説明

遺伝子欠損と点変異との検出方法

【課題】
遺伝子欠損と点変異を同時に精度よく検出する方法を提供すること。
【解決手段】
本発明にかかる検出方法は、標的核酸中の所定の遺伝子欠損の有無および前記遺伝子点変異を検出する方法であって、前記遺伝子を増幅可能に構成された1組のプライマーセットと、前記遺伝子が欠損して結合した場合に、結合位置を含む領域を増幅可能となる、1組のプライマーセットを用いて標的核酸をPCR増幅する工程と、前記工程により増幅された標的核酸に対して、標的配列と特異的に結合可能なプローブの複数が固定されたプローブ担体を用いて、増幅された領域の配列を特定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子欠損と点変異を同時に検出する方法に関し、特にCYP2D6遺伝子欠損と点変異を同時に検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子欠損や点変異は薬剤感受性に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。
薬剤感受性が明らかになっているものとして、チトクロムP450 2D6遺伝子(CYP2D6)が挙げられる。このCYP2D6遺伝子は、22番染色体に位置し、主に第I相薬剤代謝酵素であるデブリソキン・ヒドロキシラーゼをコードする。そのためCYP2D6に欠損や点変異が生じた場合、薬剤の代謝能が損失あるいは低下する可能性がある。したがって、薬を投与する前に遺伝子欠損や点変異を同時に調べることは極めて重要となる。
【0003】
遺伝子欠損や点変異を分析する技術として、シークエンシング法がある。シークエンシング法では、2本の染色体の情報が1つの染色体情報としてまとめられて検出される。そのため、遺伝子欠損と点変異を検出するためには、CYP2D6の欠損遺伝子とCYP2D6の遺伝子の各々を増幅した後、シーケンス反応を行い、シーケンスを取得する必要がある。しかしながら、この解析には多大な労力と時間が必要であるし、試薬や装置も非常に高価である。
【0004】
そこで簡易および安価に遺伝子欠損を分析する方法としては、PCR反応と電気泳動を組み合わせた方法がある(例えば、非特許文献1参照)。この方法では、2D6遺伝子の存在を確認するためのプライマーと、2D6遺伝子欠損を確認するためのプライマーを入れてPCRを行い、続く電気泳動解析による産物長の検出によって判定する。
【非特許文献1】Clin.Chem.46(2000)第1072−1077項
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法においては遺伝子欠損の有無は検出できるものの、同時に遺伝子点変異を検出することはできない。薬物投与をする場合、薬物代謝酵素をコードする遺伝子が欠損していなくても点変異を有しているだけで、フレームシフトが生じ、薬物代謝酵素が合成されず、代謝活性が大幅に弱まるか、または無くなることがある。
【0006】
したがって、遺伝子欠損の有無を検出するに留まらず、遺伝子点変異も同時に検出する必要がある。また、上記PCR法では仮に所望でないPCR産物が出来た場合でも、所望の産物長とほぼ同一の長さであったら、所望の産物が産出されたと誤って検出される恐れがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、遺伝子欠損と遺伝子点変異を同時に精度よく決定する方法、特にCYP2D6遺伝子欠損と点変異を同時に検出する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる標的遺伝子欠損と標的遺伝子点変異との検出方法は、標的核酸の中の標的遺伝子の欠損の有無および前記標的遺伝子の点変異の有無を同時に検出する、標的遺伝子欠損と標的遺伝子点変異との検出方法であって、特定の点変異を有する前記標的遺伝子を有する前記標的核酸を増幅するための点変異増幅用プライマーと、前記標的遺伝子を欠損した前記標的核酸を増幅するための欠損増幅用プライマーと、を用いて標的核酸を増幅する増幅工程と、前記増幅工程により増幅された、点変異を持つ標的遺伝子を有する標的核酸を検出する点変異検出用プローブと、前記増幅工程により増幅された、欠損した標的遺伝子を有する標的核酸を検出する欠損検出用プローブと、を用いて標的核酸を検出する検出工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明で用いる点変異検出用プローブ及び欠損検出用プローブは、以下の配列番号1から配列番号7からなるグループから選択されることを特徴とする。
