説明

遮水層の損傷検知システム及び遮水層の損傷検知方法

【課題】遮水層の損傷の有無を的確に判定できる遮水層の損傷検知システムを提供する。
【解決手段】廃棄物処分場12において、廃棄物処分場12に埋め立てられる廃棄物15と廃棄物処分場12の外部領域16との間に設けられる少なくとも一重の遮水層2の損傷の有無を検知する遮水層の損傷検知システム1であって、外部領域16の内部、埋め立てられた廃棄物15の内部、又は遮水層2が二重以上に設けられる場合に少なくとも何れかの隣接する遮水層2、2間、の少なくとも何れかに設置された電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知するセンサ6と、センサ6の検知信号に基づいて少なくとも何れかの遮水層2の損傷の有無を判定する損傷判定部10とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水層の損傷検知システム及び遮水層の損傷検知方法に関し、特に、一般廃棄物や産業廃棄物を埋め立て処分する廃棄物処分場に設けられ、埋め立てられた廃棄物と外部領域との間に設けられる遮水層の損傷の有無を検知するのに有効な遮水層の損傷検知システム及び遮水層の損傷検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物や産業廃棄物を埋め立て処分する廃棄物処分場においては、廃棄物から浸出する有害物質等を含む汚水が地盤内に浸透し、地盤内の地下水脈に混入して周囲の環境を汚染する虞があるため、廃棄物処分場の内面に遮水シート等の遮水層を設け、汚水が地盤内に浸透して地下水脈に混入するのを防止している。
【0003】
また、上記のような構成の廃棄物処分場においては、各種の管理システムを用いて遮水シート等の遮水層の損傷の有無を監視し、遮水層が初期の遮水性能を維持しているか否かの判断を行い、汚水が地盤内に浸透しているか否かの判断を行っている。
【0004】
遮水シートの損傷の有無を監視する管理システムの例が特許文献1、2に記載されている。
特許文献1に記載の管理システムは、遮水シートの損傷の有無を電気的に検知するシステムであって、廃棄物の内部に内部電極を設置し、地盤側に外部電極を設置し、二重の遮水シート間に測定電極を設置し、内部電極と外部電極と測定電極との協働により、遮水シートが損傷しているか否かの判断を行うように構成したものである。
【0005】
また、特許文献2に記載の管理システムは、廃棄物処分場の周囲に複数の観測井を設置し、各観測井の水質を監視することにより、地下水の汚染原因が廃棄物処分場によるものなのか、廃棄物処分場以外によるものなのかの判断を行うように構成したものである。また、二重の遮水シート間を複数のブロックに区画し、各ブロックに注水管を介して清水を圧送し、各ブロックから排水管を介して排出される清水の水質を分析することにより、遮水シートの損傷の有無の判断を行うように構成したものである。
【特許文献1】特開2000−202392号公報
【特許文献2】特開平10−66943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1、2に記載の管理システムにあっては、遮水シートの損傷位置を検知することはできるが、その損傷が上側の遮水シートなのか、下側の遮水シートなのか、上側と下側の両方の遮水シートなのかを判断することができない。
【0007】
また、二重以上の遮水シートの損傷の有無には適用できるが、一重の遮水シートの損傷の有無には適用することができない。
【0008】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、遮水層の重合数に拘らずに、所望の遮水層の損傷の有無を的確に検知できる遮水層の損傷検知システム及び遮水層の損傷検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、廃棄物処分場において、前記廃棄物処分場に埋め立てられる廃棄物と前記廃棄物処分場の外部領域との間に設けられる少なくとも一重の遮水層の損傷の有無を検知する遮水層の損傷検知システムであって、前記外部領域の内部、前記埋め立てられた廃棄物の内部、又は前記遮水層が二重以上に設けられる場合に少なくとも何れかの隣接する遮水層間、の少なくとも何れかに設置された電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知するセンサと、前記センサの検知信号に基づいて少なくとも何れかの遮水層の損傷の有無を判定する損傷判定部とを備えてなることを特徴とする。
