説明

道床砕石飛散防止方法

【目的】 雨等で道床砕石が濡れている場合や施工後に雨が降ることが予測される場合にも問題なく施工でき、樹脂剤を散布するだけで施工できる道床砕石飛散防止方法を提供する。
【構成】 砕石を積層して形成された道床とこの上に敷設された鉄道レールとを具備する有道床軌道において、道床砕石が飛散することを防止する方法である。道床砕石上に湿気硬化型樹脂を散布し、道床の砕石間を連結する樹脂皮膜を形成することを特徴とする。湿気硬化型樹脂は、水分と反応して硬化する性質を有するので、道床砕石が雨で濡れているときでも樹脂は硬化する。この硬化した樹脂皮膜により、道床砕石は(特に最上部の一層表面の砕石は)相互に連結される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、道床砕石間を連結する樹脂皮膜を形成することにより、有道床軌道から砕石が飛散することを防止する方法に関する。特には、砕石が濡れている状態でも施工できる道床砕石飛散防止方法に関する。ここで、本発明が防止しようとする砕石の飛散は、高速車輌の風圧に起因するものが主に対象となる。
【0002】
【従来の技術】新幹線等の高速軌道の軌道には、有道床軌道とスラブ軌道との2種類がある。有道床軌道は、砕石を積層して形成された道床上に枕木を置きその上にレールを敷設した軌道である。スラブ軌道は、コンクリートのスラブ上に枕木・レールを敷設した軌道である。東海道・山陽新幹線の大半は有道床軌道であり、東北・上越新幹線の大半はスラブ軌道である。鉄道運行を継続しつつ、有道床軌道をスラブ軌道に作り変えることは不可能である。
【0003】東海道新幹線の開業当初においては、車輌速度は最高220km/hr であったが、近年の高速化に伴い「のぞみ」の場合最高速度は275km/hr に達する。この最高速の「のぞみ」が通過する際に、道床上には、最高風速40〜45m/s (0.1秒間平均)の風が生じ道床上の砕石に当る。鉄道軌道用の道床は、粒度5〜6cmの角石(砕石)を積層して形成してある。これらの砕石は重いので、上記程度の風で飛ぶことはない。しかし、砕石が、突き固め作業や車輌通過時の繰り返し荷重で壊れたもの(小砕石、粒度2〜3cm以下)は、この風で飛ぶことがある。
【0004】この小砕石の飛散により、車輌下部の機器が損傷したり、沿線の人や家屋を傷付けたりするような事態を招くおそれがある。その中でも特に注意すべきは、通過駅構内を高速通過する車輌が飛ばした小砕石がプラットホームに立っている人に当る事故である。砕石の飛散は、車輌の風圧によるもののほか、冬期に車輌に付着した雪や氷が道床上に落下することによっても起る。
【0005】従来より、このような砕石飛散を防止するため、次のような対策が採られていた。
■ 道床上にゴム板を敷く方法(ゴム板法、実公昭63−26401等)
■ 道床上にネットを敷く方法(ネット法、特開平2−251630等)
■ 道床砕石をセメント系モルタルで固める方法(セメント法)
■ 道床砕石を樹脂系の材料で接着する方法(樹脂法、特開平4−169601等)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ゴム板法やネット法においては、ゴム板やネットを道床上に固定する必要があり、その方法が施工上のポイントとなる。ゴム板相互を連結する方法(実公昭63−26401)、アンカーを打ったり枕木にくくりつけたりする方法(特開平2−251630)が提案されたり行われたりしている。しかし、このような作業は非常に手間がかかり、工事能率が悪く工事費が高い。ゴム板やネット等は、道床砕石の突き固め工事時に、一度撤去した後、再度布設する必要がある。突き固め工事は、2ケ月〜2年の周期で行うため、このゴム板等の撤去・再布設は大変な作業である。
【0007】セメント法では、車輌通過時の振動や砕石突き固め時のエアハンマー衝撃で、セメントが細くこわれ粉状化することが問題となる。この粉が水分を含んで、道床全体が流動化する現象(噴泥化現象)の原因になるからである。樹脂法では、樹脂の硬化に時間がかかること、雨天時に施工しにくいことが問題である。
