説明

遺伝毒性試験

本発明は、DNA損傷を誘導または増強すると推定される物質の存在を検出するための方法であって、(ヒトGADD45α遺伝子プロモーターと、DNA損傷に応答してDNA配列の発現を活性化するために配列されたヒトGADD45α遺伝子調節エレメントとに機能的に結合したガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質をコードするDNA配列を含有する)細胞を物質に曝露させるステップと、前記細胞からの前記GLucレポータータンパク質の発現を測定するステップとを含む方法に関する。本発明はさらに、当該方法によって使用できる発現カセット、ベクターおよび細胞ならびに本発明の方法のアッセイおよび好ましい実施形態において使用できる改変培地にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム損傷を誘導または増強する物質を検出するための方法、ならびに当該方法において使用できる分子およびトランスフェクト細胞株に関する。詳細には、本発明は、ヒト細胞培養およびその他の哺乳動物細胞株におけるゲノム損傷を検出するためのバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム損傷は、様々な物質、例えば紫外線、X線、フリーラジカル、メチル化剤およびその他の突然変異誘発化合物によって誘導されるDNA損傷を通して発生する可能性がある。ゲノム内の染色体の数は、異数性誘発物質(aneugens)として公知の化合物によって変化させられることがある。DNA損傷および/または異数性誘発性は、さらにまたDNA(ポリメラーゼおよびトポイソメラーゼを包含する)と相互作用する酵素およびタンパク質に影響を及ぼす物質または原変異原(変異原性になるように代謝され得る物質)のいずれかによって間接的に誘導される可能性もある。これらの物質のいずれかは、微生物の遺伝コードを含むDNAに対する損傷を引き起こし、遺伝子内の突然変異を引き起こす可能性がある。動物では、当該の突然変異または染色体数の変化は発がん現象を引き起こすことがある、または配偶子を損傷させて子孫における先天性欠陥を生じさせることがある。当該のDNA損傷物質は、集合的に遺伝毒性物質として公知の可能性がある。
【0003】
これらのDNA損傷物質は、DNAを含むヌクレオチドを化学的に修飾し、ヌクレオチドを結合するホスホジエステル結合を破壊する、または塩基間の結び付き(T−AまたはC−G)を崩壊させる可能性がある。その他のゲノム損傷物質は、DNAの構造的成分(例、ヒストン)、核および細胞分割の機序(例、スピンドル形成)、または例えばトポイソメラーゼおよびポリメラーゼなどのゲノム維持系に影響を及ぼす可能性がある。これらのDNA損傷物質の作用に対抗するために、細胞は、多数の機序を進化させてきた。例えば、大腸菌(E.coli)におけるSOS応答は、損傷したDNAを修復するDNA修復酵素を包含する一連のタンパク質が発現する、DNA損傷によって誘導されることが明確に特徴付けられた細胞応答である。哺乳動物では、例えばヌクレオチド除去修復および塩基除去修復機序などの系はDNA損傷修復において顕著な役割を果たし、そして巨大なDNA付加物および修飾塩基を除去するための一次機序であるが、他方では非均質な末端結合および均質な組換えは鎖分解の修復において重要である。これらの系の大多数は、細胞分割を通して進行する前に細胞が修復するのを許容するために細胞周期の停止もまた生じさせる。
【0004】
どの物質がゲノム損傷を誘導または増強するのかを同定することが重要である極めて多数の状況がある。ヒトをこれらの物質に曝露させるのが安全であるかどうかを判定する場合には、ゲノム損傷を誘導する物質を検出することが特に重要である。例えば、これらの物質を検出する方法は、当該の化合物がゲノム損傷を誘導するか否かを判定するための候補の医薬品、食品添加物または化粧品である化合物をスクリーニングするための遺伝毒性アッセイとして使用できる。または、ゲノム損傷物質を検出する方法は、変異原化合物を含有する汚染物質による上水道の汚染について監視するために使用できる。
【0005】
物質の遺伝毒性を決定するために、様々な方法、例えばエームズ(Ames)試験、インビトロ小核試験およびマウスリンパ腫アッセイ(MLA)が公知であるが、多数の理由から不十分である。例えば、サンプルのインキュベーションには数週間を要し、もっと短い時間枠で遺伝毒性データを入手するのが望ましいことが多い。さらに、DNA損傷を検出する多数の公知の方法(エームズ試験および関連方法を包含する)は、誤修復DNA(突然変異および組換え)形態またはフラグメント化DNAの形態にある未修復損傷のいずれかでのエンドポイントとして持続性DNA損傷をアッセイする。しかし、大多数のDNA損傷は、当該のエンドポイントを測定できる前に修復され、持続性DNA損傷は、修復機序が満たされる条件が極めて厳しい場合にのみ発生する。DNA損傷は、正しく修復される、または突然変異が生じるように不正確に修復されることがある。この突然変異エンドポイントは、DNA修復後に測定できる。例えばDNA二本鎖切断などの持続性DNA損傷は、致死性である。
【0006】
改良された遺伝毒性試験は、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)などの発光レポータータンパク質をコードするDNA配列に機能的に結合した、DNA損傷に応答して遺伝子発現を活性化する酵母(Saccharomyces cerevisiaie)調節エレメントを含む組換えDNA分子に関連する国際特許出願公開第98/44149号明細書に開示されている。当該のDNA分子は、DNA損傷を誘導または増強する物質の存在について検出するための遺伝毒性試験において使用するために、酵母細胞を形質転換させるために使用できる。細胞を物質に曝露させることができ、該細胞由来の発光レポータータンパク質(GFP)の発現は、該物質がDNA損傷を誘導することを示す。国際特許出願公開第98/44149号明細書に記載された遺伝毒性試験は、エンドポイントに到達することを防止できる修復活性の誘導を検出する。このため国際特許出願公開第98/44149号明細書に記載した方法は、DNA損傷物質の存在を検出するために使用できる。
【0007】
米国特許第6,344,324号明細書は、GFPをコードするDNA配列に結合した、広範囲の細胞ストレス条件に応答して遺伝子発現を活性化するハムスターGADD153上流プロモーター領域の調節エレメントを含む組換えDNA分子について開示している。このレポーター系は、ヒト頭頸部扁平細胞癌細胞株内で実施される。しかし、このレポーター系に関連する問題は、続くフローサイトメトリーによる蛍光の分析のためには、10%未満の細胞生存率を生じさせる試験物質濃度において、少なくとも4日間の処置期間を必要とすることである。さらに、この毒性レベルにある物質で試験した場合には、あらゆる遺伝子誘導の生物学的関連性が検出される。さらに、この開発は、DNA損傷を誘導または増強する可能性がある物質の存在について詳細に監視する手段は開示しておらず、GADD153誘導の機序は依然として不明である。そこで、この系は、ヒトDNA損傷バイオセンサーとしての使用は極めて限定されている。
【0008】
国際出願PCT/GB2005/001913号明細書は、発光タンパク質に結合したヒトGADD45α遺伝子の調節エレメントを含む組換えDNA分子について開示している。このレポーター系は、遺伝毒性アッセイについての毒性の通常範囲内での遺伝毒性物質の高速ハイスループット検出を可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態の1つの目的は、先行技術に関連する問題を解決すること、およびヒト細胞培養内のゲノム損傷を検出するための改良されたバイオセンサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様によると、ガウシア・ルシフェラーゼ(Gaussia luciferase(GLuc))レポータータンパク質およびその誘導体をコードするDNA配列を含む発現カセットであって、該DNA配列は、ヒトGADD45α遺伝子プロモーターおよびゲノム損傷に応答してガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質をコードするDNA配列の発現を活性化するように配列されたヒトGADD45α遺伝子調節エレメントに機能的に連結している発現カセットが提供される。
【0011】
用語「調節エレメント」は、それが結び付いている遺伝子、つまりガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質をコードするDNA配列、の転写を調節するDNA配列を意味する。
【0012】
用語「機能的に結合した」は、調節エレメントがGLucレポータータンパク質の発現を誘導できることを意味する。
【0013】
本発明の第2態様によると、第1態様による発現カセットを含む組換えベクターが提供される。
【0014】
本発明の第3態様によると、本発明の第2態様による組換えベクターを含有する細胞が提供される。
【0015】
本発明の第4態様によると、ゲノム損傷を誘導または増強する物質の存在について検出する方法であって、本発明の第3態様によって細胞を1つの物質に曝露させるステップと、該細胞からのGLucレポータータンパク質の発現を監視するステップとを含む方法が提供される。
【0016】
本発明の第4態様の方法は、製薬産業および有意な数の物質または化合物を試験する必要がある他の用途において使用するための事前規制スクリーニングアッセイを提供するために使用できる、新規の費用効果的な遺伝毒性スクリーニングを提示する。本方法は、現行のインビトロおよびインビボの哺乳動物遺伝毒性アッセイより高速のスループットおよび少ない化合物消費量を提供し、広範囲の遺伝毒性物質に対して感受性である。
【0017】
本発明の第4態様の方法は、物質がゲノム損傷を誘導する可能性があるか否かを判定するために適している。「ゲノム損傷」には、本発明者らは、ヒストン脱アセチル化阻害剤を包含するDNAの構造的成分(例、ヒストン)、核および細胞分割の機序(例、スピンドル形成)、または例えばトポイソメラーゼおよびポリメラーゼなどのゲノム維持系ならびにDNA修復系に影響を及ぼす物質を包含している。本発明者らはさらに、DNA損傷、例えばヌクレオチドの化学修飾またはヌクレオチドの挿入/欠失/置換;ならびに染色体数の変化、およびDNA合成を包含している。好ましくは、本発明者らは、「ゲノム損傷」がDNA損傷を意味すると考える。
【0018】
ヒトをゲノム損傷物質に曝露させるのが安全であるかどうかを判定する場合にゲノム損傷を誘導する物質を検出することは特に有用である。例えば、本方法は、公知の物質、例えば候補の医薬品、製薬用および工業用化学物質、殺虫剤、殺菌剤、食料品または化粧品がゲノム損傷を誘導するか否かをスクリーニングするための遺伝毒性アッセイとして使用できる。または、本発明の方法は、ゲノム損傷物質を含有する汚染物質で上水道、浸出液および廃液の汚染について監視するために使用できる。
【0019】
国際出願PCT/GB2005/001913号明細書に記載された現行の遺伝毒性アッセイは、発光タンパク質であるGFPに結合したヒトGADD45α遺伝子の調節エレメントを含む組換えDNA分子を使用する。その系は、蛍光分光法を使用する遺伝毒性アッセイについての毒性の通常範囲内での遺伝毒性物質の高速ハイスループット検出を可能にする。
【0020】
本発明者らは、レポータータンパク質を生物発光によって検出できるまた別の遺伝毒性アッセイを開発することを決意した。レポータータンパク質の発現をアッセイするために蛍光ではなく生物発光を使用することは、数多くの利点を有する。第1に、それ自体が蛍光性である試験化合物は、蛍光レポータータンパク質の発現の検出に影響を及ぼす可能性がある。これは、生物発光レポータータンパク質が使用される場合は、試験化合物が発光性であることはたとえあっても極めてまれであるので、問題とはならないと思われる。そこで、生物発光の使用は、アッセイにおいて蛍光化合物および試薬によって誘導される干渉を制限するので、これはより広い範囲の試験化合物をアッセイできることを意味する。さらに、本アッセイにおいて使用される試験化合物が発光性であることは極めてまれであるので、これは発光性レポータータンパク質を使用する遺伝毒性アッセイにコントロール反応を包含する必要が低いことを意味する。そこで、極めて多数の試験化合物を並行してアッセイすることができる。さらに、破壊または変異した発光レポータータンパク質を使用するコントロール反応を包含することも不必要である。