【0010】
本発明による遮水層の損傷検知システムによれば、廃棄物処分場の外部領域の内部、廃棄物処分場に埋め立てられた廃棄物の内部、又は遮水層が二重以上に設けられる場合に少なくとも何れかの遮水層間、の少なくとも何れかに設置されたセンサにより、廃棄物処分場の外部領域の内部、廃棄物処分場に埋め立てられた廃棄物の内部、又は少なくとも何れかの遮水層間、の少なくとも何れかの電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも一方が検知され、この検知信号に基づいて損傷判定部により少なくとも何れかの遮水層の損傷の有無が判定されることになる。
つまり、廃棄物から浸出した汚水と外部領域の地下水等とは、電気伝導度及び水素イオン水素が異なる値を示すので、この特性を利用することにより少なくとも何れかの遮水層の損傷の有無を判定することができる。
【0011】
また、本発明は、前記遮水層は一重に設けられ、前記外部領域の内部、又は前記埋め立てられた廃棄物の内部の少なくとも何れか一方に前記センサが設置され、該センサの検知信号に基づいて前記損傷判定部により前記遮水層の損傷の有無を判定することを特徴とすることとしてもよい。
【0012】
本発明によれば、外部領域の内部、又は埋め立てられた廃棄物の内部の少なくとも何れか一方に設置されたセンサにより、廃棄物処分場の外部領域の内部又は埋め立てられた廃棄物の内部の少なくとも一方の電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも一方が検知され、この検知信号に基づいて損傷判定部により所望の遮水層の損傷の有無が判定されることになる。
【0013】
さらに、本発明は、前記遮水層は二重以上に設けられ、前記少なくとも何れかの隣接する遮水層間に前記センサが設置され、該センサの検知信号に基づいて前記損傷判定部により前記所望の遮水層の損傷の有無を判定することを特徴とすることとしてもよい。
【0014】
本発明によれば、少なくとも何れかの隣接する遮水層間に設置されたセンサにより、少なくとも何れかの隣接する遮水層間の電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも一方が検知され、この検知信号に基づいて損傷判定部により所望の遮水層の損傷の有無が判定されることになる。
【0015】
さらに、本発明は、前記外部領域の内部、前記埋め立てられた廃棄物の内部、又は前記隣接する遮水層間には、複数の前記センサが分散配置されていることを特徴とすることとしてもよい。
【0016】
本発明によれば、分散配置された複数のセンサにより、外部領域の内部、埋め立てられた廃棄物の内部、又は隣接する遮水層間の複数箇所の電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方が検知され、この複数のセンサの検知信号に基づいて、所望の遮水層の複数箇所の損傷の有無を判定することができる。
【0017】
さらに、本発明は、前記センサは、電気伝導度を検知するセンサ部と水素イオン濃度を測定するセンサ部とを備えていることを特徴とすることとしてもよい。
【0018】
本発明によれば、一つのセンサにより、電気伝導度及び水素イオン濃度の両方を検知できるので、センサの配置、及びセンサの配線等をコンパクトにすることができる。
【0019】
さらに、本発明は、前記少なくとも一重の遮水層は、アスファルト層、土質層、又は遮水シートの少なくとも何れかを含むことを特徴とすることとしてもよい。
【0020】
本発明によれば、アスファルト層、土質層、又は遮水シートからなる遮水層の損傷の有無が判定されることになる。
【0021】
さらに、本発明は、廃棄物処分場において、前記廃棄物処分場に埋め立てられる廃棄物と前記廃棄物処分場の外部領域との間に設けられる少なくとも一重の遮水層の損傷の有無を検知する遮水層の損傷検知方法であって、前記外部領域の内部、前記埋め立てられた廃棄物の内部、又は前記遮水層が二重以上に設けられる場合に少なくとも何れかの隣接する遮水層間、の少なくとも何れかにおける電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知し、該検知結果に基づいて少なくとも何れかの遮水層の損傷の有無を判定することを特徴とする。
