説明

過渡的条件下での混合導電性金属酸化物膜システムの操作

【課題】混合導電性金属酸化物材料から製作される物品及びシステムを加熱及び冷却する際に寸法変化によって機械的損傷が生じる可能性を低くするための改善された方法を提供すること。
【解決手段】酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する酸素透過性の混合導電性膜を操作する方法であって、透過面と酸化体供給面の間の差ひずみを膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を変化させることにより選択された最大値未満の値に制御することを含む、方法によって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
幾つかの混合金属酸化物組成物を含有するセラミック材料は、高温で酸素イオン導電性と電子導電性の両方を有する。これらの材料は、混合導電性金属酸化物として当技術分野で公知であり、ガス分離膜及び膜酸化反応器を含む用途で使用することができる。これらのセラミック膜は、選択された混合金属酸化物組成物から作製され、イオン輸送膜(ITM)として説明されてきた。これら材料の特徴的な性質は、それらの酸素化学量論量が温度及び酸素分圧の熱力学的関数であって、平衡酸素化学量論量が温度の上昇及び酸素分圧の低下とともに低下することである。
【0002】
材料の寸法は、温度を変化させることにより熱膨張及び熱収縮によって変化することが知られている。これらの熱的な寸法変化に加えて、混合導電性金属酸化物材料は、金属酸化物の酸素化学量論量の関数である化学的な寸法変化を受ける。等温条件では、混合導電性金属酸化物材料から作製された物品は、酸素化学量論量の低下とともに寸法が増大する。等温条件では、酸素化学量論量は酸素分圧の低下とともに減少する。温度の低下とともに平衡酸素化学量論量が増大するので、混合導電性金属酸化物から作製された物品は、一定の酸素分圧では温度が下がるにつれて、熱的な寸法変化と化学的な寸法変化の両方により収縮する。逆に言えば、混合導電性金属酸化物から作製された物品は、一定の酸素分圧では温度が上がるにつれて、熱的な寸法変化と化学的な寸法変化の両方により膨張する。このことは、J.Am.Ceram.Soc.84(9)2117−19(2001)においてS.B.Adlerによる「Chemical Expansivity of Electrochemical Ceramics」と題された論文(非特許文献1)で記載されている。
【0003】
それゆえ、寸法変化は、混合導電性金属酸化物材料における平衡酸素化学量論量の変化の結果として起こる。一定の酸素分圧で温度を変化させるか又は一定の温度で酸素分圧を変化させることにより、混合導電性金属酸化物材料の平衡酸素化学量論量が変化する。例えば、混合導電性金属酸化物をイオン輸送膜として用いる場合、膜を横切る酸素の分圧差によって膜の2つの各表面で平衡酸素化学量論量の差が生じ、これによって酸素イオンが膜を通して拡散するための熱力学的な推進力が作り出される。
【0004】
混合導電性金属酸化物膜を用いたガス分離システムの始動又は停止の際、温度が上昇又は低下して、膜の一方又は両方の側の酸素分圧が変化する場合がある。膜材料の平衡酸素化学量論量は、温度及び酸素分圧の変化に応じて変化する。酸素アニオンが膜材料に又は膜材料から拡散し、そして膜材料がその平衡酸素化学量論量値に近づく。酸素化学量論量と温度が変化すると、膜の寸法が変化する。膜が膜表面の酸素分圧と化学平衡に達するのに必要とされる時間は、膜への又は膜からの酸素アニオンの拡散速度に左右される。平衡が生じるのに必要とされる時間は、材料の組成、温度、及び膜モジュールの寸法の関数である。
【0005】
異なる膜組成物は異なる酸素アニオン拡散係数を有し、より高い拡散係数を有する組成物は、他のすべての因子が等しければ、より速く気相と平衡化する。所与の膜組成物については、酸素アニオン拡散係数は温度とともに指数関数的に増大する。それゆえ、平衡化時間は温度の上昇とともに短くなる。最終的に、平衡化時間は、膜モジュール中の部品の特性寸法(例えば、長さ又は厚さ)のほぼ2乗で以って増加する。それゆえ、より薄い部品は、他のすべての因子が等しければ、より厚い部品よりもより速く平衡化する。部品の厚さが増大するにつれて、また温度が低下するにつれて、部品への又は部品からの酸素アニオンの緩やかな拡散のために、部品の内部を気相と平衡した状態に保つことが次第に困難になる。
【0006】
混合導電性金属酸化物のセラミック部品における温度勾配によって、差熱膨張及び差熱収縮のために差ひずみが生じる場合があることが知られている。同様に、セラミック部品における酸素化学量論量の勾配によって、差化学膨張及び差化学収縮のために差ひずみが生じる場合がある。酸素化学量論量におけるこの勾配は、対応して大きな差化学膨張を生みだし、それゆえ部品の破損に至る大きな機械的応力を生みだすほど十分大きなものとなる場合がある。それゆえ、差化学膨張を回避するか又は少なくとも差化学膨張を最大許容値未満に制御することが望ましい。
【0007】
混合導電性金属酸化物セラミックの用途では、物品に許容できない応力を生じさせることなくより速い速度で膜などのセラミック物品を加熱又は冷却する方法が必要とされている。さらに、物品における許容できない応力を回避するために、本質的に一定の温度での酸素分圧における変化の最大許容率を決定する必要がある。しかしながら、現在までのところ、これらの問題を解決する解決策はほとんど提案されていない。1つのアプローチにおいて、米国特許第5,911,860号明細書(特許文献1)には、混合導電性金属酸化物膜の機械的性質を改善するために、機械的に強化する構成要素、例えば、金属を含む複合膜の使用が開示されている。少なくとも1つのタイプのイオン、好ましくは酸素イオンを伝導するマトリックス材料と、当該マトリックス材料とは物理的に異なり、当該マトリックス材料の機械的性質、触媒的特性、及び/又は焼結挙動を向上させる少なくとも1つの構成要素とを有する膜が開示されている。この構成要素は、膜を横切る構成要素を介した連続的な電子導電性を排除するようにして存在する。好ましい態様においては、マトリックス材料は、電子イオン伝導性と酸素イオン伝導性の両方を示す混合導電体である。この構成要素は、銀、パラジウム又はそれらの混合物などの金属であることが好ましい。他の態様においては、この構成要素はセラミック又は他の非導電性材料である。したがって、これらの提案された膜組成物は、これまでに当技術分野で公知の膜組成物よりも速い加熱及び冷却を可能とする機械的性質を有する。
【0008】
論文「Prospects and Problems of Dense Oxygen Permeable Membranes」,Catalysis Today 56,(2000)283−295(非特許文献2)において、P.V.Hendricksenらは、定常状態の操作条件における酸素分圧勾配下での混合導体膜の機械的な破損の問題を記載している。酸素分圧の勾配によって、膜の機械的な破損を招く場合のある差化学膨張が生じることを開示している。特に膜厚が減少するにつれて、表面動抵抗が膜の最大引張応力を低下させることが提起されている。それゆえ、表面動抵抗を有する薄膜を使用すると、最大引張応力を低下させることできる。しかしながら、表面動抵抗によって最大引張応力を低下させることができる一方で、表面動抵抗はまた、膜から得られる酸素フラックスを減少させ、そして所与の酸素生成速度に関して必要とされる膜面積を増大させるため、膜プロセスの経済的な利点が低下する。
【0009】
米国特許第5,725,965号明細書(特許文献2)には、操作中の膜層の化学的還元を防止するための、機能的に傾斜し、組成的に層状の固体状態の電解質及び膜の使用が教示されている。この層状の膜構造体は、定常状態操作の際に差化学膨張を低減することができるが、膜構造体の加熱又は冷却によって生じる化学的な寸法変化の問題には対処していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,911,860号明細書
【特許文献2】米国特許第5,725,965号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S.B.Adlerによる「Chemical Expansivity of Electrochemical Ceramics」,J.Am.Ceram.Soc.84(9)2117−19(2001)
【非特許文献2】「Prospects and Problems of Dense Oxygen Permeable Membranes」,Catalysis Today 56,(2000)283−295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
とりわけ、過渡的な値の温度、圧力及びガス組成下での膜のガス分離及び反応器システムの操作において、混合導電性金属酸化物材料から製作される物品及びシステムを加熱及び冷却する際に寸法変化によって機械的損傷が生じる可能性を低くするための改善された方法が当技術分野で必要とされている。さらに、膜モジュールを高温に加熱した後、膜モジュールの酸素分圧が変化する場合に、膜モジュールにおいて膜を横切る差ひずみを制御する方法も必要とされている。これらの必要性は、以下に開示され、特許請求の範囲により規定される本発明の態様によって対処される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様は、酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する酸素透過性の混合導電性膜を操作する方法であって、透過面と酸化体供給面の間の差ひずみを膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を変化させることにより選択された最大値未満の値に制御することを含む方法に関する。膜の温度は、本質的に一定の温度に維持することができる。透過面と酸化体供給面の間の差ひずみの選択された最大値は、約1000ppm未満であることができる。
【0014】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧は、連続的に又は不連続に変化させることができる。酸素分圧は、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素モル分率とガスの全圧の一方又は両方を変化させることにより、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方で制御することができる。
【0015】
膜の透過側の酸素分圧は、
(a)CO、H2及びCH4から選択された1つ又は複数の還元性ガスと、CO2及びH2Oから選択された1つ又は複数の酸素含有ガスとを含む混合ガスを膜の透過側に通過させること;並びに
(b)混合ガスの組成、及び任意選択で膜の透過側のガスの全圧を変化させること
によって制御することができる。
【0016】
混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有することができ、式中、Lnは、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aは、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’は、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Zr、Mg及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δは化合物の電荷を中性にする数である。
【0017】
