説明

遺伝子定量装置及び定量方法

【課題】
PCR法により遺伝子増幅を極めて簡単に行うことができると同時に、リアルタイムPCRと同様に広範囲にわたって定量可能で、且つ、信頼性の高い定量データを得られるようにする。
【解決手段】
長手方向(X)に沿って変性温度領域(A)及びアニーリング温度領域(A)が並列形成されると共に、両側の温度領域(A、A)の間を移動しながら長手方向に進行する毛細管流路(2)が蛇行形成されたPCRプレート(3)にサンプル液を流しながらPCRサイクルを繰り返し行なわせ、蛍光強度を測定する光学ヘッド(5)を長手方向に移動させることにより、各毛細管流路(2)における蛍光強度をPCRサイクルの回数に対応させて測定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル液に含まれる特定のDNAをポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)法により増幅させ、その増幅量を定量する遺伝子定量装置及び定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農薬や病害虫に対する耐性遺伝子を導入した遺伝子組換作物(Genetically Modified Organisms ;GMO)が米国、カナダを中心に栽培され、国際市場で流通している。米国の農家では、一つの作物につき数百ヘクタールの規模で複数の品種を栽培しており、放任受粉による栽培段階やまたは収穫段階、流通段階で非意図的にnon−GMOにGMOが混入することが考えられる。
これに伴い、我が国では輸送する場合に混入してくるGMOの非意図的な許容限度を最大5%として、それ以上含まれている場合はGMOの表示が義務付けられており、これにより、GMOの検知技術が必須となってきている。
【0003】
GMOを検知するため、サンプル液に含まれる特定のDNAを短時間で増幅させることのできるPCR法を利用することが一般的であり、従来より、サンプル液を流すだけで高温の変性温度(94℃前後)と中温の伸長温度(72℃前後)と低温のアニーリング温度(45〜60℃前後)の間で加熱冷却を繰り返すPCRサイクルを所定回数行なうことのできるPCRプレートが提案されている。
【特許文献1】特開2005−130795号公報
【0004】
このPCRプレート21には、図4に示すように、プレート21を左右に横切る毛細管流路22が形成されており、これを夫々の温度に制御される四つの金属ブロックからなるヒータH11〜H14に載せることにより、中央の長手方向に沿って形成された伸長温度領域A12を挟んで、その幅方向両側に変性温度領域A11及びアニーリング温度領域A13が形成され、長手方向端部にハイブリダイゼーション領域A14が形成されるようになされている。
各ヒータH11〜H14のうち、変性温度領域A11に対応するヒータH11は90℃に、伸長温度領域A12に対応するヒータH12は72℃に、アニーリング温度領域A13に対応するヒータH13は55℃に、ハイブリダイゼーション領域A14に対応するヒータH14は50℃に、それぞれ維持されている(特許文献1[0080]参照)。
また、毛細管流路22がハイブリダイゼーション領域A14を通過する部分には、検出用ポリヌクレオチドが固定された多孔質層が形成されている(同[0074]参照)。
【0005】
このプレート21を用いてPCRを行わせる場合、予めPCR用に調整したサンプル液を毛細管流路22に送液すると、サンプル液に含まれるDNAが、毛細管流路22を流れながら各領域A11〜A13を通過し、変性温度領域A11(90℃)−伸長温度領域A12(72℃)−アニーリング温度領域A13(55℃)−伸長温度領域A12(72℃)−変性温度領域A11(90℃)のPCRサイクルを繰り返しながら増幅されていく。
そして、例えば30回のPCRサイクルを繰り返した後、最終的に変性温度領域A11で一本鎖化され、そのうち蛍光物質が結合している鎖がハイブリダイゼーション領域A14に固定された検出用ポリヌクレオチドとハイブリダイズされたときに、蛍光を発する。
