説明

遺伝子検査用キット

【課題】 本発明の目的は、遺伝子検査における検査結果に影響を及ぼす汚染源としての微生物等を生体の検体採取部位から除去することで検査結果の精度を向上させるために効果的な有検体採取部位の洗浄剤及びそれを含む遺伝子検査用キットを提供することにある。
【解決手段】 遺伝子検査での検査結果に影響を及ぼす汚染源としての微生物やそれに由来するDNAを洗浄除去できる洗浄剤を使用して遺伝子検査用の検体の採取部位を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査結果に影響を及ぼす汚染のない生体成分を用いた遺伝子検査を行うための遺伝子検査用キット及びそれに用いる洗浄剤に関する。より詳しくは、感染微生物の遺伝子を検出し、原因微生物を同定するための検体となる生体成分の採取に際し、該検体を汚染する可能性のある常在微生物を除去する工程を有する方法で採取された生体成分を用いて遺伝子検査を行うことを可能とする遺伝子検査用キット及びそれに用いる洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分子生物学的な研究が急速に進み、様々な遺伝子検査方法、並びにそのための機器及び試薬が提案されている。なかでも、癌などの遺伝子疾患の予後診断やタイピング、SNPsに代表されるような体質診断、感染微生物の同定などが早期の実用化を目指して技術開発が急がれている。
【0003】
従来、感染症の原因微生物の検査(検出、同定)には、主として培養法が用いられてきた。これは、感染症が疑われる患者の血液、尿、便などの生体成分から症状の原因となる微生物を培養し、その性状から菌種を特定するものであった。近年、分子生物学研究の著しい進歩によって、微生物の遺伝子情報もその蓄積量をふやしてきた。これによって、遺伝型の検査によって微生物種の特定が可能となり、検査精度(感度、同定精度)の向上、検査時間の短縮などの要請から医療現場での実用化が図られている。特開2004−173628号公報には、DNAチップを用いたヘモフィリスインフルエンザ菌の検出方法について記載されている。
【0004】
一方、遺伝子検査における検体としての生体成分の採取、例えば、注射器を用いた採血などにおいては、皮膚の採血部位を、ヨード製剤やアルコールなどの消毒剤により消毒してから採血を行うのが普通である。また、最近では、院内感染の予防という観点から、医者などの医療従事者、患者、面会者などに対して手などの消毒を義務化している医療機関が多い。特開平07−252105号公報には、このような目的で使用するための消毒剤が開示されている。
【特許文献1】特開2004−173628号公報
【特許文献2】特開平07−252105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遺伝子診断に供される検体には従来の生化学的な検査に供される検体とは異なる要件が求められる。例えば、感染症の原因微生物の同定する遺伝子検査に供される検体(生体成分)に求められる要件には、従来の培養法とは異なるものを含む。具体的には、培養等の従来検査用検体(生体成分)の採取は、生きた(増殖能のある)微生物の混入を防ぐことを主目的に行われてきた。血液採取を例に取れば、採血前に皮膚表面に施すヨウド製剤やアルコールなどによる消毒操作(殺菌)がこれにあたる。しかしながら、これらの処置では、皮膚表面などに常在する微生物を、高感度な遺伝子検査に影響しない程度までに除去または低減し得るものではない場合が多い。ヨード製剤やアルコールによる消毒によって、採血などの検体採取操作に起因する感染症の予防に十分なレベルまで生菌数レベルの低減が可能となっても、遺伝子検査においては、皮膚表面などに残存する常在微生物の検体への混入は、その生死にかかわらずノイズの原因となる。つまり、増殖能には関係なく、微生物由来のDNAが存在することがノイズを、ひいては、検査結果の混乱を招くということである。
【0006】
本発明の目的は、遺伝子検査における検査結果に影響を及ぼす汚染源としての微生物等を生体の検体採取部位から除去することで検査結果の精度を向上させるために効果的な検体採取部位の洗浄剤及びそれを含む遺伝子検査用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の遺伝子検査用の洗浄剤は、生体成分を検体とする遺伝子検査における生体の検体採取部位を洗浄するための洗浄剤であって、前記遺伝子検査での検査結果に影響を及ぼす汚染源を洗浄除去するための洗浄活性成分を含有することを特徴とする遺伝子検査用の洗浄剤である。
【0008】
本発明の遺伝子検査用キットは、生体成分を検体とする遺伝子検査用キットにおいて、
