させている。
【0022】
ここで、Si分を含有する発熱物質の含有量(投入量)が少ないと、初期モールドパウダーの塩基度が上がることとなり、少なくとも鋳造初期における鋳型2内の溶鋼の温度低下を補償するためには、塩基度を1.9以下にする必要がある。即ち、初期モールドパウダーの塩基度が1.9を越えると溶鋼の温度低下を補償するほどの発熱量を確保できなくなってしまい、鋳型2内湯面の凝固が発生し、品質異常(製品でのフクレ疵)や操業トラブルが発生してしまう可能性がある。
【0023】
図6は、初期モールドパウダーの塩基度を変化させたときの鋳造初期の鋳片Sの製品でのフクレ疵発生率を示したものである。図6に示すように、初期モールドパウダーの塩基度が1.9以下である場合は発熱量を確保できるため、製品でのフクレ疵は全く発生しない(フクレ疵発生率が0%)。一方、初期モールドパウダーの塩基度が1.9を超えてしまうと製品でのフクレ疵が発生することになる。
【0024】
このように、本発明では、中炭素鋼を連続鋳造するに際し、定常状態にて鋳型2に投入する本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とすることとし、鋳造初期に鋳型2に投入する初期モールドパウダーの塩基度を本体モールドパウダーよりも大きくし且つ1.9以下としている。
図7及び8は、連続鋳造の際に初期モールドパウダー及び本体モールドパウダーを鋳型2に投入したときの塩基度の推移を示したものである。図中のパラメータ「本+数値」は、初期モールドパウダーの塩基度を本体モールドパウダーの塩基度(図中の本)を用いて表したものである。例えば、「本+0.2」であれば、初期モールドパウダーの塩基度は、本体モールドパウダーの塩基度に0.2を足した値である。また、図中の本体C/Sとは、使用前の本体モールドパウダーの塩基度(分析値)であり、C/S実績とは鋳型2内で溶融しているモールドパウダーの塩基度の実績値である。
【0025】
図7及び図8に示すように、初期モールドパウダーを投入後に本体モールドパウダーを投入していくと、次第に塩基度は、ほぼ一定値となる。ここで、塩基度については、鋳造する溶鋼成分(脱酸元素の種類:例えば、Si単独、Si−Al併用、Al単独の脱酸)の影響を受ける。
図7に示すように、Alキルド鋼では溶鋼中のAlとモールドパウダー内のSiO2とが反応するため、モールドパウダーの塩基度は0.2程度に上昇する傾向にある。これは、Alキルド鋼ではモールドパウダー中のSiO2とAlとの反応『3/2SiO2+2[Al]→3/2[Si]+Al2O3、[]は溶鋼中に存在』により、SiO2が減少するためである。
【0026】
図8に示すように、Si−Alキルド鋼では溶鋼中にSiが含まれ上記の反応が抑制されるため、Alキルド鋼に比べて塩基度の上昇量は少なく0.05程度である。初期モールドパウダーを鋳型2に投入する場合、鋳造初期は上記の反応が進まないため、定常部と同等の塩基度を確保するために、初期モールドパウダーの塩基度を上げておく必要がある。
【0027】
このように、初期モールドパウダー供給後に本体モールドパウダーを随時追加投入するが、初期モールドパウダーの投入量が少なすぎると、塩基度の低い本体モールドパウダーの割合が増加し、塩基度が十分に上昇しない可能性がある。本発明では、初期モールドパウダーの投入量を式(1)を満たすようにしている。
投入量(kg)≧3.0×(鋳型上部内寸幅[m]+鋳型上部内寸厚み[m]) (1)
式(1)は実験等により求めたものであって、モールドパウダー(初期モールドパウダー)は、鋳型2と鋳型2内溶鋼との間に鋳型2振動により流入して消費されるため、初期
モールドパウダーの投入量は、鋳型上部内寸幅と、鋳型上部内寸厚みとで規定することとした。
【0028】
言い換えれば、モールドパウダーが存在するのは鋳型2内側の領域であり、鋳型2内側面と溶鋼との間に存在する。それ故、モールドパウダーの投入量を鋳型2内側の寸法で規定することにした。
図9は鋳型2を上面から見たものである。