配列番号1:5’-GCCTGGCGACAATTCAAGTGTGG-3’
配列番号2:5’-CTCCCAGTAGGGATCAGGCAGG-3’
配列番号3:5’-GCAGTGCCCAAGAGTTTCTAATGAGC-3’
配列番号4:5’-TCAGAGGCCTCTGCAAAGTAGAAACA-3’
配列番号5:5’-ATGAGGCCCAGTCTGTTCACACA-3’
配列番号6:5’-ACTGGCCCATCCTTTCCAGGT-3’
配列番号7:5’-AGGCTGAGGCAGGAGAATCGA-3’
【0010】
本発明でいう「標的核酸の中の標的遺伝子の欠損の有無および前記標的遺伝子の点変異の有無を同時に検出する」とは、標的核酸の中の標的遺伝子の欠損の有無を検出するステップと同じステップで前記標的遺伝子の点変異の有無を検出することである。つまり、標的遺伝子の点変異を検出するために別途ステップを設ける必要はなく、また、その逆も同様である。
【0011】
本発明でいう「標的核酸」とは、標的遺伝子を持つ核酸を意味する。
【0012】
本発明でいう「遺伝子点変異」とは、一般に点突然変異もしくはポイント・ミューテーションともいい、DNAの塩基対(1本鎖DNAでは1塩基)が異なる塩基対(塩基)に変化することという。これは、当該技術分野の当業者にとって一般に理解している範囲内であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0013】
本発明でいう「遺伝子欠損」とは、染色体からDNAの一部が失われ、機能あるいは構造体を失うことになり、復帰変異は認められないことをいう。これは、当該技術分野の当業者にとって一般に理解している範囲内であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、遺伝子欠損および遺伝子点変異を同時に精度よく決定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1実施形態)
本発明に係る第1実施形態は、図1と図2とに示されている。よって、図1と図2とを用いて第1実施形態を説明する。
【0016】
本実施形態の標的核酸301は図1(A)に示されているとおり、5’側に第1の遺伝子303を、3’側に第2の遺伝子305を有する。また前記第1の遺伝子の3’側に前記第2の遺伝子の3’側と非常に相同性の高い塩基配列を持つ第1の相同領域307を有する。また前記第2の遺伝子の3’側に前記第1の遺伝子の3’側と非常に相同性の高い塩基配列を持つ第2の相同領域309を有する。
【0017】
本実施形態においては、前記相同領域307と第2の遺伝子の3’側とは80%から100%のホモロジーを有することが好ましい。特に90〜100%であることが好ましい。さらに、92、94、96、98%であることが好ましい。
【0018】
図1(B)は、核酸301の第1の相同領域307と第2の相同領域309との間において組換えが起こり、第2の遺伝子欠損を示している。そこには、第1遺伝子303と、第1の相同領域307の前半と第2の相同領域309の後半とが結合してできた新たな相同領域310とからなる標的核酸311が示されている。
【0019】
次に標的核酸301と311とにおいて、第2の遺伝子305の欠損および第2の遺伝子305の点変異を検出するためのプライマーを準備する。まず第2の遺伝子305の点変異を検出するための順方向プライマー313と逆方向プライマー315とからなる点変異増幅用プライマーを用意する。この点変異増幅用プライマーは、図1および図2にあるように第2の遺伝子上に位置しているか、あるいは第2の遺伝子を挟む位置に設計されることが好ましい。または、第2の遺伝子点変異を特定可能であれば、遺伝子と離れた位置でも構わない。
【0020】
次に、遺伝子欠損を確認するためのプライマーを用意する。まず、第1の遺伝子303と第1の相同領域307との間に位置する順方向プライマー317と第2の相同領域より3’側に位置する逆方向プライマー319とからなる欠損増幅用プライマーを用意する。
【0021】
