説明

遷移金属複合水酸化物およびリチウム複合金属酸化物

【課題】本発明の目的は、より高容量で、かつ、より低い内部抵抗を持つ非水電解質二次電池を与えるリチウム複合金属酸化物ならびにその原料として用いられる遷移金属複合水酸化物を提供することである。
【解決手段】一次粒子および一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなり、レーザー回折・散乱法による平均粒子径が1μm以上20μm以下であり、Mn、Ni、FeおよびCoをa:b:c:dのモル比で含む遷移金属複合水酸化物(ここで、aは0.3以上0.7以下であり、bは0.4以上0.7以下であり、cは0を超え0.1以下であり、dは0以上0.2以下であり、a+b+c+d=1である。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属複合水酸化物およびリチウム複合金属酸化物に関する。詳しくは、本発明は、非水電解質二次電池における正極活物質として用いられる粉末状のリチウム複合金属酸化物ならびに該リチウム複合金属酸化物の原料として用いられる粉末状の遷移金属複合水酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属複合水酸化物は、リチウム二次電池などの非水電解質二次電池の正極活物質に、その原料として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途等の小型電源として実用化されており、更に自動車用途や電力貯蔵用途等の大型電源としても、適用が試みられている。
【0003】
従来の遷移金属複合水酸化物は、例えば、特許文献1に開示されているように、Mn、Ni、FeおよびCoを特定割合で含む水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、Mn、Ni、FeおよびCoを共沈させて共沈物を得て、該共沈物を150℃で加熱、乾燥する方法により製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2002/073718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の方法により得られた遷移金属複合水酸化物は、形状が不規則の粒子を持つ。従って、該遷移金属複合水酸化物を原料として用いて得られたリチウム複合金属酸化物も、形状が不規則の粒子を持つ。最終的に、このようなリチウム複合金属酸化物は、非水電解質二次電池において、低容量化、内部抵抗の高抵抗化を惹起する。本発明の目的は、より高容量で、かつ、より低い内部抵抗を持つ非水電解質二次電池を与えるリチウム複合金属酸化物ならびにその原料として用いられる遷移金属複合水酸化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次の手段を提供する。
<1> 一次粒子および一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなり、レーザー回折・散乱法による平均粒子径が1μm以上20μm以下であり、Mn、Ni、FeおよびCoをa:b:c:dのモル比で含む遷移金属複合水酸化物(ここで、aは0.3以上0.7以下であり、bは0.4以上0.7以下であり、cは0を超え0.1以下であり、dは0以上0.2以下であり、a+b+c+d=1である。)。
<2> aがbより大きい<1>の遷移金属複合水酸化物。
<3> dが0である<1>または<2>の遷移金属複合金属水酸化物。
<4> 前記平均粒子径が1μm以上10μm以下である<1>〜<3>のいずれかの複合金属複合水酸化物。
<5> <1>〜<4>のいずれかの遷移金属複合水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成することにより製造され、レーザー回折・散乱法による平均粒子径が1μm以上20μm以下であるリチウム複合金属酸化物。
<6> <5>のリチウム複合金属酸化物を有する電極。
<7> <6>の電極を正極として有する非水電解質二次電池。
<8> さらにセパレータを有する<7>の非水電解質二次電池。
<9> セパレータが、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが互いに積層された積層フィルムからなる<8>の非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来のリチウム二次電池に比し、より高容量で、より低い内部抵抗を持つ非水電解質二次電池を与えることができるため、本発明は、殊に、高い電流レートにおける高出力が要求される用途、すなわち自動車用や電動工具等のパワーツール用の非水電解質二次電池に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<遷移金属複合水酸化物>
本発明の遷移金属複合水酸化物は、一次粒子および一次粒子が凝集した略球状の二次粒子からなり、レーザー回折・散乱法による平均粒子径が1μm以上20μm以下であり、Mn、Ni、FeおよびCoをa:b:c:dのモル比で含む(ここで、aは0.3以上0.7以下であり、bは0.4以上0.7以下であり、cは0を超え0.1以下であり、dは0以上0.2以下であり、a+b+c+d=1である。)。
【0009】
本発明の遷移金属複合水酸化物としては、以下の式(A)で表されるものを挙げることができる。
(MnaNibFecCod)Oe(OH)2-e (A)
(ここで、aは0.3以上0.7以下であり、bは0.4以上0.7以下であり、cは0を超え0.1以下であり、dは0以上0.2以下であり、eは0以上1以下であり、a+b+c+d=1である。)
【0010】
本発明の遷移金属複合水酸化物は、形状が略球状の二次粒子を持つ。二次粒子の粒子形状が略球状でない場合(例えば不規則な形状である場合)では、得られるリチウム複合金属酸化物の二次粒子の形状も、不規則となる。このようなリチウム複合金属酸化物を非水電解質二次電池の正極活物質として用いると、電極における正極活物質の充填密度が低くなり、これに伴い非水電解質二次電池の電池容量も低くなる。電極における正極活物質の充填密度が低くなると、正極活物質と導電材との接触点が少なくなり、電池の内部抵抗が大きくなる。遷移金属複合水酸化物と同様に、得られるリチウム複合金属酸化物も、好ましくは形状が略球状の二次粒子を持つ。二次粒子の形状は走査型電子顕微鏡(以下、SEMということがある。)により確認することができる。本発明において、略球状の二次粒子とは、遷移金属複合水酸化物およびリチウム複合金属酸化物をSEMで観察することにより確認された二次粒子において、二次粒子の長径をDL、二次粒子の短径をDSとした場合、DLをDSで除した値(DL/DS)が1以上1.5以下である二次粒子を意味する。
【0011】
本発明の遷移金属複合水酸化物は、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなり、遷移金属複合水酸化物のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は、1μm以上20μm以下である。本発明において、レーザー回折・散乱法による平均粒子径は、レーザー回折散乱粒度分布測定により得られる体積基準の累積粒度分布曲線において、微小粒子側から見て50%累積時の粒子の径(D50)を意味する。平均粒子径の測定において、遷移金属複合水酸化物を適切な分散操作により水に分散させ、該遷移金属複合水酸化物の二次粒子が分散し、一部は一次粒子まで分散した状態で測定を行う。本発明の遷移金属複合水酸化物において、レーザー回折・散乱法による平均粒子径が1μmを下回る場合は、得られるリチウム複合金属酸化物を構成する粒子が小さくなる傾向にある。このようなリチウム複合金属酸化物を非水電解質二次電池の正極活物質として用いると、電極における正極活物質の充填密度が低くなり、これに伴い非水電解質二次電池の電池容量も低くなる。レーザー回折・散乱法による平均粒子径が20μmを上回る場合は、リチウム複合金属酸化物を構成する粒子が大きくなる傾向にあり、非水電解質二次電池の内部抵抗も大きくなる傾向にある。非水電解質二次電池の容量をより高め、電池内部抵抗をより低くする観点で、遷移金属複合水酸化物のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。遷移金属複合水酸化物と同様に、リチウム複合金属酸化物のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは1μm以上10μm以下である。
