説明

運動能力判定装置

【課題】従来の運動能力判定装置は、統計的に算出された標準値に基づいて運動目標値が設定されているので、歩行を行なう使用者にとって適切な目標とは言い難いものであった。
【解決手段】安静時の心拍数である安静心拍数と歩行運動中の心拍数である運動心拍数とを算出する心拍数算出手段3と、個人データ入力手段71と最高心拍数算出手段72と心拍運動強度算出手段7と心拍METs算出手段81と、歩行速度算出手段5と歩行METs算出手段6と、歩行METsデータHmと心拍METsデータSmと、から運動能力データUnを算出する運動能力算出手段8とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動能力を判定する運動能力判定装置に関するものであり、特に適正な歩行運動を行なうための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾病予防や健康増進のために歩行運動がよいとされている。そして効果的な歩行運動を行なうために歩行運動の強度は、その個人が持つ運動能力の50%から70%程度が適切とされている。
しかし、運動をしようとする人が、その運動能力の範囲内で適切に運動ができているかを知り得ることは難しいので、運動中や運動後に運動強度を報知したりする技術が広く提案されている。
【0003】
一例をあげると、歩数計に関わる技術である。運動を歩行運動としたときに、標準的な運動強度と比較してその結果を表示する技術である(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に示した従来技術は、1分間の歩数から歩行速度を求め、歩行速度と運動の強度とを示す単位であるMETs値の関係テーブルからMETsを算出する。更に個人データを入力し、入力された個人データからその個人に当てはまる統計的な運動強度を得る。そして、個人の実際の歩行による運動強度と統計的な運動強度とを比較し表示するのである。
また、運動をする人が運動強度レベルの目標を設定することができるため、運動後にどの程度の達成度があったのかも判定できる。
【0005】
図18を使用して特許文献1に示した従来技術の詳細を詳述する。
説明に先だって「METs」という単位について若干説明を行なう。「METs」とは身体の活動度の指標である体重1kg当りのエネルギ代謝量(単位はKcal/kgであり、以下の記述では単位は省略する)が、安静時の何倍に相当するかを示す数値である。例えば「3METsの運動」とは、その運動は安静時の3倍のエネルギ代謝量を必要とする運動強度である、ということを示す。
【0006】
図18は特許文献1に示した従来技術の構成を示すブロック図であり、図18のCPU200には、入力部150の年令入力部151と性別入力部152とから入力した年令と性別に対応する標準的な最大酸素摂取量VO2maxを記憶したテーブル320と、テーブル320に記憶された最大酸素摂取量VO2maxと入力部150の運動強度入力部154から入力した運動強度とから設定METs係数M2を参照することができるテーブル310とが備えられている。
【0007】
そして、使用者が年令と性別および運動強度を入力すると、テーブル320及びテーブル310から歩行運動の目標値である設定METs係数M2が自動的に設定される。
また身長入力手段153によって入力された身長と、歩数カウンタ220と1分当りの歩数算出手段220aによって算出された1分間当りの歩数とから歩行速度算出手段230によって歩行速度が算出され、算出された歩行速度からMETs係数算出手段240によってMETs係数M1が算出される。
【0008】
そして、METs係数M1と設定METs係数M2との比を比較手段330によって算出し、その比に基づいて運動レベル決定手段340によって運動レベルLが決定される。
また、運動量算出手段250は、METs係数M1に基づき運動量Qを算出する。
運動量判断手段350は、運動量Qと運動レベルLとを比較し、運動レベルL以上の運動量Qmを累積手段360に累積し累積運動量表示手段440に表示する。
【0009】
また、運動を行なう人の運動負荷度を表示することで、体の状態を報知する技術も知られている。例えば、心拍数を計測して、運動負荷度を見やすく表示する技術である(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
特許文献2に示した従来技術は、運動する人の情報に基づき、最高心拍数を算出する。この最高心拍数と運動中の心拍数とから、運動中の人に加わる運動負荷度を算出し、バーグラフなどにより表示する技術である。
このようにすれば、運動する人は、適切な運動負荷度の範囲内で運動を行なっているか否かを把握することができて、便利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許3698608号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開平5−293089号公報(第2頁、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、効果的な運動を行なうためには、運動を行なう対象者の運動能力が、同性同世代の標準的な運動能力に対してどの程度乖離しているかを的確に把握することが重要である。
運動をする人にとって、標準的な運動能力に対する自身の運動能力の優劣を知れば、運動能力を向上させようと考えるきっかけにも成り得るし、また、運動能力が次第に向上して行くように、運動の強さ(運動負荷度)を調整するなどして、無理なく運動能力を向上させることができる。
【0013】
特許文献1に示した従来技術は、個人の実際の歩行による運動強度と統計的な運動強度との比較によって運動強度を決定し表示する技術である。
すなわち、算出された運動レベルLを、設定METs係数M2とMETs係数M1との比によって決定し、設定METs係数M2を、年齢、性別、運動強度によって統計的に算出された標準値としている。さらに、METs係数M1も歩行速度からMETs値に換算する過程で統計的に算出された標準値が使用されている。したがって、設定METs係数M2とMETs係数M1とから算出される運動レベルLもまた、統計的に算出された標準値を基準にしたものとなっている。
【0014】
このため、使用者は、統計的に算出された標準値を基準にした運動強度レベルに基づき歩行運動を行なうことになるので、使用者の固有の運動能力に適した運動を行なうための情報を得ることはできない。
【0015】
特許文献2に示した従来技術では、運動中の使用者に対し、適切な運動負荷度の範囲内で運動を行なっているか否かを把握させる技術であるが、使用者の固有の運動負荷度を判定して表示しているに過ぎず、特許文献1に示した従来技術と同様に、使用者の固有の運動能力に適した運動を行なうための情報を得ているとは言い難い。

【0016】
本発明の目的は上記課題を解決するものである。使用者個人の運動能力が標準的な運動能力に対してどの程度差があるかをMETs値を用いて数値化することによって、簡便に運動能力を判定することができる。
