説明

遊星歯車機構のキャリア構造

【課題】必要な剛性を確保しながらも軽量化及び小型化を図ることができる遊星歯車機構のキャリア構造の提供。
【解決手段】ラビニヨ式遊星歯車機構のキャリア構造であって、キャリア10は、複数のピニオンシャフト42,44の両端を支持する第1、側壁13,15とこれら側壁13,15を軸方向に繋ぐ連結壁27,29とを有する枠状の本体部11と、該本体部11が有する一方の側壁13の中心軸側に接続された円形板状の内周側部材31とで構成されており、内周側部材31は、ラージサンギヤ51の歯先径よりも大きい外径寸法を有しており、内周側部材31の外周端33aと、側壁13の内周端13aとの間に取り付けたでサークリップ35によって、側壁13に対して軸方向の移動が規制された状態で固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車としてのショートピニオンギヤとこれに噛合するロングピニオンギヤとを備えるラビニヨ式の遊星歯車機構のキャリア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遊星歯車としてのショートピニオンギヤとこれに噛合するロングピニオンギヤとを備えるいわゆるラビニヨ式の遊星歯車機構のキャリア構造として、特許文献1、2に示すものがある。従来のラビニヨ式の遊星歯車機構のキャリア機構は、ピニオンシャフトの両端を支持する支持壁とそれらを連結する連結壁とを有する有底円筒状などで、全体がボックス型に形成された一体構造が主流であった。ところが、このような一体構造のキャリアでは、強度確保などの点から、部品をプレス加工などで製作することができず、全体を削出で製作した部品を使用しなければならない。したがって、キャリアの薄肉化や軽量化が行い難いという問題がある。
【0003】
また、一体構造のキャリアでは、その形状及び寸法に応じて、ピニオンギヤの寸法が決まってしまうため、ピニオンギヤのレシオに制約が生じたり、ピニオンギヤのスラストワッシャーの座面確保が困難になるという問題がある。また、キャリアの形状が限定されることで、ピニオンギヤの組付性の確保が難しいという問題もある。
【0004】
すなわち、従来の一体構造のキャリアでは、キャリアをラージサンギヤの外周側に組み付けるための構造として、キャリアの側壁の内径寸法をラージサンギヤの外径寸法(歯先径寸法)よりも大きな寸法に設定しておくことで、キャリアを軸方向に移動させてラージサンギヤの外周に組み付けることが行われている。しかしながら、そのような構成では、キャリアの側壁の内径側にラージサンギヤを通すためのスペースを確保しておく必要があり、キャリアの形状に制限が生じたり、キャリア及びその組付構造の剛性を確保する妨げになったりするおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−108027号公報
【特許文献2】特許第2852819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、キャリアに必要な剛性を確保しながらも、軽量化及び小型化を図ることができると共に、組立効率の向上及び整備性の向上を図ることができる遊星歯車機構のキャリア構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明にかかる遊星歯車機構のキャリア構造は、複数のロングピニオンギヤ(41)と、複数のロングピニオンギヤ(41)それぞれに噛合する複数のショートピニオンギヤと、中心軸(2)周りに回転可能に設置され、ロングピニオンギヤ(41)と噛合するラージサンギヤ(51)と、中心軸(2)周りに回転可能に設置され、ショートピニオンギヤと噛合するスモールサンギヤ(52)と、ロングピニオンギヤ(41)に噛合するリングギヤ(53)と、ロングピニオンギヤ(41)とショートピニオンギヤそれぞれを回転可能に保持する複数のピニオンシャフト(42,44)と、複数のピニオンシャフト(42,44)を回転不能に支持すると共に中心軸(2)周りに回転可能に設置されたキャリア(10)と、を備えたラビニヨ式遊星歯車機構のキャリア構造であって、キャリア(10)は、複数のピニオンシャフト(42,44)の両端を支持する複数の側壁(13,15)と複数の側壁(13,15)を軸方向に繋ぐ連結壁(27,29)とを有する第