説明

遠心分離機

【課題】
多くの結露水を溜めることができ、結露水の排出頻度を減らして使い勝手を良くした遠心分離機を提供する。
【解決手段】
モータ8の回転軸に取り付けられるロータ4と、ロータ室3を形成するボウル2と、ボウル2の開口部を密閉するドア5と、ロータ室3を冷却するための冷却装置(7a〜7d)と、ロータ室内3の結露水を排出するためにドレン孔11から接続されるドレンチューブ33を有する遠心分離機1において、ドレンチューブ33のドレン孔11から排水口までに至る通路中に結露水を溜めるためのタンク32を設け、タンク32内の空気を抜くための空気抜き用の空気排出管36を設けた。タンク32はドレン孔11よりも低い位置に設けられ、タンク32から排水口に至る通路はキャップ35により閉鎖される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロータを冷却するための冷却装置を備えた遠心分離機に関し、特にロータ室の底部に溜まった結露水の排出機構を改良した遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料(例えば、培養液や血液など)をチューブやボトルを介してロータに挿入し、ロータを高速に回転させることで試料の分離や精製を行う。設定されるロータの回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(数千回転程度)から高速(最高回転速度は150,000rpm)までの製品群が提供されている。用いられるロータは様々なタイプがあり、チューブ穴が固定角度式で高回転速度に対応できるアングルロータや、チューブを装填したバケットがロータの回転に伴って垂直状態から水平状態に揺動するスイングロータなどがある。また、超高回転速度で回転させて少量の試料に高遠心加速度をかけるロータや、低回転速度となるが大容量の試料を扱えるロータなど様々な大きさのものがある。これらのロータはその分離する試料にあわせて使用するため、ロータはモータ等の駆動手段の回転軸に着脱可能に構成され、ロータの交換が可能である。
【0003】
ロータは空気中で高速回転すると、空気との摩擦熱によってロータの温度は上昇していく。分離する試料によっては、低温を保たなければならないものもあるため、ロータ室を冷却するための冷却装置を有する遠心分離機が広く用いられている。そのような遠心分離機は本体に冷却装置(蒸発機、圧縮機、凝縮機、膨張弁で構成される)を備えており、ロータ室外壁のボウル外周に巻かれる銅パイプに冷媒を流すことによってロータ室内を冷却し、間接的にロータを冷却する。
【0004】
運転後、分離した試料を取り出すためにロータ室の開口部を閉鎖しているドアを開けると、冷却されたロータまたはボウルに暖かい空気が触れ表面が結露する。この結露水は運転を繰り返すことによってボウルの底に徐々に蓄積されるため、特許文献1に示されるように、ロータ室を画定するボウルの底部に、結露水をロータ室外に排出するためドレン及びドレンチューブを取り付けている。ロータを回転させるとロータ室内に空気の圧力分布が生じ、ロータ室中心部は大気圧に比べ負圧となる。反対にロータ室内壁の外周に近づくほど圧力は上がっていくため、結露水をロータ室から排出するドレンチューブ位置は正圧となる外側寄りに接続されることが多い。接続されたドレンチューブの反対の一端は遠心分離機本体の外に出され、開口部はキャップやコックで閉められており、結露水がある程度ドレンチューブ内に溜まると使用者がキャップを外し、結露水を抜いている。結露水の量は周囲の環境や運転条件等によって異なるが、使用者は1回/数日〜1回/数週間程度の頻度で結露水を抜く作業を行っている。もし、結露水が溜まっても抜かずにいるとドレンチューブ内の水が溢れてロータ室内にまで結露水が留まり、ボウルの内壁で凝固し始めるため、ロータの冷却能力が低下することがある。
【0005】
ここで従来の遠心分離機の構造を図6を用いて説明する。遠心分離機101は、箱形の板金などで製作される筐体6の内部にボウル2が設けられ、ボウル2とドア5によってロータ室3を画定し、ドアパッキン16によってロータ室3は密閉される。ロータ4は分離する試料を保持し高速回転するものであり、例えば、試料を入れるサンプリングチューブ等を挿入するための孔(図示せず)が複数形成され、モータ8の回転軸に支持される。ロータ4はモータ8によって回転されるが、モータ8の回転は制御装置18によって制御される。ドア5は蝶番15を中心軸にして上下方向に回動することができる。ドア5の後方には、使用者がロータの回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル17が配置される。
【0006】
