説明

遷移金属の除去方法

【課題】 本発明の課題は、リン化合物を含有する触媒(リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒)反応液からの簡便で、効率の良い遷移金属除去方法を提供することである。
【解決手段】 リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液を、陽イオン交換樹脂と接触させ、該溶液から第8〜10族遷移金属を除去する方法。リン化合物としてはホスファイト類が好ましく、リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液を、pH9以下に調製した後陽イオン交換樹脂と接触させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属の除去方法に関し、より詳細には、リン化合物を配位子として含有する錯体触媒を反応液から分離する方法に関する。更には、該遷移金属の除去方法を用いたアリル化合物の異性化方法及び1,4−ジアセトキシアリル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錯体触媒は特徴有る配位子を有することにより、様々な物質の変換反応を可能とする。そのため多くの錯体触媒がこれまで開発されてきたが、固体触媒と比較して、錯体触媒は反応液に溶解していることから、反応後液からの触媒分離が通常困難であり、この問題を解決するために錯体触媒の固定化など様々な研究開発が行なわれている。しかしながら、固定化した錯体触媒は高価であるだけでなく、固定化した錯体触媒から一部金属の溶出が進行してしまうため、完全な解決方法とは至っていない。また構造が単純で沸点の比較的低い生成物と錯体触媒との分離は、蒸留分離により生成物と触媒とを分離することが可能であるが、医薬品など、複雑な構造を有する沸点の高い生成物の場合には、蒸留分離が困難であるがために錯体触媒と該生成物との分離は容易ではなく、通常は生成物を多少なりともロスしてしまう再結晶などにより触媒を分離する。
【0003】
そのため、各種錯体触媒の溶解液からの遷移金属除去方法の開発が行なわれてきた。例えば特開平11−152246号公報に示すように、キレート樹脂により、液相酸化触媒に使用したコバルト金属の反応液との分離除去回収方法が報告されている。しかしながら、錯体触媒の大部分がリン化合物を配位子として含むにも関わらず、リン化合物存在下での、錯体触媒溶解液からの金属の分離は困難である。例えば、特表2001−513516号公報では、ロジウム含有液から白金族金属の選択的吸着方法が報告されているが、リンを担持した特殊な吸着剤が必要であり、また特開2004−352974号公報では、水素加圧下で金属を析出させた後、吸着剤により金属の分離除去を濾過により行なう方法が報告されている。しかしながら、リン化合物を含む金属溶解液からの、水素加圧条件や特殊な吸着剤などを用いない、簡便で効率の良い遷移金属除去方法は開発されていなかった。
【特許文献1】特開平11−152246号公報
【特許文献2】特表2001−513516号公報
【特許文献3】特開2004−352974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、リン化合物を含有する触媒(リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒)反応液からの簡便で、効率の良い遷移金属除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リン化合物を含む触媒が溶解した反応液を、陽イオン交換樹脂と接触させることで、該溶液に溶解した金属量を低減化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明の要旨は下記(1)〜(9)に存する。
(1) リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液を、陽イオン交換樹脂と接触させ、該溶液から第8〜10族遷移金属を除去する方法。
(2) リン化合物が、リン−酸素結合を有するリン化合物であることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3) リン化合物が、ホスファイト類であることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(4) 第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属が、パラジウムであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 陽イオン交換樹脂が、スルホン基を有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液を、pH9以下に調製した後陽イオン交換樹脂と接触させることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液が、ホスファイト配位子及びパラジウムからなる錯体触媒の存在下、酢酸を溶媒としてアリル化合物の異性化反応を行った反応液であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) パラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒を使用したアリル化合物の異性化方法において、溶媒として酢酸を使用し、アリル化合物をパラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒により異性化し、得られた反応液を陽イオン交換樹脂と接触させ、該反応液からパラジウムを除去することを特徴とするアリル化合物の異性化方法。
(9) 3,4−ジアセトキシアリル化合物を、酢酸溶媒中でパラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化し、得られた反応液を陽イオン交換樹脂と接触させ、該反応液からパラジウムを除去することを特徴とする1,4−ジアセトキシアリル化合物の製造方法。
本発明は回分、半回分、連続方式のいずれの形式にも使用することができる。以下、その詳細について説明する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、リン化合物を含有する触媒(リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒)反応液から、金属含有量の少ない反応液に容易に精製できる工業的に有利な触媒の分離方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の「遷移金属の除去方法」とは、リン化合物、及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液を、陽イオン交換樹脂と接触させることにより第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属を陽イオン交換樹脂に吸着させ、「リン化合物、及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液」から除去することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の好ましい形態としては、「パラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒を使用したアリル化合物の異性化方法において、溶媒として酢酸を使用し、アリル化合物をパラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒により異性化し、得られた反応液を陽イオン交換樹脂と接触させ、該反応液からパラジウムを除去することを特徴とするアリル化合物の異性化方法」及び「3,4−ジアセトキシアリル化合物を、酢酸溶媒中でパラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化し、得られた反応液を陽イオン交換樹脂と接触させ、該反応液からパラジウムを除去することを特徴とする1,4−ジアセトキシアリル化合物の製造方法」が挙げられる。
【0009】
本発明におけるリン化合物とは、1種又は複数種のいずれでも差し支えなく、また単座、複座のいずれでも差し支えない、好ましくはリン化合物であり、ホスフィン類、ホスファイト類、ホスフォラアミダイト類、ホスフィンオキサイド類などが好ましい。特に好ましくはリン−酸素原子結合を有する単座、複座のリン化合物であり、ホスファイト類が最も好ましい。具体的に好ましいリン化合物はトリアリールホスフィン、ジアリールホスフィン、モノアリールホスフィン、トリアルキルホスフィン、2座アリール置換ホスフィン、トリアリールホスファイト、ジアリールホスファイト、モノアリールホスファイト、トリアルキルホスファイト、2座アリール置換ホスファイト、単座及び2座ホスフォラアミダイト等が挙げられる。これらを1種あるいは複数種含んだ触媒液のいずれでも差し支えない。ホスフィン類の具体例を示すと、トリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリ(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2−フリル)ホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルイソプロピルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジメチルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジフェニルホスフィノブタン、ジフェニルホスフィノフェロセン、BINAP等のホスフィン類が挙げられる。これらのうち、特に好ましくはトリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリ(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2−フリル)ホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルイソプロピルホスフィン等である。
【0010】
また本発明ではリン−酸素原子結合を有する3価のリン化合物が最も好ましく、特に好ましいホスファイト類について以下に説明する。本発明に使用可能なホスファイト類は、下記一般式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)及び(VI)で示される化合物の中の少なくとも一種である。
【0011】
【化1】

