説明

遮光剤及び皮膜組成物

光や紫外線による製剤表面の剥離や白浮き現象を抑制し、製剤表面の光沢性を向上させ、外観を長時間維持することができ、かつ医薬品製剤等の安定性や品質を損なうことのない遮光剤及びこれを含有する皮膜組成物等を提供する。かかる遮光剤は、カルシウム含有化合物を含有するものであり、かかる皮膜組成物は、カルシウム含有化合物を含有する遮光剤と皮膜基剤とを含有するものである。さらに、本発明は、上記遮光剤又は上記皮膜組成物のいずれか又はその両方で被覆された製剤・カプセルを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光や紫外線による製剤表面の皮膜層の剥離や白浮き現象を抑制し、医薬品製剤等の安定性や品質を長期間維持することができる新規遮光剤、皮膜組成物及びこれを用いた製剤・カプセルに関する。
本出願は、日本国特許出願基礎出願2002−365323号及び2003−185232号を基礎としており、その内容を本明細書に組み込む。
【背景技術】
医薬品あるいは健康食品、食品及び化粧品製剤の配合成分の中には、光や酸素、水分(湿度)に対して不安定であったり、不快臭や苦味又は刺激などを有するものがある。そこで、安定性の確保またはこれらをマスキングする目的で、遮光剤を含む皮膜組成物で被覆することによりこれらの問題点の解決が図られてきた。
遮光剤としては種々のものが用いられているが、もっともよく用いられているのは酸化チタンであり、安全性が高く医薬品、化粧品分野で古くから用いられてきた。しかし、医薬品等として配合される成分の中には、酸化チタンにより安定性が損なわれるもの、あるいは紫外線により酸化チタンから発生したラジカルのため成分分解が促進されるものもあり、商品の品質を維持することができない、等の問題点があった。また、酸化チタン含有皮膜組成物で被覆された製剤は、光(紫外線)照射により、経時的に皮膜の剥離あるいは白浮き現象が生じる場合がある。その結果、コーティング状態を保つことが困難となり、外観が損なわれたり、あるいは光や酸素、水分により中の成分が分解され、結果として医薬品製剤等で期待され得る効果が発揮されないなどの問題も懸念される。
これらの問題を解決するために種々の検討がなされており、例えば紫外線によりフリーラジカルを発生する遮光剤(酸化チタン等)とラジカル消去剤が配合された被覆剤で被覆された医薬製剤が検討されている(例えば、特開平11−147819号公報参照)。また、薬物をタルク及び/又は硫酸バリウムを含有する被覆剤で被覆した製剤についても検討がなされている(例えば、特開2002−212104号公報参照)。
しかし、これらの技術は上記問題点を解決するに到っていない。また、酸化チタンをはじめこれらの基剤は、いずれも水、有機溶媒に対し不溶性のため被覆液の調製が煩雑である(微粒子懸濁溶液の調製及び微粒子沈降に伴う溶液の不均一化)。さらに、懸濁液をスプレーするため錠剤表面の凹凸、皮膜強度の低下を防ぐことができなかったり、または製造中に噴霧ノズルの詰まり、あるいはノズル先端に固形物の積層により生じる液垂れ等の被覆工程トラブルを引き起こす等の問題点を有することから、新しい遮光剤および皮膜組成物の開発が望まれている。
【発明の開示】
従って本発明の目的は、光や紫外線による製剤表面の剥離や白浮き現象を抑制し、製剤表面の光沢性を向上させ、外観を長期間維持することができ、かつ医薬品製剤等の安定性や品質を長期間維持することができる遮光剤、皮膜組成物及びこれを用いた製剤・カプセルを提供するものである。
本発明者らは鋭意研究を重ね検討を行った結果、新規遮光剤としてカルシウム含有化合物を用いれば、医薬品製剤等の安定性や品質を長期間維持することができ、また、光や紫外線による製剤表面の剥離や白浮き現象が抑制された製剤が得られることを見出した。また、カルシウム含有化合物と皮膜基剤とを含んでなることを特徴とする皮膜組成物であれば上記と同様の効果が得られることを見出した。
ここで、本発明において、カルシウム含有化合物とは、カルシウム塩、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ドロマイトやハイドロキシアパタイト等のカルシウム錯体、その他のカルシウム元素を含む化合物をいう。
即ち本発明の第一の発明は、カルシウム含有化合物を含有する遮光剤を提供するものである。
また本発明の第二の発明は、カルシウム含有化合物と皮膜基剤を含有する皮膜組成物を提供するものである。
さらに本発明の第三の発明は、カルシウム含有化合物を含有する上記遮光剤又は上記皮膜組成物により被覆された製剤を提供するものである。
