説明

連鎖状端子の送給制動機構

【課題】メッキが施されている連鎖状端子の送給を制動するときに糸くず状の切削屑を発生させることがない、連鎖状端子のための新たな送給制動機構を提供する。
【解決手段】本発明の送給制動機構は、端子t3表面上を転動する転動体22と摩擦係合手段23との摩擦係合によって連鎖状端子Tの送給を制動する構造であるから、端子表面に施されているメッキが摩滅させることがない。さらに、メッキの一部が分離して転動体22の表面に付着しても、摩擦係合手段23との摩擦係合によってその表面から取り除かれるので、この微粒子が端子表面を傷つけて糸くず状の切削屑を発生させることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子圧着装置等に向かって送給される連鎖状端子を一時停止させるための制動機構に関し、より詳しくは、この連鎖状端子の表面に施されているメッキが制動に伴う摺動摩擦によって摩滅し微粒子状に分離して制動部分に付着し端子の表面を傷つけることがない、連鎖状端子のための新たな送給制動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線端末部に端子を圧着する端子圧着装置が用いられている(例えば、下記特許文献1を参照)。
この端子圧着装置の構造について図9〜図11を参照して概説すると、基枠1の下部には、横方向に連鎖している端子Tを矢印A方向に案内し供給するための端子ガイドレール2と、各端子に電線を圧着するときの受けとなるアンビル3とが設けられている。
そして、このアンビル3の上方には、一対の垂直レール4,4に案内されて昇降する昇降クリンパ5が設けられており、図示されない駆動装置により駆動されて降下すると、アンビル3と協働し、各端子Tの芯線バレルt1および絶縁被覆バレルt2に電線の芯線部分および絶縁被覆部分をそれぞれ圧着するようになっている。
【0003】
また、昇降クリンパ5と一体に昇降するサイドアーム6には、カムローラ7が支軸7aによって回動自在に支持されている。
そして、基枠1の上部に設けられた支軸8によって揺動自在に支持されている揺動アーム9には、カムローラ7が遊嵌するカム溝10が貫設されている。
さらに、揺動アーム9の揺動端に支軸11によって揺動自在に支持されている送り爪12は、その後端12aがコイルばね13によって上方に付勢されてその前端12bが降下し、端子Tのキャリヤ部t3に設けられている貫通孔t4と係合するようになっている。
これにより、昇降クリンパ5が降下する毎に、カムローラ7とカム溝10の係合によって揺動アーム9の揺動端が端子送給方向の前側に変位するため、送り爪12の前端12bによって端子Tを間欠的に前方に移動させることができる。
【0004】
また、端子ガイドレール2の後部には、間欠的に前方に移動する端子Tを制動して一時停止させるための制動板14が設けられている。
この制動板14は、図11に拡大して示したように、端子Tとは反対側の端部が下方に突設され、その下面が端子ガイドレール2の上面に当接する支持部14aとなっている。
また、制動板14のうち端子Tのキャリヤ部t3と上下に対向する部分が下方に突設され、その下面が端子Tのキャリヤ部t3の上面と摺動する摺動部14bとなっている。
【0005】
さらに、支持部14aの近傍においてこの制動板14を上下に貫通するボルト15は、端子ガイドレール2を貫通してその下方に延びるとともに、その下端に蝶ナット16が螺合していて端子ガイドレール2との間に複数の皿ばね17を保持している。
これにより、皿ばね17のばね力がボルト15を下方に引っ張るため、制動板14はその支持部14aを支点として下向きに揺動し、その摺動部14bが端子Tのキャリヤ部t3を端子ガイドレール2の上面に押圧する。
したがって、端子Tには制動板14の摺動部14bとの摺動に伴う摩擦抵抗が連続的に作用するため、送り爪12によって間欠的に前方に送給される端子Tのオーバーランを防止して、アンビル3に対して端子Tを正確に位置決めすることができる。
【0006】
加えて、端子ガイドレール2の側面には、水平に延びる支軸18aによってレバー18が揺動自在に支持され、そのカム部分18bが制動板14の先端14cの下面に当接している。
そして、このレバー18を図9に示した状態から反時計方向に揺動させると、カム部分18bが制動板14の先端14cを持ち上げるため、摺動部14bの下面と端子ガイドレール2の上面との間に隙間が生じる。
これにより、制動板14を持ち上げて端子Tを交換できる状態と、制動板14を降下させて摺動部14bにより端子Tを制動する状態とを、レバー18の揺動操作によって容易に切り換えることができる。