【0012】
式(I)〜(VI)において、R10〜R21は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良い。R10〜R21としてアルキル基を用いる場合、又はアルキル骨格を有する置換基(アルキルアリーロキシ基中のアルキル基等)を用いる場合には、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等である。また、アルキル基又はアルキル骨格部分は更に置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリ‐ル基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
【0013】
またR10〜R21としてアリール基を用いる場合又はアリール骨格を有する置換基を用いる場合には、その炭素数は通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基又はアリール骨格部分は更に置換基を有していても良く、置換基として、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子が挙げられる。R10〜R21がアリール基である場合の具体例としてフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3‐ジメチルフェニル基、2,4‐ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2‐t‐ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、及び下記の(C−1)〜(C−8)が挙げられる。
【0014】
【化2】

【0015】
〜Z及びA〜Aはそれぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数6〜30のアリーレン基、又はAr−(Q−Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリーレン基(但しAr及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基を表す)を表す。Tは炭素原子、アルカンテトライル基、ベンゼンテトライル基、又はT−(Q−Tで表される置換基を有していても良い四価の基であり、T及びTはそれぞれ独立してそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルカントリイル基、及び炭素数6〜15のベンゼントリイル基から選ばれる置換基を有していても良い三価の基を表す。Q及びQはそれぞれ独立して、−CR2223−、−O−、−S−、−CO−を表し、nは0又は1であり、R22及びR23は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であり、置換基を有していても良い。
【0016】
またZ〜Z又はA〜Aがアルキレン基の場合、具体例として例えばテトラメチルエチレン基、ジメチルプロピレン基等が挙げられ、Zが置換基を有しても良いアルキレン基の場合には、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。またZ〜Z又はA〜Aが置換基を有していても良いアリーレン基の場合には、その具体例として、例えばフェニレン基やナフチレン基等が挙げられ、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0017】
更に、Z〜Z又はA〜AがAr‐(Q‐Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリ‐レン基の場合、Ar及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基であり、その炭素数は6〜24、更には6〜16が好ましい。好ましい置換基の具体例として、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0018】
またZ〜Z又はA〜Aの具体例として、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CH(CH)−CH(CH)−、−CH(CH)CHCH(CH)−、−C(CH−C(CH−、−C(CH−CH−C(CH−、及び下記の(A−1)〜(A−48)が挙げられる。
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
異性化触媒の配位子を表す式(I)〜(VI)の化合物の好ましい具体例として、下記の単座配位子(P−1)〜(P−20)及び多座配位子(L−1)〜(L−43)を例示することができる。
【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
【化11】

