説明

運転支援装置

【課題】例えば交差点の赤信号に起因した車両の停止回数等を減少させ、車両の燃費効率を向上させることと、安全に交差点を通過することとの両立を実現可能とする。
【解決手段】運転支援装置(1)は、車両の車両情報を測定する測定手段(10)と、車両が次に通過する信号機の位置及び信号機の信号サイクルに関する信号サイクル情報を取得する取得手段(20)と、測定された車両情報及び取得された信号サイクル情報に基づいて、前記信号サイクルが示す青信号が開始される青信号開始時刻において前記車両が前記信号機の位置より所定距離だけ手前に位置する所定地点を通過可能な前記車両の目標速度を算出する算出手段(120)と、算出された目標速度の報知を含む車両の運転支援を行う運転支援手段(30)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転支援を行う運転支援装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の運転支援装置として、例えば特許文献1等では、運転者に推奨車速で走行するように促し、運転者が推奨車速で走行するようにアクセル操作することで、車両が信号機で停止せずに青信号で信号機を通過できる機会を多くして、信号機の赤信号による車両の停止回数を低減するための装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−296798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1等によれば、車両が交差点に進入するすれすれで赤色から青色に変わる場合があり、運転者は赤信号から青信号への変化を視認することなく交差点を通過する。このため、運転者は心理的に不安になりブレーキを踏むなどの制動のための運転操作を行う可能性が高くなり、車両の停止回数を効果的に低減することが困難であるという技術的な問題点が生じる。
【0005】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、例えば交差点の赤信号に起因した車両の停止回数等を減少させ、車両の燃費効率を向上させることと、安全に交差点を通過することとの両立を実現可能な運転支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る運転支援装置は、車両の車両情報(例えば現在位置、速度、加速度)を測定する測定手段と、前記車両が次に通過する信号機の位置及び前記信号機の信号サイクルに関する信号サイクル情報を取得する取得手段と、前記測定された車両情報及び前記取得された信号サイクル情報に基づいて、前記信号サイクルが示す青信号が開始される青信号開始時刻において前記車両が前記信号機の位置より所定距離だけ手前に位置する所定地点を通過可能な前記車両の目標速度を算出する算出手段と、前記算出された目標速度の報知を含む前記車両の運転支援を行う運転支援手段とを備える。
【0007】
本発明の運転支援装置によれば、測定手段によって、車両の車両情報(現在位置、速度、加速度)が測定される。ここに、本発明の車両情報とは、例えば車両の現在位置、現在の車両の速度、現在、車両に作用する加速度等の車両の走行状態を定量的又は定性的に表す物理情報を意味する。
【0008】
取得手段によって、車両が次に通過する信号機の位置及び信号機の信号サイクルに関する信号サイクル情報が取得される。ここに、本発明に係る信号サイクル情報とは、典型的には、信号機の現在の灯色や、現在の灯色が変化するまでの時間(例えば、現在の灯色が青色である場合には、灯色が赤色或いは黄色になるまでの時間)などの信号機の灯色の時間的な変化に関する情報を意味する。
【0009】
例えばメモリやプロセッサ等によって構成可能な算出手段によって、測定された車両情報及び取得された信号サイクル情報に基づいて、信号サイクルが示す青信号が開始される青信号開始時刻、言い換えると、赤信号から青信号に切替る時刻において車両が信号機の位置より所定距離だけ手前に位置する所定地点を通過可能な車両の目標速度が算出される。ここに、本発明に係る所定距離とは、典型的には、車両の運転者が交差点の信号機の灯色を目視可能な距離を意味してよい。或いは、本発明に係る所定距離とは、運転者が信号機の灯色を目視可能な距離に加えて又は代えて車両の運転者の運転技能や交差点の道路形状に基づいて、車両の運転者が交差点に進入する際に車両を減速することが可能な距離を意味してよい。
【0010】
運転支援手段によって、算出された目標速度の報知を含む車両の運転支援が行われる。ここに、本発明に係る「報知」とは、目標速度を運転者へ知覚させることを意味する。本発明に係る「報知」とは、典型的には、目標速度のディスプレイを介した運転者への視覚的な表示に加えて又は代えて目標速度の音声による運転者への聴覚的な通知を意味してよい。或いは、典型的には、運転者が踏み込むアクセルペダルを押し戻す動作、所謂、HMI(Human Machine Interface)を介した動作等の触覚的な通知を意味してよい。
【0011】
これにより、車両の運転者は、報知された目標速度に実際の走行速度を一致させる運転を行うことにより、青信号開始時刻に所定地点を通過可能である。これにより、車両の運転者は、所定地点において、交差点の信号機の灯色を目視可能であるので、心理的に安心して交差点を通過することが可能である。或いは、これにより、車両の運転者は、交差点に進入する際に車両を減速する運転操作を行うことが可能であるので、心理的に安心して交差点に進入することが可能である。
【0012】
この結果、交差点の信号機の赤信号に起因した車両のブレーキング回数、車両の一旦停止回数、及び車両の発進回数(即ち、加速回数)を減少させ、車両の走行エネルギー損失を減少させ、車両の燃費効率を向上させることと、安全に交差点を通過することとの両立を実現可能である。
【0013】
本発明の運転支援装置の一の態様は、前記所定地点は、前記車両の運転者が前記信号機の信号色を目視不可能な状態から目視可能である状態に移り変わる地点である。
【0014】
この態様によれば、車両の運転者は、青信号が開始される青信号開始時刻、即ち、赤信号から青信号に切替る時刻に所定地点にて交差点の信号機の灯色を目視可能であるので、心理的に安心して交差点を通過することが可能である。
【0015】
本発明の運転支援装置の他の態様は、前記車両が前記所定地点を通過するまでの期間に、前記目標速度を前記車両の運転者に表示する表示手段を備える。
【0016】