【0007】
なお、制動板とは異なる構成を有しつつ、端子圧着装置に向かって間欠的に送給される連鎖状端子を一時停止させる制動機構の例が下記特許文献2に記載されている。
【0008】
【特許文献1】実公平7−27591号公報
【特許文献2】特開2000−133404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年、導電効率を高めるために金メッキを施した端子が増加している。
この金メッキ端子は、その素材である黄銅やリン青銅の薄板の表面にニッケルメッキを施した後、さらに金メッキを施した構造となっている。
そのため、上述した制動板14を用いて金メッキ端子Tの前進を制動すると、金メッキ端子Tのキャリヤ部t3と制動板14の摺動部14bとの間の摩擦摺動によってメッキ層が摩滅し、硬質なニッケルが微粒子状に分離して摺動部14bの後端角部14dに次第に堆積する。
【0010】
摺動部14bの後端角部14dに堆積したニッケル微粒子は、端子Tの前進に伴ってそのキャリヤ部t3の表面を傷つけ、細い糸くず状の切削屑を発生させる。
そして、この糸くず状の切削屑が付着している端子Tに電線を圧着するとともに、この端子Tをコネクタハウジングに挿入してコネクタを完成させると、コネクタの内部で隣接する端子Tにこの切削屑が接触して短絡が発生し、あるいはこのコネクタを組み付けた相手側の機器にこの切削屑が接触して誤動作が生じる等の問題が生じる。
そのため、摺動部14bの後端角部14dを滑らかにしたりその表面を磨いて面粗度を上げたりする対策を取っているが、その効果は一時的であり、時間の経過に伴ってニッケル微粒子が再び堆積して糸くず状の切削屑が発生することになる。
【0011】
そこで本発明の目的は、上述した従来技術が有する問題点を解消し、メッキが施されている連鎖状端子の送給を制動するときに、制動に伴う摺動摩擦によりメッキが摩滅して微粒子状に分離し制動部分に付着して端子の表面を傷つけることがない、連鎖状端子のための新たな送給制動機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための請求項1に記載した手段は、
連鎖状端子の送給を制動する制動機構であって、
前記連鎖状端子の表面上を転動する転動体と、
この転動体と摩擦係合する摩擦係合手段と、
前記転動体および前記摩擦係合手段を保持する保持手段と、
前記転動体を前記表面に押圧する押圧手段と、
を備えることを特徴とする。
なお、押圧手段は、保持手段を付勢することにより転動体を端子表面に押圧することもできるし、転動体を直接的に付勢して端子表面に押圧することもできる。
また、摩擦係合手段は、転動体の表面と摩擦摺動する金属製あるいは高分子材料製の部材とすることもできるし、転動体を端子表面に向かって付勢するコイルばね等が兼ねることもできる。
【0013】
すなわち、請求項1に記載した連鎖状端子の送給制動機構は、従来の制動機構のように端子表面上を制動板が摺動するのではなく、端子表面上を転動体が転動する構造であるので、端子表面に施されているメッキが摩滅して微粒子状に分離することがない。
また、転動体と摩擦係合手段との摩擦係合によって転動体の転動を制動するとともに、転動体を連鎖状端子の表面に押圧する構造であるから、連鎖状端子の送給を確実に制動することができる。
さらに、メッキの一部が微粒子状に分離して転動体の表面に付着しても、この微粒子は転動体と摩擦係合手段との摩擦係合によってその表面から取り除かれるので、この微粒子が転動体の表面に堆積して端子表面を傷つけることがない。
【0014】
また、請求項2に記載した手段は、請求項1に記載した連鎖状端子の送給制動機構において、
前記押圧手段が、前記保持手段を前記表面に向かって付勢するように構成され、
前記転動体が、前記表面に対して接離自在に前記保持手段に保持され、
前記転動体を前記表面に向かって付勢する、前記保持手段に保持された付勢手段をさらに備えることを特徴とする。
なお、付勢手段としてコイルばね等のばねや弾力的なゴム体等を用いることができる。
【0015】
すなわち、連鎖状端子のキャリヤ部には送給用の係合孔が貫設されているので、転動体がキャリヤ部の表面上を転動するときにこの係合孔に入り込むときがある。
このとき、請求項2に記載した連鎖状端子の送給制動機構においては、転動体が端子表面に対して接離自在に保持されており、かつ付勢手段によって転動体が端子表面に向かって付勢されているので、転動体はキャリヤ部における係合孔と一般部分との間の段差に容易に追従することができる。