これにより、使用者固有の運動能力に適した運動を行なわせることができ、運動による運動能力の向上も把握することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の運動能力判定装置は下記記載の構成を採用する。
【0018】
生体の情報を検出して運動能力を判定する運動能力判定装置において、生体に現れる生体情報を検出して生体信号を出力する生体センサと、生体信号に基づき心拍信号を出力する心拍信号検出手段と、心拍信号に基づき安静時の心拍数である安静心拍数と歩行運動中の心拍数である運動心拍数とを出力する心拍数算出手段と、個人データを入力する個人データ入力手段と、個人データに基づき最高心拍数を出力する最高心拍数算出手段と、最高心拍数と安静心拍数と運動心拍数とに基づき心拍運動強度データを出力する心拍運動強度算出手段と、心拍運動強度データに基づき心拍METsデータを出力する心拍METs算出手段と、生体が動作したことによって生じる加速度を検出して加速度信号を出力する加速度検出手段と、加速度信号に基づき歩行ピッチを算出して歩行ピッチ信号を出力する歩行ピッチ算出手段と、歩幅データを算出する歩幅データ算出手段と、歩行ピッチ信号と歩幅データとから歩行速度を算出する歩行速度算出手段と、歩行速度に基づき歩行METsデータを算出する歩行METs算出手段と、歩行METsデータと心拍METsデータとから運動能力データを算出する運動能力算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
これにより、使用者個人の身体的生理的活動の最も直接的な指標である心拍数を基準にしたMETs値である心拍METsデータに基づいて運動能力が判定されるので、使用者固有の運動能力が標準からどの程度差があるかを判定することができる。
【0020】
また、加速度検出手段は、所定の加速度が印加されたときに加速度信号を出力する加速度センサで構成しても良い。
【0021】
これにより、歩行運動によって生じる加速度信号から、歩行ピッチ信号を容易に検出することができる。
【0022】
また、加速度検出手段は、GPS受信機と、このGPS受信機から得られた衛星情報から位置情報を抽出するデータ処理部と、位置情報に基づいて加速度信号を出力するデータ算出部とで構成しても良い。
【0023】
これにより、GPS受信機のデータから歩行運動における歩行速度や加速度信号を正確に算出することができる。
【0024】
また、歩幅データ算出手段は、データ処理部から得られた位置情報から距離情報を算出して歩行ピッチ信号で除算することにより歩幅データを算出する数値演算部で構成しても良い。
【0025】
これにより、歩幅データはGPS受信機のデータによってより実態に近い数値とすることができる。
【0026】
また、歩幅データ算出手段は、歩幅の数値を入力する数値設定部で構成しても良い。
【0027】
これにより歩行の際の歩幅データを簡便に入力することができる。
【0028】
また、運動能力算出手段が算出する運動能力データは、歩行METsデータと心拍METsデータとの差に基づくようにしてもよい。
【0029】
これにより、使用者個人の運動能力と統計的に算出された標準的な運動能力との差が、METs値により数値化されるので運動能力を簡便に判定することができる。
【0030】
また、心拍METs算出手段は、心拍運動強度データを心拍METsデータに、直線回帰法により換算してもよい。
【0031】
これにより、使用者個人の運動能力の重要な指標である心肺能力に基づく心拍METs値を正確に算出することができる。
【0032】
また、心拍数算出手段は、心拍信号に基づき心拍数を算出する心拍数計算部と、歩行運動停止後の遅延時間に基づき上乗せ心拍数を算出する上乗せ心拍数算出部と、心拍数計算部が算出する心拍数を上乗せ心拍数で補正して運動心拍数を算出する運動心拍数補正部とで構成しても良い。
【0033】
これにより、使用者が歩行運動を停止して心拍数を測定する際の心拍数の低下は容易に補正され、正確な運動心拍数が算出されるので、心拍METsデータの算出がより正確になり、運動能力データがより正確に算出される。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、日常的に行なう歩行運動と心拍数の計測によって得られる歩行METsと心拍METsとから、使用者固有の運動能力を簡便に算出することが可能となる。
そして使用者は、使用者個人の運動能力が標準的な運動能力に比べどの程度差があるかをMETs値を用いて認識し、無理のない効果的な運動を持続しながら運動能力の向上も簡便に認識することができるので、本発明は簡便かつ有用な運動能力判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による運動能力判定装置の第1の実施形態の機能ブロック図である。
【図2】本発明による運動能力判定装置の第1の実施形態の回路ブロック図である。
【図3】本発明による運動能力判定装置の第1の実施形態のフローチャートである。
【図4】本発明による運動能力判定装置の第1の実施形態の外観図である。
【図5】本発明による運動能力判定装置の第1の実施形態の使用状態を示す外観図である。
【図6】歩行METsを算出するためのグラフである。
【図7】心拍METsを算出するための定数表である。
【図8】本発明による運動能力判定装置の使用結果を示す表である。
【図9】本発明による運動能力判定装置の評価ランクを示す表である。
【図10】本発明による運動能力判定装置の第2の実施形態の機能ブロック図である。
【図11】本発明による運動能力判定装置の第2の実施形態のフローチャートである。
【図12】心拍数の時間変化を示すグラフである。
【図13】本発明による運動能力判定装置の第3の実施形態の機能ブロック図である。
【図14】本発明による運動能力判定装置の第3の実施形態の回路ブロック図である。
【図15】本発明による運動能力判定装置の第3の実施形態の外観図である。
【図16】本発明による運動能力判定装置の第4の実施形態の外観図である。
【図17】本発明による運動能力判定装置の第3の実施形態の使用状態を示す外観図である。
【図18】特許文献1に示した従来技術を説明する機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の運動能力判定装置は、まず、使用者は予め安静時の心拍数を測定または入力しておき、その後、所定の運動量の歩行運動を行ない歩行運動中の心拍数を計測する。安静時の心拍数と運動中の心拍数とから「心拍METsデータ」を算出する。一般に知られている「歩行速度とMETsの関係」から、歩行運動による「歩行METsデータ」を算出し、両方のMETs値の差から、使用者の運動能力をMETs値による数値で判定するものである。
【0037】
なお、ここで、「歩行METs」および「心拍METs」という用語の定義について予め詳述する。
前述したように、「METs」とは身体の活動度の指標である体重1kg当りのエネルギ代謝量が安静時のエネルギ代謝量の何倍に相当するかを示す数値である。
