説明

遺伝子サイレンシングをモニタリングおよび調節するための方法および手段

標的遺伝子に相同なヌクレオチド配列を含むdsRNA領域のほかに、低下するように設計された追加のdsRNA領域を含む二本鎖RNAを用いて、真核生物における遺伝子発現の低下をモニタリングおよび調節するための方法および手段を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子の発現を変更することができるdsRNAまたは前記dsRNAをコードする遺伝子を用いて、植物、ならびに、線虫、昆虫および節足動物、ヒトを含む哺乳類のような動物、または酵母、真菌もしくはカビを含む真核生物における遺伝子の発現を変更する方法に関する。また、前記dsRNAまたはそれをコードする遺伝子を含む非ヒト真核生物を提供する。
【0002】
第1の態様において、本発明は、真核細胞における標的遺伝子のサイレンシングを、第2遺伝子のサイレンシングの程度を測定することによりモニタリングする方法および手段を提供し、ここにおいて、標的遺伝子および第2遺伝子のサイレンシングは真核細胞に供給された単一の初期dsRNA分子の作用により得られる。
【0003】
第2の態様において、本発明は、真核細胞に供給される単一の初期dsRNA分子の中に、標的遺伝子のサイレンシングを誘導する標的dsRNAに加えて、標的dsRNAとは無関係のある量のdsRNA配列を、望まれる標的遺伝子サイレンシングの程度の調節を反映する比率で加えることにより、真核細胞における標的遺伝子のサイレンシングの程度を調節する方法および手段を提供する。
【背景技術】
【0004】
最近まで、真核生物における遺伝子発現の調節には、当業者に「アンチセンス」ダウンレギュレーションまたは「センス」ダウンレギュレーションと呼ばれる2つの有力な方法が知られていた。
【0005】
最近の研究により、サイレンシング効率は、標的配列にそれぞれ相補的および相同なアンチセンスおよびセンスRNAヌクレオチド配列の間の塩基対合により二本鎖RNAを形成することができるRNAをコードするキメラ構築物を用いて、量的および質的レベルの両方で大きく改善することができることが示された。このような二本鎖RNA(dsRNA)は、ヘアピンRNA (hpRNA)または干渉RNA (RNAi)とも呼ばれる。
【0006】
dsRNAを用いて標的ヌクレオチド配列の発現をダウンレギュレーションすることは、その役割が知られていない核酸の機能を解明するための便利な分析方法として文献に記載されている(例えば、WO 99/53050またはWO 00/01846を参照されたい)。dsRNA介在遺伝子サイレンシングはまた、所望の表現型または特徴を有する改変された生物を得る目的で、生物における1個以上の標的遺伝子の発現を調節するために用いることもできる(WO 99/53050)。
【0007】
前記の適用には、標的核酸のダウンレギュレーションの量および質を簡単にモニタリングする方法があると便利である。これは、ダウンレギュレーションにより引き起こされた表現型の分析による標的遺伝子発現のダウンレギュレーションの測定が、労力を要する、費用がかかる、時間がかかる、特殊な分析方法を使用する必要がある等の場合に、特に当てはまる。dsRNA介在遺伝子サイレンシングを未知の遺伝子の機能の同定/立証に用いる場合には、当然探している表現型が知られていないので、サイレンシングの効率をモニタリングするための別の方法が必要となる。
【0008】
さらに、例えば、dsRNA介在遺伝子サイレンシングの個々の程度において大きなスペクトルを示す生物の集団を作り、所望の程度のサイレンシングを有する生物を同定することにより、ある生物における1個以上の特定の標的遺伝子のサイレンシングの程度を調節することができると便利である。
【0009】
Fireら、1998には、線虫Caenorhabditis elegansにおける二本鎖RNAの実験的導入による特定の遺伝子の干渉が記載されている。
【0010】
WO 99/32619には、細胞内の標的遺伝子の遺伝子発現を阻害するために、生きている細胞にRNAを導入する方法が提供されている。この方法は、ex vivoまたはin vivoでおこなうことができる。RNAは二本鎖構造の領域を有する。阻害は、RNAの二本鎖領域および標的遺伝子の一部分のヌクレオチド配列が同一であるという点で、配列特異的である。
【0011】
Waterhouseら、1998には、植物におけるウイルス耐性および遺伝子サイレンシングを、センスおよびアンチセンスRNAの同時発現により誘導可能であることが記載されている。センスおよびアンチセンスRNAは自己相補性を有する1つの転写産物中に位置していてもよい。
【0012】
Hamiltonら、1998には、繰返しDNA、すなわち、その5’非翻訳領域の逆方向コピーを有するトランスジーンが、トマトにおいて高頻度でACC-オキシダーゼ発現の転写後抑制を起こすことが記載されている。
【0013】
WO 98/53083には、遺伝子サイレンシングベクターに、前記ベクター内のポリヌクレオチド領域の全部または一部の逆方向反復配列を挿入することを含む、生物内の標的遺伝子の阻害を増大するための構築物および方法が記載されている。
【0014】
WO 99/53050には、標的核酸に対するセンスおよびアンチセンスRNA分子をコードするキメラ遺伝子を導入することにより、真核細胞(特に植物細胞)において目的の核酸の表現型発現を低下させる方法および手段が提供されている。これらの分子は、センスおよびアンチセンスヌクレオチド配列を有する領域同士の塩基対合により、またはRNA分子そのものを導入することにより、二本鎖RNA領域を形成することができる。好ましくは、RNA分子はセンスおよびアンチセンスヌクレオチド配列の両方を同時に含む。
【0015】
WO 99/49029は、一般的に、遺伝子発現を改変する方法、ならびにトランスジェニック生物(特にトランスジェニック動物または植物)の細胞、組織または器官において内在性遺伝子発現を改変するための合成遺伝子に関する。生物に導入された場合に生物中の内在性遺伝子または標的遺伝子の発現を抑制、遅延、または低下させることができるdsRNAを形成することができる合成遺伝子および遺伝子構築物もまた提供される。
【0016】
WO 99/61631は、遺伝子のセンスおよびアンチセンスRNA断片を用いて植物における標的遺伝子の発現を変更する方法に関する。前記のセンスおよびアンチセンスRNA断片は、対合して二本鎖RNA分子を形成し、それにより遺伝子の発現を変更することができる。この発明はまた、これらの方法を用いて得られる植物、その子孫およびその種子に関する。
【0017】
WO 00/01846は、細胞に特定の表現型を与えることに関与しているDNAを同定する方法を提供する。この方法は、a) 適当な転写因子がプロモーターに結合したとき、cDNAまたはDNAの二本鎖(ds)RNAへの転写を開始することができる1以上のプロモーターに応じた配向で、細胞のDNAのcDNAまたはゲノムライブラリーを適当なベクター中に構築し;b) 前記ライブラリーを、転写因子を含む1つ以上の細胞に導入し、c) ライブラリーを含む細胞の特定の表現型を同定および単離し、表現型を与えることに関与しているライブラリーからのDNAまたはcDNA断片を同定することを含んでなる。この技術を用いて、a) 細胞中のDNA配列の相同体を同定し、b) 細胞から問題のDNA相同体またはその断片を単離し、c) 前記相同体またはその断片を、プロモーターに適当な転写因子が結合したときに前記のDNA相同体または断片からdsRNAの転写を開始することができる適当なプロモーターに応じた配向で適当なベクター中にクローニングし、d) 前記ベクターをステップa)で得た転写因子を含む細胞の中に導入することにより、既知のDNA配列に機能を割り当てることも可能である。
【0018】
WO 00/44914にも、特にゼブラフィッシュにおいて、二本鎖RNAを用いることにより遺伝子発現をin vivoおよびin vitroで低下させるための組成物および方法が記載されている。
【0019】
WO 00/49035には、細胞中の内在性遺伝子の発現をサイレンシングする方法が記載されている。この方法は、内在性遺伝子の核酸分子と、内在性遺伝子の核酸分子に相補的な核酸分子を含むアンチセンス分子とを細胞中で過剰発現させることを含んでなり、ここにおいては、内在性遺伝子の核酸分子とアンチセンス分子の細胞内での過剰発現が内在性遺伝子の発現をサイレンシングする。
【0020】
Smithら、2000およびWO 99/53050には、イントロンを含むdsRNAがサイレンシングの効率をさらに増加させることが記載されている。イントロンを含むヘアピンRNAは、しばしばihpRNAとも呼ばれる。
【0021】
前記の参照文献から明らかなように、dsRNA介在遺伝子サイレンシングは、植物、酵母または真菌、昆虫、節足動物および哺乳類を含む脊椎動物を含めて、広範囲の真核生物において起こる現象である。
【0022】
WO 93/23551には、標的遺伝子のそれぞれに対して相同な異なるDNA領域を有する単一の制御遺伝子、および前記異なる領域からそれぞれの標的遺伝子の発現を阻害するアンチセンスまたはセンスのいずれかのRNAを転写するように適合された、植物内で機能するプロモーターを植物に導入することからなる、2以上の標的遺伝子の阻害方法が記載されている。
【0023】
WO 99/49029には、特定の細胞中で共発現されるいくつかの標的遺伝子の発現を同時にターゲッティングする方法が記載されている。この方法は、例えば、前記の共発現される標的遺伝子のそれぞれと実質的に同一のヌクレオチド配列を含む分散型核酸分子または外来核酸分子を用いることによる。
【0024】
しかしながら、前記の先行技術の参照文献はいずれも、測定が困難または実際的に不可能である表現型を有する標的遺伝子のサイレンシングの程度をモニタリングするという問題を解決するものではなかった。先行技術はまた、dsRNAを用いて1以上の特定の標的遺伝子のサイレンシングの程度を調節または微調整する方法を提供する点で欠点が残っている。
【0025】
これらのおよび他の問題は、下記の実施形態および特許請求の範囲に記載される方法で解決された。
【発明の開示】
【0026】
発明の概要