これにより、転動体が係合孔の段差を乗り越えるときの衝撃により保持手段が浮き上がり、端子表面に対する転動体の押圧が損なわれて、転動体による連鎖状端子に対する制動効果が失われることはない。
また、保持手段と端子表面との間隔寸法が変化しても、転動体が変位してこの間隔寸法の変化を吸収することができるから、転動体を端子表面に確実に接触させて連鎖状端子を制動することができる。
【0016】
また、請求項3に記載した手段は、請求項1に記載した連鎖状端子の送給制動機構において、
前記保持手段が静止状態に固定され、
前記転動体が、前記表面に対して接離自在に前記保持手段に保持され、
前記押圧手段は、前記保持手段に保持されて前記転動体を前記表面に向かって付勢するように構成されていることを特徴とする。
なお、押圧手段としてコイルばね等のばねや弾力的なゴム体等を用いることができる。
【0017】
すなわち、請求項3に記載した連鎖状端子の送給制動機構は、保持手段を静止状態に固定するとともに、保持手段に保持されている押圧手段が転動体を付勢することによって転動体を端子表面に押圧する構造である。
これにより、転動体はキャリヤ部における係合孔と一般部分との間の段差に容易に追従することができる。
また、連鎖状端子のキャリヤ部に設けられている係合孔の段差を転動体が乗り越えるときの衝撃によって保持手段が浮き上がり、転動体による連鎖状端子に対する制動効果が失われることがない。
さらに、保持手段が静止状態に固定されているので、保持手段と端子表面との間隔寸法が変化することはなく、転動体を端子表面に確実に接触させて連鎖状端子を制動することができる。
【0018】
また、請求項4に記載した手段は、請求項1に記載した連鎖状端子の送給制動機構において、
前記押圧手段は、前記保持手段を前記表面に向かって付勢するように構成され、
前記転動体が前記保持手段と一体に変位するように保持されていることを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項4に記載した連鎖状端子の送給制動機構は、保持手段と転動体とが一体に変位するとともに、保持手段を付勢することによって転動体を端子表面に押圧するという極めて簡単な構造でありながら、端子表面のメッキを摩滅させることなく連鎖状端子の送給を確実に制動することができるという同一の作用効果を奏することができる。
【0020】
また、請求項5に記載した手段は、請求項2に記載した連鎖状端子の送給制動機構において、
前記転動体は、その外周面に雄ねじが螺設された円筒状ケーシングの内部にその軸線方向に変位自在に収納されており、
前記付勢手段は、前記円筒状ケーシングに収納されて前記転動体を前記表面に向けて付勢可能に構成され、
前記保持手段は、前記円筒状ケーシングの雄ねじと螺合する雌ねじを具備した、前記表面に向かって延びる取付孔を有していることを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項5に記載した連鎖状端子の送給制動機構においては、保持手段に設けられている取付孔に円筒状ケーシングをねじ込むときに、そのねじ込み量を調整することによって保持手段に対する円筒状ケーシングの位置、したがって保持手段に対する転動体の位置を容易に調整することができる。
また、転動体は円筒状ケーシングの内部において端子表面に対して接離自在であり、かつ付勢手段によって端子表面に向けて付勢されているから、連鎖状端子のキャリヤ部に設けられている係合孔と一般部分との間の段差に容易に追従することができるとともに、保持手段に対する円筒状ケーシングの位置のばらつきを吸収することができる。
さらに、例えば転動体に摩耗が生じたときには、保持手段から円筒状ケーシングを取り外し、新しい円筒状ケーシングをねじ込むことにより、容易に新しい転動体および付勢手段に交換することができる。
【0022】
また、請求項6に記載した手段は、請求項1乃至5のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構において、
複数の前記転動体が、前記連鎖状端子の送給方向に並設されていることを特徴とする。
このとき、各転動体毎に摩擦係合部材や付勢手段を設けることもできるし、一つの摩擦係合部材および付勢手段によって複数の転動体に対応することもできる。
あるいは、保持手段に複数の取付孔を貫設し、各取付孔ごとに請求項5における円筒状ケーシングを取り付けることもできる。
【0023】
すなわち、請求項6に記載した連鎖状端子の送給制動機構においては、複数の転動体が端子の表面上を転動するので、端子の送給を制動して一時停止させるために必要となる充分な制動力を確保することができる。