この態様によれば、所定地点を通過するまで、車両の運転者へ目標速度を表示することができる。これにより、運転者は現在の車両速度を目標速度にさせるまでのブレーキング運転操作を確実に行うことができ、より安全に交差点に進入することが可能である。
【0017】
本発明の運転支援装置の他の態様は、前記運転支援手段は、前記車両が前記所定地点を通過後、前記車両が前記所定地点を通過前と比べて、制動支援の度合いを高める。
【0018】
この態様によれば、交差点より所定距離だけ手前の所定地点を通過した後において運転支援における制動支援の度合いを高める。これにより、交差点内での交通状況の変化により適切に対応することができるので、車両は、より安全に交差点を通過することが可能である。より典型的には、車両の運転者は、交差点の進入する際に、交差点内で、車両の走行する車線と直交する車線を走行する他の車両群が依然として走行し途切れない交通状況において、上述の制動支援の度合いを高めた運転支援によって安全に交差点を通過することが可能である。
【0019】
本発明の運転支援装置の他の態様は、前記所定地点は、前記車両が過去に走行した他の道路の信号機の赤信号に応じて停止した際における前記車両の運転者が制動動作を開始した時点での車両情報、及び、前記他の道路の道路形状に基づいて決定される。
【0020】
この態様によれば、車両の運転者における、道路の道路形状に応じた過去の制動動作を考慮して所定地点が決定される。これにより、運転者は、運転者の運転技能等の運転者に内在する内的な要因と、車両が走行した道路の道路形状等の外的な要因との両方を考慮して決定された所定地点を通過して、より安全に交差点に進入することが可能である。
【0021】
本発明の運転支援装置の他の態様は、前記運転支援手段は、現在の前記車両の現在速度と前記目標速度との差が大きくなるに従って前記目標速度の表示を開始する表示開始時間を早め、前記現在速度と前記目標速度との差が小さくなるに従って前記目標速度の表示を開始する表示開始時間を遅くする。
【0022】
この態様によれば、現在の車両速度と目標速度とがかけ離れている場合、車両の運転者へより迅速に目標速度を表示することができ、運転者は現在の車両速度を目標速度にさせるまでのブレーキング運転操作を確実に行うことができ、より安全に交差点に進入することが可能である。加えて、これにより、現在の車両速度と目標速度とが既に等しい又は既に近づいている場合、車両の運転者への報知等の運転支援を抑制的に行うことができ、運転者は現在の運転操作を落ち着いて行うことができ、より安全に交差点に進入することが可能である。
【0023】
本発明の運転支援装置の他の態様は、前記運転支援手段は、前記所定距離の大きさに応じて、前記目標速度を表示する表示状態を変化させる。
【0024】
ここに、本発明に係る表示状態とは、典型的には、目標速度を表示する表示開始タイミング、目標速度を表示している表示時間又は目標速度を表示する頻度等の時間を考慮して目標速度を表示する際の状態を意味する。
【0025】
この態様によれば、典型的には、所定距離が短くなるに従って、目標速度を表示する表示開始タイミングを早くさせ、且つ、所定距離が長くなるに従って、目標速度を表示する表示開始タイミングを遅くさせる。これにより、交差点の信号機に近づくにつれて車両の運転者へより迅速に目標速度を表示することができ、運転者は現在の車両速度を目標速度にさせるまでのブレーキング運転操作を確実に行うことができ、より安全に交差点に進入することが可能である。
【0026】
本発明の運転支援装置の他の態様は、前記運転支援手段は、前記所定距離の大きさに応じて、前記目標速度を変化させる。
【0027】
この態様によれば、典型的には、所定距離が長くなるに従って、目標速度を高くし、且つ、所定距離が短くなるに従って、目標速度を低くしてよい。これにより、交差点の信号機に近づくにつれて目標速度が低くなるので、より安全に交差点に進入することが可能である。
【0028】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る運転支援装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係る運転支援装置が搭載された自車両が、交差点に進入する際の様子を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係る運転支援装置における運転支援処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】本実施形態に係る運転支援装置1における自車両の速度と、自車両及び交差点の位置と、信号サイクルとの相関関係を概念的に示したグラフである。
【図5】本実施形態に係る交差点A及び交差点Bにおいてブレーキング運転操作を開始した時点での信号機までの距離と、ブレーキング運転操作を開始した時点での車速との関係を示したグラフ(図5(a)及び図5(b))である。
【図6】本実施形態に係る運転支援装置1における、目標速度と所定距離との関係を示したグラフ(図6(a))、現在の車両速度と目標速度との差と、表示開始タイミングとの関係を示したグラフ(図6(b))、目標速度を表示する表示状態と所定距離との関係を示したグラフ(図6(c))である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0031】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る運転支援装置について、図1から図4を参照して説明する。
【0032】
先ず、本実施形態に係る運転支援装置の構成について、図1及び図2を参照して説明する。ここに、図1は、本実施形態に係る運転支援装置の構成を示すブロック図である。図2は、本実施形態に係る運転支援装置が搭載された自車両が、交差点に進入する際の様子を示す模式図である。
【0033】
(全体の概要)
図1及び図2において、本実施形態に係る運転支援装置1(図1を参照)は、自車両C1(図2を参照)に搭載され、自車両C1が交差点K1を通過して走行する際に燃費向上及び安全運転を実現するための運転支援を実施する装置である。燃費向上及び安全運転を実現するための運転支援としては、例えば、自車両C1が次に通過する交差点K1の信号機G1が赤信号となるのに応じて、自車両C1の運転者(ドライバ)に対して減速すべき旨や目標速度を知らせる報知や、自車両C1のエンジンの駆動力やアクセル開度を低減する制御などが実施される。
【0034】
(運転支援装置の基本構成)
