説明

選択性透過膜の洗浄剤および洗浄方法

選択性透過膜に対する洗浄効果が高く、選択性透過膜を劣化させることがなく、人や環境に対しても安全で取扱性にも優れ、透過流束等の性能の低下した選択性透過膜を短時間で効率よく洗浄して、性能を回復させることができる選択性透過膜の洗浄剤および洗浄方法を提案する。分子量400以下のポリオール、および必要によりさらに有機溶媒を含む洗浄剤を、モジュール1の濃縮液室3に供給して選択性透過膜2と接触させて洗浄を行い、必要によりさらに水槽6またはアルカリ槽8から、水またはアルカリ液をモジュール1の濃縮液室3に供給して洗浄を行い、選択性透過膜2性能を回復させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、逆浸透膜、ナノ濾過膜等の選択性透過膜を洗浄するための洗浄剤、およびその洗浄剤を使用する洗浄方法に関し、さらに詳しくは、液体の濃縮、脱塩、純水製造等の水処理、あるいはその他の処理などによって汚染され、透過流束その他の性能の低下した選択性透過膜を洗浄して性能を回復させるための洗浄剤、およびその洗浄剤を使用する洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
逆浸透膜、限外ろ過膜等の選択性透過膜を用いて、液体の濃縮、脱塩、純水製造その他の水処理を行うと、選択性透過膜は種々の汚染物質によって汚染され、透過流束が低下したり、選択透過率が低下する。このため性能の低下した選択性透過膜を洗浄剤で洗浄して、性能を回復させることが行われている。
従来、透過流束等の性能の低下した選択性透過膜の洗浄方法では、酸、アルカリ、有機溶媒または界面活性剤を洗浄剤として用いることが多い。例えば日本特許公開昭54−99783号公報には、洗浄剤としてアルカリを用いる洗浄方法が示されているが、この方法では、汚染の度合いが激しいと短時間で透過流束を回復させることは困難であり、また透過流束の回復率も100%には至らない。
日本特許公開昭52−125475号公報や日本特許公開昭58−119304号公報などには、高濃度の有機溶媒を使用する方法が示されている。しかしこの方法では、汚染物質が有機物である場合に高い洗浄効果をもたらすが、膜や膜モジュールを劣化させる危険性があり、実装置に適用することができないのが現状である。例えばメタノールやエタノール、あるいはアセトンなどの有機溶媒は、透過流束の低下した逆浸透膜やナノ濾過膜に対する洗浄力が高い反面、高濃度の場合には膜および膜モジュールを劣化させてしまう。そして膜および膜モジュールを劣化させない濃度では高い洗浄効果が得ることができないという問題点がある。
一方、日本特許公開昭55−51406号公報には、エチレングリコールのアルキルエーテル類を用いる洗浄方法が示されている。しかし、このようなエチレングリコールのアルキルエーテル類は親水性基と疎水性基を有し、一価アルコールに近い構造を有する。そして有害性が高く、刺激臭が強いため、PRTR(環境汚染排出移動登録)法にも指定されており、作業環境評価値も5ppm以下と、使用濃度を高くできないという問題点がある。
本発明の目的は、選択性透過膜に対する洗浄効果が高く、選択性透過膜を劣化させることがなく、人や環境に対しても安全で取扱性にも優れ、透過流束等の性能の低下した選択性透過膜を短時間で効率よく洗浄して、性能を回復させることができる選択性透過膜の洗浄剤および洗浄方法を提案することである。
【発明の開示】
本発明は次の選択性透過膜の洗浄剤および洗浄方法である。
(1) 分子量400以下のポリオールを含む選択性透過膜の洗浄剤。
(2) さらに有機溶媒を含む上記(1)記載の洗浄剤。
(3) ポリオールがエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリコールおよび糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1つである上記(1)または(2)記載の洗浄剤。
(4) 有機溶媒が1価アルコール、エーテル、ケトンおよびアミドからなる群から選ばれる少なくとも1つである上記(2)または(3)に記載の洗浄剤。