ロータ室3は、上側の開口部がドア5によって密閉可能に構成され、ドア5を開けた状態でロータ室3の内部に、ロータ4を装着又は取り外しができる。ボウル2の外周には銅パイプ7cが螺旋状に巻かれ、さらに銅パイプ7cの外周は円筒状の断熱材14で囲まれる。本体下部には凝縮機7aと圧縮機7bを含んで構成される冷却装置7とこれらの放熱用の送風装置10が配置され、銅パイプ7cが圧縮機7bと接続される。冷媒が圧縮機7bから凝縮機7aに送られると、冷媒が冷却され液化される。液化された冷媒はキャピラリー7dを通って銅パイプ7cに供給され、銅パイプ7c内で冷媒が気化することにより、ボウル2が冷却され、ロータ室3の内部は設定された所望の温度に保たれる。冷却装置の運転は制御装置18によって制御され、ロータ4の温度は、ロータ室3に設置された温度センサ(図示せず)の出力を用いて制御装置18により監視される。さらに、ボウル2の底にはロータ室3内の結露水を排出するためにドレン孔11が設けられ、ドレン孔11は金属製のドレンパイプ12が接続され、ドレンパイプ12には排水管たるドレンチューブ120が設けられる。ドレンチューブ120は、例えばビニール製等の柔軟なチューブで構成される。ドレンチューブ120のロータ室3とは反対側の先端部分は、遠心分離機101の外部(機外)に引き出され、その開口はキャップ125で密閉される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−346617号公報
【特許文献2】特開2005−81281号公報
【特許文献3】特開2003−172576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図6に示す従来の遠心分離機101では、ロータ室3で生じる結露水はボウル2の底のドレン孔11に入り、接続されるドレンチューブ120の内部に結露水を溜めていた。図ではドレンチューブ120の長さの半分程度まで結露水が溜まっている様子を示している。ドレンチューブ120の長さはドレン孔11から機外に至るまでの長さとなり、スペースの関係や結露水をスムーズに流すために複雑な這い回しにはできないことから、ドレンチューブ120の長さには制限があった。そのため、容量の大きなロータ4を4℃で冷却し、頻繁にドア5を開閉するような結露水が溜まり易い運転条件で行った場合、ドレンチューブ120が満杯になるのが早く、使用者は頻繁に(数日〜1週間程度ごとに)結露水を抜く必要があった。
【0009】
この対策として、特許文献2のようにドレンチューブに結露水を溜めることができるタンクを設けることも提案されている。しかしながら、特許文献2の構成ではドレンチューブからタンクに結露水が流れ込むには、タンク内にあった空気が水の流れるドレンチューブ内を水と反対方向に通ってロータ室まで戻らなければならないため、一度に多くの結露水がドレンチューブに流れ込んでドレンチューブが結露水で満たされた状態になると、タンク内の空気の移動場所が無くなってタンク内に結露水が入りにくくなることがあった。
【0010】
結露水の別の処理方式として、冷蔵庫の分野では、特許文献3のように庫内で発生する結露水を蒸発皿に落として、冷却装置の圧縮機や凝縮パイプの熱を利用して結露水を蒸発させる方法が知られている。しかしながら、冷蔵庫と違って遠心分離機の冷却装置は連続稼働ではなく、断続的に稼働させるものであること、結露水の発生源であるロータ室が停止時と運転時で圧力変化が生ずるためドレンを常に開放状態にできないこと等の遠心分離機固有の問題があり、冷蔵庫に用いられる結露水を蒸発させる方法をそのまま遠心分離機に適用するのは難しい。また、ロータに過大なアンバランスが生じた際、遠心分離機が大きく振動することがあるため、圧縮機や凝縮パイプ等に結露水が飛散する恐れがあり、圧縮機や凝縮パイプに接するように蒸発皿に配置するには好ましくない。
【0011】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、従来よりも多くの結露水を溜めることができ、結露水の排出頻度を減らして使い勝手を良くした遠心分離機を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、安価で簡素な構成で結露水を多く溜めるように構成し、コストアップを最小に抑えた遠心分離機を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、結露水を排出する管に結露水を溜められるタンクを接続した機構において、スムーズにタンクに結露水が排出できるようにした遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0015】
