説明

遠心分離機

【課題】ロータ室内にセットされたロータの種類を識別すると共に、カバーや試料等が正しく装着されているか否かを検知できる遠心分離機を提供する。
【解決手段】モータ6の回転軸に取り付けられるロータ2と、ロータ室4を形成するボウル14と、ボウル14の開口部を閉鎖するドア5と、モータ6の回転を制御する制御装置8を有する遠心分離機1において、ロータ2の画像を撮影するカメラ10を設け、撮影された画像を画像認識することによりロータ2の種類を識別する。カメラ10はドア5に取り付け、ドアが開いている際にロータ2の撮影が可能で、ドア5が閉められている際にはカメラ10がロータ室4の外部に位置するように配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心分離機に関し、特に、ロータ室内にセットされたロータの種類を識別すると共に、カバーや試料等が正しく装着されているか否かを検知して運転制御を行う遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料(例えば、培養液や血液など)をチューブやボトルを介してロータに挿入し、ロータを高速に回転させることで試料の分離や精製を行う。設定されるロータの回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(数千回転程度)から高速(最高回転速度は150,000rpm)までの製品群が提供されている。用いられるロータは様々なタイプがあり、チューブ穴が固定角度式で高回転速度に対応できるアングルロータや、チューブを装填したバケットがロータの回転に伴って垂直状態から水平状態に揺動するスイングロータなどがある。また、超高回転速度で回転させて少量の試料に高遠心加速度をかけるロータや、低回転速度となるが大容量の試料を扱えるロータなど様々な大きさのものがある。これらのロータはその分離する試料にあわせて使用するため、ロータはモータ等の駆動手段の回転軸に着脱可能に構成され、ロータの交換が可能である。
【0003】
各々のロータには、材料の強度を越える遠心力がかからないようにするためのロータ固有の制限回転数(最高回転数)、或いはロータ内に保持された試料の温度を管理するための温度制御計算処理に用いる温度係数等が定められる。遠心分離を行う際には遠心分離機側でこれら数値の把握が必要となるため、従来の遠心分離機においては、これら数値をあらかじめ制御装置に記憶させておき、ロータ室内に装着されたロータの種類を識別し、該当するロータに関するデータを読み出すようにしている。このロータを識別するための識別装置は、これまで種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1に記載のように、ロータの回転軸を中心とした同一円周上の等角度間隔の格子点上にロータの種類に応じて互いの配置角度を異ならしめた4個のマグネットを配置したアダプタを取付け、マグネットの配置角度を検出する磁気センサをロータ室内に前記等角度問隔以上の所定問隔で配置し、隣接する磁気センサがマグネットを検出した検出強度に対して所定の演算を行うことによりマグネットの位置を算出し、ロータの種類を特定している。
【0004】
また、超遠心分離機などで使用する回転速度が40,000rpmを超えるロータでは、ロータに働く遠心力が材料の疲労限度近くで設計されており、繰り返し使用すると金属疲労により強度が落ちていくため、寿命を定めているものがある。これらのロータでは、運転回数や積算運転時間等で寿命が規定されており、寿命に達した時点で使用を中止し廃棄することとなっている。そのため、遠心分離機側でロータの種類だけでなく製造番号をも読み取り、そのロータの運転回数や積算運転時間等を遠心分離機に記録することで、使用者がロータをどれだけ使用しているかを把握でき、ロータの寿命以上使用することがないように寿命管理をしている。または、上記機能を持たない遠心分離機の場合は、使用者が各ロータの運転回数や積算運転時間等を日誌に記録することで寿命管理をしている。
【0005】
一方、ロータは遠心分離のための高速回転時における空気との摩擦によるエネルギー損失、いわゆる風損を防ぐため、外形が凹凸の少ない形状を成し、ロータ上部には凹凸を覆うカバーを設ける場合がある。カバーを装着することによって極力少ないエネルギーで運転でき、またロータの温度上昇や風切音も抑制することができる。カバーを正しく装着すれば、ロータ特有の最高回転数で回転させても特に問題は生じないが、カバーを取付け忘れたまま回転させると、ロータ上部の凹凸部のファン作用による浮力が生じ、ロータの回転が不安定になる恐れがある。このようなロータの不安定な回転を回避するため、上述した識別装置でロータ種類を特定し、さらにドアに測長装置をロータ側に向けて配置してロータまでの距離を測長し、測長装置によって測長されたロータまでの距離データと、ロータ室に収容されたロータにカバーが装着されているときといないときでの距離データと比較することで、ロータへのカバー装着の有無を識別する技術が特許文献2で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−74079号公報
【特許文献2】特開2001−104833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
遠心分離機の運転前に把握しておかなければならないロータの情報は多岐にわたること、ロータは多様な種類が出回っていてそれぞれ仕様が異なっていることから、使用者がこれを正確に把握しておくのは困難である。そのため上述した公知の遠心分離機では、ロータの識別手段を専用に設けて必要なロータの情報を認識できるようにして使い勝手を向上させている。しかし、公知例のようなロータの識別手段では製造コストが高くなり、構造や制御システムが複雑化するという課題があった。
【0008】
また、従来の遠心分離機では、ロータを回転軸にセットし、ドアを閉めて、使用者が運転条件を入力してスタートボタン押した後に運転を開始させるが、ロータの識別のために、数十rpm程度の低速でしばらくの間ロータを回転させる必要があった。そのため実際にロータの加速を開始するまでにタイムラグが生じていた。また、このとき使用者がその使用しているロータの許容回転速度(若しくは許容遠心加速度)以上の回転速度(若しくは遠心加速度)を設定していた場合、ロータを識別した時点でアラームを発して、ロータの回転が停止される。そのため、使用者はロータが停止した後に運転条件を再設定し直さなければならなかった。従って、運転条件の再設定のための待ち時間を短縮したいとの要望があった。
【0009】
さらに、従来技術によるカバー装着有無の検出方法は、カバーの有る時と無い時の距離差が、所定量あれば問題なく識別できるが、例えばロータハンドルを最後まで十分締め付けず、カバーが若干緩んだ状態であっても、正常に締め付けられた状態との距離差が僅かであれば、カバーが緩んでいると識別できない恐れがあった。そのため、カバーが若干緩んだ状態を確実に識別できる精度の良い判定手段の実現が望まれていた。