【0029】
【化12】

【0030】
【化13】

【0031】
【化14】

【0032】
【化15】

【0033】
【化16】

【0034】
【化17】

【0035】
【化18】

【0036】
【化19】

【0037】
本発明における「第8〜10族遷移金属」とは、IUPAC無機化学命名法改訂版(1998)における第8〜10族遷移金属であり、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、プラチナが挙げられ、触媒としての使用用途の観点からすると、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウムが好ましい。触媒中の該遷移金属は1種であっても複数種であってもよく、触媒に求められる作用に応じて選定される。
【0038】
本発明における「錯体触媒を含有する溶液」中のリン化合物の含有量は、第8〜10族遷移金属化合物から選ばれる遷移金属に対して配位したリン化合物及び遊離したリン化合物の合計の比率(モル比)として、1〜1000の値を採用することができ、好ましい量として1〜100であり、より好ましい量として1〜20である。リン化合物の含有量が低すぎた場合には、触媒反応の段階に於いて所望の反応成績を得ることができず、また多すぎた場合には、陽イオン交換樹脂による溶液からの第8〜10族遷移金属の除去効果が低下する。尚、該リン化合物は1種又は複数種のいずれでも差し支えない。
【0039】
本発明における第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属からなる錯体触媒は特に限定されるものではないが、均一系錯体触媒であり、好ましくはパラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウムの均一系錯体触媒であり、特にパラジウム錯体触媒が好ましい。該錯体触媒は種々の遷移金属から調製することが可能であるが、具体的には酢酸塩、アセチルアセトネート化合物、塩化物、臭化物、ヨウ素化物、硫酸塩、硝酸塩、有機塩、無機塩、オレフィン配位化合物、アミン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物、ホスフォラアイダイト配位化合物などが挙げられる。好ましくはパラジウム金属、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、ジクロロシクロオクタジエンパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトネート、アリルパラジウムクロロダイマー、酢酸ニッケル、ジシクロオクタジエンニッケル、酢酸プラチナ、ジシクロオクタジエンプラチナ、ジクロロオクタジエンプラチナ、クロロエチレンプラチナダイマー、ルテニウムアセチルアセトネート、塩化ルテニウム、(パラシメン)ルテニウムクロロダイマーなどであり、特に好ましくは酢酸パラジウム、塩化パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、酢酸ロジウム、塩化ロジウムルテニウムアセチルアセトネート、塩化ルテニウムである。本発明に於いては上述した金属化合物の形態には特に限定されず、活性な錯体触媒が単量体、2量体、及び/または多量体であっても差し支えない。本発明に於いて、溶液中の錯体触媒の濃度は0.0001wtppm〜5wt%の範囲であり、好ましくは0.01wtppm〜1wt%、更に好ましくは0.05wtppm〜1000wtppm、特に好ましくは0.1wtppm〜200wtppmの範囲である。遷移金属の溶解濃度が低すぎると、本発明を実施する効果が消失し、また該濃度が高すぎると、陽イオン交換樹脂を用いた反応液からの遷移金属除去のプロセス及び条件が過酷なものとなりコスト競争力を失ってしまう。
【0040】
本発明は種々の錯体触媒反応の反応後液に使用することが可能であり、特に限定されるものではない。また該反応液に含有されるリン化合物は光学活性体、ラセミ体のいずれでも差し支えなく、錯体触媒反応が不斉反応であっても差し支えない。
本発明の「遷移金属の除去方法」は、錯体触媒を用いたアリル化合物の異性化反応の反応後液からの錯体金属溶解量の低減化へ適用することが好ましい。ここでは「錯体触媒を用いたアリル化合物の異性化反応」の例として3,4−ジアセトキシアリル化合物の1,4−ジアセトキシアリル化合物への異性化反応を記載するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0041】
3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する方法とは、例えば「3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒と接触させて1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化して、1,4−ジアセトキシアリル化合物を得る方法」や、「3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物の混合物を触媒と接触させて混合物中の3,4−ジアセトキシアリル化合物を1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化し、1,4−ジアセトキシアリル化合物純度を上げる方法」が挙げられる。
【0042】
本発明における3,4−ジアセトキシアリル化合物(「3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物の混合物」を含む)は、触媒の存在下、共役ジエン類のジアセトキシ化反応などにより製造可能である。尚、ジアセトキシアリル化合物は水素化、加水分解を経て様々な有用なジオール類へと転換することができる。特に1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは工業的に価値のある1,4−ブタンジオールの中間体であり、重要な化合物である。