本発明は、植物、動物、酵母、真菌またはカビのような真核生物の細胞における標的遺伝子の発現の低下をモニタリングする方法を提供し、この方法は、以下のステップ:
a) 第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNAを真核細胞に供給すること、ただし、
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域は、前記標的遺伝子とは異なる、内在性遺伝子または真核細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンのような、第2遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
v) 第4領域は、第2遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの前記19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
vi) 第3領域と第4領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、および
b) 第2遺伝子の発現低下を分析することにより標的遺伝子の発現の低下をモニタリングすること、
を含んでなる。
【0027】
前記dsRNAは前記真核生物の細胞内に含まれるキメラ遺伝子から転写されるものであってよく、前記キメラ遺伝子は、
c) 前記真核細胞において機能するプロモーター領域、これに機能的に連結された
d) 転写されたとき前記dsRNA分子をもたらすDNA領域、および
e) 前記真核生物の細胞において機能する転写終結およびポリアデニル化領域、
を含むものである。
【0028】
本発明の目的はまた、上述したRNA分子、ならびに標的遺伝子の発現の低下を測定するための前記RNA分子の使用を提供することである。
【0029】
本発明の別の目的は、真核細胞における標的遺伝子の発現の低下を測定するためのDNA分子を提供することであり、このDNA分子は、
a) 前記真核細胞において機能するプロモーター領域、これに機能的に連結された
d) 転写されたとき、第1、第2、第3および第4領域を含むdsRNA分子をもたらすDNA領域、ただし
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域は、前記標的遺伝子とは異なる、前記真核細胞中に存在する第2遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
v) 第4領域は、第2遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの前記19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
vi) 第3領域と第4領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、および
c) 真核生物の細胞において機能する転写終結およびポリアデニル化領域、
を含んでなり、ここにおいて、第2遺伝子は前記真核生物の内在性遺伝子であるか、または前記真核生物の細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンである。また、第2遺伝子の発現の低下を測定することにより標的遺伝子の発現を測定するための前記DNA分子の使用も提供される。
【0030】
本発明はまた、本明細書に記載したRNA分子またはDNA分子を含む非ヒト真核生物を提供する。
【0031】
本発明はさらに、dsRNA介在遺伝子サイレンス化真核生物の集団内で、標的遺伝子の所望の程度のサイレンシングを有する生物を同定する方法を提供し、この方法は、
a) 前記真核生物の細胞に、第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNAを供給すること、ただし、
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域は、前記標的遺伝子とは異なる、前記真核細胞中に存在する第2遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
v) 第4領域は、第2遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの前記19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
vi) 第3領域と第4領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、および
b) 第2遺伝子の所望の程度のサイレンシングを有する生物を選択することにより、前記標的遺伝子の所望の程度のサイレンシングを有する生物を同定すること、
を含んでなる。
【0032】
本発明のさらなる目的は、真核生物の細胞における標的遺伝子の発現の低下を調節する方法を提供することであり、この方法は、以下のステップ:
a) 第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNAを真核細胞に供給すること、ただし、
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域と第4領域は、前記標的遺伝子のヌクレオチド配列に対して50%より低い配列同一性を有しかつ二本鎖RNAを形成することができる相補的ヌクレオチド配列を含むこと、
を含んでなり、ここにおいて、前記標的遺伝子は前記真核細胞中の内在性遺伝子であるか、または前記真核細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンである。第3領域と第4領域との塩基対合により形成され得る二本鎖RNAのサイズは、第1領域と第2領域との塩基対合により形成され得る二本鎖RNAのサイズに等しいか、またはそれより大きいものである。
【0033】
本発明はさらに、真核生物の細胞における標的遺伝子の発現の程度を調節するのに適したdsRNA分子、前記dsRNA分子をもたらすことができるキメラ遺伝子、ならびに前記dsRNA分子またはキメラ遺伝子を含む非ヒト生物を提供する。
【0034】
詳細な実施形態の説明
本発明は、植物細胞のような真核細胞が、少なくとも2つの標的遺伝子に対して相補的なアンチセンスおよびセンス領域を同時に含む二本鎖RNA(dsRNA)を含む場合に、すべての標的遺伝子発現のサイレンシングの程度の間には一致が存在する、という予期せざる観察に基づいている。この一致はさらに、異なる標的遺伝子の発現を減少させるように設計されたアンチセンスおよびセンス領域の相対的なサイズにも左右される。この一致は、遺伝子の発現を直接モニタリングできない表現型をもたらす、そのような遺伝子のサイレンシングをモニタリングするために便利に用いることができる。これは、このような遺伝子の発現を低下またはサイレンシングするのに適した相補的センスおよびアンチセンス領域を、その発現が直接モニタリングすることができる表現型をもたらすような遺伝子の発現を低下またはサイレンシングするのに適した相補的センスまたはアンチセンス領域と連結させることにより達成される。
【0035】
そこで、本発明の1つの実施形態において、次のステップからなる、真核細胞における標的遺伝子の発現の低下またはサイレンシングをモニタリングするための方法が提供される。すなわち、
- 第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNAを真核細胞に提供する。ただし、
- 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第1領域と第2領域は、好ましくは第1および第2領域の全長にわたって、少なくとも前記の19個のヌクレオチドの長さにわたって、二本鎖RNA領域を形成することができる;
- 第3領域は、前記標的遺伝子とは異なる、前記真核細胞中に存在する第2遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第4領域は、第2遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第3および第4領域は、好ましくは第3および第4領域の全長にわたって、少なくとも前記19個のヌクレオチドの長さにわたって、二本鎖RNA領域を形成することができる;そして、
- 第2遺伝子の発現低下を分析することにより、標的遺伝子のサイレンシングの程度の発現をモニタリングする。
【0036】
好ましくは、第1および第2領域は、第3および第4領域が二本鎖RNAを形成するのと同時に二本鎖RNA領域を形成することができる。
【0037】
標的遺伝子とは異なる第2遺伝子は、標的遺伝子のサイレンシングの程度をモニタリングするためのレポーター遺伝子として用いられ、本明細書においてレポーター遺伝子と記載する場合には、この用語は、真核細胞中に存在するが標的遺伝子とは異なる第2遺伝子を指すために用いられると理解される。
【0038】
本発明の目的のためには、第2遺伝子は真核細胞中に通常存在する内在性遺伝子であろうと、その履歴のいずれかの時点でヒトの介入により真核細胞中に導入された、好ましくは真核細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンであろうと、いずれでもよい。
【0039】
好ましくは、レポーター遺伝子は、その分析が標的遺伝子(1つまたは複数)の分析よりも、費用、専門技術、時間、労力、使用する装置等の点で、より容易であるような表現型を有していなければならない。また好ましくは、レポーター遺伝子のサイレンシングは宿主細胞または宿主生物の生存能に負の影響を与えるものであってはならないが、負の影響のないことが特定の条件に依存するものであってもよい。
【0040】
有利には、レポーター遺伝子の発現のサイレンシングが、目に見える表現型をもたらすが、表現型が目に見えることも条件つきであってよい。
【0041】