混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(LaxCa1-xwFeO3-δを有することができ、式中、1.0>x>0.5、1.1≧w≧1.0であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。あるいはまた、混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(LaxSr1-xwCoO3-δを有することができ、式中、1.0>x>0.1、1.05≧w>0.95であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。1つの具体的な態様においては、混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(La0.4Sr0.6wCoO3-δを有することができ、式中、1.05≧w>0.95であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。
【0018】
本発明の別の態様は、酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、透過面、及び酸化体供給面と透過面から等距離の膜中立面を有する酸素透過性の混合導電性膜を操作する方法であって、透過面と膜中立面の間の差ひずみを膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を変化させることにより選択された最大値未満の値に制御することを含む方法に関する。透過面と膜中立面の間の差ひずみの選択された最大値は、約500ppm未満であることができる。
【0019】
本発明の他の態様は、酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する酸素透過性の混合導電性膜を操作する方法であって、
(a)膜を選択された本質的に一定の温度に加熱し、第1の二原子酸素含有ガスを酸化体供給側に導入して、第2の二原子酸素含有ガスを透過側に導入すること;
(b)膜の供給側と透過側の酸素分圧を決定すること;
(c)膜の透過面と酸化体供給面の間の初期差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;
(d)膜の酸化体供給面と透過面の間の最大許容差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;並びに
(e)供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を選択された本質的に一定の温度で変化させ、酸化体供給面と透過面の間の差ひずみを(d)の最大許容差ひずみよりも低い値に維持する
ことを含む方法に関する。
【0020】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧は、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素モル分率と全圧の一方又は両方を変化させることにより制御することができる。あるいはまた、膜の透過側の酸素分圧は、
(a)CO、H2及びCH4から選択された1つ又は複数の還元性ガスと、CO2及びH2Oから選択された1つ又は複数の酸素含有ガスとを含む混合ガスを膜の透過側に導入すること;並びに
(b)混合ガスの組成、及び任意選択で膜の透過側のガスの全圧を変化させること
によって制御することができる。
【0021】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧は、連続的に又は不連続に変化させることができる。混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有することができ、式中、Lnは、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aは、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’は、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Zr、Mg及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δは化合物の電荷を中性にする数である。混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(LaxCa1-xwFeO3-δを有することができ、式中、1.0>x>0.5、1.1≧w≧1.0であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。あるいはまた、混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(LaxSr1-xwCoO3-δを有することができ、式中、1.0>x>0.1、1.05≧w>0.95であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。1つの具体的な態様においては、混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(La0.4Sr0.6wCoO3-δを有することができ、式中、1.05≧w>0.95であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。
【0022】
本発明の関連する態様は、混合導電性膜の酸素回収システムを操作する方法を含み、当該方法は、
(a)混合導電性金属酸化物材料から作製され、酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する膜を含む少なくとも1つの膜モジュールを用意すること;
(b)膜及び膜モジュールを選択された本質的に一定の温度に加熱し、酸素含有ガスを酸化体供給側に導入して、酸素富化ガスを透過側から回収すること;
(c)膜の供給側と透過側の酸素分圧を決定すること;
(d)膜の酸化体供給面と透過面の間の初期差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;
(e)膜の酸化体供給面と透過面の間の最大許容差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;並びに
(f)供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を選択された本質的に一定の温度で変化させ、透過面と酸化体供給面の間の差ひずみを最大許容差ひずみよりも低い値に維持すること
を含む。
【0023】
透過面と酸化体供給面の間の差ひずみの最大値は、約1000ppm未満であることができる。膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧は、連続的に又は不連続に変化させることができる。
【0024】
混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有することができ、式中、Lnは、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aは、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’は、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Zr及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δは化合物の電荷を中性にする数である。混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(LaxSr1-xwCoO3-δを有し、式中、1.0>x>0.1、1.05≧w>0.95であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。より具体的には、混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(La0.4Sr0.6wCoO3-δを有することができ、式中、1.05≧w>0.95であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。
【0025】
本発明の別の関連する態様は、混合導電性膜の炭化水素酸化システムを操作する方法を含み、当該方法は、
(a)混合導電性金属酸化物材料から作製され、酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する膜を含む少なくとも1つの膜モジュールを用意すること;
(b)膜及び膜モジュールを選択された本質的に一定の温度に加熱し、酸素含有ガスを膜モジュールの酸化体供給側に導入し、炭化水素含有ガスを膜モジュールの透過側に導入して、炭化水素の酸化生成物を膜モジュールの透過側から回収すること;
(c)膜の酸化体供給側と透過側の酸素分圧を決定すること;
(d)膜の酸化体供給面と透過面の間の初期差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;
(e)膜の酸化体供給面と透過面の間の最大許容差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;並びに
(f)酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を選択された本質的に一定の温度で変化させ、透過面と酸化体供給面の間の差ひずみを最大許容差ひずみよりも低い値に維持すること
を含む。
【0026】
炭化水素含有ガスはメタンを含むことができ、炭化水素の酸化生成物は水素と一酸化炭素を含むことができる。透過面と酸化体供給面の間の差ひずみの最大値は、約1000ppm未満であることができる。膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧は、連続的に又は不連続に変化させることができる。
【0027】
酸素分圧は、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素モル分率とガスの全圧の一方又は両方を変化させることにより制御することができる。酸化体供給側の酸素分圧は、酸化体供給側の酸素モル分率を変化させることにより制御することができる。あるいはまた、膜の透過側の酸素分圧は、
(a)CO、H2及びCH4から選択された1つ又は複数の還元性ガスと、CO2及びH2Oから選択された1つ又は複数の酸素含有ガスとを含む混合ガスを膜の透過側に導入すること;並びに
(b)混合ガスの組成、及び任意選択で膜の透過側のガスの全圧を変化させること
によって制御することができる。
【0028】
混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有することができ、式中、Lnは、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aは、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’は、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Zr、Mg及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δは化合物の電荷を中性にする数である。混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(LaxCa1-xwFeO3-δを有することができ、式中、1.0>x>0.5、1.1≧w≧1.0であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】例1で説明される本発明の態様に従った本質的に一定の温度における混合導電性金属酸化物膜の酸素分圧に対する変化の間の膜の差ひずみ対時間のプロットである。
【図2】膜が一定酸素分圧の定常状態で操作されるときの図1のプロットの続きである。
【図3】例2で説明される本発明の態様に従った本質的に一定の温度における混合導電性金属酸化物膜の酸素分圧に対する変化の間の膜の差ひずみ対時間のプロットであり、図1のプロットを比較のために含む。
【発明を実施するための形態】
【0030】