【0012】
本発明において、遷移金属複合水酸化物は、Mn、NiおよびFeを含有する。遷移金属複合水酸化物は、Coをさらに含有していてもよい。Mn、Ni、FeおよびCoのモル比は、a:b:c:dで表される(ここで、aは0.3以上0.7以下であり、bは0.4以上0.7以下であり、cは0を超え0.1以下であり、dは0以上0.2以下であり、a+b+c+d=1である。)。
【0013】
本発明において、aは、Mn、Ni、FeおよびCoの総モル量に対するMnのモル量の比を表す。aが0.3を下回る場合は、得られる非水電解質二次電池のサイクル特性が低下するため好ましくなく、aが0.7を上回る場合は、得られる非水電解質二次電池の容量が小さくなるため好ましくない。得られる非水電解質二次電池の容量とサイクル特性とをより高める観点で、aは好ましくは0.4以上0.65以下であり、より好ましくは0.46以上0.6以下である。
【0014】
本発明において、bは、Mn、Ni、FeおよびCoの総モル量に対するNiのモル量の比を表す。bが0.4を下回る場合は、得られる非水電解質二次電池の容量が小さくなるため好ましくなく、bが0.7を上回る場合は、得られる非水電解質二次電池のサイクル特性が低下するため好ましくない。得られる非水電解質二次電池の容量とサイクル特性とをより高める観点で、bは好ましくは0.45以上0.7以下であり、より好ましくは0.46以上0.6以下である。
【0015】
本発明において、cは、Mn、Ni、FeおよびCoの総モル量に対するFeのモル量の比を表す。cが0の場合は、得られる非水電解質二次電池のサイクル特性が低下するため好ましくなく、cが0.1を上回る場合は、得られる非水電解質二次電池の容量が小さくなるため好ましくない。得られる非水電解質二次電池の容量とサイクル特性とをより高める観点で、cは好ましくは0.01以上0.09以下であり、より好ましくは0.02以上0.07以下である。
【0016】
本発明において、dは、Mn、Ni、FeおよびCoの総モル量に対するCoのモル量の比を表す。dが0.2を上回る場合は、高価な金属であるCoを多量に使用するためコスト面で好ましくない。dは好ましくは0以上0.1以下であり、より好ましくは0である。本発明においては、dが0である場合、すなわち高価なCoを使用しない場合においても、容量と内部抵抗に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
【0017】
前記式(A)において、全遷移金属の形式酸化数の平均値はeに依存して変化する場合がある。例えば、eの値が0の場合は、全遷移金属の形式酸化数の平均値は2であり、eの値が1の場合は、全遷移金属の形式酸化数の平均値は3である。遷移金属複合水酸化物の二次粒子を略球状になり易くする観点で、eは好ましくは0以上0.5以下であり、より好ましくは0である。
【0018】
得られる非水電解質二次電池のサイクル特性がより向上する観点で、aがbより大きい、すなわちNiのモル量に比べ、Mnのモル量が大きいことが好ましい。
【0019】
本発明の遷移金属複合水酸化物におけるNi、Mn、FeおよびCoの一部を、他元素で置換してもよい。他元素としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、P、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Zr、Hf、Nb、Ta、V、Cr、Mo、W、Tc、Ru、Rh、Ir、Pd、Cu、Ag、Zn、ランタノイドなどの元素が挙げられる。
【0020】
<遷移金属複合水酸化物の製造方法>
遷移金属複合水酸化物を製造する具体的な方法として、Ni、Mn、Feおよび必要に応じてCoを含有する遷移金属水溶液と、錯化剤およびアルカリ金属水溶液とを、反応槽内に同時に連続供給して、遷移金属イオンを共沈させてスラリーを得て、該スラリーを、固液分離および乾燥して、遷移金属複合水酸化物を得る方法が挙げられる。
【0021】
Mn、NiおよびFeを含有する遷移金属複合水酸化物を製造する場合には、上記の遷移金属水溶液は、例えばMn、Ni、Feを含有するそれぞれの水溶性塩を、Mn:Ni:Feのモル比が上記のa:b:cとなるように秤量して、これらを水に溶解させて製造することができる。水溶性塩における遷移金属の形式酸化数は好ましくは2価である。水に溶解し難い原料を用いる場合、例えば、Ni、Mn、Feを含有するそれぞれの原料が、酸化物、水酸化物、金属材料である場合には、これらの原料を溶解することが可能な酸にこれらの原料を溶解させて、遷移金属水溶液を製造することができる。Mn、Ni、FeおよびCoを含有する遷移金属複合水酸化物を製造する場合には、遷移金属水溶液は、例えばMn、Ni、Fe、Coを含有するそれぞれの水溶性塩を、Mn:Ni:Fe:Coのモル比が上記のa:b:c:dとなるように秤量して、これらを水に溶解させて製造することができる。水溶性塩における遷移金属の形式酸化数は好ましくは2価である。水に溶解し難い原料を用いる場合、例えば、Ni、Mn、Fe、Coを含有するそれぞれの原料が、酸化物、水酸化物、金属材料である場合には、これらの原料を溶解することが可能な酸にこれらの原料を溶解させて、遷移金属水溶液を製造することができる。
【0022】
前記水溶性塩の例としては、Mn、Ni、Fe、Coそれぞれの塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などが挙げられ、これら水溶性塩を併用することもできる。これらの水溶性塩の中でも、硫酸塩が好ましい。
【0023】
前記錯化剤の例としては、アンモニア、水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどが挙げられる。
【0024】
アルカリ金属水溶液は、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の水溶性塩を水に溶解して製造することができる。該水溶性塩の具体例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、これらアルカリ金属水溶性塩を併用することもできる。これらの水溶性塩の中でも、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましい。
【0025】
遷移金属複合水酸化物における二次粒子を略球状になるように制御するために、前記の各水溶液の連続供給時には、反応槽内の液のpHを調節する必要がある。反応槽内の液のpHが11以上13以下となるように調節しながら各水溶液を供給することが好ましい。反応槽における水溶液温度を30℃〜80℃に保持することが好ましく、これにより、より均一な組成の共沈物を得ることができる。
【0026】
得られた遷移金属複合水酸化物の二次粒子の粒子形状は略球状である。各水溶液の供給速度、各水溶液の濃度、pHなどの条件を調節することにより、該二次粒子の平均粒子径を制御することが可能である。例えば、各水溶液について、供給速度を速くしたり濃度を高くしたりすると、二次粒子の平均粒子径は小さくなる傾向があり、逆の場合は、二次粒子の平均粒子径が大きくなる傾向がある。反応槽内の液のpHが11より小さいと、二次粒子の平均粒子径は大きくなる傾向があり、液のpHが13より大きいと、二次粒子の平均粒子径は小さくなる傾向がある。
【0027】