本実施形態は、特定の点変異を有する標的遺伝子(第2の遺伝子305)を有する標的核酸301を増幅するための点変異増幅用プライマーセットと、標的遺伝子(第2の遺伝子305)を欠損した標的核酸301を増幅するための欠損増幅用プライマーセットと、を用いて標的核酸を増幅する増幅工程を行う。ここで、用意した点変異増幅用プライマーと欠損増幅用プライマーと標的核酸とを用いて、増幅工程(PCR増幅)を行う。
【0022】
図1(A)の遺伝子を持つ標的核酸301を有する場合、PCR反応によって増幅するのは、第2の遺伝子点変異を検出するための順方向プライマー313と逆方向プライマー315とからなる点変異増幅用プライマーのみである。これは、第2の遺伝子欠損を検出するためのプライマー317とプライマー319とからなる欠損増幅用プライマーにおける産物は産物長が長過ぎるため増幅されないためである。
【0023】
一方、図1(B)の遺伝子を持つ標的核酸311を有する場合、PCR反応によって増幅するのは、第2の遺伝子欠損を検出するためのプライマー317とプライマー319とからなる欠損増幅用プライマーのみからである。これは第2の遺伝子が欠損している場合、順方向プライマー313と逆方向プライマー315とからなる点変異増幅用プライマーの間では増幅がかからないからである。
【0024】
図1の(A)と(B)との遺伝子を持つ標的核酸であった場合は、PCR反応によって増幅するのは、第2の遺伝子欠損を検出するためのプライマー317、319からなる欠損増幅用プライマーと、第2の遺伝子点変異を検出するためのプライマー313、315からなる点変異増幅用プライマーとである。
【0025】
本実施形態においては、第2の遺伝子305の欠損を検出するための欠損検出用プローブ323が、相同領域310の核酸配列を有するもので、下記の塩基配列あるいはその相補配列からなるグループから選択された1以上を含んでなる。
【0026】
配列番号1:5’-GCCTGGCGACAATTCAAGTGTGG-3’
配列番号2:5’-CTCCCAGTAGGGATCAGGCAGG-3’
配列番号3:5’-GCAGTGCCCAAGAGTTTCTAATGAGC-3’
配列番号4:5’-TCAGAGGCCTCTGCAAAGTAGAAACA-3’
配列番号5:5’-ATGAGGCCCAGTCTGTTCACACA-3’
配列番号6:5’-ACTGGCCCATCCTTTCCAGGT-3’
配列番号7:5’-AGGCTGAGGCAGGAGAATCGA-3’
【0027】
また、本実施形態の欠損検出用プローブ323は、標的遺伝子CYP2D6の5’側にある隣の遺伝子配列の3’側の領域あるいはCYP2D6の3’側の領域に互いに非常に相同性が高い配列を持つ約2.5kbの配列を含む所定の長さの塩基配列を有する。本実施形態は、第2の遺伝子305の欠損を検出するための欠損検出用プローブ323もマイクロアレイ322に固定して、前記増幅工程により増幅された、欠損した標的遺伝子を有する標的核酸を検出する。
【0028】
本実施形態においては、第2の遺伝子305の点変異を検出するための点変異検出用プローブ321は、4から10種の多型を検出し、少なくともCYP2D6*4、CYP2D6*14、CYP2D6*18、CYP2D6*21、CYP2D6*36の配列を含む所定の長さの塩基配列を有する。
【0029】
よって、点変異検出用プローブ321は、少なくともCYP2D6*4、CYP2D6*14、CYP2D6*18、CYP2D6*21、CYP2D6*36を検出可能である。これらのアレルは変異が生じると代謝酵素活性がなくなるものである。
【0030】
本発明でいう、CYP2D6*4とは、CYP2D6の遺伝子のcDNAの1846位のGがAに置換する変異(G1846A変異)を持つ遺伝子をいう。CYP2D6*14とは、Pro34からSerに、Gly169からArgに、Arg296からCysに、Ser486からThrに置換を引き起こす変異遺伝子をいう。CYP2D6*18とはcDNAの4152位から9塩基重複を起こしている遺伝子をいう。CYP2D6*21とはcDNAの2573位で一塩基Cの挿入によりフレームシフトが起こる遺伝子をいう。CYP2D6*36とはThr470からAlaに、Pro490からAlaに置換を引き起こす変異遺伝子をいう。
【0031】
本実施形態においては、点変異検出用プローブ321は第2の遺伝子点変異において、野生型および変異型に対応するプローブを用意する。本発明における遺伝子点変異の検出には、特にアレル特異的増幅法を用いることが好ましい。
