説明

遷移金属系化合物の製造方法

【課題】遷移金属系化合物を短時間で効率的に製造する。
【解決手段】リチウム化合物と遷移金属化合物を含む混合物を焼成して遷移金属系化合物を製造する方法において、リチウム化合物および遷移金属化合物を造粒した後、移動床式の焼成炉を用いて焼成することを特徴とする遷移金属系化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属系化合物の製造方法に係り、特に、得られる遷移金属系化合物の物性ないし特性を損なうことなく、リチウム二次電池の正極活物質として有用な遷移金属系化合物の生産効率の向上を図る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器、通信機器の小型化、軽量化に伴い、その電源として、また、自動車用動力源として、高出力、高エネルギー密度であるリチウム二次電池が注目されている。
リチウム二次電池の正極活物質としては、遷移金属系化合物が用いられ、中でも標準組成がLiCoO、LiNiO、LiMn等のリチウム遷移金属複合酸化物が好ましいことが知られている。
【0003】
さらに、安全性や原料コストの観点から、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属の一部を他の遷移金属で置換したLiNi1−pMn(ここで、pは0<p<1を満たす数を表す)、LiNi1−p−qMnCo(ここで、p、qは、それぞれ、0<p<1、0<q<1、及び、0<p+q<1を満たす数を表す)等のLiCoOやLiNiOと同じ層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が注目されている。
【0004】
これらリチウム遷移金属複合酸化物の製造法としては多くの方法が知られているが、例えば、ニッケル原料、コバルト原料、マンガン原料等の遷移金属系原料を含み、所望により更に少量のリチウム原料を含むスラリーを噴霧乾燥して造粒粒子とし、これに所望の組成比となるように更にリチウム原料を乾式混合した後焼成する方法(特許文献1)や、ニッケル、コバルト、マンガンを、例えば炭酸塩として共沈させて得られる複合炭酸塩を焼成して脱炭酸し、得られた造粒粒子とリチウム原料を乾式混合した後焼成する方法(特許文献2)、また、無機化合物からなる原料粉末を混合し、造粒し、焼成することで、正極活物質の粒径を大きくし、電池としたときの自己放電率を低減させる方法(特許文献3)などが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−267732号公報
【特許文献2】特開平10−134811号公報
【特許文献3】特開平5−290849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、焼成前駆体を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物などの遷移金属系化合物を製造する場合、焼成時間の短縮は、高価な焼成炉内での焼成前駆体の滞留時間を短縮することで生産性を高め、製造コストを低減する上で極めて重要である。しかし、例えば、特許文献1,2に記載される従来の製造方法において、生産性を考慮して、焼成時の保持温度を高くすることにより焼成時間の短縮を図った場合、得られる遷移金属系化合物には焼結塊を生じ、焼成後の篩い分け操作における歩留まりが低下するという課題がある。また、特許文献3に記載される従来の方法においては、焼成前駆体の造粒を行うことにより、焼成前駆体を効率的に焼成することが可能であるという副次的に生産性の向上効果が予想されるものの、単にバッチ炉で焼成しているため、生産性の向上効果は低い。さらに、焼
成後の一次粒径を大きくすると、自己放電率を抑制する事ができるが、充放電時の電池特性、特に高レートでの電池容量が小さくなってしまう。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みて創案されたものであり、焼結塊を生じることなく、また、得られる遷移金属系化合物の物性や特性を損なうことなく、焼成に要する時間を短縮してリチウム遷移金属複合酸化物などの遷移金属系化合物を短時間で効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討の結果、リチウム化合物と遷移金属化合物を含む混合物を焼成して遷移金属系化合物を製造する方法において、リチウム化合物および遷移金属化合物を造粒した後、移動床式の焼成炉を用いて焼成することにより、焼成時間を短時間としても焼成後の篩いの歩留まりも、得られる遷移金属系化合物の物性や特性をも損なうことがないことを見出した。
【0009】
移動床式の焼成炉は、高炉に代表される製鉄の分野などで用いられている。ここで、遷移金属系化合物などのLi正極材は、高温での反応性が強く、石英等の反応管を用いる事が出来ない可能性がある。また、金属との反応性も高く、通常は、アルミナやムライトといったセラミックス素材の材質を用いる場合が多い。通常の無機化合物であれば、焼成前駆体を焼成するとその粒子径は膨張して大きくなる。このため、セラミックスを反応管に用いた場合、移動床の反応管を破損するなどの問題があった。
【0010】
一方、本発明のように遷移金属系化合物の焼成を行う場合、これらの化合物は焼成前駆体を焼成するとその粒子径は収縮し、かつ、粒子が常に流れる事により、膨張分の体積を吸収できるスペースが常に生じる為に、移動床の反応管を破損するなどの問題を起こさないことを本発明の発明者らが見出した。そのため、本発明の製造方法に適用できたものである。
【0011】
また、遷移金属系化合物などのLi正極材の原料に炭酸塩などを用いた場合などは、特に、焼成時に、反応で水や二酸化炭素が発生する場合が多い。この二酸化炭素が滞留すると、例えば、Li炭酸塩の反応の進行が遅くなり、反応が終了する前に融点を超える温度に達すると溶融が起こり、粒子同士が固着してしまうトラブルが発生する原因となる。その為、融点以下の温度で保持して、固着を防止する等の措置を講じる必要があった。
【0012】
本発明においては、移動床式の焼成炉を用いているため、粒子の流れに対抗する方向に空気などのガスを流すことにより、発生する水分や二酸化炭素を効率よく除去できる。そのため、脱炭酸の速度を飛躍的に早くすることが可能となる。なお、焼成前駆体を造粒していることにより、反応管内の圧力損失を低減し、かつ、発生する水蒸気・二酸化炭素を充分に除去できるガス量を流す事が出来る。また、造粒することにより、反応管内での閉塞が起こりにくくし、ピストンフロー性を持たせる効果もある。さらには、十分なガスを流すことにより、反応管の半径方法の温度分布を非常に小さくする事が出来、造粒粒子間の滞留時間・温度履歴の分布を非常に小さくできる効果がある。
【0013】
また、焼成後の遷移金属系化合物は、従来のバッチ焼成品と比較して、そのバルク密度が大きい為、反応管の単位容積当たりの処理量を多くする事ができ、焼成反応機の容積を非常に小さくする事ができる。また、造粒してある為に、ハンドリング時に粉立ちするなどの問題も生じにくく、取り扱いが非常に容易になるといった特徴も兼ね備えている。
これにより、高温、短時間の焼成で従来よりも短時間で効率的に遷移金属系化合物を製造することが可能となり、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1) 遷移金属系化合物を製造する方法において、原料となる遷移金属化合物を含有す
る焼成前駆体を造粒した後、縦型移動床式の焼成炉を用いて焼成することを特徴とする遷移金属系化合物の製造方法。
(2)焼成前駆体を平均粒子径300μm以上に造粒することを特徴とする(1)に記載の製造方法。