植物細胞および植物において本発明の方法を適用するのに適したレポーター遺伝子の例には、カルコンシンターゼ遺伝子(CHS、その発現のダウンレギュレーションが、種皮の色へのUV-蛍光性化合物の蓄積をもたらす)、フィトエンデサチュラーゼ遺伝子(PDS、その遺伝子発現のダウンレギュレーションが光褪色をもたらす)、花遺伝子座C(FLC、その遺伝子発現のダウンレギュレーションが早い開花をもたらす)、エチレン非感受性遺伝子2(EIN2、その遺伝子のダウンレギュレーションが、エチレンに非感受性で1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(AAC)を含む培養基で成長する植物をもたらす)、種皮色遺伝子のような可視マーカー遺伝子(例えば、トウモロコシにおけるR遺伝子)、植物で発現可能なGUSまたはGFP遺伝子、フィトクロムB等が含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
動物細胞および動物において本発明の方法を適用するのに適したレポーター遺伝子の例には、動物細胞に適した発現領域に機能的に連結されたGUSまたはGFP遺伝子の他に、線虫Caenorhabditis elegansにおけるunc(そのサイレンシングが線虫に特徴的なねじれパターンを作り出す)のような遺伝子等も含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
真菌細胞において本発明の方法を適用するのに適したレポーター遺伝子の例には、真菌細胞に適した発現領域に機能的に連結されたGUSまたはGFP遺伝子の他に、そのサイレンシングが最少培地上で容易にスクリーニングできる表現型である栄養要求性増殖(例えば、trpC)を引き起こす遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。これらの例において、サイレンス化真菌細胞のライブラリーのマスターコピーを、増殖を可能にする条件下、例えば必要な栄養化合物の存在下で維持する必要があることは言うまでもない。
【0044】
好ましくは、レポーター遺伝子は少なくとも標的遺伝子が発現される条件下で発現されなくてはならない。
【0045】
標的遺伝子および/またはレポーター遺伝子の19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列に少なくとも94%同一または相補的である19個のヌクレオチドは、より大きいRNA分子の中に含まれていてもよい。このようなRNA分子は、全体的な配列同一性の程度がさまざまに変化する、19bpといった短いサイズから標的遺伝子と同じサイズまでのさまざまな長さのヌクレオチド配列を有する。
【0046】
本発明の目的のために、2つの関連するヌクレオチドまたはアミノ酸配列の「配列同一性」は、パーセントで表され、2つの最適に並べた配列間の同一の残基を有する位置の数を、比較した位置の数で割ったもの(×100)を指す。ギャップ、すなわち、一方のアライメント配列中に残基が存在するのに、他方には存在しないアライメント中の位置は、非同一残基を有する位置と見なされる。2つの配列のアライメントは、NeedlemanおよびWunschアルゴリズム(NeedlemanおよびWunsch 1970)により実施する。前記のコンピューターによる配列アライメントは、Wisconsin Package バージョン10.1 (Genetics Computer Group, Madision Wisconsin, USA) の一部であるGAPのような標準的なソフトウェアプログラムを用いて、50のギャップ形成ペナルティーおよび3のギャップ延長ペナルティーを有するデフォルトスコアリングマトリックスを用いて便利におこなうことができる。配列は、前記の配列が少なくとも約75%、特定的には少なくとも約80%、より特定的には少なくとも約85%、さらに特定的には少なくとも約90%、特に約95%、さらに約100%、最も好ましくは同一の、配列同一性を有する場合に、「本質的に類似」であると示される。RNA配列がDNA配列と本質的に類似であるか、またはある程度の配列同一性を有する場合、DNA配列中のチミン(T)はRNA配列中のウラシル(U)に等しいと見なされることは明らかである。そこで、本出願において、19個連続したヌクレオチドの配列が19個のヌクレオチドの配列に対して94%の配列同一性を有するという場合は、第1配列の19個のヌクレオチドのうち少なくとも18個が、第2配列の19個のヌクレオチドのうちの18個と同一であることを意味する。
【0047】
前記のセンスまたはアンチセンスヌクレオチド領域は、約50nt、100nt、200nt、300nt、500nt、1000nt、2000ntまたは約5000ntまたはそれ以上の長さであってよく、それぞれが約40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の全体的な配列同一性を有する。配列が長くなるほど、全体的配列同一性の要求は厳しくなくなる。
【0048】
第1、第2、第3および第4領域は、それぞれ標的またはレポーター遺伝子のいずれのヌクレオチド配列とも無関係のヌクレオチドの配列を有するスペーサー領域により分離されていてもよい。
【0049】
本発明の目的のために、領域は連続的に名前を付けるが、dsRNA分子の中でのdsRNA領域の順序は重要ではない。言い換えると、例えば、第1または第2領域、あるいは第3または第4領域のいずれがRNA分子の5’または3’末端に位置しても問題でない。
【0050】
本明細書において、「を含む」とは、述べられた特徴、整数、ステップまたは成分が言及された通りに存在することを明確に述べるものと解釈されるが、1つ以上の特徴、整数、ステップまたは成分、あるいはそれらの群の存在または追加を排除するものではない。したがって、例えば、あるヌクレオチドまたはアミノ酸の配列を含む核酸またはタンパク質は、実際に言及されたものよりも多くのヌクレオチドまたはアミノ酸を含んでいてもよい。すなわち、より大きな核酸またはタンパク質の中に埋め込まれていてもよい。機能的または構造的に定義されたDNA領域を含むキメラ遺伝子は追加のDNA領域を含んでいてもよい。
【0051】
したがって、本明細書において定義された第1、第2,第3および第4領域を含むdsRNA分子は、さらに、例えば、第1標的遺伝子と同じ標的遺伝子であっても異なっていてもよい標的遺伝子に対して少なくとも94%の配列同一性を有する、または相補的な19個のヌクレオチドのヌクレオチド領域を有する第5および第6領域を含んでいてもよい。
【0052】
本発明の1つの実施形態において、dsRNA分子はさらに、第1領域で定義した19個連続したヌクレオチドとは異なる標的遺伝子のセンスヌクレオチドからの19個連続したヌクレオチドの領域に対して少なくとも94%の配列同一性を有する1つ以上の領域、および第2領域で定義した19個連続したヌクレオチドとは異なる標的遺伝子のセンスヌクレオチドの相補体からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する1つ以上の領域を含み、これらの追加の領域はそれらの間で塩基対合することができる。同様に、dsRNAはさらに、第3領域の19個のヌクレオチドとは異なるレポーター遺伝子の19個連続したヌクレオチドの領域に対して少なくとも94%の配列同一性を有する1つ以上の領域、および前記レポーター遺伝子の19個連続したヌクレオチドに相補的な領域に対して少なくとも94%の配列同一性を有する1つ以上の領域を含み、これらの追加の領域はそれらの間で塩基対合することができる。繰り返すが、前記領域に特定の順序は必要なく、これらの領域はそれぞれの間に分散していてよい。したがって、例えば、相補的RNA領域間の塩基対合が可能である限り、標的遺伝子のサイレンシングに向けられたdsRNA領域を、レポーター遺伝子のサイレンシングに向けられたdsRNA領域と交互に配置してもよい。
【0053】
前記のdsRNAは、転写により前記dsRNAを生成するようなキメラ遺伝子の導入および可能な組込みにより宿主細胞に導入することが便利である。そこで、本発明はまた、以下のものを含むキメラ遺伝子を提供することを目的とする。すなわち、
- 目的の真核生物の細胞中で発現することができるプロモーターまたはプロモーター領域、これに機能的に連結された、転写されたときに第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNA分子をもたらすDNA領域、ただし、
- 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第1領域と第2領域は、好ましくは第1および第2領域の全長にわたって、少なくとも前記の第1および第2領域の19個のヌクレオチドの間で、二本鎖RNA領域を形成することができる;
- 第3領域は、前記標的遺伝子とは異なる、前記真核細胞中に存在する第2遺伝子のセンスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第4領域は、第2遺伝子の前記センスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第3および第4領域は、好ましくは第3および第4領域の全長にわたって、少なくとも前記19個のヌクレオチドの長さにわたって、二本鎖RNA領域を形成することができる;
また、ここで、第1および第2領域の間に形成された二本鎖RNA領域、ならびに第3および第4領域の間に形成された二本鎖RNA領域はサイズがほぼ等しい;および、
- 選択された真核細胞に適した転写終結およびポリアデニル化領域。
【0054】
本明細書中で用いる「プロモーター」という用語は、転写開始時にDNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されて、それと直接または間接的に結合するDNAをさす。プロモーターは、転写開始部位と、転写開始因子およびRNAポリメラーゼのための結合部位を含み、また、遺伝子発現調節タンパク質が結合しうる他の部位(例えば、エンハンサー)を含んでいてもよい。
【0055】
本明細書中で用いる「調節領域」という用語は、所定のDNA配列(例えば、タンパク質またはポリペプチドをコードするDNA)の転写を駆動し、かつその転写のタイミングおよびレベルを制御(すなわち、調節)することに関与しているDNAをさす。例えば、5’調節領域(または「プロモーター領域」)はコード配列の上流(すなわち、5’側)に位置するDNA配列であって、プロモーターと5’-非翻訳リーダー配列を含んでいる。3’調節領域はコード配列の下流(すなわち、3’側)に位置するDNA配列であって、1以上のポリアデニル化シグナルをはじめとする適当な転写終結(および/または調節)シグナルを含んでいる。
