説明

遷移金属錯体触媒を用いたフッ素化合物の製造方法

【課題】新規フッ素化合物の製造方法の提供。
【解決手段】式2


(Rはフッ素原子又は含フッ素アルキル基、Rは遷移金属に配位できる基、Rは水素原子、含フッ素アルキル基、遷移金属に配位できる基、アルキル基、アルコキシ基又はフッ素原子、或いはR及びRが結合し環を形成する基)で表される化合物と、式3


(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、アルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、アルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)で表されるオレフィンとを、遷移金属錯体触媒の存在下に反応させることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属錯体触媒を用いて炭素−炭素結合を形成することにより医農薬又は機能性材料の中間体として有用なフッ素化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(I):
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、R’はシアノ基又はカルボニル基、R’’は水素、フッ素原子、トリフルオロメチル基又はカルボニル基を示す。)で表されるフッ素化合物は、トリフルオロメチル基とR’であるシアノ基又はカルボニル基との電子吸引力により酸性度の高い活性水素を有している。この活性水素は、一般に塩基と作用して容易に脱プロトン化される。
【0005】
しかし、塩基等を用いて脱プロトン化しようとすると、通常、脱プロトン化とともにトリフルオロメチル基からフッ化物イオン(F)が脱離するため(HFのβ脱離)、非フッ素系化合物と異なり、塩基条件で「炭素−炭素結合」を形成することは困難であった。
【0006】
実際、発明者は、下記のように様々な塩基を使って炭素−炭素結合(付加反応)を検討したが、目的とする付加体はほとんど得ることができなかった。
【0007】
【化2】

【0008】
【表1】

【0009】
ところで、非特許文献1には、α−トリフルオロメチルマロン酸エステルにセシウムフロリド存在下、メチルヨーダイドを反応させることにより、HF脱離を抑制しメチル化(炭素−炭素結合形成)できることが報告されている。
【0010】
しかしながら、本発明者が同条件下で下記の付加反応を行った結果、原料の分解が進行するだけで目的物は得られなかった。
【0011】
【化3】

【非特許文献1】N.Ishikawa el.al.,Bull. Chem.Soc. Jpn.,56,724(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の主な目的は、活性水素を有するフッ素化合物をHF脱離させることなく不飽和化合物と効率的に付加(炭素−炭素結合形成)させて、医農薬又は機能性材料の中間体として有用な新規フッ素化合物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、前記活性水素を有するフッ素化合物とアクリロニトリルに、イリジウム、ルテニウム等の金属を含む遷移金属錯体触媒を作用させることにより、ほぼ中性かつ穏和な条件下で該炭素−水素結合を活性化し、脱HFによる原料分解を抑制して炭素−炭素結合を形成し、簡便かつ高収率で付加体を製造できることを見出した。かかる知見に基づき、さらに検討を加えて本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は以下の遷移金属錯体触媒を用いた新規フッ素化合物の製造方法を提供する。
【0015】
項1. 一般式(1):
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、Rは遷移金属に配位できる基、Rは水素原子、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、遷移金属に配位できる基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又はフッ素原子、或いは、R及びRが結合し環を形成する基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
で表されるフッ素化合物の製造方法であって、
一般式(2):
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、R、R及びRは前記に同じ。)
で表される化合物と、一般式(3):
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、R、R、R及びEWGは前記に同じ。)
で表されるオレフィンとを、遷移金属錯体触媒(4)の存在下に反応させることを特徴とする製造方法。
【0022】
項2. R及びRで示される遷移金属に配位できる基が、同一又は異なって、シアノ基(−CN)、イソシアノ基(−NC)、カルボニル基を含む基、エステル基を含む基、スルホン基を含む基、スルホキシド基を含む基、アミノ基及びアルコキシ基を含む基からなる群より選ばれる基である項1に記載の製造方法。
【0023】
項3. R及びRで示される遷移金属に配位できる基が、同一又は異なって、−CN、−NC、−CO10で示される基(式中、R10は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−COR11で示される基(式中、R11は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−S(O)12で示される基(式中、R12は置換基を有してもよいアルキル基又はフェニル基、nは1又は2を示す。)、−CON(R13)(R14)で示される基(式中、R13及びR14は独立して水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、又は−(CX−OR25で示される基(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、lは0〜3の整数、R25は置換基を有してもよいアルキル基又はアリール基を示す。)である項1に記載のフッ素化合物の製造方法。
【0024】
項4. R及びRが結合し環を形成する基が、−C(=O)(CH−で示される基(式中、sは1〜5の整数を示す。)、−C(=O)O(CH−で示される基(式中、tは1〜5の整数を示す。)、−C(=O)N(R13)(CH−で示される基(式中、R13は水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、又は−S(O)(CH−で示される基(式中、vは1又は2、wは1〜10の整数を示す。)である項1に記載のフッ素化合物の製造方法。
【0025】
項5. EWGが−CN、−CO20で示される基(式中、R20は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−COR21で示される基(式中、R21は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−S(O)22で示される基(式中、R22は炭素数1〜5のアルキル基又はアリール基、mは1又は2を示す。)又は−CON(R23)(R24)で示される基(式中、R23及びR24は独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)である項1〜4のいずれかに記載のフッ素化合物の製造方法。
【0026】
項6. 遷移金属錯体触媒(4)が、レニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群より選ばれる遷移金属を含む触媒である項1〜5のいずれかに記載のフッ素化合物の製造方法。
【0027】
項7. 遷移金属錯体触媒(4)が、一般式(4a):
MA (4a)
(式中、Mはレニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムから選ばれる遷移金属、Aは水素原子、Bはカルボニル(CO)又はシクロペンタジエン誘導体、Cはホスフィン配位子、x、y及びzは独立してx=1〜5、y=0〜2、z=0〜5であり、yとzが同時に0の場合を除く。)
で表される項6に記載のフッ素化合物の製造方法。
【0028】
項8. 一般式(5):
【0029】
【化7】