【0043】
ジアセトキシアリル化合物は共役ジエン類のジアセトキシ化反応など様々な方法で製造できる。最も一般的には、パラジウム系触媒の存在下、ブタジエン、酢酸及び酸素を反応させてジアセトキシアリル化合物である1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを得ることができる。またそれらジアセトキシアリル化合物の加水分解物である1−ヒドロキシ−4−アセトキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなども併せて生成する。ここで使用可能な共役ジエン類として例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘプタジエン、1,3−シクロオクタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンなどが挙げられ、好ましくはブタジエン、イソプレン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−ジクロペンタジエンであり、特に好ましくはブタジエン、イソプレンである。ブタジエン、イソプレンのような置換基の少ない共役ジエン類が、最も高い反応活性を示すことが好ましい理由である。これら共役ジエン類のジアセトキシアリル化合物は好ましく本発明に用いることができる。尚、共役ジエン類のジアセトキシ化反応に用いる触媒としては、共役ジエン類をジアセトキシアリル化合物に変換する能力を有する触媒であれば何でも使用できるが、好ましくは第8〜10族遷移金属を含有する固体触媒であり、特に好ましくはパラジウム固体触媒である。パラジウム固体触媒は、パラジウム金属またはその塩からなり、助触媒としてビスマス、セレン、アンチモン、テルル、銅などの金属またはその塩の使用が好ましく、特に好ましくはテルルである。
【0044】
本発明における「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」とは、上記触媒による共役ジエン類のジアセトキシ化反応後液そのもの、あるいは酢酸、水などのジアセトキシアリル化合物よりも軽沸点の副生物を一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、あるいは3,4−ジアセトキシアリル化合物よりも高沸点の副生物を一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、更には軽沸点の副生物及び高沸点副生物の双方を一部あるいは全量を除去したもの等が含まれる。通常、「3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液」が上記触媒による共役ジエン類のジアセトキシ化反応由来の液である場合は、対応する1,4−ジアセトキシアリル化合物を含有している。また3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液は、3,4−ジアセトキシアリル化合物の加水分解物である3,4−ヒドロキシアセトキシアリル化合物、及び/又は3,4−ジヒドロキシアリル化合物を含有する液でも差し支えなく、更に1,4−ジアセトキシアリル化合物の加水分解物である1,4−ヒドロキシアセトキシアリル化合物、及び/又は1,4−ジヒドロキシアリル化合物を含んでいても差し支えない。
【0045】
3,4−ジアセトキシアリル化合物とは、具体的には3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2,3−ジメチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロヘキセン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロヘプテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロオクテンが好ましく、より好ましくは3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロヘキセン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテンであり、特に好ましくは1,4−ブタンジオールの中間体である1,4−ジアセトキシ−2−ブテンへと転換できる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンである。またこれら3,4−ジアセトキシアリル化合物の加水分解物である3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなどの異性化反応においても、本発明は適用可能である。
【0046】