また、連鎖状端子のキャリヤ部に設けられている送給用の係合孔に複数の転動体のうちの一つが入り込んでも、残りの転動体が端子の表面上を転動しているので、連鎖状端子の送給を確実に制動することができる。
【0024】
また、請求項7に記載した手段は、請求項1乃至6のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構において、
前記連鎖状端子のキャリヤ部に端子送給用の係合孔が貫設されており、
前記転動体は、前記係合孔の端子送給方向の後縁と係合して前記連鎖状端子を一時停止させるように、その前後方向の位置が定められていることを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項7に記載した連鎖状端子の送給制動機構においては、連鎖状端子のキャリヤ部に貫設されている係合孔の後縁に転動体が係合する。
これにより、間欠的に送給されて前進する端子を前後方向の所定位置に正確に位置決めしつつ、確実に一時停止させることができる。
【0026】
また、請求項8に記載した手段は、請求項1乃至6のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構において、
前記連鎖状端子のキャリヤ部には端子送給用の係合孔が貫設されており、
前記転動体は、前記係合孔の端子送給方向の後縁および前縁と係合して前記連鎖状端子を一時停止させるように、その外形およびその前後方向の位置が定められていることを特徴とする。
【0027】
すなわち、請求項8に記載した連鎖状端子の送給制動機構においては、連鎖状端子のキャリヤ部に貫設されている係合孔の後縁および前縁に転動体が嵌合する。
これにより、間欠的に送給されて前進しあるいは端子巻取ローラによって後方に引き戻される端子を、より一層正確に前後方向の所定位置に位置決めしつつ、より確実に一時停止させることができる。
【0028】
また、請求項9に記載した手段は、請求項1乃至8のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構において、前記転動体が球状であることを特徴とする。
【0029】
すなわち、請求項9に記載した連鎖状端子の送給制動機構においては、端子の表面と転動体の球状表面とが点接触することになるため、微粒子状に剥離したメッキが転動体の球状表面に堆積することがなく、端子表面に傷が付いて糸くず状の切削屑が発生することを確実に防止することができる。
【0030】
また、請求項10に記載した手段は、請求項1乃至8のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構において、前記転動体が円柱状であることを特徴とする。
【0031】
すなわち、請求項10に記載した連鎖状端子の送給制動機構においては、端子の表面と転動体の円柱状表面とが線接触することになるため、両者間の接触面圧を低下させることができる。
これにより、端子の表面上を円柱状の転動体が転動するときに、端子表面のメッキ層を摩滅させて微粒子状に分離させることを確実に防止することができる。
さらに、円柱状の転動体の軸線方向長さを適切に選択することにより、連鎖状端子のキャリヤ部に貫設されている係合孔に円柱状の転動体が入り込まないようにすることもできる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、メッキが施されている連鎖状端子の送給を制動するときに、制動に伴う摺動摩擦によりメッキが摩滅して微粒子状に分離し制動部分に付着して端子の表面を傷つけることがない、連鎖状端子のための新たな送給制動機構を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図1〜図8を参照し、本発明に係る連鎖状端子の送給制動機構の各実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明においては、前述した従来技術を含めて同一の部分には同一の符号を用いて重複した説明を省略するとともに、連鎖状端子を送給する方向を前後方向、鉛直方向を上下方向、両方向に対して垂直でかつ水平な方向を左右方向と言う。
【0034】
第1実施形態
まず最初に図1〜図4を参照し、第1実施形態の連鎖状端子の送給制動機構につき、端子圧着装置に関連させて説明する。
【0035】
図1に示した端子圧着装置100は、図9〜図11に示した従来の端子圧着装置における制動板14を、本発明の送給制動機構を構成する制動板(保持手段)20に置き換えたものであり、それ以外の部分の構造は同一である。