【0030】
(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、R1’は遷移金属に配位できる基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
で表されるフッ素化合物の製造方法であって、
一般式(2a):
【0031】
【化8】

【0032】
(式中、R及びR1’は前記に同じ。)
で表される化合物と、一般式(3):
【0033】
【化9】

【0034】
(式中、R、R、R及びEWGは前記に同じ。)
で表されるオレフィンとを、遷移金属錯体触媒(4)の存在下に反応させることを特徴とする製造方法。
【0035】
項9. R1’で示される遷移金属に配位できる基が、−CN、−NC、−CO10で示される基(式中、R10は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−COR11で示される基(式中、R11は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−S(O)12で示される基(式中、R12は置換基を有してもよいアルキル基又はフェニル基、nは1又は2を示す。)、−CON(R13)(R14)で示される基(式中、R13及びR14は独立して水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、又は−(CX−OR25で示される基(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、lは0〜3の整数、R25は置換基を有してもよいアルキル基又はアリール基を示す。)である項8に記載のフッ素化合物の製造方法。
【0036】
項10. EWGが−CN、−CO20で示される基(式中、R20は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−COR21で示される基(式中、R21は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−S(O)22で示される基(式中、R22は炭素数1〜5のアルキル基又はアリール基、mは1又は2を示す。)又は−CON(R23)(R24)で示される基(式中、R23及びR24は独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)である項8又は9に記載のフッ素化合物の製造方法。
【0037】
項11. 遷移金属錯体触媒(4)が、レニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群より選ばれる遷移金属を含む触媒である項8〜10のいずれかに記載のフッ素化合物の製造方法。
【0038】
項12. 遷移金属錯体触媒(4)が、一般式(4a):
MA (4a)
(式中、Mはレニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムから選ばれる遷移金属、Aは水素原子、Bはカルボニル(CO)又はシクロペンタジエン誘導体、Cはホスフィン配位子、x、y及びzは独立してx=1〜5、y=0〜2、z=0〜5であり、yとzが同時に0の場合を除く。)
で表される項11に記載のフッ素化合物の製造方法。
【0039】
項13. 一般式(1):
【0040】
【化10】

【0041】
(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、Rは遷移金属に配位できる基、Rは水素原子、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、遷移金属に配位できる基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又はフッ素原子、或いは、R及びRが結合し環を形成する基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
で表されるフッ素化合物。
【0042】
項14. 一般式(5):
【0043】
【化11】

【0044】
(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、R1’は遷移金属に配位できる基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
で表されるフッ素化合物。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、これまで炭素−水素結合を炭素−炭素結合に変換することが困難であったフッ素化合物を、所定の遷移金属錯体触媒の存在下でオレフィン化合物と反応させることにより、原料の分解を抑制し穏和な条件下で効率的に付加体を製造することができる。得られる付加体であるフッ素化合物は、医薬中間体、機能性材料等として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0047】
本発明によれば、活性水素を有するフッ素化合物(2)又は(2a)と電子吸引性不飽和結合を有する化合物(3)に、所定の遷移金属錯体触媒(4)を作用させることにより、簡便かつ高収率で付加体(1)及び(5)を製造できる。具体的には、次の式(I)及び式(II)に示される製造法である。
【0048】
【化12】

【0049】
(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、Rは遷移金属に配位できる基、Rは水素原子、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、遷移金属に配位できる基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又はフッ素原子、或いは、R及びRが結合し環を形成する基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
【0050】
【化13】