したがって、サンプル液を流し終えたPCRプレート21を共焦点レーザ顕微鏡などにセットし、ハイブリダイゼーション領域A14を通過する毛細管流路22を観察することにより、その蛍光強度を測定することができる(同[0081][0082]参照)。
【0006】
この場合に、PCRプレート21を用いて、予め、DNAの濃度が既知の複数のサンプル液について30回のPCRサイクルを繰り返した後、サイクル経過後の蛍光強度を測定し、その蛍光強度とDNA濃度の検量線を求めておけば、濃度が未知のサンプル液について30回のPCRサイクルを繰り返した後に測定された蛍光強度に基づいて、サンプル液に含まれていたDNA濃度を定量することができる。
【0007】
図5は、DNA濃度に応じたPCRカーブを示すグラフである。PCRカーブDnは、PCRサイクルの回数と蛍光強度の関係を示す線図であり、所定回数経過した時点で蛍光強度が上昇し、その後、さらに所定回数繰り返すと増幅が安定し、ある蛍光強度に達するとそれ以上蛍光強度が頭打ちになるカーブを描く。そして、DNA濃度が高ければ蛍光強度が立上るまでの回数及び頭打ちになるまでの回数が少なくなっており、DNA濃度が低ければ夫々の回数が多くなっていることがわかる。
【0008】
ところで、PCRプレート21はハイブリダイゼーション領域A14に達するまでのPCRサイクルの回数が30回と決まっているので、これを図5のグラフに当てはめると、鎖線S30に示すように、30回のPCRサイクルを繰り返した時点での蛍光強度を測定することとなる。
図6は、DNA濃度と蛍光強度の関係を示す検量線K30を示し、DNA濃度が中程度の場合は蛍光強度と濃度の関係がほぼ比例するが、高濃度及び低濃度の場合は、濃度変化に対する蛍光強度の変化が減少して比例関係が崩れるだけでなく、PCRカーブが重なる部分も生ずるため、その蛍光強度に基づいてDNA濃度を定量することができない。
【0009】
このため従来より、例えば、20回、30回、40回の蛍光強度を測定してGMO特定遺伝子三点検定という手法がとられている。
これは、図5の鎖線S20、S30、S40に対応する蛍光強度を測定し、図6に示すようにその蛍光強度とDNA濃度の関係を示す検量線K20、K30、K40を求めて、定量可能な濃度の幅を広げる手法であるが、上述したPCRプレート21は、流路に固定したオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによる二本鎖ヌクレオチドに蛍光物質をインターカレートさせて、その蛍光強度を測定するようにしているため、任意の回数のPCRサイクルで蛍光強度を計測することができない。
【0010】
このため、サンプル液をチューブに入れて、そのチューブを所定のPCRサイクルで所定回数(20回、30回、40回)加熱冷却した後、電気泳動法により定量を行う方法がある。
しかしながら、この場合は少なくとも三本のチューブを用意しなければならないだけでなく、チューブを加熱するヒータ温度を時間経過に伴い昇温・降温させる熱制御が必要となり、加熱冷却に時間がかかる。また、その制御が複雑で面倒なだけでなく、制御装置などのコストが嵩み、測定精度も高くないという問題がある。
さらに、予め設定された回数のPCRサイクルを経過した時点で定量するようにしているため、DNAの増幅が他の要因で阻害されたり、DNA増幅操作中に異常が生じても、これを検知することができない。
例えば、DNA濃度が測定されたときに、DNAが正常に増幅された結果としての測定値であるのか、あるいは、温度制御装置の故障やPCR用サンプル液を調整するときのピペット誤差等によりDNAが正常に増幅されなかったときの測定値であるのか判断することができない。
【0011】
このため最近では、さらに検出精度を向上させるため、リアルタイムPCR法が提案されている。
