説明

遠心分離機

【課題】回転体の雰囲気を真空引きする必要がある遠心分離機において、高温多湿雰囲気で短時間の繰り返し運転を実施しても、遠心分離機に使用する油回転真空ポンプの油劣化を遅らせる超遠心機の真空排気方式を提供することを目的とする。
【解決手段】回転室と油回転真空ポンプの間に遮断バルブを設け、油回転真空ポンプにはガスバラストを有するものを使用し、そのガスバラストの大気導入口には電磁バルブを設け、その遮断バルブとガスバラスト用電磁バルブは、油回転真空ポンプが動作していない場合や、回転室の真空引きを行っていない場合は閉じておき、回転室内の真空引きを始めるときに遠心分離機からの信号により両バルブが開き、回転室に設けられた真空計の値が水分排気を終えた値に達すると遠心分離機からの信号によりガスバラスト用電磁バルブが閉じるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転室内を真空減圧し、なおかつロータを冷却しながら運転するタイプの遠心分離機で使用される油回転真空ポンプにおいて、回転室内もしくはロータの結露水を油回転真空ポンプに吸わせる可能性がある場合に油回転真空ポンプの油の寿命を改善する技術に関することである。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料をチューブやボトルを介してロータに挿入しロータを高速に回転させることで試料の分離、精製を行う。回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(最高回転速度は毎分数千回転)から高速(最高回転速度は毎分150,000回転)までのものがある。中でも超遠心機と呼ばれる回転速度が毎分約40,000回転以上の遠心分離機は、酵素、タンパクなどの試料を分離する場合に試料の温度を低温に保つ必要があるため回転中に試料の温度が上昇しないように冷却装置で一定の温度に制御している。更に超遠心機では、ロータを高速で回転させるため、空気との摩擦熱でロータの温度が上昇しないように回転室を真空ポンプにより高真空まで減圧できる構造となっている。ここで超遠心機では真空ポンプは一般的には油回転真空ポンプを使用する。本発明は油回転真空ポンプを使用して回転室内を減圧する超遠心機に関するものである。
【0003】
従来の超遠心機を図4を使用して説明する。従来の超遠心機では、一般的にロータ1は回転軸11を介して駆動装置2に接続されて回転させられる。ロータ1は回転軸11から離脱可能となっており、ロータ1が回転する回転室3は油回転真空ポンプ4に真空配管14で繋がっており、油回転真空ポンプ4により減圧される構造となっている。
【0004】
また、超遠心機では試料を低温に保つ必要があるので回転室3を冷却装置9にて冷却し、ロータ1を間接的に冷却している。このため周囲温度が高く湿度も高い時には、運転終了後にドア10を開けると、回転室3内やロータ1の表面を結露させてしまう。そして回転室3内に結露水がある場合は特許文献1に示されているように真空を引く時間が延びたり、ロータ1の温度制御に悪影響を及ぼすと共に、油回転真空ポンプ4に結露水が吸引され、この吸引された油中の水分により油のシール、潤滑性が劣化してシャフトシール部の寿命を縮めたり、油を乳化させ油自体の寿命を短くしてしまう。そのため、回転室3の真空引き時間を操作性よく、短くするための発明としては特開特許文献1に示されており、この発明では回転室に湿度センサーを設けて湿度が高いときには回転室3に設けられている加熱・冷却装置にて回転室3を温めることで回転室3内の水分を早期に蒸発、除去する方法が提案されている。また、油中の水分を除去するための発明としては特許文献2に示されており、この発明では、高温になっている油回転真空ポンプ4の油の中へ空気を送ることで油中の水分を水蒸気化し、油回転真空ポンプ4の外へ放出させ、除去する方法が提案されている。
更に、特許文献3には、真空ポンプのオイルボックス外壁にポンプ温度検出スイッチが設けられており、ポンプが飽和温度に達した場合にタイマ設定時間だけガスバラストが自動に開閉することが、開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−5639号公報
【特許文献2】特開平4−140493号公報