1部材(11)と、第1部材(11)が有する少なくともいずれかの側壁(13)の内径側に接続された円形状の第2部材(31)と、で構成されており、第2部材(31)は、ラージサンギヤ(51)の歯先径よりも大きい外径寸法を有しており、第1部材(11)の側壁(13)との間に取り付けた係止具(35,35−2)で側壁(13)に対して軸方向の移動が規制された状態で固定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる遊星歯車機構のキャリア構造によれば、複数のピニオンシャフトの両端を支持する複数の側壁と、該複数の側壁を軸方向に繋ぐ連結壁とを有する枠状の第1部材と、第1部材が有する複数の側壁の少なくともいずれかの中心軸側に接続された円形状の第2部材とに分割された構造としたことで、従来の一体構造のキャリアと比べて、キャリアに必要な剛性を確保しながらも、キャリアの軽量化、小型化を図ることができる。また、キャリアの形状や寸法の自由度を高めることができる。したがって、キャリアに支持されたショートピニオンギヤ及びロングピニオンギヤのレシオの制約を軽減できる。また、ピニオンギヤのスラストワッシャーの座面確保が容易になる。また、ピニオンギヤの組付性を確保できるようになる。
【0009】
また、このキャリア構造では、第2部材は、ラージサンギヤの歯先径よりも大きい外径寸法を有しており、該第2部材は、第1部材の側壁との間に取り付けた係止具で側壁に固定されているので、キャリアをラージサンギヤの外周側に組み付けるには、第2部材を側壁に固定する前に、側壁の内径側にラージサンギヤを通すことがで、キャリアをラージサンギヤの外周に対して軸方向に移動させて組み付け、その後、第2部材を第1部材の側壁に対して係止具で固定するようにする。このように、第2部材を取り外した状態でキャリアを組み付けた後、第2部材を取り付けることが可能となる。したがって、キャリアの形状の自由度を確保しながら、組付作業の容易化を図ることができる。
【0010】
また、上記のキャリア構造の一実施態様として、前記第2部材(31)が接続された側壁(13)には、前記ピニオンシャフト(42)の端部を支持するためのシャフト支持孔(17)が設けられており、前記係止具(35,35−2)は、前記側壁(13)の外周端(13b)から径方向に挿入されて、前記シャフト支持孔(17)内の前記ピニオンシャフト(42)を径方向に貫通し、前記側壁(13)の内周端(13a)から前記第2部材(31)の外周端(33a)に挿入された一の係止具(35−2)であってよい。この構成によれば、従来、キャリアのシャフト支持孔に対するピニオンシャフトの抜止に用いていたピンなどの係止具を用いて、該係止具を分割したキャリアを跨ぐ位置まで延長することで、当該一の係止具のみでピニオンシャフトの抜止と第2部材の固定との両方を行うことができる。したがって、キャリア及びその周辺構造の部品点数を少なく抑えて構成の簡素化を図ることができる。
【0011】
また、上記のキャリア構造の他の実施態様として、係止具(35,35−2)は、側壁(13)の内周端(13a)と第2部材(31)の外周端(33a)との間に取り付けたサークリップ(35)であり、第2部材(31)の外周端(33a)には、サークリップ(35)を収納する収納溝(34)が形成されており、第2部材(31)における収納溝(34)の軸方向の側面には、サークリップ(35)を取り付けるための取付用工具を差し込む切欠溝(36)が開口していてよい。この構成によれば、サークリップによって、第1部材の側壁に対して第2部材を簡単かつ確実に固定することができる。また、収納溝の軸方向の側面に取付用工具を差し込む切欠溝を設けたことで、サークリップによる第2部材の固定が容易に行えるようになる。また、この切欠溝を利用して、一度取り付けたサークリップを取り外すことも可能となるので、第2部材の取り外しを伴うメンテナンスなどが行い易くなる。
【0012】