【0010】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、装着されたロータの固有情報を容易に識別することができる遠心分離機を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、ロータの回転を開始する前にロータの固有情報を識別することができる遠心分離機を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、予めロータ毎の制御情報を複数記憶させておき、識別されたロータに基づいて制御する遠心分離機を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、装着されたロータ毎の運転実績データを管理することができる遠心分離機を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、ロータの回転を開始する前または開始直後に、カバーの装着忘れやバケットの装着ミスなどをチェックすることができる遠心分離機を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、ロータ室を冷却するための冷却装置を備える遠心分離機において、結露による影響を受けにくいロータの識別手段を有する遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次の通りである。
【0017】
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータの回転軸に取り付けられるロータと、ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、ボウルの開口部を閉鎖するドアと、モータの回転を制御する制御装置を有する遠心分離機において、ロータの画像を撮影するカメラを設け、カメラによって撮影された画像によってロータの種類を識別するように構成した。制御装置はカメラにて撮影された画像を画像認識することによりロータの種類を識別する。この画像認識はモータの回転を開始させる前に行うことが好ましい。
【0018】
本発明の他の特徴によれば、カメラは様々な位置に取り付けが可能である。例えば、ドアに取り付けることが可能である。この際、ドアが開いている際にカメラによってロータの撮影が可能であり、ドアが閉められている際にはカメラはロータ室の外部に位置するようにカメラをドアに取り付けると良い。また、カメラはボウルに取り付けてロータ室の内部に配置されるようにしても良い。さらに、カメラは、ドアが開いている際にのみロータを撮影できる箇所、例えばドアの周辺であってロータ室の外部である、操作卓を設けるようにしても良い。
【0019】
本発明のさらに他の特徴によれば、ロータの一部には、ロータの型式番号がテキスト、符号、記号又はこれらの組み合わせで表示され、制御部はカメラで読み取られたテキスト、符号、記号又はこれらの組み合わせの画像を画像認識することによってロータの型式番号を識別する。また、ロータの一部に、ロータの型式番号を1次元又は2次元バーコードで表示した。ロータの開口部にはカバーが装着可能であり、カバーの一部にもロータの型式番号を表示し、カメラによってロータとカバーに付された型式番号を読み取ることによって、カバーがロータに装着されているかを識別するように構成した。
【0020】
本発明のさらに他の特徴によれば、モータと、モータの回転軸に取り付けられるロータと、ロータの開口部を覆うカバーと、ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、ボウルの開口部を閉鎖するドアと、モータの回転を制御する制御装置を有する遠心分離機において、カバーにロータ固有のIDコードを設け、IDコードを光学的に読み取るリーダーを設けた。カバーは、カバー本体とカバー本体をロータに装着するためのハンドルを含んで構成され、識別子は、カバーとハンドルに跨って形成される文字又は符号であり、カバーをロータに装着してハンドルを回転させて完全に閉まったときに、識別子が読み取り可能となるように構成する。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、遠心分離機において、ロータの画像を撮影するカメラを設け、カメラによって撮影された画像によってロータの種類を識別するので、遠心分離機運転前に必要な複数のロータの情報をカメラ1つで得ることが可能となるため、従来導入していた複数の識別装置は必要なく、構造や制御システムが簡便化される。
【0022】
請求項2の発明によれば、制御装置は、カメラにて撮影された画像を画像認識することにより、ロータの種類を識別するので、作業者はロータの型番等を遠心分離機に入力する必要が無いので、使い勝手の良い遠心分離機を実現できる。
【0023】
請求項3の発明によれば、制御装置は、モータの回転を開始させる前に画像認識を行うので、設定条件等の誤りがある場合にはロータを回転させる前に作業者に警告を発することができるので、誤りの修正を素早く行うことができ、ロータの再起動を迅速に行うことができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、カメラはドアに取り付けられるので、ドア部分の構造の変更だけで容易に本発明の構成を実現できる。
【0025】
請求項5の発明によれば、ドアが開いている際にカメラによってロータの撮影が可能であり、ドアが閉められている際にはカメラはロータ室の外部に位置するようにカメラが取り付けられるので、カメラがロータ室の冷却後に起きる結露にさらされることなく、故障の心配を激減でき、信頼性の高い遠心分離機を提供できる。
【0026】
請求項6の発明によれば、カメラはボウルに取り付けられるので、ロータの運転開始前だけでなく、ロータの回転中の状況をも監視することができる遠心分離機を実現できる。この構成は、ロータ室を冷却しない構成の遠心分離機において特に有効である。
【0027】
請求項7の発明によれば、カメラは、ドアが開いている際にのみロータを撮影できる箇所に設けられるので、ロータ室やドアの構造を一切変更することなく、その他の一部分を変更するだけで本発明に係る遠心分離機を実現できる。
【0028】
請求項8の発明によれば、遠心分離条件を設定するための操作卓を有し、カメラは操作卓に取り付けられるので、操作卓の部分の構造を変更するだけで本発明に係る遠心分離機を実現することができる。
【0029】
請求項9の発明によれば、ロータの型式番号がテキスト、符号、記号又はこれらの組み合わせでロータの一部に表示され、制御部はカメラで読み取られたテキスト、符号、記号又はこれらの組み合わせの画像を画像認識するので、公知の画像認識技術を用いて高精度な認識をおこなうことができる。これによってロータに関する様々な情報を遠心分離機に提供することができる。
【0030】
請求項10の発明によれば、ロータの型式番号を1次元又は2次元バーコードでロータの一部に表示したので、カメラを用いて精度良く読み取りを行うことができる。
【0031】
請求項11の発明によれば、ロータの開口部にはカバーが装着可能であり、カバーの一部にもロータの型式番号を表示し、カメラによってロータとカバーに付された型式番号を読み取ることによってカバーがロータに装着されているかを識別するので、ロータの識別とカバーの装着状況を同時に行うことができ、信頼性の高い遠心分離機を実現できる。