そこで、この制動板20を用いた本第1実施形態の送給制動機構の特徴部分について重点的に説明する。
【0036】
制動板20は、図2に拡大して示したように、その全体形状が従来の制動板14とほぼ同一であり、既存の端子圧着装置における制動板14と容易に交換できるようになっている。
具体的に説明すると、この制動板20の端子Tとは反対側の端部が下方に突設され、その下面が端子ガイドレール2の上面に当接する支持部20aとなっている。
また、この制動板20のうち、端子Tのキャリヤ部t3と上下方向に対向する部分が下方に突設されて保持部20bを形成しているが、その下面は端子Tのキャリヤ部t3に対して常に上方に離間するようになっている。
さらに、この制動板20のうち端子T側の先端部20cの下面には、レバー18のカム部分18bが当接し、制動板20を持ち上げて端子Tを交換できる状態と制動板20を降下させた制動状態とを、レバー18の揺動操作によって容易に切り換えることができるようになっている。
【0037】
また、支持部20aの近傍においてこの制動板20を上下に貫通しているボルト15は、端子ガイドレール2を貫通してその下方に延びるとともに、その下端に蝶ナット16が螺合して端子ガイドレール2との間に複数の皿ばね17を保持している。
これにより、皿ばね17のばね力がボルト15を下方に引っ張るため、制動板20はその支持部20aを支点として下向きに揺動し、次述するボール(転動体)22を端子Tのキャリヤ部t3の表面に押圧することができる。
言い換えると、ボルト15,蝶ナット16、および皿ばね17がボール22をキャリヤ部t3の表面に押圧するための押圧手段を構成している。
【0038】
制動板20の保持部20bには、連鎖状端子Tのキャリヤ部t3の表面に向かって上下方向に延びる4つの取付孔20dが、キャリヤ部t3に沿って前後方向に並ぶように貫設されている。
そして、これらの取付孔20dの内周面には、次述する円筒状ケーシング21の外周面に設けられている雄ねじと螺合する雌ねじが設けられている。
これにより、各取付孔20dに各円筒状ケーシング21を容易に取り付けることができるとともに、そのねじ込み量を調整することにより、制動板20に対する各円筒状ケーシング21の上下方向位置を容易に調整することができる。
【0039】
円筒状ケーシング21の内部には、ボール22およびコイルばね(付勢手段)23が収納されている。
ボール22は、キャリヤ部t3の表面に向かってコイルばね23により常に付勢されているが、円筒状ケーシング21の先端開口部が先細に形成されているため、円筒状ケーシング21から脱落することはない。
また、コイルばね23は、ボール22の表面に接触しており、キャリヤ部t3の表面上でボール22が転動して回転するときにその回転を妨げて制動する摩擦係合手段を兼ねている。
さらに、円筒状ケーシング20の内周面、特にその先端開口部に設けられている先細部分の内周面もまたボール22の表面と摩擦摺動し、その回転を妨げて制動する摩擦係合手段を構成している。
【0040】
すなわち、本第1実施形態の連鎖状端子の送給制動機構は、図11に示した従来の制動板14のように連鎖状端子Tのキャリヤ部t3の表面上を摺動するのではなく、ボール22がキャリヤ部t3の表面上を転動する構造であるので、キャリヤ部t3の表面に施されているメッキが摩滅して微粒子状に分離することがなく、したがって分離した微粒子がボール22の表面上に堆積することがない。
また、ボール22とコイルばね23および円筒状ケーシング21の内周面との摩擦係合によってボール22の回転を制動するとともに、皿ばね17のばね力およびコイルばね23のばね力によってボール22をキャリヤ部t3の表面に押圧する(矢印B)構造であるから、連鎖状端子Tの送給を確実に制動することができる。
【0041】
さらに、メッキの一部が微粒子状に分離してボール22の表面に付着しても、この微粒子はボール22とコイルばね23および円筒状ケーシング21の内周面との摩擦係合によってその表面から取り除かれるので、この微粒子がボール22の表面に堆積してキャリヤ部t3の表面を傷つけることがない。
したがって、ボール22の表面に堆積した微粒子がキャリヤ部t3の表面を傷つけて糸くず状の切削屑を発生させ、前述した種々の問題を発生させることがない。
【0042】
また、4つのボール22が連鎖状端子Tの送給方向(矢印A)に並設されているから、キャリヤ部t3に貫設されている係合孔t4にそのうちの一つが入り込んでも、残りの3つのボール22がキャリヤ部t3の表面上を転動することになり、連鎖状端子Tの送給を制動して一時停止させるために必要かつ充分な制動力を確保することができる。