【0032】
これらの点変異を検出するための点変異検出用プローブ321は、下記の配列もしくはその相補鎖配列からなるグループから選択される少なくとも1つの配列を含んでなる。なお小文字での表記は、多型と対応するものを示している。
【0033】
配列番号 8:5’-TGCACGCTACcCACCAGGC-3’
配列番号 9:5’-GCACGCTACtCACCAGGCCC-3’
配列番号10:5’-TGGGTTTcGGGCCGCGT-3’
配列番号11:5’-CCTGGGTTTtGGGCCGCG-3’
配列番号12:5’-GCTTCTCCGTgTCCACCTTGCG-3’
配列番号13:5’-GCTTCTCCGTcTCCACCTTGCG-3’
配列番号14:5’-CCACTCCgGTGGGTGATGGG-3’
配列番号15:5’-CCACTCCtGTGGGTGATGGGC-3’
配列番号16:5’-CCCCCAgGACGCCCCTT-3’
配列番号17:5’-CACCCCCAaGACGCCCCTT-3’
配列番号18:5’-GAGAACCTGcGCATAGTGGTGGC-3’
配列番号19:5’-ATGAGAACCTGtGCATAGTGGTGGC-3’
配列番号20:5’-CCTGGTGAgCCCATCCCCC-3’
配列番号21:5’-CCTGGTGAcCCCATCCCCC-3’
配列番号22:5’-CAGCTTCTCGGTGCCCACTGGA-3’
配列番号23:5’-TCTCGGgtgcccactTGCC-3’
配列番号24:5’-ACCCAGCCCaGCCCCCCC-3’
配列番号25:5’-ACCCAGCCCcAGCCCCCC-3’
【0034】
ここで配列番号8はC100Tの野生型に対応し、配列番号9はC100Tの変異型に対応する。また配列番号10はC1039Tの野生型に対応し、配列番号11はC1039Tの変異型に対応する。また配列番号12はG1661Cの野生型に対応し、配列番号13はG1661Cの変異型に対応する。また配列番号14はG1758Aの野生型に対応し、配列番号15はG1758Aの変異型に対応する。また配列番号16はG1846Aの野生型に対応し、配列番号17はG1846Aの変異型に対応する。
【0035】
また配列番号18はC2850Tの野生型に対応し、配列番号19はC2850Tの変異型に対応する。また配列番号20はG4180Cの野生型に対応し、配列番号21はG4180Cの変異型に対応する。また配列番号22は4125−4133のインサーションの野生型に対応し、配列番号23は4125−4133のインサーションの変異型に対応する。また配列番号24は2573のCのインサーションの野生型に対応し、配列番号25は2573のCにインサーションの変異型に対応する。
【0036】
本実施形態において、第2の遺伝子305の点変異を検出するための点変異検出用プローブ321を固定した前記マイクロアレイ322を用意して、前記増幅工程により増幅された、点変異を持つ標的遺伝子を有する標的核酸を検出する。
【0037】
次いで、増幅工程により増幅された、点変異を持つ標的遺伝子を有する標的核酸を検出する点変異検出用プローブ321と、前記増幅工程により増幅された、欠損した標的遺伝子を有する標的核酸を検出する欠損検出用プローブ323と、を用いて標的核酸を検出する検出工程を行う。
【0038】
本実施形態において、前記増幅工程と検出工程とが行われれば、標的核酸の中の標的遺伝子の欠損の有無および前記標的遺伝子の点変異の有無を同時に検出することができる。本実施形態において、標的遺伝子がCYP2D6である。
【0039】
本実施形態において、前記プローブを前記マイクロアレイ上に固定し、アレル判定に用いることができる。下表では、各アレルと変異や欠失の対応表1を示す。表1中で「○」がついているものが、変異型に対応している。
【0040】
【表1】

【0041】
なお、上記の欠損検出用プローブ321の配列および点変異検出用プローブ323の配列は、プローブとしての機能を損なわない範囲内、すなわち、検出対象としての標的核酸配列と二本鎖を形成してこれを検出可能な範囲内での変異を有するものである。なかでも、ストリンジェントな条件での検出対象としての標的核酸配列と二本鎖を形成し得る範囲での変異を有することが好ましい。変異の範囲を規定するハイブリダイゼーションの好ましい条件としては、後述する実施例における条件を挙げることができる。