さらに本発明の第四の発明は、第二の発明に係る皮膜組成物を含有するカプセルを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係る遮光剤は、カルシウム含有化合物を1種以上含有するものである。本発明で用いられるカルシウム含有化合物としては、カルシウム塩、水酸化カルシウム、酸化カルシウム及びカルシウム錯体(例えばドロマイト(CaMg(CO)やハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH)))等が挙げられる。また、本発明に係る遮光剤や皮膜組成物等においては、リュウコツ(リュウコツは古代の大型脊椎動物の骨格の化石で生薬として使用)、セッコウ(天然の含水硫酸カルシウムで生薬として使用)等の鉱物由来のカルシウム含有化合物を含有する組成物、ボレイ(蠣殼、イタボガキ科(Osteridae)のカキOsteriagigas Thunbergの貝がらで生薬として使用)、サンゴカルシウム(サンゴ由来)、牛骨粉、魚骨粉、貝殻粉末、卵殻等の天然物由来のカルシウム含有化合物を含有する組成物及びこれら組成物の焼成物をそのままあるいは精製して使用することもできる。
本発明に用いられるカルシウム含有化合物としては、カルシウム塩、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムから選択された1種以上を用いることが好ましく、特にカルシウム塩を用いることが好ましい。
本発明で用いられるカルシウム塩は、無機カルシウム塩、有機カルシウム塩のいずれも使用することができるが、水、有機溶媒、水と有機溶媒(特にアルコール)との混合液またはこれらの溶媒に皮膜基剤を加えた溶液に対し、ほとんど溶解すれば特に制限されないが、水溶性のものがより好ましい。
本発明で用いられる無機カルシウム塩としては、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸水素カルシウム及び硝酸カルシウム等が挙げられるが、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウムが好ましく、特に塩化カルシウムが好ましい。無機カルシウム塩の品質については特に制限はないが、純度としては70%以上のものが好ましく、より好ましくは80%以上のものであり、特に好ましくは90%以上のものである。
本発明で用いられる有機カルシウム塩としては、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酒石酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、糖酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、乳酸カルシウム等が挙げられるが、特に乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウムが好ましい。ここで、糖酸とは、アルドースからアルデヒド基の形式的酸化によって得られるカルボン酸のことをいい、糖酸カルシウムとは、糖酸のカルシウム塩のことをいう。有機カルシウム塩の品質について特に制限はないが、純度としては70%以上のものが好ましく、より好ましくは80%以上のものであり、特に好ましくは90%以上のものである。
本発明の第二の発明の皮膜組成物は、かかる1種以上のカルシウム含有化合物と1種以上の皮膜基剤とを含んでなるものである。本発明の第二の発明の皮膜組成物は、フィルム形成性が良い、フィルムが強靭で柔軟であること、人体に無害である、臭気がない、化学的に不活性である等の皮膜組成物に必要な一般的性質を保持し、かつ製剤表面の皮膜層の剥離や白浮き現象を抑制する、という長所を有するものである。さらに本発明の皮膜組成物は、カルシウム含有化合物及び皮膜基剤が共に同質の溶媒に溶解すれば(例えば、カルシウム含有化合物及び皮膜基剤が共に水溶性であれば)、溶媒に添加した場合、従来技術の酸化チタン含有皮膜組成物と異なり懸濁状態ではなく溶液状態であることから、調製が容易であり、コーティング工程トラブルを回避することが可能であり、かつ、コーティング時の作業性に優れている。また、特殊な添加剤を加えることなく、光沢性に優れた白色の皮膜を形成することができる。
本発明に用いられる皮膜基剤としては、特に制限はないが、通常一般公知のものが使用され、例えば、1)水溶性皮膜基剤:メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギットE(商品名)、ロームファルマ社)、ポリビニルピロリドン等の合成高分子、プルラン、カラギーナン(海藻(紅藻スギノリ目)より抽出される増粘ゲル化用の高分子多糖類)、ヘミロース(植物に含まれている多糖類)、アルギン酸、マンニトール等の多糖類、ショ糖等の二糖類、グルコース等の単糖類、ソルビット等の糖アルコール、ゼラチン、2)徐放性皮膜基剤:メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系高分子、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル共重合体懸濁液(オイドラギットNE(商品名)、ロームファルマ社)等のアクリル酸系高分子、3)腸溶性皮膜基剤:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース等のセルロース系高分子、メタアクリル酸コポリマーL(オイドラギットL(商品名)、ロームファルマ社)、メタアクリル酸コポリマーLD(オイドラギットL−30D55(商品名)、ロームファルマ社)等のアクリル酸系高分子;等が挙げられ、これらは適宜組み合わせて使用することができる。好ましいのは、セルロース系高分子であり、その中で特に好ましいのは、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