また、上記のキャリア構造では、第1部材(11)は、ロングピニオンギヤ(41)を取り付けたピニオンシャフト(42)の両端それぞれを支持する第1、第2支持部材(23,25)と、軸方向における第1、第2支持部材(23,25)の間に配置されたセンタープレート(21)とに分割された構造であり、第1、第2支持部材(23,25)は、ロングピニオンギヤ(41)を取り付けたピニオンシャフト(42)の端部を支持する一対の側壁(13,15)と、該一対の側壁(13,15)それぞれからセンタープレート(21)に向かって軸方向に延在する連結壁(27,29)とを有し、連結壁(27,29)でセンタープレート(21)の軸方向の両側が挟持されており、センタープレート(21)には、ショートピニオンギヤを取り付けたピニオンシャフト(44)の端部を支持するためのシャフト支持孔(28)が形成されていてよい。
【0013】
この構成によれば、キャリアの第1部材を、ロングピニオンギヤを取り付けたピニオンシャフトの両端それぞれを支持する第1、第2支持部材と、軸方向における第1、第2支持部材の間に配置されたセンタープレートとに分割された構造としたことで、分割された複数の部品のうち強度が必要な部品のみを厚肉化や大型化し、それ以外の部品は、薄肉化や小型化することが可能となる。具体的には、第1、第2支持部材の間に配置されたセンタープレートは、十分な剛性を持たせるように厚肉化したり、その外周縁をキャリアの外周まで延在させてキャリアの主骨格をなすように構成する一方で、ロングピニオンを取り付けたピニオンシャフトの両端それぞれを支持する第1、第2支持部材は、プレス加工などにより製作することで、薄肉化や軽量化を図るようにするとよい。これにより、キャリアに必要な剛性を確保しながらも、キャリアの軽量化及び小型化が可能となる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる遊星歯車機構のキャリア構造によれば、キャリアに必要な剛性を確保しながらも、その軽量化及び小型化を図ることができると共に、組立効率の向上及び整備性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるキャリア構造を備えたラビニヨ式の遊星歯車機構を示す側断面図である。
【図2】遊星歯車機構を示す概略斜視図(一部断面図)である。
【図3】キャリアの本体部を示す分解斜視図である。
【図4】キャリアの内周側部材を示す斜視図である。
【図5】サークリップを示す斜視図である。
【図6】内周側部材の取付手順を説明するための図である。
【図7】内周側部材を本体部に固定するための固定構造を示す部分拡大図である。
【図8】本発明の第2実施形態にかかるキャリア構造を備えたラビニヨ式の遊星歯車機構を示す側断面図である。
【図9】第2実施形態にかかるキャリア構造を備えた遊星歯車機構の他の構成例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1及び図2は、本発明の第1実施形態にかかるキャリア構造を備えた遊星歯車機構を示す図で、図1は、側断面図、図2は、概略部分斜視図(一部断面図)である。これらの図に示す遊星歯車機構1は、遊星歯車としての複数のロングピニオンギヤ41と、該複数のロングピニオンギヤ41それぞれに噛合する複数のショートピニオンギヤ(図示せず)と、それらを支持するキャリア(プラネタリキャリア)10とを備えたラビニヨ式の遊星歯車機構である。
【0017】
ロングピニオンギヤ41は、第1ピニオンシャフト42でキャリア10に対して回転可能に保持されており、ショートピニオンギヤは、第2ピニオンシャフト44(図2参照)でキャリア10に対して回転可能に保持されている。第1、第2ピニオンシャフト42,44を介してキャリア10に取り付けられたロングピニオンギヤ41とショートピニオンギヤは、変速機の主軸(中心軸)2(図1参照)周りの円周状に交互に配列されている。
【0018】
また、この遊星歯車機構1は、主軸2の周りに回転可能に設置したラージサンギヤ51とスモールサンギヤ52を備えている。ラージサンギヤ51は、ロングピニオンギヤ41と噛合しており、スモールサンギヤ52は、ショートピニオンギヤと噛合している。また、キャリア10の外周側には、ロングピニオンギヤ41に噛合するリングギヤ53(図1参照)が設置されている。
【0019】