【0032】
請求項12の発明によれば、カバーにロータ固有の識別子を設け、光学的に読み取るリーダーを設けて識別子を読み取るので、カメラでなく走査式のCCDセンサ等を用いても本願発明を実現できる。
【0033】
請求項13の発明によれば、カバーは、カバー本体とカバー本体をロータに装着するためのハンドルを含んで構成され、識別子は、カバーとハンドルに跨って形成される文字又は符号であり、カバーをロータに装着してハンドルを回転させて完全に閉まったときに、識別子が読み取り可能となるので、ロータの識別とカバーの装着状況を同時に行うことができる。
【0034】
請求項14の発明によれば、カバーは、ハンドルを1回転以下締め付けることでロータに固定できるので、読み取りのできる回転位置を一箇所だけに設定することができ、作業者にとっても容易に目視確認できるロータを提供することができる。
【0035】
請求項15の発明によれば、リーダーはドアのロータ室側に設けられるので、読み取りのし易い箇所にリーダーを設けることができる。
【0036】
請求項16の発明によれば、ドアを閉めたときに、ロータを照らす照明をドアに設けたので、使用環境に拘わらずに安定した読み取り動作をおこなうことができる。
【0037】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の構造を示す断面図であり、ドア5を開けた状態を示す。
【図2】本発明の実施例に係る遠心分離機1の構造を示す断面図であり、ドア5を閉めた状態を示す。
【図3】図1のカメラ10で撮影されたロータ2の画像であり、ロータ2にカバー3を付けた状態を示す。
【図4】図1のカメラ10で撮影されたロータ2の画像であり、ロータ2にカバー3を付けていない状態を示す。
【図5】遠心分離機1に装着可能なスイングロータ22を示す上面図である。
【図6】遠心分離機1におけるカメラ10を用いたロータ識別手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施例2に係る遠心分離機51の構造を示す断面図であり、ドア5を開けた状態を示す。
【図8】遠心分離機51におけるカメラ52を用いたロータ識別手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例3に係る遠心分離機71の構造を示す断面図である。
【図10】スイングロータ73の形状を示す上面図である。
【図11】スイングロータ73の形状を示す側面図である。
【図12】遠心分離機71におけるカメラ72を用いたロータ識別手順を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施例4に係る遠心分離機91を正面側から見た断面図である。
【図14】図13のロータ92の形状を示す図であり、右半分を側面図で、左半分を断面図にて図示している。
【図15】図13のロータ92の外観を示す斜視図である
【図16】図15のレーザーマーク97を示す図である。
【図17】図13のロータ92の上面図であり、ロータハンドル94が緩んでいる際のマーキングの状態を示す図である。
【図18】本発明の実施例4の変形例に係るレーザーマーク107を示す図である。
【図19】本発明の実施例4の変形例に係るレーザーマーク107を示す図である(その2)。
【図20】本発明の実施例4の変形例に係るレーザーマーク107を示す図である(その3)。
【図21】本発明の実施例4の第2変形例に係るロータハンドル114の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後、上下の方向は図1に示す方向であるとして説明する。
【0040】
図1、2は本発明の実施例に係る遠心分離機1の構造を示す断面図であり、図1はドア5を開けた状態を示し、図2はドア5を閉めた状態を示す。遠心分離機1は、箱形の板金やプラスチックなどで製作される筐体13の内部にボウル14が設けられ、ボウル14とドア5によってロータ室4を画定し、図示しないドアパッキンによってロータ室4は密閉される。ロータ2は分離する試料を保持し高速回転するものであり、例えば、試料を入れるサンプリングチューブ等を挿入するための孔(図示せず)が複数形成され、モータ6の回転軸に支持される。ロータ2の上部には回転中の風損の影響を避けるためのカバー3が装着される。ロータ2はモータ6によって回転されるが、モータ6の回転は制御装置8によって制御される。ドア5は蝶番20を中心軸にして上下方向に回動することができる。ドア5の側方(右側)には、使用者がロータの回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル9が配置される。操作パネル9は、例えば液晶表示装置と操作ボタンの組み合わせ、又は、タッチ式の液晶パネルで構成される。
【0041】
ロータ室4は、上側の開口部がドア5によって密閉可能に構成され、ドア5を開けた状態でロータ室4の内部に、ロータ2を装着又は取り外しができる。ロータ室4には、その内部を所望の低温に保つために冷却装置7が接続され、遠心分離運転中は制御装置8の制御によってロータ室4の内部は設定された所望の温度に保たれる。ロータ2の温度は、ロータ室4に設置された温度センサ(図示せず)の出力を用いて制御装置8により監視される。
【0042】
本実施例に係る遠心分離機1では、ドア5の蝶番20から離れた側付近にカメラ10を装着したことを特徴とする。カメラ10は、例えばCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等の光電変換素子であり、ドア5を開けた際に図1の鎖線で示す方向の映像をカラー又はモノクロで撮影できる。カメラ10を固定する位置は比較的自由であるが、ドア5を開けた際にカメラ10がロータ室4内に収容されたロータ2の真上に位置し、ロータ2を良好に撮影できるようにカメラ10のレンズ(図示せず)の開口が真下を向くように設置されると好ましい。また、カメラ10には撮影対象たるロータ2付近を照射するライト(図示せず)を設けると良い。カメラ10によって撮影されたロータ2の画像データは、信号線を介して制御装置8に送られる。制御装置8は、カメラ10から受信した画像データの画像処理を行って、ロータ2に示された型式と製造番号を読み取るとともに、ロータ2にカバー3が装着されているか否か、ロータ2の表面に施されたアルマイト処理及び塗膜の剥げがないか等のロータ2の異常があるか否かを判定する。
【0043】
ロータ2の識別が完了し、運転条件等に問題がなければドア5を閉め、そのまま運転を開始することが可能となる。本実施例の遠心分離機1において、遠心分離する試料の中には低温に維持しながら分離しなければならない試料もあるため、その場合は冷却装置7を運転させてロータ室4を冷却しながら遠心分離運転を行う。そして運転終了後にドア5を開けると、ロータ室4が結露してしまうことがある。仮に、ドアを閉めた際にカメラ10がロータ室4の内部にあるように配置すると、結露の付着により撮影機能が阻害されてしまう恐れがある。また、用いられるカメラ10の種類によっては湿気や水分に弱いものもあり、結露にさらされるとそれが原因で故障してしまう可能性もあり得る。そこで、本実施例ではカメラ10のロータ室4内への配置を避けるために、ドア5を閉めたときは図2に示すようにカメラ10はロータ室4の外部に位置するように構成した。このような位置にカメラ10を配置することによってロータ室4の冷却後に起きる結露にさらされることがない。また、カメラ10は常に外気温の環境下にあり頻繁な温度変化に曝されないので、カメラ10の長寿命化が期待できる。