【0051】
(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、R1’は遷移金属に配位できる基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
及びRで示される炭素数1〜10の含フッ素アルキル基とは、炭素数1〜10のアルキル基の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子に置換された基であり、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよい。好ましくは炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖の含フッ素アルキル基であり、例えば、F-(CF2)n-で示される基(式中、n=1〜5の整数を示す。)、H-(CF2)m-で示される基(式中、m=1〜5の整数を示す。)等が挙げられる。具体的には、CF3-、CF3CF2-、CF3CF2CF2-、CF3CF2CF2CF2-、HCF2CF2-、HCF2CF2CF2CF2-、HCF2CF2CF2CF2CF2CF2-等が挙げられる。より好ましくは、CF3-、CF3CF2-、HCF2CF2-、HCF2CF2CF2CF2-である。
【0052】
及びRで示される遷移金属に配位できる基としては、同一又は異なって、遷移金属錯体触媒(4)に含まれる遷移金属に配位し得るヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等)を含有する基であり、例えば、シアノ基(−CN)、イソシアノ基(−NC)、カルボニル基を含む基、エステル基を含む基、スルホン基を含む基、スルホキシド基を含む基、アミノ基を含む基、アルコキシ基を含む基等が挙げられる。
【0053】
遷移金属に配位できる基として、具体的には、−CN、−NC、−CO10で示される基(式中、R10は置換基を有してもよいアルキル基又はハロアルキル基を示す。)、−COR11で示される基(式中、R11は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−S(O)12で示される基(式中、R12は置換基を有してもよいアルキル基又はフェニル基、pは1又は2を示す。)、−CON(R13)(R14)で示される基(式中、R13及びR14は独立して水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−(CX−OR25で示される基(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、lは0〜3の整数、R25は置換基を有してもよいアルキル基又はアリール基を示す。)等が例示される。
【0054】
上記R10、R11、R12、R13、R14及びR25で示される置換基を有してもよいアルキル基のアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が挙げられ、例えば、直鎖又は分岐鎖のCiH2i+1で示される基(式中、i=1〜5の整数を示す。)等が挙げられる。
【0055】
10で示される置換基を有してもよいハロアルキル基のハロアルキル基としては、上記のアルキル基の水素原子の少なくとも1個がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)に置換された基が挙げられる。
【0056】
上記R10、R11、R12、R13、R14及びR25で示されるアルキル基又はハロアルキル基の置換基としては、本発明の製造方法に悪影響を与えない置換基であれば特に限定はなく、例えば、アルコキシ、エステル、アミド、フェニル等が例示される。
【0057】
上記した遷移金属に配位できる基のうち好ましくは、-CN、-CO2CH3、-CO2CH2CH3、-COCH3、-COCH2CH3、-COPh、-S(O)CH3、-S(O)Ph、-SO2CH3、-SO2Ph、-CF2OCH3、-CF2OCH2CH3、-CF2OCH2CH2CH3、-CF2OCH(CH3)2、-OCH3、-OCH2CH3、-OPh、-CH2OCH3、-CH2CH2OCH3等であり、より好ましくは、-CN、-CO2CH3である。
【0058】
、R、R、R及びRで示される置換基を有してもよいアルキル基におけるアルキル基としては、例えば、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。直鎖又は分岐鎖のアルキル基としてはCjH2j+1で示される基(式中、j=1〜6の整数を示す。)等が挙げられ、具体的にはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が例示される。環状アルキル基としてはCjH2jで示される基(式中、j=3〜6の整数を示す。)等が挙げられ、具体的にはシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が例示される。好ましくは、メチル、エチルである。該アルキル基の置換基としては、本発明の製造方法に悪影響を与えない置換基であれば特に限定はなく、例えば、アルコキシ、エステル、アミド、フェニル等が例示される。
【0059】
で示される置換基を有してもよいアルコキシ基におけるアルコキシ基としては、例えば、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基としてはCkH2k+1O-で示される基(式中、k=1〜6の整数を示す。)等が挙げられ具体的には、メトキシ、エトキシ、n−プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、n−ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec−ブチルオキシ、tert−ブチルオキシ、ペンチルオキシ等が例示される。環状アルコキシ基としてはCkH2kO-で示される基(式中、k=3〜6の整数を示す。)等が挙げられ、具体的にはシクロプロピルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等が例示される。好ましくは、メトキシ、エトキシである。該アルコキシ基の置換基としては、本発明の製造方法に悪影響を与えない置換基であれば特に限定はなく、例えば、アルコキシ、エステル、アミド、フェニル等が例示される。
【0060】
及びRで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。好ましくはフッ素原子である。
【0061】
EWGで示される電子吸引基としては、例えば、−CN、−CO20で示される基(式中、R20は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−COR21で示される基(式中、R21は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−S(O)22で示される基(式中、R22は炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基、qは1又は2を示す。)又は−CON(R23)(R24)で示される基(式中、R23及びR24は独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)等が挙げられる。
【0062】
電子吸引基として、好ましくは-CN、-CO2CH3、-CO2CH2CH3、-COCH3、-COCH2CH3、-COPh、-S(O)CH3、-S(O)Ph、-SO2CH3、-SO2Phであり、より好ましくは、-CO2CH3、-CO2CH3、-CNである。
【0063】
