説明

選択透過性膜モジュールの製造方法および選択透過性膜モジュール

【課題】選択透過性膜表面を効率よく洗浄でき、かつ洗浄で膜表面から剥離した濁質成分を効率よく容器内から排出できる選択透過性膜モジュールの製造方法および選択透過性膜モジュールを提供する。
【解決手段】本発明は、選択透過性膜を容器に収納し、該選択透過性膜の両端が固定されたモジュールを作製する際に、該選択透過性膜の両端を少なくとも1本の洗浄管で接続された上部ホルダーおよび下部ホルダーに固定した後、容器に収納することを特徴とする選択透過性膜モジュールの製造方法である。また前記製造方法により製造された選択透過性膜モジュールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は河川水、湖沼水、地下水、かん水、海水あるいは下水排水などの懸濁物質を含む水(以下原水という)を処理して、これらに含まれる微粒子や微生物等を除去する選択透過性膜モジュールの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、選択透過性膜モジュールにおいて、各選択透過性膜に対して均一に原水が供給でき、膜表面に付着した懸濁物質等の固形成分を均等に効率よく洗浄でき、選択透過性膜表面から剥がれた濁質成分を効率よく排出できる選択透過性膜モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原水を直接または前処理後に、選択透過性膜モジュールを用いてろ過する場合、一般には選択透過性膜を容器に収納し、ポンプなどの外圧により、選択透過性膜に原水を供給してろ過する加圧型か、濾過槽内に選択透過性膜を浸漬させ、選択透過性膜を介して吸引することで、ろ過水を取り出す浸漬型が利用されている。
【0003】
加圧型中空糸膜モジュールの場合、中空糸膜の外表面に原水を供給して中空糸膜の内側よりろ過水を取り出す外圧式と、中空糸膜の内表面に原水を供給して中空糸膜の外側よりろ過水を取り出す内圧式がある。また一般には、ある一定のろ過操作を行う時間が経過すると中空糸膜の表面に付着した濁質成分を除去するために洗浄操作が行われる。すなわち外圧式では中空糸膜の内側から外側に向けて、内圧式では中空糸膜の外側より内側に向けて、ろ過水の一部を押出すことで膜表面に付着した濁質成分を剥がし取る。
【0004】
中空糸膜の外側の表面積は内側の表面積より大きくなるので、同じろ過水量を得るためには被処理水を外側から供給するほうが、膜面積あたりの水量を小さくでき、膜への負荷が小さくなるので外圧式の方が有利である。しかしながら近年、中空糸膜モジュールが大型化され、容器に収納される中空糸膜の本数が増えると、中空糸膜束の中心付近にある中空糸膜の表面に付着した濁質成分を洗浄操作により除去することはできても、中空糸膜束の外側にまで効率よく排出することが難しく、中空糸膜表面に再び付着することがある。
【0005】
このような洗浄操作において、中空糸膜モジュールの下部よりエアを入れ、中空糸膜の間を気泡が上昇することで中空糸膜を揺らし、中空糸膜間の隙間を広げることで濁質成分を効率よく外部に排出するエアスクラビング法が用いられる。しかしながら、モジュールが大型になった場合は、中空糸膜束の外周部よりエアを入れても、中央付近の中空糸膜には届かず、中空糸膜表面の濁質成分が洗浄できないといった問題点が生じる。
【0006】
このような問題に対して種々の提案がなされてきた。例えば特許文献1の図1に見られるように、中空糸膜をU字状に束ねたものを接着したモジュールではU字部の下方よりエアを入れると気泡は中空糸膜間を通り、中央付近の中空糸膜へも気泡が届くために効率よく洗浄することができる。しかしながらU字部分の中空糸膜が固定されていないために、エアスクラビングする際の中空糸膜の揺れが大きく中空糸膜を破断させる可能性が生じる。また中空糸膜が揺れる際にU字状を形成するための結束部材との摩擦が生じ、結果として中空糸膜が破断する可能性がある。
【特許文献1】特開平10−28846号公報(2頁〜4頁)
【0007】
また特許文献2に見られるように中空糸膜を樹脂で封止した樹脂隔壁に開口した空間自体を原水の供給口となすことが提案されている。中空糸膜と平行にプラスチック製チューブ状体を束ね、樹脂で硬化させた後にチューブ状体を抜くことで原水供給口の空間を作るものである。この場合チューブ状体を抜く作業が増えるうえに、チューブ状体を抜く際に、チューブ状体に接する中空糸膜を封止している樹脂まで取り、封止不良を引き起こすという可能性がある。またエポキシ樹脂のような剛性の高い樹脂を用いた場合には、チューブ状体を取り除く際に樹脂に亀裂が入る可能性がある。またチューブ状体と中空糸膜を束ねてチューブ状体を所定に位置に配置することは非常に困難であり、あらかじめチューブ状体を所定の位置に取り付けた状態から中空糸膜を挿入する場合はチューブ状体を掻き分けて中空糸膜を挿入する必要があり、接する中空糸膜を破損させるおそれもある。
【特許文献2】特開昭61−242607号公報(2頁〜4頁)
【0008】
特許文献3には、側面に細孔を有するパイプのまわりに多数の多孔質中空糸膜が配列され、該パイプおよび該中空糸膜束の少なくとも一方が接着剤で固定された状態で外筒容器の中に収納されている中空糸膜モジュールが開示されている。しかし、該特許に開示されているパイプは、原液の流入口、容器内液体の排出口、および中空糸膜を振動させるための洗浄エアの供給口を兼ねるものであるため、該中空糸膜モジュールより構成されたろ過装置においては、ろ過操作、洗浄操作の度に弁の開閉および流路の切替え操作を行わなければならず操作が煩雑である。またエア抜き弁が容器の側面に取り付けられているため、モジュール内から完全にエアを排出することができない問題がある。さらに、完全にエアが抜けないため、中空糸膜上部に濁質成分が吸着しやすい問題がある。
【特許文献3】特開平7−136469号公報
【0009】
特許文献4には、ケースに中空糸膜束を挿入し、封止用仮キャップをケース端部にケースの長さ方向に装着し、予め中空糸膜束端部のみを該仮キャップ内で樹脂により硬化した後、次いでケース端部および中空糸膜端部相互間を接着封止硬化後、封止用仮キャップをケースの長さ方向に取り除く中空糸型膜モジュールの製造方法が開示されている。
【特許文献4】特開平7−31852号公報
【0010】
特許文献5には、モジュールケース内に収容された多数本の中空糸膜が2ないし7個の小束に分割されており、各小束はそれぞれ保護ネットで巻かれており、保護ネットで巻いた各小束の末端部は、仕切り板で互に分離した状態で接着剤によりモジュールケースに固定されている中空糸膜分離モジュールが開示されている。すなわち該特許文献に開示されたモジュールは1区画あたり1つの小束が収容されたモジュールである。このような構成は比較的小型のモジュールや特定形状の区画を有するモジュールでは採用可能であるが、大型のモジュールや複雑な形状(鋭角部が比較的多いような形状)の区画を有するモジュールに対しては適応が困難である。
【特許文献5】特許第2932394号公報
【0011】
また特許文献5には中空糸膜の小束のまわりに保護ネットを巻きつけ、モジュールケースに収容する技術が開示されている。同じように特許文献6には、中空糸膜束を筒状の保護ネットに収納し、ケースに装填してモジュールを作製する技術が開示されている。
【特許文献6】特開平2−203924号公報
【0012】
特許文献7には、中空糸膜の一端が封止され、他端が開口された中空糸ろ過膜モジュールにおいて、中空糸膜束の中側に側面に複数個の細孔を有する管状体が、中空糸膜の開口側と相対する一端が開口された状態で中空糸膜束と共に接着固着されている中空糸ろ過膜モジュールが開示されている。また特許文献3にも原液の流入口、容器内液体の排出口、および洗浄エアの供給口として用いられる、側面に細孔を有するパイプを用いた中空糸膜モジュールが開示されている。いずれの特許文献に記載された管状体およびパイプも原水の導入口になっていることが特徴である。
【特許文献7】特開昭61−192310号公報
【0013】
特許文献8には、多数の中空糸膜の両端を接着固定して中空糸膜束固定端部を設けた中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜モジュール下端における中空糸膜束固定端部に気体を導入するスリットを設けた中空糸膜モジュールが開示されている。該特許文献に記載の中空糸膜束固定端部は接着樹脂にて成形されていることから、固定端部に設けられたスリットは接着樹脂が固化した後に後加工により作製、あるいは予めスリット形状を有する部材とともに接着固化した後、部材を引き抜くことにより工作されたものである。このような加工方法によりスリットを設ける場合、加工時に樹脂にクラックが入るとか中空糸膜に損傷を与えるとか品質が安定しないなどの問題がある。