図2に示すように、キャリア10は、略円筒型の枠状に形成された本体部(第1部材)11と、該本体部11が有する第1側壁13の内径側(主軸2側)に接続された円形状の内周側部材(第2部材)31とで構成されている。本体部11は、ロングピニオンギヤ41を取り付けた第1ピニオンシャフト42の両端を支持する第1側壁13及び第2側壁15と、これら第1側壁13と第2側壁15とを軸方向に繋ぐ連結壁27,29(後述する図3参照)とを有する。本体部11の第1側壁13及び第2側壁15は、円形環状の平板状に形成されており、それらには、円周方向に沿って、ロングピニオンギヤ41を取り付けた第1ピニオンシャフト42の端部を支持するシャフト支持孔17と、ショートピニオンギヤを取り付けた第2ピニオンシャフト44の端部を支持するシャフト支持孔18とが交互に配列形成されている。また、第1側壁13の内周端13aには、内周側部材31が固定されている。
【0020】
図3は、キャリア10の本体部11を示す分解斜視図である。なお、同図では、キャリア10に支持されたロングピニオンギヤ41及びショートピニオンギヤやそれらを支持するピニオンシャフト42,44は図示を省略している。同図に示すように、キャリア10の本体部11は、ロングピニオンギヤ41を取り付けたピニオンシャフト42の両端それぞれを支持する第1、第2支持部材23,25と、軸方向における第1、第2支持部材23,25の中間に配置されたセンタープレート21との三部材に分割された構造である。第1、第2支持部材23,25は、センタープレート21を挟んで軸方向でほぼ対称な形状を有しており、ロングピニオンギヤ41を取り付けた第1ピニオンシャフト42の端部を支持する第1、第2側壁13,15と、第1、第2側壁13,15からセンタープレート21に向かって軸方向に延在する連結壁27,29とを有している。連結壁27,29は、周方向が所定間隔で複数に分割されている。第1、第2側壁13,15には、第1ピニオンシャフト42の端部を支持するためのシャフト支持孔17と、第2ピニオンシャフト44の端部を支持するためのシャフト支持孔18とが円周方向に沿って交互に配列形成されている。
【0021】
センタープレート21は、円形環状の板部材であり、複数のロングピニオンギヤ41を貫通させるための貫通部22と、ショートピニオンギヤを取り付けた第2ピニオンシャフト44の端部を支持するためのシャフト支持孔28とが形成されている。また、センタープレート21の外周縁21aの両面にはそれぞれ、第1、第2支持部材23,25の連結壁27,29の先端27a,29aが当接している。すなわち、第1、第2支持部材23,25の連結壁27,29の先端27a,29aでセンタープレート21の軸方向の両面が挟持されている。なお、第1、第2支持部材23,25の連結壁27,29の先端27a,29aは、センタープレート21の外周縁21aの両面に溶接で固定されている。
【0022】
上記構成のキャリア10の本体部11は、ロングピニオンギヤ41を取り付けた第1ピニオンシャフト42の両端を第1、第2支持部材23,25のシャフト支持孔17で支持すると共に、ショートピニオンギヤを取り付けた第2ピニオンシャフト44の一端を第1、第2支持部材23,25のシャフト支持孔18で支持し、他端をセンタープレート21のシャフト支持孔28で支持するようになっている。これにより、ロングピニオンギヤ41がセンタープレート21の貫通部22を貫通して、第1支持部材23と第2支持部材25との間に掛け渡された状態となる。また、ショートピニオンギヤがセンタープレート21の軸方向の両側それぞれに設置される。こうして、ロングピニオンギヤ41とショートピニオンギヤは、キャリア10の内部で主軸2周りの円周方向に沿って交互に配列された状態でキャリア10に支持される。
【0023】
図4は、キャリア10の内周側部材31を示す斜視図である。内周側部材31は、主軸2を囲む円筒状の筒部32と、該筒部32の軸方向の一端から径方向の外側に向かって突出する円環状のフランジ部33とを有している。図1及び図2に示すように、フランジ部33の外周端33aは、ラージサンギヤ51の歯先径よりも若干大きい外径寸法を有している。
【0024】
フランジ部33の外周端33aには、後述するサークリップ(係止具)35を収納するための収納溝34が形成されている。収納溝34は、フランジ部33の外周端33aに沿って周方向に延びる環状の溝部として形成されており、サークリップ35を収容可能な寸法及び形状を有している。そして、フランジ部33における収納溝34の側面(軸方向の側面)には、サークリップ35の取り付けに使用する取付用工具(図示せず)を差し込むための切欠溝36が開口している。切欠溝36は、フランジ部33の側面33bを所定幅で切り取った部分である。また、図1及び図2に示すように、フランジ部33の外周端33aに対向する第1側壁13の内周端13aにも、サークリップ35を収納するための収納溝14が形成されている。収納溝14は、第1側壁13の内周端13aに沿って周方向に延びる環状の溝部として形成されている。