及びRにおける電子吸引基も上記の電子吸引基から選択できるが、EWGと同一又は異なっていてもよい。
【0064】
式(I)において、R及びRは上記で示される基であり、可能であれば両者が結合し環を形成していてもよく、例えば、−C(=O)(CH−で示される基(式中、sは1〜5の整数を示す。)、−C(=O)O(CH−で示される基(式中、tは1〜5の整数を示す。)、−C(=O)N(R13)(CH−で示される基(式中、uは1〜5の整数を示し、R13は前記に同じ。)、−S(O)(CH−で示される基(式中、vは1又は2、wは1〜10の整数を示す。)等が挙げられる。
【0065】
好ましくは、−C(=O)(CH−で示される基(式中、sは3又は4を示す。)又は−C(=O)O(CH−で示される基(式中、tは3又は4を示す。)である。
【0066】
遷移金属錯体触媒(4)としては、例えば、レニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群より選ばれる遷移金属を含む触媒が挙げられる。具体的には、一般式(4a):
MA (4a)
(式中、Mはレニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムから選ばれる遷移金属、Aは水素原子、Bはカルボニル(CO)又はシクロペンタジエン誘導体、Cはホスフィン配位子、x、y及びzは独立してx=1〜5、y=0〜2、z=0〜5であり、yとzが同時に0の場合を除く。)
で表される遷移金属錯体触媒が挙げられる。
【0067】
Mで示される遷移金属は、低原子価で中性のものが挙げられ、レニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウムが好ましく、特にイリジウムが好ましい。
【0068】
Bで示されるシクロペンタジエン誘導体としては、シクロペンタジエン(以下、「Cp」と表記する)、ペンタメチルシクロペンタジエン(以下、「Cp」と表記する)等が挙げられる。
【0069】
Cで示されるホスフィン配位子としては、単座のホスフィン配位子だけでなく2座以上のホスフィン配位子であってもよい。単座のホスフィン配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ(n−プロピル)ホスフィン、トリ(i−プロピル)ホスフィン、トリ(n−ブチル)ホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のトリアルキルホスフィン;トリフェニルホスフィン、トリ(2−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(4−メチルフェニル)ホスフィン、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基等のトリアリールホスフィン等が挙げられる。
【0070】
2座配位子としては、例えば、ジフェニルホスフィノエタン(dppe)、ジフェニルホスフィノプロパン(dppp)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)等が挙げられる。
【0071】
上記一般式(4a)で表される遷移金属錯体触媒の具体例としては、IrH5(PiPr3)、Cp*RuH(PPh3)2が挙げられ、好ましくは、IrH5(PiPr3)である。
【0072】
上記式(I)及び(II)に示されるフッ素化合物の製造法において、遷移金属錯体触媒(4)の使用量は、一般式(2)乃至(2a)で表されるフッ素化合物に対し、通常0.001〜10モル%、好ましくは0.01〜5モル%、より好ましくは0.1〜1モル%である。
【0073】
また、上記式(I)及び(II)に示されるフッ素化合物の製造法では溶媒を用いてもよく、溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジグライム(diglyme)等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類が挙げられる。これらの単独あるいは2種以上の混合溶媒が挙げられる。かかる溶媒の使用量は特に限定されないが、一般式(2)乃至(2a)で表されるフッ素化合物に対し、通常1〜50重量倍、好ましくは3〜30重量倍である。
【0074】
上記式(I)に示されるフッ素化合物の製造法では、一般式(3)で表される化合物の使用量は、一般式(2)で表されるフッ素化合物に対し、通常1〜10当量、好ましくは1〜5当量である。
【0075】
上記式(II)に示されるフッ素化合物の製造法では、一般式(3)で表される化合物の使用量は、一般式(2a)で表されるフッ素化合物に対し、通常2〜20当量、好ましくは2〜10当量である。
【0076】
反応は、通常不活性ガス雰囲気下、例えば、アルゴン、窒素雰囲気下で行われる。また、圧力も特に限定なく、常圧下で反応できる。反応温度は、通常-100〜200℃、好ましくは10〜100℃の範囲である。反応時間は、反応液中の基質や触媒の濃度、反応温度等により変化するが、通常0.1〜30時間程度である。
【0077】
反応終了後は、通常の精製工程を経て一般式(1)又は(5)で表されるフッ素化合物を得る。例えば、反応液に必要に応じて疎水性有機溶媒を加えて抽出、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィ、再結晶等の公知の方法で精製して、目的物を得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例を示し、本発明の特徴を明確にする。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
10mL二口フラスコにアルゴン雰囲気下でIrH5(PiPr3)2(0.05mmol)、2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(1mmol)、アクリロニトリル(1mmol)、トルエン(2mL)、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(100μL)を加え、室温で3時間撹拌した。その後、反応液を一部抜き取り19F−NMRで分析した結果、反応収率97%で4−シアノ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)ブタン酸メチルが生成していた。さらに、反応液をシリカゲルクロマトグラフで精製することにより、94%の単離収率で目的の4-シアノ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)ブタン酸メチルを得ることができた。
【0079】
4-シアノ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)ブタン酸メチル:
IR (neat) cm-1 2255, 1761. 1H NMR (CDCl3) δ 2.58 (s, 4H, CH2CH2CN), 3.95 (s, 3H, Me). 13C NMR (CDCl3) δ 12.9 CH2CN, 24.5 CH2CH2CN, 54.5 Me, 60.0 (m, C), 117.3 CN, 122.0 (q, J = 290, CF3), 161.6 CO2Me. 19F NMR (CDCl3) δ -64.5 (s). Anal. Calcd for C8H7F6NO2: C 36.52, H 2.68, N, 5.32. Found: C 36.61, H 2.50, N 5.30.
[実施例2]
触媒量を変えること以外は、実施例1と同様にして反応して、表2記載の化合物を得た。
[実施例3〜6]
溶媒を変えること以外は、実施例2と同様にして反応して、表2記載の化合物を得た。
【0080】
【表2】