これは、インターカレーターやTaqmanプローブを含んだサンプル液を入れたチューブからの蛍光強度を継続的にモニタしながら、そのチューブを所定のPCRサイクルで加熱冷却することにより、蛍光強度が所定の値に達するまでの回数からDNAの濃度を定量するものである。
この場合、図5で示すように、DNA濃度が既知の複数のサンプル液について測定された夫々のPCRカーブの所定の蛍光強度(鎖線SRT)に対応するPCRサイクルの回数を予め測定しておき、図7に示すようにそのPCRサイクルの回数とDNA濃度の検量線KRTを求めておけばDNAの濃度を定量することができ、0.01%程度のわずかの量でも正確に検出できる。
また,PCRカーブが得られることから、DNAの増幅が他の要因で阻害されたり、DNA増幅操作中に異常が生じた場合もこれを検知することができる。
【0012】
この場合、チューブを加熱冷却装置から外して蛍光強度を測定しなければならない面倒は解消されるが、サンプル液を加熱冷却するための熱制御は依然として必要となり、制御装置などのコストが嵩み、加熱冷却の時間がかかるという問題は解消されず、個々のチューブにサンプル液を入れたりする作業の煩わしさも解消されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、PCR法による遺伝子増幅を極めて簡単に行うことができると同時に、リアルタイムPCRと同様に広範囲のDNA濃度を定量可能で、且つ、信頼性の高い定量データを得られるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するため、本発明は、DNAの二本鎖を変性させる高温の変性温度と、変性された一本鎖がアニーリングを開始する低温のアニーリング温度との間で加熱冷却を繰り返すPCRサイクルを繰り返しながら、サンプル液に含まれる特定のDNAを増幅させ、その増幅量をサンプル液の蛍光強度に基づいて定量する遺伝子定量装置であって、長手方向に沿って変性温度領域及びアニーリング温度領域が並列形成されると共に、前記変性温度領域及びアニーリング温度領域の間を移動しながら長手方向に進行する毛細管流路が蛇行形成されたPCRプレートと、前記毛細管流路の流入口からサンプル液を送液する送液装置と、前記各毛細管流路を横切るように長手方向に沿って移動させることにより各流路における蛍光強度をPCRサイクルの回数に対応させて測定する光学ヘッドを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の遺伝子定量装置によれば、長手方向に沿って並列形成された変性温度領域及びアニーリング温度領域の間を移動しながら長手方向に進行する毛細管流路が蛇行形成されたPCRプレートを用いて、その毛細管流路にサンプル液を流すだけで、サンプルは変性温度とアニーリング温度の間で加熱冷却されるPCRサイクルが繰り返され遺伝子増幅される。
その後、蛇行形成された毛細管流路を次々と横切るように、蛍光強度を測定する光学ヘッドを長手方向に移動させれば、各流路における蛍光強度をPCRサイクルの回数に対応させて測定することができるので、PCRサイクルをある特定の回数付与したときの蛍光強度ではなく、0回からPCRサイクル終了に至るまでの蛍光強度に基づいてPCRカーブを描かせることができる。
【0016】
この場合に、光学ヘッドは毛細管流路があるところと毛細管流路のないところを交互に横切るので、蛍光強度がノイズを含んだ信号として出力されるが、請求項2及び請求項7のように光学ヘッドで読み取られた蛍光強度のデータをスムージングすることにより、そのノイズを除去することができる。
したがって、スムージングされたPCRカーブに基づいて、リアルタイムPCRと同様、所定の蛍光強度(鎖線S)に対応するPCRサイクルの回数に基づいて、DNA濃度を定量することができるだけでなく、PCRカーブの形状に基づいて、PCR法によるDNA増幅が正常に行なわれたか否かを判定することができる。
【0017】
