説明

過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物および粘着テープ

【課題】250℃以上の高温処理を行った場合にも、再剥離時に目視で被着体上にシリコーン成分が認められない超低移行性の感圧接着層を形成する過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物、およびこれを用いた粘着テープを提供する。
【解決手段】
下記成分(A)〜成分(C)からなる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
(A):下記一般式(1)で示される、分子鎖両末端にケイ素原子結合アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン 100重量部


(式中、Rは非置換もしくは置換の一価の飽和炭化水素基、Rは炭素原子数2〜10のアルケニル基であり、kは2000以上の整数であり、sは0≦s/(k+s)≦0.02の関係を満たす0または正の整数である。)
(B):1分子中に1以上のシラノール基(=OH基)を有するオルガノポリシロキサンレジン 10〜200重量部 および
(C):少なくとも1種の有機過酸化物 触媒量。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性用途に用いた場合にも、優れた粘着力を保持し、再剥離時の糊残りの発生や被着体へのシリコーン成分の移行をほとんど完全に抑制することができる超低移行性の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物、および該シリコーン系感圧接着剤組成物を用いた粘着テープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーン系感圧接着剤組成物は、アクリル系やゴム系の感圧接着剤組成物と比較して、電気絶縁性、耐熱性、耐寒性、各種被着体に対する粘着性に優れるという特徴を有し、その硬化機構により、付加反応硬化型、縮合反応硬化型、過酸化物硬化型に分類される。特に、過酸化物硬化型のシリコーン系感圧接着剤組成物は、触媒である有機過酸化物の量を調節することにより、形成される感圧接着層の物理特性を硬化時に調整できるという利点がある。かかる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物は、例えば、特許文献1または特許文献2等に記載されており、シラノール基を有するオルガノポリシロキサン、シラノール基を有するオルガノポリシロキサンレジン、有機過酸化物および有機溶剤からなる過酸化物硬化型のシリコーン系感圧接着剤組成物は公知である。また、該シラノール基を有するオルガノポリシロキサンが任意でアルケニル基を有してもよいことが記載されている。
【0003】
また、シリコーン系感圧接着剤組成物の中でも特に耐熱性が要求される電気・電子材料の分野で使用される接着テープ、すなわち、耐熱テープ、電気絶縁テープ、ヒートシールテープ、メッキマスキングテープ、熱処理用マスキングテープ等の用途で、過酸化物硬化型のシリコーン系感圧接着剤組成物を使用すると、被着体の酸化、変色が発生しやすいという問題があった。すなわち、上記の用途においては接着テープの被着体が一般には金属であるため、高温下で処理を行うと、テープ−金属の接着面で金属が触媒である有機過酸化物およびその分解生成物に暴露して、酸化、変色などが発生する場合がある。このため、かかる電気・電子材料の分野で使用される熱処理用接着テープには、付加反応硬化型のシリコーン系感圧接着剤組成物を使用することが一般的である。(例えば、特許文献3または特許文献4参照)。
【0004】
さらに、被着体として、過酸化物およびその分解生成物の影響を受けにくい被着体、例えばステンレススチール板や表面を金メッキ処理した基板に対して過酸化物硬化型のシリコーン系感圧接着剤組成物からなる接着層を有する接着テープを使用した場合、酸化、変色などは抑制されるが、再剥離時の糊残りの発生や被着体へのシリコーン成分の移行が発生しやすいという問題があった。
【0005】
一方、付加反応硬化型もしくは縮合反応型の硬化機構および過酸化物硬化型の硬化機構を併用した硬化型のシリコーン系感圧接着剤組成物も提案されている(例えば、特許文献5〜特許文献8参照)。これらの硬化系は、アルケニル基を必須とするオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンもしくはシラノール基を有するオルガノポリシロキサン、RSiO1/2単位とSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサンレジン、ヒドロシリル化触媒もしくはシラノール反応触媒、有機過酸化物および有機溶媒からなる硬化系が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらのシリコーン系感圧接着剤組成物を接着層に有する粘着テープを耐熱性用途に用いた場合、再剥離面には目視で確認できる程度のシリコーン残留物が付着し、有機溶剤により洗浄処理する工程が必要不可欠であった。そこで、該有機溶剤により洗浄処理工程を省略すべく、特に電気回路基板のはんだリフロー工程において熱処理用マスキングテープとして使用する粘着テープには、シリコーン成分の残存が目視で確認できない程度に少ない非移行タイプの感圧接着剤が求められている。上記特許文献中のシリコーン系感圧接着剤組成物においては、250℃以上の高温条件で加熱保持を行うと糊残りの発生を抑えることはできるものの、高熱処理後に被着体上の溶剤洗浄処理工程が省略可能なほどに、各種被着体上への着色やシリコーン成分の残存を抑制するには至っていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平07−70540号公報