図9に示すように、鋳型上部内寸幅(鋳型上部幅)とは、鋳型2を構成する一対の短辺銅板3間の距離、言い換えれば、短辺側内壁間の直線距離である。鋳型上部内寸厚み(鋳型上部厚み)とは、鋳型2を構成する一対の長辺銅板4間の距離、言い換えれば、長辺側内壁間の直線距離である。なお、鋳型2を上面から見て正方形の場合は、鋳型上部内寸幅と鋳型上部内寸厚みとは同じ長さとなる。
【0029】
図10は、初期モールドパウダーの投入量を変更した場合の鋳型2内の溶融したモールドパウダーの推移(実験結果)をまとめたものである。図10の実験では、鋳型2のサイズ240mm(短辺側の内寸)×1760mm(長辺側の内寸)とし、初期モールドパウダーの投入量は、4kg、6kg、10kgとした。
図10に示すように、初期モールドパウダーの投入量が鋳型2の大きさ(鋳型上部内寸幅+鋳型上部内寸厚み)に比べて3倍以上であるとき(図中◆)、鋳造の際での塩基度が上昇し易い。言い換えれば、初期モールドパウダーの投入量が鋳型2の大きさの3倍と5倍とは塩基度の上昇傾向が同じであり、初期モールドパウダーの投入量が2倍であると(図中▲)、塩基度の上昇が遅いため、この投入量は少なくとも鋳型2の大きさの3倍以上にする必要がある。つまり、投入量の下限値は、鋳造初期において溶鋼の酸化の影響およびモールドパウダー中のSiO2と溶鋼中のアルミナとの反応が平衡状態になるまでの時間で消費されるモールドパウダーの塩基度を上昇させておくのに必要な量である。なお、鋳造初期において、初期パウダーを複数回に分けて投入した場合は合計量を、式(1)に示した投入量とする。なお、連続鋳造装置11では、鋳型2内の溶鋼湯面に熱を供給するために、鋳型2内の溶鋼流動をコントロールできる攪拌装置が付いていることが望ましく、また、タンディッシュ12から鋳型2へ溶鋼を注入する浸漬ノズルの形状は、鋳型2内の溶鋼湯面に溶鋼が供給されやすい形状とすることが好ましい。
【0030】
表1は、本発明の連続鋳造方法にて鋳造を行った実施例と、本発明とは異なる方法で鋳造を行った比較例とを示したものである。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例及び比較例では、C含有量が0.08〜0.18質量%の中炭素鋼を鋳造することとし、リニア式電磁攪拌装置と旋回型電磁攪拌装置とのいずれかを用いて鋳型2内の溶鋼を攪拌した。磁束密度は、鋳型2のメニスカスの高さに一致する長辺銅板の位置から外側に10mm離れた位置において幅方向に複数点測定した値の平均をとったものである。
浸漬ノズルの吐出角度は水平方向下向きに15°〜35°の角度とすると共に、鋳型2
内で攪拌された溶鋼の流れと浸漬ノズルからの吐出流とが干渉しない向きとし、鋳型2内の溶鋼の湯面への熱供給を促進した。なお、電磁攪拌装置を使用しない場合でも、鋳型2内の溶鋼の湯面への熱供給を促進することが浸漬ノズルの吐出角度や形状等によって行うことができればよく、電磁攪拌装置や浸漬ノズルの吐出角度などは限定されない。
【0033】
本体モールドパウダーの組成は、塩基度1.21〜1.80とし、Na2O+Li2O=3.0〜17質量%、Al2O3=1.3〜6.6質量%、T.C(パウダー中のC量=2.9〜6.3質量%、MgO=0.0〜5.9質量%、MnO=0.0〜0.3質量%、SrO=0.0〜3.5質量%、Zr2O=0.0〜3.5質量%とした。
また、初期モールドパウダーの組成は、塩基度1.26〜1.90とし、Na2O+Li2O=3.0〜12質量%、Al2O3=1.2〜6.5質量%、T.C(パウダー中のC量=0.7〜3.3質量%、Fe2O3=7〜15質量%とした。
【0034】
実施例及び比較例では、「縦割れ発生」の有無と、「表皮下欠陥」の有無について評価した。縦割れとは、鋳片S表面に発生する鋳造方向に平行な割れのことであって、図11(a)、図11(b)に示すように、鋳造初期については、「鋳造開始後1本目の鋳片S」を、「定常部については鋳造開始後の約20〜30m経過した部位の鋳片S」を、それぞれ水冷した後、表面を約1.5mmガストーチで溶削したものを目視検査にてチェックし、開口した縦割れが発生したかどうかで良否を判定した。定常部及び鋳造初期について、縦割れ発生無しを良好「○」、縦割れ発生を不良「×」でそれぞれ評価した。
