説明

連続鋳造用ノズル

【課題】ガス供給口から吹き込まれたガスをポーラス耐火物の周囲に拡散させ、ガス吹きの偏り(偏析)を抑えることが可能な上部ノズルを提供すること。
【解決手段】少なくとも一部がポーラス耐火物からなるノズルれんが本体10と、ノズルれんが本体10の周囲を被覆する鉄皮20と、鉄皮20に設けられたガス供給口21とを具備する上部ノズルにおいて、ガス供給口21とノズルれんが本体10との間に、ガス供給口21よりも小さな面積の貫通孔24が形成された遮蔽板23を設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライディングノズル装置(以下、「SN装置」という)の上部ノズルなど、ガス吹き構造を備えた連続鋳造用ノズルであって、特に、閉塞を防止することが可能な連続鋳造用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
タンディッシュや取鍋の流出口に設置されるSN装置の上部ノズルなどでは、溶鋼が通過する内孔内にアルミナなどの介在物が析出し、ノズルが閉塞することがある。このノズル閉塞対策としては、例えば、ノズルれんが本体をポーラス質の耐火物(以下、「ポーラス耐火物」という)で形成し、その周囲を鉄皮で被覆すると共に、ガス供給管から供給されたガスをノズルれんが本体の周囲に拡散させるための空間であるガスプール部をノズルれんが本体と鉄皮との間に形成する。そして、鉄皮にガス供給管を接続し、ガスプール部に不活性ガスを供給することによってノズルれんが本体の内孔内に不活性ガスを吹き込み、内孔表面にガスフィルムを生成させて介在物の付着を防止する方法が広く実施されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−306050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されるような従来形状では、ガス供給口から吹き込まれたガスがポーラス耐火物の限られた領域から内孔内に噴き出し、非金属介在物の除去やノズル閉塞防止に有効に作用しない恐れがある。
【0005】
これは、ガス供給口の中心を通過する当該ガス供給口に対して垂直な直線上にポーラス耐火物があり、ガス供給口から吹き込まれたガスがポーラス耐火物に直接衝突し、局所的にガスの噴き出し量が多くなるためであると考えられる。
【0006】
このような現象は、上部ノズルに限られるものではなく、例えば、ガス供給管から供給されたガスをガスプールで拡散させて吹き込む構成を備えた連続鋳造用ノズルであれば、例えば、ロングノズルや浸漬ノズルなどであっても同様の現象が生じていた。
【0007】
そこで本発明では、ガス供給口から吹き込まれたガスをポーラス耐火物の周囲に拡散させ、ガス吹きの偏り(偏析)を抑えることが可能な上部ノズルやロングノズル、浸漬ノズルなどの連続鋳造用ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の連続鋳造用ノズルの一形態は、少なくとも一部がポーラス耐火物からなるノズルれんが本体と、前記ノズルれんが本体の周囲を被覆する鉄皮と、前記ノズルれんが本体の外周に沿って該ノズルれんが本体と前記鉄皮との間に形成されたガスプール部と、前記ガスプール部にガスを供給するガス供給口とを具備し、前記ノズルれんが本体のポーラス耐火物は、前記ガスプール部に露出し、前記ガス供給口と前記ノズルれんが本体との間には、前記ガス供給口よりも小さな面積の貫通孔が形成された遮蔽板が設置されていることを特徴とする。また、本発明の連続鋳造用ノズルの他の形態は、溶融金属が通過する内孔に露出するポーラス耐火物と、前記ポーラス耐火物の外周側に配置された耐火物れんがとの間に形成されたガスプール部と、前記ガスプール部にガスを供給するガス供給口とを具備し、前記ガス供給口と前記ポーラス耐火物との間には、前記ガス供給口よりも小さな面積の貫通孔が形成された遮蔽板が設置されていることを特徴とする。そして、前記貫通孔の直径は、前記ガス供給口の直径の1/2〜1/3であることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ガス供給口とノズルれんが本体との間に、ガス供給口よりも小さな面積の貫通孔が形成された遮蔽板が設置されているので、ガス流を遮蔽板で遮ってノズルれんが本体の周囲にガスを拡散させることができ、ガス吹きの偏析を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る上部ノズルの一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る遮蔽板の一例を示す図である(図1のA−A矢視図)。