【特許文献8】実開昭61−106307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決することを目的とするものであって、外圧式加圧型中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜モジュールが大型化されても、中央付近の中空糸膜にスクラビング用のエアを届け、洗浄操作時において膜表面から剥がれた濁質成分が効率よく中空糸膜モジュール外に排出され、かつ製造工程中に不良を発生させにくく、製造しやすい中空糸膜モジュール構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を克服すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち本発明は以下の構成を有する。
(1)選択透過性膜を容器に収納し該選択透過性膜の両端が固定されたモジュールを作製する際に、該選択透過性膜の両端を、少なくとも1本の洗浄管で接続された上部ホルダーおよび下部ホルダーに固定した後、容器に収納することを特徴とする選択透過性膜モジュールの製造方法。
(2)上部ホルダーおよび下部ホルダーが予め成形されたプラスチックまたは金属であることを特徴とする(1)に記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
(3)下部ホルダーにスクラビングエア導入用のスリット孔が設けられたことを特徴とする(1)または(2)に記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
(4)上部ホルダーおよび下部ホルダーに選択透過性膜を固定するための区画が設けられていることを特徴とする(1)〜(3)いずれか記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
(5)上部ホルダーおよび下部ホルダーに設けられた区画に選択透過性膜を挿入し、樹脂にて接着固定することを特徴とする(1)〜(4)いずれか記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
(6)下部ホルダーの側面に容器内面に内接するように複数の突起が設けられていることを特徴とする(1)〜(5)いずれか記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
(7)選択透過性膜が中空糸膜であることを特徴とする(1)〜(6)いずれか記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
(8)中空糸膜が複数の小束に分割されていることを特徴とする(7)に記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
(9)小束にそれぞれ保護ネットが巻かれていることを特徴とする(8)に記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
(10)(1)〜(9)いずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする選択透過性膜モジュール。
【発明の効果】
【0016】
本発明の選択透過性膜モジュールの製造方法において、予め加工されたホルダーを用いることにより、モジュールの生産歩留まりやモジュール耐久性、品質を著しく向上することが可能となる。また、本発明の方法を用いて製造された選択透過性膜モジュールは、濁質成分を効果的に膜面に浮き上がらせることが出来、かつ濁質成分の系外への排出性に優れているため、洗浄コストを低減できる効果がある。また、選択透過性膜モジュールの性能回復性に優れているため、エレメントの寿命が長くなり、また交換が必要な場合もエレメントのみ交換することができるので浄水コストを低減できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、選択透過性膜モジュールの製造方法および選択透過性膜モジュールに関するものであり、選択透過性膜モジュールを構成する部材、接着剤の材質および選択透過性膜の素材等に関しては、特に限定されるものではない。たとえば、河川水や湖沼水、地下水、海水等の懸濁物質を含む原水から除濁して、水道用や工業用の浄水として使用する用途や、海水淡水化の逆浸透膜システムの前処理として用いられる場合には、精密ろ過膜や限外ろ過膜などの選択透過性膜が広く用いられており、膜の形状も平膜、中空糸膜、管状膜に至る広範囲のものがあるが、これらの膜は本発明の選択透過性膜モジュールの選択透過性膜として用いることができる。本発明においては、中空糸膜がより好ましい。中空糸膜形状の場合、洗浄性との絡みで好ましくは中空糸膜内径が200〜1200μm、外径が300〜2000μmである。中空糸膜の外径が細すぎるものは中空糸膜が弱くなるため逆洗等の工程で中空糸膜が切れ易くなり、洗浄の条件、頻度が制限されることがある。また、中空糸膜が太すぎる場合は容積当たりの膜面積が小さくなるため、同一ろ過水量を得るためには膜面積当たりのろ過水量が多くなり、中空糸膜面への濁質成分の蓄積量が増えるとともに、中空糸膜の剛性が上がって逆洗時の中空糸膜揺れが起きず、中空糸膜表面に付着した懸濁物質等の剥離性が下がることがある。
【0019】
従来、精密ろ過(MF)膜や限外ろ過(UF)膜のような膜を使ってろ過を実施する場合はクロスフローろ過が用いられてきた。クロスフローろ過では膜表面に形成されるゲル層やケーク層などの付着層を供給液の流れで剥がし取り、ろ過による蓄積と流れによる剥離が平衡になることで、ろ過性能を安定化させようとするものである。しかしながら、ろ過液流速を高めようとすると、付着層を剥離する力が弱くなるため、ある程度過剰に供給液を流す必要がある。また非ろ過成分の濃縮された濃縮液をそのまま廃棄すると全体の回収率が低くなってしまうため、再度供給液に戻す循環操作が行われる。このことは供給液ポンプ流量が上がることでのポンプ消費動力のアップと、濃縮液還流系の配管が増えることから装置が複雑化し設備コストがアップするなどの問題点がある。一方、全量ろ過では供給水がすべてろ過されるため、ろ過工程での回収率は100%である。しかしながら懸濁物質を含む水の処理では、膜に膜不透過の成分が蓄積するため経時的に膜ろ過性能が低下することとなる。このため逆洗する必要があるが、この洗浄効率を高めることで逆洗時に消費する処理水量を下げ濃度の高い膜ろ過排水とすることができれば簡便な膜ろ過システムによる、高回収率で排水等の少ない効率的な膜ろ過システムを構成することができ、全量ろ過が望ましい。
【0020】
本発明の選択透過性膜モジュールの一例を以下に示す。図3−1,図3−2に示す下部ホルダー2と図4−1,図4−2に示す上部ホルダー14が図2の示すように洗浄管19で接続されており、それぞれステー30で分割された区画部13を有する。上部ホルダー14の区画部13は貫通しているが、下部ホルダー2には底部33を有し、それぞれの区画部が平行になる位置で固定されている。該区画部13に定められた数の中空糸膜を束ねて樹脂製ネットに入れた中空糸膜束3を挿入し、接着樹脂4にて上下のホルダーに固定する。上部ホルダー側の中空糸膜束3と接着樹脂4の一部を切削し、開口端をつくる。このようにしてできたものを図2に示すエレメント34と呼ぶ。図1に示すようにエレメント34を容器1に挿入し、下部キャップ17および上部キャップ5を取り付け、それぞれカップリングバンド16、16‘で接続したものをモジュールと呼ぶ。上部キャップ5は、ろ過水室18と洗浄管接続部20を備え、シール部材によりろ過水と洗浄排水が混ざらないようにする。ろ過水出口11と洗浄排水出口12の位置は客先の要望に合わせて、いずれも上方部または側面部に設けることが可能である。
【0021】
このようにしてできたモジュールを垂直に取り付け、ろ過操作を行う。原水供給口10よりモジュールに供給された原水は、下部ホルダー2のスリット9および下部ホルダー2と容器1と突起部32で囲まれた外周スリット35より、中空糸膜束3に供給される。中空糸膜を透過したろ過水は、中空糸膜の上部開口端より、上部キャップ5のろ過水室18で集水され、ろ過水口11よりモジュール外に出ていく。
【0022】