(3)焼成時の均熱温度域での滞留時間が、5分以上、3時間以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)焼成する縦型移動床の温度域を2つ以上に分割し、最初の温度域が720℃以下である事を特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)焼成する縦型移動床式焼成炉を、2つ以上用いて連続的、もしくは、バッチ的に焼成する事を特徴とする、(1)から(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)焼成前駆体が、原料化合物を攪拌造粒、転動造粒、押し出し造粒、圧縮造粒および噴霧乾燥からなる群より選ばれる少なくとも一種の造粒方法で造粒されることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7) 焼成前駆体の原料のうち、いずれか一つが炭酸塩を含むことを特徴とする、(1
)ないし(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8) 得られる遷移金属系化合物の組成が、下記式(I)または(II)で表されること
を特徴とする、(1)ないし(7)のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
Li1+xMO …(I)
(ただし、上記式(I)中、xは0以上、0.5以下、Mは、Li、Mn,Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mn/Niモル比は0.1以上、12以下、Co/(Mn+Ni+Co)モル比は0以上、0.35以下、M中のLiモル比は0.001以上、0.5以下である。)
Li[LiaMn2−x−a]O4+d・・・(II)
(式(II)中、0≦a≦0.3、 0.4 <x <0.6、−0.5 <δ<0.5を満たし、Mは、Ni、Cr、Fe、CoおよびCuから選ばれる遷移金属のうちの少なくとも1種を表す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の遷移金属系化合物の製造方法によれば、取り扱いが容易で、かつ、焼結塊を生じることなく、また、得られる遷移金属系化合物の物性や特性を損なうことなく、短時間で遷移金属系化合物の焼成が可能となる。
このため、本発明によれば、従来よりも短時間で効率的にリチウム二次電池用正極活物質を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】移動床式の焼成炉
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明の遷移金属系化合物の製造方法(以下適宜、「本発明の製造方法」という)は、リチウム化合物と遷移金属化合物を含む混合物を焼成して遷移金属系化合物を製造する方法において、リチウム化合物および遷移金属化合物を造粒した後、移動床式の焼成炉を用いて焼成することを特徴とする遷移金属系化合物の製造方法である。
なお、本発明において、「縦型移動床式の焼成炉」とは、焼成前駆体が配管内に充填され、反応管中を通過する際に、反応管の回りが過熱されることにより、焼成前駆体を焼成
する炉を指す。後に詳細を詳述する。
【0019】
[遷移金属系化合物]
本発明の製造方法を説明するに先立ち、本発明で製造される遷移金属系化合物について説明する。
【0020】
<組成>
本発明の製造方法により製造される遷移金属系化合物(以下適宜、「本発明の遷移金属系化合物」という)に特に制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない範囲において任意のものを製造することができる。
本発明の遷移金属系化合物とは、Liイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、リチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。硫化物としては、TiSやMoSなどの二次元層状構造をもつ化合物や、一般式MeMo(MeはPb,Ag,Cuをはじめとする各種遷移金属)で表される強固な三次元骨格構造を有するシュブレル化合物などが挙げられる。リン酸塩化合物としては、オリビン構造に属するものが挙げられ、一般的にはLiMePO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)で表され、具体的にはLiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPOなどが挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLiMe(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表され、具体的にはLiMn、LiCoMnO、LiNi0.5Mn1.5、LiCoVOなどが挙げられる。
【0021】
層状構造を有するものは、一般的にLiMeO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表され、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiNi1−xCo、LiNi1−x−yCoMn、LiNi0.5Mn0.5、Li1.2Cr0.4Mn0.4、Li1.2Cr0.4Ti0.4、LiMnOなどが挙げられる。
本発明の遷移金属系化合物粉体は、リチウムイオン拡散の点からオリビン構造、スピネル構造、層状構造を有するものが好ましい。中でも層状構造を有するものが特に好ましい。
【0022】
また、本発明の遷移金属系化合物粉体は、異元素が導入されてもよい。異元素としては、B,Na,Mg,Al,K,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Sr,Y,Zr,Nb,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sb,Te,Ba,Ta,Mo,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Pb,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Bi,N,F,S,Cl,Br,I,As,Ge,P,Pb,Sb,SiおよびSnの何れか1種以上の中から選択される。これらの異元素は、遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれていてもよく、あるいは、遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在していてもよい。
【0023】
また、本発明の遷移金属系化合物は、下記組成式(I)または(II)で示されるリチウム含有遷移金属化合物粉体であることが好ましい。
組成式(I)で示されるリチウム含有遷移金属化合物粉体を説明する。
Li1+xMO …(I)
(ただし、上記式(I)中、xは通常0以上、0.5以下、Mは、Li、Ni、Mn及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mn/Niモル比は通常0.1以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.6以上、より一層好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上、最も好ましくは0.9以上、通常1
2以下、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは8以下、最も好ましくは7以下である。Co/(Mn+Ni+Co)モル比は通常0以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上、最も好ましくは0.05以上、通常0.35以下、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0.10以下、最も好ましくは0.099以下である。M中のLiモル比は通常0.001以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.03以上、最も好ましくは0.05以上、通常0.2以下、好ましくは0.19以下、より好ましくは0.18以下、さらに好ましくは0.17以下、最も好ましくは0.15以下である。)