前記の共沈により得られたスラリーの固液分離は、如何なる方法によって行ってもよい。操作性の観点では、ろ過などの固液分離による方法が好ましい。乾燥は、熱処理によって行ってもよいし、送風乾燥、真空乾燥等によって行ってもよい。熱処理温度は、通常50〜300℃程度であり、好ましくは100℃〜200℃程度である。噴霧乾燥によって、固液分離および乾燥を連続的に行うこともできる。
【0028】
<リチウム複合金属酸化物およびその製造方法>
次に、リチウム複合金属酸化物およびその製造方法を説明する。本発明において、リチウム複合金属酸化物は、上記遷移金属複合水酸化物とリチウム化合物と必要に応じて不活性溶融剤とを含む混合物を焼成することにより製造される。
前記リチウム化合物としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウムおよび炭酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。これらのリチウム化合物は無水物であっても水和物であってもよい。これらのリチウム化合物のうち、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムあるいは両方が好ましく用いられる。
不活性溶融剤は、好ましくは、焼成の際に遷移金属複合水酸化物およびリチウム化合物と反応し難いものである。不活性溶融剤の例としては、好ましくはNaCl、KCl、NH4Clなどの塩化物、K2CO3、Na2CO3などの炭酸塩、NaF、KF、NH4Fなどのフッ化物、ホウ酸などが挙げられ、より好ましくは前記塩化物、炭酸塩である。不活性溶融剤が混合されることで、遷移金属複合水酸化物およびリチウム化合物の反応性が制御され、得られるリチウム複合金属酸化物の一次粒子の粒子径、二次粒子の粒子径およびBET比表面積を調整することが可能な場合がある。不活性溶融剤を2種以上併用してもよい。不活性溶融剤は、焼成後のリチウム複合金属酸化物に残留していてもよいし、焼成後のリチウム複合金属酸化物の洗浄、あるいは不活性溶融剤自体の蒸発等により除去されていてもよい。
【0029】
前記混合は、乾式混合、湿式混合のいずれでもよく、簡便性の観点で、好ましくは乾式混合である。混合装置としては、攪拌混合、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等が挙げられる。これらの中でも、遷移金属複合水酸化物の二次粒子の粒子形状を略球状に維持しながら混合できる観点で、好ましくは攪拌混合、V型混合機、W型混合機、ドラムミキサーなどである。
【0030】
本発明において、リチウム複合金属酸化物は、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる。前記焼成における保持温度は、リチウム複合金属酸化物の一次粒子径、二次粒子径およびBET比表面積を調整する観点で重要な因子である。通常、保持温度が高くなればなるほど、リチウム複合金属酸化物の一次粒子径および二次粒子径は大きくなる傾向にあり、リチウム複合金属酸化物のBET比表面積は小さくなる傾向にある。リチウム複合金属酸化物の二次粒子は、原料である遷移金属複合水酸化物の粒子形状を保ちやすいことから、略球状になりやすい。このようなリチウム複合金属酸化物を、非水電解質二次電池用の正極活物質として用いると、電極における正極活物質の充填密度が向上する。結果的に非水電解質二次電池の容量が向上するため、リチウム複合金属酸化物の二次粒子は好ましくは略球状である。高出力な非水電解質二次電池が得られる観点で、リチウム複合金属酸化物の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.05μm以上2μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上1μm以下である。得られる非水電解質二次電池の内部抵抗が抑制される観点で、リチウム複合金属酸化物のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは1μm以上10μm以下である。リチウム複合金属酸化物の一次粒子の平均粒子径は、SEM観察により得られた画像(SEM写真)から任意に50個の一次粒子を抽出し、それぞれの粒子径を測定し、それらの平均値を算出することにより決定することができる。リチウム複合金属酸化物のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は、レーザー回折散乱粒度分布測定により得られる体積基準の累積粒度分布曲線において、微小粒子側から見て50%累積時の粒子の径(D50)である。
【0031】
前記焼成における保持温度は、リチウム複合金属酸化物のレーザー回折・散乱法による平均粒子径を所望の範囲にする観点で、好ましくは650℃以上1100℃以下である。前記保持温度で保持する時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜10時間である。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間〜400℃/時間であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間〜400℃/時間である。焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスが挙げられ、好ましくは大気雰囲気である。
【0032】
焼成後に、得られるリチウム複合金属酸化物を、所望の粒度分布を得るために、ボールミルなどを用いて粉砕してもよいし、分級してもよい。粉砕や分級によって、リチウム複合金属酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合もある。粉砕と分級を2回以上繰り返してもよいし、粉砕、分級、焼成を2回以上繰り返してもよい。リチウム複合金属酸化物は必要に応じて洗浄することもできる。
【0033】
上記のリチウム複合金属酸化物は、電極における充填密度に優れることから、高容量で、かつ内部抵抗の増大が抑制された非水電解質二次電池の正極活物質として極めて有用である。
【0034】
リチウム複合金属酸化物を構成する粒子の表面に、該リチウム複合金属酸化物とは異なる化合物を付着させてもよい。該化合物としては、B、C、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mgおよび遷移金属元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、好ましくはB、C、Al、Mg、Ga、InおよびSnからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、より好ましくはAlの化合物を挙げることができる。より具体的な化合物としては、前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩、好ましくは前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物が挙げられる。これらの化合物は混合されてもよい。これら化合物の中で、特に好ましい化合物はアルミナである。また、付着後に加熱を行ってもよい。
【0035】
<リチウム複合金属酸化物を有する電極;正極>
リチウム複合金属酸化物は、非水電解質二次電池において正極活物質として作用し、リチウム複合金属酸化物を有する電極は、非水電解質二次電池において正極として作用する。次に、上記リチウム複合金属酸化物(以下、正極活物質ともいう。)を用いて、リチウム複合金属酸化物を有する電極(以下、正極ともいう。)を製造する方法を説明する。
【0036】
正極は、正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤が正極集電体に担持されて製造される。前記導電材としては炭素材料を用いることができ、炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック、アセチレンブラック、繊維状炭素材料などが挙げられる。カーボンブラックやアセチレンブラックは、微粒で表面積が大きい。これらは正極合剤中に少量添加すると、正極内部の導電性が高まり、二次電池の充放電効率及びレート特性が向上する。しかしながらこれらは正極合剤中に多く添加されすぎると、バインダーによる正極合剤と正極集電体との結着性が低下し、正極内部の抵抗を増加する。正極合剤中の導電材の割合は、通常、正極活物質100重量部に対して5重量部以上20重量部以下である。導電材が、黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料である場合には、この割合を下げることも可能である。