【特許文献2】特開平07−53941号公報
【特許文献3】特開平04−335083号公報
【特許文献4】特開平10−110156号公報
【特許文献5】特開平04−335083号公報
【特許文献6】特開平10−324860号公報
【特許文献7】特開平05−214316号公報
【特許文献8】特開2004−506778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題を解決すべくなされたものであり、250℃以上の高温処理を行った場合にも、再剥離時に目視で被着体上にシリコーン成分が認められない超低移行性の感圧接着層を形成する過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物、およびこれを用いた粘着テープ、特には熱処理用マスキングテープを提供することにある。
【0009】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、下記成分(A)〜成分(C)からなる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物および該組成物を硬化してなる感圧接着層を有する粘着テープにより前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
(A):下記一般式(1)で示される、分子鎖両末端にケイ素原子結合アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン 100重量部
【化1】

(式中、Rは非置換もしくは置換の一価の飽和炭化水素基、Rは炭素原子数2〜10のアルケニル基であり、kは2000以上の整数であり、sは0≦s/(k+s)≦0.02の関係を満たす0または正の整数である。)
(B):R(OH)SiO1/2単位 (式中、Rは独立に炭素原子数1〜10の非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。)、RSiO1/2単位(式中、Rは前記同様の基である。)及びSiO4/2単位からなり、1分子中に1以上のシラノール基を有するオルガノポリシロキサンレジン 10〜200重量部 および
(C):少なくとも1種の有機過酸化物 触媒量。
【0010】
すなわち、本発明は、
「〔1〕 下記成分(A)〜成分(C)からなる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
(A):下記一般式(1)で示される、分子鎖両末端にケイ素原子結合アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン 100重量部
【化2】

(式中、Rは非置換もしくは置換の一価の飽和炭化水素基、Rは炭素原子数2〜10のアルケニル基であり、kは2000以上の整数であり、sは0≦s/(k+s)≦0.02の関係を満たす0または正の整数である。)
(B):R(OH)SiO1/2単位 (式中、Rは独立に炭素原子数1〜10の非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。)、RSiO1/2単位(式中、Rは前記同様の基である。)及びSiO4/2単位からなり、1分子中に1以上のシラノール基(=OH基)を有するオルガノポリシロキサンレジン 10〜200重量部 および
(C):少なくとも1種の有機過酸化物 触媒量。
〔2〕 前記の成分(B)が、SiO4/2単位に対する、R(OH)SiO1/2単位およびRSiO1/2単位の和の比が0.5〜1.2の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジンである〔1〕に記載の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
〔3〕 前記の成分(B)が、成分(B)に含まれる全ての官能基のうち、90〜99.5モル%がメチル基であり、0.5〜10モル%がシラノール基であるオルガノポリシロキサンレジンである〔1〕に記載の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
〔4〕 さらに、(D)有機溶剤を含む、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
〔5〕 支持フィルム上に、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物を硬化してなる感圧接着層を有する粘着テープ。
〔6〕 熱処理用マスキングテープである〔5〕に記載の粘着テープ。
〔7〕 200℃〜300℃の高温下で処理されることを特徴とする熱処理用マスキングテープである〔5〕に記載の粘着テープ。」
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、250℃以上の高温処理を行った場合にも、再剥離時に目視で被着体上にシリコーン成分が認められない超低移行性の感圧接着層を形成する過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物、およびこれを用いた粘着テープ、特には熱処理用マスキングテープを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