なお、上記組成式(I)においては、酸素量の原子比は便宜上2と記載しているが、多少の不定比性があってもよい。不定比性がある場合、酸素の原子比は通常2±0.2の範囲、好ましくは2±0.15の範囲、より好ましくは2±0.12の範囲、さらに好ましくは2±0.10の範囲、特に好ましくは2±0.05の範囲である。
【0024】
また、本発明の遷移金属系化合物粉体は、正極活物質の結晶性を高めるために酸素含有ガス雰囲気下で高温焼成を行って焼成されたものであることが好ましい。
次に、一般式(II)で示されるリチウム含有遷移金属化合物粉体を説明する。
Li[LiaMn2−x−a]O4+d・・・(II)
(式中、0≦a≦0.3、 0.4 <x <0.6、−0.5 <δ<0.5を満たし、Mは、Ni、Cr、Fe、CoおよびCuから選ばれる遷移金属のうちの少なくとも1種を表す。)
より具体的には、以下の通りである。
【0025】
Li[LiaMn2−x−a]O4+d・・・(II)
ただし、Mは、Ni、Cr、Fe、CoおよびCuから選ばれる遷移金属のうちの少なくとも1種から構成される元素であり、これらの中でも、高電位における充放電容量の点から、最も好ましくはNiである。
xの値は通常0.4以上、好ましくは0.425以上、より好ましくは0.45以上、
さらに好ましくは0.475以上、最も好ましくは0.49以上、通常0.6以下、好ましくは0.575以下、より好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.525以下、最も好ましくは0.51以下である。
【0026】
xの値がこの範囲であれば、遷移金属系化合物における単位重量当たりのエネルギー密度が高く、好ましい。
また、aの値は通常0以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.03以上、最も好ましくは0.04以上、通常0.3以下、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0.1以下、最も好ましくは0.075以下である。
【0027】
aの値がこの範囲であれば、遷移金属系化合物における単位重量当たりのエネルギー密
度を大きく損なわず、かつ、良好な負荷特性が得られるため、好ましい。
さらに、dの値は通常±0.5の範囲、好ましくは±0.4の範囲、より好ましくは±
0.2の範囲、さらに好ましくは±0.1の範囲、特に好ましくは±0.05の範囲である。
【0028】
δの値がこの範囲であれば、結晶構造としての安定性が高く、この遷移金属系化合物を用いて作製した電極を有する電池のサイクル特性や高温保存が良好であるため、好ましい。
ここで本発明の遷移金属系化合物の組成であるリチウムニッケルマンガン系複合酸化物におけるリチウム組成の化学的な意味について、以下により詳細に説明する。
【0029】
上記遷移金属系化合物の組成式のa,xを求めるには、各遷移金属とリチウムを誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)で分析して、Li/Ni/Mnの比を求める事で計算される。
構造的視点では、aに係るリチウムは、同じ遷移金属サイトに置換されて入っていると考えられる。ここで、aに係るリチウムによって、電荷中性の原理によりMとマンガンの平均価数が3.5価より大きくなる。
【0030】
<粒径>
本発明で製造される遷移金属系化合物の粒径に制限はないが、正極活物質としての用途において、遷移金属系化合物は、超音波発振器による分散処理を行わない試料をレーザー回折法により粒度分布を測定したときのメジアン径が、下限としては、通常0.3μm以上、好ましくは0.4μm以上、より好ましくは0.5μmであり、上限としては、通常20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは15μm以下であることが望ましい。メジアン径がこの上限を上回ると、その遷移金属系化合物を正極活物質として正極板を作製する際、塗布工程においてスジ引きの原因となる虞があり、また、組成が偏析する虞もある。
【0031】
一方、上記メジアン径の下限は、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上である。メジアン径が上記下限を下回ると、微粉が増加して表面積が増加し、電極に塗布する際に、バインダ量を増加させなければならなくなり、単位体積当たりに使用できる活材の量が少なくなり、電池容量を増大する際に不利となる。
上述したメジアン径は、造粒粒子を解砕した後の一次粒子の凝集体の粒径である。一次粒子の大きさは、比表面積を増大させない為に、下限としては、通常0.3μm以上、好
ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上である。上限としては、通常1
0μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下である。
【0032】
本発明によって製造された遷移金属系化合物は、上記一次粒子が造粒によって凝集された形で、通常0.3mmから20mmの大きさの顆粒状粒子として得られる。下限としては、通常0.3mm以上、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.5mであり、上限としては、通常20mm以下、好ましくは18mm以下、より好ましくは15mm以下であることが望ましい。この場合、嵩密度は、下限としては、通常1.8g/cm以上、好ましくは1.9g/cm、より好ましくは2.0g/cmであり、上限としては、特に制限されないが、通常4g/cmである。この顆粒を正極活物質として使用する為に、上述したメジアン径まで解砕する必要がある。解砕は、湿式でも乾式でも実施する事ができる。使用する粉砕機としては、ビーズミル・ボールミル・ロッドミル・ジェットミル・ハンマーミル・サイクロンミル・気流式攪拌ミル等があげられるが、これらに限定するものではない。また、複数の解砕機や粉砕機を組み合わせて使用してもよい。また、解砕機と分級機を組み合わせ、所望のメジアン径の粒子を取り出し、粗大粒子は解砕機にリサイクル使用する事も出来る。
【0033】
なお、遷移金属系化合物のメジアン径は、JIS Z 8825−1に基づいて公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定した値を採用することができる。また、測定の際に用いる分散媒としては、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いる。さらに、測定時に使用する屈折率は、1.70a020i(実数部1.70、虚数部0.20)である。
【0034】
[遷移金属系化合物の製造]
以下に、本発明の製造方法を、遷移金属系化合物として、リチウム遷移金属複合酸化物、なかでもリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を製造する場合を例示して説
明するが、本発明の方法はリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に限らず、上述の如く、様々な遷移金属系化合物、その他の遷移金属系化合物の製造に有効である。
【0035】
<焼成前駆体の製造工程>
本発明においては、焼成前駆体が、原料化合物を攪拌造粒、転動造粒、押し出し造粒、圧縮造粒および噴霧乾燥からなる群より選ばれる少なくとも一種の造粒方法で造粒することが好ましい。
造粒する前に、ビーズミル等を用いて、前駆体原料をメジアン径で1μm以下まで粉砕する事が望ましい。
【0036】
造粒する際は、高分子等のバインダを使用してもよいし、水をバインダとして攪拌造粒機や、転動造粒機、押し出し造粒機で造粒粒子を製造できる。
また、上記と同様の方法で調液したスラリーを、乾燥機能を持った攪拌造粒機で直接造粒することも可能である。また、噴霧乾燥等を行い2次粒子を形成した後、あるいは、他の乾燥機を用いて乾燥したさせた後、攪拌造粒機や転動造粒機、圧縮造粒機を用いて造粒することも可能である。