また、請求項3及び請求項8のように、PCRプレートに連続的に同一サンプル液を供給しながら、所定時間間隔をおいて、光学ヘッドを長手方向に沿って往復移動して測定し、夫々のデータをスムージングすると共に、所定の統計処理を行えば、例えば平均化した場合には複数回測定したと同じ結果が得られ、さらに、偏差値などから著しく不適当なデータを排除することにより信頼性の高いデータのみで平均化して測定精度を向上させることができる。
この場合に、従来、複数の同一サンプル液を別々に測定するのと同じ効果が得られ、データ信頼性が向上するだけでなく、その作業の手間が軽減されると共に測定時間が著しく短縮される。
【0018】
さらに、請求項4及び請求項9のように、PCRプレートに供給した一のサンプル液について蛍光強度の測定が終了した後、洗浄液を供給して前記毛細管流路の残るDNAを除去した後、他のサンプル液について蛍光強度の測定を行うことにより、同一のPCRプレートに異種のサンプル液を順次供給するだけで、それぞれ個別に遺伝子の定量を行なうことができる。
さらにまた、請求項5及び請求項10のように、光学ヘッドを、PCRプレートに対して傾斜可能に形成しておけば、励起光の直接反射光が入射されるなどの影響があるときに、光学ヘッドをPCRプレートに対して傾斜させることにより、その影響を排除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本例では、PCR法により遺伝子増幅を極めて簡単に行うことができると同時に、リアルタイムPCRと同様に広範囲にわたって定量可能で、且つ、信頼性の高い定量データを得られるようにするという目的を達成するため、長手方向に沿って変性温度領域及びアニーリング温度領域が並列形成されると共に、変性温度領域及びアニーリング温度領域の間を移動しながら長手方向に進行する毛細管流路が蛇行形成されたPCRプレートにサンプル液を流しながらPCRサイクルを繰り返し行なわせ、蛍光強度を測定する光学ヘッドを長手方向に移動させることにより、各毛細管流路における蛍光強度をPCRサイクルの回数に対応させて測定するようにした。
【0020】
図1は本発明に係る遺伝子定量装置の要部を示す説明図、図2はその全体構成を示すフローシート、図3は測定結果を示すグラフである。
【0021】
図1に示す遺伝子定量装置1は、DNAの二本鎖を解離させる変性温度と、変性された一本鎖がアニーリングを開始すると共に伸長する低温のアニーリング温度との間で加熱冷却を繰り返すPCRサイクルを繰り返しながら、サンプル液に含まれる特定のDNAを増幅させ、その増幅量を定量する装置であって、定量しようとするDNAを含んだサンプル液を流しながら前記PCRサイクルを行わせる毛細管流路2が形成されたPCRプレート3と、サンプル液を所定の流量で送液する送液装置4と、毛細管流路2における蛍光強度を測定する光学ヘッド5を備えている。
【0022】
PCRプレート3は、長手方向Xに沿って変性温度領域A及びアニーリング温度領域Aが並列形成されると共に、その裏面側に、各領域A及びAの温度を夫々95℃及び59℃に維持するヒータH及びHが設けられている。
このヒータH及びHとしては、ブロックヒータ、薄膜状ヒーター、ペルチェ素子などが用いられ、PCRプレート3と各領域A及びAとヒーター部H及びHの間には、伝熱効率を上げるためにシリコングリースなどの伝熱性の材質が設けられている。
また、PCRプレート3は、ベースプレート3Aと、底面側に毛細管流路2となる溝が形成されたカバープレート3Bを貼り合わせて形成されている。
毛細管流路2は、変性温度領域A及びアニーリング温度領域Aの間を移動しながら長手方向に進行し、流入口2inから流出口2outに至るまでに例えば50回のPCRサイクルを繰り返すように蛇行形成されている。
これにより、サンプル液に含まれるDNAは、変性温度領域Aで変性温度まで加熱されることにより変性されて一本鎖化され、一本鎖化されたDNAがアニーリング温度領域Aでアニーリング及び伸長される。
【0023】
送液装置4は、流路切換弁6に、PCR用に調整されたサンプル液を0.5〜6μl/minで送液する複数のマイクロシリンジポンプP〜Pが接続されると共に、サンプル液を交換するときに毛細管流路2内を洗浄するDNA−OFF(タカラバイオ株式会社の商品名)などのDNAコンタミネーション除去溶液を供給する洗浄液供給ポート7が接続されている。