【0044】
尚、図1及び図2の構成では、ドア5の前端側が直角でなく約120度程度に屈曲し、この屈曲によって生ずる屈曲部5a(図1参照)と筐体13の間の隙間にカメラ10が収まるように構成した。しかしながら、近年のカメラ10は非常に小型なものが実用化されており、従来のドア5の形状をほとんど変えることが無くカメラ10の設置が可能である。
【0045】
図3はカメラ10でロータ2を撮影した画像データの一例である。本実施例においては、図1の状態のようにドア5が開いた状態においてカメラ10を作動させることに特徴がある。従って、カメラ10によって撮影すると図3に示すようにロータ2及びカバー3を直上から撮影することになる。ロータ2に取付けられたカバー3の上面にはロータの型式11、製造番号12が記載されており、これらの画像をカメラ10によって読み取り、制御装置8が読み取られた画像の画像処理を行って、ロータの型式11、製造番号12を識別して文字コードに変換する。ロータの型式11、製造番号12の表示は、カメラ10によってロータの型式11、製造番号12の画像が認識できれば良く、その大きさや表示位置は任意である。また、ロータの型式11、製造番号12の印字方法は、塗料で描いても良いし、レーザーマーキングで行っても良いし、その他の反射率を変えるような表面処理を行う方法であっても良い。
【0046】
型式11、製造番号12は、数字、アルファベット、漢字等の文字、図形、あるいはこれらの組み合わせであり、カメラ10で撮影された画像データを公知の文字認識技術を用いて認識することができる。そして読み取った型式11からロータ2に関するデータを記憶手段から読み出す。制御装置8はマイコンや不揮発性の記憶手段を含んで構成され、記憶手段にはロータの種類と、使用可能な最高回転速度等の運転条件、寿命に関する各種データを予め格納しておく。また、制御装置8は、個々のロータ2毎に運転に関する実績データを収集し、記憶手段に格納することによってロータ2の寿命管理を行う。尚、本実施例においてはロータ2だけでなくカバー3にもロータの型式11と製造番号12を表示するようにしたが、カバー3に表示しないでロータ2だけに表示するようにしても良い。また、ロータ2の型式11、製造番号12を文字で表示しておくのではなく、1次元又は2次元バーコードを付したり、公知のコーディング技術を用いた表示、記号、形状を用いて、光学的に検知できるようにしても良い。さらにロータ2に表示する情報をカバー3に表示する情報と別のものにしても良い。
【0047】
図4は、カメラ10でロータ2を撮影した画像データの別の例である。この例において、図1の状態のようにドア5が開いた状態においてカメラ10を作動させるために、カメラ10によって撮影される画像は、ロータ2を直上から撮影したものとなる。図4の例では、カバー3の装着忘れによって試料容器であるボトル19が露出している状態を示している。カメラ10で撮影された画像データが図4の場合であったら、画像データからの画像認識によりロータの型式11、製造番号12を識別するだけでなく、カバー3が装着されていないことを識別することができる。カバー3が装着されていないことの識別は、カバー3に記された型式11、製造番号12が識別できないことから判定することができる。また、別の方法として、制御装置8がカバー2をつけた状態の標準画像(図3に示す画像)と取得した画像を比較する画像処理を行うことによって、カバー3が装着されていないことを識別することができる。また、標準画像との比較をおこなうことによってロータ2の表面にアルマイト及び塗膜の剥げ15がある等の異常を発見することも可能になる。このような標準画像との比較をおこなう画像処理のために、あらかじめ正常な状態のロータ2及びカバー3の撮影画像を制御装置8内に格納しておくか、以前にロータ2を使用した際の撮影画像を格納しておき、それらを比較するようにすればよい。尚、標準画像との比較をおこなう画像処理の具体的な方法については公知の様々な方法を利用することができるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0048】
以上説明したように本実施例においては、カメラ10を設けたことによってロータ2の型式11、製造番号12の識別に加えて、さまざまな異常の発見に役立てることができる。カメラ10によってカバー3の装着し忘れたような重度の問題がある状態で使用者がドア5を閉めた場合、或いはドア5を閉めた後に図示しないスタートボタンが押された場合は、エラーメッセージの警告がなされ、運転の開始が阻止される。
【0049】
また、ロータ2の表面の状態を検証することでアルマイト及び塗膜の剥げ15があると検知されたような軽度の問題がある場合は、エラーメッセージ等により使用者に警告がなされる。このような軽度の問題の場合は、エラーメッセージを表示すると共に遠心分離運転の開始を阻止するように構成しても良いし、エラーメッセージを表示するだけにして遠心分離運転の開始を許容するように構成しても良い。
【0050】
尚、カメラ10で読み取られた画像データを用いることにより様々な異常状態の識別が可能となる。例えば、ロータの種類が図5に示すようなスイングロータ22であって、複数のボトル19が装着されたバケット23が4箇所中の3箇所にだけしか装着されていない場合は、制御装置8はバケット23の装着状態が非対称であるとして、回転バランスがうまくとれない旨のエラーメッセージを操作パネル9に表示することができる。これらの異常状態の識別においては、上述したように正常状態の標準画像との比較をするように構成しても良いし、各バケット23にバーコード等のマークを付しておくことにより識別するようにしても良いし、その他の公知の画像認識技術を用いて識別するようにすればよい。また、バケット23を装着することにより覆われてしまうような部分(例えば矢印24の部分)にマークや番号をつけたり、反射率を高くする等の加工をすることにより、装着されたバケット23の数とその位置を制御装置8がカウントできるように構成しても良い。
【0051】
次に、図6のフローチャートを用いて遠心分離機1におけるカメラ10を用いたロータ識別手順を説明する。これらの手順は制御装置8に含まれるマイクロコンピュータを用いコンピュータプログラムを実行することによりソフト的に実行することができる。まず、制御装置8は、ドア5が規定の位置で開いているかを検出する(ステップ31)。規定の位置とは、例えばドア5の最も上側の位置であり、その位置においてカメラ10の画角との関係により、図1の鎖線で示すようにカメラ10がロータ室4の全体を撮影できるようになる。ドア5が開いていない場合、あるいは、規定の位置に無い場合は、ステップ31を繰り返す。次に、ドア5が規定の位置で開いている場合は、ロータ2がセットされているかを識別する(ステップ32)。ロータ2がセットされていなければステップ31に戻り、セットされていればカメラ10に設けられる図示しないライトをロータ2に対して照射するとともに、カメラ10を動作させてロータ室4内の静止画像(又は動画)を撮影する(ステップ33)。尚、ライトの照射は、カメラ10によってロータ室4内の画像を良好に撮影するためのものであるため、十分な明るさの環境下においては必ずしも必要なものではない。