【0081】
[実施例7]
実施例1の2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、2-トリフルオロメチルマロン酸ジメチル(1mmol)を用いて同様に室温で5時間反応を行った結果、反応収率84%で目的とする2-(2-シアノエチル)-2-トリフルオロメチルマロン酸ジメチルを得た。
【0082】
2-(2-シアノエチル)-2-トリフルオロメチルマロン酸ジメチル:
IR (neat) cm-1 2252, 1750. 1H NMR (CDCl3) δ 2.50-2.65 (m, 4H, CH2CH2CN), 3.88 (s, 6H, Me). 13C NMR (CDCl3) δ 13.0 CH2CN, 26.6 CH2CH2CN, 53.8 Me, 61.7 (q, J = 26.4, C), 117.9 CN, 122.8 (q, J = 284, CF3), 164.1 CO2Me. 19F NMR (CDCl3) δ -65.0 (s). Anal. Calcd for C9H10F3NO4: C 42.70, H 3.98, N 5.53. Found: C 42.78, H 3.91, N 5.26.
[実施例8]
実施例1の2−(トリフルオロメチル)−3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、2,3,3,3−テトラフルオロプロピオニトリル(1mmol)を用いて、同様に50℃、1時間反応を行った結見、反応収率91%で目的とする2-フルオロ-2-トリフルオロメチルペンタンジニトリルを得た。
【0083】
2-フルオロ-2-トリフルオロメチルペンタンジニトリル:
IR (CHCl3) cm-1 2258. 1H NMR (CDCl3) δ 2.43-2.71 (m, 2H, CH2CN), 2.77-2.83 (m, 2H, CH2CH2CN). 13C NMR (CDCl3) δ 11.8 (d, J = 4.1, CH2CN), 28.8 (d, J = 22.8, CH2CH2CN), 86.3 (dq, J = 202.1, 36.7, CF), 110.3(d, J = 32.6, CFCN), 116.0 CH2CN, 119.6 (qd, J = 285.3, 27.9, CF3). 19F NMR (CDCl3) δ -167.6 (m, 1F), -77.7 (d, J =
9.6, 3F).
[実施例9]
反応条件を変えること以外は、実施例8と同様にして反応して、表3記載の化合物を得た。
[実施例10]
実施例1の2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、4,4,4-トリフルオロ-2-ブタノン(1mmol)を用いて同様に50℃、5時間反応を行った結果、反応収率70%で目的とする4−アセチル−4−トリフルオロメチルヘプタンジニトリルを得た。
【0084】
4−アセチル−4−トリフルオロメチルヘプタンジニトリル:
: IR (neat) cm-1 2252, 1718. 1H NMR (CDCl3) δ 2.08-2.18 (m, 2H), 2.27-2.47 (m, 9H). 13C NMR (CDCl3) δ 12.6 CH2CN, 27.0 CH2CH2CN, 27.6 Me, 58.8 (q, J = 24, C), 117.9 CN, 125.8 (q, J = 284, CF3), 200.6 CO. 19F NMR (CDCl3) δ -63.8 (s). Anal. Calcd for C10H11F3N2O: C 51.73, H 4.77, N 12.06. Found: C 51.89, H 4.39, N 11.79.
[実施例11]
実施例1の2−(トリフルオロメチル)−3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、3,3,3-トリフルオロプロピオニトリル(1mmo1)を用いて同様に50℃、5時間反応を行った結果、反応収率82%で目的とする4-シアノ-4-トリフルオロメチルヘプタンジニトリルを得た。
【0085】
4-シアノ-4-トリフルオロメチルヘプタンジニトリル:
IR (neat) cm-1 2255. 1H NMR (CDCl3) δ 2.24-2.42 (m, 4H), 2.69-2.73 (m, 4H). 13C NMR (CDCl3) δ 13.4 CH2CN, 27.8 CH2CH2CN, 46.1 (q, J = 29, C) 113.5 CCN, 117.2 (CH2CN), 123.6 (q, J = 285, CF3). 19F NMR (CDCl3) δ -69.2 (s). Anal. Calcd for C9H8F3N3: C 50.24, H 3.75, N 19.53. Found: C 50.03, H 3.59, N 19.16.
[実施例12〜13]
反応条件を変えること以外は、実施例11と同様にして反応して、表3記載の化合物を得た。
[実施例14]
実施例1の2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(1mmol)を用いて同様に50℃、5時間反応を行った結果、反応収率52%で目的とする4-シアノ-2-(2-シアノエチル)-2-トリフルオロメチルブタン酸メチルを得た。
【0086】
4-シアノ-2-(2−シアノエチル)-2-トリフルオロメチルブタン酸メチル:
IR (neat) cm-1 2252, 1742. 1H NMR (CDCl3) δ 2.23-2.30 (m, 4H), 2.48-2.56 (m, 4H), 3.88 (s, 3H, Me). 13C NMR (CDCl3) δ 13.0 CH2CN, 28.4 CH2CH2CN, 53.8 Me, 53.9 (q, J = 25.3, C), 117.9 CN, 125.1 (q, J = 284.3, CF3), 167.1 CO2Me. 19F NMR (CDCl3) δ -66.0 (s). Anal. Calcd for C10H11F3N2O2: C 48.39, H 4.47, N 11.29. Found: C 48.59, H 4.63, N 11.57.
[実施例15〜16]
反応条件を変えること以外は、実施例14と同様にして反応して、表3記載の化合物を得た。
[実施例17]
実施例1の2−(トリフルオロメチル)−3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、2,3,3,3-テトラフルオロプロピオン酸メチル(1mmol)を用いて同様に50℃、5時間反応を行った結果、反応収率56%で目的とする4-シアノ-2-フルオロ-2-トリフルオロメチルブタン酸メチルを得た。
【0087】
4-シアノ-2-フルオロ-2-トリフルオロメチルブタン酸メチル:
IR (neat) cm-1 2255, 1774. 1H NMR (CDCl3) δ 2.44-2.65 (m, 4H, CH2CH2CN), 3.96 (s, 3H, Me). 13C NMR (CDCl3) δ 11.0 (d, J = 6.2, CH2CN), 27.3 (d, J = 20.6, CH2CH2CN), 54.2 Me, 91.8 (dq, J = 204.3, 32.6, C), 117.0 CN, 121.0 (qd, J = 285.5, 27.9, CF3), 163.5 (d, J = 24.8, CO2Me). 19F NMR (CDCl3) δ -177.0 (m, 1F), -76.3 (d, J = 8.5, 3F). Anal. Calcd for C7H7F4NO2: C 39.45, H 3.31, N 6.57. Found: C 39.50, H 3.41, N 6.40.
[実施例18〜19]
反応条件を変えること以外は、実施例17と同様にして反応して、表3記載の化合物を得た。
【0088】
【表3】

