説明

運動体の運動エネルギーを吸収する装置

運動体の運動エネルギーを吸収する装置(1)は、その内面が通路を画定する巻きの積み重ねを有する、可塑性の変形能を有するコイルばねを備える。巻き(9a)の少なくとも一部は、通路を通って連続して引っ張ることができる。その結果として巻きが変形する(9b)ことにより、エネルギーを吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文による、運動体の運動エネルギーを吸収する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
引張部材を材料に対して伸長させ、抵抗を形成することによりエネルギーを吸収する装置が、例えば、登山における、もしくは建設業界での組立作業における落下ブレーキ、自動車工学における安全ベルトのいわゆる「衝撃吸収装置」、または、安全網、ロープバリア等の、動的に応力がかかる支持構造内のブレーキ等、多くの応用分野で使用されている。
【0003】
このような用途では、可塑的に変形可能な引張部材が好ましい。その理由は、例えばばね鋼製の伸び過ぎない(non−overstretched)ばね、またはゴムストラップにより得られるような高い弾性変形能によって、吸収される運動エネルギーが一時的にのみ蓄えられ、次に、その大半が制動された物体に戻され、その物体を再び動かし得るからである。
【0004】
エネルギー吸収において、制動路全体にわたり制動力が一定に生じることが望ましい。なぜなら、それが一定に生じれば、運動体が一定の負の加速度で制動され、故に、均一の力を受けることになるためである。
【0005】
しかし、張力を受けた場合、弾性または可塑性の変形能を有するコイルばねの形態の引張部材は、ばねの全範囲にわたって一定のばね力を有さない。コイルばねの場合、張力を受けた後、巻きの直径の低減とピッチの増大とを同時に伴って伸びることによって、すべての巻きに対して同時に応力がかかり、さらに伸びるための抵抗が常に増大するため、ばねが伸びるほどばね力が増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、可能な限り一定の制動力で、全制動経路のうちより広い部分にわたって伸長可能な引張部材を有する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的を達成する装置を、請求項1に記載している。さらなる請求項では、本発明による装置の好ましい実施形態を記載している。
【0008】
本発明について、図を参照しつつ、例示的な実施形態を用いてさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】応力がかかっている状態の本発明による装置の長手方向断面である。
【図2】図1の装置の、線I−Iを通る断面である。
【図3】制動力/制動路の図である。
【図4】本発明による装置のさらなる変形の長手方向断面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、引張部材2に対して作用する外力15を部分的に受け、力15とは逆の方向に制動力16を生じた状態の、本発明による装置1を示す。引張部材2は、いくつかの360°の巻き9a、9b、9cを有するコイルばねの形態である。9aは、上下に積み重ねられ、力15をまだ受けていない巻きの部分を表す。9bは、応力を受けている巻きの部分のうち、応力を受けていない巻き9a内に伸びている部分を表し、その一方で、9cは、応力を受けている巻きの部分のうち、図1で応力を受けていない巻き9aの下端部から突出する部分を表す。以下、積み重ねられた巻き9aのこの下端部を、積み重ねの支持端部とも呼び、自由端部は、図1による積み重ねられた巻き9aの上端部と呼ぶ。
【0011】
コイルばねは、ワイヤの直径3を有するワイヤから形成され、可塑性の変形能を有する。図1には、制動距離14だけ伸長した状態の、変形した引張部材2が示されている。
【0012】
360°の巻き9aの積み重ねは、保護フード8で閉じられている。この積み重ねの支持端部は、センタリングリング5で囲まれ、センタリングリング5にしっかりと接続された支持板6上に配置される。上記支持板には貫通穴7が設けられ、貫通穴7の直径は、少なくとも巻き9aの内径に対応する。
【0013】
可塑的に徐々に変形する巻きの部分9bは、引張部材2の巻きの積み重ねられた部分9aに接触し、この部分9bは、それ以上は変形しない巻きの部分9cに続く。
【0014】
応力を受けない巻き9aは、巻き直径10aおよびピッチ11aで積み重ねられる。引張部材の端部2bを有する巻き9aの積み重ねは、支持板6上に支持され、センタリングリング5により貫通穴7上に位置決めされる。
【0015】
センタリングリング5および支持板6は、巻き9bが変形した場合に、巻き9aの積み重ねがその位置を保持することを保証する停止手段を形成する。特に、センタリングリング5を設けることにより、通路が延びる方向に対して横方向への積み重ねの変位を回避する停止面が生み出され、そのため、通路は常に貫通穴7に位置合わせされる。
【0016】