【0008】樹脂法の1つとして、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)エマルジョンを道床砕石上に散布する方法が提案され(特開平4−169601)、一部実施されている。具体的には、固形分が50〜75重量%のEVAエマルジョンを、常温で6〜10ポアズの粘度に調整し、これを道床砕石上に2〜4kg/m2 程度均一に散布する。このEVAエマルジョンが乾燥固化した後には、道床表面の大小砕石は連結一体化され、走行列車の風による小砕石飛散が防止される。その他、シリコーン樹脂のエマルジョンを塗布及び/又は散布し、乾燥して、道床砕石同士をシリコーンゴム弾性皮膜で固着させる方法も提案されている。
【0009】樹脂法に用いられる樹脂に求められる主な特性は以下のようなものである。
■ 接着力が強いこと。
■ 固化後もある程度弾性・じん性のあること。固化後に樹脂がもろくなると、列車通過時の砕石のきしみによって、樹脂が割れてしまう。そのため、砕石飛散防止効果が失われるばかりでなく、道床の噴泥化現象にもつながる。
■ 耐候性が良いこと。特に紫外線照射劣化の激しい材料では、樹脂がぼろぼろになって■と同じ状態になる。なお、本発明の目的には、樹脂は2ケ月〜2年程度持てばよい。そのような周期で、砕石の突き固め作業が行われ、その後に樹脂を再散布するからである。
【0010】■ 乾燥・固化にあまり時間がかからないこと。あるいは、雨が降っているときでも散布・固化に支障がないこと。せっかく樹脂を散布しても、それが水で流れたり薄まって固化しにくくなったりしたのでは、再施工が必要となる。
■ 粘度調整がしやすいこと。散布・塗布のためハンドリング時には低粘度にしやすく、砕石に付いた時点では低粘度すぎて砕石下に流れ込んでしまわないことが求められる。
■ 施工時に樹脂剤の準備が簡単であること。複数材料混合や混合後の使用時間指定があるようなものは不適である。
■ 価格が安いこと。施工面積が膨大なので工事費が高くなるからである。しかし、樹脂そのものが安くても、施工性・耐久性が悪いと、工事費全体は高くなってしまう。
■ 無公害であること。
【0011】上述のEVAエマルジョンは、上記特性のうち、■、■、■、■に優れるが、■と■が劣る。シリコーンゴムエマルジョンは、■、■、■、■、に優れるが、■が劣る。
【0012】本発明は、特に、雨等で道床砕石が濡れている場合や施工後に雨が降ることが予測される場合にも問題なく施工でき、樹脂剤を散布(又は塗布等)するだけで簡単に施工できる道床砕石飛散防止方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明の道床砕石飛散防止方法は、砕石を積層して形成された道床とこの道床上に敷設された鉄道レールとを具備する有道床軌道において道床砕石が飛散することを防止する方法であって;道床砕石上に湿気硬化型樹脂を散布して砕石間を連結する樹脂皮膜を形成することを特徴とする。
【0014】
【作用】湿気硬化型樹脂は、水分と反応して硬化する性質を有する。例えば、湿気硬化型ウレタンの場合、分子構造の末端にNCO基を有し、これがH2 Oと反応して硬化する。このような現象を利用し、水分のある道床砕石上で樹脂皮膜を硬化させる。硬化した皮膜により、道床砕石は(特に最上部の一層表面の砕石は)相互に連結される。これによって、砕石、特に直径20mm以下の小砕石、の飛散が防止される。
【0015】なお、本発明において樹脂の散布とは、樹脂をある面上に供給することを言い。液状の樹脂をスプレーするいわゆる“散布”やハケ塗り等の塗布等を全て含んでいる。また砕石間を連結する樹脂皮膜は、好ましくは、砕石層最上面の砕石相互を、数個以上連結するものであるが、これに限定されない。
【0016】本発明の道床砕石飛散防止方法に用いる湿気硬化型樹脂は、湿気硬化型ウレタン樹脂又は湿気硬化型ポリエステル樹脂であることが好ましい。この中でも特に湿気硬化型ウレタン樹脂が好ましい。接着力、強度に優れるからである。またその中でも、エーテル系ウレタン樹脂が好ましい。耐加水分解性に優れるからである。
【0017】本発明の道床砕石飛散防止方法においては、上記湿気硬化型樹脂を道床上に散布する際の樹脂の温度が60〜130℃であり、粘度が10〜2,000ポアズであることが好ましい。樹脂を施す際の粘度が10ポアズ未満では、樹脂がサラサラしすぎて砕石のスキマへ流れ落ちてしまう傾向が出て施工しにくい。粘度が2000ポアズを越えると、流動性が悪く施工しにくい。樹脂を施す際の温度が60℃未満では、施工時の状況により、硬化前に砕石のスキマへ樹脂が流れ落ちることがあり好ましくない。また、130℃を越えて樹脂を加熱するのは手間がかかるので作業能率上好ましくない。