【0089】
[実施例20]
実施例1のアクリロニトリルの代わりにメチルビニルケトン(3mmol)を用いて同様に50℃、5時間反応を行った結果、反応収率70%で目的とする5-オキソ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)ヘキサン酸メチルを得た。
【0090】
5-オキソ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)ヘキサン酸メチル:
IR (neat) cm-1 1761, 1724. 1H NMR (CDCl3) δ 2.19 (s, 3H, COMe), 2.42-2.64 (m, 4H, CH2CH2CO), 3.90 (s, 3H, OMe). 13C NMR (CDCl3) δ 22.1 CH2CH2CO, 29.7 COMe, 37.6 CH2CO, 53.9 OMe, 60.4 (m, C), 122.5 (q, J = 286, CF3), 162.6 CO2Me, 205.2 COMe. 19F NMR (CDCl3) δ -64.9 (s). Anal. Calcd for C9H10F6O3: C 38.58, H 3.60. Found:
C 38.56, H 3.43.
[実施例21〜22]
反応条件を変えること以外は、実施例20と同様にして反応して、表4記載の化合物を得た。
[実施例23]
実施例20の2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、2−トリフルオロメチルマロン酸ジメチル(1mmol)を用いて同様に50℃、5時間反応を行った結果、反応収率71%で目的とする2-(3-オキソブチル)-2-トリフルオロメチルマロン酸ジメチルを得た。
【0091】
2-(3-オキソブチル)-2-トリフルオロメチルマロン酸ジメチル:
IR (neat) cm-1 1749, 1720. 1H NMR (CDCl3) δ 2.16 (s, 3H, COMe), 2.41-2.44(m, 2H), 2.65 (t, J = 7.5, 2H), 3.82 (s, 6H, OMe). 13C NMR (CDCl3) δ 24.4 CH2CH2CO, 29.7 COMe, 38.2 CH2CO, 53.4 OMe, 62.3 (q, J = 25.9, C), 123.2, (q, J = 283.8, CF3), 165.1 CO2Me, 206.0 COMe. 19F NMR (CDCl3) δ -65.3 (s). Anal. Calcd for C10H13F3O5: C 44.45, H 4.85. Found: C 44.41, H, 4.71.
[実施例24〜25]
反応条件を変えること以外は、実施例23と同様にして反応して、表4記載の化合物を得た。
[実施例26]
実施例20の2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、2,3,3,3-テトラフルオロプロピオニトリル(1mmol)を用いて同様に50℃、1時間反応を行った結果、反応収率66%で目的とする2-フルオロ-5-オキソ-2-トリフルオロメチルヘキサンニトリルを得た。
【0092】
2-フルオロ-5-オキソ-2-トリフルオロメチルヘキサンニトリル:
IR (neat) cm-1 2260, 1726. 1H NMR (C6D6) δ 1.40 (s, 3H, Me), 1.78-2.01 (m, 4H, CH2CH2CO). 13C NMR (C6D6) δ 26.3 (d, J = 21.4, CH2CF), 28.9 COMe, 35.5 CH2CO, 87.8 (dq, J = 198, 36.2 CF), 111.7 (d, J = 32.6, CN), 120.5 (qd, J = 284.8, 27.9, CF3), 202.0 COMe. 19F NMR (CDCl3) δ -166.0 (m, 1F), -78.5 (d, J = 11.0, 3F).
[実施例27〜28]
反応条件を変えること以外は、実施例26と同様にして反応して、表4記載の化合物を得た。
[実施例29]
実施例20の2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの代わりに、3,3,3-トリフルオロプロビオニトリル(1mmol)を用いて同様に50℃、1時間反応を行った結果、反応収率23%で5-オキソ-2-(3−オキソブチル)-2-トリフルオロメチルヘキサンニトリルを、且つ、反応収率52%で5−オキソ-2-トリフルオロメチルヘキサンニトリルを得た。
【0093】
5-オキソ-2-(3-オキソブチル)-2-トリフルオロメチルヘキサンニトリル:
IR (neat) cm-1 2249, 1720. 1H NMR (CDCl3) δ 2.10-2.15 (m, 4H), 2.23 (s, 6H, COMe), 2.76 (t, J = 4.8, 4H). 13C NMR (CDCl3) δ 25.8 CH2CH2COMe, 30.0 COMe, 38.4 CH2CO, 46.3 (q, J = 27.7, C), 115.7 CN, 124.6 (q, J = 284, CF3), 205.2 CO. 19F NMR (CDCl3) δ -70.0 (s). Anal. Calcd for C11H14F3NO2: C 53.01, H 5.66, N 5.62. Found: C 53.21, H 5.33, N 5.31.
5−オキソ-2-トリフルオロメチルヘキサンニトリル:
IR (neat) cm-1 2257, 1719. 1H NMR (CDCl3) δ 1.93-2.05 (m, 1H), 2.19-2.32 (m, 1H), 2.22 (s, 3H, COMe), 2.68-2.88 (m, 2H), 3.60-3.73 (m, 1H, CHCN). 13C NMR (CDCl3) δ 20.1 CH2CH2CO, 30.0 COMe, 36.5 (q, J = 32.2, CH), 38.6 CH2CO, 113.7 CN, 123.0 (q, J = 280, CF3), 206.0 CO. 19F NMR (CDCl3) δ -67.5 (d, J = 6.8 Hz).
[実施例30]
反応条件を変えること以外は、実施例29と同様にして反応して、表4記載の化合物を得た。
【0094】
【表4】