【0037】
焼成前駆体を製造する方法は特に制限はないが、最も一般的には、リチウム化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、及びコバルト化合物を液体媒体中に分散させたスラリーを噴霧乾燥して造粒粒子を得る方法が挙げられる。なお、リチウム化合物については、ニッケル化合物、マンガン化合物、及びコバルト化合物を液体媒体中に分散させたスラリーを噴霧乾燥後に、得られた噴霧乾燥体と混合して用いることもできる。
【0038】
製造条件を一定とした場合には、リチウム化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、及びコバルト化合物を液体媒体中に分散させたスラリーを調製する際の各化合物の混合比や、ニッケル化合物、マンガン化合物、及びコバルト化合物を液体媒体中に分散させたスラリーを調製する際の各化合物の混合比や噴霧乾燥後の噴霧乾燥体とリチウム化合物との混合比を調整することで、目的とするリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物のLi/Ni/Mn/Mのモル比を制御することができる。
【0039】
(原料)
スラリーの調製に用いる原料化合物のうち、リチウム化合物としては、LiCO、LiNO、LiNO、LiOH、LiOH・HO、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、CHOOLi、LiO、LiSO、ジカルボン酸Li、クエン酸Li、脂肪酸Li、アルキルリチウム等が挙げられる。これらリチウム化合物の中で好ましいのは、焼成処理の際にSO、NO等の有害物質を発生させない点で、窒素原子や硫黄原子、ハロゲン原子を含有しないリチウム化合物であり、また、焼成時に分解ガスを発生する等して、造粒粒子の二次粒子内に分解ガスを発生するなどして空隙を形成しやすい化合物であり、これらの点を勘案すると、とりわけLiCO、LiOH、LiOH・HOが、なかでも取り扱い易く、比較的安価であることからLiCOが好ましい。これらのリチウム化合物は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0040】
また、ニッケル化合物としては、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、2NiCO・3Ni(OH)・4HO、NiC・2HO、Ni(NO・6HO、NiSO、NiSO・6HO、脂肪酸ニッケル、ニッケルハロゲン化物等が挙げられる。この中でも、焼成処理の際にSO、NO等の有害物質を発生させない点で、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、2NiCO・3Ni(OH)・4HO、NiC・2HOのようなニッケル化合物が好ましい。また、更に工業原料として安価に入手できる観点、及び反応性が高い、という観点からNi
(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、さらに焼成時に分解ガスを発生する等して、造粒粒子の二次粒子内に空隙を形成しやすい、という観点から、特に好ましいのはNi(OH)、NiOOH、NiCOである。これらのニッケル化合物は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0041】
また、マンガン化合物としてはMn、MnO、Mn等のマンガン酸化物、MnCO、Mn(NO、MnSO、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン等のマンガン塩、オキシ水酸化物、塩化マンガン等のハロゲン化物等が挙げられる。これらのマンガン化合物の中でも、MnO、Mn、Mn、MnCOは、焼成処理の際にSO、NO等のガスを発生せず、更に工業原料として安価に入手できるため好ましい。これらのマンガン化合物は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0042】
また、コバルト化合物としては、Co(OH)、CoOOH、CoO、Co、Co、Co(OCOCH・4HO、CoCl、Co(NO・6HO、Co(SO・7HO、CoCO等が挙げられる。中でも、焼成工程の際にSO、NOX等の有害物質を発生させない点で、Co(OH)、CoOOH、CoO、Co、Co、CoCOが好ましく、更に好ましくは、工業的に安価に入手できる点及び反応性が高い点でCo(OH)、CoOOHである。加えて焼成時に分解ガスを発生する等して、造粒粒子の二次粒子内に空隙を形成しやすい、という観点から、特に好ましいのはCo(OH)、CoOOH、CoCOである。これらのコバルト化合物は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0043】
また、本願発明においては、上記の焼成前駆体の原料のうち、いずれか一つが炭酸塩であることが好ましい。なかでも、ニッケル、及び、リチウム化合物が炭酸塩であることが、スラリーの調製の容易さ、比較的安価に入手できる点から好ましい。
さらに、上記のLi、Ni、Mn、Co原料化合物以外にも他元素置換を行って前述の異元素を導入したりすることが可能である。
【0044】
(混合工程)
原料の混合方法は特に限定されるものではなく、湿式でも乾式でも良い。例えば、ボールミル、振動ミル、ビーズミル等の装置を使用する方法が挙げられる。原料化合物を水、アルコール等の液体媒体中で混合する湿式混合は、より均一な混合が可能であり、かつ焼成工程において混合物の反応性を高めることができるので好ましい。
【0045】
混合の時間は、混合方法により異なるが、原料が粒子レベルで均一に混合されていれば良く、例えばボールミル(湿式又は乾式)では通常1時間から2日間程度、ビーズミル(湿式連続法)では滞留時間が通常0.1時間から12時間程度である。
なお、原料の混合段階においてはそれと並行して原料の粉砕がなされていることが好ましい。粉砕の程度としては、粉砕後の原料粒子の粒径が指標となるが、平均粒子径(メジアン径)として通常1.0μm以下、好ましくは0.6μm以下、最も好ましくは0.4μm以下とする。粉砕後の原料粒子の平均粒子径が大きすぎると、焼成工程における反応性が低下するのに加え、組成が均一化し難くなる。ただし、必要以上に小粒子化することは、粉砕のコストアップに繋がるので、平均粒子径が通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上となるように粉砕すれば良い。このような粉砕程度を実現するための手段としては特に限定されるものではないが、湿式粉砕法が好ましい。具体的にはダイノーミル等を挙げることができる。
【0046】
なお、本発明の実施例に記載のスラリー中の粉砕粒子のメジアン径は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって、屈折率1.70を設定し、粒子径基準を体積基
準に設定して測定されたものである。本発明では、測定の際に用いる分散媒として、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定を行った。
【0047】
(造粒工程)
本発明の焼成前駆体は、原料化合物を造粒することを特徴としている。造粒方法としては、攪拌造粒、転動造粒、押し出し造粒、噴霧乾燥等の乾燥とこれらの造粒方法との組み合わせにより造粒することが好ましい。中でも、造粒粒子の均一性・経済的観点から、攪拌造粒、転動造粒、押し出し造粒が好ましく、攪拌造粒が特に好ましい。攪拌造粒機としては、日本コークス社のFMミキサーなどがある。
【0048】
造粒工程は、公知の方法により行なえば良い。例えば、噴霧乾燥等で乾燥した粉体を攪拌造粒機や転動造粒機にしこみ、水やアルコール・高分子等の所定のバインダを、一括、もしくは、間欠的に添加して、攪拌することにより、造粒粒子を得ることができる。攪拌造粒機の場合は攪拌の速度や、攪拌羽の形状、付随する解砕機の速度を調節することにより、また、転動造粒機では転動速度や傾斜角度により造粒粒子の粒子径をコントロールする事が可能である。