遺伝子検査での検査結果に影響を及ぼす汚染源を洗浄除去するための洗浄剤と、前記検体の遺伝子検査を行うための試薬と、を有することを特徴とする遺伝子検査用キットである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、遺伝子検査に供される検体を汚染する可能性のある検体採取部位の微生物を除去するための洗浄剤を用いることで、検査結果に対する汚染源となる混入微生物(DNA)の影響を排除し、検体の正確な評価が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のキットを利用した遺伝子検査における検体は、微生物、例えば感染微生物の存在の有無を検査する検査対象としての生体成分である。このような生体成分としては、ヒトの血液、リンパ液、髄液など、あるいは人以外の動物における体液などを挙げることができる。本発明のキットに含まれる洗浄剤は、この検体を生体から採取する際に、採取部位を洗浄するために用いられる。例えば、採血の場合には、皮膚の採血部位を洗浄剤で洗浄してから採血を行う。
【0011】
洗浄は、検体採取部位に存在する微生物(常在微生物を含む)をできうる限り除去し、擬陽性等の遺伝子検査結果の混乱を低減するために行なわれる。本発明のキットには、この洗浄に使用する洗浄剤が含まれる。洗浄剤は、遺伝子検査結果に悪影響を及ぼす検体汚染源を洗浄除去できる洗浄活性成分を含む。この洗浄活性成分としては、例えば、界面活性剤、タンパク質分解酵素及びDNA分解酵素を挙げることができる。これらから選択された少なくとも1種を用いることができる。界面活性剤としては、十分な洗浄効果を有していればその種類を限定するものではないが、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム、トリトンX-100、Tween20などが好適に用いられる。また界面活性剤の含有量は、0.01%から10%程度が好適に用いられ、より好適には0.1%から1%が望ましい。本発明の用いられる洗浄剤には、タンパク質分解酵素を含有させることもできる。タンパク質分解酵素としてはProteinase K などが代表的な例として挙げられる。また、DNA分解酵素を含有させることもできる。DNA分解酵素としては、Dnase Iなどが代表的な例として挙げられる。洗浄剤のp.H.は、弱アルカリ性が好ましい。具体的には、p.H. 7.5 から9.5が好適に用いられる。
【0012】
洗浄剤としては、粉体状などの固形、ゲル状などの半固形、液状などの形態として提供できる。なかでも、液状とした液体洗浄剤が簡便であり、好適に用いられる。液体洗浄剤による洗浄は、皮膚表面から中空針などを用いて検体を採取する場合において、特に好適に用いられる。洗浄剤を用いて皮膚を洗浄することにより、皮膚表面に付着している汚染源としての微生物及び微生物由来のDNAを除去することができる。
【0013】
本発明の遺伝子検査用キットに用いる試薬としては、同定対象としての微生物に特徴的な核酸配列である標的核酸を検出するためのプローブを固相担体の所定位置に配置したプローブ固定担体を挙げることができる。プローブ固定担体としては、DNAマイクロアレイを挙げることができる。DNAマイクロアレイ(DNAチップ、遺伝子チップ)は、分子生物学研究、遺伝子疾患、感染症診断などさまざまな分野での更なる応用が期待されている。
【0014】
遺伝子チップの基本形態は、ガラス基板などの固相表面に、目的配列を有する標的核酸を検出するために目的配列を有する標的核酸と相補的な配列をもつ核酸断片(プローブ)を固定化したものである。目的配列を有する核酸と相補的な配列を持つ核酸断片は、オリゴDNAと呼ばれる化学合成されたものやcDNAと呼ばれる生物組織由来の酵素的に生合成されたものなどが一般的に利用される。オリゴDNAに関しては、例えば、米国特許第5,474,796号明細書(特表平09-500568号公報、出願人:ProtoGene Laboratories)に記載されるような基板上で逐次合成されたものと、特開平11-187900号公報(出願人:キヤノン株式会社)に記載されるようなオリゴDNAを、別途合成後、基板上に固定化されるものに大別される。核酸断片の基板への固定化は、様々な方式、例えば、基板の持つ電荷と核酸の電荷を利用した吸着固定法、ポリ-L-リジン、アミノシランカップリング剤などを基板表面にコートして固定効率の向上させた固定法などが提案されている。
【0015】
現在、一般に使用されているDNAマイクロアレイは、目的配列を有する核酸の定量分析のための特別なプローブ等は搭載されていない。これは、固相表面の逐次合成で作製されたDNAマイクロアレイであっても、ピン法で作製されたDNAマイクロアレイであっても、その作製方法に起因するばらつき、例えば、核酸配列による合成効率のばらつき、ピンスポッターから基板に滴下されるプローブ液量のばらつきや固定率のばらつきなどを内包するために定量精度、再現性に問題があったためである。これらDNAマイクロアレイ作製時のばらつきを解決するべくインクジェットを用いた作製法(特開平11-187900号公報)などが提案されている。