【0043】
さらに、各ボール22は、各円筒状ケーシング21の内部でキャリヤ部t3の表面に対して接離自在に保持されており、かつコイルばね23によりキャリヤ部t3の表面に向かって付勢されているので、ボール22はキャリヤ部t3の係合孔t4と一般部分との間の段差に容易に追従することができる。
これにより、各ボール22が係合孔t4の段差を乗り越えるときの衝撃により制動板20が浮き上がり、キャリヤ部t3と各ボール22との接触による制動効果が失われることはない。
また、キャリヤ部t3の表面と制動板20との間隔寸法が変化しても、ボール22が上下方向に変位してこの間隔寸法の変化を吸収することができるから、ボール22を確実に端子表面に接触させて連鎖状端子Tの送給を制動することができる。
【0044】
なお、4つのボール22のうちの一つは、キャリヤ部t3に貫設されている係合孔t4の内側に入り込んで端子ガイドレール2の表面に当接したときに、その外側表面が係合孔t4の後縁t5に係合し、間欠的に前方に送給される連鎖状端子Tを前後方向の所定位置に位置決めしつつ確実に一時停止させることができるように、その前後方向の位置を定めることもできる。
【0045】
あるいは、4つのボール22のうちの一つは、キャリヤ部t3に貫設されている係合孔t4の内側に入り込んで端子ガイドレール2の表面に当接したときに、その外側表面が係合孔t4の後縁t5および前縁t6に係合して、間欠的に送給されて前進しあるいは端子巻取ローラによって後方に引き戻される端子をより一層正確に前後方向の所定位置に位置決めしつつより確実に一時停止させることができるように、その外形およびその前後方向の位置を定めることもできる。
【0046】
第2実施形態
次に図5を参照し、第2実施形態の連鎖状端子の送給制動機構について説明する。
【0047】
本第2実施形態における制動板30は、前述した制動板20とは異なり、端子ガイドレール2に対して前後上下左右の各方向において相対変位不能に固定できるようになっており、したがってボルト15,蝶ナット16,皿ばね17は設けられていない。
また、この制動板30の保持部31には、連鎖状端子Tのキャリヤ部t3の表面に向かって上下方向に延びる取付孔32が貫設されている。
そして、この取付孔32の下端には脱落防止部材33が取り付けられ、ボール(転動体)34の脱落を防止している。
さらに、ボール34の上方には、高分子材料製の摩擦係合部材35、コイルばね(押圧手段)36、サークリップ37が設けられ、コイルばね36のばね力によって摩擦係合部材35を介してボール34をキャリヤ部t3の表面に押圧するようになっている。
【0048】
すなわち、本第2実施形態における連鎖状端子の送給制動機構は、制動板30を静止状態に固定するとともに、制動板20に保持されているコイルばね36がボール34を付勢してキャリヤ部t3の表面に押圧する構造である。
これにより、ボール34が係合孔t4の段差を乗り越えるときの衝撃により制動板30が浮き上がり、キャリヤ部t3とボール34との接触が失われて制動効果が損なわれることがない。
また、摩擦係合部材35を形成している高分子材料を適切に選択することにより、ボール34の表面にメッキの微粒子が付着する事態が生じた場合に、この微粒子を摩擦係合部材35によって絡め取って除去することもできる。
さらに、前述した従来の制動機構や上述した第1実施形態の送給制動機構のように、ボルト15,蝶ナット16,皿ばね17から構成される押圧手段を用いる構造ではないから、他の構造の端子圧着端子にも本第2実施形態の送給制動機構を適用することができる。
【0049】
第3実施形態
次に図6を参照し、第3実施形態の連鎖状端子の送給制動機構について説明する。
【0050】
本第3実施形態における制動板40は、前述した制動板20と全く同様に、ボルト15,蝶ナット16,皿ばね17から構成される押圧手段によって、その保持部41を連鎖状端子Tのキャリヤ部t3の表面に向けて付勢する構造となっている。
【0051】
この制動板40の保持部41には、連鎖状端子Tのキャリヤ部t3の表面に向かって上下方向に延びる取付孔42が貫設されている。
そして、この取付孔42の下端には脱落防止部材43が取り付けられて、ボール(転動体)44の脱落を防止している。
さらに、ボール44の上方には、高分子材料製の摩擦係合部材45が積み重ねられ、サークリップ46によって抜け止めされている。
これにより、ボール44は、図示されないボルト15,蝶ナット16,皿ばね17から構成される押圧手段によってキャリヤ部t3の表面に押圧される。