【0022】
本発明による遮水層の損傷検知方法によれば、廃棄物処分場の外部領域の内部、埋め立てられた廃棄物の内部、又は遮水層が二重以上に設けられる場合に少なくとも何れかの隣接する遮水層間、の少なくとも何れかにおける電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知することより、検知結果に基づいて少なくとも何れかの遮水層の損傷の有無を判定することができることになる。
【発明の効果】
【0023】
以上、説明したように、本発明の遮水層の損傷検知システムによれば、廃棄物処分場の外部領域の内部、埋め立てられた廃棄物の内部、又は二重以上の遮水シートの場合には少なくとも何れかの隣接する遮水シート間、の少なくとも何れかに設定されたセンサにより、外部領域の内部、埋め立てられた廃棄物の内部、又は隣接する遮水シート間、の少なくとも何れかの電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知することにより、センサが検知した信号に基づいて損傷判定部により少なくとも何れかの遮水層の損傷の有無を判定することができる。
従って、遮水層の重合数に拘らずに、所望の遮水層の損傷の有無を的確に判定できるとともに、二重以上の遮水層の場合には、何れの遮水層が損傷しているのかを的確に判定することができ、廃棄物処分場を長期に亘って健全な状態に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1には、本発明による遮水層の損傷検知システムの第1の実施の形態が示されている。この遮水層の損傷検知システム1は、表面遮水工によって内部領域13と外部領域16との間が遮水される廃棄物処分場12に適用したものであって、廃棄物処分場12の内面14に設けられて、廃棄物処分場12の内部領域13と外部領域16との間を遮水する遮水層2の損傷の有無の検知に有効なものである。
【0025】
遮水層2は、廃棄物処分場12の内部領域13と外部領域16との間を遮水可能な遮水性を有するものであれば特に制限はなく、アスファルト層、土質層、遮水シート等の各種のタイプのものを対象とすることができる。本実施の形態では、遮水層2を遮水シート2a、2bによって構成している。
【0026】
廃棄物処分場12は、例えば、山間部等を凹状に掘削し、整地することによって造成したものであって、この廃棄物処分場12の内面14の全体を覆うように遮水層2が二重に敷設され、この二重の遮水層2の下側の遮水層(以下、「下遮水シート2a」という。)及び上側の遮水層(以下、「上遮水シート2b」という。)の損傷の有無が本実施の形態による遮水層の損傷検知システム1によって検知される。
【0027】
下遮水シート2a及び上遮水シート2bは、遮水性を有する材料(合成ゴム系、合成樹脂系等の材料)からなる所定の厚さ、幅、長さのシート状をなすものであって、廃棄物処分場12の内面14の全体(底面及び法面の全体)を覆うように、複数枚の下遮水シート2a及び上遮水シート2bが廃棄物処分場12の内面14に敷設されている。
なお、下遮水シート2a及び上遮水シート2bは、上記の構成のものに限らず、他の各種のタイプの遮水シートを用いることができる。要は、所定の遮水性を有するものであればよい。
【0028】
隣接する下遮水シート2a、2a及び上遮水シート2b、2bの縁部間は、互いに重合された状態でシーム溶接機等を用いて熱融着、熱圧着等により水密に一体に接合され、これにより、下遮水シート2aと上遮水シート2bとの間に密閉された空間4が形成されている。
【0029】
なお、下遮水シート2aの下部に、不織布、反毛フェルト、織布等からなるシート状の保護材(図示せず)を敷設し、この保護材によって下遮水シート2aが廃棄物処分場12の内面14に直接に接触するのを阻止してもよい。
【0030】
下遮水シート2aと上遮水シート2bとの間の空間4内には、導電性を有する材料(不織布、反毛フェルト、織布等)からなるシート状の保護材5が介装され、この保護材5によって下遮水シート2aと上遮水シート2bとの間が所定の間隔に保持されている。