【0052】
次に、制御装置8は、カメラ10によって撮影された静止画像(又は動画)を用いて画像認識処理を行い、ロータ2の型式11や製造番号12を識別するとともに、ロータ2の状態、カバー3の装着の有無等を識別する(ステップ34)。制御装置8はロータ2の型式11が識別できたか否かを判定し(ステップ35)、識別できなかったら最初の識別不能状態から1分未満かどうかを判定し(ステップ42)、1分未満の場合はリトライ動作のためにステップ31に戻る(ステップ42)。リトライ動作が繰り返されながら1分以上経過した場合は(ステップ42)、ロータ2の型式11等を認識できない旨のエラーメッセージを表示して処理を終了させる(ステップ43)。尚、この際エラーメッセージを操作パネル9に表示すると共に、使用者に操作パネル9からロータ2の型式11と製造番号12を入力するように促し、入力されたらステップ36に移動させるように構成しても良い。この作業者による入力の際には、ドア5が開いている状態であるため、使用者は装着されたロータ2を見ながら型式11と製造番号12を容易に入力することが可能となり、たいへん使い勝手がよい。
【0053】
ステップ35において、ロータ2の型式が識別できた場合は、制御装置8はドア5が規定の位置(最上位位置)から動いたかどうかを識別し、動いていない場合はステップ31に戻る。ドア5が動いた場合、即ち使用者がドア5を閉める動作を開始したことを識別した際には、ステップ37でロータ2がセットされているかを判定する(ステップ37)。この判定は、ドア5を閉める直前に使用者がロータ2を取り外していないかを判定するためである。取り外されている場合はステップ31に戻り、装着されたままの場合はステップ38に進む(ステップ37)。次に、制御装置8は、ドア5が閉まったかどうかを識別する(ステップ38)。ドア5が閉まっているかどうかは、ドア5付近に設けられたドアの開閉センサー(図示せず)を用いて検出される。ドアが閉まっていない場合はステップ37に戻る。このように本実施例では、ドア5を閉める前にカメラ10によってロータ室4の画像を撮影することによりロータ2を識別し、その後のドア5の閉鎖を認識し、しかも閉鎖の際にロータ2の装着状態を確認するので、ドア5が開いている際にロータ2の装着、交換、取り外し等を行っても確実にロータ2の状態と型式11及び製造番号12を識別することができる。
【0054】
ステップ38でドア5が閉まっている場合は、使用者によって遠心分離運転開始のためのSTARTスイッチが押されたかどうかを判定し(ステップ39)、押されていない場合はステップ38に戻る。STARTスイッチが押された場合は、制御装置8は使用者によって設定された運転条件の回転速度が、装着されたロータ2の最高回転速度を超えているか、許容寿命を超えていないか等の各種チェックを行い、問題がある場合には、運転開始前に操作パネル9にエラーメッセージを表示する。そしてその問題の度合いに応じて運転を阻止するが、問題がない場合や問題の度合いが軽微な場合は運転を開始する(ステップ40)。
【0055】
モータ6を起動することにより遠心分離運転を開始させ、所定の回転速度で所定の時間だけ遠心分離運転を行ったら運転を終了させる(ステップ41)。尚、運転を終了させる際に、制御装置8は、ロータ2の型式11や製造番号12と運転データの記録を記憶手段に格納すると良い。このようにロータ2を遠心分離機1で運転した運転回数や積算運転時間を制御装置8に記録することによって、制御装置8はロータ2の寿命を個別に管理することが可能となる。また、使用者はロータ2の寿命を気にしなくても制御装置8で自動的に管理されるので、大変使い勝手が良い遠心分離機を実現できる。
【0056】
以上本実施例によれば、カメラ10でロータ室4に収容されたロータ2を撮影し、そこから得られる画像データからロータ2の型式11と製造番号12、カバー3が装着されているか否か、さらにはロータ2の表面に施されたアルマイト処理及び塗膜のはげの有無といった、遠心分離機運転前に必要なロータ2に関する複数の情報をカメラ10で得ることが可能となるため、従来技術のような複雑な構成の識別手段や測長装置を設ける必要なく、構造や制御システムが簡便化される。さらに、ドア5を閉めたときにカメラ10はロータ室4の外部に配置されるため、ロータ室4の冷却後に起きる結露にさらされず、故障が発生する確率をきわめて低減することができる。
【実施例2】
【0057】
次に図7及び図8を用いて本発明の実施例2を説明する。実施例2において実施例1と同じ部分には同じ参照符号を付して、繰り返しの説明を省略する。図7において実施例1と異なる点は、カメラ52の設置位置である。実施例1ではカメラ10をドア5に装着し、ドア5を閉めた際にカメラ10がロータ室4の外部に位置するように配置した。本実施例においてはカメラ52をドア5にではなく、操作パネル53の一部に取り付けるように構成した。実施例2において操作パネル53は、上から見たときにドア5の右側に設けられる。そしてカメラ52は操作パネル53の左側付近であって、ドア5が開いた状態(最も上側に位置する状態)の際に、カメラ52によってロータ室4の内部の全体を斜め上方から撮影できるように配置される。
【0058】
実施例2によるカメラ52の設置位置は、ドア5が開いている時にのみロータ室4の内部を撮影可能である。また、カメラ52はロータ室4の内部に曝されないため、遠心運転後にドア5を開けた際にも結露現象が起こることが無く、良好にロータ室4内の撮影をすることができ、実施例1と同様の効果を得られることができる。さらに、カメラ52を操作パネル53の近傍に設けることによって、カメラ52から制御装置8への配線も操作パネル53と合わせて行うことができるので組立効率が良くなる。
【0059】
次に、図8のフローチャートを用いて遠心分離機51におけるカメラ52を用いたロータ識別手順を説明する。これらの手順は制御装置8に含まれるマイクロコンピュータを用いコンピュータプログラムを実行することによりソフト的に実行することができる。まず、制御装置8は、ドア5が規定の位置で開いているかを検出する(ステップ61)。規定の位置とは、例えばドア5の最も上側の位置であり、その位置においてカメラ52はロータ2の全体を撮影できるようになる。ドア5が開いていない場合、あるいは、規定の位置に無い場合は、ステップ61を繰り返す。次に、カメラ52に設けられる図示しないライトをロータ2に対して照射するとともに、カメラ52を動作させてロータ室4内の静止画像を撮影する(ステップ62)。
【0060】
次に、制御装置8は、カメラ52によって撮影された静止画像を用いて画像認識処理を行い、ロータ2の型式11や製造番号12を識別するとともに、ロータ2の状態、カバー3の装着の有無等を識別する(ステップ63)。制御装置8はロータ2の型式11が識別できたか否かを判定し(ステップ64)、識別できなかったらロータ2の型式11等を認識できない旨のエラーメッセージを表示して処理を終了させる(ステップ69)。
