説明

遺伝子組換えコリネ型細菌および含乳酸ポリエステルの製造方法

【課題】含乳酸ポリエステルを生産する遺伝子組換えコリネ型細菌を提供する。
【解決手段】含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌に、乳酸脱水素酵素遺伝子、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子、β−ケトチオラーゼ遺伝子、アセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を含む含乳酸ポリエステル合成に関与する遺伝子群が導入されており、かつ99%以上の乳酸分率を有する含乳酸ポリエステル生産能を有する、遺伝子組換えコリネ型細菌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換えコリネ型細菌および含乳酸ポリエステルの製造方法に関する。より詳細には、含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌に、含乳酸ポリエステル合成に関与する酵素をコードする遺伝子群を導入することにより、含乳酸ポリエステル生産能が付与された遺伝子組換えコリネ型細菌およびこれを用いた含乳酸ポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸に代表される含乳酸ポリエステルは、石油を原料とせず再生可能なバイオマスから合成することができ、優れた透明性と加工性を有することから、すでに多くの分野で使用されているバイオベースプラスチックであり、脱石油と言う観点から高いニーズがある。
【0003】
従来的に、含乳酸ポリエステルの化学的合成においては、乳酸からラクチドを合成するプロセスと、有害なスズ触媒などを使用して開環重合するプロセスが必要とされ、これらのプロセスはエネルギー消費が高いほか、得られる製品の安全性が問題となっていた。
【0004】
一方、糖を炭素源としてポリエステルを生産可能な微生物が、これまでに多数報告されている(非特許文献1)。微生物が生産するポリエステルは、自然界で容易に分解される生分解性プラスチックとして、また糖や植物油などの再生可能な炭素資源から合成することができる“グリーン”プラスチックとして、注目されている。
【0005】
これまでに、乳酸重合酵素(ポルリヒドロキシアルカン酸合成酵素)遺伝子を導入した遺伝子組換え大腸菌を用いて、スズ触媒などを用いることなく、含乳酸ポリエステルを製造可能な事が示されている(非特許文献2)。また、特許文献1には、クロストリジウム プロピオニカム(Clostridium propionicum)のプロピオニルCoAトランスフェラーゼをコードする核酸を組み込んだラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha、旧名アルカリゲネス ユートロファス(Alcaligenes eutrophus))を、培地に乳酸を添加しながら培養して、3−ヒドロキシ酪酸(以下、「3HB」と記載する場合がある)と乳酸とからなる共重合ポリエステルを製造する方法が開示されている。さらに、特許文献2には、上記の各酵素をコードする核酸とラルストニア・ユートロファ由来のポリヒドロキシアルカン酸合成酵素の改変体(PhaCm)をコードする核酸を組み込んだ遺伝子組換え大腸菌を、培地に乳酸を添加せずに培養することによって、生産される3HBと乳酸とからなる共重合ポリエステル中の乳酸含有率を高める方法が開示されている。
【0006】
しかし、上記方法で合成された含乳酸ポリエステルは、3HBと乳酸の共重合体であり、ポリエステル中の乳酸分率は十分に高いものではなかった。さらに、大腸菌は外毒素を含んでいるため、生産されたポリエステルを医療分野などへ応用する際には、外毒素を含む不純物を慎重に除去する必要があった。
【0007】
また、遺伝子組換えコリネ型細菌を用いてポリ−3−ヒドロキシブタン酸の合成が可能であることが示されている(特許文献3)。当該遺伝子組換えコリネ型細菌を用いた系では、大腸菌を用いたポリ−3−ヒドロキシブタン酸合成とは異なり、外毒素を含まないポリマーの合成が可能であること、また大腸菌と同等程度の生産性を持って、ポリ−3−ヒドロキシブタン酸合成が可能であることが開示されている。
【0008】
さらに、遺伝子組換えコリネ型細菌を用いて、乳酸を発酵生産することが可能であることが示されている(非特許文献3)。
【0009】
しかし、現在までコリネ型細菌を用いて含乳酸ポリエステルを生産させた例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2006/126796
【特許文献2】WO2009/131186
【特許文献3】特開2008−245633号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「生分解性プラスチックハンドブック」、生分解性プラスチック研究会編、1995年、第178−197頁、(株)エヌ・ティー・エス発行
【非特許文献2】Shozui et al. Polym. Degrad. Stab. In press doi:10.1016/j.polymdegradstab.2011.01.007(2011)
【非特許文献3】Okino et al. Appl Microbiol Biotechnol (2008) 78: 449−54
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、遺伝子組換えコリネ型細菌を用いて、乳酸分率が高い含乳酸ポリエステルを生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌に、乳酸脱水素酵素遺伝子、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子、β−ケトチオラーゼ遺伝子、アセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を導入した遺伝子組換えコリネ型細菌株が、高い(99%以上)乳酸分率を有するポリエステルを合成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌に、乳酸脱水素酵素遺伝子、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子、β−ケトチオラーゼ遺伝子、アセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を含む含乳酸ポリエステル合成に関与する遺伝子群が導入されており、かつ99%以上の乳酸分率を有する含乳酸ポリエステル生産能を有する、遺伝子組換えコリネ型細菌。
[2] 乳酸脱水素酵素遺伝子が大腸菌属(Escherichia)に由来する、[1]の遺伝子組換えコリネ型細菌。
[3] プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子がメガスフェラ属(Megasphera)に由来する、[1]または[2]の遺伝子組換えコリネ型細菌。
[4] β−ケトチオラーゼ遺伝子およびアセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子がラルストニア属(Ralstonia)に由来する、[1]〜[3]のいずれかの遺伝子組換えコリネ型細菌。
[5] ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子がシュードモナス属(Pseudomonas)に由来する、[1]〜[4]のいずれかの遺伝子組換えコリネ型細菌。
[6] ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子が変異型ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素をコードする遺伝子であり、該変異型ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素が配列番号10のアミノ酸配列において325番目のSerがThrに、及び481番目のGlnがLysに置換された二重変異を有する、[5]の遺伝子組換えコリネ型細菌。
[7] 含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌が、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌である、[1]〜[6]のいずれかの遺伝子組換えコリネ型細菌。
[8] コリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、[7]の遺伝子組換えコリネ型細菌。
[9] 含乳酸ポリエステル合成に関与する遺伝子群がコリネ型細菌の細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターの制御下にある、[1]〜[8]のいずれかの遺伝子組換えコリネ型細菌。
[10] コリネ型細菌の細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターが以下のいずれかの塩基配列を含む、[9]の遺伝子組換えコリネ型細菌:
(i)配列番号13に示される塩基配列;
(ii)配列番号13に示される塩基配列において、1から数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ宿主生物中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列;
(iii)配列番号13に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAの塩基配列であって、かつ宿主生物中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列;または
(iv)配列番号13に示される塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列からなりかつ宿主生物中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列。
[11] β−ケトチオラーゼ遺伝子、アセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子がオペロンを形成している、[1]〜[10]のいずれかの遺伝子組換えコリネ型細菌。
[12] 乳酸脱水素酵素遺伝子およびプロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子がオペロンを形成している、[1]〜[11]のいずれかの遺伝子組換えコリネ型細菌。
[13] [1]〜[12]のいずれかの遺伝子組換えコリネ型細菌を、炭素源を含む培地で培養する工程1)、および工程1)の培養物から含乳酸ポリエステルを回収する工程2)を含む、99%以上の乳酸分率を有する含乳酸ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の遺伝子組換えコリネ型細菌は、安価なバイオマスを炭素源として、効率よく含乳酸ポリエステルを生産することができる。本発明の遺伝子組換えコリネ型細菌は、産業的に重要な、高い乳酸分率を有するポリエステルを生産することが可能であり、実用的なプラスチック生産菌として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1で調製した遺伝子組換えプラスミドpVC7LDHPCT(A)とpPSC1STQKAB(B)の構成を示す概略図である。(A)において、Pcspはコリネ菌(C.glutamicum)由来プロモーターを、PCTはM.エルスデニ(M.elsdenii)由来のプロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子を、LDHはE.コリ(E.coli)に由来する乳酸脱水素酵素遺伝子を、Cmrはクロラムフェニコール耐性遺伝子を示す。(B)において、Pcspはコリネ菌(C.glutamicum)由来プロモーターを、phaC1(ST/QK)は変異型乳酸重合酵素遺伝子を、phaAはR.ユートロファ(R.eutropha)由来のβ−ケトチオラーゼ遺伝子を、phaBはR.ユートロファ(R.eutropha)由来のアセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子を、Kmrはカナマイシン耐性遺伝子を示す。
【図2】図2は、実施例2で調製したポリマーのH−NMRスペクトル分析の結果を示すチャート図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌に、乳酸脱水素酵素遺伝子、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子、β−ケトチオラーゼ遺伝子、アセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を含む含乳酸ポリエステル合成に関与する遺伝子群を導入することによって、含乳酸ポリエステル生産能が付与された遺伝子組換えコリネ型細菌ならびに当該遺伝子組換えコリネ型細菌を用いた含乳酸ポリエステルの製造方法に関する。
【0018】
以下、本発明について、詳細に説明する。
(1)乳酸脱水素酵素遺伝子
乳酸脱水素酵素は、ピルビン酸とNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を乳酸とNAD(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)にする可逆反応を触媒する活性を有するタンパク質である。以下、本明細書において、乳酸脱水素酵素を「LDH」と記載する。好ましくは、本発明においてLDHはD−LDHである。
【0019】
本発明における好ましいLDH遺伝子は、ラルストニア属(Ralstonia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、大腸菌属(Escherichia)、およびメガスフェラ属(Megasphera)のいずれかに由来するものである。特に好ましくは、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)に由来するものであり、その塩基配列を配列番号1に、当該塩基配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0020】
なお、本発明においてLDH遺伝子には、配列番号1に示される塩基配列において、1から数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつピルビン酸とNADHを乳酸とNADにする可逆反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで用語「数個」とは、1〜40個、好ましくは1〜20個、より好ましくは10個以下をいう。
【0021】