なお、下遮水シート2aと上遮水シート2bとの間の空間4を複数の室に区画し、各室内にそれぞれ保護材5を介装するように構成してもよい。
【0031】
遮水層の損傷検知システム1は、廃棄物処分場12の内部領域13(上遮水シート2bの上部の領域)に収容される廃棄物15の内部に設置されるセンサ6(第1センサ6a)と、廃棄物処分場12の外部領域16(下遮水シート2aの下部の地盤16内)に設置されるセンサ6(第2センサ6b)と、上遮水シート2bと下遮水シート2aとの間の空間4内に設置されるセンサ6(第3センサ6c)と、廃棄物処分場12外の管理棟17の内部に設置される損傷判定部10と表示部11とを備え、第1センサ6a、第2センサ6b、及び第3センサ6cのそれぞれは、配線9を介して管理棟17内の損傷判定部10に電気的に接続されている。
【0032】
第1センサ6a、第2センサ6b、及び第3センサ6cは、電気伝導度(EC)を検知するセンサ部と水素イオン濃度(pH)を検知するセンサ部とを備えたセンサ6であって、例えば、両センサ部を一体に組み込んだマルチ水質計(応用地質株式会社製)が有効であり、このような二つのセンサ部を一体に組み込んだものを用いることにより、センサ6の配置、配線等をコンパクトにすることができる。
なお、第1センサ6a、第2センサ6b、及び第3センサ6cは、上記の構成のものに限らず、電気伝導度を検知するセンサ部と水素イオン濃度を検知するセンサ部とを別体に構成したものであってもよい。
【0033】
第1センサ6aは、上遮水シート2bの上部の内部領域13に収容される廃棄物15から浸出した有害物質を含む汚水内に浸漬されるように廃棄物15の内部に設置され、この第1センサ6aによって廃棄物15から浸出した汚水の電気伝導度及び水素イオン濃度が検知され、この第1センサ6aが検知した信号が配線9を介して損傷判定部10に送られる。第1センサ6aは、上遮水シート2bの上部の内部領域13に収容される廃棄物15の少なくとも最低部の1箇所に設置されている。
【0034】
第2センサ6bは、下遮水シート2aの下部の外部領域16である地盤16の内部を流通する地下水内に浸漬されるように地盤16の内部に設置され、この第2センサ6bによって地盤16の内部を流通する地下水の電気伝導度及び水素イオン濃度が検知され、この第2センサ6bが検知した信号が配線9を介して損傷判定部10に送られる。第2センサ6bは、下遮水シート2aの下部の地盤16の内部の複数箇所に分散して設置され、各第2センサ6bによって地盤16の内部の複数箇所の電気伝導度及び水素イオン濃度が検知される。
【0035】
第3センサ6cは、下遮水シート2aと上遮水シート2bとの間の空間4内の複数箇所に分散して設置され、この第3センサ6cによって上遮水シート2bの上部の内部領域13から上遮水シート2bと下遮水シート2aとの間の空間4内に漏出した汚水、又は下遮水シート2aの下部の地盤16から空間4内に漏出した地下水の電気伝導度及び水素イオン濃度が検知され、この第3センサ6cが検知した信号が配線9を介して損傷判定部10に送られる。第3センサ6cは、各第2センサ6bに対応するように、下遮水シート2aと上遮水シート2bとの間の空間4内の複数箇所に分散して設置され、各第3センサ6cによって下遮水シート2aと上遮水シート2bとの間の空間4内の複数箇所の電気伝導度及び水素イオン濃度が検知される。
【0036】
損傷判定部10は、第1センサ6a、第2センサ6b、及び第3センサ6cからの検知信号に基づいて、廃棄物15側の電気伝導度及び水素イオン濃度、地盤16側の電気伝導度及び水素イオン濃度、及び下遮水シート2と上遮水シート2bとの間の空間4内の電気伝導度及び水素イオン濃度を測定し、その測定したデータを表示部11に表示する。表示部11に表示されたデータを目視することにより、下遮水シート2aが損傷しているのか、上遮水シート2bが損傷しているのか、下遮水シート2aと上遮水シート2bの両方が損傷しているのかの判定を行うことができる。
【0037】
なお、表示部11に表示されるデータを、緑色、黄色、赤色等で着色することにより、表示される色を目視することにより、下遮水シート2a又は上遮水シート2bの損傷の有無を的確に判定することができる。
【0038】
本実施の形態においては、廃棄物15から浸出した汚水の電気伝導度及び水素イオン濃度と、地盤16内の地下水の電気伝導度及び水素イオン濃度とが異なる値を示す特性を利用し、下遮水シート2a及び上遮水シート2bの損傷の有無の判定を行っている。