図1において、本実施形態に係る運転支援装置1は、測定部10、取得部(例えば路車間通信機)20、運転支援部30、報知装置40、及びECU100を備えて構成されている。
【0035】
測定部10は、自車両C1の現在位置、速度、及び加速度等の自車両C1の走行状態に関する車両情報を測定する。測定部10は、典型的には、例えば、自律測位装置等であり、加速度センサ、角速度センサ及び距離センサを備える。加速度センサは、例えば圧電素子からなり、車両の加速度を検出し、加速度データを出力する。角速度センサは、例えば振動ジャイロからなり、車両の方向変換時における車両の角速度を検出し、角速度データ及び相対方位データを出力する。距離センサは、車両の車輪の回転に伴って発生されているパルス信号からなる車速パルスを計測する。加えて、測定部10は、典型的には、自車両C1のアクセル開度を測定するアクセル開度センサを備えてよい。
【0036】
取得部20は、典型的には、路車間通信機であり、自車両C1が走行する道路に設置された路側インフラと通信を行うための通信機であり、路車間通信用のアンテナ21を介して路側インフラと通信を行う。より具体的には、取得部20は、路側インフラの一部を構成する路側インフラ装置I1、I2(図2を参照)と通信を行う。取得部20は、交差点K1に設置された信号機G1の信号サイクル情報や、交差点K1付近に存在する他車両の存在状況を示す存在状況情報を、路側インフラ装置I1、I2から受信する。尚、信号サイクル情報には、信号機の現在の灯色や、現在の灯色が変化するまでの時間(例えば、現在の灯色が青色である場合には、灯色が赤色或いは黄色になるまでの時間)などが含まれる。
【0037】
取得部20は、より典型的には、例えばGPS信号や地図情報や道路交通情報に関する各種の情報を受信すると共に、例えば自車両C1の位置情報等の各種の車両情報を情報管理サーバへ送信してよい。ここに、本実施形態に係る「車両情報」とは、より典型的には、運転者の運転操作タイミング、運転操作量、運転操作の方向、車両の速度若しくは加減速度に関する定量的及び定性的なデータ群を意味してよい。
【0038】
より詳細には、取得部20は、GPS信号を受信するために、複数のGPS衛星から、測位用データを含む下り回線データを搬送する電波を受信する。測位用データは、緯度及び経度情報等から車両の絶対的な位置を検出するために用いられる。更に詳細には、取得部20は、例えば、FMチューナやビーコンレシーバ、携帯電話や専用の通信カードなどにより構成されてよく、通信用インタフェースを介して、VICS(Vehicle Information Communication System)センタ等の交通環境情報サーバから配信される渋滞や交通情報などの、所謂、道路交通情報や、その他の情報を、例えば電波等の通信網を介して受信してよい。更に詳細には、取得部20は、地図情報の全部又は地図情報のうち更新された一部に関する情報を受信してよい。
【0039】
運転支援部30は、本発明に係る「運転支援手段」の一例であり、取得部20によって受信された信号サイクル情報に基づいて、燃費向上及び安全運転を実現するための運転支援を実施する。運転支援部30は、典型的には、設定された自車両C1の目標となる走行方向、走行速度の目標値、又は走行加速度の目標値を、実現するように自車両C1に対して運転支援を実際に行う。ここに、本実施形態に係る運転支援とは、自車両C1の加速、減速、発進、停止又は旋回などの運転者の運転操作を補助的に支援することを意味する。典型的には、本実施形態に係る運転支援とは、車両の走行方向、走行速度、又は走行加速度を安全側に所定量だけ変化させることを意味してよい。運転支援部30は、より典型的には、電子制御式アンチロックブレーキシステム(ABS:Antilock brake system)を実施可能なように構成されてよい。
【0040】
報知装置40は、本発明に係る「運転支援手段」の他の例であり、具体的には、ディスプレイやスピーカ等であり、自車両C1の運転者に対して各種情報を報知するための報知装置である。報知装置40は、後述するECU100による制御下で、例えば、自車両C1の運転者に対して、目標速度を報知したり、減速すべき旨や信号機が赤信号となる旨などを報知する。特に、本実施形態の「報知」とは、典型的には、目標速度のディスプレイを介した運転者への視覚的な表示に加えて又は代えて目標速度の音声による運転者への聴覚的な通知を意味してよい。より典型的には、目標速度のディスプレイを介した表示としては、目標速度のディジタル表示や速度メータにおいて目標速度を示す目盛りの点滅等によって目標速度を表示してよい。或いは、本実施形態の「報知」とは、典型的には、運転者が踏み込むアクセルペダルを押し戻す動作、所謂、HMI(Human Machine Interface)を介した動作等の触覚的な通知を意味してよい。
【0041】
報知装置40は、典型的には、自車両C1の運転者に目的地又は集合地点まで誘導させる誘導情報を知覚させる経路案内用のナビゲーション装置を備えて構成されてよい。このナビゲーション装置は、表示ユニット、音声出力ユニット、データ記憶ユニット及びシステムコントローラ等を有して構成されてよい。この表示ユニットは、例えばナビゲーション用のシステムコントローラの制御の下、各種表示データをディスプレイなどの表示装置に表示する。具体的には、ナビゲーション用のシステムコントローラは、データ記憶ユニットから地図情報を読み出す。表示ユニットは、ナビゲーション用のシステムコントローラによってデータ記憶ユニットから読み出された地図情報を、ディスプレイなどの表示画面上に表示する。表示ユニットは、バスラインを介してCPUから送られる制御データに基づいて表示ユニット全体の制御を行うグラフィックコントローラと、VRAM(Video RAM)等のメモリからなり即時表示可能な画像情報を一時的に記憶するバッファメモリ42と、グラフィックコントローラから出力される画像データに基づいて、液晶、CRT(Cathode Ray Tube)等のディスプレイを表示制御する表示制御部と、ディスプレイとを備えてよい。このディスプレイは、例えば対角5〜10インチ程度の液晶表示装置等からなり、車内のフロントパネル付近に装着される。また、上述の音声出力ユニットは、システムコントローラの制御の下、ディスクドライブ又はRAM等からバスラインを介して送られる音声デジタルデータのD/A変換を行うD/Aコンバータ51と、D/Aコンバータから出力される音声アナログ信号を増幅する増幅器(AMP)と、増幅された音声アナログ信号を音声に変換して車内に出力するスピーカとを備えて構成されてよい。また、上述のデータ記憶ユニットは、例えば、HDDなどにより構成され、地図情報や施設データなどのナビゲーション処理に用いられる各種データを記憶する。また、上述のシステムコントローラは、インタフェース、CPU、ROM及びRAMを含んでおり、ナビゲーション装置全体の制御を行い、自車両C1の運転者に目的地又は集合地点まで誘導させる誘導情報を知覚させる経路案内を実現可能な各種の制御を行ってよい。