【図3】実施例1及び比較例1において、ガス供給口反対側に付着した介在物の様子を示す図である。
【図4】実施例1と比較例1におけるSNの開度と鋳込み時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す本発明を実施するための形態は、本発明の具体的態様の一例であり、当該形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明に係る上部ノズルの形状の一例を示す図である。同図に示すように本発明における上部ノズルは、ノズルれんが本体10と、ノズルれんが本体10の周囲を被覆する鉄皮20と、鉄皮20と接続するガス供給管30とを具備して構成されている。
【0013】
ここで、ノズルれんが本体10は、ガス供給管30から供給された不活性ガスが通過可能なポーラス耐火物からなり、溶鋼が通過する内孔11と、当該内孔11内にガスを吹き出すガス吹き出し部12が形成されている。なお、図1では、ノズルれんが本体全体をポーラス質の耐火物で構成しているが、ガスを供給する個所を局所的にポーラス質として、ガス吹き出し部12を内孔11側面に形成し、他の個所をアルミナ−カーボン質など、上部ノズルとして通常用いられる材質で構成してもよい。
【0014】
また、鉄皮20には、ガス供給管30と接続するガス供給口21と、ノズルれんが本体10の周方向に全周にわたって設けられたリング状の膨らみである凸部22とが形成されており、ガス供給管30の延長上のガス供給口21とノズルれんが本体10の間には、遮蔽板23が設置されている。
【0015】
凸部22は、ガス供給口21から供給されたガスがノズルれんが本体10の周方向に拡散し易いように設けられた膨らみであり、ノズルれんが本体10の周方向全周にわたってリング状に設けられている。また、凸部22は、その膨らみによって、上部ノズルが羽口に入り込むことも防止している。
【0016】
遮蔽板23は、図2に示すようにガス供給口21と幅がほぼ等しく、この遮蔽板23には、ガス供給口21よりも小さな貫通孔24が形成されており、ガス供給管30の中心軸が、ガス供給口21及び貫通孔24の中心を通過するように配置されている。
【0017】
なお、貫通孔の内径は、ガス供給口の内径の約1/2〜1/3であることが望ましい。貫通孔が広すぎると、ガス流を遮蔽板で遮って上部ノズルの周囲にガスを拡散させる効果が十分に発揮できず、貫通孔が狭すぎると、遮蔽板裏面側にガスを拡散させる効果が十分に発揮できないため、上部ノズルの全周にガスが拡散しない恐れがあるからである。
【0018】
そして、ノズルれんが本体10の上部及び下部と鉄皮20との間には、それぞれモルタルなどのシール材40が充填されており、ノズルれんが本体10の外周に沿って該ノズルれんが本体10と鉄皮20との間に、不活性ガスを拡散させるための空間であるガスプール部50が形成されている。このガスプール部50に、上記のガス供給口21からガスが供給される。また、ガスプール部50には、ノズルれんが本体10のポーラス耐火物が露出している。
【0019】
上記構成を用いて本発明に係る上部ノズルでは、ガス供給管から供給された不活性ガスの流れが遮蔽板で乱され、ガスプール部内に不活性ガスが拡散する。また、不活性ガスの一部は、遮蔽板の貫通孔を通過し、当該遮蔽板の内孔側に拡散する。
【0020】
このように本発明では、ガス供給口から供給された不活性ガスがガスプール部内に広く拡散すると共に、貫通孔を通過した不活性ガスが遮蔽板の内孔側に拡散するため、ガスプール部全体に不活性ガスが広く分散し、ガス供給口近辺から多くの不活性ガスが内孔内に吹き込まれるといったガス吹きの偏析が抑えられる。このため、ガス吹きの偏析によって介在物が内孔に付着し、内孔が閉塞するといったことを防止することができる。
【実施例】
【0021】
実施例1では、外径14mm内径10.5mmのガス供給管を備えた上部ノズル(長さ245mm、直径160mm)を準備し、直径4mm(ガス供給管内径の約1/2)の貫通孔を備えた幅12mmの遮蔽板をガスプール部の鉄皮側に設置して、図1に示す上部ノズルを作製した。この時、ガス供給管の中心軸上に遮蔽板の貫通孔の中心が位置し、また、遮蔽板と貫通孔及びノズルれんが本体との距離が等しくなっている。そして、Arガスを0.29〜0.49MPaで供給する実操業において、実操業後の上部ノズルを内孔に沿って地金と共に切断し、閉塞状況を観察することによって、上部ノズルの閉塞状況を検証した。また、SN開度と鋳込み時間との関係についても検証を行った。