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータの回転軸に取り付けられるロータと、ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、ボウルの開口部を密閉するドアと、ロータ室を冷却するための冷却装置と、ロータ室内の結露水を排出するためにボウルにドレン孔が形成され、ドレン孔から接続される排水管を有する遠心分離機において、排水管のドレン孔から排水口までに至る通路中に結露水を溜めるためのタンクを設け、タンク内の空気を抜くために排水管とは別の通路で形成される空気抜き手段を設けた。タンクはドレン孔よりも低い位置に設けられ、タンクから排水口に至る通路は、ロータが回転している際には閉鎖される。
【0016】
本発明の他の特徴によれば、空気抜き手段はタンクに接続される排気管であって、排気管の排気口はドレン孔の位置よりも高い位置において大気中に開放され、タンクとドレン孔間においてU字型のトラップを形成して常に結露水が溜まるように構成した。排気管の排気口の高さは、ロータ室内に溜まり得る結露水の最高水位の高さよりも高い位置とすると良い。
【0017】
本発明のさらに他の特徴によれば、タンクに、ロータ室のドレン孔付近との気圧差を生じさせる圧力差生成手段を設けた。圧力差生成手段は、タンクとロータ室内の開口部を接続する通路であって、圧力差生成手段は、ロータ室内の気圧差を利用してタンク内を負圧にする。開口部はロータを回転させた場合にドレン孔の位置の圧力よりも低圧となる位置に設けられる。
【0018】
本発明のさらに他の特徴によれば、排気管のタンクと反対側の端部はタンクとドレン孔間の排水管の分岐手段に接続されるようにした。
【0019】
本発明のさらに他の特徴によれば、タンクは透明又は半透明の容器であって遠心分離機の筐体の内側に配置され、筐体の外側からタンクの水位を直接又は間接的に視認できるように筐体に覗き窓を設けた。また、筐体にメインテナンスのために取り外し可能な覆い部材を設け、覗き窓は、覆い部材を外した際に視認できる位置に設けるようにしても良い。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、排水管のドレン孔から排水口までに至る通路中に結露水を溜めるためのタンクを設け、タンク内の空気を抜くために排水管とは別の通路で形成される空気抜き手段を設けたので、ロータ室内に結露水を残すことなくスムーズにタンクに流れるので、ロータ室内壁に結露水が氷結して冷却能力が低下することを防止しつつ、多量の結露水を遠心分離機に溜めることができる。それにより結露水を排出する頻度を減らし、使い勝手の良い遠心分離機を提供することができる。
【0021】
請求項2の発明によれば、タンクはドレン孔よりも低い位置に設けられので、タンクから排水口に至る通路はロータが回転している際には閉鎖されるので、ロータ室内と外気とを常に遮断し、ロータ室内の冷却能力の低下、結露水の増加を防止することができる。
【0022】
請求項3の発明によれば、空気抜き手段としての排気管の排気口は、ドレン孔の位置よりも高い位置において大気中に開放されるので、タンク内に結露水が流れることによってタンク内の空気が排気管から外部に排出され、結露水をスムーズにタンク内に流すことができる。さらに、タンクとドレン孔間においてU字型のトラップを形成して常に結露水が溜まるように構成したので結露水によってロータ室内が大気と遮断させることができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、排気管の排気口の高さは、ロータ室内に溜まり得る結露水の最高水位の高さよりも高い位置とするので、結露水が溜まりすぎても排気管を介して結露水が外部に漏れてしまうことを防止することができる。
【0024】
請求項5の発明によれば、タンクに、ロータ室のドレン孔付近との気圧差を生じさせる圧力差生成手段を設けたので、ロータ運転中のロータ室内の圧力分布においてドレン孔位置の圧力よりも排気管の開口部位置の圧力が低ければ、タンク内に結露水がスムーズに流すことが可能となる。
【0025】
請求項6の発明によれば、圧力差生成手段は、タンクとロータ室内の開口部を接続する通路であって、圧力差生成手段はロータ室内の気圧差を利用してタンク内を負圧にするので、簡単な管路だけで容易に圧力差を生成することができる。
【0026】
請求項7の発明によれば、通路の開口部はロータを回転させた場合にドレン孔の位置の圧力よりも低圧となる位置としたので、ドレン孔位置を大気圧よりも高くなる位置に配置する必要がなく、従来よりも中心にドレン孔を設けることが可能となり、設計の自由度を上げることができる。
【0027】
請求項8の発明によれば、排気管のタンクとは反対の端部はタンクとドレン孔間の排水管の分岐手段に接続されるので、少なくともタンクから分岐手段までの間だけを、結露水が流れる通路とタンク内の空気が戻る通路を別にすることでタンクに結露水が流れやすくすることができる。
【0028】