【0037】
前記バインダーとしては、熱可塑性樹脂が挙げられ、熱可塑性樹脂の例として具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらの二種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用いてもよく、正極合剤に対する該フッ素樹脂の割合が1重量%〜10重量%、該ポリオレフィン樹脂の割合が0.1〜2重量%となるように、正極合剤がこれらの樹脂を含有することによって、正極集電体との結着性に優れた正極合剤を得ることができる。
【0038】
前記正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどが挙げられ、薄膜に加工しやすく、安価であるという観点で好ましくはAlである。正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法;または有機溶媒などをさらに用いて正極合剤ペーストを得て、該ペーストを正極集電体に塗布し、乾燥して、得られたシートをプレスして、正極合剤を集電体に固着する方法が挙げられる。ペーストは、正極活物質、導電材、バインダーおよび有機溶媒を含有する。有機溶媒の例としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)等のアミド系溶媒等が挙げられる。
【0039】
正極合剤ペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等が挙げられる。以上により、正極を製造することができる。
【0040】
<非水電解質二次電池>
上記の正極を有する非水電解質二次電池を製造する方法として、リチウム二次電池の製造例を次に説明する。リチウム二次電池は、セパレータ、負極、セパレータおよび正極を、積層するまたは積層かつ巻回することにより得られる電極群を、電池缶などの電池ケース内に収納し、該ケース内に電解液を注入することにより製造することができる。
【0041】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状が挙げられる。電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状が挙げられる。
【0042】
<非水電解質二次電池の負極>
前記負極は、正極よりも低い電位で、リチウムイオンでドープされることができかつ脱ドープされることができればよい。負極としては、負極材料を含む負極合剤が負極集電体に担持された電極、または負極材料単独からなる電極が挙げられる。負極材料としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極よりも低い電位で、リチウムイオンでドープされることができかつ脱ドープされることができる材料が挙げられる。これらの負極材料を混合して用いてもよい。
【0043】
前記の負極材料につき、以下に例示する。前記炭素材料の例として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、高分子焼成体などが挙げられる。前記酸化物の例として、具体的には、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物、TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物、V25、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物、Fe34、Fe23、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物、SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物、WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物、Li4Ti512、LiVO2(Li1.10.92を含む。)などのリチウムとチタンおよび/またはバナジウムとを含有する複合金属酸化物などが挙げられる。前記硫化物の例として、具体的には、Ti23、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物、V34、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物、Fe34、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物、Mo23、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物、SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物、WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物、Sb23など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物、Se53、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物などが挙げられる。前記窒化物の例として、具体的には、Li3N、Li3-xxN(ここで、AはNiおよび/またはCoであり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物が挙げられる。これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、2種以上組合せて用いてもよい。これらは結晶質または非晶質のいずれでもよい。これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、主に、負極集電体に担持されて、電極として用いられる。
【0044】
前記金属の例として、具体的には、リチウム金属、シリコン金属、スズ金属が挙げられる。前記合金の例としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Siなどのリチウム合金、Si−Znなどのシリコン合金、Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金、Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金が挙げられる。これらの金属、合金は、主に、単独で、電極として用いられる(例えば箔状で用いられる)。
【0045】
得られる二次電池の電位平坦性が高い、平均放電電位が低い、サイクル特性が良いなどの観点からは、上記負極材料は、好ましくは、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を主成分とする炭素材料である。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などが挙げられる。
【0046】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂として、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0047】