はじめに、本発明の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物について詳細に説明する。本発明の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物は、(A)分子鎖両末端にケイ素原子結合アルケニル基を有し、そのケイ素原子結合アルケニル基の含有量が所定の範囲にある高重合度のジオルガノポリシロキサン、(B)シラノール基を有するオルガノポリシロキサンレジンおよび(C)有機酸過酸化物からなり、該組成物を硬化させてなる感圧接着層の再剥離時の糊残りの発生や被着体へのシリコーン成分の移行をほとんど完全に抑制することを実現するものである。
【0013】
成分(A)は本発明の特徴となる成分であり、下記一般式(1)で示される、分子鎖両末端にケイ素原子結合アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンである。
【化3】

(式中、Rは非置換もしくは置換の一価の飽和炭化水素基、Rは炭素原子数2〜10のアルケニル基であり、kは2000以上の整数であり、sは0≦s/(k+s)≦0.02の関係を満たす0または正の整数である。)
本発明は、分子鎖両末端にケイ素原子結合アルケニル基を有し、重合度およびアルケニル基の含有量が所定の範囲にあるジオルガノポリシロキサンである本成分(A)を、後述する成分(B)と併用することにより、得られた過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物を硬化させてなる感圧接着層の再剥離時の糊残りの発生や被着体へのシリコーン成分の移行をほとんど完全に抑制することを実現するものである。
【0014】
式中、Rは非置換もしくは置換の一価の飽和炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基などのアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;およびこれらの一価の飽和炭化水素基の一個以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基などが挙げられる。工業的には、メチル基またはフェニル基が特に好ましい。
また、Rは炭素原子数2〜10のアルケニル基であり、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などが例示される。好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基であり、ビニル基またはヘキセニル基が特に好ましい。
【0015】
重合度kは、2000以上の整数であることが必要であり、好ましくは2,000〜100,000である。成分(A)の重合度kが2000未満では、得られる感圧接着層において十分な低移行性が実現できない場合がある。また、アルケニル基を有するシロキサン単位部分の重合度sは0または正の整数であり、0≦s/(k+s)≦0.02の関係を満たす数であることが必要である。s/(k+s)が前記上限を超える場合は、後述する硬化触媒である成分(C)の量を調整しても、安定した感圧接着層を形成できない、あるいは感圧接着層が基材に十分密着しないなどの不具合が生じる場合があり、得られる感圧接着層において十分な低移行性が実現できない。また、成分(A)が分子鎖両末端に炭素原子数2〜10のアルケニル基を有しない場合、得られる感圧接着層において十分な低移行性が実現できない。かかる成分(A)は、分子鎖両末端にのみ炭素原子数2〜10のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンであることが特に好ましい。
【0016】
かかる成分(A)は、25℃における粘度が50,000mPa・s以上であることが好ましく、特には粘度が100,000mPa・s以上の液状のジオルガノポリシロキサンまたは一般にシリコーン生ゴムと呼ばれる可塑度を有するジオルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。
【0017】
成分(B)は、R(OH)SiO1/2単位、RSiO1/2単位 及び SiO4/2単位からなり、1分子中に1以上のシラノール基(OH基)を有するオルガノポリシロキサンレジンである。本発明組成物を硬化させてなる感圧接着層の低移行性の見地から、該成分(B)に含まれる全ての官能基、すなわち、官能基OHおよび官能基Rの総和のうち、0.5〜10モル%がシラノール基(OH基)であることが好ましく、1〜5モル%がシラノール基(OH基)であることが特に好ましい。
は独立に炭素原子数1〜10の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基などのアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基;およびこれらの一価の炭化水素基の一個以上の水素原子がフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基などが挙げられる。工業的には、メチル基が好ましく、成分(B)に含まれる全ての官能基、すなわち、前記のシラノール基(OH基)および前記の官能基Rの総和のうち、90〜99.5モル%がメチル基であることが好ましく、95〜99モル%がメチル基であることが特に好ましい。