【0016】
一方、DNAマイクロアレイによる遺伝子検査に供される検体は、感度の問題から、一般に、目的配列を有する核酸の増幅操作を受け、同時に検出可能な標識物を取り込ませる。この増幅操作の基本技術は、PCRと呼ばれ、米国特許第4683195号公報、第4683202号公報、第4965188公報などに記載されている。
【0017】
また、遺伝子検査方法の具体的な別の一例としては、定量PCRが挙げられる。定量PCRによる遺伝子検査では、目的とする遺伝子が検体中にどの程度存在するかをPCR法を用いて測定する。
【0018】
感染症原因菌の同定検査などでは、DNAマイクロアレイ、定量PCR、いずれの方法を用いる場合であっても、環境中の常在微生物の検体への混入を防止することにより、検査結果の信頼性を向上させることができる。特に、PCRでの核酸断片の増幅工程を有する遺伝子検査では、検体中に汚染微生物やそれに由来する汚染DNAが混入した場合、その量が衛生上では問題とならない場合でも、PCRによる増幅で汚染微生物に由来するDNAが増幅されることで検査結果に影響がでる場合がある。このような場合に対して本発明の洗浄剤は特に有効である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を以ってより詳細に説明する。但し、以下に示す実施例は、本発明を何ら限定するものではない。なお、「%」は重量基準である。
(実施例1)
1-1(皮膚モデルの準備)
採血のモデル系として図1に示す装置を2セット用意した。1は、厚さ3mmのシリコンゴムシート(10x10cm)であり、2は、ポアサイズ0.22μmのフィルターを通した無菌水、3は、ガラス製ビーカー(100ml容)である。装置を構成する各部品は、事前に十分洗浄し、微生物による汚染のない状態で使用した。次に、各セットのシリコンゴムシート表面に微生物懸濁液(エンテロコッカス フェカリス菌 標準株(ATCC13047)を無菌リン酸緩衝液に懸濁、1x108 CFU/ml)を100μl/cm2となるように塗布した後、自然乾燥して皮膚モデルとした。
【0020】
1-2(皮膚(モデル)表面の洗浄)
用意したモデル装置の一方の皮膚表面に相当するゴムシートを以下の方法で洗浄した。
まず、以下に示す洗浄液を100ml用意し、40℃に加熱した。次に、この液中にシリコンゴムシートを2分間浸漬したのち取り出して、ポアサイズ0.22μmのフィルターを通した無菌水を用いてよくすすいだ。
洗浄液組成:
10mM Tris-HCl(pH 7.5);
0.2% SDS(ドデシル硫酸ナトリウム);及び
100u/ml DNase I(DNA分解酵素)
上記の洗浄を2度繰り返した後、クリーンベンチ内で自然乾燥させた。乾燥後、ふき取り法(ゴムシートの周辺部を測定)よって、シリコンゴムシート表面に存在する生菌数を測定したところ以下の結果を得た。
生菌数:
洗浄あり(2.3x101 CFU/cm2
洗浄なし(4.1x106 CFU/cm2
1-3(検体の採取)
1-2で洗浄したシリコンゴムシートと微生物懸濁液を塗布して乾燥させたのみの(未洗浄)のシリコンゴムシートをそれぞれ、図1に示す装置にセットし、実験に用いた。擬似検体としたビーカーに入れた無菌水は、ディスポーザブル注射器(テルモ社製、型番SS-01P2525)を用い、シリコンゴムシートを貫通して採取した。その際、採取量は、0.3mlとした。採取した検体は、1.5ml容のマイクロチューブに移し、以下の核酸抽出に使用した。なお、以下の操作は、全て2種類の検体を同時に処理した。
【0021】
1-4(核酸の抽出)
核酸精製キット(MagExtractor ‐Genome-:TOYOBO社製)を用いて行った。
【0022】
具体的には、まず、採取した擬似検体0.3mlに溶解・吸着液750μlと磁性ビーズ40μlを加え、チューブミキサーを用いて、10分間激しく攪拌した(ステップ1)。次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てた(ステップ2)。
次に、洗浄液 900 μl を加え、ミキサーで5sec程度攪拌して再縣濁を行った(ステップ3)。
次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てた(ステップ4)。ステップ3、4を繰り返して2度目の洗浄(ステップ5)を行った後、70%エタノール 900 μl を加え、ミキサーで5sec程度攪拌して再縣濁した(ステップ6)。次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上精を捨てた(ステップ7)。ステップ6、7を繰り返して70%エタノールによる2度目の洗浄(ステップ8)を行った後、回収された磁性粒子に純水 100 μl を加え、チューブミキサーで10分間攪拌を行った。次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブ壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上精を新しいチューブに回収した。