【0052】
すなわち、本第3実施形態における連鎖状端子の送給制動機構は、制動板(保持手段)40とボール(転動体)44とが上下方向に一体に変位するとともに、図示されないボルト15,蝶ナット16,皿ばね17を用いて制動板40を下方に付勢することによりボール44をキャリヤ部t3の表面に押圧するという極めて簡単な構造でありながら、キャリヤ部t3の表面のメッキを摩滅させることなく連鎖状端子Tの送給を確実に制動することができるという優れた作用効果を奏することができる。
なお、摩擦係合部材45を形成している高分子材料を選択することにより、摩擦係合部材45によってボール44をキャリヤ部t3の表面に向かって付勢することもできる。
【0053】
第4実施形態
次に図7および図8を参照し、第4実施形態の連鎖状端子の送給制動機構について説明する。
【0054】
本第4実施形態における制動板50は、前述した制動板30と全く同様に、端子ガイドレール2に対して上下方向および前後方向に相対変位不能に静止した状態に固定され、したがってボルト15,蝶ナット16,皿ばね17は設けられていない。
また、この制動板50の保持部51には、連鎖状端子Tのキャリヤ部t3の表面に向かって上下方向に延びる3つの取付孔52が、端子Tのキャリヤ部t3に沿って前後方向に並ぶように貫設されている。
【0055】
各取付孔52の下端には図示されない脱落防止部材が取り付けられて、円柱状のローラ(転動体)53の脱落を防止している。
さらに、ローラ53の上方には、高分子材料製の摩擦係合部材54、コイルばね(押圧手段)55、サークリップ56が設けられ、コイルばね55のばね力により摩擦係合部材54を介してローラ53をキャリヤ部t3の表面に押圧するようになっている。
このとき、摩擦係合部材54の下端の開口部が先細に形成されているため、ローラ53が保持部51から脱落することはない。
また、ローラ53の軸線方向(左右方向)の寸法は端子Tのキャリヤ部t3の幅とほぼ同じであり、係合孔t4のそれよりも大きいから、ローラ53が係合孔t4に入り込むことはない。
【0056】
すなわち、本第4実施形態の連鎖状端子の送給制動機構においては、キャリヤ部t3の表面とローラ53の円柱状表面とが線接触することになるため、転動体としてボールを用いる場合に比較して両者間の接触面圧を低下させることができる。
これにより、キャリヤ部t3の表面上をローラ53が転動するときに、キャリヤ部t3の表面のメッキを摩滅させて微粒子状に分離させることを確実に防止することができる。
したがって、ローラ53の表面に微粒子が堆積してキャリヤ部t3の表面を傷つけ、糸くず状の切削屑を発生させ、前述した問題を発生させることがない。
また、前後方向に並ぶ3つのローラ53がキャリヤ部t3の表面上を転動するから、連鎖状端子Tの送給を制動して一時停止させるために必要かつ充分な制動力を確保することができる。
【0057】
以上、本発明に係る連鎖状端子の送給制動機構の各実施形態ついて詳しく説明したが、本発明は上述した実施形態によって限定されるものではなく、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した第2および第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、連鎖状端子Tの送給方向に複数のボール34,44を並設することができる。
さらに、上述した各実施形態のように制動板を用いることなく、上記特許文献2に記載されている構造の送給制動機構にも本発明を適用できることは言うまでもない。
加えて、第4実施形態におけるローラが、キャリヤ部に貫設されている係合孔の内側に入り込み、第1実施形態におけるボールと全く同様な作用効果を奏するようにす変更することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1実施形態の端子制動機構を備えた端子圧着装置の側面図。
【図2】第1実施形態の端子制動機構を示す斜視図。
【図3】図2に示した端子制動機構の要部断面図。
【図4】図3中のIV−IV破断線に沿った断面図。
【図5】第2実施形態の端子制動機構を示す断面図。
【図6】第3実施形態の端子制動機構を示す断面図。
【図7】第4実施形態の端子制動機構を示す断面図。
【図8】図7中のVIII−VIII破断線に沿った断面図。
【図9】実公平7−27591号公報に開示されている端子圧着装置の正面図。
【図10】図9に示した端子圧着装置の側面図。
【図11】図10に示した端子圧着装置における制動機構を示す斜視図。
【符号の説明】
【0059】
T 連鎖状端子
t3 キャリヤ部