【0018】
成分(B)を構成するSiO4/2単位に対するR(OH)SiO1/2単位およびRSiO1/2単位のモル比の和は0.5〜1.2であることが好ましく、0.6〜0.9の範囲内であることが特に好ましい。R(OH)SiO1/2単位およびRSiO1/2単位のSiO4/2単位に対するモル比の和が前記下限未満では得られる感圧接着剤の粘着力が低下する場合があるからであり、該モル比が前記上限を超えると得られる感圧接着剤の凝集力(保持力)が低下する傾向があるからである。
【0019】
本発明の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物において、成分(B)は、成分(A)100重量部に対して10〜200重量部の範囲であることが必要であり、好ましくは25〜100重量部の範囲である。成分(B)の配合量が前記下限未満では、得られた過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤を硬化させてなる感圧接着層が被着体に十分に接着しない場合があり、また前記上限を超えると、加熱処理後に成分(B)の一部が被着体に残存することがあり、本発明の目的が損なわれるからである。
【0020】
成分(C)は、少なくとも1種の有機酸過酸化物であり、過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤の硬化触媒である。具体的には、1分子中に少なくとも二個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンからなる架橋性シリコーンである成分(A)またはシラノール基を有するオルガノポリシロキサンレジンである成分(B)の硬化触媒である。かかる成分(C)は、従来公知の過酸化物硬化機構の触媒として使用されている各種の有機酸過酸化物を、特に制限なく使用することができる。例えば、過酸化ベンゾイル、4−モノクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、tert−ブチルオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチルパーオキシヘキサン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジ−イソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、2,5−ジ−tert−ブチルパーオキシヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、クミル−tert−ブチルパーオキサイド等の1種を単独で又は2種以上の組み合わせで使用することができる。本発明において、好ましい成分(C)は、過酸化ベンゾイルである。
【0021】
本発明の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物において、成分(C)の使用量は触媒量であり、50〜200℃の温度条件下で加熱することにより、成分(A)または成分(B)の硬化反応を促進する量であれば特に限定されるものではないが、実用的には、成分(A)および成分(B)の合計量100重量部に対して0.2〜3.0重量部であり、0.5〜2.0重量部であることが好ましい。成分(C)の使用量が前記下限未満では硬化反応が十分に促進されない場合があり、前記上限を超えると、有機酸過酸化物そのもの、あるいは有機酸過酸化物の分解生成物に由来する成分が、加熱処理後の被着体に残存して、酸化、変色、再剥離時の糊残りの発生または被着体へのシリコーン成分の移行が発生しやすくなり、本発明の目的が損なわれるからである。
【0022】
また、本発明の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物には上記の成分(A)〜成分(C)以外に、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じてこれら以外の成分を添加配合することができる。他の成分としては、溶剤、その他従来公知の各種添加剤が例示される。
【0023】
本発明の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物は、溶剤を配合あるいは溶剤に分散して使用することができる。かかる溶剤として、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶剤、ヘキサン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族系炭化水素溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1、4−ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどの重合度3〜6の環状ポリシロキサン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、n−プロパノールなどのアルコール類、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、メチルペンタフルオロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素があげられる。トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶剤、ヘキサン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族系炭化水素溶剤が好ましい。特に好ましくは、トルエンまたはキシレンであり、2種類以上の溶剤からなる混合物であっても良い。これらの溶剤の配合量は特に限定されるものではないが、一般には、成分(A)〜成分(C)の合計量100重量部に対して5〜1000重量部の範囲である。