一定酸素分圧下での熱過渡の際、混合導電性金属酸化物材料は、固体の格子構造から酸素が発生して膨張するか、又は固体中に酸素を取り込んで収縮する。この現象は、化学膨張として知られている。この膨張又は収縮が、熱膨張により予想される膨張又は収縮に加わる。材料が膜の形態であり、熱過渡が非常に速く生じる場合には、膜のより厚い部分は、膜の酸化体供給側及び透過側の気相中の酸素と十分速く平衡化することができず、膜材料は、膜内部の材料とは異なる速度で表面付近で膨張又は収縮する傾向がある。これによって膜の表面と内部領域の間で差ひずみが生じ、膜が直ちに寸法を変化させることができない場合には、膜内部に機械的応力が生じて膜が割れる場合がある。この問題は、膜が膜モジュール構造内に拘束され、寸法を変化させる膜の能力が低い場合に大きくなる。
【0031】
一定温度では、酸素分圧が高くなると、酸素が固体の格子構造に取り込まれて膜材料が収縮する。同様に、一定温度では、酸素分圧が低くなると、酸素が固体の格子構造から放出されて膜材料が膨張する。膜の第1の側の酸素分圧が第2の側よりも高くなることによって混合導電性金属酸化物膜を横切って酸素分圧の勾配が課される場合には、より高い酸素分圧にさらされている第1の側の膜の格子構造に酸素が取り込まれる。膜の第1の側は、膜材料の格子構造に酸素が取り込まれるため収縮する傾向にある。収縮が起こらないように膜が膜モジュールに拘束されている場合には、引張応力が膜の第1の側に生じ、対応する圧縮応力が膜の第2の側で生じる。引張応力の大きさが十分大きい場合には、膜が割れることがある。
【0032】
本明細書において用いられる場合には、一般的な用語「酸素」は、原子番号8の元素又は部分を有する酸素のあらゆる形態を含む。それゆえ、一般的な用語の酸素には、酸素イオン、気体酸素(二原子酸素、即ち、O2)及び気体、液体又は固体状態において化合物に存在する酸素が含まれる。酸素含有ガスは、空気、窒素、O2、水、一酸化炭素、二酸化炭素、酸化窒素(NO)及び亜酸化窒素(N2O)からなる群より選択される1つ又は複数の成分を含むがそれらには限定されないガス又は混合ガスとして規定される。本明細書において用いられる「酸素分圧」という用語は、O2と他の気体成分を含有する混合ガス中の二原子酸素、即ち、O2の分圧を意味する。本明細書において用いられる「活性」という用語は、通常の規定を有する状態量aである(例えば、K.S.Pitzer及びL.Brewerによって改訂されたG.N.Lewis及びM.RandallのThermodynamics,第2版,McGraw−Hill,1961,242−249頁を参照されたい)。
【0033】
固体状態の酸素勾配によって膜において生じる応力を防ぐ1つの方法は、膜材料の化学量論的組成が加熱及び冷却の間一定のままであるように気相の酸素分圧を制御することである。この方法は等組成の加熱及び冷却として規定される。等組成の加熱及び冷却においては、膜の両側の酸素分圧は、気相の活性が固相の酸素活性に本質的に等しくなるように温度とともに変化し、それによって気相と固相の間の化学平衡を達成する。気相と固相が化学平衡にある場合には、酸素は膜に入ることも膜から出ることもない。酸素が膜に入ることも膜から出ることもないため、酸素欠損濃度の勾配は膜において生じない。結果として、膜中に酸素欠損勾配が存在しないため、差化学膨張による膜のひずみが存在しない。
【0034】
等組成の加熱及び冷却では、膜の供給側と透過側が同じ酸素活性であることが要求される。しかしながら、実際の膜操作の際には、供給側と透過側は異なる酸素分圧及び活性である。それゆえ、等組成状態から操作状態(又は逆に言えば、操作状態から等組成状態)への移行においては、膜の一方又は両方の側の酸素分圧は、場合により本質的に一定の温度で変化しなければならない。酸素分圧におけるこの変化によって、上記の理由から膜の供給面と透過面の間で差ひずみが生じる。しかしながら、膜は拘束されているので、膜材料の組成変化に応じて膜がその形状を直ちに変化させることはできない。このため膜において応力が発生して、その応力が十分大きい場合には、膜が破損することがある。
【0035】
膜がその形状を直ちに変化させることができないためこの応力が生じる。即ち、膜が拘束されていなければ、生じるであろうひずみも示すことはない。膜がクリープできるほど、即ち、その形状をゆっくり変化させることができるほど十分ゆっくりと酸素分圧を変化させることができると、膜内部の化学膨張応力が緩和される。クリープによる応力の緩和は、過渡的条件の際に膜が受ける最大応力を低下させるのに有用な解決策となる場合がある。最大応力を低下させることで、応力が加わる部分の破損の可能性が低減される。しかしながら、クリープはゆっくりとしたプロセスであり、膜システムの始動、プロセスの過渡状態、及び停止に関して必要とされる時間が増大することがある。
【0036】
クリープの緩和を用いることで起こり得る不利な点は、膜がクリープの間に損傷を被る場合があるということである。幾つかの異なるクリープ機構があり、そのうちの1つは、膜が形状をわずかに変化させて膜内部の応力を軽減できるようセラミック粒子が互いに滑り合う粒界滑りである。粒子が互いに滑り合うと、空洞が粒界に形成する場合があり、これらの空洞によってセラミックが弱くなる傾向がある。このような損傷は累積的である場合があり、クリープの緩和サイクルの数が増加するとともに、空洞のサイズ及び/又は数が増大することがある。他のクリープ機構によっても、セラミックを弱くする損傷が生じる場合がある。セラミックのクリープの問題は、例えば、Journal of Materials Science(18),1983,1〜50頁において、W.Cannon及びT.Langdonによって検討されている。
【0037】
以下に記載される本発明の態様では、膜の応力を低減して許容範囲内に制御するように、プロセスの過渡状態の間に特定の方法で酸素分圧を制御することにより膜の応力を許容範囲内に制御する。混合導電性金属酸化物膜において応力を測定又は計算することは困難であるため、本発明の態様は、膜が拘束されていない場合に、膜の化学量論的組成変化の結果として直ちに生じる差ひずみの観点で規定される。以下に説明されるように、膜はクリープして形状を変化させ、化学的な膨張及び/又は収縮によって生じる初期の応力を緩和するので、膜の化学量論的組成変化による差ひずみはゆっくりと変化することができる。
【0038】
本明細書において用いられる「差ひずみ」という用語は、所与の本質的に一定の温度で膜の一方又は両方の面の膜材料の化学量論的組成変化により拘束されていない膜において生じる、低酸素分圧の膜の透過面における膜材料のひずみと、高酸素分圧の膜の酸化体供給面における膜材料のひずみとの間の差を意味する。幾つかの例においては、所与の本質的に一定の温度で膜の一方又は両方の面の膜材料の化学量論的組成変化により拘束されていない膜において生じる、低酸素分圧の膜の透過面における膜材料のひずみと、膜の中立面(即ち、酸化体供給面と透過面から等距離の面)における膜材料のひずみとの差として差ひずみを規定することもより都合がよい場合がある。中立面の使用においては、膜を横切る応力とひずみのプロファイルが対称的であり、中立面の応力がゼロであると仮定される。中立面を用いる本明細書の例は明確に記載される。
【0039】
したがって、膜の両面での膜材料の化学量論的組成が所与の本質的に一定の温度で等しい場合には、差ひずみはゼロである。膜材料の化学量論的組成が所与の本質的に一定の温度で膜の各表面で異なる場合には、差ひずみはゼロではなく、実際の膜の幾何学的形状、膜の化学量論量、及びガス組成に応じて正又は負の値を有する場合がある。温度に対して適用される「本質的に一定の」という用語は、わずかに±5%だけ変動する絶対温度を意味する。
【0040】
「クリープした差ひずみ」という用語は、クリープによって膜の応力を低減するのに十分な時間の後、実際の拘束された膜において生じる異なる化学量論的組成を膜がそれぞれの表面で有する、膜の両面における膜材料の間の差ひずみを意味する。クリープした差ひずみは、ゼロに達するか又は正若しくは負の残留値に達する場合がある。クリープした差ひずみから得られる残留応力はゼロであるか、又は残留応力のプロファイルが膜内に存在するゼロでない値を有する場合がある。「クリープしていない差ひずみ」という用語は、任意のクリープが生じて応力を低減する前に、拘束された膜で生じる差ひずみを意味する。
【0041】
本明細書において用いられる「膜」という用語は、混合導電性金属酸化物材料を含む任意の平面又は非平面の膜を含む。当該膜は、2つの相対する表面、即ち、酸化体供給面と透過面を有する。膜の各表面は、固体の膜材料と隣接する気相の間の界面を画定する。膜は、混合導電性金属酸化物材料の高密度層が、混合導電性金属酸化物材料の多孔質支持体の表面に結合された複合構造体を有することができる。高密度層の混合導電性金属酸化物材料と多孔質支持体は、同じであってもよいし又は異なってもよい。高密度層の混合導電性金属酸化物材料と多孔質支持体が同じである場合には、多孔質支持体の第1表面における高密度層のひずみは、高密度層に隣接する多孔質支持体の第1表面におけるひずみと同じである。混合金属酸化物材料は、高温で酸素イオン伝導性と電子伝導性の両方を有し、膜は、膜へ又は膜から電子を移動させるための電極を取り付ける必要がない。
【0042】
「応力」という用語は、本体にひずみを与えるか又は本体を変形させる傾向のある力又はその力のシステムの通常の意味を有する。膜材料においては、これらの力は、先に記載したように、膜の化学量論的組成変化による化学的な膨張又は収縮によって生じる。「ひずみ」という用語は、応力によって作り出される変形の通常の意味を有する。混合導電性金属酸化物材料におけるひずみは、(1)温度、ガスの全圧及びガス組成の選択された条件における物品又は本体の寸法と(2)温度、ガスの全圧及びガス組成の一組の標準条件における寸法との間の差として規定される。ひずみは、比(Ds−Dr)/Dr(式中、Dsは選択された条件での寸法であり、Drは標準条件での寸法である)として規定される。Drの値は、例えば、温度25℃、ガス組成100%酸素、ガスの全圧1.0atmaで規定することができる。差ひずみは分率又は百万分率(ppm)で表すことができ、その両方が相対的な無次元単位である。
【0043】
膜は、典型的には少なくとも2つのガス流路又は膜で分離された領域を形成するモジュールに取り付けられ、一方の流路は膜の酸化体供給側に形成され、もう一方の流路は膜の透過側に形成される。膜の酸化体供給側は、膜の酸化体供給面に隣接する流路又は領域として規定され、膜の透過側は、膜の透過面に隣接する流路又は領域として規定される。酸化体供給側は、二原子酸素含有ガスを膜の酸化体供給面と接触させるのに適合した入口と、膜の酸素供給側から二原子酸素の減少したガスを回収するのに適合した出口とを有する。膜が酸素の分離に用いられる場合には、膜の透過側は透過した酸素を捕集し、透過した酸素は膜の透過側の出口を介して回収される。任意選択で、透過側は、スウィープガスを膜の透過側に導入するのに適合した入口を有することができる。膜が酸化反応体として用いられる場合には、膜の透過側は、炭化水素含有ガスを膜の透過側に導入するのに適合した入口を有する。このガスが透過した酸素と反応して反応生成物を形成し、この反応生成物が膜の透過側の出口から回収される。
【0044】
それゆえ、上記の記載からすると、規定により、膜は、酸化体供給面、当該酸化体供給面に隣接する酸化体供給側、透過面、及び当該透過面に隣接する透過側を有するということになる。
【0045】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧における変化に適用される「連続」という用語は、酸素分圧が特定の期間の間に常に変化していることを意味する。酸素分圧の変化の割合は、この期間の間隔の間に変動することができる。膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧における変化に適用される「不連続」という用語は、酸素分圧がある時間間隔の間に変化し、直後の時間間隔の間に変化しないことを意味する。酸素分圧の不連続な変化は、さらなる時間間隔を通して継続することができる。
【0046】
本明細書(英語原文)において用いられる不定冠詞「a」及び「an」は、本明細書及び特許請求の範囲に記載される本発明のいずれの1つ又は複数の特徴に適用される場合も1つ又は複数を意味する。「a」及び「an」の使用は、このような限定が具体的に記載されていない限り単一の特徴に対する意味には限定されない。単数又は複数の名詞又は名詞句の前の定冠詞「the」は1つ又は複数の特定の明記された特徴を示し、それが用いられる文脈に応じた単数又は複数の暗示的意味を有することができる。形容詞「任意の」は、如何なる量にも差別なく1つ、幾つか又はすべてを意味する。