【0056】
本発明の一実施形態において、プロモーターは構成的プロモーターである。本発明の別の実施形態では、プロモーター活性が外部または内部刺激により増強され(誘導プロモーター)、かかる刺激として、例えばホルモン、化学物質、機械的衝撃、非生物的または生物的ストレス条件があるが、これらに限らない。また、プロモーターの活性は時間的または空間的にも調節することが可能である(組織特異的プロモーター;発生的に調節されるプロモーター)。
【0057】
本発明の特定の実施形態において、プロモーターは植物発現可能プロモーターである。本明細書中で用いる「植物発現可能プロモーター」とは、植物細胞内で転写を制御(開始)することができるDNA配列を意味する。これには植物由来のあらゆるプロモーターが含まれるが、植物細胞内で転写を指令することができる非植物由来のプロモーターも含まれる。すなわち、ウイルスまたは細菌由来のいくつかのプロモーター、例えばCaMV35S (Hapsterら, 1988)、地下性クローバーウイルスプロモーターNo4もしくはNo7(WO9606932)、またはT-DNA遺伝子プロモーターも含まれ、さらに組織特異的または器官特異的プロモーター、例えば種子特異的プロモーター (例えば、WO89/03887)、器官原基特異的プロモーター(Anら, 1996)、茎特異的プロモーター(Kellerら, 1988)、葉特異的プロモーター(Hudspethら, 1989)、葉肉特異的プロモーター(例えば、光誘導性Rubiscoプロモーター)、根特異的プロモーター(Kellerら, 1989)、塊茎特異的プロモーター(Keilら, 1989)、維管束組織特異的プロモーター(Pelemanら, 1989 )、雄しべ選択的プロモーター(WO 89/10396, WO 92/13956)、裂開帯(dehiscence zone)特異的プロモーター(WO 97/13865)なども含まれる。
【0058】
本発明の別の特定の実施形態において、プロモーターは真菌発現可能プロモーターである。本明細書中で用いる「真菌発現可能プロモーター」とは、真菌細胞内で転写を制御(開始)することができるDNA配列を意味し、例えば、A. nidulans trpC遺伝子プロモーターまたは誘導性S. cerevisiae GAL4プロモーターなどがあるが、これらに限らない。
【0059】
本発明のさらに別の特定の実施形態において、プロモーターは動物発現可能プロモーターである。本明細書中で用いる「動物発現可能プロモーター」とは、動物細胞内で転写を制御(開始)することができるDNA配列を意味し、例えば、SV40後期および初期プロモーター、サイトメガロウイルスCMV-IEプロモーター、RSV-LTRプロモーター、SCSVプロモーター、SCBVプロモーターなどがあるが、これらに限らない。
【0060】
本発明に有用なdsRNA分子はまた、in vitro転写によっても作製することができる。このために、本発明によるキメラ遺伝子のプロモーターは、バクテリオファージの単一サブユニットRNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターであってよく、例えば、大腸菌ファージT7、T3、φI、φII、W31、H、Y、A1、122、cro、C21、C22、およびC2; シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)ファージgh-1; ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)ファージSP6; レイ菌(Serratia marcescens)ファージIV; シトロバクター(Citrobacter)ファージViIII; およびクレブシェラ(Klebsiella)ファージNo.11に由来するRNAポリメラーゼが含まれる [Hausmann, Current Topics in Microbiology and Immunology, 75: 77-109 (1976); Korstenら, J. Gen Virol. 43: 57-73 (1975); Dunnら, Nature New Biology, 230: 94-96 (1971); Towleら, J. Biol. Chem. 250: 1723-1733 (1975); Butler and Chamberlin, J. Biol. Chem., 257: 5772-5778 (1982)]。このようなプロモーターの例は、それぞれT3 RNAポリメラーゼ特異的プロモーターおよびT7 RNAポリメラーゼ特異的プロモーターである。CIG中の第1プロモーターとして用いられるT3プロモーターは、McGrawら, Nucl. Acid Res. 13: 6753-6766 (1985)に記載されるT3遺伝子のいずれかのプロモーターでありうる。あるいはまた、T3プロモーターは、T3 RNAポリメラーゼにより認識されるようにヌクレオチド位置-10、-11および-12で改変されたT7プロモーターでありうる [Klementら, J. Mol. Biol. 215, 21-29(1990)]。好ましいT3プロモーターは、米国特許第5,037,745号に記載されるように、T3プロモーターの「コンセンサス」配列を有するプロモーターである。T7 RNAポリメラーゼと組み合わせて、本発明に従って使用しうるT7プロモーターは、DunnおよびStudier, J. Mol. Biol. 166: 477-535 (1983)に記載されるようなT7遺伝子のうちの1つの遺伝子のプロモーターを含む。好ましいT7プロモーターは、DunnおよびStudier(前掲)に記載されるように、T7プロモーターの「コンセンサス」配列を有するプロモーターである。
【0061】
dsRNAは、アクセプターベクターDNAを適当なバクテリオファージ単一サブユニットRNAポリメラーゼと、当業者に公知の条件下で、接触させることにより大量に作製することができる。そのようにして作製したdsRNAは、その後、植物細胞、真菌細胞または動物細胞のような、遺伝子サイレンシングを起こしやすい細胞に送達するために使用される。dsRNAはリポソームや他のトランスフェクション試薬(例えば、ClonTechからのClonfectionトランスフェクション試薬またはCalPhos哺乳動物トランスフェクションキット)により動物細胞に導入することができ、適当な標的遺伝子をサイレンシングすることによって、ヒトをはじめとする動物の治療方法に使用できると考えられる。dsRNAはいくつかの異なる方法で細胞に導入することができる。例えば、マイクロインジェクション、dsRNAを被覆した粒子による衝撃、dsRNAの溶液中への細胞または生物の浸漬、dsRNAの存在下での細胞膜のエレクトロポレーション、dsRNAのリポソーム介在送達、リン酸カルシウムのような化学物質が介在するトランスフェクション、ウイルス感染、形質転換などによりdsRNAを導入しうる。細胞によるRNAの取込みを高めたり、アニーリングした鎖を安定化したり、あるいは他の方法で標的遺伝子の阻害を増大する成分と共に、dsRNAを導入してもよい。完全な動物の場合には、dsRNAを生物の内腔または間隙に注入または灌流することにより、あるいは全身的に経口、局所、非経口(皮下、筋肉内、または静脈内投与を含む)、膣内、直腸内、鼻腔内、眼内、または腹腔内投与により導入することが有利である。また、dsRNAを植込み式の持続放出装置により投与することもできる。
【0062】
dsRNAを生産することができる本発明のキメラ遺伝子は、特定の原核生物宿主でのdsRNAの発現に適した、任意の原核生物プロモーターを備えていてもよい。原核生物宿主は、線虫や昆虫のような動物(標的遺伝子のサイレンシングを想定して、それをリポーター遺伝子の発現低下によりモニタリングする)に該原核生物を摂取させることにより、dsRNAの供給源として使用することができる。この場合には、標的遺伝子とリポーター遺伝子は標的真核生物の細胞内に存在する遺伝子であって、原核生物宿主の細胞内には存在すべきでないことが明らかだろう。こうして、本発明のdsRNA、あるいはこの種のdsRNA分子をもたらし得るキメラ遺伝子は、1つの宿主生物において産生させて、別の標的生物に(例えば、摂取、経口投与により、裸のDNAもしくはRNA分子として、リポソームに封入して、ウイルス粒子もしくは弱毒ウイルス粒子に挿入して、または不活性粒子上に被覆して)投与し、その別の生物において1以上の標的遺伝子および1以上のレポーター遺伝子の発現低下を起こすことができる。この場合、標的遺伝子およびレポーター遺伝子は、宿主生物ではなく、標的(真核)生物の細胞内に存在する遺伝子でなければならないことは明白である。
【0063】
適切な転写終結およびポリアデニル化領域としては、限定するものではないが、SV40ポリアデニル化シグナル、HSV TKポリアデニル化シグナル、Agrobacterium tumefaciensのノパリンシンターゼ遺伝子ターミネーター、CaMV 35S転写産物のターミネーター、地下性矮化クローバーウイルス(subterranean stunt clover virus)のターミネーター、Aspergillus nidulans trpC遺伝子のターミネーターなどが挙げられる。
【0064】
本発明はさらに、これらのキメラ遺伝子からの転写により得ることができ、本発明による方法に有用であるdsRNA分子を提供することを目的とする。
【0065】
本発明の別の目的は、本発明のdsRNA分子を含有するか、または本発明のdsRNA分子をもたらすことができるキメラ遺伝子を含有する、真核細胞ならびに非ヒト真核生物を提供することである。好ましい実施形態では、キメラ遺伝子が真核生物の細胞のゲノムに安定して組み込まれる。
【0066】
別の好ましい実施形態において、キメラ遺伝子は、真核生物の細胞内で自律複製が可能なDNA分子(例えば、ウイルスベクター)上に担持させることができる。また、キメラ遺伝子またはdsRNAを真核生物の細胞に一過性に保持させてもよい。