なお、本発明において糖類とは、炭水化物中単糖類、二糖類、多糖類の総称をいい、多糖類の中にはセルロース系高分子も含まれるものとする。
皮膜組成物中のカルシウム塩等の含量は皮膜基剤に対し、好ましくは0.1〜150質量%、より好ましくは0.5〜100質量%、特に好ましくは1〜75質量%である。0.1質量%未満では、カルシウム等含有の効果が必ずしも十分でなく、150%超では、カルシウム等の量が多すぎて基剤との相乗効果が必ずしも十分に発揮されない。
本発明の皮膜組成物は、基本的には遮光剤と皮膜基剤からなるが、必要に応じて種々の添加剤を加えることができ、例えば、可塑剤;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン類、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、アセチルグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸トリエチル等、香料;レモン油、オレンジ、dl−またはl−メントール等、その他一般的に使用されている添加剤が挙げられる。
本発明の遮光剤又は皮膜組成物を用いて製剤を被覆することにより、光や紫外線による製剤表面の剥離や白浮き現象を抑制し、製剤表面の光沢性を向上させ、外観を長期間維持することができ、かつ医薬品製剤等の安定性や品質を長期間維持できる遮光剤、皮膜組成物及びこれを用いた製剤・カプセルを得ることができる。また、これら4者に対しては、必要に応じて着色剤を加えることができ、着色剤としては一般公知のものが使用できるが、例えば、酸化鉄、β−カロチン、クロロフィル、水溶性食用タール色素等、黄色4号アルミニウムレーキ等が挙げられる。
本発明では、皮膜組成物に対し必要に応じて適宜ラジカル消去剤を配合することができる。使用されるラジカル消去剤は、特に制限されないが、一般公知のものが使用できる。例えば、β−カロチン、ビタミンC類;アスコルビン酸ナトリウム,アスコルビン酸カルシウム等、ビタミンE類;d−α−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール等、亜硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等、アミノ酸類;システイン等が挙げられ、適宜組み合わせて使用することができる。
本発明の第一の発明の新規遮光剤は、粉状、顆粒状、固形状、分散液状、溶液状等のいずれの形態でもよい。
本発明の第二の発明の皮膜組成物は、粉状、顆粒状、固形状、分散液状、溶液状等のいずれの形態でもよい。本発明の第二の発明の皮膜組成物の製造方法は、特に制限されないが、一般公知の方法により製造することができる。例えば、カルシウム含有化合物と皮膜基剤、そして必要に応じて添加物を添加した後、混合することにより製造するか、あるいは溶媒に添加し、必要に応じて溶媒を除去する方法等によって製造することができる。製造において使用される溶媒としては、水あるいはメチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトン等のケトン類などの有機溶媒あるいはこれらの混合液などが挙げられるが、好ましくは、水、メチルアルコール、エチルアルコールおよびこれらの混合液が挙げられる。
本発明の遮光剤又は皮膜組成物で製剤を被覆する方法は、特には制限されないが、通常一般公知の方法により被覆することができる。例えば、スプレーコーティング法やパンコーティング法・転動コーティング法等が挙げられ、特にスプレーコーティング法が好ましい。ここで、スプレーコーティング法とは、例えばカルシウム含有化合物と皮膜基剤等を水に溶解したコーティング溶液を(ハイコーター、フローコーター等のコーティング機器を用いて)錠剤及び顆粒剤に噴霧、乾燥して被覆する方法である。なお、本発明の製剤の剤形としては、例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤およびカプセル剤等が挙げられ、特に錠剤、顆粒剤が好ましい。また、本発明において用いられるカプセルとしては、硬カプセル、軟カプセル等があげられるが、特に硬カプセルが好ましい。
皮膜組成物の使用量はこれらの剤形にあわせて決定することができる。例えば、錠剤であれば錠剤重量部に対して3〜15重量%被覆すればよい。これらの製剤には、医薬品、化粧品、健康食品等の有効成分の他に、必要に応じて例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味剤、防腐剤、香料、着色剤、吸着剤、湿潤剤、崩壊遅延剤等の一般的な添加物を添加することができる。
本発明においては、製剤を遮光剤や皮膜組成物で被覆したものを上述のカプセルに充填する他、カプセル自体が本発明に係る皮膜組成物を含有するものとしてもよい。この場合、カプセル自体が遮光性を有するので、結果として、カプセル内部の製剤の安定性や品質を長期間維持することができる等の効果を得ることができる。