【0025】
図5は、サークリップ35を示す斜視図である。サークリップ35は、弾性を有する金属製の細片からなり、円形環状の一部が切り欠かれた略C字型に形成されている。サークリップ35は、第1側壁13の収納溝14と内周側部材31の収納溝34とに収納可能な長方形状の断面形状を有している。また、C字型のサークリップ35の両方の端部35a,35aには、取付用工具の先端を係合させるための爪片35b,35bが形成されている。爪片35b,35bは、サークリップ35の端部35a,35aを湾曲させて横向きに突出させたフック形状である。これら爪片35b,35bに取付用工具が有する一対の支持具(図示せず)の先端を引っ掛けることで、サークリップ35を保持すると共に、端部35a,35a間の距離を調節して、サークリップ35の径寸法を変えることができるようになっている。また、爪片35b,35bは、後述するように、サークリップ35の回り止めとしても機能する。
【0026】
図6は、内周側部材31の取付手順を説明するための図である。また、図7は、第1側壁13に対して内周側部材31を固定するための固定構造を示す部分拡大図である。第1側壁13に対して内周側部材31を固定するには、あらかじめ、キャリア10の本体部11をラージサンギヤ51及びスモールサンギヤ52の外周側に設置しておき、その状態で、図6の矢印に示すように、内周側部材31を軸方向に移動させて、第1側壁13の内周端13aに内周側部材31の外周端33aを圧入して取り付ける。この際、あらかじめ内周側部材31の収納溝34にサークリップ35を収納しておき、切欠溝36(図4参照)に差し込んだ取付用工具でサークリップ35の端部35a,35aの間隔を狭めた状態で保持し、サークリップ35を収納溝34に没入させておく。そして、第1側壁13の内周端13aに内周側部材31の外周端33aを圧入したら、取付用工具を操作して、サークリップ35の端部35a,35aを接近させている力を緩和する。これにより、内周側部材31の収納溝34内に配置されているサークリップ35が弾性復帰力で拡径して、第1側壁13の内周端13aの収納溝14に進入する。こうして、サークリップ35が内周側部材31の収納溝34と第1側壁13の収納溝14とに跨って配置されることで、内周側部材31が第1側壁13に対して固定される。これにより、内周側部材31の軸方向の移動が規制された状態となる。
【0027】
なお、図1及び図2に示すように、内周側部材31が接続された第1側壁13には、ピニオンシャフト42の端部を支持するためのシャフト支持孔17が設けられている。第1側壁13には、シャフト支持孔17に挿入したピニオンシャフト42に対して抜け止め及び回り止めを施すための抜止ビス19が設置されている。抜止ビス19は、第1側壁13の外周端13bから径方向に延びるビス挿入孔19aに挿入されて、シャフト支持孔17内のピニオンシャフト42に設けたビス挿入孔19bに差し込まれている。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の遊星歯車機構1が備えるキャリア構造では、複数のピニオンシャフト42の両端を支持する複数の側壁13,15と、該複数の側壁13,15を軸方向に繋ぐ連結壁27,29とを有する枠状の本体部11と、本体部11が有する第1側壁13の内径側に接続された円形状の内周側部材31とに分割された構造のキャリア10を備えたことで、従来の一体構造のキャリアと比べて、キャリア10に必要な剛性を確保しながらも、その形状や寸法の自由度を高めることができる。したがって、キャリア10に支持されたショートピニオンギヤやロングピニオンギヤ41のレシオの制約を軽減できる。また、ショートピニオンギヤやロングピニオンギヤ41のスラストワッシャーの座面確保が容易になる。また、キャリア10及びショートピニオンギヤやロングピニオンギヤ41の組付性を確保できるようになる。
【0029】