引張部材2aの端部に作用する、制動対象の物体の移動に起因する引張から生じる外力15によって、力15とは逆の方向に制動力16が生じる。巻き9aが、巻き9aの積み重ねの内面および支持板6の貫通穴7により画定される通路を通って連続して引っ張られることにより、巻き9aは、中間形態9bを介して、より小さな巻き直径10cおよびより大きなピッチ11cを有する巻き9cに変形する。中間形態9bは巻き直径10bおよびピッチ11bを有する。引張部材2の変形は、各巻きの直径10a、10b、10cが低減する一方で、各ピッチ11a、11b、11cが増大するように行われる。
【0017】
変形するにあたって、巻き9bは、その下にある巻き9a上を摺動し、巻き9bの新たな表面が常に、その下にある巻き9aの新たな表面上を摺動するように、巻き9bと巻き9aとの間に位置する接触点12が漸進的に変化する。巻き9aが、巻き9aの積み重ねの内面および支持板6の貫通穴7により画定される通路を通って引っ張られると、巻き9bは巻き9aの表面に沿って摺動し、巻き9aの新たな表面が常に巻き9aの積み重ねの表面上を摺動するように、巻き9aの間に位置する接触点13が漸進的に変化する。
【0018】
制動力(図3では16で示される)のうち、接触点12および13において生じる分力に由来する、摺動摩擦による分力は、制動路(図3では14で示される)全体にわたる巻き9bの可塑性変形によって生じる主分力と合わせると、おおよそ一定の値を取り、それにより、制動力16の全体が制動路14全体にわたって均一となる。
【0019】
センタリングリング5は、巻き9aの積み重ねの長さよりも小さな軸方向長さを有し、好ましくは、積み重ねの支持端部にある巻き9aのうちの少数のみを囲む。したがって、積み重ねの自由端部はセンタリングリング5で囲まれず、それにより、巻きの自由端部に位置する、最後の巻き9aが変形し始める際に、引張部材2とセンタリングリング5との摩擦の増大が回避される。
【0020】
接触点12および13での摺動摩擦を低減するために、1本または複数本のワイヤの表面の滑りやすさおよび耐摩耗性を、例えば、塩浴軟窒化(例えば、Tenifer QPQ法、QPQは焼入れ/研磨/焼入れを表す)により改良することができる。摺動摩擦を低減するために、表面を処理する他の方法も考えられる。特定の状況下では、例えば、ワイヤの表面の研磨で十分である。
【0021】
制動対象である物体への引張部材2aの接続を容易にするために、装置1を製造する際にすでに、引張部材2の端部2aが巻き9aの積み重ねを通して引っ張られているか、または巻き9aの積み重ね内に少なくとも突出しているようにしておくことができる。さらに、端部2aに例えば、ロープを取り付ける役割を果たすような、適切なアタッチメントを設けることができる。
【0022】
図2は、巻き9aの内面および貫通穴7により画定される巻き直径10bを有して可塑性に変形する巻き9bとして連続して引っ張られる、巻き直径10aを有する積み重ねられた巻き9aを囲む保護フード8を有する、図1の装置の断面I−Iを示す。
【0023】
図3は、図1による装置に応力がかかった場合の、制動力/制動路の推移の図を示す。見て分かるように、制動路14の非常に短い部分の間に、制動力16が、残りの制動路14全体にわたって実質的に均一のままである最終値に達する。曲線の下のエリア17は、図1による装置1に応力がかかった場合に、制動力16および制動路14により吸収されたエネルギー17に対応する。
【0024】
図4は、本発明による装置のさらなる変形1’を示す。ここでは、停止手段が、段差を形成することによりテーパ形に設計されたブッシュ5’の形態で設けられる。積み重ねられた巻き9aはブッシュ5’の段差に接触して置かれるが、変形する巻き9bは、ブッシュ5’内の小さい方の穴を通って突出し、この小さい方の穴の直径7は、図1に示した別例に対応するように選択される。ブッシュ5’のテーパ端部は、キャリア6’に形成される穴に係合する。
【0025】
ブッシュ5’は、一方では、引張部材2に対する支持構造として機能し、他方では、引張部材2が横方向に逸れないようにするサイドストップとして機能する。ブッシュ5’は、金属塊から製造することができる。
【0026】
キャリア6’には、例えば、装置1’を嵌めるための穴が設けられ、この穴に、ブッシュ5’のテーパ端部が挿入される。
【0027】
本発明による装置は、多くの異なる方法で、例えば、登山における、もしくは建設業界での組立作業における落下ブレーキ、自動車工学における安全ベルトのいわゆる「衝撃吸収装置」、および/または、安全網、ロープバリア等の、動的に応力がかかる支持構造内のブレーキとして使用することができる。
【0028】
装置1、1’は、用途に対応するように設計される。例えば、人間の落下保護のための制動力の範囲は、2kN〜3kNの範囲内であり、制動路の長さは数10cmから1m〜2mである。動的に応力がかけられる支持構造の場合、最高で200kN以上の制動力が必要とされ、その場合の制動路の長さは数mである。
【0029】
引張部材は、好ましくは、数mm〜数cmの範囲の直径を有し、引張強度500N/mm2〜2000N/mm2を有する丸いワイヤで作られ、高い延性も有するワイヤが特に好ましい。特に、鋼線が引張部材として適する。
【0030】
当業者は、特許請求の範囲により規定される本発明の保護範囲から逸脱せずに、上記説明に対して多くの変更を行い得る。
【0031】