【0035】
表皮下欠陥とは、図11(c)に示すように、圧延後の製品表面にヘゲ状のキズやフクレ疵として現れるもので、鋳造開始後1本目の鋳片Sの製品で表皮下欠陥の発生無しを良好「○」、表皮下欠陥の発生有りを不良「×」として評価した。この表皮下欠陥は、鋳型2内の溶鋼の浴面(上面側)が熱不足により凝固し始めると、鋳型2内の溶鋼中から浮上してきたガス気泡(浸漬ノズルもしくは上ノズルから吹き込まれるArガス気泡)やアルミナなどの介在物が凝固後に下面(内部)に捕捉され、鋳片Sの表皮下に取り込まれてしまうことにより発生するものと思われる。
【0036】
実施例に示すように、本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とし、初期モールドパウダーの塩基度を本体モールドパウダーよりも大きくし且つ1.9以下とし、さらに、初期モールドパウダーの投入量を式(1)を満たすようにすれば、縦割れ及び表皮下欠陥の発生はなくこれらを確実に防止することができた。
一方、比較例では、次に示す条件(a)〜(d)の少なくともいずれか1つを満たしていないため、縦割れ又は表皮下欠陥が発生してしまった。(a)本体モールドパウダーの塩基度が1.2未満、(b)初期モールドパウダーの塩基度が本体モールドパウダーよりも小さい、(c)初期モールドパウダーの塩基度が1.9よりも大きい(1.9超える)、(d)初期モールドパウダーの投入量が式(1)を満たしていない。
【0037】
以上、本発明によれば、連続鋳造を行うにあたって、鋳込み初期に発生し易い鋳型2内の表面の凝固を防止すると共に、鋳込み初期における鋳片Sの縦割れを確実に防止することができる。
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0038】
1 実験装置
2 鋳型
3 短辺銅板
4 長辺銅板
10 取鍋
11 連続鋳造装置
12 タンディッシュ
S 鋳片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C含有量が0.08〜0.18質量%の中炭素鋼を連続鋳造するに際し、定常状態にて鋳型に投入する本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とすることとし、鋳造初期に鋳型に投入する初期モールドパウダーの塩基度を前記本体モールドパウダーよりも大きくし且つ1.9以下とし、さらに、前記初期モールドパウダーの投入量を式(1)を満たすようにすることを特徴とする連続鋳造方法。
投入量(kg)≧3.0×(鋳型上部内寸幅[m]+鋳型上部内寸厚み[m]) (1)
【請求項1】
C含有量が0.08〜0.18質量%の中炭素鋼を連続鋳造するに際し、定常状態にて鋳型に投入する本体モールドパウダーの塩基度を1.2以上とすることとし、鋳造初期に鋳型に投入する初期モールドパウダーの塩基度を前記本体モールドパウダーよりも大きくし且つ1.9以下とし、さらに、前記初期モールドパウダーの投入量を式(1)を満たすようにすることを特徴とする連続鋳造方法。
投入量(kg)≧3.0×(鋳型上部内寸幅[m]+鋳型上部内寸厚み[m]) (1)
【図1】
【図4】
【図6】
【図9】
【図12】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図4】
【図6】
【図9】
【図12】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−49081(P2013−49081A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188927(P2011−188927)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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