(5) 洗浄対象の選択性透過膜は、分子量400を超える高分子のポリアルキレングリコールまたはノニオン性界面活性剤が付着したものである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の洗浄剤。
(6) 透過流束が低下した選択性透過膜を、分子量400以下のポリオールを含む洗浄剤で洗浄する選択性透過膜の洗浄方法。
(7) 洗浄剤はさらに有機溶媒を含む上記(6)記載の方法。
(8) 洗浄剤による洗浄前および/または洗浄後に、他の洗浄方法で前処理洗浄および/または後処理洗浄する上記(6)または(7)記載の方法。
(9) 洗浄は洗浄剤を選択性透過膜に接触させて行う上記(6)ないし(8)のいずれかに記載の方法。
本発明において洗浄の対象となる選択性透過膜は、透過流束、選択透過率、その他の性能の低下した選択性透過膜である。ここで選択性透過膜とは、逆浸透膜あるいはナノ濾過膜など、特定の物質、成分等を選択的に透過させる半透膜であり、その用途は制限されず、一般的な用途のものが対象となる。選択性透過膜の材質としては特に制限されず、例えばポリアミド系透過膜、ポリスルホン系透過膜、ポリイミド系透過膜、セルロース系透過膜などが挙げられる。また洗浄の対象となるのは選択性透過膜自体でもよく、膜モジュールでもよい。洗浄の対象となる膜モジュールには特に制限はなく、例えば管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを挙げることができる。
選択性透過膜の性能低下の原因は何でもよいが、液体の濃縮、脱塩、純水製造等の水処理、あるいはプロセス処理、その他の処理など、逆浸透膜の使用によって汚染されたものが一般的である。汚染物質としても制限はなく、無機物、有機物など、あらゆる汚染物質が対象となるが、特に分子量400を超える高分子のポリアルキレングリコールまたはノニオン性界面活性剤が付着したものに対する洗浄効果が優れている。
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコール、あるいはこれらを構成成分とするノニオン性界面活性剤は、選択性透過膜との親和性が高いため、選択性透過膜の表面や細孔に付着して性能低下の原因となる。このうち分子量400以下のものは親水性が高いため、水洗等により容易に洗浄除去されるが、分子量400を超える高分子のポリアルキレングリコールまたはノニオン性界面活性剤が付着した選択性透過膜は、水の透過では除去されず、性能低下の原因となり、水による洗浄除去が困難である。
本発明者らは、このような汚染物質が付着した選択性透過膜の洗浄について研究を重ねた結果、このような膜汚染物質を除去するためには、洗浄液として用いる物質がOH基を有すること、それも複数有する化合物が有効であることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
本発明の選択性透過膜の洗浄剤は、分子量400以下のポリオールを含む洗浄剤であり、ポリオールの他にさらに有機溶媒を含む洗浄剤が好ましい。本発明の選択性透過膜の洗浄剤は、さらに他の成分を含んでいてもよい。本発明の選択性透過膜の洗浄剤は、使用時には水溶液として使用されることが多いが、製品形態としては、水を含んでいなくてもよい。
ポリオールは複数のOH基を有する化合物であり、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール等のアルキレングリコール;グリセリン;ジエチレングリコール、その他のポリアルキレングリコール等のポリグリコール;およびエリトリトール、マンニトール等の糖アルコールなどが挙げられる。これらのポリオールは親水性のものが好ましく、炭素数2〜6、OH/C比が0.5〜1のものが好ましい。これらのポリオールは一種単独で用いてもよいが、2種以上の混合物として用いることにより洗浄効果を上げることができるので好ましい。汚染物質にノニオン界面活性剤が含まれている場合には、ノニオン界面活性剤の溶解性を増加させて洗浄効果を高めるために、ジエチレングリコール等のポリアルキレングリコールと他のポリオールとを併用するのが好ましい。