【0024】
本発明の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物は、上記成分(A)〜成分(C)および必要に応じてその他任意の成分を混合することにより調製することができる。各成分の均一混合は、各種攪拌機あるいは混練機を用いて、0〜200℃の温度で混合することにより行なわれる。本発明組成物は、前記成分(A)〜成分(C)を単に均一に混合することにより製造することができる。各成分の添加順序は特に制限されるものではないが、混合後、直ちに使用しないときは、成分(A)、成分(B)および溶剤からなる混合物と成分(C)を別々に保存しておき、使用直前に両者を混合することができる。
【0025】
本発明にかかる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物は、基材に塗工した後、室温もしくは150〜220℃の温度条件下で加熱することにより硬化させて、前記基材の表面に感圧接着層を形成することができる。前記塗工方法としては、グラビアコート、オフセットコート、オフセットグラビア、ロールコート、リバースロールコート、エアナイフコート、カーテンコート、コンマコートが例示される。
【0026】
以下、本発明にかかる粘着テープについて詳細に説明する。
本発明の粘着テープは、支持フィルム上に、前記の本発明にかかる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物を硬化してなる感圧接着層を有する粘着テープであることを特徴とする。
【0027】
支持フィルムは200℃以上の高温下で処理可能な耐熱性の高い支持フィルムであることが好ましく、例えば、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリアリレート、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルスルフォン(PES)等の樹脂フィルム、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔が好適に用いられる。フィルムの厚さは特に制限されないが、通常5〜300μm程度である。さらに、支持フィルムと感圧接着層の密着性を向上させるために、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理された支持フィルムを用いてもよい。
【0028】
粘着テープは、本発明にかかる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物を、前記支持フィルムに塗工した後、必要に応じて70〜120℃で予備乾燥させた後、150〜220℃の温度条件下で加熱することにより硬化させて、前記フィルムの表面に感圧接着層を形成することにより作製することができる。塗工方法は、前記と同様の方法が例示される。支持フィルム上でシリコーン系感圧接着剤を硬化させる場合、加熱することが好ましく、特に160〜200℃の温度条件で加熱することが好ましい。また、塗工量は用途に応じて設定されるが、典型的には、本発明にかかる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物を硬化してなる感圧接着層の厚みとして2〜200μm、マスキングテープ用途には、5〜50μmである。
【0029】
本発明の粘着テープは、特に、耐熱性に優れ、過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物からなる感圧接着層の再剥離時の糊残りの発生や被着体へのシリコーン成分の移行をほとんど完全に抑制することができるため、耐熱テープ、電気絶縁テープ、ヒートシールテープ、メッキマスキングテープ、熱処理用マスキングテープ等の用途に有用である。特に、本発明の粘着テープは、はんだリフロー工程等において200℃〜300℃の高温下、特には250℃〜300℃の高温下で処理されることを特徴とする熱処理用マスキングテープ又は仮止めテープとして極めて有用である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。下記の例において、過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物の粘着力及び高温に曝した後の糊残り性およびシリコーン移行性は以下の方法で測定した。なお、実施例および比較例中、Meはメチル基を表し、Viはビニル基を表す。また、%は重量%を表す。

[粘着力]
ポリイミド(PI)樹脂からなる支持体上にシリコーン系感圧接着剤組成物を硬化後の感圧接着層が15μm前後の厚さになるように塗工した後、これを180℃で2分間加熱して粘着シートを作製した。次に、この粘着シートを剥離フィルムに、ラミネーターを用いて貼り合わせ、50℃のオーブン内で1日エージングした。室温まで冷却した後20mm幅に切断して粘着テープを作製し、この粘着テープを剥離フィルムから剥がして、鏡面ステンレススチール板(SUS304)からなる被着体に2Kgfのゴムローラを用いて圧着させた。その後、室温下、30分間静置した。これを定速(300mm/分)の引張試験機を用いて、180°引きはがし法により粘着力を測定した。