【0042】
なお、ここでいう検出対象とは、ハイブリダイゼーションを行う試料中に含まれるもので、相同領域310に特有な塩基配列そのものであっても良いし、この特有な塩基配列の相補配列であってもよい。更に、かかる変異としては、1から数個の塩基の欠失、置換または挿入がプローブ機能を保持する範囲内で行なわれた変異配列を挙げることができる。
【0043】
上記で用意したプローブが結合されたマイクロアレイに、前記で行ったPCR増幅産物を反応させると、遺伝子欠損および遺伝子点変異の同時検出が可能となる。
【0044】
以上のとおり、本発明によれば、マイクロアレイ322上の2本鎖核酸の形成を示すシグナルの位置から、遺伝子欠損および点変異が決定される。本発明において用いられるシグナルとして、例えばプローブに対して既知の方法で蛍光処理を施すことができる。本発明はCy3による標識を行うことが好ましい。
【0045】
(マイクロアレイの構成)
図3のとおりにマイクロアレイ上にプローブが固定されている様子が示されている。本発明のマイクロアレイの構成は、プローブの固定は特開平11−187900に詳細が示されているように、表面処理を行った基板にインクジェットにより3’末端をチオール化されたオリゴDNAを吐出する方法を用いることができるが、この方法に限らない。ここでプローブとなるDNAは例えば25塩基程度の長さをもつものが適当に用い得る。
【0046】
(ブロッキング)
ハイブリダイゼーション反応を行う前に、マイクロアレイのプローブ以外の部分に核酸分子が吸着することを防ぐ目的でブロッキングを行うことが好ましい。一般的にハイブリダイゼーションの直前に行うことが好ましい。具体的な方法としては、例えば、BSA(牛血清アルブミンFraction V : Sigma社の製品)を1wt%となるように100mM NaCl/10mMリン酸緩衝液に溶解し、この溶液にDNAマイクロアレイを室温で2時間浸す。ブロッキング終了後、0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む0.1×SSC溶液(クエン酸三ナトリウムとNaCl)と、SDSを含まないSSC溶液で洗浄し、超純水でリンス後、スピンドライで水切りを行う。
【0047】
(遺伝子欠損および点変異検出用のPCR)
検体由来の核酸の増幅反応(PCR)の例を以下に説明する。
先ず、増幅反応液を用意する。増幅反応液の組成の例を以下に示す。
【0048】
--PCR溶液組成--
Expand Long Enzyme Mix (Roche) 0.3L
Template Genome DNA 〜5ng
Forward/ Reverse Primer(点変異検出用) 各0.12M
Forward/Reverse Primer(欠損検出用) 各0.06M
dNTP mix 0.7L
buffer 3 2L
H2O 9L
Total 20L
【0049】

dNTP混合組成
A、G、T 各10mM
C 2mM
Cy3−dCTP 2mM
【0050】
上記組成の反応液を、以下に例を示す温度サイクルのプロトコルに従って、サーマルサイクラーを用い増幅反応を行う。
【0051】
(PCRサイクル)
第1ステップ 94℃ 1分
第2ステップ 94℃ 60秒
第3ステップ 66.5℃ 30秒
第4ステップ 68℃ 5分
第5ステップ 68℃ 7分
第6ステップ 15℃ ∞
(前記第2ステップから第5ステップを35サイクル行う)
【0052】
反応終了後、精製用カラム(QUIAGEN QIAquick PCR Purification Kit、QUIGEN社の製品)を用いてプライマーを除去した後、電気泳動(BioAnalyzer、Agilent社製の製品)により、増幅産物の定量を行う。
【0053】
(超音波による断片化)
上記PCR産物を超音波破砕装置(アナログソニファイア250、Branson社製の製品)を利用して、以下の条件で断片化を行う。
【0054】
(断片化条件)
200W、20秒
【0055】
(ハイブリダイゼーション)
水切りしたDNAマイクロアレイをハイブリダイゼーション装置(Hybridization Station、Genomic Solutions Inc.社の製品)にセットし、以下に示すハイブリダイゼーション溶液、条件でハイブリダイゼーション反応を行う。また、ハイブリダイゼーション専用装置を用いずに、スライドガラスとハイブリダイゼーション用のチャンバーとを用いてマニュアルで反応を行ってもよい。