懸濁物質を含む水を処理する場合、選択透過性膜の透水性能が高い方が、低圧でろ過操作ができ、供給ポンプの所用動力等の面で有利であるが、膜透水性を上げることは、一般的に膜細孔径をアップさせることとなり、より大きな物質が膜細孔内に入り込むことになるため分離効率や性能保持性が低下する可能性がある。また、透水性能アップはモジュール当たりの処理能力を上げるため、単位面積当たりのろ過水量が増えることで、膜表面への濁質成分の蓄積が増加し、逆洗での洗浄性が悪くなることがある。このため、膜の透水性能としては、限外ろ過(UF)膜では50〜1000L/m2/hr/100kPaの間にあることが望ましい。より好ましくは100〜950L/m2/hr/100kPa、さらに好ましくは150〜900L/m2/hr/100kPaである。精密ろ過(MF)膜では1000〜7000L/m2/hr/100kPaの間にあることが望ましい。より好ましくは1100〜6000L/m2/hr/100kPa、さらに好ましくは1200〜5000L/m2/hr/100kPaである。一方、膜構造に関しては、膜外表面、内表面に緻密層を有し、膜の中央部にマクロボイドや指状(フィンガーライク)構造や、逆ろ過等の操作で膜内部に入り込んだ懸濁物質が外に向かって出やすい、一表面から他表面に向かって細孔径が大きくなるような傾斜構造を持つ非対称膜や、全体がスポンジ状の均一構造からなる均質膜等があるが、懸濁物質を含む水の処理には膜内部に懸濁物質が入りにくいスポンジ状構造が望ましい。なお外圧型の選択透過性膜では懸濁物質が膜内部に入り込まないように膜外表面が緻密層を有することが望ましい。
【0023】
中空糸膜の強度に関して、ろ過時や逆洗時などに発生する中空糸膜切れによるリークを防止するために中空糸膜1本当たり100g以上の破断強度があることが望ましい。本発明のモジュール構造では、中空糸膜に向かって垂直な流れをできる限り小さくする工夫がなされており、極端に大きな力が掛からないようにされているが、逆洗の効果を上げるためには中空糸膜を揺らし表面の付着物を押し流す流量が必要である。このため中空糸膜の接着部のつけ根、特に縦置きの場合は上部のつけ根に力が集中し中空糸膜傷や中空糸膜切れが発生することがある。したがって中空糸膜1本あたりの破断強度は、より好ましくは150g以上、さらに好ましくは200g以上である。
【0024】
膜素材に関しては酢酸セルロースなどのセルロースエステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂、ポリ塩化ビニルやポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどの含ハロゲン系樹脂、ポリアクリロニトリルなど様々な素材の中空糸膜を使うことができる。膜洗浄によく用いられる塩素系薬剤や酸、アルカリなどの薬剤に対する化学的耐久性や、逆ろ過やスクラビングなどの物理的な洗浄操作に対する力学的な耐久性などから、ポリエチレンやポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデンなどを膜素材として用いることが好ましい。
【0025】
ろ過膜モジュール内の中空糸膜の配置としては、平行配置、交差配置いずれでもよいが、逆洗時に膜の外面に付着した固形懸濁成分を効率よく洗浄するためには、中空糸膜が流れによって少し揺れたり振動したりすることが好ましい。交差配置では中空糸膜が固定されたようになるため逆洗時の水の通り道が固定されてしまい、水の流れが偏ることで膜面全体の洗浄が難しくなる可能性がある。また中空糸膜同士の接触を小さくする目的で中空糸膜に捲縮(クリンプ)等がついていてもよい。
【0026】
中空糸膜モジュールの膜ろ過室29における中空糸膜の充填率は、膜ろ過の容積効率と逆先時の洗浄性を確保する上で重要なファクターであり、膜ろ過室の体積に対する中空糸膜体積の比率(vol%)で30vol%〜60vol%であることが必要であり、さらに望ましくは40vol%〜55vol%の間であることが好ましい。充填率が30vol%未満の場合は、モジュールあたり、単位圧力でのろ過流量が低くなり、モジュール容積、設置面積やポンプ動力消費の面で不利になることがある。一方、充填率が高すぎる場合は、同一圧力での逆洗水量が多くなるため、排出時に中空糸膜に掛かる力が大きくなるのに加えて、中空糸膜束の動きが小さくなり、中空糸膜充填の粗密のばらつきが固定化され、逆洗水の偏流が起こることで中空糸膜が密に入った部分の洗浄ができなくなり、固形成分が蓄積して膜性能の低下を引き起こす現象が見られることがある。
【0027】
中空糸膜を固定するホルダーの素材は容器と同じ素材であることが好ましいが、これに限定はしない。また上部ホルダーと下部ホルダーの素材は同じであっても異なっていても良い。具体的な素材としてはポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビリニデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ABS樹脂、ポリオキシメチレン等の使用が可能である。またステンレス、アルミニウムなどの金属を用いることもできる。加工性やコストの面よりポリ塩化ビニルが好ましい。このように予め加工されたホルダーを用いることにより、モジュールの生産歩留まりやモジュール耐久性、品質を著しく向上することが可能となる。
【0028】
下部ホルダーについては、一例として図3−1、図3−2に示されるようなスリット9(モジュール内への気泡の導入口)、中空糸膜(束)を挿入する区画13(中空糸膜の小束を挿入したのち、樹脂を注入して固定)、洗浄管を接続するための洗浄管接続部36(洗浄管端部を封止できる構造)、突起32(突起がモジュール容器の内面に接する大きさであり、突起とホルダー内周と容器内周との間隙およびスリットを通して原水をモジュール内に導入する)を有する形状のものを使用することができる。上部ホルダーについては、一例として図4−1、図4−2に示されるような形状を有するものを使用することができるが、これに限定されるものではない。上部ホルダーの区画は下部ホルダーと同様な区画でも良いし予め上面まで貫通した孔でも構わない。上部ホルダーには突起を設けない。上部ホルダーには洗浄管の端部が開口するように貫通孔が設けられている。
【0029】
上部ホルダーおよび下部ホルダ−の中空糸膜束を区画するための区画の数は3以上が好ましい。2以下では洗浄の効率が高くなく区画する意義がなくなる。また区画数が多すぎると1つの区画の大きさが小さくなり、区画間の隙間の数が増えて容器の断面積に占める(対する)中空糸膜が充填されない面積の割合が増え、結果として中空糸膜の充填率が下がるとか、頂点の部分が鋭角になり中空糸膜を充填することが困難になるなどの問題が発生することがある。中空糸膜の充填率が下がるとモジュールの透水性能が下がる。したがって中空糸膜束を区画する数は3以上16以下であることが好ましい。より好ましくは4以上12以下である。さらに好ましくは5以上12以下である。
【0030】
区画の深さは、下部ホルダーにおいては、中空糸膜(束)を固定できるだけの深さを設ける必要がある。もちろん上部ホルダーと同様、厚み方向に貫通しても構わない。区画の深さは5〜120mmが好ましい。区画の深さが浅すぎる場合には接着樹脂で中空糸膜の下端を封止できないことがある。したがって区画の深さは7mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましく、15mm以上がよりさらに好ましい。また区画の深さが深すぎる場合は、ホルダー自体が大きくなるためホルダー製造にかかるコストが上昇するとか、デッドスペースが出来やすくなるため浄水効率が低下するなどの問題が発生することがある。したがって区画の深さは120mm以下がより好ましく、100mm以下がさらに好ましい。
【0031】
各区画間に設けたスリットの形状、数、位置、大きさなどは、スクラビングエア(気泡)が抵抗無く通過することができ、中空糸膜間にほぼ均一に気泡を分配できるものであれば特に限定されない。スリットの形状としては、円形、楕円形、多角形、三日月型、稲妻型などいずれでもよい。
【0032】
例えば、一例として図3−1、図3−2に示されるようなスリット9の場合、幅は1mm以上10mm以下が好ましい。1mmより小さいと加工が困難であり、プラスチックの成形も困難である。10mmより大きい場合、樹脂で封止された中空糸膜の裏側の中心部からエアを入れた時に、大部分のエアが一部のスリットやスリットの中心付近から上昇するため、スリットの端部にはエアが届かず、結果としてエレメント34の外周付近に存在する中空糸膜の洗浄効率が悪くなる可能性がある。したがって各区画間に設けたスリットの幅は3mm以上8mm以下がより好ましい。