[高温に曝した後の糊残り性及びシリコーン移行性]
ポリイミド(PI)樹脂からなる支持体上にシリコーン系感圧接着剤組成物を硬化後の感圧接着層が15μm前後の厚さになるように塗工した後、これを180℃で2分間加熱して粘着シートを作製した。次に、この粘着シートを剥離フィルムに、ラミネーターを用いて貼り合わせ、50℃のオーブン内で1日エージングした。室温まで冷却した後20mm幅に切断して粘着テープを作製した。この粘着テープを剥離フィルムから剥がして、鏡面ステンレススチール板(SUS304)からなる被着体、あるいは銅貼ガラスエポキシ樹脂上に金メッキ加工した基板からなる被着体に2Kgfのゴムローラを用いて圧着させた。その後、250℃で10分間エージングし、オーブンから取り出し、室温下、30分間静置して、これを定速(300mm/分)の引張試験機を用いて、180°で引きはがして各被着体上への糊残り性およびシリコーン移行性を以下の基準により目視で確認した。
<糊残り性>
○ : 糊残りは全く見られない。
△ : 糊残りが微かに見られる。
× : 糊残りが見られる。
<シリコーン移行性>
○ : シリコーン接着層の痕跡が被着体上に全く残らない。
△ : シリコーン接着層の痕跡が被着体上に微かに見られる。
× : シリコーン接着層の痕跡が被着体上に残る。
*それぞれの中間的な評価は、○〜△,△〜×と評価した。
【0031】
[実施例1]
(A)下記平均構造式で表される分子鎖末端のみにビニル基を有するジオルガノポリシロキサン(平均分子量296,800,ビニル基含有量:0.02重量%) 28.0重量部、
ViMeSiO(MeSiO)4000SiMeVi
(B)下記平均構造式で表されるMeSiO1/2単位、HOMeSiO1/2単位およびSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサンレジン(平均分子量4605 ,OH基含有量:1.11重量%)を固形分で73.1重量%含むトルエン溶液 16.4重量部、
{MeSiO1/227{HOMeSiO1/2{SiO4/236
(C)過酸化ベンゾイル(日本油脂株式会社製、ナイパーBMT−K40) 2.0重量部、
キシレン 2.0重量部およびトルエン 73.5重量部を室温にて混合し、オルガノポリシロキサン成分が33重量%である過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物P1を調製した。次に、この過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤P1を用いて粘着テープを作製し、前記の方法で粘着力、シリコーン移行性を評価した。
【0032】
[実施例2]
実施例1の成分(A)の代わりに、下記平均構造式で表される分子鎖末端/側鎖にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン(平均分子量298,500,ビニル基含有量:0.20重量%) 28.0重量部、
ViMeSiO(MeSiO)4000(ViMeSiO)20SiMeVi
を使った以外は実施例1と同様にして、過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物P2を調製した。次に、この過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤P2を用いて粘着テープを作製し、前記の方法で粘着力、シリコーン移行性を評価した。
【0033】
[実施例3]
実施例1の成分(A)の代わりに、下記平均構造式で表される分子鎖末端/側鎖にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン(平均分子量298,500,ビニル基含有量:0.38重量%) 28.0重量部、
ViMeSiO(MeSiO)4000(ViMeSiO)40SiMeVi
を用いた以外は実施例1と同様にして、オルガノポリシロキサン成分が33重量%であるシリコーン系感圧接着剤組成物P3を調製した。次に、このシリコーン系感圧接着剤P3を用いて粘着テープを作製し、前記の方法で粘着力、シリコーン移行性を評価した。
【0034】
[比較例1]
実施例1の成分(A)の代わりに、下記平均構造式で表される分子鎖末端にシラノール基を有する生ゴム状のジオルガノポリシロキサン(平均分子量296,784,シラノール基含有量:0.01重量%) 28.0重量部
(OH)MeSiO(MeSiO)4000SiMe(OH)
を用いた以外は実施例1と同様にして、オルガノポリシロキサン成分が33重量%であるシリコーン系感圧接着剤組成物C1を調製した。次に、このシリコーン系感圧接着剤C1を用いて粘着テープを作製し、前記の方法で粘着力、シリコーン移行性を評価した。
【0035】
[比較例2]
実施例1の成分(B)の代わりに、下記平均構造式で表されるMeSiO1/2単位、およびSiO4/2単位からなり、分子中にシラノール基を有しないオルガノポリシロキサンレジン(平均分子量4599)を固形分で73.1重量%含むトルエン溶液 16.4重量部、
{MeSiO1/230{SiO4/236
を用いた以外は実施例1と同様にして、オルガノポリシロキサン成分が33重量%であるシリコーン系感圧接着剤組成物C2を調製した。次に、このシリコーン系感圧接着剤C2を用いて粘着テープを作製し、前記の方法で粘着力、シリコーン移行性を評価した。