なお、サンプル液にはあらかじめ定量しようとしているDNAと蛍光試薬Cy5をTaqmanプローブにより標識した蛍光標識とPCR試薬が調整されている。このため、PCR反応の過程でDNA量が増加するに伴いサンプル液の蛍光強度が増加する。
【0024】
光学ヘッド5は、上下に伸縮するシリンダ8の先端に取り付けられ、そのシリンダ8がXY移動テーブル9により水平方向に移動可能に取り付けられると共に、X軸回りのθx方向及びY軸回りのθy方向に傾斜可能に配されて、PCRプレート3上で自由に位置調整及び角度調整可能に配されている。
そして、光学ヘッド5をY軸方向に移動させてPCRプレート3上の任意の位置で位置決めした状態でX方向に往復移動させることにより、蛇行形成された毛細管流路2を次々と横切って蛍光強度が測定される。
本例では、変性温度領域Aとアニーリング温度領域Aの間に設定した観察領域Aで毛細管流路2を横切るように光学ヘッド5が往復移動される。
また、その上面及び側面に入力用及び出力用の光ファイバコネクタ5in及び5outが形成され、例えば波長640nmの励起光照射用半導体レーザ10が光ファイバ11inを介して入力用光ファイバコネクタ5inに接続され、励起光が、ダイクロイックミラー12を透過して底面に設けられた観察孔13からPCRプレート3上に照射されるようになっている。
そして、出力用の光ファイバコネクタ5outが光ファイバ11outを介して光電変換素子14に接続されており、観察孔13から入射された光は、ダイクロイックミラー12で反射されて光ファイバ11outを介して光電変換素子14に入力されるように形成されている。
なお、光ファイバ11inの入射端側には励起波長以外の光をカットする励起フィルタFが配され、光ファイバ11outの出射端には蛍光波長以外の光をカットする蛍光フィルタFが配されている。
このとき、励起光の直接反射光が入射されるなどの影響があるときは、光学ヘッドをPCRプレートに対してθx方向及びθy方向に例えば10〜15°傾斜させることによりその影響を排除することができる。
【0025】
これにより、PCRプレート3の毛細管流路2に励起光が照射されたときに生じる蛍光強度が光電変換素子14で測定される。
このとき、光学ヘッド5を長手方向に例えばPCRサイクルの0回から50回まで走査すると、毛細管流路2と流路でない部分を交互に横断して蛍光強度が測定されるので、その出力データはノイズが重畳されることとなる。
そこで、その出力データを演算処理装置15に入力してノイズを除去する処理を行う。
【0026】
演算処理装置15では、まず、光学ヘッド5を長手方向に例えばPCRサイクルの0回から50回まで走査することにより測定された蛍光強度の変化をスムージングし、次いで、光学ヘッド5の長手方向の位置と蛍光強度の関係を求める。
光学ヘッド5の長手方向の位置はPCRサイクル数に対応しているので、このデータに基づき、PCRサイクル−蛍光強度の関係を求め、必要に応じてグラフ化する演算処理を行う。
【0027】
同一のサンプル液について複数回測定する場合は、サンプル液を送液しながら、光学ヘッド5を所定時間間隔をおいて長手方向に所定回数(例えば100回)往復移動させることにより、光学ヘッド5が走査されるたびに測定された蛍光強度の変化をスムージングした後、所定の統計処理を行ったり、測定されたデータを積算した後スムージング処理する演算処理を行えばよい。
この場合の統計処理としては、例えば、単純に平均処理をしたり、偏差値などから著しく不適当なデータを排除することにより信頼性の高いデータのみで平均処理するなど、従来公知の任意の統計処理を採用しうる。
【0028】
以上が本発明の一例構成であって、次に本発明方法について説明する。
まず、PCRプレート3の各ヒータH及びHを夫々95℃及び59℃に維持し、DNA濃度が既知(0%、5%、10%、100%)のサンプル液を用いて、順次、蛍光強度の測定を行う。