【0023】
1-5(Probe DNAの準備)
エンテロコッカス フェカリス菌株検出用Probeとして表1に示す核酸配列を設計した。具体的には、16s rRNAをコーディングしているゲノム部分より、以下に示したプローブ塩基配列を選んだ。これらのプローブ塩基配列群は、当該菌に対し非常に特異性が高く、十分かつそれぞれのプローブ塩基配列でばらつきのないハイブリダイゼーション感度が期待できるように設計されている。
【0024】
【表1】

【0025】
表中に示したプローブは、DNAマイクロアレイに固定するための官能基として、合成後、定法に従って核酸の5'末端にチオール基を導入した。官能基の導入後、精製し、凍結乾燥した。凍結乾燥した内部標準用プローブは、-30℃の冷凍庫に保存した。
【0026】
1-6(検体増幅用PCR プライマー の準備)
エンテロコッカス フェカリス菌株の16s rRNA遺伝子(標的遺伝子)増幅用PCR プライマーとして表2に示す核酸配列を設計した。具体的には、16s rRNAをコーディングしているゲノム部分を特異的に増幅するプローブセット、つまり約1400〜1700塩基長の16s rRNAコーディング領域の両端部分で、融解温度をできるだけ揃えたプライマーを設計した。なお、変異株や、ゲノム上に複数存在する16s rRNAコーディング領域も同時に増幅できるように複数種類のプライマーを設計した。
【0027】
【表2】

【0028】
表中に示したプライマーは、合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製し、Forward Primer 3種、Reverse Primer 3種を混合し、それぞれのプライマー濃度が、最終濃度10 pmol/μl となるようにTE緩衝液に溶解した。
【0029】
1-7(DNAマイクロアレイの作製)
1-7-1(ガラス基板の洗浄)
合成石英のガラス基板(サイズ:25mmx75mmx1mm、飯山特殊ガラス社製)を耐熱、耐アルカリのラックに入れ、所定の濃度に調製した超音波洗浄用の洗浄液に浸した。一晩洗浄液中で浸した後、20分間超音波洗浄を行った。続いて基板を取り出し、軽く純水ですすいだ後、超純水中で20分超音波洗浄をおこなった。次に80℃に加熱した1N水酸化ナトリウム水溶液中に10分間基板を浸した。再び純水洗浄と超純水洗浄を行い、DNAマイクロアレイ用の石英ガラス基板を用意した。
【0030】
1-7-2(表面処理)
シランカップリング剤KBM-603(信越シリコーン社製)を、1%の濃度となるように純水中に溶解させ、2時間室温で攪拌した。続いて、先に洗浄したガラス基板をシランカップリング剤水溶液に浸し、20分間室温で放置した。ガラス基板を引き上げ、軽く純水で表面を洗浄した後、窒素ガスを基板の両面に吹き付けて乾燥させた。次に乾燥した基板を120℃に加熱したオーブン中で1時間ベークし、カップリング剤処理を完結させ、基板表面にアミノ基を導入した。次いで同仁化学研究所社製のN-マレイミドカプロイロキシスクシイミド(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimido)(以下EMCSと略す)を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合溶媒中に最終濃度が0.3mg/mlとなるように溶解したEMCS溶液を用意した。ベークの終了したガラス基板を放冷し、調製したEMCS溶液中に室温で2時間浸した。この処理により、シランカップリング剤によって表面に導入されたアミノ基とEMCSのスクシイミド基が反応し、ガラス基板表面にマレイミド基が導入された。EMCS溶液から引き上げたガラス基板を、先述のEMCSを溶解した混合溶媒を用いて洗浄し、さらにエタノールにより洗浄した後、窒素ガス雰囲気下で乾燥させた。
【0031】
1-7-3(プローブDNA)
1-5で作製した微生物検出用プローブを純水に溶解し、それぞれ、最終濃度(インク溶解時)10μMとなるように分注した後、凍結乾燥を行い、水分を除いた。
【0032】
1-7-4(BJプリンターによるDNA吐出、および基板への結合)