【0021】
ルシフェラーゼ類は、生体において光生成化学反応を触媒する一連の酵素である。ルシフェラーゼ類は、生物発光レポータータンパク質の一例である。それらの発現は、発光読取りが可能な適切なマイクロプレートリーダーを使用して監視することができる。マイクロプレートリーダーは、生物発光に基づくアッセイにおいて使用できる。
【0022】
生物発光は、様々な微生物において進化した化学発光の形態である。別個の進化史を通して引き出される多数の別個のクラスの生物発光が存在する。これらのクラスは、それらの化学的特性において広汎に相違するが、それでもそれらは類似の化学反応、つまりジオキセタン構造の形成および破壊に曝される。これらのクラスは全部が、酵素ルシフェラーゼの発光基質ルシフェリンとの相互作用に基づいている。
【0023】
ルシフェラーゼ遺伝子は、細菌、昆虫(例、ホタルおよびコメツキムシ)、Renilla(ウミシイタケ)、Aequorea(オワンクラゲ)、Vargula(ウミホタル)およびGonyaulax(渦鞭毛藻類)、ならびに甲殻類を包含する極めて広範囲の様々な生物からクローン化されてきた。現在では、生物発光アッセイにおいて使用するために利用できる極めて多様なルシフェラーゼ酵素が存在する。
【0024】
本発明者らは、遺伝毒性アッセイにおいてGFPに対する2つの相違するルシフェラーゼの特性を比較することを決定した。本発明者らは、いずれのルシフェラーゼが遺伝毒性アッセイにおいて生物発光レポータータンパク質として使用するために最も適合するかを決定しようと考えた。本発明者らは、これまで最も一般的に使用される生物発光レポータータンパク質であるホタル(Firefly)ルシフェラーゼ(FLuc)を用いて研究することを選択した。さらに、カラヌス目カイアシ(calanoid copepod)であり、生物発光アッセイにおけるレポータータンパク質として一般には使用されないGaussiaから単離されたガウシア・ルシフェラーゼ(Gaussia luciferase(GLuc))の特性について試験することも選択した。
【0025】
驚くべきことに、本発明者らは、遺伝毒性アッセイにおいて使用した場合のガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)の多数の有益な特性を確認した。GADD45α遺伝エレメントと結合すると、GLucは細胞内のゲノム修復活性のシグナルとして蓄積し、細胞が死滅した後でさえ存続する。さらにGLucは、ゲノム修復が完了すると測定可能なレポータータンパク質として存続する。これとは対照的に、FLucは、レポーターシグナルとしてはGLucほど長くは存続しない。これらの相違は、GLucを使用する遺伝毒性アッセイは試験化合物の遺伝毒性を測定するために単一サンプリング時点を用いて実施できるが、これはFLucを用いると可能ではないことを意味している。これらの利点は、主として、FLucが短い半減期を備える不安定タンパク質であると言う事実に起因する。遺伝毒性アッセイにおいてレポータータンパク質としてFLucではなくむしろGLucを使用するというこれらの利点は公知ではなく、本発明者らによって実施された研究の前には予測することができなかった。実際に、本発明までは、GLucは遺伝毒性アッセイのためのレポータータンパク質としては使用されていなかった。
【0026】
さらに、GLucタンパク質は、細胞から分泌されるが、FLucタンパク質は分泌されない。そこでFLucが遺伝毒性アッセイにおいてレポータータンパク質として使用される場合は、FLucを備える細胞は、FLuc発現レベルを正確に測定するためには溶解させられなければならない。これとは対照的に、GLucタンパク質は細胞から分泌されるが、これは、以下の遺伝毒性アッセイ法においてレポータータンパク質として使用される場合、GLucを備える細胞は通常はGLuc発現レベルをアッセイするために溶解させる必要がないことを意味する。このため、レポータータンパク質としてのFLucではなくむしろGLucの使用は、試薬添加ステップおよびインキュベーションステップを該アッセイ法から省いて、細胞を溶解させる必要がないことを意味する。
【0027】
これらの所見に基づいて、本発明者らは、ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)発現がGADD45α遺伝エレメントによって調節される遺伝毒性アッセイを開発した。本アッセイは、FLucに基づく現行の遺伝毒性アッセイおよび生物発光アッセイより優れた改良点を有する。本アッセイは、蛍光性試験化合物の遺伝毒性を測定するために使用できる。本アッセイにおいては蛍光化合物および試薬によって干渉はほとんど誘導されない。GLucの使用は、本アッセイが、試験化合物の遺伝毒性の尺度を得るために単一サンプリング時点を用いて実施できることを意味する。
【0028】
さらに、本発明の方法の遺伝毒性アッセイにおいて使用した場合、GLuc媒介性生物発光は、添付の実施例において証明したように、予想外に高い「シグナル対ノイズ」比を有する。この改良された比率によって、本発明者らは、蛍光に基づくアッセイよりも容易に使用できる、より少ない量のアッセイ液を使用する生物発光に基づく遺伝毒性アッセイを開発することができた。直接的な結果として、GLuc媒介性生物発光を使用する遺伝毒性アッセイは、384ウェルマイクロタイタープレートを使用して実施できる。これとは対照的に、類似の蛍光に基づくレポーターアッセイのために384ウェルマイクロタイタープレートを使用するのは困難であるが、それはアッセイ液の量の減少は細胞数の減少を意味し、その結果として不良な「シグナル対ノイズ」比を意味するからである。
【0029】
このため、本発明の方法の生物発光に基づく遺伝毒性アッセイは、蛍光に基づくアッセイを用いた場合より高速のスループットスクリーニング系において容易に使用することができる。これは、本アッセイをより少数の試験化合物を用いて実施することを可能にすることができ、そしてアッセイマイクロプレート1枚に付きより多くの化合物を試験することを可能にすることができる。
【0030】
用語「ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質およびその誘導体」には、発現した場合にルシフェラーゼアッセイによって検出可能な海洋カイアシであるガウシア・プリンケプス(Gaussia princeps)由来のタンパク質が包含される。GLucタンパク質をコードする核酸配列は、多数の相違する会社、例えば、Nanolight社(ww.nanolight.com)から市販で入手できる。それらの核酸配列は、現在はアッセイ法におけるレポータータンパク質としては広汎には使用されていない。
【0031】
好ましくは、ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質は、発光反応:
セレンテラジン+O → セレンテラミド+光線
におけるセレンテラジンの酸化を触媒し、実質的および測定可能な発光の放出を誘導する。
【0032】
当該タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、多数の様々な入手源、例えばGenBankアクセッション番号AY015993から入手できる。
【0033】
GLucの誘導体には、発光活性を保持するGLucのポリペプチドアナログまたはポリペプチドフラグメントをコードするDNA配列が包含される。
【0034】
「ヒト化」ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質をコードする核酸は、Nanolight社(www.nanolight.com)から入手できるプラスミドから入手することができる。「ヒト化」GLuc遺伝子の核酸配列は、ヒト細胞株において発現のために最適化されてきた。ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)をコードするDNA配列の例は、本明細書の実施例の項の最後で配列番号1の2641〜3198の位置に示されている。そこで本発明の好ましい実施形態は、ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質が配列番号1の2641〜3198の位置に示したヌクレオチド配列によってコードされる実施形態である。
【0035】
GLucは、高い光線量子収率を生成し、ATPを必要とせず、市販で入手可能な照度計によって容易に検出することができる。本発明の第3態様による細胞は、GLucレポータータンパク質をコードするDNA分子を含有していて、本発明の第4態様の方法によって使用できる。
【0036】
驚くべきことに、本発明の第1態様による発現カセット内でのヒトGADD45α遺伝子プロモーターに加えたヒトGADD45α遺伝子調節エレメントの使用は、該カセットの遺伝毒性ストレスへの応答、および第3態様による細胞内でのゲノム損傷を根本的に増強する。有益にも、該カセットは、試験培養中のレポータータンパク質の活性についてアッセイすることによって、わずか48時間以内または48時間後に該レポータータンパク質の発現について分析することができる。細胞は、試験物質または化合物に曝露させることができ、該細胞内のレポータータンパク質の発現は、該試験物質がゲノム損傷を誘導するかどうかを示す。
【0037】
本発明者らは、ヒトGADD45α遺伝子プロモーターおよびヒトGADD45α遺伝子調節エレメントをコードするDNAは、本発明の第1態様によるカセットを形成するためにレポータータンパク質と機能的に結合させることができること、そして次に本発明による第4態様による遺伝毒性試験において有益にも使用できることを見いだした。当該のカセットは、GLucレポータータンパク質をコードするDNAに機能的に結合していることを前提にGADD45α遺伝子(コーディング配列を包含する)全体を含むことができる。例えば、本発明の第1態様によって、GADD45α遺伝子(調節エレメントおよびプロモーターを含む)の全部、または実質的に全部を、GADD45αプロモーターの3’(例えば、GADD45αコーディング配列内またはコーディング配列の3’)末端に挿入され、ゲノム損傷に応答してGLucレポータータンパク質をコードするDNA配列の発現を活性化するように配列されたGLucレポーターをコードするDNAとともに含むカセットを作製することができる。
【0038】
好ましくは、ヒトGADD45α遺伝子プロモーター配列は、RNAポリメラーゼがDNA分子に結合し、GLucレポータータンパク質をコードするDNAの転写を開始することを誘導する。プロモーター配列がヒトGADD45α遺伝子プロモーター配列および5’未翻訳領域を含むことが好ましい。プロモーター配列は、図1に例示されたpHG45−HCプラスミドから入手することができる。GADD45α遺伝子プロモーターのヌクレオチド配列は、実施例の項の最後に配列番号1のヌクレオチド97〜2640として示した。プロモーターは塩基97〜2640の各々を含むことができる、またはそれらの機能的誘導体もしくは機能的フラグメントであってよいと理解されている。機能的誘導体または機能的フラグメントは、トランスクリプターゼが推定プロモーター領域に結合し、その後にマーカータンパク質の転写を引き起こすか否かを判定して、容易に同定することができる。または当該の機能的誘導体もしくは機能的フラグメントは、GADD45α遺伝子と自然に関連している場合はGADD45αプロモーター上で突然変異生成を実施するステップと、GADD45α発現が発生する可能性があるか否かを評価するステップとによって試験することができる。
【0039】
本発明による発現カセット内の調節エレメントは、GADD45α遺伝子プロモーター配列の下流で配列を含むことができる。調節エレメントは、機能的DNA配列、例えばリボソーム結合のための翻訳開始配列またはゲノム損傷後の遺伝子発現を促進する転写因子に結合するDNA配列を含むことができる。
【0040】
好ましくは、用語「調節エレメント」は、GADD45α遺伝子のプロモーター配列を包含しない。用語「調節エレメント」には、GADD45α遺伝子の遺伝子内配列が包含され
【0041】
本発明による発現カセット内の調節エレメントは、GADD45α遺伝子の少なくとも1つのエクソンを含むことができる。例えば、調節エレメントは、GADD45αのエクソン1、エクソン2、エクソン3、および/もしくはエクソン4、もしくはそれらの少なくとも1つの領域、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。そこで、調節エレメントは、GADD45α遺伝子の4つのエクソン、またはそれらの少なくとも1つの領域の任意の組み合わせを含むことができる。
【0042】
好ましい実施形態では、調節エレメントは、GADD45α遺伝子のエクソン1の少なくとも1つの領域、および好ましくはGADD45α遺伝子のエクソン3の少なくとも1つの領域、およびより好ましくは、GADD45α遺伝子のエクソン4の少なくとも1つの領域を含んでいる。特に好ましいのは、調節エレメントが、GADD45α遺伝子のエクソン1の全部、および好ましくはGADD45α遺伝子のエクソン3の少なくとも1つの領域、およびより好ましくは、GADD45α遺伝子のエクソン4の全部を含んでいることである。
【0043】
GADD45α遺伝子のエクソン3のヌクレオチド配列は、配列番号1の塩基3325〜3562として示されている。GADD45α遺伝子のエクソン4のヌクレオチド配列は、配列表において配列番号1の塩基4636〜5311として示されている。
【0044】
または、もしくは追加して、調節エレメントは、非コーディングDNA配列、例えばGADD45α遺伝子の少なくとも1つのイントロンを含むことができる。例えば、調節エレメントは、GADD45α遺伝子のイントロン1、イントロン2、および/もしくはイントロン3、もしくはそれらの少なくとも1つの領域、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。そこで、調節エレメントは、GADD45α遺伝子の3つのイントロン、またはそれらの少なくとも1つの領域の任意の組み合わせを含むことができる。
【0045】
好ましい実施形態では、本発明による発現カセット内の調節エレメントは、GADD45α遺伝子のイントロン3の少なくとも1つの領域を含んでいる。GADD45α遺伝子のイントロン3のヌクレオチド配列は、配列表において配列番号1の塩基3563〜4635として示されている。
【0046】
好ましい実施形態では、本発明による発現カセットは、GADD45α遺伝子のプロモーター配列と、さらにゲノムGADD45α遺伝子配列自体のイントロン3内で見いだされる遺伝子調節エレメントもまた含んでいる。本発明者らは任意の仮説によって拘束しようとは望まないが、GADD45α遺伝子のイントロン3は、推定p53結合モチーフを含有する、および驚くべきことに発現カセットの遺伝毒性ストレスへの応答を増強するのがこのp53モチーフであると考えている。推定p53結合モチーフは、配列表内の配列番号1にヌクレオチド塩基3746〜3765として示されている。
【0047】
本発明者らは、GADD45α遺伝子のイントロン3がAP−1結合部位をコードする可能性がある推定TREモチーフを含有する可能性があるとさらに考えている。推定TREモチーフは、配列表内の配列番号1にヌクレオチド塩基3795〜3801として示されている。そこで、本発明者らは任意の仮説によって拘束しようとは考えないが、この推定AP−1結合部位が遺伝毒性物質に対する改良された応答にも貢献できる可能性があると推定している。
【0048】
発現カセットは、少なくともGADD45α遺伝子のイントロン3由来のp53結合モチーフおよび/またはAP−1結合モチーフを含むのが好ましい。
【0049】
調節エレメントは、配列番号1の塩基4750〜5311として示されているヌクレオチド配列であるGADD45α遺伝子の3’未翻訳(UTR)領域を含むことができる。本発明者らは、任意の仮説によって拘束しようとは思わないが、この3’UTRがmRNAカセットの安定化に関係する可能性があること、およびそこで例えばイントロン3などの調節エレメントの残りと一緒に使用されると驚くべきことに重要な可能性があると考えている。
【0050】
そこで本発明の第1態様による好ましい発現カセットは、ヒトGADD45α遺伝子調節エレメントおよびガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質をコードするDNA配列に機能的に連結したヒトGADD45α遺伝子プロモーターを含んでいる。最も好ましい発現カセットは、ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)をコードするDNA配列に機能的に結合したヒトGADD45α遺伝子プロモーター、およびGADD45α遺伝子のイントロン3を含んでいる。
【0051】
また別の実施形態では、第1態様による発現カセットは、好ましくは図2に示したGD532−GLucである。発現カセットGD532−GLucのヌクレオチド配列は、配列番号2に与えられ、配列番号1のヌクレオチド位置97〜5311に対応する。
【0052】
本発明の第2態様による組換えベクターは、例えば、プラスミド、コスミドまたはファージであってよい。当該の組換えベクターは、発現カセットを複製する場合に極めて有用である。さらに、組換えベクターは、発現カセットを用いて細胞をトランスフェクトするために高度に有用であり、さらにまたレポータータンパク質の発現を促進することもできる。
【0053】
組換えベクターは、該ベクターが細胞の細胞質ゾル内で自律的に複製するように、またはゲノム内に統合するために使用できるように設計できる。この場合には、DNA複製を誘導するエレメントが組換えベクター内に必要とされることがある。適切なエレメントは当技術分野において周知であり、例えば、pCEP4(Invitrogen社、3 Fountain Drive,Inchinnan Business Park,Paisley,PA4 9RF、英国)、pEGFP−N1(BD Biosciences Clontech UK社、21 In Between Towns Road,Cowley,Oxford,OX4 LY、英国)、またはpCIおよびpSI(Promega UK社、Delta house,chilworth Science Park,Southampton SO16 7NS、英国)に由来してよい。
【0054】
当該複製ベクターは、形質転換体内でDNA分子の複数のコピーを生じさせることができ、このためGLucレポータータンパク質の過剰発現(およびそれにより増加した発光)が必要とされる場合に有用である。さらに、該ベクターはヒト、霊長類および/またはイヌ細胞内で複製できることが好ましい。該ベクターは、複製起源、および好ましくは少なくとも1つの選択可能なマーカーを含むことが好ましい。選択可能なマーカーは、抗生物質、例えばハイグロマイシンまたはネオマイシンに耐性を付与することができる。適切なエレメントは、pCEP4プラスミド(Invitrogen社、3 Fountain Drive,lnchinnan Business Park,Paisley,PA4 9RF、英国)に由来する。
【0055】
第1実施形態では、第2態様による組換えベクターは、図2に例示されたように、および配列番号1に提供されたように、好ましくはpEP−GD532−GLucである。
【0056】
本発明の第3態様によると、本発明の発現カセットまたは組換えベクターは、細胞内に組み込まれる。細胞は真核細胞であるのが好ましい。当該の宿主細胞は、哺乳動物由来細胞および細胞株であってよい。好ましい哺乳動物細胞には、ヒト、霊長類、マウスまたはイヌ細胞が包含される。宿主細胞は、リンパ腫細胞または細胞株、例えばマウスリンパ腫細胞であってよい。宿主細胞は、不死化された、例えばリンパ球であってよい。
【0057】
好ましい宿主細胞は、ヒト細胞株である。好ましくは、宿主細胞は、完全に機能的なp53を有するヒト株、例えばML−1(野生型p53を備えるヒト骨髄性白血病細胞株;ECACCアクセッション番号88113007)、TK6(野生型p53を備えるヒトリンパ芽球様細胞株;ECACCアクセッション番号95111725)である。しかし、WI−L2−NS(ECACCアクセッション番号90112121)およびWTK1(そのどちらもTK6の姉妹株であり、変異p53タンパク質を有する)の宿主細胞株もまた想定される。どちらもヒト肝細胞癌由来細胞株であるHep G2(ECACCアクセッション番号85011430)およびHepaRG(BioPredic社;http://pagesperso−orange.fr/biopredic/index.html)もまた使用できる(ECACC General Office,CAMR,Porton Down,Salisbury,Wiltshire,SP4 OJG、英国)。
【0058】
本発明者らは、TK6ヒト細胞が本発明の方法によって使用するための特に好ましい細胞株であることを見いだした。本発明者らは任意の仮説によって拘束しようとは望まないが、TK6細胞は完全に機能的なp53を有するために最も有用であると考える。
【0059】
DNA分子によってコードされたタンパク質の発現のために使用される宿主細胞は、理想的には安定性にトランスフェクトされるが、不安定性(一過性)にトランスフェクトされた細胞の使用は除外される。
【0060】
本発明の第3態様によるトランスフェクト細胞は、以下の実施例に記載した方法によって形成することができる。細胞は、理想的にはヒト細胞、例えばTK6である。当該のトランスフェクト細胞は、本発明の第4態様の方法によって物質がDNA損傷を誘導または増強するか否かを評価するために使用できる。GLuc発現はDNA損傷に応答して誘導され、GLucによる発光は公知の適切な技術を使用して容易に測定することができる。
【0061】
本発明の第3態様によって最も好ましい細胞は、ベクターpEP−GD532−GLucを用いて形質転換されたTK6細胞である。これらの細胞は、本明細書ではGLuc−TO1と呼ぶ。
【0062】
本発明による発現カセットは、宿主細胞のゲノム内に統合できることもまた想定されている。当業者であれば、該カセットをゲノム内に統合するための適切な方法を認識できる。例えば、発現カセットは、パッケージング細胞株と組み合わせてヘルパーフリー組換えレトロウイルスを生成でき、次に宿主細胞内に導入することのできるレトロウイルスベクター上に提供することができる。該カセットは、次にゲノム内に自ら統合することができる。適切なヘルパーフリーのレトロウイルスベクター系の例には、BINGレトロウイルスパッケージング細胞株を備えるpBabePuroプラスミドが包含される[Kinsella and Nolan,1996.Episomal Vectors Rapidly and Stably Produce High−Titer Recombinant Retroviruses.Human Gene Therapy.7:1405−1413.]。
【0063】
本発明の第4態様の方法は、ゲノム、特別にはDNA損傷を誘導する物質を低濃度で検出するために特に有用である。本方法は、化合物、例えば候補の医薬品、食品添加物または化粧品を、それが生体、特にヒトを当該化合物に曝露させることが安全であるかどうかを判定するためにスクリーニングするために使用できる。または、本発明の第4態様の方法は、上水道がゲノム損傷物質またはゲノム損傷を増強する物質によって汚染されているか否かを検出するために使用できる。例えば、本方法は、汚染に曝露させられた人々または他の生物における増加したゲノム損傷を引き起こす可能性がある汚染物質の存在について工場廃水を監視するために使用できる。
【0064】
本発明の方法は、好ましくは本発明の第2態様による組換えベクター(例えば、pEP−GD532−GLucなど)を用いて形質転換された細胞を増殖させるステップと、規定時間にわたってゲノム損傷を誘導すると推定される物質とともに該細胞をインキュベートするステップと、および該細胞のサンプルからのGLucレポータータンパク質の発現を直接的に監視するステップとによって実施される。
【0065】
発光を検出および定量する適切な方法は、当業者には公知であり、1つの方法を実施例の項に記載する。
【0066】
本発明の方法の好ましい実施形態によると、発光の示度は、例えばマイクロプレートのウェルから、pEP−GD532−GLucを用いてトランスフェクトされたTK6細胞から記録することができる。適切なマイクロプレートの例は、96ウェルの白色、透明底面、無菌マイクロプレートである(最適性能のためには、Matrix Technologies社製ScreenMates:製品番号4925が推奨される)。
【0067】
さらに、予想外にも高い「シグナル対ノイズ」比に起因して上記で考察したように、本発明の発光に基づく遺伝毒性アッセイ法は、蛍光に基づくアッセイのために容易に使用できるより少ないアッセイ液(およびそこでより少数の細胞およびより少ない試験化合物)を使用して実施することができる。直接的な結果として、本発明の方法は、384ウェルのマイクロタイタープレートを使用して実施できる。そこで、適切なマイクロプレートのまた別の例は、384ウェル、黒色、無菌マイクロプレートである。適切なプレートは、またMatrix Technologies ScreenMatesからも入手できる。
【0068】
発光および吸光度測定値は、適切なマイクロプレートリーダー、例えばインジェクターを備えるTecan Infinite F500を使用して記録できる。
【0069】
本発明の第4態様の方法を実施するための最も好ましいプロトコールは、添付の実施例の項に記載されている。
【0070】
GADD45α−GLuc構築物由来のGLucのバックグラウンド(「構成的」)発現が生じる可能性があり、すなわち細胞密度が高いほど、培養の発光が多くなる。増殖の結果として生じる何らかの発光の増加を補正するためには、「輝度単位」、すなわち細胞1個当たりの平均発光の測定結果を得るために、発光データを吸光度データ(細胞密度)で割る。これは、培養密度とは無関係である。したがって、吸光度の測定は、試験物質の遺伝毒性の測定よりむしろ主として発光シグナルの正規化のために使用できる。したがって、細胞生存性およびアポトーシスによって毒性を決定するために吸光度測定と結び付けて二次アッセイを使用できることが想定されている。例えば、Biovision生物発光細胞毒性アッセイ(Biovision Incorporated社、2455−D Old Middlefield Way、米国カリフォルニア州94043、マウンテンビュー)、またはVybrant(登録商標)アポトーシスアッセイキット(Molecular Probes社、米国オレゴン州97402、29851 Willow Creek Road)を使用する。
【0071】
本発明の第4態様による好ましい方法は、本発明の第3態様による細胞(例、GLuc−TO1)を利用する。
【0072】
一部の非遺伝毒性化合物が細胞代謝によって化学的に変化させられることは理解されると思われる。哺乳動物では、このプロセスは、代謝活性化(MA)と呼ばれることが多い。MAは、所定の非遺伝毒性化合物(例えば、プロ変異誘起物質)を遺伝毒性化合物に変換させることができる。最も頻回には、MAは、肝臓内で発生する。このために、遺伝毒性試験は、試験化合物のアッセイが、あたかもインビボで代謝されたかのように化合物を代謝することのできる肝抽出物の存在下および非存在下で実施されるように適応させられるのが好ましいことが多い。実施例4は、S9と呼ばれる(当業者には公知の)肝抽出物を利用する、本発明の第4態様による好ましい方法を例示している。当該の抽出物を包含すると、アッセイは肝臓の通過後にのみ遺伝毒性になる化合物を検出することができる。
【0073】
S9肝抽出物が本発明の方法において使用される場合は、集団内の細胞の密度は細胞染色を使用して決定されるのが好ましい。これは、実施例4において詳細に記載したように、本発明者らが、細胞密度を推定するために使用される吸光度測定の相対不感受性はS9代謝活性化試験におけるプロ遺伝毒性物質についてのアッセイの低下した感受性を生じさせることが見いだされたと決定したからである。
【0074】
以下の実施例2でより詳細に考察するように、ルーチンアッセイからの陽性および陰性の結果の明確な定義を有することは有用であり、当該の定義は、遺伝毒性および作用機序に関する明白な合意がある場合の化学薬品からのシステムおよびデータ内の最大雑音を考慮に入れて引き出されてきた。
【0075】
本アッセイがS9肝抽出物を包含する場合は、遺伝毒性閾値は1.5の相対GLuc誘導率(すなわち、50%増加)で設定する。そこで、陽性遺伝毒性結果(+)は、試験化合物が1.5閾値より大きな相対GLuc誘導率を生じさせる場合に結論される。
【0076】
本アッセイがS9肝抽出物を包含しない場合は、遺伝毒性閾値は1.8の相対GLuc誘導率(すなわち、80%増加)で設定する。そこで、陽性遺伝毒性結果(+)は、試験化合物が1.8閾値より大きな相対GLuc誘導率を生じさせる場合に結論される。
【0077】
同様に、遺伝毒物学の分野の範囲内では、相違する化合物間の遺伝毒性作用の力価における変動を認識する方法でアッセイ結果を評価することが時には望ましいことがある。そこで、GLuc誘導はまた以下の基準を使用して判定することもできる:陽性(+)遺伝毒性結果は、1つ以上の試験化合物濃度が1.5または1.8閾値より大きな発光誘導率を生じさせる場合に結論づけられる。陰性遺伝毒性結果(−)は、いずれの化合物希釈液も1.5または1.8閾値より大きな相対GLuc誘導率を生じさせない場合に結論づけられる。
【0078】
本発明者らは、引き続いて、吸光度測定値と置換するために蛍光細胞染色を使用できることを見いだした。これは、2つの方法が同一物を推定する効果的に相違する方法であるためである。驚くべきことに、本発明者らが細胞染色を使用した方法は、細胞数推定の感受性およびこのためプロ遺伝毒性物質の検出を改良した。
【0079】
好ましくは、適応させられたプロトコールにおいて使用された細胞染色は、シアニン色素、より好ましくはDNAおよびRNAに結合するシアニン色素であるチアゾールオレンジ(TO)である。TOのDNAへの結合は、その蛍光強度を大きく増強し、バックグラウンドの未結合TOを洗い流す必要を伴わずにその検出を許容する。
【0080】
好ましくは、本発明の第4態様の方法では、GLucレポータータンパク質の発現は、試験化合物への曝露の46〜50時間後に、最も好ましくは48時間後に監視される。
【0081】
本発明の第4態様の一部の実施形態では、ゲノム損傷を誘導または増強する物質の存在を検出する方法は、細胞からのGLucレポータータンパク質の発現を監視するステップを包含する。GLucレポータータンパク質は、発光反応における基質セレンテラジンの酸化を触媒する。本発明者らは、一部の反応条件(特に多数の反応が連続的に実施される場合)においては、セレンテラジンは、ある程度の変動をアッセイの感受性および信頼性に影響し得る発光シグナルを生じ得るような不安定な場合があることを決定した。
【0082】
また別の調査では、本発明者らは、アスコルビン酸(ビタミンC)などの酸化剤の存在によってセレンテラジンを安定化できることを決定した。または、セレンテラジンは、好ましくはpH7.4および100mMの最終濃度でのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)の存在によって安定化させることができる。さらに、セレンテラジンは、β−シクロデキストリンの存在によってさらに安定化させることができる。
【0083】
そこで本発明の好ましい方法は、セレンテラジンが酸性化メタノール中の5mMストック液として調製される方法である。発光バッファー(400mMのTris−HCl;5mMのβ−シクロデキストリン;脱イオン水;10NのNaOHを用いてpH7.4へ緩衝)を調製する。セレンテラジンストック液を次に発光バッファー中で2,000倍に希釈すると、2.5μMセレンテラジン溶液が得られた(TRISによってpHを7.4に緩衝した)。これは反応アッセイに加えられる注入溶液である(さらにセレンテラジンの4倍希釈液を生じさせる)。
【0084】
本明細書に記載した特徴の全部(任意の添付の請求項、要約書および図面)、および/または本明細書に開示した任意の方法またはプロセスのステップの全部は、当該の特徴および/またはステップの少なくとも一部が相互に排他的である場合の組み合わせを除いて、任意の組み合わせにおいて上記の態様のいずれかと組み合わせることができる。
【0085】
以下では、本発明の実施形態について、下記の実施例および図面を参照しながら、一例としてのみ詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】ベクター(A)pEP−GD532;(B)pHG45−HCプラスミド;および(C)pCMV−GLuc−1の制限地図を示す図である。
【図2】ベクター(A)pEP−GD532−GLucのプラスミド地図および(B)発現カセットGD532−GLucの図である。
【図3】FLuc、GLucおよびGFPレポータータンパク質活性のメチルニトロソ尿素(MNU)誘導を示す図である。
【図4】エンドポイント時間経過実験からのGADD45α−FLuc発現カセットを有する細胞上の4種の試験化合物についての典型的データを示す図である。
【図5】GD532−GLuc発現カセットを有する2種の試験化合物;(A)非遺伝毒性物質;(B)遺伝毒性物質についての典型的データを示す図である。
【図6】GFPレポータータンパク質を使用して高蛍光性試験化合物を使用するアッセイからのデータを示す図である;(A)アクリジンオレンジを用いたGFPデータ;(B)アクリジンオレンジを用いたGLucデータ。
【図7】S9抽出物の存在下でのGLucレポータータンパク質を用いた原遺伝毒性物質のアッセイからの結果を示す図である;(A)細胞数を用いたチアゾールオレンジ(TO)の校正;(B)TO細胞数が本アッセイに組み込まれた場合の6−アミノクリセンを用いたS9アッセイからのデータ。S9抽出物を加えた場合の陽性決定閾値は1.5であるが、S9抽出物を加えていない場合の陽性決定閾値は1.8である;どちらもグラフ上に示されている。
【図8】遺伝毒性物質である4−ニトロキノリン−1−オキシド(NQO)についての384−ウェルマイクロタイタープレートを使用したGLucに基づく遺伝毒性アッセイからのデータを示す図である;(A)実施例4に記載した蛍光細胞染色(TO)法を使用して測定したNQOについての相対毒性曲線;(B)NQOについての相対GLuc発光誘導率。
【実施例1】
【0087】
[pEP−GD532−GLucのクローン化]
<要約>
GADD45αレポーター構築体内でGFP ORFをガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)ORFと置換すること。
【0088】
<プロトコール>
ガウシア・ルシフェラーゼORFは、PCRを使用してプラスミドpCMV−GLuc−1(Nanolight社)からクローン化した。pCMV−GLuc−1プラスミドは、NEB社によってpCMV−GLucとして市販されている。pCMV−GLuc−1のプラスミド地図は、図1に提供した。PWO高忠実度ポリメラーゼ(Roche社)を使用して、PCR誘導突然変異の生成を最小限に抑えた。フォワードおよびリバースプライマーは、制限エンドヌクレアーゼのXhoIおよびNotIについての認識配列を各々コードする8つの追加の(非相補的)ヌクレオチドを含有していた。PCR反応についてのプロトコールを以下に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
PCR産物を清浄化し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB)を使用して5’末端をリン酸化した。プラスミドpBluescript II SK(−)は、EcoRI部位を使用して線状化し、鈍端PCR産物をプラスミド内にライゲートした。
【0093】
pEP−GD532プラスミド(図1)を切断し、AscIを用いて線状化し、結果として生じた5’オーバーハングはマングビーンヌクレアーゼ酵素を用いて除去した。次にGFPのORFはNotI消化物を用いて線形化プラスミドから除去し、pEP−GD532プラスミド主鎖は、アガロースゲル電気泳動法およびゲル抽出法を使用して分離および清浄化した。pEP−GD532プラスミドのクローン化および配列は、国際出願PCT/GB2005/001913号明細書に完全に記載されている。
【0094】
GLucのPCR産物を含有するpBluescript II SK(−)プラスミドはXhoIを用いて切断し、結果として生じた5’オーバーハングはマングビーンヌクレアーゼ酵素を用いて除去し、結果として生じたDNA産物を清浄化した。次にDNAはNotIを用いた消化にかけ、遊離したGLucのPCR産物は、アガロースゲル電気泳動法によって分離および清浄化した。
【0095】
精製されたGLucのORFは次に、NotI消化によって生成された付着末端ならびにXhoIおよびAscI消化によって生成され、その後にマングビーンヌクレアーゼ処理を受けた鈍端を使用してpEP−GD532主鎖内にクローン化した。これは、図2に示したように、GADD45αレポーターベクターpEP−GD532−GLucを生成した。
【0096】
<pEP−GD532−GLucについての配列情報>
pEP−GD532−GLucプラスミドの核酸配列(配列番号1)は、添付の実施例の最後の付属書1に提供した。pEP−GD532−GLucプラスミド内の重要な核酸配列を下記に列挙した。
【0097】
【表4】

【0098】
<pEP−GD532−GLucプラスミドを有する細胞株>
TK6細胞は、Xia and Liber[Methods in Molecular biology,Vol.48:Animal Cell Electroporation and Electrofusion Protocols,1995.Edited by J.A.Nickoloff.Humana Press Inc.,Totowa,NJ,USA,Pages 151−160]から適応させられた方法を用いたエレクトロポレーションによってpEP−GD532−GLucを用いてトランスフェクトし、該レポータープラスミドを有するクローンを選択する。その後の研究のために選択した細胞株は、GLuc−TO1と呼ばれる。
【実施例2】
【0099】
[GLucを使用した遺伝毒性および細胞毒性アッセイのためのプロトコール]
本発明者らは、pEP−GD532−GLucプラスミドを有する細胞株GLuc−TO1を使用して試験化合物の遺伝毒性および細胞毒性を測定するための好ましいアッセイを開発した。
【0100】
本アッセイは、以下に詳述するような下記のステップ:(1)アッセイにおいて使用するためのマイクロプレートを調製するステップと、(2)該マイクロプレート内でアッセイを実施するステップと、(3)データを収集および分析するステップと、(4)ゲノム損傷に関する判定および結論を下すステップとを有する。
【0101】
本アッセイは、単一ウェルへの添加が可能なインジェクターが装備された、発光および吸光度読取りが可能なマイクロプレートリーダーを使用して実施する。
【0102】
<2.1 マイクロプレート>
アッセイは、白色、透明底面、96ウェル、無菌マイクロプレート(最適性能のためにはMatrix Technologies社製ScreenMates:製品番号4925が推奨される)内で実施する。黒色、透明底面、96ウェル、無菌マイクロプレート(Matrix Technologies社製ScreenMates:製品番号4929)もまた使用できる。
【0103】
<2.2 アッセイ>
本明細書に記載した標準希釈プロトコールを使用すると、75μLのサンプル量と75μLの細胞培養とが合わされた場合に、マイクロプレート内において全濃度が半分にされる。全標準物質ならびに試験化学薬品および試薬類は、本アッセイを実施する直前に新しく調製しなければならない。
希釈液−2%(v/v)DMSOの無菌水
【0104】
2.2.1 試験化合物の調製
各試験化合物の最終濃度は、使用される希釈剤に適合する溶液中において、希釈溶媒自体がプレート全体にわたって希釈されないように、典型的には無菌水中で2%(v/v)DMSOでなければならない。
【0105】
2mMまたは1mg/mL(いずれか低い方)の初期濃度(マイクロプレート上の1mMまたは500μg/mLの試験化合物と同等)が推奨される。試験化合物は、試験される最高濃度で完全に可溶性であることが望ましい。1プレート当たり最少250μLの試験化合物が必要とされる。試験化合物の溶液を調製するための推奨方法は、以下のとおりである:
・高水溶性を備える化合物に対して−水性希釈剤(すなわち、2%DMSO)中に直接的に溶解させ、必要に応じて希釈剤を用いて希釈する。
・難水溶性の化合物に対して−100%DMSO中に溶解させ、必要に応じて100%DMSO中で希釈し、次に2%(v/v)DMSOを含有する試験化合物を生成するために980μLの無菌水に20μLのDMSOストック標準溶液を加える。DMSO標準溶液を水に加えた場合に化合物が溶液から沈殿したら、最初のDMSOストック標準溶液をさらに100%DMSOを用いて希釈することができる。次に、新鮮試験標準液を生成するために、20μL+水980μLの希釈ステップを繰り返す。
【0106】
2.2.2 コントロール化合物の調製
4−ニトロキノリン−1−オキシド(NQO:例、Sigma−Aldrich社、製品番号:N8141−250MG)をコントロール化合物として使用する。
【0107】
コントロール化合物溶液は、希釈剤中で以下の濃度に調製する。
・ 標準物質1 − NQO HIGH=1μg/mL
・ 標準物質2 − NQO LOW=0.25μg/mL
【0108】
100%DMSO中のNQOのアリコートを調製し、50倍の試験濃度で20μLの容量に冷凍し、次に使用直前に解凍し、2%DMSO中の正確な試験濃度を達成するために980μLの水を加える。
【0109】
2.2.3 細胞の調製
標準細胞培養法を使用して、本アッセイに使用するためのGLuc−TO1細胞を調製する。本アッセイは、細胞が対数増殖期となることを必要とする。このため、培養は本アッセイに使用できるようになる前に5×10個/mLおよび1.2×10個/mLの間の密度を達成しなければならない。細胞は、所定の培養培地中で増殖させる。
【0110】
【表5】

【0111】
使用する時点に、アッセイ培地(GS−HC−AM)中において2×10個/mLの密度でGLuc−TO1細胞の10mL懸濁液を調製する。
【0112】
アッセイ培地
本アッセイ培地の構成成分の作業濃度は、以下に規定した。
【0113】
【表6】

【0114】
2.2.4 アッセイの調製
以下の標準プロトコールに従うことができる。試験化学物質のストック、またはDNA損傷を誘導することが推定される物質を含有するサンプルを上述したように2%(v/v)DMSO水溶液中で調製し、96ウェルマイクロプレート全体にわたる一連の希釈液および「コントロール」を作製するために使用する(下記参照)。これを達成するために150μLの試験化学物質溶液をマイクロプレートウェル内に注入する。各サンプルは、75μLを75μLの2%DMSO中に移し、混合し、次に75μLを取り出して隣のウェルに入れることによって連続的に希釈する。これは各75μLの9つの連続希釈液を作製する。試験化学物質/サンプルの最終最大濃度は、マイクロプレート上で1mMまたは500μg/mLである。
【0115】
上述したアッセイ培地(GS−HC−AM)中の75μLのGLuc−TO1細胞は、次に適切に各ウェルに加える。
【0116】
以下のコントロールをマイクロプレート内に包含する。
a.ブランクウェル
b.試験化合物/サンプル単独
c.アッセイ培地単独
d.細胞を含むコントロール化合物
【0117】
「ブランクウェル」は、コントロールが試験化合物のための担体として使用される溶媒、典型的には2%DMSOを含有することを意味する。
【0118】
終了したら、マイクロプレートを通気性のある膜で被覆する。プレートを10〜15秒間にわたりマイクロプレートシェーカー上で(各ウェルの内容物を完全に混合するために)緩徐に振とうし、次に振とうせずに48時間にわたり37℃、5%CO、95%湿度でインキュベートする。プレートをインキュベートして48時間±2時間後に分析しなければならない。
【0119】
<2.3 データの収集および分析>
プレートは最初に、約620nmの波長で、各ウェル内の吸光度について読み取る。発光を読み取る場合は、各ウェルに50μLのインジェクター溶液を加え、リーダー設備を使用してプレートを振とうし、次に3秒間の発光の積分時間後に読み取る。適切なリーダーおよびインジェクターシステムの例は、Tecan Infinite(登録商標)F500である。
【0120】
2.3.1 インジェクター溶液
酸性化メタノール(10ml)=9.9mLメタノールおよび100μLの37%HCl
5mMセレンテラジンストック液(4.72mL)=4.72mLの酸性化メタノール中に溶解させた10mgセレンテラジン(天然、MW423.48、CAS#55779−48−1)。20μLのアリコートを微量遠心チューブ内にピペットで移し、暗所において−80℃で保管する。
50mMのβ−シクロデキストリン(100mL)=7.3gの2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(0.8モル置換、MW1460、CAS#128446−35−5)および蒸留水を100mLまで。フィルターを滅菌し、4℃で保管する。
セレンテラジン担体溶液=20mLのGentronixアッセイ培地、5mLの50mMβ−シクロデキストリンおよび25mLの無菌蒸留水。全構成成分が無菌であれば、溶液は2週間にわたり4℃で保管できる。
【0121】
酸性化メタノール中の5mMのセレンテラジンストック液は、最初のプレート読取りのおよそ30分前に担体溶液に加えなければならない。少量の担体溶液は、プレートリーダー・インジェクターシステムをプライミングするために使用されるとともに、実際の発光の読み取りにおいて使用される死容積となる。以下の量の担体溶液+セレンテラジンを調製しなければならない。
【0122】
【表7】

【0123】
調製後、インジェクター溶液は、光線への曝露を最小限に抑え、室温で保持しなければならない。
【0124】
上記で言及したように、本アッセイは、pH7.4に緩衝したセレンテラジン溶液を使用して実施することもできる。この場合は、セレンテラジンは、酸性化メタノール中の5mMストック溶液として調製する。発光バッファーを調製する(400mMのTris−HCl;5mMのβ−シクロデキストリン;脱イオン水;10NのNaOHを用いてpH7.4に緩衝した)。セレンテラジンストック液を次に発光バッファー中で2,000倍に希釈すると、2.5μMセレンテラジン溶液が得られた(TRISによってpHを7.4に緩衝した)。これは、反応アッセイに加えられる注入溶液である(さらにセレンテラジンの4倍希釈液を生じさせる)。
【0125】
2.3.2 インジェクター溶液の添加
シリンジのインジェクション速度は、セレンテラジン溶液がウェル内に注入された場合に迅速に混合されることを保証する程度に高速に設定しなければならない。シリンジの再充填速度は、シリンジバレル内で気泡が作り出されないことを保証する程度に低く設定しなければならない。
【0126】
2.3.3 データの分析
48時間のインキュベーション後、発光および吸光度のデータをマイクロプレートから収集する。発光および吸光度の機能性を結合したマイクロプレートリーダーを使用する。例として、このリーダーはTecan Infinite F500(Tecan UK社)であってよい。発光データは、基質の注入およびマイクロプレートの振とう(リーダー内で)後の3秒間の積分時間で収集する。吸光度は、600nmまたは620nmフィルターを通して測定する。これらの発光および吸光度のデータは、Microsoft Excelスプレッドシートにトランスポートし、グラフィックデータに変換する。データ処理は最小限である。吸光度データは、増殖能の減少の指標を与え、これらのデータはビヒクル処理コントロール(=100%増殖)に正規化する。発光データを吸光度データで割ると、細胞1個当たり平均GLuc誘導の測定結果である「輝度単位」が生じる。これらのデータをビヒクル処理コントロール(=1)に正規化する。この方法で、少数の高発光細胞と多数の弱発光細胞とを識別することができる。化合物が遺伝毒性であると分類されるか否かに関する決定(以下を参照)は、ソフトウエアを用いて自動で行われる。
【0127】
ルーチンアッセイからの陽性および陰性の結果の明確な定義を有することは有用であり、当該の定義は、遺伝毒性および作用機序に関する明白な統一見解がある場合の化学薬品からのシステムおよびデータ内の最大ノイズを考慮に入れて引き出されてきた。当然ながら、ユーザーが数的およびグラフ的データを査察し、独自の結論を出すこともまた可能にする。例えば、閾値と交差しなかった遺伝毒性データにおける上昇傾向はそれでもまだ2種の化合物を識別することができる。決定閾値は、以下のように規定した。
【0128】
細胞毒性閾値は、未処理コントロール細胞が達した細胞密度の80%に設定する。これは、バックグラウンドの標準偏差の3倍高い。陽性細胞毒性結果(+)は、1または2つの化合物希釈液が80%閾値より低い最終細胞密度を生成した場合に結論される。強陽性細胞毒性結果陽性(++)は、(i)3つ以上の化合物希釈液が80%閾値より低い最終細胞密度を生じさせた場合、または(ii)少なくとも1つの化合物希釈液が60%閾値より低い最終細胞密度を生じさせた場合のいずれかに結論される。陰性結果(−)は、いずれの化合物希釈液も80%閾値より低い最終細胞密度を生成しなかった場合に結論される。最低有効濃度(LEC)は、80%閾値より低い最終細胞密度を生じさせる最低試験化合物濃度である。
【0129】
化合物吸光度コントロールは、試験化合物が有意に吸収性である場合には警告を出すことを可能にする。化合物コントロールウェル対培地単独が充填されたウェルの吸光度の比率が>2である場合は、解釈への干渉の危険性が存在する。細胞毒性コントロールは、細胞株が正常に挙動していることを示す。「高」MMS標準物質は最終細胞密度を80%閾値未満に減少させなければならず、「低」標準物質より低い数値でなければならない。
【0130】
遺伝毒性閾値は、1.8の相対GLuc誘導率(すなわち、80%の増加)に設定する。この決定閾値は、バックグラウンドの標準偏差の3倍高く設定する。陽性遺伝毒性結果(+)は、化合物希釈液が1.8閾値より大きな相対GLuc誘導率を生じさせる場合に結論される。遺伝毒物学の分野の範囲内では、相違する化合物間の遺伝毒性作用の力価における変動を認識する方法でアッセイ結果を評価することが時には望ましいことがある。そこで、GLuc誘導率は、以下の基準を使用して判定することもできる。強陽性遺伝毒性結果(++)は、3つ以上の化合物希釈液が1.8閾値より大きな相対GLuc誘導率を生じさせる場合に結論される。陰性遺伝毒性結果(−)は、いずれの化合物希釈液も1.8閾値より大きな相対GLuc誘導率を生じさせない場合に結論される。LECは、1.8閾値より大きな相対GLuc誘導率を生じさせる最低試験化合物濃度である。遺伝毒性コントロールは、細胞株がDNA損傷に正常に応答することを証明する。「高」コントロールは>2の発光誘導率を生成しなければならず、「低」コントロールより高い数値でなければならない。異常な輝度データは、毒性がブランクの細胞密度の30%より低い最終細胞密度をもたらした場合に生成される。遺伝毒性データは、この毒性閾値より上方では計算されない。遺伝毒性について陰性の試験結果が出た化合物は、10mMもしくは5,000μg/mLまで、または溶解度もしくは細胞毒性の限界まで再試験された。
【0131】
化合物発光コントロールは、化合物が高度に自己発光性である場合に警告を出すことを可能にする。化合物コントロールウェルの発光対ビヒクル処理GLuc−TO1細胞が充填されたウェルからの平均発光の比率が>0.05である場合は、解釈への干渉の危険性が存在する。
【実施例3】
【0132】
[pEP−GD532−GLucデータ]
<はじめに>
GFPは、GreenScreenHC遺伝毒性アッセイのための極めて良好なレポーターであることが証明されている。しかしGFPは、多数の限界を有するので、代替レポーターについての探索が推進されてきた。
【0133】
この背景に対して、本発明者らは、レポータータンパク質としてルシフェラーゼを使用する遺伝毒性アッセイを開発しようと考えた。ルシフェラーゼ類は、光生成化学反応を触媒する酵素である。生成された光は、1つのアッセイを使用して測定することができ、そして(正確なアッセイ条件下では)存在するルシフェラーゼの量の直接的測定であると見なすことができる。このため、「GADD45α−ルシフェラーゼ」発現カセットを有する細胞によって生成された光の量は、試験化合物の遺伝毒性の測定であるところのGADD45αレポーターエレメントの活性の測定である。
【0134】
<どのルシフェラーゼ>
本発明者らは、本アッセイに組み込むために利用できるルシフェラーゼ類の中からホタルルシフェラーゼ(FLuc)およびガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)を試験することを選択した。FLucを選択したのは、FLucに基づくアッセイを設計するために利用できる広汎な文献とともに全ルシフェラーゼ類の中で最も明確に記載されているためであった。GLucは、FLucとは相違して細胞から分泌されるので選択した。
【0135】
FLucは、最初にホタルであるフォチヌス・ピラリス(Photinus pyralis)からクローン化した。FLucは、光を生成する化学反応においてルシフェリンの酸化を触媒する。反応における補因子としてマグネシウムが必要とされる。
ルシフェリン+ATP+O→オキシルシフェリン+AMP+光
【0136】
FLucは、記載された全ルシフェラーゼ類の最高量子収率(>88%)を有する。反応の光出力は、スペクトルの黄色−緑色部分内にある562nmでピークに達する。FLuc反応の半減期は<10分間であるが、ルシフェラーゼタンパク質の半減期は他のより高い数値が報告されているが一般には約3時間であると認められている。反応の半減期を延長させるためには、例えばコエンザイムAおよび所定のシチジンヌクレオチドなどの多数の様々な試薬をFLuc反応に加えることができる。天然FLucタンパク質は、細胞のペルオキシソーム内に隔離されるが、細胞質に局在できる突然変異体が生成されている。ルシフェリンがFLucを発現する細胞に加えられると、細胞が溶解した場合に比較して生細胞内では極めてわずかな光出力しか観察されない。
【0137】
ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)は、海洋カイアシであるガウシア・プリンケプスからクローン化されている。GLucは、発光反応においてセレンテラジンの酸化を触媒する。
セレンテラジン+O → セレンテラミド+光
【0138】
反応の光出力は、スペクトルの青色部分内にある約470nmでピークに達するが、GLuc反応の半減期は30秒間未満である。GLucタンパク質は、自然に分泌され、GLucを発現する細胞内では、このタンパク質の大部分は細胞外環境内で見いだされる。GLucタンパク質は、pHおよび温度誘導性分解に対して安定性および抵抗性であると報告されている。
【0139】
<FLuc試薬およびアッセイ法>
FLucアッセイのための試薬は、最初は論文Wettey FR,Jackson AP.Luciferase Reporter Assay.In:Reviews and Protocols in DT40 Research.Springer Netherlands,2006,pp.423−425から取り出された。これらの試薬およびそれらの濃度を以下に列挙する。両方のミックスのpHは、ルシフェラーゼからの光出力を最大化するためにpH7.8へ調整する。
【0140】
細胞をペレット化して洗浄することをプロトコールに追加のステップとして加えると、このためデータ内への変動性を増加させるので、GreenScreen HCアッセイ培地中でTK6細胞を直接的に溶解させることを決定した。実験によって、溶解およびアッセイミックスを結合して同時に細胞に添加できることが決定された。溶解が即時のFLuc定量のために十分に高速で発生することは明白であった。この結合溶解およびアッセイミックスの溶液(L&Aバッファー)を以下に示す。
【0141】
【表8】