【0039】
つまり、廃棄物16から浸出する汚水は一般にアルカリ性を示し、廃棄物15が焼却灰である場合には、水素イオン濃度はpH11.5〜12.8を示し、電気伝導度はEC500〜1000000(μS/cm)を示す。また、地盤16内の地下水は一般に中性を示し、水素イオン濃度は排水基準値であるpH5.8〜8.6を示し、電気伝導度は河川と同程度のEC50〜400(μS/cm)を示す。従って、これらの特性の違いを利用することにより、下遮水シート2a及び上遮水シート2bの損傷の有無の判定を行うことができる。
【0040】
具体的には、次の4つのパターンにより下遮水シート2a及び上遮水シートabの損傷の有無の判定を行う。4つのパターンによる検知結果を表1、表2に示す。以下、各パターンについて説明する。
(1)下遮水シート2a及び上遮水シート2bが損傷していない場合
このパターンでは、廃棄物15側の汚水及び地盤16側の地下水が下遮水シート2aと上遮水シート2bとの間の空間4内に漏出することはない。従って、第3センサ6cによる両遮水シート2a、2b間の空間4内の水素イオン濃度及び電気伝導度は検出されない。
【0041】
このパターンでは、表1、2に示すように、第1センサ6aにより検知した水素イオン濃度はpH12を示し、第2センサ6bにより検知した水素イオン濃度はpH6を示した。また、第1センサ6aにより検知した電気伝導度はEC2000(μS/cm)を示し、第2センサ6bにより検知した電気伝導度はEC300(μS/cm)を示した。
【0042】
(2)上遮水シート2bが損傷している場合
このパターンでは、廃棄物15側の汚水が上遮水シート2bの損傷部分を介して上遮水シート2bと下遮水シート2aとの間の空間4内に漏出することになる。従って、第3センサ6cにより検知した両遮水シート2a、2b間の空間4内の水素イオン濃度及び電気伝導度は、第1センサ6aにより検知した廃棄物15側の水素イオン濃度及び電気伝導度とほぼ同じになる。
【0043】
このパターンでは、表1、2に示すように、第1センサ6aにより検知した水素イオン濃度はpH12を示し、第2センサ6bにより検知した水素イオン濃度はpH6を示し、第3センサ6cにより検知した水素イオン濃度はpH12を示した。また、第1センサ6aにより検知した電気伝導度はEC2000(μS/cm)を示し、第2センサ6bにより検知した電気伝導度はEC300(μS/cm)を示し、第3センサ6cにより検知した電気伝導度はEC2000(μS/cm)を示した。
【0044】
(3)下遮水シート2aが損傷している場合
このパターンでは、地盤16側の地下水が下遮水シート2aの損傷部分を介して上遮水シート2bと下遮水シート2aとの間の空間4内に漏出することになる。従って、第3センサ6cにより検知した両遮水シート2a、2b間の空間4内の水素イオン濃度及び電気伝導度は、第2センサ6bにより検知した地盤16側の水素イオン濃度及び電気伝導度とほぼ同じとなる。
【0045】
このパターンでは、表1、2に示すように、第1センサ6aにより検知した水素イオン濃度はpH12を示し、第2センサ6bにより検知した水素イオン濃度はpH6を示し、第3センサ6cにより検知した水素イオン濃度はpH6を示した。また、第1センサ6aにより検知した電気伝導度はEC2000(μS/cm)を示し、第2センサ6bにより検知した電気伝導度はEC300(μS/cm)を示し、第3センサ6cにより検知した電気伝導度はEC300(μS/cm)を示した。
【0046】
(4)上遮水シート2b及び下遮水シート2aの両方が損傷している場合
このパターンでは、廃棄物15から浸出した汚水が上遮水シート2bの損傷部分を介して上遮水シート2bと下遮水シート2aとの間の空間4内に漏出するとともに、空間4内に漏出した汚水が下遮水シート2aの損傷部分を介して地盤16側に漏出する。さらに、地盤16側の地下水が下遮水シート2aの損傷部分を介して両遮水シート2a、2b間の空間4内に漏出する。従って、第2センサ6bにより検知した地盤16側の水素イオン濃度及び電気伝導度、及び第3センサ6cにより検知した上遮水シート2bと下遮水シート2aとの間の空間4内の水素イオン濃度及び電気伝導度が上昇することになる。
【0047】