【0095】
[実施例31]
実施例1のIrH5(PiPr3)2の代わりに、Cp*RuH(PPh32(0.01mmol)を用いて同様に室温で24時間反応を行った結果、反応収率88%で目的とする4-シアノ-2,2-ビス(トリフルオロメチル)ブタン酸メチルを得た。
[実施例32]
【0096】
【化14】

【0097】
マグネチックスターラーを入れた乾燥したシュレンクフラスコに、IrH5(PiPr3)2 (26mg、5mol%)を加えアルゴン置換した。そこに乾燥トルエン(3ml)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-3-メトキシプロパン(160μl, 1mmol)、アセトニトリル(235μl、3mmol)を連続的に加えた。その反応混合物を室温で40時間撹拌した。
【0098】
19F NMRで反応混合物を分析した結果、出発原料1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-3-メトキシプロパンは完全に消費されており、目的生成物が81%、副生成物が19%含まれていた。
【0099】
この反応混合物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/エーテル)で精製することにより目的生成物5,5,5-トリフルオロ-4-(ジフルオロ(メトキシ)メチル)-4-(トリフルオロメチル)ペンタンニトリル(160mg、56%)を得た。
【0100】
5,5,5-トリフルオロ-4-(ジフルオロ(メトキシ)メチル)-4-(トリフルオロメチル)ペンタンニトリル:
1H NMR (300MHz, CDCl3) d 3.70 (s, 3H), 2.70(t, J=7.9 Hz, 2H), 2.42 (t, J=8.8 Hz, 2H). 13C NMR (75MHz, CDCl3) d 12.9(m, CH2), 23.9 (m, CH3), 51.3 (q, CH2), 58.5(m, C), 127.9, 124.4, 120.3, 116.5 (q, CF3), 124.4, 120.8, 117.7,116.5 (q, CF2). 19F NMR(282.65 MHz, toluene) d -66.55(t, 6F), 75.60( m, 2F). IR: 2254 cm-1 (CN). HRMS: (EI) m/z calcd for C8H6F8NO (M+) 284.0321 found 284.0321
[実施例33]
【0101】
【化15】

【0102】
マグネチックスターラーを入れた乾燥したシュレンクフラスコに、IrH5(PiPr3)2 (26mg、5mol%)を加えアルゴン置換した。そこに乾燥トルエン(4ml)、2-(トリフルオロメチル)シクロヘキサノン(140μl、1mmol)、アセトニトリル(235μl、3mmol)を連続的に加えた。その反応混合物を室温で40時間撹拌した。
【0103】
19F-NMRで反応混合物を分析した結果、2-(トリフルオロメチル)シクロヘキサノンが86%消費され、目的生成物が76%、副生成物が10%含まれていた。
【0104】
この反応混合物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/エーテル)で精製することにより目的生成物3-(1-(トリフルオロメチル)-2-オキソシクロヘキシル)プロパンニトリル(155mg、65%)を得た。
【0105】
3-(1-(トリフルオロメチル)-2-オキソシクロヘキシル)プロパンニトリル:
1H NMR (500MHz, CDCl3) d 2.60-2.45 (m, 3H), 2.44-2.35(m, 1H), 2.25-2.16(m, 3H), 1.98-1.71 (m, 5H). 13C NMR (125MHz, CDCl3) d 204.1, 125.9 (q, J = 288 Hz, CF3), 118.7, 55.9 (q, J = 22.6 Hz, C), 40.2 (d, J = 1.6 Hz), 31.2 (d, J = 2.0 Hz), 27.5 (d, J = 1.5 Hz), 25.6, 20.3, 12.6 (q, J = 1.5 Hz). 19F NMF(282.65 MHz, toluene) d -69.77(s, 3F). IR: 2250 cm-1(CN), 1721 cm-1 (C=O) HRMS: (EI) m/z calcd for C10H12F3NO (M+) 219.0871 found 219.0862.
[比較例1〜9]
10mL二口フラスコにアルゴン雰囲気下で、2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(1mmol)、アクリロニトリル(1mmol)、を表5記載の条件で反応させた。
【0106】
いずれも、反応が進行しないか、目的物の収率は極めて低いものであった。
【0107】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、Rは遷移金属に配位できる基、Rは水素原子、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、遷移金属に配位できる基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又はフッ素原子、或いは、R及びRが結合し環を形成する基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
で表されるフッ素化合物の製造方法であって、
一般式(2):
【化2】