ポリオールとともに用いる有機溶媒としては、1価アルコール、エーテル、ケトンおよびアミドなど、従来から用いられている有機溶媒が使用できる。これらの有機溶媒としては、極性溶媒が好ましく、炭素数1〜3のものが好ましい。1価アルコールとしては例えばメタノールやエタノールなど、エーテルとしては例えば上記1価アルコールまたはポリオールのエーテル、ケトンとしては例えばアセトン、アセチルアセトンなど、アミドとしては例えばホルムアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒も一種単独で含まれていてもよく、2種以上の混合物でもよい。
選択性透過膜の洗浄剤として用いるポリオール、およびポリオールと有機溶媒の混合物は、それぞれ水を含まない状態で用いてもよいが、水溶液として用いてもよい。これらの水溶液の濃度は特に限定されないが、通常15〜90重量%、好ましくは35〜60重量%とすることができる。ポリオールおよび有機溶媒を用いる場合は、ポリオールを通常10〜70重量%、好ましくは30〜60重量%、有機溶媒を5〜30重量%とすることができる。
洗浄剤としてポリオールを単独で用いることにより、前記の汚染物質を洗浄除去することができるが、コストを低下させるために、あるいは洗浄効果を上げるために、ポリオールおよび有機溶媒を併用するのがよい場合がある。有機溶媒は従来より用いられて優れた洗浄効果を示すが、高濃度で使用する必要があるため、選択性透過膜を劣化させ、人や環境に対して安全でなく、取扱性にも劣るなどの問題点があった。これに対して有機溶媒を用い、ポリオールと混合することによって有機溶媒の使用濃度を低くできるため、このような問題点がないうえ、相乗的に優れた洗浄効果を得ることができる。
本発明の選択性透過膜の洗浄方法は、透過流束等の性能が低下した選択性透過膜を、上記のポリオールを含む洗浄剤、あるいはポリオールおよび有機溶媒を含む洗浄剤で洗浄する方法である。洗浄の具体的な方法は、選択性透過膜を洗浄剤と接触させる方法があり、洗浄剤液への浸漬、平行流または攪拌流による洗浄などが好ましいが、洗浄剤を選択性透過膜に透過させて洗浄を行うこともできる。洗浄時の圧力は特に制限はなく、浸漬の場合は加圧しなくてもよいが、平行流、攪拌流または透過による洗浄の場合は、被処理液透過時の圧力以下の圧力で加圧することができる。洗浄時間、すなわち洗浄剤と接触させる時間は、汚染の程度、洗浄剤の濃度等により変動するが、一般的には1〜8時間とすることができる。
上記の洗浄剤で洗浄を行うことにより、選択性透過膜に付着している汚染物質は洗浄剤に溶解して流出し、選択性透過膜の低下した透過流束、選択透過率等の性能を回復させることができる。本発明の洗浄剤は、選択性透過膜に対する洗浄効果が高く、選択性透過膜を劣化させることがなく、人や環境に対しても安全で取扱性にも優れ、透過流束等の性能の低下した選択性透過膜を短時間で効率よく洗浄して、性能を回復させることができる。この場合、選択性透過膜の使用により付着した汚染物質のほかに、使用前から付着していた汚染物質も除去されて、除去率や性能回復率が100%を超えることがある。
本発明の洗浄剤に含まれる分子量400以下のポリオールは、水に対しても、高分子のポリアルキレングリコールまたはノニオン性界面活性剤に対しても強い親和性を有するため、選択性透過膜に付着した汚染物質が分子量400を超える高分子のポリアルキレングリコールまたはノニオン性界面活性剤でも、洗浄効果が高く、これらの汚染物質は洗浄剤に溶解して流出し、選択性透過膜を劣化させることがなく、選択性透過膜の性能が回復する。
本発明では、上記の洗浄剤による洗浄前および/または洗浄後に、さらに水、水酸化ナトリウム等のアルカリ、硫酸等の酸などの他の洗浄液による洗浄方法や超音波洗浄などの物理的洗浄方法で前処理洗浄および/または後処理洗浄するのが好ましい。前処理洗浄は、汚染物を予備的に剥離するか、または剥離しやすくするような他の洗浄液または洗浄方法により、前処理として予備的な洗浄を行う。例えば汚染物が強固に付着しているような場合には、アルカリ等の他の洗浄液による洗浄や超音波洗浄などにより、汚染物を剥離しやすくして洗浄剤による洗浄を容易にすることができる。