【0047】
膜の温度は、任意の理由で上昇又は低下させることができる。例えば、膜の温度は、始動の際に周囲温度から操作温度まで上昇し、停止の際に操作温度から周囲温度まで低下する。あるいはまた、膜の温度は、操作の際に第1操作温度からプロセス的な理由で要求される第2操作温度まで上昇又は低下させることができる。膜の操作温度は、例えば、膜の酸化体供給側及び/又は透過側でのガスの温度及び/又は組成の変化に応じて変化させることができる。あるいはまた、膜の一方又は両方の側の酸素分圧は、膜システムが高温、例えば、膜システムの操作温度に加熱された後、本質的に一定の温度で変化させることができる。本発明の態様は、特に任意の本質的に一定の温度における酸素分圧の任意の変化の際に適用することができる。
【0048】
本発明の態様は、透過した酸素が膜の透過側から回収される酸素回収のために設計及び操作される膜システムに適用することができる。当該膜システムは、空気などの二原子酸素含有ガスから高純度の酸素生成物を回収するよう操作することができ、望ましい場合にはスウィープガスを透過側で使用することができる。あるいはまた、このシステムは、不純物として酸素を含有するガスを精製するのに使用することもでき、透過側でスウィープガスを利用することができる。これらの態様においては、膜の透過側は出口を有することができるが入口はなく、あるいはまた、膜の透過側は入口と出口の両方を有することができる。
【0049】
別の態様においては、このシステムは、透過した酸素が透過側で炭化水素含有ガスと反応して炭化水素の酸化又は部分酸化生成物が生成される酸化又は部分酸化反応器として操作することができる。例えば、天然ガスを膜モジュールの透過側に導入しそこで酸素と反応させて、水素と一酸化炭素を含む合成ガスを形成することができる。この態様においては、膜の透過側は入口と出口の両方を典型的に有する。
【0050】
操作の間の膜のすべての地点における温度は等しくない場合があり、温度のプロファイルが、膜の内部又は膜の表面上の任意の2つの地点の間に存在する場合がある。このため、「膜の温度」及び「膜温度」という用語並びに膜に関する「温度」という用語の任意の使用は膜の平均温度を意味する。本開示においては、酸素分離モジュールにおける膜の平均温度は、(1)酸化体供給側入口、(2)酸化体供給側出口、(3)酸化体供給側入口とは反対の膜の透過側の場所、及び(4)透過側出口におけるガス温度の算術平均として一般に規定される。透過側が入口と出口の両方を有する態様、例えば、透過スウィープガスを有する酸素分離モジュール又は炭化水素酸化反応器に関しては、モジュール中の膜の平均温度は、(1)酸化体供給側入口、(2)酸化体供給側出口、(3)透過側入口、及び(4)透過側出口におけるガス温度の算術平均として一般に規定される。
【0051】
酸素分圧は、気相中の二原子酸素(O2)の濃度を変化させること及び/又は膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の気相の全圧を調節することにより制御することができる。気相は窒素又は他の不活性ガスと二原子酸素(O2)を含む混合物であることができるか、あるいはまた、気相は高温で二原子酸素(O2)の平衡量を形成する気体成分の混合物であることができる。この変形態様においては、膜の透過側の酸素分圧は、(a)CO、H2及びCH4から選択された1つ又は複数の還元性ガスと、CO2及びH2Oから選択された1つ又は複数の酸素含有ガスとを含む混合ガスを膜の透過側と接触させること;並びに(b)混合ガスの組成、及び任意選択で膜の透過側のガスの全圧を変化させることによって制御することができる。例えば、気体成分の混合物として、水素と水を挙げることができる。あるいはまた、気体成分の混合物として、H2、CO及びH2Oを挙げることができる。別の変形態様においては、気体成分の混合物として、COとCO2を挙げることができる。
【0052】
本質的に一定の温度における膜の一方又は両方の側の酸素分圧に対する変化の際に膜において生じる場合のある新たな差ひずみの発生を最小限に抑えるために、膜の両側の酸素の分圧及び活性を調整して、膜を横切って同じ一定の化学膨張の差ひずみを維持することができるか、又は化学膨張の差ひずみの変化を許容限度内に制御することができる。これにより、過度の差ひずみを生じさせることなく膜表面付近の酸素分圧を変化させることができる。
【0053】
酸素分圧が変化している間の操作中の膜モジュールにおける差ひずみの制御は、膜の酸化体供給側と透過側の酸素分圧の変化率を制御することにより達成することができる。これは、膜の酸化体供給側と透過側を別のガス源と流れを通じさせるか及び/又は気相の全圧の別の制御下に置くことにより達成することができる。典型的には、これらの目的のために必要とされる配管及びガス流量制御システムの仕様は、膜モジュール及び当該モジュールが取り付けられるプロセス圧力容器のデザインに含まれる。
【0054】
初期の始動段階において新たに製造された混合導電性金属酸化物の膜モジュールを加熱する際、ガス雰囲気の制御は、モジュールの製造条件によって決定される。例えば、製造モジュールは、酸素欠損濃度がモジュール材料を通じて一定である等組成状態であることができる。製造モジュールは、焼結及びセラミックとセラミックの封止に用いられる製造条件から一定の酸素活性条件下で冷却することができる。それゆえ、初期の始動の間に新しいモジュールを加熱する際には、モジュールの先の製造歴によって、加熱及び膜を横切る酸素分圧の勾配の制御が規定される。等組成冷却がモジュール製造の最後の処理工程で用いられた場合には、初期の始動の際、モジュールを操作温度にするのに等組成加熱を使用することができる。
【0055】
初期始動の際の等組成加熱工程の最後で、膜の両側の酸素分圧が等しくなる。酸素の透過に必要とされる膜を横切る酸素分圧の勾配を確立するために、膜の一方又は両方の側の酸素分圧は、制御された方法で変化させることができる。本質的に一定の温度で酸素分圧が変化する際に膜において生じる任意の化学膨張差ひずみのクリープ緩和又は部分的なクリープ緩和を可能とするために、酸素分圧の変化率をゆっくりと制御することができる。1つ又は複数の酸素分圧の変化が完了すると、膜は膜を横切る酸素分圧の勾配の望ましい操作状態にある。酸素活性の勾配が膜を横切って存在するため、膜は化学膨張によって幾つかの差ひずみを受け、結果として応力が生じる。この応力はクリープによってゆっくりと緩和され、十分な操作時間の後、最終的には非常に低いレベルに達することができる。
【0056】
この緩和された化学膨張の応力状態は、本質的に一定の温度で以って以降のすべての熱過渡状態の間又は部分的な圧力過渡状態の間、膜を横切る一定の差ひずみを維持することによって制御することができる。一定の差ひずみを維持することで、このひずみによる応力は、初期の定常操作状態においてクリープにより作り出される非常に低い緩和された化学膨張応力の状態にとどめられる。操作状態から膜を停止する際の一定の差ひずみは、膜を横切る差ひずみを所望の値に又は所望の範囲内の値に維持するために、膜の一方又は両方の側の酸素活性又は酸素分圧を制御することにより維持することができる。差ひずみが維持されるため、膜の操作温度から冷却する際の化学膨張によって新たな応力が生じることはない。クリープ緩和工程は冷却の前又はその間に必要ではなく、それゆえ、膜に対して新たにクリープの損傷が生じることはない。
【0057】
周囲条件から操作条件までモジュールを続いて加熱する際、酸素分圧は、同様に差ひずみを同じ一定値に維持するよう制御することができる。これは、先の冷却工程の間に従ったのと同じ酸素分圧−温度プロファイルに従うことによって達成することができる。以降のすべての熱サイクルは、差ひずみを一定値に維持するために同じ酸素分圧−温度プロファイルを利用することができる。
【0058】
幾つかの例においては、差ひずみの大きさをある特定の目標範囲内に又は一定値よりはむしろ目標値未満に維持することが有利な場合がある。これにより、速やかな始動及び停止又は酸素分圧の速やかな変化という利点を依然として維持しかつ反復サイクルの間の累積的なクリープ損傷を最小限に抑えながら、より簡単な制御スキーム又はより安価なプロセス条件の使用が可能となる。例えば、差ひずみは、定常操作状態におけるクリープされていない差ひずみの50%未満に維持することができる。より具体的には、差ひずみは、定常操作状態におけるクリープされていない差ひずみの25%未満、さらには10%未満に維持することができる。
【0059】
本発明の態様は、特に膜を本質的に一定の温度で操作する場合に、酸素分圧が変化する際の膜の最大差ひずみを制御することにより膜の完全性を維持する。本質的に一定の温度では、差ひずみは上に記載したように膜材料の化学膨張によって生じる。本発明の1つの態様は、膜の酸化体供給面と透過面の一方又は両方の酸素分圧を変化させながら、酸化体供給面と透過面の間の差ひずみの最大値を制御することによる、酸素透過性混合導電性膜の操作方法を含む。例えば、膜のより低い酸素分圧の透過面と膜の中立面の間の差ひずみの最大値は、有利には約500ppm未満の値に制御することができる。
【0060】
膜の差ひずみの変化率は、特に本質的に一定の温度で1つ又は複数の酸素分圧が変化する速度を制御することにより調節することができる。特には、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧は、膜の酸化体供給側と透過側の酸素分圧間の差の変化率が所望のレベルに制御されるよう変化させることができる。
【0061】
膜の最大許容差ひずみは、幾つかのパラメータ、例えば、膜材料の組成、膜及び膜モジュールの幾何学的形状、膜材料の強度、膜の所望の信頼性、及び膜材料の機械的性質の関数である。最大許容差ひずみは、膜の破損又は膜において生じる漏れを引き起こす差ひずみを見出すことにより経験的に決定することができる。本明細書で開示される膜材料及び同様の用途のための関連する膜材料に関して、より低い酸素分圧の膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみは、有利には約500ppm未満に制御することができる。膜の透過面と酸化体供給面の間の差ひずみは、透過面と中立面の間の差ひずみの約2倍である。それゆえ、膜の透過面と酸化体供給面の間の差ひずみは、有利には約1000ppmに制御することができる。
【0062】
混合導電性金属酸化物膜における応力、ひずみ及び差ひずみは、それぞれの具体的な混合導電性金属酸化物組成物に関して決定される関係式を用いて計算することができる。差ひずみの変化率は、酸素分圧の変化及びクリープ速度によって生じる化学膨張によるひずみ生成速度の合計である。差ひずみの変化率が正である場合には、差ひずみは時間とともに増加する。差ひずみの変化率が負である場合には、差ひずみは時間とともに減少する。膜を横切る酸素分圧の差が増大すると、差ひずみの大きさが増大する場合があるが、クリープが差ひずみの大きさを低下させる。
【0063】
酸素分圧が膜の一方又は両方の側で変化する割合を制御することにより、差ひずみが変化する割合を制御することができる。クリープ速度が酸素分圧の変化によって生じる化学膨張によるひずみ生成速度よりも大きい場合には、差ひずみは時間とともに減少する。クリープ速度が酸素分圧の変化によって生じる化学膨張によるひずみ生成速度よりも小さい場合には、差ひずみは増加する。具体的な膜材料に関する応力及び温度の関数としてのクリープ速度は、経験的に測定することができる。クリープ速度を測定するための方法は当技術分野で公知である。典型的な方法は、D.C.Crammer及びR.W.RichersonのMechanical Testing Methodology for Ceramic Design and Reliability,Marcel Dekker,Inc.1998において見出すことができる。具体的な膜材料に関する酸素分圧の変化によって生じる化学膨張ひずみは、当技術分野で公知の方法、例えば、J.Am.Ceram.Soc.84(9)2117−19(2001)においてS.B.Adlerにより使用された方法によって経験的に測定することもできる。
【0064】
クリープ速度、dy/dtを説明する経験式はべき乗法則であり、
【数1】