【0067】
本発明のこの第1の態様によるdsRNA分子はまた、dsRNAの介在により遺伝子をサイレンシングされた生物の集団内で、1以上の標的遺伝子の所望の程度のサイレンシングを有するものを同定するために用いることができる。この目的のために、dsRNAを含む生物の集団を作る。ここで、dsRNAは、第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含み、第1領域は標的遺伝子のセンスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む。第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む。第3領域は、真核細胞中に存在し、標的遺伝子とは異なる第2遺伝子のセンスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む。第4領域は、同じ第2遺伝子のセンスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む。第1および第2、ならびに第3および第4領域は、好ましくは第1および第2、または第3および第4領域の全長にわたって、少なくとも前記19個のヌクレオチドの長さにわたって、二本鎖RNA領域を形成し、第1と第2領域の間に形成された二本鎖RNA領域と、第3と第4領域の間に形成された二本鎖RNA領域はほぼ等しいサイズである。次に、dsRNAを含む生物の集団をレポーター遺伝子の発現のダウンレギュレーションについて分析し、レポーター遺伝子の発現のダウンレギュレーションが所望の程度のダウンレギュレーションに相当するdsRNA含有生物を選択し、単離する。
【0068】
2つ以上の標的遺伝子に対する二本鎖の相補的センスおよびアンチセンスRNA領域を含むdsRNAの存在により誘導される2つ以上の遺伝子のサイレンシングの程度の一致はまた、これらの標的遺伝子のサイレンシングの程度を調節するために使用することができる。2つ以上の遺伝子のサイレンシングの程度の一致は、二本鎖の相補的センスおよびアンチセンスRNA領域の相対的サイズに依存する。その結果として、ある特定の遺伝子のサイレンシングの程度は、特定の標的遺伝子(1つまたは複数)の発現をサイレンシングするように設計された相補的センスおよびアンチセンスRNA領域を含む同じdsRNA分子の中に、塩基対合により二本鎖RNAを形成することができる過剰な無関係の相補的配列を含ませることにより調節することができる。
【0069】
本発明を特定の作用様式に限定するものではないが、これは、dsRNAからの約21ntの小さいRNA分子の生成に携わる真核細胞中の酵素(ショウジョウバエ中のDICERなど)が、dsRNA中に、サイレンシングされる1以上の標的遺伝子のヌクレオチド配列と無関係な配列である過剰なdsRNA配列(すなわち、相補的RNA分子)を含ませることにより飽和するためであると考えられる。
【0070】
そこで、本発明の1つの実施形態において、以下のステップからなる、真核生物の標的遺伝子の発現の低下を調節する方法を提供する。
【0071】
- 真核細胞に、第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNAを供給すること、ただし、
- 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む;
- 第1および第2領域は、好ましくは第1および第2領域の全長にわたって、少なくとも前記19個のヌクレオチドの長さの間で、二本鎖RNA領域を形成することができる;
- 第3領域および第4領域は、標的遺伝子のヌクレオチド配列とは無関係の相補的ヌクレオチド配列からなり、二本鎖RNAを形成することができる。第3および第4領域の間の塩基対合により形成することができる二本鎖RNAのサイズは、好ましくは第1および第2領域の間の塩基対合により形成することができる二本鎖RNAのサイズと等しいかこれよりも長い。第3/第4領域のサイズは、望まれるサイレンシングの調節の程度に応じて、第1/第2領域のサイズよりも短くてもよい。
【0072】
好ましくは、第1および第2領域は、第3および第4領域が二本鎖RNAを形成するのと同時に二本鎖RNA領域を形成することができる。さらに、好ましくは、標的遺伝子は真核細胞の内在性遺伝子であるか、真核細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンである。
【0073】
本明細書において、配列が標的遺伝子と「無関係」であるとは、無関係の配列と標的配列の間の全体的な配列同一性が、50%未満、特に45%未満、より特定的には35%未満である場合である。好ましくは、無関係の配列は、標的遺伝子の19個連続したヌクレオチド配列またはその相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含まない。
【0074】
同じdsRNA分子を含む真核生物の異なる系統の間でおこる標的遺伝子の発現のダウンレギュレーションにおける天然の変異は、遺伝子サイレンシングのスペクトルの下方端に向けてシフトする。これは、第1および第2のRNA領域により形成されるdsRNAに機能的に連結される、標的遺伝子と無関係の余分のdsRNAヌクレオチド配列が含まれるためである。
【0075】
第3および第4領域間の塩基対合により形成され得る二本鎖RNAのサイズと、第1および第2領域間の塩基対合により形成され得る二本鎖RNAのサイズの比は、0.1から20、好ましくは1から10の間で変化する。前記の比が大きいほど、遺伝子サイレンシングの程度がより低い(すなわち、標的遺伝子の発現レベルがより高い)、dsRNAを含む真核生物の集団中の生物が多くなるだろう。
【0076】
標的遺伝子の19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列と少なくとも94%同一または相補的である第1または第2のRNA領域の19個のヌクレオチドは、より大きいRNA分子の中に含まれてもよい。このようなより長いRNA分子は、19bpといった短いサイズから標的遺伝子と同じサイズまでのさまざまな長さのヌクレオチド配列を有し、全体的な配列同一性の程度がさまざまに変化する。
【0077】
そこで、前記センスおよびアンチセンスヌクレオチド領域は、約50nt、100nt、200nt、300nt、500nt、1000nt、2000ntまたは約5000ntまたはそれ以上の長さであり、それぞれ約40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の全体的な配列同一性を有する。配列が長いほど、全体的な配列同一性に対する要求は厳しくなくなる。
【0078】
第1、第2、第3および第4領域はそれぞれ、標的またはレポーター遺伝子のいずれのヌクレオチド配列とも無関係のヌクレオチド配列を有するスペーサー領域により分離されていてもよい。
【0079】
有利には、dsRNA分子は、転写されると本発明のこの態様に従うdsRNAをもたらすDNA領域を転写することができるプロモーターまたはプロモーター領域を含むキメラ遺伝子からの転写により真核細胞または生物に導入される。本発明の第1の態様に関して記載した適当なプロモーター等に関するさまざまな実施形態を、ここでも適用することができると理解される。
【0080】
本発明はまた、dsRNAまたは本発明の第2の態様に従って前記dsRNA分子を生成することができるキメラ遺伝子、ならびに前記のdsRNAまたはキメラ遺伝子を有する非ヒト真核生物を提供することを目的とする。
【0081】
本発明のキメラ遺伝子の逆方向反復部分は、米国特許出願60/244067および60/333743(参照により本明細書に組み入れる)またはWO 02/059294に記載される手段および方法を用いて、組換えクローニングにより都合よく構築することができる。米国特許出願60/244067またはUS 60/333743によるベクターは、二本鎖RNA遺伝子を形成することができる第3および第4領域を含むように改変して、第3および第4領域が、EIN2、PHYB、FLCおよびCHSのようなマーカー遺伝子の発現をダウンレギュレーションすることができるようにしてもよい。
【0082】
好ましくは、本発明のdsRNAをコードするキメラ遺伝子は、好ましくは第2および第3領域間の領域に、効率を高めるためのイントロンを含む(WO 99/53050に記載されるように)。本明細書において用いられる「イントロン」または介在配列とは、より大きい転写領域の中のDNA領域であって、核の中で転写されてより大きいRNAの一部であるRNA領域を生成するが、イントロン配列に相当する前記RNAは細胞質に転移する時により大きいRNAから除去される、そのようなDNA領域を指す。相当するRNAもまたイントロンまたは介在配列と呼ばれる。イントロン配列はスプライシング部位に挟まれているが、適当なスプライス部位を適当な分枝点を有する任意の配列に結合することにより、合成イントロンを作ることができる。イントロンの例には、pdk2イントロン、ヒマの実由来のカタラーゼイントロン、ワタ由来のデルタ12デサチュラーゼイントロン、シロイヌナズナ由来のデルタ12デサチュラーゼイントロン、トウモロコシ由来のユビキチンイントロン、またはSV40由来のイントロンが含まれる。
【0083】
本発明の1つの実施形態において、本発明の第1および第2の態様を組み合わせて、本明細書に記載されるように第2遺伝子またはレポーター遺伝子のダウンレギュレーションを分析することにより標的遺伝子の発現のダウンレギュレーションをモニタリングするために、dsRNA分子を真核細胞に供給することができる。このような実施形態において、標的遺伝子またはその相補体の配列を有するdsRNAのサイズと、第2遺伝子またはその相補体の配列を有するdsRNAのサイズとの比は、2〜10である。この方法において、第2遺伝子の発現が効果的にダウンレギュレーションされる生物を同定することにより、標的遺伝子の発現が厳しくダウンレギュレーションされる生物の集団を同定しうると予想される。
【0084】