また3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化により得られる1,4−ジアセトキシアリル化合物は、異性化前の3,4−ジアセトキシアリル化合物に対応する異性化体であり、具体的には、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−メチル−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2、3−ジメチル−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−シクロヘキセン、1,4−ジアセトキシ−2−シクロペンテン、1,4−ジアセトキシ−2−シクロヘプテン、1,4−ジアセトキシ−2−シクロオクテンが好ましく、1,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−1−シクロヘキセン、1,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテンであり、特に好ましくは1,4−ブタンジオールの中間体である1,4−ジアセトキシ−1−ブテンである。また、3,4−ジアセトキシアリル化合物の加水分解物である3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなどの異性化反応では、その1−ヒドロキシ−4−アセトキシ−2−ブテンを得ることができる。
3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化反応を含む本発明における錯体触媒反応においては種々の溶媒を使用することが可能である。溶媒とは具体的には蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリグライムジメチルエーテルなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭化水素類など特に限定されること無く一般的な有機溶媒が使用可能である。ここで記載する3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化反応においては、好ましくは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸類であり、特に好ましくはアセトキシ基の異性化速度を向上する酢酸である。溶媒の添加量はアリル化合物に対して重量比で0.1wt%〜10000wt%が好ましく、より好ましくは10wt%〜1000wt%であり、特に好ましくは50wt%〜300wt%である。溶媒の添加量が少なすぎると触媒劣化の速度が向上してしまい、多すぎると反応器容量が大きくなりすぎ、非効率なプロセスとなってしまう。
【0047】
本発明における3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化に使用される触媒は3,4−ジアセトキシアリル化合物を1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する能力を有していれば特に限定されるものではないが、前述した本発明におけるリン化合物の1種又は複数種、及び第8〜10族の遷移金属の1種又は複数種からなる均一系錯体触媒であり、また同じく前述したリン化合物及び第8〜10族遷移金属の使用量の範囲で実施することができる。触媒としては、パラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒が好ましい。この際の異性化反応温度は0℃〜200℃が好ましく、より好ましくは60℃〜160℃であり、特に好ましくは80℃〜140℃である。温度が低すぎると反応速度が低くなり、プロセス効率が悪化し、反応温度が高すぎた場合には触媒劣化が迅速に進行してしまい所望の反応収率を達成することができなくなってしまう。このようなアリル化合物の異性化反応液が本発明に於いて好適である。
【0048】
本発明における3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化反応においては、種々の溶媒を使用することが可能である。溶媒とは具体的には蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリグライムジメチルエーテルなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭化水素類など特に限定されること無く一般的な有機溶媒が使用可能であり、好ましくは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸類であり、特に好ましくはアセトキシ基の異性化速度を向上する酢酸である。溶媒の添加量はジアセトキシアリル化合物に対して重量比で0.1wt%〜10000wt%が好ましく、より好ましくは10wt%〜1000wt%であり、特に好ましくは50wt%〜300wt%である。溶媒の添加量が少なすぎると触媒劣化の速度が向上してしまい、多すぎると反応器容量が大きくなりすぎ、非効率なプロセスとなってしまう。
【0049】
本発明では陽イオン交換樹脂を「リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液」と接触させることを特徴とするが、本発明で使用する陽イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂が好ましく、例えばスルホン化された(スルホン基を有する)スチレンージビニルベンゼン共重合体を用いることができる。このスルホン化されたスチレンージビニルベンゼン共重合体は特に限定されるものではなく、市販品を使用することができる。また、構造の種類は特に限定されるものではないが、ゲル型、MR型(macroreticular)型、ポーラス型、ハイポーラス型のいずれも用いることができる。 本発明において、「リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液」を陽イオン交換樹脂に接触させる方法は、例えば容器に充填した陽イオン交換樹脂層に該溶液を流通させることによる接触や、陽イオン交換樹脂を遊離させた攪拌槽に、連続的に概溶液を流通させて接触させ、フィルターにより陽イオン交換樹脂を攪拌槽内に保持する方法や、あるいは、回分式の反応器で錯体触媒反応を終了させた後、陽イオン交換樹脂を添加して接触させ、その後、ろ過により陽イオン交換樹脂を液成分と分離する方法などが挙げられる。