【0061】
ステップ64において、ロータ2の型式が識別できた場合は、ロータ2の型式を認識した後の所定時間内、例えば10秒以内にドア5が閉まったかどうかを識別する(ステップ65)。この判定は、ドア5を閉める直前に使用者がロータ2を取り外して他のロータと交換していないかを判定するためである。10秒以内にドアが閉まっていない場合はステップ61に戻り、10秒以内にドアが閉まった場合はステップ66に進む(ステップ65)。次に、制御装置8は、使用者によって遠心分離運転開始のためのSTARTスイッチが押されたかどうかを判定し(ステップ66)、押されていない場合はステップ65に戻る。STARTスイッチが押された場合には、制御装置8は、使用者によって設定された運転条件の回転速度が、装着されたロータ2の最高回転速度を超えているか、許容寿命を超えていないか等の各種チェックを行い、問題がある場合には、運転開始前にエラーメッセージ等の警告を操作パネル53に表示する。そしてその問題の度合いに応じて運転を阻止するが、問題がない場合や問題の度合いが軽微な場合は運転を開始する(ステップ67)。
【0062】
次にモータ6を起動することにより遠心分離運転を開始させ、所定の回転速度で所定の時間だけ遠心分離運転を行ったら運転を終了させる(ステップ68)。尚、運転を終了させる際に、制御装置8は、ロータ2の型式11や製造番号12と運転データの記録を記憶手段に格納すると良い。
【0063】
以上説明したように実施例2によれば、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、カメラ52の設置のためにドア5の形状を何ら変更する必要がないので、製造コストの上昇分を最小に押させることが可能となる。尚、ステップ65においてドア5が閉まったかどうかを識別する時間を10秒としたが、この時間に限られずに使われる状況等を考慮の上任意に設定して良い。また、ステップ62〜ステップ64で静止画像の取り込みを行ってすぐに画像認識をするのではなく、所定時間分(例えば1秒毎30カット分)の画像を制御装置8内に蓄積しておき、ドア5が閉まったことを検出したら蓄積された直近の静止画像を用いてロータ2の種類を検出するようにしても良い。このように構成すれば、ドア5を閉める直前にロータ2を交換したとしてもロータ2の誤認識をする恐れがない。
【実施例3】
【0064】
次に図9〜図12を用いて本発明の実施例3を説明する。実施例3において実施例1と同じ部分には同じ参照符号を付して、繰り返しの説明を省略する。図9において実施例1と異なる点は、カメラ72の設置位置である。実施例1ではカメラ10はドア5に装着し、ドア5を閉めた際にはカメラ10はロータ室4の外部に位置するように配置されるが、本実施例においてはカメラ72をロータ室4の側壁に取り付けるようにした。実施例3では遠心分離機71は冷却装置を持たないため、カメラ72をロータ室4の側面に取り付けても結露の影響を受けることがない。
【0065】
カメラ72の設置位置はボウル14のなるべく上端付近にすると好ましい。図9においては、モータ6の回転軸に装着されたロータとして、スイングロータ73である例を示している。カメラ72をなるべく上側に設けることによってスイングロータ73の上側すべての面が撮影可能となるため、画像認識を行うことができる。図10は、スイングロータ73の形状を示す上面図である。スイングロータ73は、半径方向にスイングする後述するバケットを保持するために、上から見た際にバケット保持部分73aとなる4箇所が外側に突出したような形状となる。また、スイングロータ73の上面の一部には、スイングロータ73の型式74と製造番号75が、例えば数字及び/又は英文字で印字されている。
【0066】
図11はスイングロータ73の形状を示す側面図である。本図においてはスイングロータ73において、少なくとも2箇所、多くても3箇所の位置にしかバケット76が装着されていない様子を示している。実施例3に係るカメラ72は、スイングロータ73の真上でなくて斜め上から撮影するので、このようにバケット76が回転対称位置に装着されていない場合は、画像認識によってその状態を検出することが可能である。また、カメラ72をロータ室4の内部に設けるということは、ドア5が開いている間だけでなく、スイングロータ73が回転をし始めた際の画像を撮影することにより、バケット76の装着具合を画像認識により確認することができるという効果を有する。
【0067】
次に、図12のフローチャートを用いて遠心分離機71におけるカメラ72を用いたロータ識別手順を説明する。これらの手順は制御装置8に含まれるマイクロコンピュータを用いコンピュータプログラムを実行することによりソフト的に実行することができる。まず、制御装置8は、ドア5が閉まっているかを検出する(ステップ81)。ドア5の開閉はドア開閉のセンサー(図示せず)により検出することができる。ドア5が閉まっていない場合はステップ81を繰り返す。ドア5が閉まった場合は、カメラ72に設けられる図示しないライトをスイングロータ73に対して照射するとともに、カメラ72を動作させてスイングロータ73の斜めからの静止画像を撮影する(ステップ82)。
【0068】
次に、制御装置8は、カメラ72によって撮影された静止画像を用いて画像認識処理を行い、スイングロータ73の型式74や製造番号75を識別する(ステップ83)。制御装置8はスイングロータ73の型式74が識別できたか否かを判定し(ステップ84)、識別できなかったらスイングロータ73の型式74等を認識できない旨のエラーメッセージを操作パネル9に表示して処理を終了させる(ステップ89)。
【0069】
次に、制御装置8は、使用者によって遠心分離運転開始のためのSTARTスイッチが押されたかどうかを判定し(ステップ85)、押されていない場合はステップ85を繰り返す。STARTスイッチが押された場合には、制御装置8は、使用者によって設定された運転条件の回転速度が、装着されたスイングロータ73の最高回転速度を超えているか、許容寿命を超えていないか等の各種チェックを行い、問題がある場合には、運転開始前にエラーメッセージ等の警告を発する。そしてその問題の度合いに応じて運転を阻止するが、問題がない場合や問題の度合いが軽微な場合は運転を開始する(ステップ86)。
【0070】
次にモータ6を起動させた直後であって、スイングロータ73の回転が低い状態の間に、スイングロータ73の取り付け状態に異常がないかをチェックする(ステップ87)。取り付け状態に異常がある場合、例えばバケット76の取り付け状態が非対称であって、そのまま回転させると振動の発生が懸念されるような場合は、エラーメッセージ等の表示をして運転を中断しても良い(ステップ89)。スイングロータ73の取り付け状態に異常がない場合は、そのままスイングロータ73の回転を加速させ、所定の回転速度で所定の時間だけ遠心分離運転を行ったら運転を終了させる(ステップ88)。尚、運転を終了させる際に、制御装置8は、スイングロータ73の型式74や製造番号75と運転データの記録を記憶手段に格納すると良い。
【0071】