【0049】
あるいは、乾燥機能付き攪拌造粒機にスラリーをしこみ、所望のスラリー濃度まで溶媒を乾燥した後、前記同様に攪拌造粒を実施する事も出来る。
また、乾燥粉体に適量な水やアルコールなどを加え、混錬して押し出し造粒機で造粒し、マルメライザー等の機器により球状に成形して造粒することも可能である。
さらに、ブルケッターやプレス機等の装置を用い、乾燥粒子を型に入れた後、圧力を加えることで成型し、造粒することもできる。
【0050】
このような造粒工程により、一次粒子が凝集して二次粒子を形成してなる粉体を得ることができる。一次粒子が凝集して二次粒子を形成してなる造粒粒子の形状は、例えば、SEM観察、断面SEM観察で確認することができる。噴霧乾燥と、攪拌造粒機や転動造粒機とを用いて造粒した場合、噴霧造粒で形成した2次粒子と、造粒で形成した3次粒子構造が観察できる。
【0051】
(造粒粒子)
本願発明の造粒粒子のメジアン径は通常20mm以下、より好ましくは15mm以下、更に好ましくは10mm以下、最も好ましくは7mm以下となるようにする。通常は300μm以上、好ましくは400μm以上、より好ましくは500μm以上である。ここで、焼成前駆体の粒子径を300μm以上に造粒する事により、配管中に焼成前駆体を充填した場合、粒子間に空隙ができ、配管中にガスを流すことで、発生する水蒸気・二酸化炭素を充分に除去できる。また、造粒することにより、反応管内での閉塞が起こりにくくし、ピストンフロー性を持たせる効果もある。さらには、十分なガスを流すことにより、反応管の半径方法の温度分布を非常に小さくする事が出来、造粒粒子間の滞留時間・温度履歴の分布を非常に小さくできる効果がある。
【0052】
攪拌造粒で得られた造粒粒子の粒子径は、攪拌速度、羽形状、解砕機速度、乾燥温度等を適宜選定することによって制御することができる。造粒後の粒子は、篩等により分級して使用する事ができる。特に、粗大な造粒粒子は、配管内の閉塞の原因となる為、積極的に取り除いておくことが望ましい。篩分けで除去した造粒物は、解砕および/または粉砕を行うことで、それ以降の造粒原料として再度使用可能であるので、造粒粒子の分級時のロスはほとんど発生しない。
【0053】
また、焼成前駆体造粒粒子の嵩密度は通常0.1g/cc以上、好ましくは0.3g/
cc以上、より好ましくは0.5g/cc以上、最も好ましくは0.7g/cc以上である。この下限を下回ると粒子の充填性や粒子の取り扱いに悪影響を及ぼす可能性がある。
また、造粒粒子は縦型移動床で連続焼成する為に、流れ性が重要であり、できるだけ球形に近い形状が望ましい。
【0054】
球形に近い形状とは、顕微鏡等で計測した際に、アスペクト比(最長径と最短径の比)が2以上であれば球形に近い形状であるといえる。
また、表面が滑らかな程、流れ性が向上するので、できだけ滑らかなものが望ましい。造粒粒子の安息角は45度以下、望ましくは40度以下、更に望ましくは35度より小さい事が好ましい。
【0055】
[焼成工程]
このようにして得られた焼成前駆体の造粒粒子は、次いで焼成処理される。
(移動床式の焼成炉)
本発明の製造方法において、焼成には、移動床式の焼成炉を用いることを特徴としている。
【0056】
なお、前述のとおり、本発明において、「移動床式の焼成炉」とは、焼成前駆体が配管中を通過する際に、配管の回りが過熱されることにより、焼成前駆体を焼成する炉を指す。移動床とは、配管中に焼成前駆体が密に詰まっており、焼成前駆体を移動させながら焼成するものであり、配管中で気体により、焼成前駆体を吹き上げて流動させながら焼成する流動床とは構造がことなるものである。
【0057】
また、配管は、地面に対し、縦に配置されている場合、斜めに配置されている場合があるが、粒子の流れが、ピストンフローに近くなり滞留時間が一様に近くなる点から、垂直に対し、45°傾いたものまでが好ましく、中でも地面に対し垂直に配置されているものが特に好ましい。
また、一般的に焼成工程に使用されるローラーハース型のキルンには、セラミックスの鉢が使用される。セラミックスは熱ショックによる割れが発生し易い為、急速な昇温・冷却を実施できない。その為、焼成炉の大部分は、昇温、及び、冷却ゾーンとして使用されている。また、前駆体を昇温するだけでなく、鉢を昇温する為に多くの熱量を消費している。一方、本発明では、移動床式の焼成炉を用いているため、定常状態においては反応管の温度は常に一定であり、熱ショックによる割れが起きる懸念は極めて少ない。造粒物も対抗して流す気体と熱交換するので、効率良い昇温、冷却が可能である。造粒した粒子の径が大きすぎるとこの熱交換の効率が低下する可能性がある。
【0058】
また、配管の材質としては、アルミナやアルミナを主成分としたセラミックスが、耐食性の点から好ましい。配管内は、造粒物で充填されており、下部から連続的、あるいは、間欠的に粒子を抜き出し、配管内の粒子は重力によって下部に移動する。下部から抜き出して生じる上部の空間部分には、新しい粒子を供給する。
配管内の閉塞を防止する為、攪拌棒を挿入して攪拌したり、ノッカーやバイブレーター等で振動を与えることも有効である。
【0059】
また、焼成工程は、通常、昇温・最高温度保持・降温の三部分に分けられる。二番目の最高温度保持部分は必ずしも一回とは限らず、目的に応じて二段階又はそれ以上の段階をふませても良い。また、移動床式の焼成炉に供する造粒物は、造粒品を直接供してもよいし、予め、ローラーハースキルン等でバッチ式で予備焼成したもの、あるいは、別の移動床を用いて予備焼成した造粒品を供してもよい。
【0060】
焼成反応管の大きさには、特に制限されないが、経済性の観点から、通常、直径20m
m以上、好ましくは50mm以上、さらに好ましくは100mm以上、特に好ましくは130mm以上である。高さは特に制限はないが、通常、高さ500mm以上、好ましくは1000mm以上、更に好ましくは1500mm以上である。この高さであれば、滞留時間を長くとる事ができるのでが移動床反応管1本当たりの処理量を増加する事ができ、生産性が向上する為好ましい。さらに、使用する反応管は、一本で用いても、あるいは、複数本を直列につないで用いてもかまわない。また、予備焼成と焼成、更に降温工程を分ける場合は、焼成する縦型移動床式焼成炉を、2つ以上用いて連続的、もしくは、バッチ的に焼成することが好ましい。この場合、焼成効率の点から、下限としては、通常2つ以上であり、上限としては、通常5つ以下、好ましくは4つ以下、さらに好ましくは5つ以下である。
【0061】
本発明の製造方法において、配管内の造粒粒子の下方への流れる速度は、下部からの抜き出し速度で制御する。また、配管内の造粒粒子の下方への流れる速度は特に制限は無いが、大きすぎると充分な滞留時間が取れなくなる。
a)Li1+xMOに代表されるリチウム遷移金属複合酸化物の場合
予備焼成を実施しない場合、最初の設定温度を高くすると、例えばLiCOを原料に使用した場合、脱炭酸の反応が十分に進行せず、溶解や異常焼結が進行し、閉塞してしまう可能性がある。その為、LiCOの融点である720℃以下で実施する事が必要である。温度を低くしすぎると、脱炭酸反応に時間がかかり、滞留時間を長くとる必要が生じて生産性が悪くなる可能性がある。最初の均熱域の温度は、通常500℃以上、好ましくは、550℃以上、より好ましくは600℃以上に設定し、滞留時間を通常2分以上、より好ましくは5分以上とれるように設定する。
【0062】
最高温度の保持温度は、通常800℃以上、好ましくは850℃以上、更に好ましくは900℃以上、最も好ましくは950℃以上であり、通常1200℃以下、好ましくは1175℃以下、更に好ましくは1150℃以下である。