請求項9の発明によれば、タンクは透明又は半透明の容器であって、タンクの水位を直接又は間接的に視認できるように筐体に覗き窓を設けたので、使用者は容易にタンクの水位を確認することができる。
【0029】
請求項10の発明によれば、メインテナンスのために取り外し可能な覆い部材を有し、覗き窓は、覆い部材を外した際に視認できる位置に設けられるので、メインテナンス時にタンクの水位を確認し忘れる恐れが少なくなる。
【0030】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る遠心分離機41の全体構造を示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る遠心分離機51の全体構造を示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施例に係る遠心分離機61の外観を示す斜視図である。
【図5】本発明の第4の実施例に係る遠心分離機61の外観を示す斜視図であって、フロントカバー66を外した状態を示す図である。
【図6】従来の遠心分離機101の全体構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0032】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0033】
図1は本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す断面図である。遠心分離機1は、箱形の板金などで製作される筐体6の内部にボウル2が設けられ、ボウル2とドア5によってロータ室3を画定される。ボウル2の上側開口の周囲にはドアパッキン16が設けられ、これによりロータ室3は密閉される。ロータ4は分離する試料を保持し高速回転するものであり、モータ8の回転軸に着脱可能に取り付けられる。ロータ4は、資料を保持するチューブの大きさや数、遠心分離の回転数などに応じて適切なタイプのものが装着される。
【0034】
ロータ4はモータ8によって回転され、モータ8の回転は制御装置18によって制御される。制御装置18には、図示しないマイクロコンピュータ、記憶装置、タイマー等が含まれて構成され、マイクロコンピュータがコンピュータプログラムを実行することによって、遠心分離機全体の制御を行う。ドア5は蝶番15を中心軸にして上下方向に回動することができる。ドア5の側方には、ユーザ(使用者)がロータの回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル17が配置される。操作パネル17は、例えば液晶表示式のタッチパネルとすると使い勝手的にもスペース効率的にも好ましいが、通常の表示装置と入力装置を用いて構成しても良い。
【0035】
ロータ室3を画定するボウル2の外周には銅パイプ7cが螺旋状に巻かれ、銅パイプ7cの外周には円筒状の断熱材14で覆われる。銅パイプ7cは冷却装置に接続され、冷媒が圧縮機7bから凝縮機7a内に送られ、凝縮機7a及び送風機20によって、冷却された冷媒は液化する。液化した冷媒はキャピラリー7dを通って銅パイプ7cに供給され、遠心分離運転中のロータ室3の内部は制御装置18の制御によって設定された所望の温度に一定に保たれる。ロータ4の温度は、ロータ室3に設置された温度センサ(図示せず)の出力を用いて制御装置18により監視される。ボウル2の底には、ロータ室3内の結露水を排出するためにドレン孔11が設けられる。
【0036】
本実施例では、ボウル2の底面の径方向略中央付近にドレン孔11が開けられ、ドレン孔11に金属製のドレンパイプ12が溶接によって接続される。本実施例において、ドレン孔11は円周方向に1箇所設けられるが、1箇所だけに限られずに複数箇所設けても良い。ドレンパイプ12にはドレンチューブ33が接続される。本実施例においては、ドレンチューブ33には結露水が常に溜まるようにドレンチューブ33をU字状に曲げたU字トラップ33aを形成される。U字トラップとは、排水管をU字状に曲げて凹んでいる部分(U字状部分)に水が溜まるようにして、排出先側からの空気が排出元側にあがらないようにするための仕組みである。本実施例では、U字トラップ33aを形成するために、ドレンチューブ33は金属製のパイプや合成樹脂製のパイプで構成するのが好ましいが、U字状部分を安定して保持できる材質であればその他の任意の材質でドレンチューブ33を形成しても良い。
【0037】