以上説明したように実施例3によれば、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、カメラ72をロータ室4内に設けたため、ドア5の閉鎖前にカメラ72によって画像認識をしても良いし、ドア5の閉鎖の前後で画像認識をしても良いし、ドア5の閉鎖後にだけ画像認識をするように構成しても良いので、高度な画像認識を行うことができる。尚、ロータ室4にカメラ72を設けることは回転中のロータの状態を認識することも可能であるので、カメラ72によって撮影された画像を用いて様々な管理を行うことができる。
【0072】
尚、実施例3による遠心分離機71には冷却装置が設けられていないが、冷却装置を有する遠心分離機においてもカメラ72をロータ室4内に設けることが可能である。近年、防水性が強化されたカメラユニットが実用化されているため、カメラ72のロータ室4の内部への設置が可能となる。その場合であっても、ロータ室4内の結露対策をするのが好ましい。さらに、冷却装置だけでなく、ロータ室4を真空ポンプを用いて減圧する遠心分離機においても同様に、カメラ72をロータ室4内に設けることが可能である。この場合は、ロータ室4を減圧することで、結露の問題はほぼ回避することができる。
【実施例4】
【0073】
次に図13〜図18を用いて本発明の実施例4を説明する。図13は遠心分離機91を正面から見た断面図であり、本図において実施例1と同じ部分には同じ参照符号を付して、繰り返しの説明を省略する。図13において実施例1と異なる点は、カメラ95の設置位置であり、本実施例ではカメラ95をロータ92の直上のドア5の内側に取り付けるようにした。また、カメラ95の隣にはロータ92を上から照らすライト96を設けた。
【0074】
図14は、実施例4に係る遠心分離機用のロータ92の形状を示す図であり、右半分を側面図で、左半分を断面図にて図示している。ロータ92は、試料の入ったチューブを入れるためのチューブ穴92aが円周上に均等に配置され、ロータ92の上部には凹凸をなくすためのカバー93が配置され、カバー93はロータ92の中心部に設けられた雌ねじ92bと雄ねじをきってあるロータハンドル94によってロータ92に締め付けられる構造となっている。カバー93とロータハンドル94は回転方向には相対的に位置関係は変わるが、ロータハンドル94に装着された止め輪94aによってこれらが分離されないように保持される。ロータ92の最上部において、円周方向の1箇所に位置決め用のピン92cが圧入されており、カバー93に開いている1箇所の穴に入るようになっているため、カバー93とロータ92の位置関係は1つに決まる。なお、ロータ2の構成部品には、例えば黒色のアルマイト処理又は塗料により塗装が施される。
【0075】
図15は、本実施例のロータ92の外観を示す斜視図である。図15に示すように、カバー93とロータハンドル94にまたがってレーザーマーク97が印字されている。レーザーマーク97による印字は、例えば白色であり、図中黒く見える部分の実際の色は白であり、図中白く見える部分の実際の色は黒色アルマイト処理又は黒の塗膜の色である黒である。尚、これらの色の関係は逆であっても、その他の色の組み合わせであっても良い。このレーザーマーク97は、ロータハンドル94をカバー93に装着して適正なトルクで締め付けた状態で印字される。
【0076】
このように印字された結果、適正なトルクで締め付けられているときは図16に示すように、ロータハンドル94に印字されたハンドルマーク98aと、カバー93に印字されたカバーマーク98bが合わさり、正方形のマークが4隅のうち3箇所に現れるようになる。この3箇所のマーク(方向認識マーク98)によってレーザーマーク97の向きを認識することができ、ロータ92がモータ6の回転軸上でどの向きを向いていても読み取ることが可能となる。図16におけるロータハンドル中心部一番上の列の8マスからなるマーク欄99aはロータの型式を表しており、マークされている箇所を“1”、マークされていない箇所を“0”とし、2進法から10進法に換算することによって、ロータの登録ナンバーとなる。よって図16の場合は左から読み、“00011001”であるからNo.25のロータと読み取ることができ、予め遠心分離機本体に登録してあるデータと照合させ、ロータ型式を認識することができる。また、ハンドル中心部2列目と3列目を合わせた16マスからなるマーク欄99bはロータの製造番号を表している。図16の場合は、上の列から右方向に読み、続いて下の段を右方向に読むことにより、“0000001001101100”が得られて製造番号が“620”と認識することができる。これにより、同一遠心分離機で同じ型式のロータを複数個使用していたとしても、それぞれのロータごとの製造番号で識別することができ、ロータの寿命管理が自動で行うことができる。
【0077】
図17は、本実施例のロータ92の外観を示す上面図であり、ロータハンドル94が緩んでいる際のマーキングの状態を示す図である。図17に示すようにロータハンドル94が完全に締め付けられていない(若しくは締め付けすぎの)状態では、方向認識マーク98が正方形の形を成さなくなり、カメラ95で読み取れず、運転することができなくなる。この方向認識マーク98のリーダー読み取り精度を調整する(精度を下げる)ことで僅かなズレによって運転できない等の使い勝手の悪化を避けることができる。
【0078】
本実施例における運転までの流れは次のようになる。使用者がロータ92をモータの回転軸にセットし、ドア5を閉めるとライト96でロータハンドル94の周辺を照らされ、カメラ95によって瞬時にロータ92の型式、製造番号を読み取る。ロータ92の型式、製造番号が読み取れることはカバー93が確実に閉まっていることを意味するため、読み取り動作が完了することでカバー93の確実な装着を確認できる。確認できたロータ92の型式、製造番号を用いて制御装置8はそのロータ92に関する情報を記憶装置から読み出し、その一部を操作パネル9に表示する。使用者は表示されたロータ情報に従って回転速度(若しくは遠心加速度)を入力することができるので、使い勝手がよい遠心分離機91が実現できる。そして使用者がSTARTボタンを押すことにより、ロータは目標の回転速度までスムーズに加速するので、使用者による目標の回転速度に達したことを確認するまでの待ち時間が短縮される。ロータ92の運転後も自動でロータの製造番号ごとに運転記録が遠心分離機91の制御装置8に記録されるため、煩わしい手作業での運転記録を省くことが可能となる。
【0079】
以上説明したように実施例4によれば、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、カメラ95を用いてカバー93の装着状況を光学的に認識することができるため確実にカバー93の装着忘れや装着不良を認識することができる。また、従来目的別にそれぞれセンサや信号を発信するための部品が必要であったものを、1つのカメラ95に集約しているため、製造コスト的にも安くすることが可能となっている。
【0080】
次に、図18を用いて実施例4の変形例を説明する。図18は、実施例4の変形例に係るレーザーマーク107を示す図である。図18において、4隅のうち3箇所に設けてある3角形に近いマークを方向認識マーク108を構成するマークとし、ロータハンドル94がきちんと締められてカバー93が確実に閉められた状態では図19のように方向認識マーク108が読み取れるが、ロータハンドル94の締め付けが不足しカバー93が緩んでいる場合は図20のようにカバーマーク108bにハンドルマーク108aが接することによって、方向認識マーク108の形が読み取れなくなっている。この方式では図19の余裕寸法Cの寸法を調整することによって、僅かなズレによって運転できない等の使い勝手の悪化を避けることができる。