【0050】
陽イオン交換樹脂に「リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液」を接触する際の温度は−20℃〜200℃が好ましく、より好ましくは20℃〜150℃であり、特に好ましくは60℃〜130℃である。温度が低すぎると金属の析出速度が遅くなりプロセス効率が低下し、温度が高すぎると陽イオン交換樹脂の劣化が進行する。
【0051】
また、接触時間は1分〜200時間が好ましく、より好ましくは10分〜50時間であり、特に好ましくは30分〜20時間である。接触時間が短かすぎると完全に触媒成分の除去が困難であり、長すぎると効率の悪いプロセスとなってしまう。
また陽イオン交換樹脂は「リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液」に対して、陽イオン交換樹脂の酸点の交換容量が該溶液中の錯体触媒量に対して、モル比で0.1〜1000の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜100であり、特に2〜20で使用することが好ましい。また陽イオン交換樹脂と該溶液の重量比では、0.00000001〜1の範囲で使用することが可能であり、より好ましくは0.0000001〜0.1であり、特に好ましくは0.00001〜0.01である。この重量比で陽イオン交換樹脂と該溶液を接触することができる。
【0052】
陽イオン交換樹脂と反応後液の接触方法は回分、連続のいずれでも差し支えないが、運転の簡便さから連続流通式が特に好ましい。
「リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液」が「錯体触媒の存在下、アリル化合物の異性化反応を行った反応液」である場合は、そのまま、あるいは酢酸などの溶媒の一部あるいは全量を蒸留などで除去した後、陽イオン交換樹脂と接触させても差し支えない。例えば前述のジアセトキシアリル化合物の異性化反応では、溶媒だけでなく更に3,4−ジアセトキシアリル化合物、あるいは3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物を蒸留などにより反応後液から分離した後、陽イオン交換樹脂と接触させても差し支えない。ここで除去回収された溶媒は再利用可能であり、また反応後液から分離した3,4−ジアセトキシアリル化合物はそのまま、あるいは更に蒸留などで精製した後、異性化反応へとリサイクル使用することもできる。また分離して得られた1,4−ジアセトキシアリル化合物は、そのまま、あるいは更なる蒸留などによる精製を経た後、遷移金属触媒存在下、水素化され置換基を有しても良い1,4−ジアセトキシブタン化合物へと変換し、更に加水分解を経て1,4−ブタンジオールを製造することが可能である。
【0053】
本発明においては、陽イオン交換樹脂の使用を必須とする。これら陽イオン交換樹脂のスルホン酸などの酸性の官能基が遷移金属と接触して吸着することにより、遷移金属の除去が可能となる。そのため、酸性官能基と強固な付加体を形成する塩基性物質が相当量混在した場合、遷移金属の除去能力の低減化がおきてしまう。そのため「リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液」は、そのpHが酸性〜中性の条件が好ましく、具体的にはpHを0.1以上、好ましくは1.0以上、通常10以下、好ましくは9以下、より好ましくは8以下の範囲に調整して使用することが好ましい。pHの調整は酸を添加する、あるいは塩基性物質を除去するなど特に限定されるものではないが、溶液中に存在する塩基性物質以上のモル量の酸、特に酢酸を添加することが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、パラジウム金属濃度の分析はICP発光分析法(ICP−AES)を使用した。ICP発光分析法は、日本ジャーレルアッシュ製ICAP−88を用いた。また測定波長は340.458nmとした。
【0055】
参考例1:パラジウム原料液(i)の調製
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内で酢酸パラジウム0.8mg、ホスファイト配位子(L25)8.1mgをAldrich社製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン20.0cc中に添加した。この混合液を120℃で5分間加熱し、完全に溶解させ、パラジウム濃度20wtppmの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン溶液を調製した。本液を原料液としてパラジウムの吸着分離実験を以下に実施した。
【0056】
参考例2:パラジウム原料液(ii)の調製
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内で酢酸パラジウム0.8mg、ホスファイト配位子(L25)8.1mgをAldrich社製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン10.0ccと酢酸10.0ccの混合液中に添加した。この混合液を120℃で5分間加熱し、完全に溶解させ、パラジウム濃度20wtppmの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン−酢酸溶液を調製した。
【0057】
参考例3:パラジウム原料液(iii)の調製