【0056】
(ハイブリダイゼーション溶液)
以下にハイブリダイゼーション溶液の組成の一例を示す。
6×SSPE/10% ホルムアミド(Formamide)/標的核酸(未知検体由来の核酸)(PCR産物 50ml)/0.05% SDS
【0057】
前述の増幅した標的核酸(未知検体由来の核酸)50ml相当をバッファー(SSPE)に溶かし、最終濃度が10%になるようにホルムアミドを加える。この溶液に最終濃度が0.05%になるようにSDS溶液を加え、ハイブリダイゼーション溶液とする。なお、バッファー(SSPE)の濃度は、最終溶液の状態で6×SSPEとなるよう、予め計算しておく。
【0058】
上記ハイブリダイゼーション溶液を、92℃に加温し2分間保持したあと、さらに50℃で4時間保持する。その後、2×SSCおよび0.1%SDSを用いて、40℃で洗浄をした。さらに2×SSCを用いて20℃で洗浄を行い、必要に応じて通常のマニュアルに従い純水でリンス、スピンドライ装置で水切りを行う。
【0059】
(蛍光測定)
前述のDNAマイクロアレイを、DNAマイクロアレイ用蛍光検出装置(GenePix 4000B、Axon社の製品、)を用いて、Cy3標識の蛍光測定を行う。蛍光測定値が30000以下となるように励起光の強さを調整して測定する。
【0060】
(スポット解析)
蛍光測定結果の画像を、マイクロアレイ用のデータ解析ソフトArrayPro(Media Cybernetics社の製品)で解析を行い、各スポットに対する輝度値のデータを得る。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0062】
(実施例1)
CYP2D6の欠損と点変異を同時に決定するため、表2に示した検体に関して実験を行った。まずマイクロアレイ上に載せる2D6の点変異および数塩基の欠損の検出用プローブとして、配列番号1~25を合成した。これらは実施様態と同様の配列である。
【0063】
【表2】

【0064】
続いて、各検体に関して下記プライマーを用いてPCR後、精製および電気泳動による定量を行い、超音波による断片化を行った。精製および電気泳動および断片化の各工程は前記実施様態に従った。なお2D6の欠損を検出するための順方向プライマー317には配列番号26を、逆方向プライマー319には配列番号27を使用した。また2D6の点変異および数塩基の欠損を検出するための順方向プライマー313には配列番号28を、逆方向プライマー315には配列番号29を使用した。
【0065】
配列番号26:5’-CACACCGGGCACCTGTACTCCTCA-3’
配列番号27:5’-CAGGCATGAGCTAAGGCACCCAGAC-3’
配列番号28:5’-GTTATCCCAGAAGGCTTTGCAGGCTTCA-3’
配列番号29:5’-GCCGACTGAGCCCTGGGAGGTAGGTA-3’
【0066】
上記工程で得られた増幅産物を実施様態に沿って、ハイブリダイゼーション反応に供した。
【0067】
ハイブリダイゼーション後のマイクロアレイの蛍光輝度は、蛍光検出装置を用いて測定した。測定は「Cy3」励起に波長532nmを選択した。得られた蛍光輝度画像および解析結果からCYP2D6の欠損および点変異を検出した。蛍光輝度測定に関する工程およびスポット解析は実施様態に従った。
【0068】
以下、各検体に関して得られた解析結果を図示し、遺伝子欠損の有無と点変異の決定を行う。
【0069】
(アレル1/1)
図4は、鋳型DNAとしてCYP2D6の全ての多型に関して野生型を有する検体を用いた場合の解析結果である。図4に示したとおり、CYP2D6の欠損を検出するためのプローブからはシグナルが検出されなかった。また、点変異検出用のプローブの検出輝度から、全ての点変異において野生型であることが分かる。以上のことから、本検体のアレルは1/1と決定できる。この結果は、使用した検体のアレルと一致する。
【0070】
(アレル1/5)
図5は、鋳型DNAとしてCYP2D6を欠損した検体と、CYP2D6の全ての多型に関して野生型を有する検体とを用いた場合の解析結果である。図5に示したとおり、CYP2D6の欠損を検出するためのプローブからシグナルが検出された。また、点変異検出用のプローブの検出輝度から、全ての点変異において野生型であることが分かる。以上のことから、本検体のアレルは1/5と決定できる。この結果は、使用した検体のアレルと一致する。