すなわち、内周側部材31は、ラージサンギヤ51の歯先径よりも大きい外径寸法を有しており、内周側部材31は、本体部11の第1側壁13との間に取り付けたサークリップ35で第1側壁13に対して軸方向の移動が規制された状態で固定されている。したがって、キャリア10をラージサンギヤ51の外周側に組み付けるには、内周側部材31を第1側壁13に固定する前に、キャリア10をラージサンギヤ51の外周に対して軸方向に移動させて組み付け、その後、内周側部材31を第1側壁13に対してサークリップ35で固定する。このように、内周側部材31を取り外した状態でキャリア10を組み付けた後、内周側部材31を取り付けることができる。したがって、キャリア10の形状の自由度を確保しながら、組付作業の容易化を図ることができる。
【0030】
また、本実施形態のキャリア構造では、本体部11の第1側壁13に対する内周側部材31の固定は、第1側壁13の内周端13aと内周側部材31の外周端33aとの間に取り付けたサークリップ35で行われている。そして、内周側部材31の外周端33aには、サークリップ35を収納する収納溝34が形成されており、内周側部材31における収納溝34の軸方向の側面には、取付用工具を差し込むための切欠溝36が開口している。このように構成したことで、サークリップ35によって本体部11の第1側壁13に対して内周側部材31を簡単かつ確実に固定できる。また、取付用工具を差し込むための切欠溝36を設けたことで、サークリップ35の取り付けを容易かつ確実に行えるようになる。また、この切欠溝36を利用して、一度取り付けたサークリップ35を取り外すことも可能となる。したがって、内周側部材31の取り外しを伴うメンテナンスなどが行い易くなる。また、内周側部材31を第1側壁13に対して固定した状態で、切欠溝36を介してサークリップ35の取付状態を目視で確認できるようになる。したがって、サークリップ35が正規の位置に嵌合していることを確認できる。また、サークリップ35の端部35a,35aに爪片35b,35bを形成したことで、該爪片35b,35bが切欠溝36に引っ掛かることで、サークリップ35の回転止めがなされるようになる。
【0031】
また、本実施形態のキャリア構造では、キャリア10の本体部11は、ロングピニオンギヤ41を取り付けた第1ピニオンシャフト42の両端それぞれを支持する第1、第2支持部材23,25と、軸方向における第1、第2支持部材23,25の間に配置されたセンタープレート21との三部材に分割された構造である。そして、第1、第2支持部材23,25は、ロングピニオンギヤ41を取り付けた第1ピニオンシャフト42の端部を支持する第1、第2側壁13,15と、これら第1、第2側壁13,15からセンタープレート21に向かって軸方向に延在する連結壁27,29とを有し、連結壁27,29でセンタープレート21の軸方向の両側が挟持されている。さらに、センタープレート21には、ショートピニオンギヤを取り付けた第2ピニオンシャフト44の端部を支持するためのシャフト支持孔28が形成されている。
【0032】
このように、キャリア10の本体部11を、ロングピニオンギヤ41を取り付けた第1ピニオンシャフト42の両端を支持する第1、第2支持部材23,25と、軸方向における第1、第2支持部材23,25の間に配置されたセンタープレート21との三部材に分割した構造としたことで、分割した複数の部品のうち、強度が必要な部品のみ厚肉化や大型化し、それ以外の部品は、薄肉化や小型化することが可能となる。具体的には、軸方向における第1、第2支持部材23,25の間に設置したセンタープレート21は、十分な剛性を持たせるように厚肉化したり、その外周縁21aをキャリア10の外周まで延在させてキャリア10の主骨格をなすように構成する一方で、ロングピニオンギヤ41を取り付けた第1ピニオンシャフト42の両端それぞれを支持する第1、第2支持部材23,25は、プレス加工などにより製作することで薄肉化及び軽量化を図ることが可能である。これにより、キャリア10に必要な剛性を確保しながらも、キャリア10の軽量化及び小型化が可能となる。
【0033】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。この点は、他の実施形態においても同様である。
【0034】
図8は、本発明の第2実施形態にかかるキャリア構造を備えた遊星歯車機構1−2を示す側断面図である。本実施形態の遊星歯車機構1−2が備えるキャリア構造は、第1実施形態と比較して、キャリア10の内周側部材31を第1側壁13に対して固定するための固定構造が異なっている。他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0035】