前記の負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどが挙げられ、リチウムと合金を作り難く、薄膜に加工しやすいという観点で、好ましくはCuである。負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型による方法;または溶媒などをさらに用いて負極合剤ペーストを得て、該ペーストを負極集電体上に塗布し、乾燥して、得られたシートをプレスして、負極合剤を集電体に固着する方法等が挙げられる。
【0048】
<非水電解質二次電池のセパレータ>
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材料からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する部材が挙げられる。セパレータは、2種以上の前記材料からなってもよいし、前記部材が積層された積層セパレータであってもよい。セパレータとしては、例えば特開2000−30686号公報、特開平10−324758号公報等に記載のセパレータが挙げられる。セパレータの厚みは、電池の体積エネルギー密度が上がりかつ内部抵抗が小さくなるという観点で、通常5〜200μm程度、好ましくは5〜40μm程度である。セパレータは、機械的強度が保たれる限り薄いことが好ましい。
【0049】
セパレータは、好ましくは、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを有する。非水電解質二次電池において、セパレータは、正極と負極の間に配置される。セパレータは、正極−負極間の短絡等が原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止(シャットダウン)する機能を有することが好ましい。ここで、シャットダウンは、通常の使用温度を越えた場合に、セパレータにおける多孔質フィルムの微細孔を閉塞することによりなされる。そしてシャットダウンした後、ある程度の高温まで電池内の温度が上昇しても、その温度により破膜することなく、シャットダウンした状態を維持することが好ましい。かかるセパレータとしては、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが互いに積層された積層フィルムが挙げられる。該フィルムをセパレータとして用いることにより、二次電池の耐熱性がより高められる。耐熱多孔層は、多孔質フィルムの両面に積層されていてもよい。
【0050】
<非水電解質二次電池のセパレータ;積層フィルム>
以下、前記の耐熱多孔層と多孔質フィルムとが互いに積層された積層フィルムを説明する。
【0051】
前記積層フィルムにおいて、耐熱多孔層は、多孔質フィルムよりも耐熱性の高い層であり、該耐熱多孔層は、無機粉末から形成されていてもよいし、耐熱樹脂を含有していてもよい。耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有することにより、塗工などの容易な手法で、耐熱多孔層を形成することができる。耐熱樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドを挙げることができ、耐熱性をより高める観点で、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドが好ましく、より好ましくは、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドである。さらにより好ましくは、芳香族ポリアミド(パラ配向芳香族ポリアミド、メタ配向芳香族ポリアミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド等の含窒素芳香族重合体であり、とりわけ好ましくは芳香族ポリアミド、製造面で、特に好ましいのは、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」ということがある。)である。また、耐熱樹脂として、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状オレフィン系重合体を挙げることもできる。これらの耐熱樹脂を用いることにより、積層フィルムの耐熱性、すなわち、積層フィルムの熱破膜温度をより高めることができる。これらの耐熱樹脂のうち、含窒素芳香族重合体を用いる場合には、その分子内の極性により、電解液との相性が良好な場合があり、この場合、耐熱多孔層における電解液の保液性が向上する。これにより、非水電解質二次電池の製造時に、電解液の注入速度が速くなり、また、非水電解質二次電池の充放電容量もより高まる。
【0052】
積層フィルムの熱破膜温度は、耐熱樹脂の種類に依存し、使用場面、使用目的に応じ、選択使用される。より具体的には、耐熱樹脂として、上記含窒素芳香族重合体を用いる場合は400℃程度に、また、ポリ−4−メチルペンテン−1を用いる場合は250℃程度に、環状オレフィン系重合体を用いる場合は300℃程度に、夫々、熱破膜温度をコントロールすることができる。耐熱多孔層が、無機粉末からなる場合には、熱破膜温度を、例えば、500℃以上にコントロールすることも可能である。
【0053】
上記パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの縮重合により得られ、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になる。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0054】
前記の芳香族ポリイミドは、好ましくは芳香族の二酸無水物とジアミンとの縮重合により製造される全芳香族ポリイミドである。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ナフタレンジアミンなどが挙げられる。また、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0055】
前記の芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートの縮重合により得られるもの、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートの縮重合により得られるものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸などが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0056】
イオン透過性をより高める観点で、耐熱多孔層の厚みは、薄いことが好ましく、具体的には、好ましくは1μm以上10μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上5μm以下であり、特に好ましくは1μm以上4μm以下である。耐熱多孔層は微細孔を有し、その孔のサイズ(直径)は通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層は後述のフィラーを含有することもできる。
【0057】
前記積層フィルムにおいて、多孔質フィルムは、微細孔を有する。多孔質フィルムは、好ましくはシャットダウン機能を有し、この場合、熱可塑性樹脂を含有する。多孔質フィルムにおける微細孔のサイズ(直径)は通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。多孔質フィルムの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。非水電解質二次電池が通常の使用温度を越えた場合には、多孔質フィルムは、それを構成する熱可塑性樹脂の軟化により、微細孔を閉塞することができる。
【0058】