後処理洗浄は、残留する洗浄剤および剥離した汚染物の除去するような他の洗浄液または洗浄方法により、後処理として補完的な洗浄を行う。洗浄剤として用いた低分子量のポリオールが残留する場合は水による洗浄で十分であるが、分子量が400に近づくにしたがってポリオールが残留しやすくなるので、これを除去するためにアルカリ洗浄液で洗浄すると、残留するポリオールは容易に除去される。アルカリ洗浄液のアルカリ濃度は任意であるが、pH9〜12のアルカリ水溶液とするのが好ましい。これを用いる洗浄方法も任意であるが、上記の洗浄剤による洗浄と同様とすることができる。
本発明の洗浄剤で洗浄後、さらに他の洗浄液で洗浄することにより、洗浄剤で除去されずに残留する汚染物質が洗浄除去され、選択性透過膜の性能を十分に回復するとともに、その後の処理工程において、汚染物質の流出を防止することができる。本発明の洗浄は他の洗浄剤による洗浄と組み合わせて行うこともできる。
本発明の選択性透過膜の洗浄剤によれば、分子量400以下のポリオールを含むため、選択性透過膜に対する洗浄効果が高く、選択性透過膜を劣化させることがなく、人や環境に対しても安全で取扱性にも優れ、透過流束等の性能の低下した選択性透過膜を短時間で効率よく洗浄して、性能を回復させることができる。
本発明の選択性透過膜の洗浄方法によれば、上記の洗浄剤を用いることにより、選択性透過膜を劣化させることなく、安全に、かつ取扱性よく、性能の低下した選択性透過膜を短時間で効率よく洗浄して、性能を回復させることができ、洗浄効果が高い。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施形態の選択性透過膜の洗浄方法を示すフロー図である。
図2は、実施例1〜2、比較例1の結果を示す透過流束の回復率のグラフである。
図3は、実施例1〜2、比較例1の結果を示す脱塩率のグラフである。
図4は、実施例4の結果を示す透過流束の回復率のグラフである。
図5は、実施例5〜8、比較例3の結果を示す透過流束のグラフである。
図6は、実施例9〜10の結果を示す透過流束の回復率のグラフである。
図7は、実施例14〜15の結果を示す透過流束の回復率のグラフである。
図8は、実施例16の結果を示す透過流速のグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は実施形態の選択性透過膜の洗浄方法を示すフロー図である。図1において、1はモジュールで、選択性透過膜2により濃縮液室3と透過液室4に区画されている。5は被処理液槽、6は水槽、7は洗浄剤槽、8はアルカリ槽である。P1は高圧ポンプ、P2は洗浄用ポンプであり、高圧ポンプP1よりも低圧でよい。V1〜V15は弁、L1〜L15はラインである。
図1の選択性透過膜装置で膜分離を行うには、弁V1〜V4を開き(他は閉)、高圧ポンプP1を駆動し、被処理液槽5からラインL1を通して被処理液をモジュール1の濃縮液室3に供給し、加圧下に選択性透過膜2を通して選択性透過を行い、透過液を透過液室4からラインL2を通して処理液として流出させる。濃縮液は濃縮液室3からラインL3を通して排出する。このような膜分離を継続すると、選択性透過膜2に汚染物質が付着し、透過流束、選択透過率等の性能が低下するので、選択性透過膜の洗浄を行う。
選択性透過膜の洗浄は、透過流束等の性能の低下を検出し、洗浄剤をモジュール1の濃縮液室3に供給して選択性透過膜2の洗浄を行い、選択性透過膜の性能を回復する。この場合、弁V5〜V8を開き(弁V1は閉)、ラインL4〜L7を通して水槽6、洗浄剤槽7、アルカリ槽8にそれぞれ処理液(処理水)を導入する。ここで洗浄剤槽7にはポリオールまたはポリオールと有機溶媒を注入して洗浄剤を調製し、アルカリ槽8にはアルカリを注入してアルカリ液を調製する。
洗浄剤で洗浄する場合は、弁V10、V2、V5、V7、V12、V14を開き(他は閉)、洗浄用ポンプP2を駆動し、洗浄剤槽7からラインL10、L9を通して洗浄剤をモジュール1の濃縮液室3に供給して洗浄剤を濃縮液室3に充満させ、選択性透過膜2と接触させて洗浄を行う。濃縮液室3からラインL12、L14を通して洗浄剤槽7に循環して洗浄を行ってもよい。また洗浄剤を加圧下に選択性透過膜2を透過させて洗浄を行う場合は、透過液は透過液室4からラインL4、L6を通して洗浄剤槽7に循環する。
