説明

遺伝子導入部位の解析方法

プライマー伸長反応および核酸増幅反応が二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物の存在下で実施されることを特徴とする、レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA領域を解析する方法、ならびに該方法に使用されるキットおよび緩衝液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は遺伝子導入された細胞における、染色体上の遺伝子組み込み部位の解析方法に関する。
【背景技術】
遺伝子治療は、細胞のもつ「遺伝情報の誤り」に起因する遺伝病やがんなどの難病について、正しい遺伝子情報の付加によってその細胞の機能を修正したり、細胞が本来持っていなかった新しい「保護遺伝子」を付加したりして病気の治療または予防をしようとする治療法である。
遺伝子治療に使用される細胞への遺伝子導入法としては、ウイルスベクターを用いる方法、裸のDNAをエンドサイトーシスや電気穿孔法、遺伝子銃によって導入する方法、リポソームのような遺伝子導入剤を使用する方法等が知られている。
ウイルスベクターは遺伝子治療の分野で基礎から臨床まで幅広く利用されている技術であり、例えばアデノウイルスベクターは標的細胞で目的遺伝子を一過性に大量発現させるのに適している。一方、レトロウイルスベクターは宿主染色体に目的の遺伝子を安定に組み込む機能を有しているために、長期にわたり安定して遺伝子発現させることが可能であり、遺伝病の遺伝子治療への利用、トランスジェニック動物作製の分野に期待されているベクターである。しかし、レトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法では、目的遺伝子が宿主染色体上にランダムに組み込まれることから、組み込まれる部位によっては細胞ががん化するなどの可能性が指摘されている。そのためこのレトロウイルスベクターにより宿主染色体上のどの部位に遺伝子が組み込まれているのかその導入部位を解析すること、また被験細胞集団におけるクローン種(モノクローン、オリゴクローン、ポリクローン)の判定を感度良くモニタリングすることが重要となってくる。
一般的にウイルス、トランスポゾンやトランスジーンなどの染色体DNA中への挿入、組み込み部位の解析方法としては、インバースPCR(inverse PCR)法(ジャーナル オブ ヴィロロジー(J.Virol.)、第63巻、第1924〜1928頁(1989)参照)やLM PCR法(サイエンス(Science)、第246巻、第780〜786頁(1989)参照)があるが、検出感度が悪い(実施するためにより多くの鋳型DNAを必要とする)、特異性が低いなどの問題点が指摘されていた。
そこでこれらの問題点を克服する方法として、Linear amplification mediated PCR(LAM PCR法)が開発された(国際公開第00/24929号パンフレット、ブラッド(Blood)、第100巻、第2737〜2743頁(2002)参照)。この方法では、まずレトロウイルス特有の配列であるLTR(long terminal repeat)配列に相補的で、かつ末端がビオチンラベルされたプライマーを使用し、染色体DNAを鋳型としたlinear PCRを行なう。このlinear PCRでは1種類のプライマーのみを使用し、このプライマーのアニールした位置よりも下流の一本鎖DNAが増幅される。このlinear PCR産物をストレプトアビジンが固定化された磁性ビーズに吸着させ、効率よくLTR配列と染色体由来の配列を有する一本鎖の増幅DNA断片を回収する。この一本鎖DNAについて相補鎖を合成して二本鎖とした後、4塩基を認識・切断する制限酵素で切断し、その末端にリンカーカセットと呼ばれる二本鎖DNAを連結する。こうして得られた連結産物を鋳型として、LTRとリンカーカセットにそれぞれ相補的なプライマーでPCRを行うことにより、LTRとそれに隣接する宿主染色体由来のDNAを含むDNA断片が増幅されることから、レトロウイルスの組み込み部位の解析を行なうことができる。またこのPCR増幅断片をアガロースゲルなどで回収し、適当なベクターにサブクローニング後、その断片の塩基配列を解読することにより、宿主染色体DNAのどの部位に組み込まれたか解析することが可能である。
この方法では、従来の方法に比べて検出感度が改善されたばかりでなく、磁性ビーズを用いることで反応ステップごとのサンプルの精製が簡略化され、また鋳型となる染色体DNAも少量ですむという利点もある。
しかしながら現在の反応条件では、生体サンプル由来の数多くの異なる組み込み部位を持つ集団(ポリクローン)から得られた染色体DNAを解析する場合において、鋳型とするDNAの種類や量によっては特定のクローンに偏った増幅断片が得られてしまう現象が見受けられる。この場合には、増幅結果が使用された試料中の実際の細胞集団におけるクローンの存在状態を反映していない。さらに、試料中での存在割合が低いクローンについてはその存在が検出されない可能性がある。このように従来のLAM PCR法ではその感度、再現性、正確性の面で問題を有している。すなわち、実際に遺伝子の導入された細胞集団の状況を反映する情報を得て正確な判断を行うことが困難である。
上記のようにLAM PCR法は現段階でレトロウイルスベクターによる遺伝子の組み込みの解析に有効なシステムとして考えられているものの、多種多様の部位にレトロウイルスが組み込まれている生体サンプルを用いて、遺伝子を組み込まれた細胞がどの程度集団の中に存在するのか(ポリクローン、オリゴクローン、モノクローンのどの状態で存在するのか)、さらにはどの程度の割合で特定の細胞が集団中に存在しているのか正確に、感度良く、高い再現性をもってモニタリングする面では改善される必要がある。
【発明の開示】
本発明の目的は、従来のLAM PCR法を用いた組み込み部位の解析法を改良し、例えばレトロウイルスを組み込んだ様々な遺伝子導入部位をもつ細胞集団において、より多くの組み込み断片を特定のクローン由来の増幅断片に偏ることなくPCR反応によって増幅させ、またその集団に含まれる特定の増幅断片を感度よく検出する系を構築することにある。これにより、被験細胞集団におけるクローン種(モノクローン、オリゴクローン、ポリクローン)の判定、細胞集団中の特定の細胞の存在割合を高感度に、感度良く、高い再現性をもってモニタリングすることが可能である。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、プライマー伸長反応を二本鎖核酸のTm値を低下させる作用を示す化合物の存在下で実施し、PCR条件を含む反応スキームを改良することにより、感度良く、偏りのない増幅断片による検出が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の第1の発明は、レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA領域を解析する方法であって、
(1)レトロウイルスベクターのLTRの塩基配列に相補的な配列を有するプライマーを使用し、レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAを鋳型としたプライマー伸長反応を行う工程、
(2)工程(1)で得られたプライマー伸長物を回収し、当該伸長物に相補的なDNAを合成して二本鎖DNAを得る工程、
(3)工程(2)で得られた二本鎖DNAの末端に二本鎖オリゴヌクレオチドを付加する工程、および
(4)工程(3)で得られたオリゴヌクレオチド付加二本鎖DNAを鋳型とし、レトロウイルスベクターのLTRの塩基配列に相補的な配列を有するプライマーと前記二本鎖オリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な配列を有するプライマーとを使用する核酸増幅反応を実施する工程、
の各工程を包含し、かつ、工程(1)のプライマー伸長反応ならびに工程(4)の核酸増幅反応が二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物の存在下で実施されることを特徴とする。
第1の発明の方法において、工程(1)のプライマー伸長反応および/または(4)の核酸増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応により実施されることができる。また、このポリメラーゼ連鎖反応には3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと当該活性を有しないDNAポリメラーゼとを混合したDNAポリメラーゼ組成物を使用することができる。上記のポリメラーゼ連鎖反応の条件としては、95℃、60秒;58℃、45秒;72℃、90秒の温度サイクルが例示される。
第1の発明の方法に使用される二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物としてはベタイン、ホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラメチルアンモニウム塩から選択される物質が例示される、例えば、ベタインとしてはトリメチルグリシンを使用することができる。
第1の発明の工程(4)は、二段階のポリメラーゼ連鎖反応により実施されてもよい。
また、第1の発明の工程(3)においては、工程(2)で得られた二本鎖DNAを制限酵素消化し、生じた二本鎖DNAの末端に二本鎖オリゴヌクレオチドを付加することができる。また、工程(1)の染色体DNAをあらかじめ制限酵素消化したうえで使用することもできる。
第1の発明の工程(1)において標識されたプライマーを使用することにより、工程(2)において前記標識を利用してプライマー伸長物を回収することができる。前記標識としてはビオチンによる標識が例示される。
第1の発明の方法は、工程(4)で得られた増幅産物の塩基配列を決定する工程をさらに包含することができる。当該方法においては、工程(4)で得られた断片をベクターに組み込んだ組換えDNAを鋳型として塩基配列の決定を実施することができる。
本発明の第2の方法は、レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA塩基配列を決定するためのキットであって、
(a)レトロウイルスのLTR部分にアニーリングできるプライマー、
(b)リンカーカセット、
(c)(b)のリンカーカセットにアニーリングできるプライマー、