【0071】
(アレル4/5)
図6は、鋳型DNAとしてCYP2D6を欠損した検体と、CYP2D6のC100TとC1039TとG1661CとG1846AとC2850TとG4180Cにおいて変異型を有する検体とを用いた場合の解析結果である。図6に示したとおり、CYP2D6の欠損を検出するためのプローブからシグナルが検出された。また、点変異検出用のプローブの検出輝度から、C100TとC1039TとG1661CとG1846AとC2850TとG4180Cで変異型を有し、またG1758Aや2573insや4125insにおいては野生型を有することが分かる。以上のことから、本検体のアレルは4/5と決定できる。この結果は、使用した検体のアレルと一致する。
【0072】
(アレル5/14)
図7は、鋳型DNAとしてCYP2D6を欠損した検体と、CYP2D6のG1661CとG1758AとC2850TとG4180Cにおいて変異型を有する検体とを用いた場合の解析結果である。図7に示したとおり、CYP2D6の欠損を検出するためのプローブからシグナルが検出された。また、点変異検出用のプローブの検出輝度から、G1661CとG1758AとC2850TとG4180Cで変異型を有し、またC100TとC1039TとG1846Aと2573insと4125insにおいては野生型を有することが分かる。以上のことから、本検体のアレルは5/14と決定できる。この結果は、使用した検体のアレルと一致する。
【0073】
(アレル1/18)
図8は、鋳型DNAとしてCYP2D6の全ての多型に関して野生型を有する検体と、CYP2D6の4125insにおいて変異型を有する検体とを用いた場合の解析結果である。図8に示したとおり、CYP2D6の欠損を検出するためのプローブからはシグナルが検出されなかった。また、点変異検出用のプローブの検出輝度から、4125insで変異型を有し、またC100TとC1039TとG1661CとG1758AとG1846AとC2850TとG4180Cと2573insにおいては野生型を有することが分かる。以上のことから、本検体のアレルは1/18と決定できる。この結果は、使用した検体のアレルと一致する。
【0074】
(アレル1/21)
図9は、鋳型DNAとしてCYP2D6の全ての多型に関して野生型を有する検体と、CYP2D6のG1661CとG4180Cと2573insにおいて変異型を有する検体とを用いた場合の解析結果である。図9に示したとおり、CYP2D6の欠損を検出するためのプローブからはシグナルが検出されなかった。また、点変異検出用のプローブの検出輝度から、G1661CとG4180Cと2573insにおいて変異型を有し、またC100TとC1039TとG1758AとG1846AとC2850Tと4125insにおいては野生型を有することが分かる。以上のことから、本検体のアレルは1/21と決定できる。この結果は、使用した検体のアレルと一致する。
【0075】
(アレル5/36)
図10は、鋳型DNAとしてCYP2D6が欠損している検体と、CYP2D6のC100TとC1039TとG1661CとG4180Cにおいて変異型を有する検体とを用いた場合の解析結果である。図10に示したとおり、CYP2D6の欠損を検出するためのプローブからはシグナルが検出された。また、点変異検出用のプローブの検出輝度から、C100TとC1039TとG1661CとG4180Cにおいて変異型を有し、またG1758AとG1846AとC2850Tと2573insと4125insにおいては野生型を有することが分かる。以上のことから、本検体のアレルは5/36と決定できる。この結果は、使用した検体のアレルと一致する。
【0076】
上記実施例で示したとおり、本発明の手法で得られる輝度パターンはアレルから予想されるパターンと一致する。従って、本発明を用いることで遺伝子欠損と点変異を同時に精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の説明図
【図2】本発明の説明図
【図3】核酸マイクロアレイの概略平面図
【図4】アレル1/1検体の解析結果
【図5】アレル1/5検体の解析結果
【図6】アレル4/5検体の解析結果
【図7】アレル5/14検体の解析結果