【0033】
各区画間に設けたスリットは下部ホルダーの中心付近より放射状に伸びており、その長さは、円筒容器の半径の5%以上90%以下であることが好ましい。5%以下では容器の断面積に閉めるスリットの割合が小さく、原水およびエアを供給する際の圧力損失が大きく、原水やエアを供給するためのポンプ、コンプレッサの負荷が大きくなるという問題点がある。また90%より大きいとスリット部分から亀裂が生じやすいなど強度上問題が起こる。これらのことからスリットの長さは円筒容器の直径の5%以上90%以下である。好ましくは10%以上80%以下である。またこの範囲内であれば放射線上にあるスリットをいくつ分割してもよい。
スリット部の高さは接着樹脂がスリットを埋めることがないような高さにする必要がある。あまり高すぎるとデッドスペースが生じるため、エアスクラビング時の洗浄効果や浄水効率が低下する可能性がある。したがってスリット部の高さはホルダーの高さより30mmを超えないのが好ましい。より好ましくは25mm以下、さらに好ましくは20mm以下である。
【0034】
1つのモジュールに収容する小束の数は、中空糸膜本数が多いほど(モジュールが大型化するほど)、小束の数を多くするのが好ましい。例えばモジュール内の中空糸膜本数が同じの場合、小束の数を増やすに従い浄水効率や洗浄効率は向上するが、モジュール製造は複雑になり生産効率は低下する可能性がある。モジュールの大きさや収容する中空糸膜の本数にもよるが小束の数は4〜60が適当である。分割数が少なすぎると、エアースクラビング時のエアが中空糸膜間に入りにくくなるため洗浄性が低下することがある。したがって小束の数は5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、7以上がよりさらに好ましい。また小束の数が多すぎるとモジュール充填率を上げられなくなるとか生産コストが高まるなどの問題があるので、小束の数は60以下がより好ましく、55以下がさらに好ましく、50以下がよりさらに好ましい。
【0035】
1つの小束の中空糸膜本数は500〜2000本が好ましい。中空糸膜本数が少なすぎると保護ネットの占める割合が増え中空糸の充填密度が下がり、結果としてモジュール当たりの透水性能が下がることになる。したがって小束の中空糸膜本数は550本以上がより好ましく、600本以上がさらに好ましい。中空糸膜本数が多すぎると保護ネットによる拘束力が増えてエアースクラビングによる洗浄の際に中空糸膜のゆれが起こりにくく洗浄効率を下げる。また中空糸膜の揺れの際に保護ネットとの摩擦による中空糸膜の損傷が懸念される。したがって小束の中空糸膜本数は1900本以下がより好ましく、1800本以下がさらに好ましい。
【0036】
また1つの区画に入れる小束の数はモジュールの大きさや区画の大きさ(面積)、形状にもよるが2〜10が好ましい。1区画あたりの小束の数が少なすぎるとエアースクラビング時、中空糸膜間に気泡が入り難くなることがある。したがって1区画あたりの小束の数は3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。逆に1区画あたりの小束の数が多すぎても同様にエアースクラビング時、中空糸膜間に気泡が入り難くなることがある。したがって1区画あたりの小束の数は8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0037】
1つの区画の大きさ、形状などは特に限定されず、スリットの形状や効率よくエアースクラビングを行うという観点から決めるべきである。また上部ホルダーと下部ホルダーにおいて区画の大きさ、形状は同じであっても異なっていても良い。
【0038】
小束は保護ネットを巻きつけるのが好ましい。保護ネットは網状物を使用するのが好ましい。網の目の大きさは0.1〜10mmが好ましい。より好ましくは0.3〜7mm、さらに好ましくは0.5〜5mmである。保護ネットの材質は、耐溶剤性や耐バクテリア性の面から、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。これらの中で、ポリエチレンを用いるのがより好ましい。
【0039】
本発明に用いる洗浄管は、選択透過性膜モジュールの洗浄において生ずる気泡および洗浄排水をモジュール外に排出するための排出管の役割を果たす。そのため洗浄管の下端は封止されている必要がある。封止する手段としては特に限定されないが無孔の下部ホルダーを用いても良いし樹脂を充填するなどして封止してもよい。洗浄管の素材としては、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビリニデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ABS樹脂、ポリオキシメチレン、FRP等の使用が可能である。また、ステンレス、アルミニウムなどの金属を用いることもできる。中でも加工性やコストの面より、ポリ塩化ビニルが好ましい。ホルダーと同じ部材を用いるのが好ましい実施態様である。
【0040】
本発明において、洗浄管の側面には、全体にわたって小孔が設けられているのが好ましい。小孔の数、大きさはモジュールの大きさや、選択透過性膜モジュールの膜面積、洗浄液流量、エアースクラビング時の気泡の量や大きさにより適宜決めれば良いが、小孔全体の開孔面積は洗浄管端部開口面積の0.5〜2倍程度が好ましい。洗浄管の内径はモジュール直径の0.1〜0.4倍程度が好ましい。洗浄管の内径が小さすぎると洗浄管からの洗浄廃液を排出する際、排出抵抗が大きくなり、排出能力が下がると結果として洗浄効率が悪くなる。したがって、洗浄管の内径はモジュール直径の0.15倍以上がより好ましく、0.2倍以上がさらに好ましい。逆に洗浄管の内径が大きすぎると洗浄管がモジュール断面積に占める割合が大きくなり中空糸膜の充填本数が下がり、結果としてモジュールあたりの透水性能を下げることになる。したがって洗浄管の内径はモジュール断面積の0.35倍以下がより好ましく、0.3倍以下がさらに好ましい。また洗浄管は複数本用いても良い。
【0041】
膜モジュール容器とキャップとの接続はネジ止め方式、フランジをボルトおよびナットで固定する方式のほかに、カップリングバンド方式があるが、いずれを用いても良い。フランジを用いる場合は、フランジ径がモジュールの最大幅となり、複数本の膜モジュールを並列に並べる際に、ある一定の幅に収めることができる膜モジュールの本数が減り、膜モジュール装置の容積効率が下がることになる。ネジ止め方式の場合は、運転中に緩む可能性があり、接着剤等で容器と上部キャップを接着すると、中空糸膜が破断した場合に、破断あいた中空糸膜の開口部を埋めて修復して使用することができなくなる。カップリングバンド方式が好ましい。
【0042】
本発明における選択透過性膜モジュールのエレメント製造方法を以下に示す。製膜工程で得られた中空糸膜を所定の長さに切り所定の本数に束ねたものを乾燥させる。乾燥した中空糸膜を束ねて保護ネットに入れ小束とする。上部ホルダーと下部ホルダーが洗浄管で接続されたものを用意し該ホルダーの各区画に定められた数の小束を挿入する。
【0043】
次に封止端側および開口端側に接着樹脂を流しホルダーに固定する。ホルダーと中空糸膜(束)を接着樹脂にて固定する際、遠心力を用いて接着樹脂を接着部に送る方法と静置状態で自重により接着樹脂を接着部に送る方法が用いられるが、どちらを用いても良い。また接着樹脂にはエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等を使用することができ、これらに限定されるものではない。ホルダーと樹脂との接着性を向上されるためにホルダーの樹脂と接着する表面をグラインダー、サンドペーパー等で粗しておくのが好ましい。開口端側は硬化した樹脂と中空糸膜の一部をギロチンカッターまたは旋盤、フライス盤などの機械を利用して切り、開口させてエレメントを得る。
【0044】
このようにして製作されたエレメントを容器1に入れ、下部キャップ17上に乗せ、カップリングバンド16で固定する。原水供給口10より、濁質成分を含まないきれいな水を流し、膜ろ過室29を満水にする。洗浄管上端部に閉止栓を取り付けた状態で、エア供給ノズル15よりエアより入れる。膜ろ過室29の水はエアにより、中空糸膜を通り開口端7よりエレメント外に放出され、膜ろ過室29はエアに置換される。万が一、中空糸膜に破断や欠損箇所があれば開口面7よりエアが気泡状で出てくるため欠損箇所が特定できる。欠損箇所を修復し気密が保たれたエレメント34を得る。
【0045】