この灼熱温度域での滞留時間は、通常5分以上、好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上、また、経済的な観点から、通常3時間以下、好ましくは2時間以下、更に好ましくは1時間以下である。保持時間が短すぎると結晶性の良い遷移金属系複合酸化物粉体が得られ難くなり、長すぎるのは実用的ではない。焼成時間が長すぎると、生産性を著しく損ねるので不利である。本発明では、前駆体を造粒することで粒子間の距離が小さくなり、造粒しない場合と比較して短時間の焼成で結晶性のよいリチウム遷移金属複合酸化物を得る事ができる。
【0063】
保持工程後の降温工程では、降温速度に特に制限は無い。外部からの加熱ゾーンを出た造粒粒子は、反応管外部からの冷却と、下部から供せられるガスによって急速な冷却が可能である。下部抜き出し装置に造粒粒子が達するまでに、通常200℃以下になるよう冷却ゾーンを設ける事が、機械の保護の観点から有利である。冷却ゾーンには、二重管を用いて冷媒を用いた冷却方法も使用できる。冷却ゾーンには、金属の配管を用いてもよいが、金属の混入を防ぐ観点から、樹脂のライニングやセラミックを溶射した物を使用する事が望ましい。
【0064】
b)Li[LiaMn2−x−a]O4+dに代表されるリチウム遷移金属複合酸化物の場合
予備焼成を実施しない場合、最初の設定温度を高くすると、例えばLiCOを原料に使用した場合、脱炭酸の反応が十分に進行せず、溶解や異常焼結が進行し、閉塞してしまう可能性がある。その為、LiCOの融点である720℃以下で実施する事が必要である。温度を低くしすぎると、脱炭酸反応に時間がかかり、滞留時間を長くとる必要が生じて生産性が悪くなる可能性がある。最初の均熱域の温度は、通常、500℃以上、好ましくは、550℃以上、より好ましくは600℃以上に設定し、滞留時間を通常2分以
上、より好ましくは5分以上とれるように設定する。
【0065】
所望の粒径を得る為、高温での焼成が必要となる。最高温度の保持温度は、通常800℃以上、好ましくは850℃以上、更に好ましくは900℃以上であり、通常1100℃以下、好ましくは1050℃以下、更に好ましくは1000℃以下である。
この灼熱温度域での滞留時間は、通常5分以上、好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上、また、経済的な観点から、通常3時間以下、好ましくは2時間以下、更に好ましくは1時間以下である。保持時間が短すぎると粒径が十分に大きくならない。長すぎるのは粒径が大きくなりすぎたり、また、経済性の観点から実用的ではない。
【0066】
保持工程後の降温工程では、降温速度に特に制限は無い。Li[LiaMn2−x
−a]O4+dに代表されるリチウム遷移金属複合酸化物を高温で焼成すると、酸素が脱離
し、Mnが4価から3価に変化する酸素欠損が生じる事が知られている。これを修復する為に、上記の灼熱温度域より低い温度域で再焼成する必要がある。その際の焼成保持温度は、通常500℃以上、好ましくは600℃以上、更に好ましくは650℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、更に好ましくは800℃以下である。この酸素欠損を修復する為の焼成温度域での滞留時間は、通常5分以上、好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上、また、経済的な観点から、通常3時間以下、好ましくは2時間以下、更に好ましくは1時間以下である。保持時間が短すぎると十分に酸素欠損が修復されず電池性能の低下につながる。長すぎるのは、経済性の観点から実用的ではない。
【0067】
外部からの加熱ゾーンを出た造粒粒子は、反応管外部からの冷却と、下部から供せられるガスによって急速な冷却が可能である。下部抜き出し装置に造粒粒子が達するまでに、通常200℃以下になるよう冷却ゾーンを設ける事が、機械の保護の観点から有利である。冷却ゾーンには、二重管を用いて冷媒を用いた冷却方法も使用できる。冷却ゾーンには、金属の配管を用いてもよいが、金属の混入を防ぐ観点から、樹脂のライニングやセラミックを溶射した物を使用する事が望ましい。
焼成時の雰囲気は、空気等の酸素含有ガス雰囲気を用いることができる。通常は酸素濃度が1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上で、100体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは25体積%以下の雰囲気とする。
【0068】
本発明において、空気を焼成管にブロワー等を用いて強制的に下部から通気させながら焼成を行うこともできる。また、上部から吸引する事で強制的に下部から通気させながら焼成する事も出来る。通気は下部からおこなうことが好ましく、下部から通気させながら、焼成をおこなう場合は、縦型移動床式焼成炉の下部から通気させることもできるが、焼成炉の下部に抜き出し装置(フィーダー)を設ける場合、フィーダーの下部から通気することもできる。ただし、フィーダーの定量性を確保するためには、縦型移動床式焼成炉の下部から通気させることが好ましい。その通気量は特に制限されないが、通常、移動床焼成の配管を空搭時で25℃・常圧換算で、線速で、通常0.01m/s以上、好ましくは0.03m/s以上、さらに好ましくは0.05m/s以上、通常3m/s以下、好ましくは2m/s以下、さらに好ましくは1m/s以下、特に好ましくは0.5m/s以下である。この上限値を超える場合は、温度制御が困難になったり、配管内の圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。また、下限を下回る場合には、発生する二酸化炭素や水を充分に除去できず、異常焼結を起こしたり、水の凝縮により閉塞が発生する場合がある。また、焼成工程前後の、昇温・冷却効果が十分に得られなくなる場合がある。
【0069】
本発明によれば、配管内を造粒粒子で充填する事で空間効率が飛躍的に向上し、連続的にガスと対流接触する事で急速昇温、急速冷却が可能となり、従来法では15〜18時間
要していたこと比較して、一連の焼成工程を0.5〜3時間と大幅に短縮する事ができる。
【0070】
(焼成後の粉体の搬出方法)
本発明の製造方法では、縦型移動床式焼成炉で焼成するために造粒粒子の抜き出しを行う必要があり、また、焼成後に解砕や篩いによる分級を行うために焼成炉から造粒粒子を搬出することが好ましい。抜き出し(搬出)方法には特に制限はないが、自動で搬出する装置を焼成炉の出口に置くことが生産性の点から好ましく、具体的には、振動式、回転運動式、回転落下式、ベルト式のフィーダーなどが挙げられ、これらの中でも、造粒粒子の崩れによる閉塞の防止および装置の気密性確保の点から、回転落下式フィーダーが特に好ましい。回転落下式フィーダーとしては、具体的には、ロータリーフィーダー、ロールフィーダー、テーブルフィーダーなどが挙げられるが、配管内における造粒粒子のピストンフロー性の保持の点から、テーブルフィーダーが特に好ましい。
【0071】
(焼成後の解砕工程)
本発明の製造方法では、焼成後に解砕することが正極板を作製する際のスジ引きを防止する目的の点から好ましい。解砕方法としては、湿式、乾式のどちらを用いてもかまわないが、乾燥工程が不要な事から、乾式の解砕方法が望ましい。解砕方法には特に制限はないが、ハンマーミル、ブレンダーミル、ボールミル・ビーズミル・ロットミル・ジェットミル、石臼式粉砕機、サイクロンミル、あるいは、これらの組み合わせなどが挙げられ、なかでも、金属コンタミを防止するとの点からセラミックスや樹脂でコーティングされた装置により解砕することが好ましい。
【0072】
[焼成後の篩い工程]
上述の焼成工程を行なうことにより、目的とする遷移金属系化合物を得ることができる。焼成された後の遷移金属系化合物は、分級して使用する事も出来る。
その収率としては、通常、90%以上、好ましくは94%以上、さらに好ましくは98%以上である。この下限値を下回る場合、電池材料として使用できる量が少なくなっており、原料のロスが多く生産性が悪い。
【0073】
この篩い工程における篩い方式に制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。例えば、振動篩(ボールあり、なし)、手動篩いなどにより、篩うことができる。