本実施形態のキャリア構造は、図8に示すように、第1側壁13のシャフト支持孔17に挿入した第1ピニオンシャフト42の抜け止め及び回り止めを行うための構成として、抜止ビス19に加えて、抜止ピン35−2を備えている。そして、この抜止ピン35−2で、第1ピニオンシャフト42の抜け止めと共に、内周側部材31の固定を行うように構成している。すなわち、本実施形態の第1側壁13には、その外周端13bからシャフト支持孔17まで径方向に貫通するビス挿入孔19aと、該ビス挿入孔19aと同軸上に設けられてシャフト支持孔17から内周端13aまで貫通するピン挿入孔19cとが設けられている。また、シャフト支持孔17内の第1ピニオンシャフト42には、該第1ピニオンシャフト42を貫通する貫通孔19dが設けられている。また、内周側部材31には、その外周端33aから径方向の途中まで延伸したピン挿入孔35aが設けられている。
【0036】
抜止ビス19は、第1側壁13のビス挿入孔19aから第1ピニオンシャフト42の貫通孔19dの途中位置まで挿入されている。一方、抜止ピン35−2は、その一端が第1ピニオンシャフト42の貫通孔19dに差し込まれており、第1側壁13のピン挿入孔19cを貫通して、他端が内周側部材31のピン挿入穴35aに差し込まれている。第1ピニオンシャフト42の貫通孔19dの外径側は、抜止ビス19で塞がれている。
【0037】
この構成によれば、抜止ピン35−2で、ピニオンシャフト42の抜け止めと内周側部材31の固定との両方を行うことができる。また、抜止ビス19で第1ピニオンシャフト42の貫通孔19dの一端が塞がれているので、抜止ピン35−2が貫通孔19dから抜け落ちることを防止できる。また、第1実施形態のサークリップ35による固定では、サークリップ35は、その構造上、第1側壁13又は内周側部材31に対する径方向の係り代(係り寸法)をあまり大きくすることができないが、本実施形態の抜止ピン35−2は、その軸長を長くすれば、第1側壁13又は内周側部材31に対する径方向の係り代を大きく(長く)確保することができる。したがって、第1側壁13に対して内周側部材31を軸方向で確実に固定することができる。また、第1側壁13又は内周側部材31に対する径方向の係り代を大きく確保できることで、係止具としての抜止ピン35−2の強度をサークリップ35よりも高めることが可能となる。
【0038】
図9は、本実施形態にかかるキャリア構造を備えた遊星歯車機構1−2の他の構成例を示す側断面図である。上記の図8に示す構成例では、抜止ビス19と抜止ピン35−2を互いに別部品として設けていたのに対して、図9に示す構成例では、これら抜止ビス19と抜止ピン35−2に代えて、該抜止ビス19と抜止ピン35−2を一体に連結してなる構成の係止具35−3を備えている。係止具35−3は、抜止ビス19の先端に抜止ピン35−2を継ぎ足した構成の長尺状のピンである。該係止具35−3は、第1側壁13のビス挿入孔19aと、第1ピニオンシャフト42の貫通孔19dと、第1側壁13のピン挿入孔19cとをこの順に貫通し、先端が内周側部材31のピン挿入穴35aに差し込まれている。
【0039】
図9に示す構成例のように、抜止ビス19と抜止ピン35−2とを一体に連結してなる構成の係止具35−3を備えれば、一本の係止具35−3のみで、ピニオンシャフト42の抜け止め及び回り止めと、内周側部材31の固定との両方を行うことができる。したがって、図8に示す構成例と比較して、キャリア10の組立及び分解の作業をより簡単に行うことができる。また、キャリア10周辺の部品点数を少なく抑えることができるので、構成の簡素化、軽量化にも寄与し得る。
【0040】
なお、詳細な図示は省略するが、上記の係止具35−3は、第1側壁13の周方向に沿って配列された各シャフト支持孔17に対応するものそれぞれを内周側部材31まで延長することで、内周側部材31を固定するための係止具35−3を複数本設置するように構成してよい。
【0041】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 遊星歯車機構
2 主軸(中心軸)
10 キャリア
11 本体部(第1部材)