(d)DNAポリメラーゼ、
(e)制限酵素、および
(f)二本鎖核酸のTm値を低下させる作用を示す化合物を含むプライマー伸長反応用緩衝液、
を含有することを特徴とする。
第2の発明のキットに含有されるDNAポリメラーゼは3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと当該活性を有しないDNAポリメラーゼとを混合したDNAポリメラーゼ組成物であってもよい。また、二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物としてはベタイン、ホルムアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、テトラメチルアンモニウム塩が例示される。また、ベタインとしてはトリメチルグリシンを使用することができる。
第2の発明のキットに含有されるプライマーは、プライマー伸長産物の回収のための標識を有しているものであってもよい。
本発明の第3の発明は、レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA領域を解析する方法において使用される、二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物を含むプライマー伸長反応用緩衝液に関する。
本発明の第4の発明は、レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA領域を解析する方法において使用されるプライマー伸長反応用緩衝液の製造における、二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物の使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
1.本発明の遺伝子組み込み部位の解析方法
(1)LTRに隣接する染色体DNAを含むDNA(プライマー伸長物)の合成
本発明において、染色体DNAを鋳型とするプライマー伸長反応に使用されるプライマーはレトロウイルスベクターのLTRの塩基配列に相補的な配列を有するものである。前記プライマーは、DNAポリメラーゼによるプライマー伸長反応が起こる条件においてLTR部分にアニーリングできるものであれば特に限定はなく、LTRの塩基配列に基づいて任意に設計、作製することができる。LTR部分とのアニーリングが可能な範囲であれば、プライマーはLTRの配列と相補的でない塩基を含有していてもかまわない。その鎖長にも特に限定はないが、たとえば12〜50塩基、好ましくは15〜40塩基の鎖長のものが使用される。
本発明の方法を適用することができるレトロウイルスベクターには特に限定はない。LTRの配列が公知のレトロウイルスベクターであればその配列に基づいてプライマーを作成し、本発明の方法を実施することができる。本発明に使用されるプライマーの一例としては、配列表の配列番号2に示される塩基配列のプライマーが挙げられる。
前記のプライマーとしては、プライマー伸長産物の回収を容易にするための標識を有するものが好適である。たとえばビオチンのような特異的なレセプターが知られているリガンド、ハプテン等で標識されたプライマーを使用することができる。
本発明に試料として使用される染色体DNAには特に限定はないが、通常はレトロウイルスベクターにより遺伝子導入された、もしくはその可能性のある細胞より調製された染色体DNAである。当該染色体DNAの調製材料となる細胞はモノクローン、オリゴクローン、ポリクローン由来のいずれのものでもよい。前記の細胞にも特に限定はなく、生体から採取された細胞、生体外で培養された細胞のいずれであってもよい。生体から採取された細胞としては、例えば造血幹細胞のような造血系の細胞が遺伝子導入の対照であった場合には、これらの細胞、もしくはこれらの細胞より分化した細胞(例えばT細胞、B細胞、単球、マクロファージ等)やそれらの混合物を本発明の方法に使用する染色体DNAの調製材料とすることができる。
レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAに上記のプライマーをアニーリングさせ、このプライマーからのDNA伸長反応を行ってLTRならびにそれに隣接する染色体DNAを含むDNA鎖を合成する。この工程にはDNAポリメラーゼが使用される。
本発明に使用されるDNAポリメラーゼには特に限定はなく、鋳型DNA鎖に相補的なDNA鎖を合成できるものであればよい。たとえば、大腸菌由来DNAポリメラーゼ、好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼ(Bst DNAポリメラーゼ、Bca DNAポリメラーゼ等)、サーマス(Thermus)属細菌由来DNAポリメラーゼ(Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ等)、古細菌由来DNAポリメラーゼ(Pfu DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ、Deep Vent DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ等)ならびにこれらの改変体を本発明に使用することができる。
さらに2以上の酵素を混合して使用してもよい。例えば、3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ(例えばPfu DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ、Deep Vent DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ等)と当該活性を有しないDNAポリメラーゼ(例えばTaq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、前記の3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ欠失変異体等)とを混合して使用する方法が本発明に特に好適である。このような方法は、例えば米国特許第5436149号に開示されている。さらに、3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと当該活性を有しないDNAポリメラーゼとを混合したDNAポリメラーゼ組成物として、TaKaRa Ex Taq、TaKaRa LA Taq(いずれもタカラバイオ社製)等が市販されている。
多くのプライマー伸長物を得る観点からは、プライマー伸長反応を複数回繰り返すことが望まれる。この場合にはプライマー伸長物の合成をPCRによって実施し、伸長物の鋳型DNAからの解離、新たなプライマーの鋳型DNAへのアニーリング、プライマー伸長反応、の3工程を反復すればよい。
従来のLAM PCR法においてこのプライマー伸長物を得る工程はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって実施されていたが、鋳型となる染色体DNAの種類や量によっては、PCRによって得られるプライマー伸長産物はある特定の分子が富化されたものであることが多く、バラエティに富んだプライマー伸長物が得られないことがあった。
本発明者らは二本鎖核酸のTm値を低下させる作用を示す化合物、たとえばベタイン(トリメチルグリシン等)、有機溶媒(ホルムアミド、ジメチルスルフォキシド)、テトラメチルアンモニウム塩[テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)、テトラメチルアンモニウムアセテート(TMAA)、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)]等を含有する反応液を使用し、またPCR反応条件を変えて、プライマー伸長反応を行った場合には、従来のLAM PCR法に比べて多くの分子種から構成されるプライマー伸長物が得られることを明らかにした。また、PCRに使用するDNAポリメラーゼとしては3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと当該活性を有しないDNAポリメラーゼとを混合したものが好適である。
PCR反応は、公知の文献等の記載に基づいてその条件を設定し、実施すればよい。DNAポリメラーゼとしては上記のポリメラーゼのうちで高い耐熱性を有するもの、たとえばサーマス(Thermus)属細菌由来DNAポリメラーゼ、古細菌由来DNAポリメラーゼ等や、これらを混合したものを使用することができる。反応液組成は、使用するDNAポリメラーゼに適したものを選択し、二本鎖核酸のTm値を低下させる作用を示す上記の化合物を添加すればよい。また、これらの化合物は2以上のものを組み合わせて添加してもよい。その濃度は所望の効果を得られる範囲であれば特に限定はない。たとえばベタインの場合には終濃度0.1〜3M、好ましくは0.1〜1Mの範囲で、ジメチルスルフォキシドの場合には終濃度0.5〜15%、好ましくは1〜10%の範囲で、また、テトラメチルアンモニウム塩の場合には終濃度0.1〜100mM、好ましくは1〜50mMの範囲で、それぞれ本発明に使用することができる。
また、PCR反応における反応サイクルにも特に限定はないが、たとえば95℃、60秒;58℃、45秒;72℃、90秒のサイクルが例示される。さらに、前記条件の温度を±2℃の範囲で変化させた条件および/または時間を±30%の範囲で変化させた条件であってもよい。サイクル数は増幅効率等を考慮して決定すればよいが、例えば20〜150サイクル、好ましくは40〜100サイクルで実施される。
上記のプライマー伸長反応において使用されるプライマーの量としては、100ngの染色体DNAあるいは反応液50μlあたり0.025〜1.0pmolが適当である。
(2)プライマー伸長物の二本鎖への変換
以上に説明した工程において合成されたプライマー伸長物は、たとえばプライマーに付加された標識を利用して反応液から回収される。
プライマーにリガンド標識が付されている場合には当該リガンドに結合するレセプター、また、ハプテン標識の場合には当該ハプテンを認識する抗体を使用することができる。このような標識物質に結合する物質を固定化した固層を利用すればプライマー伸長物を容易に反応液から回収することができる。たとえば、ビオチン標識を付加したプライマーを用いて得られたプライマー伸長物は、伸長反応液にアビジンを固定化したビーズを添加してビーズ上に伸長物を捕獲し、次いでこのビーズを洗浄した後に伸長物をビーズから脱着させることにより鋳型とされた染色体DNAから分離されたプライマー伸長物を得ることができる。