本明細書に記載された方法および手段は、遺伝子サイレンシングがおこるいかなる真核生物にも適用することができる。かかる生物には、とりわけ、植物(例えば、トウモロコシ、ワタ、シロイヌナズナ、イネ、野菜、ダイズ、タバコ、樹木等)、無脊椎動物(例えば、昆虫、甲殻動物、軟体動物、カニ、ロブスターおよびエビのような甲殻綱の動物)、脊椎動物(魚類、鳥類、哺乳動物、ヒト)、酵母および真菌が含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
下記の非限定的な実施例に、第2遺伝子の分析によって標的遺伝子の発現のdsRNA介在サイレンシングをモニタリングするための方法および手段、ならびに、真核細胞におけるdsRNA介在遺伝子サイレンシングの程度を調節する方法および手段を記載する。
【0086】
実施例において他に特に記載しない限り、すべての組換えDNA技術は、Sambrockら、(1989) 「分子クローニング:実験室マニュアル」(Molecular Cloning: A Laboratory Manual) 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, NYおよびAusubelら、(1994)「分子生物学の最新プロトコール、最新プロトコール」(Current Protocols in Molecular Biology, Current Protocols), USAの第1巻および第2巻に記載される標準的なプロトコールに従って実施する。植物分子研究に関する標準的な材料および方法については、BIOS Scientific Publications Ltd(UK)およびBlackwell Scientific Publications, UKが共同で出版した、R.D.D.Croyによる「植物分子生物学ラブファックス」(Plant Molecular Biology Labfax) (1993)に記載されている。標準的な分子生物学技術に関する他の参照文献には、SambrookおよびRussell (2001)「分子クローニング:実験室マニュアル」(Molecular Cloning: A Laboratory Manual) 第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY、Brown (1998)「分子生物学ラブファックス」(Molecular Biology LabFax) 第2版の第I巻および第II巻、Academic Press (UK)が含まれる。ポリメラーゼ連鎖反応に関する標準的な材料および方法は、DieffenbachおよびDveksler (1995)「PCRプライマー:実験室マニュアル」(PCR Primer: A Laboratory Manual) Cold Spring Harbor Laboratory Press, およびMcPhersonら、(2000)「PCR - 基本:背景から作業台まで」(PCR - Basics: From Background to Bench) 第1版、Springer Verlag, Germanyに記載されている。
【0087】
実施例の記載を通して、以下の配列を参照する。
【0088】
配列番号1:CHS/FLC断片のPCR反応用のオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号2:CHS/FLC断片のPCR反応用のオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号3:CHS/FLC断片のPCR反応用のオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4:CHS/FLC断片のPCR反応用のオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号5:attB1組換え部位
配列番号6:attB2組換え部位
配列番号7:pHELLSGATE 8
【実施例】
【0089】
実施例1: 2つの遺伝子を標的とするihpRNA構築物は化学量論的サイレンシングを与える
2つの遺伝子を標的とするihpRNA構築物の構築:
300ntの花遺伝子座C (FLC) 遺伝子(Genbank登録AF116527、塩基620-920)、続く300ntのカルコンシンターゼ(CHS)遺伝子(Genbank登録Y18603、塩基147-532)をセンス配向で、および前記300ntのCHSに相補的なヌクレオチド配列、続く前記300ntのFLCに相補的なヌクレオチド配列を含む、2つの別個の遺伝子を標的とするihpRNA構築物をコードするキメラ遺伝子を構築した。
【0090】
CHS/FLC挿入物は、FLCの300bp断片を下記の配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー:
- 5’ CTCGAGTCTAGAGGAGCAGAAGCTGAGATGGAG 3’ (配列番号1)(プライマー138)
- 5’ CTGCAGGAATAAGGTACAAAGTTCATC 3’(配列番号2)(プライマー136)
を用いて増幅し、得られた産物をpGEM T-easy (Promega, Madison, WI)にクローン化することにより作製した。
【0091】
CHS断片は、下記の配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー:
- 5’ CTGCAGGCACTGCTAACCCTGAGAAAC 3’(配列番号3)(プライマー133)
- 5’ GGTACCTTGACTTGGGCTGGCCCCACT 3’(配列番号4)(プライマー143)
を用いて増幅し、これもpGEM T-easyにクローン化した。
【0092】
300bpの断片を、CHS断片を含むpGEM T-easy CHSから切除し、pGEM T-easy FLCのPstI部位に挿入した。得られたCHS/FLCキメラ挿入断片を、138および143と同じ遺伝子特異的配列を有するが、さらに組換え部位attB1 (GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCT; 配列番号5)およびattB2 (GGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGT; 配列番号6)をコードするヌクレオチド配列をそれぞれその5’末端に含むように改変されたプライマーを用いて、F1 Taq DNAポリメラーゼ (Fisher Biotech, Subiaco, WA, Australia) により、製造業者のプロトコールに従って増幅した。
【0093】
PCR産物は、3容量のTEおよび2容量の30% (w/v) PEG3000、30mM MgCl2を加え、13000gで15分間遠心分離することにより沈殿させた。PCR産物とpDONR201 (Invitrogen, Groningen, The Netherlands)との組換え反応を、2μLのBPクロナーゼ緩衝液 (Invitrogen)、1〜2μLのPCR産物、150ngのプラスミドベクターおよび2μLのBPクロナーゼ (Invitrogen)を含む10μLの総容量で実施した。反応液を室温 (25℃) で1時間から一晩インキュベートした。インキュベーションの後、1μLのプロテイナーゼK (2μg/μL; Invitrogen)を加えて、37℃で10分間インキュベートした。1〜2μLの前記混合物を用いて大腸菌 DH5αを形質転換し、コロニーを適当な抗生物質により選択した。クローンをDNAミニプレップの消化またはPCRのいずれかによりチェックした。
【0094】
pDONR201クローンからpHellsgate 8への組換え反応を、2μLのLRクロナーゼ緩衝液 (Invitrgen)、2μLのpDONR201クローン(およそ150ng)、300ngのpHellsgate 8および2μLのLRクロナーゼ (Invitrogen) を含む10μLの総容量で実施した。反応液を室温で一晩インキュベートし、プロテイナーゼで処理し、BPクロナーゼ反応の場合と同様にDH5αを形質転換するために用いた。
【0095】
pHELLSGATE 8は、目的とする挿入DNAの逆方向反復を作るための組換えクローニングに適したベクターである。pHELLSGATE 8の構築、およびその組換えクローニングへの使用については、PCT出願PCT/AU02/00073、US 60/264,067または米国優先権出願US 60/333,743(すべての文献を参照により本明細書に組み入れる)に記載されている。pHELLSGATE 8は、以下のものをコードするDNA要素を含む:
・アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens )T-DNA領域の右ボーダー配列;
・CaMV 35Sプロモーター領域;
・attR1組換え部位;
・大腸菌由来のccdB選択マーカー遺伝子;
・attR2組換え部位;
・pdk2 (Flavineria trinervaピルビン酸オルトリン酸ジキナーゼイントロン2)イントロン配列;
・attR2組換え部位;
・ccdB選択マーカー遺伝子;
・attR1組換え部位;
・アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)オクトピンシンターゼ遺伝子(ocs)からのターミネーター領域;
・ノパリンシンターゼ遺伝子(nos)プロモーターおよびnosターミネーターに挟まれたキメラnptII遺伝子;
・左ボーダーアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) T-DNA領域;
・大腸菌の複製起点およびストレプトマイシン耐性遺伝子。
pHELLSGATE 8の完全な配列を、配列番号7として示す。
【0096】
前記のPCR増幅挿入物であるCHS/FLCの組換えクローニングに際して、キメラ遺伝子は以下のものを含むように作られる:
- CaMV 35Sプロモーター領域;
- FLCの塩基620-920に相当するヌクレオチド配列;
- CHSの塩基147-532に相当するヌクレオチド配列;
- pdk2イントロン;
- CHSの塩基147-532に相補的なヌクレオチド配列;
- FLCの塩基620-920に相補的なヌクレオチド配列;
- ocsターミネーター領域。