【0142】
上記に列挙した最終濃度は、L&AバッファーがGreenScreen HCアッセイ培地と混合された後の試薬類の濃度である。試薬類の最終濃度は一定であり、Wettey and Jacksonプロトコールからの情報に基づいている。現在実施されているFLucアッセイは、40μLのL&Aバッファーの120μLのGreenScreen HCアッセイバッファーへの添加に依存している。このため、L&Aバッファー内の試薬類の初期濃度は、所望の最終濃度より4倍以上高くなければならない。L&Aバッファーは、L&AバッファーがGreenScreen HCアッセイ培地(pH7.2)と結合されると約7.8の最終pHを生じさせるので、pH8.0でなければならない。
【0143】
<GLuc試薬およびアッセイ法>
GLucアッセイバッファーの調製を以下に示す。完全アッセイバッファーは、室温の暗所で20分間にわたりインキュベートし、その後に等量のGLucサンプルと混合する。セレンテラジンは自然に崩壊し、水溶液中において長期間おくには不安定性である。セレンテラジンを室温へ20分間にわたり馴化させると、サンプル間でのこの自然崩壊における変動性を最小限に抑える。
【0144】
【表9】

【0145】
上述したように、本アッセイは、pH7.4に緩衝したセレンテラジン溶液を使用して実施することもできる。この場合は、セレンテラジンは、酸性化メタノール中の5mMストック溶液として調製する。発光バッファーを調製する(400mMのTris−HCl;5mMのβ−シクロデキストリン;脱イオン水;10NのNaOHを用いてpH7.4へ緩衝した)。セレンテラジンストック液を次に発光バッファー中で2,000倍に希釈すると、2.5μMセレンテラジン溶液が得られた(TRISによってpHを7.4に緩衝した)。これは、反応アッセイに加えられる注入溶液である(さらにセレンテラジンの4倍希釈液を生じさせる)。
【0146】
<結果 − GLucとFLucおよびGFPとの比較>
pEP−GD532−GLucの調製については、添付の実施例において記載されている。本発明者らは、類似の戦略を使用してプラスミドpEP−GD532−Lもまた調製したが、このときFLucをレポータータンパク質として使用した。TK6細胞は、GD532−LまたはGD532−GLuc発現カセットを有するプラスミドを用いてエレクトロポレーションによってトランスフェクトし、該レポータープラスミドを有するクローンを選択する。
【0147】
本発明者らは、GLucおよびFLucレポータータンパク質のいずれが遺伝毒性アッセイにおいて使用するために最も適合するかを決定したいと考えた。これを決定するために、本発明者らは、GD532−LまたはGD532−GLuc発現カセットを有する細胞を試験化合物に曝露させ、GLucおよびFLucの活性を測定し、標準GADD45α−GFP発現カセットと比較する一連の実験を実施した。
【0148】
(MNUの作用)
図3に提示したデータは、メチル−ニトロソ尿素(MNU)がGFP、FLucおよびGLucによって報告されたように、GADD45α誘導を引き起こす方法を示している。図3を精査すると、レポータータンパク質の安定性およびこれがGreenScreen HCアッセイに影響を及ぼす方法に関する多数の仮説の構築が可能になる。FLucタンパク質は、細胞内で約3時間の半減期を有すると報告されてきた。これと比較して、GFPは、細胞内で約26時間の半減期を有すると報告されてきた。これに関連して、GFPはGADD45α誘導のより累積的測定結果を生じさせると見なすことができるが、他方FLucは最近のGADD45α誘導しかレポートしない。
【0149】
GADD45α誘導は、この濃度でのGFPシグナルにおけるピークによって証明されたように、少なくとも258μg/mLのMNUとなるまでピークには達しない。32μg/mLより大きなMNU濃度は、有意な細胞死を引き起こし、これはより高い濃度のMNUでのFLucシグナルの減少を説明する。MNUの2つの最高濃度では、全細胞が実験時間経過の早期に死滅し、生成された任意のタンパク質がそれ以後は分解されているので、検出可能なFLucシグナルはほとんどない。これとは対照的に、MNUの2つの最高濃度ではGFPおよびGLuc両方の明白に検出可能なレベルが存在していて、これら2種のタンパク質がFLucより高い安定性を有することを証明している。GLucは、このタンパク質が細胞から分泌されるという点で、FLucおよびGFPとは相違することに留意すべきである。これは、本アッセイを設定した時点に、GLucタンパク質の大部分がTK6細胞から分離されることを意味しているが、それはTK6細胞がPBSおよびGreenScreen HCアッセイ培地中で洗浄されるからである。GFPおよびFLucタンパク質は細胞質性であり、このため本アッセイの開始時には有意な量で存在する。図3はさらに、最高相対誘導が見られる相違する化合物試験濃度を示しており、これはFLucについては最低であり(32μg/mL)、死滅および瀕死細胞内でのFLucシグナルの消失を反映している。さらに、測定可能なGADD45α応答の大きさは、GFPおよびFLucと比較した場合に、MNU処理細胞に対してGLucについての方が明白にはるかに大きい。
【0150】
全体としてみると、図3に提示したデータは、GFPおよびGLucはどちらも蓄積するが、他方FLucは蓄積しないことを示している。FLucの誘導ピークは低い試験化合物濃度にあると思われ、シグナルは高濃度では急に減少する(これらの高濃度では、試験化合物は本アッセイの24時間の時間枠内では極めて毒性である)。事実上、細胞が毒性を経験する/死滅するにつれて、FLucシグナルはそれらとともに消失する。これはFLucがエネルギー要件もまた有する短い半減期を備える不安定タンパク質であるためである。GFPはFLucよりはるかに長い半減期を有するので、このため細胞が毒性条件下にあって瀕死である場合でさえ蓄積して遺残し、そこで誘導のピークははるかに高い濃度で生じる可能性がある。重要にも、GLucはさらにまた相対的に安定性のタンパク質であり、さらにGFPと類似する蓄積を示す。これは、FLucではなくGLucをルシフェラーゼレポータータンパク質として使用するための重要な利点である。FLucが使用された場合は、ルシフェラーゼシグナルがGADD45α活性、したがってレポータータンパク質の分解および試験物質の細胞毒性作用によって有意に影響を受ける応答ではなくむしろ試験化合物の遺伝毒性の測定結果であることを確証するために、多数の時点でデータを測定することが必要になる可能性がある。
【0151】
(4種の試験化合物がFLuc活性に及ぼす作用)
FLuc細胞を数種の公知の遺伝毒性物質および非遺伝毒性物質と組み合わせた。FLucの発現を処理8、16、24、32、40および48時間後に測定した。示した結果は、試験した4種の化合物について、処理16、24または48時間後のいずれかの時点に最大誘導率が観察されたことを明らかにした。図4は、3種の遺伝毒性物質(コルヒチン、5−フルオロウラシルおよび硫酸ビンブラスチン)ならびに1種の非毒性非遺伝毒性物質(エチレングリコール)についての経時的な最大誘導値を示している。図4は、最大GLuc誘導率は様々な試験化合物について様々な時点に達成されたことを示している。コルヒチンおよびおそらく5−フルオロウラシルは、GreenScreen HCアッセイにおける好ましい48時間のエンドポイントを使用して遺伝毒性であるとは検出されない可能性がある。これは、全部の公知の遺伝毒性物質を検出するためには多数の時点が必要とされることを意味し、使用可能なアッセイを動力学的に実施する必要があることを示唆している。しかし、この結果は、FLuc誘導率決定には細胞の溶解を必要とし、個別細胞における多数の時点を排除するので、問題が多い。さらに、図4に示した同一化合物は、GLucを用いた48時間のエンドポイントを使用するアッセイにおいてレポータータンパク質であると(3種の遺伝毒性物質および1種の非遺伝毒性物質)正確に同定された。
【0152】
このため、図4は、タンパク質不安定性および蓄積の欠如に起因するFLucについての測定時点の問題を証明している。
【0153】
<要約>
FLucの半減期が短いという不利点は、FLucを使用した遺伝毒性アッセイが、ピークFLuc誘導が記録されることを保証するために多数の時点(3回以上)を必要とする点である。これは、FLuc濃度を決定するためには細胞溶解が必要とされるので重大な問題であり、各時点に対してパラレルアッセイ・マイクロプレートがセットアップされなければならない。GLucは、FLucに比して少なくとも2つの利点を提供する。第1に、GLucは分泌されるので、細胞溶解を行わずにその存在を決定することができる。第2に、GLucはFLucより安定性であり、このため2回以上の時点の必要を排除する。
【0154】
このデータから、本発明者らは、GLucは、遺伝毒性アッセイにおけるルシフェラーゼレポータータンパク質として使用するためにFLucより優れた特性を有すると結論した。
【0155】
<結果 − pEP−GD532−GLucを使用した遺伝毒性試験データ>
一連の遺伝毒性アッセイは、GD532−GLuc発現カセット(「GLucアッセイ」)を有するTK6細胞株を使用して実施した。これらのアッセイは、後述する実施例に提供する実験プロトコールを使用して実施した。
【0156】
アッセイからの典型的データは、図5に提供した。この場合には、パネルAから、非遺伝毒性物質であるクロラムフェニコールがGLucアッセイにおいて予想されたように陰性として検出されたことが明らかである。これとは対照的に、パネルBでは、遺伝毒性物質であるエトポシドは、GLucアッセイにおいて予想されたように陽性であると検出された。
【0157】
本発明者らは、GD532−GLucレポーター系を用いて試験された様々なクラスの遺伝毒性物質についての典型的な遺伝毒性試験結果の一覧も以下に包含している。
【0158】
【表10】