式中、Sは応力、yはひずみ、tは時間、Aクリープはクリープ前指数関数、nは応力指数、PO2は酸素分圧、mは酸素分圧指数、Eクリープはクリープの活性化エネルギー、Rは気体定数、及びTは絶対温度である。Aクリープ、n、m及びEクリープの値は、経験的に決定することができる。
【0065】
単一の拘束されていない膜に関しては、応力は
【数2】

によりひずみと関係し、式中、Eはヤング率、νはポアソン比である。式(1)と式(2)を組み合わせると、
【数3】

となる。式(3)を解いて、膜のクリープと同様、時間の関数としてひずみを見出すことができる。
【0066】
例えば、組成La0.4Sr0.6CoO3-δに関して、膜の中央面に関する化学膨張の差ひずみは、経験式
【数4】

によって与えられ、式中、CCE1は経験的に決定される定数、Tは温度(℃)、xv供給は温度Tにおける膜の酸化体供給面での酸素欠損分率、及びxv透過は温度Tにおける膜の透過側での酸素欠損分率である。所与の温度Tにおける酸素欠損分率xvは、経験式
【数5】

によって計算することができ、式中、xvoは1atma及び温度TのPO2での酸素欠損分率である。xvoは経験的に決定され、βは経験式
【数6】

によって与えられる。
【0067】
式(4)と式(5)を組み合わせて、酸素分圧の関数として化学膨張ひずみを与えることができる。
【数7】

式中、PO2透過は膜の透過側の酸素分圧であり、PO2供給は膜の供給側の酸素分圧である。酸素分圧が変化している条件下では、ひずみの変化率は、
【数8】

によって与えられる。酸素分圧が変化し膜がクリープしている条件下では、式(3)と式(8)を組み合わせて、時間の関数としてのクリープ速度と酸素分圧の変化率を説明する式
【数9】