前記熱可塑性樹脂としては、非水電解質二次電池における電解液に溶解しないものが選択される。このような熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂が挙げられ、2種以上の熱可塑性樹脂を混合して用いてもよい。より低温で軟化してシャットダウンする観点で、多孔質フィルムはポリエチレンを含有することが好ましい。ポリエチレンの例として、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレンが挙げられ、分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンも挙げられる。多孔質フィルムの突刺し強度をより高める観点では、多孔質フィルムは、超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。多孔質フィルムを容易に製造するために、熱可塑性樹脂は、低分子量(重量平均分子量1万以下)のポリオレフィンからなるワックスを含有することが好ましい場合もある。
【0059】
積層フィルムにおける多孔質フィルムの厚みは、通常3〜30μmであり、好ましくは3〜25μmであり、より好ましくは3〜19μmである。積層フィルムの厚みは、通常40μm以下であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。耐熱多孔層の厚みをA(μm)、多孔質フィルムの厚みをB(μm)としたときには、A/Bの値が、0.1以上1以下であることが好ましい。
【0060】
耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層は、1種以上のフィラーを含有してもよい。フィラーは、その材質として、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物から選ばれる1種以上であってもよい。フィラーを構成する粒子は、その平均粒径が、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0061】
前記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート;等の有機物からなる粉末が挙げられる。これらの有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0062】
前記無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられる。これらの中でも、好ましくは導電性の低い無機物からなる粉末である。好ましい無機粉末の具体例としては、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、または炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。ここで、より好ましくはアルミナ粉末を構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であることであり、さらにより好ましくはフィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であり、その一部または全部のアルミナ粒子が略球状であることである。耐熱多孔層が、無機粉末から形成される場合には、上記例示の無機粉末を用いればよく、必要に応じてバインダーと混ぜて用いればよい。
【0063】
耐熱多孔層が耐熱樹脂を含有する場合、フィラーの含有量は、フィラーの材質の比重に依存する。例えば、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合、フィラーの重量の比は、耐熱多孔層の総重量100に対して、通常5以上95以下であり、好ましくは20以上95以下であり、より好ましくは30以上90以下である。これらの範囲は、フィラーの材質の比重に依存して、適宜設定できる。
【0064】
フィラーの形状としては、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等が挙げられ、均一な孔が形成されやすい観点から、好ましくは略球状である。略球状粒子としては、粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)が1以上1.5以下である粒子が挙げられる。粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0065】
二次電池におけるイオン透過性の観点から、セパレータは、ガーレー法による透気度が、好ましくは50〜300秒/100ccであり、より好ましくは50〜200秒/100ccである。セパレータの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0066】
<非水電解質二次電池の電解液または固体電解質>
電解液は、通常、電解質および有機溶媒を含有する。電解質の例としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C49SO3)、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、2種以上の電解質を混合して使用してもよい。通常、これらの中でもLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32およびLiC(SO2CF33からなる群から選ばれた1種以上のフッ素含有リチウム塩を用いる。
【0067】
前記電解液において、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(以下、ECということがある。)、ジメチルカーボネート(以下、DMCということがある。)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(以下、EMCということがある。)、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができる。通常はこれらのうちの二種以上の有機溶媒が混合された混合溶媒を用いる。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという観点で、EC、DMCおよびEMCを含む混合溶媒が好ましい。特に優れた安全性向上効果が得られる点で、LiPF6等のフッ素含有リチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル等のフッ素置換基を有するエーテル類とDMCとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【0068】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子などの有機系高分子電解質を用いることができる。高分子に電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。Li2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P25、Li2S−B23、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4などの硫化物を含む無機系固体電解質を用いてもよい。これら固体電解質を用いて、安全性をより高めることができることがある。本発明の非水電解質二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【実施例】
【0069】
実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。遷移金属複合水酸化物およびリチウム複合金属酸化物(正極活物質)の評価は、次のようにして行った。
【0070】
(1)正極の作製
導電材としてアセチレンブラックと黒鉛とを9:1で混合した材料を用いた。バインダーとしてPVdFを用い、バインダー溶液としてPVdFのNMP溶液を用いた(PVdFは株式会社クレハ製であり、NMPは東京化成工業株式会社製である)。正極活物質:導電剤:バインダー=87:10:3(重量比)の組成となるように、正極活物質と導電材とを混合し、これにバインダー溶液を加えて、混練することにより、正極合剤ペーストを得た。集電体である厚さ40μmのAl箔に該ペーストを塗布して、60℃で2時間乾燥して、正極シートを得た。次いで、ロールプレスで該正極シートを0.5MPaの圧力で圧延して、これを打ち抜き機で14.5mmφの大きさに打ち抜いて、真空下150℃の条件で8時間乾燥して、正極を得た。