そして、マイクロシリンジポンプPからPCRプレート3の毛細管流路2を通り、PCRサイクルを50回繰り返すまでに約40分かかる流量で0%のサンプル液を送液した後、励起光を照射しながら光学ヘッド5を長手方向に沿ってPCRサイクル0回から50回まで走査して蛍光強度を測定すると、図3の波形データWが得られ、この波形データWを6次関数で近似することによりスムージングして、0%のPCRカーブCが得られる。
次いで、洗浄液供給ポート7からDNAコンタミネーション除去溶液を供給して毛細管流路を洗浄した後、マイクロシリンジポンプPから5%のサンプル液を同様に送液し、光学ヘッド5を長手方向に沿ってPCRサイクル0回から50回まで走査して蛍光強度を測定すると、図3の波形データWが得られ、この波形データWを同様にスムージングして、5%のPCRカーブCが得られる。
同様の操作を繰り返して、10%及び100%のサンプル液を順次供給し、光学ヘッド5により蛍光強度を測定すると、図3の波形データW及びWが得られ、これらの波形データW及びWを同様にスムージングすることにより、10%及び100%のPCRカーブC及びCが得られる。
【0029】
このようにして、DNA濃度が既知の他のサンプル液についても同様にPCRカーブのデータを蓄積しておく。
また、リアルタイムPCRと同様に、一定の蛍光強度(例えば1.10)が得られるまでのPCRサイクルの回数に対応するDNA濃度の検量線を求めておく。
【0030】
そして、DNA濃度が未知のサンプル液についてその濃度を定量するときは、同様の手順で光学ヘッド5により蛍光強度を測定し、PCRカーブを得る。
ここで、PCRカーブの形状が、予め測定したデータと著しく異なれば、PCRサイクルによるDNA増幅に異常があったと考えられるので、そのデータは廃棄する。
また、PCRカーブの形状が、予め測定したデータと略重なれば、PCRサイクルによるDNA増幅が正常に行なわれていると判定でき、この場合は、検量線を求める際に設定した蛍光強度(例えば1.10)が得られるまでのPCRサイクル数に基づいて、DNA濃度を定量することができる。
【0031】
次いで、DNA濃度が未知の他のサンプル液についてその濃度を定量するときは、洗浄液供給ポート7からDNAコンタミネーション除去溶液を供給して、毛細管流路2内に残存するDNAを洗浄除去した後、同様の手順で当該他のサンプル液を流し、光学ヘッド5により蛍光強度を測定し、PCRカーブを得ればよい。
【0032】
なお上述の説明では、アニーリング温度領域Aでアニーリングと伸長を行なわせることにより、変性温度領域Aとアニーリング温度領域Aの2つの温度領域でPCR反応を行なわせる2ステップPCRについて説明したが、変性温度領域Aとアニーリング温度領域Aの間に中温のヒータを配した伸長温度領域を形成し、この3つの温度領域を用いてPCR反応を行わせる3ステップPCRにも適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上述べたように、本発明は、加工食品などに含まれる組換遺伝子の濃度や、検体に含まれる特定病原体などの遺伝子の濃度を定量する用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る遺伝子定量装置の要部を示す斜視図。
【図2】その全体構成を示すフローシート。
【図3】測定結果を示すグラフ。
【図4】従来装置を示す斜視図。
【図5】PCRサイクル数と蛍光強度の関係を示すグラフ。
【図6】蛍光強度とDNA濃度の検量線を示すグラフ。
【図7】PCRサイクル数とDNA濃度の検量線を示すグラフ。
【符号の説明】
【0035】
1 遺伝子定量装置
2 毛細管流路
3 PCRプレート
4 送液装置
5 光学ヘッド
蛍光観察領域
変性温度領域
アニーリング温度領域
15 演算処理装置