【特許文献3】実開昭60−120290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超遠心機では上述したようにロータ1を冷却するために回転室3を冷却する構造になっているため、運転が終わり遠心分離機のドア10を開けた際には湿気を含んだ外気が回転室3に流入し、外気に含まれる水分が、回転室3内やロータ1の表面で冷やされ結露してしまう。これら結露水は次の運転までに蒸発したり、遠心分離機の使用者によって除去されれば何も問題ないが、残留したまま次の運転を行い回転室3内を減圧すると結露水は、低温蒸発し蒸発した水蒸気は、油回転真空ポンプ4に吸引される。
【0007】
また、超遠心機を使用した分離作業は一回当たりの運転時間が数時間以上という長時間運転が一般的であるが、試料によってはまれに10〜30分程度の短時間運転をルーチンワークで繰り返すという作業がある。この短時間運転の繰り返し作業では一回の運転が終わるたびにドア10を開閉するため、その度ごとに回転室3内に結露が発生する。先にも述べたように結露水は次の運転すなわち減圧する前に蒸発もしくは除去されれば何も問題ないが短時間繰り返し運転の場合、運転と運転の間隔はほとんどないため回転室3内に吸着した結露水は蒸発する時間がなく油回転真空ポンプ4に吸い込まれる。
【0008】
そのため、油回転真空ポンプ4に吸引された水蒸気は、油回転真空ポンプ4内の図示されていない圧縮機部分で圧縮され再度液化し、液化した水分は油回転真空ポンプ4内の油の中に混ざり、油の劣化(乳化)や油回転真空ポンプ4の基本性能である到達圧力を高くし排気性能の劣化を引き起こす。
【0009】
更に、短時間運転の繰り返し運転では運転時間も短く、運転と運転の間隔もほとんどないため繰り返し作業を重ねれば重ねるほど油回転真空ポンプ4内に残留する水分が多くなり、水分を吸引した油回転真空ポンプ4は到達圧力が高くなり、一回目より二回目、二回目より三回目といった具合で規定の圧力まで達する時間が長くなり、ひいては規定の圧力まで到達できなくなるという問題を生じさせる。また、このようなことを何度も繰り返すと最悪油回転真空ポンプ4内の図示されていない圧縮機部分等に腐食を発生させて油回転真空ポンプ4の寿命を縮めてしまう問題を発生させる。
【0010】
これらの問題は油回転真空ポンプ4の排気速度の大きさと吸引する水分量の関係により影響度は変わる。たとえば排気速度の大きな油回転真空ポンプ4では少量の水分を吸引しても到達圧力の変化は排気速度の小さな油回転真空ポンプ4に比べ極めて少ないが、油に溜まる水分の量は排気速度に関係なくほとんど同じである。油回転真空ポンプ4内の油量が多く、排気速度が大きい油回転真空ポンプ4を採用した場合は回転室3内に水分がある場合でも、油回転真空ポンプ4に水分をわざと吸引させ、特許文献2に示される油中に空気を送り、水分を蒸発させるいう方法を取ることができる。しかし、近年超遠心機では小型化の要求が多くあるため、油回転真空ポンプ4もなるべく小さなものを採用せざるを得ない傾向にあり、小さな油回転真空ポンプを採用した超遠心機ではこの繰り返し作業が行われると上述した排気性能の劣化の問題がかなりの高い確率で起きてしまうので問題となっていた。
【0011】
本特許の目的は、高温多湿雰囲気で短時間の繰り返し運転を実施しても、遠心分離機に使用する油回転真空ポンプ4の油劣化を遅らせる超遠心機の真空排気方式を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するためには、回転室と油回転真空ポンプ4の間に遮断バルブを設け、油回転真空ポンプ4にはガスバラストバルブを有するものを使用し、そのガスバラスト配管の大気導入口には電磁バルブを設け、その遮断バルブとガスバラスト配管用電磁バルブは、油回転真空ポンプ4が動作していない場合や、回転室3の真空引きを行っていない場合は閉じておき、回転室3内の真空引きを始めるときに遠心分離機からの信号により両バルブが開き、回転室に設けられた真空計の値が水分排気を終えた値に達すると遠心分離機からの信号によりガスバラストバルブ用電磁バルブが閉じるようにすればよい。また、油回転真空ポンプを停止させた時にも、遠心分離機からの信号により遮断バルブを閉じればよい。
【0013】
また、回転室と油回転真空ポンプ4の間に遮断バルブを設ける代わりに油回転真空ポンプ4が停止したときに油回転真空ポンプ4の吸気口が自動的に閉止し、油回転真空ポンプ4内の真空空間と吸気口につながれた配管の真空空間を遮断する機能を有する油回転真空ポンプ4を使用してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油回転真空ポンプの圧縮・加圧工程の直前でガスバラスト配管から大気を入れると油回転真空ポンプに吸引された水蒸気等の凝縮性ガスは液化せずに排気弁を経由して大気と一緒に排気されるため油の中に混入する水分の量は少なくなり、油の劣化(乳化)を低減すると共に、油回転真空ポンプの排気速度を大きくしなくても到達圧力等の排気性能の低下を抑えることが出来る。