【0071】
(2)非水電解質二次電池(コインセル)の作製
セパレータとして、後述のポリエチレン製多孔質フィルムに耐熱多孔層が積層された積層フィルム(厚みは16μmである。)を用いた。電解液の溶媒として、EC:DMC:EMC=30:35:35(体積比)の混合溶媒を用いた。電解質として、LiPF6を用いた。混合溶媒に電解質を1モル/リットルとなるように溶解して、電解液1を調整した。負極として金属リチウムを用いた。コインセル(宝泉株式会社製)の下蓋に、アルミ箔面を下に向けて正極を置き、その上にセパレータを置き、電解液1を300μl注入した。次に、負極をセパレータの上側に置き、ガスケットを介してコインセルの上蓋を置き、かしめ機でかしめて非水電解質二次電池(コイン型電池R2032)を作製した。電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0072】
(3)充放電試験
上記のコイン型電池を用いて、以下に示す条件で充放電試験およびインピーダンス測定を実施した。充放電試験により電池の電池容量を測定した。インピーダンス測定により電池の内部抵抗を測定した。
【0073】
<充放電試験>
試験温度25℃
充電最大電圧4.3V、充電時間8時間、充電電流0.2mA/cm2(0.2C)
放電最小電圧3.0V、定電流放電、放電電流0.2mA/cm2(0.2C)
【0074】
<インピーダンス測定>
試験温度25℃
測定時の充電深度(SOC)100%
交流周波数0.01Hz〜100kHz
【0075】
(4)遷移金属複合水酸化物およびリチウム複合金属酸化物の評価
1.組成分析
測定する粉末を塩酸に溶解した後、セイコーインスツル株式会社製SPS3000(ICP発光分光分析装置)を用いて粉末の組成を測定した。
【0076】
2.SEM観察
観察する粉末を、サンプルステージに貼った導電性シート上に載せ、SEM(日本電子株式会社製JSM−5510)を用いて、加速電圧が20kVの電子線を照射してSEM観察を行い、粉末の二次粒子の形状を確認した。一次粒子の平均粒子径は、SEM観察により得られた画像(SEM写真)から任意に50個の粒子を抽出し、それぞれの粒子径を測定し、それらの平均値を算出することにより求める。
【0077】
3.粒度分布の測定
測定する粉末0.1gを、0.2wt%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに添加し、該粉末を分散させた分散液を試料とした。該試料についてマルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。レーザー回折・散乱法による平均粒子径は、該曲線において、微小粒子側から見て50%累積時の粒子の径(D50)である。
【0078】
4.充填密度および電気伝導度の測定
株式会社三菱化学アナリテック製MCP−PD51(粉体抵抗測定ユニット)を用いて、測定粉末3gを直径20mmφのホルダーに充填し、一定圧力における粉末の充填密度と電気伝導度を測定した。
【0079】
比較例1
1.リチウム複合金属酸化物の製造
マンガンの水溶性塩として硝酸マンガン、ニッケルの水溶性塩として硝酸ニッケル、鉄の水溶性塩として硫酸鉄(II)を用いた。Mn:Ni:Feのモル比が0.45:0.45:0.1となるように、これらをそれぞれ秤量し、純水に溶解してNi、MnおよびFeを含有する遷移金属水溶液を得た。この遷移金属水溶液に、アルカリ金属水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を加えて、遷移金属イオンを共沈させて、スラリーを得た。共沈時には、反応槽内の液のpHと温度は調節せず、反応槽内は攪拌翼により攪拌した。得られたスラリーを固液分離して、得られた固形分を蒸留水により洗浄して、150℃で乾燥して、遷移金属複合水酸化物(Q1)を得た。
【0080】
粉末Q1の組成分析を行ったところ、Mn:Ni:Feのモル比は0.45:0.45:0.1であった。粉末Q1のSEM観察により、二次粒子の形状は不規則であることを確認した。粉末Q1のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は44μmであった。
【0081】
2.リチウム複合金属酸化物の製造と評価
粉末Q1と水酸化リチウム一水和物と、不活性溶融剤として塩化カリウムとを乳鉢により混合して混合物を得た。該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中850℃で6時間保持することにより該混合物の焼成を行い、室温まで冷却し、粉末R1を得た。
【0082】
粉末R1の組成分析を行ったところ、Li:Mn:Ni:Feのモル比は、1.05:0.45:0.45:0.1であった。粉末R1のSEM観察により、二次粒子の形状は不規則であることを確認した。粉末R1のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は0.2μmであった。12kN荷重時において、粉末R1の充填密度が2.7g/cc、電気伝導度が4×10−6S/cmであった。
【0083】
3.非水電解質二次電池の充放電試験とインピーダンス測定
粉末R1を用いて正極を作製した。この正極を用いてコイン型電池を作製し、充放電試験を行ったところ、電池容量は1.5mAh(正極活物質量は0.010gであった。)であった。インピーダンス測定の結果、電池の内部抵抗は10Ωであった。
【0084】
実施例1
1.遷移金属複合水酸化物の製造と評価
マンガンの水溶性塩として硫酸マンガン、ニッケルの水溶性塩として硫酸ニッケル、鉄の水溶性塩として硫酸鉄(II)を用いた。Mn:Ni:Feのモル比が0.48:0.47:0.05となるようにこれらをそれぞれ秤量し、純水に溶解してNi、MnおよびFeを含有する遷移金属水溶液を得た。錯化剤として硫酸アンモニウム水溶液を用い、アルカリ金属水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いた。反応槽内に前記遷移金属水溶液と、錯化剤と、アルカリ金属水溶液とを同時に連続供給することにより、遷移金属イオンを共沈させて、スラリーを得た。共沈時には、反応槽内の液のpHが12で維持されるように水酸化ナトリウム水溶液の投入量を調節し、反応槽内の温度を45℃に調節した。反応槽内は攪拌翼により攪拌した。得られたスラリーを固液分離して、得られた固形分を蒸留水により洗浄して、100℃で乾燥して、遷移金属複合水酸化物(P1)を得た。
【0085】
粉末P1の組成分析を行ったところ、Mn:Ni:Feのモル比は0.48:0.47:0.05であった。粉末P1のSEM観察により、二次粒子の形状は略球状であることを確認した。粉末P1のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は9μmであった。
【0086】
2.リチウム複合金属酸化物の製造と評価
粉末P1と水酸化リチウム一水和物とを乳鉢により混合して混合物を得た。該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中850℃で6時間保持することにより該混合物の焼成を行い、室温まで冷却し、粉末A1を得た。
【0087】
粉末A1の組成分析を行ったところ、Li:Mn:Ni:Feのモル比は、1.05:0.48:0.47:0.05であった。粉末A1のSEM観察により、二次粒子の形状は略球状であることを確認した。粉末A1のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は9μmであった。12kN荷重時において、粉末A1の充填密度は3.1g/ccであり、比較例1のそれより大きくなった。12kN荷重時において、電気伝導度は8×10−5S/cmであり、比較例1のそれより大きくなった。
【0088】
2.非水電解質二次電池の充放電試験とインピーダンス測定