を与えることができ、式中、CCE=CCE1(T−26℃)/2である。
【0068】
一定の温度及びPO2条件において混合導電性金属酸化物膜を横切る化学膨張ひずみのクリープ緩和は、式(3)によって表すことができる。
【0069】
これらのモデルは、(1)簡易モデルが膜の応力状態を適切に説明し(2)引張と圧縮のクリープ速度が同じであるということを仮定している。応力モデルは、中立面のPO2の段階的な変化に関して平面膜をプレートとして近似している。初期PO2、最終供給PO2及び透過PO2の算術平均は、クリープパラメータが酸素分圧の関数である場合に、これらのパラメータを決定するためにクリープの式において使用される。
【0070】
本発明の態様は、様々な混合導電性金属酸化物材料から製作された膜モジュールの操作において実施することができる。例えば、混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有することができ、式中、Lnは、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aは、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’は、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Or、Mg及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δは化合物の電荷を中性にする数である。
【0071】
より具体的な化学量論的組成は、一般的な化学量論的組成(LaxCa1-xwFeO3-δを有することができ、式中、1.0>x>0.5、1.1≧w≧1.0であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。別の態様においては、混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(LaxSr1-xwCoO3-δを有することができ、式中、1.0>x>0.1、1.05≧w>0.95であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。より具体的な態様においては、混合導電性金属酸化物材料は、一般的な化学量論的組成(La0.4Sr0.6wCoO3-δを有することができ、式中、1.05≧w>0.95であり、δは組成物の電荷を中性にする数である。
【0072】
本発明の態様で用いられる加熱及び冷却速度は、典型的には0.25℃/分〜10℃/分の範囲であり、0.5℃/分〜5℃/分の範囲であることができる。
【0073】
以下の例は、本発明の態様を説明するものであるが、それらは本発明を本明細書に記載される特定の詳細のいずれにも限定するものではない。
【実施例】
【0074】
[例1]
膜モジュールは、組成La0.4Sr0.6CoO3-δ(式中、δは化合物の電荷を中性にする数であり、固体格子の酸素欠損に関係している)を有する混合導電性金属酸化物から作製した膜を含む。このモジュールのそれぞれの膜は、2つの酸素を含有する気体雰囲気を隔てる平面シートとして近似され、膜は上記の式とLa0.4Sr0.6CoO3-δの特性によってモデル化される。この材料について、ヤング率Eは1.48×105MPaであり、ポアソン比νは0.325である。圧縮及び引張のクリープ速度は同じであると仮定され、PO2の関数として引張クリープモデルが用いられる。
【0075】
この材料に関するクリープ速度を説明する経験式は、
【数10】

であり、式中、クリープ速度の単位は1分当たりであり、応力の単位はMPaであり、酸素分圧の単位はatmaである。この材料に関する酸素の非化学量論的性質は、経験式
【数11】

によって与えられ、式中、xvoは経験的に決定され、875℃で0.0528であり、βは経験式
【数12】

によって与えられる。材料の化学膨張特性は、式
【数13】

によって与えられ、式中、CCE1は93.355ppm/℃であり、Tは温度(℃)である。
【0076】
差ひずみは、膜の中立面と比較した膜の透過面の化学膨張における差として規定される。この例においては、875℃で酸素分離膜として操作する膜の操作条件を、供給ガスの酸素分圧0.021MPaと透過酸素の分圧0.101MPaから、供給ガスの酸素分圧が0.303MPa、透過酸素の分圧が0.047MPaである状態まで変化させることが望ましい。これらの変化の際、低酸素分圧の膜の透過面と膜の中立面の間の膜材料における最大差化学膨張ひずみを500ppm未満に保持することが望ましい。
【0077】
膜の供給側に全圧0.101MPaの空気と、膜の透過側に全圧0.101MPaの酸素とを伴って、上で与えられた特性を有する膜を875℃に加熱した。膜は、膜の供給側に酸素分圧0.303MPaの空気と、透過側に酸素分圧0.047MPaの酸素とを有する操作条件にした。式(1)と式(2)を用いて一連の線形の供給及び透過圧力ランプを作り出し、低酸素分圧の膜の透過面と膜の中立面の間の膜材料の差化学膨張ひずみを500ppm未満に保持した。供給及び透過の全圧のうち一方又は両方が線形変化している期間からなる各供給及び透過圧力ランプの後、供給及び透過の全圧が一定である期間が続いた。したがって、圧力及び酸素分圧の変化は不連続であった。
【0078】
表1は、膜の供給側と透過側の両方の酸素分圧が変化したときにクリープを用いて化学膨張ひずみを緩和するよう設計された酸素分圧のランププログラムを説明している。このプログラムは2340分を要し、各ランプの後に一定の条件で保持して誘起ひずみの緩和を可能にする一連の酸素分圧ランプから構成された。式(2)を数値的に解いて、表1に与えられる圧力ランププログラムに関する時間の関数としてのひずみ値を得た。図1は、本例に関する計算ひずみの履歴を示し、低酸素分圧の膜の透過面と膜の中立面の間の膜材料の膜差ひずみが500ppm未満に制御されていることがわかる。
【0079】
【表1】

【0080】
2320分の初期ランピング期間の後、最終的な供給及び透過酸素分圧において定常状態で引き続き膜を操作した。低酸素分圧の膜の透過面と膜の中立面の間の膜の差ひずみを式(1)により時間の関数として計算した。図2で示されるように、最終的な定常状態に達した後、膜はクリープ緩和を開始するので、予測される差ひずみは減少する。このプロセス全体の間、膜は完全なままであり、漏れは発生しなかった。
【0081】
[例2]
875℃における例1の膜の操作条件を、初期供給酸素分圧0.021MPa及び初期透過酸素分圧0.101MPaから供給酸素分圧が0.303MPa、透過酸素分圧が0.047MPaの最終操作条件に変化させた。分圧が変化する期間の間、低酸素分圧の膜の透過面と膜の中立面の間の膜材料の化学膨張による差ひずみは500ppm未満に維持される。これは、例1で使用したひずみ緩和の中間期間なしで一連の線形圧力ランプにより達成した。したがって、圧力及び酸素分圧は連続的に変化した。
【0082】
圧力ランプを表2に与える。供給圧力と透過圧力の初期値と最終値は、例1の場合と同じであるが、例2のプログラムは、例1よりも遅いランプ速度を有する圧力ランプのみからなる。表2の圧力ランプで操作した低酸素分圧の膜の透過面と膜の中立面の間の予測される差ひずみを、例1の差ひずみ履歴とともに図3に与える。例2に関する500ppmの最大許容差ひずみは例1のものと同じである。例2(表2)のプログラムによって化学膨張のために膜が破損する危険は、例1のプログラムに関する危険と同様のはずである。表2のプログラムは950分しかかからず、表1のプログラムよりも22時間以上節約される。この節約は、例1のプログラムよりも高い平均レベルで差ひずみを維持することから生じる。
【0083】
いったん最大差ひずみ(470ppm)に達すると、このプログラムにより、ひずみのクリープ緩和速度と化学膨張ひずみの発生速度がほぼバランスし、ひずみがほぼ一定に保持される。差ひずみを高く保持することにより、平均応力がより高く保持される。クリープ速度は応力の1.87乗に比例するので、クリープ速度は新しいプログラムにおいてより高い。更なる時間の節約は、追加のランプ工程を加えることによって可能である。このプロセス全体の間、膜は完全なままであり、漏れは発生しなかった。
【0084】
【表2】

【0085】
[例3]
La0.9Ca0.1FeO3-δ(式中、δは化合物の電荷を中性にしかつ固体格子の酸素欠損に関係する数である)の組成を有する混合導電性金属酸化物から作製された膜を、合成ガスを生成するため900℃で操作した。膜モジュールは、膜の酸化体側で0.021MPaの酸素分圧を有する酸素含有供給ガスから合成ガスを発生させる。膜の透過側は、酸素分圧が10-5MPaの酸素透過ガスを含有している。次いで、膜の操作は、酸化体側の酸素分圧が0.101MPaであり、透過側のプロセスガスが3.56×10-13MPaの平衡酸素分圧を有するメタンと蒸気の部分改質混合物である条件に変更される。この変更の間、低酸素分圧の膜の透過面と膜の中立面の間の膜材料における最大差化学膨張ひずみは455ppm未満に維持される。
【0086】
クリープ速度を説明する経験式dy/dtはべき乗法則であり、
【数14】