また、本発明においてLDH遺伝子には、配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAの塩基配列であって、かつピルビン酸とNADHを乳酸とNADにする可逆反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。本発明において「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、2〜6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl,0.015Mクエン酸ナトリウム,pH7.0)および0.1〜0.5%SDSを含有する溶液中42〜55℃にてハイブリダイズを行い、0.1〜0.2×SSCおよび0.1〜0.5%SDSを含有する溶液中55〜65℃にて洗浄を行う条件をいう。
【0022】
さらに、本発明においてLDH遺伝子には、配列番号1に示される塩基配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつピルビン酸とNADHを乳酸とNADにする可逆反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。
【0023】
また、上記LDH遺伝子のコドンは、形質転換に用いる宿主生物(下記にて詳述するコリネ型細菌)のコドン使用頻度に合わせて変換されたものであっても良い。
【0024】
ピルビン酸とNADHを乳酸とNADにする可逆反応を触媒する活性は、公知の手法に基づいて測定することができる(Vanderlinde et al. Annals of Clinical and Laboratory Science, Vol 15, Issue 1, 13−31)。
【0025】
(2)プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子
プロピオニルCoAトランスフェラーゼは、適当なCoA基質からプロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応を触媒する活性を有するタンパク質である。以下、本明細書において、プロピオニルCoAトランスフェラーゼを「PCT」と記載する。
【0026】
表1に、これまでに報告されたPCTの由来(微生物名)の代表例と、それをコードする塩基配列情報を開示した文献情報を示す。しかし、本発明において利用できるPCT遺伝子はこれらに限定されることなく、これまでに報告されたPCT遺伝子のいずれも利用することができる。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明における好ましいPCT遺伝子は、ラルストニア属(Ralstonia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、大腸菌属(Escherichia)、およびメガスフェラ属(Megasphera)のいずれかに由来するものである。特に好ましくはメガスファエラ・エルスデニ(Megasphaera elsdenii)に由来するものであり、その塩基配列を配列番号3に、当該塩基配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0029】
なお、本発明においてPCT遺伝子には、上記表1に示されるPCT遺伝子の塩基配列および配列番号3に示される塩基配列において、1から数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつプロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで用語「数個」とは、上記定義のとおりである。
【0030】
また、本発明においてPCT遺伝子には、上記表1に示されるPCT遺伝子の塩基配列および配列番号3に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAの塩基配列であって、かつプロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで「ストリンジェントな条件」とは、上記定義のとおりである。
【0031】
さらに、本発明においてPCT遺伝子には、上記表1に示されるPCT遺伝子の塩基列および配列番号3に示される塩基配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつプロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。
【0032】
また、上記PCT遺伝子のコドンは、形質転換に用いる宿主生物(下記にて詳述するコリネ型細菌)のコドン使用頻度に合わせて変換されたものであっても良い。
【0033】
プロピオン酸及び/又は乳酸にCoAが転移される反応の触媒活性は、例えばA.E.Hofmeisterら(Eur.J.Biochem.、第206巻、第547−552頁)に記載された方法に従って測定することができる。
【0034】
(3)β−ケトチオラーゼ遺伝子
β−ケトチオラーゼは、2分子のアセチルCoAが縮合してアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒するタンパク質である。以下、本明細書において、β−ケトチオラーゼを、「βKT」と記載する。
【0035】
表2に、これまでに報告されたβKTの由来(微生物名)の代表例と、それをコードする塩基配列情報を開示した文献情報を示す。しかし、本発明において利用できるβKT遺伝子はこれらに限定されることなく、これまでに報告されたβKT遺伝子のいずれも利用することができる。
【0036】
【表2】

【0037】
本発明における好ましいβKT遺伝子は、ラルストニア属(Ralstonia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、大腸菌属(Escherichia)、およびメガスフェラ属(Megasphera)のいずれかに由来するものである。特に好ましくはラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)に由来するものであり、その塩基配列を配列番号5に、当該塩基配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0038】
なお、本発明においてβKT遺伝子には、上記表2に示されるβKT遺伝子の塩基配列および配列番号5に示される塩基配列において、1から数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ2分子のアセチルCoAが縮合してアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで用語「数個」とは、上記定義のとおりである。
【0039】
また、本発明においてβKT遺伝子には、上記表2に示されるβKT遺伝子の塩基配列および配列番号5に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAの塩基配列であって、かつ2分子のアセチルCoAが縮合してアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで「ストリンジェントな条件」とは、上記定義のとおりである。
【0040】
さらに、本発明においてβKT遺伝子には、上記表2に示されるPCT遺伝子の塩基配列および配列番号5に示される塩基配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ2分子のアセチルCoAが縮合してアセトアセチルCoAが形成される反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。
【0041】
また、上記βKT遺伝子のコドンは、形質転換に用いる宿主生物(下記にて詳述するコリネ型細菌)のコドン使用頻度に合わせて変換されたものであっても良い。
【0042】
2分子のアセチルCoAからアセトアセチルCoAが形成される反応の触媒活性は、例えばSlaterら(J. Bacteriology、1998年、第180巻、第1979−1987頁)に記載された方法によって測定することができる。
【0043】
(4)アセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子
アセトアセチルCoAレダクターゼは、アセトアセチルCoAのNADP等の補酵素の存在下で生じる還元反応によって、D(−)−β−ヒドロキシブチリル−CoAが形成される反応を触媒するタンパク質である。以下、本明細書において、アセトアセチルCoAレダクターゼを、「AACoA−R」と記載する。
【0044】
表3に、これまでに報告されたAACoA−Rの由来(微生物名)の代表例と、それをコードする塩基配列情報を開示した文献情報又はデータベース登録番号を示す。しかし、本発明において利用できるAACoA−R遺伝子はこれらに限定されることなく、これまでに報告されたAACoA−R遺伝子のいずれも利用することができる。
【0045】
【表3】

【0046】
本発明における好ましいAACoA−R遺伝子は、ラルストニア属(Ralstonia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、大腸菌属(Escherichia)、およびメガスフェラ属(Megasphera)のいずれかに由来するものである。特に好ましくはラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)に由来するものであり、その塩基配列を配列番号7に、当該塩基配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0047】
なお、本発明においてAACoA−R遺伝子には、上記表3に示されるAACoA−R遺伝子の塩基配列および配列番号7に示される塩基配列において、1から数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ上記アセトアセチルCoAの還元反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで用語「数個」とは、上記定義のとおりである。
【0048】
また、本発明においてAACoA−R遺伝子には、上記表3に示されるAACoA−R遺伝子の塩基配列および配列番号7に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAの塩基配列であって、かつ上記アセトアセチルCoAの還元反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで「ストリンジェントな条件」とは、上記定義のとおりである。
【0049】
さらに、本発明においてAACoA−R遺伝子には、上記表3に示されるAACoA−R遺伝子の塩基配列および配列番号7に示される塩基配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ上記アセトアセチルCoAの還元反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。
【0050】
また、上記AACoA−R遺伝子のコドンは、形質転換に用いる宿主生物(下記にて詳述するコリネ型細菌)のコドン使用頻度に合わせて変換されたものであっても良い。
【0051】
上記アセトアセチルCoAの還元反応の触媒活性は、例えばG.W.Haywoodら(FEMS Microbiology Letters,1988年、第52巻、第259−264頁)に記載された方法によって測定することができる。
【0052】
その他、これまでに知られているβKT遺伝子とAACo−R遺伝子とそのアクセッション番号を表4に示す。本発明においては、これら遺伝子も利用することができる。
【0053】
【表4】

【0054】
(5)ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子
ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素は、ヒドロキシアシルCoAをモノマーとしてポリヒドロキシアルカン酸を合成する反応の触媒活性を有するタンパク質である。また、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素は、ラクチルCoAをモノマーとしてポリ乳酸を合成する反応を触媒する。さらに、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素は、ヒドロキシアシルCoAおよびラクチルCoAをモノマーとして、ヒドロキシアルカン酸−乳酸共重合体を合成する反応を触媒する。なお、本明細書において、「ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素」および「乳酸重合酵素」は相互互換的に使用される。
【0055】
本発明における好ましいポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子は、ラルストニア属(Ralstonia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、大腸菌属(Escherichia)、およびメガスフェラ属(Megasphera)のいずれかに由来するものであり、特に好ましくはシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)61−3に由来するものであり、その塩基配列を配列番号9に、当該塩基配列にコードされるアミノ酸配列を配列番号10に示す。
【0056】
なお、本発明においてポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子には、配列番号9に示される塩基配列において、1から数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつヒドロキシアシルCoAをモノマーとしてポリヒドロキシアルカン酸を合成する反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで用語「数個」とは、上記定義のとおりである。
【0057】
また、本発明においてポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子には、配列番号9に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAの塩基配列であって、かつヒドロキシアシルCoAをモノマーとしてポリヒドロキシアルカン酸を合成する反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。ここで「ストリンジェントな条件」とは、上記定義のとおりである。
【0058】
さらに、本発明においてポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子には、配列番号9に示される塩基配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつヒドロキシアシルCoAをモノマーとしてポリヒドロキシアルカン酸を合成する反応の触媒活性を有するタンパク質をコードする塩基配列も含まれる。
【0059】
また、上記ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子のコドンは、形質転換に用いる宿主生物(下記にて詳述するコリネ型細菌)のコドン使用頻度に合わせて変換されたものであっても良い。
【0060】
ポリヒドロキシアルカン酸を合成する反応の触媒活性は公知の手法によって測定することが可能であり、例えば上記ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子で形質転換された宿主細胞を得、当該宿主細胞のポリヒドロキシアルカン酸の蓄積能によって確認することができる。
【0061】
また、本発明においてはポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子として、公知の変異型ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素をコードする遺伝子も利用することができる。このような変異型としては、配列番号9に示される塩基配列にコードされるアミノ酸配列(配列番号10)の130番目、325番目、392番目、477番目及び481番目のアミノ酸が、それぞれ単独で置換された単独変異、任意の2つのアミノ酸が置換された二重変異、任意の3つのアミノ酸が置換された三重変異、4つのアミノ酸が置換された四重変異を挙げることができる(WO2003/100055)。好ましくは、配列番号10のアミノ酸配列において325番目のSerがThrに、及び481番目のGlnがLysに置換された二重変異を有する変異型(配列番号12)をコードする遺伝子(配列番号11)、または配列番号10のアミノ酸配列において325番目のSerがThrに、392番目のPheがSerに、及び481番目のGlnがLysに置換された三重変異を有する変異型をコードする遺伝子である。なお、本明細書において、二重変異を有する変異型ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素を、「PhaCm」と記載する場合がある。
【0062】
(6)遺伝子組換えベクター
上記(1)〜(5)の遺伝子をコードするDNAを宿主生物(下記にて詳述するコリネ型細菌)に導入して、当該宿主生物内でタンパク質に転写翻訳させて使用する。宿主生物に導入されるDNAは、ベクターに組み込まれた形態にあることが好ましい。
【0063】
前記のベクターは、宿主生物(下記に詳述するコリネ型細菌)中で自立複製可能なものであればよく、プラスミドDNA、ファージDNAの形態にあることが好ましい。DNAをコリネ型細菌に導入するためのベクターとしては、pAM330、pHM1519、pAJ655、pAJ611、pAJ1844、pCG1、pCG2、pCG4、pCG11、pHK、pPSPTG1、pVC7、pUC19I等(これらに限定されない)、公知のベクターを用いることができる。
【0064】
上記(1)〜(5)の遺伝子のベクターへの挿入は、当業者に知られた遺伝子組み換え技術を用いて行うことができる。ベクターに挿入される遺伝子は、宿主生物中で各遺伝子にコードされるタンパク質の転写翻訳を調節することが可能なプロモーターの下流に、連結して挿入される。プロモーターとしては、宿主生物中で遺伝子の転写を調節できるものであればいずれを用いてもよいが、好ましくは、宿主生物に由来するプロモーターを利用する。好適なプロモーターとしては、細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターが挙げられ、宿主生物にコリネ型細菌を用いる場合には、コリネ型細菌由来の細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターを用いる。特に好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)に由来するものであり、その塩基配列を配列番号13に示す。
【0065】
なお、本発明において、コリネバクテリウム・グルタミカムに由来する細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターには、配列番号13に示される塩基配列において、1から数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ宿主中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列も利用可能である。ここで用語「数個」とは、上記定義のとおりである。
【0066】
また、本発明において、コリネバクテリウム・グルタミカムに由来する細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターには、配列番号13に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAの塩基配列であって、かつ宿主中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列も利用可能である。ここで「ストリンジェントな条件」とは、上記定義のとおりである。
【0067】
さらに、本発明において、コリネバクテリウム・グルタミカムに由来する細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターには、配列番号13に示される塩基配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなりかつ宿主中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列も利用可能である。
【0068】
また、ベクターには、必要に応じて、遺伝子を導入しようとする宿主生物において利用可能なターミネーター配列、エンハンサー配列、スプライシングシグナル配列、ポリA付加シグナル配列、リボゾーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子などを連結することができる。選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の他、アミノ酸や核酸等の栄養素の細胞内生合成に関与する遺伝子、あるいはルシフェラーゼ等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子などを挙げることができる。
【0069】
上記の点から、本発明においては、pVC7(Kikuchi,Y.etal.:Appl.Environ.Microbiol.,69,358−366(2003))およびpPSPTG1(Kikuchi,Y.et al.上掲)を用いることができる。前記プロモーターを含むpVC7およびpPSPTG1に、上記(1)〜(5)の遺伝子を前記プロモーターの3’下流に配置されるように連結・挿入して、当該プロモーターによって(1)〜(5)の遺伝子を発現する発現プラスミドベクターpVC7PCTLDHとpPSC1STQKABを構築することができる(下記実施例にて詳述)。
【0070】
ベクターには、上記(1)〜(5)より選択されるいずれかの遺伝子を一つ挿入しても良いし、上記(1)〜(5)より選択される複数個の遺伝子を挿入しても良い。ベクターに挿入される遺伝子について用いられる場合「複数個」とは2〜5個、2〜4個、好ましくは2〜3個の遺伝子を挿入することが可能である。ベクターに複数個の遺伝子を挿入する場合において、一つのベクターに含まれる遺伝子の組み合わせは適宜選択することができる。例えば、一のベクターには、PCT遺伝子およびLDH遺伝子を、また別のベクターには、βKT遺伝子、AACoA−R遺伝子およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を挿入することができるが、これらに限定されない。また、一つのベクターに複数個の遺伝子が挿入される場合、これらの遺伝子はオペロンを形成することが好ましい。ここで「オペロン」とは、同一のプロモーターの制御下に転写される1またはそれ以上の遺伝子から構成される核酸配列単位である。
【0071】
上記の遺伝子、好ましくはベクターの形態にある遺伝子は、当業者に知られた方法によって、宿主生物に導入される。宿主生物へのベクターの組み換え方法としては、例えばリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、接合伝達法、カルシウムイオンを用いる方法や等が挙げられる。
【0072】
(7)コリネ型細菌
本発明における遺伝子組み換えコリネ型細菌は、上記(1)〜(5)の遺伝子の導入によって形質転換されたコリネ型細菌である。本発明において、宿主生物として利用し得るコリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アグロコッカス(Agrococcus)属、アグロマイセス(Agromyces)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、オーレオバクテリウム(Aureobacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、クラビバクター(Clavibacter)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、ラサイバクター(Rathayibacter)属、テラバクター(Terrabacter)属、ツリセラ(Turicella)属などに属する細菌が挙げられる。好ましくは、コリネバクテリウム属細菌である。さらに、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌として、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13870、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067、コリネバクテリウム・カルナエATCC15991、コリネバクテリウム・アセトグルタミカムATCC15806等の菌株が挙げられ、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869、ATCC13032、およびATCC14067である。これらはAmerican Type CultureCollection(米国)より入手できる。
【0073】
(8)含乳酸ポリエステルの製造
本発明において、含乳酸ポリエステルの製造は、上記(1)〜(5)の遺伝子が導入された遺伝子組み換えコリネ型細菌を、炭素源を含む培地で培養し、培養菌体又は培養物中に含乳酸ポリエステルを生成蓄積させ、該培養菌体又は培養物から当該含乳酸ポリエステルを回収することにより行われる。
【0074】
炭素源としては、例えばグルコース、フラクトース、スクロース、マルトース等の炭水化物が挙げられる。また、炭素数4以上の油脂関連物質を炭素源とすることもできる。炭素数4以上の油脂関連物質としては、コーン油、大豆油、サフラワー油、サンフラワー油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、ナタネ油、魚油、鯨油、豚油又は牛油などの天然油脂、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、リノール酸若しくはミリスチン酸等の脂肪酸又はこれらの脂肪酸のエステル、オクタノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール若しくはパルミチルアルコール等又はこれらアルコールのエステル等が挙げられる。
【0075】
窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0076】
培養は、通常振盪培養などの好気的条件下、25〜37℃の範囲、好ましくは30℃、pH7〜8、好ましくはpH7.5にて、前記(1)〜(5)のタンパク質が転写発現されてから24時間以上行うことが好ましい。培養は、バッチ式で行っても、連続式で行っても良い。
【0077】
本発明の好ましい態様は、E.コリ(E. coli)由来のLDH遺伝子(配列番号1)、M.エルスデニ(M.elsdenii)由来のPCT遺伝子(配列番号3)、R.ユートロファ(R.eutropha)由来のβKT遺伝子(配列番号5)、R.ユートロファ(R.eutropha)由来のAACoA−R遺伝子(配列番号7)及びP.・スピーシーズ(P.sp.)61−3に由来する変異型ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子(配列番号11)を導入した遺伝子組み換えコリネバクテリウム・グルタミカムを培養し、高い乳酸分率(99%以上)を有する、ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルを製造する方法である。特に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869、ATCC13032、およびATCC14067を宿主として使用する。
【0078】
遺伝子組み換えコリネ型細菌から生産されたポリエステルの回収は、微生物から共重合ポリエステルを回収するための、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、培養液から遠心分離によって集菌、洗浄した後、乾燥させ、クロロホルムに乾燥菌体を懸濁し、加熱することによって、目的とする共重合ポリエステルをクロロホルム画分に抽出し、さらにこのクロロホルム溶液にメタノールを加えてポリエステルを沈殿させ、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去した後、乾燥することで、精製された共重合ポリエステルを得ることができる。
【0079】
回収されたポリエステルの組成の確認は、通常の方法、例えばガスクロマトグラフ法や核磁気共鳴法等により行えばよい。
【0080】
本発明の方法おいて製造される含乳酸ポリエステルは、ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルである。本発明において製造される含乳酸ポリエステルは、高い乳酸分率を有し、得られるポリエステルにおいて乳酸分率は、99%以上、99.5%以上、99.9%以上またはそれ以上である。従来、遺伝子組換え微生物(大腸菌)を用いて含乳酸ポリエステルを製造する方法が明らかとなっていた(Shozui et al.上掲)。当該遺伝子組換え大腸菌によって製造される含乳酸ポリエステルは、96%程度の乳酸分率しか得られなかった。当該含乳酸ポリエステルには乳酸の他に、3−ヒドロキシ酪酸(1%)および3−ヒドロキシ吉草酸(3%)の混入が検出される。一方、本発明の方法において得られる含乳酸ポリエステルは99%以上の乳酸分率を有し、3−ヒドロキシ吉草酸は含まれないか、または検出限界以下である。また、本発明の方法において得られる含乳酸ポリエステルは高い乳酸分率を有するために、優れた耐熱性および時間安定性(時間ともに劣化しない性質)を有することができる。
【0081】
また、本発明において製造される含乳酸ポリエステルは、約2万〜3万の重量平均分子量、および約1万の数平均分子量を有する。
【0082】
さらに本発明において製造される含乳酸ポリエステルは、乳酸(詳細にはD−乳酸)の光学純度が非常に高く、光学純度98%ee以上、99%ee以上、99.5ee%以上またはそれ以上(ほぼ100%ee)である。
【0083】
また本発明の方法においては、培地に乳酸やヒドロキシ酪酸などの、目的とするポリマーを構成するモノマー成分を添加しなくても、安価な廃糖蜜から、ヒドロキシ酪酸と乳酸とからなる共重合ポリエステルを製造することができ、製造コストの点で有利である。
【0084】
さらに本発明の方法においては、内毒素を内在していないコリネ型細菌を利用しているために、生産された含乳酸ポリエステルの回収に際して、微生物の内毒素が混入することを回避することができ、生体医療材料や食品接触容器といった用途に利用可能な安全な含乳酸ポリエステルを提供することができる。