このパターンでは、表1、2に示すように、第1センサ6aにより検知した水素イオン濃度はpH12を示し、第2センサ6bにより検知した水素イオン濃度はpH8を示し、第3センサ6cにより検知した水素イオン濃度はpH10を示した。また、第1センサ6aにより検知した電気伝導度はEC2000(μS/cm)を示し、第2センサ6bにより検知した電気伝導度はEC1000(μS/cm)を示し、第3センサ6cにより検知した電気伝導度はEC1500(μS/cm)を示した。
【0048】
従って、上記の4つのパターンを表示部11に表示することにより、表示部11に表示される内容を目視することにより、上遮水シート2bが損傷しているのか、下遮水シート2aが損傷しているのか、上遮水シート2bと下遮水シート2aの両方が損傷しているのかを的確に判定することができる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
上記のように構成した本実施の形態による遮水層の損傷検知システム1にあっては、廃棄物15から浸出した有害物質を含む汚水の電気伝導度及び水素イオン濃度と、地盤16内の地下水の電気伝導度及び水素イオン濃度が異なる値を示す特性を利用し、廃棄物15側の電気伝導度及び水素イオン濃度を第1センサ6aにより検知し、地盤16側の電気伝導度及び水素イオン濃度を第2センサ6bにより検知し、上遮水シート2bと下遮水シート2aとの間の空間4内の電気伝導度及び水素イオン濃度を第3センサ6cにより検知し、これらの第1センサ6a、第2センサ6b、第3センサ6cからの検知信号に基づいたデータを表示部11に表示するように構成したので、表示部11に表示される表示内容を目視することにより、上遮水シート32b損傷しているのか、下遮水シート2aが損傷しているのか、上遮水シート2bと下遮水シート2aの両方が損傷しているのかを的確に判定することができる。
【0052】
従って、上遮水シート2b及び下遮水シート2aの損傷を的確に判定することができるので、上遮水シート2b及び下遮水シート2aの損傷による汚水の地盤16側への漏出を最小限に食い止めることができ、周囲の環境への影響を最小限に食い止めることができる。
【0053】
なお、前記の説明においては、廃棄物15の内部に第1センサ6aを設置したが、移動可能なセンサを用い、このセンサを利用して廃棄物15側の電気伝導度及び水素イオン濃度を予め検知しておくことにより、第1センサ6aの設置を省略することができる。
【0054】
さらに、前記の説明においては、廃棄物処分場12の内面14に遮水層2(下遮水シート2a、上遮水層2b)を二重に設けた例を挙げて説明したが、遮水層2を一重に設けてもよいし、三重以上に設けてもよい。
【0055】
遮水層2を一重に設ける場合には、地盤16の内部と廃棄物15の内部(廃棄物15の内部は省略可能)にセンサ6を設置すればよい。また、遮水層2を三重以上に設ける場合には、最上位の遮水層2の上部の廃棄物15内に第1センサ6aを設置し(第1センサ6aは省略可能)、最下位の遮水層2の下部の地盤16内に第2センサ6bを設置し、隣接する遮水層2、2間の空間4内に第3センサ6cを設置すればよい。
【0056】
さらに、前記の説明においては、本発明を、遮水層2を遮水シート6a〜6cで構成した場合に適用したが、本発明を、遮水層2をアスファルト層、土質層、又はその他の遮水性を有する層で構成した場合に適用してもよいものであり、その場合にも同様の作用効果を奏する。
【0057】
図2には、本発明による遮水層の損傷検知システム1の第2の実施の形態が示されている。
この遮水層の損傷検知システム1は、第1の実施の形態と同様に、第1センサ6a、第2センサ6b、及び第3センサ6bによって廃棄物15側の電気伝導度及び水素イオン濃度、地盤16側の電気伝導度及び水素イオン濃度、及び上遮水シート2bと下遮水シート2あとの間の空間4内の電気伝導度及び水素イオン濃度を検知し、これらの第1センサ6あ、第2センサ6b、及び第3センサ6cからの検知信号に基づいて上遮水シート2b及び下遮水シート2aの損傷の有無を判定するとともに、第1電極21と第2電極22と第3電極23とを備えた電気検知システム20を併用し、この電気検知システム20の第1電極21を廃棄物15側に設置し、第2電極22を地盤16側に設置し、第3電極23を上遮水シート2bと下遮水シート2aとの間の空間4内に設置し、これらの第1電極21と第2電極22と第3電極23との協働により、上遮水シート2b及び下遮水シート2aの損傷箇所を検知するように構成したものである。