さらに、前記のプライマー伸長物の回収に先立って未反応のプライマーを除去する操作を行ってもよい。このような操作は、例えば適当なポアサイズのフィルターを用いたろ過や長鎖の核酸のみが選択的に沈殿するような条件での分別沈殿法により実施することができる。
次に、回収されたプライマー伸長物(一本鎖DNA)を二本鎖DNAに変換する。その手段には限定はなく、例えば、プライマー伸長物にランダムプライマーをアニーリングさせた後、DNAポリメラーゼを用いてランダムプライマーから前記プライマー伸長物に相補的なDNAを合成し、二本鎖核酸を得ることができる。
(3)リンカーカセットの付加
上記(2)の工程で二本鎖に変換されたプライマー伸長物を制限酵素消化し、生じた末端に二本鎖オリゴヌクレオチドを付加する。
本発明に使用される制限酵素には特に限定はないが、プライマー伸長物に含有されるLTR部分の塩基配列中に認識切断部位が存在するものは適当ではない。次の二本鎖オリゴヌクレオチドの付加を効率よく行う観点からは、付着末端を生じる制限酵素が本発明にはより好ましい。また、適切な鎖長のDNA断片を得るためには4塩基認識の制限酵素が好適であり、例えば、Tsp509I(Sse9I)、MboI(Sau3AI)等を使用することができる。制限酵素消化は使用する制限酵素に応じた条件で実施すればよい。
制限酵素消化された二本鎖のプライマー伸長物の末端には二本鎖のオリゴヌクレオチド(リンカーカセット)が付加される。リンカーカセットは上記の制限酵素消化で生じる末端に対応する末端、好ましくは付着末端と、以降の核酸増幅工程において使用されるプライマーがアニーリングしうる配列とを有している。以上の条件を満たすものであればその配列、鎖長には特に限定はないが、通常、20〜100塩基対、好ましくは30〜60塩基対のリンカーカセットが本発明に使用される。プライマーがアニーリングしうる配列にも特に限定はなく、プライマーの設計に不適切な配列(GC含量が偏ったもの、分子内もしくは分子間で水素結合を形成しうるもの)を除く任意の配列が使用できる。
リンカーカセットの付加は公知のDNA結合方法(ライゲーション反応)によって実施することができ、例えば市販のキット等を使用してもよい。
(4)二本鎖DNAの増幅
こうして得られた二本鎖DNAは、一方の末端にLTR由来の塩基配列を、もう一方の末端にリンカーカセットの塩基配列を有している。このDNAを鋳型とし、LTR由来の塩基配列にアニーリングできるプライマー、リンカーカセットの塩基配列にアニーリングできるプライマーとを使用する核酸増幅反応を行うことにより、前記の二本鎖DNAを増幅することができる。
本発明の方法に使用される核酸増幅方法には特に限定はなく、公知の核酸増幅法、例えばPCR法、ICAN法、SDA法、TMA法などが使用できる。
PCR法を使用する場合には公知の方法に準じ、適切な条件(反応液組成、サイクル条件)を設定して実施すればよい。好ましくは上記(1)に記載された方法に準じて、二本鎖核酸のTm値を低下させる作用を示す化合物を含有する反応液、3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと当該活性を有しないDNAポリメラーゼとの混合物が使用される。また、サイクル条件も上記(1)記載のものを使用できるが、サイクル数については上記条件よりも少なくすることができる。また、ネスティッド(nested)PCR法として知られている、2段階のPCR法を使用してもよい。
以上の(1)〜(4)に示した一連の工程によって、レトロウイルスベクターのLTR部分の塩基配列と、染色体上の当該ベクターが組み込まれた位置に隣接する(すなわち前記LTRに隣接する)領域の塩基配列とを含有するDNA断片を得ることができる。
また、別法として、工程(1)において鋳型として使用される染色体DNAをあらかじめ適切な制限酵素、例えば上記(3)の項に記載された制限酵素であらかじめ消化しておき、これを使用してプライマー伸長反応を行うことができる。この場合には、得られた伸長産物を二本鎖DNAに変換した後、これを制限酵素消化することなくリンカーカセットの付加が実施される。この場合、リンカーカセットとしては平滑末端を有するものが使用される。
本発明の方法で得られた増幅DNA断片は、例えばアガロースゲル電気泳動によって分析することにより、試料とされた細胞集団中にどの程度の種類の組み込み部位が存在するかを調べることができる。
さらに、上記の増幅DNA断片の塩基配列を公知の方法、例えばジデオキシ法によって決定することができる。
増幅されたDNA断片は反応液より回収した後、適当なベクター(プラスミドベクター、ファージベクター等)に連結される。この組換えDNA分子で適当な宿主を形質転換して得られる形質転換体より組換えDNA分子を調製し、これを鋳型としてシークエンシング反応を行い、上記のDNA断片の塩基配列を解読することができる。PCR法によって増幅されたDNA断片のクローニングには3’末端にT塩基が突出したベクター(T−ベクター)が好適であるが、これに限定されるものではない。
また、増幅されたDNA断片の分子種が限られており、アガロースゲル電気泳動等によって単離可能である場合には、単離された増幅DNA断片を鋳型としたダイレクトシークエンシングを行ってもよい。
こうして得られた塩基配列情報は、出発材料となった染色体DNAにおいてレトロウイルスベクター由来の配列に隣接する配列を有している。従って、この配列を公知の染色体DNA塩基配列と比較することにより、当該染色体上のどの位置にレトロウイルスベクターが組み込まれているかを知ることができる。
ポリクローン由来の染色体DNAが試料とされた場合であっても、本発明の方法によれば、特定の配列のDNA断片が富化されていない、多種多様の配列のDNA断片からなるライブラリーを得ることができる。このライブラリー中のDNA断片の配列を解析すれば、レトロウイルスベクターの染色体組み込み部位の特定、組み込み頻度の高い配列または領域の推定、特定の遺伝子導入細胞の生体中での分布や割合のモニタリング等を実施することができる。
さらに本発明の方法は従来のLAM PCR法に比較してその感度も優れており、遺伝子導入されたものの割合がより少ない染色体DNAを使用しても、再現性よく良好な結果を得ることができる。
2.本発明の解析方法に使用されるキット
本発明の、遺伝子組み込み部位の解析方法に使用されるキットは、上記1.に記載された各工程に使用される試薬類を含有するものであり、例えば下記のコンポーネントを含有するものが例示される。
(a)レトロウイルスのLTR部分にアニーリングできるプライマー、
(b)リンカーカセット、
(c)(b)のリンカーカセットにアニーリングできるプライマー、
(d)DNAポリメラーゼ、
(e)制限酵素、および
(f)二本鎖核酸のTm値を低下させる作用を示す化合物を含むプライマー伸長用緩衝液
なお、上記のコンポーネントのうち、(f)の緩衝液は二本鎖核酸のTm値を低下させる作用を示す化合物を含有している。このような化合物としては前記のものが例示される。また、その組成は(d)のDNAポリメラーゼの使用に適したものであることが好ましい。また、その形態として、緩衝液中にプライマーやDNAポリメラーゼがあらかじめ添加されているもの、緩衝液とは別にdNTPやMg塩が添付されているものなども本発明のキットに包含される。
PCRによってプライマー伸長反応を実施する場合、(d)のDNAポリメラーゼは耐熱性を有するものが選択される。さらに、DNAポリメラーゼとして3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと当該活性を有しないDNAポリメラーゼとを混合したDNAポリメラーゼ組成物が含有されていてもよい。
また、(a)のプライマーは伸長物の回収に適した標識、例えばビオチン等が付加されたものであってもよい。この場合には、当該標識に対応する伸長産物の精製のためのコンポーネント、例えばアビジン固定化ビーズ等がさらに含まれているキットが好適である。
本発明のキットは、上記以外のコンポーネント、例えばプライマー伸長物の二本鎖化のための試薬、制限酵素反応用緩衝液、リンカーカセットのライゲーションのための試薬等を含有することもできる
該キットを用いることで、本発明のレトロウイルス組み込み部位解析を簡便に行なうことができる。
本発明によれば、従来のLAM PCR法によるレトロウイルス組み込み部位の解析方法の問題点であった数多くの異なる組み込み部位を持つ集団(ポリクローン)から得られた染色体DNAを解析する場合において、鋳型とするDNAの種類や量によっては特定のクローンに偏った増幅断片が得られてしまう現象は克服され、つまり、本法によりレトロウイルスベクターにより遺伝子を組み込まれている細胞が、どの程度集団の中に存在するのか(ポリクローン、オリゴクローン、モノクローンのどの状態で存在するのか)、さらにはどの程度の割合で特定の細胞が集団中に存在しているのか正確に、感度良く、高い再現性をもってモニタリングすることが可能である。
即ち、従来のLAM PCR法によるレトロウイルスの組み込み部位の解析方法では、鋳型として用いるゲノムDNAの種類や量によってPCRによる増幅物が特定のクローン由来のものに偏ってしまう傾向がある。このため、組み込まれた部位数に見合うだけの断片数が確認されず、さらに再現性が悪いなどの問題点から正確な判定には障害がある可能性が考えられた。しかしながら本発明の方法によれば、これらの問題点は解消され、それによってより精度の高い判定が可能となった。
【実施例】
以下に実施例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
レトロウイルスベクターを組み込んだ293細胞及びCD34陽性細胞の解析(ポリクローンの解析)
(1)レトロウイルス上清液の調製
293細胞(ATCC CRL−1573)およびPG13細胞(ATCC CRL−10686)は10%ウシ胎児血清(JRH社製)ならびに50μg/mlのペニシリン(ギブコ社製)及び50μg/mlのストレプトマイシン(ギブコ社製)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、シグマ社製)中で37℃、5%COにて培養した。なお、以降の操作に使用したDMEMはすべて50μg/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシンを含んだものである。