【0018】また、本発明の道床砕石飛散防止方法においては、上記湿気硬化型ウレタン樹脂が、鎖状の分子構造をしており、ポリマーポリオールの分子量が1,000〜4,000であり、分子構造の末端にNCO基を有するものであることが好ましい。このようなウレタン樹脂は、硬化前に常温でペースト状を呈し、散布後に激しい雨が降ったような場合にも、散布された樹脂が流されることがない。なお、鎖延長剤として1−4ブタンジオール等を使用することが好ましい。
【0019】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。1m×1mの実験用道床を、粒径5〜6cmの砕石を用いて形成した。この実験用道床上に、15個の粒径1.5〜2cmの小砕石をばらまいた。その上から、下記諸元の湿気硬化型ウレタン樹脂を100℃に加温して粘度を20ポアズに調整し、1kg/m2 の割合でほぼ均一に散布した。砕石は乾いており、雰囲気の温度は20℃、湿度は65%であった。2時間後に樹脂は硬化し、砕石上面のほぼ一層分の砕石が連結され一体化された。その後、砕石上に10cmの距離から、8気圧の加圧空気を吹き付けた。その際の風速は約43〜48m/s であったが、小砕石は吹き飛ばされなかった。
【0020】この際に使用した湿気硬化型ウレタン樹脂の諸元は以下の通りである。
−エーテル系−未硬化時性状:比重1.1、外観青色高粘度ペースト、粘度−温度特性図1参照。
−硬化樹脂特性:引張強さ40kgf/cm2 、伸び380%、軟化温度131℃
【0022】次に、道床砕石を湿潤状態にして上記と同様に湿気硬化型ウレタン樹脂を砕石上に散布した。この状態で、温度40℃、湿度95%の雰囲気下にて、1時間保った。その後は、上記と同様に空気を吹き付けたが、小砕石の飛散は全く発生しなかった。
【0023】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明の道床砕石飛散防止方法は以下の効果を発揮する。
■ 水に濡れた道床でも、雨が降っていたり雨が降りそうなときでも、施工できる。そのため、工事スケジュール調整の融通が良くなり、施工員の手待ちもなくなる。
■ 湿気硬化型樹脂の硬化前の粘度を適当に調整することにより、散布した樹脂が雨がふっても流れないようにすることができる。EVAエマルジョンやシリコーンゴムエマルジョンでは、散布後硬化前に雨が降ると樹脂が流れてしまい再施工が必要となる。本発明の方法はそのようなことがない。
■ 作業内容が樹脂の加熱と散布だけであるので手間がかからない。また、道床の突き固め工事時の撤去は不要である。
■〜■の結果、施工性のきわめて優れた道床砕石飛散防止方法を提供することができ、高速鉄道の安全・高信頼性運転に資するところきわめて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に用いた湿気硬化型ポリウレタン樹脂の温度−粘度特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 砕石を積層して形成された道床とこの道床上に敷設された鉄道レールとを具備する有道床軌道において道床砕石が飛散することを防止する方法であって;道床砕石上に湿気硬化型樹脂を散布して砕石間を連結する樹脂皮膜を形成することを特徴とする道床砕石飛散防止方法。
【請求項2】 上記湿気硬化型樹脂が湿気硬化型ウレタン樹脂又は湿気硬化型ポリエステル樹脂である請求項1記載の道床砕石飛散防止方法。
【請求項3】 上記湿気硬化型樹脂を道床上に散布する際の樹脂の温度が60〜130℃であり、粘度が10〜2,000ポアズである請求項1又は2記載の道床砕石飛散防止方法。
【請求項4】 上記湿気硬化型ウレタン樹脂が、鎖状の分子構造をしており、ポリマーポリオールの分子量が1,000〜4,000であり、分子構造の末端にNCO基を有する請求項2又は3記載の道床砕石飛散防止方法。

【図1】
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