【0038】
従って「歩行METs」とは、ある速度で歩行する際に、身体が必要とするエネルギ代謝量が安静時のエネルギ代謝量の何倍かを、歩行速度をパラメータにして数値化したものであり、身体への外的要因を表すMETsとみなすことができる。
【0039】
一方「心拍METs」は、ある強度の運動を行なった際に身体が必要とするエネルギ代謝量が安静時のエネルギ代謝量の何倍であるかを、心拍数をパラメータにして数値化したものである。この考え方は、エネルギ代謝に不可欠な酸素は血流によって運搬されるのでエネルギ代謝量と心拍数とは比例関係にあるという、知られている理論に基づいている。
すなわち、「心拍METs」とは、外的要因によって増加した身体の内的活性度を表すMETsとみなすことができる。
【0040】
以後の説明では、歩行速度から算出したMETsを歩行METs、心拍数の増加から算出したMETsを心拍METsと表記する。
【実施例1】
【0041】
以下、図1から図7を用いて運動能力判定装置の第1の実施形態を詳述する。
図1は第1の実施形態である運動能力判定装置1の機能ブロック図であり、図2は回路ブロック図であり、図3はフローチャートであり、図4は外観図であり、図5は使用例を示す外観図である。図6は歩行METsデータHm算出グラフ、図7は定数表である。
【0042】
[第1の実施形態の構成説明:図1、図2、図6、図7]
図1、図2、図6、図7を用いて運動能力判定装置1の構成を説明する。
図1において、1は運動能力判定装置、21は生体センサ、2は心拍信号検出手段、3は心拍数算出手段、35は安静心拍数記憶手段、31は計時手段31、4は歩行ピッチ算出手段、41は加速度検出手段、5は歩行速度算出手段、51は歩幅データ算出手段、6は歩行METs算出手段、7は心拍運動強度算出手段、71は個人データ入力手段、72は最高心拍数算出手段、8は運動能力算出手段、81は心拍METs算出手段、9は報知手段である。
【0043】
生体センサ21は、運動能力判定装置1に設けた複数の心電位電極21aで構成され、使用者の左右の指などを心電位電極21a押し当てることによって生体信号Bsを検出し、心拍信号検出手段2に出力する。
心拍信号検出手段2は、生体信号Bsから心拍に同期した心拍信号Spを検出し、心拍数算出手段3に出力する。
【0044】
心拍数算出手段3は、心拍信号Spと心拍数算出手段3が内蔵するクロック信号(図示せず)によって、身体の2つの状態における心拍数を算出し、安静心拍数記憶手段35と心拍運動強度算出手段7に出力する。
より詳細に説明すると、心拍数算出手段3は、安静時に測定した心拍数を安静心拍数Ssrとして安静心拍数記憶手段35に出力し、歩行運動時に測定した心拍数を運動心拍数Ssdとして心拍運動強度算出手段7に出力する。
【0045】
安静心拍数記憶手段35は、安静心拍数Ssrを記憶するとともに、この安静心拍数Ssrを心拍運動強度算出手段7に出力する。
【0046】
個人データ入力手段71は、例えばキーボードや操作スイッチで構成され、個人データKdを入力する。この個人データKdは、使用者の年令Y、性別W、身体を安静にしたときの心拍数である安静心拍数Ssrとからなる。この例では、安静時の心拍数である安静心拍数Ssrを直接入力する例である。もちろん、生体センサ21により計測してもよい。それについては、後述する。
【0047】
最高心拍数算出手段72は、個人データ入力手段71によって入力された使用者の個人データKdの年令Yに基づき、一般的に知られている式1に基づき最高心拍数Shを算出する。
【0048】
[式1]
最高心拍数Sh=220−年令Y(単位:P/min)
【0049】
心拍運動強度算出手段7は、最高心拍数算出手段72から入力された最高心拍数Shと安静心拍数Ssrと運動心拍数Ssdとから、一般的に知られている式2に基づき心拍運動強度データSuを算出する。
なお、式2における安静心拍数Ssrは、前述したように身体を安静にして測定した安静心拍数で、運動心拍数Ssdは歩行運動中に測定した心拍数である。詳細については後述の動作の説明で詳述する。
【0050】
[式2]
心拍運動強度データSu=(運動心拍数Ssd−安静心拍数Ssr)/(最高心拍数Sh−安静心拍数Ssr)×100(単位:%)
【0051】
心拍METs算出手段81は、心拍運動強度算出手段7から入力された心拍運動強度データSuから式3に示した直線回帰式によって心拍METsデータSmを算出する。
【0052】
[式3]
心拍METsデータSm=心拍運動強度Su×α/10−β(単位:METs)
【0053】
式3におけるαおよびβは、図7に示す定数表が用いられる。この定数表は、「慶応義塾大学スポーツ医学研究センター紀要:1999年」の表3に示された統計的なデータから導き出されたものである。すなわち、種々の強度の運動において身体が必要とするエネルギ代謝量を、性別や年令別に求めた研究に基づくものである。
【0054】
心拍METs算出手段81は、この図7に示す定数表を内蔵する図示しないメモリなどの記憶手段に格納しておき、算出に用いるものであるが、その記憶手段は、心拍METs算出手段81の内部にあっても外部に設けていてもよい。
【0055】
加速度検出手段41は、例えば、セラミックピエゾ素子などを用いた1座標軸方向、または3座標軸方向の加速度を検出する加速度センサ41kで構成され、歩行などの運動によって生じる加速度信号Asを出力する。
【0056】
歩行ピッチ算出手段4は、加速度検出手段41から入力された加速度信号Asから、歩行ピッチ信号Hpを検出し、歩行速度算出手段5に出力する。
【0057】
歩幅データ算出手段51は、例えばキーボードや操作スイッチで構成される数値設定部51aを含んでいる。この数値設定部51aにより入力された歩幅データHdを歩行速度算出手段5に出力する。
【0058】
歩行速度算出手段5は、歩行ピッチ信号Hpのパルス数Hpnと、数値設定部51aによって入力された歩幅データHdと、後述する計時手段31が出力する判定時間データTとから、式4によって歩行速度Hsを算出する。
【0059】
[式4]
歩行速度Hs=歩幅データHd×パルス数Hpn/判定時間データT
【0060】
歩行METs算出手段6の説明に際しては、図6のグラフも用いて説明する。
図6は、歩行METsデータHm算出グラフで、横軸は歩行速度Hs(km/h)で、縦軸は歩行METsデータHm(METs)であり、歩行速度(km/h)から運動強度(METs)を算出する場合に使用するグラフである。このグラフの元になるデータは、厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」から得ているものである。
歩行METs算出手段6は、図6に示すグラフから歩行速度Hsに基づき歩行METsデータHmを算出し、運動能力算出手段8に出力する。
【0061】
歩行METs算出手段6も、図6に示すグラフを内蔵する図示しないメモリなどの記憶手段に格納しておき、算出に用いるものであるが、その記憶手段は、心拍METs算出手段81と同様に、歩行METs算出手段6の内部にあっても外部に設けていてもよい。