アンフォトロピックレトロウイルスベクターは以下のようにして調製した。すなわち、プラスミドpQBI25(Quantum Biotechnologies Inc.社製)に挿入されているRed−shift Green Fluorescent Protein(以下GFPと略称する)をコードする遺伝子(配列表の配列番号1)について、プラスミドpDON−AI(タカラバイオ社製)に挿入し、pDON−GFPを構築した。
次に、Retrovirus Packaging Kit Ampho(タカラバイオ社製)を用いてプラスミドpDON−GFPを293細胞に導入し、キットに添付の説明書に従って培養上清を回収した。培養上清を0.45ミクロンのフィルター(ミリポア社製)でろ過したものをamphoGFPウイルス上清液ストックとし、使用するまでは−80℃で保存した。得られたamphoGFPウイルス上清液のNIH/3T3細胞に対する感染力価は4×10感染ウイルス粒子/mlであった。
GALVシュードタイプレトロウイルスベクターは以下のようにして調製した。すなわち、先に調製したamphoGFPウイルス上清液ストック200μlを使用し、2×10個のPG13細胞にRetroNectin法[ジャーナル オブ バイオケミストリー(J.Biochem.)、第130巻、p331−334(2001)]で遺伝子導入を2回繰り返し、500μg/mlのG418および10%ウシ胎児血清を含有するDMEM培地で2週間選択培養し、得られた細胞をGALVシュードタイプレトロウイルス産生細胞とした。この産生細胞を10cmシャーレで培養し、セミコンフルエントに生育したところで新しい7mlの10%FBS含有DMEMに培地を交換し、さらに37℃、5%CO存在下で24時間培養した。この上清を0.45ミクロンのフィルター(ミリポア社製)でろ過したものをgalvGFPウイルス上清液ストックとし、使用するまでは−80℃で保存した。得られたgalvGFPウイルス上清液のHT1080細胞に対する感染力価は6×10感染ウイルス粒子/mlであった。
(2)293細胞及びCD34陽性細胞へのレトロウイルスベクターの導入
実施例1(1)で調製したgalvGFPウイルス上清液2mlと293細胞1×10個を混合し、φ10cmのレトロネクチンコートプレート(タカラバイオ社製)2枚に播種し、ウイルス感染を行なった。37℃、5%CO存在下で24時間培養した後、細胞をトリプシンではがし、φ10cmの組織培養用プレート6枚に分注してさらに48時間、37℃、5%CO存在下で培養した。その後、トリプシン処理して回収した細胞を遠心管に移し、PBSで二回洗浄した後に−80℃で保存した。この導入細胞群を293R1と命名した。293R1について蛍光標示式細胞分取器(FACS)による解析を行ったところ、遺伝子導入効率は59%であった。
ヒトCD34陽性造血幹細胞への遺伝子導入は以下のようにして行った。amphoGFPウイルス上清液1mlと24時間サイトカイン刺激したCD34陽性細胞(バイオウィターカー社製)を混合し、φ6cmのレトロネクチンコートプレート(タカラバイオ社製)に添加し(感染時の細胞数は全量1.14×10個)、一回目のウイルス感染を行なった。37℃、5%CO存在下で24時間培養した後、遠心して上清を除き、サイトカイン培地2ml[300ng/ml Stem cell factor(ジェンザイム社製)、100ng/ml トロンボポエチン(ペプロテックハウス社製)、60ng/ml ヒトインターロイキン−3(ジェンザイム社製)、300ng/ml ヒトFlt−3/Flk−2リガンド(R&Dシステム社製)、4% fetal bovine serum(バイオウイターカー社製)]とamphoGFPウイルス上清液1mlを添加し、37℃、5%CO存在下で24時間培養した。遠心して上清を除き、さらにサイトカイン培地2mlとamphoGFPウイルス上清液1mlを添加し、37℃、5%CO存在下で24時間培養した。培養終了後トリプシン処理して細胞を回収し、−80℃で保存した。この導入細胞群をCD+R1と命名した。CD+R1についてFACSによる解析を行ったところ、遺伝子導入効率は20.3%であった。
(3)染色体DNAの調製
−80℃で保存した凍結細胞(293R1及びCD+R1、それぞれ約2.0×10細胞相当)を5mlの懸濁溶液(10mM トリス塩酸緩衝液、pH8.0、10mM EDTA、150mM 塩化ナトリウム)に懸濁し、1μlのRNaseA溶液(10mg/ml)、50μlの10%SDS溶液、及び25μlのproteinaseK(20mg/ml、タカラバイオ社製)を加えて転倒混和した。その後、50℃で3時間加熱し、次いで等量のフェノール溶液を加えて15分間転倒混和した。室温で遠心した後に上清を回収し、これに等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール溶液を加えて15分間転倒混和した。遠心して上清を回収した後、全量の1/25量になるように5M 塩化ナトリウムを加えて混合した。さらに全量の2.5倍量になるようにエタノールを添加し、室温で放置後、生じた沈殿物を回収した。沈殿物を70%エタノールで洗浄して10分間風乾した後、ここにTE緩衝液(10mM トリス塩酸緩衝液、pH8.0、1mM EDTA)を加え、24時間低温室に放置して溶解させた。以上の操作を行うことによって、293R1及びCD+R1より染色体DNAのサンプルが回収された。
(4)遺伝子導入部位の解析
実施例1−(3)で調製した293R1及びCD34+R1のゲノムDNAそれぞれ100ngに25μlの×2 PCR buffer[100mM トリス塩酸緩衝液、pH9.2、28mM 硫酸アンモニウム、20mM 塩化カリウム、5.0mM 塩化マグネシウム、0.02%(w/v) BSA、10%(v/v) DMSO、0.5M ベタイン(トリメチルグリシン)]、5μlのdNTP混合液(各2.5mM)、5’末端にビオチンを付加したプライマーLTR I(LTR IはレトロウイルスベクターのLTRに相補的な配列を持つ、配列表の配列番号2にプライマーLTR Iの塩基配列を示す)0.1pmol、0.25μlのEx Taq(5U/μl、タカラバイオ社製)及び滅菌水を加えて50μlとした。自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラー(タカラバイオ社製)にセットし、95℃、5分間の変性の後、95℃、60秒間(変性)、58℃、45秒間(プライマーのアニーリング)、72℃、90秒間(合成反応)を1サイクルとする50サイクルのPCRを実施し、その後72℃で10分間保温した。
上記の反応終了後、以下のようにして未反応のプライマーの除去を行なった。50μlのPCR反応液に300μlのTE溶液を加え、Suprec02(タカラバイオ社製)に添加し、5,000rpm、約7分間遠心した。さらに350μlのTE溶液を添加し、同様にして遠心し、フィルターを洗浄した。次いでフィルターに液量が40μlとなるようにTE溶液を添加して、プライマーが除去されたDNA溶液を回収した。
回収された溶液にストレプトアビジンが固定化された磁性ビーズ(MPG streptavidin、タカラバイオ社製)40μl(200μg相当)を加え、時折混和させながら室温で1時間放置した。反応液の入ったチューブを磁石スタンド(Magnetight Separation Stand、タカラバイオ社製)上で1分間放置した後、上清を廃棄し、ビーズの回収を行なった。このビーズに100μlのBW緩衝液(5mM トリス塩酸緩衝液、pH7.5、0.5mM EDTA、1.0M 塩化ナトリウム)を添加して穏やかに混和し、磁石スタンド上で静置後、同様に上清を廃棄し、さらに100μlの滅菌水で同様の操作を行い、ビーズの回収を行なった(この操作をビーズ洗浄操作とする)。
洗浄したビーズを.14.1μlの滅菌水に穏やかに懸濁し、×10 Klenow緩衝液(下記Klenow Flagmentに添付のもの)2μl、dNTP混合液(各2.5mM)2.4μl、ランダムプライマー(ランダム6mer、100pmol/μl、タカラバイオ社製)1μl、及びKlenow fragment(タカラバイオ社製)0.5μlを加えて全量を20μlとしたものを調製し、37℃で時折混和させながら1時間反応させ、相補鎖の合成を行なった。反応後、ビーズ洗浄操作を行い、回収したビーズを17.5μlの滅菌水に懸濁し、そこに2μlの×10 NE buffer1(下記Tsp509Iに添付のもの)、0.5μlの制限酵素Tsp509I(10U/μl、NEW ENGLAND BioLabs社製)を加えて、時折混和させながら65℃で1時間保温した。ビーズ洗浄操作を行い、そのビーズに50pmol/μlリンカーカセットA(配列表の配列番号3、4にそれぞれリンカーカセットAを構成する二つのオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す)2μl、Solution A(Takara Ligation kit ver.1、タカラバイオ社製)16μl、Solution B(Takara Ligation kit ver.1、タカラバイオ社製)2μlを添加し、時折混和させながら16℃で1時間反応させた。
滅菌水でビーズの洗浄を1回行った後、ビーズを回収して5μlの0.1N 水酸化ナトリウムに懸濁し、室温で10分間放置した。磁石スタンド上で約5μlの上清を回収し、このうち1μlを用いて以下のPCR反応を行なった。1μlの上記溶液に25μlの×2 PCR buffer、5μlのdNTP混合液(各2.5mM)、LTRと相補的な配列を持つプライマーLTR II(配列表の配列番号5、25pmol/μl)及びリンカーカセットに相補的な配列を持つプライマーLC 1(配列表の配列番号6、25pmol/μl)をそれぞれ1μlずつ、0.25μlのEx Taq及び滅菌水を加えて50μlとした。この反応液を自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーにセットし、95℃、5分間の変性の後、95℃、60秒間(変性)、58℃、45秒間(プライマーのアニーリング)、72℃、90秒間(合成反応)を1サイクルとする30サイクルのPCRを実施し、その後72℃で10分間保温した(一回目)。その後、一回目のPCR反応液1μlを鋳型として用いて、LTRIIのアニールする配列より下流のLTRに相補的な配列を持つプライマーLTRIII(配列表の配列番号7、25pmol/μl)、及びLC1より下流のリンカーカセットに相補的な配列を持つプライマーLC2(配列表の配列番号8、25pmol/μl)で二回目のPCRを行なった。なお二回目のPCRは一回目のPCR条件に従った。