【0058】
そして、本実施の形態に示す遮水層の損傷検知システム1にあっても、前記第1の実施の形態に示すものと同様の作用効果を奏するとともに、電気検知システム20を併用して、上遮水シート2b及び下遮水シート2aの損傷箇所を検知することができるので、汎用性を高めることができる。
【0059】
図3には、本発明による遮水層の損傷検知システム1の第3の実施の形態が示されている。
この遮水層の損傷検知システム1は、鉛直遮水工によって内部領域13と外部領域16との間が遮水される廃棄物処分場12に適用したものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様である。
【0060】
すなわち、この廃棄物処分場12は、不透水性地盤18に到達するように少なくとも一重の遮水層2を鉛直に設け、この遮水層2により廃棄物処分場12の内部領域13と外部領域16(水域(海水、淡水等)又は透水性を有する地盤)との間を遮水するように構成したものである。
【0061】
そして、このような構成の廃棄物処分場12においても、外部領域16の内部、内部領域13に埋め立てられた廃棄物15の内部、又は二重以上の遮水層2の場合には隣接する遮水層2、2間、の少なくとも何れかにセンサ6を設置し、このセンサ6により、外部領域16、埋め立てられた廃棄物15、又は二重以上の遮水層2の場合には隣接する遮水層2、2間の電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知することにより、センサ6の検知信号に基づいて損傷判定部10により所望の遮水層2の損傷の有無を判定することができる。
【0062】
図4には、本発明による遮水層の損傷検知システム1の第4の実施の形態が示されている。
この遮水層の損傷検知システム1は、鉛直遮水工と表面遮水工との組み合わせによって内部領域13と外部領域16との間が遮水される廃棄物処分場12に適用したものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様である。
【0063】
すなわち、この廃棄物処分場12は、不透水性地盤18に到達するように少なくとも一重の遮水層2を鉛直に設け、この遮水層2により廃棄物処分場12の内部領域13と外部領域16(水域(海水、淡水等)又は透水性を有する地盤)との間を遮水し、さらに、内部領域13の透水性地盤19に設けた凹部の内面に遮水層2を設けて、透水性地盤19との間を遮水するように構成したものである。
【0064】
そして、このような構成の廃棄物処分場12においても、外部領域16の内部、内部領域13に埋め立てられた廃棄物15の内部、又は二重以上の遮水層2の場合には隣接する遮水層2、2間、の少なくとも何れかにセンサ6を設置し、このセンサ6により、外部領域16、埋め立てられた廃棄物15、又は二重以上の遮水層2の場合には隣接する遮水層2、2間の電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知することにより、センサ6の検知信号に基づいて損傷判定部10により所望の遮水層2の損傷の有無を判定することができる。また、内部領域13の凹部の内面に設けられた遮水層2の損傷の有無は、前述した第1の実施の形態に示すものと同様の手順によって判定することができる。
【0065】
なお、前記各実施の形態においては、外部領域16又は外部領域16と内部領域13の両方にセンサ6を設ける構成としたが、内部領域13のみにセンサ6を設けた場合にも、遮水層2が損傷した場合に地下水が廃棄物15内に浸入してpH又は電気伝導度が変化するので損傷を検知することができる。
【0066】
また、遮水層2が二重以上の場合、各遮水層2の間にセンサ6を設けることで、何れの遮水層2に損傷が生じても、その損傷を検知できる構成としたが、二重以上の遮水層2のうち、一部の遮水層2の損傷のみを検知できればよい場合には、それに対応した遮水層2間にのみセンサ6を設ければよい。例えば、三重の場合に、上側の二重の遮水層2の損傷のみを検知すればよい場合は、最上部の遮水層2と中間の遮水層2の間にセンサ6を設ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明による遮水層の損傷検知システムの第1の実施の形態を示した概略図である。