ドレンチューブ33のU字トラップ33aよりも下流側(ドレン孔11側とは反対側)は、結露水を溜めるために新たに設けられたタンク32の上側開口部32aに接続される。タンク32は、略円筒形の容器であり、上側に結露水の入口となる上側開口部32aが形成され、下側に結露水の出口となる下側開口部32bが形成される。さらに、タンク32の上側には、タンク32の内部に存在する空気を排出するための排気口32cが設けられる。タンク32は、例えば透明又は半透明のポリエチレンやその他の合成樹脂製またはガラスで構成することができ、内部にどの程度の水が溜まっているか目盛りを設けるようにしても良い。また、外部から視認できることを必要としない場合には、ステンレス等の金属製のタンクで形成しても良い。さらに、タンク32の形状は円筒形だけに限られずに直方体状で有っても良いし、その他の任意の形状であっても良い。タンク32の容量は、ボウル2の大きさや予想される結露水の流入量に応じて適宜設定すれば良く、本実施例では500ml程度の容器を用いている。
【0038】
タンク32は、遠心分離機1の後方側の筐体に接続された棚板27によって保持される。タンク32はドレン孔11よりも低い位置に設けられ、本実施例のようにU字トラップ33aを設ける場合は、タンク32の上側開口部がU字トラップ33aの貯水面33bよりも低い位置になるように配置することが重要である。タンク32の下側開口部にはドレンチューブ34が接続され、ドレンチューブ34の先端は、遠心分離機1の外部に延びてキャップ35によって密閉される。ドレンチューブ34は、例えばビニール製等の柔軟なものを用いることができる。また、キャップ35は、ドレンチューブ34の先端に嵌め込む形状、ネジ等で締め付けるキャップ状のもの等、任意の封止部材を用いることができる。さらに、ドレンチューブ34の先端に液体の流れの開閉する栓(バルブ)を設けても良い。
【0039】
タンク32に結露水が流れる通路とは別に、タンク32の上部に排気口32cが設けられ、排気口32cには空気排出管36が上方に向けて接続される。空気排出管36は、筐体6の横板6aを貫通して上部に延び、タンク32に接続した端部と反対の開口部37において大気に開放された状態で筐体6の内壁に保持される。空気排出管36の太さはあまり重要でないので、ドレンチューブ34に比べて細い径で良い。また、空気排出管36としてビニール製のチューブ等の柔軟なものを用いることができるが、材質にはこだわらずに金属製のパイプとしても良いし、その他の材質で形成しても良い。本実施例において排気口32cはタンク32の上部に接続しているが、上部に限らずタンク32の側面に接続しても良いが、タンク32内の水面38よりも上側に位置させる方が排気がスムーズになるので好ましい。タンク32は筐体6の後方側外壁の内側近傍に位置するが、筐体6に覗き窓39を設けられるので、タンク32に溜まった結露水の量が遠心分離機1の外部から目視にて確認できる。
【0040】
以上の構成の遠心分離機1において、遠心分離運転を行って結露水が発生すると、ロータ室3内で生じた結露水は主にロータ回転中にドレン孔11に入り、ドレンチューブ33のU字トラップ33aに溜まる。U字トラップ33aに所定量の結露水が溜った後は、ドレン孔11から結露水が入った分だけ、U字トラップ33aからタンク32の内部に流れる。その際、タンク32の内部の空気が空気排出管36から大気中に抜けることによってスムーズにタンク32に結露水を送出することできる。
【0041】
このように遠心分離機1の使用に伴いタンク32の内部に徐々に結露水が溜まってくるが、使用者はタンク32を目視して、ある程度溜まったことを確認したら、ドレンチューブ34のキャップ35を外すことでタンク32内の結露水を全て排出する。この排出の際も、空気排出管36を介して外気がタンク32の内部に入り込むので、タンク32の内部の結露水をドレンチューブ34を介してスムーズに排出することができる。本実施例においては、ドレンチューブ120のみを使用する従来の構成(図6参照)と比べて結露水を排出する頻度が少なくてすむ。例えば500ml容量のタンクを採用した場合は従来に比べて1/10程度の頻度で行えばよいこととなる。
【0042】
もし使用者がタンク32が満杯になった後も結露水の排出を行わずに遠心分離機1を使用した場合、ロータ室3内に結露水が溜まり始めるが、ロータ室3にある結露水はロータ4の回転により発生される風によって、ロータ室3内で回転させられるため、その損失分の駆動トルクが増すこととなる。遠心分離機1の制御装置18には、モータ8にかかる適正なトルク値が記憶されているため、モータ8にそのトルク値以上の負荷がかかった場合は、結露水がロータ室3の内部に溜まりすぎたとして、アラームを発すると共に遠心分離運転を停止させる。そのためロータ室3に溜まり得る結露量は限りがあり、それ以上の結露量がある場合は運転させることができないようになっている。よって、空気排出管36の開口部高さが結露量限界線25よりも高い位置にすることによって、いくら結露水を排出しなくても機内に水が溢れることがないようにしている。
【0043】