【0081】
実施例4を用いるとカメラ95を用いて簡易な画像処理にて精度良くロータ92に関する情報を読み取ることができる。また、いわゆる一次元又は二次元バーコードによるレーザーマーク97や107を用いることによって、カメラ95の簡略化を図ることができ、例えばカメラ95の代わりにレーザー光の照射によるスキャナ装置等の公知の光学的読み取り装置を用いることができる。
【0082】
以上実施例4においては、ロータ92及び/又はカバー93に一次元又は二次元バーコードを用いてロータ92に関する情報を表示するように構成したが、この表示の仕方は一次元又は二次元バーコードを用いるだけでなく、光学的に読み取ることができる方法であれば、その他の任意の読み取り方法を用いても良い。また、図21に示すようにロータハンドル114のマーク位置高さとカバーのマーク位置高さの差が大きい場合は、図示のようなハンドル形状とすることでリーダーでの読み取り可能となる。
【0083】
以上、本発明を示す実施例に基づき説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では本発明を冷却装置付きの遠心分離機に適用した例で説明したが、冷却装置無しの遠心分離機に適用しても良いし、冷却装置と減圧装置を有する遠心分離機や、その他の遠心分離機に適用しても良い。
【符号の説明】
【0084】
1 遠心分離機 2 ロータ 3 カバー 4 ロータ室
5 ドア 6 モータ 7 冷却装置 8 制御装置
9 操作パネル 10 カメラ 11 型式 12 製造番号
13 筐体 14 ボウル 15 (アルマイトの)剥げ
19 ボトル 20 蝶番 22 スイングロータ 23 バケット
51 遠心分離機(実施例2) 52 カメラ
53 操作パネル
71 遠心分離機(実施例3) 72 カメラ
73 スイングロータ 73a バケット保持部分 74 型式
75 製造番号 76 バケット
91 遠心分離機(実施例4)
92 ロータ 92a チューブ穴
92b 雌ねじ 92c ピン
93 カバー 94 ロータハンドル
94a 止め輪 95 カメラ 96 ライト
97 レーザーマーク 98 方向認識マーク
98a ハンドルマーク 98b カバーマーク
99a マーク欄 99b マーク欄
107 レーザーマーク 108 方向認識マーク
108a ハンドルマーク 108b カバーマーク
114 ロータハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータの回転軸に取り付けられるロータと、前記ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、前記ボウルの開口部を閉鎖するドアと、前記モータの回転を制御する制御装置を有する遠心分離機において、
前記ロータの画像を撮影するカメラを設け、
前記カメラによって撮影された画像によって前記ロータの種類を識別することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記カメラにて撮影された画像を画像認識することにより、前記ロータの種類を識別することを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記モータの回転を開始させる前に前記画像認識を行うことを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記カメラは前記ドアに取り付けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記ドアが開いている際に前記カメラによって前記ロータの撮影が可能であり、前記ドアが閉められている際には前記カメラは前記ロータ室の外部に位置するように前記カメラは前記ドアに取り付けられることを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記カメラは前記ボウルに取り付けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記カメラは、前記ドアが開いている際にのみ前記ロータを撮影できる箇所に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項8】
遠心分離条件を設定するための操作卓を有し、前記カメラは前記操作卓に取り付けられることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記ロータの一部には、ロータの型式番号がテキスト、符号、記号又はこれらの組み合わせで表示され、前記制御部は前記カメラで読み取られた前記テキスト、符号、記号又はこれらの組み合わせの画像を画像認識することによって前記ロータの型式番号を識別することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項10】
前記ロータの一部に、前記ロータの型式番号を1次元又は2次元バーコードで表示したことを特徴とする請求項9に記載の遠心分離機。
【請求項11】
前記ロータの開口部にはカバーが装着可能であり、
前記カバーの一部にも前記ロータの型式番号を表示し、前記カメラによって前記ロータと前記カバーに付された型式番号を読み取ることによって、前記カバーが前記ロータに装着されているかを識別することを特徴とする請求項9又は10に記載の遠心分離機。
【請求項12】
モータと、前記モータの回転軸に取り付けられるロータと、該ロータの開口部を覆うカバーと、前記ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、前記ボウルの開口部を閉鎖するドアと、前記モータの回転を制御する制御装置を有する遠心分離機において、
前記カバーにロータ固有の識別子を設け、
光学的に読み取るリーダーを設けて前記識別子を読み取ることによって前記ロータの種類を識別することを特徴とする遠心分離機。
【請求項13】
前記カバーは、カバー本体と該カバー本体を前記ロータに装着するためのハンドルを含んで構成され、
前記識別子は、前記カバーと前記ハンドルに跨って形成される文字又は符号であり、
前記カバーを前記ロータに装着して前記ハンドルを回転させて完全に閉まったときに、前記識別子が読み取り可能となることを特徴とする請求項12に記載の遠心分離機。
【請求項14】
前記カバーは、前記ハンドルを1回転以下締め付けることで前記ロータに固定できることを特徴とする請求項13に記載の遠心分離機。
【請求項15】
前記リーダーは前記ドアのロータ室側に設けられることを特徴とする請求項14に記載の遠心分離機。
【請求項16】
前記ドアを閉めたときに、前記ロータを照らす照明を前記ドアに設けたことを特徴とする請求項12に記載の遠心分離機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate