説明

遺伝子組換え鳥類によるタンパク質製造法

【課題】遺伝子組換え鳥類による、医薬原料等に利用可能な生理活性タンパク質の安価な生産方法、特により簡便にタンパク質発現量を向上させる方法の提供。
【解決手段】遺伝子組み換えタンパク質を卵中に蓄積する遺伝子組換え家禽鳥類(ダチョウ等)の飼料中アミノ酸を、動物種によって決定される最適な組成、具体的には資料1kgあたりメチオニンおよび/またはリジンを各0.5g以上/0.25g以上にすることよりなる、タンパク質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子組換え(トランスジェニック)鳥類の卵中に、外来遺伝子由来の目的タンパク質を作らせるにあたり、その生産量を向上させる製法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術の発達により、生理活性をもつ遺伝子組換えタンパク質製剤が医薬品として上市され、治療用途に用いられている。遺伝子組換えタンパク質の製造には、微生物または培養細胞リアクターが利用されているが、生産コストが高く、医療費の高騰が問題となっている。
【0003】
近年遺伝子組換え動物により、安価に遺伝子組換えタンパク質を生産する方法が開発された。これはウシやヤギ、ヒツジなどの哺乳動物の遺伝子を組み換えて、目的とする医薬品用タンパク質を乳汁中に高濃度に生産させるものであり、動物工場とも称される。例えば、ヒトモノクローナル抗体が乳汁中に10mg/ml発現したという報告もある(非特許文献1)。遺伝子組換え動物として哺乳類に代えて鳥類を使い、卵からタンパク質を精製する生産システムは、哺乳類に比べ広大な飼育スペースが必要ではなく、飼育にかかるコストが安価であり、さらに鳥類は性成熟期間が短く、人工授精法が確立しており、大規模な遺伝子組換え群を急速に育成可能である、等の利点がある。
【0004】
遺伝子組換え鳥類で生産するタンパク質としては、例えばヒト由来インターフェロンやヒト由来エリスロポエチンの報告がある(特許文献1および2)。特許文献1および特許文献2では、ALV複製能欠失型レトロウイルスベクターと、CMVプロモーター遺伝子又はオボムコイド、オボトランスフェリン融合プロモーター遺伝子を用いて、ヒトインターフェロンは血清中に最大200ng/ml、ヒト由来エリスロポエチンは血清中、卵白中共に最大70ng/mlの発現量である。これらは卵1個中発現量としては2〜10μg程度にあたり、実用的なタンパク質発現レベルと言いがたい。
【0005】
またヒトモノクローナル抗体を産生させる報告もある(非特許文献2、3および4)。非特許文献3ではマウス―ヒトモノクローナル抗体を最大3.4mg/egg発現している。非特許文献4では、scFv−Fc(一本鎖人工)抗体を最大166mg/卵発現している。抗体医薬品は、開発候補品の選択、評価の早さ、ターゲットへの高選択性と副作用リスクの最小化、治療までの時間短縮、効果の持続、DDSなどへの幅広い利用が可能である。
【0006】
遺伝子組換え鳥類で生産されるタンパク質は、卵中に高濃度に蓄積される。ニワトリなどの家禽鳥類の卵はタンパク質を豊富に含むため、卵中に蓄積されるタンパク質、例えばオボムコイド、オボトランスフェリンなどを発現するプロモーター下流に目的遺伝子を組み換えると、これらの卵中タンパク質に変わって目的タンパク質が蓄積されることが期待される。またβ−アクチンやサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター遺伝子、ラウスザルコーマウイルス(RSV)プロモーター遺伝子のような全身性発現プロモーターも組換えタンパク質の発現に利用できる。このとき、宿主鳥類の体中に発現した目的タンパク質は、血中から卵黄に移行して卵中に蓄積されると考えられる。
【0007】
遺伝子組換え鳥類において、その目的タンパク質の生産量を向上させるには、目的遺伝子を制御するプロモーターとして最も適切かつ強力なものを選択するか、ウッドチャック・肝炎ウイルスのPRE(WPRE)配列のように転写後調節因子を組み込んでRNAの安定化を図る等の方法が考えられるが、いずれもベクターにあらかじめ組み込む必要があり、その効果を確認するまでに多大な時間と労力が必要である。
【0008】