【0042】
ECU100は、本発明に係る「制御手段」の一例であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えたコンピュータとして構成されており、予測部110及び算出部120を備えている。
【0043】
予測部110は、取得部20によって受信された信号サイクル情報に基づいて、自車両C1が現在の速度や現在の加速度等の現在の走行状態を維持して走行する場合、次の信号機G1を通過する際の当該信号機G1の灯色を予測する。
【0044】
算出部120は、自車両C1の目標速度を算出する。尚、この目標速度の詳細については後述される。
【0045】
ECU100は、典型的には、例えば、HDD(ハードディスクドライブ)等の記憶装置を備えて構成されてよい。この記憶装置には、運転データベースが格納されてよい。この運転データベースは、上述の車両情報を記憶し蓄積するデータベースである。更に、この運転データベースは、例えば地図情報や施設データなどの各種データを記憶可能である。特に、この運転データベースは、車両情報を、信号機のある道路の道路形状又は交通環境情報に夫々対応付けつつ記憶可能である。ここに、本実施形態に係る交通環境情報とは、例えば地図情報や車載用カメラの画像や受信された道路交通情報などに基づいて特定可能な、信号機の有無、先行車又は歩行者の有無、交通量、天候、昼夜の区別などの車両が走行する交通環境や自然環境に関する情報を意味する。
【0046】
(路側インフラの構成)
次に、本実施形態に係る路側インフラの構成について、上述した図2を参照して説明する。
【0047】
路側インフラ装置I1、I2は、典型的には、路側送信機であり、自車両C1が走行する走行道路に沿って複数設置され、例えば交差点K1の信号機G1等の走行道路に沿って存在する交差点の信号機の信号サイクル情報を含む各種情報を、路車間通信用のアンテナを介して取得部20(図1を参照)に送信する情報送信装置である。
【0048】
(運転支援装置の動作原理)
次に、図3に加えて上述した図1及び図2を参照して、本実施形態に係る運転支援装置の燃費向上及び安全運転を実現可能な運転支援処理について説明する。ここに、図3は、本実施形態に係る運転支援装置における運転支援処理の流れを示したフローチャートである。
【0049】
先ず、ECU100の制御下で、路側インフラと協調的に機能する運転支援装置1の動作が開始される(ステップS101)。この運転支援装置1の動作の開始と同時に又は相前後して、ECU100の制御下で、測定部10によって、自車両C1の現在位置、走行速度、及び加速度等の車両情報が測定される(ステップS201)。
【0050】
次に、ECU100の制御下で、自車両C1が次に通過する交差点K1の信号機G1の信号サイクル情報が、例えば路側インフラ装置I1を介して受信されたか否かが判定される(ステップS102)。ここで、信号サイクル情報が受信されたと判定される場合(ステップS102:Yes)、
次に、ECU100の制御下で、受信された信号サイクル情報に基づいて、予測部110によって、自車両C1が現在の速度や現在の加速度等の現在の走行状態を維持して走行する場合、次の信号機G1を通過する際の当該信号機G1の灯色が予測される(ステップS103)。
【0051】
次に、ECU100の制御下で、次の信号機G1の予測された灯色が赤色であるか否かが判定される(ステップS104)。ここで、次の信号機G1の予測された灯色が赤色であると判定される場合(ステップS104:Yes)、ECU100の制御下で、所定距離αが設定される(ステップS105)。ここに、本実施形態に係る所定距離αは、典型的には、(i)自車両C1の運転者が交差点K1の信号機G1の灯色を目視可能な距離に加えて又は代えて、(ii)自車両C1の運転者の運転技能や交差点K1の道路形状に基づいて、自車両C1の運転者が交差点K1の停止線K10で一旦停止したり、交差点K1にて右折又は左折したりする運転操作に必要な距離を意味してよい。尚、所定距離αの更なる詳細については後述される。
【0052】
次に、ECU100の制御下で、次の信号機G1の位置と比較して、所定距離だけ手前の地点(即ち、信号機G1の位置より自車両C1に所定距離αだけ近い地点)である所定地点Prbが設定される(ステップS106)。
【0053】
次に、ECU100の制御下で、算出部120によって、信号機G1の青信号が開始される青信号の開始時刻において、自車両C1が所定地点Prbを通過することが可能な自車両C1の目標速度が算出される(ステップS107)。尚、この目標速度の算出方法については後述される。
【0054】
次に、ECU100の制御下で、自車両C1の運転者に算出された目標速度の報知を含む自車両C1の一の運転支援が実施される(ステップS108)。より典型的には、目標速度のディスプレイを介した表示としては、目標速度のディジタル表示や速度メータにおいて目標速度を示す目盛りの点滅等によって目標速度を表示してよい。
【0055】
次に、ECU100の制御下で、自車両C1が所定地点Prbに到着したか否かが判定される(ステップS109)。尚、この判定に加えて又は代えて、ECU100の制御下で、上述の受信された信号サイクル情報に基づいて、信号機G1の灯色が赤色から青色へ切替わった否かが判定されてよい。ここで、自車両C1が所定地点Prbに到着したと判定される場合、或いは、信号機G1の灯色が赤色から青色へ切替わったと判定される場合(ステップS109:Yes)、ECU100の制御下で、自車両C1の運転者に前方確認を促進する指標の報知等の自車両C1の他の運転支援が実施され、一の運転支援から他の運転支援へ切り替えられる(ステップS111)。典型的には、前方確認を促進する指標の報知に加えて又は代えてアクセルペダルの押し戻し等の自車両の制動を促進可能な減速制御が実施されてよい。このように、交差点K1より所定距離αだけ手前の所定地点Prbに到達する前と到達した後とにおいて運転支援の種類を切り替えることにより、交差点K1内での交通状況の変化により適切に対応することができるので、自車両C1は、より安全に交差点K1を通過することが可能である。より典型的には、自車両C1の運転者は、交差点K1の進入する際に、交差点内で、自車両C1の走行する車線と直交する車線を走行する他の車両群が依然として走行し途切れない交通状況において、上述の他の運転支援によって安全に交差点K1を通過することが可能である。或いは、典型的には、自車両C1の運転者は、仮に、交差点K1の信号機G1の信号サイクルが予測通りでなく信号機G1の灯色が赤色から青色へ切替わらなかった場合でも、交差点まで所定距離αだけ運転操作可能な道路が残っているので、運転者はブレーキング運転操作を所定地点Prbの直後に行うことによって安全に交差点K1を通過することが可能である。