【0062】
計時手段31は、内蔵しているクロック信号(図示せず)に基づき、使用者が歩行運動を開始してからの時間を計測するとともに、歩行METs算出手段6が算出する歩行METsデータHmと歩行時間とから、使用者が予め定められた運動量Ex0を行なったか否かを検出し、使用者が予め定められた運動量Ex0を完了した時点で、歩行終了信号Mcを出力し、使用者が歩行運動を開始してから運動量Ex0を完了するまでの時間を判定時間データTとして出力する。
【0063】
なお、計時手段31は、カレンダー情報(図示せず)を格納しており、必要な日付情報を随時各要素に供給している。カレンダー情報は、メモリなどの記憶手段に格納しておくものであるが、その記憶手段は、計時手段31の内部にあっても外部に設けていてもよい。
【0064】
なお、ここで運動量Exについて詳述する。運動量Exとは、式5に示すように運動強度METsと運動時間の積であって、運動量を表す単位である。
【0065】
[式5]
運動量Ex=運動強度METs×時間(単位:エクササイズ)
【0066】
したがって、運動強度が1METsの運動を1時間行なった場合は、式6のようになる。
【0067】
[式6]
1Ex=1METs×1時間(単位:エクササイズ)
【0068】
運動能力判定装置1においては、定められた運動量Ex0として、4METs以上の歩行運動によって、運動量がEx0=0.34エクササイズ、になった時点で計時手段31は歩行終了信号Mcを出力するようになっている。
【0069】
運動能力算出手段8は、歩行METs算出手段6によって算出された歩行METsデータHmと、心拍METs算出手段81によって算出された心拍METsデータSmと、を入力して、式7に基づいて運動能力データUnを算出する。
【0070】
[式7]
運動能力データUn=歩行METsデータHm―心拍METsデータSm(単位:METs)
【0071】
報知手段9は、表示を行なう部分とアラームなどを発する部分とで構成されている。運動能力算出手段8から算出される運動能力データUnと計時手段31から出力される歩行終了信号Mcとを入力し、METs値を表示することができる。また、表示に合わせて報知音などを発することができる。
【0072】
[回路ブロックの説明:図2、図1、図4]
次に、図2を用いて運動能力判定装置1の回路構成を説明する。
図2において、10は全体の動作を制御するマイクロプロセッサ、11は操作スイッチ、12は情報を記憶する記憶部、13は装置に電力を供給するための知られている電源、91はMETs値などを表示する表示器、92はアラーム音などを発する報音器である。
【0073】
操作スイッチ11は、図1に示す個人データ入力手段71と歩幅データ算出手段51の数値設定部51aとを概念化したものである。キーボードや複数のスイッチなどで構成される。また、運動能力判定装置1の起動スイッチを兼ねていてもかまわない。
【0074】
マイクロプロセッサ10は、運動能力判定装置1の全体の動作を制御するためのものであって、図1に示す各構成要素の動作を制御するものである。図1に示す各構成要素のうち、生体センサ21を構成する心電位電極21a、加速度検出手段41を構成する加速度センサ41k、歩幅データ算出手段51を構成する数値設定部51a、個人データ入力手段71、報知手段9を除いた要素をソフトウエアモジュールの形態でマイクロプロセッサ10に有していてもよい。
【0075】
記憶部12は、マイクロプロセッサ10が演算処理を行なうときに数値やデータを格納する記憶手段である。図6に示すグラフ、図7に示す定数表、計時手段31のカレンダー情報なども格納しておくことができる。また、個人データKdや歩幅データHd、図1に示す各要素が情報を算出するときに一時的に数値なども格納しておくことができる。
記憶部12は、電気的に書込および消去が可能な、例えばEEPROMのような不揮発性記憶装置を用いることができる。
【0076】
報知手段9は、表示器91と報音器92とからなる。表示器91は、例えば液晶表示器などを用いることができ、METs値などの情報のほか、入力された個人データ、装置の情報などを文字やアイコンを用いて表示することができる。また、報音器92は、例えば圧電式のブザーなどを用いることができる。
【0077】
電源13は、運動能力判定装置1を駆動するための知られている電源手段であるが、乾電池や蓄電池などでもよい。この電源13は、本発明の主要部分ではないので、詳細な説明は省略する。
【0078】
[外観図の説明:図1、図4、図5]
次に、図1と図4および図5とを用いて運動能力判定装置1の外観を説明する。
図4において、運動能力判定装置1は手のひらに乗る程度の大きさで、前面に表示器91と報音器92と操作スイッチ11と心電位電極21aを備えている。図5において、22は使用者の手である。
【0079】
表示器91は、測定結果を示す数値表示部91aと単位表示部91bとマーカーエリア91cと測定終了アイコン91dとバーグラフ表示部91agとを有している。
図4には、数値表示部91aに「+」、「−」、「188.8」と表示されているが、これらの記号や数字は測定結果に応じて表示されるものである。
単位表示部91bには、「MF」、「cm」、「P/min」、「METs」が表示できるようになっており、測定結果に応じて適する単位が表示される。
マーカーエリア91cには、「年令」、「性別」、「歩幅」、「心拍数」が表示できるようになっており、個人データ入力手段71により個人データKdを入力するときなどにマーカーとして表示することができる。
バーグラフ表示部91agは、図4に示す例では、メモリと三角マークが表示できるようになっており、運動能力データUnの相対的レベルをバーグラフで表示できるようになっている。
【0080】
報音器92は、音による報知を行うためのブザーなどによって構成されるものであるが、図4に示すようにスピーカーも含んでいてもよい。
したがって、計時手段31からの歩行終了信号Mcによって、報音器92からアラーム音やチャイム、音声などからなる報知音を発生する。そして、同時に、表示器91の測定終了アイコン91dを点滅させてもよい。
測定終了アイコン91dは、図4に示す例では、ハート型をしているがこれに限定はしない。測定終了を認識させる記号や文字、マークであればよい。
【0081】
操作スイッチ11は、電源スイッチ11aと選択スイッチ11bとアップスイッチ11cとダウンスイッチ11dと確定スイッチ11eとからなる5つのスイッチを有している。
【0082】
心電位電極21aは、生体表面から心電位信号すなわち生体信号Bsを検出するための左右1組の金属電極で、ステンレス材などが用いられる。
なお、図4に示すように、心電位電極21aは生体との接触を確実にするため、運動能力判定装置1の前面から側面にわたって設けられている。このようにすれば、図5に示すように使用者は左右の手22で装置を挟みこむように持つだけで、例えば親指と人指し指との両方が心電位電極21aに自然に触れることができると共に、多くの指が接することで生体と電極との間に隙間ができにくくなるから、生体信号Bsを安定して測定することができる。