本発明に係るカプセルの製造方法としては一般公知の方法が挙げられるが、以下にその一例を示す。即ち、精製水にヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)15〜30重量部を攪拌しながら溶解し、更に乳酸カルシウム4〜10重量部を加えて無色透明な浸漬液を調製し、この浸漬液にステンレス製の成型ピンを漬ける。次いで、その成型ピンを回転させながら乾燥させ、成型ピンに付着したHPMC部分を切断することにより製造することができる。
本発明の実施に係る遮光剤はカルシウム塩等のカルシウム含有化合物を含有し、本発明の実施に係る皮膜組成物はカルシウム含有化合物とセルロース系高分子に例示される皮膜基剤を含有し、本発明の実施に係る製剤は上記遮光剤や皮膜組成物で被覆され、本発明の実施に係るカプセルは上記皮膜組成物を合有している。
そして、本発明の実施に係る皮膜組成物においては、適宜、可塑剤、香料などが加えられ、本発明の実施に係る製剤においては、適宜、賦形剤等の一般的な添加物が加えられている。
こうした構成をとることにより、本発明の実施に係る遮光剤、皮膜組成物及びこれらのいずれか又は両方を用いた製剤・カプセルは、光や紫外線による製剤表面の剥離や白浮き現象を抑制し、製剤表面の光沢性を向上させ、外観を長時間維持することができ、良好な崩壊性を保持し、かつ、医薬品製剤等の安定性や品質を、特に、光、酸素、水分(湿度)といった要因に対して、長期間維持することができるという効果を奏するものである。
さらに本発明の皮膜組成物は、カルシウム含有化合物及び皮膜基剤が共に同質の溶媒に溶解すれば(例えば、カルシウム含有化合物及び皮膜基剤が共に水溶性であれば)、溶媒に添加した場合、従来技術の酸化チタン含有皮膜組成物と異なり懸濁状態ではなく溶液状態であることから、調製が容易であり、コーティング工程トラブルを回避することが可能であり、かつ、コーティング時の作業性に優れている。また、特殊な添加剤を加えることなく、光沢性に優れた白色の皮膜を形成することができる。
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
試験例1
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC;信越化学製)8質量%の水溶液に乳酸カルシウムを加えて乳酸カルシウム0.1〜6質量%の無色澄明な混合溶液を調製した。この溶液をガラス板上にキャスティングし、60℃で10時間乾燥して厚さ0.1mmの皮膜を製造した。これらの皮膜の色調、光沢性を目視により観察した。結果を表1に示す。なお、乳酸カルシウム無添加の場合をコントロールとして記載した。また8質量%のHPMC水溶液に塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム及び塩化マグネシウムを加え、いずれも2質量%の無色澄明な混合溶液を調製し、同様にしてキャスティング皮膜を製造した。これらの皮膜の色調、光沢性を目視により観察した。結果を表2に示す。


以上の結果より、乳酸カルシウム、塩化カルシウム及びグルコン酸カルシウムを加えたキャスティング皮膜は、いずれも光沢性に優れた白色を呈し遮光性を有すると考えられるが、塩化マグネシウム及びHPMC単独のキャスティング皮膜は無色透明であり、遮光性を有さないと考えられる。
試験例2
ポリビニルピロリドン0.1kgとニフェジピン0.1kgをエタノール1Lに溶解した後、この溶液を乳糖0.3kg、微結晶セルロース0.15kg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム0.4kg及びカルメロースカルシウム0.14kgの混合末に添加して練合した。練合物を60℃で24時間乾燥して30メッシュの篩いで篩過した後、篩過品1kgにステアリン酸マグネシウム8gを加えて混合し、打錠機(クリーンプレス19K、菊水製作所製)で径7mm、重量120mgのニフェジピン錠剤を製造した。
HPMC160gを精製水1780gに溶解し、更に乳酸カルシウム40gとポリエチレングリコール(PEG6000)20gを加えて無色澄明なコーティング液を調製した。
このコーティング液をドリアコーター(DRC−200、パウレック社製)を用いてニフェジピン錠に噴霧コーティングして皮膜量8%の白色フィルム錠を製造した。
また、HPMC160gを精製水1780gに溶解し、酸化チタン40gとPEG6000 20gを加えて白色懸濁のコーティング液を調製した。この液を用いて同様にニフェジピンの白色フィルム錠(皮膜量8%)を製造した。これらの皮膜の色調、光沢性を目視により観察した。結果を表3に示す。

以上の結果より、乳酸カルシウム配合フィルム錠は、従来技術である酸化チタン配合フィルム錠と比較して、同等の崩壊性を有しかつ錠剤表面の光沢性に優れていることが示された。
試験例3
25℃−RH50%の恒温、恒湿条件下において試験例2で得られた各フィルム錠及び素錠に紫外線を照射し(700mW/cm)、経時的に錠剤の外観変化及びニフェジピン含量を測定した。結果を表4に示す。ニフェジピンの定量は、HPLC(LC−10A、島津製作所製)を用いて下記の条件で実施した。