本発明における選択透過性膜モジュールの洗浄方法を以下に示す。ろ過操作は全量ろ過で実施されるため、原水中に含まれる懸濁物質が徐々に膜外表面に蓄積し、定圧操作ではろ過水量が経時的に低下し、定流量操作の場合は膜間圧力差が上昇し供給圧を上げていくことが必要になる。定圧操作ではろ過水量が設定値以下に低下した場合に、定流量操作では膜間圧力差が設定値以上に上がった場合に逆洗操作を行うことになる。ここで原水の水質が安定しており濁質成分の濃度が比較的低く安定している場合には、一定時間間隔で逆洗操作を行うことも可能であり、本発明の場合においてはどの方式による逆洗も可能である。
【0046】
浄水に用いられる選択透過性膜モジュールにおいては通常外圧全量ろ過で使用されるため、選択透過性膜の外表面に濁質成分が堆積しろ過流量の低下を引き起こす。ろ過流量を回復するためには膜表面に堆積した濁質成分を定期的に除去する必要がある。本発明においてはモジュール下部からエアスクラビングを行うと同時に、得られたろ過水の一部を中空糸膜内側から外側に向かって逆流させる方法を併用する。本方法の効果は、中空糸膜間を気泡が上昇することによる中空糸膜の振動と中空糸膜内側から外側へ透過水を押出すことにより膜面の濁質成分を浮き上がらせ、浮き上がった濁質成分を気泡に吸着させ水と共に洗浄管19を経由してモジュール外に排出することにより、膜面への濁質成分の再吸着と中空糸膜付近の濁質成分の残留を抑制することにある。
【0047】
本発明における選択透過性膜モジュールの洗浄システム例を図5に示す。通常のろ過操作は、原水が原水タンク21より原水供給ポンプ22により選択透過性膜モジュールに供給される。選択透過性膜モジュールを介して得られたろ過水はろ過水タンク23に溜められる。膜の逆洗時は、ろ過水タンク23のろ過水を逆洗ポンプ24を用いてろ過水出口11より中空糸膜内部に向けて供給し、膜の逆ろ過により膜表面についた濁質を剥がしとる逆ろ過洗浄を行う。洗浄水の圧力は0.01〜0.3MPaの範囲が好ましく、ろ過時より同じもしくは高い圧力で行うことが好ましい。洗浄水の圧力が低すぎると中空糸膜全体に水が行き渡らず、洗浄が不均一となって洗浄効率が悪くなることがある。洗浄水の圧力が高すぎる場合は、供給圧が膜の耐圧性を越え、この結果、膜変形が起こり、構造の変化によると透水性能の低下や、中空糸膜の弱い部分で破裂が生じリークを発生させることがある。特に接着界面では、接着部は樹脂により中空糸膜形状が固定化されているのに対して、樹脂のない部分では中空糸膜が膨らむ変形を起こし、樹脂界面で剪断力を生じさせる。高分子膜は剪断力に比較的弱く、このような状況を繰り返すと中空糸膜が破断しリークを起こす可能性がある。このため逆ろ過時の圧力は上記範囲に設定するのが好ましい。このときの洗浄水にはろ過水を用いることができ、必要により次亜塩素酸ソーダ等の薬剤を、薬剤タンク37および薬剤注入ポンプ38を用いて、この洗浄水に添加することもできる。使用できる薬剤としては次亜塩素酸ソーダのほかに過酸化水素などの酸化剤、ホルマリンなどの還元剤、硝酸、リン酸、塩酸、硫酸、クエン酸などの酸類、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ類、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤、各種界面活性剤やこれらの混合物を用いうるが、これらに限定されるものではない。例としてポリエーテルスルホン膜で次亜塩素酸ソーダを添加する場合では、有効塩素濃度として1〜50ppm程度が望ましい。ただし、膜素材と原水の特性により、必要な濃度は最適化する必要がある。
同時に下部キャップ17のエア供給ノズル15より圧縮エアを送り下部ホルダーに設けたスリットを通り、エアスクラビングを行う。すなわち気泡により、中空糸膜(束)を揺らし、かつ気泡が中空糸膜表面を上昇する力で、膜表面から剥離した濁質成分を上部に押し流す。押し流された濁質成分は、逆ろ過洗浄水および上昇する気泡とともに洗浄管19を経由して上部キャップ5の洗浄排水出口12よりモジュール外部に排出される。圧縮エアの圧力は0.01〜0.3MPaの範囲が好ましい。洗浄水の圧力と圧縮エアの圧力差が、気泡の量および上昇速度に起因するので、圧縮エアの圧力を高くする必要があり、その差を0.01〜0.2MPaの範囲にするのが好ましい。気泡はモジュール上部に溜まりやすくなるが、流れが停滞すると濁質成分が選択透過性膜に再吸着する原因となるため、濁質成分を吸着した(押し上げる)気泡がスムーズに洗浄管内に流れ込むよう配慮するのが好ましい。洗浄管を用いない場合、洗浄排水は容器の側面に設けられた排出口より排出されるが、排出口付近の排水が優先に流れてしまい、排出口とは容器の円周上180°の位置にある懸濁物質を含む洗浄排水は流れにくい。洗浄管をモジュール容器の中心に配置させることで、円周方向に均等に洗浄排水を排出できる。
【0048】
その後に、上部キャップ5の洗浄排水出口12よりコンプレッサ28からのエアーを入れ、洗浄管19を介して、膜ろ過室にある洗浄排水をすべて、原水供給口10より排出することで、洗浄排水を残すことなく排出し、次回のろ過操作を開始することが可能になる。この際のエアーの圧力は0.01〜0.2MPaの範囲にするのが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0050】
(中空糸膜の内径、外径の測定法)
中空糸膜の内径と外径の測定は以下のような方法で実施した。まず1.5〜2mm程度の厚みをもつ金属板に2〜3mmφの穴を開けたものを用意し、この穴に中空糸膜を自重では抜けない程度の本数だけ挿入し、両側の面に沿ってカミソリで中空糸膜をカットして測定用サンプルを調整した。この中空糸膜サンプルを、たとえば、ニコン製万能投影機V−12Aで観察し、1μm単位で移動量が測定できるステージを移動させ、垂直な2軸方向で中空糸膜の外径と内径を記録する。5本〜10本の中空糸膜を測定し、平均をとって中空糸膜の内径と外径とした。
【0051】
(充填率の計算法)
充填率の計算は、容器内壁、仕切板、洗浄管表面および接着部で囲まれるろ過室体積(Vr)と中空糸膜外径と有効長、各ろ過室での中空糸膜本数で計算される中空糸膜外径基準体積(Vh)の比率であり、Vh/Vr×100(%)で求めた。
【0052】
(透水性能の測定法)
純水での透水性能の評価は、逆浸透膜装置を用いて製造された濁度0.005度以下の純水を室温で膜モジュールに供給圧約100kPaで供給し、30分間通水した後に、水温、供給圧、ろ過流量を測定し、25℃における単位面積当たり、100kPa当たりでのろ過流速(L/m2/hr/100kPa)に換算した。25℃へは純水の各温度における粘度の比で換算した。使用時の透水性能の測定は、同様に水温、供給圧、ろ過流量から、25℃における単位面積当たり、100kPa当たりでのろ過流速に換算した。
【0053】
(破断強度の測定法)
中空糸膜の強伸度は、テンシロン万能試験機(東洋ボールドウィン社製UTMII)を用い、乾燥した中空糸膜1本を10cmの長さに切断して取り付け、20±5℃、60±10%RHの温湿度環境下、クロスヘッドスピード10cmで破断点の強度(g)と伸び率(伸度)(%)を測定した。中空糸膜10本を測定し平均値を破断強度、破断伸度とした。ただしチャック部で破断した場合はデータを除外し、チャック部以外で破断したデータを用いた。
【0054】
(試験用モジュール作製)
選択透過性中空糸膜の分画性能測定のため膜面積が0.1から0.5m2となる試験用モジュールを作製した。
内径が33mmで長さが245mmのパイプ形状であり、その側面に2つのサイドポートをもつポリカーボネート製容器を準備し、該容器に100本から500本の乾燥した中空糸膜を挿入し、両端部に接着樹脂の形成部材を取り付けた後、遠心接着法にて両端部をウレタン樹脂にて接着し、少なくとも一つの接着端面を切削して、中空糸膜内空部を開口した、試験用モジュールを作製した。
【0055】
(タンパク質分画性能評価)
選択透過性膜の分画性能を測定するタンパク質として、インスリン(分子量6,000)、チトクロームC(分子量13,400)、キモトリプシノーゲン(分子量23,000)、オボアルブミン(分子量43,500)、アルブミン(分子量67,000)アルドラーゼ(分子量148,000)、ガンマグロブリン(分子量160,000)、カタラーゼ(分子量230,000)、フィブリノーゲン(分子量340,000)、フェリチン(分子量440,000)などを用いた。