遺伝子組換え鳥類に与えられる飼料は、天然の植物成分や動物成分を主原料とする配合飼料であり、そのタンパク質のアミノ酸組成には片寄りがある。通常の配合飼料では家禽の種類によって特定される一定のアミノ酸成分が不足するため、卵としてのタンパク生産量は必ずしも最適化されておらず、最高レベルのタンパク質生産量を上げているといいがたい。これは不足しているアミノ酸を飼料に補充することで解消されるが、畜産用途としてはコストの問題もあり実用的に普及していない。一方、導入遺伝子によって付加価値の高いタンパク質を生産する動物工場においては、卵中に生産される目的タンパク質の発現量を向上させることは、商業的観点から極めて重要である。これまで、飼料中のアミノ酸組成を最適化することで卵用鶏の産卵頻度を高くしたり、肉用鶏の体重を高めたりすることが可能と知られているが、卵内に蓄積されるタンパク成分の含量が飼料中のアミノ酸組成によって制御できることは知られていない。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0019922号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0019923号明細書
【非特許文献1】Trends Biotechnol.1999 Sep;17(9):367−74
【非特許文献2】NATURE BIOTECHNOLOGY 2005 Sep;23(9):1159―1169
【非特許文献3】PNAS 2007 Feb;104(6):1771―1776
【非特許文献4】JOURNAL OF VIROLOGY 2005 Sep;19(17):10864―10874
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記現状を鑑み、遺伝子組換え鳥類により、医薬原料等に利用可能な生理活性タンパク質を従来法に比べて、より簡便にかつより安価に生産する手段が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、目的タンパク質を卵中に蓄積する遺伝子組換え鳥類の飼料中に不足傾向なアミノ酸に着目し、それらのアミノ酸を添加し、最終的に最適なアミノ酸組成を有する飼料を調製することにより、目的タンパク質の生産量を向上させうることを見出して本発明に至った。
【0011】
すなわち本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)外来遺伝子を鳥類に導入し、前記遺伝子を発現させた遺伝子組換え鳥類にメチオニンおよび/またはリジンを添加した飼料を与え、その卵から前記外来遺伝子発現産物を精製することを特徴とするタンパク質製造方法。
(2)飼料1kgに対してメチオニンを0.5g以上および/またはリジンを0.25g以上添加することを特徴とする(1)記載のタンパク質製造方法。
(3)外来遺伝子がネコ由来エリスロポエチンであることを特徴とする(1)または(2)に記載のタンパク質製造方法。
(4)外来遺伝子を導入された遺伝子組換え鳥類が、家禽鳥類である(1)〜(3)のいずれかに記載の蛋白質製造方法。
(5)家禽鳥類がニワトリ、ウズラ、もしくはダチョウである(4)に記載のタンパク質製造法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、遺伝子組換え鳥類が生産するタンパク質の発現量を向上させる簡便な手段が提供される。従来から動物工場として応用されるこれら遺伝子組換え鳥類において、目的タンパク質の生産量を向上するためには、プロモーターや転写後調節因子をベクターに組み込んで最も適切な組み合わせを選択する方法が取られており、遺伝子組換え鳥類を取得してタンパク質の発現量を確認するまでに長い期間と労力が必要である。目的タンパク質を高生産する遺伝子組換え鳥類の選抜におけるデメリットを、与える飼料中アミノ酸成分を最適化するという極めて簡便な方法で解決することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で動物工場として使用される遺伝子組換え鳥類を作製するための遺伝子導入法については特に限定されることはないが、一般的に使用される顕微核移植法やウイルスベクター法などが挙げられる。
【0014】
遺伝子組換え鳥類に導入される外来遺伝子としては、ヒト由来インターフェロンや、ヒト由来エリスロポエチン、G−CSF等の医療用生理活性タンパク質の構造遺伝子が挙げられる。
【0015】
また、遺伝子組換え鳥類に導入される遺伝子としては、ネコやイヌなどの愛玩動物に対する生理活性タンパク質の構造遺伝子が挙げられる。近年、ネコやイヌの疾病治療においても医薬用タンパク質が注目されており、ヒト用の医薬用タンパク質が転用されている。しかし、ヒト用の医薬用タンパク質はネコやイヌが本来持つタンパク質とアミノ酸配列が異なるため、その副作用として、アレルギーや重篤なアナフィラキシー様症状を引き起こすことがある。よって、高頻度の投与が可能なネコやイヌ本来のアミノ酸配列を持つ専用の医薬用タンパク質が求められている。
【0016】
現在までに愛玩動物用の医薬用タンパク質のとして、いくつかのサイトカインが研究されており、ネコ由来サイトカインとして報告されているものにはエリスロポエチン(Blood. 1993 Sep 1;82(5):1507-16)、インターフェロン(Vet Immunol Immunopathol. 1986 Jan;11(1):1−19)、インターロイキン12(WO97/046583)などが挙げられる。サイトカインとは細胞から放出され、免疫、炎症反応の制御作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、細胞増殖・分化の調節作用など細胞間相互作用を媒介するタンパク質性因子である。
【0017】
サイトカインのような高等生物のタンパク質は翻訳後、生理活性を有するよう特定の構造をとるようリフォールディングしたり、糖付加やジスルフィド結合などの種々の修飾を受け、これら修飾は同一個体内でも組織によって異なる。これまでに遺伝子組換えを用いて、ヒト由来タンパク質の生産が試みられてきたが、同一の活性を有するタンパク質でもヒトとネコではアミノ酸配列が異なる。例えば、エリスロポエチンにおいては、ヒトとネコとのアミノ酸の相同性は83%程度にとどまる。また、ヒトとネコでは修飾される糖鎖配列が異なるため、ヒト由来タンパク質で生産が可能であったからといってネコ由来タンパク質でその生産が可能であるとは言い難い。従って、遺伝子組換え鳥類によるネコ由来エリスロポエチンの生産法を確立することは有意義であり、かつその卵中タンパク質生産量を最適に向上させることにより、より安価なネコ用の治療薬が提供できる。
【0018】
外来性遺伝子は目的タンパク質のコード配列を含み、コード配列の境界は5’末端の開始コドン、及び開始コドンに対応する3’末端の終始コドンにより決定される。5’末端の開始コドン近傍はコザックのコンセンサス配列を含むことが好ましい。コード配列の上流にはリボソーム結合部位が存在していることが好ましい。また生理活性タンパク質をコードする遺伝子は、活性タンパク質そのものの配列でも、前駆体の配列でもよい。
【0019】
外来性遺伝子は、鳥類細胞内で発現するために適当なプロモーター遺伝子の少なくとも一部または全部を含んでいることが好ましい。プロモーター遺伝子とは遺伝子の転写開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節する、DNAまたはRNA上の領域のことである。
【0020】
導入される構造遺伝子の発現を制御するためには、組織特異的なプロモーター遺伝子等が用いられる。組織特異的なプロモーター遺伝子とは、鳥類の特定の組織・細胞で特別に活性の強いプロモーター遺伝子のことである。組織特異的なプロモーター遺伝子を用いることにより、目的タンパク質の発現が宿主鳥類の発生や生存に悪影響を与える可能性を減少または排除できる利点がある。組織特異的なプロモーター遺伝子としては特に限定されないが、鳥類における卵管特異的なプロモーター遺伝子等を挙げることができる。卵管組織は性成熟後に活発に活動することから性成熟後に強く誘導されることが多い。
【0021】
卵管特異的なプロモーター遺伝子として鳥類由来のオボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイド、オボムチン、リゾチーム、G2 グロブリン、G3 グロブリン、オボインヒビター、オボグリコプロテイン、オボフラボプロテイン、オボマクログロブリン、シスタチン、アビジンのプロモーター遺伝子等をあげることができる。これらの卵管特異的なプロモーター遺伝子を用いた場合、目的タンパク質を卵白中に高発現させることができることが特に好ましい。
【0022】
このほかのプロモーターとしては、組織非特異的なプロモーターがある。組織非特異的なプロモーター遺伝子とは、組織特異的なプロモーター遺伝子でないプロモーター遺伝子のことである。組織非特異的なプロモーター遺伝子としては特に限定されないが、宿主動物のほぼ全ての体細胞で活性のあるものをいう。その場合、目的タンパク質は血中にも発現するため幼生の段階で発現の可否を検出できるという利点がある。組織非特異的なプロモーター遺伝子としては特に限定されないが、βアクチンプロモーター遺伝子、EF1αプロモーター遺伝子、チミジンキナーゼプロモーター遺伝子やシミアンウイルス40(SV40)プロモーター遺伝子、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター遺伝子、ラウスザルコーマウイルス(RSV)プロモーター遺伝子等のウイルス由来プロモーター遺伝子が挙げられる。他に、テトラサイクリン誘導型プロモーター遺伝子のような、組織非特異的な誘導型プロモーター遺伝子を用いても良い。
【0023】
外来性遺伝子は転写エンハンサー及び/又は調節エレメントを含んでいてもよい。転写エンハンサーはプロモーター遺伝子からの転写を促進する配列であるが、単独では転写を起こせないDNAまたはRNA上の領域のことである。本来機能しているものとは異なるプロモーター遺伝子に連結した場合にも機能することが多いのでプロモーター遺伝子との組み合わせについては限定しない。転写エンハンサーとしては、特に限定されないが、SV40、CMV、チミジンキナーゼエンハンサー、ステロイド応答エレメントやリゾチームエンハンサー等が挙げられる。調節エレメントは転写調節や、転写後のRNAの安定化に寄与する単独では転写を起こせないDNAまたはRNA上の領域のことである。調節エレメントとしては特に限定されないが、WPRE(ウッドチャック肝炎ウイルス由来調節エレメント、米国特許6136597号公報)等が挙げられる。
【0024】
遺伝子を導入される宿主鳥類としては、卵中に目的タンパク質を蓄積するものとして、飼育の容易なニワトリ、ウズラ、七面鳥、カモ、アヒル、ダチョウ、ガチョウ、オナガドリ、チャボ、ハト、エミュー、キジ、ホロホロチョウなどの家禽鳥類が好ましい。生産性の観点からは、卵の容積が大きいダチョウなどが好ましく、なかでもニワトリは入手が容易で、産卵種としても多産であり、卵も大きく大量飼育方法が確立している点で特に好ましい。
【0025】
卵中に蓄積された目的タンパク質の精製は、遺伝子組換え鳥類の卵とくに卵白成分を純水もしくは平衡塩類溶液で希釈した溶液から、カラム法やろ過法で行うことができる。希釈は卵白の粘性を低減し、カラム法を円滑に行う目的で行われ、粘性低減のためには高倍に希釈することが望ましい反面、容積が増えると回収が困難になることから、2倍から20倍が好ましく、4倍から6倍に希釈するのがより好ましい。
【0026】
この卵白溶液から、例えばネコ由来エリスロポエチンを回収するには、塩析法、吸着カラムクロマトグラフ法、イオン交換カラムクロマトグラフ法、ゲルろ過カラムクロマトグラフ法、抗体カラム法を単独、もしくはこれらを組み合わせて精製することができるが、これらのみに限定されるものではない。吸着クロマトグラフ法としては、ブルーセファロースクロマトグラフ、ヘパリンクロマトグラフ等があり、イオン交換カラム法としては、陰イオン交換クロマトグラフ法等が挙げられる。
【0027】
卵白からネコ由来エリスロポエチンを精製するには、前処理としてバッファーで希釈してpH調整ののちにブルーセファロースカラム(GEヘルスケア社製)に供し、透析後陽イオン交換カラム(SPカラム)で目的物を分画し、限外濃縮したのちに脱塩カラム処理後、陰イオン交換カラム(DEAEセファロースカラム)精製で純度99%以上のネコエリスロポエチンを取得することができるが、精製法はこの方法に限定されず、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用する方法や、抗エリスロポエチン抗体カラムによる方法等も適用できる。
【0028】
飼料に添加するアミノ酸としては、天然物由来のものが好ましいが、化学合成されたものでもよく、L体が好ましいがDLの混合体でもよい。
【0029】
ブタやニワトリ、ウシやヒツジ、ヤギ、養殖魚などの畜産動物には生産に必要な栄養素の要求量が決まっておりいて、種によって異なる要求量を満たすように飼料を配合する。最近ではコンピューターにより配合割合を計算することも可能である。飼料原料として一般的な穀類や油かす類は、動物にとって最適な栄養バランスを備えているわけではなく、アミノ酸については大豆かすを除くほとんどの植物性飼料原料において、動物の成長に必要なリジンの含量不足が指摘されている。
【0030】
配合飼料中のアミノ酸を最適化するには、その目的により不足するアミノ酸が異なる。例えば前述の畜産動物の成長を最適化するには、植物性飼料原料に不足しがちなリジンとして結晶L−リジン塩酸塩を添加することが考えられる。食肉を目的とする畜産動物の飼料設計には、成長を促進し、体重を増加させることが第一義ではあるが、最近では消費者の嗜好に合わせた肉質のウシやブロイラー鶏を得るためのアミノ酸の最適化も考えられる。
【0031】
近年では、畜産動物の排泄物中に含まれる窒素化合物も土壌汚染の観点から問題であり、排泄物中の窒素化合物を低減するための飼料アミノ酸組成の最適化も必要な課題となっている。しかし現在までに、遺伝子組換え鳥類で卵中に蓄積される導入遺伝子由来のタンパク質の量を、アミノ酸栄養の最適化で向上できるかどうかの知見は、動物工場の実用化には重要な課題であるにもかかわらず存在しなかった。