【0083】
図5に示す例では、表示器91には、“−2.3 METs”と表示されており、これは、運動能力算出手段8から算出される運動能力データUnを示している。
なお、この“−2.3 Mets”の表示例は、使用者固有の運動能力が統計的に算出された標準値より2.3METs低いことを示している。バーグラフ表示部91agは、運動能力データUnを視覚的に把握する効果があり、バーグラフ上の三角マークは運動能力データUnの相対的レベルを表している。
【0084】
[第1の実施形態の動作説明:図3、図1〜図5、図8]
つぎに図3のフローチャートを用い、さらに図1〜図5および図8を併用して、運動能力判定装置1の動作を詳述する。
【0085】
まず、使用者が図4の操作スイッチ11の電源スイッチ11aを押すと、運動能力判定装置1は動作状態に移行する(ステップST1)。
【0086】
始めに表示器91の点灯確認を行う。図4に示すように表示器91の全ての表示エレメントを点灯させ、使用者に表示文字の欠落の有無を知らせる。
なお、表示器91にドットマトリクス形の液晶表示装置を用いる場合は、全てのドットを点灯させてもよい(ステップST2)。
【0087】
つぎに、図1の個人データ入力手段71により、使用者の年齢Yと性別Wと必要に応じ安静心拍数Ssrからなる個人データKdと、歩幅データHdを入力する。
すなわち、ステップST2の点灯確認の後、図4に示す表示器91のマーカーエリア91cの“年令”のマークが点滅し、使用者が既に“45”と入力してあれば数値表示部91aと単位表示部91bに、“45 Y”のように、年令と単位“Y”とが点灯するが、もし何も入力してなければ“30 Y”のように、デフォルト値が表示されるので、アップスイッチ11cとダウンスイッチ11dとを用いて所定の数値に合わせた後、決定スイッチ11eを押す(ステップST3)。
【0088】
すると、図4に示す表示器91のマーカーエリア91cの“性別”のマークが点滅するで、単位表示部91bに表示された”M“(男性)あるいは“F”(女性)の何れかをアップスイッチ11cまたはダウンスイッチ11dで点灯させ、確定スイッチ11eを押す。
歩幅データHdの入力も同様の手続きで入力することができる。なお、ステップST3で入力された歩幅データは、図1の歩行速度算出手段51における歩行速度算出に用いられる。
【0089】
個人データKdのいずれか、または歩幅データHdを変更する場合は、図4に示す操作スイッチ11の選択スイッチ11bをやや長めに押すと再入力モードになり、選択スイッチ11bを押す毎にマークーエリア91cの各マークが順に点滅するので、アップスイッチ11cとダウンスイッチ11dを用いて設定したい値に設定し、確定スイッチ11eを押せばよい。
【0090】
つぎに、図1の心拍数演算手段3および安静心拍数記憶手段により、安静心拍数を入力する過程を説明する。
図4に示す表示器91のマーカーエリア91cの“心拍数”のマーカーが点滅し、使用者に安静心拍数Ssrの測定を促す。使用者が既に安静心拍数を入力してあれば数値表示部91aおよび単位表示部91bに“68 P/min”のように入力されている数値が表示され、もし何も入力してなければ“60 P/min”のように、デフォルト値が表示される。
【0091】
ここで、安静心拍数を測定して入力する場合は、図5に示すように使用者は左右の指先をそれぞれ左右の心電位電極21aに静かに当てる。特に限定するものではないが、その時間は、例えば約15秒間である。
心拍の測定が終わるとマーカーエリア91cの“心拍数”のマーカーが点滅から連続点灯に変わり、安静心拍数Ssrの測定が終了したことを使用者に知らせる。使用者は、確定スイッチ11eを押して、安静心拍数Ssrの入力を完了させる(ステップST4)。
【0092】
なお、安静心拍数を数値設定で入力する場合は、図4に示す表示器91のマーカーエリア91cの“心拍数”のマーカーが点滅し、既に入力してある安静心拍数Ssrの値やデフォルト値が表示された状態で、アップスイッチ11cとダウンスイッチ11dとを用いて値を増減し、所定の値、例えば“65 P/min”に合わせた後、確定スイッチ11eを押せばよい。
【0093】
以上の過程によって、入力された年令Yと性別Wと歩幅データHdと安静心拍数Ssrとは、図2に示す記憶部12に記憶される。
【0094】
つぎに、使用者は運動能力判定装置1を腰のベルト付近に固定して歩行運動を始める(ステップST5)。
ところで、運動能力判定装置1には、衣服やベルトに固定するための図示しない固定具を備えるようにしてもよい。この固定具は、例えばクリップである。
【0095】
使用者が歩行運動を開始すると、図1に示す加速度センサ41kが歩行運動によって加速度信号Asを発生し、歩行ピッチ算出手段4は、歩行動作の一歩毎に発生するパルス状の歩行ピッチ信号Hpを検出し、歩行ピッチ信号Hpのパルス数Hpnを計数するとともに図2に示す記憶部12にパルス数Hpnを記憶する。
【0096】
そして、歩行運動の間、図1の計時手段31により、歩行時間が計測されるとともに、歩行METsデータHmが、Hm≧4METs、かつ、運動量Ex=0.34エクササイズ、になったか否かが監視される。
【0097】
歩行METsデータHmが、Hm≧4METs、かつ、運動量Ex=0.34エクササイズ、の条件が満たされると、歩行開始からの時間を判定時間データTとして図2に示す記憶部12に記憶するとともに、図1に示すように歩行終了信号Mcが報知手段9に入力される(ステップST6)。
【0098】
すると、図2に示す報知手段9の報音器92から報音されるとともに、図1の表示器91の測定終了アイコン91dが点滅し、使用者に所定の判定時間が経過したことを知らせる(ステップST7)。
【0099】
すると、図1の表示器91のマーカーエリア91cの“心拍数”のマークが点滅し、使用者に直ちに運動心拍数Ssdを測定するように要求する。使用者は歩行運動を継続しながら図1の心拍数算出手段3により、左右の手の指を図5に示すように心電位電極21aに約15秒間当て、運動心拍数Ssdを測定する。
【0100】
運動心拍数Ssdが測定されると、運動心拍数Ssdは図2に示す記憶部12に記憶され、測定終了アイコン91dが点滅から連続点灯に変わるとともに報知音が発せられて測定終了を知らせる(ステップST8)。
【0101】
つぎに、図1の歩行速度演算手段5により、図2に示す記憶部12に記憶された歩行ピッチ信号のパルス数Hpnと歩幅データHdと判定時間データTとから歩行速度Hsを算出する(ステップST9)。
【0102】
つぎに、図1の歩行METs算出手段6により、図2の記憶部12に記憶されている図6に示すグラフに基づき、歩行速度Hsに対応する歩行METsデータHmが算出される(ステップST10)。
【0103】
つぎに、図1の心拍運動強度算出手段7と心拍METs算出手段81により、心拍数から心拍METsを算出する過程を説明する。