【0056】
他方、ステップS109の判定の結果、自車両C1が所定地点Prbに到着したと判定されない場合、或いは、信号機G1の灯色が赤色から青色へ切替わったと判定されない場合(ステップS109:No)、ECU100の制御下で、最新の車両情報及び受信された最新の信号サイクル情報に基づいて、信号機G1の青信号の開始時刻において自車両C1が所定地点Prbを通過することが可能な自車両C1の目標速度が再度、算出され、目標速度が修正される(ステップS110)。続いて、上述したように、自車両C1の運転者に算出された目標速度の報知を含む自車両C1の運転支援が実施される(ステップS108)。
【0057】
次に、ECU100の制御下で、自車両C1の運転者が、信号機G1を備えた交差点K1の通過及び交差点K1での停止のうちいずれを試みたのかが判定される(ステップS112)。ここで、自車両C1の運転者が、信号機G1を備えた交差点K1の通過を試みたと判定される場合(ステップS112:通過)、更に、ECU100の制御下で、自車両C1が交差点K1を実際に通過したのか否かが判定される(ステップS113)。ここで、自車両C1が交差点K1を実際に通過したと判定される場合(ステップS113:Yes)、ECU100の制御下で、自車両C1の運転支援が終了される(ステップS114)。
【0058】
他方、ステップS112の判定の結果、自車両C1の運転者が、信号機G1を備えた交差点K1での停止を試みたと判定される場合(ステップS112:停止)、ECU100の制御下で、自車両C1の運転支援が終了される(ステップS114)。
【0059】
(本実施形態の作用と効果との検討)
次に、図4を参照して、本実施形態に係る運転支援装置1の作用と効果について検討する。ここに、図4は、本実施形態に係る運転支援装置1における自車両の速度と、自車両及び交差点の位置と、信号サイクルとの相関関係を概念的に示したグラフである。尚、図4のグラフの横軸は自車両の走行道路上の距離を示し、縦軸は自車両の走行速度を示す。
【0060】
一般的な第1比較例である運転支援を実施しない走行、所謂、成り行き走行においては、図4のグラフ中の点線に示されるように、自車両C1の走行速度は変化する。即ち、自車両C1の運転者が交差点K1の信号機G1の灯色が赤色であることを認識した後、初めて運転者による自車両C1のブレーキング、交差点K1の手前での一旦停止、及び、交差点K1の通過のための加速等の一連の運転操作が行われる。このため、交差点K1の信号機G1の赤信号に起因した車両のブレーキング回数、車両の一旦停止回数、及び車両の発進回数(即ち、加速回数)が増大してしまい、車両の走行エネルギー損失が増大し、車両の燃費効率が低下してしまうという技術的な問題点が生じる。
【0061】
これに対して、本実施形態によれば、図4のグラフ中の実線に示されるように、交差点K1の信号機G1にて赤信号から青信号へ切り替わる時刻(即ち、青信号が開始するまでの時刻)Trbに自車両C1が交差点K1より所定距離αだけ手前に位置する所定地点Prbを通過可能な目標速度Vtgt1が、自車両C1の運転者に提示される運転支援が予め実施される。
【0062】
具体的には、本実施形態によれば、図4に示されるように、時刻t1において、交差点K1の停止線K10との距離がDt1である地点P1を通過し、且つ、路側インフラ装置I1を介して、交差点K1の信号機G1にて赤信号から青信号へ切り替わる時刻Trbに関する情報を受信した場合、交差点K1の信号機G1にて青信号が開始するまでの残り時間RT1は、次の式(1)によって示される。
【0063】
RT1=Trb−t1 …… (1)
この場合、目標速度Vtgt1は、次の式(2)によって示される。
【0064】
Vtgt1={(Dt1 − α) / RT1} …… (2)
概ね同様にして、図4に示されるように、時刻t2において、交差点K1の停止線K10との距離がDt2である地点P2を通過し、且つ、路側インフラ装置I2を介して交差点K1の信号機G1にて赤信号から青信号へ切り替わる時刻Trbに関する情報を受信した場合、交差点K1の信号機G1にて青信号が開始するまでの残り時間RT2は、次の式(1)によって示される。
【0065】
RT2=Trb−t2 …… (1a)
この場合、目標速度Vtgt2は、次の式(2a)によって示される。
【0066】
Vtgt2={(Dt2 − α) / RT2} …… (2a)
これにより、自車両C1の運転者は、提示された目標速度Vtgt1に実際の走行速度を一致させる運転を行うことにより、赤信号から青信号へ切り替わる時刻Trbに所定地点Prbを通過可能である。これにより、自車両C1の運転者は、所定地点Prbにおいて、交差点K1の信号機G1の灯色を目視可能であるので、心理的に安心して交差点K1を通過することが可能である。或いは、これにより、自車両C1の運転者は、所定地点Prbにおいて、交差点K1の停止線K10で一旦停止したり、交差点K1にて右折又は左折したりする運転操作を行うことが可能であるので、心理的に安心して交差点K1に進入することが可能である。
【0067】
この結果、交差点K1の信号機G1の赤信号に起因した車両のブレーキング回数、車両の一旦停止回数、及び車両の発進回数(即ち、加速回数)を減少させ、車両の走行エネルギー損失を減少させ、車両の燃費効率を向上させることと、安全に交差点K1を通過することとの両立を実現可能である。詳細には、図4のグラフ中のハッチングされた領域に相当する走行エネルギ量、即ち、目標速度Vtgt1から減速し停止するために必要な走行エネルギ量と速度ゼロから目標速度Vtgt1まで加速するために必要な走行エネルギ量との和に相当する走行エネルギ量の消費を無くすことが可能である。
【0068】