【0022】
実施例2では、貫通孔の直径を3mm(ガス供給管内径の約1/3)とした点を除いて、実施例1と同様に上部ノズルを作製し、実施例1と同様に上部ノズルの閉塞状況を検証した。
【0023】
「比較例」
比較例1では、遮蔽板を設置していない従来の上部ノズルを用いて、実施例1と同様に上部ノズルの閉塞状況を検証した。また、SN開度と鋳込み時間との関係についても検証を行った。
【0024】
比較例2では、貫通孔が形成されていない遮蔽板を用いて、実施例1と同様に上部ノズルの閉塞状況を検証した。
【0025】
実施例1及び比較例1において、ガス供給口反対側に付着した介在物の様子を図3に示す。実施例1の上部ノズルは、比較例1(従来品)の上部ノズルに比べて、ガス供給口反対側に付着する介在物が少ないことが確認された。また、各実施例及び比較例における内孔閉塞状況の検証結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
遮蔽板に貫通孔を形成した実施例1及び2では、遮蔽板を設けていない従来の上部ノズル(比較例1)や貫通孔のない遮蔽板を備えた比較例2に比べて介在物の付着が少なく、内孔の閉塞が小さいことが確認された。
【0028】
次に、実施例1と比較例1におけるSNの開度と鋳込み時間の関係を図4のグラフに示す。比較例1(従来品)に比べて実施例1では、開度の変化が少ないことが確認された。SN装置では、通湯量が一定となるように開度を制御しており、介在物の付着や剥がれなどが生じると開度を大きく変更しなければならない。従って、実施例1の上部ノズルは、従来品である比較例1の上部ノズルに比べて、介在物の付着が少なく、安定操業に寄与していることが分かる。
【0029】
このように本発明に係る上部ノズルは、ガス吹きの偏りを防止することができるため、非金属介在物を有効に除去し、上部ノズルの閉塞を防止することができる。
【0030】
なお、上記実施の形態及び実施例では、上部ノズルを用いて説明しているが、本発明に係る連続鋳造用ノズルは上部ノズルに限られるものではなく、例えば、ロングノズルや浸漬ノズルなど、溶融金属が通過する内孔にガスを吹くノズルであれば適用することが可能である。
【0031】
また、上記実施の形態及び実施例では、ノズルれんが本体と鉄皮との間にガスプール部を設けているが、例えば、ポーラス質の耐火物で構成されたノズルれんが本体のガス吹き出し部の外周側に非ポーラス質の耐火物を配置し、両耐火物の間にガスプール部を形成するなど、耐火物間にガスプール部を形成してもよい。
【符号の説明】
【0032】
10…ノズルれんが本体、11…内孔、12…ガス吹き出し部、20…鉄皮、21…ガス供給口、22…凸部、23…遮蔽板、24…貫通孔、30…ガス供給管、40…シール材、50…ガスプール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がポーラス耐火物からなるノズルれんが本体と、
前記ノズルれんが本体の周囲を被覆する鉄皮と、
前記ノズルれんが本体の外周に沿って該ノズルれんが本体と前記鉄皮との間に形成されたガスプール部と、
前記ガスプール部にガスを供給するガス供給口とを具備し、
前記ノズルれんが本体のポーラス耐火物は、前記ガスプール部に露出し、
前記ガス供給口と前記ノズルれんが本体との間には、前記ガス供給口よりも小さな面積の貫通孔が形成された遮蔽板が設置されていることを特徴とする連続鋳造用ノズル。
【請求項2】
溶融金属が通過する内孔に露出するポーラス耐火物と、前記ポーラス耐火物の外周側に配置された耐火物れんがとの間に形成されたガスプール部と、
前記ガスプール部にガスを供給するガス供給口と
を具備し、
前記ガス供給口と前記ポーラス耐火物との間には、前記ガス供給口よりも小さな面積の貫通孔が形成された遮蔽板が設置されていることを特徴とする連続鋳造用ノズル。
【請求項3】
前記貫通孔の直径は、前記ガス供給口の直径の1/2〜1/3であることを特徴とする請求項1又は2記載の連続鋳造用ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−158693(P2010−158693A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1649(P2009−1649)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】