また、篩いの強さにも制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意である。さらに、篩いを行なう時間にも制限はない。
【0074】
また、上述のように、分級した後に、遷移金属系化合物を正極活物質として正極板を作製する際のスジ引きを防止する目的で、さらに細かい目開きの篩で分級を行っても良い。その篩い方式に制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。例えば、振動篩(ボールあり、なし)、高速回転するブレードで円筒形のメッシュスクリーンに粉を押し当てて篩うタイプの分級機、手動篩いなどにより、篩うことができる。
また、篩いの強さにも制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意である。さらに、篩いを行なう時間にも制限はない。また、磁選機を用いて磁性異物を取り除くことも、電池の安全性を高める為に有効である。
【0075】
[その他の工程]
本発明の製造方法においては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記の篩い工程や焼成工程以外の工程を行なうようにしても良い。
例えば、焼成前駆体に、その含有元素の割合を調整するため、原料を一部追加したり、或いは取り除いたりしても良い。
また、例えば、焼成前駆体のメジアン径や最大粒径を上述した範囲内に収めるため、適宜、粉砕などを行なうようにしても良い。
【0076】
[本発明が効果を奏する理由]
本発明の遷移金属系化合物の製造方法によれば、短時間で遷移金属系化合物の焼成が可能となる。
このため、本発明によれば、従来よりも短時間で効率的に遷移金属系化合物を製造することが可能となる。また、造粒する事により、焼成後の粉立ちを防止でき、バルク密度が大きいので、ハンドリングに優れ、また移送や保管場所の削減に寄与できる遷移金属系化合物を得られる。
この理由は、以下のように推察される。
【0077】
すなわち、本発明において、原料を造粒して焼成前駆体を作成しているため、移動床に詰め込める仕込み量が増加する一方で、焼成前駆体の粒子同士が空隙を持って移動床の配管内に詰め込まれる。従って、例えば、原料の由来の炭酸ガスなどの原料由来の気体や焼成に酸素などの気流が焼成前駆体同士の隙間を流通しやすい。また、移動床式の焼成炉を用いているため、粒子の流れに対抗する方向に空気などのガスを流すことにより、発生する水分や二酸化炭素を効率よく除去できる。そのため、粒子を急速に昇温しても脱炭酸の速度は飛躍的に早くなる。従って、効率的に焼成を行うことができる。
よって、短時間で効率的に遷移金属系化合物を製造することができるものと推察される。
【実施例】
【0078】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
[遷移金属系化合物の製造]
<実施例1>
LiCO、NiCO、Mn、CoOOH、HBO及びWOをLi:Ni:Mn:Co:B:W=1.15:0.45:0.45:0.10:0.0025:
0.010のモル比になるように混合し、これに水を加えて固形分濃度40重量%のスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機(アシザワファインテック株式会社;LMZ10)を用いて、スラリー中の固形分の平均粒径が0.5μm以下になるまで粉砕した。
【0079】
このスラリー90kgを攪拌造粒機(日本コークス工業株式会社;FM150)に仕込み、ジャケット部分を3kgGの蒸気を用いて加熱しながら、120mmHgまで減圧し水分を除去した。その際、攪拌翼を164rpmで回転し、同時に造粒を行った。84分経過後、攪拌翼を258rpmに変更し、4分間回転した。これにより、平均粒子径約2.0mmのほぼ球状の造粒粒子を得た。この造粒粒子を、目開き2.00mmと2.80mmの篩(東京スクリーン製)を用いて篩い、直径2.0〜2.8mmの造粒粒子を得た。
【0080】
この焼成前駆体を、外径28mm、内径22mm、長さ1500mmの株式会社ニッカト−製のアルミナ(SSA−S)反応管を用い、移動床式の焼成炉で焼成した。装置の概略図は図1に示す。焼成前駆体は上部のホッパーに充填される。ホッパー、その出側配管、焼成反応管、冷却管、抜き出しフィーダーはすべて焼成前駆体で充填されている。抜き出しフィーダー出口には、配管を介して、サンプル用ホッパーが設けられている。抜き出しフィーダーを稼働すると、上部に充填された粒子が順次ながれ、上部ホッパーから補充される。焼成反応管を、外部から加熱するヒーターには、株式会社光洋サーモ製の3ゾーン縦型チューブ炉SV−2−28−A(発熱体はSiCヒーター)を用いた。また、抜き
出し速度を調節する粉体フィーダーには、株式会社アイシンナノテクノロジー社製マイクロンフィーダーTF−70−CT−APを用いた。
【0081】
焼成条件として、配管の温度域を3つに分け、上から650℃、1125℃、1125℃に設定し、抜き出し速度を4.8〜5.6g/minとし、灼熱温度域での滞留時間を約30分とした。均熱温度域(±2.5℃以内)は反応管内部の温度を予め測定し、20cmである事を確認した。滞留時間は、均熱温度域の体積である76cmを抜き出しの体積で除し求めた。配管の下部から上部に対して、空気を2.5nL/minで流通させて焼成を行った。空気の流通量はマスフローコントローラー(株式会社山武製)を用いて調整した。反応管下部には、20cmのSUS製二重管を設けて冷却した。ヒーター上部に出ている反応管、及び、上部の金属部分は、冷えて水が凝縮する事を防止する為、ヒーターにより加熱した。
【0082】
得られたLi1.15Ni0.45Mn0.45Co0.10(B0.0025重量%&W0.010重量%添加)をワンダーブレンダー(大阪ケミカル株式会社製)で解砕し、平均粒子径を1.73μmとした。
なお、所望の遷移金属系化合物が得られていることはXRDにより確認した。
その結果、層状構造が確認され、2θが64.7度の半値幅が0.15以下となり、充分にその構造が発達している事が確認された。
【0083】
<実施例2>
実施例1と同様にして得た、焼成前駆体を、実施例1と同様の移動床式の焼成炉で焼成した。焼成条件として、配管の温度域を3つに分け、上から680℃、1115℃、1115℃に設定し、抜き出し速度を3.9〜4.1g/minとし、灼熱温度域での滞留時間を約45分とした。配管の下部から上部に対して、空気を2.5nL/minで流通させて焼成を行った。
得られたLi1.15Ni0.45Mn0.45Co0.10(B0.0025重量%&W0.010重量%添加)をワンダーブレンダー(大阪ケミカル株式会社製)で解砕し、平均粒子径を1.27μmとした。
【0084】
<実施例3>
実施例1と同様にして得た、焼成前駆体を、実施例1と同様の移動床式の焼成炉で焼成した。焼成条件として、配管の温度域を3つに分け、上から685℃、1150℃、1150℃に設定し、抜き出し速度を5.5g/minとし、灼熱温度域での滞留時間を約30分とした。配管の下部から上部に対して、空気を2.0nL/minで流通させて焼成を行った。
【0085】
得られたLi1.15Ni0.45Mn0.45Co0.10(B0.0025重量%&W0.010重量%添加)をワンダーブレンダー(大阪ケミカル株式会社製)で解砕し、平均粒子径を3.66μmとした。
なお、所望の遷移金属系化合物が得られていることはXRDにより確認した。
その結果、層状構造の構造が確認され、2θが64.7度の半値幅が0.13以下となり充分にその構造が発達している事が確認された。
【0086】
<実施例4>
LiCO、NiCO、Mn、CoOOH、HBO及びWOをLi:Ni:Mn:Co:B:W=1.15:0.45:0.45:0.10:0.0025:0.015のモル比になるように混合し、これに水を加えて固形分濃度30重量%のスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機(アシザワファインテック株式会社;LMZ10)を用いて、スラリー中の固形分の平均粒径が0.