13 第1側壁
13a 内周端
13b 外周端
14 収納溝
15 第2側壁
17 シャフト支持孔
18 シャフト支持孔
19 抜止ビス
19a ビス挿入孔
21 センタープレート
21a 外周縁
22 貫通部
23 第1支持部材
25 第2支持部材
27,29 連結壁
27a,29a 先端
28 シャフト支持孔
31 内周側部材(第2部材)
32 筒部
33 フランジ部
33a 外周端
33b 側面
34 収納溝
35 サークリップ(係止具)
35a 端部
35b 爪片
36 切欠溝
41 ロングピニオンギヤ
42 第1ピニオンシャフト
44 第2ピニオンシャフト
51 ラージサンギヤ
52 スモールサンギヤ
53 リングギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のロングピニオンギヤと、
前記複数のロングピニオンギヤそれぞれに噛合する複数のショートピニオンギヤと、
中心軸周りに回転可能に設置され、前記ロングピニオンギヤと噛合するラージサンギヤと、
前記中心軸周りに回転可能に設置され、前記ショートピニオンギヤと噛合するスモールサンギヤと、
前記ロングピニオンギヤに噛合するリングギヤと、
前記ロングピニオンギヤと前記ショートピニオンギヤそれぞれを回転可能に保持する複数のピニオンシャフトと、
前記複数のピニオンシャフトを回転不能に支持すると共に前記中心軸周りに回転可能に設置されたキャリアと、
を備えたラビニヨ式遊星歯車機構のキャリア構造であって、
前記キャリアは、
前記複数のピニオンシャフトの両端を支持する複数の側壁と前記複数の側壁を軸方向に繋ぐ連結壁とを有する第1部材と、
前記第1部材が有する少なくともいずれかの側壁の内径側に接続された円形状の第2部材と、で構成されており、
前記第2部材は、前記ラージサンギヤの歯先径よりも大きい外径寸法を有しており、前記第1部材の前記側壁との間に取り付けた係止具で前記側壁に対して軸方向の移動が規制された状態で固定されている
ことを特徴とする遊星歯車機構のキャリア構造。
【請求項2】
前記第2部材が接続された側壁には、前記ピニオンシャフトの端部を支持するためのシャフト支持孔が設けられており、
前記係止具は、前記側壁の外周端から径方向に挿入されて、前記シャフト支持孔内の前記ピニオンシャフトを径方向に貫通し、前記側壁の内周端から前記第2部材の外周端に挿入された一の係止具である
ことを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車機構のキャリア構造。
【請求項3】
前記係止具は、前記側壁の内周端と前記第2部材の外周端との間に取り付けたサークリップであり、
前記第2部材の外周端には、前記サークリップを収納する収納溝が形成されており、
前記第2部材における前記収納溝の軸方向の側面には、前記サークリップを取り付けるための取付用工具を差し込む切欠溝が開口している
ことを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車機構のキャリア構造。
【請求項4】
前記第1部材は、前記ロングピニオンギヤを取り付けたピニオンシャフトの両端それぞれを支持する第1、第2支持部材と、前記軸方向における前記第1、第2支持部材の間に配置されたセンタープレートと、に分割された構造であり、
第1、第2支持部材は、前記ロングピニオンギヤを取り付けたピニオンシャフトの端部を支持する一対の側壁と、該一対の側壁それぞれから前記センタープレートに向かって軸方向に延在する連結壁とを有し、前記連結壁で前記センタープレートの軸方向の両側が挟持されており、
前記センタープレートには、前記ショートピニオンギヤを取り付けたピニオンシャフトの端部を支持するためのシャフト支持孔が形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の遊星歯車機構のキャリア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−196531(P2011−196531A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67082(P2010−67082)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】