分画性能測定の溶液は、純水1リットルあたり、試薬特級グレードのリン酸一カリウム2.72gとリン酸二ナトリウム10.75gを含むリン酸バッファーを用意し、測定するタンパク質の濃度が0.01重量%から0.03重量%となるように調整した測定溶液を準備した。
膜分画性能の測定は、約5Lの攪拌手段を持つタンクを温度調節できる恒温水槽中に設置して、タンパク質溶液の温度を25℃にコントロールできるようにした薬液タンク、吐出容量として2L/分が確保できる送液ポンプ、薬液タンクおよび送液ポンプと試験用モジュールの1方のサイドポートを連結し、他方のサイドポートから前記薬液タンクに戻るフローラインを形成する配管、および、該配管の試験用モジュールの1方サイドポートの手前の配管から分岐した配管に接続された試験モジュール入口圧測定用の圧力計、試験用モジュールサイドポート他方側の配管の途中に設置された流量調節バルブよりなる装置を用いた。また、試験用モジュールからろ過され、開口端部から出るろ液を集め、前記薬液タンクに戻すとともに、サンプリング可能なポートを有するろ過液の返送ラインも設置した。
測定の準備として、試験用モジュールを水洗し、タンパク質を含まない前記リン酸バッファーをモジュールに充填したのち、排出して、中空糸膜部にリン酸バッファーを含浸させ、前記測定装置にセットした。
測定は、前記評価装置の薬液タンクに測定するタンパク質の測定溶液を5L入れ、温度が25℃であることを確認してから、流量調整バルブを全開にし、送液ポンプを運転し、試験用モジュールに測定溶液を送り、該モジュールを経由して、薬液タンクに測定溶液が戻る循環を行い、同時にろ過液を返送ラインで薬液の戻す、全循環運転を5分間行ったのち、流量調整バルブを操作して、試験用モジュールの一方サイドポート手前の入口圧を0.03MPaとなるように調整し、30分間運転を継続したのち、薬液タンクの測定溶液を原液としてサンプリングし、ろ過液も同時にサンプリングしてろ過液とした。
前記原液およびろ過液のタンパク質濃度の測定は、一般的な紫外線領域が測定可能な分光光度計を用いて、チトクロームCでは波長490nmを、それ以外のタンパク質では波長280nmの吸光度を測定し、あらかじめ濃度のわかったタンパク質溶液を用いて作成した検量線を用いて、吸光度より濃度を求めた。
タンパク質除去率(Rp)の計算は、Rp=(1−(ろ過液濃度/原液濃度))×100で計算した。
各々のタンパク質毎に、前記タンパク質除去率の測定を行い、使用したタンパク質の分子量と除去率をグラフにプロットし、滑らかな曲線を引いて、除去率が90%となる点の分子量をグラフより読み取り、この分子量を測定した選択透過性膜の分画分子量とした。
【0056】
(ユニフォームラテックス分画性能評価)
選択透過性膜の分画性能を測定するポリスチレン製ユニフォームラテックスとして、おのおの粒径が0.021μm、0.028μm、0.039μm、0.049μm(以上マグスフェア社製)、0.083μm、0.112μm、0.230μm(以上セラダイン社製)のものを使用した。
分画性能測定用の溶液は、10%の原液を純水で1万倍希釈して、ポリスチレン濃度約10ppmとした測定溶液を用いた。
膜分画性能の測定は、タンパク質の分画性能測定と同じ装置、同じ操作法で、各粒径のユニフォームラテックス溶液に対して測定を行った。
ユニフォームラテックス濃度の測定は、一般的な紫外線領域が測定可能な分光光度計を用いて、粒子径が0.1μm未満の粒子では波長220nmを、0.1μm以上の粒子では波長230nmの吸光度を測定し、あらかじめ各粒子径の溶液の濃度と吸光度の関係より作製した検量線を用いて、濃度を求めた。
ユニフォームラテックス粒子除去率(Rl)の計算は、Rl=(1−(ろ液濃度/原液濃度))×100で計算した。
選択透過性膜の孔径として、前記ユニフォームラテックス粒子除去率(Rl)と使用したユニフォームラテックス粒径をグラフにプロットし、滑らかな曲線を引いて、除去率が90%となる点のユニフォームラテックス粒径を選択透過性膜の孔径とした。
【0057】
(中空糸膜の製膜方法)
中空糸膜は、チューブインオリフィスタイプの2重管ノズルの中心管より中空部形成流体を吐出しながら、スリット部より紡糸原液を吐出して、空中走行させた後、凝固浴に導入して凝固を行う公知の乾湿式紡糸法により製膜した。
【0058】
(ポリエーテルスルホン中空糸膜の製膜)
ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学工業社製スミカエクセル(登録商標)4800P)と親水性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(BASF社製ルビテック(登録商標)K30)をポリエーテルスルホン20重量%、ポリビニルピロリドン3重量%となるよう溶媒、貧溶媒からなる混合溶媒に加熱溶解し紡糸原液を作製した。この紡糸原液を用いて前記の乾湿式紡糸法により製膜を行い、スポンジ状の断面構造を持つ外径1200μm、内径700μmの中空糸膜を得た。この中空糸膜1本の破断強力は350gであり分画分子量はタンパク質分画性能評価で30万であった。
【0059】
(ポリフッ化ビニリデン中空糸膜の製膜)
ポリフッ化ビニリデン樹脂(ソルベイアドバンストポリマー社製SOLEF6020)を25重量%となるよう溶媒に加熱溶解し紡糸原液を作製した。この紡糸原液を用いて前記の乾湿式紡糸法により製膜を行い、スポンジ状の断面構造を持つ外径1300μm、内径700μmの中空糸膜を得た。この中空糸膜1本の破断強力は300gであった。
この中空糸膜の孔径はユニフォームラテックス分画性能評価で0.1μmであった。
【0060】
(ポリエチレン中空糸膜の製膜)
ポリエチレン樹脂(三井化学社製 三井ハイゼックミリオン030S、粘度平均分子量45万)を20重量%、流動パラフィンとジオクチルフタレートが3対7となる割合で、かつその合計が80重量%となるように調合したものを加熱溶解し紡糸原液を作製した。この紡糸原液を用いて前記の乾湿式製膜法により製膜を行い外径1300ミクロン、内径700ミクロンの中空糸膜を得た。
このポリエチレン中空糸膜の分画性能は、ポリフッ化ビニリデン中空糸膜と同一の評価により、孔径0.1μmとなった。
【0061】
(実施例1)
予め成型加工された6つの区画と6箇所にスリットを有するポリ塩化ビニル製の上部ホルダーおよび下部ホルダーを洗浄管の両端にそれぞれ接続し、外径1200ミクロン、内径700ミクロン、分画分子量30万のポリエ−テルスルホン中空糸膜960本の周りに保護ネットを巻きつけた小束を、各区画に3束ずつ収容し、ポリウレタン樹脂を注入して固定した。ポリウレタン樹脂が硬化した後、上部ホルダーのポリウレタン樹脂の一部を中空糸膜ごと切削し、中空糸膜を開口させ選択透過性膜エレメントを作製した。上部ホルダーは図2に示される構成のものを用いた。下部ホルダーは図3に示されるように6つの突起を有し、各区画間に幅4mm、長さ74mmのスリットがホルダー中心付近から放射状に配置された構成のものを用いた。また、洗浄管は内径が51mm、長さが1170mm、側面に孔径10mmφの小孔を円周方向に6箇所、30mmピッチで計222個、所有するポリ塩化ビニル製のものを用いた。保護ネットは網目の大きさが4mm、厚みが0.5mmのポリエチレン製のものを用いた。
得られた選択透過性膜エレメントを純水に浸漬した状態で、中空糸膜の内側にエアで0.2MPaの圧力をかけたところ、閉止端部および中空糸膜から気泡は発生せず、樹脂固定部の接着状態が良好であることおよび中空糸膜に欠陥がないことが確認された。
得られた選択透過性膜エレメントを外径318mm、長さ1,245mmのポリ塩化ビニル製円筒容器に挿入し、原水導入口とスクラビングエア導入口を有する下部キャップおよび洗浄液排出口を有する上部キャップを装着して選択透過性膜モジュールを作製した。下部ホルダー内周および突起、円筒容器内周により形成された原水導入孔のトータル面積は 9370mm2であった。得られた選択透過性膜モジュールは充填率44%、膜面積70m2であった。
このモジュールの純水透過量は0.1MPaで、27m3/hrであった。
【0062】
このように構成された選択透過性膜モジュールを使い、濁度1から5の湖沼水を圧力0.04MPaで供給し、30分に1回、エアスクラビング+逆ろ過洗浄30秒で洗浄を実施した。この運転を1ヶ月間連続的に実施し、ろ過流量、ろ過水濁度を測定した。初期ろ過速度は2.9m3/hrであり、1ヶ月後のろ過速度は2.9m3/hrと安定したろ過性能を示し、ろ過水濁度も初期が0.01度以下、1ヶ月後が0.01度以下と変化がなく、リーク等の発生も見られなかった。
【0063】
(実施例2)