【0085】
以下、非限定的な実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例における各実験操作は、Sambrookら(Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed. 1989年、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)を初めとする各種の実験操作を紹介したマニュアル、又は各種試薬及びキットに添付された指示書の各記載に従い、行った。
【実施例】
【0086】
<実施例1> 遺伝子組換え微生物の作製
大腸菌(E.coli JM109)からDNeasy Tissue Kit(Qiagen社)を用いてゲノムDNAを抽出後、乳酸脱水素酵素をコードする核酸(配列番号1)をPCRで増幅するために、BamHI認識配列を含むフォワードプライマー:5’−GGATCCGCCACCATGAAACTCGCCGTTTATAG−3’(配列番号14)と、SacI認識配列を含むリバースプライマー:5’−GAGCTCAAGATTAAACCAGTTCGTTCG−3’(配列番号15)のプライマーDNAを合成した。前記ゲノムDNAを鋳型として、iCycler(BioRad)を用い、KOD−Plus−DNAポリメラーゼ(1U)、PCRバッファー、1mM MgSO、各プライマー15pmol、0.2mM dNTPs(全て東洋紡社)を含む反応液中、94℃2分を1サイクル、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で2分を1サイクルとするPCR反応を30サイクル行った後、約1kbpの増幅断片を回収し、BamHI及びSacIで消化して、LDHをコードするDNAフラグメントを得た。
【0087】
プラスミドpVC7(味の素株式会社)をHindIII及びEcoRIで消化した後、BamHI、SacI、BglII、PstI認識配列を含むDNAフラグメントを加えてライゲーションし、上記制限酵素認識配列を有するpVC7’を調整した。pVC7’をBamHI及びSacIで消化した後、前記LDHをコードする核酸を含むDNAフラグメントを加えてライゲーションし、約7.7kbpの遺伝子組換えプラスミドpVCLDHを調整した。
【0088】
Taguchiら(PNAS、2008年、第105号、45番、17323−17327)に記載されているpTV118NpctC1AB(STQK)を鋳型としてM.エルスデニ(M.elsdenii、ATCC17753)由来のPCT(アクセッションNo.J04987)をコードする核酸(配列番号3)をPCRで増幅するために、BglII認識配列を含むフォワードプライマー:5’−AGATCTAGGAGGTAAACAATGAGAAAAGTAGAAATCA−3’(配列番号16)と、PstI認識配列を含むリバースプライマー:5’−GAGCTCTGCAGGTTATTTTTTCAGTC−3’(配列番号17)のプライマーDNAを合成した。前記プラスミドDNAを鋳型として、iCycler(BioRad)を用い、KOD−Plus−DNAポリメラーゼ(1U)、PCRバッファー、1mM MgSO、各プライマー15pmol、0.2mM dNTPs(全て東洋紡社)を含む反応液中、94℃2分を1サイクル、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で2分を1サイクルとするPCR反応を30サイクル行った後、約1,500bpの増幅断片を回収し、BglII及びPstIで消化して、前記PCTをコードするDNAフラグメントを得た。
【0089】
上記pVCLDHをBglII及びPstIを用いて消化した後、前記PCTをコードするDNAフラグメントを加えてライゲーションし、PCTをコードするDNAを含む、約9.2kbpの組み換えプラスミドpVC7LDHPCTを調製した(図1(A))。
【0090】
Takaseら(J. Biochem.、2003年、第133巻、第139−145頁)に記載されているpGEMC1STQKABをXbaI及びBamHIで消化し、R.ユートロファ(R.eutropha)由来のβKTをコードするDNA(配列番号5)、R.ユートロファ(R.eutropha)由来のAACoA−RをコードするDNA(配列番号7)、及び変異型乳酸重合酵素(配列番号11)をコードするDNAを全て含むDNAフラグメントを調整した。
【0091】
Kikuchi,Y.et al.(上掲)に記載されているプラスミドpPSPTG1をBstEIIとCpoIで消化した後、XbaIの認識配列を含むDNAフラグメントを加えてライゲーションし、XbaI認識配列を含むpPSPTG1’を調整した。pPSPTG1’をXbaIとBamHIで消化した後、前記βKT、AACoA−Rおよび変異型乳酸重合酵素をコードするDNAフラグメントを加えてライゲーションし、βKT、AACoA−Rおよび変異型乳酸重合酵素をコードするDNAを含むプラスミドpPSC1STQKABを調製した(図1(B))。
【0092】
前記pVC7PCTLDHとpPSC1STQKABをコリネ菌のコンピテントセル(コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032)に加え、エレクトロポレーションにより、両方のプラスミドが導入された形質転換体を作製した。
【0093】
<実施例2> ポリマーの生産
実施例1で得られた形質転換体を、カナマイシン100μg/mL、クロラムフェニコール100μg/mL、2%グルコースを含むCM2G培地1.5mLに植菌し、30℃にて12時間培養を行った後、100mLの同培地に植菌し、30℃にて24時間培養した。得られた培養液を3,100rpm、15分間の条件で遠心して菌体を回収し、2%グルコースを含むMMTG培地100mLに植菌し、30℃にて72時間培養を行った。得られた培養液を3,100rpm、15分間の条件で遠心して菌体を回収し、10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に懸濁させてから再度同条件で遠心分離した後、2日間、凍結乾燥した。
【0094】
ガラス製耐圧反応管に乾燥菌体を移し、クロロホルム3mLを加えて懸濁液としてから、100℃のヒートブロック中で3時間保った後、室温まで冷却後、0.2μmPTFEフィルター(ADVANTEC社)で濾過して、クロロホルム溶液と菌体を分離した。濾液を遠心用ガラス試験管に移し、60℃でドライアップしてクロロホルムを留去した。試験管内に残った膜状のポリマーを、ヘキサンを用いて洗浄、乾燥し、再びクロロホルム3mLを加え、ポリマーを含むクロロホルム溶液を得た。0.2μmPTFEフィルター(ADVANTEC社)で濾過し、分取用GPC(LC−9201)を用いてポリマー画分を分取した後、クロロホルムを留去して、ポリマー11mgを回収した。ポリマーの菌体内含有率(培養後の乾燥菌体総重量に対して回収されたポリマー重量割合)は約1%であった。
【0095】
<実施例3> ポリマーの分析
(i)GPC
実施例2で回収されたポリマー約1mgにクロロホルムを1mL加え、これを0.2μmPTFEフィルター(ADVANTEC社)で濾過した溶液をサンプルとして、下記の条件でGPC測定を行った。
システム :Shimadzu Prominence GPC system
カラム :TSKgel−Super THZ−M(6.0mm×150mm)
溶離液 :CHCl3
流量 :0.8mL/分
温度 :40℃
検出 :10A refractive index detector
サンプル量:10μL
【0096】