【0097】
このキメラ遺伝子を、植物発現可能選択マーカー遺伝子と共に、アグロバクテリウム(Agrobacterium) T-DNAボーダー配列の間に入れる。このようにして、このベクターは必要なヘルパー機能を含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)の中に導入して、植物細胞を形質転換するために使用することができる。
【0098】
植物の形質転換:
シロイヌナズナ C24生態型の形質転換は、フローラルディップ法(floral dip method)(CloughおよびBent, 1998)によりおこなった。植物を、100mg/lのチメンチン(timentin)および50mg/lのカナマイシンを補足した寒天固化MS培地上で選択した。
【0099】
FLCまたはCHS遺伝子をサイレンス化した植物の表現型分析法:
T1 FLC ihpRNA植物をMSプレートに移し、開花するまでの日数または開花時のロゼット葉をC24野生型植物およびflc突然変異系統と比較して評価した。FLC遺伝子発現が低下または消滅した植物系統は野生型C24生態型よりも早く開花する。カルコンシンターゼ遺伝子(CHS)の発現の低下によるアントシアニン生合成の遮断は、マロニル-CoAの蓄積を引き起こし、UV光のもとで観察される種子の蛍光を増加させる。
【0100】
iphCHS/FLC構築物により形質転換されたT1植物はすべて、野生型C24(36日)よりも早く、トランスポゾン-標識flc-13系統(17日、Sheldonら、1999)よりも遅く開花した。異なる時期に開花した4つのihp CHS/FLC植物の種子を蛍光について試験して(図1)、野生型C24、35S::GUS系統およびホモ接合ihpRNA-サイレンス化CHS系統(Wesleyら、2001)と比較した。カルコンシンターゼ経路中の異なる中間物質の相対濃度もまたHPLC分析により測定した。
【0101】
UV光のもとで、CHS ihpRNA系統はこの系統でのマロニル-CoAの蓄積を反映して強い蛍光を示したのに対し、野生型C24および35S::GUS系統は蛍光を示さなかった。試験した4つのihp CHS/FLC系統はすべていくらかの蛍光を示し、そのうちで最も早く開花した系統が最も強い蛍光を示した。
【0102】
実施例2: iphRNAのステムにおいて余分の非標的配列で希釈することによるCHS遺伝子のサイレンシングの程度の調節
ihpRNAまたはdsRNA分子中に標的DNA配列と無関係の余分なヌクレオチドを含めることが、標的遺伝子のサイレンシングの程度に及ぼす影響を試験するために、いくつかのキメラ遺伝子を、アンチセンスおよびセンス配向(それぞれCHSantisenseおよびCHSsenseと呼ぶ)の両方において、それぞれCHSヌクレオチド配列(Genbank登録Y18603に相当する)からの100bpを含むように作製した。
【0103】
CHS遺伝子と無関係の漸次増加するヌクレオチド配列(100bpから900bpまで;Extra-NNN-ntsenseまたはExtra-NNN-ntantisenseと呼ぶ)をアンチセンスおよびセンス配向の両方で挿入した。無関係のヌクレオチド配列はFLC遺伝子(Genbank登録Nr AF116527に相当する)に由来するものであった。
【0104】
異なるCHS/Extraヌクレオチド構築物を、attB1およびattB2伸長プライマーによりPCR増幅して、実施例1に記載された方法でpHELLSGATE 8に導入した。このようにして得られたプラスミドは以下のキメラdsRNA遺伝子を含む:
1. <CaMV35S-CHSsense-Extra_100_ntsense-pdk2イントロン-Extra_100_ntantisense-CHSantisense-OCSターミネーター>
または
2. <CaMV35S-CHSsense-Extra_300_ntsense-pdk2イントロン-Extra_300_ntantisense-CHSantisense-OCSターミネーター>
または
3. <CaMV35S-CHSsense-Extra_500_ntsense-pdk2イントロン-Extra_500_ntantisense-CHSantisense-OCSターミネーター>
または
4. <CaMV35S-CHSsense-Extra_900_ntsense-pdk2イントロン-Extra_900_ntantisense-CHSantisense-OCSターミネーター>
【0105】
実施例1に記載された方法により前記4つのキメラ遺伝子のうち1つを含む形質転換シロイヌナズナ植物系統を作り、それぞれの系統の植物の種についてCHS遺伝子のサイレンシングをモニタリングするために、実施例1に記載される方法でUV光のもとでの蛍光を測定した。独立したトランスジェニック系統を蛍光の程度によって分類した。結果を表1にまとめた。
【表1】

【0106】
これらの結果から、ihpRNA構築物中の標的配列に対する余分のヌクレオチド配列の比率が高いほど、低度の蛍光を有する(すなわち、CHS標的遺伝子発現のサイレンシングの程度が低い)トランスジェニック植物系統が高い比率で得られることは明らかである。
【0107】
ihpRNAまたはdsRNA中に余分の無関係の配列を含めると、トランスジェニック系統の集団におけるサイレンシングの分布が、遺伝子サイレンシングのスペクトルの下方端に向けて効果的にシフトされる。
【0108】
実施例3: FLCおよびCHSを標的とするdsRNA領域を同時にコードするキメラ遺伝子を含むトランスジェニック植物系統のノーザン分析
2つのFLC-CHSヘアピン構築物を含む異なるシロイヌナズナ植物系統からRNAを調製した。一方の構築物は、attR部位に挿入されたCHS断片を有するイントロンの隣にFLCヘアピンを有する改変型Hellsgate 12ベクター(WO 02/059294を参照されたい)であった。他方の構築物は、attR部位に挿入されたFLC断片を有するイントロンの隣にCHSヘアピンを有する改変型Hellsgate 12であった。2つの同一のゲルを作り、ブロットし、FLCまたはCHSアンチセンスRNAプローブのいずれかを用いてプローブした。ブロットをRNアーゼにより処理してシグナルが特異的であることを確実にした。得られたオートラジオグラムを図2Aに示す。異なるプローブおよび系統に対するハイブリダイゼーションの量を評価して、表2にまとめ、図2Bにグラフで表した。それぞれの系統においてFLCおよびCHSシグナルの量の間に良好な線形の直接的な関係が存在することが見られ、一方の遺伝子がサイレンシングされる場合、他方の遺伝子も同程度にサイレンシングされることを示している。
【表2】

【0109】
参照文献
Anら, 1996 The Plant Cell 8, 15-30
ButlerおよびChamberlin, 1982 J. Biol. Chem., 257: 5772-5778
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Hamiltonら, 1998 Plant J. 15: 737-746
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Waterhouseら, 1998 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 13959-13964
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】UV光のもとで蛍光を発している、FLC/CHS構築物で形質転換したT1植物の種子を、C24野生型(C24)、CaMV35Sプロモーター(GUS)の制御下にあるキメラGUS遺伝子を含むC24野生型、およびホモ接合CHSサイレンス化系統(CHS)と比較して示した図である。数字はトランスジェニック植物細胞系統の開花までの日数を示している。
【図2】FLCプローブ(上のパネル)およびCHSプローブ(下のパネル)でプローブされた、FLCおよびCHSの両方を標的とするdsRNAをコードする遺伝子を含むトランスジェニック植物系統から調製したRNAのノーザンブロット分析を示した図である(図2A)。図2Bは、CHS発現から検出されたmRNAの量に対してプロットした、FLC発現から検出されたmRNAの量を表したグラフである。
【0111】
【配列表】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核生物の細胞における標的遺伝子の発現の低下をモニタリングする方法であって、以下のステップ:
a) 第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNAを真核細胞に供給すること、ただし、
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域は、前記標的遺伝子とは異なる、前記真核細胞中に存在する第2遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
v) 第4領域は、第2遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの前記19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
vi) 第3領域と第4領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、および
b) 第2遺伝子の発現低下を分析することにより標的遺伝子の発現の低下をモニタリングすること、
を含んでなる上記方法。
【請求項2】
前記真核生物が植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真核生物が動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記真核生物が酵母、真菌またはカビである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記真核生物がワタ、ジャガイモ、トウモロコシ、コムギ、イネ、サトウキビ、アブラナ、シロイヌナズナ、サトウダイコン、タバコおよびダイズからなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記真核生物が昆虫、甲殻動物、軟体動物、甲殻綱の動物、カニ、ロブスター、エビ、魚類、鳥類、哺乳動物およびヒトからなる群より選択される、請求項1または3に記載の方法。