式中、Sは応力、yはひずみ、tは時間、Aクリープはクリープ前指数関数、nは応力指数、PO2は酸素分圧、mは酸素分圧指数、Eクリープはクリープの活性化エネルギー、Rは気体定数、及びTは絶対温度である。Aクリープ、n、m及びEクリープの値は、経験的に決定される。
【0087】
単一の拘束されていない膜に関しては、応力は
【数15】

によりひずみと関係し、式中、Eはヤング率、νはポアソン比である。式(1)と式(2)を組み合わせると、
【数16】

となる。膜の中央線に関する化学膨張の差ひずみは、経験式
【数17】

によって与えられ、式中、CCE1は経験的に決定される定数、Tは温度(℃)、xv供給は温度Tにおける膜の供給面での酸素欠損分率、及びxv透過は温度Tにおける膜の透過側での酸素欠損分率である。所与の温度Tにおける酸素欠損分率xvは、経験式
【数18】

によって計算され、パラメータA、B、C及びDは表3に与えられる。
【0088】
【表3】

【0089】
式4、5A及び5Bを組み合わせて、酸素分圧の関数としての差化学膨張ひずみを
【数19】

(式中、PO2供給は膜の供給側の酸素分圧であり、PO2透過は膜の透過側の酸素分圧である)によって与えられるようにすることができる。透過酸素分圧が変化しているが、供給酸素分圧が一定である条件下では、差ひずみの変化率は、
【数20】

によって与えられる。
【0090】
透過酸素分圧が変化し膜がクリープしている条件下では、式(3)と式(8)を組み合わせて、時間の関数としてのクリープ速度と酸素分圧の変化率を説明する以下の式
【数21】

を与えることができ、式中、P透過(t)は時間の関数としての透過酸素分圧であり、CCE=CCE1[(T−20℃)/2]である。
【0091】
これらのモデルは、(1)簡易モデルが膜の応力状態を適切に説明し(2)引張と圧縮のクリープ速度が同じであるということを仮定している。応力モデルは、中立面のPO2の段階的な変化に関して膜をプレートとして近似している。
【0092】
クリープ緩和のモデルは、クリープ速度のモデルと、応力状態の簡易モデルと、化学膨張ひずみのモデルと、酸素の非化学量論の経験的なモデルと、使用する場合には圧力ランプ速度のモデルとを含む幾つかのモデルから構築される。
【0093】
本例においては、ポアソン比は0.325であり、ヤング率は850℃と900℃の間のヤング率の以下の線形補間によって説明される。
【数22】

【0094】
圧縮と引張のクリープ速度は同じである。経験的なクリープの関係式は、
【数23】

によって与えられ、式中、クリープ速度は1分当たりであり、応力はMPaであり、温度はKである。
【0095】
本例における酸素の非化学量論的特性は、経験式
【数24】