【図8】アレル1/18検体の解析結果
【図9】アレル1/21検体の解析結果
【図10】アレル5/36検体の解析結果
【符号の説明】
【0078】
301:標的核酸
303:第1遺伝子
305:第2遺伝子
307:第1の相同領域
309:第2の相同領域
310:第1の相同領域と第2の相同領域の組換えにより生じた相同領域
311:標的核酸
313:第2の遺伝子点変異を増幅するための点変異増幅用プライマー(順方向)
315:第2の遺伝子点変異を増幅するための点変異増幅用プライマー(逆方向)
317:第2の遺伝子欠損を増幅するための欠損増幅用プライマー(順方向)
319:第2の遺伝子欠損を増幅するための欠損増幅用プライマー(逆方向)
321:第2の遺伝子点変異を検出するための点変異検出用プローブ
322:マイクロアレイ
323:第2の遺伝子欠損を検出するためのプローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の中の標的遺伝子の欠損の有無および前記標的遺伝子の点変異の有無を同時に検出する、標的遺伝子欠損と標的遺伝子点変異との検出方法であって、
特定の点変異を有する前記標的遺伝子を有する前記標的核酸を増幅するための点変異増幅用プライマーと、前記標的遺伝子を欠損した前記標的核酸を増幅するための欠損増幅用プライマーと、を用いて標的核酸を増幅する増幅工程と、
前記増幅工程により増幅された、点変異を持つ標的遺伝子を有する標的核酸を検出する点変異検出用プローブと、前記増幅工程により増幅された、欠損した標的遺伝子を有する標的核酸を検出する欠損検出用プローブと、を用いて標的核酸を検出する検出工程と
を含む標的遺伝子欠損と標的遺伝子点変異との検出方法。
【請求項2】
前記標的遺伝子はCYP2D6であることを特徴とする請求項1に記載の標的遺伝子欠損と標的遺伝子点変異との検出方法。
【請求項3】
前記欠損検出用プローブが、CYP2D6の5’側にある隣の遺伝子配列の3’側の領域あるいはCYP2D6の3’側の領域に互いに非常に相同性が高い配列を持つ約2.5kbの配列を含む所定の長さの塩基配列を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の標的遺伝子欠損と標的遺伝子点変異との検出方法。
【請求項4】
前記欠損検出用プローブの配列が、
(1)5’-GCCTGGCGACAATTCAAGTGTGG-3’(配列番号1)からなる塩基配列を有するプローブと、
(2)5’-CTCCCAGTAGGGATCAGGCAGG-3’(配列番号2)からなる塩基配列を有するプローブと、
(3)5’-GCAGTGCCCAAGAGTTTCTAATGAGC-3’(配列番号3)からなる塩基配列を有するプローブと、
(4)5’-TCAGAGGCCTCTGCAAAGTAGAAACA-3’(配列番号4)からなる塩基配列を有するプローブと、
(5)5’-ATGAGGCCCAGTCTGTTCACACA-3’(配列番号5)からなる塩基配列を有するプローブと、
(6)5’-ACTGGCCCATCCTTTCCAGGT-3’(配列番号6)からなる塩基配列を有するプローブと、
(7)5’-AGGCTGAGGCAGGAGAATCGA-3’(配列番号7)からなる塩基配列を有するプローブと、
の塩基配列あるいはその相補配列からなるグループから選択された1以上を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の標的遺伝子欠損と標的遺伝子点変異との検出方法。
【請求項5】
前記点変異検出用プローブが、4から10種の多型を検出し、少なくともCYP2D6*4、CYP2D6*14、CYP2D6*18、CYP2D6*21、CYP2D6*36の配列を含む所定の長さの塩基配列を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の標的遺伝子欠損と標的遺伝子点変異との検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−110258(P2010−110258A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285329(P2008−285329)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】