t4 係合孔
t5 後縁
t6 前縁
1 基枠
2 端子ガイドレール
12 送り爪
14 制動板
14b 摺動部
15 ボルト
16 蝶ナット
17 皿ばね(押圧手段)
20 制動板(保持手段)
21 円筒状ケーシング
22 ボール
23 コイルばね(摩擦係合部材)
30 制動板(保持手段)
31 保持部
32 取付孔
34 ボール
35 摩擦係合部材
36 コイルばね(押圧手段)
40 制動板(保持手段)
41 保持部
42 取付孔
44 ボール(転動体)
45 摩擦係合部材
50 制動板(保持手段)
53 ローラ(転動体)
54 摩擦係合部材
100 第1実施形態の送給制動機構を備えた端子圧着機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連鎖状端子の送給を制動する制動機構であって、
前記連鎖状端子の表面上を転動する転動体と、
この転動体と摩擦係合する摩擦係合手段と、
前記転動体および前記摩擦係合手段を保持する保持手段と、
前記転動体を前記連鎖状端子の表面に押圧する押圧手段と、
を備えることを特徴とする連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項2】
前記押圧手段は、前記保持手段を前記表面に向かって付勢するように構成され、
前記転動体は、前記表面に対して接離自在に前記保持手段に保持され、
かつ前記転動体を前記表面に向かって付勢する、前記保持手段に保持された付勢手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載した連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項3】
前記保持手段が静止状態に固定され、
前記転動体は、前記表面に対して接離自在に前記保持手段に保持され、
かつ前記押圧手段は、前記保持手段に保持されて、前記転動体を前記表面に向かって付勢するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載した連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項4】
前記押圧手段は、前記保持手段を前記連鎖状端子の表面に向かって付勢するように構成され、
前記転動体は、前記保持手段と一体に変位するように保持されていることを特徴とする請求項1に記載した連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項5】
前記転動体が、その外周面に雄ねじが螺設された円筒状ケーシングの内部にその軸線方向に変位自在に収納されており、
前記付勢手段が、前記円筒状ケーシングに収納されて前記転動体を前記表面に向けて付勢可能に構成され、
前記保持手段は、前記円筒状ケーシングの雄ねじと螺合する雌ねじを具備した、前記表面に向かって延びる取付孔を有していることを特徴とする請求項2に記載した連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項6】
複数の前記転動体が、前記連鎖状端子の送給方向に並設されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項7】
前記連鎖状端子のキャリヤ部には端子送給用の係合孔が貫設されており、
前記転動体は、前記係合孔の端子送給方向の後縁と係合して前記連鎖状端子を一時停止させるように、その前後方向の位置が定められていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項8】
前記連鎖状端子のキャリヤ部には端子送給用の係合孔が貫設されており、
前記転動体は、前記係合孔の端子送給方向の後縁および前縁と係合して前記連鎖状端子を一時停止させるように、その外形およびその前後方向の位置が定められていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項9】
前記転動体が球状であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構。
【請求項10】
前記転動体が円柱状であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載した連鎖状端子の送給制動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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