こうして得られた反応液50μlの内、5μlを3.0%(w/v)アガロースゲルで電気泳動し、反応液中の増幅産物の確認を行った。その結果、293R1、CD+R1由来のどちらの染色体DNAを鋳型にした場合も約500bp以下の様々な種類の増幅断片群がブロードなバンドを形成して泳動されていることが確認された。この結果は、染色体上のさまざまな位置にレトロウイルスベクターが組み込まれた細胞の集まるポリクローンから調製された染色体DNAが鋳型として用いられたことを反映しており、また、上記の方法により特定のクローン由来の断片に偏っていない増幅が可能であることが明らかとなった。
CD34+R1由来のゲノムDNAを鋳型として増幅された断片群を3.0%低融点アガロースゲルより回収し、pT7BlueT ベクター(タカラバイオ社製)に連結した。この連結産物で大腸菌JM109を形質転換し、X−gal、IPTG(共にタカラバイオ社製)を含む固体培養プレートに生育させて得られた白コロニーより、68種類を挿入断片の連結されたベクターを含むクローン候補株として選抜した。このコロニーについてプライマーLTR III及びLC2、Ex Taq(タカラバイオ社製)を使用したPCRにより、インサートサイズの確認を行なった。反応液はEx Taq添付の説明書に準じて調製し、95℃、5分間の変性の後、95℃、60秒間、58℃、45秒間、72℃、90秒間を1サイクルとする30サイクルのPCRを実施した。増幅後の反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動したところ、様々な長さの増幅断片が確認され、本方法によって様々なクローン由来の組み換え部位領域が増幅されていることが判明した。
さらに、新たな白コロニー384個を選び、以下の方法でシークエンス用鋳型DNAを調製した。各コロニーをアンピシリンを含むLB培養液(100ml当り1gトリプトン、0.5g 酵母エキス、1g 塩化ナトリウム)40μlに接種し、37℃、18時間培養した。この培養液に60%グリセロール溶液20μlを加え、終濃度20%のグリセロールストックを調製した。次いで、このグリセロールストック溶液0.5μlについてTempliPhi DNA Sequencing Template Amplification Kit(アマシャム バイオサイエンス社製)を用いたシークエンス用サンプルの調製を行った。なおこの際の調製方法はキットの手順書に従った。この反応溶液をシークエンサーMegaBACE 4000(アマシャム バイオサイエンス社製)を用いて塩基配列の解析を行なったところ、115種類のまったく異なった組み込み部位を示すヒト由来の配列が得られた。この結果からも、本法により様々なクローン由来の増幅断片が得られていることが判明した。
【実施例2】
ポリクローン由来の染色体DNAとモノクローン由来の染色体との混合物を試料とした解析(1)
(1)レトロウイルスを導入した293細胞クローンの単離
ポリブレンを8μg/ml濃度で含む1mlのDMEM培地中の293細胞(5×10個)に、実施例1(1)で調製したamphoGFPウイルス上清液ストックを10倍希釈したもの100μlを添加し、感染させた。2時間後、培地交換を行い、37℃、5%CO存在下で24時間培養した。翌日、G418を500μg/mlで含む培地を入れた96穴プレートに、上記の細胞を1ウェル当り1細胞となるように撒きなおし、37℃、5%CO中で培養した。その後、G418耐性を示した2種類の細胞(クローン)を単離して、拡大培養し、1クローン当り2×10個の細胞を得た。これら2つのクローンをクローン1及びクローン2とし、実施例1(3)と同様にして、それぞれの染色体DNAを調製した。
(2)モノクローン由来染色体DNAを鋳型とした場合の増幅
実施例2(1)で調製したクローン1及びクローン2の染色体DNAをそれぞれ0、0.1ng、1ng、10ng、50ng、100ngを鋳型とし、実施例1(4)と同様の操作を行うことによってクローンゲノム中のレトロウイルスベクターの組み込まれた部位が検出されるか実施した。最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、ゲルをエチジウムブロマイドで染色して増幅産物の確認を行った。その結果、クローン1については1ngの染色体DNA、クローン2については10ngの染色体DNAまでクローン由来の増幅断片が確認された。これにより特定のクローン由来の増幅断片が感度よく検出されることが明らかとなった。
(3)クローン由来染色体DNAに、ポリクローン由来の染色体DNAを混入させた試料の解析
実施例1で使用した293R1より調製した染色体DNAに、実施例2(1)で調製したクローン1及びクローン2の染色体DNAをそれぞれ重量%(w/w)で0%、0.1%、1%、10%、50%、100%となるように混入させ、全量が100ngとなるものを調製した。これを鋳型として、実施例1(4)と同様の操作を行うことによって293R1由来の染色体DNAへ混入させたクローンDNAが検出されるか実施した。最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行った。その結果、クローン1については10%、クローン2については50%まで293R1由来の染色体DNAが混入した場合でもクローン由来の増幅断片が確認された。また293R1由来の染色体DNAを含むサンプルでは、実施例1と同様にブロードなバンドを形成した増幅断片群が確認された。
またこれとは別に、293R1由来の染色体DNAの一定量(100ng)にクローン1及びクローン2由来の染色体DNAをそれぞれ0、0.1ng、1ng、10ng、50ng、100ngになるように加えたものを鋳型として、同様にクローンDNA由来の増幅断片が検出されるか行った。なおこの際には実施例1(4)と同様の操作を行った。その結果、どの反応サンプルにおいてもブロードなバンドを形成した増幅断片群が確認され、さらにクローン1については10ng、クローン2については50ngまで添加されたクローン由来の増幅断片が検出された。これによりポリクローンサンプルに混在する特定のクローン由来の増幅断片が感度よく検出されることが明らかとなった。
【実施例3】
ポリクローン由来の染色体DNAとモノクローン由来の染色体との混合物を試料とした解析(2)
(1)2種類のクローン由来染色体DNAの混合物を鋳型とした場合の増幅
実施例2(1)で調製したクローン1、クローン2の染色体DNAを0、1ng、10ng、50ng、100ngずつ等量混ぜた混合液を鋳型として、実施例1(4)と同様の操作を行うことによって2種類のゲノム中の組み込み部位由来断片が検出されるか検討した。最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行った。その結果、クローン1由来の増幅断片については1ng、クローン2のものについては10ngずつ混合したものまで検出された。これにより2種類のクローン由来の増幅断片が感度よく検出されることが明らかとなった。
(2)2種類のクローン由来染色体DNAの混合物にポリクローン由来のものを混入させたものを鋳型とした場合の増幅
実施例1で使用した293R1より調製した染色体DNAに、実施例2(1)で調製したクローン1及びクローン2由来の染色体DNAを等量ずつ混合したものをそれぞれ重量%(w/w)で0、0.1%、1%、10%、50%、100%となるように混入させ、全量を100ngとしたものを調製した。これを鋳型として、実施例1(4)と同様の操作を行うことによって293R1由来の染色体DNAへ混入させた2種類のクローンDNAが検出されるか実施した。
上記の操作によって得られた最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行った。その結果、クローン1由来の増幅バンドについては10%、クローン2のものについては50%の混入までクローン由来の増幅断片が確認された。また293R1由来の染色体DNAを含むサンプルでは、実施例1と同様にブロードに泳動されている増幅断片群が確認された。
また、これとは別に293R1由来の染色体DNAの一定量(100ng)にクローン1、クローン2由来の染色体DNAを0、0.1ng、1ng、10ng、50ng、100ngずつ等量混ぜた混合液を鋳型として、同様にクローン由来の増幅断片が検出されるか行った。なおこの際には実施例1(4)と同様の操作を行った。その結果、電気泳動後のアガロースゲルではどの反応サンプルにおいてもブロードなバンドを形成した増幅断片群が確認され、さらにクローン1については10ng、クローン2については50ngずつの混入までクローン由来の増幅断片が検出された。これによりポリクローンサンプルに混在する2種類のクローン由来の増幅断片が感度よく検出されることが明らかとなった。
(3)2種類のクローン由来染色体DNAを比率を変えて混合したものを鋳型とした場合
実施例2(1)で調製したクローン1、クローン2の染色体DNAを重量比(クローン1:クローン2、w:w)で1:0、4:1、2:1、1:1、1:2、1:4、0:1となるように混合し、全量を100ngとしたものを調製した。またそれとは別に、この混合したものに実施例1で使用した293R1由来の染色体DNA 100ngを混合したものも用意した。これらを鋳型として実施例1(4)と同様の操作を行った場合に、各比率で混合したクローン1、2の由来の増幅断片が検出されるか実施した。
上記の操作で得られた最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行った。その結果、クローン1、クローン2の混合物については混合した際とほぼ同じ比率でクローン由来の増幅断片が確認され、またこれらに293R1由来の染色体DNAを添加されたサンプルでは、ブロードなバンドを形成した増幅断片群中にクローン1、2由来のDNA断片が確認された。その場合もクローン1、2由来の増幅断片の増減は確認された。これによりポリクローンサンプルに混在する2種のクローンを感度よく、その存在比に応じて検出されることが明らかとなった。
【実施例4】
4種のクローン由来染色体DNAを試料とした解析
(1)レトロウイルスを導入したHL60細胞クローンの単離
実施例1(1)と同様の操作によりプラスミドpDON−GFPをパッケージング細胞GP+E−86に導入し、得られたウイルス産生細胞よりamphoGFPウイルス上清液ストックを調製した。