仮に、本実施形態に係る所定距離αを考慮しない第2比較例においては、図4のグラフ中の一点鎖線に示されるように、自車両C1が次に通過する交差点K1で一旦停止することなく交差点K1の青信号で通過できる可能性はある。即ち、交差点K1の信号機G1にて赤信号から青信号へ切り替わる時刻Trbにおいて、自車両C1は交差点K1の停止線K10を、上述した自車両C1の目標速度Vtgtより高速な速度Vxで通過できる可能性はある。詳細には、本実施例に係る自車両C1の運転者は、事前に信号切り替わりを目視可能であるのに対して、第2比較例に係る自車両C1においては、交差点K1の進入直前でやっと青信号に変化する。図4中の「第2比較例の信号サイクル」中の時刻Trbにおける自車両C1の位置である停止線K10と、「本実施例の信号サイクル」中の時刻Trbにおける自車両C1の位置である所定地点Prbとを参照されたし。
【0069】
このように第2比較例においては、自車両C1の運転者は自ら交差点K1の信号機G1の灯色が青色であることを認識することなく交差点K1へ進入してしまう可能性が高い。このため、ブレーキング運転操作も行うには時間的に手遅れになってしまうため、心理的な不安感が増大してしまい、交差点K1を安全に通過することができない可能性があるという技術的な問題点が生じる。
【0070】
(所定距離α)
次に、本実施形態に係る運転支援装置1における所定距離αの定量的及び定性的な意味について検討する。
【0071】
本願発明者による研究によれば、上述の所定距離αは、次の3種類の物理的な変数のうち少なくとも一つに応じて、ECU100によって設定されてよい。3種類の物理的な変数とは、(i)信号機G1を設置する高さ若しくは位置と運転者の視野角の範囲とに応じて運転者が視認することが可能な距離の最大値αmax、(ii)HMIの表示が切替った後、運転者が反応しブレーキング運転操作から自車両が実際に停止するまでに必要な第1の制動距離α1、並びに(iii)運転者が赤信号を認知後、一般的な運転者のブレーキング運転操作で生じる減速加速度を考慮した自車両が実際に停止するまでに必要な第2の制動距離α2である。
【0072】
(運転者の視認可能な距離の最大値αmax)
1種類目の物理的な変数である(i)信号機G1を設置する高さ若しくは位置と運転者の視野角の範囲とに応じて運転者が視認することが可能な距離の最大値αmaxとしては、典型的には、運転者の視線の高さを基準にした信号機の相対的な高さを3メートル(以下、「m」と称す)とし且つ運転者の視野角の範囲(以下「視野角」と称す)を15度(以下「°」と称す)とした場合、11.2mとしてよい。或いは、運転者の視線の高さを基準にした信号機の相対的な高さを4メートルとし且つ運転者の視野角の範囲を15度とした場合、14.9mとしてよい。
【0073】
次に、この運転者が視認することが可能な距離の最大値の根拠について説明する。先ず、運転者の視野角の範囲は、自車両の走行速度が時速40kmである場合、運転者が前方を直視する方向から上下方向±15°程度であることが本願発明者の研究によって判明している。尚、詳細については、「デンソーテクニカルレビュー Vol.12 No.1 2007 運転者の視覚認知機能の解明とモデル化の研究」を参照されたし。
【0074】
また、信号機G1を設置する高さは、地上からの高さ4m乃至5m程度が一般的である。
【0075】
また、運転者の視線の高さは、地上からの高さ1m乃至2m程度が一般的である。これにより、運転者の視線の高さを基準にした信号機の相対的な高さは、2m乃至4m程度となる。
【0076】
これらの値を、次の式(3)に代入する。
【0077】
(運転者の視認可能な距離の最大値)={(相対的な高さ)/tan(視野角)}
…… (3)
以上の結果、信号機G1を設置する高さ若しくは位置と運転者の視野角の範囲とに応じて運転者が視認することが可能な距離の最大値αmaxとしては、運転者の視線の高さを基準にした信号機の相対的な高さを3mとし且つ運転者の視野角を15°とした場合、11.2mとしてよい。或いは、運転者の視線の高さを基準にした信号機の相対的な高さを4メートルとし且つ運転者の視野角を15度とした場合、14.9mとしてよい。尚、道路交通法によれば、信号機G1の信号光の照射角は、水平方向を基準にして地上へ向かう下向きの方向に45°であり、信号機G1の信号光の照射角は、運転者の視野角の大きさ以上が確保されていることを付記する。
【0078】
(HMIの切替り後、運転者が反応し実際に停止可能な第1の制動距離α1)
2種類目の物理的な変数である(ii)HMIの表示が切替った後、運転者が反応しブレーキング運転操作から自車両が実際に停止するまでに必要な第1の制動距離α1としては、典型的には、HMIの表示が切替った時点での初速が時速40kmである場合、24.1mとしてよい。或いは、HMIの表示が切替った時点での初速が時速60kmである場合、51.5mとしてよい。尚、この初速は、道路の法定最高速度を考慮することが好ましい。
【0079】
次に、この第1の制動距離の根拠について説明する。一般的に、HMIの表示の切替りによる運転者の反応時間、及び、減速加速度は、JARIの実験結果等からASV仕様として定義されている。尚、ASV仕様とは、安全系システムの技術指針策定に必要な定義等を整理した仕様を意味する。このASV仕様は、自動車交通局が事務局として運営しているASVが決定している。
【0080】
先ず、運転者が注意喚起をしている最中において、運転者の反応時間、所謂、空走時間は、一般的に3.2秒である。また、運転者が注意喚起をしている最中において、運転者が反応しブレーキング運転操作を行った場合の減速加速度は、一般的に3.0(m/秒/秒)である。
【0081】
これらの値を、次の式(4)に代入する。
【0082】
(第1の制動距離)=(初速の2乗)/{(2×減速加速度)+(初速×反応時間)}
…… (4)
以上の結果、HMIの表示が切替った後、運転者が反応しブレーキング運転操作から自車両が実際に停止するまでに必要な第1の制動距離α1としては、典型的には、HMIの表示が切替った時点での初速が時速40kmである場合、24.1mとしてよい。或いは、HMIの表示が切替った時点での初速が時速60kmである場合、51.5mとしてよい。
【0083】
(赤信号を認知後、自車両の停止可能な第2の制動距離α2)
3種類目の物理的な変数である運転者が赤信号を認知後、一般的な運転者のブレーキング運転操作で生じる減速加速度を考慮した自車両が実際に停止するまでに必要な第2の制動距離α2は、典型的には、運転者が赤信号を認知した時点での初速が時速40kmである場合、24.7mとしてよい。或いは、運転者が赤信号を認知した時点での初速が時速60kmである場合、55.5mとしてよい。尚、この初速は、道路の法定最高速度を考慮することが好ましい。