【図2】本発明による遮水層の損傷検知システムの第2の実施の形態を示した概略図である。
【図3】本発明による遮水層の損傷検知システムの第3の実施の形態を示した概略図である。
【図4】本発明による遮水層の損傷検知システムの第4の実施の形態を示した概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1 遮水層の損傷検知システム
2 遮水層
2a 下遮水シート
2b 上遮水シート
4 空間
5 保護材
6 センサ
6a 第1センサ
6b 第2センサ
6c 第3センサ
9 配線
10 損傷判定部
11 表示部
12 廃棄物処分場
13 内部領域
14 内面
15 廃棄物
16 外部領域(地盤)
17 管理棟
18 不透水性地盤
19 透水低地盤
20 電気検知システム
21 第1電極
22 第2電極
23 第3電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物処分場において、前記廃棄物処分場に埋め立てられる廃棄物と前記廃棄物処分場の外部領域との間に設けられる少なくとも一重の遮水層の損傷の有無を検知する遮水層の損傷検知システムであって、
前記外部領域の内部、前記埋め立てられた廃棄物の内部、又は前記遮水層が二重以上に設けられる場合に少なくとも何れかの隣接する遮水層間、の少なくとも何れかに設置された電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知するセンサと、
前記センサの検知信号に基づいて少なくとも何れかの遮水層の損傷の有無を判定する損傷判定部とを備えてなることを特徴とする遮水層の損傷検知システム。
【請求項2】
前記遮水層は一重に設けられ、前記外部領域の内部、又は前記埋め立てられた廃棄物の内部の少なくとも何れか一方に前記センサが設置され、該センサの検知信号に基づいて前記損傷判定部により前記遮水層の損傷の有無を判定することを特徴とする請求項1に記載の遮水層の損傷検知システム。
【請求項3】
前記遮水層は二重以上に設けられ、前記少なくとも何れかの隣接する遮水層間に前記センサが設置され、該センサの検知信号に基づいて前記損傷判定部により前記所望の遮水層の損傷の有無を判定することを特徴とする請求項1に記載の遮水層の損傷検知システム。
【請求項4】
前記外部領域の内部、前記埋め立てられた廃棄物の内部、又は前記隣接する遮水層間には、複数の前記センサが分散配置されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の遮水層の損傷検知システム。
【請求項5】
前記センサは、電気伝導度を検知するセンサ部と水素イオン濃度を測定するセンサ部とを備えていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の遮水層の損傷検知システム。
【請求項6】
前記少なくとも一重の遮水層は、アスファルト層、土質層、又は遮水シートの少なくとも何れかを含むことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の遮水層の損傷検知システム。
【請求項7】
廃棄物処分場において、前記廃棄物処分場に埋め立てられる廃棄物と前記廃棄物処分場の外部領域との間に設けられる少なくとも一重の遮水層の損傷の有無を検知する遮水層の損傷検知方法であって、
前記外部領域の内部、前記埋め立てられた廃棄物の内部、又は前記遮水層が二重以上に設けられる場合に少なくとも何れかの隣接する遮水層間、の少なくとも何れかにおける電気伝導度又は水素イオン濃度の少なくとも何れか一方を検知し、該検知結果に基づいて少なくとも何れかの遮水層の損傷の有無を判定することを特徴とする遮水層の損傷検知方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−268968(P2009−268968A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121447(P2008−121447)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】