洗浄剤で洗浄後、洗浄する場合は、弁V2、V8、V11、V12、V15を開き、アルカリ槽8からラインL11、L9を通してアルカリ液をモジュール1の濃縮液室3に供給して、洗浄剤の場合と同様に洗浄することができる。
洗浄剤で洗浄後、またはアルカリ液からなる洗浄液で洗浄後、さらに水(処理水)からなる洗浄液で洗浄する場合は、弁V9、V2、V5、V6、V12、V13を開き、洗浄用ポンプP2を駆動し、水槽6からラインL8、L9を通して、洗浄液として処理水をモジュール1の濃縮液室3に供給し、洗浄剤の場合と同様に洗浄することができる。
上記の選択性透過膜2の洗浄では、分子量400以下のポリオールを含む洗浄剤を用いるため、選択性透過膜に対する洗浄効果が高く、選択性透過膜を劣化させることがなく、人や環境に対しても安全で取扱性にも優れ、透過流束等の性能の低下した選択性透過膜を短時間で効率よく洗浄して、性能を回復させることができる。洗浄剤で洗浄後、さらにアルカリ液または水からなる洗浄液で洗浄することにより、残留する洗浄剤および剥離した汚染物を除去することができる。
ポリオールを含む洗浄剤に、洗浄力が高いが高濃度では膜や膜モジュールを劣化させる恐れのあるアルコール、ケトン、エーテル、アミドなどの有機溶媒を、膜や膜モジュールを劣化させない濃度になるように添加することによって、非常に高い洗浄力が得られ、選択性透過膜に対する洗浄効果がさらに高くなる。
図1では洗浄水として処理液を用いているが、系外から純水、軟水等を供給してもよい。また水槽6、洗浄剤槽7、アルカリ槽8は別の槽ではなく、単一の槽を共用してもよい。
実施例1〜2、比較例1:
金属加工工場排水処理装置の処理水を被処理液(COD25mg/L以下)として、日東電工(株)製逆浸透膜NTR−759HRを用いて、1.2MPaの操作圧力で濾過を行った。その結果、透過流束は汚染前の30%まで低下した。実施例1では、エチレングリコールの30重量%水溶液を洗浄液として2時間通水した後、pH12のアルカリ性水溶液を3時間通水した。実施例2では、平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)の70重量%水溶液を洗浄液として2時間通水した後、pH12のアルカリ性水溶液を2時間通水した。比較例1では、pH12のアルカリ性水溶液のみを洗浄液として通水した。その際の透過流束の回復率を図2に示す。図2より、アルカリ性水溶液のみで洗浄した場合に比べて、エチレングリコールまたはポリエチレングリコール(PEG400)で洗浄後アルカリ洗浄を行った場合の方が、回復に要する時間も短く、回復率も高いことが分かる。図3に500mg/Lの塩化ナトリウム水溶液の脱塩率を示すが、洗浄後はいずれの場合も約98%の脱塩率が得られており、膜性能が劣化していないことが分かる。
実施例3、比較例2:
逆浸透膜として日東電工(株)製逆浸透膜NTR−759HRを用いた。機械部品製造工場排水を被処理水(TOC20mg/L以下)として、1.2MPaの操作圧力で濾過を行った。所定時間濾過を行って透過流束が低下した膜に対して、比較例2として、pH12に調整した水酸化ナトリウム水溶液を用いて洗浄を行った。7.5時間通水を行うことで透過流束が0.8m/(m・d)となるまで回復した。水酸化ナトリウムを通水する前後で、1時間ずつ純水を通水している。その後、再び排水を所定時間濾過したところ透過流束が減少したため、実施例3として、エチレングリコール70重量%、メタノール30重量%の混合液を洗浄液として2時間通水し、続いて1時間純水を通水した。この膜の使用前の純水透過流束は1m/(m・d)であり、アルカリ洗浄のみでは水洗も含めて9.5時間でも完全には回復しなかったのに対して、エチレングリコールとメタノールの混合液で洗浄を行うことで、僅か3時間で透過流束が完全に回復した。なお、500mg/Lの塩化ナトリウム水溶液を用いて脱塩率を測定したところ、試験前が98.0%、試験後は97.5%と、ほとんど変化が見られなかった。