【0084】
次に、この第2の制動距離の根拠について説明する。一般的に、赤信号を認知後、標準的な運転者のブレーキング運転操作で生じる減速加速度は、一般的な実験結果によれば、2.5(m/秒/秒)と定義されている。この値は、運転者の運転操作に違和感や不安感を与えない、所謂、ACC(Adaptive Cruise Control)制御の際の減速加速度の最大値としての意味も有する。
【0085】
この値を次の式(5)に代入する。
【0086】
(第2の制動距離)={(初速×初速)/(2×減速加速度)}
…… (5)
尚、この第2の制動距離については、運転者は信号機を逐次、注視しているので反応時間を考慮しなくてよい。
【0087】
以上の結果、一般的な運転者のブレーキング運転操作で生じる減速加速度と自車両が実際に停止するまでに必要な第2の制動距離α2は、典型的には、運転者が赤信号を認知した時点での初速が時速40kmである場合、24.7mとしてよい。或いは、運転者が赤信号を認知した時点での初速が時速60kmである場合、55.5mとしてよい。
【0088】
特に、第1の制動距離α1及び第2の制動距離α2のうちいずれか長い方が、最大値αmaxより長い場合、第1の制動距離α1及び第2の制動距離α2のうちいずれか長い方を、所定距離αとして設定してよい。他方、第1の制動距離α1及び第2の制動距離α2のうちいずれか長い方が、最大値αmaxより短い場合、運転者が視認可能な距離の最大値αmaxを、所定距離αとして設定してよい。
【0089】
このように、運転操作の際に、最も重要な運転者の視覚の能力に基づいて、所定距離αが設定されることにより、運転者はより安全に交差点K1に進入することが可能である。
【0090】
(所定地点の具体例)
次に、図5を参照して、本実施形態に係る所定地点の決定手法の他の具体例について説明する。ここに、図5は、本実施形態に係る交差点Aにおいてブレーキング運転操作を開始した時点での信号機までの距離と、ブレーキング運転操作を開始した時点での車速との関係を示したグラフ(図5(a))、及び、交差点Bにおいてブレーキング運転操作を開始した時点での信号機までの距離と、ブレーキング運転操作を開始した時点での車速との関係を示したグラフ(図5(b))である。尚、図5(a)及び図5(b)中の横軸は、ブレーキング運転操作を開始した時点での信号機までの距離(m)、即ち、残りの距離(m)を示し、縦軸は、ブレーキング運転操作を開始した時点での車速(km/h)を示す。また、図5(a)及び図5(b)中の黒塗りは夫々、複数の運転者を対象として運転操作の実験を実施した際の分布を示している。
【0091】
本願発明者による研究によれば、車両の運転者は、一般的に、車両の速度が高くなるに従って、信号機のより手前でブレーキング運転操作を行うことが判明している。言い換えると、車両の運転者は、一般的に、車両の速度が低くなるに従って、信号機により近い位置でブレーキング運転操作を行うことが判明している。加えて、車両の速度が高くなるに従って、ブレーキング運転操作によって発生する減速加速度、所謂、減速Gは大きくなることが判明している。
【0092】
また、本願発明者による研究によれば、車両の運転者がブレーキング運転操作を開始するタイミングは、信号機のある道路形状によって顕著に異なることが判明している。典型的には、信号機のある道路がカーブ形状であるか否か、信号機のある道路が上り坂であるか下り坂であるか、信号機のある道路の見通しが良いか否か、信号機のある道路の車線数などの道路形状によって、車両の運転者がブレーキング運転操作を開始するタイミングは顕著に異なることが判明している。より典型的には、図5(a)に示される交差点Aは、見通しの良い片側2車線の平坦な道路において信号機がある交差点であり、図5(b)に示される交差点Bは、見通しの悪い片側1車線の右にカーブした形状の道路において信号機がある交差点である。車両の運転者は、交差点Bでは、交差点Aと比較して、信号機より、より手前の早いタイミングでブレーキング運転操作を開始する傾向があることが判明している。
【0093】
本実施形態によれば、車両の運転者における、道路の道路形状に応じた過去の制動動作を開始した時点での車両情報を蓄積した運転データベースを考慮して所定地点が決定される。典型的には、交差点Bに対する所定地点は、交差点Aに対する所定地点と比較して、交差点の信号機より、より手前の位置になるように決定される。これにより、運転者は、運転者の運転技能等の運転者に内在する内的な要因と、車両が走行した道路の道路形状等の外的な要因との両方を考慮して決定された所定地点を通過して、より安全に交差点に進入することが可能である。
【0094】
(表示状態、目標速度、所定距離との関係)
次に、図6を参照して、本実施形態に係る運転支援装置1における目標速度、所定距離、及び目標速度を表示する表示状態の定量的及び定性的な関係について検討する。ここに、図6は、本実施形態に係る運転支援装置1における、目標速度と所定距離との関係を示したグラフ(図6(a))、現在の車両速度と目標速度との差と、表示開始タイミングとの関係を示したグラフ(図6(b))、目標速度を表示する表示状態と所定距離との関係を示したグラフ(図6(c))である。
【0095】
尚、図6(a)の横軸は所定距離αを示し、縦軸は目標速度Vtgt1を示す。図6(b)の横軸は現在の車両速度Vと目標速度Vtgt1との差を示し、縦軸は目標速度を表示する表示開始タイミングを示す。図6(c)の横軸は所定距離αを示し、縦軸は目標速度を表示する表示状態としての表示頻度、表示時間及び表示開始タイミングを示す。
【0096】
図6(a)に示されるように、本実施形態に係る運転支援装置1の算出部120は、上述の式(2)等によって目標速度Vtgt1を算出した後、所定距離αが長くなるに従って、目標速度Vtgt1を高くし、且つ、所定距離αが短くなるに従って、目標速度Vtgt1を低くするように補正してよい。これにより、交差点K1の信号機G1に近づくにつれて目標速度が低くなるので、より安全に交差点K1に進入することが可能である。
【0097】