によって与えられ、式中、A、B、C及びDは表3に与えられるパラメータである。
【0096】
La0.9Ca0.1FeO3-δの化学膨張特性は、式
【数25】

によって与えられ、式中、CCE1は86.0683ppm/℃である。
【0097】
La0.9Ca0.1FeO3-δ膜は、膜を横切る差ひずみがないように膜の両側の空気と初めに平衡化した。この膜を、膜の第1の側に全圧0.3MPaの空気と、膜の第2の側に全圧1.56MPaの窒素とを伴って0.5℃/分で900℃に加熱した。窒素流中の酸素分圧は1.01Paであった。膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみを、膜を通る酸素フラックスによってプロセス流に酸素を加える前に膜の前縁条件で計算した。この温度ランプの最後で、膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみを、式(7)と式(8)により181ppmと計算した。次いで、膜をこの条件で7.5日間保持した。この期間の最後に、式(3)を用いた膜の透過面と膜の中立面の間の計算差ひずみは、差ひずみによって生じた応力のクリープ緩和により58.6ppmであった。
【0098】
この時点で、膜の透過側(即ち、プロセスガス側)のプロセスガス流は、1.01Paの酸素分圧を有する窒素混合物から、窒素モル分率0.728、蒸気モル分率0.272、水素モル分率5.25×10-4、CO2モル分率2.55×10-5、COモル分率1.4×10-4及びCH4モル分率4.22×10-5のガス流に変化した。温度を880℃に下げ、全圧を1.56MPaに維持した。透過側のこの混合ガスの平衡PO2は2.3×10-7Paであった。この混合ガスを導入した直後の膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみは387ppmと計算した。膜を3.5日間この温度でかつこれらのガス条件で保持した。この期間の最後に、式(3)を用いて、差ひずみによって生じる応力のクリープ緩和により起こる膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみを119ppmと計算した。
【0099】
次に、透過側のガス組成は、窒素モル分率0.726、蒸気モル分率0.271、水素モル分率2.59×10-3、CO2モル分率1.27×10-4、COモル分率6.96×10-4及びCH4モル分率2.10×10-4の組成に2.4日の期間をかけて線形に傾斜した。温度を880℃に維持し、全圧を1.56MPaに維持した。この混合ガスの平衡PO2は、ランプの最後で9.17×10-9Paであった。ランプの間の差ひずみを式(4)により計算し、ランプの間の膜の透過面と膜の中立面の間の最大差ひずみは228ppmであった。ランプの最後の膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみは124ppmと計算した。
【0100】
次いで、透過側のガス組成は、窒素モル分率0.716、蒸気モル分率0.267、水素モル分率1.24×10-2、CO2モル分率6.05×10-4、COモル分率3.23×10-3及びCH4モル分率1.00×10-3の組成に2.3日の期間をかけて線形に傾斜した。温度を880℃に維持し、全圧を1.56MPaに維持した。この混合ガスの平衡PO2は、ランプの最後で3.94×10-10Paであった。ランプの間の膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみを式(4)により計算し、ランプの間の最大ピーク差ひずみは284ppmであった。ランプの最後の膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみは240ppmと計算した。
【0101】
次に、膜の透過側のガス組成は、窒素モル分率0.707、蒸気モル分率0.264、水素モル分率2.11×10-2、CO2モル分率1.03×10-3、COモル分率5.65×10-3及びCH4モル分率1.71×10-3の組成に速やかに(即ち、段階的な変化で)変化した。温度を880℃に維持し、全圧を1.56MPaに維持した。この混合ガスの平衡PO2は、組成変化の後1.33×10-10Paであった。ランプの間の膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみを式(7)と式(8)により計算した。差ひずみは288ppmであった。
【0102】
この時点で、膜の透過側のガス組成は、窒素モル分率0.607、蒸気モル分率0.272、水素モル分率0.087、CO2モル分率0.004、COモル分率0.023及びCH4モル分率0.007の組成に0.625日の期間をかけて線形に傾斜した。温度を880℃に維持し、全圧を1.56MPaに維持した。この混合ガスの平衡PO2は、ランプの最後で8.38×10-12Paであった。ランプの間の膜の透過面と膜の中立面の間のピーク差ひずみを式(4)により366ppmと計算した。ランプの最後で差ひずみは356ppmと計算した。
【0103】
この時点で、透過側のガス組成は、窒素モル分率0、蒸気モル分率0.272、水素モル分率0.52、CO2モル分率0.025、COモル分率0.140及びCH4モル分率0.042の組成に0.833日の期間をかけて線形に傾斜した。温度を880℃に維持し、全圧を1.56MPaに維持した。この混合ガスの平衡PO2は、ランプの最後で3.56×10-13Paであった。ランプの間の膜の透過面と膜の中立面の間のピーク差ひずみを式(4)により445ppmと計算した。ランプの最後で差ひずみは428ppmと計算した。このプロセス全体の間、膜は完全なままであり、漏れは発生しなかった。
【0104】
[例4]
本例においては、900℃における例3の膜の操作条件を、酸化体の供給酸素分圧が0.021MPa、プロセスガス(透過)酸素分圧が10-5MPaである第1の条件から、酸化体の供給酸素分圧が0.101MPa、透過側のプロセスガスが3.56×10-13Paの平衡酸素分圧を有するメタンと蒸気の部分改質混合物である第2の条件に変更した。この変更は、酸素分圧が変化する速度を制御することなくなされた。
【0105】
膜を初めに両側で空気と平衡化したため、膜を横切る初期の差ひずみはなかった。次いで、膜の酸化体側に全圧0.3MPaの空気と、膜の透過側に全圧1.56MPaの窒素−酸素混合ガス(窒素流中の酸素分圧が1.01Paである)とを伴って、膜を周囲温度から880℃に0.5℃/分で加熱した。膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみを、膜を通る酸素フラックスによってプロセス流に酸素を透過させる前に膜の前縁で計算した。この温度ランプの最後で、膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみを、式(7)と式(8)により161ppmと計算した。
【0106】
この時点で、膜の透過側のガス組成は、窒素モル分率0.707、蒸気モル分率0.264、水素モル分率2.11×10-2、CO2モル分率1.03×10-3、COモル分率5.65×10-3及びCH4モル分率1.71×10-3の組成に速やかに変化した。温度を880℃に維持し、全圧を膜の透過側で1.56MPaに維持した。この混合ガスの平衡PO2は、組成変化の後1.33×10-10Paであった。
【0107】
組成変化後の膜の透過面と膜の中立面の間の差ひずみを式(7)と式(8)により527ppmと計算した。ガス組成が変化した直後に、膜が破損し、膜の高圧側から膜の低圧空気側に多量の漏れが生じた。本例は、膜のクリープ緩和を考慮しないで最大許容値を超えて差ひずみを急激に増加させると膜が破損する可能性があることを示している。
【0108】
上に与えられる例においては、膜の酸化体供給側と透過側を隔てる簡単な平面又はシートとして膜をモデル化した。これは膜の非常に簡単なモデルである。より複雑な幾何学的形状を有する膜のより詳しい構造モデルは、ひずみと応力のプロファイルが膜の厚さを通して対称的でない酸素活性における勾配から生じる応力とひずみを予測するのに使用することができる。膜の有限要素モデルは、時間及びガス雰囲気パラメータの関数として応力とひずみのプロファイルを計算するのに使用できる方法の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する酸素透過性の混合導電性膜を操作する方法であって、透過面と酸化体供給面の間の差ひずみを膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を変化させることにより選択された最大値未満の値に制御することを含む、方法。
【請求項2】
膜の温度が、本質的に一定の温度に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
透過面と酸化体供給面の間の差ひずみの選択された最大値が約1000ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧が、連続的に又は不連続に変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
酸素分圧が、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素モル分率とガスの全圧の一方又は両方を変化させることにより、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方で制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
膜の透過側の酸素分圧が、
(a)CO、H2及びCH4から選択された1つ又は複数の還元性ガスと、CO2及びH2Oから選択された1つ又は複数の酸素含有ガスとを含む混合ガスを膜の透過側に通過させること;並びに
(b)混合ガスの組成、及び任意選択で膜の透過側のガスの全圧を変化させること
によって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有し、式中、Lnが、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aが、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’が、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Zr、Mg及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δが化合物の電荷を中性にする数である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(LaxCa1-xwFeO3-δを有し、式中、1.0>x>0.5、1.1≧w≧1.0であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(LaxSr1-xwCoO3-δを有し、式中、1.0>x>0.1、1.05≧w>0.95であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(La0.4Sr0.6wCoO3-δを有し、式中、1.05≧w>0.95であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、透過面、及び酸化体供給面と透過面から等距離の膜中立面を有する酸素透過性の混合導電性膜を操作する方法であって、透過面と膜中立面の間の差ひずみを膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を変化させることにより選択された最大値未満の値に制御することを含む、方法。
【請求項12】
透過面と膜中立面の間の差ひずみの選択された最大値が約500ppm未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する酸素透過性の混合導電性膜を操作する方法であって、
(a)膜を選択された本質的に一定の温度に加熱し、第1の二原子酸素含有ガスを酸化体供給側に導入して、第2の二原子酸素含有ガスを透過側に導入すること;
(b)膜の供給側と透過側の酸素分圧を決定すること;
(c)膜の透過面と酸化体供給面の間の初期差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;
(d)膜の酸化体供給面と透過面の間の最大許容差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;並びに
(e)供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を選択された本質的に一定の温度で変化させ、酸化体供給面と透過面の間の差ひずみを(d)の最大許容差ひずみよりも低い値に維持すること
を含む、方法。
【請求項14】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧が、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素モル分率と全圧の一方又は両方を変化させることにより制御される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
膜の透過側の酸素分圧が、
(a)CO、H2及びCH4から選択された1つ又は複数の還元性ガスと、CO2及びH2Oから選択された1つ又は複数の酸素含有ガスとを含む混合ガスを膜の透過側に導入すること;並びに
(b)混合ガスの組成、及び任意選択で膜の透過側のガスの全圧を変化させること
によって制御される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧が連続的に変化する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧が不連続に変化する、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有し、式中、Lnが、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aが、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’が、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Zr、Mg及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δが化合物の電荷を中性にする数である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(LaxCa1-xwFeO3-δを有し、式中、1.0>x>0.5、1.1≧w≧1.0であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(LaxSr1-xwCoO3-δを有し、式中、1.0>x>0.1、1.05≧w>0.95であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(La0.4Sr0.6wCoO3-δを有し、式中、1.05≧w>0.95であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
混合導電性膜の酸素回収システムを操作する方法であって、
(a)混合導電性金属酸化物材料から作製され、酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する膜を含む少なくとも1つの膜モジュールを用意すること;
(b)膜及び膜モジュールを選択された本質的に一定の温度に加熱し、酸素含有ガスを酸化体供給側に導入して、酸素富化ガスを透過側から回収すること;
(c)膜の供給側と透過側の酸素分圧を決定すること;
(d)膜の酸化体供給面と透過面の間の初期差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;
(e)膜の酸化体供給面と透過面の間の最大許容差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;並びに
(f)供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を選択された本質的に一定の温度で変化させ、透過面と酸化体供給面の間の差ひずみを最大許容差ひずみよりも低い値に維持すること
を含む、方法。
【請求項23】
透過面と酸化体供給面の間の差ひずみの最大値が約1000ppm未満である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧が連続的に変化する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧が不連続に変化する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有し、式中、Lnが、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aが、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’が、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Zr及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δが化合物の電荷を中性にする数である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(LaxSr1-xwCoO3-δを有し、式中、1.0>x>0.1、1.05≧w>0.95であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(La0.4Sr0.6wCoO3-δを有し、式中、1.05≧w>0.95であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
混合導電性膜の炭化水素酸化システムを操作する方法であって、
(a)混合導電性金属酸化物材料から作製され、酸化体供給側、酸化体供給面、透過側、及び透過面を有する膜を含む少なくとも1つの膜モジュールを用意すること;
(b)膜及び膜モジュールを選択された本質的に一定の温度に加熱し、酸素含有ガスを膜モジュールの酸化体供給側に導入し、炭化水素含有ガスを膜モジュールの透過側に導入して、炭化水素の酸化生成物を膜モジュールの透過側から回収すること;
(c)膜の酸化体供給側と透過側の酸素分圧を決定すること;
(d)膜の酸化体供給面と透過面の間の初期差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;
(e)膜の酸化体供給面と透過面の間の最大許容差ひずみを選択された本質的に一定の温度で決定すること;並びに
(f)酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧を選択された本質的に一定の温度で変化させ、透過面と酸化体供給面の間の差ひずみを最大許容差ひずみよりも低い値に維持すること
を含む、方法。
【請求項30】
炭化水素含有ガスがメタンを含み、炭化水素の酸化生成物が水素と一酸化炭素を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
透過面と酸化体供給面の間の差ひずみの最大値が約1000ppm未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧が連続的に変化する、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素分圧が不連続に変化する、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
酸素分圧が、膜の酸化体供給側と透過側の一方又は両方の酸素モル分率とガスの全圧の一方又は両方を変化させることにより制御される、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
酸化体供給側の酸素分圧が、酸化体供給側の酸素モル分率を変化させることにより制御される、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
膜の透過側の酸素分圧が、
(a)CO、H2及びCH4から選択された1つ又は複数の還元性ガスと、CO2及びH2Oから選択された1つ又は複数の酸素含有ガスとを含む混合ガスを膜の透過側に導入すること;並びに
(b)混合ガスの組成、及び任意選択で膜の透過側のガスの全圧を変化させること
によって制御される、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(Ln1-xxw(B1-yB’y)O3-δを有し、式中、Lnが、La、IUPAC周期表のDブロックランタニド元素、及びYから選択された1つ又は複数の元素を表し、Aが、Mg、Ca、Sr及びBaから選択された1つ又は複数の元素を表し、B及びB’が、それぞれSc、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Al、Zr、Mg及びGaから選択された1つ又は複数の元素を表し、0≦x≦1、0≦y≦1、及び0.95<w<1.05であり、δが化合物の電荷を中性にする数である、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
混合導電性金属酸化物材料が、一般的な化学量論的組成(LaxCa1-xwFeO3-δを有し、式中、1.0>x>0.5、1.1≧w≧1.0であり、δが組成物の電荷を中性にする数である、請求項37に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−137228(P2010−137228A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−51336(P2010−51336)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【分割の表示】特願2005−272251(P2005−272251)の分割
【原出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】