【請求項7】
第2遺伝子が前記真核細胞中に存在する内在性遺伝子である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第2遺伝子が前記真核細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第2遺伝子がPDS、EIN2、FLCおよびPhyBからなる群より選択される、請求項2または5に記載の方法。
【請求項10】
前記真核細胞が機能的に発現されるGUSまたはGFP遺伝子を含み、第2遺伝子がGUSまたはGFP遺伝子である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
第1および第2領域、ならびに第3および第4領域が約300ntの長さである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記dsRNAが前記真核生物の細胞内に含まれるキメラ遺伝子から転写され、前記キメラ遺伝子が、
a) 前記真核細胞において機能するプロモーター領域、これに機能的に連結された
b) 転写されたとき前記dsRNA分子をもたらすDNA領域、および
c) 前記真核細胞において機能する転写終結およびポリアデニル化領域、
を含むものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記キメラ遺伝子が前記真核生物の細胞のゲノムに安定に組み込まれている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載されるRNA分子。
【請求項15】
標的遺伝子の発現の低下をモニタリングするための請求項14に記載のRNA分子の使用。
【請求項16】
真核生物の細胞における標的遺伝子の発現の低下を測定するためのDNA分子であって、
a) 前記真核細胞において機能するプロモーター領域、これに機能的に連結された
b) 転写されたとき、第1、第2、第3および第4領域を含むdsRNA分子をもたらすDNA領域、ただし
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域は、前記標的遺伝子とは異なる、前記真核細胞中に存在する第2遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
v) 第4領域は、第2遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの前記19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
vi) 第3領域と第4領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、および
c) 前記真核細胞において機能する転写終結およびポリアデニル化領域、
を含んでなり、ここにおいて、第2遺伝子は前記真核生物の内在性遺伝子であるか、または前記真核生物の細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンである、上記DNA分子。
【請求項17】
第2遺伝子の発現の低下を測定することにより標的遺伝子の発現を測定するための請求項16に記載のDNA分子の使用。
【請求項18】
請求項14に記載のRNA分子を含む非ヒト真核生物。
【請求項19】
請求項16に記載のDNA分子を含む非ヒト真核生物。
【請求項20】
植物である、請求項18または19に記載の非ヒト真核生物。
【請求項21】
動物である、請求項18または19に記載の非ヒト真核生物。
【請求項22】
酵母、真菌またはカビである、請求項18または19に記載の非ヒト真核生物。
【請求項23】
dsRNA介在遺伝子サイレンス化真核生物の集団内で、標的遺伝子の所望の程度のサイレンシングを有する生物を同定する方法であって、
a) 前記真核生物の細胞に、第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNAを供給すること、ただし、
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域は、前記標的遺伝子とは異なる、前記真核細胞中に存在する第2遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
v) 第4領域は、第2遺伝子の前記センスヌクレオチド領域からの前記19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
vi) 第3領域と第4領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、および
b) 第2遺伝子の所望の程度のサイレンシングを有する生物を選択することにより、前記標的遺伝子の所望の程度のサイレンシングを有する生物を同定すること、
を含んでなる上記方法。
【請求項24】
真核生物の細胞における標的遺伝子の発現の低下を調節する方法であって、以下のステップ:
a) 第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含むdsRNAを真核細胞に供給すること、ただし、
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド領域からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域と第4領域は、前記標的遺伝子のヌクレオチド配列に対して50%より低い配列同一性を有しかつ二本鎖RNAを形成することができる相補的ヌクレオチド配列を含むこと、
を含んでなり、ここにおいて、前記標的遺伝子は前記真核細胞中の内在性遺伝子であるか、または前記真核細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンである、上記方法。
【請求項25】
第3領域と第4領域との塩基対合により形成される二本鎖RNAのサイズが、第1領域と第2領域との塩基対合により形成される二本鎖RNAのサイズに等しいか、またはそれより大きい、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記真核生物が植物である、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記真核生物が動物である、請求項24または25に記載の方法。
【請求項28】
前記真核生物が酵母、真菌またはカビである、請求項24または25に記載の方法。
【請求項29】
前記植物がワタ、ジャガイモ、トウモロコシ、コムギ、イネ、サトウキビ、アブラナ、シロイヌナズナ、サトウダイコン、タバコおよびダイズからなる群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記動物が昆虫、甲殻動物、軟体動物、甲殻綱の動物、カニ、ロブスター、エビ、魚類、鳥類、哺乳動物およびヒトからなる群より選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
真核生物の細胞における標的遺伝子の発現を調節するためのRNA分子であって、第1領域、第2領域、第3領域および第4領域を含んでなり、ただし、
i) 第1領域は、標的遺伝子のセンスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドに対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
ii) 第2領域は、標的遺伝子の前記センスヌクレオチド配列からの19個連続したヌクレオチドの相補体に対して少なくとも94%の配列同一性を有する少なくとも19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むこと、
iii) 第1領域と第2領域は、二本鎖RNA領域を形成することができること、
iv) 第3領域と第4領域は、前記標的遺伝子のヌクレオチド配列に対して50%より低い配列同一性を有しかつ二本鎖RNAを形成することができる相補的ヌクレオチド配列を含むこと、
を特徴とし、ここにおいて、前記標的遺伝子は前記真核細胞中の内在性遺伝子であるか、または前記真核細胞のゲノムに安定に組み込まれたトランスジーンである、上記RNA分子。
【請求項32】
請求項31に記載のdsRNA分子を生成することができるDNA分子であって、転写されたとき前記dsRNA分子をもたらすDNA領域を含んでなり、前記DNA領域がプロモーターならびに転写終結およびポリアデニル化シグナルと機能的に連結されている、上記DNA分子。
【請求項33】
真核生物における標的遺伝子の発現の低下を調節するための請求項31に記載のRNA分子の使用。
【請求項34】
真核生物における標的遺伝子の発現の低下を調節するための請求項32に記載のDNA分子の使用。
【請求項35】
請求項32に記載のDNA分子を含む非ヒト真核生物。
【請求項36】
請求項31に記載のRNA分子を含む非ヒト真核生物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−503548(P2006−503548A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−574824(P2003−574824)
【出願日】平成15年3月12日(2003.3.12)
【国際出願番号】PCT/AU2003/000293
【国際公開番号】WO2003/076620
【国際公開日】平成15年9月18日(2003.9.18)
【出願人】(591269435)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼーション (23)
【氏名又は名称原語表記】COMMONWEALTH SCIENTIFIC AND INDUSTRIAL RESEARCH ORGANIZATION
【Fターム(参考)】