ポリブレンを8μg/ml濃度で含む1mlのDMEM培地中のHL60細胞(バイオウィターカー社製、5×10個)に、上記のamphoGFPウイルス上清液ストックを10倍希釈したもの100μlを添加して感染させた。2時間後に培地交換を行い、さらに37℃、5%CO存在下で24時間培養した後、細胞をトリプシンではがし、φ10cmの組織培養用プレート6枚に分注して37℃、5%CO存在下で48時間培養した。翌日、G418を500μg/mlで含む培地を入れた96穴プレートに上記の細胞を1ウェル当り1細胞となるように撒きなおし、37℃、5%CO中で培養した。その後、同様に24穴プレートに撒きなおして4日間、さらに6穴プレートに撒きなおして4日間、各細胞(クローン)を培養した。得られた細胞のうちG418耐性を示した4種類のクローンを単離して拡大培養し、1クローン当り1×10個の細胞を得た。これら4つのクローンをクローンa、クローンb、クローンc及びクローンdとし、実施例1(3)と同様の操作でそれぞれのクローンより染色体DNAを調製した。
(2)4種のクローン由来の染色体DNAを鋳型とした反応
実施例4(1)で調製したクローンa〜dの染色体DNAをそれぞれ100ng、また4種の染色体DNAを等量混合したものを調製し、これを鋳型とした。なお混合したものは、4種の染色体DNAをそれぞれ0、0.1ng、1ng、10ng、25ng、50ng及び100ngずつ混合したものを用意した。これらのそれぞれを鋳型として実施例1(4)と同様の操作を行った場合に、各クローン単独での増幅バンド、あるいは4種の染色体由来のバンドの混合物が検出されるか検討した。
上記の操作により得られた最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行った。その結果クローンa、b、c、dのいずれにおいても単独での増幅断片が確認された。また4種の染色体DNAを混合したものでは4種の増幅断片が検出され、その感度についてはほぼ1ngずつ混合したものまで検出可能であった。これにより4種類のクローン(オリゴクローン)由来の増幅断片が感度よく検出されることが明らかとなった。
【実施例5】
検出感度の上昇
実施例1(3)で作製した293R1由来の染色体DNAに、実施例2(1)で調製したクローン2の染色体DNAを重量%で0、0.1%、1%、10%、50%、100%となるように混入させ、全量を100ngとしたものを調製した。そこに0.5μlの×10 NE buffer1、0.5μlの制限酵素Tsp509I(10U/μl)、及び滅菌水を加えて全量を5μlとし、65℃で1時間保温した。その反応液に25μlの×2 PCR buffer、5μlのdNTP混合液(2.5mM)、1μlの5’末端にビオチンを付加したプライマーLTR I(0.1pmol/μl)、0.25μlのEx Taq及び滅菌水を加えて全量を50μlとした。反応液を自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーにセットし、95℃、5分間の変性の後、95℃、60秒間、58℃、45秒間、72℃、90秒間を1サイクルとする50サイクルのPCRを実施した。その後、実施例1(4)と同様にして未反応のプライマーを除去し、40μlの液量のDNA溶液を得た。
この溶液にストレプトアビジンでコートされた磁性ビーズ(MPG streptavidin)40μlを加え、時折混和させながら室温で1時間放置した。反応液の入ったチューブを磁石スタンド上で1分間放置した後、上清を廃棄してビーズの回収を行ない、ビーズ洗浄操作を行った。このビーズを14.1μlの滅菌水に穏やかに懸濁し、×10 Klenow緩衝液 2μl、dNTP混合液(2.5mM)2.4μl、ランダムプライマー(6mer、100pmol/μl)1μl、Klenow fragment 0.5μlを加えて全量を20μlとしたものを37℃で1時間反応させた。
反応終了後、ビーズ洗浄操作を行い、そのビーズに50pmol/μlリンカーカセットB(配列表の配列番号9、10にリンカーカセットBを構成する二つのオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す)2μl、Solution A(Takara Ligation kit ver.1)16μl、Solution B(Takara Ligation kit ver.1)2μlを添加し、時折混和させながら16℃で1時間反応させた。滅菌水でビーズの洗浄を1回行った後、ビーズを回収して5μlの0.1N 水酸化ナトリウムに懸濁し、室温で10分間放置した。磁石スタンド上で約5μlの上清を回収し、このうち1μlを用いて実施例1(4)と同様にしてPCR反応を行なった。二回目のPCR反応液50μlの内、5μlを3.0%(w/v)アガロースゲルで電気泳動し、増幅断片を確認した。
なお比較対照として、同じ鋳型を用いて、実施例1(4)と同一の操作で実施した方法も同時に行なった。その結果、実施例1(4)での方法では50%までクローン2由来の増幅バンドが確認されたが、この方法では10%までのバンドが確認され、混入したクローン由来の増幅産物の検出感度を上昇させることが可能であった。
【実施例6】
従来のLAM PCR法との比較(1)
(1)pDON−GFPを導入したHL60細胞集団の作製
実施例4(1)で調製したプラスミドpDON−GFPをパッケージング細胞GP+E−86に導入し、構築されたamphoGFPウイルス産生細胞からウイルス粒子を回収した。
ポリブレンを8μg/ml濃度で含む1mlのDMEM培地中のHL60細胞(5×10個)に、実施例4(1)で調製したamphoGFPウイルス上清液ストックを10倍希釈したもの100μlを添加して感染させた。2時間後に培地交換を行い、さらに37℃、5%CO存在下で24時間培養した後、細胞をトリプシンではがし、φ10cmの組織培養用プレート6枚に分注して37℃、5%CO存在下で48時間培養した。
その後、細胞をトリプシン処理して遠心管に回収し、細胞をPBSで二回洗浄した後に−80℃で保存した。この導入細胞群をHL60R1と命名した。HL60R1についてFACSによる解析を行ったところ、遺伝子導入効率は約20%であった。このHL60R1(約2.0×10個の細胞)より、実施例1(3)と同様にして染色体DNAを調製した。
(2)遺伝子組み込み領域DNAの増幅
ブラッド(Blood)、第100巻、2737頁〜2743頁(2002)に記載の方法に従って、従来のLAM PCR法を以下のように実施した。実施例6−(1)で調製したHL60R1のゲノムDNA 1ng、10ng、100ngに10μlの×10 PCR buffer(キアゲン社製)、8μlのdNTP(2.5mM)混合液、0.25pmolの5’末端にビオチンを付加したプライマーLTR Iを添加し、0.5μlのTaq polymerase(5U/μl、キアゲン社製)及び滅菌水を加えて100μlとした。この反応液を自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラー(タカラバイオ社製)にセットし、95℃、5分間の変性の後、95℃、60秒間、60℃、45秒間、72℃、60秒間を1サイクルとする100サイクルのPCRを実施し、その後72℃で10分間保温した(なお50サイクル実施後に新たにTaq polymeraseを同量追加し、さらに50サイクル行ない100サイクルとした)。
この反応液にストレプトアビジンが固定化された磁性ビーズ(MPG streptavidin)100μl(200μg相当)を加え、時折混和させながら室温で1時間放置した。反応液の入ったチューブを磁石スタンド上で1分間放置した後、上清を廃棄し、ビーズの回収を行なった。そこに100μlのBW緩衝液(5mM トリス塩酸緩衝液、pH7.5、0.5mM EDTA、1.0M 塩化ナトリウム)を添加して、ビーズを穏やかに混和し、磁石スタンド上で静置後、同様に上清を廃棄し、さらに100μlの滅菌水で同様の操作を行い、ビーズの回収を行なった(この操作をビーズ洗浄操作とする)。
このビーズを14.1μlの滅菌水に穏やかに懸濁し、×10 Klenow緩衝液 2μl、dNTP混合液(2.5mM)2.4μl、ランダムプライマー(ランダム6mer、100pmol/μl、タカラバイオ社製)1μl、及びKlenow fragment(タカラバイオ社製)0.5μlを加えて全量を20μlとしたものを37℃で時折混和させながら1時間反応させ、相補鎖の合成を行なった。
反応後、ビーズ洗浄操作を行い、回収したビーズを17.5μlの滅菌水に懸濁し、そこに2μlの×10 NE buffer1、0.5μlの制限酵素Tsp509I(10U/μl)を加えて、時折混和させながら65℃で1時間保温した。次いでビーズ洗浄操作を行い、そのビーズに2μlのリンカーカセットA(50pmol/μl)、Solution A(Takara Ligation kit ver.1)16μl、Solution B(Takara Ligation kit ver.1)2μlを添加し、時折混和させながら16℃で1時間反応させた。
反応終了後、ビーズの洗浄を滅菌水で1回行ってビーズを回収し、5μlの0.1N 水酸化ナトリウムに懸濁して室温で10分間放置した。磁石スタンド上で約5μlの上清を回収し、このうち1μlを用いて以下のPCR反応を行なった。1μlの上記溶液に10μlの×10 Taq buffer、8μlのdNTP(2.5mM)混合液、プライマーLTR II(25pmol/μl)及びプライマーLC 1(25pmol/μl)をそれぞれ1μlずつ、0.5μlのTaq polymerase(キアゲン社製)及び滅菌水を加えて全量を100μlとした。自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーにセットし、95℃、5分間の変性の後、95℃、60秒間、60℃、45秒間、72℃、60秒間を1サイクルとする35サイクルのPCRを実施し、その後72℃で10分間保温した(一回目)。その後一回目のPCR反応液 0.2μl分を鋳型として用いて、LTR III(25pmol/μl)、及びプライマーLC2(25pmol/μl)で二回目のPCRを行なった。なお二回目のPCRは一回目と同じPCR条件で行った。
なお、同じくHL60R1の染色体DNA 1ng、10ng、100ngを試料として、実施例1(4)に記載の方法(本発明の方法)でも同様にレトロウイルスベクター組み込み部位に隣接するDNA断片の増幅を行なった。