外径145mm、長さ1,075mmのポリ塩化ビニル製円筒容器に、外径110mm、厚み40mmで4つの区画に中空糸膜を分割でき、かつその区画間には幅4mmで長さ20mmのスリットを有するポリ塩化ビニル製ホルダーを用いた。また、洗浄管は内径が25mm、長さが1075mm、側面に孔径5mmφの小孔を円周方向に4箇所、45mmピッチで計88個、所有するポリ塩化ビニル製のものを使って、モジュール容器を組み立てた。 外径1200ミクロン、内径700ミクロン、分画分子量30万のポリエーテルスルホン製中空糸限外濾過膜を用い、420本の小束を8束作製して、ポリエチレン製保護ネットに入れ、ろ過モジュール容器の4つの区画に各区画に2束ずつ挿入し、ウレタン樹脂を注入して接着を行った。開口端側は樹脂硬化後に中空糸膜が開口するように一部を切削し、膜ろ過モジュールとした。得られた選択透過性膜モジュールは充填率40%、膜面積12m2であった。
このように形成された膜モジュール容器にキャップを取り付けて膜ろ過モジュールを構成した。このモジュールの純水透過量は0.1MPaで、4m3/hrとなった。
【0064】
このように構成された膜ろ過モジュールを使い、濁度1から5の湖沼水を圧力0.04MPaで供給し、30分に1回、エアスクラビング+逆ろ過洗浄30秒で洗浄を実施した。この運転を1ヶ月間連続的に実施し、ろ過流量、ろ過水濁度を測定した。初期ろ過速度は0.8m3/hrであり、1ヶ月後のろ過速度は0.8m3/hrと安定したろ過性能を示し、ろ過水濁度も初期が0.01度以下、1ヶ月後が0.01度以下と変化がなく、リーク等の発生も見られなかった。
【0065】
(実施例3)
外径216mm、長さ1,000mmのポリ塩化ビニル製円筒容器に、外径192mm、厚み40mmで6つの区画に中空糸膜を分割でき、かつその区画間には幅4mmで長さ50mmのスリットを有するポリ塩化ビニル製ホルダーを用いた。また、洗浄管は内径が25mm、長さが1075mm、側面に孔径5mmφの細孔を円周方向に4箇所、30mmピッチで計132個、所有するポリ塩化ビニル製のものを使って、モジュール容器を組み立てた。 外径1200ミクロン、内径700ミクロン、分画分子量30万のポリエーテルスルホン製中空糸限外濾過膜を用い、1200本の小束を8束作製して、ポリエチレン製保護ネットに入れ、ろ過モジュール容器の4つの各区画に2束ずつ挿入し、ウレタン樹脂を注入して接着を行った。開口端側は樹脂硬化後に中空糸膜が開口するように一部を切削し、膜ろ過モジュールとした。得られた選択透過性膜モジュールは充填率40%、膜面積35m2であった。
このように形成された膜モジュール容器にキャップを取り付けて膜ろ過モジュールを構成した。このモジュールの純水透過量は0.1MPaで、12m3/hrとなった。
【0066】
このように構成された膜ろ過モジュールを使い、濁度1から5の湖沼水を圧力0.04MPaで供給し、30分に1回、エアスクラビング+逆ろ過洗浄30秒で洗浄を実施した。この運転を1ヶ月間連続的に実施し、ろ過流量、ろ過水濁度を測定した。初期ろ過速度は2.3m3/hrであり、1ヶ月後のろ過速度は2.3m3/hrと安定したろ過性能を示し、ろ過水濁度も初期が0.01度以下、1ヶ月後が0.01度以下と変化がなく、リーク等の発生も見られなかった。
【0067】
(実施例4)
実施例2と同じポリ塩化ビニル製円筒容器、ポリ塩化ビニル製ホルダー、ポリ塩化ビニル製洗浄管を用いて、モジュール容器を組み立てた。 外径1300ミクロン、内径700ミクロン、孔径0.1μmのポリフッ化ビリニデン製中空糸精密濾過膜を用い、360本の小束を8束作製して、ポリエチレン製保護ネットに入れ、ろ過モジュール容器の4つの区画に2束ずつ挿入し、ウレタン樹脂を注入して接着を行った。開口端側は樹脂硬化後に中空糸膜が開口するように一部を切削し、膜ろ過モジュールとした。得られた選択透過性膜モジュールは充填率45%、膜面積11m2であった。
このようにしてできたモジュールの中空糸膜の外側を満水にした状態で、中空糸膜の内側に0.2MPaの圧縮エアをいれたところ、閉止端部から気泡がでるようなことは見られず、閉止の状態が良好であることを示した。このように形成された膜モジュール容器にキャップを取り付けて膜ろ過モジュールを構成した。このモジュールの純水透過量は0.1MPaで、18m3/hrとなった。
【0068】
このように構成された膜ろ過モジュールを使い、濁度1から5の湖沼水を圧力0.03MPaで供給し、30分に1回、エアスクラビング+逆ろ過洗浄30秒で洗浄を実施した。この運転を1ヶ月間連続的に実施し、ろ過流量、ろ過水濁度を測定した。初期ろ過速度は0.7m3/hrであり、1ヶ月後のろ過速度は0.7m3/hrと安定したろ過性能を示し、ろ過水濁度も初期が0.01度以下、1ヶ月後が0.01度以下と変化がなく、リーク等の発生も見られなかった。
【0069】
(実施例5)
実施例2と同じポリ塩化ビニル製円筒容器、ポリ塩化ビニル製ホルダー、ポリ塩化ビニル製洗浄管を用いて、モジュール容器を組み立てた。 外径1300ミクロン、内径700ミクロン、孔径0.1μmのポリエチレン製中空糸精密濾過膜を用い、360本の小束を8束作製して、ポリエチレン製保護ネットに入れ、ろ過モジュール容器の4つの区画に2束ずつ挿入し、ウレタン樹脂を注入して接着を行った。開口端側は樹脂硬化後に中空糸膜が開口するように一部を切削し膜ろ過モジュールとした。得られた選択透過性膜モジュールは充填率45%、膜面積11m2であった。
このようにしてできたモジュールの中空糸膜の外側を満水にした状態で、中空糸膜の内側に0.2MPaの圧縮空気をいれたところ、閉止端部から気泡がでるようなことは見られず、閉止の状態が良好であることを示した。このように形成された膜モジュール容器にキャップを取り付けて膜ろ過モジュールを構成した。このモジュールの純水透過量は0.1MPaで、17m3/hrとなった。
【0070】
このように構成された膜ろ過モジュールを使い、濁度1から5の湖沼水を圧力0.03MPaで供給し、30分に1回、エアスクラビング+逆ろ過洗浄30秒で洗浄を実施した。この運転を1ヶ月間連続的に実施し、ろ過流量、ろ過水濁度を測定した。初期ろ過速度は0.65m3/hrであり、1ヶ月後のろ過速度は0.65m3/hrと安定したろ過性能を示し、ろ過水濁度も初期が0.01度以下、1ヶ月後が0.01度以下と変化がなく、リーク等の発生も見られなかった。
【0071】
(実施例6)
実施例2と同じポリ塩化ビニル製円筒容器、ポリ塩化ビニル製洗浄管に、外径135mm、厚み42mmで4つの区画に中空糸膜を分割でき、かつその区画間には幅4mmで長さ20mmのスリットを有するポリプロピレン製成形部材を使って、モジュール容器を組み立てた。 外径1200ミクロン、内径700ミクロン、分画分子量30万のポリエーテルスルホン製中空糸限外濾過膜を用い、840本の小束を4束作製して、ポリエチレン製ネットに入れ、ろ過モジュール容器の4つの区画に各区画に1束ずつ挿入し、ウレタン樹脂を注入して接着を行った。閉止端側はスリット形状を有するポリプロピレン製成形部材との間にウレタン樹脂を注入し、硬化後にスリット形状を有するポリプロピレン製成形部材を取り外すことで、スリット形状を形成した。開口端側は樹脂硬化後に中空糸膜が開口するように一部を切削し、膜ろ過モジュールとした。得られた選択透過性膜モジュールは充填率40%、膜面積12m2であった。
このようにしてできたモジュールの中空糸膜の外側を満水にした状態で、中空糸膜の内側に0.2MPaの圧縮空気をいれたところ、閉止端部より、数箇所において気泡がでてくるのが確認された。これは、閉止がうまく行われなかったために起こる現象であり、スリット形状を有する部材を取り外す際に、閉止している樹脂も取れたことが原因である。
【0072】
(実施例7)
実施例2と同じポリ塩化ビニル製円筒容器、ポリ塩化ビニル製ホルダー、ポリ塩化ビニル製の洗浄管を使って、モジュール容器を組み立てた。外径1200ミクロン、内径700ミクロン、分画分子量30万のポリエーテルスルホン製中空糸限外濾過膜を用い、840本の小束を4束作製して、ポリエチレン製保護ネットに入れずに、ろ過モジュール容器の4つの区画に各区画に1束ずつ挿入し、ウレタン樹脂を注入して接着を行った。開口端側は樹脂硬化後に中空糸膜が開口するように一部を切削し、膜ろ過モジュールとした。得られた選択透過性膜モジュールは充填率40%、膜面積12m2であった
このように形成された膜モジュール容器にキャップを取り付けて膜ろ過モジュールを構成した。このモジュールの純水透過量は0.1MPaで、4m3/hrとなった。
【0073】