中実のプロファイルに代えて、例えば、壁厚の鋼管等の中空のプロファイルを引張部材2として使用することもできる。
【0032】
引張部材2として、捻れた鋼管を使用することも考えられ、そのパイプの内部を通してロープが案内され、このロープが主引張部材として機能し、それにより、外力15を巻き(9a、9b、9c)に伝達し、制動力16を動員する。それにより、外力15は、制動後にロープを介して伝達される。
【0033】
さらに、応力を受けない巻き9aの積み重ねは必ずしも、図示されるように、円筒形の外形を有する必要はない。例えば、積み重ねが一端部および/または他端部に向かって連続的に広くまたは狭くなる他の形態も考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内面が通路を画定する巻きの積み重ね(9a)を有する、可塑性の変形能を有するコイルばねを含む引張部材(2)を有する、運動体の運動エネルギーを吸収する装置であって、巻き(9a)の少なくとも一部を、前記通路を通して連続して引っ張り、巻き直径(10a)を低減させると共に、ピッチ(11a)を増大させることにより、変形することができることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記巻きの変形(9b)中に積み重ねの位置を保持する停止手段(5、6;5’)を特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記停止手段(5、6;5’)が、一端部に前記積み重ねられた巻きが置かれ、前記積み重ねられた巻きの前記通路に接合する貫通穴(7)を有する支持体(6;5’)を有することを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記貫通穴(7)が、少なくとも前記巻き(9a)の内径に対応することを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記停止手段(5、6;5’)が、前記巻きの変形(9b)中、前記積み重ねられた巻きが、通路が延びる方向に対して横方向に変位しないようにする停止面(5;5’)を備えることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記支持構造および前記停止面が、好ましくは段差を有するように、および/または一体として作られるブッシュ(5’)の部分であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記巻きの積み重ねが、前記通路が延びる方向から見て、前記停止面(5)を超えて突出することを特徴とする、請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
物体により前記装置に応力がかかる前、前記コイルばね(2)の前記一端部は、前記巻きの積み重ねの前記通路内に突出するか、または前記通路を通過していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記巻きの積み重ねのうちの前記巻き(9a)が、略同じ直径(10a)を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記巻き(9a)が、前記巻きの積み重ねの開始および/または終了する箇所までに連続的に大きくなるか、または小さくなる直径を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記引張部材(2)は、最低でも500N/mm2および/または最高で2000N/mm2の引張強さのワイヤで作られることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記引張部材(2)が、好ましくは丸い断面を有し、かつ/または耐腐食性を有する鋼線から作られることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記巻き(9a)の表面が、平滑性および/または耐摩耗性を増大させるように処理されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記引張部材(2)の両端部(2a、2b)のうちの少なくとも一方に、ロープを取り付けるためのアタッチメントが設けられることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記引張部材(2)が、ロープが通される捻れた管により形成されることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−526948(P2012−526948A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508937(P2012−508937)
【出願日】平成22年5月2日(2010.5.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002666
【国際公開番号】WO2010/127812
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(510301231)ジェオブルッグ・アーゲー (5)
【Fターム(参考)】