【0015】
また、油回転真空ポンプが停止すると、ガスバラスト配管のために設けられた油回転真空ポンプ内部の圧縮室内及びガスバラスト配管空間に残留している気体が、油回転真空ポンプ内の真空空間、回転室と油回転真空ポンプをつなぐ配管を経由して回転室に拡散し、回転室の圧力(真空度)を高くし、その結果、回転室内で回転するロータ(回転体)と回転室内の大気との摩擦によって、ロータが発熱し、その結果ロータ内部にセットされている試料(サンプル)の温度上昇を引き起こし、試料を破壊してしまう。
【0016】
それに対し、回転室と油回転真空ポンプの間に遮断バルブを設けるか、油回転真空ポンプが停止したときに油回転真空ポンプの吸気口が自動的に閉止し、油回転真空ポンプ内の真空空間と吸気口につながれた配管の真空空間を遮断する機能を有する油回転真空ポンプを使用し、油回転真空ポンプが停止したときに回転室と油回転真空ポンプ間の空間を遮断することによりガスバラストを使用しても回転室の圧力上昇を引き起こさず試料の温度上昇を防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明に係る遠心分離機30の構成を示した図である。図2は本発明に係る構成部品を機能させた場合の遠心分離機30の回転室3内に設けられた真空計12が示す圧力の経時的な変動を表した図である。また図4は従来の遠心分離機30の構成を示した図である。
【0019】
遠心分離機30は図1及び図4に示すように、試料を入れるロータ1と、ロータ1を回転させる駆動装置2、ロータ1と駆動装置2を結ぶ回転軸11、ロータ1を入れる回転室3、回転室3内を減圧する油回転真空ポンプ4、油回転真空ポンプ4と回転室3を結ぶ真空配管14、油回転真空ポンプ4と回転室3を結ぶ真空配管14には不図示の油拡散ポンプが配置され、回転室3を冷却する冷却装置9、回転室3に蓋をする開閉可能なドア10、駆動装置2や油回転真空ポンプ4や冷却装置9などを制御する制御装置7などから構成されている。
【0020】
また本発明では、更に油回転真空ポンプ4と回転室3を結ぶ真空配管14の間に遮断バルブ16を設け、更に、油回転真空ポンプ4の圧縮機部分に大気を導入するための、ガスバラスト用の配管を設け、配管の途中には配管を遮断または連通させるためのバルブ機能17(電磁バルブ)を設けている。
【0021】
本遠心分離機30では、まず電源を入れてドア10を開け回転室3の回転軸上11上に、内部に試料をセットしたロータ1を設置する。そしてドア10を閉め遠心分離機30を動作させると、油回転真空ポンプ4が回転室3内の真空引きを始め、同時に冷却装置4が動作し回転室3を冷却し始め、また駆動装置2が駆動し回転軸11が回転してロータ1を低速で回転させる。ここでロータ1がいきなり高速回転にさせないのは回転室3の圧力が高く(低真空領域)ロータ1の高速回転による大気との摩擦による発熱により、ロータ1及びロータ1内にセットされた試料の温度上昇を防止するためである。
【0022】
そして、油回転真空ポンプ4の真空引き(減圧)により回転室3内の圧力が規定の圧力(100Pa前後)に達すると、ロータ1は高速回転を開始し設定の加速度(回転上昇速度)で設定された回転速度まで回転数をあげ、その後設定の回転速度で設定された時間の間回転を続ける。更に設定された時間が経過すると設定の加速度(回転減少速度)で回転速度を下げ停止する。またこのときの回転室3内の圧力変化は図2の曲線A(破線)のようになり、時間と共に圧力は低下していく。
【0023】
また、回転室3に水分が吸着した状態で運転を行った場合の回転室3内の圧力変化は図2の曲線B(実線)のようになる。ここで曲線AとBの大きな違いは、曲線Bの場合低真空領域の約400Pa近傍で一度圧力が一定になり時間が経過するとまた下がり初める点である。なお、最終的には曲線Aと同じ圧力(高真空領域)になる。
【0024】
この一定となる圧力約400Paは水の蒸気圧であり、約400Paになっている間油回転真空ポンプ4に水蒸気が吸引され、水蒸気は油回転真空ポンプ4の不図示の圧縮機部中で圧縮されて水滴となり、圧縮された気体と共に、油回転真空ポンプ4の油の中に放出され混入する。
【0025】
本発明を用いると、油回転真空ポンプ4の動作開始から回転室3内の圧力が低真空領域(400Pa)より小さい中真空領域(約100Pa)までガスバラスト配管バルブに設けた電磁バルブ17を開きガスバラスト配管から不図示の圧縮機部に大気を導入(ガスバラスト)して油回転真空ポンプ4に吸引された水蒸気が液化しないようにすることにより油回転真空ポンプ4中の油への水分の混入量を少なくすることが出来る。