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内でテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム8.8mgをAldrich社製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン10.0ccと酢酸10.0ccの混合液中に添加した。この混合液を120℃で5分間加熱し、完全に溶解させ、パラジウム濃度40wtppmの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン−酢酸溶液を調製した。
【0058】
実施例1
窒素雰囲気下、参考例1で調製したパラジウム原料液(i)に陽イオン交換樹脂(三菱化学社製:スルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂;SK1B−H)0.76gをガラス製シュレンク内で添加し、オイルバスで120℃に昇温した。この混合液を120℃で3時間加熱攪拌した後、陽イオン交換樹脂をろ過分離し、ろ液中のパラジウム濃度を分析した。その結果、ろ液中のパラジウム濃度は3.8wtppmであり、パラジウム原料液(i)中からのパラジウム除去率は81%であった。
【0059】
実施例2
窒素雰囲気下、参考例2で調製したパラジウム原料液(ii)に陽イオン交換樹脂(三菱化学社製:スルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂;SK1B−H)0.76gをガラス製シュレンク内で添加し、オイルバスで120℃に昇温した。この混合液を120℃で3時間加熱攪拌した後、陽イオン交換樹脂をろ過分離し、ろ液中のパラジウム濃度を分析した。その結果、ろ液中のパラジウム濃度は3.6wtppmであり、パラジウム原料液(ii)中からのパラジウム除去率は82%であった。
【0060】
実施例3
窒素雰囲気下、参考例3で調製したパラジウム原料液(iii)に陽イオン交換樹脂(三菱化学社製:スルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂;SK1B−H)0.77gをガラス製シュレンク内で添加し、オイルバスで120℃に昇温した。この混合液を120℃で3時間加熱攪拌した後、陽イオン交換樹脂をろ過分離し、ろ液中のパラジウム濃度を分析した。その結果、ろ液中のパラジウム濃度は1.7wtppmであり、パラジウム原料液(iii)中からのパラジウム除去率は96%であった。
【0061】
実施例4
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内で酢酸パラジウム1.7mg、配位子(A)16.3mg、Aldrich社製3,4−ジアセトキシ−1−ブテン20cc、酢酸20ccを混合した(パラジウム金属濃度20wtppm)。この混合液を120℃で2時間加熱攪拌した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン:3,4−ジアセトキシ−1−ブテン=63:37(重量比)となった。本反応後液にSK1B−Hを1.52g添加し、3時間加熱攪拌した後、陽イオン交換樹脂をろ過分離し、ろ液中のパラジウム濃度を分析した。その結果、ろ液中のパラジウム濃度は4wtppmであり、反応液中からのパラジウム除去率は80%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液を、陽イオン交換樹脂と接触させ、該溶液から第8〜10族遷移金属を除去する方法。
【請求項2】
リン化合物が、リン−酸素結合を有するリン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リン化合物が、ホスファイト類であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属が、パラジウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
陽イオン交換樹脂が、スルホン基を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液を、pH9以下に調製した後陽イオン交換樹脂と接触させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
リン化合物及び第8〜10族遷移金属から選ばれる遷移金属から成る錯体触媒を含有する溶液が、ホスファイト配位子及びパラジウムからなる錯体触媒の存在下、酢酸を溶媒としてアリル化合物の異性化反応を行った反応液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
パラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒を使用したアリル化合物の異性化方法において、溶媒として酢酸を使用し、アリル化合物をパラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒により異性化し、得られた反応液を陽イオン交換樹脂と接触させ、該反応液からパラジウムを除去することを特徴とするアリル化合物の異性化方法。
【請求項9】
3,4−ジアセトキシアリル化合物を、酢酸溶媒中でパラジウム及びホスファイト配位子からなる錯体触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化し、得られた反応液を陽イオン交換樹脂と接触させ、該反応液からパラジウムを除去することを特徴とする1,4−ジアセトキシアリル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−44568(P2007−44568A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228436(P2005−228436)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】