上記の反応液のうち5μlを3.0%(w/v)アガロースゲルで電気泳動し、増幅産物の確認を行った。この結果、実施例1(4)記載の方法では、100ng、10ngの染色体DNAを使用した場合に約500bp以下の部分にブロードなバンドを形成した増幅断片群が確認されたのに対し、ブラッド記載の方法(従来のLAM PCR法)では、10ngの染色体DNAでは既に特定のクローン由来の増幅バンドに偏ってしまっていた。このことから、従来のLAM PCR法で行なった場合に較べ、本発明の実施例1(4)に記載の方法では鋳型量が少なくても、言い換えれば遺伝子の導入された染色体の割合が少なくても、特定のクローン由来の増幅に偏らず、種々の遺伝子導入細胞由来のDNA断片を増幅することが可能であることが明らかとなった。
また、再度同様の操作を行なったところ、実施例1(4)記載の方法では先の実験と同様に100ng、10ngの染色体DNAを使用した場合に約500bp以下の部分にブロードなバンドを形成した増幅断片群が確認されたのに対し、ブラッド記載の方法(従来のLAM PCR法)では、10ngに加えて100ngの染色体DNAを使用した場合でも特定のクローン由来の増幅バンドに偏ってしまっていた。このことから、従来のLAM PCR法に較べ、本発明の方法は再現性良くレトロウイルス実施することも可能であることが明らかとなった。
【実施例7】
従来のLAM PCR法との比較(2)
実施例2(1)で調製したクローン1由来の染色体DNA0、0.1ng、1ng、10ng、50ng、100ngを鋳型とした場合(A)、実施例1で使用した293R1より調製した染色体DNA(ポリクローナルDNA)100ngにクローン1由来のDNAを0、0.1ng、1ng、10ng、50ng、100ng混入し、鋳型とした場合(B)、クローン1由来の染色体DNA0、0.1ng、1ng、10ng、50ng、100ngに実施例1で使用した293R1より調製した染色体DNAをトータル鋳型量が100ngとなるように混入し、鋳型とした場合(C)、及びクローン1由来の染色体DNA0、0.1ng、1ng、10ng、50ng、100ngに遺伝子導入を行なっていない293細胞より調製した染色体DNAをトータル鋳型量が100ngとなるように混入し、鋳型とした場合(D)の4種類の場合について、実施例6(2)に記載の操作に従って、従来のLAM PCR法によるレトロウイルス組み込み部位部分のDNA断片の増幅を行った。また、同じ鋳型について実施例1(4)に記載された本発明の方法によるDNAの増幅も実施し、両方法の比較を行った。
最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行ない、増幅断片が確認された反応液に使用されたクローン1由来のDNA量を表1に示した。

上記の結果より、様々な状況下(反応液中に遺伝子導入されたポリクローナルDNAまたは遺伝子導入されていない染色体DNAが共存する場合)で優勢に存在するクローンを検出する場合において、本発明の方法が、従来の方法に較べて5倍から10倍の優れた感度を有することが明らかとなった。
【実施例8】
5種のクローン由来染色体DNAを試料とした従来のLAM PCR法との比較
実施例4(1)で作製した遺伝子導入細胞群から、本発明の方法によりレトロウイルス組み込み部位部分のDNA断片を増幅した際に長さの異なる増幅断片の得られる5種類のクローンを選抜した。この5種類のクローン由来の染色体DNA混合物を鋳型として、以下の実施を行なった。
5種のクローン由来の染色体DNAをそれぞれ1ng、25ng、及び100ngずつ等量混合したもの及びこれらに実施例6−(1)で調製したHL60R1の染色体DNA(ポリクローナルDNA)を100ng混入したものについて、実施例6(2)記載の方法(従来のLAM PCR法)及び実施例1(4)記載の方法(本発明の方法)との比較を行った。
上記の操作により得られた最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行った。5種類のクローン由来の染色体DNA混合物のみを鋳型として用いた場合、従来法と本発明の方法ともに100ng、25ngの鋳型量で5種類全てのクローン由来の増幅断片が確認された。鋳型量を1ngとした場合、本発明の方法では4種のクローン由来の増幅断片が確認されたが、従来のLAM PCR法ではまったくDNAの増幅は見られなかった。
鋳型にポリクローナルDNAが共存する場合、本発明の方法では25ngにおいても5種類のクローン由来の増幅断片が確認されるが、従来のLAM PCR法では25ngにおいては1種類のクローン由来の増幅断片のみが確認され、残り4種類の増幅断片は確認されなかった。
このことから、ポリクローンに共存する複数の優勢に存在するクローンを検出する場合、本発明の方法では従来法に較べ、より感度良く検出が行えること、つまりはクローンの存在状態をより反映した増幅が可能であることが判明した。
【実施例9】
骨髄再構築マウスの末梢血クローン由来染色体DNAを試料とした従来のLAM PCR法との比較
(1)レトロウイルスの作製
エコトロピックレトロウイルスベクターは以下のようにして調製した。Retrovirus Packaging Kit Eco(タカラバイオ社製)に添付の説明書に従って、同キットのpGPとpE−ecoおよび実施例1(1)で作製したプラスミドpDON−GFPを導入した293細胞を培養し、培養上清を回収した。培養上清を0.45ミクロンのフィルター(ミリポア社製)でろ過したものをecoGFPウイルス上清液ストックとし、使用するまでは−80℃で保存した。得られたecoGFPウイルス上清液のNIH/3T3細胞に対する感染力価は1.6×10感染ウイルス粒子/mlであった。
(2)マウス骨髄細胞の調製
7週齢のC3H/Heマウス(メス、日本エスエルシー社製)腹腔内に150mg/kgの5−フルオロウラシル(5−FU、シグマ社製)を投与し、その7日後に大腿骨及び脛骨を摘出して骨髄を採取した。得られた骨髄細胞液をLympholyte M(第一化学薬品社製)に重層して遠心分離し、単核細胞画分を調製してこれをマウス骨髄細胞とした。
50ng/mlトロンボポイエチン、100ng/ml Flt−3/Flk−2リガンド、100ng/ml Stem cell factor、5μM 2−メルカプトエタノール、50単位/mlのペニシリン及び50μg/mlのストレプトマイシンを含有するStemPro−34 SFM培地(ギブコ社製)中に1.45×10cells/mlの細胞密度で上記のマウス骨髄細胞を添加し、5% CO中、37℃で48時間インキュベートすることにより予備刺激を行った。予備刺激した細胞は容器に付着したものを含め、ピペットを用いて吸引、採集した。
(3)形質転換骨髄細胞の作製
レトロネクチン(タカラバイオ社製)をコーティングしたプレート(タカラバイオ社製)に実施例9(1)で調製されたecoGFPウイルス上清液を添加し、32℃でインキュベートした。4時間後に上清を吸引除去し、上記のマウス骨髄細胞(細胞数、培地)を加え、5% CO中、37℃で22時間インキュベートした。インキュベート終了後、ピペッティングにより細胞を回収し、生理食塩水で1回洗浄したあと生理食塩水(大塚製薬社製)に懸濁し、遺伝子導入骨髄細胞とした。
(4)形質転換細胞のマウスへの移植
致死量のX線(900Rad)で処理した8週齢のC3H/Heマウス(メス)の尾静脈から遺伝子導入骨髄細胞(0.2ml/匹、5×10細胞分)を投与した。細胞移植後21週目の上記マウス2匹より末梢血を採取し、QIA amp DNA Blood Mini Kit(キアゲン社製)を用い、染色体DNAを調製し、これらをそれぞれサンプルI、サンプルIIとした。なお染色体DNA調製操作はキット添付プロトコルに従った。
(5)遺伝子導入部位の解析
上記のサンプルI、サンプルIIそれぞれ100ngを鋳型として、実施例6(2)記載の方法(従来のLAM PCR法)及び実施例1(4)記載の方法(本発明の方法)の比較を行った。なおこの操作は両サンプルについて2人の実施者が独立して行なうこととした。
上記の操作により得られた最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行った。その結果、従来のLAM PCR法の場合、2人のうち1人ではサンプルIの増幅断片として1種のメジャープロダクトが確認されたが、もう1人の実施者では前記のメジャープロダクトが確認されなかった。またサンプルIIについては2人の実施者共に明瞭な増幅断片は確認されなかった。一方、本発明の方法の場合には、どちらのサンプルでもメジャープロダクトである増幅断片が明瞭に確認された他、マイナープロダクトも検出された。また、実施者による増幅断片パターンの違いも見られなかった。
このことから、動物由来のサンプルにおいても、本発明により、より感度良く、つまりクローンの存在状態に応じた増幅が可能であることが示唆された。また、本発明の方法では実施者の違いにより再現性が失われることはなかった。
(6)マイナープロダクトである増幅断片の解析
実施例9(5)において、本発明の方法で増幅されたマイナープロダクトである増幅断片がレトロウイルスにより遺伝子導入された細胞由来のものであることを以下の操作で確認した。実施例1と同様に、サンプルIを用いて本発明の方法で増幅された300bp前後のマイナーバンドをゲルより回収し、pT7BlueTベクターに連結した。この組換えプラスミドで形質転換した大腸菌より10クローンを選抜し、それぞれに保持されているプラスミドの挿入断片の塩基配列を解析した。その結果、全てがマウス染色体DNA上の配列であることが確認された。
このことからマウスで再構築された血液細胞について、本発明の方法によって増幅されたマイナープロダクトは、遺伝子導入された細胞のクローンに由来する増幅断片であることが実証された。またこのマイナープロダクトは従来の方法では見られていないことから、本発明の方法が従来の方法に較べ、遺伝子導入された細胞のクローンを高感度に検出できることが判明した。
【実施例10】
ジメチルスルフォキシド、テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)を含有する反応液での増幅
反応緩衝液への化合物の添加の効果について検討した。