カラム;YMC−Pack ODS−A(150×4.6mmID)、移動相;アセトニトリル:メタノール:水(1:1:2)、流速;0.9ml/min、測定波長;254nm、

以上の結果より、乳酸カルシウム錠では、従来技術である酸化チタン配合フィルム錠が有する紫外線照射による白浮き現象や錠剤表面の亀裂が生じる、という問題点が改善され、また、ニフェジピン含量の保持もより良好であることが示された。
【産業上の利用可能性】
本発明の遮光剤、皮膜組成物及びこれらのいずれか又は両方を用いた製剤・カプセルは、光や紫外線による製剤表面の剥離や白浮き現象を抑制し、製剤表面の光沢性を向上させ、外観を長時間維持することができ、良好な崩壊性を保持し、かつ医薬品製剤等の安定性や品質を、特に光、酸素、水分(湿度)といった要因に対し、長期間維持することができるという効果を奏するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含有化合物を含有する遮光剤。
【請求項2】
請求項1記載の遮光剤であって、該カルシウム含有化合物が、カルシウム塩、水酸化カルシウム、酸化カルシウム及びカルシウム錯体から選択された1種以上である遮光剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の遮光剤であって、該カルシウム含有化合物が、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム及び硝酸カルシウムから選択された1種以上である遮光剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遮光剤であって、該カルシウム含有化合物が、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウムから選択された1種以上である遮光剤。
【請求項5】
カルシウム含有化合物と皮膜基剤とを含有する皮膜組成物。
【請求項6】
請求項5記載の皮膜組成物であって、該カルシウム含有化合物が、カルシウム塩、水酸化カルシウム、酸化カルシウム及びカルシウム錯体から選択された1種以上である皮膜組成物。
【請求項7】
請求項5又は請求項6記載の皮膜組成物であって、該カルシウム含有化合物が、請求項1〜4のいずれか1項記載の遮光剤である皮膜組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項記載の皮膜組成物であって、該皮膜基剤が水溶性のものである皮膜組成物。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項記載の皮膜組成物であって、該皮膜基剤が糖類である皮膜組成物。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項記載の皮膜組成物であって、該皮膜基剤がセルロース系高分子である皮膜組成物。
【請求項11】
請求項5〜10のいずれか1項記載の皮膜組成物であって、該皮膜基剤がメチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択された1種以上である皮膜組成物。
【請求項12】
請求項5〜9のいずれか1項記載の皮膜組成物であって、該皮膜基剤がセルロース系高分子以外の多糖類である皮膜組成物。
【請求項13】
請求項5〜9及び請求項12のいずれか1項記載の皮膜組成物であって、該皮膜基剤がプルラン、ガラギーナン、ヘミロース、アルギン酸から選択された1種以上である皮膜組成物。
【請求項14】
請求項5〜13のいずれか1項記載の皮膜組成物であって、該皮膜組成物中に該皮膜基剤に対し0.1〜150質量%のカルシウム塩、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムから選択された1種以上が含まれる皮膜組成物。
【請求項15】
請求項5〜14のいずれか1項記載の皮膜組成物で被覆されている製剤。
【請求項16】
請求項15記載の製剤であって、該製剤が錠剤、顆粒剤又はカプセル剤である製剤。
【請求項17】
請求項15又は請求項16記載の製剤であって、スプレーコーティング法で被覆されている製剤。
【請求項18】
請求項5〜14のいずれか1項記載の皮膜組成物を含有するカプセル。

【国際公開番号】WO2004/054619
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【発行日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502493(P2005−502493)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016100
【国際出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【特許番号】特許第3759949号(P3759949)
【特許公報発行日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】