図2の記憶部12に記憶されている安静心拍数Ssrと運動心拍数Ssdと最高心拍数Shとから、心拍運動強度データSuが算出され、さらに心拍運動強度データSuから心拍METsデータSmが算出される(ステップST11)。
【0104】
つぎに、図1の運動能力算出手段8により、歩行METsデータHmと心拍METsデータSmとから、運動能力データUnが算出される(ステップST12)。
【0105】
つぎに、算出された運動能力データUnは、図2の表示器91に表示されるとともに、計時手段31に内蔵しているカレンダー(図示せず)によって、運動能力データUnが算出された日付が読み出され、運動能力データUnと日付が図2に示す記憶装置12に記憶される(ステップST13)。
【0106】
以上、運動能力判定装置1は、使用者が歩行などの運動を行う場合に統計的に算出された標準値に基づいて運動目標値が設定され、使用者にとって適切な目標とは言い難いという課題を克服する。
【0107】
参考までに図8を用いて、運動能力判定装置1を用いて運動経験のある3人と運動経験が無い4人の計7人について、時速7kmの歩行を5分間行ない、運動能力データUnを算出した結果を示す。運動経験の有無によって運動能力データUnの差が、METs値で明確に示されていることが判る。
【0108】
また、図9を用いて運動能力データUnと運動能力の評価ランクとを一覧表した一例を示す。図9に示すように、±0.5METs以内は、運動能力としては標準レベルであり、±1.0METsを境にやや優れている(やや劣っている)となり、±2.5METs以上は優れている(劣っている)、と表すことができる。
【0109】
[発明の効果詳細説明]
以上のように、運動能力判定装置1によれば、日常的に行なう歩行と心拍数の計測によって得られる歩行METsと心拍METsとから、使用者固有の運動能力を簡便に算出することが可能となる。
すなわち、図8に示すように使用者個人の運動能力が標準的な運動能力に比べてどの程度差があるか、METs値を用いて数値化することができるので、使用者は無理のない効果的な運動を持続しながら運動能力の向上も簡便に認識することが可能となる。
【実施例2】
【0110】
つぎに、図10と図11および図12とを用いて、運動能力判定装置の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態である運動能力判定装置100は、運動心拍数Ssdの測定を、歩行運動停止後に所定の時間内に行い、運動心拍数Ssdの測定を容易かつ簡便に行なうものである。すなわち、歩行運動の停止後、時間とともに心拍数は低下するが、歩行運動の停止からの遅延時間Taによって心拍数を補正し、正確な運動心拍数Ssdを得るものである。
なお、説明にあっては、この所定の時間を30秒とする例で説明する。
【0111】
第2の実施形態である運動能力判定装置100は、第1の実施形態に対して心拍数算出手段3の構成と入出力とが異なるものである。
図10は、運動能力判定装置100の構成を示す機能ブロック図であり、第2の実施形態の特徴を示す部分を表した機能ブロック図である。図11は、運動能力判定装置100
の動作を示すフローチャートである。図12は、上乗せ心拍数Ssa算出グラフであり、歩行運動停止後の時間Taによって心拍数Ssが時間とともにどのように変化するかを示すグラフである。
【0112】
なお、第2の実施形態における運動能力判定装置100は、前述の第1の実施形態における運動能力判定装置1と基本的な構成は同じであるので、各図において同一要素には同一番号を付して重複する説明は省略し、第2の実施形態の構成と動作のみ説明する。また以下の説明において、第1の実施形態についての図1〜図5および、図6〜図9も参照されたい。
【0113】
[第2の実施形態の構成説明:図10、図12]
はじめに図10を用いては運動能力判定装置100の構成を説明する。
図10に示すように心拍数算出手段3は心拍数計算部30と運動心拍数補正部32と上乗せ心拍数計算部33とから構成される。以下に各要素の機能を詳述する。
【0114】
心拍数計算部30は、心拍信号Spと心拍数計算部30が内蔵するクロック信号(図示せず)とから心拍数Ssを算出する。
計時手段31は、歩行終了信号Mcを出力すると同時に遅延時間データTaの計測を開始し、刻々と変わる遅延時間データTaを上乗せ心拍数計算部33に出力する。
【0115】
上乗せ心拍数計算部33の説明に先だって、図12のグラフについて説明する。
図12は、上乗せ心拍数Ssa算出グラフで、横軸は運動停止後の秒単位の時間(sec)で、縦軸は上乗せする心拍数(回/分)であり、運動中の心拍数を運動後の心拍数から推定する場合に使用するグラフである。なお、このグラフは、使用者を固定して歩行運動と歩行運動後の心拍数の変化とを複数回測定し、その結果に基づき作成したものであり、図2に示す記憶部12に記憶されている。
【0116】
上乗せ心拍数計算部33は、計時手段31から入力される遅延時間データTaと歩行ピッチ信号Hpとから、上乗せ心拍数Ssaを計算し、運動心拍数補正部32に出力する。
より詳細には、上乗せ心拍数計算部33は、歩行ピッチ信号Hpが発生していなければ、図12のグラフに基づき計時手段31から入力された時点の遅延時間データTaに対応する上乗せ心拍数Ssaを参照し、歩行ピッチ信号Hpが発生していれば、上乗せ心拍数Ssaを参照しない。
【0117】
運動心拍数補正部32は、心拍数計算部30によって算出された心拍数Ssに上乗せ心拍数Ssaを加算して運動心拍数Ssdとして出力する。もし、上乗せ心拍数計算部33から上乗せ心拍数Ssaが入力されなければ、運動心拍数補正部32は、心拍数計算部30によって算出された心拍数Ssをそのまま出力する。
なお、第2の実施形態の他の要素は第1の実施形態と同じなので、重複する説明は省略する。
【0118】
[第2の実施形態の動作説明:図11、図2、図10]
つぎに、図11を用いて運動能力判定装置100の動作を説明する。説明にあっては、第1の実施形態についての図2および図10も参照されたい。
【0119】
ステップST1からステップST7までは、第1の実施形態と同様であるので省略する。
【0120】
ステップST8において、心拍数Ssを測定したのち、歩行運動を停止しているか歩行運動中であるかが、歩行ピッチ信号Hpの有無で判別される(ステップST8a)。
【0121】
使用者が歩行運動を停止していると判断された場合は、図10の運動心拍補正部32によって、図2の記録部12に記憶された図12に示す表から、その時点の遅延時間データTaに対応する上乗せ心拍数Ssaを参照し、図10の上乗せ心拍数計算部33により、心拍数Ssに加算して運動心拍数Ssdとして算出する。もし使用者が歩行運動を停止していないと判断された場合はステップST9に進む(ステップST8b)。
ステップST9以降は、第1の実施形態と同様であるので省略する。
【0122】
[発明の効果詳細説明]
以上、説明した第2の実施形態の効果は、次のようなものである。
すなわち、歩行運動中に運動心拍数Ssdを測定するには、指を約15秒間心電位電極21aに静かに当てる必要があるが、歩行運動によっては指と電極の接触が不安定になり、雑音等が生じて心電位信号の検出が困難になる場合が多い。よって第2の実施形態のように歩行運動を停止して測定することは、より安定な測定を可能とするのである。