【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAの二本鎖を変性させる高温の変性温度と、変性された一本鎖がアニーリングを開始する低温のアニーリング温度との間で加熱冷却を繰り返すPCRサイクルを繰り返しながら、サンプル液に含まれる特定のDNAを増幅させ、その増幅量をサンプル液の蛍光強度に基づいて定量する遺伝子定量装置であって、
長手方向に沿って変性温度領域及びアニーリング温度領域が並列形成されると共に、前記変性温度領域及びアニーリング温度領域の間を移動しながら長手方向に進行する毛細管流路が蛇行形成されたPCRプレートと、
前記毛細管流路の流入口からサンプル液を送液する送液装置と、
前記各毛細管流路を横切るように長手方向に沿って移動させることにより各流路における蛍光強度をPCRサイクルの回数に対応させて測定する光学ヘッドを備えたことを特徴とする遺伝子定量装置。
【請求項2】
前記光学ヘッドから出力されたPCRサイクルの回数に対する蛍光強度のデータをスムージングする演算処理装置を備えた請求項1記載の遺伝子定量装置。
【請求項3】
前記光学ヘッドを長手方向に沿って所定時間間隔をおいて所定回数往復移動させることにより測定された夫々のデータをスムージングすると共に、所定の統計処理を行う演算処理装置を備えた請求項1記載の遺伝子定量装置。
【請求項4】
前記PCRプレートの前記毛細管流路にDNAを除去する洗浄液の供給手段を備えた請求項1記載の遺伝子定量装置。
【請求項5】
前記光学ヘッドが、PCRプレートに対して傾斜可能に形成された請求項1記載の遺伝子定量装置。
【請求項6】
DNAの二本鎖が変性する高温の変性温度と、変性された一本鎖がアニーリングを開始する低温のアニーリング温度との間で加熱冷却を繰り返すPCRサイクルを繰り返しながら、サンプル液に含まれる特定のDNAを増幅させて、その増幅量をサンプル液の蛍光強度に基づいて定量する遺伝子定量方法であって、
長手方向に沿って変性温度領域及びアニーリング温度領域が並列形成されると共に、前記変性温度領域及びアニーリング温度領域の間を移動しながら長手方向に進行する毛細管流路が蛇行形成されたPCRプレートにサンプル液を流してPCRサイクルを繰り返し行なわせ、
蛍光強度を測定する光学ヘッドを長手方向に沿って前記各毛細管流路を横切るように移動させることにより、各流路における蛍光強度をPCRサイクルの回数に対応させて測定することを特徴とする遺伝子定量方法。
【請求項7】
前記光学ヘッドから出力された蛍光強度のデータをスムージングして、各毛細管流路における蛍光強度をPCRサイクルの回数に応じて測定する請求項6記載の遺伝子定量方法。
【請求項8】
前記PCRプレートに連続的に同一サンプル液を供給しながら、所定時間間隔をおいて、前記光学ヘッドを長手方向に沿って往復移動させることにより測定された夫々のデータをスムージングすると共に、所定の統計処理を行って、蛍光強度をPCRサイクルの回数に応じて測定する請求項6記載の遺伝子定量方法。
【請求項9】
前記PCRプレートに供給した一のサンプル液について蛍光強度の測定が終了した後、洗浄液を供給して前記毛細管流路に残るDNAを除去した後、他のサンプル液について蛍光強度の測定を行う請求項6記載の遺伝子定量方法。
【請求項10】
前記光学ヘッドをPCRプレートに対して傾斜させて励起光の影響を排除する請求項6記載の遺伝子定量方法



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−300896(P2007−300896A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135516(P2006−135516)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、知的創造による地域産学官連携強化プログラム「文部科学省 知的クラスター創成事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(000138200)株式会社モリテックス (120)
【Fターム(参考)】