実施例4:
機械部品製造工場排水を被処理水(TOC20mg/L以下)として、実施例3と同条件で処理を行ったところ透過流束が減少したため、洗浄液としてグリセリン70重量%、メタノール30重量%の混合液を1時間通水し、続いて1時間純水を通水した。洗浄前後の透過流束の回復率を図4に示す。図4より、高い透過流束の回復率が認められる。
実施例5〜8、比較例3:
実施例4において、洗浄液として、エチレングリコール(EG)30重量%、エタノール(EtOH)30重量%の混合液(実施例5)、プロピレングリコール(PG)30重量%、エタノール(EtOH)30重量%の混合液(実施例6)、エチレングリコール(EG)30重量%、ホルムアミド(HA)30重量%の混合液(実施例7)、エチレングリコール(EG)70重量%、アセトン(Aceton)5重量%の混合液(実施例8)、ならびにエタノール(EtOH)30重量%(比較例3)を、それぞれ1時間通水し、続いて1時間純水を通水した。洗浄前後の透過流束を図5に示す。図5より、実施例5〜8は比較例3に比べて、高い透過流束の回復率が認められる。図5において、Originalは使用前の透過流束(参考例)を示す。
比較例4:
ノニオン界面活性剤を含む排水を被処理液として濾過を行って、透過流束が0.6m/(m・d)に低下したNTR759HR膜(日東電工(株)製)を、60重量%メタノールで洗浄したところ、透過流束は0.9m/(m・d)程度まで回復したが、脱塩率は98%から93%まで減少した。
比較例5:
被処理水にアセトン水溶液を用いてモジュールの耐久性を調べた。膜モジュールとしては、NTR759HR4インチモジュール(日東電工(株)製)を使用した。アセトン水溶液のアセトン濃度5重量%では問題なく、10重量%でも通水可能であったが、30重量%にするとモジュールが破壊されて、被処理液がそのまま透過側に流出した。
実施例9〜10:
印刷塗料製造工場排水処理装置の処理水を被処理液(COD30mg/L以下)として、東レ(株)製逆浸透膜SU720Pを用いて1.5MPaの操作圧力で濾過を行った。その結果、透過流束は汚染前の50%まで低下した。実施例9では、70重量%エチレングリコールと30重量%メタノールの混合液を洗浄液として1時間浸漬した後、1時間純水通水を行った。実施例10では、純水に浸漬して5分間超音波照射を行った後、pH12のアルカリ性溶液を15時間通水し、その後70重量%エチレングリコールと30重量%メタノールの混合液を洗浄液として1時間浸漬した後、1時間純水通水を行った。各洗浄操作後の500mg/Lの塩化ナトリウム水溶液の透過流束の回復度を図6に示す。実施例9における洗浄操作でも透過流束は回復しているが、実施例10の洗浄操作では、他の洗浄方法との複合効果によりさらに高い透過流束が得られている。
実施例11〜12:
ノニオン界面活性剤を含む排水を被処理液として、日東電工(株)製逆浸透膜NTR759HRを用いて1.2MPaの操作圧力で濾過を行った。その結果、透過流束は0.2m/(m・d)まで低下した。実施例11では、膜モジュールを70重量%エチレングリコールと30重量%メタノールの混合液を洗浄液として1.5時間浸漬した後、1時間純水通水を行った。実施例12では膜モジュールを50重量%エチレングリコール、20重量%ジエチレングリコール、および30重量%メタノールの混合液を洗浄液として1.5時間浸漬した後、1時間純水通水を行った。実施例11、12における洗浄後の純水透過流束は、それぞれ83%、100%に回復した。実施例11の組成でも透過流束は回復するが、実施例12ではさらに高い洗浄効果が得られている。これは、エチレングリコールの一部をジエチレングリコールに変えることで、洗浄液へのノニオン界面活性剤の溶解性が増したためと考えられる。
実施例13:
市水を被処理水として、日東電工(株)製逆浸透膜NTR759HRを用いて1.5MPaの操作圧力で濾過を行った。透過流束が18%低下した膜モジュールを、10重量%エリトリトールと30重量%エタノールの混合液を洗浄液として1時間浸漬した後、5時間純水通水を行った。その結果、透過流束は約15%回復し、オリジナルに近い値になった。