【0123】
また、歩行運動の停止によって心拍数Ssが低下するが、この低下する量は使用者固有の特性を一旦把握しておけば、遅延時間データTaによって算出することができるので、より正確な運動心拍数Ssdの測定が可能となり、結果として運動能力Unの安定かつ正確な測定が可能となるのである。
【実施例3】
【0124】
[第3の実施形態の全図面説明:図13〜図15、図1〜図5、図6〜図9]
次に、図13〜図15を用いて、運動能力判定装置の第3の実施形態について説明する。
第3の実施形態である運動能力判定装置101は、第1の実施形態に対して加速度検出手段41の構成および歩幅データ算出手段51の構成が異なるものである。より詳細には第3の実施形態では、加速度検出手段41および歩幅データ算出手段51において、GPS受信機が用いられることが第1の実施形態と異なっている。
【0125】
図13は、運動能力判定装置101の機能ブロック図であり、図14は回路ブロック図であり、図15は外観図である。
なお、第3の実施形態である運動能力判定装置101は、第1の実施形態における運動能力判定装置1と基本的な構成は同じであるので、各図において同一要素には同一番号を付して重複する説明は省略し、第3の実施形態の構成と動作のみ説明する。また、以下の説明にあっては、第1の実施形態についての図1〜図5および、図6〜図9も参照されたい。
【0126】
[第3の実施形態の外観図の説明:図15]
まず、図15を用いて運動能力判定装置101の外観図を説明する。
図15に示すように、運動能力判定装置101は、背面にGPS受信機41aを備えており、GPS受信機41aとの機械的かつ電気的な接続を行う構造になっている。その構造は、例えば、ロック機構を備えたコネクタなどである。また、GPS受信機41aの背面には衣服やベルトに固定するための図示しないクリップを備えるようにしてもよい。その他の構成要素は第1の実施形態と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0127】
[第3の実施形態の構成説明:図13]
つぎに図13を用いて運動能力判定装置101の構成を説明する。既に述べたように、運動能力判定装置101は、第1の実施形態と加速度検出手段41および歩幅データ算出手段51との構成が異なるので、加速度検出手段41の構成をまず説明する。
図13に示すように、加速度検出手段41は、GPS受信機41aとデータ処理部41
bとデータ算出部41cとから構成される。以下に各要素の機能を詳述する。
【0128】
GPS受信機41aは、複数個のGPS衛星から発せられる電波を受信することができる、知られている受信機であり、複数個のGPS衛星からの衛星情報Gsを出力する。
【0129】
データ処理部41bは、GPS受信機41aから入力される複数個のGPS衛星からの衛星情報Gsから、GPS受信機41aの位置情報Rjを抽出する。
【0130】
データ算出部41cは、データ処理部41bが抽出するGPS受信機41aの位置情報Rjに基づいて、GPS受信機41aの移動により発生する加速度信号Asを出力する。
【0131】
つぎに図13を用いて、第3の実施形態における歩幅データ算出手段51の構成を説明する。
図13に示すように、歩幅データ算出手段51は、距離情報算出部51cと数値演算部51bとによって構成される。
距離情報算出部51cは、加速度検出手段41のデータ処理部41bの位置情報Rjに基づき距離情報Kjを算出し数値演算部51bに入力する。
数値演算部51bは、距離情報算出部51cから入力される距離情報Kjを、歩行ピッチ算出手段4から入力される歩行ピッチ信号Hpで除算して歩幅データHdを算出する。
【0132】
以上のように、GPS受信機41aの採用によって加速度信号Asと歩幅データHdとを得ることができる。なお、歩幅データ算出手段51の距離情報算出部51cによって算出された距離情報Kjを歩行速度算出手段5に直接入力し、計時手段31から歩行速度算出手段5に入力される判定時間データTと距離情報Kjとから歩行速度Hsを算出するようにしてもよい。
【0133】
[発明の効果詳細説明]
以上、説明した第3の実施形態の効果は、次のようなものである。
すなわち、GPS受信機によって歩行運動は逐一詳細にデータ化され、位置情報Rjや距離情報Kjなどから、加速度信号Asおよび歩幅データHdおよび歩行速度Hsが自動的に算出される。一方、歩幅データHdにおいては、しばしば身長からの推定値や実際に歩幅を測定して得た数値などが用いられるが、これらの方法は一般的に誤差が大きくなりがちである。しかし、第3の実施形態によれば、歩幅データHdおよび歩行速度Hsの算出は、実際の値通りの正確なものとなり、歩行METsデータHmの測定精度を向上させることができる。
【実施例4】
【0134】
[第4の実施形態の全図面説明:図16、図17、図1]
次に、図16、図17を用いて、運動能力判定装置の第4の実施形態について説明する。
第4の実施形態である運動能力判定装置102は、第1の実施形態に対して心拍信号Spの検出方法が異なるものである。
【0135】
図16は、運動能力判定装置102の外観図であり、図17は、運動能力判定装置102による実際の脈波検出方法を示す外観図である。なお、説明に際しては図1に示す第1の実施形態の機能ブロック図も参照されたい。
【0136】
図16に示す光電型センサ21bは、心拍に準じる脈拍を指先の毛細血流の変化から検出する光電型センサである。図14に示すように片手の任意の指の先端を当てることによって、脈拍すなわち生体信号Bsの測定が可能である。
【0137】
この光電型センサ21bは、例えば、赤外線波長の光を照射する照射部、反射光や透過光を受光する受光部、そして信号を検出する検出部などで構成する、知られているセンサを用いることができる。
赤外線光が使用者の指先に照射されると、血液中のヘモグロビンの量に応じて反射光や透過光が変化することで脈拍を検出するものである。
【0138】
[発明の効果詳細説明]
第3の実施形態である運動能力判定装置102の効果は、心拍の検出に両方の指を必要とせず、より簡便に心拍と同等の脈拍の検出ができることである。心電位の検出においては、心臓を挟む2点間の電位計測が必要なので、2つ以上の電極を身体に安定に当てなくてはならないが、運動能力判定装置102における脈拍の検出は、光電型センサ21bを用いることで片手の任意の指で行える。このため、身体の拘束の程度や、測定の簡便性という点で有利である。
【0139】
[全体説明まとめ]
以上述べたように、本発明の運動能力判定装置によれば、使用者個人の運動能力が標準からどの程度差があるかを、METs値を用いて数値化されるので、使用者固有の運動能力に適した運動を無理なく効果的に持続することが可能となり、かつまた運動による運動能力の向上の把握においても、有用な運動能力判定装置を提供することができる。