グリセリン7.5wt%、チオジグリコール7.5wt%、尿素7.5wt%、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)1.0wt%を含む水溶液を用意した。続いて、先に用意した7種類のプローブ(表1)を上記の混合溶媒に規定濃度なるように溶解した。得られたDNA溶液をバブルジェットプリンター(商品名:BJF-850 キヤノン社製)用インクタンクに充填し、印字ヘッドに装着した。なお、ここで用いたバブルジェットプリンターは平板への印刷が可能なように改造を施したものである。またこのバブルジェットプリンターは、所定のファイル作成方法に従って印字パターンを入力することにより、約5ピコリットルのDNA溶液を約120マイクロメートルピッチでスポッティングすることが可能となっている。続いて、この改造バブルジェットプリンターを用いて、ガラス基板に対して、印字操作を行い、DNAマイクロアレイを作製した。印字が確実に行われていることを確認した後、30分間加湿チャンバー内に静置し、ガラス基板表面のマレイミド基と核酸プローブ末端のチオール基とを反応させた。
【0033】
1-7-5(洗浄)
30分間の反応後、100mMのNaClを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.0)により表面に残ったDNA溶液を洗い流し、ガラス基板表面に一本鎖DNAが固定したDNAマイクロアレイを得た。
【0034】
1-8(検体の増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み))
1-4で抽出した2種類の検体の増幅、および、標識化反応条件を以下に示す。
Premix PCR 試薬(TAKARA ExTaq):25μl
検体からの抽出液:2μl
Forward Primer mix:2μl (20pmol/tube each)
Reverse Primer mix:2μl (20pmol/tube each)
Cy-3 dUTP (1mM):2μl (2nmol/tube)
H20:17 μl
(Total: 50μl)
上記組成の反応液を以下のプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーで増幅反応を行った。
(1)95℃:10 min.
(2)92℃:45 sec.
(3)55℃:45 sec.
(4)72℃:45 sec.
(5)72℃:10 min.
(ステップ(2)〜(4)のセットを35回繰り返した。)
反応終了後、精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCR Purification Kit)を用いて精製した後、増幅産物の定量を行い、標識化検体とした。
【0035】
1-9(ハイブリダイゼーション)
1-7で作製したDNAマイクロアレイと1-8で作製した標識化検体を用いて検出反応を行った。
【0036】
1-9-1(DNAマイクロアレイのブロッキング)
BSA(牛血清アルブミンFraction V:Sigma社製)を1wt%となるように100mM NaCl / 10mM Phosphate Bufferに溶解し、この溶液に4で作製したDNAマイクロアレイを室温で2時間浸し、ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む2xSSC溶液(NaCl 300mM 、Sodium Citrate (trisodium citrate dihydrate, C6H5Na3・2H2O) 30mM、p.H. 7.0)で洗浄を行った後、純水でリンスしてからスピンドライ装置で水切りを行った。
【0037】
1-9-2(ハイブリダイゼーション)
水切りしたDNAマイクロアレイをハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットし、以下に示すハイブリダイゼーション溶液、条件でハイブリダイゼーション反応を行った。
ハイブリダイゼーション溶液:
6 x SSPE / 10% Form amide / Target (PCR Products 全量)
(6xSSPE: NaCl 900mM、NaH2PO4・H2O 60mM、EDTA 6mM、p.H. 7.4)
ハイブリダイゼーション条件:
65 ℃、3min→(ハイブリ容液注入)→92℃、2min→45℃、3hr→Wash、2xSSC/0.1% SDS、25℃→Wash、2 x SSC、20℃→(Rinse with H2O:Manual)→Spin dry
1-10(微生物の検出(蛍光測定))
ハイブリダイゼーション反応終了後のDNAマイクロアレイをDNAマイクロアレイ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いで蛍光測定を行った。測定結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3中の蛍光輝度の数値(フォトマル電圧400V)は、ピクセル平均輝度(解像度5μm)を示した。また、S/N比は、測定機付属の解析ソフト(Axon社製、GenePix Pro Ver.3.0)で測定したバックグラウンド平均値で蛍光輝度を除したものを示した。微生物の除去を行った検体では、明らかに陰性を示すのに対し、除去操作を行わない検体では、検体採取時の微生物混入による信号が検出され異常な値を示すことが示された。