実施例14〜15:
印刷塗料製造工場排水処理装置の処理水を被処理液(COD30mg/L以下)として、東レ(株)製逆浸透膜SU720Pを用いて1.5MPaの操作圧力で濾過を行った。その結果、透過流束は汚染前の50%まで低下した。実施例14では、70重量%エチレングリコールと30重量%メタノールの混合液を洗浄液として1時間浸漬した後、1時間純水通水を行った。実施例15では、68重量%エチレングリコール、30重量%メタノール、2重量%アセチルアセトンの混合液を洗浄液として1時間浸漬した後、1時間純水通水を行った。各洗浄操作後の500mg/Lの塩化ナトリウム水溶液の透過流束の回復度を図7に示す。実施例14における洗浄操作でも透過流束は回復しているが、実施例15の洗浄操作では、さらに高い透過流束が得られている。これは、アセチルアセトンの添加による膜汚染物質の洗浄液への溶解性向上によるものと考えられる。
実施例16:
機械部品製造工場排水を被処理液(TOC12mg/L)として、日東電工(株)製逆浸透膜NTR759HR膜を用いて1.2MPaの圧力で50時間濾過を行った。その結果、透過流束は図8に示すように0.55m/(m・d)まで低下した。その後、70重量%エチレングリコールと30重量%メタノールの混合液を洗浄液として1時間浸漬した後、1時間純水通水を行った。洗浄後、再び同じ被処理液の濾過を行ったところ、洗浄を行う前よりも高い初期透過流束が得られ、50時間に渡って高い透過流束を得ることができた。また、脱塩率はいずれの場合も99%であった。
【産業上の利用可能性】
本発明は、逆浸透膜、ナノ濾過膜等の選択性透過膜を洗浄するための洗浄剤、およびその洗浄剤を使用する洗浄方法に利用される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量400以下のポリオールを含む選択性透過膜の洗浄剤。
【請求項2】
さらに有機溶媒を含む請求項1記載の洗浄剤。
【請求項3】
ポリオールがエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリコールおよび糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1または2記載の洗浄剤。
【請求項4】
有機溶媒が1価アルコール、エーテル、ケトンおよびアミドからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項2または3に記載の洗浄剤。
【請求項5】
洗浄対象の選択性透過膜は、分子量400を超える高分子のポリアルキレングリコールまたはノニオン性界面活性剤が付着したものである請求項1ないし4のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項6】
透過流束が低下した選択性透過膜を、分子量400以下のポリオールを含む洗浄剤で洗浄する選択性透過膜の洗浄方法。
【請求項7】
洗浄剤はさらに有機溶媒を含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
洗浄剤による洗浄前および/または洗浄後に、他の洗浄方法で前処理洗浄および/または後処理洗浄する請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
洗浄は洗浄剤を選択性透過膜に接触させて行う請求項6ないし8のいずれかに記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/076040
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502871(P2005−502871)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002078
【国際出願日】平成16年2月23日(2004.2.23)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】