【0032】
この観点から、例えばネコ由来エリスロポエチン発現遺伝子導入遺伝子組換えニワトリの卵中に蓄積される、ネコ由来エリスロポエチンの蓄積量を向上させるため、L−リジンを添加することが可能であり、またDL−メチオニンを添加することもできる。またリジンとメチオニンを同時に添加することも可能であり、より効果を高めることができる。またこれら以外にもシスチンやスレオニン、トリプトファンも不足しがちであり、利用可能である。もちろんこれらの成分を単独、もしくは複合的に添加して効果を高める事ができる。これらのアミノ酸は、結晶でもアモルファスでもよく、またこれらのアミノ酸を高率に含有する植物、動物成分など不純物を含むものを用いても良い。結晶純品としては、L体もしくはDL混合体が使用できる。
【0033】
これらのアミノ酸添加量としては、例えばDL−メチオニンの場合、飼料1kgに対して0.5g以上が好ましく、より好ましくは飼料1kgに対して1g以上である。リジンの場合飼料1kgに対して0.25g以上が好ましく、より好ましくは、飼料1kgに対して0.5gである。
【実施例】
【0034】
以下実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。遺伝子操作について特に記述のないものに関しては代表的な方法に従った(J,Samnrook,E.F.Fritsch,t.Maniatis;Molecular Cloning,A Laboratry Manual,2nd Ed,Cold Spring Harbor Laboratory)。細胞培養について特に記述のないものに関しては代表的な方法に従った。商品名を記載している場合は特に記述のない限り添付の説明書の指示に従った。
【0035】
遺伝子組換え鳥類の作製法については限定されないが、本実施例では特許公開第2007−89578号公報に記載のネコ由来エリスロポエチンを発現する遺伝子組換えニワトリの例について述べる。
【0036】
(実施例1)ネコ由来エリスロポエチン遺伝子発現用プラスミドpMSCVneobactfEPOの構築
ネコ由来エリスロポエチンは、配列番号1で示される。
【0037】
pMSCVneobact(配列番号2)は公知文献(Gene Ther.1994 MAR;1(2):136−8.)とインターネットの情報(http://www.ncbi.nlm.NIH.gov/他)を元に全合成し、pUC19(ジェンバンク アクセッション番号X02514)のEheI(235)〜PvuII(628)間に挿入した(東洋紡績社製)。これを、HindIII(タカラバイオ社製)で切断し、Alkaline Phosphatase BAP(タカラバイオ社製)処理後、MinElute Reaction Cleanup Kit(QIAGEN社製)により精製、回収した。これを、1%アガロースゲル電気泳動し、目的断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)により精製、回収した(実施例1ベクター断片)。
【0038】
pUCfEPO(配列番号3)は911〜1489bpにネコ由来エリスロポエチンの配列をコードする。DNAポリメラーゼとしてPyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用い、pUCfEPOを鋳型として、2つの化学合成オリゴヌクレオチド5’−agccaagcttaccatggggtcgtgcgaatgtcctgccctgctgcttc−3’(配列番号4)及び5’−cgataagcttacgcgttcacctgtctcctcttcggcag−3’(配列番号5)(下線部はHindIII制限酵素部位)をプライマーとするPCRにより増幅した断片をMinElute PCR Purification Kit(QIAGEN社製)により精製、回収しHindIII(タカラバイオ社製)で切断した。これを、1%アガロースゲル電気泳動し、目的断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)により精製、回収した(実施例1インサート断片)。
【0039】
実施例1ベクター断片と実施例1インサート断片をDNA Ligation Kit Ver.2.1(タカラバイオ社製)を用い連結し、これをE.coli DH5alpha Competent Cells(タカラバイオ社製)を用い、形質転換した。形質転換株より図1の構造を持つプラスミドを選択し、pMSCVneobactfEPOとした。
【0040】
なお、図1中のマーカー遺伝子beta−lactamase、ウイルスパッケージングシグナル配列phi+、マーカー遺伝子Neomycin resistance gene、組織非特異的なプロモーター遺伝子beta−actin promoter、並びに、長い反復配列5LTR及び3LTRはすべて、pMSCVneobactに由来するものである。
【0041】
(実施例2)pMSCVneobactfEPOとpVSV−Gを用いたレトロウイルスベクターの調製
以後特に記述の無い限り、培地は10%の牛胎児血清(Fetal Bovine Serum,FBS)と50units/mlのペニシリン、ストレプトマイシンを含むダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco‘s Modified Eagle Medium,DMEM)を用いた(ギブコ社製)。培養は37℃、CO25%でおこなった。レトロウイルスベクターに用いるプラスミドDNAはEndo Free Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社製)を用いた。
【0042】
実施例1で構築したプラスミドpMSCVneobactfEPOよりレトロウイルスベクターを調製するため、gag、pol遺伝子を持つパッケージング細胞GP293を、コラーゲンコートされた直径100mmの培養ディッシュに細胞数5×106個/ディッシュ(70%コンフルエント)となるように播種した(翌日90%コンフルエントとなるようにする)。次の日、培地を取り除き、7.2mlの培地と10μlの25mMクロロキン(シグマ社製)を加えて、更に1時間培養した。56μlのLipofectamine.2000(インビトロジェン社製)を1.4mlのOpti−MEMI培地(ギブコ社製)に懸濁し、室温で5分間おいた。12μgのpMSCVneobactfEPOと12μgのpVSV−Gを1.4mlのOpti−MEMI培地に懸濁した。Lipofectamine.2000溶液とプラスミドDNA溶液を混合し、室温で20分おいた。これを、培養ディッシュに全量加え、6時間培養した。6時間後、培地を取り除き9mlの培地と200μlの1M HEPES Buffer Solution(ギブコ社製)を加え、更に24時間培養した。
【0043】
培養上清を0.45μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック社製)に通し、遠心管に集めた。超遠心機CS100GXL(日立工機社製)を用い、28000rpm(50000g)で1.5時間遠心分離した。上清を取り除き、沈殿に20μlのTNE緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.8)、130mM NaCl、1mM EDTA)を加え、4℃で一晩放置後、よく懸濁して小型高速遠心機で12000rpmで1分遠心分離し、上清を0.45μmのデュラポアウルトラフリーフィルター(アドバンテック社製)に通しウイルス液とした。
【0044】
(実施例3)ウイルス力価の測定
ウイルス液の力価は、NIH3T3細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション CRL−1658)にウイルス液を添加したとき、感染した細胞の数によって定義した。6ウェル培養プレートの各ウェル(底面積約9.4cm2)に存在する5×104のNIH3T3細胞に、102から106倍の希釈率で希釈した実施例2のウイルス溶液を1ml加え、マーカーであるネオマイシン耐性遺伝子を発現している細胞の割合を、G418に対する耐性から調べることによりウイルス液の力価を測定した。106倍希釈で4コロニー現れた場合、ウイルス力価は、4×106cfu/mlとなる。
【0045】
具体的には,力価測定開始の前日にNIH3T3細胞を6ウェル培養プレートに5×104個/ウェルとなるよう播種し培養した。翌日、細胞の培地を9μg/mlのポリブレンを含有する培地900μg/mlと交換し、ウイルス液を培地で10-1〜10-5に希釈し、それぞれ100μlをウェルに添加して感染させた(ポリブレン終濃度8μl/ml)。4〜6時間培養後、1mlの培地を更に加えた。次の日、培地を800μg/mlのG418を含む培地と交換し、以後3〜4日おきにG418含有培地と交換した。感染から約2週間後プレートをメチレンブルー液で染色し、得られたコロニー数を測定し力価を求めた。
【0046】
(実施例4)ネコ由来エリスロポエチン安定パッケージング細胞の選択