以上説明したように、本実施例の構成によって、タンク32に多くの結露水を溜めることができ、ドレンチューブからの結露水の排出頻度を大幅に減らすことが可能となる。また、タンク32には、内部の空気の排出のための専用の通路を設けているので、タンク32の内部への結露水の流入がスムーズになる。さらに、ドレンチューブ33にはU字トラップ33aを形成したので、タンク32の内部とロータ室3の内部との空気の流れを遮断することができ、タンク32を大気に開放することによってロータ室3の冷却状況に悪影響を及ぼすことがない。
【実施例2】
【0044】
次に、図2を用いて本発明の第2の実施例に係る遠心分離機41の構造を説明する。第2の実施例において、第1の実施例と同じ構成部分には同じ参照符号を付しており繰り返しの説明は省略する。第2の実施例で異なる主な点は、タンク32に接続された空気排出管46の開口部47の設置位置である。一方をタンク32の排気口32cに接続された空気排出管46はロータ室3の外側を通り、ドア5の内部に入った後、ロータ4のほぼ真上領域にてロータ室3の内部に開放される。このときロータ室3とドレンチューブ43、34とタンク32と空気排出管46とキャップ35からなる空間は外気から密閉状態にある。この状態でロータ4を回転させると、ロータ室3の内部で中心部が負圧となり外周側が正圧となる圧力分布が生じるが、空気排出管46の開口部47の位置の圧力がドレン孔11位置の圧力より低くなる位置とすることでドレン孔11に溜まった結露水がタンク32の内部に誘導されるように流れ、タンク32内の空気はロータ室3に戻るといった循環路をつくることができ、タンク32にスムーズに結露水を溜めることができる。
【0045】
この方式の場合、循環方向は大気圧と関係なく、ドレン孔11位置の圧力Pと空気排出管46の開口部47位置の圧力P’との差圧によって定まるため、P>P’という関係が保てればドレン孔11の位置が負圧(大気圧と比較して)となっても構わなく、ドレン孔11の位置を従来よりも中心に設けることが可能となるといったメリットもある。なお、第2の実施例においてロータ室3は大気に連通していないため、タンク32の前にドレンチューブ33によるU字トラップを設ける必要はない。本実施例においては空気排出管46をドア5の裏に設けたが、これに限らずP>P’という関係を実現することができるのであれば、ロータ室3の任意の位置、例えば底部付近に設けてもよい。
【0046】
第2の実施例のように構成することにより、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。尚、タンク32及びドレンチューブ34、43の結露水が満水状態となって、ボウル2の底部に結露水が溜まって、結露量限界線25まで達した場合には、ロータ4を回転させるためにモータ8にかかるトルク値が規定を越えるので、アラームを発すると共に遠心分離運転が停止される。
【0047】
第2の実施例では、空気排出管46の接続位置によってドレン孔11付近とタンク32の空気の圧力差を生成させるように構成したが、このような圧力差を生成させる手段は空気排出管46を用いて生成しないでその他の方法にて生成するようにしても良い。例えば、タンク32の排気口32cから接続される空気排出管46に一方に機械式の空気ポンプ(圧力差生成手段)を設けても良いし、タンク32を伸縮式にしてロータの回転中に所定の伸縮動作を行うことによって圧力差を生成するように構成しても良い。
【実施例3】
【0048】
次に、図3を用いて本発明の第3の実施例に係る遠心分離機51の構造を説明する。第3の実施例においても、第1、第2の実施例と同じ構成部分には同じ参照符号を付しており繰り返しの説明は省略する。第3の実施例で主な異なる点は、タンク32に接続された空気排出管56の開放部位置である。本実施例ではドレンパイプ12からタンク32がドレンチューブ53によって接続される。しかしながら、ドレンチューブ53は筐体6の横板6aに形成された貫通穴6bに近い位置にて2分割されて、ドレンチューブ53a、53bに分けられ、これらの間に分岐手段たるT型三方コネクタ57を介在させるようにした。T型三方コネクタ57のもう一つの開口部には、タンク32の排気口32cに接続される空気排出管56が接続される。タンク32の下側開口部32bにはドレンチューブ34が接続され、先端にはキャップ35が取り付けられる。
【0049】
通常、ボウル2からドレンチューブ53等のパイプを介して密閉されたタンク32に水を流す場合は、同じパイプ内で結露水の流れと空気の流れが相対することになる。しかしながら、ボウル2から流れる結露水の量が多すぎる場合は、パイプ内が結露水で塞がれることになったうえに、タンク32の内部の空気の排出ができなくなるため、結果として結露水がタンク32の内部に流れにくくなる。これは、タンク32の内部の空気を外部に排出できるようにすれば良いのであるが、開放してしまうとロータ室3の冷却を妨げることになる。そこで、少なくともタンク32からT型三方コネクタ57までの間だけを、結露水と空気が通る通路を独立させることによって、空気排出管56が無い場合に比べて空気が抜けやすくなる。このように、結露水と空気を抜く通路を完全に別にしなくてもよく、簡易な方法で結露水をスムーズに流すための効果を出すことができる。尚、T型三方コネクタ57はできるだけドレンパイプ12に近い箇所に設けることが好ましい。