なお、以上説明した実施形態は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を満たすものであれば任意に変更することができることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は、心臓手術後のリハビリテーションにおける運動負荷決定などで運動処方に応用することができる。また生体の各バイタルサインについて本発明の考え方を利用し、生体の各組織の活性度の評価指標としても応用可能である。
【符号の説明】
【0141】
1、100、101、102 運動能力判定装置
2 心拍信号検出手段
21 生体センサ
21a 心電位電極
21b 光電型センサ
22 手
3 心拍数算出手段
30 心拍数計算部
31 計時手段
32 運動心拍数補正部
33 上乗せ心拍数計算部
35 安静心拍数記憶手段
4 歩行ピッチ算出手段
41 加速度検出手段
41a GPS受信機
41b データ処理部
41c データ算出部
41k 加速度センサ
5 歩行速度算出手段
51 歩幅データ算出手段
51a 数値設定部
51b 数値演算部
51c 距離情報算出部
6 歩行METs算出手段
7 心拍運動強度算出手段
71 個人データ入力手段
72 最高心拍数算出手段
8 運動能力算出手段
81 心拍METs算出手段
9 報知手段
91 表示器
91a 数値表示部
91ag バーグラフ表示部
91b 単位表示部
91c マーカーエリア
91d 測定終了アイコン
92 報音器
10 マイクロプロセッサ
11 操作スイッチ
11a 電源スイッチ
11b 選択スイッチ
11c アップスイッチ
11d ダウンスイッチ
11e 確定スイッチ
12 記憶部
13 電源
As 加速度信号
Bs 生体信号
Bs1 心電位信号
Bs2 光電脈波信号
Gs 衛星情報
Rj 位置情報
Kj 距離情報
Hp 歩行ピッチ信号
Hpn (歩行ピッチ信号の)パルス数
Hd 歩幅データ
Hs 歩行速度
L 歩行距離
Hm 歩行METsデータ
T 判定時間データ
Ta 遅延時間データ
Sp 心拍信号
Ss 心拍数
Ssr 安静心拍数
Ssd 運動心拍数
Ssa 上乗せ心拍数
Kd 個人データ
Sh 最高心拍数
Su 心拍運動強度データ
Sm 心拍METsデータ
Un 運動能力データ
Mc 歩行終了信号
METs 運動強度を表す単位
Ex 運動量を表す単位
Ex0 定められた運動量(0.34エクササイズ)
150 入力部
151 年令入力部
152 性別入力部
153 身長入力手段
154 運動強度入力部
200 CPU
220 歩数カウンタ
220a 歩数算出手段
230 歩行速度算出手段
240 METs係数算出手段
250 運動量算出手段
310 テーブル
320 テーブル
330 比較手段
340 運動レベル決定手段
350 運動量判断手段
360 累積手段
440 累積運動量表示手段
L 運動レベル
Q 運動量
Qm 運動量
M1 METs係数
M2 設定METs係数


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の情報を検出して運動能力を判定する運動能力判定装置において、
生体に現れる生体情報を検出して生体信号を出力する生体センサと、
前記生体信号に基づき心拍信号を出力する心拍信号検出手段と、
前記心拍信号に基づき安静時の心拍数である安静心拍数と歩行運動中の心拍数である運動心拍数とを出力する心拍数算出手段と、
個人データを入力する個人データ入力手段と、
前記個人データに基づき最高心拍数を出力する最高心拍数算出手段と、
前記最高心拍数と前記安静心拍数と前記運動心拍数とに基づき心拍運動強度データを出力する心拍運動強度算出手段と、
前記心拍運動強度データに基づき心拍METsデータを出力する心拍METs算出手段と、
生体が動作したことによって生じる加速度を検出して加速度信号を出力する加速度検出手段と、
前記加速度信号に基づき歩行ピッチを算出して歩行ピッチ信号を出力する歩行ピッチ算出手段と、
歩幅データを算出する歩幅データ算出手段と、
前記歩行ピッチ信号と前記歩幅データとから歩行速度を算出する歩行速度算出手段と、
前記歩行速度に基づき歩行METsデータを算出する歩行METs算出手段と、
前記歩行METsデータと前記心拍METsデータとから運動能力データを算出する運動能力算出手段と、
を備えたことを特徴とする運動能力判定装置。
【請求項2】
前記加速度検出手段は、所定の加速度が印加されたときに前記加速度信号を出力する加速度センサで構成することを特徴とする請求項1に記載の運動能力判定装置。
【請求項3】
前記加速度検出手段は、
GPS受信機と、
前記GPS受信機から得られた衛星情報から位置情報を抽出するデータ処理部と、
前記位置情報に基づいて前記加速度信号を出力するデータ算出部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の運動能力判定装置。
【請求項4】
前記歩幅データ算出手段は、前記データ処理部から得られた位置情報から距離情報を算出して前記歩行ピッチ信号で除算することにより歩幅データを算出する数値演算部を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の運動能力判定装置。
【請求項5】
前記歩幅データ算出手段は、歩幅の数値を入力する数値設定部を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の運動能力判定装置。
【請求項6】
前記運動能力データは、前記歩行METsデータと前記心拍METsデータとの差に基づくものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の運動能力判定装置。
【請求項7】
前記心拍METs算出手段は、前記心拍運動強度データを前記心拍METsデータに、直線回帰法により換算するものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の運動能力判定装置。
【請求項8】
前記心拍数算出手段は、
前記心拍信号に基づき前記心拍数を算出する心拍数計算部と、
歩行運動停止後の遅延時間に基づき上乗せ心拍数を算出する上乗せ心拍数算出部と、
前記心拍数を前記上乗せ心拍数で補正して前記運動心拍数を算出する運動心拍数補正部と、
を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の運動能力判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−200376(P2011−200376A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69698(P2010−69698)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(507351883)シチズン・システムズ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】