ウイルス感染の前日に24ウェル培養プレートにGP293細胞を1.5×104個/ウェルとなるよう播種し培養した。ウイルス感染の当日10μg/mlのポリブレンを含有する培地1mlと交換した。これに、(実施例2)で作製したウイルス液を感染させた。以後、細胞を限界希釈法によりクローン化する。具体的には、次の日、細胞を800μg/mlのG418を含む培地に懸濁し、同じ培地に10個/mlとなるように希釈した。希釈した細胞を96ウェル培養プレートに100μlずつ播種し(ウェルに一個の細胞が入るようにする)、細胞増殖速度が早く、GP293と形態の近い細胞を選択し、ネコ由来エリスロポエチン安定パッケージング細胞クローンを得た。
【0047】
(実施例5)ネコ由来エリスロポエチン安定パッケージング細胞とpVSV−Gを用いたレトロウイルスベクターの調製
直径100mmのコラーゲンコートされた培養ディッシュに実施例4で得られたネコ由来エリスロポエチン安定パッケージング細胞を5×106個(70%コンフルエント)となるように播種した。翌日90%コンフルエントとなるようにする。次の日、培地を取り除き、7.2mlの培地と10μlの25mMクロロキンを加えて、更に1時間培養した。56μlのLipofectamine.2000を1.4mlのOpti−MEMI培地に懸濁し、室温で5分間おいた。12μgのpVSV−Gを1.4mlのOpti−MEMI培地に懸濁する。Lipofectamine.2000溶液とプラスミドDNA溶液を混合し、室温で20分おいた。これを、培養ディッシュに加え、6時間培養した。培地を取り除き、9mlの培地と200μlの1M HEPES Buffer Solutionを加え、24時間培養した。培養上清を0.45μmのセルロースアセテートフィルターに通し、遠心管に集めた。超遠心機を用い、28000rpm(50000g)で1.5時間遠心分離した。上清を取り除き、沈殿に20μlのTNE緩衝液を加え、4℃で一晩放置後、よく懸濁して小型高速遠心機で12000rpmで1分遠心分離し、上清を0.45μmのデュラポアウルトラフリーフィルターに通しウイルス液とした。このようにして、108cfu/ml以上の力価を持つウイルス液が得られた。
【0048】
(実施例6)ニワトリ胚へのレトロウイルスベクターのマイクロインジェクションと人工孵化
マイクロインジェクションと人工孵化は無菌条件下でおこなう。ニワトリ受精卵(城山種鶏場)の外側を消毒液(昭和フランキ社製)及びエタノールで除菌する。孵卵機P−008(B)型(昭和フランキ社製)を38℃、湿度50〜60%の環境になるようセットし、電源を入れた時刻を孵卵開始時刻(0時間)とし、以後15分毎に90°転卵しながら孵卵を行った。
【0049】
孵卵開始から約55時間経過後、孵卵機から卵を取り出し、その鋭端部を直径3.5cmの円形にダイヤモンド刃(刃先径20mm、シャフト径2.35mm)を付けたミニルーター(プロクソン社製)で切り取った。ニワトリ二黄卵(城山種鶏場)の鋭端部を直径4.5cmに切り取り、中身を捨てた卵殻に受精卵の中身を移し、注射器の内筒で胚を上方へ移動させた。実体顕微鏡システムSZX12(オリンパス社製)下で、フェムトチップII(エッペンドルフ社製)にウイルス液を注入し、フェムトジェット(エッペンドルフ社製)を用い、実施例5のウイルス溶液約2μlをマイクロインジェクションした。
【0050】
卵白を糊として約8かける8センチに似きったサランラップ(旭化成社製)でこの孔を塞ぎ、孵卵機に戻し孵卵を続けた。孵卵機の転卵を30分毎に30°転卵に変更した。孵卵開始から20日目にサランラップに20Gの注射針で20個程度穴を開け、孵卵機に60cc/minで酸素を供給し孵卵を行った。雛がハシ打ちを始めたら卵殻を割って孵化させた。
【0051】
(実施例7)メチオニン、リジンを添加した飼料の調製
実施例6で作製した遺伝子組換えニワトリの飼料としては、農林水産省による産卵鶏用配合飼料の公定規格(平成18年度5月26日 農林水産省告示 第722号)を満たす市販品を使用した。原材料としては穀類(とうもろこし、マイロ、米など)が50%以上を占め、植物性油かす類(大豆油かす、なたね油かすなど)、そうこう類(米ぬか、ふすま、など)、魚紛、動物性油脂、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、食塩などのミネラル類、ビタミンA,D,ビタミンBなどが配合されている。
【0052】
実施例6で作製されたネコ由来エリスロポエチン遺伝子導入ニワトリの雌雛を市販の配合飼料で6ヶ月以上飼育し、性成熟させた。産卵開始した該遺伝子組換えニワトリに、メチオニン添加飼料、リジン添加飼料、メチオニンおよびリジン添加飼料を自由採餌の方法で給餌し、添加飼料給餌前後で卵中のネコ由来エリスロポエチンの量を測定して変化を計測した。