粉末A1を用いて正極を作製した。この正極を用いてコイン型電池を作製し、充放電試験を行ったところ、電池容量は1.8mAh(正極活物質量は0.011gであった。)であり、比較例1のそれより大きくなった。インピーダンス測定の結果、電池の内部抵抗は7Ωであり、比較例1のそれより小さくなることを確認できた。
【0089】
実施例2
1.遷移金属複合水酸化物の製造と評価
Mn:Ni:Feのモル比が0.46:0.44:0.10である以外は、実施例1と同様の操作を行って遷移金属複合水酸化物(P2)を得た。
【0090】
粉末P2の組成分析を行ったところ、Mn:Ni:Feのモル比は0.46:0.44:0.10であった。粉末P2のSEM観察により、二次粒子の形状は略球状であることを確認した。粉末P2のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は8μmであった。
【0091】
2.リチウム複合金属酸化物の製造と評価
粉末P2と水酸化リチウム一水和物とを乳鉢により混合して混合物を得た。該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中850℃で6時間保持することにより該混合物の焼成を行い、室温まで冷却し、粉末A2を得た。
【0092】
粉末A2の組成分析を行ったところ、Li:Mn:Ni:Feのモル比は、1.07:0.46:0.44:0.1であった。粉末A2のSEM観察により、二次粒子の形状は略球状であることを確認した。粉末A2のレーザー回折・散乱法による平均粒子径は8μmであった。12kN荷重時において、粉末A2の充填密度は3.0g/ccであり、比較例1のそれより大きくなった。12kN荷重時において、電気伝導度は2×10−5S/cmであり、比較例1のそれより大きくなった。
【0093】
2.非水電解質二次電池の充放電試験とインピーダンス測定
粉末A2を用いて正極を作製した。この正極を用いてコイン型電池を作製し、充放電試験を行ったところ、電池容量は1.7mAh(正極活物質量は0.011gであった。)であり、比較例1のそれより大きくなった。インピーダンス測定の結果、電池の内部抵抗は8Ωであり、比較例1のそれより小さくなることを確認できた。
【0094】
製造例1(積層フィルムの製造)
(1)塗工スラリーの製造
NMP4200gに塩化カルシウム272.7gを溶解した後、これにパラフェニレンジアミン132.9gを添加して完全に溶解させた。得られた溶液に、テレフタル酸ジクロライド243.3gを徐々に添加して重合し、パラアラミドを得て、さらにNMPで希釈して、濃度2.0重量%のパラアラミド溶液(A)を得た。得られたパラアラミド溶液100gに、アルミナ粉末(a)2g(日本アエロジル社製、アルミナC、平均粒子径0.02μm)とアルミナ粉末(b)2g(住友化学株式会社製スミコランダム、AA03、平均粒子径0.3μm)とをフィラーとして計4g添加して混合し、ナノマイザーで3回処理し、さらに1000メッシュの金網で濾過、減圧下で脱泡して、塗工スラリー(B)を製造した。パラアラミドおよびアルミナ粉末の合計重量に対するアルミナ粉末(フィラー)の重量は、67重量%となる。
【0095】
(2)積層フィルムの製造および評価
多孔質フィルムとしては、ポリエチレン製多孔質フィルム(膜厚12μm、透気度140秒/100cc、平均孔径0.1μm、空孔率50%)を用いた。厚み100μmのPETフィルムの上に上記ポリエチレン製多孔質フィルムを固定し、テスター産業株式会社製バーコーターにより、該多孔質フィルム上に塗工スラリー(B)を塗工した。PETフィルムと塗工された該多孔質フィルムとを一体にしたまま、水中に浸漬させ、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)を析出させた後、溶媒を乾燥させて、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層された積層フィルム1を得た。積層フィルム1の厚みは16μmであり、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)の厚みは4μmであった。積層フィルム1の透気度は180秒/100cc、空孔率は50%であった。積層フィルム1における耐熱多孔層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察をしたところ、0.03μm〜0.06μm程度の比較的小さな微細孔と0.1μm〜1μm程度の比較的大きな微細孔とを有することがわかった。尚、積層フィルムの評価は以下の方法で行った。
【0096】
<積層フィルムの評価>
(A)厚み測定
積層フィルムの厚み、多孔質フィルムの厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。また、耐熱多孔層の厚みとしては、積層フィルムの厚みから多孔質フィルムの厚みを差し引いた値を用いた。
(B)ガーレー法による透気度の測定
積層フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレー式デンソメータで測定した。
(C)空孔率
得られた積層フィルムのサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)と厚みD(cm)を測定した。サンプル中のそれぞれの層の重量(Wi(g);iは1からnの整数)を求め、Wiとそれぞれの層の材質の真比重(真比重i(g/cm3))とから、それぞれの層の体積を求めて、次式より空孔率(体積%)を求めた。
空孔率(体積%)=100×{1−(W1/真比重1+W2/真比重2+・・+Wn/真比重n)/(10×10×D)}

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子および一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子からなり、レーザー回折・散乱法による平均粒子径が1μm以上20μm以下であり、Mn、Ni、FeおよびCoをa:b:c:dのモル比で含む遷移金属複合水酸化物(ここで、aは0.3以上0.7以下であり、bは0.4以上0.7以下であり、cは0を超え0.1以下であり、dは0以上0.2以下であり、a+b+c+d=1である。)。
【請求項2】
aがbより大きい請求項1記載の遷移金属複合水酸化物。
【請求項3】
dが0である請求項1または2記載の遷移金属複合金属水酸化物。
【請求項4】
前記平均粒子径が1μm以上10μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の複合金属複合水酸化物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の遷移金属複合水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成することにより製造され、レーザー回折・散乱法による平均粒子径が1μm以上20μm以下であるリチウム複合金属酸化物。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウム複合金属酸化物を有する電極。
【請求項7】
請求項6記載の電極を正極として有する非水電解質二次電池。
【請求項8】
さらにセパレータを有する請求項7記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
セパレータが、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが互いに積層された積層フィルムからなる請求項8記載の非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2011−126771(P2011−126771A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251756(P2010−251756)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】