【0036】
[比較例3]
(a)下記平均構造式で表される粘度55mPa・sの分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたメチルハイドロジェン/ジメチルポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量 1.0重量% )1.2重量部、
MeSiO(MeSiO)24(MeHSiO)50SiMe
(b)下記平均構造式で表されるジオルガノポリシロキサン(平均分子量300,000,ビニル基含有量:0.06重量%) 31.8重量部
ViMeSiO(MeSiO)4000(MeViSiO)SiMeVi
(c)下記平均構造式で表されるMeSiO1/2単位とSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサンレジン(MeSiO1/2単位とSiO4/2単位の比は、0.8/1)を固形分換算で68.1重量%含むトルエン溶液 20.0重量部、
{MeSiO1/230{SiO4/236
(d)塩化白金酸の1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体 錯体中の白金金属が上記の成分(A)〜(C)の合計量に対して重量単位で100ppmとなるような量、キシレン 1.65重量部 および トルエン 91.7重量部を混合することによりオルガノポリシロキサン成分が33重量%である付加硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物C3を調製した。次に、このシリコーン系感圧接着剤C3を用いて粘着テープを作製し、前記の方法で粘着力、シリコーン移行性を評価した。
【0037】
実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例3の実験結果を表1に示す。本発明の成分(A)〜成分(C)からなる本発明のシリコーン感圧接着剤組成物、特に実施例1および実施例2の組成物は、耐熱性用途に用いた場合にも、十分な粘着力を有し、外観に変化がなく、再剥離時の糊残りの発生や被着体へのシリコーン成分の移行をほとんど完全に抑制することができた。一方、本発明の成分(A)と異なるジオルガノポリシロキサンを用いた比較例1、本発明の成分(B)と異なるオルガノポリシロキサンレジンを用いた比較例2の組成物はシリコーン移行性が不十分であった。また、付加反応硬化型のシリコーン感圧接着剤組成物(比較例3)は、本発明組成物と比較して、シリコーン移行性が不十分であった。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)〜成分(C)からなる過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
(A):下記一般式(1)で示される、分子鎖両末端にケイ素原子結合アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン 100重量部
【化1】

(式中、Rは非置換もしくは置換の一価の飽和炭化水素基、Rは炭素原子数2〜10のアルケニル基であり、kは2000以上の整数であり、sは0≦s/(k+s)≦0.02の関係を満たす0または正の整数である。)
(B):R(OH)SiO1/2単位 (式中、Rは独立に炭素原子数1〜10の非置換もしくは置換の一価炭化水素基である。)、RSiO1/2単位(式中、Rは前記同様の基である。)及びSiO4/2単位からなり、1分子中に1以上のシラノール基(=OH基)を有するオルガノポリシロキサンレジン 10〜200重量部 および
(C):少なくとも1種の有機過酸化物 触媒量。
【請求項2】
前記の成分(B)が、SiO4/2単位に対する、R(OH)SiO1/2単位およびRSiO1/2単位の和の比が0.5〜1.2の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジンである請求項1に記載の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
【請求項3】
前記の成分(B)が、成分(B)に含まれる全ての官能基のうち、90〜99.5モル%がメチル基であり、0.5〜10モル%がシラノール基であるオルガノポリシロキサンレジンである請求項1に記載の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
【請求項4】
さらに、(D)有機溶剤を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物。
【請求項5】
支持フィルム上に、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の過酸化物硬化型シリコーン系感圧接着剤組成物を硬化してなる感圧接着層を有する粘着テープ。
【請求項6】
熱処理用マスキングテープである請求項5に記載の粘着テープ。
【請求項7】
200℃〜300℃の高温下で処理されることを特徴とする熱処理用マスキングテープである請求項5に記載の粘着テープ。

【公開番号】特開2008−156496(P2008−156496A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347679(P2006−347679)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】