このように構成された膜ろ過モジュールを使い、濁度1から5の湖沼水を圧力0.04MPaで供給し、30分に1回、エアスクラビング+逆ろ過洗浄30秒で洗浄を実施した。この運転を1ヶ月間連続的に実施し、ろ過流量、ろ過水濁度を測定した。初期ろ過速度は0.8m3/hrであり、1ヶ月後のろ過速度は0.8m3/hrと安定したろ過性能を示し、ろ過水濁度も初期が0.01度以下、1ヶ月後が0.1以上になり、中空糸膜束の周辺部にリークが見られた。中空糸膜がポリエチレン製保護ネットに保護されていないために、揺れが規制されず、揺れが大きくなったためと考える。
【0074】
(比較例1)
外径145mm、長さ1,000mmのポリ塩化ビニル製円筒容器に、外径110mm、厚み40mmで4つの区画に中空糸膜を分割でき、かつその区画間には幅4mmで長さ20mmのスリットを有するポリ塩化ビニル製ホルダーを使って、モジュール容器を組み立てた。 外径1200ミクロン、内径700ミクロン、分画分子量30万のポリエーテルスルホン製中空糸限外濾過膜を用い、840本の小束を4束作製して、ポリエチレン製ネットに入れ、ろ過モジュール容器の4つの区画に各区画に1束ずつ挿入し、洗浄管を用いない以外は実施例2と同じようにしてウレタン樹脂を注入して接着を行った。開口端側は樹脂硬化後に中空糸膜が開口するように一部を切削し膜ろ過モジュールとした。得られた選択透過性膜モジュールは充填率30%、膜面積12m2であった。
このように形成された膜モジュール容器にキャップを取り付けて膜ろ過モジュールを構成した。このモジュールの純水透過量は0.1MPaで、4m3/hrとなった。
【0075】
このように構成された膜ろ過モジュールを使い、濁度1から5の湖沼水を圧力0.04MPaで供給し、30分に1回、エアスクラビング+逆ろ過洗浄30秒で洗浄を実施した。洗浄管がないため、該モジュールから出る洗浄排水は、モジュール容器の上方側面にある排出口より排出した。この運転を1ヶ月間連続的に実施し、ろ過流量、ろ過水濁度を測定した。初期ろ過速度は0.8m3/hrであり、1ヶ月後のろ過速度は0.8m3/hrと安定したろ過性能を示した。ろ過水濁度も初期が0.01度以下であるが、1ヶ月後には0.1以上になった。該モジュールの上部キャップを取り外し、原水室を満水にし、その後に原水室にエアを入れたところ、開口端より、エアが出る箇所が見られた。排出口付近に位置する中空糸膜からエアが出るのが確認され、排出口から排出する際の水力により中空糸膜が破断したものと考える。
【0076】
(比較例2)
実施例2と同じモジュールを作り、芯管の閉止端側端部より15mmのところに閉止栓を取り付け、閉止栓より、下方に8個の穴があるようにした。得られた選択透過性膜モジュールは充填率40%、膜面積12m2であった
このように形成された膜モジュール容器にキャップを取り付けて膜ろ過モジュールを構成した。このモジュールの純水透過量は0.1MPaで、4m3/hrとなった。
【0077】
このように構成された膜ろ過モジュールを使い、濁度1から5の湖沼水を圧力0.04MPaで供給し、30分に1回、エアスクラビング+逆ろ過洗浄30秒で洗浄を実施した。その際、スクラビング用のエアは、芯管の下方の8個の穴より出るようにし、洗浄排水はこの8個を除く芯管の穴を介して芯管上部より排出した。この運転を1ヶ月間連続的に実施し、ろ過流量、ろ過水濁度を測定した。初期ろ過速度は0.8m3/hrであり、1ヶ月後のろ過速度は0.6m3/hrとやや低下したろ過性能を示した。ろ過水濁度も初期が0.01度以下、1ヶ月後が0.1程度になり、芯管に近い中空糸膜にリークが見られた。芯管下方の穴よりスクラビング用エアを入れる場合には、エアに中空糸膜に対して垂直に当たるために芯管に近い中空糸膜へのダメージが大きいと考える。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の選択透過性膜モジュールの製造方法において、予め加工されたホルダーを用いることにより、モジュールの生産歩留まりやモジュール耐久性、品質を著しく向上することが可能となる。また、本発明の方法を用いて製造された選択透過性膜モジュールは、濁質成分を効果的に膜面に浮き上がらせることが出来、かつ濁質成分の系外への排出性に優れているため、洗浄コストを低減できる効果がある。また、選択透過性膜モジュールの性能回復性に優れているため、エレメントの寿命が長くなり、また交換が必要な場合もエレメントのみ交換することができるので浄水コストを低減できる効果がある。したがって、産業の発展に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の選択透過性膜モジュールの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のエレメントの一例を示す図である。
【図3−1】本発明の下部ホルダーの一例を示す平面図である。
【図3−2】本発明の下部ホルダーの一例を示す断面図である。
【図4−1】本発明の上部ホルダーの一例を示す平面図である。
【図4−2】本発明の上部ホルダーの一例を示す断面図である。
【図5】本発明の選択透過性膜モジュールを用いる浄水装置の一例を示す図である。
【図6】従来の選択透過性膜モジュールの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1:容器
2:下部ホルダー
3:中空糸膜
4:接着樹脂
5:膜モジュールキャップ
6:パッキン
7:モジュール開口端面
8:モジュール封止端面
9:スリット
10:原水供給口
11:ろ過水出口
12:洗浄排水出口
13:区画部
14:上部ホルダー
15:エア供給ノズル
16:カップリングバンド
17:下部キャップ
18:ろ過水室
19:洗浄管
20:洗浄管接続部
21:原水タンク
22:原水供給ポンプ
23:ろ過水タンク
24:逆洗ポンプ
25:洗浄排水配管
26:ろ過水供給配管
27:原水供給配管
28:コンプレッサ
29:膜ろ過室
30:ステー
31:外周リング
32:突起
33:底部
34:エレメント
35:外周スリット
36:洗浄管接続部
37:薬剤タンク
38:薬剤注入タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択透過性膜を容器に収納し該選択透過性膜の両端が固定されたモジュールを作製する際に、該選択透過性膜の両端を少なくとも1本の洗浄管で接続された上部ホルダーおよび下部ホルダーに固定した後、容器に収納することを特徴とする選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
上部ホルダーおよび下部ホルダーが予め成形されたプラスチックまたは金属であることを特徴とする請求項1に記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
下部ホルダーにスクラビングエア導入用のスリット孔が設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
上部ホルダーおよび下部ホルダーに選択透過性膜を固定するための区画が設けられていることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
上部ホルダーおよび下部ホルダーに設けられた区画に選択透過性膜を挿入し樹脂にて接着固定することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
下部ホルダーの側面に容器内面に内接するように複数の突起が設けられていることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
選択透過性膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
中空糸膜が複数の小束に分割されていることを特徴とする請求項7に記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項9】
小束にそれぞれ保護ネットが巻かれていることを特徴とする請求項8に記載の選択透過性膜モジュールの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする選択透過性膜モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−205127(P2006−205127A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23834(P2005−23834)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】