(式中、R、R及びRは前記に同じ。)
で表される化合物と、一般式(3):
【化3】

(式中、R、R、R及びEWGは前記に同じ。)
で表されるオレフィンとを、遷移金属錯体触媒(4)の存在下に反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
及びRで示される遷移金属に配位できる基が、同一又は異なって、シアノ基(−CN)、イソシアノ基(−NC)、カルボニル基を含む基、エステル基を含む基、スルホン基を含む基、スルホキシド基を含む基、アミノ基を含む基、及びアルコキシ基を含む基からなる群より選ばれる基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
及びRで示される遷移金属に配位できる基が、同一又は異なって、−CN、−NC、−CO10で示される基(式中、R10は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−COR11で示される基(式中、R11は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−S(O)12で示される基(式中、R12は置換基を有してもよいアルキル基又はフェニル基、nは1又は2を示す。)、−CON(R13)(R14)で示される基(式中、R13及びR14は独立して水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、又は−(CX−OR25で示される基(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、lは0〜3の整数、R25は置換基を有してもよいアルキル基又はアリール基を示す。)である請求項1に記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項4】
及びRが結合し環を形成する基が、−C(=O)(CH−で示される基(式中、sは1〜5の整数を示す。)、−C(=O)O(CH−で示される基(式中、tは1〜5の整数を示す。)、−C(=O)N(R13)(CH−で示される基(式中、R13は水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、又は−S(O)(CH−で示される基(式中、vは1又は2、wは1〜10の整数を示す。)である請求項1に記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項5】
EWGが−CN、−CO20で示される基(式中、R20は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−COR21で示される基(式中、R21は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−S(O)22で示される基(式中、R22は炭素数1〜5のアルキル基又はアリール基、mは1又は2を示す。)又は−CON(R23)(R24)で示される基(式中、R23及びR24は独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)である請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項6】
遷移金属錯体触媒(4)が、レニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群より選ばれる遷移金属を含む触媒である請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項7】
遷移金属錯体触媒(4)が、一般式(4a):
MA (4a)
(式中、Mはレニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムから選ばれる遷移金属、Aは水素原子、Bはカルボニル(CO)又はシクロペンタジエン誘導体、Cはホスフィン配位子、x、y及びzは独立してx=1〜5、y=0〜2、z=0〜5であり、yとzが同時に0の場合を除く。)
で表される請求項6に記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項8】
一般式(5):
【化4】

(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、R1’は遷移金属に配位できる基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
で表されるフッ素化合物の製造方法であって、
一般式(2a):
【化5】

(式中、R及びR1’は前記に同じ。)
で表される化合物と、一般式(3):
【化6】

(式中、R、R、R及びEWGは前記に同じ。)
で表されるオレフィンとを、遷移金属錯体触媒(4)の存在下に反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
1’で示される遷移金属に配位できる基が、−CN、−NC、−CO10で示される基(式中、R10は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−COR11で示される基(式中、R11は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、−S(O)12で示される基(式中、R12は置換基を有してもよいアルキル基又はフェニル基、nは1又は2を示す。)、−CON(R13)(R14)で示される基(式中、R13及びR14は独立して水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を示す。)、又は−(CX−OR25で示される基(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、lは0〜3の整数、R25は置換基を有してもよいアルキル基又はアリール基を示す。)である請求項8に記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項10】
EWGが−CN、−CO20で示される基(式中、R20は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−COR21で示される基(式中、R21は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)、−S(O)22で示される基(式中、R22は炭素数1〜5のアルキル基又はアリール基、mは1又は2を示す。)又は−CON(R23)(R24)で示される基(式中、R23及びR24は独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)である請求項8又は9に記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項11】
遷移金属錯体触媒(4)が、レニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群より選ばれる遷移金属を含む触媒である請求項8〜10のいずれかに記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項12】
遷移金属錯体触媒(4)が、一般式(4a):
MA (4a)
(式中、Mはレニウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムから選ばれる遷移金属、Aは水素原子、Bはカルボニル(CO)又はシクロペンタジエン誘導体、Cはホスフィン配位子、x、y及びzは独立してx=1〜5、y=0〜2、z=0〜5であり、yとzが同時に0の場合を除く。)
で表される請求項11に記載のフッ素化合物の製造方法。
【請求項13】
一般式(1):
【化7】

(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、Rは遷移金属に配位できる基、Rは水素原子、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、遷移金属に配位できる基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基又はフッ素原子、或いは、R及びRが結合し環を形成する基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
で表されるフッ素化合物。
【請求項14】
一般式(5):
【化8】

(式中、Rはフッ素原子又は炭素数1〜10の含フッ素アルキル基、R1’は遷移金属に配位できる基、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又はハロゲン原子、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基又は電子吸引基、EWGは電子吸引基を示す。)
で表されるフッ素化合物。

【公開番号】特開2008−163001(P2008−163001A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295236(P2007−295236)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】