実施例1において調製された293R1の遺伝子導入効率は59%であることから、遺伝子導入されたDNAが20ng、10ng、5ngとなるように、293R1より調製した染色体DNA34ng、17ng、8.5ngに遺伝子導入を行なっていない293細胞より調製した染色体DNAをトータル鋳型量が100ngとなるように混入し、実施例1(4)に記載された方法によるDNAの増幅を実施した。この際、実施例1(4)記載の反応液のほか、ジメチルスルフォキシド(DMSO)とベタインにかえて、終濃度6%のDMSO、終濃度6%のDMSO及び終濃度10mMのTMAC、または終濃度10mMのTMACを含有する反応液を作製し反応に使用した。
最終反応液の一部を3.0%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し、増幅産物の確認を行なった。この結果、6%のDMSOを含む反応液では、実施例1(4)記載の緩衝液とほぼ同じように約500bp以下のブロードな増幅断片群が確認された。10mMのTMACを含む反応液ではDMSOの有無に関わらず実施例1(4)記載の反応液に比較して増幅効率の上昇が認められ、また遺伝子導入DNA量が少ない場合においてもブロードな増幅断片群が確認された。今回の緩衝液の中ではDMSOを含有しない、10mMのTMACのみを含有する反応液で最も良好な結果が得られた。
さらに、上記の10mMのTMACのみを含有する反応液を使用する増幅方法について、プライマーLTR II、LC 1を使用するPCR工程、プライマーLTR III、LC2を使用するPCR工程の反応液についてTMACを同濃度のテトラメチルアンモニウムアセテートに変更して増幅を実施した。この場合にはTMACを使用した場合とほぼ同様の増幅が認められた。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、多種多様の組み込み部位をもつ生体サンプルを用いて、遺伝子を組み込まれた細胞が、どの程度集団の中に存在するのか(ポリクローン、オリゴクローン、モノクローンのどの状態で存在するのか)、さらにはどの程度の割合で特定の細胞が集団中に存在しているのか正確に、感度良く、高い再現性をもってモニタリングすることができる。従来の方法ではその限界により効果が限定されていたレトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入細胞群(モノクローン、オリゴクローン、ポリクローン)における組み込み部位の解析に応用することで、遺伝子治療の現場などでより精度の高いモニタリングを期待できる等、優れた有用性を示す。
【配列表フリーテキスト】

【配列表】







【特許請求の範囲】
【請求項1】
レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA領域を解析する方法であって、
(1)レトロウイルスベクターのLTRの塩基配列に相補的な配列を有するプライマーを使用し、レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAを鋳型としたプライマー伸長反応を行う工程、
(2)工程(1)で得られたプライマー伸長物を回収し、当該伸長物に相補的なDNAを合成して二本鎖DNAを得る工程、
(3)工程(2)で得られた二本鎖DNAの末端に二本鎖オリゴヌクレオチドを付加する工程、および
(4)工程(3)で得られたオリゴヌクレオチド付加二本鎖DNAを鋳型とし、レトロウイルスベクターのLTRの塩基配列に相補的な配列を有するプライマーと前記二本鎖オリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な配列を有するプライマーとを使用する核酸増幅反応を実施する工程、
の各工程を包含し、かつ、工程(1)のプライマー伸長反応ならびに工程(4)の核酸増幅反応が二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物の存在下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
工程(1)のプライマー伸長反応がポリメラーゼ連鎖反応により実施されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(4)の核酸増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応により実施されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
ポリメラーゼ連鎖反応に3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと当該活性を有しないDNAポリメラーゼとを混合したDNAポリメラーゼ組成物が使用されることを特徴とする請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
工程(1)または(4)が95℃、60秒;58℃、45秒;72℃、90秒の温度サイクルでのポリメラーゼ連鎖反応により実施されることを特徴とする請求項2または3記載の方法。
【請求項6】
二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物がベタイン、ホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラメチルアンモニウム塩から選択される物質である請求項1記載の方法。
【請求項7】
二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物がトリメチルグリシンである請求項6記載の方法。
【請求項8】
工程(4)が二段階のポリメラーゼ連鎖反応により実施されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
工程(3)において、工程(2)で得られた二本鎖DNAを制限酵素消化し、生じた二本鎖DNAの末端に二本鎖オリゴヌクレオチドを付加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
工程(1)の染色体DNAがあらかじめ制限酵素消化されていることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
工程(1)において標識されたプライマーを使用し、工程(2)において前記標識を利用してプライマー伸長物を回収することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
ビオチン標識されたプライマーを使用する請求項11記載の方法。
【請求項13】
工程(4)で得られた増幅産物について、その塩基配列を決定する工程をさらに包含することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
工程(4)で得られた断片をベクターに組み込んだ組換えDNAを鋳型として塩基配列の決定が実施される請求項13記載の方法。
【請求項15】
レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA塩基配列を決定するためのキットであって、
(a)レトロウイルスのLTR部分にアニーリングできるプライマー、
(b)リンカーカセット、
(c)(b)のリンカーカセットにアニーリングできるプライマー、
(d)DNAポリメラーゼ、
(e)制限酵素、および
(f)二本鎖核酸のTm値を低下させる作用を示す化合物を含むプライマー伸長反応用緩衝液、
を含有することを特徴とするキット。
【請求項16】
DNAポリメラーゼが3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼと当該活性を有しないDNAポリメラーゼとを混合したDNAポリメラーゼ組成物である請求項15記載のキット。
【請求項17】
二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物がベタイン、ホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラメチルアンモニウム塩から選択される物質である請求項15記載のキット。
【請求項18】
二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物がトリメチルグリシンである請求項17記載のキット。
【請求項19】
(a)のプライマーがプライマー伸長産物の回収のための標識を有していることを特徴とする請求項15記載のキット。
【請求項20】
レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA領域を解析する方法において使用される、二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物を含むプライマー伸長反応用緩衝液。
【請求項21】
二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物がベタイン、ホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラメチルアンモニウム塩から選択される物質である請求項20記載の緩衝液。
【請求項22】
二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物がトリメチルグリシンである請求項21記載の緩衝液。
【請求項23】
レトロウイルスベクターが組み込まれた染色体DNAにおける、前記ベクターに隣接する染色体由来のDNA領域を解析する方法において使用されるプライマー伸長反応用緩衝液の製造における、二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物の使用。
【請求項24】
二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物がベタイン、ホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラメチルアンモニウム塩から選択される物質である請求項23記載の使用。
【請求項25】
二本鎖核酸のTm値を低下させる化合物がトリメチルグリシンである請求項24記載の使用。

【国際公開番号】WO2004/099446
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506048(P2005−506048)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006513
【国際出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】