また、図6(b)に示されるように、本実施形態に係る運転支援装置1の算出部120は、上述の式(2)等によって目標速度Vtgt1を算出した後、現在の車両速度Vと目標速度Vtgt1との差が大きくなるに従って、目標速度Vtgt1を表示する表示開始タイミングを早くし、且つ、現在の車両速度Vと目標速度Vtgt1との差が小さくなるに従って、表示開始タイミングを遅くするように補正してよい。これにより、現在の車両速度Vと目標速度Vtgt1とがかけ離れている場合、自車両C1の運転者へより迅速に目標速度を表示することができ、運転者は現在の車両速度を目標速度にさせるまでのブレーキング運転操作を確実に行うことができ、より安全に交差点K1に進入することが可能である。加えて、これにより、現在の車両速度Vと目標速度Vtgt1とが既に等しい又は既に近づいている場合、自車両C1の運転者への報知等の運転支援を抑制的に行うことができ、運転者は現在の運転操作を落ち着いて行うことができ、より安全に交差点K1に進入することが可能である。
【0098】
また、図6(c)に示されるように、本実施形態に係る運転支援装置1の算出部120は、設定された所定距離αに応じて、目標速度Vtgt1を表示する表示状態を変化させる。典型的には、所定距離αが短くなるに従って、目標速度Vtgt1を表示する表示開始タイミングを早くさせ、且つ、所定距離αが長くなるに従って、目標速度Vtgt1を表示する表示開始タイミングを遅くさせる。これにより、交差点K1の信号機G1に近づくにつれて自車両C1の運転者へより迅速に目標速度を表示することができ、運転者は現在の車両速度を目標速度にさせるまでのブレーキング運転操作を確実に行うことができ、より安全に交差点K1に進入することが可能である。また、典型的には、所定距離αが短くなるに従って、目標速度Vtgt1を表示する表示頻度を多くさせ、且つ、所定距離αが長くなるに従って、目標速度Vtgt1を表示する表示頻度を少なくさせる。これにより、交差点K1の信号機G1に近づくにつれて自車両C1の運転者へより確実に目標速度を表示することができ、運転者は現在の車両速度を目標速度にさせるまでのブレーキング運転操作をより確実に行うことができ、より安全に交差点K1に進入することが可能である。更に、また、典型的には、所定距離αが短くなるに従って、目標速度Vtgt1を表示している表示時間を長くさせ、且つ、所定距離αが長くなるに従って、目標速度Vtgt1を表示している表示時間を短くさせる。これにより、交差点K1の信号機G1に近づくにつれて自車両C1の運転者へより確実に目標速度を表示することができ、運転者は現在の車両速度を目標速度にさせるまでのブレーキング運転操作をより確実に行うことができ、より安全に交差点K1に進入することが可能である。加えて、このように、所定距離αが長くなるに従って、運転者への目標速度Vtgt1の表示等の運転支援を抑制的に行うことによって、運転者は現在の運転操作を落ち着いて行うことができ、より安全に交差点K1に進入することが可能である。
【0099】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う運転支援装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、例えば車両の運転支援を行う運転支援装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0101】
1…運転支援装置
10…測定部
20…取得部(例えば路車間通信機)
30…運転支援部
40…報知装置
100…ECU
110…予測部
120…算出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車両情報を測定する測定手段と、
前記車両が次に通過する信号機の位置及び前記信号機の信号サイクルに関する信号サイクル情報を取得する取得手段と、
前記測定された車両情報及び前記取得された信号サイクル情報に基づいて、前記信号サイクルが示す青信号が開始される青信号開始時刻において前記車両が前記信号機の位置より所定距離だけ手前に位置する所定地点を通過可能な前記車両の目標速度を算出する算出手段と、
前記算出された目標速度の報知を含む前記車両の運転支援を行う運転支援手段と
を備えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記所定地点は、前記車両の運転者が前記信号機の信号色を目視不可能な状態から目視可能である状態に移り変わる地点であることを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記車両が前記所定地点を通過するまでの期間に、前記目標速度を前記車両の運転者に表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記運転支援手段は、前記車両が前記所定地点を通過後、前記車両が前記所定地点を通過前と比べて、制動支援の度合いを高めることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記所定地点は、前記車両が過去に走行した他の道路の信号機の赤信号に応じて停止した際における前記車両の運転者が制動動作を開始した時点での車両情報、及び、前記他の道路の道路形状に基づいて決定されることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記運転支援手段は、現在の前記車両の現在速度と前記目標速度との差が大きくなるに従って前記目標速度の表示を開始する表示開始時間を早め、前記現在速度と前記目標速度との差が小さくなるに従って前記目標速度の表示を開始する表示開始時間を遅くすることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか一項に記載の運転支援装置。
【請求項7】
前記運転支援手段は、前記所定距離の大きさに応じて、前記目標速度を表示する表示状態を変化させることを特徴とする請求項1から6のうちいずれか一項に記載の運転支援装置。
【請求項8】
前記運転支援手段は、前記所定距離の大きさに応じて、前記目標速度を変化させることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか一項に記載の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−150598(P2011−150598A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12315(P2010−12315)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】