5μm以下になるまで粉砕した。このスラリー約16kgを攪拌造粒機(日本コークス工業株式会社;FM20)に仕込み、ジャケット部分を3kgGの蒸気を用いて加熱しながら、35mmHgまで減圧し水分を除去した。その際、攪拌翼を325rpmで回転し、同時に造粒を行った。45分経過後、平均粒子径約2.0mmのほぼ球状の造粒粒子を得た。この造粒粒子を、目開き1.00mmと2.00mmの篩(東京スクリーン製)を用いて篩い、直径1.0〜2.0mmの造粒粒子を得た。
【0087】
この焼成前駆体を実施例1と同様の移動床式の焼成炉で焼成した。焼成条件として、配
管の温度域を3つに分け、上から685℃、1150℃、1150℃に設定し、抜き出し速度を2.8g/minとし、灼熱温度域での滞留時間を約60分とした。配管の下部から上部に対して、空気を2.0nL/minで流通させて焼成を行った。 得られたLi1.15Ni0.45Mn0.45Co0.10(B0.0025重量%&W0.015重量%添加)をワンダーブレンダー(大阪ケミカル株式会社製)で解砕し、平均粒子径を1.00μmとした。
なお、所望の遷移金属系化合物が得られていることはXRDにより確認した。
その結果、層状構造の構造が確認され、2θが64.7度の半値幅が0.143以下となり充分にその構造が発達している事が確認された。
【0088】
<実施例5>
LiCO、NiCO、Mn、CoOOH、HBO及びWOをLi:Ni:Mn:Co:B:W=1.15:0.45:0.45:0.10:0.0025:0.015のモル比になるように混合し、これに水を加えて固形分濃度30重量%のスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機(アシザワファインテック株式会社;LMZ10)を用いて、スラリー中の固形分の平均粒径が0.5μm以下になるまで粉砕した。次に、このスラリーを、スラリードライヤー(大川原製作所(株)製:SFD−05型)を用いて乾燥した。乾燥ガスとして空気を用い、導入温度200℃、排気温度120℃とした。スラリー供給量は27.8kg/hとした。得ら
れた乾燥粉2000gと精製水740gをバッチニーダー(株式会社ダルトン製;KDH
J−10型)で混錬し、押し出し造粒機(株式会社ダルトン;ファインディスクペレッタ
ーPV−5/11−200型)により造粒した。得られた円柱状の造粒粒子をマルメライ
ザー(株式会社ダルトン製;QJ−230T)により整粒することで、平均粒子径約2m
mのほぼ球状の造粒粒子を得た。この造粒粒子を、目開き1.00mmと2.00mmの篩(東京スクリーン製)を用いて篩い、直径1.0〜2.0mmの造粒粒子を得た。
【0089】
この焼成前駆体を500℃3時間で仮焼を行い、脱炭酸した。その後、実施例1と同様の移動床式の焼成炉で焼成した。焼成条件として、配管の温度域を3つに分け、上から700℃、1100℃、1100℃に設定し、抜き出し速度を2.0g/minとし、灼熱
温度域での滞留時間を約60分とした。配管の下部から上部に対して、空気を1.5nL/minで流通させて焼成を行った。
なお、所望の遷移金属系化合物が得られていることはXRDにより確認した。その結果、層状構造の構造が確認され、2θが64.7度の半値幅が0.163以下となり充分にその構造が発達している事が確認された。
【0090】
<実施例6>
配管の温度域を上から700℃、1150℃、1150℃に設定した以外は実施例5と同じ方法でLi1.15Ni0.45Mn0.45Co0.10(B0.0025重量%&W0.015重量%添加)を作製した。所望の遷移金属系化合物が得られていることはXRDにより確認した。その結果、層状構造の構造が確認され、2θが64.7度の半値幅が0.143以下となり充分にその構造が発達している事が確認された。
【0091】
<比較例1>
実施例4と同様にして得た、焼成前駆体を、外径28mm、内径22mm、長さ1500mmの株式会社ニッカト−製のアルミナ(SSA−S)反応管を用いて焼成した。焼成前駆体は焼成反応管内の、均熱温度域(±2.5℃以内)に充填した。外部から加熱するヒーターには、株式会社光洋サーモ製の3ゾーン縦型チューブ炉SV−2−28−A(発熱体はSiCヒーター)を用いた。配管の下部から上部に対して、空気を1.5nL/minで流通させながら、1150℃で1時間焼成した(昇降温速度5℃/min.)。L
1.15Ni0.45Mn0.45Co0.10(B0.0025重量%&W0.015重量%添加)を得た。
【0092】
<比較例2>
実施例1と同様にして得た、焼成前駆体を、比較例1と同様の焼成装置を用いて焼成した。焼成条件として、下部から上部に対して、空気を2.5nL/minで流通させながら、1110℃で30分焼成した(昇降温速度5℃/min.)。得られたLi1.15Ni0.45Mn0.45Co0.10(B0.0025重量%&W0.010重量%添加)をワンダーブレンダー(大阪ケミカル株式会社製)で解砕し、平均粒子径を1.71μmとした。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の適用分野は特に限定されず、公知の各種の用途に用いることが可能であり、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等に用いて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属系化合物を製造する方法において、原料となる遷移金属化合物を含有する焼成前駆体を造粒した後、縦型移動床式の焼成炉を用いて焼成することを特徴とする遷移金属系化合物の製造方法。
【請求項2】
焼成前駆体を平均粒子径300μm以上に造粒することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
焼成時の均熱温度域での滞留時間が、5分以上、3時間以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
焼成する縦型移動床の温度域を2つ以上に分割し、最初の温度域が720℃以下である事を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
焼成する縦型移動床式焼成炉を、2つ以上用いて連続的、もしくは、バッチ的に焼成する事を特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
焼成前駆体が、原料化合物を攪拌造粒、転動造粒、押し出し造粒、圧縮造粒および噴霧乾燥からなる群より選ばれる少なくとも一種の造粒方法で造粒されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
焼成前駆体の原料が、炭酸塩を含むことを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
得られる遷移金属系化合物の組成が、下記式(I)または(II)で表されることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の製造方法。
Li1+xMO …(I)
(ただし、上記式(I)中、xは0以上、0.5以下、Mは、Li、Mn,Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の元素であり、Mn/Niモル比は0.1以上、12以下、Co/(Mn+Ni+Co)モル比は0以上、0.35以下、M中のLiモル比は0.001以上、0.5以下である。)
Li[LiaMn2−x−a]O4+d・・・(II)
(式(II)中、0≦a≦0.3、 0.4 <x <0.6、−0.5 <δ<0.5を満たし、Mは、Ni、Cr、Fe、CoおよびCuから選ばれる遷移金属のうちの少なくとも1種を表す。)

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−136419(P2012−136419A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−267817(P2011−267817)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】