測定された分子量分布曲線を図2に示す。分子量較正曲線は標準ポリスチレンを用いて作成し、標準ポリスチレン分子量の換算値で分子量を表した。その結果、ポリマーの重量平均分子量(Mw)は2万〜3万、数平均分子量(Mn)は約1万、Mw/Mnは1.8〜2.3であった。
【0097】
(ii)GC/MS
実施例2で回収されたポリマー約50μgを1mLのクロロホルムに溶解した溶液250μL、エタノール850μL、塩酸100μLをガラス製耐圧反応管で混合し、100℃のヒートブロック中で3時間、エタノリシス処理を行った。室温まで冷却後、0.65Mリン酸および0.9MNaClを含む溶液1mlと250mMリン酸溶液500μLを加えて混合し、pHを中性に調整した後、室温、1,200rpmで5分間の条件で遠心し、水層とクロロホルム層を分離した。クロロホルム層を採取し、モレキュラーシーブスにより脱水を行って、GC分析用サンプルとした。
【0098】
GC/MS分析は、下記の条件で行った。
GCシステム :Shimadzu GC 2010
MSシステム :GC/MS−QP2010
カラム :NEUTRA−BOND−1(0.25mm×3000mm)
キャリアガス :He
ガス流量 :30.0mL/分
ディテクター温度 :310℃
インジェクター温度:250℃
カラムオーブン温度:100℃
カラム昇温 :8℃/min
サンプル量 :1μL
【0099】
上記条件での分析結果及び乳酸エチルのMSスペクトルを図2に示す。GC/MSの結果より、実施例2で回収されたポリマーは3ヒドロキシ酪酸と乳酸をモノマー単位として含むことが確認された。
【0100】
(iii)NMR分析
実施例2で回収されたポリマーを重水素化クロロホルムに溶解してサンプルとし、300MHzでH−NMR(図2)を測定した。その結果、実施例2で回収されたポリマーは3ヒドロキシ酪酸と乳酸をモノマー単位として含むこと、乳酸の比が99%以上であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌に、乳酸脱水素酵素遺伝子、プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子、β−ケトチオラーゼ遺伝子、アセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を含む含乳酸ポリエステル合成に関与する遺伝子群が導入されており、かつ99%以上の乳酸分率を有する含乳酸ポリエステル生産能を有する、遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項2】
乳酸脱水素酵素遺伝子が大腸菌属(Escherichia)に由来する、請求項1に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項3】
プロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子がメガスフェラ属(Megasphera)に由来する、請求項1または2に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項4】
β−ケトチオラーゼ遺伝子およびアセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子がラルストニア属(Ralstonia)に由来する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項5】
ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子がシュードモナス属(Pseudomonas)に由来する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項6】
ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子が変異型ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素をコードする遺伝子であり、該変異型ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素が配列番号10のアミノ酸配列において325番目のSerがThrに、及び481番目のGlnがLysに置換された二重変異を有する、請求項5に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項7】
含乳酸ポリエステル合成能力を本来有していないコリネ型細菌が、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項8】
コリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項7に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項9】
含乳酸ポリエステル合成に関与する遺伝子群がコリネ型細菌の細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターの制御下にある、請求項1〜8のいずれか1項に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項10】
コリネ型細菌の細胞表層タンパク質遺伝子用プロモーターが以下のいずれかの塩基配列を含む、請求項9に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌:
(i)配列番号13に示される塩基配列;
(ii)配列番号13に示される塩基配列において、1から数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ宿主生物中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列;
(iii)配列番号13に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAの塩基配列であって、かつ宿主生物中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列;または
(iv)配列番号13に示される塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列からなりかつ宿主生物中で連結された遺伝子の転写調節活性を有する塩基配列。
【請求項11】
β−ケトチオラーゼ遺伝子、アセトアセチルCoAレダクターゼ遺伝子およびポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子がオペロンを形成している、請求項1〜10のいずれか1項に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項12】
乳酸脱水素酵素遺伝子およびプロピオニルCoAトランスフェラーゼ遺伝子がオペロンを形成している、請求項1〜11のいずれか1項に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子組換えコリネ型細菌を、炭素源を含む培地で培養する工程1)、および工程1)の培養物から含乳酸ポリエステルを回収する工程2)を含む、99%以上の乳酸分率を有する含乳酸ポリエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−152171(P2012−152171A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15550(P2011−15550)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】