【0040】
(実施例2)
実施例1同様のモデル装置を3セット用意し、以下の実験を行った。各装置は、以下に示す条件で準備し、実施例1と同様の遺伝子検査用の検体として処理して検出を行った。
装置1:シリコンゴムシート表面に微生物懸濁液(エンテロコッカス フェカリス菌 標準株(ATCC13047)を無菌リン酸緩衝液に懸濁、1x108 CFU/ml)を100μl/cm2となるように塗布し、自然乾燥後に洗浄したセット(洗浄セット)
装置2:シリコンゴムシート表面に微生物懸濁液(エンテロコッカス フェカリス菌 標準株(ATCC13047)を無菌リン酸緩衝液に懸濁、1x108 CFU/ml)を100μl/cm2となるように塗布し、自然乾燥したセット(未洗浄セット)
装置3:シリコンゴムシート表面に無菌リン酸緩衝液を塗布し、自然乾燥したセット(無菌セット)
装置1〜3を1群として実験を行い、20群の実験を行って各装置の陽性率を測定した。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
なお、陽性/陰性の判定は、各ProbeのS/N比の内、最低の数値が10以上のものを陽性として判定した。
【0043】
(比較例1)
実施例1同様のモデル装置を用意し、以下の実験を行った。各装置は、以下に示す条件で準備し、実施例1と同様の遺伝子検査用の検体として処理して検出を行った。
装置条件:シリコンゴムシート表面に微生物懸濁液(エンテロコッカス フェカリス菌 標準株(ATCC13047)を無菌リン酸緩衝液に懸濁、1x108 CFU/ml)を100μl/cm2となるように塗布し、自然乾燥後に70%エタノール水溶液を含ませた脱脂綿でふき取りを行い、消毒殺菌したセット
上記条件で10回の実験を行い陽性率を測定した。結果を表5に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
なお、陽性/陰性の判定は、各ProbeのS/N比の内、最低の数値が10以上のものを陽性として判定した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に関わる実験装置の一例を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体成分を検体とする遺伝子検査における生体の検体採取部位を洗浄するための洗浄剤であって、
前記遺伝子検査での検査結果に影響を及ぼす汚染源を洗浄除去するための洗浄活性成分を含有することを特徴とする遺伝子検査用の洗浄剤。
【請求項2】
前記遺伝子検査が、感染微生物の同定検査である請求項1記載の洗浄剤。
【請求項3】
前記遺伝子検査が、前記感染微生物に特徴的な核酸配列としての標的核酸配列の検出である請求項2記載の洗浄剤。
【請求項4】
前記遺伝子検査が、前記標的核酸配列の増幅工程を含む請求項2または3記載の洗浄剤。
【請求項5】
前記生体成分が血液であり、前記検体採取部位が皮膚の採血部位である請求項1〜4のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項6】
液体である請求項1〜5のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項7】
前記洗浄活性成分が、界面活性剤及びDNA分解酵素である請求項1〜6のいずれかに記載の洗浄剤。
【請求項8】
生体成分を検体とする遺伝子検査用キットにおいて、
遺伝子検査での検査結果に影響を及ぼす汚染源を洗浄除去するための洗浄剤と、前記検体の遺伝子検査を行うための試薬と、を有することを特徴とする遺伝子検査用キット。
【請求項9】
前記試薬が、感染微生物の同定検査用の試薬である請求項8記載の遺伝子検査用キット。
【請求項10】
前記試薬が、前記感染微生物に特徴的な核酸配列としての標的核酸配列の検出用である請求項9記載の遺伝子検査用キット。
【請求項11】
前記試薬が、前記標的核酸配列の増幅用の試薬を含む請求項9または10記載の遺伝子検査用キット。
【請求項12】
該生体成分が血液である請求項8〜11のいずれかに記載の遺伝子検査用キット。
【請求項13】
前記洗浄剤が液体である請求項8〜12のいずれかに記載の遺伝子検査用キット。
【請求項14】
前記洗浄剤に含まれる洗浄活性成分が、界面活性剤及びDNA分解酵素である請求項8〜13のいずれかに記載の遺伝子検査用キット。

【図1】
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【公開番号】特開2007−17373(P2007−17373A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201411(P2005−201411)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】