【0159】
各「+」は、個別アッセイにおける転帰を表している。すなわち、試験化合物は全部を3回ずつ試験した。列挙した全試験化合物は、GD532−GLucレポーター系によって遺伝毒性物質として陽性であると同定された。
【0160】
<結果 − 高い信号対雑音比および発光出力は蛍光干渉の衝撃を減少させる>
GLucレポータータンパク質を使用する遺伝毒性アッセイを詳細に特徴付けるために、本発明者らは、GLucおよびGFPレポータータンパク質を使用した高蛍光性試験化合物のアッセイの「シグナル対ノイズ比」を評価した。生成されたデータは、図6に明らかである。パネル(A)において、蛍光菌株(下方の線)および非蛍光菌株(上方の線)との間にはほとんど、または全く区別がないことに留意されたい。これは、GFPレポータータンパク質から蛍光を効果的に遮蔽する化合物からの自家蛍光のためである。これとは対照的に、GLuc系からは干渉を伴わずに明白な陽性シグナルが生じる。
【0161】
ここで、レポータータンパク質としてGLucを使用するアッセイは、ほぼゼロのバックグラウンドを伴って高強度の光出力を生成することを見て取ることができる。レポーターアッセイとして発光を使用する利点は、蛍光に基づくアッセイにおいて使用されるように、入射光線の必要がないことである。これは、GFPレポータータンパク質からのシグナルを遮蔽する可能性がある望ましくない蛍光の励起が生じないことを意味する。GFPではなくGLucを使用することによって、高度に蛍光性の化合物さえGLuc出力に対する問題を引き起こさずに試験することができる。結果として、ルシフェラーゼ測定は、着色または蛍光性試験材料からの干渉に悩まされる可能性が低い。
【0162】
さらに、高い「シグナル対ノイズ比」は、GLuc媒介性生物発光を使用した遺伝毒性アッセイを、図8に提示したデータから明らかなように、384ウェル・マイクロタイタープレートを使用して実施することを可能にする。
【実施例4】
【0163】
[代謝活性化試験のためのGLucを使用した適応させた遺伝毒性アッセイ]
本発明者らは、S9肝抽出物をアッセイに使用できるように上述した、および添付の実施例に記載した遺伝毒性アッセイを適応させた。S9抽出物を使用することによって、本アッセイは、それらの天然形では本質的に遺伝毒性ではないが、代謝反応に起因して遺伝毒性になるプロ変異誘起物質またはプロ遺伝毒性物質化合物の検出を許容する。
【0164】
S9は、それらの天然形では非遺伝毒性であるが、(主として肝臓内での)代謝によって化学的に変化させられてインビボで遺伝毒性化合物を生成する化合物を検出することを許容する(当業者には公知の)肝抽出物である。
【0165】
S9抽出物は、実施例2の方法への並行アッセイまたは独立アッセイのいずれかとして、上記の実施例2に記載したアッセイ方法の適応化に組み込むことができる。S9組み込みアッセイでは、GLuc−TO1細胞は酵素補因子(例えば、グルコース−6−ホスフェート(2.5mM)およびβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(0.5mM))との混合物中においてS9抽出物の存在下で試験化合物に曝露させられる。S9抽出物は、通常はアッセイマイクロプレート内において1%(v/v)の最終濃度で使用される。試験化合物およびS9ミックスとのインキュベーション時間は、一般には3時間であり、その後にS9および試験化合物は除去され、細胞はPBS中で洗浄され、次にインキュベーションの残り45時間にわたり新鮮アッセイ培地中で再懸濁させられる。S9組み込みアッセイの条件(例えば、曝露時間およびS9のタイプ、動物種、肝酵素の化学的誘導など)は、実験要件にしたがって変動してよい。
【0166】
<適応させたプロトコール>
プレートリーダー測定値の使用は、結果としてS9代謝活性化試験におけるプロ遺伝毒性物質についてのアッセイの感受性低下を生じさせることが見いだされた。これは予想外であった。本発明者らは、この事態をさらに詳細に調査し、これが細胞密度を推定するため、およびレポーター出力の正規化のために使用された吸光度測定値の相対非感受性に起因することを見いだした。相対非感受性は、典型的な標準のプロ遺伝毒性化合物の一部が遺伝毒性であると確実には検出されないことを意味した。
【0167】
本発明者らは、引き続いて、吸光度測定値と取り換えて蛍光細胞染色を使用できることを見いだした。これは、2つの方法が同一物を推定する効果的に相違する方法であるためである。驚くべきことに、細胞染色を使用した方法は、細胞数推定の感受性およびこのためプロ遺伝毒性物質の検出を改善した。
【0168】
適応させたプロトコールにおいて使用した細胞染色は、核酸に結合するシアニン色素であるチアゾールオレンジ(TO)である。TOのDNAおよびRNAへの結合は、その蛍光強度を大きく増強し、バックグラウンドの未結合TOを洗い流す必要を伴わずにその検出を許容する。
【0169】
この方法は、マイクロプレートウェル内に存在するDNAまたは全細胞に接近することを可能にするために、GLuc−TO1細胞を溶解させることを必要とする。存在する核酸の量は細胞数に比例し、このためDNA結合TOからの蛍光強度もまた細胞数に比例している。
【0170】
TOは、ストック溶液を25mMで形成するために100%DMSO中に溶解させる。これをPBSおよびTriton−X100からなる細胞溶解溶液と混合する。各マイクロプレートウェルに50μLのTO/溶解ミックスを加え、5〜20分間にわたりインキュベートし、その後に蛍光測定値を獲得する(励起:485nmおよび発光:535nm)。マイクロプレート内では、TOの最終濃度は15μMであり、Triton−X100については1%(v/v)である。
【0171】
図7は、細胞数を用いた(アッセイに関連する最適化条件および細胞密度を使用する)TO蛍光の検量線(A)およびTO細胞数推定値を組み込んだS9代謝活性化GLucアッセイを使用して検出された標準プロ遺伝毒性物質(6−アミノクリセン)についての典型的データ(B)を示している。
【0172】
上記の実施例2で考察したように、ルーチンアッセイからの陽性および陰性の結果の明確な定義を有することは有用であり、当該の定義は、遺伝毒性および作用機序に関する明白な合意がある場合の化学薬品からのシステムおよびデータ内の最大雑音を考慮に入れて引き出されてきた。
【0173】
本アッセイがS9肝抽出物を包含する場合は、遺伝毒性閾値は1.5の相対GLuc誘導率(すなわち、50%増加)で設定する。そこで、陽性遺伝毒性結果(+)は、試験化合物が1.5閾値より大きな相対GLuc誘導率を生じさせる場合に結論される。
【0174】
付属書1:pEP−GD532 GLucの配列(配列番号1)
【表11A】

【表11B】

【表11C】

【表11D】

【表11E】

【表11F】

【表11G】

【表11H】

【0175】
付属書2:発現カセットGD532−GLucの配列(配列番号2)
【表12A】

【表12B】

【表12C】

【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質およびその誘導体をコードするDNA配列を含む発現カセットであって、前記DNA配列は、ゲノム損傷に応答してガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)レポータータンパク質をコードするDNA配列の発現を活性化するように配列されたヒトGADD45α遺伝子調節エレメントと、ヒトGADD45α遺伝子プロモーターとに機能的に連結している発現カセット。
【請求項2】
前記調節エレメントは、前記GADD45α遺伝子のエクソン1、エクソン2、エクソン3、および/もしくはエクソン4、もしくはそれらの少なくとも1つの領域、またはそれらのいずれかの組み合わせを含む、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項3】
前記調節エレメントは、前記GADD45α遺伝子のエクソン1の少なくとも1つの領域、前記GADD45α遺伝子のエクソン3の少なくとも1つの領域と、前記GADD45α遺伝子のエクソン4の少なくとも1つの領域とを含む、請求項2に記載の発現カセット。
【請求項4】
前記調節エレメントは、前記GADD45α遺伝子のイントロン1、イントロン2、および/もしくはイントロン3、もしくはそれらの少なくとも1つの領域、またはそれらのいずれかの組み合わせを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項5】
前記調節エレメントは、前記GADD45α遺伝子のイントロン3の少なくとも1つの領域を含む、請求項4に記載の発現カセット。
【請求項6】
前記調節エレメントは、推定p53結合モチーフを含む、請求項5に記載の発現カセット。
【請求項7】
前記調節エレメントは、推定AP−1モチーフを含む、請求項5または6に記載の発現カセット。
【請求項8】
前記ゲノム損傷はDNA損傷である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項9】
ガウシア・ルシフェラーゼ(GLuc)をコードするDNA配列は配列番号1の位置2641〜3198に示されたものである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発現カセット。
【請求項10】
実質的に図2に示され、配列番号2により提供されている、発現カセットGD532−GLuc。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の発現カセットを含む組換えベクター。
【請求項12】
実質的に図2に示され、配列番号1により提供されている、組換えベクターpEP−GD532−GLuc。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の発現カセットまたは請求項11もしくは12のいずれか1項に記載の組換えベクターを含有する細胞。
【請求項14】
前記細胞は、ヒト細胞である、請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
前記細胞は、完全に機能的なp53を有するヒト細胞である、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
前記細胞は、TK6ヒト細胞株である、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
ゲノム損傷を誘導または増強する物質の存在について検出する方法であって、請求項13〜16のいずれか1項に記載の細胞を物質に曝露させるステップと、前記細胞からのGLucレポータータンパク質の発現を測定するステップとを含む方法。
【請求項18】
前記物質は、生体を前記物質に曝露させることが安全かどうかを評価するためにさらにスクリーニングされる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記物質は、候補薬剤、食品添加物または化粧品である、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項13〜16に記載の細胞の集団、または請求項11もしくは12に記載の組換えベクターによりトランスフェクトされた細胞を調製するステップと、前記細胞を規定時間にわたり前記物質とともにインキュベートするステップと、前記GLucレポータータンパク質の発現を前記細胞のサンプルから直接測定するステップとを含む、請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法は、S9肝抽出物の存在下で実施される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記集団内の細胞密度は、細胞染色を使用して決定される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞染色は、シアニン色素である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記シアニン色素は、チアゾールオレンジである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記GLucレポータータンパク質の発現は、前記試験化合物への曝露の46〜50時間後に測定される、請求項17〜24のいずれか1項に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−524523(P2012−524523A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501380(P2012−501380)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000581
【国際公開番号】WO2010/112821
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(511232008)ジェントロニクス・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】