【実施例4】
【0050】
次に図4及び図5を用いて本発明の第4の実施例を説明する。第4の実施例は、第1〜3の実施例に対して結露水を溜めるタンクの設置位置と、タンクの水位を確認するための覗き窓の設置位置を変更したものであって、遠心分離機61の内部の冷却装置や制御装置の配置等は第1〜3の実施例とは異なるものの、収容される機器は同じである。
【0051】
図4は、第4の実施例に係る遠心分離機61の外観を示す斜視図である。遠心分離機61の筐体62の上部にはドア65が設けられる。ドア65の前面中央付近には取っ手部65aが設けられ、作業者は取っ手部65aに手を掛けることによってドア65を開閉することができる。遠心分離機61の前面パネルにはメインテナンス用の開口部が設けられ、開口部は覆い部材となるフロントカバー66が装着される。フロントカバー66は、4箇所に設けられたネジ64によって筐体62に固定される。フロントカバー66の左下端付近には、ドレンチューブ74を機外に引き出すための切り欠き66aが設けられる。ドレンチューブ74の先端はドレンコック75が設けられるので、作業者はドレンコック75をひねるだけで容易に結露水を排出することができる。
【0052】
図5は図4の状態からフロントカバー66を取り外した状態の遠心分離機61を示す斜視図である。遠心分離機61の筐体62の前面側には、内部の機器をメインテナンスするための開口部69が設けられる。開口部69の周縁の4箇所にはフロントカバー66を固定するためのネジ穴63が形成される。遠心分離機61の筐体62の内部には、モータ8を収容する仕切り板68と、冷却装置7を収容する部分の仕切り板67が設けられる。ロータ室を画定するためのボウルは、仕切り板68の上側部分、つまり、開口部69よりも上側に設けられる。仕切り板67には、覗き窓78が設けられ、覗き窓78の後方側には結露水を溜めるためのタンク72が配置される。
【0053】
図中の点線で示すようにタンク72の上部には図示しないドレンから接続されるドレンチューブ73が接続され、同様にタンク72の下部からは排水用のドレンチューブ74が接続される。また、図中に点線で図示していないがタンク72の上側には排気口が設けられ、第1〜第3の実施例で示したような空気排出管が設けられる。ドレンチューブ74は、例えばビニール製等の柔軟なチューブで構成され仕切り板67に形成された穴67aを通して仕切り板67の前面側に引き出される。ドレンチューブ74の先端にはドレンコック75が設けられる。ドレンチューブ74は、図4で示したようにフロントカバー66の切り欠き66aから外部に引き出す状態にしても良いし、ドレンチューブ74とドレンコック75を通常は仕切り板67とフロントカバー66の間の空間に収容して、排水時にだけフロントカバー66を取り外してドレンチューブ74を引き出すようにしても良い。
【0054】
図5から理解できるように、仕切り板67には覗き窓78が設けられる。覗き窓78の大きさは、縦方向及び横方向共にタンク72よりも小さい大きさで良い。しかしながら、覗き窓78を設ける目的が、タンク72に溜まっている結露水の量を確認するためであるので上下方向に十分な長さを有するようにするとよい。また、タンク72は透明又は半透明のボトル状のものとすると良い。
【0055】
以上説明したように、第4の実施例では通常のメインテナンスで頻繁に開閉するフロントカバー66を取り外した位置から結露水の溜まった量が視認できる場所に、タンク72を配置したので、メインテナンス時に容易に結露水の量を確認することができ、使い勝手の良い遠心分離機を実現できる。また、第1〜第3の実施例と違って、遠心分離機の後ろ側を覗き込む必要が無いので、使い勝手の良い遠心分離機を実現することができる。尚、第4の実施例ではタンク72の設置場所を工夫した例を説明したが、タンク72を設置する場所は上述の実施例の箇所に限られずに、他の箇所に設けても良い。例えば、図4のフロントカバー66のすぐ内側に配置させて、フロントカバー66に覗き窓78に相当する窓やスリットを形成するようにしても良い。さらに、フロントカバー66だけでなく、筐体62の側面(右側或いは左側)の内側にタンク72を配置して、窓やスリットを形成するようにしても良い。これらの変形例の場合であっても、タンク72はボウルの底部に形成されるドレン孔の位置よりも低くすることが重要である。
【0056】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 遠心分離機 2 ボウル 3 ロータ室 4 ロータ
5 ドア 6 筐体 6a 横板 6b 貫通穴