【0026】
実際にこの効果確認を実施したところ、約2.5gの水分を回転室3内に供給し水蒸気化させて油回転真空ポンプ4に吸引させ、これを20回繰り返した結果、ガスバラストバルブを動作させなかった場合には油重量は約48g増加し、ガスバラストバルブを動作させた場合は35g増加した。この増加分は油に混入した水分によるものと考えられるのでガスバラストバルブの効果は十分にあった。この実施例における2.5gという水分量は、本効果を確認するために実施したもので極めて大きな値である。実際にはこの十分の一以下の量と考えられる。
【0027】
更に、本発明では、油回転真空ポンプ4のガスバラスト中に、油回転真空ポンプ4が停止した場合に、油回転真空ポンプ4の圧縮機部分に残っている気体が回転室3に逆流して、回転室3の圧力が上昇し、ロータ1と回転室3内の気体との摩擦によってロータ1が温度上昇をするのを防止するために、油回転真空ポンプ4と回転室3との間に、遮断バルブ(電磁バルブ)16を設けている。これにより、油回転真空ポンプ4のガスバラスト中に油回転真空ポンプ4の動作が停止した場合は、遮断バルブ16によって、油回転真空ポンプ4の圧縮機部分に残っている気体の逆流を防ぐことが出来、ロータ1と回転室3内の気体との摩擦によってロータ1が温度上昇をするのを防止することができる。
【0028】
更に、遮断バルブ16、電磁バルブ17は、電力が供給されていない場合には、通路を遮断するようにしておくほうが良い。
【0029】
また図3のように、この油回転真空ポンプ4と遮断バルブ(電磁バルブ)16の替わりに、油回転真空ポンプ4が停止しているときには吸気口に内臓されたバルブ41が閉止しており、ポンプが動作し始めるとポンプに内蔵された図示されていない油圧(加圧)ポンプが動作し、その油圧(加圧)により吸気口に設置したバルブ41が開き気体を吸引し、ポンプが停止すると図示されていない油圧(加圧)ポンプが停止して吸気口内蔵されたバルブ41が閉じるという機能を有する油回転真空ポンプ4を用いても、図2に示す同等の圧力変化を得られた。
【0030】
なお明細書中に記載されている、低真空とは、圧力100kPa〜100Pa(10〜10Pa)の真空を示し、中真空とは、圧力100〜0.1Pa(10〜10−1Pa)の真空を示し、高真空とは、圧力0.1Pa〜10μPa(10−1〜10−5Pa)の真空を示す。(JIS Z 8126 真空技術 用語から引用)なお、領域とは、圧力の範囲を示している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明となる遠心分離機の一実施形態を示す概略図。
【図2】本発明となる遠心分離機の回転室内の圧力変動を表す図。
【図3】本発明となる遠心分離機の一実施形態を示す概略図。
【図4】従来の遠心分離機を示す概略図。
【符号の説明】
【0032】
図において1はロータ、2は駆動装置、3は回転室、4は油回転真空ポンプ、7は制御装置、9は冷却装置、10はドア、11は回転軸、12は真空計、14は真空配管、16は遮断バルブ、17は電磁バルブ、30は遠心分離機である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置によって回転され試料を保持するロータと、該ロータを収容する回転室と、該回転室内または前記ロータを冷却する装置と、前記回転室内を所定の真空まで減圧する油回転真空ポンプと、回転室内の圧力を測定する真空計と、運転操作を行う操作部と、回転速度など運転に必要な情報を表示する表示部とを備えた遠心分離機において、回転室と油回転真空ポンプの間を遮断する遮断バルブを有し、油回転真空ポンプはガスバラストバルブを有し、そのガスバラストバルブの大気導入口には電磁バルブを有し、回転室内の真空引きを始めるときに遮断バルブとガスバラストバルブの電磁バルブが開き、真空計の値が中真空領域になると電磁バルブが閉じること特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
回転室と油回転真空ポンプ間に設ける遮断バルブの代わりに、油回転真空ポンプが停止したときに油回転真空ポンプの吸気口が自動的に閉止し、油回転真空ポンプ内の真空空間と吸気口につながれた配管の真空空間を遮断する機能を有する油回転真空ポンプを使用したことを特徴とする請求項1記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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