【0053】
アミノ酸添加飼料は以下に述べるように調製したが、この方法に限定されるものではない。メチオニンはDL−メチオニン(コーキン化学社製)を飼料1kgあたり1gとなるよう添加して均一になるよう混合した。リジンはL−リジン塩酸塩(コーキン化学社製)を飼料1kgあたり0.5gとなるよう添加して均一となるよう混合した。メチオニンおよびリジンを各々飼料1kgあたり1g、0.5gとなるよう添加したものをメチオニンおよびリジン添加飼料とした。
【0054】
(実施例8)ネコ由来エリスロポエチンの測定法
ネコ由来エリスロポエチン含有量の測定は、Bicore3000(BIACORE社製)にて行った。Sensor Chip CM5 reserch grade(BIACORE社製)に抗ヒトエリスロポエチンモノクローナル抗体(R&Dシステム社製)をアミンカップリングキット(BIACORE社製)でNHS固定化して測定用チップとし、エポジン(中外製薬社製)を標準物質として、装置の定量用プログラムを用いて濃度を測定した。
【0055】
ネコ由来エリスロポエチンを卵中に蓄積する遺伝子組換えニワトリに、メチオニン添加飼料、リジン添加飼料、メチオニンおよびリジン添加飼料を自由採餌の方法で給餌し、添加前1週間と添加1週間後から2週間後までの卵中ネコ由来エリスロポエチン含量の平均値を比較したところ、いずれも有意にネコ由来エリスロポエチン含量が増加した。リジン、メチオニンの単独添加は60%程度、ネコ由来エリスロポエチン含量を向上させたのに対し、リジンとメチオニンの共添加はネコ由来エリスロポエチン含量を2倍にしたことから、この両アミノ酸の同時添加は単独添加以上の相乗効果をあげることがわかった。このことから遺伝子導入動物の飼料中の、不足しやすいアミノ酸を補完することで、目的タンパク質の生産量を後天的に簡便に向上させることが可能と考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1で構築した、ネコ由来エリスロポエチン発現用ベクターpMSCVneobactfEPOの構造を示す。phi+はウイルスパッケージングシグナル配列を示す。モロニーマウス白血病ウイルスのパッケージングシグナル配列にgagの開始コドン(ATG)をTAGに変更したgagの一部が付随している。fEPOはネコ由来エリスロポエチン遺伝子を示す。5’LTR及び3’LTRはMSCVのLTR配列を示す。
【図2】実施例7で示したように、メチオニンを飼料に添加する前の1週間と添加1週間後から2週間後にかけての卵中ネコ由来エリスロポエチン平均含量を示す。バーはこの期間の卵中ネコ由来エリスロポエチン含量の標準偏差を示す。
【図3】実施例7で示したように、リジンを飼料に添加する前の1週間と添加1週間後から2週間後にかけての卵中ネコ由来エリスロポエチン平均含量を示す。バーはこの期間の卵中ネコ由来エリスロポエチン含量の標準偏差を示す。
【図4】実施例7で示したように、メチオニンおよびリジンを飼料に添加する前の1週間と添加1週間後から2週間後にかけての卵中ネコ由来エリスロポエチン平均含量を示す。バーはこの期間の卵中ネコ由来エリスロポエチン含量の標準偏差を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外来遺伝子を鳥類に導入し、前記遺伝子を発現させた遺伝子組換え鳥類にメチオニンおよび/またはリジンを添加した飼料を与え、その卵から前記外来遺伝子発現産物を精製することを特徴とするタンパク質製造方法。
【請求項2】
飼料1kgに対してメチオニンを0.5g以上および/またはリジンを0.25g以上添加することを特徴とする請求項1記載のタンパク質製造方法。
【請求項3】
外来遺伝子がネコ由来エリスロポエチンであることを特徴とする請求項1または2に記載のタンパク質製造方法。
【請求項4】
外来遺伝子を導入された遺伝子組換え鳥類が、家禽鳥類である請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質製造方法。
【請求項5】
家禽鳥類がニワトリ、ウズラ、もしくはダチョウである請求項4に記載のタンパク質製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−111595(P2010−111595A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283384(P2008−283384)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】