7 冷却装置 7a 凝縮機 7b 圧縮機 7c 銅パイプ
7d キャピラリー 8 モータ 10 送風装置
11 ドレン孔 12 ドレンパイプ 14 断熱材
15 蝶番 16 ドアパッキン 17 操作パネル
18 制御装置 20 送風機 25 結露量限界線 27 棚板
32 タンク 32a 上側開口部 32b 下側開口部
32c 排気口 33 ドレンチューブ 33a U字トラップ
33b 貯水面 34 ドレンチューブ 35 キャップ
36 空気排出管 37 開口部 38 水面 39 覗き窓
41 遠心分離機 43 ドレンチューブ 46 空気排出管
47 開口部 51 遠心分離機 53、53a、53b ドレンチューブ
56 空気排出管 57 T型三方コネクタ 61 遠心分離機
62 筐体 63 ネジ穴 64 ネジ 65 ドア
65a 取っ手部 66 フロントカバー
66a (フロントカバーの)切り欠き 67 仕切り板
67a (仕切り板の)穴 68 仕切り板 69 開口部
72 タンク 73、74 ドレンチューブ 75 ドレンコック
78 覗き窓
101 (従来の)遠心分離機 120 ドレンチューブ
125 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの回転軸に取り付けられるロータと、
前記ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、
前記ボウルの開口部を密閉するドアと、
前記ロータ室を冷却するための冷却装置と、
前記ロータ室内の結露水を排出するために、前記ボウルにドレン孔が形成され、前記ドレン孔から接続される排水管を有する遠心分離機において、
前記排水管の前記ドレン孔から排水口までに至る通路中に結露水を溜めるためのタンクを設け、
前記タンク内の空気を抜くために前記排水管とは別の通路で形成される空気抜き手段を設けたことを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記タンクは前記ドレン孔よりも低い位置に設けられ、前記タンクから前記排水口に至る通路は、前記ロータが回転している際には閉鎖されることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記空気抜き手段は前記タンクに接続される排気管であって、
前記排気管の排気口は前記ドレン孔の位置よりも高い位置において大気中に開放され、
前記タンクと前記ドレン孔間においてU字型のトラップを形成して常に結露水が溜まるように構成したことを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記排気管の排気口の高さは、前記ロータ室内に溜まり得る結露水の最高水位の高さよりも高い位置とすることを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記タンクに、前記ロータ室の前記ドレン孔付近との気圧差を生じさせる圧力差生成手段を設けたことを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記圧力差生成手段は、前記タンクと前記ロータ室内の開口部を接続する通路であって、
前記圧力差生成手段は、前記ロータ室内の気圧差を利用して前記タンク内を負圧にすることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記開口部は前記ロータを回転させた場合に前記ドレン孔の位置の圧力よりも低圧となる位置に設けられることを特徴とする請求項6に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記排気管の前記タンクと反対側の端部は前記タンクと前記ドレン孔間の前記排水管の分岐手段に接続されることを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記タンクは透明又は半透明の容器であって前記遠心分離機の筐体の内側に配置され、
前記筐体の外側から前記タンクの水位を直接又は間接的に視認できるように前記筐体に覗き窓を設けたことを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項10】
前記筐体には、メインテナンスのために取り外し可能な覆い部材を有し、
前記覗き窓は、前記覆い部材を外した際に視認できる位置に設けられることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−110872(P2012−110872A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264432(P2010−264432)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】